(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】AIによるタイル修繕工法判断システム、タイル修繕工法判断方法、および、タイル修繕工法判断プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20241007BHJP
E04F 13/14 20060101ALI20241007BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241007BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20241007BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G06Q50/08
E04F13/14 103Z
E04G23/02 A ESW
G06Q50/10
G01N29/12
(21)【出願番号】P 2021103563
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506115695
【氏名又は名称】株式会社YKK APラクシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 周一郎
(72)【発明者】
【氏名】富川 義弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 愛治
(72)【発明者】
【氏名】山田 博信
(72)【発明者】
【氏名】高田 宏治
【審査官】木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153938(JP,A)
【文献】特開平11-304773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E04F 13/14
E04G 23/02
G01N 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断システムであって、
複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込部と、
前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出部と、
前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識部と、
相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化部と、
前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出部と、
前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出部と、
前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択部と、
を有することを特徴とするAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項2】
前記異常度合算出部は、多数の前記タイルについての検査データの周波数成分に基づく複数の特徴量について機械学習をした推論手段を有しており、実際の検査データの特徴量について、前記推論手段を適用して異常度合を求めることを特徴とする請求項1に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項3】
前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が第1タイル数閾値以上で少なくとも第2タイル数閾値より小さい場合に、
前記代表値を前記第1異常閾値より大きい第2異常閾値と比較して、該代表値が前記第2異常閾値より小さい前記グループについては前記タイルごとに個別の修繕を行う個別修繕工法を選択し、
該代表値が前記第2異常閾値以上の前記グループについては複数の前記タイルについて一括的に修繕を行う一括修繕工法を選択することを特徴とする請求項1または2に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項4】
前記個別修繕工法は前記タイルを個別に貼替える工法であり、前記一括修繕工法は複数の前記タイルの前記空隙に充填剤を注入する注入工法であることを特徴とする請求項3に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項5】
前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が前記第2タイル数閾値以上である前記グループについては、複数の前記タイルが一定数連結されたユニットタイルによって前記タイルを一定数まとめて貼り替えるユニット貼替工法を選択することを特徴とする請求項4に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項6】
前記個別修繕工法は前記タイルを個別に貼替える工法であり、前記一括修繕工法は複数の前記タイルが一定数連結されたユニットタイルによって前記タイルを一定数まとめて貼り替えるユニット貼替工法であることを特徴とする請求項3に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項7】
前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が前記第1タイル数閾値より小さい前記グループについては、前記個別修繕工法を選択することを特徴とする請求項3~6のいずれか1項に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項8】
前記グループごとに前記修繕工法選択部で選択された工法と、前記グループの前記異常タイルの枚数とに基づいて算出される修繕費用を積算し、前記検査範囲全体についての修繕費用を見積る見積算出部を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のAIによるタイル修繕工法判断システム。
【請求項9】
建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断方法であって、
複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、
前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出出ステップと、
前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、
相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、
前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、
前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、
前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、
をプロセッサが実行することを特徴とするAIによるタイル修繕工法判断方法。
【請求項10】
建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断プログラムであって、
複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、
前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出ステップと、
前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、
相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、
前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、
前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、
前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、
をプロセッサに実行させることを特徴とするAIによるタイル修繕工法判断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断システム、タイル修繕工法判断方法、および、タイル修繕工法判断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マンションやビル等の建物は、建物躯体に複数のタイルを上下左右に並べて貼り付けた壁を有することがある。タイルはコンクリートの躯体に対してモルタルを介して取り付けられているが経年的にコンクリートから剥離してしまい空隙が生じることがある。このようなタイルは修繕することが望ましい。壁を構成するタイルは場所によって剥離する状態が異なり、剥離していないタイルについては基本的に修繕する必要はないが外観ではタイルの剥離の有無を観察することはできない。
【0003】
このため、特許文献1では、打音検査装置を用いてタイルを打診し、その録音データの周波数成分に基づくパターンマッチングによりタイルの正常・異常を判断することが提案されている。特許文献1では、異常の状態について2つの基準周波数パターンが用意されており、検査対象のタイルがいずれの異常状態なのかを判断することができる。この文献では個々のタイルの異常種類によって修繕方法を変えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タイルが剥離する枚数は周辺部が正常であって1枚だけが独立的に剥離している場合と、相互に隣接する複数枚が集団的に剥離している場合とがある。タイルの修繕工法にはタイルごとに個別の修繕を行う工法と、複数のタイルについてまとめて修繕を行う工法とがあるが、特許文献1に記載の方法では隣接して剥離しているタイルの枚数に基づいて修繕方法を変えることについては考慮されていない。
【0006】
一方、本願発明者は、1枚または隣接する複数のタイルが剥離していて裏側に一体的な空隙が生じている場合におけるタイルの枚数と異常の度合いを示すパラメータとの間に相関があることをシミュレーションによって確認した。すなわち、シミュレーションからは剥離している枚数が多いほど異常の度合いも大きくなる傾向がみられた。このことは、実際の建物の壁においても集団的にある程度まとまった枚数のタイルが剥離している場合には、その内部で空隙が繋がっており、エリア一体としての音が出る状態になっていると想定され、該当箇所については複数のタイルについてまとめて修繕を行う工法が効率的である。またシミュレーションの結果からは、修繕工法の選択は隣接して剥離しているタイルの枚数だけに基づいて決定可能であるとも思われる。
【0007】
ところが、実際の建物の壁について検証をすると、隣接して剥離しているタイルの枚数と異常の度合いを示すパラメータとに相関の弱い事例のあることが稀に観察された。また、このような例は現場によってはより多く存在することも想定される。このことは、集団的にある程度まとまった枚数のタイルが剥離していても内部の空隙がつながっていない状態になっていると想定される。したがって、修繕工法の選択は、単純に隣接する異常タイルの枚数だけに基づいて行うことはできないことが分かった。
【0008】
壁の所定の検査範囲について異常のあるタイルを検査することは可能であっても、どの場所にどのような修繕工法を選択すればよいか適切に判断することができなければ工費が高昇し、または見積もり精度が低下することになる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、タイルが貼られた壁の所定の検査範囲について、箇所によって修繕工法を適切に判断することのできるAIによるタイル修繕工法判断システム、タイル修繕工法判断方法、およびタイル修繕工法判断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断システムは、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断システムであって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込部と、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出部と、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識部と、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化部と、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出部と、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出部と、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択部と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断方法は、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断方法であって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出ステップと、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、をプロセッサが実行することを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断プログラムは、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断プログラムであって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出ステップと、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、をプロセッサに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、修繕工法選択部または修繕工法選択ステップにおいて、グループごとに適用する修繕工法を該グループの異常タイルの枚数および代表値に基づいて選択をする。つまり、タイルの枚数または異常度合いを示すパラメータのいずれか一方に基づいて選択をするのではないため、タイルが貼られた壁の所定の検査範囲についてタイルの枚数と異常度合との間の相関が弱い箇所があっても修繕工法を適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】壁の状態を示しており、(a)は正常状態を示す模式断面図であり、(b)は第1の異常状態を示す模式断面図であり、(c)は第2の異常状態を示す模式断面図であり、(d)は第3の異常状態を示す模式断面図である。
【
図2】タイル修繕工法判断システムで処理する検査データを取得する様子を示す模式図である。
【
図3】タイル修繕工法判断システムのブロック図である。
【
図4】タイル修繕工法判断システムによって実行される修繕工法判断方法の処理を示すフローチャートである。
【
図5】異常度合算出部によって求められた異常度合を壁におけるタイルの並びに対応させて整列表示させた図である。
【
図6】壁のうち異常タイルの分布状態を示す図である。
【
図7】修繕工法選択部によって判断される工法の区別を示す表である。
【
図8】
図6の例に基づいてグループごとに選択された修繕工法の区別を示す表である。
【
図9】変形例にかかる修繕工法選択部によって判断される工法の区別を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態にかかるAIによるタイル修繕工法判断システム、タイル修繕工法判断方法およびタイル修繕工法判断プログラムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明の実施形態で検査対象とされる壁10について説明する。
図1は、壁10の状態を示しており、(a)は正常状態を示す模式断面図であり、(b)は第1の異常状態を示す模式断面図であり、(c)は第2の異常状態を示す模式断面図であり、(d)は第3の異常状態を示す模式断面図である。
【0017】
図1(a)に示すように、正常状態の壁10は、建物の躯体を構成するコンクリート12に対してモルタル14によって複数のタイル16が並べて貼り付けられている。この場合タイル16の剥離はなく、該タイル16とコンクリート12との間に空隙はない。タイル16は壁10に対して水平方向および鉛直方向に整列して(格子状に)貼られているものとするが(
図2参照)、例えば千鳥格子状にずれて貼られていてもよい。壁10は建物の内壁、外壁のいずれでもよい。壁10は柱面などを含む。
【0018】
図1(b)に示すように、第1の異常状態の壁10では、タイル16の裏面側でコンクリート12との間に空隙18が生じている。空隙18が発生するのはモルタル14とコンクリート12との間である場合が多い。本願では空隙18が生じている部分のタイル16を異常タイル16aとも呼ぶ。
図1(a)のように、異常タイル16aが1枚または隣接する少数だけである場合には、内部の空隙18は相互に繋がってなく、または繋がり度合いが小さい場合が多いことが確認されている。したがって、壁10が第1の異常状態となっている箇所では内部の空隙18のトータルの空間容量は比較的小さい。
【0019】
図1(c)に示すように、第2の異常状態の壁10では、異常タイル16aが相互に隣接するある程度のまとまった枚数に対して空隙18が生じている。このような場合には、内部の空隙18は相互に繋がっており内部の空間容量がある程度大きくなる傾向が確認されている。
【0020】
図1(d)に示すように、第3の異常状態の壁10では、異常タイル16aが相互に隣接するある程度のまとまった枚数に対して空隙18が生じている。しかしながら、内部の空隙18は相互に繋がってなく、または繋がり度合いが小さい場合が確認されている。このような箇所では内部の空隙18のトータルの空間容量は比較的小さい。
【0021】
本実施形態にかかるタイル修繕工法判断システム20(
図3参照)では、工法の判断に供するための検査データが必要になる。検査データは後述する異常度合算出部32b(
図3参照)において処理が可能な態様で取得する。
【0022】
図2は、タイル修繕工法判断システム20で処理する検査データ22を取得する様子を示す模式図である。
図2に示すように、検査データ22は打音検査装置24と、録音装置26とを用いてタイル16の状態を検査したデータである。
【0023】
打音検査装置24は、壁10の表面を擦過することで、タイル16を打診する装置である。打音検査装置24は公知の構成でよく、例えば先端にタイル16を叩く打診玉24aを設けた棒状のハンマーである。打診玉24aは、金属または樹脂で構成されている。
【0024】
録音装置26は、打音検査装置24でタイル16の表面を打診した際に発生する打音(物理量)を測定して録音する装置である。打音は、打診玉24aによる打撃に基づくタイル16の振動に起因して生じ、裏面側に生じた空隙18の容量に対応して音量、周波数、波形などが変化する。換言すると、打音は空隙18の容量に対応して生じるものである。この打音の録音が検査データ22になる。録音装置26は、検査データ22を記録するための記憶部26aを内蔵している。記憶部26aの検査データ22は、記憶媒体、有線または無線などを介してタイル修繕工法判断システム20に伝送される。打音検査装置24および録音装置26はタイル修繕工法判断システム20の構成の一部として用意されてもよいし、独立的なものであってもよい。
【0025】
打診は、例えば上下左右に並んだタイル16について打診玉24aを上下一方側へと移動させた後、左右一方側へと移動させ、続いて上下他方側へと移動させることで、蛇行形状を描くように擦過する。この打診工程は、予め設定した所定時間以上、例えば数十秒間或いは数分間以上行うことで、所定の検査範囲のタイル16を打診する。所定の検査範囲とは、修繕予定対象となっている全面としてもよいし、見積もりの基礎となる対象検査範囲だけとしてもよい。
【0026】
図3は、タイル修繕工法判断システム20のブロック図である。タイル修繕工法判断システム20は、壁10を構成するタイル16の修繕工法を検査データ22に基づいて判断するものである。タイル修繕工法判断システム20は、例えばパーソナルコンピュータやサーバーによって構成される。
【0027】
タイル修繕工法判断システム20は、データやプログラム等を記憶する記憶部30と、記憶部30に記憶されたプログラムを読み込み実行することにより処理を行うプロセッサとしての処理部32と、処理部32によって制御される出力部としてのディスプレイ34とを有する。なお、本実施の形態にかかる修繕工法判断方法は処理部32が記憶部30やや通信回線を介した外部記憶部等に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより実現される。本実施の形態にかかる修繕工法判断プログラムは記憶部30や通信回線を介した外部記憶部等に記憶されており、処理部32によって読み込まれ、該処理部32に処理を実行させるものである。
【0028】
処理部32は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよいし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア及びハードウェアを併用して実現してもよい。
【0029】
処理部32は、読込部32aと、異常度合算出部32bと、異常タイル認識部32cと、グループ化部32dと、グループタイル数算出部32eと、グループ異常代表値算出部32fと、修繕工法選択部32gと、見積算出部32hと、判断結果出力部32iとを有する。これらの機能部は必ずしも独立的なものでなく一部分または大部分が重複的な作用を行う態様であってもよい。処理部32は複数で構成されていてもよい。各部の機能については、次に示す
図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
図4は、タイル修繕工法判断システム20によって実行されるタイル修繕工法判断方法の処理を示すフローチャートである。このタイル修繕工法判断方法はここに記載するように連続的に実行される必要はなく、例えばステップS5とステップS6とを並列実行してもよい。
【0031】
まずステップS1において、読込部32aは、記憶部30に記憶されている検査データ22を読み込む。検査データ22は、上記の打音検査装置24および録音装置26によって得られるものであり、予め記憶部30に記憶されているものとする。検査データ22は、上記の記憶部26a、所定の記憶媒体、または通信回線から読み込むようにしてもよい。
【0032】
ステップS2において、異常度合算出部32bは、読み込まれた検査データ22の打音の測定値から個々のタイル16の異常度合xを求める。異常度合xは個々のタイル16について空隙18に対応するパラメータであり、一層具体的には空隙18の容量に相関を有する異常の程度を示すパラメータとする。したがって表面の色褪せ異常度合などとは区別される。異常度合xは基本的に連続的な数値であるが、システム条件によっては不連続な数値(例えば整数値)であってもよい。異常度合xは値が小さいほど正常な状態に近く、大きいほど異常であるものとする。また、検査データ22で記録されている打音は空隙18に対応しているがタイル16の材質、含水率等に応じて変化し得る。異常度合算出部32bには、材質選択手段や含水量による補正手段等が設けられていてもよい。
【0033】
本実施形態で異常度合xを求めるには、AI(Aartificial Intelligence、機械学習)を適用することができる。その場合、まず学習フェーズとして、予め多数のタイル16についての検査データの周波数成分に基づく複数の特徴量について機械学習をした推論手段をを確立しておく。この機械学習は、例えば正常データに基づく良品学習でもよいし、または正常および異常データに基づく教師あり学習などでもよい。そして、推論フェーズでは実際の検査データ22の特徴量について、事前の学習フェーズで得られた推論手段を適用して異常度合xを求める。
【0034】
なお、本願における「AI」は広義であって、上記の例に限らず、機械学習やディープラーニングといった比較的狭義のAIに限定されるものではない。例えば特許文献1に記載されているように特定の周波数成分に基づく周波数パターンを作成し、これを基準周波数パターンに対してパターンマッチングを行って異常度合xを算出してもよい。このような手法も広義のAIと見做される。異常度合xは各タイル16について、内側の空隙18に基づく異常の程度を示すパラメータであれば適用可能であって、例えば打音以外の物理量に基づく方法(例えば振動センサーで観測される振動やサーモグラフィで観測される赤外線等による方法)であってもよい。
【0035】
図5は、異常度合算出部32bによって求められた異常度合xを壁10におけるタイル16の並びに対応させて整列表示させた図である。
図5における壁10およびタイル16は、実際のものではなく処理部32の内部における仮想的なものであることはもちろんである。後述する
図6も同様である。
【0036】
なお、打音検査装置24によって、壁10を
図2に示すように波を描くように擦過していくと、その速度は常に変化していき、折り返し点(山・谷)のところではほぼゼロになる瞬間がある。このため実際には、上下端に近いタイル16ほど鉛直方向に引き伸ばされて検出されてしまうことになる。これは時間スケールがリニアなためである。このため、擦過音の波形それ自体から打音検査装置24の軌跡を推定し、その音が発生した位置を推定して補正をしてからステップS2の処理を行うようにしてもよい。
【0037】
この補正は例えば以下のように行われる。すなわち、検査データ22から、音信号のピークの間隔が疎である時間域および音信号のピークの間隔が密である時間域を定める。そして、音信号のピークの間隔が疎である時間域と、音信号のピークの間隔が密である時間域と、検査対象領域の鉛直方向の寸法とに基づいて、打音検査装置24の速度ベクトルの鉛直方向成分を推定する。さらに、検査対象領域を少なくとも鉛直方向に沿って等間隔の複数のタイル16を有するものとして定義し、推定された打音検査装置24の速度ベクトルの鉛直方向成分に基づいて、複数のタイル16の少なくとも一部のそれぞれに対して、時系列波形データの対応する部分を関連づける。このような補正では、時系列波形データを、等距離間隔波形データに変換することができる、検査対象領域とそれに関連づけられたデータの可視化が可能になる。
【0038】
ステップS3において、異常タイル認識部32cは、タイル16のうち異常度合xが第1異常閾値A1以上であるものを異常タイル16aとして認識する。異常度合xが十分に小さいものは、実質的に正常と見做されて修繕が不要なためである。
【0039】
図6は、壁10のうち異常タイル16aの分布状態を示す図である。
図6では
図5に示す各タイル16のうち異常度合xが第1異常閾値A1以上である異常タイル16aをドット地で示している。また、異常タイル16aのうち異常度合xが特に大きい値のものを濃いドット地で区別している。ドット地のないものは異常度合xが第1異常閾値A1より小さい正常なものである。
【0040】
ステップS4において、グループ化部32dは、ステップS3で認識された異常タイル16aについて相互に隣接する同士をグループにまとめる処理を行う。
図6に示す例では、19個のグループG1~G19が認識される。ここでは異常タイル16aが1枚だけの場合もグループとして認識するものとする。
【0041】
ステップS5において、グループタイル数算出部32eは、ステップ4で認識された各グループGについて、それぞれに含まれる異常タイル16aの枚数Nをカウントする。例えば、グループG1についてはN=8であり、グループG5についてはN=3であり、グループGG6についてはN=35であり、グループG12についてはN=10であり、グループG14についてはN=6であり、グループG16についてはN=17である。
【0042】
図6から了解されるように、1枚の異常タイル16aだけのグループG10,G15,G17,G19も存在するが、異常タイル16aは概ね複数枚がまとまって存在する傾向がみられる。また、枚数Nが大きいほど濃いグレーで示される異常度合xが大きい異常タイル16aが含まれる割合が多くなる傾向がみられる。ただし、グループG12,G14のように枚数Nがある程度大きくとも、濃いグレーの異常タイル16aが含まれない場合も存在する。また、グループG6のように枚数Nが特に大きいものは、異常タイル16aが概ねひと固まりの形状を示す傾向がみられる。
【0043】
ステップS6において、グループ異常代表値算出部32fは、各グループGに含まれる異常タイル16aの異常度合xの代表値xaを求める。代表値xaとは、そのグループGにおける異常タイル16aを修繕するための代表的指針となる基準値として設定されるものであり、例えば平均値(所定の加重平均を含む)、パーセンタイルなどの統計量、最大値、または面積の重心位置における異常度合xなどから選択可能であり、これらの中からタイル16の種類、修繕施工条件などによって適宜選択するとよい。このように本願における「代表」とは、集団の中からいずれか1つを選び出すという意味には限定されない。代表値xaは少なくとも第1異常閾値A1以上になる。
【0044】
ステップS7において、修繕工法選択部32gは各グループGについて代表値xaおよび枚数Nに基づいて好適と判断される修繕方法を選択する。
【0045】
具体的には、まず異常タイル16aの枚数Nが第1タイル数閾値B1より小さいグループGについては個別修繕工法を選択する。このグループGは、
図1(b)に示す状態に相当する。個別修繕工法とは、異常タイル16aごとに修繕を行うものであり、基本的には個別の貼替工法である。以下の説明における個別修繕工法とは個別貼替工法を示すものとする。枚数Nが小さい場合には、コストや作業時間の観点から個別に修繕を行うことが望ましいためである。仮に、第1タイル数閾値B1を「4」に設定すると、グループG10(N=1)やグループG5(N=3)などに個別修繕工法が選択されることになる。
【0046】
また、枚数Nが第1タイル数閾値B1以上で第2タイル数閾値B2より小さい場合については場合分けを行う。すなわち、代表値xaを第2異常閾値A2(A2>A1である)と比較し、代表値xaが第2異常閾値A2以上のグループGについては、グループG内の異常タイル16aについて一括的に修繕を行う一括修繕工法を選択する。
【0047】
一括修繕工法とは複数の異常タイル16aについて一括的に修繕を行うのに適した工法であり、代表的には空隙18(
図1参照)に充填剤を注入する注入工法および後述するユニット貼替工法が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0048】
このグループGは、
図1(c)に示す状態に相当する。ここでは一括修繕工法として注入工法が選択される。注入工法では、異常タイル16aを個別に剥がす必要がなく、一度または数度の充填剤注入によってある程度まとまった枚数の異常タイル16aを修繕することができ、効率的であって低コストである。またこの場合は、xa≧A2、かつ、N>B1であり、異常タイル16aの内側の空隙18が繋がっていて比較的大きい空間容量が存在していると想定され、充填剤が流入しやすく隅々まで行き渡って確実な修繕が可能となる。
図6の例では、グループG11やグループG16などに注入工法が適用されることになる。
【0049】
一方、代表値xaが第2異常閾値A2より小さいグループGについては個別修繕工法を選択する。このグループGは、
図1(d)に示す状態に相当する。この場合は、xa<A2、かつ、N>B1であり、面積はある程度広いものの異常度合xとその代表値xaは比較的小さいため、異常タイル16aの内側の空隙18は繋がってなく、または繋がり度合いが小さいため空隙18のトータルの空間容量は比較的小さいと想定される。したがって、仮に注入工法を適用すると、充填剤が流入しづらく隅々にまで行き渡らせることが困難であり、修繕が不完全となる懸念がある。したがって、この場合修繕工法選択部32gは個別修繕工法を選択するものとし、該個別修繕工法によれば確実な修繕が可能となる。
図6の例では、グループG12やグループG14に個別修繕工法が適用されることになる。
【0050】
このように本実施の形態では、修繕工法を判断するのにN>B1であってもそれだけを根拠に一括修繕工法を選択するのではなく、異常度合xおよびその代表値xaに基づいて場合分けを行い、xa≧A2であれば注入工法を選択し、xa<A2であれば個別修繕工法を選択することから、全体としては修繕の確実性を担保しながらも効率化とコスト低減を図ることができる。
【0051】
また、修繕工法選択部32gは、異常タイル16aの枚数Nが第2タイル数閾値B2以上であるグループGについては、異常度合xとその代表値xaの値に関係なくユニット貼替工法を選択する。
【0052】
ユニット貼替工法は複数のタイル16が一定数連結されたユニットタイル(図示略)を用いる工法であり、上記の一括修繕工法の一種であるが特に広い面積の異常タイル16aをまとめて修繕するのに適している。ユニットタイルとはタイル16を紙等に貼り一定数連結したものであり、例えば縦横で3×6=18枚が連結されている。第2タイル数閾値B2は、基本的にはユニットタイルを構成するタイル16の枚数以上の値する。
【0053】
グループGの異常タイル16aの枚数Nが第2タイル数閾値B2以上である場合には、注入工法を適用すると充填剤が大量に必要となり、場合によっては安定的な注入が困難となることが得懸念される。また、枚数Nが多いため個別の貼替工法を適用することは作業時間が長くなり非効率となる。そのため、このような場合にはユニットタイルを用いて所定枚数ごとにまとめて貼り替えを行うことが望ましい。
図6の例では、グループG6にユニット貼替工法が適用されることになる。
【0054】
図7には、修繕工法選択部32gによって判断される工法の区別を示している。
図7において破線で囲う箇所が個別修繕工法であり、一点鎖線で囲う箇所が一括修繕工法である。後述する
図9も同様である。
図8には、
図6の例に基づいてグループGごとに選択された修繕工法の区別を示している。
図8に示す修繕工法の選択結果は、後述する判断結果出力部32iによって出力される。
図8に示す修繕工法の選択結果では、各グループGについて壁10における位置を特定することが可能な情報を付加してもよく、または
図6に相当するデータと紐付けをしてもよい。
【0055】
なお、ユニットタイルは通常は矩形となっているのに対して、グループGは必ずしもユニットタイルと同じ矩形になっているとは限らないが、上記のとおり概ねひと固まりになっている傾向がある。したがって、1以上のユニットタイルをそのまま適用し、またはユニットタイルを構成するタイル16の一部を取り除いて適用することが可能となる場合が多い。また、グループGの枚数Nは必ずしもユニットタイルを構成するタイル16の枚数の整数倍になっているとは限らないため、不足分については個別修繕工法または注入工法で補っても構わない。さらに、効率を優先すれば、ユニットタイルを適用するために少数の正常なタイル16についても異常タイル16aとまとめて張替えても構わない。
【0056】
ただし、タイル16の種類によってはユニットタイルが用意されていないという場合も想定される。このように施工上の何らかの要因によりユニットタイルを適用することが困難な場合には、枚数Nが第2タイル数閾値B2以上であっても代表値xaが第2異常閾値A2以上であれば注入工法を適用し、代表値xaが第2異常閾値A2より小さければ個別の貼替工法を適用するようにしてもよい。
【0057】
換言すれば、修繕工法選択部32gは、枚数Nが第1タイル数閾値B1以上で少なくとも第2タイル数閾値B2より小さい場合に、代表値xaを第2異常閾値A2と比較して、該代表値xaが第2異常閾値A2より小さいグループGについては個別修繕工法を選択し、該代表値xaが第2異常閾値A2以上のグループGについては行う一括修繕工法(ここでは注入工法)を選択する。
【0058】
ステップS8において、見積算出部32hは、グループGごとに修繕工法選択部32gで選択された工法と、グループGの異常タイル16aの枚数Nとに基づいて修繕費用を算出し、検査範囲全体について積算をして修繕費用を見積る。すなわち、個別修繕工法が適用されるグループGについては、例えばその枚数Nに略比例した費用が算出される。注入工法が適用されるグループGについては、例えば作業工数と充填剤の量とに基づいた費用が算出される。ユニット貼替工法が適用されるグループGについては、例えば必要とされるユニットタイルの数と作業工数とに基づいた費用が算出される。そして、壁10において修繕が必要なグループG1~G19について積算をして全体の修繕費用を見積る。
【0059】
ステップS9において、判断結果出力部32iは、処理部32の処理によって得られた結果を所定の書式で出力する。判断結果出力部32iによる出力は、例えばグループ化部32dによって分割区分されたグループGの一覧(例えば
図6に相当するもの)、修繕工法選択部32gによって選択されたグループGごとに選択された修繕工法の区別(例えば
図8に相当するもの、または工法を認識可能な識別子表記など)、見積算出部32hによる修繕費用の見積もり結果などである。判断結果出力部32iによる出力は人間が直接的または事後的に把握可能な形式であればよく、例えば記憶部30に対する記憶出力、ディスプレイ34に対する表示出力、プリンタへの印刷出力、および通信回線を介した送信出力などである。
【0060】
このように本実施の形態では、グループGごとに適用する修繕工法を該グループGの異常タイル16aの枚数Nおよび代表値xaに基づいて選択をする。したがって、タイル16が貼られた壁10の所定の検査範囲について異常タイル16aの枚数Nと異常度合xとの間の相関が弱いグループGがあっても修繕工法を適切に判断することができる。この修繕工法の選択結果は、見積算出部32hにおける見積もり処理や、実際に行う修繕施工の計画などに利用可能である。
【0061】
上記の例(
図7参照)では、枚数Nが第1タイル数閾値B1以上で第2タイル数閾値B2より小さい場合で、代表値xaが第2異常閾値A2以上のグループGについては、一括修繕工法として注入工法を選択するものとした。しかしながら、修繕施工上の何らかの要因によっては修繕対象箇所に充填剤の注入が望ましくない場合も想定される。さらに、少数枚のタイル16からなるユニットタイルが用意されている場合には、ある程度小さいエリアのグループGに対しても該ユニットタイルを適用することが可能である。したがって、このような場合には
図9に示すように、B1≦N<B2、且つ、A2≦xaであるグループGに対して、一括修繕工法としてユニット貼替工法を適用することにより柔軟な対応が可能となる。
【0062】
なお、上記の処理の後に実際に行われる修繕では、必ずしも修繕工法選択部32gが選択した工法をすべてそのまま適用しなくても構わず、施工者の判断で一部の施工方法を変更してもよい。そのような場合であっても、修繕工法選択部32gが選択した工法は施工者が実際に行う際の判断基準になるとともに、見積もりの精度を向上させることができる。
【0063】
なお、上記の例ではAIが適用されるのは異常度合算出部32bおよびその実行ステップとしたが、グループ化部32d、見積算出部32hやその他一連の処理に対してAIを適用してもよい。
【0064】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0065】
本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断システムは、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断システムであって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込部と、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出部と、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識部と、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化部と、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出部と、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出部と、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択部と、を有することを特徴とする。
【0066】
本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断方法は、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断方法であって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出ステップと、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、をプロセッサが実行することを特徴とする。
【0067】
本発明にかかるAIによるタイル修繕工法判断プログラムは、建物の躯体表面に複数並べて貼り付けられ、前記建物の壁を構成するタイルの修繕工法を判断するAIによるタイル修繕工法判断プログラムであって、複数の前記タイルのうちの所定の検査範囲について、該タイルの裏面側に生じた空隙の容量に対応して生じる物理量を測定した検査データを読み込む読込ステップと、前記検査データの前記物理量から個々の前記タイルについて前記空隙の容量に相関を有する異常度合を求める異常度合算出ステップと、前記タイルのうち前記異常度合が第1異常閾値以上であるものを異常タイルとして認識する異常タイル認識ステップと、相互に隣接する前記異常タイル同士をグループにまとめるグループ化ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの枚数をカウントするグループタイル数算出ステップと、前記グループに含まれる前記異常タイルの前記異常度合から修繕の基準となる代表値を求めるグループ異常代表値算出ステップと、前記グループごとに、適用する修繕工法を該グループの前記異常タイルの枚数および前記代表値に基づいて選択する修繕工法選択ステップと、をプロセッサに実行させることを特徴とする。
【0068】
本発明は、前記異常度合算出部は、多数の前記タイルについての検査データの周波数成分に基づく複数の特徴量について機械学習をした推論手段を有しており、実際の検査データの特徴量について、前記推論手段を適用して異常度合を求めることを特徴とする。
【0069】
本発明は、修繕工法選択部または修繕工法選択ステップにおいて、グループごとに適用する修繕工法を該グループの異常タイルの枚数および代表値に基づいて選択をする。つまり、タイルの枚数または異常度合いを示すパラメータのいずれか一方に基づいて選択をするのではないため、タイルが貼られた壁の所定の検査範囲についてタイルの枚数と異常度合との間の相関が弱い箇所があっても修繕工法を適切に判断することができる。
【0070】
本発明は、前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が第1タイル数閾値以上で少なくとも第2タイル数閾値より小さい場合に、前記代表値を前記第1異常閾値より大きい第2異常閾値と比較して、該代表値が前記第2異常閾値より小さい前記グループについては前記タイルごとに個別の修繕を行う個別修繕工法を選択し、該代表値が前記第2異常閾値以上の前記グループについては複数の前記タイルについて一括的に修繕を行う一括修繕工法を選択することを特徴とする。これにより、グループの態様に応じて一層適切に修繕工法を適切に判断することができる。
【0071】
本発明は、前記個別修繕工法は前記タイルを個別に貼替える工法であり、前記一括修繕工法は複数の前記タイルの前記空隙に充填剤を注入する注入工法であることを特徴とする。注入工法では、異常タイルを個別に剥がす必要がなく、一度または数度の充填剤注入によってある程度まとまった枚数の異常タイルを修繕することができ、効率的であって低コストである。
【0072】
本発明は、前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が前記第2タイル数閾値以上である前記グループについては、複数の前記タイルが一定数連結されたユニットタイルによって前記タイルを一定数まとめて貼り替えるユニット貼替工法を選択することを特徴とする。このように、特に広い面積の異常タイルをまとめて修繕するのにはユニット貼替工法が適している。
【0073】
本発明は、前記個別修繕工法は前記タイルを個別に貼替える工法であり、前記一括修繕工法は複数の前記タイルが一定数連結されたユニットタイルによって前記タイルを一定数まとめて貼り替えるユニット貼替工法であることを特徴とする。このように、異常タイルの枚数が第2タイル数閾値より小さい場合であっても、施工条件などによってはユニット貼替工法を適用することにより柔軟な対応が可能となる。
【0074】
本発明は、前記修繕工法選択部は、前記異常タイルの枚数が前記第1タイル数閾値より小さい前記グループについては、前記個別修繕工法を選択することを特徴とする。枚数が小さい場合には、コストや作業時間の観点から個別に修繕を行うことが望ましいためである。
【0075】
本発明は、前記グループごとに前記修繕工法選択部で選択された工法と、前記グループの前記異常タイルの枚数とに基づいて算出される修繕費用を積算し、前記検査範囲全体についての修繕費用を見積る見積算出部を有することを特徴とする。このように、修繕工法選択部で選択された工法に基づいた処理では、見積もり精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0076】
10 壁、12 コンクリート、16 タイル、16a 異常タイル、18 空隙、20 タイル修繕工法判断システム、22 検査データ、30 記憶部、32 処理部、32a 読込部、32b 異常度合算出部、32c 異常タイル認識部、32d グループ化部、32e グループタイル数算出部、32f グループ異常代表値算出部、32g 修繕工法選択部、32h 見積算出部、32i 判断結果出力部、A1 第1異常閾値、A2 第2異常閾値、B1 第1タイル数閾値、B2 第2タイル数閾値、G グループ、N 枚数、x 異常度合、xa 代表値