(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20241007BHJP
G03F 9/00 20060101ALI20241007BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241007BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
G03F9/00 Z
G03F9/00 H
G01B11/00 B
G01B11/00 C
H01L21/68 F
(21)【出願番号】P 2020185158
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】赤松 昭郎
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-251546(JP,A)
【文献】特開平08-083753(JP,A)
【文献】特開昭60-026343(JP,A)
【文献】特開2005-175034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
G01B 11/00
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクのパターンを基板に投影する投影光学系と、
前記投影光学系の物体面に配置された第1計測マークと、前記投影光学系と、前記投影光学系の像面に配置された第2計測マークと、を通過した照明光の光量を検出する検出部を含む検出光学系と、
前記マスクと前記基板との相対位置を制御する制御部と、を有し、
前記検出光学系は、
前記照明光が結像される結像面が前記検出部の受光面に対して、一部のみが重なるように配置された光学系であり、
基板上に前記パターンを露光する露光工程前の第1タイミングで第1光量分布を検出し、前記露光工程後の第2タイミングで第2光量分布を検出し、
前記制御部は、前記第1光量分布と、前記第2光量分布とに基づいて、前記投影光学系の光軸方向における前記マスクと前記基板との相対位置、及び前記光軸方向に対して垂直な方向における前記マスクと前記基板との相対位置を制御することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1光量分布の包絡線のピーク位置と前記第2光量分布の包絡線のピーク位置との差分に基づいて、前記マスクと前記基板との相対位置を制御することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第2光量分布は、前記第1光量分布が前記検出部により検出されてから、前記露光装置が所定回数又は所定時間の露光処理を行った後に、前記検出部により検出された光量分布であることを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記第1光量分布が前記検出部により検出されたときの前記光軸方向における前記相対位置は、前記投影光学系のベストフォーカス位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2計測マークを前記光軸方向に移動させながら、前記検出光学系により検出される光量分布に基づいて前記ベストフォーカス位置を決定することを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記第1計測マークは、少なくとも2つの計測マークを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記物体面は、前記マスクのパターンが形成されている面であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記第1計測マークは、前記マスクに形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記マスクを保持するマスクステージを更に有し、
前記第1計測マークは、前記マスクステージに形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記第1計測マークは、前記マスクのパターンが形成されている面とは異なる面に配置され、前記露光装置の露光に用いられる照明光とは別の照明光により照明されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記像面は、前記基板が配置されたときの前記基板上の面であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
前記基板を保持する基板ステージを更に有し、
前記第2計測マークは、前記基板ステージに形成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項13】
前記第2計測マークは、前記基板を保持する基板ステージの上面とは異なる面に配置され、前記露光装置の露光に用いられる照明光とは別の照明光により照明されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記検出部により検出される光量分布と、前記光軸方向における前記マスクと前記基板との相対位置との対応関係を示すテーブルデータを記憶し、前記テーブルデータを用いて前記光軸方向における前記マスクと前記基板との相対位置を補正することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項15】
前記検出光学系は、前記基板を保持する基板ステージに配置されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項16】
前記検出光学系は、前記投影光学系に配置されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項17】
前記検出光学系は、前記照明光を受光するラインセンサを有することを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項18】
前記検出光学系は、像面湾曲を有する光学系であることを特徴とする請求項
1乃至17のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項19】
マスクのパターンを基板に転写する露光処理を行う露光方法であって、
前記マスクのパターンを前記基板に投影する投影光学系の物体面に配置された第1計測マーク、前記投影光学系、及び前記投影光学系の像面に配置された第2計測マークを通過する照明光の光量分布を、検出部を含む検出光学系により検出する検出工程と、
前記マスクと前記基板との相対位置を制御する制御工程と、
を含み、
前記検出光学系は、前記照明光が結像される結像面が前記検出部の受光面に対して、一部のみが重なるように配置された光学系であり、
前記検出工程は、基板上に前記パターンを露光する露光工程前の第1タイミングで第1光量分布を検出し、前記露光工程後の第2タイミングで第2光量分布を検出し、
前記制御工程は、前記第1光量分布と、前記第2光量分布とに基づいて、前記投影光学系の光軸方向における前記マスクと前記基板との相対位置、及び前記光軸方向に対して垂直な方向における前記マスクと前記基板との相対位置を制御することを特徴とする露光方法。
【請求項20】
請求項1乃至
18のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや、フラットパネルディスプレイ(FPD)などのデバイスを製造する際のフォトリソグラフィ工程において、マスクのパターンを基板に転写する露光装置が用いられている。露光装置では、マスクのパターンを基板へと正確に転写するために、アライメント(投影光学系の光軸と垂直方向におけるマスクと基板との相対位置合わせ)及びフォーカス(基板に照射される光の焦点)調整を高精度に行うことが要求される。
【0003】
アライメントやフォーカス調整の方式の1つとして、投影光学系を介するTTL(Through The Lens)方式によるキャリブレーションが提案されている。特許文献1では、TTL方式によるフォーカスのキャリブレーションを行う内容が開示されている。フォーカスのキャリブレーションでは、一般的に、基板ステージを投影光学系の光軸方向に駆動させながら投影光学系とステージ側マーク等を介して得られる光量を検出する。基板ステージを投影光学系の光軸方向に駆動させたときの光量変化から最適なフォーカスが表面(レジスト層)で得られる基板の位置を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
露光処理時の熱の影響等により投影光学系内部の空気揺らぎや投影光学系を構成する部材の位置ずれに起因して、経過時間とともに最適なマスクと基板の相対位置(ベストフォーカス位置)が変化することが知られている。ベストフォーカス位置がずれた状態で露光処理を実行した場合、露光精度が低下してしまうおそれがある。したがって、一度フォーカスのキャリブレーションを行っている場合でも、ベストフォーカス位置が変化した場合には、再度フォーカスのキャリブレーションを行う必要がある。しかしながら、フォーカスのキャリブレーション動作には時間を要するため、基板を処理する生産性が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、キャリブレーション動作に因る生産性の低下を小さくするために有利な露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての露光装置は、マスクのパターンを基板に投影する投影光学系と、前記投影光学系の物体面に配置された第1計測マークと、前記投影光学系と、前記投影光学系の像面に配置された第2計測マークと、を通過した照明光の光量を検出する検出部を含む検出光学系と、前記マスクと前記基板との相対位置を制御する制御部と、を有し、前記検出光学系は、前記照明光が結像される結像面が前記検出部の受光面に対して、一部のみが重なるように配置された光学系であり、基板上に前記パターンを露光する露光工程前の第1タイミングで第1光量分布を検出し、前記露光工程後の第2タイミングで第2光量分布を検出し、前記制御部は、前記第1光量分布と、前記第2光量分布とに基づいて、前記投影光学系の光軸方向における前記マスクと前記基板との相対位置、及び前記光軸方向に対して垂直な方向における前記マスクと前記基板との相対位置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャリブレーション動作に因る生産性の低下を小さくするために有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における露光装置の構成を示す概略図である。
【
図2】計測処理時における露光装置を示す図である。
【
図5】基準フォーカス位置からずれた状態を示す図である。
【
図6】光量分布と基板ステージのフォーカス位置の対応を示すグラフである。
【
図7】ベストフォーカス位置を算出する1つ目の方法を示す図である。
【
図8】ベストフォーカス位置を算出する2つ目の方法を示す図である。
【
図9】光量分布の包絡線が極大値を持たない場合の像面湾曲を示す縦収差図である。
【
図10】基準アライメント位置における光量分布を示す図である。
【
図11】基準アライメント位置からずれた状態を示す図である。
【
図12】像面湾曲と光量分布の対応を示す図である。
【
図13】アライメント計測系とフォーカス計測系の構成を示す図である。
【
図14】第2実施形態における計測マークと検出される光量分布を示す図である。
【
図15】第3実施形態における露光装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。尚、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態
【0012】
(露光装置の構成)
本実施形態における露光装置の構成について説明する。本実施形態における露光装置は、半導体デバイスやFPDなどのデバイスの製造工程であるフォトリソグラフィ工程に用いられるリソグラフィ装置である。本実施形態における露光装置は、ステップ・アンド・スキャン方式を採用し、パターンが形成された面を有するマスクを介して基板を露光し、マスクのパターンを基板に転写する露光処理を行う。本実施形態における露光方式は、ステップ・アンド・スキャン方式であるが、これに限らず、ステップアンドリピート方式等他の露光方式で露光処理を行なう形態としても良い。
【0013】
図1は、本実施形態における露光装置100の構成を示す図である。
図1(a)は、露光装置100の全体の構成を示す概略図である。本実施形態では、投影光学系の光軸に平行な方向をZ軸方向、このZ軸方向に垂直な任意の平面をXY平面として座標系を定義する。
【0014】
露光装置100は、マスク2を照明する照明光学系1と、マスク2を保持するマスクステージ3と、マスク2のパターンを基板5に投影する投影光学系4と、基板5を保持する基板ステージ6を有する。また、露光装置100は、露光装置100の各部を制御する制御部7と、入力部13と、決定部14を有する。
【0015】
更に、露光装置100は、照明光学系1を利用して照明光により第1計測マークを照明する手段と、照明された第1計測マーク115及び第2計測マーク109を含むマーク部と投影光学系4を通過した照明光の光量分布を検出する検出光学系20を有する。検出光学系20は、レンズ23とレンズ24を含む系で構成される結像系21と検出部22を有する。照明光の波長は、マスク2のパターンを基板5に投影する露光光の波長と同一である。
【0016】
制御部7は、CPUやメモリなどを含むコンピュータで構成され、露光装置100の各部を統括的に制御して露光装置100を動作させる。制御部7は、例えば、露光処理を行う際に、投影光学系4の光軸方向(Z軸方向)におけるマスク2と基板5との相対位置や、投影光学系4の光軸に対して垂直な方向(互いに直交するX軸方向とY軸方向)におけるマスク2と基板5との相対位置を制御する。
【0017】
入力部13には、ユーザの操作によって、露光処理、即ち、マスク2のパターンを基板5に転写する際の露光条件(露光領域、照明モード、マスク2のパターンなど)が入力される。決定部14は、入力部13に入力された露光条件に基づいて、後述するキャリブレーションに必要となる計測条件(計測回数、検出部の蓄積時間など)を決定する。
【0018】
検出光学系20は、基板ステージ6に設けられ、基板ステージ6の上面に形成された第2計測マーク109を通過した後の照明光が検出部22に入射されるように構成される。
図1(a)では検出光学系は便宜的に基板ステージ6の下方に拡大して描いているが、実際は、基板ステージ6の内部に構成される。検出部22は、例えば、複数の画素が所定の方向に並んだラインセンサ等の撮像素子である。尚、検出部22は、第1計測マーク115と第2計測マーク109とを含むマーク部を透過した光ではなく、第1計測マーク115や第2計測マーク109で反射した光を検出しても良い。
【0019】
結像系21は、投影光学系4と検出部22との間に配置され、第1計測マーク115及び第2計測マーク109の像を検出部22側に形成する光学系である。本実施形態において、結像系21は所定の結像倍率を有し、第1計測マーク115の像及び第2計測マーク109に対してこの倍率をかけて検出部22側に結像して照明光を導光する光学系である。上記の倍率は、検出部22の分解能に応じて適切に設定することが可能である。検出部22は、複数の画素を含み、結像系21によって形成された第1計測マーク115および第2計測マーク109の像を検出(撮像)する。結像系21は、後述するように、収差(像面湾曲)を適量有する系となっている。また、結像系21は、3つ以上のレンズやその他の光学素子を含む構成であっても良い。
【0020】
照明光学系1からの照明光(露光光)は、マスクステージ3に保持されたマスク2を通過し、投影光学系4を介して、基板ステージ6に保持された基板5に到達する。マスク2のパターン面と基板5の表面(レジスト層)は、投影光学系4を介して共役な位置関係に配置されている。したがって、マスク2のパターンは、投影光学系4を介して基板5上に転写される。本実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式を採用しているため、マスクステージ3と基板ステージ6とをY軸方向に同期走査しながら露光処理が行われる。
【0021】
図1(b)は、マスクステージ3の構成を示す平面図である。マスクステージ3に保持されたマスク2には、基板5へ転写するためのパターンとは別に、第1計測マーク115が形成され得る。第1計測マーク115は、マスク2のX軸方向及びY軸方向に間隔を空けて複数設けられている。マスク2に設けられる第1計測マーク115は1つでも良いが、投影光学系4の特性を詳細に計測するためには、複数の第1計測マーク115が設けられていることが好ましい。投影光学系4の特性とは、例えば、焦点位置やディストーションなどの特性を含む。
【0022】
第1計測マーク115の詳細を
図1(c)に示す。
図1(c)は、第1計測マーク115を示す平面図である。第1計測マーク115は、遮光領域115aと、所定の線幅及びピッチを有する複数のパターンである透過領域115bと、透過領域115cを含む。透過領域115bは、X軸方向に沿って配列され、ラインアンドスペースパターンが形成されている。本実施形態において、第1計測マーク115がマスク2に形成されていることを想定しているが、これに限らず、投影光学系4の物体面に相当する位置に設けられていれば良い。例えば、第1計測マーク115がマスクステージ3に設けられていても良く、その場合には、マスクステージ3上にマスク2が載置されていない場合でも、投影光学系4のキャリブレーションを行うことができる。
【0023】
また、透過領域115bのラインアンドスペースパターンは、線幅、ピッチ、方向などが互いに異なる種々のパターン(またはパターン群)でも良い。また、透過領域115cは、後述する第2計測マーク109の透過領域109cを照明するために設けられている。また、本実施形態では、透過領域115cを設けることで透過領域109cを照明する例について説明するが、透過領域115cを設ける代わりに、遮光領域115aの範囲外に照明光を照射させることにより透過領域109cを照射しても良い。
【0024】
次に、第2計測マーク109の詳細を
図1(d)に示す。
図1(d)は、第2計測マーク109を示す平面図である。第2計測マーク109は、遮光領域109aと、透過領域109bと、透過領域109cを含む。本実施形態における説明では、第2計測マーク109が基板ステージ6に形成されていることを想定しているが、これに限らず、投影光学系4の像面に相当する位置にマーク109を位置決めできれば、ステージ6以外の場所にマーク109を形成しても良い。また、透過領域109bは、第1計測マーク115の透過領域115bを透過した照射光を透過させるために設けられている。
【0025】
図2は、第1計測マーク115及び第2計測マーク109を計測位置に位置決めした状態、即ち、アライメント及びフォーカス調整のための計測処理時における露光装置100を示す概略図である。アライメントとは、投影光学系の光軸と垂直方向におけるマスクと基板との相対位置合わせであり、フォーカスとは、基板に照射される光の焦点(投影光学系におけるピント)である。以下の説明では、アライメントのための計測及びそれに基づく補正をアライメントのキャリブレーションと呼び、フォーカス調整のための計測及びそれに基づく補正をフォーカスのキャリブレーションと呼ぶ。
【0026】
本実施形態では、アライメントとフォーカスのキャリブレーション動作において、計測位置に位置決めしたマスクステージ3や基板ステージ6を、さらにZ軸方向に移動させずに計測処理を行う。制御部7は、計測処理をする際に、決定部14で決定した第1計測マーク115の計測位置に位置決めされるように、マスクステージ3を駆動する。同様に、制御部7は、上記のキャリブレーション動作を実行する際に、決定部14で決定した第2計測マーク109の計測位置に位置決めされるように、基板ステージ6を駆動する。
【0027】
(結像系21における収差)
図3を参照して、本実施形態における検出光学系20の収差と結像位置の関係について説明する。以下では、検出光学系20の光学特性として所定の像面湾曲を有する例について説明する。
図3は、結像系21における像面湾曲を示す縦収差図である。グラフの縦軸は結像系の像高(X座標)、横軸は光軸方向の結像位置(Z座標)であり、曲線211は、検出光学系20における像面湾曲を示す曲線(即ち、像高ごとの結像位置を示した曲線)である。
【0028】
曲線211において、点211a付近に対して点211b付近では、像高のわずかな変化により光軸方向の結像位置が大きく変化してしまうことが特徴的である。例えば、点211b付近において検出部22の受光面に結像系21の光軸が垂直に交わるように配置した場合、結像系21の物体面にあるパターンは検出部22の受光面全面では焦点が合わずに受光面の一部でしか焦点が合わなくなる。本実施形態において、点211aは検出光学系20の結像系21の光軸の位置に相当し、点212bは第1計測マーク115及び第2計測マーク109を計測する計測像高に相当する。
【0029】
本実施形態では、上述したように、例えば
図3に示す像面湾曲が発生するように結像系21を構成し、結像系21の光軸からずれた位置に検出部22の受光面の中心を配置する。そして、照明光学系1からの照明光により第1計測マーク115を照明し、第1計測マーク115の透過領域115bを通過した光を、投影光学系4及び第2計測マーク109の透過領域109bを介して検出部22で検出することで、フォーカス計測を行う。これにより、計測位置に位置決めしたマスクステージ3や基板ステージ6をZ軸方向に移動させることなく、後述する方法により、フォーカスのキャリブレーションを行うことができる。
【0030】
また、本実施形態では、照明光学系1からの光で第1計測マーク115を照明し、第1計測マーク115の透過領域115cを通過した光を、投影光学系4及び109の透過領域109cを介して検出部22で検出する。これにより、後述する方法により、フォーカスのキャリブレーション動作と同時に、アライメントのキャリブレーション動作をすることができる。
【0031】
(フォーカスのキャリブレーション)
次に、本実施形態におけるフォーカスの変化量を求める変化量計測処理について
図4と
図5を参照して説明する。
図4(a)と
図5(a)は、フォーカスの変化量計測処理における露光装置100の状態を示す説明図であり、第1計測マーク115が投影光学系4、第2計測マーク109、結像系21を通過して検出部22に投影されたマーク像を示している。また、
図4(a)の状態は第1タイミングにおける状態(投影光学系によるフォーカス位置が基準フォーカス位置にある状態)である。
図5(a)の状態は、第1のタイミングの後に行われた露光処理の後の第2のタイミングの状態(投影光学系によるフォーカス位置が基準フォーカス位置からずれた状態)である。
【0032】
投影光学系4は、マスク2のパターン像を基板5の表面にフォーカスを合わせて投影することが目的の光学系である。そのため、第1計測マーク115は、それを投影する投影光学系4のフォーカスが合った、基板5の表面が位置すべき平面に結像されることが求められる。
【0033】
ここで、
図4(a)の状態(第1タイミング)において、基板5の表面が位置すべき平面に結像した第1計測マーク115の像を結像パターン115Pとする。また、結像パターン115Pが結像系21を通過して検出部22上に結像したパターン像を結像パターン115Sとする。
【0034】
このとき、結像系21の像面湾曲により、結像パターン115Sは、結像系21の光軸に対して垂直な、検出部22の受光面に対して傾いた面に結像される。したがって、本実施形態においては、結像系21による第1計測マーク115の結像面(結像パターン115S)は、検出部22の受光面に対して一部のみ重なる。結像系21による第2計測マーク109の結像面も、検出部22の受光面に対して一部のみ重なる。
【0035】
図4(b)は、第1タイミングにおいて、第1計測マーク115及び第2計測マーク109を通過して検出部22により検出された照明光の光量分布(第1光量分布)を示す図である。グラフの縦軸は検出部22の受光面で得られる光量を表し、横軸はX軸方向における検出部22の受光面の位置を表している。第1光量分布には、第1計測マーク115の透過領域115bに対応する分布M1~M7と、第2計測マーク109の透過領域109bに対応する分布P1、P2が含まれる。また、第1計測マーク115の遮光領域115aに対応する分布V1~V10と、第2計測マーク109の遮光領域109aに対応する分布V1、V2、V9、V10が含まれる。
【0036】
ここで、本実施形態における結像系21は像面湾曲を有するため、検出光学系20の像面と検出部22の受光面にはずれが生じる。光量分布のうち、このずれが無いか最も小さい部分で最も光量が大きくなり、この部分よりもずれが大きい部分でずれ量に応じて光量が小さくなる。
図4(b)の光量分布では、分布M1~M7の中では、分布M4が最も光量が大きくなっていることが分かる。これは、分布M4に対応する検出部22の受光面上の位置で、ピントが合っていることを示している。ピントがずれているにもかかわらず、分布P1、P2の光量が大きくなっているのは、第2計測マーク109の透過領域109cの幅が広く、デフォーカスに対する光量変化の敏感度が低いためである。
【0037】
図4(b)の光量分布から、ピントが合っている検出部22の受光面上の位置を決定する方法を説明する。ここでの決定では、第1計測マークの透過領域115bに対応する分布M1~M7にのみ着目する。まず、分布M1、M2、M3は、検出部22に対して結像位置が-Z方向(又は+Z方向)にずれていることを示している。また、分布M5、M6、M7では、検出部に対して結像位置が+Z方向(又は-Z方向)にずれていることを示している。したがって、分布M4に対応する検出部22の受光面上の位置を求めることができれば、以下の式(1)から、ピントが合っている検出部22の受光面上の位置Aを求めることが可能である。
A=P×PixelSize×tanθ/Mag・・・(1)
【0038】
式(1)において、Pは最も光量が大きい検出部22の受光面上の位置を示しており、PixelSizeは検出部22の画素の大きさを示している。また、θは、像面湾曲を有する結像系21の結像面と検出部22の受光面とがなす角度を示しており、Magは結像系21の倍率を示している。
【0039】
また、ピントが合っている検出部22の受光面上の位置を求める方法は、式(1)により受光面状の位置を求める方法に限らない。例えば、最も光量が大きくなる分布M4と、他の分布M1~M3、M5~M7とからなる包絡線26を求め、包絡線26からより正確に求めることも可能である。その場合には、分布M4の近傍(例えば、分布M4と分布M3の中間位置)にピントが合っている検出部22の受光面上の位置があったとしても、包絡線26からピントが合っている検出部22の受光面上の位置を求めることが可能である。
図4(b)では、分布M1~M7から得られる包絡線26の極大値27(ピーク位置)に対応する検出部22の受光面上の位置を位置MI1として示している。
【0040】
図5(a)は、
図4(a)で示した状態から、基板ステージ6の位置がZ軸方向にずれた状態(第1タイミングより後の第2タイミングにおける状態)を示している。露光処理時の熱の影響等により、投影光学系4の内部の空気揺らぎや投影光学系4を構成する部材の位置ずれなどに起因して、
図5(a)に示すように、第1計測マークの像が115Pから115QへとZ軸方向にずれる場合がある。このとき、検出部22付近でも同様に、第1計測マークの像が115Sから115TへとZ軸方向にずれる。
【0041】
図5(b)は、第1タイミングの後の第2タイミングにおいて、第1計測マーク115及び第2計測マーク109を通過して検出部22で検出した照明光の光量分布(第2光量分布)を示す図である。グラフの縦軸は検出部22の受光面で得られる光量を表し、横軸はX軸方向における検出部22の受光面上の位置を表している。第2光量分布では、分布M1~M7の中で分布M3が最大光量となり、分布M3に対応する位置(又は、その近傍の位置)が、ピントが合っている検出部22の受光面上の位置となる。また、分布M1~M7から得られる包絡線30の極大値31に対応する検出部22の受光面上の位置を位置MI2として示しており、第1光量分布における位置MI1と同様に、第2光量分布においては位置MI2をピントが合っている位置としても良い。
【0042】
位置MI1及びMI2を求めることで、フォーカスの変化量を求める変化量計測処理を行うことができる。即ち、第1タイミングにおいてピントが合っている検出部22の受光面上の位置と、第1タイミングより後の第2タイミング(例えば、所定時間経過後や基板を所定回数露光した後)においてピントが合っている検出部22の受光面上の位置を比較する。その結果フォーカスの変化量を求めることができる。
【0043】
図6は、検出部22の受光面上のX軸方向に関する位置を示す位置MI1及びMI2と、投影光学系4によるベストフォーカス位置との関係とを示す図である。
図6より、包絡線の極大値に対応する位置が位置MI1から位置MI2に変化すると、それに応じて、投影光学系4によるベストフォーカス位置もZ1からZ2に変化することが分かる。
【0044】
また、収差の影響やその他の外乱の影響が大きい場合には、予め投影光学系4によるベストフォーカスの位置と、包絡線の極大値に対応する検出部22の受光面上の位置の計測点を複数用意しても良い。例えば、計測点を近似式でフィッティングした結果をテーブルデータとして制御部7に記憶させても良い。制御部7は、検出部22により検出される光量分布と、光軸方向(Z軸方向)におけるマスク2と基板5との相対位置の対応関係を示すテーブルデータを用いて、ベストフォーカス位置を求めることができる。したがって、相異なるタイミングでのベストフォーカス位置(例えばZ1、Z2)を求め、ベストフォーカス位置の変化量(例えばZ1-Z2)を求めることができる。以上が、本実施形態におけるフォーカスの変化量を求める変化量計測処理の説明である。
【0045】
ここで、ベストフォーカス位置の決定方法について2つ説明する。どちらの方法も基板ステージ6をZ軸方向に駆動したときの、検出部22における第1計測マーク15の光量変化から算出するものである。本実施形態では、基準フォーカス位置を第1タイミングにおいて決定したベストフォーカス位置とすることで、2回目以降のキャリブレーションにおいて、計測位置に位置決めした基板ステージ6をZ軸方向に駆動する必要がなくなる。これにより、キャリブレーションによる生産性の低下を抑制することができる。
【0046】
1つ目の方法は、第1計測マーク115においてあるパターンを指定し、その指定パターンに対応する分布(例えば、
図7における分布M1~M7のいずれかの分布)の光量の変化量からベストフォーカス位置となる基板ステージ6の位置を決定する方法である。
図7は、ベストフォーカス位置を決定する1つ目の方法を説明するための図である。
図7(a)は、基板ステージ6がZ軸方向のある位置のときに、第1計測マーク115のパターンが検出部22で検出された光量分布である。また、
図7(b)は、基板ステージ6が
図7(a)とは別のZ軸方向の位置のときに、第1計測マーク115のパターンが検出部22で検出された光量分布である。ここで、例えば、分布M4のパターンに着目した場合、基板ステージのZ軸方向の位置に応じて分布M4における光量が変化する。
【0047】
図7(c)は、分布M4に着目したときの検出部22で検出される光量の変化を示すグラフである。グラフの縦軸は
図7(a)及び
図7(b)における分布M4の光量であり、横軸は基板ステージのZ軸方向の位置である。
図7(c)に示すように、基板ステージのZ軸方向の位置に対応して光量が変化する。基板ステージ6のベストフォーカス位置では、検出部22で検出される光量が最大となるため、
図7(c)において光量が極大値Z0となる基板ステージ6の位置を求めることで基準フォーカス位置を決定することができる。
【0048】
また、分布M4以外の分布に着目した場合には、分布M4に対応する像高での像面シフト量を予め把握しておいた像面シフト量を考慮することで、基準フォーカス位置を決定することができる。
【0049】
2つ目の方法は、結像系21の像面湾曲が微小な像高、例えば、
図3の縦収差図における点211(a)付近で第1計測マーク115を通過した照明光の光量分布を取得し、この照明光の光量の変化量からベストフォーカス位置を決定する方法である。像面湾曲が微小とは、フォーカス算出精度(例えば3σ)の1/4以下であり、計測に影響しない程度の収差(デフォーカス量)であるという事である。
【0050】
図8は、ベストフォーカス位置を決定する2つ目の方法を説明するための図である。
図8(a)は、基板ステージ6がZ軸方向のある位置にあるときに、第1計測マーク115のパターン像を検出部22により検出した結果である光量分布(照明光の光光量分布)である。また、
図8(b)は、基板ステージ6が
図8(a)とは別のZ軸方向の位置にあるときに、第1計測マーク115のパターン像を検出部22により検出した結果である光量分布である。
図8(a)や
図8(b)では、像面湾曲が微小となる位置で検出部22による光量の測定を行うため、
図7(a)や
図7(b)と異なり、分布M1~M7における光量のバラつきが少ない。
【0051】
ここで、M1~M7のパターンに着目した場合、基板ステージのZ軸方向の位置に応じて検出部22で検出される光量が変わる。
図8(c)は、分布M1~M7に着目したときに検出部22で検出される光量の変化を示すグラフである。グラフの縦軸は
図8(a)及び
図8(b)における分布M1~M7の光量の平均値であり、横軸は基板ステージのZ軸方向の位置である。
図8(c)に示すように、基板ステージのZ軸方向の位置に対応して光量が変化する。基板ステージ6のベストフォーカス位置では、検出部22で検出される光量が最大となるため、
図8(c)において光量が極大値Z0となる基板ステージ6の位置を求めることで基準フォーカス位置を決定することができる。
【0052】
上記の方法で基準フォーカス位置を算出した後に、検出部22を像面湾曲が十分に大きな像高(例えば、
図3における点211b付近)となるX軸方向に移動し、第1計測マーク115に対応する光量分布を取得する。これにより、フォーカスのキャリブレーションをすることができる。
【0053】
尚、像面湾曲の形状によっては、像面湾曲が微小な像高から十分大きな像高に基板ステージ6をX方向に移動したとき、包絡線が極値を持たない場合がある。
図9は、検出部22で検出される光量分布の包絡線が極値を持たない場合における像面湾曲を示す縦収差図である。グラフの縦軸は結像系の像高(X座標)であり、横軸は光軸方向の結像位置(Z座標)であり、曲線231は、検出光学系20における像面湾曲を示した曲線(即ち、像高ごとの結像位置を示した曲線)である。
【0054】
曲線231において、点231a付近に対して検出部22の受光面と結像位置が大きく乖離する。これにより、光量が最大となるパターンが分布M1となり、包絡線が極大値を有さない場合がある。そのような場合には、包絡線が極大値を有するように基板ステージ6をZ軸方向に移動し、その移動量分だけベストフォーカスと差分があるという前提でフォーカス値を管理することで、ベストフォーカス位置の変化量を求めることができる。
【0055】
以上より、基準フォーカス位置を適切なフォーカス位置とすることで、2回目以降のフォーカスのキャリブレーションにおいて、計測位置に位置決めした基板ステージ6をZ軸方向に駆動する必要がなくなる。そのため、キャリブレーションによる生産性の低下を抑制することができる。
【0056】
(アライメントのキャリブレーション)
次に、本実施形態におけるアライメントの変化量を求める変化量計測処理について
図10と
図11を参照して説明する。
図4(a)の露光装置100の状態において、第1計測マーク115及び第2計測マーク109を通過して検出部22により検出された照明光の光量分布を示す図である。グラフの縦軸は検出部22で得られる光量を表し、横軸は検出部22の受光面上のX軸方向の位置を表している。
図10の光量分布には、第1計測マーク115の透過領域115bに対応する分布M1~M7と、第2計測マーク109の透過領域109bに対応する分布P1、P2が含まれる。また、第1計測マーク115の遮光領域115bに対応する分布V1~V10と、第2計測マーク109の遮光領域109bに対応する分布V1、V2、V9、V10が含まれる。
【0057】
図10で示した照明光の光量分布から、XY平面におけるマスク2と基板ステージ6との適切な相対位置(基準アライメント位置)を決定する方法を説明する。まず、第1計測マーク115に対応する分布M1~7の各パターンの検出部22の受光面の位置を算出する(例えば、重心計算により算出する)。各パターンの位置を平均した位置92をMA1とする。また、分布P1、P2の各パターンの検出部22の受光面の位置を算出する(例えば、重心計算により算出する)。各パターンの位置を平均した位置93をPA1とする。MA1とPA1の差分は、第1計測マーク115と第2計測マーク109の相対位置、すなわちマスク2と基板ステージ6の相対位置を表している。
【0058】
図11(a)は、
図4(a)に示す状態からアライメント位置(XY平面に平行な方向におけるマスク2と基板ステージ6の相対位置)がずれた状態を示している。露光処理時に生じる熱等により、投影光学系4の内部の空気揺らぎや投影光学系4を構成する部材の位置ずれが生じるおそれがある。これにより、
図4(a)と
図11(a)に示すように第1計測マーク115の像が結像パターン115Pから結像パターン115OへとX軸方向にずれる場合がある。このような場合、
図10で示した光量分布から、
図11(b)に示す光量分布へと変化する。
【0059】
図11(b)では、
図10と同様に、M1~M7の位置を平均した位置95をMA2、P1、P2の位置を平均した位置96をPA2としている。このとき、MA2の位置はMA1と比較して変化している。PA1及びPA2は投影光学系4を通過した後の第2計測マーク109に対応するものであるため、投影光学系4の空気揺らぎや投影光学系4を構成する部材の位置ずれの影響を受けない。そのため、上記の空気揺らぎや部材の位置ずれを原因として第2計測マーク109の透過領域109bの位置は変化せず、109bに対応する分布PA2の位置はPA1の位置から変化しない。ここで、MA1とPA1の差分AA1をアライメントの基準とし、MA2とPA2の差分をAA2としたとき、AA1とAA2の変化量が、本実施形態におけるアライメントの変化量として算出される。
【0060】
以上説明した通り、本実施形態では、アライメントの変化量を算出することができる。また、本実施形態では、フォーカスのキャリブレーションで用いた検出部22による検出結果をアライメントのキャリブレーションでも用いることができる。
【0061】
(キャリブレーション動作の具体的な方法)
上記では、フォーカス及びアライメントの変化量を算出する方法について、それぞれ具体的に示した。しかしながら、
図4(b)と
図5(b)や
図10と
図11(b)のグラフの変化が、投影光学系4のフォーカス及びアライメントのどちらの影響により生じているのかを切り分けなければ、フォーカス及びアライメントの変化量を正しく算出できないおそれがある。下記では、フォーカス及びアライメントの変化量を切り分けるための具体的な処理方法について示す。
【0062】
本実施形態において、投影光学系4の空気揺らぎや投影光学系4を構成する部材の位置ずれの影響を受けて、XY平面における第1計測マーク115が結像する像面の位置が変化した場合、結像系21での計測像高も変化することになる。本実施形態における結像系21は像面湾曲を有するため、像高の変化に応じて結像系21の焦点位置も変化する。これにより、XY平面における第1計測マーク115の結像位置だけが変化したにもかかわらず、あたかもフォーカスも変化しているような光量分布となってしまう。
【0063】
そこで、熱等により投影光学系の状態が変化することで影響を受ける変化量を切り分ける(フォーカスの変化量のみを算出する)ために、検出部22の受光面上の位置に対応するフォーカスの変化量に関する情報を予め制御部7に保有しておく。その上で、検出部22の受光面の位置に対応した特徴のフォーカス変化を示す情報において、その分のフォーカス変化量を差し引くことで、投影光学系4におけるフォーカスの変化量を正しく計測することができる。
【0064】
投影光学系4の空気揺らぎや投影光学系4を構成する部材の位置ずれの影響を受けて、XY平面における第1計測マーク115が結像する像面の位置が変化した場合、検出部22の受光面上で検出される光量分布の包絡線の極大値もずれることになる。つまり、アライメント位置だけが変化したにもかかわらず、包絡線の極大値の位置がずれて、あたかもフォーカスが変化しているような光量分布となってしまう。
【0065】
そこで、熱等により投影光学系の状態が変化することで影響を受ける変化量を切り分ける(アライメントの変化量のみを算出する)ために、MA1とPA1の差分をΔA、MA2とPA2の差分をΔBとし、MI1-ΔAやMI2-ΔBの変化量を算出する。アライメント位置の変化量はMA1-PA1とMA2-PA2の差分、フォーカス位置の変化量はMI1-ΔAとMI2-ΔBの差分により算出する。これにより、フォーカスとアライメントの位置ずれを正しく切り分けることができる。
【0066】
次に、本実施形態における像面湾曲量について、
図12を参照して説明する。
【0067】
検出部22が光量分布を検出できる範囲における像面湾曲量が大きい場合、光量分布は像高の変化に対して急峻になる(光量が急激に変化する)。また、フォーカスが変化したときの光量分布の包絡線のずれ量は大きくなる。一方で、像面湾曲量が小さい場合は、それらの特徴は逆になる。
【0068】
図12(a)は、像面湾曲量が大きいときの照明光の光量分布を示しており、破線で示す光量分布191と実線で示す光量分布193はそれぞれ別のフォーカス位置での光量分布を示している。破線で示す光量分布191の包絡線192の重心位置をMI191、実線で示す光量分布193による包絡線194の重心位置をMI193とする。
【0069】
図12(b)は、
図12(a)よりも像面湾曲量が小さいときの照明光の光量分布を示しており、破線で示す光量分布195と実線で示す光量分布197はそれぞれ別のフォーカス位置での光量分布を示している。破線で示す光量分布195の包絡線196の重心位置をMI195、実線で示す光量分布197による包絡線198の重心位置をMI197とする。
【0070】
図12(a)と
図12(b)の光量分布は、検出光学系20の結像系21の像面湾曲量だけが異なり、実線と破線が示す2つの光量分布が示すフォーカス変化量やその他の条件は同じである、として描いたものである。
図12(a)と
図12(b)を比較した場合、実線と破線が示す2つの包絡線の重心位置の変化量が異なる。具体的には、
図12(a)の2つの重心位置MI191とMI193の差分と、
図12(b)の2つの重心位置MI195とMI197の差分を比較した場合、像面湾曲が大きい
図11(a)におけるMI191とMI193の差分の方が小さい。したがって、像面湾曲が大きい場合には、検出部22で包絡線の極値を有するフォーカス変化量が小さくなる分、広い計測範囲を有することができる。一方で、フォーカス変化量に鈍感になることから、計測精度は低下する。
【0071】
上記の計測範囲と計測精度は、要求される計測系の精度に応じて調整すればよい。また、結像系21の光学条件(設計波長、開口数、倍率など)や、第1計測マークのラインアンドスペースの線幅やピッチや、検出部22の仕様(S/N比、画素サイズ)などにはトレードオフの関係がある。
【0072】
像面湾曲量の一つの目安としては、ベストフォーカスでのパターン強度(例えば
図4(b)の分布M4)を1として、周辺の同じ線幅のパターン強度(例えば
図4(b)の一番端の分布M1、M7)が0.2以上となる像面湾曲量が良い。理由としては、パターン強度が0.2以上ならば、十分に計測可能なコントラストを得ることができるためである。
【0073】
次に、具体的な露光方法について説明する。上述したように検出部22で検出した光量分布に基づき、フォーカスとアライメントのキャリブレーション動作を実行することができる。また、マスク2と基板ステージ6の相対位置関係を把握しておくことで、後述するようにアライメント計測系とフォーカス計測系を用いて、第2タイミングより後の第3タイミングでマスク2と基板ステージ6の相対位置を制御することができる。即ち、制御部7は、マスク2と基板5の相対位置関係を適切に管理しながら、マスク2のパターンを基板5に露光することができる。
【0074】
図13は、アライメント計測系とフォーカス計測系を示す図である。
図13(a)に示すアライメント計測系50(オフアクシスアライメントスコープとも呼ばれる)は、LED等の光源51と、レンズ52、53、54、55、ハーフミラー56、撮像部57とを含む。光源51から照射される光がレンズ52、レンズ53を通過し、ハーフミラー56で反射され、レンズ54を通過し、基板5へと垂直に入射する。基板5に入射した光は基板5のショット領域のアライメントマーク等で反射して散乱し、反射散乱光がレンズ54、ハーフミラー56、レンズ55を通過し、撮像部57上にアライメントマークの像を形成しでアライメントマーク像が撮像される。アライメント計測系50は、XY平面に平行なX軸方向とY軸方向における基板5の位置計測を行う。
【0075】
図13(b)に示すフォーカス計測系60(面位置計測系とも呼ばれる)は、LED等の光源61と、レンズ62、63、64、撮像部65とを含む。光源61から照射される光がレンズ62を通過し、基板5へと斜めに入射する。入射した光は基板5で反射され、レンズ63、レンズ64を通過し、撮像部65で撮像される。フォーカス計測系60は、基板ステージ6に形成されている第2計測マーク109や基板ステージ6のZ軸方向における位置計測(Z軸方向の表面高さの計測)を行う。このX軸とY軸の各方向、Z軸方向に関する計測結果と、上記のフォーカスおよびアライメントのキャリブレーションに関する情報により、マスク2と基板5の位置関係を把握することができる。
【0076】
上記のキャリブレーションを実行する頻度は、投影光学系4の安定性と露光装置に要求される精度に応じて適切に設定すれば良い。本実施形態におけるキャリブレーションでは、基板ステージ6を駆動させずに実行できるため、高頻度でキャリブレーションを実行しても、生産性への影響は小さい。したがって、キャリブレーション頻度を多くすることで、マスク2と基板5の相対位置を高精度にキャリブレーションすることを可能にする。
【0077】
このように、本実施形態における変化量計測処理では、フォーカス変化量を求める際に、基板ステージ6をZ軸方向に駆動させる必要がない。したがって、本実施形態では、キャリブレーションにおいて、基板ステージ6をZ軸方向に移動させる動作(フォーカスのキャリブレーション動作)に要する時間が削減され、露光装置100の生産性の低下を抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態では、第3タイミングにおいて制御部7がマスク2と基板5の相対位置を制御するために基板ステージ6を駆動させる説明をしているが、これに限らず、マスクステージ6を駆動させても良い。また、マスクステージ3と基板ステージ6の両方を駆動させても良い。本実施形態では、第1計測マーク115、及び第2計測マーク109それぞれの複数のパターン(透過領域)はX方向に並べて配置しているが、これらのパターンと同じ複数のパターンをY方向にも並べて配置した第1計測マーク、第2計測マークを用いても良い。この場合には、検出部22を複数用意し、X方向に並んだ複数のパターンの像を検出する第1検出部とY方向に並んだ複数のパターンの像を検出する第2検出部として設ける。
【0079】
<第2実施形態>
第1実施形態では、一方向(X軸方向)にパターンが並べられた第1計測マーク115及び第2計測マーク109を通過した照明光の光量分布を計測し、キャリブレーションを実行する例について説明した。本実施形態では、複数の方向(X軸方向とY軸方向)にパターンが並べられた第1計測マーク115、及び第2計測マーク109の光量分布を計測し、キャリブレーションを実行する例について説明する。露光装置100の基本的な構成については、第1実施形態と同様であるため説明は省略する。また、本実施形態で言及しない事項については、第1実施形態に従う。
【0080】
図14(a)は、本実施形態における第1計測マーク115を示す図である。本実施形態における第1計測マーク115には、遮光領域115dと、所定の線幅及びピッチを有する複数のパターンである透過領域115e、115fと、透過領域115g、115h、115iを含む。透過領域115eは、X軸方向に沿って配列され、ラインアンドスペースパターンを形成している。透過領域115fは、Y軸方向に沿って配列され、ラインアンドスペースパターンを形成している。本実施形態における説明では、第1計測マーク115がマスク2に形成されていることを想定しているが、これに限らず、投影光学系4の物体面に相当する位置に設けられていれば良い。例えば、第1計測マーク115がマスクステージ3に設けられていても良く、その場合には、マスクステージ3上にマスク2が載置されていない場合でも、投影光学系4のキャリブレーションを行うことができる。
【0081】
また、第1実施形態と同様に、透過領域115e、115fのラインアンドスペースパターンは、線幅、ピッチ、方向などが互いに異なる種々のパターン(またはパターン群)でも良い。また、透過領域115g、115h、115iは、後述する第2計測マーク109の透過領域109e、109f、109gを照明するために設けられている。
【0082】
図14(b)は、本実施形態における第2計測マーク109を示す図である。本実施形態における第2計測マーク109には、遮光領域109dと、透過領域109e、109f、109gと、透過領域109h、109iを含む。X軸方向のパターンとして透過領域109e、109fが形成され、Y軸方向のパターンとして透過領域109f、109gが形成されている。
【0083】
本実施形態における説明では、第2計測マーク109が基板ステージ6に設けられているが、これに限らず、投影光学系4の像面に相当する位置であって計測マーク115のパターンが投影される場所にマーク109を位置させることができれば良い。例えば、基板ステージ6とは異なるユニットや要素にマーク109を設けても良い。
【0084】
また、透過領域109h、109iは、第1計測マーク115の透過領域115e、115fのパターン像を透過させるために設けられている。
【0085】
図14(c)は、検出部22によって検出される光量分布である。尚、領域322は検出部22の受光面に照明光が到達している様子を表している。領域322a~322eは、第1計測マーク115及び第2計測マーク109を透過した照明光であり、各マークのパターンの像である。
【0086】
また、交線322hは、検出部22の受光面と結像面とが一致する線を表している。結像系21がX軸方向とY軸方向の両方で像面湾曲を有しているため、両方向に関して、検出部22の受光面と結像面は完全に一致せず一部のみ一致するので交線322hを有することになる。
【0087】
光量分布323は、検出部22のX軸方向に延びた領域322fにおいて検出部22の受光面に受光された光量の分布である。
図14(c)に示すように、領域322aの光量は光量分布323における分布323aであり、領域322bの光量は光量分布323における分布323bであり、領域322dの光量は光量分布323における分布323dである。
【0088】
光量分布324は、検出部22のY軸方向に延びた領域322gにおいて検出部22の受光面に受光された照明光の光量の分布である。
図14(c)に示すように、領域322aの光量は光量分布324における分布324aであり、領域322cの光量は光量分布324における分布324cであり、領域322eの光量は光量分布323における分布324eである。
【0089】
本実施形態では、第1、第2計測マークを通過した照明光の光量分布をX軸方向、Y軸方向のそれぞれで得ることができ、それぞれの方向における光量分布に基づいてX軸方向、Y軸方向それぞれのアライメントのキャリブレーションを行うことができる。また、第1実施形態と同様に、フォーカスのキャリブレーションも行うことができる。
【0090】
本実施形態では、エリアセンサ等2次元の検出部22を使用し、1つの検出部22でX軸方向とY軸方向の計測を行うことができるため、検出部22をX軸方向とY軸方向のそれぞれに用意するよりも省スペース化、低コスト化を実現することができる。
【0091】
本実施形態における変化量計測処理においても、フォーカス変化量を求める際に、基板ステージ6をZ軸方向に駆動させる必要がない。したがって、本実施形態でも、キャリブレーションにおいて、基板ステージ6をZ軸方向に移動させる動作(フォーカスのキャリブレーション動作)に要する時間が削減され、露光装置100の生産性の低下を抑制することができる。
【0092】
<第3実施形態>
第1実施形態では、第1計測マーク115がマスク2に形成され、第2計測マーク109が基板ステージ6に形成され、検出部22が基板ステージ6に配置されている例について説明した。本実施形態では、第1計測マーク115がマスク2以外に配置されている例や、第2計測マーク109が基板ステージ6以外に配置されている例、或いは、検出部22が基板ステージ6以外に配置されている例について説明する。
【0093】
第1計測マーク115が投影光学系4の物体面に配置され、第2計測マーク109が投影光学系4の像面に配置される点は、第1実施形態と同様である。また、露光装置100の基本的な構成については、第1実施形態と同様であるため説明は省略する。本実施形態で言及しない事項については、第1実施形態に従う。
【0094】
第1実施形態では、ベストフォーカス位置を求めるための2つの方法を説明したが、本実施形態では、基板ステージ6をZ軸方向に駆動させても検出部22で得られる光量分布に変化が現れない。そのため、第1実施形態で説明した方法ではベストフォーカス位置を決定することができない。本実施形態でベストフォーカス位置を決定するためには、検出部22を設置する際に、検出部22を光軸方向に駆動させることで変化する光量分布に基づいてベストフォーカス位置を決定する必要がある。そのため、検出部22は、光軸方向に駆動する機構を有している必要がある。或いは、第1実施形態のように基板ステージ6の下部に設置された検出光学系を併存させることで、ベストフォーカス位置を決定できるようにしても良い。
【0095】
図15を参照して、本実施形態の露光装置100について説明する。
図15(a)は、検出光学系20が投影光学系4の側部(鏡筒側面)に固定されて配置されている図である。検出光学系20には、
図1(a)と同様に、検出部22と、レンズ23とレンズ24を含む系で構成される結像系21に加えて、照明光を結像系21に導光するためのミラー32、33が配置されている。また、第2計測マーク109は、基板ステージ6に形成するのではなく、光学系20内の、ミラー32とミラー33の間の、投影光学系4の像面に相当する位置に配置している。
【0096】
第1実施形態の説明で述べたように、検出部22は基板ステージ6を駆動させずにフォーカス及びアライメントの変化量を計測することができる。本実施形態では、検出部20を含む検出光学系20は投影光学系4に固定した状態でその光軸方向に動かさなくても、フォーカス及びアライメントの計測が可能となる。この特長を活かして、露光処理時に基板5に照射する照明光(露光光)のわずかに外側の光路を有する照明光を検出光学系20の検出部22に導光することで、露光しながら投影光学系4のフォーカスとアライメントそれぞれの変化量を常時計測することができる。これにより、計測のための待ち時間が発生することなくキャリブレーション動作を実行できるため、生産性の低下を小さくすることができる。
【0097】
図15(b)は、第1計測マーク115が、マスク2やマスクステージ3ではなく、投影光学系4の上部の光学系40中に配置されている図である。光学系40は、第1計測マーク115を照明するために、光源41、レンズ42、ミラー43などの要素を備え、露光処理用の照明光とは別の照明光を供給する。
【0098】
本実施形態の利点としては、部分毎に切り分けてキャリブレーションできることが挙げられる。例えば、第1実施形態に対して
図15(b)の構成の露光装置100では、投影光学系4だけの結像性能や変形などが分かる。また、第1実施形態に対して
図15(a)の構成の露光装置100では、計測値の差分を評価することで、基板ステージ6の駆動性能や変形などが分かる。このように、部分毎に切り分けて性能を把握することができるようになる点で第1実施形態と比較して有利である。
【0099】
また、本実施形態における変化量計測処理においても、フォーカス変化量を求める際に、基板ステージ6をZ軸方向に駆動させる動作が必要ない。また、検出部22を含む光学系20もその光軸方向に移動しない。したがって、本実施形態でも、キャリブレーションにおいて、基板ステージ6をZ軸方向に移動させる動作(フォーカスのキャリブレーション動作)等に要する時間が削減され、露光装置100の生産性の低下を抑制することができる。
【0100】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板上に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0101】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0102】
2 マスク
4 投影光学系
5 基板
7 制御部
22 検出部
100 露光装置
109 第2計測マーク
115 第1計測マーク