(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20241007BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20241007BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20241007BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
C09D11/40
C09D11/322
B41J2/01 123
B41J2/01 401
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020197646
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019219136
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】石井 智章
(72)【発明者】
【氏名】池上 正幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 将史
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193338(JP,A)
【文献】特開2018-172568(JP,A)
【文献】特開2016-145335(JP,A)
【文献】特開2012-206481(JP,A)
【文献】特開2019-025905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
C09D 11/00-13/00
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1インクを前記記録媒体に付与する工程、前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する工程、並びに、前記第1インク及び前記第2インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第3インクを前記記録媒体に付与する工程を有し、
前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、
前記第2インクが、樹脂、及び添加剤を含有するとともに、色材を含有しないインクであり、前記添加剤が、(1)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、シロキサン構造とを有する化合物、及び、(2)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、パーフルオロアルキル構造とを有する化合物からなる群より選択されるものであり、
かつ、前記添加剤が、前記(1)のうち、前記エチレンオキサイド基と前記シロキサン構造とを有する化合物である場合、前記シロキサン構造の側鎖に前記エチレンオキサイド基が位置し、
前記第3インクが、色材を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記添加剤のグリフィン法により求められるHLB値が、8以上16以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記添加剤が、前記シロキサン構造を有する化合物を含み、前記シロキサン構造を有する化合物におけるシロキサン構造の繰り返し数が、20以上である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記シロキサン構造の繰り返し数が、100以下である請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記第2インクの前記樹脂が、水溶性樹脂及び樹脂粒子を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記樹脂粒子が、酸基を有しないユニットを含むコア及び酸基を有するユニットを含むシェルで構成される請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記第1インク中の前記銀粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.00質量%以上15.00質量%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記第2インク中の前記樹脂の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記第2インク中の、前記樹脂粒子の含有量(質量%)が、前記樹脂の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.30倍以上0.70倍以下である請求項5、6、及び8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記第2インク中の前記添加剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.00質量%以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記第3インク中の色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上15.00質量%以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記記録媒体の単位面積当たりの、前記第2インクの前記添加剤の付与量(g/m
2)が、前記第1インクの前記銀粒子の付与量(g/m
2)に対する比率で、0.05倍以上である請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記記録媒体の単位面積当たりの、前記第2インクの前記添加剤の付与量(g/m
2)が、前記第1インクの前記銀粒子の付与量(g/m
2)に対する比率で、7.00倍以下である請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記記録媒体の単位面積当たりの、前記第2インクの前記樹脂の付与量(g/m
2)が、前記第1インクの前記銀粒子の付与量(g/m
2)に対する比率で、0.15倍以上2.00倍以下である請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び、前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程を行う時間差が、1秒以上600秒以下である請求項1乃至14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程、及び、前記第3インクを前記記録媒体に付与する工程を行う時間差が、0.1秒以上600秒以下である請求項1乃至15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記記録媒体の単位領域への前記第2インクの付与を、複数回に分割して行う請求項1乃至16のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記第1インクを前記記録媒体に付与する工程、前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程、並びに、前記第1インク及び前記第2インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、前記第3インクを前記記録媒体に付与する工程、によって前記記録媒体に前記画像を記録した後に、前記画像にラミネート材をラミネートする工程を行う請求項1乃至17のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
前記記録媒体が、インク受容層を有する記録媒体である請求項1乃至18のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項20】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体に画像を記録するために用いるインクジェット記録装置であって、
第1インクを前記記録媒体に付与する手段、前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する手段、並びに前記第1インク及び前記第2インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第3インクを前記記録媒体に付与する手段を備え、
前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、
前記第2インクが、樹脂、及び添加剤を含有するとともに、色材を含有しないインクであり、前記添加剤が、(1)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基を含むとともに、シロキサン構造を有する化合物、及び、(2)パーフルオロアルキル構造を有する化合物からなる群より選択されるものであり、
かつ、前記添加剤が、前記(1)のうち、前記エチレンオキサイド基と前記シロキサン構造とを有する化合物である場合、前記シロキサン構造の側鎖に前記エチレンオキサイド基が位置し、
前記第3インクが、色材を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有するインクは、用いる金属粒子の導電性を利用して、電気回路の形成に使用されてきたが、近年では、クリスマスカードなどのメタリック感を表現する用途においても使用されるようになってきている。特に、メタリック感のある画像にカラーの色調を持たせる、すなわち、「カラーメタリック画像」を記録するニーズがある。カラーメタリック画像を記録するために、記録媒体に、銀粒子を含有するインク、及び顔料を含有するインクを順に重ねて付与するインクジェット記録方法が提案されている(特許文献1参照)。また、記録媒体に、銀粒子を含有するインク、クリアインク、及び色材を含有するインクを順に重ねて付与するインクジェット記録方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-121279号公報
【文献】特開2012-206481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載されたインクジェット記録方法でカラーメタリック画像を記録し、得られた画像について検討した。その結果、銀粒子で形成される銀層及び色材で形成される色材層が重なった領域において薄膜干渉が生じ、色材と異なる色味を帯びる場合があることがわかった。また、特許文献2に記載された順序で3種のインクを記録媒体に付与して記録した画像について検討した。その結果、薄膜干渉は生じにくい傾向にあったが、色材を含有するインクにより細線のような画像を記録すると、インクが滲み、画像品位が損なわれることがわかった。なお、インクの滲みは、細線に限らずに生じ得るが、細線のような画像においては滲みによる画像品位の劣化を特に認識しやすいため、本発明においてはこの課題を便宜上「細線品位」と呼ぶ。
【0005】
したがって、本発明の目的は、薄膜干渉が抑制されるとともに、細線品位が良好なカラーメタリック画像を記録することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、第1インクを前記記録媒体に付与する工程、前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する工程、並びに、前記第1インク及び前記第2インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第3インクを前記記録媒体に付与する工程を有し、前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、前記第2インクが、樹脂、及び添加剤を含有するとともに、色材を含有しないインクであり、前記添加剤が、(1)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、シロキサン構造とを有する化合物、及び、(2)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、パーフルオロアルキル構造とを有する化合物からなる群より選択されるものであり、かつ、前記添加剤が、前記(1)のうち、前記エチレンオキサイド基と前記シロキサン構造とを有する化合物である場合、前記シロキサン構造の側鎖に前記エチレンオキサイド基が位置し、前記第3インクが、色材を含有するインクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薄膜干渉が抑制されるとともに、細線品位が良好なカラーメタリック画像を記録することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0010】
特許文献1に記載されているように、カラーメタリック画像は、記録媒体に、銀粒子を含有するインク及び色材を含有するインクを順に重ねて付与して記録し得る。このようにして記録されるカラーメタリック画像は、記録媒体上に、彩度を有しない銀層、及び色材層がこの順に形成された層構成を有する。銀粒子により形成された銀層が金属光沢感を示すことで、光沢性を有するメタリック画像となる。また、カラーメタリック画像に入射した光は、色材層を透過して銀層で反射し、再び色材層を透過して、インクに含有させた色材の色調を発現する。つまり、銀層が光を反射することでメタリック感、すなわち光沢性が発現し、光が色材層を透過することで、発色性が発現する。このように、本発明における「発色性」を有する画像とは、画像からの正反射光が、無色の銀色ではなく第3インクの色材の色調を呈する画像を指す。正反射光は、画像への入射光が、画像の法線方向と光の入射方向とのなす角(入射角)と同じ角度(反射角)をもって反射する光である。
【0011】
薄膜干渉とは、膜の表面から反射される光と、前記膜の下層から反射された光とが干渉し、特定の波長の光が強め合ったり弱め合ったりすることによって、反射光が色づいて見える現象である。強め合う波長や弱め合う波長は、膜の表面から反射される光と下層から反射する光との光路差により変化する。そして、光路差は膜の厚さ及び膜を形成する物質の屈折率に依存する。膜の表面に凹凸が多く存在する場合、種々の光路差に対応した干渉光が生じ、それらの干渉光の色が混ざり合い、白色化されるため、反射光の色づきは低減される傾向にある。逆に、膜の表面に凹凸が少なく、平滑である場合、特定波長の光が有意に反射されて、反射光の色づきが顕著に認識される。
【0012】
インクジェット記録方法では、記録ヘッドから吐出されたインク滴がドットの形状を維持した状態で記録媒体に付着し、画像が記録される。このようにして画像を記録すると、ドットの重なりによる段差やドットの有無による段差に起因して、その表面が不均一になり、凹凸が生ずる。銀を含有するインクにより記録媒体にあらかじめ形成された銀層に、色材を含有するインクが付与される場合にも、上記で述べた状況と同様の現象が生ずると考えられるので、銀層の上に形成される色材層の表面にも凹凸が生ずると推測される。
【0013】
記録媒体に形成された銀層の上に、例えば、イエロー顔料を含有するインクを記録ヘッドから吐出して付与する場合、銀層の上にイエロー顔料で構成される色材層が形成される。この色材層の表面には多くの凹凸が存在するため、反射光は白色化されて無色になるとともに、カラーメタリック画像からの正反射光はイエロー顔料で構成される色材層を透過するため、イエローに色づいて見えると予想された。
【0014】
しかし、本発明者らが検討したところ、上記のようにして記録したカラーメタリック画像からの正反射光は、色材とは異なる色調を有することがわかった。このような現象が生じたカラーメタリック画像を詳細に観察したところ、銀層上で、色材を含有するインクのドットがつながることで、凹凸が少なく、平滑な表面を持つ色材層が形成されていた。この平滑な表面を持つ色材層が形成されている領域において、薄膜干渉が生じ、色材とは異なる色調に色づいた反射光が認識されることがわかった。
【0015】
銀層上に形成される色材層の表面における凹凸が少ないのは、銀の表面エネルギーが高いためである。銀層の上に色材を含有するインクを付与すると、ドットが速やかに銀層に馴染んで大きく濡れ広がるため、隣接するドットと容易につながる。これにより、凹凸が少なく、平滑な表面を持つ色材層が形成され、薄膜干渉が生ずると考えられる。
【0016】
本発明者らは、カラーメタリック画像における薄膜干渉の発生を抑制するため、銀層と色材層との間に樹脂層を設けることについて検討した。樹脂層を介在させれば、銀層と色材層とが直接接触しなくなる。これにより、銀層上に付与された、色材を含有するインクのドットが濡れ広がりにくくなり、凹凸が多く存在する表面を持つ色材層が形成され、薄膜干渉が抑制されることがわかった。
【0017】
上述の通り、銀粒子を含有する第1インク、樹脂を含有するとともに色材を含有しない第2インク、及び色材を含有する第3インク、をこの順序で記録媒体に付与してカラーメタリック画像を記録すれば、樹脂層の存在により、薄膜干渉を抑制し得る。しかし、本発明者らの検討の結果、カラーメタリック画像を記録するために樹脂を含有する第2インクを用いる場合、別の課題が生ずることがわかった。具体的には、樹脂層の上に第3インクを付与して細線のような画像を記録するとインクの滲みが生じ、画像品位が損なわれることがわかった。このような細線品位の低下は、カラーメタリック画像を記録する際に、樹脂を含有するとともに色材を含有しない第3インクを用いる場合に特有に生ずる課題である。
【0018】
インクジェット用のインクに使用する銀粒子は吐出安定性を考慮して、数十~数百nmの粒子径を有する。このような粒子径を持つ銀粒子が融着して記録媒体に形成された銀層は、銀粒子が完全に融着して一様な層となっている訳ではなく、粒子の形状をある程度は維持した状態で融着しているため、銀層中には細孔が存在する。銀層の上に、第2インクを付与することなく、第3インクを付与すれば、第3インクの液体成分は銀層中の細孔を通って記録媒体にまで浸透するため、インクの滲みによる細線品位の低下は生じにくいが、薄膜干渉が生ずる。これに対し、銀層の上に、樹脂を含有する第2インクを付与した後に、第3インクを付与すれば、薄膜干渉を抑制することはできる。但し、この場合、銀層の細孔に第2インクの樹脂が入り込んで細孔が目詰まりした状態となるため、第3インクが記録媒体に浸透しにくくなり、銀層上で第3インクがあふれて、インクの滲みが生じ、細線品位が低下する。
【0019】
本発明者らは、樹脂層を形成するための第2インクに起因する上述の細線品位低下の発生原因を踏まえて、第2インクの構成について検討を行った。その結果、第2インクに、所定の添加剤を含有させればよいことを見出した。この添加剤は、(1)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、若しくはアニオン性基と、シロキサン構造とを有する化合物、又は、(2)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、若しくはアニオン性基と、パーフルオロアルキル構造とを有する化合物である。これらの化合物を、以下、「所定の添加剤」と記載することがある。
【0020】
所定の添加剤を含有する第2インクと、第1インク及び第3インクとを用いることにより、薄膜干渉が抑制されるとともに、細線品位が良好なカラーメタリック画像を記録することができる。上記の添加剤は、その分子内に親水性基(エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、アニオン性基)、及び疎水性基(シロキサン構造、パーフルオロアルキル構造)を有し、界面へ配向しやすい特性を持つ。銀層に第2インクのドットが付着した後、所定の添加剤はドットの表面近傍に配向する。インクジェット用の水性インクに汎用の添加剤である炭化水素系の界面活性剤における疎水性基である炭化水素構造と比較して、シロキサン構造やパーフルオロアルキル構造は分子間力が弱い。このため、所定の添加剤が表面近傍に配向した第2インクのドットは、表面エネルギーが顕著に低下し、続いて付着する第2インクのドットがつながりにくくなって、複数のドット間にある程度の距離が存在した状態でインクが定着する。このようにして形成された樹脂層にはドット間の距離に相当する隙間が存在し、この隙間を通じて、後に付与される第3インクの液体成分が滞りなく浸透するため、インクのあふれによる滲みが生じにくくなり、細線品位の低下を抑制することができる。
【0021】
なお、薄膜干渉は、銀層が存在しなくても、樹脂層が存在する場合に生じやすい現象であることが知られている。例えば、記録媒体に、色材を含有するインクを付与した後に、樹脂を含有するとともに色材を含有しないインクを付与すると、表面に樹脂層が存在する画像が形成されるため、薄膜干渉が生ずる。一方、表面に色材層が存在する画像であれば、薄膜干渉は生じない。これに対し、銀層が存在する場合は、先の場合とは異なり、表面に色材層が存在する画像であっても薄膜干渉が生ずる。これは、色材層と記録媒体の間に表面エネルギーの高い銀層が存在するためである。
【0022】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。具体的には、銀粒子を含有する第1インクを記録媒体に付与する工程、樹脂及び所定の添加剤を含有するとともに、色材を含有しない第2インクを記録媒体に付与する工程、及び、色材を含有する第3インクを記録媒体に付与する工程を有する。また、本発明のインクジェット記録装置は、上記のインクジェット記録方法を実施するために用いるものであり、第1インク、第2インク、及び第3インクをこの順に記録媒体に付与して、記録媒体に画像を記録する手段を備える。第1インク、第2インク、及び第3インクは、これらを付与する領域の少なくとも一部が互いに重なるように、記録媒体に付与する。
【0023】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させる方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが好ましい。本発明の記録方法では、各インクと反応するような反応液を付与する工程や、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射を行う工程を実施する必要はない。また、各インクは、記録媒体(好適には、浸透性を有する記録媒体)に直接付与することが好ましい。
【0024】
図1は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。
【0025】
第1インク記録媒体に付与する工程、及び第2インクを記録媒体に付与する工程を行う時間差は、1秒以上であることが好ましい。この時間差は、記録媒体に第1インクが付与されてから、その上に重ねて付与される第2インクが第1インクに接触するまでの時間であるということができる。前記時間差が1秒未満であると、第1インク及び第2インクを重ねて付与する時間差が短いため、銀粒子が融着していない状態で、樹脂を含有するインクが付与されることになる。すると、複数の銀粒子の間に樹脂が入り込むため、銀粒子が融着しにくくなる。このようにして形成された銀層には、他の銀粒子と融着しておらず、数十~数百nmの粒子径を有するために表面プラズモン共鳴を生ずる特性を持つ銀粒子が存在する。このため、画像に光が当たった際に、銀層からの光の反射率が低く、高いレベルの光沢性が十分に得られない場合がある。前記時間差が長すぎると画像を記録する際の生産性が低下する場合があるため、600秒以下であることが好ましい。前記時間差は、3秒以上300秒以下であることがさらに好ましく、3秒以上90秒以下であることが特に好ましい。
【0026】
第1インクを記録媒体に付与する工程、及び、第2インクを記録媒体に付与する工程を行う時間差を所定の範囲内とする、すなわち、第1インク及び第2インクを記録媒体に所定の時間差で付与する方法を説明する。例えば、記録ヘッドを主走査方向に移動させながら画像を記録するシリアル方式で、片方向記録を行う場合、以下の(1)~(3)などの方法を利用することができる。単位領域とは、1画素や1バンドなどの任意の領域として設定することができる。
【0027】
(1)主走査方向に直交する方向に配列された第1インク及び第2インクのそれぞれの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。記録媒体の単位領域に第1インクを付与した後、記録媒体を搬送することなく、前記単位領域に第2インクを付与する。
【0028】
(2)主走査方向に直交する方向に配列された第1インク及び第2インクのそれぞれの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。第1インクは副走査方向における上流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を、第2インクは副走査方向における下流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を使用する。そして、記録媒体を搬送しながら、記録媒体の単位領域に第1インク及び第2インクを付与する。
【0029】
(3)副走査方向における上流側に第1インクの吐出口列、下流側に第2インクの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。第1インクは上流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を、第2インクは下流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を使用する。そして、記録媒体を搬送しながら、記録媒体の搬送時間分の時間差を少なくとも空けて、第1インク及び第2インクを付与する。
【0030】
上記では、片方向記録を行う場合を例に挙げて説明した。勿論、本発明では、双方向記録を行う場合であっても、2種類のインクを記録媒体に所定の時間差で付与することができれば、どのような方法を利用してもよい。第2インク記録媒体に付与する工程、及び第3インクを記録媒体に付与する工程を行う時間差は、特に限定されないが、例えば、0.1秒以上600秒以下であることが好ましい。
【0031】
樹脂を含有するクリアインクの場合、記録媒体の単位領域へのインクの付与は複数回に分割して行うよりも、まとめて付与するほうが、より平坦な表面を持つ樹脂層が形成されるため、写像性などの観点で有利である。但し、本発明では、記録媒体の単位領域への第2インクの付与を、複数回に分割して行うことが好ましい。複数回に分割する際は、記録ヘッドの主走査の回数(記録パス数)で調整することができる。本発明では、第2インクに引き続き、第3インクが付与される。記録媒体の単位領域に第2インクを一度に付与する場合、先に付与された第2インクのドットが乾燥し、安定な膜が形成される以前に、隣接する単位領域にさらに第2インクが付与される。このため、先のドットの表面エネルギーが十分に下がる以前に、後のドットと接触しやすくなる。すると、所定の添加剤による複数のドットをつながりにくくする作用が十分に発揮されず、隙間を有する樹脂層が形成されにくくなって、インクのあふれによる滲みが生じやすくなり、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。記録媒体の単位領域への第3インクの付与は、4回以上に分割して行うことがさらに好ましい。生産性の観点から、記録媒体の単位領域への第3インクの付与は、12回以下に分割して行うことが好ましい。
【0032】
第1インク、第2インク、及び第3インクを記録媒体に付与して、カラーメタリック画像を記録した後に、ラミネート材をラミネートする工程を実施してもよい。ラミネートにより、カラーメタリック画像の光沢性、発色性、耐オゾン性などの堅牢性を高いレベルで長期間維持することができる。ラミネート材としては、シート状又はフィルム状の樹脂が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリアミド類などが挙げられる。また、樹脂で形成されるシート又はフィルムの一方の面に接着層が設けられたラミネート材を用いることもできる。ラミネート材の厚さは10μm以上300μm以下であることが好ましい。ラミネート工程は、記録装置に組み込んだラミネータで実施してもよいし、記録装置とは別の装置で実施してもよく、熱や圧力を加えて実施することもできる。
【0033】
<第1インク>
第1インクは、銀粒子を含有するインクであり、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクであることが好ましい。第1インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、第1インクを構成する成分について説明する。
【0034】
(銀粒子)
第1インクの色材は銀粒子である。銀粒子は、銀原子で構成されている。銀粒子は、銀原子以外にも、他の金属原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子などを含んで構成されていてもよい。但し、銀粒子中の銀原子の割合(%)は、50.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましい。第1インク中の銀粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.00質量%以上15.00質量%以下であることが好ましく、2.00質量%以上8.00質量%以下であることがさらに好ましい。第1インクは、銀粒子以外の色材(「他の色材」と記載)をさらに含有してもよいし、含有しなくてもよい。他の色材の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.00倍以上5.00倍以下であることが好ましく、0.00倍以上3.00倍以下であることがより好ましい。前記質量比率は、0.00倍以上0.10倍以下であることがさらに好ましい。
【0035】
銀粒子の製造方法としては、例えば、銀の塊をボールミルやジェットミルなどの粉砕機で粉砕する方法(粉砕法)、銀イオン又は銀錯体を還元剤により還元して凝集させる方法(還元法)などが挙げられる。本発明においては、銀粒子の粒子径制御のしやすさ、及び銀粒子の分散安定性の観点から、還元法により製造された銀粒子を用いることが好ましい。
【0036】
銀粒子は、界面活性剤や樹脂などの分散剤を用いて分散されたものを用いることが好ましく、分散剤としては樹脂がより好ましい。第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。
【0037】
銀粒子の分散剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの各種の界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステルなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミンオキサイド、ホスファチジルコリンなどが挙げられる。なかでも、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を分散剤として用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を用いることが好ましい。また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。分散剤として界面活性剤を用いる場合、第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.02倍以上1.00倍以下であることが好ましい。
【0038】
また、銀粒子の分散剤としては、アニオン性基を有するユニットとアニオン性基を有しないユニットとを持つ樹脂を用いることができる。樹脂の骨格としては、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エーテル系樹脂、アミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。分散剤として樹脂を用いる場合、第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上1.00倍以下であることが好ましい。
【0039】
銀粒子の体積基準の累積50%粒子径(d50S)は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として小粒子径側から積算して50%となった粒子の直径を指す。累積50%粒子径が小さい場合、単位質量当たりの銀原子数に占める、銀粒子の表面に存在する銀原子の割合が多いことになる。銀粒子中で動きやすい銀原子の割合が多くなることで、ある銀粒子の表面に存在する銀原子が、その周囲の銀粒子の表面に存在する銀原子と金属結合を形成しやすいので、銀粒子が融着しやすくなる。したがって、d50Sが50nm以下であると、光沢性が向上する傾向にある。累積50%粒子径は、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0040】
銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は、第1インクや銀粒子の分散液を水で希釈したものを試料として、以下のように測定することができる。シリコン基板に試料を塗布した後に、水を除去して試料を作製する。得られた試料を利用して、3,000個以上の銀粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などで観察し、画像処理を行って、上述の定義の粒子径を算出する。後述する実施例では、銀粒子を観察した後、画像解析・計測ソフトウェア(商品名「WinROOF2015」、三谷商事製)を利用して、粒子径を算出した。なお、銀粒子の粒子径は、インクや分散液について、動的光散乱法により測定することもできる。但し、測定値が凝集などの影響を受けて変動しやすいので、動的光散乱法で測定する場合は、水で十分に希釈して測定することが好ましい。
【0041】
〔銀粒子の付与量〕
記録媒体の単位面積当たりの、第1インクの銀粒子の付与量(g/m2)は、0.30g/m2以上1.00g/m2以下であることが好ましい。前記銀粒子の付与量は、第1インク中の銀粒子の含有量、第1インクの付与量などにより調整することができる。
【0042】
(界面活性剤)
第1インクは、銀粒子の分散剤として用い得る界面活性剤とは別に、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。第1インク中の、銀粒子の分散剤として用いる界面活性剤以外の、界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。
【0043】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0044】
(多価アルコール類)
第1インクは、多価アルコール類を含有することが好ましい。多価アルコール類とは、飽和炭化水素鎖を構成する1以上の炭素原子に、複数個のヒドロキシ基が置換した化合物である。多価アルコール類としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2-ヘプタンジオールなどの炭素数3以上7以下の2価アルコール類;グリセリン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類;キシリトール、D-グルコース、ソルビトールなどの糖アルコール類などが挙げられる。なかでも、3価乃至6価の、多価アルコール又は糖アルコールが好ましく、5価又は6価の、多価アルコール又は糖アルコールがさらに好ましい。第1インク中の多価アルコール類の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.00質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(水性媒体)
第1インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。第1インクは、水性媒体として水を含有するインク(水性インク)であることが好ましい。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。第1インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性溶剤類、含硫黄極性溶剤類などをいずれも用いることができる。第1インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。インクジェット記録方法に適用する際に、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、耐固着性や吐出安定性などの信頼性がやや低下する場合がある。
【0046】
(その他の成分)
第1インクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体などの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、第1インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0047】
(第1インクの物性)
第1インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上6mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上4mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、第1インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。
【0048】
<第2インク>
第2インクは、樹脂、所定の添加剤を含有するとともに、色材を含有しないインクであり、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクであることが好ましい。第2インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、第2インクを構成する成分について説明する。
【0049】
(樹脂)
第2インクは樹脂を含有する。樹脂は、水溶性樹脂及び樹脂粒子のいずれであってもよい。本明細書における「水溶性樹脂」とは、その樹脂を酸価に対して1.0倍(モル比)以上の塩基で中和した場合に、粒子径を測定し得る粒子を形成しない状態で液媒体中に存在する樹脂を意味する。また、「樹脂粒子」とは、その樹脂を酸価に対して1.0倍(モル比)以上の塩基で中和した場合に、粒子径を測定し得る粒子を形成した状態で液媒体中に存在する樹脂を意味する。樹脂の粒子径は動的光散乱法で測定する。
【0050】
ある樹脂が、水溶性樹脂であるか、樹脂粒子(水分散性樹脂)であるかについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価に相当する量以上の塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂の含有量:10質量%程度)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料を調製する。そして、試料中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定する。粒子径を有する粒子が測定されない場合には、その樹脂は水溶性樹脂であると判断し、粒子径を有する粒子が測定される場合には、その樹脂は樹脂粒子であると判断する。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、のように設定することができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、UPA-EX150、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0051】
樹脂を構成するユニットは、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)、熱分解ガスクロマトグラフィーなどで分析することができる。また、アクリル系樹脂の形態(ランダム共重合体、ブロック共重合体)は、多変量解析による熱分解ガスクロマトグラフィー(EGA-GC/MS)などで分析することができる。
【0052】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などが挙げられ、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がさらに好ましい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。第2インクに含有させ得る樹脂である水溶性樹脂及び樹脂粒子は、主に溶解状態に起因してインク中での存在状態が異なること以外は、同様の構成とすることができる。水溶性樹脂はインク中に溶解した状態として存在し、樹脂粒子はインク中に分散した状態、すなわち樹脂エマルションとして存在する。
【0053】
以下、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂について、樹脂(水溶性樹脂、樹脂粒子)の詳細を説明する。「(メタ)アクリル酸」と記載した場合は「アクリル酸、メタクリル酸」を表すものとし、「(メタ)アクリレート」と記載した場合は「アクリレート、メタクリレート」を表すものとする。
【0054】
〔アクリル系樹脂の構成ユニット〕
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリルエステルなどのアクリル系モノマーを(共)重合して得られる樹脂である。好ましくは、酸基を有するモノマー及び酸基を有しないモノマーを共重合して得られる、酸基を有するユニット及び酸基を有しないユニットで構成される樹脂を用いる。
【0055】
重合により酸基を有するユニットとなる、酸基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有するモノマー;スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマー;2-ホスホン酸エチル(メタ)アクリル酸などのホスホン酸基を有するモノマー;これらのモノマーの無水物や塩などが挙げられる。塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩が挙げられる。酸基を有するモノマーとしては、カルボン酸基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸がさらに好ましい。
【0056】
重合により酸基を有しないユニットとなる、酸基を有しないモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メチル-5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基を有するモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族基を有するモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。酸基を有しないモノマーとしては、芳香族基を有するモノマー、アルキル(メタ)アクリレート類が好ましく、芳香族基を有するモノマーがさらに好ましい。
【0057】
〔ウレタン系樹脂の構成ユニット〕
ウレタン系樹脂は、少なくとも、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)を用い、必要に応じて架橋剤や鎖延長剤も用いて合成される樹脂である。好ましくは、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、及び酸基を有するポリオールを重合して得られるウレタン樹脂を用いる。
【0058】
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0059】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネートなどの環状構造を有するポリイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。なかでも、ポリイソシアネートは、イソホロンジイソシアネートであることが好ましい。
【0060】
ポリオールは、その分子構造中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオールなどが挙げられる。また、ポリアミンは、その分子構造中に2以上の「アミノ基、イミノ基」を有する化合物である。
【0061】
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイド及びポリオール類の付加重合物;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類などが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、酸エステルなどが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしてはアルカンジオール系ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。酸基を有しないポリオールの数平均分子量は、400以上4,500以下であることが好ましい。
【0062】
酸基を有するポリオールとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などの酸基を有するものが挙げられる。酸基は塩を形成していてもよく、塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩が挙げられる。酸基を有するモノマーとしては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸などのカルボン酸基を有するポリオールが好ましく、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸がさらに好ましい。
【0063】
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの3官能以上のポリアミンなどが挙げられる。便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。
【0064】
ウレタン系樹脂を合成する際には、架橋剤や鎖延長剤を用いることができる。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。
【0065】
〔樹脂の物性〕
アクリル系樹脂の酸価は、0mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。また、ウレタン系樹脂の酸価は、45mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂の酸価は電位差滴定により測定することができる。アクリル系樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、3,000以上15,000以下であることがさらに好ましい。また、ウレタン系樹脂の重量平均分子量は、8,000以上22,000以下であることが好ましい。樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値として測定することができる。
【0066】
〔樹脂の含有量〕
第2インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性樹脂を用いる場合、第2インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上5.00質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂粒子を用いる場合、第2インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上5.00質量%以下であることがさらに好ましい。第2インク中の樹脂の含有量(質量%)は、第3インク中の樹脂の含有量(質量%)と同じか、それよりも多いことが好ましい。
【0067】
〔水溶性樹脂の形態〕
水溶性樹脂は、酸基を有するユニット及び酸基を有しないユニットを含むアクリル系のランダム共重合体であることが好ましい。
【0068】
〔樹脂粒子の形態、物性〕
樹脂粒子は、薄膜干渉をより高いレベルで抑制することができるため、アクリル系樹脂で構成されるものが好ましい。特に、樹脂粒子は、酸基を有しないユニットを含むコア及び酸基を有するユニットを含むシェルで構成されることが好ましい。コアシェル構造を有する樹脂粒子は、コア及びシェルのそれぞれを構成する樹脂が異なる屈折率を持つ。コアシェル構造を有する樹脂粒子を含む樹脂層に光が当たると、シェルを構成する樹脂及びコアを構成する樹脂のそれぞれで光が反射されて、複数の光路差に対応した干渉光が生ずる。これらの干渉光の色が混ざり合い、より白色化されやすくなって、薄膜干渉をより高いレベルで抑制することができる。加えて、樹脂層の上に第3インクが付与された際、酸基を有するユニットを含むシェルの親水性によって第3インクの水が引き込まれるので、液体成分が浸透しやすくなり、より優れた細線品位が得られる。また、酸基を有しないユニットを含むコアは、樹脂粒子を含有する第2インクが銀層に付着した後に、樹脂粒子の形状維持に寄与し、樹脂粒子間に由来する空隙を有する樹脂層を形成することができる。この空隙を通じて、後に付与される第3インクの液体成分がスムーズに浸透するため、より優れた細線品位が得られる。
【0069】
樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(d50)は、50nm以上300nm以下であることが好ましい。体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として小粒子径側から積算して50%となった粒子の直径を指す。
【0070】
〔水溶性樹脂及び樹脂粒子の併用〕
銀層の上に、樹脂粒子を含有せずに、水溶性樹脂を含有する第2インクを付与すると、水溶性樹脂により樹脂層が形成される。この樹脂層の上に第3インクが付与されると、樹脂層を構成する水溶性樹脂の一部が第3インクの液体成分に再び溶解しながら、色材層が形成される。この場合、樹脂層と色材層との界面が混ざり合った部分と明確に分かれた部分とが生じ、界面に凹凸が存在するようになる。色材層を透過した光は界面の凹凸によって散乱され、種々の光路差に対応した干渉光が生じ、それらの干渉光の色が混ざり合い、白色化されるため、薄膜干渉が抑制される程度は高くなる。しかし、水溶性樹脂により形成される樹脂層には、第3インクの液体成分が浸透しづらいので、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。
【0071】
一方、銀層の上に、水溶性樹脂を含有せずに、樹脂粒子を含有する第2インクを付与すると、樹脂粒子により樹脂層が形成される。この樹脂層の上に第3インクが付与されると、樹脂層に存在する樹脂粒子間に由来する空隙を通じて、第3インクの液体成分が速やかに浸透するため、より優れた細線品位を得ることができる。しかし、樹脂粒子により形成される樹脂層に付与された第3インクは、上述の通り速やかに液体成分が浸透するとともに、樹脂層の上に色材がより多く残って色材層が形成される。この場合、樹脂層と色材層との界面が明確に分かれた状態となりやすい。このような層構成を持つ画像に光が入射すると、各層から反射された光が強め合うような状況が生じた際に、薄膜干渉を抑制する程度が低くなる場合がある。
【0072】
水溶性樹脂及び樹脂粒子の両方を含有する第2インクを用いると、水溶性樹脂による薄膜干渉の抑制作用と、樹脂粒子による優れた細線品位の発現とを高いレベルで両立することができる。水溶性樹脂及び樹脂粒子を用いる場合、第2インク中の、樹脂粒子の含有量(質量%)は、樹脂の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.30倍以上0.70倍以下であることが好ましい。前記質量比率が0.30倍未満であると、樹脂層を形成する樹脂に占める樹脂粒子が少なすぎて、樹脂層の空隙が少なくなりやすいので、インクのあふれによる滲みが生じやすくなり、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。一方、前記質量比率が0.70倍超であると、樹脂層を形成する樹脂に占める樹脂粒子が多すぎて、樹脂層の空隙が多くなりやすいので、樹脂層と色材層との界面が明確に分かれた状態となりやすく、薄膜干渉を抑制する程度が低くなる場合がある。
【0073】
〔樹脂の付与量〕
記録媒体の単位面積当たりの、第2インクの樹脂の付与量(g/m2)は、0.01g/m2以上1.00g/m2以下であることが好ましい。前記樹脂の付与量は、第2インク中の樹脂の含有量、第2インクの付与量などにより調整することができる。記録媒体の単位面積当たりの、第2インクの樹脂の付与量(g/m2)は、第1インクの銀粒子の付与量(g/m2)に対する比率で、0.15倍以上2.00倍以下であることが好ましい。前記比率が0.15倍未満であると、銀粒子に対して第2インクの樹脂が少なすぎるため、その後に樹脂層に付与される第3インクが銀層に直接接触しやすくなって、薄膜干渉を抑制する程度が低くなる場合がある。一方、前記比率が2.00倍超であると、銀粒子に対して第2インクの樹脂が多すぎるため、銀層の細孔だけでなく、樹脂層の空隙が目詰まりした状態となりやすく、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。前記比率は、1.00倍以下であることがさらに好ましい。
【0074】
(添加剤)
第2インクは、所定の添加剤を含有する。添加剤は、(1)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、若しくはアニオン性基と、シロキサン構造とを有する化合物、又は、(2)エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、若しくはアニオン性基と、パーフルオロアルキル構造とを有する化合物である。以下、(1)を「シロキサン化合物」、(2)を「パーフルオロアルキル化合物」と記載することがある。第2インク中の所定の添加剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上1.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
シロキサン化合物は、エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、シロキサン構造(Si-Oの繰り返し単位)とを有する化合物である。エチレンオキサイド基、アニオン性基、及びヒドロキシ基は親水性基であり、シロキサン構造は疎水性基である。シロキサン化合物は、シロキサン構造への親水性基の結合位置に対応して、側鎖型、片末端型、両末端型、ABN型などに分類され、側鎖型のシロキサン化合物を用いることが好ましい。
【0076】
パーフルオロアルキル基を有する化合物は、エチレンオキサイド基、ヒドロキシ基、又はアニオン性基と、パーフルオロアルキル構造とを有する化合物である。エチレンオキサイド基、アニオン性基、及びヒドロキシ基は親水性基であり、パーフルオロアルキル構造は疎水性基である。パーフルオロアルキル化合物は、パーフルオロアルキル基の構造が直鎖であるものと分岐鎖であるものが挙げられる。
【0077】
添加剤としては、より優れた細線品位が得られるため、シロキサン化合物を用いることが好ましい。炭素-炭素結合を含むパーフルオロアルキル構造と比して、炭素-珪素結合を含むシロキサン構造は、疎水性基が柔軟な立体構造を取るため、界面へより配向しやすい。したがって、シロキサン化合物を用いる場合、銀層に第2インクのドットが付着した後に、より速やかに添加剤がドット表面に配向しやすく、より優れた細線品位が得られる。特に、シロキサン構造の繰り返し数が20以上であるシロキサン化合物を用いることが好ましい。シロキサン化合物の疎水性基であるシロキサン構造が第2インク中の樹脂と疎水性相互作用することで、シロキサン化合物の記録媒体への浸透が有効に抑制されて、ドット表面に効率よく配向する。シロキサン構造の繰り返し数が少ないと、疎水性相互作用が弱くなり、ドット表面に配向し得るシロキサン化合物が少なくなり、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。シロキサン化合物におけるシロキサン構造の繰り返し数は100以下であることが好ましい。
【0078】
また、所定の添加剤としては、エチレンオキサイド基を有するものが好ましい。上述の通り、添加剤の疎水性基による樹脂との疎水性相互作用を利用すれば、添加剤の浸透が抑制されて、ドット表面に添加剤を配向させることができる。一方、疎水性相互作用を強く生じさせるために添加剤の疎水性基を長くすると、添加剤の全体としての疎水性が高くなりすぎて、インク中で凝集しやすくなる。このため、ヒドロキシ基やアニオン性基の場合と比較して、繰り返し数による親水性の調整が容易なエチレンオキサイド基を有する添加剤を用いることが好ましい。
【0079】
さらに、所定の添加剤のグリフィン法により求められるHLB値が、8以上16以下であるものが好ましい。グリフィン法によるHLB値は、「HLB値=20×添加剤のエチレンオキサイド基の式量/添加剤の分子量」の式から算出することができる。グリフィン法により求められるHLB値は、添加剤(化合物)の親水性や親油性の程度を表す物性値であり、0乃至20の値をとる。HLB値が小さいほど親油性が高く、HLB値が大きいほど親水性が高い。HLB値が8未満であると、添加剤の疎水性が高すぎて、添加剤が凝集しやすくなり、ドット表面に添加剤が配向しにくくなるため、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。一方、HLB値が16超であると、添加剤の親水性が高すぎて、やはりドット表面に添加剤が配向しにくくなるため、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。なお、グリフィン法により求められるHLB値は、イオン性基を有しない化合物(非イオン性の化合物)に適用される物性値である。
【0080】
〔添加剤の付与量〕
記録媒体の単位面積当たりの、第2インクの所定の添加剤の付与量(g/m2)は、0.01g/m2以上1.00g/m2以下であることが好ましい。前記所定の添加剤の付与量は、第2インク中の所定の添加剤の含有量、第2インクの付与量などにより調整することができる。記録媒体の単位面積当たりの、第2インクの添加剤の付与量(g/m2)は、第1インクの銀粒子の付与量(g/m2)に対する比率で、0.05倍以上であることが好ましい。前記比率が0.05倍未満であると、銀粒子に対して、第2インクのドット表面に配向する添加剤が少なすぎるため、ドットの表面エネルギーが十分に下がらず、細線品位の低下が抑制される程度が低くなる場合がある。前記比率は7.00倍以下であることが好ましく、1.00倍以下であることがさらに好ましく、0.50倍以下であることが特に好ましい。
【0081】
(水性媒体)
第2インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合媒体である水性媒体を含有することが好ましい。第2インクは、水性媒体として水を含有するインク(水性インク)であることが好ましい。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。第2インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性溶剤類、含硫黄極性溶剤類などをいずれも用いることができる。第2インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。インクジェット記録方法に適用する際に、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、耐固着性や吐出安定性などの信頼性がやや低下する場合がある。
【0082】
(その他の成分)
第2インクには、前記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、第2インクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の成分を含有させてもよい。
【0083】
(第2インクの物性)
第2インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上6mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上4mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、第2インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。
【0084】
<第3インク>
第3インクは、色材を含有するインクであり、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクであることが好ましい。第3インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、第3インクを構成する成分について説明する。
【0085】
(色材)
色材としては、染料、顔料が挙げられる。第3インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上15.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
染料は、アニオン性染料であることが好ましい。また、染料は、アゾ骨格、フタロシアニン骨格、アントラピリドン骨格、及びキサンテン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物であることが好ましい。なかでも、インクの保存安定性とカラーメタリック画像の発色性を両立することができるため、インク中での溶解状態が安定であるとともに、記録媒体においては凝集しやすいような特性を有する染料が好ましい。このような特性は、染料の骨格やアニオン性基の数により調整することができる。
【0087】
顔料としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料が挙げられる。顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。
【0088】
カラーメタリック画像の光沢性の観点では、色材として、染料や、樹脂分散剤を利用する樹脂分散顔料を用いることが好ましい。また、カラーメタリック画像の発色性の観点では、色材として、顔料を用いることが好ましい。発色性を有するカラーメタリック画像を記録するためには、記録媒体において、銀層及び色材層の界面が混ざり合わずに、互いに分離して存在することが重要である。染料インクの場合、銀層と分離した色材層が形成されにくい。これは、粒子の形状を持たない染料は銀層の上に留まりにくく、銀層の内部や記録媒体に沈み込むからである。一方、顔料インクの場合、銀層と分離した色材層が形成されやすい。これは、顔料が粒子の形状を持ち、銀層の上に留まりやすいからである。
【0089】
顔料の体積基準の累積50%粒子径(d50)は、10nm以上300nm以下であることが好ましい。体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として小粒子径側から積算して50%となった粒子の直径を指す。粒子の質量が一定である場合、粒子径が小さいと総表面積は大きくなり、粒子径が大きいと総表面積は小さくなる。d50が10nm未満であると、粒子の総表面積は大きくなり、顔料粒子間の疎水性相互作用が強くなる傾向にあり、第3インクの高いレベルの保存安定性が十分に得られない場合がある。一方、d50が300nm超であると、顔料の粒子径が大きいため、高いレベルの発色性や光沢性が十分に得られない場合がある。
【0090】
(水性媒体)
第3インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合媒体である水性媒体を含有することが好ましい。第3インクは、水性媒体として水を含有するインク(水性インク)であることが好ましい。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。第3インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性溶剤類、含硫黄極性溶剤類などをいずれも用いることができる。第3インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。インクジェット記録方法に適用する際に、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、耐固着性や吐出安定性などの信頼性がやや低下する場合がある。
【0091】
(その他の成分)
第3インクには、前記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、第3インクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、樹脂、消泡剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0092】
第3インクは樹脂を含有してもよい。樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助として、また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させる、などの用途でインクに添加することができる。第3インクが樹脂を含有する場合、第3インク中の樹脂の含有量(質量%)は、第3インク中の色材の含有量(質量%)に対する質量比率で、1.20倍以下であることが好ましい。前記質量比率が1.20倍超であると、画像を構成する色材層の発色効率が低下する傾向にあるだけでなく、樹脂による光の散乱が生じ、高いレベルの光沢性が十分に得られない場合がある。前記質量比率は、0.10倍以上であることが好ましい。
【0093】
(第3インクの物性)
第3インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上6mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上4mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、第3インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。
【0094】
<記録媒体>
記録媒体としては、どのようなものを用いてもよいが、普通紙や、インク受容層を有する記録媒体(光沢紙やアート紙)などの、浸透性を有する記録媒体を用いることが好ましい。なかでも、記録される画像のメタリック感に優れるため、光沢紙などのインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。インクジェット記録方法で用いられる光沢紙などの記録媒体は、通常、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンを含有するインク受容層を具備する。塩化物イオンは、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ塩化アルミニウムなどのカチオン性化合物に含まれている。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分量に関して「部」、及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0096】
<銀粒子の分散液の調製>
特表2010-507727号公報の実施例2の記載を参考にして、銀粒子の含有量が10.0%であり、樹脂の含有量が3.0%である、銀粒子の分散液を調製した。銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は42nmであった。銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は以下の手順で測定した。先ず、イオン交換水で約2,000倍(質量基準)に希釈した分散液を、シリコン材料で形成された基板に塗布して、水を乾燥により除去して試料を準備した。次いで、得られた試料を利用して、3,000個以上の銀粒子について、走査型電子顕微鏡で観察し、画像解析・計測ソフトウェア(商品名「WinROOF2015」、三谷商事製)を利用して画像処理を行って算出した。
【0097】
<シロキサン化合物の合成>
(シロキサン化合物の分析方法)
合成した一般式(1)及び(2)で表される構造を有する各シロキサン化合物の特性は、後述する方法で算出した重量平均分子量から特定した。
【0098】
シロキサン化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値として求めた。シロキサン化合物をテトラヒドロフランに添加して溶解させ、メンブレンフィルターでろ過して、試料を調製した。試料はシロキサン化合物の含有量が約0.1%となるように調整した。この試料について、以下の条件でシロキサン化合物の重量平均分子量を測定した。
・測定装置:商品名「Waters2695 Separations Module」、Waters製
・RI(屈折率)検出器:商品名「2414detector」、Waters製
・カラム:商品名「Shodex KF-806M」の4連カラム、昭和電工製
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40℃
・試料注入量:100μL
・検出器:RI(屈折率)。
【0099】
シロキサン化合物の重量平均分子量の算出に当たっては、標準ポリスチレン試料(商品名「PS-1」及び「PS-2」、Polymer Laboratories製、分子量:7500000、2560000、841700、377400、320000、210500、148000、96000、59500、50400、28500、20650、10850、5460、2930、1300、580の17種)を用いて作成した分子量校正曲線を使用した。
【0100】
(シロキサン化合物1、3~12)
常法により、下記一般式(1)で表される構造(側鎖型)を有する、シロキサン化合物1、3~12をそれぞれ合成した。表1にシロキサン化合物1、3~12の特性を示す。
【0101】
【0102】
(シロキサン化合物2)
常法により、下記一般式(2)で表される構造(片末端型)を有する、シロキサン化合物2を合成した。表1にシロキサン化合物2の特性を示す。
【0103】
【0104】
【0105】
<第1インクの調製>
表2の上段に示す各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、第1インクを得た。アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。
【0106】
【0107】
<水溶性樹脂の準備>
(水溶性樹脂1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流管を備えた4つ口フラスコに、エチレングリコールモノブチルエーテル100.0部を入れた後、フラスコに窒素ガスを導入して、撹拌しながら110℃まで昇温した。モノマー(スチレン40.0部、メチルメタクリレート40.0部、及びアクリル酸20.0部)の混合物、及び1.3部の重合開始剤(t-ブチルパーオキサイド)を溶解させたエチレングリコールモノブチルエーテルを、3時間かけてフラスコ内に滴下した。エージングを2時間行った後、エチレングリコールモノブチルエーテルを減圧により除去することで、水溶性樹脂1を固形物として得た。得られた水溶性樹脂1を、その酸価の1.0倍(モル比)の水酸化カリウムで中和し、適量のイオン交換水を加えて、80℃で溶解させ、樹脂の含有量が10.0%である、水溶性樹脂1を含む液体を得た。
【0108】
(水溶性樹脂2)
モノマーの種類を、ベンジルメタクリレート40.0部、n-ブチルアクリレート40.0部、及びp-スチレンスルホン酸20.0部に変更した。このこと以外は、水溶性樹脂1と同様の手順で、樹脂の含有量が8.0%である、水溶性樹脂2を含む液体を得た。
【0109】
(水溶性樹脂3)
特許文献2の記載を参考にして、「フルオレン樹脂」を合成した。この樹脂は、重量平均分子量が3,300である、水溶性のウレタン系樹脂である。得られた樹脂を、その酸価の1.0倍(モル比)の水酸化カリウムで中和し、適量のイオン交換水を加えて、80℃で溶解させ、樹脂の含有量が10.0%である、水溶性樹脂3を含む液体を得た。
【0110】
<樹脂粒子の準備>
(樹脂粒子1~6)
n-ヘキサデカン2.0部、重合開始剤(2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル))1.0部、及び表3に示すコア部のモノマー(単位:部)を混合し、30分間撹拌して混合物を得た。モノマーの略記号は、St:スチレン、nBA:n-ブチルアクリレート、AA:アクリル酸、を示す。得られた混合物を、0.27部のドデシル硫酸ナトリウムを溶解させた水229.5部中に滴下した後、30分間撹拌し、コア部のモノマー混合物を得た。そして、超音波ホモジナイザー(商品名「S-150D デジタルソニファイアー」、ブランソン製)を用いて、出力:400W、周波数:20kHz、3時間の条件でコア部のモノマー混合物に超音波を照射することで、成分を分散させた。その後、窒素雰囲気下、80℃で4時間重合させることで、樹脂を合成し、樹脂粒子のコア部となるアクリル系の樹脂を含む分散液を得た。
【0111】
次いで、イオン交換水200.0部、過硫酸カリウム0.1部、ドデシル硫酸ナトリウム8.0部、表3に示すシェル部のモノマー(単位:部)を乳化させ、シェル部用のモノマーの乳化物を得た。モノマーの略記号は、MMA:メチルメタクリレート、nBA:n-ブチルアクリレート、AA:アクリル酸、StSA:スチレンスルホン酸、を示す。先に得たコア部となる樹脂を含む分散液240.0部に、過硫酸カリウム0.1部、及びイオン交換水600.0部を加え、窒素雰囲気下、75℃まで昇温した。この分散液に、シェル部用のモノマーの乳化物350.0部を3時間かけて滴下した。その後、85℃まで昇温し、2時間撹拌して重合させ、樹脂粒子のシェル部となるアクリル系の樹脂を合成した。その後、25℃まで冷却して、適量のイオン交換水、及び水酸化カリウム水溶液を添加して、pHが8.5であり、樹脂の含有量が10.0%である、各樹脂粒子を含む液体を得た。樹脂粒子1~6はいずれも、コア及びシェルで構成される樹脂粒子であった。
【0112】
【0113】
(樹脂粒子7)
撹拌シール、撹拌棒、還流冷却管、セプタムラバー、窒素導入管を備えた、容量300mLの4つ口フラスコに、スチレン9.0部、アクリル酸1.5部、ドデシル硫酸ナトリウム0.1部、及び蒸留水100.0部を入れて、混合した。フラスコを70℃の恒温槽に入れ、内容物を300rpmで撹拌しながら、フラスコ内に窒素ガスを導入し、1時間窒素置換を行った。その後、100.0部の蒸留水に溶解させた過硫酸カリウムを、シリンジを利用してフラスコ内に注入することで、重合を開始させた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量をモニタリングすることで重合の終了を確認した。限外ろ過により精製した後、適量のイオン交換水、及び水酸化カリウム水溶液を添加して、pHが8.5であり、樹脂の含有量が10.0%である、樹脂粒子7を含む液体を得た。樹脂粒子7はアクリル系樹脂で構成される単層の樹脂粒子であった。
【0114】
(樹脂粒子8)
ウレタン系樹脂で構成される樹脂粒子を含む市販の水分散体(商品名「タケラックW-6061」、三井化学製)に適量のイオン交換水を添加して濃度を調整し、樹脂粒子8を含む液体を得た。
【0115】
<第2インクの調製>
表4及び5の上段に示す各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、第2インクを得た。アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。パーフルオロアルキル化合物1~3としては、以下に示すものを用いた。
・パーフルオロアルキル化合物1(商品名「ゾニールFS-3100」、デュポン製、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物)
・パーフルオロアルキル化合物2(商品名「ゾニールFSO-100」、デュポン製、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物)
・パーフルオロアルキル化合物3(商品名「メガファックF-410」、DIC製、パーフルオロアルキルカルボン酸塩)
【0116】
【0117】
【0118】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
C.I.ピグメントイエロー74を24.0部、樹脂分散剤の水溶液48.0部、及びイオン交換水28.0部を混合して混合物を得た。樹脂分散剤の水溶液としては、スチレン-アクリル酸共重合体(商品名「ジョンクリル680」、BASF製)を、酸価の0.85倍(モル比)の水酸化カリウムで中和し、適量のイオン交換水を加えて得た、水溶性樹脂の含有量が20.0%である水溶液を用いた。得られた混合物、及び0.3mm径のジルコニアビーズ85部を、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に入れて、水冷しながら3時間分散させた。その後、遠心分離して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、顔料の含有量が20.0%、樹脂の含有量が8.0%である顔料分散液1を調製した。
【0119】
(顔料分散液2)
顔料をC.I.ピグメントブルー15:3に変更したこと以外は、顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が20.0%、樹脂の含有量が8.0%である顔料分散液2を調製した。
【0120】
(顔料分散液3)
顔料をカーボンブラックに変更したこと以外は、顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が20.0%、樹脂の含有量が8.0%である顔料分散液3を調製した。
【0121】
<第3インクの調製>
表6段に示す各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、第3インクを得た。アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。
【0122】
【0123】
<評価>
上記で調製した各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(PIXUS PRO 10-S、キヤノン製)にセットした。この記録ヘッドは、主走査方向に直交する方向に沿って、第1インク、第2インク、及び第3インクのそれぞれの吐出口列が配列されたものである。本実施例では、1/600インチ×1/600インチの単位領域(1画素)に、約3.8ngのインク滴を8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。
【0124】
第1インクは、副走査方向における上流側の吐出口列のうち1/3に当たる吐出口から吐出するように設定した。第2インクは、副走査方向における中心部の吐出口列の1/3に当たる吐出口から吐出するように設定した。また、第3インクは、副走査方向における下流側の吐出口列のうち1/3に当たる吐出口から吐出するように設定した。
【0125】
第1インク、第2インク、及び第3インクの付与時間差を一定に保つために、便宜的に記録ヘッドの主走査の片方向のみで各インクを吐出させて画像を記録した。上流側の吐出口列から第1インクを吐出して記録媒体に付与した。その後、記録ヘッドを搭載したキャリッジをホームポジションに戻す間に、先のインクを付与した領域に相当する幅として副走査方向に記録媒体を搬送した。第2インク及び第3インクも、第1インクの場合と同様の手順で記録媒体に付与した。第1インク及び第2インクの付与時間差は10秒とした。
【0126】
表7の左側に、各インクの種類、付与順序、記録デューティ、単位領域に第2インクを付与する際の主走査の回数(記録パス数)を示す。また、第1インクの銀の付与量AS、第2インクの樹脂の付与量AR、第2インクの添加剤の付与量AA、AA/ASの値、AR/ASの値を示す。記録媒体としては、光沢紙(商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]PT-201」、キヤノン製)を用いた。この記録媒体のインク受容層は、塩化物イオンを含有する。
【0127】
本発明においては、下記の各項目の評価基準で、A、及びBを許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。評価結果を表7の右側に示す。
【0128】
(薄膜干渉抑制)
第1インク及び第2インクを表7の左側に示す条件で、A4サイズの記録媒体の全面に重ねて付与し、さらに、所定の記録デューティで第3インクを重ねて付与することで、2cm×2cmのベタ画像を6種類含むパターンを記録した。また、これとは別に、第3インクのみを用いて、所定の記録デューティとして、2cm×2cmのベタ画像を6種類含むパターンを記録した。上記のいずれの場合についても、第3インクの記録デューティは、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%の6種とした。3種のインクを用いて記録したベタ画像(6種の記録デューティ)について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL*a*b*表示系における色相角hを測定した。また、第3インクのみを用いて記録したベタ画像(6種の記録デューティ)についても、同様に色相角hを測定した。色相角hは、積分球型の分光測色計(商品名「CM-2600d」、コニカミノルタ製)を用いて、SCIモード(正反射光を含む条件)、測定径:3mm、視野角:2°、光源:D50の条件で測定した。
【0129】
同一記録デューティのベタ画像の組み合わせについて、色相角の差を算出し、さらに、6種のベタ画像についての色相角の差の最大値と最小値との差Δhを算出し、以下に示す評価基準にしたがって薄膜干渉の抑制を評価した。
A:Δhが10未満であった。
B:Δhが10以上20未満であった。
C:Δhが20以上であった。
【0130】
(細線品位)
第1インク及び第2インクを表7の左側に示す条件で記録媒体に重ねて付与し、さらに、第3インクを用いて、フォント:MS明朝、フォントサイズ:24ポイントの条件で、「電」の文字を記録した。光学顕微鏡(商品名「ZEISS SteREO Discovery V8」、ZEISS製、倍率:8倍、縮尺付き)により画像の「電」を含む部分を画像データとして保存した。この画像データを、画像処理ソフト(商品名「Adobe Photoshop CC」、アドビシステム製)で読み込み、「電」の四画目の縦線の線幅を前記ソフトの定規ツールにより測定した。画像データの縮尺から、実画像の縦線の線幅を算出し、3か所の平均値から、以下に示す評価基準にしたがって細線品位を評価した。第3インクを用いていない参考例3及び4については、細線品位を評価しなかった。
A:線幅が400μm未満であった。
B:線幅が400μm以上500μm未満であった。
C:線幅が500μm以上であった。
【0131】
【0132】
また、実施例1で記録したカラーメタリック画像について、ラミネータ(商品名「アークティック タイタン165」、日本GBC製)を用いて、ラミネートを実施した。ラミネート材としては、粘着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「G-030EV50」、リンテック製、厚さ50μm)を用いた。カラーメタリック画像にラミネートを行うことで、光沢性、発色性、及び耐オゾン性を損なうことなく、高いレベルで維持することができた。