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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】超電導コイル及び超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20241007BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/06 120
H01F6/06 110
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021070917
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165541
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149863(JP,A)
【文献】特開2020-31128(JP,A)
【文献】特開2020-25014(JP,A)
【文献】特表2013-515331(JP,A)
【文献】米国特許第4760365(US,A)
【文献】特表2016-507159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/02
H01F 6/06
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻枠の周囲に超電導線材を巻き回して形成された巻線部と、
前記巻線部の側面に設けられ、絶縁性樹脂に導電性粉末が混入されて前記巻線部に生じた常電導転移領域を迂回するように電流を転流させる迂回路としての導電性樹脂層と、を有し、
前記導電性樹脂層には、前記絶縁性樹脂と濡れ性を有し且つ絶縁性の含浸補助繊維が、コイル軸方向に対し垂直方向に配向して設けられたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記超電導線材は、高温超電導線材であることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記含浸補助繊維は、ガラス繊維及びアラミド繊維の少なくとも一方からなることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記導電性樹脂層内の複数の含浸補助繊維からなる含浸補助繊維群は、異なる方向の前記含浸補助繊維が斜交または直交した織布の形態であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記含浸補助繊維の1本または1束は、その始端と終端が、導電性樹脂層の内側縁と外側縁、または前記外側縁の一点と前記外側縁の他点に、それぞれ位置づけられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記導電性樹脂層内の複数の含浸補助繊維からなる含浸補助繊維群は、異なる方向の前記含浸補助繊維が斜交または直交した織布が、複数重ね合された積層織布の形態であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記導電性樹脂層内の複数の含浸補助繊維からなる含浸補助繊維群は、複数の前記含浸補助繊維が束ねられた繊維束、撚られた繊維束、または編み込まれた繊維束を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項8】
前記導電性樹脂層の外表面に、絶縁性の樹脂がコーティングされたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の超電導コイルを有することを特徴とする超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材により形成された巻線部の側面に電気的な迂回路としての導電性樹脂層が設けられた超電導コイル、及びこの超電導コイルを有する超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材には、超電導状態を維持できる電流、温度、磁場の範囲、いわゆる臨界電流、臨界温度、臨界磁場が存在する。従って、電気抵抗がほぼゼロといえども無限に電流が流せるわけではなく、いずれかの臨界値を超えると、常電導状態への転移現象、すなわちクエンチが発生する。このようなクエンチによる常電導転移領域でのジュール発熱は、瞬時に超電導コイルを熱暴走させ、最悪の場合には焼損に至る危険性があるため、クエンチに対する保護技術が不可欠である。
【0003】
クエンチ保護に関する従来技術としては、例えば超電導コイルと並列に保護抵抗をつなぐ技術がある。この技術は、常電導状態に転移することで発生するコイル電圧や温度上昇を検出し、これをトリガーとして励磁電源を遮断するものである。遮断後には超電導コイルと保護抵抗が閉回路になるため、室温部に配置された保護抵抗のジュール発熱により超電導コイルの蓄積エネルギが消費され、超電導コイルに流れる電流を減衰させることが可能になる。
【0004】
このような超電導コイルに使用する超電導線材として、例えばBiSrCaCu10+x線材やRE1線材といった高温超電導線材がある。この高温超電導線材を用いた高温超電導コイルでは、従来のNbTiなどの低温超電導線材に比べて、20K~50Kといった高い温度でも高い臨界電流密度を有するため、高温での高電流密度運転が可能になる。
【0005】
しかしながら、高電流密度運転時にクエンチが生じた場合、20K~50Kの温度範囲では、低温超電導線材を用いた超電導コイルの運転温度よりも比熱が大きいため常電導転移領域の拡大が遅く、また、高電流密度運転すると発熱密度も高くなる。このため、前述の従来技術のクエンチ保護技術では、クエンチを検知する前に高温超電導コイルに局所的な熱暴走が発生して、万一の場合には焼損する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-103352号公報
【文献】特開2018-129519号公報
【文献】特開2010-267835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1及び2に記載のように、巻線部の側面に電気的な迂回路を設けることで、超電導状態から常電導状態に転移する際に電流を、常電導転移領域を迂回するように隣接するターンへ転流させ、超電導コイルの内部における局所的温度上昇及び熱暴走を未然に防止する技術が提案されている。
【0008】
これらの特許文献1及び2には電気的な迂回路の具体的構成の一つとして、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、金属微粒子、金属酸化物、金属繊維、金属コートした微粒子、金属コートした合成繊維のうち少なくとも一つを含む導電性粉末を含浸材である絶縁性樹脂に混入した導電性樹脂層を、巻線部の側面に設けることで電気的な迂回路を形成する構成が提案されている。
【0009】
しかしながら、導電性樹脂層の内部においては、導電性粉末の金属表面と含浸材である絶縁性樹脂とが異種材料であるため濡れ性が悪く、導電性粉末は絶縁性樹脂の内部で十分に分散されずに偏りが生じてしまう。場合によっては、図9に示す超電導コイル100のように、巻線部101の側面に設けられた導電性樹脂層102に欠落部(抜け部)103が生じてしまう。
【0010】
その結果、超電導コイル100としての機械的強度が低下すると同時に、巻線部101の側面の導電性樹脂層102において、電気的な迂回路の抵抗値(迂回抵抗)が高い領域と低い領域の分布が生じるほか、電気的な迂回路が形成されない領域が生じてしまう。このため、迂回抵抗が高い領域や電気的な迂回路が形成されない領域付近でクエンチが発生すると、クエンチ発生時に常電導転移領域を迂回するように隣接するターンへ電流を転流させることができなくなる恐れがある。
【0011】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導コイルの機械強度を確保しつつ、超電導コイルのどの領域でクエンチが発生したとしても、常電導転移領域を迂回して電流を転流させることで超電導コイルを確実に保護できる超電導コイル及び超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態における超電導コイルは、巻枠の周囲に超電導線材を巻き回して形成された巻線部と、前記巻線部の側面に設けられ、絶縁性樹脂に導電性粉末が混入されて前記巻線部に生じた常電導転移領域を迂回するように電流を転流させる迂回路としての導電性樹脂層と、を有し、前記導電性樹脂層には、前記絶縁性樹脂と濡れ性を有し且つ絶縁性の含浸補助繊維が、コイル軸方向に対し垂直方向に配向して設けられたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の実施形態における超電導コイル装置は、前記実施形態に記載の超電導コイルを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルの機械強度を確保しつつ、超電導コイルのどの領域でクエンチが発生したとしても、常電導転移領域を迂回して電流を転流させることで超電導コイルを確実に保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルを示し、(A)がその斜視図、(B)が図1(A)のIB-IB線に沿う巻線部の断面図。
図2図1の高温超電導コイルを構成する高温超電導線材の一例を示す斜視図。
図3図1(B)のIII部の拡大断面図。
図4】第1実施形態の変形形態を示す図3に対応する拡大断面図。
図5】第2実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける導電性樹脂層の平面図。
図6】第3実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける巻線部の図3に対応する拡大断面図。
図7】第4実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける導電性樹脂層の部分拡大平面図。
図8】第5実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける巻線部の図3に対応する拡大断面図。
図9】従来の高温超電導コイルの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図4
図1は、第1実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルを示し、(A)がその斜視図、(B)が図1(A)のIB-IB線に沿う巻線部の断面図である。また、図2は、図1の高温超電導コイルを構成する高温超電導線材の一例を示す斜視図である。図1に示す超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置10を構成する超電導コイルとしての高温超電導コイル11は、超電導線材としての図2に示す高温超電導線材(高温超電導テープ線)12が、図3に示す絶縁線材(絶縁テープ線)13と共に巻枠15の周囲に渦巻状に巻き回されて、いわゆるパンケーキ形状の巻線部16を形成したものである。
【0017】
この高温超電導コイル11の巻線部16におけるコイル軸方向Oの両側面16A、16Bには、後述の導電性樹脂層17が設けられている。また、上述の高温超電導コイル11は、巻線部16がパンケーキ形状であることから、いわゆるパンケーキコイルと称される。ここで、巻枠15は、ガラス繊維強化プラスチックや補強型PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁材から構成されている。
【0018】
高温超電導線材12は、図2に示すように、少なくともテープ基板2と中間層3と超電導層4とを有し、それらの両面が安定化層5で被覆されて構成される。また、必要に応じて、テープ基板2と中間層3との間に配向層6が、超電導層4と安定化層5との間に保護層7がそれぞれ設けられてもよい。
【0019】
テープ基板2は、例えば、ハステロイ(登録商標)やNiWを含むNi基合金などの高強度金属等の材質で形成される。また、中間層3は拡散防止層であり、例えば、酸化セリウム、YSZ、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニアなどの材質からなり、テープ基板2上に形成される。
【0020】
超電導層4は、例えば、RE123系の組成(RE等)やBiSrCaCu10+x線材などのビスマス系の組成を有する酸化物超電導体の薄膜からなる。なお、「RE」の「RE」は、希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)等)及びイットリウム元素の少なくとも一方を、「B」はバリウム(Ba)を、「C」は銅(Cu)を、「O」は酸素(O)を意味している。また、安定化層5は、超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼するのを防止する目的で設けられ、導電性の銀等から形成される。
【0021】
配向層6は、テープ基板2上に中間層3を配向させて形成する目的で設けられ、酸化マグネシウム(MgO)等から形成される。なお、配向したテープ基板2を用いる場合には配向層6を省略することができる。また、保護層7は、超電導層4が空気中の水分に触れて劣化するのを防止する等の目的で設けられ、銀等から形成される。なお、保護層7も超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼することを防止する機能を果たしている。
【0022】
このような多層構造の高温超電導線材(高温超電導テープ線)12のテープ幅wは例えば4~12mm、テープ厚さtは0.1~0.2mmとされる。また、高温超電導線材(高温超電導テープ線)12は、長手方向の機械強度に優れる一方、テープ面垂直方向の引張応力(剥離応力)には脆弱であるという特徴を持つ。また、高温超電導線材12の周囲をポリイミドやポリイミドアミドのような絶縁材で被覆した絶縁被覆の高温超電導線材としてもよい。
【0023】
一般に、高温超電導コイル装置では、室温から極低温まで高温超電導コイルを冷却すると、この高温超電導コイルの内部における個々の部材の線膨張率の異方性により、高温超電導線材に剥離応力が発生する。この剥離応力が高温超電導線材の許容剥離応力を超える場合には、高温超電導線材の超電導特性が低下してしまい、定格電流を通電することができなくなる。そこで、特許文献3では、巻線部の一部のターンに接着力の弱い箇所を設けることで巻線部を内外径比の小さな複数の部分に分割し、高温超電導線材に生ずる剥離応力を許容剥離応力以下に低下させる技術が提案されている。
【0024】
つまり、巻線部の一部のターンに、エポキシ樹脂等の絶縁性の含浸材との接着力を弱める離形材が設けられる。これにより、巻線部を内外径比の小さな複数の部分に分割することで、高温超電導線材に作用する剥離応力を低減することが可能になる。離形材としては、例えばフッ素樹脂テープ、パラフィン、グリース、シリコンオイルの少なくとも一種が好ましい。本第1実施形態の高温超電導コイル装置10においても、図示はしないが、上記離形材を、高温超電導線材12の全長と絶縁線材13の全長との少なくとも一方に接着、塗布またはコーティングすることで、高温超電導線材12において剥離応力による超電導特性の低下を防止することが可能になる。
【0025】
ところで、図3に示す前述の導電性樹脂層17は、巻線部16の一側面16A、及びこの一側面16Aと反対側の他側面16Bのそれぞれの全面に設けられ、絶縁性樹脂20に導電性粉末21が混入されて構成される。この導電性樹脂層17の抵抗値は、通常運転時においての超電導コイル11の高温超電導線材12の抵抗より大きく、かつこの超電導コイル11の高温超電導線材12の常電導転移時の抵抗よりも小さい抵抗値に調整されている。この抵抗値の調整によって、導電性樹脂層17は、巻線部16の高温超電導線材12におけるクエンチ発生時に、巻線部16の高温超電導線材12に生じた常電導転移領域18を迂回するように電流Iを隣接するターンへ転流させる電気的な迂回路として機能する。
【0026】
ここで、導電性粉末21は、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、銀、銅、真鍮、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属微粒子、金属酸化物、銀、銅、真鍮、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属繊維、銀、銅、真鍮、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属をコートした微粒子、及び銀、銅、真鍮、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属をコートした合成繊維の少なくとも一つを含むものである。
【0027】
上記導電性樹脂層17には、絶縁性樹脂20との濡れ性を良好に有し且つ絶縁性の含浸補助繊維22が、コイル軸方向Oに対し垂直方向に配向して設けられる。この含浸補助繊維22の材質としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維がある。これらの材質は、金属材料に比べて、エポキシ等の絶縁性樹脂20との濡れ性が良好であり、特にガラス繊維もしくはアラミド繊維が好適である。なお、上述の繊維を組み合わせて含浸補助繊維22としてもよい。
【0028】
含浸補助繊維22は、導電性樹脂層17内でコイル軸方向Oに対し垂直方向に延びて配向され、導電性樹脂層17内に張り巡らされる。このとき、含浸補助繊維22は、部分的に湾曲したり、コイル径方向に対し斜めに延びたり、導電性樹脂層17の厚さが薄い場合には湾曲せず直線状に延びてもよい。
【0029】
含浸補助繊維22が導電性樹脂層17内で絶縁性樹脂20との濡れ性が良好であるため、導電性樹脂層17内の絶縁性樹脂20は含浸補助繊維22の表面周囲に付着して広がる。これにより、導電性樹脂層17に欠落部103(図9)の発生を防止することができると共に、導電性樹脂層17の絶縁性樹脂20内で導電性粉末21の凝集が阻止されて、この導電性粉末21を絶縁性樹脂20内で良好に分散させることが可能になり、導電性樹脂層17における導電性粉末21の偏りを防止することができる。
【0030】
また、巻線部16の両側面16A及び16Bに、導電性樹脂層17及び含浸補助繊維22を必ずしも設ける必要はない。つまり、図4に示すように、導電性樹脂層17の迂回抵抗を適切に設定すれば、巻線部16の片方の側面(例えば他側面16B)には、エポキシ等の通常の絶縁性樹脂を含浸硬化させて絶縁性樹脂層23を設けてもよい。冷却用の伝熱部材(不図示)などを付属する場合には、絶縁性樹脂層23によって、上記伝熱部材と高温超電導コイル11との絶縁性を確保することが可能になる。
【0031】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)高温超電導コイル11には、絶縁性樹脂20に導電性粉末21が混入されてなる電気的迂回路としての導電性樹脂層17に、絶縁性樹脂20との濡れ性が良好で且つ絶縁性の含浸補助繊維22が、コイル軸方向Oに対し垂直方向に配向して設けられている。このため、含浸補助繊維22の表面周囲に絶縁性樹脂20が付着して広がり、導電性樹脂層17に欠落部103(図9)の発生を防止することができると共に、絶縁性樹脂20内で導電性粉末21の凝集が阻止されて、この導電性粉末21を絶縁性樹脂20内で良好に分散させることができる。
【0032】
上述のように、導電性樹脂層17に欠落部103(図9)の発生が防止されることで、高温超電導コイル11の機械強度を確保できる。更に、導電性樹脂層17の絶縁性樹脂20内で導電性粉末21が良好に分散してその偏りが防止されることで、導電性樹脂層17における迂回抵抗の不均一な分布を抑制できる。この結果、高温超電導コイル11の巻線部16のどの領域でクエンチ発生したとしても、常電導転移領域18を迂回して隣接するターンへ電流Iを転流させることで高温超電導コイル11の熱暴走を防止でき、高温超電導コイル11を確実に保護することができる。
【0033】
[B]第2実施形態(図5
図5は、第2実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける導電性樹脂層の平面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0034】
本第2実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置における超電導コイルとしての高温超電導コイル25が第1実施形態と異なる点は、導電性樹脂層17内の複数の含浸補助繊維22からなる含浸補助繊維群26が、異なる方向の含浸補助繊維22を斜交または直交させて織布の形態とした点である。
【0035】
更に、織布の形態の含浸補助繊維群26における1本もしくは一束の含浸補助繊維22は、その始端と終端が、導電性樹脂層17の内側縁28と外側縁29とにそれぞれ位置づけられ、またはその始端と終端が、導電性樹脂層17の外側縁29の一点と同じく外側縁29の他点とにそれぞれ位置づけられている。これにより、含浸補助繊維群26は織布として、導電性樹脂層17の内側縁28から外側縁29までの範囲の隅々まで、導電性樹脂層17の全域に亘って含浸補助繊維22を網目状に張り巡らせることが可能になる。
【0036】
以上のように、本第2実施形態の高温超電導コイル25によれば、含浸補助繊維群26の含浸補助繊維22が導電性樹脂層17の全域に亘って網目状に張り巡らされたことで、導電性樹脂層17の絶縁性樹脂20内で導電性粉末21をより均一に分散させることができる。従って、本第2実施形態の高温超電導コイル25によれば、第1実施形態の効果(1)と同様、またはそれ以上の効果を奏することができる。
【0037】
[C]第3実施形態(図6
図6は、第3実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける巻線部の図3に対応する拡大断面図である。この第3実施形態においても第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0038】
本第3実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置における超電導コイルとしての高温超電導コイル31が第1及び第2実施形態と異なる点は、導電性樹脂層17内の複数の含浸補助繊維22からなる含浸補助繊維群32が、異なる方向の含浸補助繊維22を斜交または直交させて織布とした含浸補助繊維群26を、導電性樹脂層17の厚さ方向(即ちコイル軸方向O)に複数重ね合せた複層織布の形態として構成された点である。
【0039】
高温超電導線材12のクエンチ特性によっては、導電性樹脂層17の迂回抵抗を低くするために、導電性樹脂層17において導電性粉末21の比率を増やすか、導電性粉末21の材質を変更する構成のほか、迂回路としての導電性樹脂層17の断面積を拡大させるべく、導電性樹脂層17を厚くする構成が考えられる。
【0040】
本第3実施形態では、上述のように導電性樹脂層17が厚く形成された場合に、織布としての含浸補助繊維群26が導電性樹脂層17の厚さ方向に複数重ね合されて、含浸補助繊維群32が複層織布として構成されている。このため、導電性樹脂層17の絶縁性樹脂20内で導電性粉末21が、導電性樹脂層17の厚さ方向(コイル軸方向O)に良好に分散されて、その偏りが防止される。更に、導電性樹脂層17の厚さ方向(コイル軸方向O)において、導電性樹脂層17の欠落部103(図9)の発生が防止される。
【0041】
以上のように、本第3実施形態の高温超電導コイル31によれば、含浸補助繊維22により形成された織布としての含浸補助繊維群26が、導電性樹脂層17の厚さ方向に重ね合されて含浸補助繊維群32が複層織布として構成されたので、導電性樹脂層17の厚さが厚い場合であっても、第1実施形態の効果(1)と同様、またはそれ以上の効果を奏することができる。
【0042】
[D]第4実施形態(図7
図7は、第4実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける導電性樹脂層の部分拡大平面図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0043】
本第4実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置における超電導コイルとしての高温超電導コイル41が第1実施形態と異なる点は、導電性樹脂層17内の複数の含浸補助繊維22からなる含浸補助繊維群42が、複数本の含浸補助繊維22を束ねた繊維束、撚った繊維束、または編み込んだ繊維束を含んで構成された点である。
【0044】
上述のように、導電性樹脂層17内の含浸補助繊維群42は、複数本の含浸補助繊維22が束ねられた繊維束、撚られた繊維束、または編み込まれた繊維束を含んで構成されたので、その機械強度を向上させることができる。従って、本第4実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、高温超電導コイル41の機械強度を向上させることができる。
【0045】
[E]第5実施形態(図8
図8は、第5実施形態に係る超電導コイルが適用された高温超電導コイルにおける巻線部の図3に対応する拡大断面図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0046】
本第5実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置における超電導コイルとしての高温超電導コイル51が第1実施形態と異なる点は、含浸補助繊維22が配向された導電性樹脂層17の外表面に、絶縁性の樹脂がコーティングされて樹脂コーティング層52が設けられた点である。この樹脂コーティング層52は、巻線部16の一側面16A側と他側面16B側の両方に設けられてもよいが、片方のみに設けられてもよい。
【0047】
本第5実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、高温超電導コイル51における巻線部16の側面16A、16Bに設けられた導電性樹脂層17の外表面に樹脂コーティング層52が設けられたことで、高温超電導コイル51の機械強度を向上させることができる。
【0048】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0049】
例えば、前述の各実施形態では、高温超電導コイル11、25、31、41及び51が円形状のシングルパンケーキコイルの場合を述べたが、円形状に限定されるものではなく、レーストラック型、鞍型、楕円型などの非円形状の高温超電導コイルであってもよい。また、各実施形態の高温超電導コイル11、25、31、41及び51は、シングルパンケーキコイルを複数積層した積層型の高温超電導コイルであってもよい。
【0050】
更に、各実施形態の高温超電導コイル11、25、31、41及び51は、2積層の高温超電導コイルの最内周において、互いに隣接する各高温超電導コイルの高温超電導線材がコイル軸方向に連続して繋がった所謂ダブルパンケーキコイルであってもよく、また、シングルパンケーキコイルとダブルパンケーキコイルとを組み合わせて積層してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…高温超電導コイル装置、11…高温超電導コイル、12…高温超電導線材、15…巻枠、16…巻線部、16A…一側面、16B…他側面、17…導電性樹脂層、18…常電導転移領域、20…絶縁性樹脂、21…導電性粉末、22…含浸補助繊維、25…高温超電導コイル、26…含浸補助繊維群、28…内側縁、29…外側縁、31…高温超電導コイル、32…含浸補助繊維群、41…高温超電導コイル、42…含浸補助繊維群、51…高温超電導コイル、52…樹脂コーティング層、O…コイル軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9