(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スプール型流量制御弁およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16K 11/07 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
F16K11/07 J
(21)【出願番号】P 2020205137
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-01-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】篠平 大輔
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-297243(JP,A)
【文献】特開平10-009437(JP,A)
【文献】特開2009-150556(JP,A)
【文献】特開2019-049362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356430(US,A1)
【文献】特開2019-019899(JP,A)
【文献】特開昭49-080628(JP,A)
【文献】特開2009-019684(JP,A)
【文献】特開2020-041687(JP,A)
【文献】特開2018-025233(JP,A)
【文献】特開2011-012721(JP,A)
【文献】特開平11-082767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/00 - 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、前記スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、前記弁体によって前記制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁であって、
前記スプールは、静圧気体軸受によって前記スリーブとは非接触で支持され、
前記スリーブが中立位置にあるときに、前記弁体は前記制御ポートよりも軸方向に突出し、
前記スリーブおよび前記スプールの少なくとも一方は、前記制御ポートを遮断した状態において前記供給ポートから供給される気体が前記排気ポートから排出される流量である内部リーク量に基づく寸法に形成されていることを特徴とするスプール型流量制御弁。
【請求項2】
供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、前記スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、前記弁体によって前記制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁の製造方法であって、
前記スプールは、静圧気体軸受によって前記スリーブとは非接触で支持され、
前記スリーブが中立位置にあるときに、前記弁体は前記制御ポートよりも軸方向に突出し、
前記スリーブおよび前記スプールの少なくとも一方を、前記制御ポートを遮断した状態において前記供給ポートから供給される気体が前記排気ポートから排出される流量である内部リーク量に基づく寸法に加工する工程を備えることを特徴とするスプール型流量制御弁の製造方法。
【請求項3】
前記加工する工程では、前記スリーブおよび前記スプールの少なくとも一方を、内部リーク量の最大値と最小値との差が所定の閾値以下となるように加工することを特徴とする請求項
2に記載のスプール型流量制御弁の製造方法。
【請求項4】
前記閾値は、制御ポートである連通孔の周方向の長さに基づいて決定されることを特徴とする請求項
3に記載のスプール型流量制御弁の製造方法。
【請求項5】
供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、前記スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、前記弁体によって前記制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁の製造方法であって、
前記スプールは、静圧気体軸受によって前記スリーブとは非接触で支持され、
前記スリーブが中立位置にあるときに、前記弁体は前記制御ポートよりも軸方向に突出し、
前記制御ポートを遮断した状態において前記供給ポートから供給される気体が前記排気ポートから排出される流量である内部リーク量の最大値と最小値との差が所定の閾値以下であるか否かを検査する工程を備えることを特徴とするスプール型流量制御弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプール型流量制御弁およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体圧アクチュエータなどといった制御対象に供給する気体の流量を制御するスプール型流量制御弁が知られている。特許文献1には、静圧空気軸受を介して非接触でスプールがスリーブに支持されるスプール型流量制御弁が開示される。このスプール型流量制御弁によれば、スリーブとスプールとの間に摺動摩擦が生じないため、高精度にスプールを位置決めでき、したがって制御対象に供給する気体の流量を高精度に制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプール型流量制御弁は、スプールが動作することにより、供給ポートから制御ポート(ひいては制御対象)に気体を供給し、また、制御ポート(ひいては制御対象)から排気ポートに気体を排出する。スプール型流量制御弁は、制御ポートの流量がゼロの付近では、スプールの弁体と制御ポートの開口部との隙間の関係で、流量特性の非線形性が生じる。この非線形性は、制御ポートに接続される制御対象の制御性を悪化させる。
【0005】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、制御対象の制御性を向上できるスプール型流量制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のスプール型流量制御弁は、供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、弁体によって制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁であって、制御ポートを遮断した状態において供給ポートから供給される気体が排気ポートから排出される流量である内部リーク量の最大値と最小値との差が所定の閾値以下である。
【0007】
本発明の別の態様もまた、スプール型流量制御弁である。このスプール型流量制御弁は、供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、弁体によって制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁であって、スリーブおよびスプールの少なくとも一方は、制御ポートを遮断した状態において供給ポートから供給される気体が排気ポートから排出される流量である内部リーク量に基づく寸法に形成されている。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、スプール型流量制御弁の製造方法である。この方法は、供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、弁体によって制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁の製造方法であって、スリーブおよびスプールの少なくとも一方を、制御ポートを遮断した状態において供給ポートから供給される気体が排気ポートから排出される流量である内部リーク量に基づく寸法に加工する工程を備える。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、スプール型流量制御弁の製造方法である。この方法は、供給ポート、制御ポートおよび排気ポートが形成されるスリーブと、スリーブ内を軸方向に移動可能に収容される、弁体を有するスプールと、を備え、弁体によって制御ポートの開口面積を制御し、流量を制御するスプール型流量制御弁の製造方法であって、制御ポートを遮断した状態において供給ポートから供給される気体が排気ポートから排出される流量である内部リーク量の最大値と最小値との差が所定の閾値以下であるか否かを検査する工程を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のある態様によれば、制御対象の制御性を向上できるスプール型流量制御弁を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るスプール型流量制御弁を概略的に示す図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、
図1のスプール型流量制御弁の動作を説明する図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、スプール型流量制御弁の流量特性を説明する図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、参考例に係るスプール型流量制御弁の弁体および制御ポートとそれらの周辺を示す断面図である。
【
図5】
図1のスプール型流量制御弁についての内部リーク量の測定結果を示す図である。
【
図6】
図1のスプール型流量制御弁についての流量特性の測定結果を示す図である。
【
図7】
図1のスプール型流量制御弁を製造する工程を示す模式的な製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して示す。
【0014】
図1は、実施の形態に係るスプール型流量制御弁(サーボ弁)100を概略的に示す図である。スプール型流量制御弁100は、制御対象に供給する気体の流量を制御する流量制御弁である。スプール型流量制御弁100の制御対象は、特に限定しないが例えばエアアクチュエータであり、この場合、スプール型流量制御弁100は、エアアクチュエータに供給する気体すなわち空気の流量を制御する。
【0015】
スプール型流量制御弁100は、円筒状のスリーブ104と、スリーブ104に収容されるスプール106と、スリーブ104の一端側に設けられ、スプール106がスリーブ104内を移動するよう駆動するアクチュエータ108と、スリーブ104の他端側に設けられ、スプール106の位置を検出する位置検出部110と、スリーブ104の他端側に接続され、位置検出部110を収容するカバー114と、を備える。
【0016】
以下では、スリーブ104の中心軸に平行な方向を軸方向とよぶ。また、スリーブ104に対してアクチュエータ108が設けられる側を左側、スリーブ104に対して位置検出部110が設けられる側を右側として説明する。
【0017】
スプール106は、第1支持部118と、第2支持部122と、弁体120と、第1連結軸124と、第2連結軸126と、駆動軸128と、を含む。第1支持部118、弁体120、第2支持部122は、いずれも円柱状であり、左側から軸方向にこの順で並ぶ。第1連結軸124は、軸方向に延在し、第1支持部118と弁体120とを連結する。第2連結軸126は、軸方向に延在し、弁体120と第2支持部122とを連結する。駆動軸128は、第1支持部118から左側に向かって軸方向に突出する。
【0018】
アクチュエータ(リニア駆動部)108は、駆動軸128ひいてはスプール106を軸方向に移動させる。アクチュエータ108は、特に限定はしないが、図示の例ではボイスコイルモータである。
【0019】
スプール106の第1支持部118および第2支持部122は、静圧気体軸受によってスリーブ104から浮上した状態で、すなわちスリーブ104とは非接触で支持される。
【0020】
本実施の形態では第1支持部118の外周面には、静圧気体軸受としてのエアパッド168が設けられている。エアパッド168は、図示しない給気系から供給される圧縮気体を、第1支持部118とスリーブ104との隙間である第1隙間148に噴出する。これにより、第1隙間148に高圧の気体層が形成され、エアパッド168ひいては第1支持部118がスリーブ104から浮上する。なお、エアパッド168は、第1支持部118の外周面の代わりに、第1支持部118と対向するスリーブ104の内周面104aの部分に設けられてもよい。
【0021】
同様に、第2支持部122の外周面には、静圧気体軸受としてのエアパッド170が設けられている。エアパッド170は、図示しない給気系から供給される圧縮気体を、第2支持部122とスリーブ104との隙間である第2隙間150に噴出する。これにより、第2隙間150に高圧の気体層が形成され、エアパッド170ひいては第2支持部122がスリーブ104から浮上する。なお、エアパッド170は、第2支持部122の外周面の代わりに、第2支持部122と対向するスリーブ104の内周面104aの部分に設けられてもよい。
【0022】
なお、
図1では、第1隙間148および第2隙間150を誇張して描いている。実際には、第1隙間148および第2隙間15は、静圧気体軸受を形成するためには、数ミクロン程度であることが好ましい。
【0023】
位置検出部110は、特には限定しないが、この例ではスプール106を非接触で検出可能に構成される。位置検出部110には、例えばレーザセンサが使用される。
【0024】
カバー114は、円筒部114aと底部114bとが一体に形成された有底カップ形状を有し、その底部114bを右にして、すなわちスリーブ104の右端の開口部と開口部同士が向かい合わせになるようにして、スリーブ104の右端に接続される。
【0025】
なお、カバー114は、スリーブ104と一体に形成されてもよい。言い換えると、スプール型流量制御弁100がカバー114を備えない代わりに、スリーブ104は左端のみが開口した有底筒状に形成されてもよい。
【0026】
アクチュエータ108は、ヨーク112と、マグネット162と、コイルボビン164と、コイル166と、を含む。ヨーク112は、例えば鉄などの磁性体で構成される。ヨーク112は、円筒部112aと底部112bとが一体に形成された有底カップ形状を有し、その底部112bを左にして、すなわちスリーブ104の左端の開口部と開口部同士が向かい合わせになるようにして、スリーブ104の左端に接続される。
【0027】
ヨーク112は、底部112bから右側に向かって軸方向に突出する円柱状の凸部112cをさらに有する。マグネット162は、凸部112cを環囲するように円筒部112aの内周面に接着固定される。マグネット162は、周方向に連続していてもよく、周方向に不連続であってもすなわち間欠的に設けられてもよい。
【0028】
コイルボビン164は、マグネット162の内側に設けられる。コイルボビン164は、凸部112cを環囲するとともに、一端側が駆動軸128に接続される。コイル166は、コイルボビン164の外周に巻回される。アクチュエータ108は、コイル166への供給電流量および電流の向きに応じて、コイル166が巻回されたコイルボビン164ひいてはスプール106を軸方向のいずれかに移動させる力を発生させる。なお、マグネット162とコイル166の位置関係が逆であってもよい。すなわちマグネット162が、コイル166の内側、具体的には凸部112cの外周面に設けられてもよい。
【0029】
スリーブ104とアクチュエータ108のヨーク112との間、スリーブ104とカバー114との間は、それぞれ、Oリングやメタルシールなどのシール部材146によってシールされる。したがって、スリーブ104、ヨーク112およびカバー114の内部は、後述の複数のポートを除いて、密閉されている。
【0030】
スリーブ104には、供給ポート130、制御ポート132および排気ポート134が形成される。供給ポート130、制御ポート132、排気ポート134はそれぞれ、スリーブ104の内側と外側とを連通する連通孔であり、軸方向に直交する方向に延びる。
【0031】
供給ポート130は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して圧縮気体供給源(不図示)に接続される。制御ポート132は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して、制御対象(不図示)に接続される。制御ポート132は、径方向に見て、軸方向および周方向に平行な4辺を有する矩形状に形成される。排気ポート134は、チューブやマニホールド(いずれも不図示)を介して大気に開放される。
図1では、スプール106が中立位置にあり、弁体120により制御ポート132が塞がれている。中立位置は、弁体120の軸方向中央部と制御ポート132の軸方向中央部との軸方向位置が一致するスプール106の位置をいう。
【0032】
以上がスプール型流量制御弁100の基本構成である。続いてその動作について説明する。
図2(a)、(b)は、
図1のスプール型流量制御弁100の動作を説明する図である。
【0033】
図2(a)は、
図1の状態にあったスプール106が、アクチュエータ108に駆動されて軸方向右側に移動した状態を示す。この状態では、弁体120で塞がれていた制御ポート132が開放され、かつ、供給ポート130と制御ポート132とが連通し、圧縮気体供給源からの圧縮気体が供給ポート130、スリーブ104の内側および制御ポート132を通って制御対象に供給される。この際、位置検出部110による検出結果に基づいてスプール106の位置を制御し、弁体120によって制御ポート132の開口面積を制御することで、制御対象に供給される圧縮気体の流量を制御する。
【0034】
図2(b)は、
図1の状態にあったスプール106が、アクチュエータ108に駆動されて軸方向左側に移動した状態を示す。この状態では、弁体120で塞がれていた制御ポート132が開放され、かつ、制御ポート132と排気ポート134とが連通し、制御対象からの圧縮気体が制御ポート132、スリーブ104の内側および排気ポート134を通って大気中に排気される。この際、位置検出部110による検出結果に基づいてスプール106の位置を制御し、弁体120によって制御ポート132の開口面積を制御することで、制御対象から排気される圧縮気体の流量を制御する。
【0035】
続いて、スプール型流量制御弁100による流量の制御性を高める構成についてさらに詳細に説明する。
【0036】
図3(a)~(c)は、スプール型流量制御弁の流量特性を説明する図である。
図3(a)は、理想的な流量特性を示す。
図3(b)は、非線形性を有する流量特性を示す。流量特性の非線形性は、流量の制御性の低下を招く。
図3(c)は、中立位置付近に不感帯を有する流量特性を示す。ラップ量が大きいと、このような流量特性になる。ラップ量は、スリーブ104が中立位置にあるときに、弁体120が制御ポート132よりも軸方向に突出する長さ、言い換えると弁体120とスリーブ104とが制御ポート132の軸方向外側で重なる(オーバーラップする)長さをいう。不感帯があると、制御対象が高い応答性を実現できないため、好ましくない。
【0037】
なお、
図3(a)~(c)では、スプールの位置によらず、供給ポートから制御ポートへ、および、制御ポートから排気ポートへ、常に一定量の気体が流れている。これは、弁体がスリーブと非接触であり、したがって供給ポートと制御ポートおよび制御ポート132と排気ポート134がそれぞれ微小な隙間を介して常に連通していることに起因する。以下では、この一定量の流量をベース流量という。
【0038】
図4(a)、(b)は、参考例に係るスプール型流量制御弁200の弁体220および制御ポート232とそれらの周辺を示す断面図である。
図4(b)は、
図4(a)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【0039】
理論上、
図3(a)に示す理想的な流量特性を実現するには、少なくとも、(i)弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと外周面220cとが接続する角部220d,220eをいわゆるピン角に形成し、すなわち弁体220の中心軸を通る断面において角部220dを直角に形成し、(ii)制御ポート232の内周面側の開口部周縁232a,232bをいわゆるピン角に形成し、すなわちスリーブ204の中心軸を通る断面において開口部周縁232aを直角に形成し、(iii)
図4(a)に示すようにスプール206が中立位置にあるときに弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと制御ポート232の左右の周面232c,232dとが面一になるように弁体220および制御ポート232を形成する必要がある。
【0040】
しかしながら、現実は、加工技術の限界により、弁体220の角部220dも制御ポート132の開口部周縁232aも厳密にはピン角に形成できず、微視的には丸角となる。したがって、例えば、スプール206が中立位置にあるときに弁体220の左右の軸方向端面220a,220bと制御ポート232の左右の周面232c,232dとが面一になるように弁体220および制御ポート232を構成すると、スプール206が中立位置にあるときの弁体220の外周面220cと制御ポート132の開口部周縁232a,232bとの隙間G1が、弁体220の外周面220cとスリーブ204の内周面204aとの隙間G0よりも広くなり、その結果、参考例に係るスプール型流量制御弁の流量特性は、
図3(b)に示すような非線形性を有する流量特性になる。
図3(a)に示す理想的な流量特性に近づけるには、少なくとも、隙間G1を隙間G0に近づけるべく、不感帯が生じない程度に弁体220とスリーブ204とをオーバーラップさせる必要がある。
【0041】
このように、
図3(a)に示す理想的な流量特性を実現するのは簡単ではなく、むしろ実際には不可能であり、現実的には理想に近い流量特性、すなわち非線形である範囲が小さい流量特性を目指すことになる。
【0042】
スプール型流量制御弁の流量特性を直接測定することで、理想に近い流量特性を有するか検査したり、理想的な流量特性に近づくようにラップ量を調整したり弁体120の外周面120cとスリーブ104の内周面104aとの隙間G0を調整したりすることも考えられるが、流量特性を直接測定するのは煩雑であり、したがって流量特性を直接測定してその測定結果に基づいて検査、調整するのは現実的ではない。
【0043】
これに対し本発明者達は、鋭意検討した結果、スプール型流量制御弁100の内部リーク量と流量特性との間に相関があることに想到した。ここで「内部リーク量」は、制御ポート132を遮断した状態で、供給ポート130から供給される気体が排気ポート134から排出される流量である。
【0044】
図5は、スプール型流量制御弁100についての内部リーク量の測定結果を示す図である。
図5において、横軸はスプール106の位置であり、縦軸は内部リーク量である。
【0045】
図5に示すように、内部リーク量はスプールが中立位置付近にあるときに高くなる。この例では、内部リーク量の最大値(5.1L/min)と最小値(3.5L/min)との差は1.6L/minである。
【0046】
図6は、スプール型流量制御弁100についての流量特性の測定結果を示す図である。
図6において、横軸はスプール106の位置であり、縦軸は流量である。
【0047】
図6に示すように、流量特性は、中立位置付近に非線形性を有する。この例では、供給ポート130から制御ポート132へ供給される圧縮気体の流量特性のグラフ180と、制御ポート132から排気ポート134へ排出される圧縮気体の流量特性のグラフ182との交点Pにおける流量(2.5L/min)と、ベース流量(0.9L/min)との差は1.6L/minである。これは、
図5の内部リーク量の最大値と最小値との差(1.6L/min)と等しい。
【0048】
このように、内部リーク量の最大値と最小値との差は、交点Pにおける流量と、ベース流量との差と概ね等しくなる。内部リーク量の最大値と最小値の差が小さければ小さいほど、交点Pにおける流量も低くなり、流量特性は
図3(a)に示す理想的な流量特性に近づく。
【0049】
そこで本実施の形態では、内部リーク量の最大値と最小値の差(以下、内部リーク量差という)がゼロに近い値になるように、具体的には内部リーク量差が所定の閾値Th以下になるように、弁体120やスリーブ104(特に制御ポート132)を加工し、ひいてはラップ量や隙間G0を調整する。
【0050】
したがって、本実施の形態のスプール型流量制御弁100は、内部リーク量差が閾値Th以下となる。閾値Thは、所望の制御性に応じて決定される。なお、スプール106が中立位置あるときのラップ量が同じでも制御ポート132の周方向の長さ(幅)が異なれば、内部リーク量差は異なりうる。したがって、閾値Thは、制御ポート132の周方向の長さに基づいて決定される。
【0051】
続いて、以上のように構成されたスプール型流量制御弁100の製造方法について説明する。
【0052】
図7は、スプール型流量制御弁100を製造する工程を示す模式的な製造工程図である。スプール型流量制御弁100を製造する工程は、形成工程S102と、組立工程S104と、調整工程S106と、を含む。
【0053】
形成工程S102では、スリーブ104やスプール106などのスプール型流量制御弁100の構成部品を形成する。形成工程S102は、切削加工や鋳造加工などの公知の加工技術を使用して構成されてもよい。
【0054】
例えばスプール型流量制御弁100の試作機において内部リーク量差が閾値Thとなるラップ量ひいては弁体120の軸方向寸法、直径および制御ポート132の軸方向寸法を特定してもよい。形成工程S102では、そのように特定された寸法を有するように弁体120および制御ポート132を加工してもよい。あるいはまた、調整工程S106で調整することを前提として、多少長めの軸方向寸法を有するように弁体120を形成してもよいし、多少短めの軸方向寸法を有するように制御ポート132を形成してもよい。
【0055】
組立工程S104では、形成工程S102において形成された構成部品を使用してスプール型流量制御弁100を組み立てる。組立工程S104は、公知の組み立て技術を使用して構成されてもよい。
【0056】
調整工程S106では、内部リーク量差が閾値Th以下になるようにスプール型流量制御弁100を調整する。まず、スプール型流量制御弁100のスリーブ104の供給ポート130を圧縮気体供給源に接続し、排気ポート134を大気に開放し、制御ポート132を所定の蓋で塞ぎ、圧縮気体供源から供給ポート130に圧縮気体を供給する。この状態で、スプール106が各軸方向位置にあるときの内部リーク量を測定し、内部リーク量差が閾値Th以下であるか否か検査する。内部リーク量差が閾値Thより大きい場合、ラップ量と隙間G1を調整する。具体的には、弁体120の左右の軸方向端面120a,120b、外周面120cおよび制御ポート132の左右の周面132c,132dの少なくとも1つを削り、内部リーク量差が閾値Th以下になるように調整(加工)する。調整後は、内部リーク量差が閾値Th以下であるか否か再度検査する。そして、内部リーク量差が閾値Th以下になるまで検査と調整とを繰り返す。
【0057】
なお、上述したように、流量特性が中立位置近傍に不感帯を有すると、制御対象が高い応答性を実現できないため好ましくない。したがって、ラップ量は、不感帯を生じさせない程度の微小なラップ量とされる。つまり、スプール型流量制御弁100の流量特性は、
図3(b)に示すような流量特性を有する。この場合、供給ポート130から制御ポート132へ供給される圧縮気体の流量特性のグラフと、制御ポート132から排気ポート134へ排出される圧縮気体の流量特性のグラフとは、ベースライン流量よりも高い位置で交差する。
【0058】
以上説明した本実施の形態によれば、スプール型流量制御弁100の内部リーク量差が閾値Th以下となる。この場合、所望の制御性を有する程度にスプール型流量制御弁100の流量特性を理想の流量特性に近づけることができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、閾値Thは制御ポート132の周方向長さに基づいて決定される。これにより、制御ポート132の周方向長さに応じた、すなわち制御可能な最大流量の、最大流量の違いによらず制御性を向上できる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0061】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0062】
100 スプール型流量制御弁、 104 スリーブ、 106 スプール、 108 アクチュエータ、 120 弁体、 130 供給ポート、 132 制御ポート、 134 排気ポート、 168,170 エアパッド。