(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】転写ベルトおよび画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20241007BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G21/00 318
(21)【出願番号】P 2020213832
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 秀次
(72)【発明者】
【氏名】江川 紀章
(72)【発明者】
【氏名】豊則 祐嗣
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-191511(JP,A)
【文献】特開2010-191277(JP,A)
【文献】特開2020-071275(JP,A)
【文献】特開2019-185019(JP,A)
【文献】特開2015-125187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清掃部材および像担持体と接した状態で使用され、前記像担持体から現像剤像が転写される転写ベルトであって、
前記像担持体および前記清掃部材と接
する表層であって、導電性の金属酸化物の粒子が含まれる表層と、
前記表層と接し前記表層が積層された基層
であって、アルカリ金属塩が含まれる基層と、
を備え、
前記表層には、所定の型形状を転写することにより形成され
る溝であって、且つ、使用状態にお
ける方向であって前記転写ベルトの移動方向に沿う第1方向に延びる溝が
、前記第1方向に直交する第2方向に沿って並ぶように複数設けられており、
前記表層
の所定領域における算術平均粗さSaが0.2μm以下である、
ことを特徴とする転写ベルト。
【請求項2】
前記第2方向に隣り合う二つの溝の間において、高さが最大になる位置を山部とし、高さが最小となる位置を谷部とし、前記山部から前記谷部までの距離を溝深さとしたとき、
前記溝深さ分布において下位25%を占める溝深さの平均値が0.2μm以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の転写ベルト。
【請求項3】
前記第2方向に隣り合う二つの溝の平均間隔が10μm以下である、ことを特徴とする請求項
1に記載の転写ベルト。
【請求項4】
前記表層の厚みが、1μm以上、且つ、3μm以下である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の転写ベルト。
【請求項5】
前記導電性の金属酸化物の粒子は、アンチモン酸亜鉛である、ことを特徴とする請求項
1に記載の転写ベルト。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩は、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、もしくは、パーフルオロアルキルスルホンイミドアルカリ金属塩である、ことを特徴とする請求項
1に記載の転写ベルト。
【請求項7】
前記清掃部材と前記表層の間の摩擦係数が0.7以下である、ことを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の転写ベルト。
【請求項8】
前記表層の算術平均粗さSaが0.05μm以上である、ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の転写ベルト。
【請求項9】
厚み方向において、前記基層の、前記表層が設けられる側とは逆側には、さらに補助層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の転写ベルト。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の転写ベルトと、
前記像担持体と、
前記清掃部材と、
を備える、ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
前記清掃部材は、弾性体からなるブレードを備え、
前記ブレードは、装置本体に取り付けられる取付端と、前記転写ベルトの前記表層に当接する自由端と、を有し、
前記自由端は、前記取付端から、前記転写ベルトの移動方向の上流側に延びている、ことを特徴とする請求項1
0に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用した画像形成装置、および、画像形成装置に使用される転写ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、中間転写体として転写ベルト(無端ベルト)を用いる「中間転写方式」の画像形成装置が存在する。このような画像形成装置において、転写ベルトの表面に、感光ドラムおよびクリーニングブレードが接触して配置される。
【0003】
転写ベルトとクリーニングブレードの接触部における摩擦を軽減するために、クリーニングブレードに接触される転写ベルトの表面(外周面)に、転写ベルトの移動方向に沿って延びる複数の溝を有する構成が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
なお、特許文献1では、転写ベルトの表面にある溝は、「インプリント加工方法」によって形成されている。「インプリント加工」とは、所定の「型形状」を対象物に転写させ、型形状に対応する形状を対象物に形成する加工方法である。例えば、「凸状」の形状を有する型を対象物に押し付けて、対象物に凸状に対応する「凹状」の形状を形成することができる。
【0005】
一方、感光ドラムと転写ベルトの接触部における摩擦を軽減するために、感光ドラムに接触される転写ベルトの表面(外周面)には、所定のうねり形状を形成する構成も提案されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-191511号公報
【文献】特許第5566522号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、転写ベルトの表面のうねり形状は、インプリント方法により形成される溝の状態に影響を与える可能性がある。即ち、特許文献2のような、表面にうねり形状が形成された転写ベルトに、さらに特許文献1のようなインプリント加工方法によって溝を形成する場合、転写ベルトの表面に所望の溝(構造)が得られない可能性がある。この場合、クリーニングブレードと転写ベルトの間の摩擦が十分に軽減されず、両者が摺擦する際に「スティックスリップ現象」(ブレード鳴き現象とも言う)が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、清掃部材および像担持体の両方との間の摩擦をより確実に軽減できる転写ベルトおよび画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写ベルトは、清掃部材および像担持体と接した状態で使用され、前記像担持体から現像剤像が転写される転写ベルトであって、前記像担持体および前記清掃部材と接する表層であって、導電性の金属酸化物の粒子が含まれる表層と、前記表層と接し前記表層が積層された基層であって、アルカリ金属塩が含まれる基層と、を備え、前記表層には、所定の型形状を転写することにより形成される溝であって、且つ、使用状態における方向であって前記転写ベルトの移動方向に沿う第1方向に延びる溝が、前記第1方向に直交する第2方向に沿って並ぶように複数設けられており、前記表層の所定領域における算術平均粗さSaが0.2μm以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、清掃部材および像担持体の両方との間の摩擦をより確実に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の断面概念図
【
図2】(a)は本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの上面概念図;(b)は中間転写ベルトの側面概念図
【
図3】(a、b)は本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの拡大断面概念図
【
図4】(a、b)は本発明の実施形態に係るインプリント加工装置断面概念図;(c)はインプリント加工に用いる金型の断面概念図
【
図5】本発明の実施形態における各実施例および比較例それぞれの転写ベルトの表層の表面プロファイル形状を示す概念図
【
図6】は本発明の実施形態の変形例に係る中間転写ベルトの拡大断面概念図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(画像形成装置構成)
以下、
図1を用いて本実施形態の画像形成装置について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る画像形成装置の断面概念図である。具体的に、
図1には、画像形成装置正面からみたときの縦断面を模式的に示す。なお、以降の説明において、参照符号の末尾に付与するYMCKの文字は、トナーの色を示し、4色に共通する事項に関しては省略して記述する。
【0014】
図1に示すように、画像形成装置としては、プロセスピード210mm/s、600dpiで画像形成可能な、Legalサイズ紙対応の電子写真プロセス方式のレーザービームプリンタを用いた。
【0015】
図1に示す画像形成装置は、着脱自在なプロセスカートリッジPを備えている。これら4個のプロセスカートリッジPは同一構造である。異なる点は、プロセスカートリッジが収容しているトナーの色、すなわち、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のトナーによる画像を形成することである。
【0016】
プロセスカートリッジPは、トナー容器23を有している。そして、像担持体である感光ドラム1を有している。さらに、帯電ローラ2と、現像ローラ3と、ドラムクリーニングブレード4と、廃トナー容器24を有している。
【0017】
プロセスカートリッジPの下方には、レーザユニット7が配置され、画像信号に基づく露光を感光ドラム1に対して行う。感光ドラム1は、帯電ローラ2に所定の負極性の電圧を印加することで、所定の負極性の電位に帯電された後、レーザユニット7によってそれぞれ静電潜像が形成される。この静電潜像は現像ローラ3に所定の負極性の電圧を印加することで反転現像されて感光ドラム1上に、トナー像が形成される。
【0018】
なお、本実施形態で使用するトナーは、平均粒径5.4μmのトナー粒子に、平均粒径が20nmのシリカ微粒子を外添して構成され、負極性に帯電されている。平均粒径とは、例えばコールター法により測定できる、粒子体積から求められた平均粒子径のことである。
【0019】
図1または
図2に示すように、中間転写ベルトユニットは、中間転写体である中間転写ベルト8(転写ベルト)、駆動ローラ9、張架ローラとしてのテンションローラ10、対向ローラ28から構成されている。
【0020】
中間転写ベルト8は、樹脂材料に導電剤を添加して導電性を付与した、
図1の奥行き方向(
図2に示す方向Z2を参考)の長さ(以下長手と記述する)250mm、周長712mmの無端状ベルトである。
【0021】
中間転写ベルト8は、直径24mmで長手方向の長さ240mmの駆動ローラ9、直径24mmで長手方向の長さ250mmのテンションローラ10、直径16mmで長手方向の長さ240mmの対向ローラ28の3軸で張架される。また、中間転写ベルト8は、テンションローラ10により総圧(全圧)100Nの張力で張架されている。中間転写ベルト8の構成については、詳細を後述する。
【0022】
中間転写ベルト8の内側には、感光ドラム1に対向して、一次転写部材としての一次転写ローラ6が配設されており、不図示の電圧印加手段により転写電圧を印加する構成となっている。
【0023】
トナー検知センサである光学センサ27は、中間転写ベルトの長手方向(Z2)の中央から両側100mmの位置に各々配置している。また光学センサ27は、駆動ローラ9を対向部材として、中間転写ベルト8上に形成された、補正用トナー像である、キャリブレーションパッチを検知する構成としている。
【0024】
各感光ドラムが矢印方向に回転し、中間転写ベルト8が、不図示の中間転写ベルト駆動手段によって矢印Z方向に回転し、さらに一次転写ローラ6に正極性の電圧を印加する。これにより、感光ドラム1上に形成されたトナー像は、中間転写ベルト8上に一次転写される。感光ドラム1Y上のトナー像から順次、中間転写ベルト8上に一次転写され、4色のトナー像が重なった状態で、二次転写部材である二次転写ローラ11と対向ローラ28で形成される二次転写部(二次転写ニップ)に搬送される。
【0025】
搬送装置12は、記録材Sを収納する給紙カセット13内から記録材Sを給紙する給紙ローラ14と、給紙された記録材Sを搬送する搬送ローラ対15とを有している。そして、搬送装置12から搬送された記録材Sは、レジストローラ対16によって二次転写部に搬送される。
【0026】
中間転写ベルト8から記録材Sへトナー像を転写するために、二次転写ローラ11には正極性の電圧を印加する。これにより、搬送されている記録材Sに、中間転写ベルト8上のトナー像を二次転写することができる。トナー像が転写された記録材Sは、定着装置17に搬送され、定着フィルム18と加圧ローラ19とによって加熱、加圧されて表面にトナー像が定着される。定着された記録材Sは排紙ローラ対20によって排出される。
【0027】
トナー像が記録材Sに転写された後、感光ドラム1表面に残った一次転写残トナーは、ドラムクリーニングブレード4によって除去される。
【0028】
また、二次転写残トナーは、中間転写ベルト8が矢印Z方向に回転した後、清掃部材としてのクリーニングブレード21によって掻き取られ、廃トナー回収容器22へと回収される。クリーニングブレード21は、長手方向の長さ240mm、厚み3mmの亜鉛メッキ鋼板に、長手方向の長さ230mm、厚み2mm、JIS K 6253規格で77度のウレタンゴムブレード210(ブレード)を貼り付けたものを用いる。また、クリーニングブレード21は、中間転写ベルト8を介してテンションローラ10に対して線圧0.49N/cm、総圧(全圧)11.3N程度の加圧力で、カウンタ方向に圧接されている。
【0029】
なお、「カウンタ方向」とは、中間転写ベルト8(表面)の移動方向Zの下流側から上流側へ向かう方向である。クリーニングブレード21は、中間転写ベルト8(表面)の移動方向Zにおいて、二次転写部の下流側に配置されると共に、その自由端21bは、加圧バネ(図示なし)で装置本体100Aに取り付けられる取付端21aから、移動方向Zの上流側に延びるように配置される。
【0030】
また、クリーニングブレード21は、弾性体であればよく、ゴムブレードで構成することが好ましい。
【0031】
また、25は画像形成装置の制御を行うための電気回路が搭載された制御基板であり、制御基板25には制御部としてのCPU26が搭載されている。CPU26は、記録材Sの搬送に関る中間転写ベルト8の駆動源である中間転写ベルト駆動モータや、搬送装置12、レジストローラ対16、定着装置17の駆動源(不図示)や、プロセスカートリッジPの駆動源であるドラムモータ(不図示)を制御している。また、CPU26は、画像形成に関する各種画像信号の制御、光学センサ27の検知結果に基づいた濃度補正制御、更には故障検知に関する制御など、画像形成装置の動作も一括して制御している。
【0032】
(中間転写ベルト構成)
以下、本実施形態の特徴である中間転写ベルト8について、
図2、
図3を用い説明する。
【0033】
図2(a)は、本実施形態に係る中間転写ベルトの上面概念図であり、
図2(b)は、中間転写ベルトの側面概念図である。
【0034】
図3(a、b)は、本発明の実施形態に係る中間転写ベルトの拡大断面概念図である。即ち、
図3(a)(b)には、ベルト移動方向(Z)に略直交する第2方向(Z2)に、中間転写ベルト8を約30μmの領域で模式的に拡大した、部分断面図である。
【0035】
図2、または、
図3に示すように、中間転写ベルト8は、基層81と、基層の表面81aに積層される表層82の2層からなり、無端状のベルト部材である(
図2(b)に示す)。表層82の表面は中間転写ベルトの移動方向(Z)に沿う第1方向(Z1)に沿って複数の微細な縦溝(G)が形成されている。
【0036】
より具体的には、本実施形態では、複数の溝Gは、第1方向に沿って延びると共に、第2方向に並ぶように配置されている。また、複数の溝Gは、平行に配置されている。
【0037】
なお、本実施形態では、中間転ベルトの移動方向Zと第1方向(溝の延びる方向)とは、ほぼ同じ方向であるが、同一でなくても、移動方向Zに沿う方向であればよい。具体的に、移動方向Zに対して、所定の角度(例えば、5°以下)で交差するように、第1方向Z1(溝)を配置してもよい。また、第2方向Z2は、第1方向に対して直交する方向(溝の幅方向)である。
【0038】
また、数μmピッチの微細溝(G)形状とは別に、数十~百μm程度の周期でうねった凹凸形状を付与している。
【0039】
ベルト表面に微細溝形状を形成する手段として、本実施形態においてはインプリント加工を採用している。
【0040】
また、表層82に数十~百μm程度の周期の凹凸(うねり)形状を付与する方式として、粒子を添加する方法や、表層材料の凝集作用を利用することができる。
【0041】
本実施形態においては、基層81中のアルカリ金属イオンによる表層82中の導電性の金属酸化物の粒子(導電性金属酸化物粒子)の凝集作用を利用してうねり形状を形成した。以下に、本実施形態の中間転写ベルト構成について説明する。
【0042】
基層81は、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)およびポリエーテルエステルアミド(PEEA)に導電剤としてのイオン導電剤を添加し押し出し成型することで厚み60μm、体積抵抗1×10^10Ω・cmのシームレスなベルト形状の層を得た。本実施形態においては、PEN樹脂として帝人化成社製のTR-8550、PEEA樹脂として三洋化成工業社製のペレスタットNC6321を使用した。
【0043】
なお、本実施形態では、中間転写ベルト8の材料としてPEN、PEEA樹脂を使用したが、熱可塑性樹脂であれば、他の材料でもよい。例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、などの樹脂材料を使用することができる。また、これらの樹脂材料の混合物を使用しても良い。
【0044】
また、基層81の導電剤としてのイオン導電材料は、アルカリ金属塩を用いることができる。なお、表層82中の導電性金属酸化物粒子との凝集作用を利用する観点から、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、または、パーフルオロアルキルスルホンイミドアルカリ金属塩を用いることがより好ましい。本実施形態においては、三菱マテリアル電子化成社製のEF-N442を使用した。
【0045】
表層82は、溶剤中に、多官能性アクリルモノマー、光重合開始剤、および、導電性金属酸化物粒子を、溶解、分散した「硬化性組成物」を、基層81にディップコートする。そして、ディップコートされた層に対して紫外線照射することで、厚み(T)3μmのアクリル樹脂層(表層82)を得た。
【0046】
なお、表層82の塗布方法としては、均一な膜を形成可能であれば、他の方式でもよく、スプレーコート、フローコート、シャワーコート、ロールコート、スピンコートなどを採用しても良い。
【0047】
また、硬化方法としても、重合開始種を発生させ得るエネルギーを付与することができる活性放射線であれば、特に制限は無く、α線、γ線、X線、可視光線、電子線などを用いることができる。
【0048】
また、後述するインプリント加工による基層81の熱変形がより容易に行えるために、基層81の表面81A側にある表層82の厚み(T)を3μm以下とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態においては、多官能性アクリルモノマーとして東亜合成社製のアロニックスM-402、光重合開始剤としてBASF社製イルガキュア907を使用した。
【0050】
導電性金属酸化物粒子は、表層82に対して、適当な導電性を付与すること、及び、凝集して適当な凸形状を形成すること、を目的に添加している。また、導電性金属酸化物粒子は、溶剤中に安定して分散し、マイナスに帯電し、かつアルカリ金属イオンの吸着、配位によって、プラス側にシフトさせることを目的に、アルキルアミンで処理している。
【0051】
導電性金属酸化物粒子、2-ブタノン、トリn-ブチルアミンの混合物を、ビーズミルなどで分散処理することにより、アルキルアミン処理をすることができる。なお、基層81中のアルカリ金属イオンによる凝集作用を利用する観点から、アンチモン酸亜鉛粒子を使用することが好ましい。本実施形態においては、日産化学社製のセルナックスCX-Z400Kを使用した。
【0052】
硬化性組成物の溶剤としては、基層81中に含まれるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、または、パーフルオロアルキルスルホンイミドアルカリ金属塩を溶解可能であり、且つ、表層82に含まれる成分を安定して分散、溶解する必要がある。この観点から、2-ブタノン、または、4-メチル-2-ペンタノンを用いることが好ましい。
【0053】
なお、溶剤の蒸発速度や粘度の調整を目的として、他の溶剤を添加することが可能である。具体的には、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類、アミド類などの溶剤を使用(添加)可能である。また、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トルエン、キシレンなどの溶剤がより好ましい。
【0054】
上述した材料、プロセスで中間転写ベルトを作製した際の、導電性金属酸化物粒子の凝集作用により、凹凸形状(うねり)が形成されるメカニズムについて説明する。
【0055】
表層82の元となる硬化性組成物中において、導電性金属酸化物粒子の帯電電荷はマイナスであり、安定した分散状態を維持している。
【0056】
基層81上に硬化性組成物をディップコートした際に、基層81に存在するアルカリ金属塩が溶剤により溶解され、表層膜中のアルカリ金属イオン濃度の上昇が起こる。また、溶剤の揮発が進むと、表層膜中のアルカリ金属イオン濃度は、さらに上昇する。
【0057】
その際に、表層膜中のアルカリ金属イオンが、導電性金属酸化物粒子へ配位、吸着が起こり、導電性金属酸化物粒子のマイナス電荷が失われ、導電性金属酸化物粒子同士の凝集が発生する。この性質を利用し、コントロールすることで、所望の表面凹凸形状(うねり)を得ることができる。
【0058】
一方で、一般にウレタンゴム(クリーニングブレード)とアクリル樹脂(中間転写ベルトの表面)を摺動させると、摩擦抵抗が大きく、クリーニングブレード21のブレード鳴きや、捲れなどが起こりやすい。そこで、本実施形態においては、中間転写ベルトの表面の移動方向Z(中間転写ベルト8の搬送方向)に沿う第1方向に沿って、第2方向Z2(溝の幅方向)における平均の溝間隔が約4μmの溝Gを形成する微細溝加工を施している。なお、本実施形態において、溝間隔とは、
図3中にWで示した、隣り合う凸の起点間の距離を測定したものである。
【0059】
(インプリント加工)
次に、
図4を用いて、本実施形態の中間転写ベルトに、インプリント加工により溝Gの形成方法について説明する。
【0060】
なお、
図4(a、b)は、本実施形態に係るインプリント加工装置断面概念図である。
図4(c)は、インプリント加工に用いる金型の断面概念図である。
【0061】
具体的には、
図4(a)には、インプリント加工装置を
図4(b)に示す方向A2に沿ってみたときの状態が模式的に示されている。一方、
図4(b)には、インプリント加工装置を
図4(a)に示す方向A1に沿ってみたときの状態が模式的に示されている。
図4(c)には、方向A1に沿ってみたときの、インプリント加工に用いる金型の断面形状が模式的に示されている。
【0062】
インプリント加工に際して最初に、基層81上に表層82を形成した状態の中間転写ベルト8を、中子91(直径227mm、炭素工具鋼鋼材製)に圧入する。
【0063】
挿入した中間転写ベルト表面(表層82側)に対して、直径50mm、長さ250mmの円柱状の金型92を、所定の押圧力で圧接した。金型92の表面は、
図4(c)に表したように、円柱状の円周方向において、切削加工により「クサビ形状」の凸が設けられている。なお、クサビ形状の凸部は、円柱状の円周方向に、平行に、かつ、約4μmの等間隔(溝間の間隔に対応する)で形成されている。また、クサビ形状の凸部の底の長さ(溝のZ2方向の幅に対応する)は、約2.0μm、クサビ形状の凸部の高さがは、約2.0μm(溝Gの深さに対応する)になっている。
【0064】
金型92は、不図示のヒータにより、ポリエチレンナフタレートのガラス転移温度よりも5~15℃高い、130℃の温度に加熱されている。また、中間転写ベルトを挟んで金型92に当接した状態の中子91を、周速度264mm/sで1回転させて、金型92を従動させたのち、金型92を離間することによって、微細溝加工された中間転写ベルト8を得た。
【0065】
(評価方法)
[領域表面の算術平均粗さ(三次元粗さ)Sa]
凝集作用により得られた凹凸形状(うねり)を走査型白色干渉顕微鏡VS1550(日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0066】
図2に示すように、中間転写ベルトの周方向に所定の4位相S1~S4に対して、幅方向(Z2)において所定の2か所、計8か所(S11,S12,S21,S22,S31,S32,S41,S42)について測定を行った。そして、8か所の測定結果の平均値を、対象の中間転写ベルトの、所定領域(S)における表面の算術平均粗さSaとした。
【0067】
なお、本実施形態では、4位相S1~S4は、均等に中間転写ベルト8の周方向に設定される。また、幅方向(Z2)において、測定箇所S11,S12は中心位置に対して対称する位置に設定されている。
【0068】
具体的には、例えば、本実施形態では、
図2に示すように、S1とS2の間の中間転写ベルトの長さL1は、178mmに設定され、S11とS12の間の距離L2は、180mmに設定されている。
【0069】
また、走査型白色干渉顕微鏡VS1550の詳細な設定として、10倍の対物レンズを用い、Waveモードで、約1100×1100μmの所定領域(S)に対して測定を行った。得られた2次元高さ情報に対して、4次多項式で表面形状補正を実施し、カットオフ無しの条件において解析を行い、各視野(所定領域S)の算術平均粗さ(三次元粗さ)Saを算出した。
【0070】
(溝深さV)
中間転写ベルト8の表層82に形成された溝Gの溝深さVについては、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 VK-X250)を用いて測定した。
【0071】
図2に示すように、中間転写ベルトの周方向に所定の4位相S1~S4に対して、幅方向(Z2)において所定の2か所、計8か所S11,S12,S21,S22,S31,S32,S41,S42)について測定を行った。
【0072】
なお、レーザー顕微鏡の詳細な設定として、150倍の対物レンズを用い、約70×90μmの所定の領域に対して、24本の溝が視野内に収まる状態で測定を行った。
【0073】
得られた2次元高さ情報に対して、ラインプロファイル計測モードで溝方向(第1方向Z1)に垂直に計測線を引く。そして、隣り合う縦溝(G1、G2)の間の、高さが最高となる頂点(山部HP)と、高さが最低となる底部(谷部LP)までの高さを溝の「溝深さV」として取得する。
【0074】
縦溝G1、G2間の高さの頂点(山部HP)は、
図3(A)に示したように、溝端部両端に盛り上がり形状が形成された場合には、両端のうち高い方を頂点(山部HP)とし、溝深さVを取得する。
【0075】
また、
図3(b)に示したように、溝端部の盛り上がり形状が形成されなかった場合には、両側の平端部のうち、高い方を頂点(山部HP)とし、溝底部(谷部LP)までの高さを溝の溝深さVとして取得する。
【0076】
約70×90μm視野(所定の領域)中の全て(24本)の溝に対して溝深さV測定を行った。視野中の全ての溝のうち溝深さVが大きい上位6点(上位25%)および下位6点(下位25%)の平均を、各視野(所定の領域)の「最大溝深さVmax」および「最小溝深さVmin」として算出した。
【0077】
8か所の測定視野(所定の領域)毎の最大溝深さVmax、および、最小溝深さVminについて、各々平均を取る。そして、その平均値を、対象の中間転写ベルト8の最大溝深さVmax、および、最小溝深さVminとして算出した。また、8か所の測定視野の全ての溝深さの平均を平均溝深さとして算出した。
【0078】
(中間転写ベルトにおけるクリーニングブレードとの摩擦係数)
中間転写ベルトを、温度30℃、湿度80%の環境下にて、A4サイズのGF-C081(キヤノン社製)を使用し、印字率5%のテキスト画像を500ページ印字した。その後に、中間転写ベルトユニットのトルクを、駆動ローラ9にトルクゲージを取り付けて測定した。
【0079】
さらに、中間転写ベルトユニットからクリーニングブレードを取り外した状態で同様にトルクを測定し、クリーニングブレード有のトルク値からの差を取ることで、純粋な中間転写ベルトとクリーニングブレードの間のトルクを算出した。得られたトルク(N・cm)に対して、27.12N・cm(駆動ローラ半径1.2cm×クリーニングブレード総圧(全圧)11.3N)との商を計算することで、摩擦係数を算出した。
【0080】
(クリーニングブレードの鳴き)
クリーニングブレードとの摩擦係数の測定の後、温度30℃、湿度80%の環境下にて5分間中間転写ベルトユニットを回転し続け、ブレードの鳴きによる異音の発生有無を確認した。
【0081】
<実施(実験)例>
以下、本実施形態の各実施(実験)例および比較(実験)例を用いて、本実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態の範囲は、下記実施(実験)例に限定されるものではない。
【0082】
表1に基層81および表層82を構成する材料の配合比および、インプリント加工の押し圧、各評価の結果を示した。
【0083】
基層の配合比は、ベース樹脂となるPENとPEEAの質量の和を100とした質量比で示した。表層の配合比は、ベース樹脂となるアクリルモノマー光重合開始剤の質量の和を100とした質量比で示した。
【0084】
また、
図5は、本実施形態における各実施例および比較例それぞれの中間転写ベルトの表層の表面プロファイル形状を示す概念図である。
【0085】
具体的に、
図5には、作製した実施例1~5、比較例1~3の中間転写ベルトの表面形状を、走査型白色干渉顕微鏡VS1550で測定し、ラインプロファイル計測モードで高さ測定を実施した結果が示めされた。
【0086】
【0087】
(実施例1~3)
基層81の「アルカリ金属塩」の量、「インプリント押し圧」を一定とし、表層82の「導電性金属酸化物粒子」の入れ目を5(実施例1)、15(実施例2)、25(実施例3)質量部に増やした結果、表面のSaが増大し、摩擦係数も増大する傾向が見られた。
【0088】
なお、実施例1~3において、Saが増大した結果、最大溝深さも大きくなり、最小溝深さは小さくなる傾向が見られた。これは、「導電性金属酸化物粒子」の含有量により、表層82のうねりの凹凸(高低差)が大きくなる。このうち、「凹」となった部分には、インプリント加工(型の転写)されにくくなり、「凸」となった部分には、インプリント(型)の荷重(押圧)が集中し易くなる、と考えられる。
【0089】
また、
図5に示したように、実施例1~3において、約1100μmの領域(範囲)におけるうねりの凹凸の波形の最大の高低差が、実施例1では約0.3μm程度であったが、実施例3では0.9μm程度に拡大した。これは、金型92のクサビ(高さ2μm)が、実施例1、2、3の順に、中間転写ベルト表面(表層82)の凹部に侵入しにくくなっていた結果と考えられる。
【0090】
実施例1~3の評価結果から理解できるように、表面のSaが0.17μm(このときの最小溝深さが0.37μm)では、クリーニングブレードの鳴きは発生しにくい。
【0091】
(比較例1、2)
比較例1、2では、基層81の「アルカリ金属塩」の量、インプリント押し圧が、実施例1~3と同一の条件である。なお、表層82の「導電性金属酸化物粒子」の入れ目を35、45質量部にさらに増やした。
【0092】
「導電性金属酸化物粒子」を更に増やした結果、表面のSaはより増大し、摩擦係数も増大する傾向が見られた。
【0093】
比較例1、2において、Saが増大した結果、最大溝深さもより大きくなり、最小溝深さはより小さくなる傾向が見られた。これは、実施例1~3と同様に、「導電性金属酸化物粒子」の含有量により、表層82のうねりの凹凸が大きり、インプリントの荷重(押圧)が「凸」の部分に集中したことが原因と考えられる。
【0094】
また、
図5に示したように、比較例1、2において、約1100μmの領域(範囲)におけるうねりの凹凸の波形の最大の高低差が、比較例1では約1.3μm、比較例2では約1.7μm、それぞれさらに拡大した。これも、金型92のクサビが、中間転写ベルト表面(表層82)の凹部により侵入しにくくなったと考えられる。
【0095】
比較例1、2の評価結果から理解できるように、表面のSaが0.26μm以上(このときの最小溝深さが0.11μm以下)では、クリーニングブレードの鳴きが確認された。
【0096】
(実施例4)
実施例4では、基層81の「アルカリ金属塩」の量を比較例1に対して1質量部に減じ、インプリント押し圧、表層82の「導電性金属酸化物粒子」の入れ目を比較例1と同じ量とした。
【0097】
その結果、実施例4は、比較例1に対して表面のSaが減少し、摩擦係数も低減する傾向が見られた。
【0098】
また、実施例4において、Saが減少した結果、最大溝深さも小さくなり、最小溝深さは大きくなる傾向に転じた。
【0099】
実施例4の評価結果から理解できるように、表面のSaが0.2μm(このときの最小溝深さが0.32μm)では、クリーニングブレードの鳴きも発生しにくい。
【0100】
(比較例3)
比較例3では、実施例4に対して、基層81の「アルカリ金属塩」の量、インプリント押し圧を同一とし、表層82の「導電性金属酸化物粒子」の入れ目を比較例2と同じく45質量部とした。
【0101】
その結果、比較例3では、Saは実施例4よりは大きく、比較例2よりは小さくなる。そして、摩擦係数も、実施例4と比較例2の間の値となった。
【0102】
また、比較例3の最大溝深さ、最小溝深さも、同様に、実施例4と比較例2の間の値となった。
【0103】
比較例3の評価結果から理解できるように、表面のSaが0.27μm(このときの最小溝深さが0.1μm)では、クリーニングブレードの鳴きの発生が確認された。
【0104】
(実施例5)
実施例5では、実施例3に対して、インプリント押し圧のみを2500Nから1500Nに減じた。
【0105】
この結果、実施例5では、実施例3に対して平均溝深さ、最大溝深さ、最小溝深さは、共に小さくなった。
【0106】
実施例5の評価結果から理解できるように、表面のSaが0.17μm(このときの最小溝深さが0.2μm)では、クリーニングブレードの鳴きは発生しにくい。
【0107】
このように、本実施形態の中間転写ベルト8では、表層82の表面のSaが0.2μm以下に規定することにより、表層82にうねり形状を形成できると共に、表層82のうねりの凹部にも十分な深さの溝を形成することができる。即ち、クリーニングブレードの鳴きが発生しにくいことも確認された。
【0108】
逆に、中間転写ベルトの表面のSaが0.2μmを超えると、表面のうねりの凹部に十分な深さの溝を形成しにくくなる。この結果、中間転写ベルトの表面摩擦係数が0.7を超えやすくなり、クリーニングブレードの鳴きも発生しやすくなる。
【0109】
また、最小溝深さが0.2μm以上であれば、クリーニングブレードの鳴きはより発生しにくくなる(クリーニングブレードの鳴きをより確実に軽減できる)。逆に、最小溝深さが0.11μm以下になると、クリーニングブレードの鳴きがやや発生しやすくなる。即ち、最小溝深さを0.11μmより大きくすることができるが、0.2μm以上とすることが好ましい。
【0110】
また、本実施形態では、インプリント押し圧は、1000~3000Nの範囲が好ましく、1500-2500Nの範囲がより好ましい。
【0111】
このように、本実施形態では、中間転写ベルト表面のうねり形状を制御(規定)することにより、インプリント加工する際に、より確実に微細の溝を形成することができる。特に、溝深さVについて、溝深さ分布において下位25%を占める溝深さ(最小溝深さVmin)の平均値が0.2μm以上の微細の溝を容易に形成することができる。これにより、確実にブレードとの間の摩擦を軽減することができ、ブレード鳴きを抑制することができる。
【0112】
(変形例)
次に、
図6を用いて、本実施形態の変形例について説明する。なお、前述した各実施例と変形例の相違点のみについて説明する。
【0113】
図6は、本発明の実施形態の変形例に係る中間転写ベルトの拡大断面概念図である。
【0114】
図6に示すように、本変形例では、中間転写ベルトの基層81(第1の層)の、表層82(第2の層)とは反対側に、さらに第3の層83(補助層)を設けている。
【0115】
第3の層83として、例えば、導電剤としてのカーボンブラックを分散したアクリル樹脂を、基層81の表面81aとは「表裏関係」にある裏面81bに厚み2μm程度でコーティングすることにより構成することができる。
【0116】
このように、本実施形態では、中間転写ベルト8を、複数の層で構成することができ、3層または3層以上の構成を中間転写ベルトに備えてもよい。
【0117】
(その他)
前述した通り、インプリント加工により溝形状を中間転写ベルトに付与する場合、中間転写ベルト表面に凹凸形状(うねり)を予め制御することで、うねり形状によって溝の形成に対する影響が軽減され、所望の溝を形成することができる。
【0118】
なお、所望の溝(溝深さ)が形成されない場合、クリーニングブレードと中間転写ベルト表面の間の摩擦(係数)が十分に低減できず、ブレード鳴き(スティックスリップ)現象が顕在化になる可能性がある。本発明は、インプリント加工により、中間転写ベルトに微細の溝を形成でき、効果的に摩擦を軽減することができる。
【0119】
また、本発明の構成によれば、感光ドラムおよびクリーニングブレードと中間転写ベルトの間の摩擦を軽減でき、「ブレード鳴き」を抑制することができる。即ち、本発明は、所定の凹凸のうねり形状と、インプリント加工による微細の溝形状を持つ中間転写体を実現することができる
また、本発明の構成によれば、摩擦を軽減できる共に、高いクリーニング性能を維持することもできる。例えば、トナーのすり抜けに対応すべく当接圧をより高めた構成(もしくは「当接角度」をより大きく設定した構成)においても、摩擦軽減の効果が発揮できる。よって、高いクリーニング性を維持することと、摩擦軽減することを両立することができる。
【0120】
特に、「当接角度」を大きく設定する、もしくは、「当接圧」を高め、且つ、高温高湿度の環境においても、本発明の構成によれば、中間転写ベルトとの摩擦係数が高くなりにくく、ブレード鳴きによる騒音の発生も効果的に抑制される。
【0121】
本発明を以下のように纏めることができる。
【0122】
(1)本発明の転写ベルト(8)は、清掃部材(21)および像担持体(1)と接した状態で使用され、像担持体から現像剤像が転写されるものである。
【0123】
転写ベルト(8)は、像担持体および清掃部材と接する表層(82)と、表層よりも、像担持体および清掃部材から離れた位置に配置される基層(81)と、を備える。
【0124】
表層(82)には、所定の型形状を転写することにより形成され、且つ、使用状態において転写ベルトの移動方向(Z)に沿う第1方向(Z1)に延びる溝(G)が設けられる。
【0125】
表層の、所定領域(S)における算術平均粗さSaが0.2μm以下である。
【0126】
(2)本発明の転写ベルト(8)では、使用状態において、表層(82)には、溝(G)が第1方向(Z1)に直交する第2方向(Z2)に沿って並ぶように複数(G1、G2)に形成されてもよく、第2方向に隣り合う二つの溝(G1、G2)の間において、高さが最大になる位置を山部(HP)とし、高さが最小となる位置を谷部(LP)とし、山部から谷部までの距離を溝深さ(V)としたとき、溝深さ分布において下位25%を占める溝深さの平均値が0.2μm以上であることが好ましい。
【0127】
(3)本発明の転写ベルト(8)では、第2方向(Z2)に隣り合う二つの溝(G1、G2)の平均間隔(W)を10μm以下とすることができる。
【0128】
(4)本発明の転写ベルト(8)では、表層(82)の厚み(T)を、1μm以上、且つ、3μm以下とすることができる。
【0129】
(5)本発明の転写ベルト(8)では、表層(82)に導電性の金属酸化物の粒子が含まれるようにしてもよい。
【0130】
(6)本発明の転写ベルト(8)では、導電性の金属酸化物の粒子はアンチモン酸亜鉛であることが好ましい。
【0131】
(7)本発明の転写ベルト(8)では、表層(82)を、基層(81)に接触し基層の表面(81a)に積層することができ、基層(81)にアルカリ金属塩が含まれるようにしてもよい。
【0132】
(8)本発明の転写ベルト(8)では、アルカリ金属塩は、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、もしくは、パーフルオロアルキルスルホンイミドアルカリ金属塩であることが好ましい。
【0133】
(9)本発明の転写ベルト(8)では、清掃部材(21)と表層(82)の間の摩擦係数が0.7以下であることが好ましい。
【0134】
(10)本発明の転写ベルト(8)では、表層(82)の算術平均粗さSaが0.05μm以上であることが好ましい。
【0135】
(11)本発明の転写ベルト(8)では、基層(81)の、表層(82)が設けられる側とは逆側には、さらに補助層(83)を設けてもよい。
【0136】
(12)本発明の画像形成装置(100)は、前述した転写ベルト(8)と、像担持体(1)と、清掃部材(21)と、を備える。
【0137】
(13)本発明の画像形成装置(100)では、清掃部材(21)は、弾性体からなるブレード(210)を備えることができる。また、ブレードは、装置本体(100A)に取り付けられる取付端(21a)と、転写ベルト(8)の表層(82)に当接する自由端(21b)と、を有することができる。また、自由端(21b)は、取付端(21a)から、転写ベルト(8)の移動方向(Z)の上流側に延びているように構成してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 感光ドラム(像担持体)
8 中間転写ベルト(転写ベルト)
21 クリーニングブレード(清掃部材)
81 基層
82 表層
G、G1、G2 溝
S 所定領域
Sa 算術平均粗さ
Z 転写ベルトの移動方向
Z1 第1方向