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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
H01H33/664 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021020783
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123456
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坊 昂
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 芳充
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高根 直也
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-233145(JP,A)
【文献】特開2019-204619(JP,A)
【文献】特開2005-285430(JP,A)
【文献】特開平09-190744(JP,A)
【文献】特開2020-068121(JP,A)
【文献】特開2006-019193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/06 - 1/66
H01H 33/60 - 33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極表面を対向させて配置され、互いに離接可能な一対の電極を有する真空バルブであって、
一対の前記電極の前記電極表面にそれぞれ設けられ、前記電極相互間のアークによって前記電極表面に生じた高温の溶融物が流動して電極外縁に達するのを抑制する溶融物流動抑制手段と、
一対の前記電極の前記電極表面にそれぞれ設けられ、アークの発生位置を制御するアーク発生位置制御手段と、を具備し、
前記溶融物流動抑制手段は、前記電極表面の周辺であって且つ前記電極外縁の内側において、周方向に連続して構成されていると共に、
前記アーク発生位置制御手段は、前記溶融物流動抑制手段の内側に設けられ、前記電極表面を越えて突出した輪郭形状を成して構成され、且つ、少なくとも一方の前記電極表面の中心のみで最大に突出した表面膨出構造を有し、
前記電極表面の中心は、前記真空バルブの中心を規定する1本の仮想軸線と一致している真空バルブ。
【請求項2】
前記溶融物流動抑制手段は、前記電極外縁に向かって流動する高温の溶融物を、前記電極外縁の手前で堰き止める機能を有する堰き止め構造を有している請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記堰き止め構造は、前記電極表面を一部周方向に沿って連続的に窪ませた収容機構を備え、
前記電極外縁に向かって流動した高温の溶融物は、前記収容機構に収容される請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
前記堰き止め構造は、前記収容機構に隣接して設けられた堰止機構を備え、
前記収容機構に収容された高温の溶融物は、前記堰止機構によって、その流動範囲が制限される請求項3に記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記堰き止め構造は、前記収容機構に隣接して設けられたガイド機構を備え、
前記電極外縁に向かって流動した高温の溶融物は、前記ガイド機構によって、前記収容機構に案内される請求項3に記載の真空バルブ。
【請求項6】
前記表面膨出構造は、前記電極表面から円弧状に突出した輪郭形状を成し、
円弧状の前記表面膨出構造の曲率半径は、前記電極外縁の曲率半径よりも大きく設定されている請求項に記載の真空バルブ。
【請求項7】
前記電極外縁と、前記表面膨出構造と、は別体で構成され、
前記表面膨出構造は、高温に耐えられる材料で成形され、
前記電極外縁は、高電界に耐えられる材料で成形されている請求項に記載の真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや大型施設に設けられる受配電用の開閉装置として、例えば、遮断器や断路器などの開閉器を具備したスイッチギヤが知られている。スイッチギヤには、開閉器の構成要素として真空バルブが適用されている。真空バルブの内部は、絶縁容器(真空容器)によって一定の絶縁状態に維持され、この絶縁容器の内部に一対の電極が離接可能に収容されている。この場合、一対の電極を離接操作することで、事故電流の遮断や負荷電流の開閉が行われ、スイッチギヤから電力が安定して供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-318795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、電流が流れた状態で真空バルブを開放(即ち、一対の電極を離間)させた際、電極相互間に発生したアーク放電(以下、アークと言う)によって、当該電極相互の対向面が加熱されて表面温度が上昇し、これにより、電極表面の一部が溶融した高温の溶融物(溶融金属)が電極外縁に向かって流動する場合がある。
【0005】
ここで、電極外縁は、電界強度が最も高くなる部位としての構造を有している。この場合、上記した高温の溶融物が電極外縁に達すると、電極外縁は、高温の溶融物と、電界強度の最も高くなる部位とが同一箇所に重なり合うことで、絶縁破壊し易い状態(換言すると、絶縁破壊の起点になり易い状態)となる。これにより、真空バルブの開放時における絶縁性能が低下し、その結果、電流の遮断が困難になってしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、アークにより電極表面に生じた高温の溶融物と、電界強度の高い部分とが、電極外縁の同一箇所に重なり合うことを回避する技術が適用された真空バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、電極表面を対向させて配置され、互いに離接可能な一対の電極を有する真空バルブであって、一対の電極の電極表面にそれぞれ設けられ、電極相互間のアークによって電極表面に生じた高温の溶融物が流動して電極外縁に達するのを抑制する溶融物流動抑制手段と、一対の電極の電極表面にそれぞれ設けられ、アークの発生位置を制御するアーク発生位置制御手段とを具備し、溶融物流動抑制手段は、電極表面の周辺であって且つ電極外縁の内側において、周方向に連続して構成されていると共に、アーク発生位置制御手段は、溶融物流動抑制手段の内側に設けられ、電極表面を越えて突出した輪郭形状を成して構成され、且つ、少なくとも一方の電極表面の中心のみで最大に突出した表面膨出構造を有し、電極表面の中心は、真空バルブの中心を規定する1本の仮想軸線と一致している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る真空バルブの内部構成を示す断面図。
図2図1の電極表面の平面図。
図3図1の電極表面の斜視図。
図4図3のF4-F4線に沿う断面図。
図5】一対の電極が真っ直ぐに接触した状態を示す断面図。
図6】一対の電極が傾斜して接触した状態を示す断面図。
図7】堰き止め構造の構成を示す断面図。
図8】電極表面の電界分布を示す模式図。
図9】堰き止め構造の他の構成を示す断面図。
図10】堰き止め構造の他の構成を示す断面図。
図11】変形例に係る真空バルブの電極表面部分の断面図。
図12】変形例に係る真空バルブの電極表面部分の断面図。
図13】変形例に係る真空バルブの電極表面部分の断面図。
図14】変形例に係る真空バルブの電極表面部分の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「一実施形態」
図1は、本実施形態に係る真空バルブPの配置構成図である。真空バルブPは、固定電極E1と、可動電極E2と、絶縁容器1(真空容器とも言う)と、固定側封着部材2と、可動側封着部材3と、気密維持機構4と、アークシールド5と、を有している。固定電極E1、可動電極E2、気密維持機構4、アークシールド5は、絶縁容器1に収容されている。
【0010】
図1の例において、絶縁容器1は、例えば、アルミナセラミックなどの絶縁材料で中空円筒形状に構成されている。固定側封着部材2及び可動側封着部材3は、例えば、ステンレス鋼を主成分とする金属材料で構成されている。
【0011】
図1に示すように、中空円筒形の絶縁容器1は、真空バルブPの中心を規定する仮想軸線Pxを中心とした同心円状を成している。絶縁容器1は、仮想軸線Px方向で見て、その両端が開口されている。双方の開口(固定側開口K1、可動側開口K2)は、固定側封着部材2、及び、可動側封着部材3によって覆われている。具体的には、固定側封着部材2は、固定側封着金具6を介して、絶縁容器1の一方の固定側開口K1を閉塞している。可動側封着部材3は、可動側封着金具7を介して、絶縁容器1の他方の可動側開口K2を閉塞している。
【0012】
アークシールド5は、例えば、銅やステンレス鋼などを主成分とする金属材料で構成されている。アークシールド5は、中空円筒形状を成し、絶縁容器1に固定されている。アークシールド5は、その内部(内側)に、固定電極E1の固定接点8、並びに、可動電極E2の可動接点10を収容するように配置されている。
【0013】
固定電極E1及び可動電極E2は、仮想軸線Pxに沿って整列して延在されている。固定電極E1は、固定接点8と、固定通電軸9と、を備えている。可動電極E2は、可動接点10と、可動通電軸11と、を備えている。なお、固定接点8及び可動接点10は、銅クロム(CuCr)材で成形され、固定通電軸9及び可動通電軸11は、銅(Cu)材で成形されている。
【0014】
図1の例において、固定接点8は、円板形状を成し、固定通電軸9は、円筒形状を成している。固定接点8及び固定通電軸9は、互いに同一の直径を有している。このため、固定接点8及び固定通電軸9を備えた固定電極E1は、その全体がストレートな円柱形状の輪郭を有して構成されている。なお、固定接点8は、その両側に円形輪郭を有する面が構成され、一方側の面が後述する固定側電極表面8aとして規定され、他方側(固定側電極表面8aの反対側)の面が背面8bとして規定されている。
【0015】
一方、可動接点10は、円板形状を成し、可動通電軸11は、円筒形状を成している。可動接点10及び可動通電軸11は、互いに同一の直径を有している。このため、可動接点10及び可動通電軸11を備えた可動電極E2は、その全体がストレートな円柱形状の輪郭を有して構成されている。なお、可動接点10は、その両側に円形輪郭を有する面が構成され、一方側の面が後述する可動側電極表面10aとして規定され、他方側(可動側電極表面10aの反対側)の面が背面10bとして規定されている。
【0016】
固定接点8と可動接点10とは、円形の電極表面(固定側電極表面8a、可動側電極表面10a)が平行に対面するように、互いに対向して配置されている。固定接点8は、その背面8bが固定通電軸9の一端に接続され、固定通電軸9の他端は、固定側封着部材2を介して、仮想軸線Pxに沿って移動不能に真空バルブPに固定されている。可動接点10は、その背面10bが可動通電軸11の一端に接続され、可動通電軸11の他端は、可動側封着部材3を介して、図示しない操作機構に連結されている。
【0017】
ここで、操作機構によって可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させる。これにより、可動接点10を固定接点8に対して離接させることができる。この結果、真空バルブPを開閉操作(即ち、一対の電極E1,E2を離接操作)することができる。
【0018】
更に、可動通電軸11と可動側封着部材3との間には、気密維持機構4が配置されている。気密維持機構4は、伸縮性を有するベローズで構成され、当該ベローズ(気密維持機構)4は、例えば、ステンレスなどの薄い金属で構成されている。ベローズ4は、仮想軸線Px方向に伸縮可能な蛇腹状を成し、可動通電軸11の外側を隙間無く覆っている。
【0019】
ベローズ4は、その一端が可動側封着部材3に隙間無く接合され、その他端が可動通電軸11に隙間無く接合されている。これにより、絶縁容器1の内部は、常に気密状態(即ち、真空状態)に維持される。この結果、真空バルブPの開閉操作に際し、可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させている間も、絶縁容器1の内部に大気(空気)が浸入することはない。
【0020】
ところで、真空バルブPの開放時、電極E1,E2相互間に発生したアークによって、電極E1,E2相互の対向面(固定側電極表面8a、可動側電極表面10a)の一部が溶融する場合がある。この場合、アーク発生時におけるプラズマ圧力は、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の中心(仮想軸線Pxと一致)で高く、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の周辺(即ち、円環状の電極外縁8f,10f)で低くなっている。このため、溶融した高温の溶融物(溶融金属)は、プラズマ圧力の勾配に沿って、電極外縁(固定側電極外縁8f、可動側電極外縁10f)に向かって流動する。
【0021】
電極外縁8f,10fは、構造上、電界強度が高くなる部位となっている。このため、高温の溶融物が電極外縁8f,10fに達すると、高温の溶融物と、電界強度の高くなる部位とが同一箇所に重なり合うことで、当該重合箇所を起点に絶縁破壊し易い状態が形成される。そうなると、真空バルブPの開放時における絶縁性能が低下してしまう。
【0022】
そこで、本実施形態に係る真空バルブPには、真空バルブPの開放時(換言すると、アーク発生時)における絶縁性能を向上させるべく、高温の溶融物が流動して電極外縁8f,10fに達するのを抑制する手段(以下、溶融物流動抑制手段12と言う)が設けられている。
【0023】
図1の例において、溶融物流動抑制手段12は、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の周辺であって且つ円環状の電極外縁8f,10fの直前において、周方向に連続した円環状を成して構成されている。
【0024】
更に、アークの発生に際し、電極E1,E2相互の対向面(固定側電極表面8a、可動側電極表面10a)は加熱されて表面温度が高くなる。このような高温領域は、アークの発生位置に対応して形成される。この場合、当該高温領域は、電極外縁8f,10fを回避した位置(換言すると、電極外縁8f,10fから最も離間した位置)に制御することが好ましい。円環状の電極外縁8f,10fから最も離間した位置は、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の中心、即ち、仮想軸線Pxと一致した部分である。
【0025】
そこで、本実施形態に係る真空バルブPには、仮想軸線Pxと一致した電極E1,E2(電極表面8a,10a)の中心並びにその近傍及びその周囲を含めた部分(以下、電極中心部Esと言う)に、アークの発生位置を制御する手段(以下、アーク発生位置制御手段13と言う)が設けられている。
【0026】
図1の例において、アーク発生位置制御手段13は、上記した円環状の溶融物流動抑制手段12の内側であって且つ電極中心部Esにおいて、電極表面8a,10aを越えて突出した輪郭形状を成して構成されている。アーク発生位置制御手段13は、電極中心部Esのうち、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の中心(仮想軸線Pxと一致)で最大に突出している。
【0027】
図2は、電極E1,E2の電極表面(固定側電極表面8a、可動側電極表面10a)の構成図、図3は、固定接点8及び可動接点10の外観構成図、図4は、固定接点8及び可動接点10の断面図である。
【0028】
図2図4の例において、溶融物流動抑制手段12として、円環状の電極外縁8f,10fに向かって流動する高温の溶融物を、当該電極外縁8f,10fの手前で堰き止める機能を有する堰き止め構造12pが適用されている。堰き止め構造12pは、電極E1,E2相互が対向する電極表面8a,10aにそれぞれ設けられ、収容機構14(貯留機構とも言う)と、堰止機構15と、ガイド機構16と、を備えている。
【0029】
収容機構14は、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の周辺において、円環状の電極外縁8f,10fの直前に連続して設けられている。収容機構14は、電極表面8a,10aを一部周方向に沿って連続的に窪ませて構成されている。収容機構14の断面形状としては、例えば、矩形状、三角形状、円弧状など各種の形状を適用することができる。これにより、電極外縁8f,10fの直前に、高温の溶融物を貯留可能な貯留溝が実現される。この場合、電極外縁8f,10fに向かって流動した高温の溶融物は、収容機構14(貯留溝)に漏れなく収容(貯留)される。この結果、高温の溶融物が、収容機構14(貯留溝)を越えて、電極外縁8f,10fに達することは無い。
【0030】
堰止機構15は、収容機構14(貯留溝)に隣接して設けられている。堰止機構15としては、収容機構14(貯留溝)の内部において、上記した仮想軸線Pxに沿って立ち上げられた円環状の障壁部を想定することができる。これにより、収容機構14(貯留溝)に収容(貯留)された高温の溶融物は、堰止機構15(障壁部)によって、その流動範囲が制限される。この結果、高温の溶融物が、堰止機構15(障壁部)を越えて、電極外縁8f,10fに達することは無い。
【0031】
ガイド機構16は、堰止機構15(障壁部)に対向するように、収容機構14(貯留溝)に隣接して設けられている。ガイド機構16としては、収容機構14(貯留溝)の内部において、堰止機構15(障壁部)に接近しつつ下り勾配を成した環状の斜面部を想定することができる。これにより、電極外縁8f,10fに向かって流動した高温の溶融物は、ガイド機構16(斜面部)によって、漏れなく収容機構14(貯留溝)に案内される。この結果、収容機構14(貯留溝)の手前に溶融物が残留し、その後、当該収容機構14(貯留溝)への新たな溶融物の流入が阻害されることは無い。
【0032】
また、アーク発生位置制御手段13としては、アークの発生位置を、電極外縁8f,10fを回避した位置に制御する機能を有する表面膨出構造13pが適用されている。表面膨出構造13pは、電極表面8a,10aから円弧状に膨出し、電極表面8a,10aの中心(仮想軸線Pxと一致)で最大に突出した輪郭形状を成している。
【0033】
この場合、円弧状の表面膨出構造13pの曲率半径は、電極外縁8f,10fの曲率半径よりも大きく設定されている。換言すると、表面膨出構造13pの曲率は、電極外縁8f,10fの曲率よりも小さく設定されている。これにより、後述の図8に示すように、電極外縁8f,10fの電界を高めると同時に、当該電極外縁8f,10f以外の部位の電界を低く抑えることができる。
【0034】
なお、表面膨出構造13pの突出量(高さ、長さ、距離)については、上記した電極表面8a,10aを基準に、当該表面膨出構造13pの突出量を規定する方法、或いは、収容機構14(貯留溝)の底面14s(図4参照)を基準に、当該表面膨出構造13pの突出量を規定する方法などを想定することができる。
【0035】
例えば、底面14sを基準とした場合、仮想軸線Pxと平行な方向において、底面14sから電極表面8a,10aまでの高さ(収容機構14(貯留溝)の深さ)をa、底面14sから表面膨出構造13pの最大突出位置(即ち、電極表面8a,10aの中心)までの高さをbとすると、a<bなる関係を満足するように表面膨出構造13pの突出量を規定する。
【0036】
図5及び図6は、表面膨出構造13pを有する電極表面8a,10a(電極E1,E2)の接触状態図である。図5に示すように、真空バルブPの閉状態において、双方の電極E1,E2は、表面膨出構造13pが最大に突出した部位(即ち、電極表面8a,10aの中心)で接触し合う。ここで、図6に示すように、双方の電極E1,E2が多少傾いた場合でも、双方の電極表面8a,10aは、その中心近傍同士で接触し合う。
【0037】
これにより、真空バルブPの開放時におけるアークの発生位置を、電極外縁8f,10fを回避した位置(換言すると、電極外縁8f,10fから最も離間した位置)、具体的には、電極E1,E2(電極表面8a,10a)の中心(仮想軸線Pxと一致)に制御することができる。
【0038】
図7は、堰き止め構造12pの断面構成図である。図7の例において、堰止機構15(障壁部)は、上記した仮想軸線Pxと平行に立ち上げられている。この場合、堰止機構15(障壁部)と電極表面8a,10aとの成す角度θは、90°に設定されている。これにより、堰止機構15(障壁部)は、収容機構14(貯留溝)に収容(貯留)された高温の溶融物に対する防波堤としての機能を発揮することができる。
【0039】
図8は、電極表面8a,10aにおける電界の強度分布図である。図8に示すように、表面膨出構造13pを、電極表面8a,10aから円弧状に膨出させたことで、電極外縁8f,10f以外の電界強度を低く抑えることができる。換言すると、電極外縁8f,10fの電界強度を最も高くすることができる。これにより、真空バルブPの開放時における絶縁性能を向上させることができる。
【0040】
図9は、堰き止め構造12pの断面構成図である。図9の例において、堰止機構15(障壁部)は、上記した仮想軸線Pxと交差する方向、即ち、ガイド機構16(斜面部)に接近する方向に傾斜させて立ち上げられている。この場合、堰止機構15(障壁部)と電極表面8a,10aとの成す角度θは、90°未満に設定されている。これにより、堰止機構15(障壁部)は、収容機構14(貯留溝)に収容(貯留)された高温の溶融物が溢れ出るのを防止する機能、換言すると、当該溶融物を収容機構14(貯留溝)に押し留める機能を発揮することができる。
【0041】
図10は、堰き止め構造12pの断面構成図である。図10の例において、堰止機構15(障壁部)は、リング状のフランジ部12fを備えて構成されている。フランジ部12fは、収容機構14(貯留溝)を部分的に覆うように突出しつつ、電極表面8a,10aと同一平面内において、堰止機構15(障壁部)の上端に沿って周方向に連続して設けられている。これにより、より効果的に溶融物の流出を防ぐことができる。
【0042】
以上、本実施形態によれば、溶融物流動抑制手段12(堰き止め構造12p)を、電極表面8a,10aの周辺であって且つ電極外縁8f,10fの直前に、周方向に連続して構成する。これにより、電極E1,E2相互間のアークによって電極表面8a,10aに生じた高温の溶融物が流動して電極外縁8f,10fに達するのを抑制することができる。この結果、アークにより電極表面8a,10aに生じた高温の溶融物と、電界強度の高い部分とが、電極外縁8f,10fの同一箇所に重なり合うことを回避、換言すると、当該重合箇所を起点に絶縁破壊し易い状態が形成されることを回避することができる。かくして、真空バルブPの開放時における絶縁性能を一定に維持ないし向上させることができる。
【0043】
本実施形態によれば、堰き止め構造12pとして、収容機構14(貯留機構とも言う)を電極表面8a,10aにそれぞれ設ける。収容機構14は、電極表面8a,10aを一部周方向に沿って連続的に窪ませて構成する。これにより、電極外縁8f,10fに向かって流動した高温の溶融物を、収容機構14(貯留溝)に漏れなく収容(貯留)することができる。この結果、高温の溶融物が、収容機構14を越えて、電極外縁8f,10fに達するのを防止することができる。
【0044】
本実施形態によれば、電極表面8a,10aにおいて、堰き止め構造12pとして、堰止機構15を収容機構14(貯留溝)に隣接して設ける。堰止機構15は、収容機構14の内部に立ち上げられた円環状の障壁部として構成する。これにより、収容機構14に収容(貯留)された高温の溶融物は、堰止機構15(障壁部)によって、その流動範囲が制限される。この結果、高温の溶融物が、堰止機構15を越えて、電極外縁8f,10fに達するのを防止することができる。
【0045】
本実施形態によれば、電極表面8a,10aにおいて、堰き止め構造12pとして、ガイド機構16を堰止機構15(障壁部)に対向するように、収容機構14(貯留溝)に隣接して設ける。ガイド機構16は、収容機構14の内部において、堰止機構15に接近しつつ下り勾配を成した環状の斜面部として構成する。これにより、電極外縁8f,10fに向かって流動した高温の溶融物は、ガイド機構16(斜面部)によって、漏れなく収容機構14に案内される。この結果、収容機構14の手前に溶融物が残留し、その後、当該収容機構14への新たな溶融物の流入が阻害されるのを防止することができる。
【0046】
本実施形態によれば、アーク発生位置制御手段13(表面膨出構造13p)を、溶融物流動抑制手段12の内側に設けると共に、電極中心部Esにおいて、電極表面8a,10aを越えて突出した輪郭形状を成して構成する。これにより、真空バルブPの閉状態において、双方の電極表面8a,10aは、常に、その中心近傍同士で接触し合う。この結果、真空バルブPの開放時におけるアークの発生位置を、電極外縁8f,10fを回避した位置に制御することができる。別の捉え方をすると、アークを発生し易い部分を、予め、電極表面8a,10a上の任意の位置(例えば、電極E1,E2の中心)に設定することができる。
【0047】
本実施形態によれば、表面膨出構造13pを、電極表面8a,10aから膨出させたことで、電極外縁8f,10f以外の電界強度を低く抑えることができる。これにより、電極外縁8f,10fの電界強度を最も高くすることができる。この結果、真空バルブPの開放時における絶縁性能を飛躍的に向上させることができる。
【0048】
「変形例」
上記した実施形態では、双方の電極E1,E2において、表面膨出構造13pを円弧状に膨出させているが、これに代えて、図11に示すように、いずれか一方の表面膨出構造13pの中心(仮想軸線Px)周りを平坦状に構成してもよい。図11の例において、可動電極E2の表面膨出構造13pに平坦面13mが構成されている。この場合、双方の表面膨出構造13pの中心(仮想軸線Px)周りを平坦状に構成してもよい。なお、その他の構成及び効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0049】
上記した実施形態では、双方の電極E1,E2において、表面膨出構造13pを円弧状に膨出させているが、これに代えて、図12に示すように、矩形状に膨出させた表面膨出構造13pを適用してもよい。この場合、矩形状の表面膨出構造13pの周縁に沿って面取りRを施すことが好ましい。なお、その他の構成及び効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0050】
上記した実施形態では、電極外縁8f,10fと、表面膨出構造13pと、が一体化した電極E1,E2を想定しているが、これに代えて、図13に示すように、電極外縁8f,10fと、表面膨出構造13pと、を別体で構成してもよい。この場合、表面膨出構造13pは、高温に耐えられる材料(例えば、銅クロム材)で成形し、電極外縁8f,10fは、高電界に耐えられる材料(例えば、純クロム、SUS、タングステン)で成形することが好ましい。
【0051】
加えて、例えば図14に示すように、収容機構14(貯留溝)を、固定接点8及び可動接点10を貫通させて構成してもよい。この構成によれば、収容機構14(貯留溝)に流入した高温の溶融物は、固定通電軸9(可動通電軸11)の一端面9s,11sに接触することになるが、銅製の固定通電軸9(可動通電軸11)は熱伝導率が高いので、短時間に冷やされるといった効果を実現することができる。なお、その他の構成及び効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0052】
上記した実施形態では、電極外縁8f,10fの手前に1つの堰き止め構造12pを設けたが、複数に亘って堰き止め構造12pを設けてもよい。特に図示しないが、例えば、収容機構14(貯留溝)を二周或いはそれ以上に亘って設ける。これにより、高温の溶融物の収容能力を更に向上させることができる。なお、その他の構成及び効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0053】
以上、本発明の一実施形態及びいくつかの変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
E1,E2…電極、Es…電極中心部、8a,10a…電極表面、8b,10b…背面、8f,10f…電極外縁、12…溶融物流動抑制手段、13…アーク発生位置制御手段、13p…表面膨出構造、14…収容機構(貯留溝)、15…堰止機構(障壁部)、16…ガイド機構(斜面部)。
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