(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】トナー及び画像の読み取り方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20241007BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20241007BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03G9/08 391
G03G9/097 368
G03G9/087 325
G03G9/087
(21)【出願番号】P 2021030079
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山火 智
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良太
(72)【発明者】
【氏名】吉正 泰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-219103(JP,A)
【文献】特開2019-138936(JP,A)
【文献】特表2019-500458(JP,A)
【文献】特表2018-528312(JP,A)
【文献】特開2006-079020(JP,A)
【文献】特開2022-117406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
前記トナーが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)、及び金ナノロッドを含有する、
ことを特徴とするトナー。
【請求項2】
前記トナーに含有される前記金ナノロッドと前記PEDOT-PSSの合計質量の、前記樹脂成分の質量に対する割合が、0.01~1.00質量%である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記トナーに含有される前記PEDOT-PSSの質量に対する、前記金ナノロッドの質量の割合が、0.01~10.00である請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記トナーを用いて、トナーの載り量を0.30mg/cm
2として形成した定着画像に対して光吸収スペクトルを測定したとき、
900~1800nmの波長域における最大の吸収率が15%以上である請求項1~3の何れか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記金ナノロッドの光吸収波長を測定したとき、1000~1800nmの波長域にピークトップを有する請求項1~4の何れか一項に記載のトナー。
【請求項6】
前記トナーが、不可視画像形成用トナーである請求項1~5の何れか一項に記載のトナー。
【請求項7】
画像の読み取り方法であって、
請求項1~6の何れか一項に記載のトナーを用いて形成された画像を、近赤外線センサを搭載した装置を用いて読み取る工程を有する、画像の読み取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トナー及び画像の読み取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、著作権保護や偽造防止などのセキュリティ強化を目的として、目には見えない情報を印刷物に埋め込む「不可視印刷」が注目されている。不可視印刷は、可視画像と重なっても見た目を劣化させにくいため、通常の印刷物としての品質を保ちつつ、埋め込まれた情報も合せて利用でき、セキュリティ分野などの多分野で応用が期待されている。
【0003】
特許文献1では、特定の金属ナノロッドをトナーに含有させることにより、赤外光照射等で読取り可能となり、且つ可視画像の画質を損なうことない不可視画像を形成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chemistry of Materials、2003年、第15号、1957-1962頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のトナーについて本発明者らが検討した結果、該トナーを用いて形成される画像の不可視性について、より一層の改善が必要であることを認識した。
【0007】
本開示の一態様は、赤外領域における優れた読み取り性を有し得るとともに、可視光領域における優れた不可視性を有し得る画像が得られるトナーの提供に向けたものである。
【0008】
また、本開示の他の態様は、本開示のトナーを用いて形成された画像の読み取り方法の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様によれば、樹脂成分を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
前記トナー粒子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)、及び金ナノロッドを含有する、
ことを特徴とするトナーが提供される。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、画像の読み取り方法であって、
本開示に係るトナーを用いて形成された画像を、近赤外線センサを搭載した装置を用いて読み取る工程を有する、画像の読み取り方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、赤外領域における優れた読み取り性を有し得るとともに、可視光領域における優れた不可視性を有し得る画像が得られるトナーを提供できる。
【0012】
また本開示の他の態様によれば、本開示のトナーを用いて形成された画像の読み取り方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0015】
本開示に係るトナーは、不可視画像形成用トナーであることが好ましい。
【0016】
本開示において、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)をPEDOT、ポリ(スチレンスルホン酸)をPSSとも表記する。また、本開示に係るPEDOT-PSSとは、PEDOTとPSSの複合体であると取り扱う。
【0017】
<発明に至った経緯>
特許文献1に係るトナーを用いて画像形成を行うと、赤外領域における読み取り性を高め得るものの、定着画像を目視で観察した際に薄く色を呈する場合があることを、本発明者らは発見した。上記の画像に対して、光吸収スペクトルを測定したところ、上記の画像は近赤外領域において吸収を示すものの、530nm付近にも小さな光吸収のピークが存在することを発見し、これにより、薄く色を呈する定着画像が得られる場合があると考えた。不可視画像を形成するために用いられるトナーには、当然、視認しにくい画像を形成できることが求められる。そのため、本発明者らは、上記の530nm付近の吸収による呈色を視認しにくくさせるための改善が必要であるとの認識を得た。
【0018】
上記の考察に基づき本発明者らは、赤外領域における読み取り性と不可視性とを兼ね備えた画像が得られるトナーの検討を行った。その結果、金ナノロッドだけでなく、後述するPEDOT-PSSを含有させることが、上記の如き特性を備えた画像の形成に有効であることを見出した。以下に、推測メカニズム及びそれぞれの構成要件について詳細に説明する。
【0019】
<本開示の効果が発現する推測メカニズム>
本開示に係る構成のトナーが、本開示の効果を発現する推測メカニズムを、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本開示の実施例で用いたPEDOT-PSSの光吸収スペクトルであり、
図2は、本開示の実施例で用いた金ナノロッドの光吸収スペクトルである。
【0020】
詳細は後述するが、PEDOT-PSS(
図1)と金ナノロッド(
図2)は共に、優れた赤外線吸収性を示すとともに、可視光領域に僅かな光吸収帯を有する。両者は可視光領域に僅かな光吸収帯を有するものの、これらの可視光領域の光吸収帯の波長は互いに異なる。そのため、PEDOT-PSSと金ナノロッドの両者を含有するトナーを用いて画像を形成すると、可視光領域の光吸収特性がよりフラットな画像、即ち、より彩度が小さく、視認しにくい画像が得られやすくなる。
【0021】
また、
図1及び
図2に示すように、PEDOT-PSS及び金ナノロッドが優れた赤外線吸収性を有するため、この両者を含有するトナーを用いて画像を形成すると、可視光領域における吸光度に対して、赤外領域における吸光度が大きい画像が得られやすい。そのため、画像の不可視性をさらに向上させるために、PEDOT-PSSと金ナノロッドの含有割合を小さくした場合においても、赤外領域における吸光度が十分に大きく、優れた不可視性と読み取り性を両立し得る画像が得られやすい。
【0022】
<PEDOT-PSS>
PEDOT-PSSについて説明する。共役系高分子に電子受容体(アクセプター)又は電子供与体(ドナー)を付加すると、共役系高分子の主鎖中にキャリア(正孔又は電子)が発生し、導電性を有する高分子複合体を形成する。このような高分子複合体は、一般的に導電性高分子と呼ばれる。代表的な共役系高分子としては、脂肪族共役系のポリアセチレン、芳香族共役系のポリ(p-フェニレン)、複素環共役系のポリピロール、ポリチオフェン、及びヘテロ原子共役系のポリアニリン等が挙げられる。また、アクセプターとしては、ハロゲン、ルイス酸等が挙げられ、ドナーとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。
【0023】
上記の導電性高分子は、キャリアのプラズマ振動に起因した赤外線吸収性を示す。即ち、共役系高分子と電子受容体又は電子供与体との高分子複合体を形成することで、赤外吸収性を示すと考えられる。また、導電性高分子の赤外線吸収性は、キャリア密度に比例するため、高い導電性を有する導電性高分子ほど高い赤外線吸収性を示す。
【0024】
本開示に係るトナーに含有される、PEDOT-PSSは、PEDOTが共役系高分子であり、PSSがアクセプターとして機能し、これらで高分子複合体を形成するため、高い赤外吸収性を示す。
【0025】
図1にPEDOT-PSSの光吸収スペクトルを示す。PEDOT-PSSは、赤外線領域にキャリアのプラズマ振動に基づく大きい光吸収帯を有している。ここで、キャリアのプラズマ振動に起因する光吸収は、赤外線領域のみならず、500~800nmの可視光領域にまで及ぶため、その補色である青色~藍色を呈する。
【0026】
PEDOT-PSSは、例えば、PSS存在下において、3,4-エチレンジオキシチオフェンの酸化重合を行うことにより製造することもできる。また、一般市販品(例えばデナトロンPT-300(商品名)、ナガセケムテックス社製)を入手し使用することもできる。
【0027】
<金ナノロッド>
トナーは、金ナノロッドを含有する。ここで、金ナノロッドとは、金の含有割合が80%以上であるナノロッドであることを意味する。
【0028】
金ナノロッドとは、金を主成分とし、TEM画像において長軸径と短軸径を有する微細な金属材料を指す。即ち、TEM画像における金ナノロッドは、略長方形として観察される。一般に、短軸の長さが1nm~60nm、長軸の長さが20nm~500nmである。また、金ナノロッドの長軸長さを短軸長さで除したアスペクト比に応じて、長軸に起因する光吸収が650nm~2000nmに表れ、アスペクト比が大きいほど吸収波長が長波長側へシフトするという特徴がある。一方で、短軸に起因する光吸収はアスペクト比にはほとんど影響されず、530nm付近に表れるということが分かった。
【0029】
本開示においては、アスペクト比が1.5以上のものを金ナノロッドとして取り扱い、アスペクト比が1.5未満であるものを金ナノ粒子として取り扱う。
【0030】
金ナノロッド中における、金元素と金以外の金属元素の配置は、原子レベルで複合化された合金状であっても、金単体のナノロッドを金以外の金属元素で被覆したコア-シェル状でも良い。また、金ナノロッドは、例えば、シリカやポリスチレンなどで構成されたシェルで被覆されていても良い。更に、金ナノロッドを媒質中に分散させるため等、目的に応じて、金ナノロッド表面は界面活性剤等の適当な分子で修飾されていてもよい。
【0031】
また、優れた不可視性を有するトナーが得られやすいため、トナー中に含有されるPEDOT-PSSの質量に対する金ナノロッドの質量の割合が、0.01~10.00であることが好ましい。より好ましくは0.05以上であり、また、5.00以下である。
【0032】
また、優れた赤外読み取り性を有するトナーが得られやすいため、トナーに含有される金ナノロッドの光吸収波長を測定したとき、1000~1800nmの波長域にピークトップを有することが好ましい。
【0033】
<金ナノロッドの調製方法>
金ナノロッドは、例えば、B.NikoobakftとM.A.El-Sayedによって提案された方法によって合成することができる(非特許文献1)。具体的には、2種類の界面活性剤(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドとベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド)を含有する水溶液中において、塩化金酸(HAuCl4)をアスコルビン酸で還元して合成する方法である。この方法であると、界面活性剤が金ナノ粒子の特定の結晶面に吸着し、当該結晶面の成長が抑制されるため、異方性の金ナノロッドが合成される。
【0034】
図2に上記の方法で合成した金ナノロッドの光吸収スペクトルを示す。合成した金ナノロッドは、アスペクト比4~6を中心として、広いアスペクト比分布を有しており、650~2000nmの波長域において大きな光吸収を示した。また、530nm付近にも小さな光吸収を示し、該金ナノロッドは赤色~紫色を呈していた。
【0035】
<トナー及びトナー粒子>
トナー粒子は、樹脂成分を含有する。また、トナーに含有される金ナノロッドとPEDOT-PSSの合計質量の、樹脂成分の質量に対する割合が、0.01~1.00質量%であることが好ましい。0.01質量%以上であると、定着画像が十分に赤外吸収性を有しやすく、優れた読み取り性を有する画像が得られやすい。また、1.00質量%以下であると、画像の明度が過小になりにくく、可視光領域における優れた不可視性を有する画像が得られやすい。また樹脂成分は結着樹脂であることが好ましい。
【0036】
トナー中におけるPEDOT-PSS及び金ナノロッドの存在する位置及び分散状態には特に制限はない。即ち、PEDOT-PSS及び金ナノロッドは、結着樹脂中に均一に分散していても、中心部又は表面部に偏在していてもよい。また、PEDOT-PSS及び金ナノロッドは、ワックス中や、外添剤中に含有されてもよい。
【0037】
<赤外領域における光の吸収率>
また、トナーの載り量を0.30mg/cm2として形成した定着画像に対して光吸収スペクトルを測定したとき、900~1800nmの波長域における最大の吸収率が12%以上であることが好ましい。この波長範囲は赤外(近赤外~短波長赤外)領域に対応する波長領域であり、最大の吸収率が12%以上であれば、赤外線カメラなどを用いて不可視画像を明瞭に読み取りやすい。より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。
【0038】
赤外領域における光の吸収率は、トナーを製造する際に用いるPEDOT-PSS及び金ナノロッドの質量を調整することにより制御できる。
【0039】
<樹脂成分>
トナー粒子に含有される樹脂成分としては特に限定されず、具体的には、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が例示でき、これらは単独で、あるいは混合して使用できる。より好ましくは、ビニル系樹脂及びポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1つである。また、該群より選択される少なくとも1つの樹脂がメインバインダーであることがさらに好ましい。また、樹脂成分は、分子構造が線状の樹脂、分岐状の樹脂、架橋された樹脂の何れでも良く、これらの混合物でも良い。樹脂成分は結着樹脂であることが好ましい。
【0040】
<各種添加剤>
トナーは必要により、ワックス、荷電制御剤、及び外添剤などから選ばれる1種以上の添加剤を含有してもよい。また、本開示に係るトナーは、定着画像を可視画像とさせるような着色成分を含有しないことが好ましい。
【0041】
<ワックス>
ワックスとしては特に限定されないが、無色あるいは淡色のワックスが好ましく、以下のものが挙げられる。
【0042】
炭化水素ワックス、エステルワックス、アミドワックス、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸など。ワックスは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0043】
<荷電制御剤>
荷電制御剤としては特に限定されないが、無色あるいは淡色の荷電制御剤が好ましく、以下のものが挙げられる。
【0044】
芳香族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸の金属化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーン、スルホン酸(塩)基を有する樹脂、スルホン酸エステル基を有する樹脂など。荷電制御剤は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0045】
<外添剤>
外添剤としては特に限定されないが、無色あるいは淡色のものが好ましく、以下のものが挙げられる。
【0046】
シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛など。また、外添剤の表面が疎水化処理されていてもよい。
【0047】
<トナー粒子の製造方法>
トナー粒子は、粉砕法や重合法などによって製造することができるが、これらに限定されない。
【0048】
粉砕法によるトナー粒子の製造方法の1例について説明する。結着樹脂とPEDOT-PSSと金ナノロッドの他、ワックスや帯電制御剤等の添加剤を十分混合した後、三本ロール型、一軸又は二軸スクリュー型、バンバリーミキサー型等の装置を用いて溶融混錬し、溶融混練物を得る。この溶融混錬物を冷却固化した後、粉砕及び分級してトナー粒子を得る。このトナー粒子は、例えばハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所)やメカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社)による平滑化、ファカルティ(ホソカワミクロン社)による球形化をすることができる。また、このような粉砕法においては、樹脂に対するPEDOT-PSSと金ナノロッドの含有量が高くなるように溶融混錬して一旦マスターバッチを作製した後、このマスターバッチと樹脂を用いてさらに溶融混練を行う工程を含んでも良い。この工程によって、トナー粒子中のPEDOT-PSSと金ナノロッドの分散性を向上させることができる。
【0049】
重合法によるトナー粒子の製造方法の例について説明する。懸濁重合法と乳化重合法が代表的な重合法である。
【0050】
懸濁重合法では、スチレン、ブチルアクリレート等の重合性モノマーとPEDOT-PSSと金ナノロッドの他、ワックス、帯電制御剤、重合開始剤、架橋剤等の添加剤からなる混合物を作製する。作製した混合物を、懸濁安定化剤と懸濁安定化を分散するための界面活性剤を含有した水相中に、ホモジナイザー等で懸濁させる。懸濁安定化剤としては、アルカリ土類金属のリン酸塩、炭酸塩、硫酸塩のような無機化合物やポリビニルアルコール、ゼラチン、エチルセルロースのような有機化合物が用いられる。この懸濁液を加熱することによって、水相に懸濁している混合物中の重合性モノマーを重合してトナー粒子を得る。
【0051】
乳化重合法では、水溶性重合開始剤が溶解した水相中にスチレン、ブチルアクリレート等の重合性モノマーと界面活性剤を添加する。調製した混合液を強力なせん断力を加えながら加熱、重合して樹脂粒子を得る。この樹脂粒子の分散液に、PEDOT-PSSと金ナノロッドの他、帯電制御剤、ワックス等の添加剤を混合した後、更に、凝集剤等を添加して各粒子が凝集した凝集体粒子を生成させる。この凝集体粒子を樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱、融着してトナー粒子を得る。
【0052】
また、粉砕法又は重合法によって製造したトナー粒子には、必要に応じて、外添剤を添加してもよい。
【0053】
<画像の読み取り方法>
本開示に係るトナーを用いて形成された画像の読み取り方法は特に制限されない。本開示に係るトナーを用いて形成された画像は、近赤外領域の波長を吸収しやすいため、近赤外線センサを搭載した装置を用いる画像読み取り方法であることが好ましい。より好ましくは、InGaAsセンサを搭載した装置を用いることであり、さらに好ましくは、InGaAsカメラを用いることである。また、900~2500nmの波長域の光を用いる画像読み取り方法であることが好ましい。より好ましくは900~1800nmの波長域である。
【0054】
画像の読み取り方法の一例として、本発明者らが行った操作を以下に示す。
【0055】
本開示に係るトナーと用いて評価画像を形成した後、
図3に示すように光源202とカメラ203を設置し、評価画像201の観察を行った。即ち、机上に評価画像を静置し、評価画像に対して15°の角度で約1m離れたところから光源202を用いて赤外線を照射した。また、評価画像の真上15cmのところにカメラ203を設置し、撮影した。光源202としては、可視光カットフィルターユニットを取り付けたハロゲンランプ光源(商品名:PCS-UHX-150、日本ピー・アイ社製)を使用した。また、カメラ203としては、800nm以下の波長成分をカットするフィルタをレンズ部に装着した近赤外カメラ(商品名:NVU3VD、アイアールスペック社製、InGaAsカメラ)を使用した。該近赤外カメラの分光感度波長域は、970~1650nmであった。
【0056】
<トナーの分析方法>
トナー中に含有されるPEDOT-PSS及び金ナノロッドの定量方法について説明する。まず、トナー中の樹脂成分などをトルエン等の有機溶媒で溶解し、この溶液を15000~20000rpmで遠心分離して、密度の高い金ナノロッドを取り出し、質量を測定できる。また、金ナノロッドを適当な溶媒に分散した液を専用グリッドに滴下、乾燥後、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びTEMに搭載したエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、金ナノロッドの形状(長軸径、短軸径、アスペクト比等)、組成を確認できる。
【0057】
また、上記のトナーを溶解した有機溶媒に水を添加して、親水的なPEDOT-PSSを水相に抽出することができる。抽出したPEDOT-PSSは、フーリエ変換赤外分光測定(FT-IR)、核磁気共鳴スペクトル測定(NMR)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)等によって定性、定量分析することができる。溶解させた樹脂成分の質量と、定量したPEDOT-PSS及び金ナノロッドの質量から、樹脂成分の質量に対するPEDOT-PSS及び金ナノロッドの質量の割合や、PEDOT-PSSの質量に対する金ナノロッドの質量の比などを算出できる。
【実施例】
【0058】
実施例を挙げて本開示を更に詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
[金ナノロッド分散液の調製]
先ず、シード粒子溶液を調製した。0.0005mol/Lの塩化金酸四水和物(キシダ化学株式会社)水溶液500Lと0.2mol/Lの臭化セチルトリメチルアンモニウム(キシダ化学株式会社)水溶液500mLを混合した。この水溶液に0.01mol/Lの水素化ホウ素ナトリウム(東京化成工業株式会社)60mLを添加することによって、シード粒子溶液(溶液A)を得た。
【0060】
0.15mol/L塩化ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム(東京化成工業株式会社)水溶液500mLに臭化セチルトリメチルアンモニウム3gを溶解した。この二種類の界面活性剤を含有した水溶液に0.004mol/Lの硝酸銀水溶液20mLを添加した。この水溶液に0.001mol/L塩化金酸四水和物水溶液500mLを添加した後、更に、0.078mol/LのL-アスコルビン酸水溶液(キシダ化学株式会社)7mLを添加した。この溶液を溶液Bとした。
【0061】
溶液Bに溶液A1.2mLを滴下した。この溶液を30℃で1週間保持し、核としてのシード粒子を異方的に成長させ、金ナノロッド水分散液を得た。
【0062】
上記金ナノロッド水分散液の分散媒を水からTHFに置換して、金ナノロッドTHF分散液とした。該分散液に含有される金ナノロッドの光吸収スペクトルを
図2に示す。該スペクトルは、分光光度計(商品名:V-670、日本分光社)を用いて測定した。
【0063】
[トナー粒子の製造工程]
・ポリエステル1(エチレンオキサイド変性ビスフェノールAとテレフタル酸との重縮合物、ガラス転移温度60℃、重量平均分子量29000、数平均分子量6000) 5質量部
・材料A:PEDOT-PSS(デナトロンPT-300、ナガセケムテックス社製) 0.727質量部
・材料B:金ナノロッドTHF分散液 (金ナノロッド固形分が0.073質量部となるように金ナノロッドTHF分散液を使用)
上記材料を混合した混合物を調製した。この際、PEDOT-PSSは、凍結乾燥した後、ボールミルで微粉砕してから使用した。また、該PEDOT-PSSの光吸収スペクトルを
図1に示す。光吸収スペクトルの測定には、分光光度計(商品名:V-670、日本分光社)を用いた。
【0064】
上記の混合物のTHFを蒸発させた後、ハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物を得た。なお、上記のデナトロンPT-300はPEDOT-PSSである。
【0065】
得られた粗粉砕物に、95質量部のポリエステル1及び5質量部のエステルワックスを添加して、ミキサー(FMミキサ、日本コークス工業社製)で混合した後、温度130℃に設定した二軸混錬機(PCM30、池貝社製)で溶融混錬し、混練物を得た。混錬物を冷却固化し、ハンマーミルで粗粉砕した後、乾式粉砕機(T250、フロイント・ターボ社製)で微粉砕した。この粉末を回転型分級機(200TSP、ホソカワミクロン社製)で分級して、トナー粒子を得た。
【0066】
[外添工程]
得られたトナー粒子100質量部と、ヘキサメチルジシラザンで表面処理された疎水性シリカ微粉体(一次粒子の個数平均粒径7nm)1質量部をミキサーで混合し、トナー1を得た。
【0067】
[評価]
得られたトナー1を用いて以下の評価を行った。
【0068】
(1)赤外領域における読み取り性の評価
画像形成装置として、現像コントラストを自由に変更できるように改造したカラープリンター(商品名:LBP652C、キヤノン社製)を使用し、ブラック現像器内のトナーを、トナー1と入れ替えた。出力用紙としてA4用紙(商品名:GF-C081、キヤノンマーケテイングジャパン社)を使用し、温度25℃、相対湿度60%の環境下で、以下のサンプル画像を出力した。
・サンプル画像:トナー1の載り量が0.30mg/cm2となるようにした、1cm×10cmの長方形画像。
【0069】
上記のサンプル画像について、紫外可視近赤外分光光度計(商品名:MV-3300、日本分光社製)を使用して、波長900~1800nmの波長域の分光分析測定を行った。該測定から得られる最大の吸収率をサンプル画像の測定値とした。ブランクとして紙単体の分光分析測定も行い、サンプル画像の測定値からブランクの測定値を差し引いた値を赤外吸収率(%)とし、この値を用いてトナー1の読み取り性を評価した。結果を表2に示す。該赤外吸収率(%)が12%以上であるものを本開示の効果が得られているものと判断した。
【0070】
(2)不可視性の評価
上記のサンプル画像を目視で確認し、不可視性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:長方形画像の判別が困難
B:長方形画像の判別がやや困難
C:長方形画像の判別が容易とも困難ともいえない
D:長方形画像の判別がやや容易
E:長方形画像の判別が容易
上記の評価基準において、A又はBであったものを、優れた不可視性を有するものと判断した。
【0071】
<実施例2、3>
材料A、材料Bの種類、及び添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、トナー2、3を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0072】
<実施例4>
[水系媒体の調製工程]
イオン交換水1000質量部にリン酸ナトリウム・12水和物14質量部を溶解し、窒素パージしながら65℃で1時間保温した。その後、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製ホモミクサー)を使用して、12000rpmで攪拌した。イオン交換水20質量部に9.2質量部の塩化カルシウム・2水和物を溶解した塩化カルシウム水溶液を一括投入し、微細な分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
【0073】
[重合性モノマー組成物の調製工程]
スチレンを113.8質量部、上記PEDOT-PSSを0.133質量部、上記金ナノロッド0.067質量部を、湿式微粉砕機(アトライタ、日本コークス工業社製)を使用して、220rpmで5時間処理することによって、PEDOT-PSSと金ナノロッドのスチレン分散液を得た。得られたスチレン分散液に、スチレンを45質量部、n-ブチルアクリレートを34質量部、サリチル酸アルミニウム化合物を1質量部、ポリエステル1を5質量部、エステルワックスを10質量部、ジビニルベンゼンを0.1質量部を添加して混合物を得た。この混合物を高速乳化・分散機を使用して、65℃に保持しながら500rpmで分散し、重合性モノマー組成物を調製した。
【0074】
[造粒工程]
上記の水系媒体の温度を70℃に保持し、高速乳化・分散機を12000rpmで稼働しながら、該水系媒体中に上記重合性モノマー組成物とt-ブチルパーオキシピバレート10質量部を添加し、10分間造粒した。
【0075】
[重合工程]
造粒後、150rpmで撹拌しながら70℃を保持して5時間重合を行い、その後85℃に昇温して2時間加熱することで重合反応を完結させた。
【0076】
[洗浄、乾燥工程]
重合工程終了後、液温を室温まで降温し、希塩酸を滴下してpH1.5に調整した後、3時間撹拌した。その後、濾過、洗浄を繰り返し、トナーケーキを得た。このトナーケーキを解砕後、気流乾燥機にて乾燥を行い、更に、コアンダ効果を利用した多分割分級機を使用して分級してトナー粒子を得た。
【0077】
[外添工程]
得られたトナー粒子100質量部とヘキサメチルジシラザンで表面処理された疎水性シリカ微粉体(一次粒子の個数平均粒径7nm)1質量部とをミキサーで混合してトナー4を得た。
【0078】
[評価]
得られたトナー4を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
<実施例5、6>
PEDOT-PSS及び金ナノロッドの添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様の操作を行って、トナー5、6を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0080】
<比較例1~4>
材料A、材料Bの種類、及び添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、トナー7~10を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0081】
【0082】