(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】トンネル掘削機およびトンネル掘削機の製造方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
E21D9/06 301L
(21)【出願番号】P 2021157112
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】花岡 泰治
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-156888(JP,A)
【文献】国際公開第2020/044585(WO,A1)
【文献】特開平11-022375(JP,A)
【文献】特開昭64-075793(JP,A)
【文献】特開平11-264298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00- 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタヘッドと、
前記カッタヘッドの後方に配置された円筒状の胴体と、
前記胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部によって形成された凹凸部と、を備え、
前記複数の凹部は、前後方向から視て、円筒状の前記胴体の外周面に沿
うように前記胴体の周方向に
連なって形成されている、トンネル掘削機。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記胴体の前記外周面に形成された1mm以下の幅を有する複数の凹部を含む、請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記凹凸部は、少なくとも、前記胴体の前記外周面の最上部に位置する頂部を含む前記外周面の上部に形成されている、請求項1または2に記載のトンネル掘削機。
【請求項4】
前記胴体の前記外周面には、前記凹凸部が形成された位置に滑剤の供給口が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項5】
前記凹凸部は、前記胴体の筒状の前記外周面に対して直接形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項6】
前記胴体は、
筒状の胴体本体と、
前記凹凸部が設けられ、前記胴体本体の外表面に取り付けられる金属板とを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項7】
前記金属板は、前後方向に延びる細長形状に形成されるとともに、前記胴体の周方向に並ぶように複数設けられている、請求項6に記載のトンネル掘削機。
【請求項8】
前記凹凸部は、ショットブラストにより形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項9】
前記凹凸部は、前記滑剤の供給口の前方側および後方側の両側に形成されている、請求項4に記載のトンネル掘削機。
【請求項10】
ショットブラストにより、カッタヘッドの後方に配置された円筒状の胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部を含む凹凸部を形成する工程を備え、
前記凹凸部を形成する工程は、前後方向から視て、円筒状の前記胴体の外周面に沿って前記胴体の周方向に
連なって前記複数の凹部を形成することを含む、トンネル掘削機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カッタヘッドおよびカッタヘッドの後方に配置された胴体を備えるトンネル掘削機およびトンネル掘削機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カッタヘッドおよびカッタヘッドの後方に配置された胴体を備えるトンネル掘削機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、カッタ装置およびカッタ装置の後方に配置された円筒状のスキンプレート(胴体)を備えるシールド掘進機が開示されている。シールド掘進機は、カッタ装置を回転させることにより、地盤を掘削しながら前進するように構成されている。スキンプレートの前端付近の外周面には、スキンプレートの外周面と地盤との間の摩擦を低減するためのフリクションカットが複数設けられている。複数のフリクションカットは、スキンプレートの周方向に等角度間隔で並んでいる。フリクションカットは、スキンプレートの外周面から10mm程度突出する比較的幅広い突出部である。スキンプレートの周方向において、複数のフリクションカットの間には、比較的幅広い隙間が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のシールド掘進機では、スキンプレートの表面に設けられた複数の突出部間の隙間が比較的幅広く形成されており、シールド掘進機が前進する際に隙間に土砂が浸入しやすいという不都合がある。突出部の表面は土砂に接触しやすく、隙間には土砂が浸入し、スキンプレートの外周面に接触することになるため、スキンプレートの外周面と地盤との間の摩擦を効果的に低減できてはいないという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることが可能なトンネル掘削機およびトンネル掘削機の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明のトンネル掘削機は、カッタヘッドと、カッタヘッドの後方に配置された円筒状の胴体と、胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部によって形成された凹凸部と、を備え、複数の凹部は、前後方向から視て、円筒状の胴体の外周面に沿うように胴体の周方向に連なって形成されている。
【0008】
この発明のトンネル掘削機では、上記のように、胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部によって形成された凹凸部を設ける。これによって、トンネル掘削機による掘削時において、微細な凹凸部のうちの凹部によって胴体の外周面と地盤との間の接触面積を減少させることができる。また、凹凸部が微細であるため、凹凸部のうちの凹部の内側に土砂が浸入しにくい。このため、胴体の外周面と地盤との間にある微細な凹凸部のうちの凹部に空気や水などの流体層を形成することができるので、胴体の外周面と地盤との接触を抑制することができる。これらの結果、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。特に、胴体のより広い範囲に凹凸部が設けられることで、より大きな効果を得ることができる。なお、胴体の外周面に対して微細な凹凸部が形成されるので、摩擦低減用コーティングを用いる場合などとは異なり、コーティングの剥がれなどが生じることはない。また、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を低減することができるので、トンネル掘削機の推力の低下も抑制することができる。また、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を低減することができるので、トンネル掘削機が前進する際のスティックスリップ(胴体の外周面と地盤との間に動摩擦と静止摩擦とが交互に作用して、トンネル掘削機に振動が発生する現象)を抑制することができる。
【0009】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、凹凸部は、胴体の外周面に形成された1mm以下の幅を有する複数の凹部を含む。このように構成すれば、凹凸部を容易に微細に形成することができるので、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を容易に効果的に低減させることができる。また、凹凸部を容易に微細に形成することができるので、微細な凹凸部に土砂が付着しにくくすることができる。
【0010】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、凹凸部は、少なくとも、胴体の外周面の最上部に位置する頂部を含む外周面の上部に形成されている。このように構成すれば、胴体の外周面のうち、上方側に土砂が対向配置される部分であり、胴体の外周面の最上部に位置する頂部を含む外周面の上部に、微細な凹凸部を形成することができる。すなわち、重力が掛かった土砂と接触しやすい部分である上部に微細な凹凸部を形成することができる。その結果、土砂と接触しやすい部分である上部と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。
【0011】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、胴体の外周面には、凹凸部が形成された位置に滑剤の供給口が設けられている。このように構成すれば、滑剤を供給口から微細な凹凸部の凹部に直接供給することができる。また、空気や水などの流体層が形成される微細な凹凸部の凹部を介して、胴体の外周面と地盤との間に滑剤をより均一に浸透させることができる。これらにより、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力をより効果的に低減させることができる。
【0012】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、凹凸部は、胴体の筒状の外周面に対して直接形成されている。このように構成すれば、微細な凹凸部を胴体の筒状の外周面に対して直接形成することにより、微細な凹凸部が形成された別部材を張り付ける場合と比較して、部品点数を削減して装置構成を簡素化することができる。
【0013】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、胴体は、筒状の胴体本体と、凹凸部が設けられ、胴体本体の外表面に取り付けられる金属板とを含む。このように構成すれば、大きな胴体に対して微細な凹凸部を直接形成する場合とは異なり、小さな金属板に対して微細な凹凸部を形成することができるので、微細な凹凸部を形成する加工の作業性を向上させることができる。
【0014】
この場合、好ましくは、金属板は、前後方向に延びる細長形状に形成されるとともに、胴体の周方向に並ぶように複数設けられている。このように構成すれば、胴体の移動方向である前後方向において、微細な凹凸部が形成された金属板の長さを大きく確保することがきるので、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力をより効果的に低減させることができる。
【0015】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、凹凸部は、ショットブラストにより形成されている。このように構成すれば、ショットブラストにより微細な凹凸部を容易に形成することができる。
上記胴体の外周面に滑剤の供給口が設けられる構成において、好ましくは、凹凸部は、滑剤の供給口の前方側および後方側の両側に形成されている。
【0016】
この発明のトンネル掘削機の製造方法は、ショットブラストにより、カッタヘッドの後方に配置された円筒状の胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部を含む凹凸部を形成する工程を備え、凹凸部を形成する工程は、前後方向から視て、円筒状の胴体の外周面に沿って胴体の周方向に連なって複数の凹部を形成することを含む。
【0017】
この発明のトンネル掘削機の製造方法では、上記のように、ショットブラストにより、カッタヘッドの後方に配置された筒状の胴体の外周面に2mm以下の複数の粒状の凹部を含む凹凸部を形成する工程を設ける。これによって、微細な凹凸部のうちの凹部によって胴体の外周面と地盤との間の接触面積を減少させることができる。また、胴体の外周面と地盤との間にある微細な凹凸部のうちの凹部に空気や水などの流体層を形成することができるので、胴体の外周面と地盤との接触を抑制することができる。これらの結果、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。なお、胴体の外周面に対して微細な凹凸部が形成されるので、摩擦低減用コーティングを用いる場合などとは異なり、コーティングの剥がれなどが生じることはない。また、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を低減することができるので、トンネル掘削機の推力の低下も抑制することができる。また、ショットブラストにより微細な凹凸部を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、胴体の外周面と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態によるトンネル掘削機を側方から示した断面図である。
【
図2】第1実施形態によるトンネル掘削機のカッタヘッドおよび胴体(前胴、後胴)を模式的に示した側面図である。
【
図3】第1実施形態によるトンネル掘削機の胴体を前方側から示した斜視図である。
【
図6】第2実施形態によるトンネル掘削機の胴体を前方側から示した斜視図である。
【
図7】第1の変形例によるトンネル掘削機の胴体を前方側から示した斜視図である。
【
図8】第2の変形例によるトンネル掘削機の胴体を前方側から示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
(トンネル掘削機の構成)
図1~
図5を参照して、第1実施形態によるトンネル掘削機100について説明する。
【0022】
各図では、掘進方向(前後方向)に沿って延びるカッタヘッド1の回転中心軸線αに平行な方向(前後方向)をX方向により示す。X方向のうち、掘進方向(前方)をX1方向により示し、他方(後方)をX2方向により示す。なお、回転中心軸線αは、胴体3の中心軸線でもある。
【0023】
各図では、上下方向をZ方向により示す。Z方向のうち、上方をZ1方向により示し、下方をZ2方向により示す。
【0024】
各図では、カッタヘッド1の回転方向(周方向)をRO方向により示す。RO方向は、胴体3の周方向でもある。各図では、カッタヘッド1および胴体3の半径方向をR方向により示す。
【0025】
図1に示すように、トンネル掘削機100は、カッタヘッド1と、胴体3を含む掘削機本体2とを備えている。トンネル掘削機100は、泥土圧式のトンネル掘削機である。
【0026】
(カッタヘッドの構成)
カッタヘッド1は、前面に複数のカッタビットBを有しており、回転により地盤を掘削するように構成されている。カッタヘッド1は、後方から複数の支持脚10により支持されている。支持脚10は、円環状の支持リング11の前面に固定されている。
【0027】
(掘削機本体の構成)
掘削機本体2は、円筒状の胴体3と、隔壁4と、複数の推進ジャッキ5aおよび複数の中折れジャッキ5bと、スクリュコンベア6と、旋回台軸受7と、カッタヘッド1を回転させる駆動源8とを備えている。
【0028】
胴体3は、カッタヘッド1の後方に配置されている。胴体3は、前胴31と、前胴31の後方に配置された後胴32とを含んでいる。また、前胴31と後胴32との間には、胴体3の内側に土砂が入り込むことがないように、中折れ部33(壁)が設けられている。前胴31の内側には、旋回台軸受7および駆動源8などが配置されている。また、前胴31の内側には、隔壁4が設けられている。
【0029】
胴体3(前胴31)の外周面30には、地盤と胴体3との間の摩擦を低減するために微細な凹凸部30aが形成されている。胴体3および微細な凹凸部30aの詳細については後述する。
【0030】
隔壁4は、掘進方向(X1方向)と直交する方向に延びており、カッタヘッド1により掘削された土砂が貯留されるチャンバCと、チャンバCよりも後方の空間とを区画している。
【0031】
複数の推進ジャッキ5aは、カッタヘッド1の回転方向(RO方向)に所定の角度間隔で並ぶように配置されている。複数の推進ジャッキ5aは、胴体3に固定されており、掘削機本体2を押し進めるように構成されている。すなわち、複数の推進ジャッキ5aは、掘削機本体2を推進させる駆動源である。
【0032】
複数の中折れジャッキ5bは、カッタヘッド1の回転方向に所定の角度間隔で並ぶように配置されている。複数の中折れジャッキ5bは、前胴31と後胴32とを連結するとともに、トンネル掘削機100の掘進方向を修正または変更するように構成されている。
【0033】
スクリュコンベア6は、チャンバCに接続され、チャンバC内の土砂を隔壁4の後方の空間に排出するように構成されている。スクリュコンベア6は、前胴31の内側の下方側に配置されている。
【0034】
旋回台軸受7は、駆動源8の回転力をカッタヘッド1に伝達するように構成されている。旋回台軸受7は、前胴31に固定された円環状の固定外輪70と、固定外輪70の内周側に配置された円環状の可動内輪71とを備えている。可動内輪71は、駆動源8のピニオンギヤに噛み合う円環状の内歯ギヤ(ラック)を有している。可動内輪71は、円環状の支持リング11の後面に固定されている。
【0035】
(胴体および微細な凹凸部の詳細な構成)
図2に示すように、前胴31の半径r1は、カッタヘッド1の半径r0よりも僅かに小さい。一例ではあるが、前胴31の半径r1は、カッタヘッド1の半径r0よりも5mm小さい。なお、半径r1と半径r0との差は、5mm以上10mm以下の範囲の所定値に設定されるのが好ましい。
【0036】
上記のように、前胴31の半径r1がカッタヘッド1の半径r0よりも一回り小さく形成されることにより、カッタヘッド1の掘削直後の状態で、前胴31の外周面30と地盤との間にはボイド(隙間)Vが形成される。なお、ボイドVは、掘進に伴い土砂により徐々に詰まってくる。ボイドVが詰まってくる度合いは、種々の地盤条件によって異なる。このように、トンネル掘削機100は、ボイドVを形成することにより、地盤と前胴31との間の摩擦を低減するように構成されている。
【0037】
また、後胴32の半径r2は、前胴31の半径r1よりも僅かに小さい。一例ではあるが、後胴32の半径r2は、前胴31の半径r1よりも10mm小さい。これによって、上記の前胴31とカッタヘッド1との関係と同様に、トンネル掘削機100は、ボイドVを形成することにより、地盤と後胴32との間の摩擦を低減するように構成されている。
【0038】
図3に示すように、微細な凹凸部30aは、前胴31の筒状の外周面30に対して直接形成されている。また、微細な凹凸部30aは、少なくとも、胴体3の外周面30の最上部に位置する頂部Tを含む外周面30の上部T1に形成されている。
【0039】
詳細には、微細な凹凸部30aは、胴体3の上下方向の中心線βよりも上方に形成されている。より詳細には、微細な凹凸部30aは、胴体3の周方向(RO方向)において、頂部Tを中心とする120度の角度範囲θに形成されている。また、微細な凹凸部30aは、頂部Tを中心とする120度の角度範囲θにおいて、前胴31の前端31aから後端31bの略全域に形成されている。
【0040】
また、
図4および
図5に示すように、微細な凹凸部30aは、胴体3の外周面30に形成された2mm以下の幅W(複数の凹部30bの幅のうちの最大の幅)を有する複数の凹部30bを含んでいる。なお、より好ましい凹部30bの大きさとしては、複数の凹部30bの幅W(複数の凹部30bの幅のうちの最大の幅)は、1mm以下とするのが好ましい。また、凹部30bの幅W(複数の凹部30bの幅のうちの最小の幅)は、10μm(0.01mm)以上とするのが好ましい。ここで、土砂の含有物は、5μm以下の粘土、5μm~75μmのシルト、75μm~2mmの砂、および、2mm以上のレキなどに分類される。75μm未満の土粒子であるシルトや粘土は、細粒分と呼ばれる。微細な凹凸部30aの凹部30bの幅Wは、細粒分および砂に比較的近い大きさを有している。
【0041】
凹部30bは、前胴31の内周側に向けて窪む円弧状に形成されている。微細な凹凸部30aは、外周面30に沿って、複数の円弧状の凹部30bが互いに連なることにより形成されている。複数の円弧状の凹部30bは、外周面30に不規則(ランダム)に配置されている。複数の円弧状の凹部30bは、粒状に形成されている。
【0042】
図3に示すように、前胴31の外周面30には、微細な凹凸部30aが形成された位置に滑剤の供給口34aが複数設けられている。すなわち、滑剤の供給口34aは、前胴31の外周面30において、微細な凹凸部30aに囲まれている。複数の滑剤の供給口34aは、周方向に略等角度間隔で配置されている。
【0043】
前胴31の内側には、滑剤の供給口34aから前胴31の外周面30に滑剤を供給する滑剤供給装置34(
図1参照)が設けられている。なお、滑剤供給装置34は、複数の滑剤の供給口34aに対して1つのみ設けられていてもよいし、1つずつ設けられていてもよい。
【0044】
滑剤供給装置34は、滑剤の供給口34aが微細な凹凸部30aに囲まれる位置にあるため、滑剤を微細な凹凸部30aに直接供給することが可能である。また、微細な凹凸部30aは、滑剤を浸み込ませて保持するとともに、微細な凹凸部30aが形成された外周面30において滑剤をより均一化させることが可能である。すなわち、微細な凹凸部30aは、微細な凹凸部30aが形成されていない胴体3の外周面30と比較して、滑剤を外周面30のより大きな範囲に浸透させることが可能であり、また、外周面30に広がった滑剤をより長く保持することが可能である。
【0045】
前胴31の内側において滑剤供給装置34が旋回台軸受7(
図1参照)などのカッタヘッド1(
図1参照)を駆動させる構成に干渉することがないように、供給口34aおよび滑剤供給装置34は、カッタヘッド1を駆動させる構成の僅かに後方に配置されている。一例ではあるが、供給口34aおよび滑剤供給装置34は、前後方向において、前胴31の前端31aと後端31bとの中間位置よりも僅かに前方に配置されている。
【0046】
カッタヘッド1にも滑剤の供給口(図示せず)が設けられている。微細な凹凸部30aおよび微細な凹凸部30aの特に前方側(カッタヘッド1側)の部分には、カッタヘッド1の供給口からも滑剤が供給される。
【0047】
微細な凹凸部30aは、ショットブラストにより形成されている。
【0048】
また、隔壁4の前面にも、胴体3の微細な凹凸部30aと同様の微細な隔壁凹凸部4aが形成されている。微細な隔壁凹凸部4aは、ショットブラストにより形成されており、胴体3の微細な凹凸部30aと同様の構造を有している。隔壁4は、微細な隔壁凹凸部4aにより、土砂の付着が抑制される。この他、カッタヘッドの前面や、スリットの側面などにも微細な凹凸部が形成されていてもよい。
【0049】
(トンネル掘削機の凹凸部の製造方法)
トンネル掘削機100の凹凸部30aの製造方法は、ショットブラストにより、カッタヘッド1の後方に配置された筒状の胴体3の外周面30に微細な凹凸部30aを形成する工程を備えている。
【0050】
詳細には、微細な凹凸部30aは、無数の微小な投射材を加工対象である前胴31の外周面30に高速で衝突させることにより形成される。一例ではあるが、投射材としては1mm以下の直径を有する硬質の球体が用いられる。
【0051】
ショットブラストにより胴体3の外周面30に微細な凹凸部30aが形成されることによって、外周面30に残留圧縮応力が付与され、外周面30を硬化(母材よりも硬く)することが可能となる。その結果、微細な凹凸部30aの状態を長く維持することが可能となる。
【0052】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0053】
第1実施形態では、上記のように、胴体3の外周面30に形成された微細な凹凸部30aを設ける。これによって、トンネル掘削機100による掘削時において、微細な凹凸部30aのうちの凹部30bによって胴体3の外周面30と地盤との間の接触面積を減少させることができる。また、凹凸部30aが微細であるため、凹凸部30aのうちの凹部30bの内側に土砂が浸入しにくい。このため、胴体3の外周面30と地盤との間にある微細な凹凸部30aのうちの凹部30bに空気や水などの流体層を形成することができるので、胴体3の外周面30と地盤との接触を抑制することができる。これらの結果、胴体3の外周面30と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。なお、胴体のより広い範囲に凹凸部が設けられることで、より大きな効果を得ることができる。また、胴体3の外周面30に対して微細な凹凸部30aが形成されるので、摩擦低減用コーティングを用いる場合などとは異なり、コーティングの剥がれなどが生じることはない。また、胴体3の外周面30と地盤との間の摩擦力を低減することができるので、トンネル掘削機100の推力の低下も抑制することができる。また、胴体3の外周面30と地盤との間の摩擦力を低減することができるので、トンネル掘削機100が前進する際のスティックスリップ(胴体3の外周面と地盤との間に動摩擦と静止摩擦とが交互に作用して、トンネル掘削機100に振動が発生する現象)を抑制することができる。
【0054】
第1実施形態では、上記のように、微細な凹凸部30aは、胴体3の外周面30に形成された1mm以下の幅を有する複数の凹部30bを含む。これによって、凹凸部30aを容易に微細に形成することができるので、胴体3の外周面30と地盤との間の摩擦力を容易に効果的に低減させることができる。また、凹凸部30aを容易に微細に形成することができるので、微細な凹凸部30aに土砂が付着しにくくすることができる。
【0055】
第1実施形態では、上記のように、微細な凹凸部30aは、少なくとも、胴体3の外周面30の最上部に位置する頂部Tを含む外周面30の上部T1に形成されている。これによって、胴体3の外周面30のうち、上方側に土砂が対向配置される部分であり、胴体3の外周面30の最上部に位置する頂部Tを含む外周面30の上部T1に、微細な凹凸部30aを形成することができる。すなわち、重力が掛かった土砂と接触しやすい部分である上部T1に微細な凹凸部30aを形成することができる。その結果、土砂と接触しやすい部分である上部T1と地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。
【0056】
第1実施形態では、上記のように、胴体3の外周面30には、微細な凹凸部30aが形成された位置に滑剤の供給口34aが設けられている。これによって、滑剤を供給口34aから微細な凹凸部30aの凹部30bに直接供給することができる。また、空気や水などの流体層が形成される微細な凹凸部30aの凹部30bを介して、胴体3の外周面30と地盤との間に滑剤をより均一に浸透させることができる。これらにより、胴体3の外周面30と地盤との間の摩擦力をより効果的に低減させることができる。
【0057】
第1実施形態では、上記のように、微細な凹凸部30aは、胴体3の筒状の外周面30に対して直接形成されている。これによって、微細な凹凸部30aを胴体3の筒状の外周面30に対して直接形成することにより、微細な凹凸部30aが形成された別部材を張り付ける場合と比較して、部品点数を削減して装置構成を簡素化することができる。
【0058】
第1実施形態では、上記のように、微細な凹凸部30aは、ショットブラストにより形成されている。これによって、ショットブラストにより微細な凹凸部30aを容易に形成することができる。
【0059】
[第2実施形態]
図6を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、微細な凹凸部30aを前胴31の筒状の外周面30に対して直接形成した上記第1実施形態とは異なり、筒状の胴体本体232の外表面232aに凹凸部233bが形成された金属板233を取り付ける例について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、同じ符号を付して図示する。
【0060】
第2実施形態のトンネル掘削機200は、前胴231および後胴32を含む胴体203を備えている。
【0061】
前胴231は、筒状の胴体本体232と、胴体本体232の外表面232aに取り付けられる複数の金属板233とを含んでいる。なお、一例ではあるが、金属板233は、溶接により胴体本体232に取り付けられる。
【0062】
金属板233の外周面233aには、微細な凹凸部233bが形成されている。一例ではあるが、微細な凹凸部233bは、金属板233の外周面233aの略全域に形成されている。金属板233は、前後方向に延びる細長形状に形成されている。詳細には、金属板233は、概して、前後方向(X方向)を長手方向、カッタヘッド1の回転方向(R方向)を短手方向とする矩形状(短冊状)に形成されている。また、金属板233は、胴体本体232の外表面232aに沿って、カッタヘッド1の回転方向(RO方向)に円弧状に湾曲している。
【0063】
微細な凹凸部233bが形成された金属板233は、前胴231の周方向(R方向)に並ぶように複数設けられている。複数の金属板233は、胴体203の周方向(R方向)に略等角度間隔で配置されている。複数の金属板233は、胴体203の上下方向の中心線βよりも上方に配置されている。複数の金属板233は、カッタヘッド1の回転方向(RO方向)において、頂部Tを中心とする120度の角度範囲θに配置されている。
【0064】
1つの金属板233に対して、1つの滑剤の供給口34aが設けられている。なお、1つの金属板に対して、複数の滑剤の供給口が設けられていてもよい。
【0065】
図示しないが、胴体の半径方向(R方向)において、微細な凹凸部が形成される金属板の外周面が、金属板が取り付けられない胴体本体の外表面の部分よりも突出することがないように、胴体を構成してもよい。すなわち、胴体本体の金属板が取り付けられる部分に、金属板を配置するための凹部を設けてもよい。
【0066】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0067】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0068】
第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、胴体203の外周面233aに形成された微細な凹凸部233bを設ける。これによって、上記第1実施形態と同様に、胴体203の外周面233aと地盤との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。
【0069】
第2実施形態では、上記のように、胴体203は、筒状の胴体本体232と、微細な凹凸部233bが設けられ、胴体本体232の外表面232aに取り付けられる金属板233とを含む。これによって、大きな胴体203に対して微細な凹凸部233bを直接形成する場合とは異なり、小さな金属板233に対して微細な凹凸部233bを形成することができるので、微細な凹凸部233bを形成する加工の作業性を向上させることができる。
【0070】
第2実施形態では、上記のように、金属板233は、前後方向に延びる細長形状に形成されるとともに、胴体203の周方向に並ぶように複数設けられている。このように構成すれば、胴体203の移動方向である前後方向において、微細な凹凸部233bが形成された金属板233の長さを大きく確保することがきるので、胴体203の外周面233aと地盤との間の摩擦力をより効果的に低減させることができる。
【0071】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0072】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0073】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、前胴の外周面の一部のみに微細な凹凸部を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図7に示す第1の変形例のトンネル掘削機300のように、前胴331の外周面331aの全体に凹凸部331bを形成してもよい。また、
図8に示す第2の変形例のトンネル掘削機300aのように、前胴331だけではなく、後胴332の外周面332aの全体に凹凸部332bを形成してもよい。なお、
図8の例では、後胴に滑剤の供給口を設けてはいないが、後胴に滑剤の供給口を設けてもよい。また、後胴の外周面の全体ではなく、一部のみに凹凸部を形成してもよい。また、前胴には凹凸部を形成することなく、後胴のみに凹凸部を形成してもよい。
【0074】
また、上記第1および第2実施形態では、前胴の外周面の一部のみに微細な凹凸部を形成する場合において、凹凸部を、外周面の頂部を中心とする120度の角度範囲に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、前胴の外周面の一部のみに微細な凹凸部を形成する場合において、凹凸部を、外周面の頂部を中心とする140度の角度範囲や、180度の角度範囲、220度の角度範囲など、120度とは異なる角度範囲に形成してもよい。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、胴体に滑剤の供給口を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、胴体に滑剤の供給口を設けなくてもよい。
【0076】
また、上記第2実施形態では、凹凸部が設けられる金属板を、矩形状(短冊状)に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹凸部が設けられる金属板を、筒状などの矩形状(短冊状)とは異なる形状に形成してもよい。
【0077】
また、上記第1および第2実施形態では、胴体を円筒状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、胴体を非円形断面の筒状に形成してもよい。
【0078】
また、上記第1および第2実施形態では、前胴の半径をカッタヘッドの半径よりも小さくした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、前胴の半径をカッタヘッドの半径と同じにしてもよいし、大きくしてもよい。
【0079】
また、上記第1および第2実施形態では、後胴の半径を前胴の半径よりも小さくした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、後胴の半径を前胴の半径と同じにしてもよい。
【0080】
また、上記第1および第2実施形態では、凹凸部の凹部の幅を2mm以下にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹部に限らず凸部の幅を2mm以下にして、微細な凹凸を形成するようにしてもよい。その場合も同様に凹部の幅が1mm以下となる方がより好ましい。
【0081】
また、上記第1および第2実施形態では、凹凸部を前胴の外周面の前端から後端までの略全域に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹凸部を前胴の外周面の前端から後端の間の一部のみに形成してもよい。
【0082】
また、上記第1および第2実施形態では、泥土圧式のトンネル掘削機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、泥水式のトンネル掘削機に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 カッタヘッド
3、203 胴体
30、233a、331a、332a (胴体の)外周面
30a、233b、331b、332b (外周面の)凹凸部
30b 凹部
34、234a 供給口
100、200、300、300a トンネル掘削機
232 (胴体の)胴体本体
232a (胴体本体の)外表面
233 (胴体の)金属板
T (外周面の)頂部
T1 (外周面の)上部