IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光学系および画像表示装置 図1
  • 特許-光学系および画像表示装置 図2
  • 特許-光学系および画像表示装置 図3
  • 特許-光学系および画像表示装置 図4
  • 特許-光学系および画像表示装置 図5
  • 特許-光学系および画像表示装置 図6
  • 特許-光学系および画像表示装置 図7
  • 特許-光学系および画像表示装置 図8
  • 特許-光学系および画像表示装置 図9
  • 特許-光学系および画像表示装置 図10
  • 特許-光学系および画像表示装置 図11
  • 特許-光学系および画像表示装置 図12
  • 特許-光学系および画像表示装置 図13
  • 特許-光学系および画像表示装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光学系および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20241007BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20241007BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20241007BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20241007BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241007BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02C7/00
G02C7/12
G02C7/02
G02B5/30
H04N5/64 511A
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021013399
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116962
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮史
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-515903(JP,A)
【文献】特開2004-361787(JP,A)
【文献】特開平02-285304(JP,A)
【文献】特開2019-053152(JP,A)
【文献】特表2020-519964(JP,A)
【文献】特開2020-085956(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0377176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01,27/02
H04N 5/64
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示素子からの光を観察者に導く光学系であって、
前記表示素子の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第三の位相板、第一のレンズ群、半透過反射膜、第二の位相板、および反射透過偏光板を有し、
前記第一のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第一の位相板が前記光に与える位相差をΔP1、光軸近傍における前記第三の位相板が前記光に与える位相差をΔP3、光軸近傍における前記第一のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL1とするとき、
3λ/20≦ΔP1+ΔP3+ΔL1≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
画像を表示する表示素子からの光を観察者に導く光学系であって、
前記表示素子の側から順に配置された、偏光板、第四の位相板、第一の位相板、第一のレンズ群、半透過反射膜、第二の位相板、および反射透過偏光板を有し、
前記第一のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第四の位相板が前記光に与える位相差をΔP4、光軸近傍における前記第一の位相板が前記光に与える位相差をΔP1、光軸近傍における前記第一のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL1とするとき、
3λ/20≦ΔP4+ΔP1+ΔL1≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項3】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第一の位相板を透過した後に円偏光となり、前記第三の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一のレンズ群を透過した後に円偏光となることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項4】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第四の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一のレンズ群を透過した後に円偏光となることを特徴とする請求項2に記載の光学系。
【請求項5】
前記第一の位相板と前記第一のレンズ群との間に配置された第四の位相板を更に有し、
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第四の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一のレンズ群を透過した後に円偏光となることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項6】
前記第一の位相板は、λ/4板であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
画像を表示する表示素子からの光を観察者に導く光学系であって、
前記表示素子の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、半透過反射膜、第二のレンズ群、第五の位相板、第二の位相板、および反射透過偏光板を有し、
前記第二のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL2、光軸近傍における前記第五の位相板が前記光に与える位相差をΔP5、光軸近傍における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP2とするとき、
3λ/20≦ΔL2+ΔP5+ΔP2≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項8】
画像を表示する表示素子からの光を観察者に導く光学系であって、
前記表示素子の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、半透過反射膜、第二のレンズ群、第二の位相板、第六の位相板、および反射透過偏光板を有し、
前記第二のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL2、光軸近傍における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP2、光軸近傍における前記第六の位相板が前記光に与える位相差をΔP6とするとき、
3λ/20≦ΔL2+ΔP2+ΔP6≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項9】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第五の位相板を透過した後に円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項10】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第六の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項11】
前記第二の位相板と前記反射透過偏光板との間に配置された第六の位相板を更に有し、
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第六の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項12】
前記第二の位相板は、λ/4板であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項13】
前記半透過反射膜と前記第二の位相板との間に配置された第二のレンズ群と、
前記第二のレンズ群と前記第二の位相板との間に配置された第五の位相板と、を更に有し、
前記第二のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL2、光軸近傍における前記第五の位相板が前記光に与える位相差をΔP5、光軸近傍における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP2とするとき、
3λ/20≦ΔL2+ΔP5+ΔP2≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項14】
前記半透過反射膜と前記第二の位相板との間に配置された第二のレンズ群と、
前記第二の位相板と前記反射透過偏光板との間に配置された第六の位相板と、を更に有し、
前記第二のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、
前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL2、光軸近傍における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP2、光軸近傍における前記第六の位相板が前記光に与える位相差をΔP6とするとき、
3λ/20≦ΔL2+ΔP2+ΔP6≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項15】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第五の位相板を透過した後に円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項13に記載の光学系。
【請求項16】
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第六の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項14に記載の光学系。
【請求項17】
前記第二の位相板と前記反射透過偏光板との間に配置された第六の位相板を更に有し、
前記光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第二のレンズ群を透過した後に楕円偏光となり、前記第六の位相板を透過した後に直線偏光となることを特徴とする請求項13に記載の光学系。
【請求項18】
前記レンズが前記光に与える位相差をεとするとき、
λ/50<|ε|
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項19】
前記レンズの外径は、円形状の一部を欠いた形状であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項20】
周辺部における前記第一の位相板が前記光に与える位相差をΔP12、周辺部における前記第三の位相板が前記光に与える位相差をΔP32、周辺部における前記第一のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL12とするとき、
ΔP3<ΔP32
3λ/20≦ΔP12+ΔP32+ΔL12≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項21】
周辺部における前記第四の位相板が前記光に与える位相差をΔP42、周辺部における前記第一の位相板が前記光に与える位相差をΔP12、周辺部における前記第一のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL12とするとき、
ΔP4<ΔP42
3λ/20≦ΔP42+ΔP12+ΔL12≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項2に記載の光学系。
【請求項22】
周辺部における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL22、周辺部における前記第五の位相板が前記光に与える位相差をΔP52、周辺部における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP22とするとき、
ΔP5<ΔP52
3λ/20≦ΔL22+ΔP52+ΔP22≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項23】
周辺部における前記第二のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL22、周辺部における前記第二の位相板が前記光に与える位相差をΔP22、周辺部における前記第六の位相板が前記光に与える位相差をΔP62とするとき、
ΔP6<ΔP62
3λ/20≦ΔL22+ΔP22+ΔP62≦7λ/20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれか一項に記載の光学系と、画像を表示する表示素子とを有することを特徴とする画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示素子上の画像を接眼光学系を介して拡大して観察するヘッドマウントディスプレイ(HMD)等に好適な画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティ(VR)用、または一人で大画面の観察像を楽しむことなどを目的として、ヘッドマウントディスプレイの開発が進められている。ヘッドマウントディスプレイ等に用いられる画像表示装置は、自然な観察を行い臨場感を増すため、広画角の接眼光学系を有することが望まれる。また、頭部装着型の画像表示装置は、薄型かつ軽量であることが望まれる。
【0003】
従来、広画角の画像を表示するため、偏光を利用して光路を折り畳む接眼光学系が提案されている。偏光を利用した接眼光学系は、焦点距離が短くなるため、薄型と広画角とを両立することができる。しかし、偏光を利用した接眼光学系を軽量化するためにプラスチックレンズを使用すると、プラスチックレンズ内の複屈折により所望の偏光状態が得られずにゴーストや減光が発生するため、快適な観察を行うことが難しい。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、偏光を利用して光路を折り畳む接眼光学系が開示されている。特許文献1に開示された接眼光学系は、接眼光学系中の半透過型偏光板の透過軸の方向を眼の並ぶ方向に設定して輝度ムラを低減する。特許文献2に開示された接眼光学系は、曲面上の偏光素子を利用して広画角を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-053152号公報
【文献】特表2018-508800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のそれぞれに開示された接眼光学系では、複屈折により発生したゴーストを低減することができない。
【0007】
そこで本発明は、偏光を利用した広画角かつ軽量の接眼光学系のゴーストを低減する点で有利な光学系および画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての光学系は、画像を表示する表示素子からの光を観察者に導く光学系であって、前記表示素子の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第三の位相板、第一のレンズ群、半透過反射膜、第二の位相板、および反射透過偏光板を有し、前記第一のレンズ群は、樹脂材料から成るレンズを含み、前記光の波長をλ(nm)、光軸近傍における前記第一の位相板が前記光に与える位相差をΔP1、光軸近傍における前記第三の位相板が前記光に与える位相差をΔP3、光軸近傍における前記第一のレンズ群が前記光に与える位相差をΔL1とするとき、
3λ/20≦ΔP1+ΔP3+ΔL1≦7λ/20
なる条件式を満足する。
【0009】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施形態において説明される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、偏光を利用した広画角かつ軽量の接眼光学系のゴーストを低減する点で有利な画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各実施形態における画像表示装置の構成図である。
図2】各実施形態における接眼光学系の基本構成図である。
図3】直接ゴースト光路の説明図である。
図4】各実施形態における光学要素の座標系の説明図である。
図5】第一の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図6】第一の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図7】第一の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図8】第二の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図9】第二の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図10】第二の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図11】第三の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図12】第三の実施形態における接眼光学系の構成図である。
図13】各実施形態における樹脂レンズの図である。
図14】各実施形態における樹脂レンズの図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本発明の各実施形態を説明するにあたり、光の偏光状態や位相差についての記述を行うが、直線偏光、円偏光、楕円偏光、λ/4の位相差などの概念が表す状態は、一般的にある一定の範囲を持つ広い状態を意味する。このため、それらの誤差によって本発明の本質的な効果が妨げられるものではない。また、各光学素子で生じる位相差は、波長λの光に関する位相差であり、波長λとしては可視光域の任意の波長を選択することができ、例えばλ=580nmであるが、これに限定されるものではない。
【0014】
(第一の実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の第一の実施形態における画像表示装置について説明する。図1は、本実施形態における画像表示装置101の構成図である。図1において、101は画像表示装置であり、不図示の装着機構などと合わせて適宜頭部に装着して使用され得る。画像表示装置101は、頭部に装着される場合にはヘッドマウントディスプレイ(HMD)とも称される。102は観察者の右眼、103は観察者の左眼である。第二のレンズ群104および第一のレンズ群105は、右眼用接眼光学系を構成する。第二のレンズ106および第一のレンズ107は、左眼用接眼光学系を構成する。108は画像表示素子(右眼用画像表示素子)、109は画像表示素子(左眼用画像表示素子)であり、例えば有機ELディスプレイであるが、これに限定されるものではない。
【0015】
右眼用接眼光学系は、画像表示素子108に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の右眼102に導く。左眼用接眼光学系は、画像表示素子109に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の左眼103に導く。右眼用接眼光学系と左眼用接眼光学系の焦点距離F1は12mm、水平表示画角は45°、垂直表示画角は34°、対角表示画角54°であり、画像表示装置101と観察者の眼球との距離(アイレリーフ)E1は18mmである。
【0016】
次に、図2および図4を参照して、画像表示装置101の接眼光学系100の基本構成およびその光路について説明する。図2は、本実施形態における接眼光学系100の基本構成図である。本実施形態の接眼光学系100は偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、画像を表示する表示素子(画像表示素子108)からの光を観察者に導く。なお、図2は右眼用接眼光学系のみを示しているが、左眼用接眼光学系の構成は右眼用接眼光学系と同様であるため、その説明を省略する。図4は、構成部品の遅相軸および偏光透過軸などを説明するための座標系の説明図である。図4において、画像表示素子108から観察者の目に向かう方向をZ軸(+Z軸方向)、Z軸と直交する2つの方向をX軸(+X軸方向)およびY軸(+Y軸方向)とそれぞれ定義する。401は偏光板、レンズ、位相板などの光学要素であり、その遅相軸や偏光透過軸の方向を表す角度θをX軸から反時計回り(+Z軸方向から-Z軸方向を眺めた際に反時計回り)を正と定義する。
【0017】
画像表示素子108と第一のレンズ群105との間には、画像表示素子108から観察者の右眼102に向かって順に、偏光板110と第一の位相板111が配置されている。第二のレンズ群104と第一のレンズ群105との間には、半透過反射膜(半透過反射面)112が配置されている。半透過反射膜112は、金属膜または誘電体膜などにより構成され、必要に応じて、第二のレンズ群104内の光学面もしくは第一のレンズ群105内の光学面上、または単独の基材上に成膜されうる。
【0018】
第二のレンズ群104と観察者の右眼102との間には、画像表示素子108から順に、第二の位相板113と反射偏光板のPBS(反射透過偏光板)114が配置されている。第二の位相板113と反射偏光板のPBS114はそれぞれ、平面形状である。第一のレンズ群105および第二のレンズ群104の構成は光学設計により適宜選択され、それぞれ単レンズまたは複数レンズで構成される。なお本実施形態では、第一のレンズ群105と第二のレンズ群104の両方が設けられているが、本実施形態は、第一のレンズ群105または第二のレンズ群104のいずれか一方のみの構成にも適用可能である。
【0019】
まず、第一のレンズ群105および第二のレンズ群104に複屈折特性がない理想状態について説明する。偏光板110が透過する偏光方向はθ=0°方向、第一の位相板111の遅相軸はθ=+45°方向、第二の位相板113の遅相軸θ=-45°方向、PBS114が透過する偏光方向はθ=90度方向である。第一の位相板111と第二の位相板113との位相差はそれぞれλ/4である。
【0020】
このような構成の場合、画像表示素子108から出射した光は偏光板110を透過して直線偏光となり、第一の位相板111を透過して円偏光となる。この円偏光は第一のレンズ群105を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112を透過した後に第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。この直線偏光は偏光方向がPBS114で透過する偏光方向と直交しているため、PBS114で反射され再度、第二の位相板113を透過して円偏光となる。この円偏光は第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112で反射し再び第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。しかし、この直線偏光の偏光方向は前述の場合と異なり、PBS114で透過する偏光方向と一致するため、PBS114を透過して観察者の右眼102に導かれる。第一のレンズ群105および第二のレンズ群104に複屈折特性がない場合の光の偏光状態は、原理的な理想偏光状態であるといえる。
【0021】
なお、第二の位相板113の遅相軸方向がθ=+45°でPBS114の偏光特性方向をθ=0°方向という構成もあり得るが、これらの構成は適宜選択されればよいため、その詳細の説明は省略する。以上のように偏光を利用して光路を折り畳む光学系は、薄型でありながら接眼光学系の焦点距離を短くすることが可能であり、広画角な画像観察を実現することができる。
【0022】
画像表示装置101は、頭部に装着されることがあるため、軽量であることが望ましい。軽量化の手法としては、接眼光学系を構成するレンズを硝子よりも比重の小さい樹脂で製作することが考えられる。樹脂レンズは、熱可塑性樹脂を用いた成形により作成可能であり、収差補正に有利な非球面形状を実現しつつ低コストで大量生産が可能である。このため、樹脂レンズとしては、成形レンズが一般的に用いられている。
【0023】
しかし、成形レンズには成型時の残留応力等に起因した複屈折特性が残りやすく、複屈折のあるレンズを本実施形態の第一のレンズ群105や第二のレンズ群104に使用すると、光が通過した際に位相差が付与され、意図した偏光状態を維持できない。その結果、図1に示されるような正規の光路ではなく、図3に示されるようにPBS114で反射することなく観察者の眼に導かれる直接ゴースト光が発生する。図3は、直接ゴースト光の説明図である。
【0024】
また、PBS114で反射した後の正規光路においても不要な位相差が付与されてしまうことにより、最終的にPBS114で透過されるはずの光の一部が反射され、観察する際に映像が暗くなる(減光)ことがある。樹脂レンズの複屈折を低減するために、レンズ材料や成形条件、成形後アニール等による対策が知られているが、これらの手法だけで偏光を利用して光路を折り畳む光学系における直接ゴースト光や減光を十分に低減することは困難である。
【0025】
次に、図5を参照して、本実施形態における接眼光学系100aの構成について説明する。図5は、本実施形態における接眼光学系100aの構成図である。なお、特記なき部品の特性は、理想状態の構成と同じであるものとする。軽量化のため、第一のレンズ群105は、複屈折がある少なくとも1枚の樹脂レンズ(樹脂材料から成るレンズ)を有する。樹脂レンズの複屈折により付与される位相差は、λ/30であり、遅相軸方向はθ=+55°方向である。この影響を補正するため、第一の位相板111と第一のレンズ群105との間に、第三の位相板201が挿入されている。本実施形態では、第一の位相板111は理想状態と同じくλ/4板で、遅相軸方向はθ=+45°方向である。第三の位相板201は位相差がλ/30であり、遅相軸方向はθ=55+90=145°方向である。第三の位相板201を通った光は理想状態とは異なり楕円偏光となっているが、この楕円偏光は複屈折のあるレンズを含む第一のレンズ群105を通ることで円偏光となる。第三の位相板201の作用について、ジョーンズマトリックスを用いて説明する。
【0026】
位相板の特性T(Γ)は、遅相軸方向として図3のθを用いて、以下の式(1)のように表される。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、式(1)中のΓは、以下の式(2)のように定義される。
【0029】
【数2】
【0030】
式(2)において、dは位相板の厚さ(mm)、nおよびnはそれぞれ位相板の常光屈折率および異常光屈折率、λは波長(mm)である。また、回転行列は、以下の式(3)のように表される。
【0031】
【数3】
【0032】
式(1)と式(3)を用いると、任意の複屈折特性を持つ媒体のマトリックスは、以下の式(4)のように表される。
【0033】
R(-θ)T(Γ)R(θ) …(4)
ここで、第一の位相板111のマトリックスをA、第三の位相板201のマトリックスをB、第一のレンズ群105のマトリックスをCとする。このとき、偏光板110を通った光が第一のレンズ群105を通るまでに受けるマトリックスMは、以下の式(5)のように表される。
【0034】
M=CBA …(5)
直接ゴースト光のない理想状態にするには、マトリックスMがλ/4板となればよい。本実施形態では、マトリックスAがλ/4板であるため、第三の位相板201のマトリックスBは、以下の式(6)のように表される。
【0035】
B=C-1 …(6)
ここで、式(1)および式(2)を用いれば、複屈折のあるレンズを含む第一のレンズ群105の特性Cは、以下の式(7)のように表される。
【0036】
C=R(-θ)T(Γ)R(θ) …(7)
このため、第三の位相板201として適切な特性Bは、以下の式(8)であることが導かれる。
【0037】
【数4】
【0038】
すなわち、第一の位相板111がλ/4板である場合、複屈折を有する樹脂レンズと位相差量が同じで遅相軸方向が90°直交した方向の第三の位相板201により、樹脂レンズの複屈折影響はキャンセルされる。このため、理想状態と同様に、第一のレンズ群105を通った後の光は円偏光となる。
【0039】
以上の解析では、画像表示素子108からの波長λの光が第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105とで生じる位相差の和がλ/4(略λ/4)となっている。ここで、位相差の和とは、光が光学素子群に入力されてから出力されるまでの間に結果として受けた影響の総和としての位相差という意味である。ただし、本明細書中に記載の各条件式に関しては、単なる部品同士の位相差の和ではない。本実施形態において、略λ/4は、3λ/20以上かつ7λ/20以下(λ/4±λ/10)の範囲である。すなわち、画像表示素子108からの光(波長λ(nm))の光が第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105を通過する際に受ける位相差の和が、3λ/20以上かつ7λ/20以下である。換言すると、光の波長をλ(nm)、第一の位相板111が光に与える位相差をΔP1、第三の位相板201が光に与える位相差をΔP3、第一のレンズ群1-5が光に与える位相差をΔL1とするとき、以下の条件式(9)を満足する。
【0040】
3λ/20≦ΔP1+ΔP3+ΔL1≦7λ/20 …(9)
好ましくは、第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105を通過する際に受ける位相差の和は、23λ/100以上かつ27λ/100以下(λ/4±λ/50)の範囲である。より好ましくは、第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105を通過する際に受ける位相差の和は、24λ/100以上かつ26λ/100以下(λ/4±λ/100)の範囲である。好ましくは、位相差の和は、第一の位相板111の中央部(回転対称の場合は光軸近傍)において略λ/4である。また好ましくは、樹脂レンズで生じる位相差εは、例えばλ/50<|ε|、λ/100<|ε|、または、λ/200<|ε|の範囲である。
【0041】
より具体的に光の偏光状態について説明すると、画像表示素子108から出射した光は、偏光板110を透過して直線偏光となり、第一の位相板111を透過した後に円偏光となる。この円偏光は、第三の位相板201を通り楕円偏光となり、複屈折特性を有する第一のレンズ群105を通り、円偏光となる。第一のレンズ群105を通った円偏光は、半透過反射膜112を透過した後、第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。仮に、第三の位相板201がなければ、第二の位相板113を透過した光は直線偏光ではなく楕円偏光となるが、本実施形態では適切に選択された第三の位相板201の効果により理想的な直線偏光になっている。この直線偏光は、偏光方向がPBS114で透過する偏光方向と直交しているため、直接ゴースト光を生じることなく全ての光がPBS114で反射され、再度、第二の位相板113を透過して円偏光となる。この円偏光は、第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112で反射し再び第二のレンズ群104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。この直線偏光の偏光方向は前述と異なり、PBS114で透過する偏光方向と一致するため、PBS114を透過して観察者の右眼102に導かれる。
【0042】
以上のように、本実施形態では、第一のレンズ群105が複屈折特性を有するにも関わらず、直接ゴースト光の発生がない。また、第一の位相板111の位相特性や第一のレンズ群105の位相特性は、PBS114を反射した後の正規光路において影響しない。このため、本実施形態のように第三の位相板201が光路に存在していても、減光などの影響を及ぼすことがない。
第一の位相板111と第一のレンズ群105との間のスペースが十分ではない場合などには、第一のレンズ群105の複屈折を補償する別の配置として、図6に示されるように偏光板110と第一の位相板111との間に第四の位相板202を配置することができる。図6は、本実施形態における変形例としての接眼光学系100bの構成図である。ここで、第四の位相板202のマトリックスをD、第一の位相板111のマトリックスをA、第一のレンズ群105のマトリックスをCとする。このとき偏光板110を通った光が第一のレンズ群105を通るまでに受けるマトリックスMは、以下の式(10)のように表される。
【0043】
M=CAD …(10)
仮に第一の位相板111がλ/4板であったとすると、Mをλ/4板にするための特性Dは、以下の式(11)のように表される。
【0044】
D=A-1-1A …(11)
特性Dの必要な遅相軸方向および位相差量の例を挙げる。第一のレンズ群105の複屈折の遅相軸方向がθ=55°方向で位相差が1/30λであり、第一位相板の遅相軸方向がθ=45°方向で位相差がλ/4の場合、第四の位相板は遅相軸方向がθ=98.1°方向で位相差は1/8.2λであればよい。
【0045】
接眼光学系100bにおいて、光の波長をλ(nm)、第四の位相板202が光に与える位相差をΔP4、第一の位相板111が光に与える位相差をΔP1、第一のレンズ群105が光に与える位相差をΔL1とするとき、以下の条件式(12)を満足する。
【0046】
3λ/20≦ΔP4+ΔP1+ΔL1≦7λ/20 …(12)
さらに本実施形態における別の構成として、図7に示されるように、第三の位相板201と第四の位相板202を併用することも可能である。図7は、本実施形態における変形例としての接眼光学系100cの構成図である。これまでの本実施形態での説明と同様に、画像表示素子108からの光が第四の位相板202と第一の位相板111と第三の位相板201と複屈折を有する第一のレンズ群105とを通り半透過反射膜112に至るまでに生じる位相差の和を略λ/4にすればよい。例えば入手可能な位相板に制限がある場合、第三の位相板201だけでは位相差の和を略λ/4にすることが困難である可能性がある。このような場合でも、本実施形態のようにさらに第四の位相板を組み合わせることにより、第一のレンズ群105の複屈折を打ち消すための適切な位相差量と軸方位を調整することが可能になるため、コストなどのメリットがある。
【0047】
また、ここまで第一の位相板111をλ/4板としてきたが、レンズの複屈折特性や入手可能な位相板などの実情に合わせて、第一の位相板111の位相差特性はこれに限定されるものではない。偏光板110を通った光が複屈折を有する第一のレンズ群105を通るまでに受ける位相差の和が略λ/4になるように第三の位相板201や第四の位相板202の特性(位相差、遅相軸方向)を設定すればよい。
【0048】
なお、第三の位相板201もしくは第四の位相板202はそれぞれ複数の位相板を張り合わせる等の複合構成をとることも可能である。このような方法の利点としては、例えば入手可能な位相板に制限がある場合でも、複数の位相板を組み合わせることにより最適な位相差板を形成することができ、コストや製作期間などのメリットがある。
【0049】
また、第三の位相板201もしくは第四の位相板202は、第一の位相板111に貼り合わせることも可能である。このような構成により、位相板を配置するスペースを抑えることができ、全体的なスペースに制約がある場合でも本発明の効果を得ることが可能となる。
【0050】
樹脂レンズの複屈折特性が温度に応じて変化する場合、温度を考慮して位相差の和を設定することが好ましい。例えば、画像表示装置101が使用される際の樹脂レンズの温度範囲内において、実際に使用される頻度が高い温度において第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105とで与えられる位相差の和を略λ/4に設定する。また、第四の位相板202と第一の位相板111と第一のレンズ群105とで与えられる位相差の和、または、第四の位相板202と第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105とで与えられる位相差の和に関しても同様である。
【0051】
例えば、樹脂レンズの温度が10℃以上かつ70℃以下のいずれかの温度である場合において、位相差の和が略λ/4となるように設定される。これにより、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が発生しないため、実用上、直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。
【0052】
一般的に、レンズの複屈折はレンズの中心から周辺にかけて大きくなるため、レンズの複屈折による直接ゴースト光も中心から周辺にかけて強度が大きくなる。このため、レンズの周辺部を通過する直接ゴースト光を低減するため、第三の位相板201もしくは第四の位相板202もしくはその両方の、遅相軸方向もしくは位相差量の少なくとも一方の特性が中央部と周辺部とで異なる(面内分布を持たせる)ことが好ましい。例えば、樹脂レンズの直接ゴースト光に影響する領域の中央部の位相差がλ/100、軸方位がθ=30°方向、周辺部の位相差がλ/20、軸方位がθ=65°方向であるとする。図5に示される構成、すなわち第三の位相板201で補正する場合、第一の位相板111の位相差がλ/4であるとすると、以下のように設定すればよい。すなわち式(8)から、第三の位相板201の中央部の位相差はλ/100、軸方位がθ=120°方向、周辺部の位相差はλ/20、軸方位がθ=155°方向であればよい。第四の位相板を使用する構成、もしくは第三と第四の位相板を使用する構成においても、これまでの例と同様に、位相差の和が略λ/4となるように適切に分布を持たせればよい。
【0053】
レンズの複屈折の状態が温度や個体差などの影響で一定値と考えることが難しい場合でも十分に直接ゴースト光を抑えるため、第三の位相板201もしくは第四の位相板202もしくはその両方に位相差可変素子(位相差を変更可能な素子)を使用することができる。位相差可変素子としては、液晶材料で構成され電力供給することで任意の位相差を実現することができる素子(電圧を印加すると位相差が変化する素子)が知られているが、これに限定されるものではない。位相差可変素子を使用することで、レンズの複屈折の状態変化や製造ばらつき起因などで複屈折特性に個体差がある場合でも、付与する位相量を適切に制御することで複屈折起因の直接ゴースト光や減光を防ぐことができる。また、位相差可変素子自体に面内分布を持たせることで、レンズ複屈折の分布による影響をキャンセルすることも可能である。また、外光のゴースト光を低減して観察画像のコントラストを高めるため、PBS114と観察者の右眼102の眼球との間に偏光板を配置してもよい。
【0054】
また、一般に樹脂レンズの複屈折を低減させるには、レンズ形状は光軸に対して回転対称な円形状であることが好ましい。ただし、HMDのように頭部に装着する装置においては、軽量化が要求されること、および鼻等の顔への干渉を避けるため、図13もしくは図14に示される形状であることが好ましい場合がある。図13および図14はそれぞれ樹脂レンズの図である。図13はDカット、図14はIカットと呼ばれ、レンズ外径形状が円形状に対して一部を欠いた形状である。このような形状で樹脂レンズを成形すると複屈折が大きくなるが、その場合でも第三の位相板201や第四の位相板202を使用することでその複屈折影響をキャンセルさせることができ、小型で軽量なHMDを実現することが可能になる。
【0055】
なお本実施形態においては、画像表示素子は有機ELのように無偏光の光が放射される画像表示素子であるが、これに限定されるものではない。例えば、液晶ディスプレイのように直線偏光の光が放射されるデバイスを用いた場合、偏光板110が画像表示素子108と実質的に一体となっているため、新たに追加の偏光板を用意する必要がなくなり、薄型化とコストの低減を実現することがきる。
【0056】
(第二の実施形態)
次に、図8を参照して、本発明の第二の実施形態における接眼光学系の構成について説明する。図8は、本実施形態における接眼光学系100dの構成図である。なお、特記なき部品の特性は理想状態の構成と同じであるものとする。また、光学素子の座標表現については第一の実施形態と同様に、図4を参照して説明する。
【0057】
本実施形態では軽量化のため、第二のレンズ群104は、複屈折がある少なくとも1枚の樹脂レンズを有する。樹脂レンズの複屈折により付与される位相差は、λ/30であり、遅相軸方向はθ=+65°方向である。この影響を補正するため、第二の位相板と第二のレンズ群105との間に、第五の位相板203が挿入されている。本実施形態では、第二の位相板113は理想状態と同じくλ/4板で、遅相軸方向はθ=+45°方向である。第五の位相板203は位相差がλ/30であり、遅相軸方向はθ=65+90=155°方向である。半透過反射膜112を通った円偏光は、複屈折のあるレンズを含む第二のレンズ群105を通ることで理想状態とは異なり楕円偏光となるが、第五の位相板203を通ることで理想状態と同じく円偏光となる。第五の位相板203の作用については、第一の実施形態でのジョーンズマトリックスを用いた説明と同様である。すなわち、第五の位相板203のジョーンズマトリックスをE、第二のレンズ群105の複屈折特性を表すジョーンズマトリックスをFとすれば、第五の位相板203に必要な特性Eは、以下の式(13)を満足すればよい。
【0058】
E=F-1 …(13)
第二の位相板113がλ/4板である場合、複屈折を有する樹脂レンズと位相差量が同じで遅相軸方向が90°直交した方向の第五の位相板203により、樹脂レンズの複屈折影響はキャンセルされる。このため、理想状態と同様に、第二の位相板に到達する直前の光は円偏光となる。
【0059】
以上の解析では、画像表示素子からの波長λの光が第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板113で生じる位相差の和がλ/4(略λ/4)となっている。ここで、位相差の和とは、光が光学素子群に入力されてから出力されるまでの間に結果として受けた影響の総和としての位相差という意味である。略λ/4は、3λ/20以上かつ7λ/20以下(λ/4±λ/10)の範囲である。すなわち、画像表示素子108からの波長λ(nm)の光が第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板113を通過する際に受ける位相差の和が、3λ/20以上かつ7λ/20以下である。換言すると、光の波長をλ(nm)、第二のレンズ群104が光に与える位相差をΔL2、第五の位相板203が光に与える位相差をΔP5、第二の位相板113が光に与える位相差をΔP2とするとき、以下の条件式(14)を満足する。
【0060】
3λ/20≦ΔL2+ΔP5+ΔP2≦7λ/20 …(14)
好ましくは、第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板113を通過する際に受ける位相差の和は、23λ/100以上かつ27λ/100以下(λ/4±λ/50)の範囲である。より好ましくは、第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板113を通過する際に受ける位相差の和は、24λ/100以上かつ26λ/100以下(λ/4±λ/100)の範囲である。好ましくは、位相差の和は、第二の位相板113の中央部(回転対称の場合は光軸近傍)において略λ/4である。また好ましくは、樹脂レンズで生じる位相差εは、例えばλ/50<|ε|、λ/100<|ε|、または、λ/200<|ε|の範囲である。
【0061】
より具体的に光の偏光状態について説明すると、画像表示素子108から出射した光は、偏光板110を透過して直線偏光となり、第一の位相板111を透過した後に円偏光となる。この円偏光は、第一のレンズ群105を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112を透過した後、第二のレンズ群104を透過し、樹脂レンズの複屈折特性により楕円偏光になる。この楕円偏光は、第五の位相板203を通り円偏光となり、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。
【0062】
仮に、第五の位相板203がなければ、第二の位相板113を透過した光は直線偏光ではなく楕円偏光となるが、本実施形態では適切に選択された第五の位相板203の効果により理想的な直線偏光になっている。この直線偏光は、偏光方向がPBS114で透過する偏光方向と直交しているため、直接ゴースト光を生じることなく全ての光がPBS114で反射され、再度、第二の位相板113を透過して円偏光となる。この円偏光は、第五の位相板203を通り楕円偏光となるが、第二のレンズ群を通過し円偏光となる。この円偏光は半透過反射膜112で反射し再び第二のレンズ群104を通り楕円偏光となるが、第五の位相板203を透過して円偏光となり、第二の位相板113を通って直線偏光になる。
【0063】
仮に、第五の位相板203がなければ、第二の位相板113を透過しPBS114に向かう光は直線偏光ではなく楕円偏光となり、PBS114で一部の光が反射される、すなわち減光を生じることになる。一方、本実施形態によれば、第二の位相板113を透過した光はPBS114で透過する偏光方向との直線偏光となるため、減光を生じることなく全ての光がPBS114を透過して観察者の右眼102に導かれる。以上のように、本実施形態の接眼光学系では、第二のレンズ群104が複屈折特性を有するにも関わらず、直接ゴースト光が発生せず、複屈折特性に起因する減光が発生しない。
【0064】
第二の位相板113と第二のレンズ群104との間のスペースが十分ではない場合などには、第二のレンズ群104の複屈折を補償する別の配置として、図9に示されるようにPBS114と第二の位相板113との間に第六の位相板204を配置することができる。図9は、本実施形態における変形例としての接眼光学系100eの構成図である。
【0065】
この場合も第一の実施形態での説明と同様にジョーンズマトリックスで最適な特性を求めることができる。ここで、第二のレンズ群104のマトリックスをE、第二の位相板113のマトリックスをG、第六の位相板204のマトリックスをHとする。このとき半透過反射膜112を通った光が第二のレンズ群104と第二の位相板113と第六の位相板204を通る間に受けるマトリックスMは、以下の式(15)のように表される。
【0066】
M=HGE …(15)
仮に、第二の位相板113がλ/4板であったとすると、Mをλ/4板にするための特性Hは、以下の式(16)のように表される。
【0067】
H=GE-1-1 …(16)
特性Hに関して必要な遅相軸方向および位相差量の例を挙げる。第二のレンズ群104の複屈折の遅相軸方向がθ=55°方向で位相差が1/30λ、第二の位相板113の遅相軸方向がθ=45°方向で位相差がλ/4の場合、第六の位相板204は遅相軸方向がθ=137.11°方向で位相差は1/3.55λであればよい。
【0068】
接眼光学系100eにおいて、光の波長をλ(nm)、第二のレンズ群104が光に与える位相差をΔL2、第二の位相板113が光に与える位相差をΔP2、第六の位相板204が光に与える位相差をΔP6とするとき、以下の条件式(17)を満足する。
【0069】
3λ/20≦ΔL2+ΔP2+ΔP6≦7λ/20 …(17)
さらに別の構成として、図10に示されるように、第五の位相板203と第六の位相板204を併用することも可能である。図10は、本実施形態における変形例としての接眼光学系100fの構成図である。これまでの本実施形態での説明と同様に、半透過反射膜112を通った光が複屈折を有する第二のレンズ群104を通りPBS114に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように構成すればよい。例えば入手可能な位相板に制限がある場合、第五の位相板203だけでは位相差の和を略λ/4にすることが困難である可能性がある。しかしこの場合でも、さらに第六の位相板204を組み合わせることにより、第一のレンズ群105の複屈折を打ち消すための適切な位相差量と軸方位を調整することが可能になるため、コストなどのメリットがある。
【0070】
また、ここまで第二の位相板113がλ/4板として説明したが、これに限定されるものではない。レンズの複屈折特性や入手可能な位相板などの実情に合わせて、半透過反射膜112を通った光がPBS114に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように第五の位相板203や第六の位相板204の特性(位相差、遅相軸方向)を設定すればよい。
【0071】
なお、第五の位相板203もしくは第六の位相板204はそれぞれ複数の位相板を張り合わせる等の複合構成をとることも可能である。このような方法の利点としては、例えば入手可能な位相板に制限がある場合でも、複数の位相板を組み合わせることにより最適な位相差板を形成することができ、コストや製作期間などのメリットがある。
【0072】
また、第五の位相板203もしくは第六の位相板204は第二の位相板113に貼り合わせることも可能である。このような構成により、位相板を配置するスペースを抑えることができ、全体的なスペースに制約がある場合でも本実施形態の効果を得ることが可能となる。
【0073】
樹脂レンズの複屈折特性が温度に応じて変化する場合、温度を考慮して位相差の和を設定することが好ましい。例えば、画像表示装置101が使用される際の樹脂レンズの温度範囲内において、実際に使用される頻度が高い温度において第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板113とで与えられる位相差の和を略λ/4に設定する。また、第二のレンズ群104と第二の位相板113と第六の位相板204で与えられる位相差の和、または、第二のレンズ群104と第五の位相板203と第二の位相板と第六の位相板204で与えられる位相差の和に関しても同様である。
【0074】
例えば、樹脂レンズの温度が10℃以上かつ70℃以下のいずれかの温度である場合において、位相差の和が略λ/4となるように設定される。これにより、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が発生しないため、実用上、直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。
【0075】
一般的に、レンズの複屈折はレンズの中心から周辺にかけて大きくなるため、レンズの複屈折による直接ゴースト光も中心から周辺にかけて強度が大きくなる。このため、レンズの周辺部を通過する直接ゴースト光を低減するため、第五の位相板203もしくは第六の位相板204もしくはその両方の、遅相軸方向もしくは位相差量の少なくとも一方の特性が中央部と周辺部とで異なる(面内分布を持たせる)ことが好ましい。例えば、樹脂レンズの直接ゴースト光に影響する領域の中央部の位相差がλ/100、軸方位がθ=30°方向、周辺部の位相差がλ/20、軸方位がθ=65°方向であるとする。図8に示す構成すなわち第五の位相板203で補正する場合、第二の位相板113がλ/4板であるならば、第五の位相板203の中央部の位相差はλ/100、軸方位がθ=120°方向、周辺部の位相差はλ/20、軸方位がθ=155°方向であればよい。第六の位相板204を使用する構成、もしくは第五の位相板203と第六の位相板204を使用する構成においても、これまでに示した例と同様、位相差の和が略λ/4となるように適切に分布を持たせればよい。
【0076】
レンズの複屈折の状態が温度や個体差などの影響で一定値と考えることが難しい場合でも十分に直接ゴースト光を抑えるため、第五の位相板203もしくは第六の位相板204もしくはその両方に位相差可変素子を使用することができる。位相差可変素子としては、液晶材料で構成され電力供給することで任意の位相差を実現することができる素子(電圧を印加すると位相差が変化する素子)が知られているが、これに限定されるものではない。位相差可変素子を使用することで、レンズの複屈折の状態変化や製造ばらつき起因などで複屈折特性に個体差がある場合でも、付与する位相量を適切に制御することで複屈折起因の直接ゴースト光や減光を防ぐことができる。また、位相差可変素子自体に面内分布を持たせることで、レンズ複屈折の分布による影響をキャンセルすることも可能である。また、外光のゴースト光を低減して観察画像のコントラストを高めるため、PBS114と観察者の右眼102の眼球との間に偏光板を配置してもよい。
【0077】
また、一般に樹脂レンズの複屈折を低減させるには、レンズ形状は光軸に対して回転対称な円形状であることが好ましい。ただし、HMDのように頭部に装着する装置においては、軽量化が要求されること、および鼻等の顔への干渉を避けるため、図13もしくは図14に示される形状であることが好ましい場合がある。図13はDカット、図14はIカットと呼ばれ、レンズ外径形状が円形状に対して一部を欠いた形状である。このような形状で樹脂レンズを成形すると複屈折が大きくなるが、その場合でも第五の位相板203もしくは第六の位相板204を使用することでその複屈折影響をキャンセルさせることができ、小型で軽量なHMDを実現することが可能になる。
【0078】
なお本実施形態においては、画像表示素子は有機ELのように無偏光の光が放射される画像表示素子であるが、これに限定されるものではない。例えば、液晶ディスプレイのように直線偏光の光が放射されるデバイスを用いた場合、偏光板110が画像表示素子108と実質的に一体となっているため、新たに追加の偏光板を用意する必要がなくなり、薄型化とコストの低減を実現することがきる。
【0079】
(第三の実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第三の実施形態における接眼光学系の構成を説明する。図11は、本実施形態における接眼光学系100gの構成図である。なお本実施形態において、画像表示装置の構成は、図1を参照して説明した第一の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0080】
本実施形態では、偏光板110が透過する偏光方向はθ=0°方向、第一の位相板111の遅相軸はθ=+45°方向、第二の位相板113の遅相軸θ=-45°方向、PBS114が透過する偏光方向はθ=90度方向である。第一と第二の位相板の位相差はそれぞれλ/4である。
【0081】
本実施形態では、軽量化のため、第一のレンズ群105および第二のレンズ群104のそれぞれに複屈折特性がある樹脂レンズを使用している。第一のレンズ群105に使用する樹脂レンズの複屈折により付与される位相差はλ/20、軸方位はθ=155°方向であり、第二のレンズ群104に使用する樹脂レンズの複屈折により付与される位相差はλ/40、軸方位はθ=15°方向である。これら樹脂レンズの複屈折の影響を考慮し、第一の位相板111と第一のレンズ群105との間に第三の位相板201が、第二のレンズ群104と第二の位相板113との間に第五の位相板203がそれぞれ挿入されている。本実施形態では、第三の位相板201の位相差はλ/20、軸方位はθ=155+90=245°方向であり、第五の位相板203の位相差はλ/40、軸方位は15+90=105°方向である。本実施形態の構成により、第一のレンズ群105および第二のレンズ群104が複屈折特性を有するレンズであった場合でも、画像表示素子を発した光は理想状態となる。
【0082】
すなわち、画像表示素子からの波長λの光が第一の位相板111と第三の位相板201と第一のレンズ群105で生じる位相差の和がλ/4となっている。このため、画像表示素子からの波長λの光が第二の位相板113と第二のレンズ群104で生じる位相差と第五の位相板203で生じる位相差の和は、λ/4(略λ/4)である。第三の位相板201および第五の位相板203の作用については、第一の実施形態および第二の実施形態と同様である。略λ/4の範囲および光路における偏光状態についても、第一の実施形態および第二の実施形態と同様である。換言すると、接眼光学系100gは、条件式(14)を満足する。
【0083】
また、第一の実施形態および第二の実施形態と同様に、さらに第四の位相板202および第六の位相板204を使用した図12に示される構成を採用してもよい。図12は、本実施形態における変形例としての接眼光学系100hの構成図である。これまでの実施形態と同様に、接眼光学系は、以下の2つの特徴を有していればよい。第一に、偏光板110を通った光が複屈折を有する第一のレンズ群105を通り半透過反射膜112に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように構成されている。第二に、半透過反射膜112を通った光が複屈折を有する第二のレンズ群104を通りPBS114に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように構成されている。また、第三の位相板201、第四の位相板202、第五の位相板203、第六の位相板204はそれぞれ複数の位相板を組み合わせて構成することも可能である。
【0084】
また、第一の位相板111および第二の位相板113はλ/4板に限定されるものではなく、次の2つの特徴を有していればよい。第一に、偏光板110を通った光が複屈折を有する第一のレンズ群105を通り半透過反射膜112に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように構成される。第二に、半透過反射膜112を通った光が複屈折を有する第二のレンズ群104を通りPBS114に至るまでに生じる位相差の和が略λ/4になるように構成される。
【0085】
樹脂レンズの複屈折特性が温度に応じて変化する場合、温度を考慮して位相差の和を設定することが好ましい。例えば、樹脂レンズの温度が10℃以上かつ70℃以下のいずれかの温度である場合において、位相差の和が略λ/4となるように設定される。これにより、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が発生しないため、実用上、直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。
【0086】
また第一および第二の実施形態と同様に、第三の位相板201、第四の位相板202、第五の位相板203、第六の位相板204はそれぞれ遅相軸方向もしくは位相差量の少なくとも一方の特性が中央部と周辺部とで異なる(面内分布を持たせる)構成であればよい。これにより、レンズ複屈折特性の分布を補償することが可能である。
【0087】
レンズの複屈折状態が温度や個体差などの影響で一定値と考えることが難しい場合でも十分に直接ゴースト光を抑えるため、第三の位相板201、第四の位相板202、第五の位相板203、第六の位相板204の少なくとも一つに位相差可変素子を使用可能である。
【0088】
また、一般に樹脂レンズの複屈折を低減させるには、レンズ形状は光軸に対して回転対称な円形状であることが好ましい。ただし、HMDのように頭部に装着する装置においては、軽量化が要求されること、および鼻等の顔への干渉を避けるため、図13もしくは図14に示される形状であることが好ましい場合がある。図13はDカット、図14はIカットと呼ばれ、レンズ外径形状が円形状に対して一部を欠いた形状である。このような形状で樹脂レンズを成形すると、複屈折が大きくなる。しかしこの場合でも、第三の位相板201、第四の位相板202、第五の位相板203、第六の位相板204の少なくとも一つを使用することで、複屈折の影響をキャンセルさせることができ、小型で軽量なHMDを実現可能である。
【0089】
各実施形態によれば、偏光を利用した広画角かつ軽量の接眼光学系のゴーストを低減する点で有利な光学系および画像表示装置を提供することができる。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0091】
100 接眼光学系
101 画像表示装置
105 第一のレンズ群
108 画像表示素子
110 偏光板
111 第一の位相板
112 半透過反射膜
113 第二の位相板
114 PBS(反射透過偏光板)
201 第三の位相板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14