(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】接着剤の外観検査方法および液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20241007BHJP
G01N 21/956 20060101ALI20241007BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241007BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241007BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20241007BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B41J2/16 503
G01N21/956 B
B41J2/14
B41J2/01 451
B05C11/00
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2020202813
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山田 遼平
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-162274(JP,A)
【文献】特開平11-147314(JP,A)
【文献】特開2016-045174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00- 5/04
7/00-21/00
B05D 1/00- 7/26
B41J 2/01- 2/215
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溝を備え、該溝を形成する側壁が前記表面に対して傾斜した傾斜面からなる支持部材の、前記溝を含む領域に塗布した接着剤の外観検査を行う方法であって、
前記溝を含む領域に向けて照明光を照射し、前記表面の側に配置したカメラで前記領域からの反射光を撮像し、該カメラで撮像した撮像画像に基づいて、前記接着剤の外観を検査すること、を含み、
前記照明光が前記傾斜面で正反射されたときの反射光が前記カメラの側に向かうように、
かつ、前記傾斜面に垂直な方向と前記表面とがなす角度よりも前記傾斜面への前記照明光の入射方向と前記表面とがなす角度のほうが小さくなるよう、前記傾斜面への前記照明光の入射角を設定することを特徴とする、接着剤の外観検査方法。
【請求項2】
前記支持部材の前記表面に対する前記傾斜面の傾斜角が45°より大きい、請求項1に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項3】
1枚の前記撮像画像から前記傾斜面と前記接着剤の表面との明暗の差に基づいて、前記接着剤を塗布した塗布領域において前記溝が露出したか否かを判定することを特徴とする、請求項1に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項4】
前記溝は、同じ方向に延在する、互いに平行な第1の溝および第2の溝を有し、
前記第1の溝および第2の溝がともに露出した場合に、前記接着剤の途切れが生じたと判定することを特徴とする、請求項1に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項5】
前記第1の溝または前記第2の溝が露出した場合に、前記接着剤の線幅が規定値より細いと判定することを特徴とする、請求項4に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項6】
前記溝は、第1の溝と、該第1の溝と交差するように所定の間隔で平行に形成された複数の第2の溝と、を有し、
前記第1の溝が露出した場合に、前記接着剤の途切れが生じたと判定することを特徴とする、請求項1に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項7】
前記第2の溝が露出した場合に、前記接着剤の線幅が規定値より細いと判定することを特徴とする、請求項6に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項8】
前記溝は、第1の方向に延在する互いに平行な複数の第1の溝と、該第1の方向と交差する第2の方向に延在する互いに平行な複数の第2の溝と、を有し、該第1の溝と第2の溝とが網目状の溝を形成し、
前記網目状の溝の一部が露出した場合に、前記接着剤の線幅が規定値より細いと判定することを特徴とする、請求項1に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項9】
前記網目状の溝の一部が前記第2の方向の幅全体に渡って露出した場合に、前記接着剤の途切れが生じたと判定することを特徴とする、請求項8に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項10】
前記支持部材と前記接着剤が同色であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項11】
前記支持部材と前記接着剤が白色であることを特徴とする、請求項10に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項12】
前記照明光は、レーザー光または平行光束である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項13】
前記溝は、前記傾斜面と、該溝を形成する側壁が前記表面に対して前記傾斜面と異なる角度で傾斜した第2の傾斜面と、を有し、
前記傾斜面で正反射した前記照明光が、前記第2の傾斜面に入射せず前記カメラの側に向かうように前記照明光の前記入射角を設定する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項14】
前記支持部材は、
液体を吐出する吐出口を備えた記録素子基板を前記表面で支持するように構成され、
前記表面は、前記液体を前記記録素子基板に供給するための液体供給口を有し、
前記溝は前記液体供給口の縁に沿って形成されている、請求項
1乃至13のいずれか一項に記載の接着剤の外観検査方法。
【請求項15】
液体を吐出する吐出口を備えた記録素子基板と、
前記記録素子基板を支持する支持面を備え、前記記録素子基板と接着剤により接合された支持部材であって、前記支持面は、前記液体を前記記録素子基板に供給する液体供給口と、前記接着剤を塗布するための溝を備えた塗布領域と、を有する支持部材と、を有し
前記溝は前記液体供給口の縁に沿って形成され、該溝を形成する側壁が、前記支持面に対して傾斜した傾斜面からなる液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記溝を含む領域に塗布した接着剤の外観検査工程を含み、
当該外観検査工程は、前記溝を含む領域に向けて照明光を照射し、前記
支持面の側に配置したカメラで前記領域からの反射光を撮像し、該カメラで撮像した撮像画像に基づいて、前記接着剤の外観を検査すること、を含み、
前記照明光が前記傾斜面で正反射されたときの反射光が前記カメラの側に向かうように、
かつ、前記傾斜面に垂直な方向と前記支持面とがなす角度よりも前記傾斜面への前記照明光の入射方向と前記支持面とがなす角度のほうが小さくなるよう、前記傾斜面への前記照明光の入射角を設定する、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記支持面に対する前記傾斜面の傾斜角が45°より大きいことを特徴とする、請求項1
5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
複数の前記溝が纏まって前記液体供給口の縁に沿って形成されていることを特徴とする、請求項1
5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記複数の溝は、同じ方向に延在する、互いに平行な第1の溝および第2の溝を有することを特徴とする、請求項1
7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項19】
前記複数の溝は、
前記液体供給口の縁に沿って延在する第1の溝と、
前記第1の溝と交差するように所定の間隔で平行に形成された複数の第2の溝と、を有することを特徴とする、請求項1
7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項20】
前記複数の溝は、
第1の方向に延在する互いに平行な複数の第1の溝と、
前記第1の方向と交差する第2の方向に延在する互いに平行な複数の第2の溝と、を有し、
前記複数の第1の溝と前記複数の第2の溝とが網目状の溝を形成し、該網目状の溝が前記液体供給口の縁に沿って延在することを特徴とする、請求項1
7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項21】
前記溝の断面形状がV字形状であることを特徴とする、請求項1
5乃至
20のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する記録素子基板を支持する支持部材および接着剤の外観検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドは、液体を吐出する記録素子基板と、この記録素子基板を支持する支持部材とを有する。記録素子基板と支持部材は、接着剤により接合される。支持部材の支持面には、液体を記録素子基板に供給する液体供給口が形成されており、この液体供給口を囲むように接着剤を塗布する塗布領域が設けられる。記録素子基板を支持部材に確実に接着し、かつ、液体が漏れることがないように、接着剤は、一定の幅で、途切れが生じないように、支持面上に塗布する必要がある。このため、支持面上に塗布した接着剤の外観検査が行われる。
特許文献1には、基板の粗面に塗布した接着剤の外査方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、接着剤が塗布されているべき位置に向けて、基板表面に沿う方向から光を照射して、その反射光を基板上方に位置する光検出装置が受光する。受光した反射光の強度分布に基づいて、接着剤の塗布状態を検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の検査方法では、透明な接着剤を検査対象としており、照明光の一部が接着剤を透過する必要がある。このため、白色等の透明でない接着剤の外観検査を行うことは困難である。
本発明は、透明でない接着剤の外観検査を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の接着剤の外観検査方法は、表面に溝を備え、該溝を形成する側壁が前記表面に対して傾斜した傾斜面からなる支持部材の、前記溝を含む領域に塗布した接着剤の外観検査を行う方法であって、前記溝を含む領域に向けて照明光を照射し、前記表面の側に配置したカメラで前記領域からの反射光を撮像し、該カメラで撮像した撮像画像に基づいて、前記接着剤の外観を検査すること、を含み、前記照明光が前記傾斜面で正反射されたときの反射光が前記カメラの側に向かうように、かつ、前記傾斜面に垂直な方向と前記表面とがなす角度よりも前記傾斜面への前記照明光の入射方向と前記表面とがなす角度のほうが小さくなるよう、前記傾斜面への前記照明光の入射角を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、透明でない接着剤の外観検査を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明を適用した液体吐出ヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【
図2】記録素子基板と支持部材とを分離した状態を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の支持部材を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す支持部材2の線A―Aにおける断面図である。
【
図6】接着剤7の外観検査を行う検査装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】照明光の入射角を説明するための模式図である。
【
図8】接着剤が塗布された溝付近の反射光の状態を示す模式図である。
【
図9】接着剤の途切れを生じた状態を示す模式図である。
【
図10】比較例の支持部材上に塗布した接着剤の外観検査を説明するための模式図である。
【
図11】溝の変形例を説明するための模式図である。
【
図12】
図11(c)の矢印Cの断面における照明光と反射光の進行状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらに限定する趣旨のものではない。
【0009】
図1は、本発明を適用した液体吐出ヘッドの概略構成を示す。液体吐出ヘッドは、インク等の液体を吐出する記録素子基板1と、記録素子基板1を支持する支持部材2とを有する。。記録素子基板1は、液体を吐出する複数の吐出口を備え、吐出口毎に、液体を吐出するためのエネルギー発生素子が設けられている。ここでは、2つの記録素子基板1が、接着剤により支持部材2に接合されている。
支持部材2には、記録素子基板1の各エネルギー発生素子に電力を供給するための電気配線基板3が接合されている。記録素子基板1は、電気配線基板3を介して信号入力基板4と電気的に接続されている。支持部材2は、チップタンク5に接合されている。チップタンク5は、外部の液体タンクに連通しており、液体を記録素子基板1に供給するサブタンクとしての役割を果たす。
【0010】
図2に、記録素子基板1と支持部材2とを分離した状態を模式的に示す。支持部材2は、記録素子基板1を支持する支持面2aを備える。支持面2aは、支持部材2の表面の一例である。支持面2aは、液体を記録素子基板1に供給するための液体供給口6を備える。記録素子基板1を接合するための接着剤7が、液体供給口6を囲むように塗布されている。接着剤7は、透明でない接着剤である。
支持部材2と接着剤7は、同色である。ここで、同色は、完全一致でなくても良い。例えば、同色は、外観検査で、照明光を支持面2aおよび接着剤7に照射した際の反射光を撮像した撮像画像において、支持面2aと接着剤7との判別ができないような色の範囲を含む。例えば、支持部材2と接着剤7は、白色等である。より具体的には、接着剤7の主材質はエポキシ樹脂等であり、白色に近い淡黄色を有する。支持部材2の主材質はアルミナ(酸化アルミニウム)であり、その外観色は白色である。支持部材2の支持面2aは粗面である。
【0011】
図3は、本発明の一実施形態の支持部材2の主要部を示す斜視図である。支持部材2の支持面2aには、接着剤7を塗布するための溝31を備えた塗布領域が設けられている。溝31は、液体供給口6の縁に沿って形成されている。
図4は、
図3に示した支持部材2の線A―Aにおける断面図である。
図5は、
図4に示した溝31の拡大図である。
図4および
図5に示すように、溝31を形成する側壁が、支持面2aに対して傾斜した傾斜面31aからなる。ここでは、溝31の断面形状は、V字形状である。ただし、V字形状は一例である。V字を形成する2つの傾斜面31aがなす角度θ1は、90°未満の鋭角である。支持面2aに対する傾斜面31aの傾斜角θ2は、45°より大きい。V字をなす2つの傾斜面31aの傾斜角θ2は互いに同じである。
【0012】
溝31は各液体供給口6を囲むように形成されており、接着剤7は溝31を含む領域に塗布される。複数の液体供給口6が平行に形成された領域では、接着剤7を塗布した部分は格子状に形成されている。接着剤7が液体供給口6から流路内に流れ込むの防ぐため、溝31は液体供給口6に接しない位置に形成されている。
接着剤7は記録素子基板1を支持部材2に接着する役割に加えて、液体漏れを防止する壁の役割を合わせ持つ。液体漏れを防止する観点から、接着剤7の途切れがないことが重要である。加えて、塗布した接着剤7の高さを規定値にすることも需要である。接着剤7の粘度は比較的高く、接着剤の高さと接着剤の幅は比例関係にある。接着剤7の高さを保証するために、接着剤7の線幅が規定値未満にならないことが重要である。よって、支持部材2の溝31を含む領域に塗布した接着剤7の外観検査を行い、接着剤7の途切れが無いことや、接着剤7の線幅が規定値未満でないことを確認する必要がある。
【0013】
図6は、接着剤7の外観検査を行う検査装置の構成を示すブロック図である。検査装置は、置き台10、光源11、カメラ12および画像処理部13を有する。接着剤7を塗布した支持部材2が置き台10に固定される。光源11は、支持部材2の支持面2a上の溝31を含む領域に向けて照明光を照射する。照明光として、指向性の高い光を用いることが望ましい。例えば、照明光としてレーザー光や平行光束を用いることができる。
カメラ12は、支持部材2の支持面2aの側に配置されている。カメラ12は、支持面2aに正対する。カメラ12は、溝31を含む領域からの反射光を撮像する。カメラ12は、電気配線ケーブル14を介して画像処理部13と電気的に接続されている。照明光が傾斜面31aで正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように、傾斜面31aへの照明光の入射角が設定されている。
【0014】
画像処理部13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等により構成される。画像処理部13は、カメラ12で撮像した撮像画像に基づいて、溝31を含む領域に塗布した接着剤7の外観を検査するための処理を実行する。具体的には、画像処理部13は、撮像画像上での傾斜面31aと接着剤7の表面との明暗の差に基づいて、接着剤7を塗布した塗布領域において溝31が露出したか否かを判定する。溝31が露出した状態は、接着剤7の途切れが生じている状態、もしくは、接着剤7の線幅が規定値より細い状態を示す。
撮像画像上で傾斜面31aと接着剤7の表面との明暗の差を生じさせるためには、傾斜面31aからの反射光を撮像した撮像画像が暗部を含むように、傾斜面31aに対する照明光の入射角を設定する必要がある。
【0015】
図7は、溝31の傾斜面31aに対する照明光の入射角を説明するための模式図である。点線40は、傾斜面31aに垂直な補助線である。点線40は、支持面2aと傾斜面31aとで形成された角部に接する。矢印41は、傾斜面31aに対して入射角αで入射する照明光である。点線40を基準に、支持面2aの側の入射角αを正の値、支持面2aとは反対側の入射角αを負の値とする。矢印42は、照明光41が傾斜面31aで正反射した正反射光を示す。傾斜面31aは、点線40を立てた位置を境に2つの領域43、44に区画されている。領域43は支持面2aの側に位置し、領域44は支持面2aとは反対側に位置する。
【0016】
図7(a)に示すように、入射角αが正(α>0)の場合、照明光41は傾斜面31aの領域43に入射するが、領域44には入射しない。領域43で正反射された反射光42は、支持部材2の上方に設置してあるカメラ12に入射する。この場合、反射光42を撮像した撮像画像において、領域43は支持部材2の色(例えば、白色)で示されるが、領域44は暗部となる。このように、入射角αを正の範囲に設定すれば、暗部を含む撮像画像を得られる。例えば、傾斜面31aの傾斜角θ2が45°より小さい場合、照明光41が傾斜面31aで正反射されたときの反射光42がカメラ12側に向かうように入射角αを設定すれば、入射角αは正の範囲になる。
【0017】
一方、
図7(b)に示すように、入射角αが負(α<0)の場合、照明光41は領域43および領域44の両方に入射する。例えば、照明光41が領域44に入射した場合、領域44で正反射した反射光42は、もう一方の傾斜面31aで再び正反射されてカメラ12に入射する。領域43で正反射した反射光42も、同様に、もう一方の傾斜面31aで再び正反射されてカメラ12に入射する。この場合、反射光42を撮像した撮像画像において、領域43および領域44はともに支持部材2の色(例えば、白色)で示されるため、暗部を含む撮像画像を得ることはできない。
上記から分かるように、傾斜面31aからの反射光の撮像画像が暗部を含むためには、入射角αを正(α>0)の範囲に設定する必要がある。なお、溝31の頂角θ1(2つの傾斜面31aがなす角度)が90°以上である場合は、傾斜面31aにおける照明光41が入射しない領域の割合が極端に少なくなる。その結果、撮像画像上の暗部の割合が減少する。
【0018】
次に、接着剤7の表面で反射した反射光を撮像した撮像画像について説明する。
図8は、接着剤7が塗布された支持部材2の溝31付近に照明光33を照射したときの反射光の状態の一例を示す模式図である。照明光33は支持部材2の支持面2a(粗面)上で乱反射し、拡散光34と正反射光35が生じる。拡散光34のうち支持部材2の上方に向かう光が、カメラ12に入射する。また、照明光33は接着剤7の表面で乱反射し、拡散光36と正反射光37が生じる。拡散光36のうち接着剤7の上方に向かう光がカメラ12に入射する。拡散光34、36をカメラ12で撮像した撮像画像において、支持面2aおよび接着剤7はいずれも白色の領域で示される。よって、支持面2aおよび接着剤7を撮像画像上で区別することは難しい。
【0019】
接着剤7を塗布した塗布領域において溝31が露出した場合、撮像画像上では、接着剤7の部分は白色の領域で示されるが、溝31が露出した部分は暗部となる。このように、接着剤7の部分と溝31が露出した部分とで明暗の差が生じる。よって、この明暗の差に基づいて、接着剤7を塗布した塗布領域に溝31が露出しているか否かを判定することができる。
図9に、支持部材2上に塗布した接着剤7の領域の一部に途切れを生じた状態を示す。例えば、接着剤を収容した塗布用容器内で、接着剤に空気等が混入することがある。この場合、塗布用容器から供給された接着剤を支持部材2上に塗布した際に、接着剤の途切れが生じる。
図9に示す例では、液体供給口6を囲む接着剤7の一部に途切れ部分32が生じている。この途切れ部分32では、溝31が露出する。外観検査において、撮像画像上で、溝31が露出した途切れ部分32は暗部となるため、接着剤7の途切れを判定することができる。
なお、支持部材2と接着剤7が、白色以外の他の色で、同色である場合にも、上記と同様にして接着剤7の途切れを判定することができる。
【0020】
次に、比較例として、溝31を備えていない支持部材を挙げて、この支持部材の外観検査の問題について説明する。
図10は、比較例である溝無し支持部材上に塗布した接着剤7の外観検査の問題を説明するための模式図である。支持部材200の支持面200a上に、液体供給口6を囲むように接着剤7が塗布されている。
図6に示した検査装置を用いて、支持部材200上の接着剤7の外観検査を行った。照明光20は支持部材200の支持面200a(表面)で乱反射し、反射光21がカメラ12に入射する。同様に、接着剤7の表面で乱反射し、反射光22がカメラ12に入射する。反射光21、22の強度は同等である。よって、カメラ12で反射光21、22を撮像した撮像画像において、支持面200aおよび接着剤7はいずれも白色の領域で示される。このように、比較例では、撮像画像上で接着剤7と支持面200aの間で明確な明暗の差は生じない。このため、接着剤7に数μmの途切れが発生しても、その途切れを判別することは困難である。
これに対して、本実施形態の溝31を備えた支持部材2によれば、接着剤7が途切れた部分では溝31が露出する。撮像画像上で、溝31が露出した部分(途切れ部分)は暗部となるため、接着剤7の途切れを判定することができる。
【0021】
以上説明した本実施形態の支持部材2において、1本の溝31が液体供給口6を囲むように構成されているが、溝31の本数は1つに限定されず、また、溝31の配置形態も図示した配置形態に限定されない。複数の溝31が纏まって液体供給口6の縁に沿って形成されても良い。
図11に、溝31の第1乃至第3の変形例を示す。
図11(a)に示すように、支持部材2の支持面2a上の、破線Bで囲まれた2つの液体供給口6の間に、接着剤の塗布領域51が設定されている。
図11(b)に、接着剤の塗布領域51に形成された第1の変形例の溝を示す。第1の変形例の溝は、同じ方向に延在する、互いに平行な第1の溝52aおよび第2の溝52bを有する。第1の溝52aおよび第2の溝52bは、液体供給口6の縁に沿って形成されている。
【0022】
外観検査において、第1の溝52aと第2の溝52bとが接着剤7の線幅を規定する。第1の溝52aおよび第2の溝52bがともに露出した場合に、接着剤7の途切れが生じたと判定する。また、第1の溝52aまたは第2の溝52bが露出した場合に、接着剤7の線幅が規定値より細いと判定する。このように第1の変形例によれば、接着剤7の途切れや接着剤7の線幅の判定が可能となる。
図11(b)の例では、接着剤7aの線幅は規格値よりも細いため、第1の溝52aが露出している。撮像画像上で第1の溝52aの暗部を認識することで、接着剤7の線幅が規定値より細いと判定することが可能である。
【0023】
図11(c)に、接着剤の塗布領域51に形成された第2の変形例の溝を示す。第2の変形例の溝は、液体供給口6の縁に沿って延在する第1の溝53と、第1の溝53と直交するように所定の間隔で平行に形成された複数の第2の溝54と、を有する。各第2の溝54は、第1の溝53と交わらない。
外観検査において、第2の溝54が接着剤7の線幅を規定する。第1の溝53が露出した場合に、接着剤7の途切れが生じたと判定する。第2の溝54が露出した場合に、接着剤7の線幅が規定値より細いと判定する。このように第2の変形例によれば、接着剤7の途切れや接着剤7の線幅の判定が可能となる。
図11(c)の例では、接着剤7aの線幅は規格値よりも細いため、第2の溝54が露出している。この場合、撮像画像上で、第2の溝54(暗部)の長さを測定することで、線幅の不足量を検出することができる。線幅の不足量に基づいて、接着剤の追加塗布量の算出が可能である。線幅の不足部に接着剤を追加塗布することで、これまで不良品となっていた支持部材2を良品にすることができるので、歩留まりが向上する。
【0024】
なお、
図11(c)に示した第2の変形例の溝を含む領域に塗布した接着剤の外観検査を行う場合は、第1の溝53と第2の溝54とで照明光の照射方向を切り替える必要がある。具体的には、照明光が第1の溝53の傾斜面で正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように入射角αを設定して外観検査を行う。次いで、照明光が第2の溝53の傾斜面で正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように入射角αを設定して外観検査を行う。
【0025】
図12は、
図11(c)の矢印Cの断面における照明光と反射光の進行状態の一例を示す概略説明図である。第1の溝53の傾斜面53aに対して、入射角αが正の値になるように設定する。照射光60が傾斜面53aで正反射し、その正反射光61がカメラ12に入射する。この場合、傾斜面53aは、
図7(a)に示したような領域43および領域44を含むことになり、傾斜面53aからの反射光を撮像した撮像画像は暗部を含む。
一方、第2の溝54においては、照明光60は、第2の溝54の内面で反射し、拡散光62と正反射光63が生じる。拡散光62はカメラ12に入射す。撮像画像上では、第2の溝54の領域は白色領域となり、暗部を得られない。撮像画像上で、第2の溝54の暗部を得るためには、照明光が第2の溝54の傾斜面で正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように入射角αを設定する必要がある。このため、照明光の切り替えが必要である。なお、第1の溝53の暗部と第2の溝54の暗部を正確に判別するために、第1の溝53と第2の溝54は互いに交わらないように形成することが望ましい。
【0026】
図11(d)に、接着剤の塗布領域51に形成された第3の変形例の溝を示す。第3の変形例の溝は、第1の方向に延在する互いに平行な複数の第1の溝55と、第1の方向と交差する第2の方向に延在する互いに平行な複数の第2の溝56と、を有する。複数の第1の溝55と複数の第2の溝56とが網目状の溝を形成する。各第1の溝55と各第2の溝56とは互いに交わらない。
外観検査において、網目状の溝が接着剤7の線幅を規定する。網目状の溝の一部が露出した場合に、接着剤7の線幅が規定値より細いと判定する。また、網目状の溝の一部が第2の方向の幅全体に渡って露出した場合は、接着剤7の途切れが生じたと判定する。このように第3の変形例によれば、接着剤7の途切れや接着剤7の線幅の判定が可能となる。
図11(d)の例では、接着剤7aの線幅は規格値よりも細いため、網目状の溝の一部が露出している。この場合、撮像画像上で、網目状の溝の露出部(暗部)の面積を測定することで、線幅の不足量を検出することができる。線幅の不足量に基づいて、接着剤の追加塗布量の算出が可能である。線幅の不足部に接着剤を追加塗布することで、これまで不良品となっていた支持部材2を良品にすることができるので、歩留まりが向上する。
【0027】
なお、第2の変形例と同様、本第3の変形例の溝を含む領域に塗布した接着剤の外観検査を行う場合は、第1の溝55と第2の溝56とで照明光の照射方向を切り替える必要がある。具体的には、照明光が第1の溝55の傾斜面で正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように入射角αを設定して外観検査を行う。次いで、照明光が第2の溝56の傾斜面で正反射されたときの反射光がカメラ12側に向かうように入射角αを設定して外観検査を行う。
また、第3の変形例によれば、網目状の構造を採用したことで、支持部材2の支持面2aと接着剤7の接触面積が増加する。また、毛細管現象により、接着剤7が網目状の溝に沿って拡がる効果が得られる。その結果、接着剤7の途切れが発生しても、接着剤7が溝に沿って広がることで、自然と途切れ部が接着剤7で覆われるという副次的な効果を得られる。この副次的な効果により、これまで不良品となっていた支持部材2を良品にすることができるので、歩留まりがさらに向上する。
【符号の説明】
【0028】
1 記録素子基板
2 支持部材
2a 支持面
6 液体供給口
31 溝