(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】シート給送装置、画像形成装置、画像読取装置
(51)【国際特許分類】
B65H 3/06 20060101AFI20241007BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20241007BHJP
B65H 11/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B65H3/06 350A
G03G15/00 407
B65H11/00 G
(21)【出願番号】P 2020204731
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 航
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-295427(JP,A)
【文献】特開2001-220026(JP,A)
【文献】特開2016-222457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0347560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00-3/68
G03G 15/00
B65H 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートが積載される積載部と、
前記積載部に積載されたシートに当接し、シートを給送する給送ローラと、
前記給送ローラを支持する支持部材と、
前記支持部材の回動を制御するカム部材であって、前記給送ローラが前記積載部に積載されているシートに当接する当接位置と、前記給送ローラが前記積載部に積載されているシートから離間し、シートの給送を行わないときに位置する待機位置との間を移動するように、前記支持部材を回動させるカム部材と、
を備え、
前記カム部材は、前記給送ローラがシートの給送を行うために前記待機位置から前記当接位置に移動する際、前記積載部にシートが最大量積載されているときに前記給送ローラがシートに当接する第1当接位置よりも前記給送ローラの移動方向の上流側の位置で前記給送ローラの移動速度が最大となり、且つ、前記第1当接位置から前記積載部にシートが最小量積載されているときに前記給送ローラがシートに当接する第2当接位置まで移動する間の前記移動速度が前記第1当接位置での前記移動速度よりも遅くなるように、前記支持部材の回動を制御することを特徴とするシート給送装置。
【請求項2】
前記カム部材は、前記給送ローラが前記待機位置から前記当接位置に移動する際、一定の速度で回転することを特徴とする請求項1に記載のシート給送装置。
【請求項3】
前記カム部材は、前記待機位置から前記積載部に当接する位置まで移動する際、前記第1当接位置から前記積載部に当接する位置まで移動する間の前記移動速度が前記第1当接位置での前記移動速度よりも遅くなるように、前記支持部材の回動を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のシート給送装置。
【請求項4】
前記給送ローラが前記待機位置から前記当接位置へ移動する方向に前記支持部材を回動させる力が作用するように、前記支持部材を付勢する付勢部材を備え、
前記付勢部材が前記支持部材を付勢する力は、前記給送ローラが前記当接位置に位置する時よりも前記待機位置に位置する時の方が大きく、且つ、前記給送ローラが前記第2当接位置に位置する時よりも前記第1当接位置に位置する時の方が大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート給送装置と、
前記シート給送装置によって給送されたシートに画像を形成する画像形成部と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート給送装置と、
前記シート給送装置によって給送されたシートの画像を読み取る画像読取部と、
を備えることを特徴とする画像読取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに画像を形成する電子写真複写機、電子写真プリンタ、インクジェットプリンタなどの画像形成装置や、シートの画像を読み取るスキャナなどの画像読取装置に好適なシート給送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、積載部に積載されているシートを給送ローラによって画像形成部に給送するシート給送装置を搭載する。シート給送装置によってシートを給送する構成としては例えば次の二つの構成がある。一つ目は、給送ローラが積載部に積載されているシートに向かって移動し、給送ローラとシートとが当接して給送が行われる構成である。二つ目は、シートが積載された積載部が給送ローラに向かって移動し、給送ローラとシートとが当接して給送が行われる構成である。
【0003】
ここで給送ローラとシートとが当接する際、両者の衝突によって衝突音が発生する。これに対し特許文献1では、積載部が給送ローラに向かって移動することにより給送ローラとシートが当接するシート給送装置において、給送ローラとシートが当接する前に積載部の移動速度を減速させるように積載部の移動を制御する構成が記載されている。これにより給送ローラとシートとの衝突によって発生する衝突音が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、給送ローラとシートとが衝突する際、同じ速度で衝突した場合であっても、積載部に積載されているシートの枚数によって発生する衝突音の大きさは変化する。即ち、シートの積載枚数が少ない場合、シートによる緩衝効果が低くなるため、シートの積載枚数が多い場合と比較して衝撃音が大きくなる傾向にある。シート給送装置を静音化してユーザビリティを向上させるためには、シートの積載枚数が少ない場合であっても、給送ローラとシートとの衝突音を効果的に低減できる構成が望ましい。
【0006】
そこで本発明は、積載部に積載されているシートの枚数が少ない場合であっても、給送ローラとシートとの衝突音を効果的に低減することができるシート給送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るシート給送装置の代表的な構成は、シートが積載される積載部と、前記積載部に積載されたシートに当接し、シートを給送する給送ローラと、前記給送ローラを支持する支持部材と、前記支持部材の回動を制御するカム部材であって、前記給送ローラが前記積載部に積載されているシートに当接する当接位置と、前記給送ローラが前記積載部に積載されているシートから離間し、シートの給送を行わないときに位置する待機位置との間を移動するように、前記支持部材を回動させるカム部材と、を備え、前記カム部材は、前記給送ローラがシートの給送を行うために前記待機位置から前記当接位置に移動する際、前記積載部にシートが最大量積載されているときに前記給送ローラがシートに当接する第1当接位置よりも前記給送ローラの移動方向の上流側の位置で前記給送ローラの移動速度が最大となり、且つ、前記第1当接位置から前記積載部にシートが最小量積載されているときに前記給送ローラがシートに当接する第2当接位置まで移動する間の前記移動速度が前記第1当接位置での前記移動速度よりも遅くなるように、前記支持部材の回動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シート給送装置において、積載部に積載されているシートの枚数が少ない場合であっても、給送ローラとシートとの衝突音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における画像形成装置の断面概略図である。
【
図2】本実施形態におけるトレイ給送部の全体斜視図である。
【
図3】本実施形態におけるトレイ給送部の斜視概略図である。
【
図4】本実施形態におけるトレイ給送部の断面概略図である。
【
図5】本実施形態におけるトレイ給送部の側面概略図である。
【
図6】本実施形態におけるトレイ給送部のカム付近を示す断面概略図である。
【
図7】本実施形態におけるトレイ給送部のカム付近を示す断面概略図である。
【
図8】本実施形態における積載部にシートが満載に積載された時のトレイ給送部の断面概略図である。
【
図9】本実施形態における積載部にシートが無い時のトレイ給送部の断面概略図である。
【
図10】給送ローラが待機位置から下降する際の給送ローラの位置と移動速度との関係を示すグラフある。
【
図11】本実施形態における給送ローラの位置を示すトレイ給送部の断面概略図である。
【
図12】本実施形態における各給送ローラの位置のカムとカムフォロワの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<画像形成装置>
以下、まず本発明に係るシート給送装置を備える画像形成装置の全体構成を画像形成時の動作とともに図面を参照しながら説明する。なお、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
本実施形態に係る画像形成装置Aは、イエローY、マゼンダM、シアンC、ブラックKの4色のトナーを中間転写ベルトに転写した後、シートに画像を転写して画像を形成する中間タンデム方式の画像形成装置である。なお、以下の説明において、上記各色のトナーを使用する部材には添え字としてY、M、C、Kを付するものの、各部材の構成や動作は使用するトナーの色が異なることを除いて実質的に同じであるため、区別を要する場合以外は添え字を適宜省略する。
【0012】
図1は、画像形成装置Aの断面概略図である。
図1に示す様に、画像形成装置Aは、シートSに画像を形成する画像形成部100を備える。画像形成部100は、プロセスカートリッジ4(4Y、4M、4C、4K)、レーザスキャナユニット9、一次転写ローラ17(17Y、17M、17C、17K)、中間転写ベルト11、二次転写ローラ14、二次転写対向ローラ20を備える。
【0013】
各々のプロセスカートリッジ4は、画像形成装置Aに対してそれぞれ着脱可能に構成されている。各々のプロセスカートリッジ4は、感光ドラム5(5Y、5M、5C、5K)、帯電ローラ6(6Y、6M、6C、6K)、現像スリーブ7(7Y、7M、7C、7K)をそれぞれ備える。
【0014】
次に、画像形成動作について説明する。まず不図示の制御部が画像形成ジョブ信号を受信すると、シートカセット2に積載収納されたシートSが、給送ローラ3、搬送ローラ8によってレジストレーションローラ10に搬送される。また手差しトレイ50からシートSを給送する場合、手差しトレイ50に積載されたシートSが給送ローラ51、搬送ローラ52、搬送ローラ8によってレジストレーションローラ10に搬送される。
【0015】
ここでシートSがレジストレーションローラ10に搬送される時、レジストレーションローラ10は停止している。この状態で搬送ローラ8によってレジストレーションローラ10のニップ部にシートSが押し込まれることで、シートSの先端が揃うように補正される。レジストレーションローラ10は、所定のタイミングで回転し、二次転写ローラ14と二次転写対向ローラ20から形成される二次転写部にシートSを搬送する。
【0016】
一方、画像形成部100においては、まず帯電ローラ6Yによって感光ドラム5Yの表面が帯電させられる。その後、不図示の外部機器から入力された画像データに応じてレーザスキャナユニット9が感光ドラム5Yの表面にレーザ光を照射する。これにより感光ドラム5Yの表面に画像データに応じた静電潜像が形成される。
【0017】
次に、現像スリーブ7Yにより、感光ドラム5Yの表面に形成された静電潜像にイエローのトナーを付着させ、感光ドラム5Yの表面にイエローのトナー像を形成する。感光ドラム5Yの表面に形成されたトナー像は、一次転写ローラ17Yにバイアスが印加されることで中間転写ベルト11に一次転写される。
【0018】
同様のプロセスにより、感光ドラム5M、5C、5Kにも、マゼンダ、シアン、ブラックのトナー像が形成される。そして一次転写ローラ17M、17C、17Kにバイアスが印加されることで、これらのトナー像が中間転写ベルト11上のイエローのトナー像に対して重畳的に転写される。これにより中間転写ベルト11の表面にフルカラーのトナー像が形成される。
【0019】
中間転写ベルト11は、二次転写対向ローラ20の回転に従動して周回移動する。フルカラーのトナー像を担持した中間転写ベルト11が移動すると、トナー像が二次転写部に送られる。そして二次転写部において、二次転写ローラ14にバイアスが印加されることで、中間転写ベルト11上のトナー像がシートSに転写される。
【0020】
次に、トナー像が転写されたシートSは、定着装置15に搬送され、定着装置15において加熱、加圧処理が施され、これによりシートS上のトナー像がシートSに定着される。その後、トナー像が定着されたシートSは、排出ローラ16によって排出部21に排出される。
【0021】
<トレイ給送部>
次に、シート給送装置として、手差しトレイ50に積載されたシートSを給送するトレイ給送部1の構成について説明する。
【0022】
図2は、トレイ給送部1の全体を示す斜視図である。
図3は、トレイ給送部1の斜視概略図である。
図4は、トレイ給送部1を
図3に示すG-G断面で切断した断面概略図である。
図5は、トレイ給送部1の側面概略図である。
【0023】
図2に示す様に、トレイ給送部1は、シートSを積載するトレイ部1aと、トレイ部1aに積載されたシートSを給送する給送部1bから構成されている。トレイ部1aには、シートSを積載する手差しトレイ50(積載部)と、手差しトレイ50に積載されたシートSの幅方向の端部の位置を規制する規制板55が設けられている。規制板55は、手差しトレイ50に対してシートSの幅方向にスライド移動可能であり、様々なサイズのシートSの端部の位置を規制することができる。
【0024】
また規制板55において、シートSの端部の位置を規制する面には、トレイ給送部1から給送可能なシートSの高さを示すライン55a、即ち手差しトレイ50に最大量のシートSが積載されている時のシートSの上面の位置を示すライン55aが設けられている。本実施形態において、シートSの高さを示すライン55aは、手差しトレイ50の上面から上方に約11mmの位置に設けられている。
【0025】
図3、
図4に示す様に、トレイ給送部1は、手差しトレイ50に積載されたシートSに当接し、シートSを給送する給送ローラ51と、給送ローラ51によって給送されたシートSを搬送する搬送ローラ52を有する。またトレイ給送部1は、搬送ローラ52に圧接して分離ニップ部を形成し、分離ニップ部において重送されたシートSを一枚ずつに分離する分離ローラ53を有する。
【0026】
給送ローラ51は、昇降プレート56(支持部材)によって支持された給送ローラ軸51aに回転可能に支持されている。つまり昇降プレート56は、給送ローラ軸51aを介して給送ローラ51を支持する。昇降プレート56は、搬送ローラ52の回転軸である搬送ローラ軸52aに対して回動可能に支持されている。
【0027】
また搬送ローラ軸52aの一端部には、搬送ギア82が設けられている。
図5に示す様に、搬送ギア82の中心には、ワンウェイクラッチ87が圧入されている。ワンウェイクラッチ87は、不図示のモータの駆動力によって搬送ギア82が
図5に示すR1方向に回転するときに搬送ローラ軸52aへ駆動力を伝達し、
図5に示すR2方向に回転するときに搬送ローラ軸52aへ駆動力を伝達せずに空転する。
【0028】
搬送ローラ軸52aが回転すると、不図示のカップリング部材によって搬送ローラ軸52aと回転が同期された搬送ローラ52が回転する。また搬送ローラ軸52aが回転すると、駆動列116を介してモータの駆動力が給送ローラ軸51aに伝達されて給送ローラ軸51aが回転する。給送ローラ軸51aが回転すると、不図示のカップリング部材によって給送ローラ軸51aと回転が同期された給送ローラ51が回転する。
【0029】
また搬送ローラ軸52aを回転可能に支持する不図示のフレームと昇降プレート56との間には、昇降プレート56を矢印K方向に付勢するバネ41(付勢部材)が取り付けられている。本実施形態では、バネ41は圧縮コイルバネであるものの、ねじりコイルバネ等の他のバネを用いる構成としてもよい。
【0030】
昇降プレート56が回動すると、昇降プレート56に支持された給送ローラ51は、手差しトレイ50に積載されたシートSに当接する当接位置と、シートSから離間した待機位置との間を移動する。昇降プレート56は、カム部材80によって解除リンク81を介して回動が制御される。
【0031】
カム軸80aの回転軸であるカム軸80aの一端部には、搬送ギア82と噛み合うカムギア83が取り付けられており、搬送ギア82の回転に伴ってカムギア83が回転する。
図5に示す様に、カムギア83の中心には、ワンウェイクラッチ88が圧入されている。ワンウェイクラッチ88は、カムギア83が
図5に示すR3方向に回転するときにカム軸80aへ駆動力を伝達し、
図5に示すR4方向に回転するときにカム軸80aへ駆動力を伝達せずに空転する。カム軸80aが回転すると、不図示のカップリング部材によってカム軸80aと回転が同期されたカム部材80が回転する。
【0032】
分離ローラ53は、分離ローラ軸53aに回転可能に支持されている。分離ローラ軸53aは、分離ホルダ57に対して回転が規制された状態で保持されている。また分離ローラ軸53aには、トルクリミッタ54が取り付けられており、分離ローラ軸53aとトルクリミッタ54は不図示のカップリング部材によって回転が同期されている。
【0033】
また分離ホルダ57は、不図示のフレームに対して回動可能に支持されている。分離ホルダ57と不図示のフレームとの間には、分離ホルダ57を付勢するバネ85が設けられている。このバネ85の付勢力により、分離ローラ53が搬送ローラ52に圧接し、分離ニップ部が形成される。
【0034】
<待機位置>
次に、給送ローラ51が待機位置に位置する場合に各部材に作用する力について説明する。ここで待機位置は、画像形成装置Aがトレイ給送部1からシートSの給送を行うジョブを受信していない場合に給送ローラ51が待機する位置であり、給送ローラ51がシートSから離間した位置である。なお、給送ローラ51が待機位置に位置するとき、搬送ギア82やカムギア83を回転させる不図示のモータは停止している。
【0035】
図6は、給送ローラ51が待機位置に位置する場合に、
図4に示す領域Eにおいて各部材に作用する力を示した模式図である。
図6に示す様に、バネ41によって昇降プレート56が矢印K方向(
図5)に付勢されると、昇降プレート56は搬送ローラ軸52aを中心として矢印R5方向に回動し、昇降プレート56の当接部56xが解除リンク81側に移動し解除リンク81に当接する。即ちバネ41は、昇降プレート56を矢印R5方向に回動させる力が作用するように昇降プレート56を付勢する。
【0036】
昇降プレート56の当接部56xが解除リンク81に当接すると、昇降プレート56の当接部56xは解除リンク81を力F1で押圧する。これにより解除リンク81の回動軸である解除リンク軸81aを中心とした矢印R6方向のモーメントが発生する。解除リンク81は、このモーメントの作用により、カム部材80のポイントP1を力F2で押圧する。ここで力F2は、カム軸80aの中心を向いている。従って、カム部材80を回転させるモーメントは発生せずにカム部材80は停止する。
【0037】
<給送動作>
次に、トレイ給送部1において手差しトレイ50に積載されたシートSを給送ローラ51によって給送する給送動作について説明する。給送動作は、不図示のシートセンサによって手差しトレイ50上でシートSが検出された状態で不図示の制御部にジョブが入力されると開始される。
【0038】
給送動作が開始されると、まず不図示のモータが駆動し、この駆動力によって搬送ギア82が
図5に示す矢印R2方向に回転し、搬送ギア82と噛み合うカムギア83が
図5に示すR3方向に回転する。なお、給送動作において、不図示のモータは一定の回転速度で駆動される。
【0039】
上述の通り、搬送ギア82が矢印R2方向に回転する場合、ワンウェイクラッチ87の作用によって搬送ローラ軸52aには駆動力が伝達されずに搬送ギア82は空転する。一方、カムギア83がR3方向に回転する場合、ワンウェイクラッチ88の作用によってカム軸80aに駆動力が伝達される。このため、カム軸80aが回転し、カム軸80aに支持されているカム部材80も矢印R3方向に回転する。
【0040】
図7は、
図4に示す領域Eの拡大図であり、給送動作が開始されてカム部材80が矢印R3方向に回転した直後の状態を示す図である。
図7に示す様に、カム部材80が矢印R3方向に回転することで、解除リンク81とカム部材80との当接部が、ポイントP1からポイントP2に移行し、カム部材80の表面形状に沿って解除リンク81が解除リンク軸81aを中心に矢印R6方向へ回動する。
【0041】
解除リンク81が矢印R6方向へと回動すると、昇降プレート56はバネ41の付勢力により、解除リンク81の矢印R6方向への回動に追従して矢印R5方向に回動する。このように昇降プレート56が矢印R5方向に回動することにより、給送ローラ51は下降を開始する(
図4参照)。
【0042】
図8は、カム部材80が
図7に示す状態から矢印R3方向に更に回転した状態を示す図である。
図8に示す様に、カム部材80が更に矢印R3方向に回転すると、解除リンク81も更に矢印R6方向へ回動し、昇降プレート56も更に矢印R5方向へ回動し、給送ローラ51が更に下降する。これにより給送ローラ51は、手差しトレイ50に積載されたシートSに当接する。
【0043】
給送ローラ51がシートSに当接すると、シートSによって昇降プレート56の回動が規制されて回動が停止する。一方、カム部材80は回転しているため、カム部材80の回転に伴って解除リンク81が矢印R6方向に回動し、昇降プレート56の当接部56xから解除リンク81が離間する。
【0044】
次に、不図示のセンサによって給送ローラ51が手差しトレイ50に積載されたシートSに当接したことが検出されると、制御部(不図示)がモータ(不図示)の駆動を停止させ、カム部材80の回転は停止する。その後、制御部(不図示)は、モータ(不図示)を逆転させる。
【0045】
これにより搬送ギア82が
図5に示す矢印R1方向に回転し、ワンウェイクラッチ87の作用によって搬送ローラ軸52aに駆動力が伝達されて、搬送ローラ軸52aとともに搬送ローラ52と給送ローラ51が回転する。このようにして給送ローラ51によりシートSの給送が行われる。なお、給送ローラ51によりシートSを給送している間、カムギア83は
図5に示す矢印R4方向に回転するため、ワンウェイクラッチ88の作用によってカム軸80aにはモータの駆動力が伝達されずにカム部材80は停止する。
【0046】
また給送ローラ51が手差しトレイ50に積載されたシートSに当接している時、バネ41の付勢力は、給送ローラ51をシートSに押し付ける力として作用する。このように給送ローラ51をシートSに押し付けることにより、給送動作を安定させることができる。
【0047】
また
図9に示す様に、手差しトレイ50上のシートSが全て給送され、手差しトレイ50上にシートSがない場合、給送ローラ51は手差しトレイ50に当接する。この場合においても、昇降プレート56の当接部56xは解除リンク81から離間している。
【0048】
また給送ローラ51によるシートSの給送が終了すると、不図示のモータが正転され、モータの駆動力によってカム部材80が矢印R3方向に回転する。これによりカム部材80の表面形状に沿って解除リンク81が矢印R6方向と逆の方向に回動し、解除リンク81が昇降プレート56の当接部56xと再び当接する。
【0049】
その後、カム部材80の矢印R3方向への回転に伴って解除リンク81が矢印R6方向と逆の方向に更に回動すると、解除リンク81が昇降プレート56の当接部56xを押圧し、昇降プレート56がバネ41の付勢力に抗して矢印R5方向と逆の方向に回動する。これにより給送ローラ51が上昇して待機位置に戻る。その後、給送ローラ51が待機位置に位置することが不図示のセンサにより検出されると、不図示の制御部は不図示のモータの駆動を停止させる。
【0050】
<給送ローラの移動速度>
次に、給送ローラ51がシートSを給送するために待機位置から下降する際の給送ローラ51の移動速度について説明する。
【0051】
本実施形態では、シートSを給送するために給送ローラ51を待機位置から下降させる際、カム部材80を回転させるカムギア83の回転速度は一定である。よって、カム部材80と解除リンク81が接触するカム表面部の形状によって給送ローラ51の下降速度を制御している。なお、給送ローラ51の下降速度については、カム部材80と解除リンク81のそれぞれの回動中心位置、カム部材80と解除リンク81との接触位置、給送ローラ51の加圧力など様々な因子が複合的に影響する。本実施形態においては、解除リンク81の回動する瞬間的な移動量が大きい場合に、給送ローラ51の下降速度が大きくなると考えてカム部材80と解除リンク81の接触するカム表面の形状を決定している。
【0052】
図10は、給送ローラ51が待機位置から下降する際の給送ローラ51の位置と移動速度との関係を示すグラフある。
図10に示すグラフは、手差しトレイ50にシートSが積載されていない状態で給送ローラ51を待機位置から手差しトレイ50に当接する位置まで下降させたときの給送ローラ51の移動速度を示している。
【0053】
また
図10に示すグラフの横軸は、給送ローラ51の位置を昇降プレート56の回動角度で示している。ここでいう昇降プレート56の回動角度とは、鉛直方向N(
図11)と昇降プレート56の回動中心(搬送ローラ軸52aの回転中心)と給送ローラ軸51aの回転中心との成す角度である。
【0054】
具体的には、
図11に示す様に、角度θtは、給送ローラ51が待機位置に位置する時の昇降プレート56の回動角度である。給送ローラ51が待機位置に位置する時のカム部材80と解除リンク81の位置関係は、
図12(a)に示す位置関係となっている。また
図12(b)に示すカム部材80と解除リンク81の位置関係は、後述する給送ローラ51の移動速度が最大の速度Vpに達した時のカム部材80と解除リンク81の位置関係である。
図12(b)に示すカム部材80の位置は、
図12(a)に示すカム部材80の位置から矢印R3方向に25.5度回動した位置である。
【0055】
また
図11に示す様に、角度θmは、給送ローラ51が、手差しトレイ50にシートSが最大量積載されているときにシートSに当接する満載位置に位置する時の昇降プレート56の回動角度である。給送ローラ51が満載位置に位置する時のカム部材80と解除リンク81との位置関係は、
図12(c)に示す位置関係となっている。
図12(c)に示すカム部材80の位置は、
図12(a)に示すカム部材80の位置から矢印R3方向に35.3度回動した位置である。
【0056】
また
図11に示す様に、角度θnは、給送ローラ51が、手差しトレイ50に当接するトレイ位置に位置する時の昇降プレート56の回動角度である。給送ローラ51が手差しトレイ50に当接するトレイ位置に位置する時のカム部材80と解除リンク81の位置関係は、
図12(d)に示す位置関係となっている。
図12(d)に示すカム部材80の位置は、
図12(a)に示すカム部材80の位置から矢印R3方向に54.0度回動した位置である。
【0057】
図10に示す様に、給送ローラ51が待機位置に位置する場合、給送ローラ51は停止しているため、給送ローラ51の移動速度はゼロである。給送ローラ51は、待機位置から下降を開始してから加速度α1で加速し、満載位置(第1当接位置)に到達する前の段階で最大の速度Vpとなる。給送ローラ51は、最大の速度Vpに到達後、加速度α2で減速する。その後、給送ローラ51は、満載位置に到達する直前に加速度α2から加速度α3に加速度を落とし、満載位置に速度Vmで到達する。速度Vmは、速度Vpよりも遅い速度である。
【0058】
このようにカム部材80は、給送ローラ51がシートSを給送するために待機位置から下降する際、給送ローラ51がシートSに当接し得る満載位置よりも給送ローラ51の移動方向の上流側の位置で給送ローラ51の移動速度が最大となるように昇降プレート56の回動を制御する。これにより給送ローラ51は、移動速度が最大の位置から満載位置に到達するまでの間に減速するため、給送ローラ51とシートSとの衝突音を低減することができる。また給送ローラ51がシートSと当接する可能性がない位置で給送ローラ51の移動速度を最大とすることで、衝突音を抑制しつつ、給送ローラ51をシートSに早く当接させて画像形成装置Aの生産性を向上させることができる。
【0059】
また給送ローラ51は、満載位置からトレイ位置へ到達するまでの間に加速度α3で減速しながら下降を続け、トレイ位置に速度Vnで到達する。つまり給送ローラ51の満載位置からトレイ位置まで移動する間の移動速度は、給送ローラ51の満載位置での移動速度よりも遅くなるように設定されている。このため、給送ローラ51の満載位置から手差しトレイ50にシートSが最小量積載されているときに給送ローラ51がシートSに当接する最小位置(第2当接位置)まで移動する間の移動速度も、給送ローラ51の満載位置での移動速度よりも遅くなる。
【0060】
このようにカム部材80は、給送ローラ51がシートSを給送するために待機位置から下降する際、給送ローラ51が満載位置から最小位置まで移動する間の給送ローラ51の移動速度が、給送ローラ51の満載位置での移動速度よりも遅くなるように昇降プレート56の回動を制御する。これにより給送ローラ51の移動速度は、満載位置から下降する際に更に減速するため、手差しトレイ50に積載されているシートSの量が少なく、シートSによる緩衝効果が低い場合でも、給送ローラ51とシートSとの衝突音を効果的に低減することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、不図示のモータ一定の速度で駆動させ、カム部材80の形状によって給送ローラ51が待機位置から下降する際の移動速度を制御する構成について説明した。しかしながら、モータを制御する制御部により、給送ローラ51が待機位置から下降する際の移動速度を上述した速度とするようにモータの回転速度を制御する構成としても上記同様の効果を得ることができる。
【0062】
また本実施形態では、手差しトレイ50に対して給送ローラ51が近接する構成について説明したものの、本発明はこれに限られるものではない。即ち、手差しトレイ50が給送ローラ51に近接することで給送ローラ51とシートSが当接する構成において、手差しトレイ50の移動速度を上述の給送ローラ51の移動速度と同様にすることで、上記同様の効果を得ることができる。
【0063】
また本実施形態ではシート給送装置として手差しトレイ50からシートSを給送するトレイ給送部1を例示したものの、本発明はこれに限られるものではない。即ち、画像形成装置Aの内部でシートSを積載するシートカセット2からシートSを給送する給送ローラ3に対して、上述したシート給送装置の構成を適用することで、上記同様の効果を得ることができる。
【0064】
また本実施形態では、シート給送装置を画像形成装置Aに搭載した構成について説明したものの、本発明はこれに限られるものではない。即ち、本実施形態に係るシート給送装置を、シートSの画像を読み取る画像読取部を有する画像読取装置に搭載する構成としても、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1…トレイ給送部(シート給送装置)
41…バネ(付勢部材)
50…手差しトレイ(積載部)
51…給送ローラ
56…昇降プレート(支持部材)
80…カム部材
100…画像形成部
A…画像形成装置