IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-真空バルブ 図1
  • 特許-真空バルブ 図2
  • 特許-真空バルブ 図3
  • 特許-真空バルブ 図4
  • 特許-真空バルブ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/662 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
H01H33/662 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021021768
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124163
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏光
(72)【発明者】
【氏名】浅利 直紀
(72)【発明者】
【氏名】濱田 滉太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-022019(JP,A)
【文献】特開2020-087787(JP,A)
【文献】特許第5381951(JP,B2)
【文献】特開昭56-003917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/60 - 33/68
H02B 13/00 - 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離接可能な一対の電極並びにアークシールドを収容し、誘電性を有する絶縁容器と、
前記絶縁容器の外面に沿って沿面放電が生じた際に、前記沿面放電の進展を抑制する放電進展抑制手段と、を具備し、
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の一部を他の部分とは異なる誘電率に設定し、
前記絶縁容器の一部は、他の部分と隣接して設けられ、かつ、前記アークシールドの全体を収容する形状を成している真空バルブ。
【請求項2】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の一部の誘電率と、他の部分の誘電率との間に高低差を与える請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の一部の誘電率と、他の部分の誘電率との間に段階的或いは連続的に高低差を与える請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の外面に沿って進展する前記沿面放電の進展方向を横断する方向に連続して設けられている請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の外面又は内面、或いは、前記絶縁容器の外面及び内面の双方に設けられている請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項6】
前記絶縁容器は、その外面が大気中に晒された使用状態に設定されている請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項7】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の一部及び他の部分に設けられ、互いに異なる誘電率を有する複数の絶縁材料から構成され、
前記絶縁容器は、複数の前記絶縁材料によって一体成形され、
前記絶縁容器の一部に一体成形された前記絶縁材料と、他の部分に一体成形された前記絶縁材料とは、互いに異なる誘電率に設定されている請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項8】
前記放電進展抑制手段は、前記絶縁容器の一部及び他の部分に設けられ、互いに異なる誘電率を有する複数の絶縁材料から構成され、
前記絶縁容器の一部及び他の部分の外面又は内面、或いは、前記絶縁容器の一部及び他の部分の外面及び内面の双方は、互いに異なる前記絶縁材料によって被覆され、
前記絶縁容器の一部に被覆された前記絶縁材料と、他の部分に被覆された前記絶縁材料とは、互いに異なる誘電率に設定されている請求項5に記載の真空バルブ。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の前記真空バルブの前記絶縁容器は、その外面或いは内面又は両面を含めた所定部位に亘って、表面抵抗制御材料、低二次電子放出係数材料、非線形抵抗材料、非線形誘電材料のいずれかを付加して構成されている真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや大型施設に設けられる受配電用の開閉装置として、例えば、遮断器や断路器などの開閉器を具備したスイッチギヤが知られている。スイッチギヤには、開閉器の構成要素として真空バルブが適用されている。真空バルブの内部は、絶縁容器(真空容器)によって一定の絶縁状態に維持され、この絶縁容器の内部に一対の電極が離接可能に収容されている。この場合、一対の電極を離接操作することで、事故電流の遮断や負荷電流の開閉が行われ、スイッチギヤから電力が安定して供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6161354号公報
【文献】特許第6122577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、真空バルブの用途として、真空バルブの外部が大気中に晒された使用状態が想定される。この状態において、大気を構成する空気は絶縁性能が低いため、大気に直接晒された絶縁容器の外面(例えば、円筒形状の絶縁容器であればその外周面)に沿って絶縁破壊が進行する放電形態、即ち、沿面放電(沿面コロナ放電)が生じ易くなる。
【0005】
ここで、沿面放電に際し、絶縁容器の外面には、当該外面に沿って「電子なだれ」が発生する場合がある。「電子なだれ」とは、絶縁容器の外面に形成された電場において、自由電子が気体分子に衝突すると新たな電子が叩き出され、これが電場で加速されて更に別の気体分子と衝突することで、加速度的に電子数が増えていく現象を指す。
【0006】
このような「電子なだれ」が発生すると、沿面放電が進展し、絶縁破壊が更に進行してしまう。沿面放電の進展を抑制するためには、真空バルブの外部の絶縁性能を向上させることが有効である。真空バルブの外部の絶縁性能を向上させる方法として、従来では、絶縁容器の外面に襞状成形体を設けて絶縁容器の外面における沿面距離を伸ばす方法や、絶縁容器の外面に高誘電率絶縁層を設けて絶縁容器の封着部(例えば、トリプルジャンクション部を有する絶縁容器の開口部)における電界を緩和させる方法などが知られている。
【0007】
しかしながら、真空バルブの小型化に伴って沿面距離を伸ばすことが困難になっていると共に、封着部以外で沿面放電が発生した場合に充分な電界緩和効果が得られないといった課題があると共に、高誘電率絶縁層を設けたことで逆に沿面放電を進展させてしまうといった課題もある。このため、真空バルブの外部における絶縁性能の向上には限界があった。
【0008】
そこで、このような課題を解決するために、絶縁容器の全体に亘って電界集中を緩和(即ち、電界強度(電界分布)を均一化)させつつ同時に、絶縁容器の外面における沿面放電の進展を抑制する技術を適用した真空バルブが求められている。
【0009】
本発明の目的は、電界集中を緩和(即ち、電界強度(電界分布)を均一化)させつつ同時に、沿面放電の進展を抑制することが可能な真空バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、離接可能な一対の電極並びにアークシールドを収容し、誘電性を有する絶縁容器と、絶縁容器の外面に沿って沿面放電が生じた際に、沿面放電の進展を抑制する放電進展抑制手段と、を具備し、放電進展抑制手段は、絶縁容器の一部を他の部分とは異なる誘電率に設定し、絶縁容器の一部は、他の部分と隣接して設けられ、かつ、アークシールドの全体を収容する形状を成している
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る真空バルブの内部構成を示す断面図。
図2図1の絶縁容器における誘電率分布を示す模式図。
図3】(a)は、既存の絶縁容器の等電位分布を示す模式図、(b)は、図1の絶縁容器の等電位分布を示す模式図。
図4】他の実施形態に係る絶縁容器における誘電率分布を示す模式図。
図5】他の実施形態に係る絶縁容器における誘電率分布を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「一実施形態」
図1は、本実施形態に係る真空バルブPの配置構成図である。本実施形態では、真空バルブPの用途として、真空バルブPの外部(例えば、後述する円筒形状の絶縁容器1の外面(外周面)S2)が大気(空気)中に晒された使用状態を想定している。
【0013】
図1の例において、真空バルブPは、固定電極E1と、可動電極E2と、絶縁容器1(真空容器とも言う)と、固定側封着部材2と、可動側封着部材3と、気密維持機構4と、アークシールド5と、を有している。
【0014】
図1に示すように、固定電極E1、可動電極E2、気密維持機構4、アークシールド5は、絶縁容器1に収容されている。なお、絶縁容器1は、後述するような絶縁性を有する材料で構成されている。固定側封着部材2及び可動側封着部材3は、例えば、ステンレス鋼を主成分とする金属材料で構成されている。
【0015】
絶縁容器1は、真空バルブPの中心を規定する仮想軸線Pxを中心とした円筒形状を成している。円筒形状の絶縁容器1は、仮想軸線Px方向で見て、その両端が開口されている。双方の開口(固定側開口K1、可動側開口K2)は、固定側封着部材2、及び、可動側封着部材3によって覆われている。具体的には、固定側封着部材2は、固定側封着金具6を介して、絶縁容器1の一方の固定側開口K1を閉塞している。可動側封着部材3は、可動側封着金具7を介して、絶縁容器1の他方の可動側開口K2を閉塞している。
【0016】
アークシールド5は、例えば、銅やステンレス鋼などを主成分とする金属材料で構成されている。アークシールド5は、中空円筒形状を成し、絶縁容器1の内面S1に固定されている。アークシールド5は、その内部(内側)に、後述する固定電極E1の固定接点8、並びに、可動電極E2の可動接点10を収容するように配置されている。
【0017】
固定電極E1及び可動電極E2は、仮想軸線Pxに沿って整列して延在されている。固定電極E1は、固定接点8と、固定通電軸9と、を備えている。可動電極E2は、可動接点10と、可動通電軸11と、を備えている。
【0018】
固定接点8と可動接点10とは互いに対向して配置されている。固定接点8は、固定通電軸9の一端に接続され、固定通電軸9の他端は、固定側封着部材2を介して、仮想軸線Pxに沿って移動不能に真空バルブPに固定されている。可動接点10は、可動通電軸11の一端に接続され、可動通電軸11の他端は、可動側封着部材3を介して、図示しない操作機構に連結されている。
【0019】
ここで、操作機構によって可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させる。これにより、可動接点10を固定接点8に対して離接させることができる。この結果、真空バルブPを開閉操作(即ち、一対の電極E1,E2を離接操作)することができる。
【0020】
更に、可動通電軸11と可動側封着部材3との間には、気密維持機構4が配置されている。気密維持機構4は、伸縮性を有するベローズで構成され、当該ベローズ(気密維持機構)4は、例えば、ステンレスなどの薄い金属で構成されている。ベローズ4は、仮想軸線Px方向に伸縮可能な蛇腹状を成し、可動通電軸11の外側を隙間無く覆っている。
【0021】
ベローズ4は、その一端が可動側封着部材3に隙間無く接合され、その他端が可動通電軸11に隙間無く接合されている。これにより、絶縁容器1の内部は、常に気密状態(即ち、真空状態)に維持される。この結果、真空バルブPの開閉操作に際し、可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させている間も、絶縁容器1の内部に大気(空気)が浸入することはない。
【0022】
ところで、大気(空気)に直接晒された絶縁容器1には、その外面S2に沿って絶縁破壊が進行する放電形態(即ち、沿面放電)が生じる場合がある。沿面放電に際しては、絶縁容器1の外面S2に沿って「電子なだれ」が発生する。この場合、例えば、アルミナセラミックスなどの誘電率の高い絶縁材料で構成された既存の絶縁容器1では、沿面放電が進展してしまう。
【0023】
そこで、本実施形態に係る真空バルブPは、絶縁容器1の外面S2に沿って沿面放電が生じた際に、当該沿面放電の進展を抑制する放電進展抑制手段を有している。放電進展抑制手段は、絶縁容器1の一部を他の部分とは異なる誘電率に設定する。具体的には、放電進展抑制手段は、絶縁容器1の一部の誘電率と、他の部分の誘電率との間に高低差を与える。
【0024】
誘電率の高低差を付与する方法の一例として、絶縁容器1の一部には、誘電率の低い絶縁材料(以下、低誘電率材料という)が適用され、絶縁容器1の他の部分には、誘電率の高い絶縁材料(以下、高誘電率材料という)が適用されている。絶縁容器1のうち低誘電率材料が適用された部分は、そこに蓄えられる静電エネルギー量が小さくなって絶縁性能が向上するため、沿面放電の進展を抑制する効果を高めることができる。なお、低誘電率材料、並びに、高誘電率材料については、例えば、真空バルブP(絶縁容器1)の使用目的や使用環境に応じて設定されるため、ここでは特に限定しない。
【0025】
更に、沿面放電の進展方向の一例として、固定側開口K1から可動側開口K2(或いは、可動側開口K2から固定側開口K1)に向かう方向を想定すると、放電進展抑制手段は、絶縁容器1の外面S2に沿って進展する沿面放電の進展方向を横断する方向(即ち、円筒形状絶縁容器であればその周方向)に連続して設けられている。これにより、絶縁容器1の外面S2に沿って進展する「電子なだれ」を堰き止めるように抑制することができる。
【0026】
図1の例において、絶縁容器1の一部(即ち、中央)に低誘電率領域1bが設けられ、絶縁容器1の他の部分(即ち、中央の両側)に高誘電率領域1aが設けられている。高誘電率領域1a及び低誘電率領域1bは、上記した仮想軸線Pxを中心とした同心円状に構成されている。
【0027】
低誘電率領域1bは、その内部にアークシールド5の全体を収容する中空円筒形状を成している。高誘電率領域1aは、低誘電率領域1bの両側に隣接して設けられている。一方側の高誘電率領域1aは、低誘電率領域1bの一端から固定側開口K1に亘って延在する中空円筒形状を成している。他方側の高誘電率領域1aは、低誘電率領域1bの他端(一端の反対側)から可動側開口K2に亘って延在する中空円筒形状を成している。
【0028】
ここで、絶縁容器1の製造方法としては、例えば、低誘電率材料と高誘電率材料を組み合わせて絶縁容器1の全体を一体成形する方法や、低誘電率材料と高誘電率材料を絶縁容器1の内面S1又は外面S2、或いは、内面S1及び外面S2の双方(以下、両面S1,S2という)に設ける方法などを適用することができる。
【0029】
まず、低誘電率材料と高誘電率材料を組み合わせて絶縁容器1の全体を一体成形する方法では、例えば、粉末状の低誘電率材料及び高誘電率材料を用意して、絶縁容器1の中央となる部分に低誘電率材料を配置すると共に、その中央の両側となる部分に高誘電率材料を配置しつつ、これを所定の厚さまで積層させて焼成する。これにより、低誘電率領域1bの両側に高誘電率領域1aが隣接した絶縁容器1を一体成形することができる。
【0030】
次に、低誘電率材料と高誘電率材料を絶縁容器1の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2に設ける方法では、例えば、所定の絶縁材料で一体成形された既存の絶縁容器1を用意して、当該絶縁容器1の中央の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2に低誘電率材料を被覆(塗布)すると共に、当該絶縁容器1の中央の両側の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2に高低誘電率材料を被覆(塗布)する。これにより、既存の絶縁容器1をそのまま用いて、低誘電率領域1bの両側に高誘電率領域1aが隣接した新たな絶縁容器1を実現することができる。
【0031】
図2は、上記した製造方法で製造された絶縁容器1の誘電率分布図である。図2に示すように、絶縁容器1の誘電率は、その中央の低誘電率領域1bで最も低く、中央の両側の高誘電率領域1aで最も高くなっている。これにより、他の部分よりも絶縁性能の高められた低誘電率領域1bが、絶縁容器1の中央において、絶縁容器1の外面S2に沿って進展する沿面放電の進展方向を横断する周方向に連続して設けられていることが分かる。
【0032】
図3(a)は、既存の絶縁容器(図示しない)の等電位分布図であり、図3(b)は、本実施形態の絶縁容器1の等電位分布図である。両者を比較すると、既存の絶縁容器の等電位分布(図3(a))は、その両端側(固定側開口K1、可動側開口K2)で密になっているのに対し、本実施形態の絶縁容器1の等電位分布(図3(b))は、その両端側(固定側開口K1、可動側開口K2)で疎になっていることが分かる。即ち、本実施形態の等電位分布(図3(b))は、絶縁容器1の全体に亘って、ほぼ均一化され、これにより、絶縁容器1の全体に亘って電界集中が緩和されていることが分かる。
【0033】
以上、本実施形態によれば、絶縁容器1の一部に低誘電率領域1bが設けられ、絶縁容器1の他の部分に高誘電率領域1aが設けられている。この場合、低誘電率領域1bは、絶縁容器1の外面S2に沿って進展する沿面放電の進展方向を横断する方向に連続して設けられる。低誘電率領域1bでは、そこに蓄えられる静電エネルギー量が小さくなって絶縁性能が向上し、沿面放電の進展を抑制する効果が高められる。これにより、絶縁容器1の外面S2に沿って進展する「電子なだれ」を、当該低誘電率領域1bによって堰き止めるように抑制することができる。この結果、絶縁容器1の全体に亘って電界集中を緩和(即ち、電界強度(電界分布)を均一化)させつつ同時に、絶縁容器1の外面S2における沿面放電の進展を抑制することができる。
【0034】
更に、本実施形態によれば、従来のように絶縁容器1の外面S2における沿面距離を伸ばす必要がないので、絶縁容器1(即ち、真空バルブP)の小型化を図りつつ同時に、絶縁容器1の外面S2における沿面放電の進展を抑制することができる。
【0035】
「他の実施形態」
上記した実施形態では、絶縁容器1の一部(即ち、中央)に低誘電率領域1bを設け、他の部分(即ち、中央の両側)に高誘電率領域1aを設ける場合を想定したが、これに代えて、特に図示しないが、中央に高誘電率領域1aを設け、その両側に低誘電率領域1bを設けてもよい。
【0036】
上記した実施形態では、絶縁容器1の一部(即ち、中央の1箇所)を他の部分とは異なる誘電率に設定する場合を想定したが、これに代えて、特に図示しないが、複数箇所を他の部分とは異なる誘電率に設定してもよい。例えば、絶縁容器1の中央と両端の3か所に低誘電率領域1bを設けると共に、低誘電率領域1bの相互間に高誘電率領域1aを介在させる。或いは、絶縁容器1の中央と両端の3か所に高誘電率領域1aを設けると共に、高誘電率領域1aの相互間に低誘電率領域1bを介在させる。
【0037】
上記した実施形態では、絶縁容器1の一部(即ち、中央)の誘電率と、他の部分(即ち、中央の両側)の誘電率との間に単数段階的に高低差を与える場合を想定したが、これに代えて、例えば図4に示すように、絶縁容器1の一部(即ち、中央)の誘電率と、他の部分(即ち、中央の両側)の誘電率との間に複数段階的に高低差を与えてもよい。これにより、絶縁容器1の等電位分布をより均一化させることができる。この結果、絶縁容器1の全体に亘って電界集中をより緩和(即ち、電界強度(電界分布)をより均一化)させることができる。
【0038】
上記した実施形態では、絶縁容器1の一部(即ち、中央)の誘電率と、他の部分(即ち、中央の両側)の誘電率との間に段階的に高低差を与える場合を想定したが、これに代えて、例えば図5に示すように、絶縁容器1の一部(即ち、中央)の誘電率と、他の部分(即ち、中央の両側)の誘電率との間に連続的に高低差を与えてもよい。この結果、絶縁容器1の全体に亘って電界集中をより緩和(即ち、電界強度(電界分布)をより均一化)させることができる。
【0039】
「変形例」
本変形例に係る真空バルブPの絶縁容器1は、その内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2を含めた所定部位に亘って、表面抵抗制御材料、低二次電子放出係数材料、非線形抵抗材料、非線形誘電材料のいずれかを付加して構成されている。以下、各材料について個別に説明する。
【0040】
<表面抵抗制御材料>
上記した実施形態に係る真空バルブPにおいて、その一部を他の部分とは異なる誘電率に設定された絶縁容器1は、内面S1及び外面S2の表面抵抗によって絶縁性能が大きく変化する場合がある。例えば、自由電子が絶縁容器1の表面に衝突した際に、当該絶縁容器1の表面から二次電子が放出されることで、絶縁容器1の表面(内面S1、外面S2)が帯電し易くなり、絶縁性能を一定に維持するのが困難になる。この場合、絶縁容器1の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2の全体に亘って、表面抵抗制御材料を塗布する。これにより、絶縁容器1表面の帯電の発生を抑えつつ、上記した実施形態と同様の効果を確保することができる。なお、表面抵抗制御材料としては、例えば、酸化クロム、炭化ケイ素、窒化チタン、バナジウムなどを適用することができる。
【0041】
<低二次電子放出係数材料>
低二次電子放出係数材料は、上記した表面抵抗制御材料としての機能と共に、絶縁容器1の表面からの二次電子の放出を抑制する機能を有している。この場合、上記した表面抵抗制御材料に代えて、絶縁容器1の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2の全体に亘って、低二次電子放出係数材料を塗布する。これにより、絶縁容器1表面の帯電の発生並びに二次電子の放出を抑えつつ、上記した実施形態と同様の効果を確保することができる。なお、低二次電子放出係数材料としては、例えば、バナジウム、クロム、炭素、鉄、炭化ケイ素、銅、モリブデン、窒化チタンなどを適用することができるが、低二次電子放出係数そのものの抵抗が非常に小さい場合が多いため、薄膜処理等によって表面抵抗の急激な低下を防ぐ必要がある。
【0042】
<非線形抵抗材料>
上記した表面抵抗制御材料や低二次電子放出係数材料に代えて、非線形抵抗材料を、絶縁容器1の内面S1又は外面S2或いは両面S1,S2の全面に亘って塗布してもよい。非線形抵抗材料は、高誘電率領域1aでの抵抗値が小さくなり、低誘電率領域1bでの抵抗値が大きくなる特性を有している。これにより、電圧印加時に仮想軸線Px方向に誘電率分布を有する絶縁容器1の表面(内面S1、外面S2)に沿って非線形抵抗特性を発現させ、高電界箇所(例えば、絶縁容器1の開口K1,K2付近)の電界を緩和させることができる。なお、非線形抵抗材料としては、例えば、酸化亜鉛、炭化ケイ素、炭素、四酸化三鉄などを適用することができる。ここで、真空環境下の絶縁容器1の内面S1に非線形抵抗材料を塗布する場合、非線形抵抗材料のバインダとして、エポキシ樹脂などの有機系材料を使用することは好ましくないので、有機物を含まない無機系バインダを使用することが好ましい。
【0043】
<非線形誘電材料>
上記した非線形抵抗材料に代えて、非線形誘電材料を、絶縁容器1の所定部位に亘って添加(混合)してもよい。非線形誘電材料は、高誘電率領域1aでの誘電率が高くなり、低誘電率領域1bでの誘電率が低くなる特性を有している。この場合、上記した実施形態に係る絶縁容器1の製造方法において、低誘電率材料及び高誘電率材料に対して、非線形誘電材料を添加(混合)する。これにより、商用周波数から雷インパルス電圧などの比較的高い周波数に対する応答性を向上させることができる。この結果、特に、雷サージなどの高電圧ないし高周波サージに際しても、絶縁容器1の全体に亘って電界集中を緩和(即ち、電界強度(電界分布)を均一化)させつつ同時に、絶縁容器1の外面S2における沿面放電の進展を抑制することができる。なお、非線形誘電材料としては、例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、チタン酸バリウムなどの無機粒子を適用することができる。ここで、非線形誘電材料が添加(混合)された高誘電率領域1aは、放電進展のし易い状態となり得るので、これを回避すべく、沿面放電が接触しない領域、例えば絶縁容器1の内面S1側のみに非線形誘電材料を添加(混合)することが好ましい。
【0044】
以上、本発明の一実施形態及びいくつかの変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…絶縁容器(真空容器)、1a…高誘電率領域、1b…低誘電率領域、2…固定側封着部材、3…可動側封着部材、4…気密維持機構、5…アークシールド、6…固定側封着金具、7…可動側封着金具、8…固定接点、9…固定通電軸、10…可動接点、11…可動通電軸、P…真空バルブ、Px…仮想軸線、E1…固定電極、E2…可動電極、K1…固定側開口、K2…可動側開口、S1…内面、S2…外面。
図1
図2
図3
図4
図5