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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】リチウムイオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/38 20130101AFI20241007BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241007BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241007BHJP
【FI】
H01G11/38
H01G11/06
H01G11/60
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021210705
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2020017728の分割
【原出願日】2015-10-16
(65)【公開番号】P2022034033
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2022-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2015088190
(32)【優先日】2015-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015139022
(32)【優先日】2015-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西 幸二
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祥子
(72)【発明者】
【氏名】小松原 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】大参 直輝
(72)【発明者】
【氏名】田村 高志
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-156405(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136729(WO,A1)
【文献】特開2012-216490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/28
H01G 11/38
H01G 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極に接触する電解液と、を有するリチウムイオンキャパシタであって、
前記電解液は、有機溶媒とイミド構造を有するリチウム塩電解質を含み、
前記正極は、集電箔と、正極活物質とを有し、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいポリマーを含むバインダを介して前記正極活物質が前記集電箔に保持されており、
前記RED値は、前記ポリマーのハンセン溶解度パラメータと前記電解液のハンセン溶解度パラメータの距離をRaとし、且つ前記ポリマーの溶解球の半径である相互作用半径をR 0 とした場合にRa/R 0 で表され、
前記ポリマーのハンセン溶解度パラメータと相互作用半径は、ハンセン溶解度パラメータが既知の複数の溶媒のそれぞれに前記ポリマーを混合させ、それにより判別された前記ポリマーが溶解する溶媒と前記ポリマーが溶解しない溶媒とのハンセン溶解度パラメータをハンセン空間にプロットすることで算出されていると共に、前記ポリマーが溶解する溶媒と前記ポリマーが溶解しない溶媒とは、混合された前記ポリマーの常温での形状変化に基づいて判別され、更に常温では形状変化に差が見られない場合に60℃での形状変化に基づいて判別されている、リチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
請求項1に記載されるリチウムイオンキャパシタであって、
前記ポリマーはポリアクリル酸である、リチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されるリチウムイオンキャパシタであって、
前記有機溶媒は、ジメチルカーボネートを含むことなく且つエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートを含むとともに、前記エチレンカーボネートが、前記プロピレンカーボネートよりも多く含まれる、リチウムイオンキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンキャパシタは、所謂ハイブリッドキャパシタであり、典型的に、活性炭等の活物質が集電箔に保持されてイオンを物理的に吸脱着する電極が正極として用いられ、負極としてリチウムイオンを酸化還元反応により吸蔵・脱離する電極が用いられる。リチウムイオンキャパシタは、大容量と高出力とを両立し得る蓄電デバイスとして種々の用途展開が期待されており、例えば、車載用途が検討されている。
【0003】
これに関連し、特許文献1には、リチウムイオンキャパシタではなくリチウムイオン電池に主眼を置いた発明ではあるものの、キャパシタを含む電池を車載用途に展開することを考慮した、活物質を集電箔に結着するための電極用バインダが開示されている。電極用のバインダとして従来用いられているスチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、水系のバインダであり、電極の製造工程における環境負荷を小さくしやすい点では望ましい。これに対し、特許文献1では、SBRをリチウムイオン電池の正極に用いた場合に酸化劣化する問題を指摘したうえで、水酸基を有するモノマーから誘導される特定の構成単位と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される特定の構成単位とを含む高度に架橋した構造の重合体を含有する水系バインダであれば、酸化劣化を起こさず、60℃の比較的高温の使用環境においても性能に影響がないとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-160638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、リチウムイオンキャパシタの車載用途においては、より高温の使用環境が想定されており、車室内に設置する場合でも85℃での耐久性を有することが目安となる。これに対して、特許文献1の電極用バインダについては、想定されている高温の使用環境が60℃であり、この電極用バインダをリチウムイオンキャパシタに適用した場合における85℃での耐久性は保障されていない。また、電極に使用される水系バインダとしては、PEO・PEG(ポリエチレンオキサイドとポリエチレングリコールの混合物)やアクリル系熱可塑性エラストマーも挙げられるが、いずれも85℃もの高温環境下では結着力が低下する。これらをリチウムイオンキャパシタの正極のバインダとして用いた場合、正極由来の抵抗が著しく増加することが確認されている。
【0006】
また、85℃もの高温環境下では、電解液も熱の影響を受けるが、特許文献1は電極用バインダにのみ着眼しており、電解液について耐久性は考慮されていない。そのため、特許文献1では、電解質についてはリチウムイオン電池に一般的に利用されているリチウム塩化合物を用いることができるとされており、具体的実施例においてはヘキサフルオロリン酸リチウムが用いられている。ところが、フッ化リン酸リチウムを電解質として用いたリチウムイオンキャパシタは、85℃の高温環境においては、容量の低下が顕著であるとともに、内部抵抗の増加が大きく使用できないことが判明した。
【0007】
そこで、本発明は、85℃の高温環境において、容量を維持することができ、且つ内部抵抗の増加が小さいリチウムイオンキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極に接触する電解液と、を有するリチウムイオンキャパシタであって、前記電解液は、有機溶媒とイミド構造を有するリチウム塩電解質を含み、前記正極は、集電箔と、正極活物質とを有し、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいポリマーを含むバインダを介して前記正極活物質が前記集電箔に保持されており、前記RED値は、前記ポリマーのハンセン溶解度パラメータと前記電解液のハンセン溶解度パラメータの距離をRaとし、且つ前記ポリマーの溶解球の半径である相互作用半径をR 0 とした場合にRa/R 0 で表され、前記ポリマーのハンセン溶解度パラメータと相互作用半径は、ハンセン溶解度パラメータが既知の複数の溶媒のそれぞれに前記ポリマーを混合させ、それにより判別された前記ポリマーが溶解する溶媒と前記ポリマーが溶解しない溶媒とのハンセン溶解度パラメータをハンセン空間にプロットすることで算出されていると共に、前記ポリマーが溶解する溶媒と前記ポリマーが溶解しない溶媒とは、混合された前記ポリマーの常温での形状変化に基づいて判別され、更に常温では形状変化に差が見られない場合に60℃での形状変化に基づいて判別されている、リチウムイオンキャパシタである。
【0009】
前記ポリマーは、好ましくは、ポリアクリル酸である。
【0010】
前記有機溶媒は、ジメチルカーボネートを含むことなく且つエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートを含むとともに、前記エチレンカーボネートが、前記プロピレンカーボネートよりも多く含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオンキャパシタによれば、85℃の高温環境において、容量を維持することができ、且つ内部抵抗の増加を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ハンセン空間に電解液及びバインダに含まれるポリマーのハンセン溶解度パラメータを示す図である。
図2】バインダに含まれるポリマーの溶解球を求める方法を説明する図である。
図3】リチウムイオンキャパシタの高温(85℃)環境放置後の容量維持率を示すグラフである。
図4】リチウムイオンキャパシタの高温(85℃)環境放置後の内部抵抗増加率を示すグラフである。
図5】有機溶媒中の環状カーボネートの含有比率とイオン伝導度の関係を示すグラフである。
図6】ジメチルカーボネートを含まない有機溶媒中の環状カーボネートの含有比率とイオン伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔リチウムイオンキャパシタの主構成要素〕
本発明のリチウムイオンキャパシタは、正極と、負極と、正極及び負極に接触する電解液と、を少なくとも有する。
【0014】
[電解液]
電解液は、溶媒と、電解質とを含む。
【0015】
<溶媒>
溶媒としては、従来リチウムイオンキャパシタに用いられている有機溶媒が用いられ、この種の有機溶媒として、カーボネート系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、ラクトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、エステル系有機溶媒、アミド系有機溶媒、スルホン系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、芳香族系有機溶媒を例示できる。溶媒は、一種または二種以上を適宜の組成比で混合して用いることができる。ここでカーボネート系有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)やフルオロエチレンカーボネート(FEC)などの環状カーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)やジエチルカーボネート(DEC)やジメチルカーボネート(DMC)などの鎖状カーボネートを例示できる。
【0016】
またニトリル系有機溶媒として、アセトニトリル、アクリロニトリル、アジポニトリル、バレロニトリル、イソブチロ二トリルを例示できる。またラクトン系有機溶媒として、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトンを例示できる。またエーテル系有機溶媒として、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル、1,2-ジメトキシエタンやジメチルエーテルやトリグライムなどの鎖状エーテルを例示できる。またアルコール系有機溶媒として、エチルアルコール、エチレングリコールを例示できる。またエステル系有機溶媒として、酢酸メチル、酢酸プロピル、リン酸トリメチルなどのリン酸エステル、ジメチルサルフェートなどの硫酸エステル、ジメチルサルファイトなどの亜硫酸エステルを例示できる。アミド系有機溶媒として、N‐メチル‐2‐ピロリドン、エチレンジアミンを例示できる。スルホン系有機溶媒として、ジメチルスルホンなどの鎖状スルホン、3‐スルホレンなどの環状スルホンを例示できる。ケトン系有機溶媒としてメチルエチルケトン、芳香族系有機溶媒としてトルエンを例示できる。そしてカーボネート系有機溶媒を除く上記各種の有機溶媒は、環状カーボネート(特にエチレンカーボネート(EC))と混合して用いることが好ましく、例えば後述する鎖状カーボネートの代替として用いることが想定される。
【0017】
そしてリチウムイオンキャパシタの電解液においては、使用可能な電圧範囲(例えばLi基準で+4.0V程度)を考慮して、酸化耐性に優れるカーボネート系有機溶媒を用いることが好ましい。さらに電解液は、内部抵抗の指標となるイオン伝導度(S/m、S:ジーメンス、m:メートル)が高いことが好ましく、このイオン伝導度は、電解液の粘度を低めるとともに電解質(後述)の解離度を高めることで向上させることができる。このことから有機溶媒として、電解質の解離度を高める環状カーボネートと、低粘度の鎖状カーボネートを混合してなるカーボネート系有機溶媒を用いることがさらに好ましい(下記[表6]を参照)。
【0018】
ここで鎖状カーボネートとして各種の鎖状カーボネートを用いることができるが、電解液の耐熱性向上の観点から、沸点が低く耐熱性に劣るジメチルカーボネート(DMC)を用いないことが好ましい(下記[表6]を参照)。すなわち有機溶媒中にジメチルカーボネート(DMC)が含まれる場合、ジメチルカーボネート(DMC)が熱分解してジエチルカーボネート(DEC)となり、その際の分解副産物が内部抵抗の増加や耐熱性の悪化を引き起こすことが懸念される(なおこの推察は本発明を限定するものではない)。そしてリチウムイオンキャパシタを高温環境下で使用することを考慮すると、鎖状カーボネートとして、比較的高沸点且つ低粘度のエチルメチルカーボネート(EMC)や、より高沸点のジエチルカーボネート(DEC)を用いることが好ましい。そして電解液のイオン伝導度と耐熱性の双方を向上させる観点から、エチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)を混合して用いることがさらに好ましい。なお有機溶媒中におけるエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)の比率は特に限定しないが、例えばEMC:DEC=2:1~1:2の範囲に設定できる。
【0019】
また環状カーボネートとして各種の環状カーボネートを用いることができるが、電解液の酸化耐性向上の観点から固体電解液相間(SEI)膜生成能力を備えたエチレンカーボネート(EC)を用いることが好ましい。そして環状カーボネートとして、エチレンカーボネート(EC)と他の環状カーボネート(例えばPC)を混合して用いる場合には、エチレンカーボネート(EC)を、他の環状カーボネート(例えばPC)よりも多く含むことが好ましい。このようにエチレンカーボネート(EC)を相対的に多く含むことで、そのSEI膜生成能力が好適に発揮されて、エチレンカーボネート(EC)が還元分解された後にSEIと呼ばれる保護被膜を負極表面に作り、電解液がリチウム(Li)の電位に直接さらされなくなる。
【0020】
ここでリチウムイオンキャパシタが低温環境下で用いられることを考慮すると、-40℃程度の低温環境下において電解液の凝固や溶媒成分の析出が極力生じないことが望まれる。このことから環状カーボネートとして高融点のエチレンカーボネート(EC)を用いる場合、有機溶媒全量に対するエチレンカーボネート(EC)の割合を35vol%未満とすることが好ましい。そして低融点のプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)を混合して用いることで、電解液の凝固や溶媒成分の析出を極力生じさせることなく、有機溶媒中における環状カーボネートの含有量を増やすことができる。このとき有機溶媒全量に対するエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の合計割合を55vol%未満とすることが好ましく、40vol%未満とすることがより好ましい。エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の合計割合が55vol%以上であると低温環境下において電解液の凝固や溶媒成分の析出が生じる可能性が極端に高まる。またエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の合計割合が40vol%以上であると、例えば低温環境下において所望のイオン伝導度が得られないおそれがある。そしてエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を混合して用いる場合、これらの有機溶媒全量に対する合計割合を35vol%~20vol%の範囲に設定することで、電解液の凝固や溶媒成分の析出を極力生じさせることなく、幅広い温度範囲(例えば25℃~-40℃の範囲)において所望のイオン伝導度を得ることができる。
【0021】
<電解質>
電解質は、リチウムイオンとアニオンとに電離して充放電反応に寄与するものであり、主としてイミド構造を有するリチウム塩を含む。イミド構造を有するリチウム塩としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiFSI]、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[LiTFSI]、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[LiBETI]等が挙げられる。イミド構造を有するリチウム塩は、1種のみを用いても2種以上を用いてもよい。また本発明の効果を阻害しない範囲内において他のリチウム塩電解質を併用してもよい。電解質は、好ましくは、電解液に0.5~10.0mol/L含有する。電解質の濃度が0.5mol/L未満では、イオン濃度不足によりイオン伝導度が低下しやすい。一方電解質の濃度が10.0mol/Lを超えると電解液の粘度が増加することによりイオン伝導度が低下しやすい。より好ましくは、電解質の濃度が0.5~2.0mol/Lである。この場合、電解液の粘度が最適であり、イオン伝導度が低下しにくい。
【0022】
電解液には、適宜添加剤を添加してもよく、添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。
【0023】
[正極]
正極では、充放電時にイオンの物理的な吸脱着により電気二重層が形成される。正極は、集電箔と、正極活物質と、バインダと、を少なくとも備え、必要に応じて導電助剤を備える。正極は、集電箔にバインダを介して正極活物質等が集電箔に保持されて構成されている。
【0024】
<集電箔>
集電箔としては、従来リチウムイオンキャパシタに用いられているものを適用することができ、例えば、アルミニウム、ステンレス等の有孔の導電性を有する金属箔を用いることができる。
【0025】
<正極活物質>
正極活物質としては、イオンを吸脱着可能な高比表面積の粒子を用いることができる。そのような正極活物質としては、活性炭やカーボンナノチューブが挙げられる。
【0026】
<バインダ>
バインダは、正極を構成する材料を結着するために用いられる。バインダは、接着成分であるポリマーを主成分としている。ポリマーは、電解液に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づくRED値(相対エネルギー差)が1より大きい。このようなポリマーとして、ポリアクリル酸が挙げられる。ここでのポリアクリル酸とは、未中和のポリアクリル酸だけでなくポリアクリル酸の中和塩及び架橋したものも含む広義の概念である。ポリアクリル酸は、1種のみでも2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリマーを溶解する溶媒としては、水や有機溶媒を用いることができる。溶媒として水を用いる水系バインダは、製造工程での環境負荷を低減することができるため好ましい。ポリアクリル酸は、水を溶媒として水系バインダを構成することができる点でも好適である。
【0027】
ハンセン溶解度パラメータは、Charles M Hansen氏により発表され、物質同士の溶解性の指標として知られている。ハンセン溶解度パラメータは、次のD、P、Hの3つの数値で構成され、これら3つのパラメータが3次元空間(ハンセン空間)中の座標として表される。図1には、ハンセン空間において、ポリマーのハンセン溶解度パラメータに符号a、電解液のハンセン溶解度パラメータに符号bを付して示している。
D:(原子の)分散力
P:(分子の)分極力
H:(分子の)水素結合力
物質同士の溶解性は、各物質のハンセン溶解度パラメータを示す座標間の距離により推定され、座標が互いに近いほど溶解しやすく、遠いほど溶解しにくいとされる。
【0028】
電解液のハンセン溶解度パラメータは、成分の化学構造及び組成比から算出することができる。その場合、Hansen氏らにより開発されたソフトウエアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice:HSPを効率よく扱うためのWindows〔登録商標〕用ソフト)を用いて求めることができる。
【0029】
ポリマーのハンセン溶解度パラメータを求めるには、ハンセン溶解度パラメータが既知の複数の溶媒にポリマーを溶解(混合)させ、ポリマーが溶解する溶媒と溶解しない溶媒のハンセン溶解度パラメータをハンセン空間にプロットする。ポリマーが溶解する溶媒のプロットの集まりで形成される球(ハンセンの溶解球)の中心がポリマーのハンセン溶解度パラメータとされる。ポリマーの溶解球及びハンセン溶解度パラメータも、ソフトウエアHSPiPを用いて算出することができる。図2では、ポリマーとしてポリアクリル酸(ポリアクリル酸のナトリウム中和塩)を用いた場合が例示されており、ポリアクリル酸を溶解する溶媒のハンセン溶解度パラメータが黒丸、溶解しない溶媒のハンセン溶解度パラメータが黒四角で示されており、算出された溶解球sが示される。白丸で示される溶解球sの中央の座標が、ポリマーのハンセン溶解度パラメータaとされる。
【0030】
ポリマーの電解液に対するRED値は、ポリマーのハンセン溶解度パラメータと電解液のハンセン溶解度パラメータの距離をRa、ポリマーの溶解球の半径である相互作用半径をRとしたとき、RED=Ra/Rで表される。電解液に対するポリマーのRED値が1より大きい場合、図1に示されるように、ポリマーの溶解球sの外に電解液のハンセン溶解度パラメータbが位置しており、電解液とポリマーとは互いに溶けにくい。なお、図1では、電解液の溶解度パラメータとして、エチレンカーボネート(EC)30vol%、ジメチルカーボネート(DMC)30vol%及びエチルメチルカーボネート(EMC)40vol%の混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L含有する電解液のハンセン溶解度パラメータを例示している。
【0031】
バインダは、正極活物質に対して1~10質量%添加するのが好ましい。1質量%未満であると結着力が不足しやすい。一方10質量%を超えると導体抵抗の増加原因となる可能性がある。
【0032】
<導電助剤>
導電助剤は、正極の内部及び集電箔の界面の導体抵抗を下げるために、適宜添加することができる。導電助剤としては、従来リチウムイオンキャパシタに用いられているものを適用することができ、例えば、アセチレンブラック、黒鉛の微粒子や微細繊維等が挙げられる。
【0033】
<正極の作成方法>
正極は、集電箔に、他の構成材料を水を溶媒として混合した正極用スラリーを塗布し、塗膜を形成することにより作製される。正極用スラリー中でバインダの増粘作用が不足する場合は、適宜カルボキシセルロース等の増粘材を添加することができる。その場合は、バインダと増粘材の合計添加量が正極活物質に対して1~10質量%であるのが好ましい。溶媒である水は、スラリーの粘度をB型粘度計で測定したときの2s-1の測定値が1000~10000mPa・sの範囲となるのを目安に添加量を調整すると、集電箔に塗膜を形成しやすいため好ましい。
【0034】
[負極]
負極では、充放電時にリチウムイオンの吸蔵・脱離が起こる。負極としては、従来のリチウムイオンキャパシタを構成する負極を用いることができる。典型的には、リチウムイオンを吸蔵・脱離することのできるグラファイト等の負極活物質がバインダを介して集電箔に保持されたものが挙げられる。負極の集電箔としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。バインダも従来用いられているものを適用することができるが、環境保全等の観点から、例えばスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の水系のバインダであるのが好ましい。
【0035】
〔リチウムイオンキャパシタの構成〕
本発明のリチウムイオンキャパシタは、従来のリチウムイオンキャパシタと同様の構成のセル形態をとることができる。例えば、正極と負極とをセパレータを介して積層した積層型セル、又は正極と負極との間にセパレータを介装して捲回した捲回型セルとすることができる。
【0036】
なお、上述の実施形態の正極及び負極用スラリーの塗布量は、放電容量、正極及び負極のサイズなどにより調整される。また、集電箔の厚みは、製造時に破損しない厚さで、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗性能などにより調整される。また、溶媒は、リチウムイオンキャパシタの性能に併せて変更される。
【実施例
【0037】
[正極の作成]
まず、正極活物質として粉体の活性炭、バインダとしてポリアクリル酸(ポリアクリル酸のナトリウム中和塩)、アクリル酸エステル又はスチレン-ブタジエンゴム〔SBR〕、導電助剤としてアセチレンブラック、増粘材としてカルボキシメチルセルロース〔CMC〕、溶媒として水を用いて、表1に示される組成にて正極活物質を含む正極用スラリーA~Cを調整した。なお、表1における「部」は質量部を示し、「%」は質量%を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
バインダとしてポリアクリル酸を用いた正極用スラリーAは、以下の手順にて調製した。
(1)全ての材料と水とを、ミキサーa(株式会社シンキー製あわとり練太郎ARE-310)にて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーb(プライミクス株式会社製フィルミックス40-L)にて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーを再度ミキサーaで混合して正極用スラリーAを調製した。
【0040】
バインダとしてアクリル酸エステル又はSBRを用いた正極用スラリーBとCとは、以下の手順にて調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して正極用スラリーB又はCを調製した。
【0041】
次に、集電箔として厚み15μmのアルミニウム箔(多孔箔)を用い、正極用スラリーA~Cをそれぞれ集電箔に塗工し、乾燥させて正極A~Cを作成した。正極用スラリーの塗布量は、乾燥後の活性炭の質量が3mg/cmとなるように調整した。集電箔への正極用スラリーの塗工には、ブレードコーターやダイコーターを用いた。
【0042】
[負極の作成]
まず、負極活物質としてのグラファイト95質量部、バインダとしてのSBR1質量部、増粘材としてのCMC1質量部、溶媒としての水100質量部を混合し、以下の手順にて負極用スラリーを調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して負極用スラリーを調製した。
【0043】
次に、集電箔として厚み10μmの銅箔(多孔箔)を用い、負極用スラリーを集電箔に塗工し、乾燥させて負極を作成した。負極用スラリーの塗布量は、乾燥後のグラファイトの質量が3mg/cmとなるように調整した。集電箔への負極用スラリーの塗工には、ブレードコーターを用いた。
【0044】
[電解液の調整]
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30vol%、ジメチルカーボネート(DMC)30vol%及びエチルメチルカーボネート(EMC)40vol%の混合溶媒を用い、混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液Iを調整した。また、混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を添加して電解液Pを調整した。また溶媒として、エチレンカーボネート(EC)20vol%、エチルメチルカーボネート(EMC)46.7vol%、ジエチルカーボネート(DEC)23.3vol%、プロピレンカーボネート(PC)10vol%の混合溶媒を用い、混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液I2を調整した。
【0045】
[評価用リチウムイオンキャパシタセルの作製]
実施例及び比較例の評価用リチウムイオンキャパシタセルを、表2に示す正極及び電解質の組み合わせで、次の手順にて作製した。
(1)正極、負極をそれぞれ打ち抜き、60mm×40mmのサイズの長方形とし、40mm×40mmの塗膜を残して長辺の一端側の20mm×40mmの領域の塗膜を剥ぎ落として集電用タブを取り付けた。
(2)厚さ20μmのセルロース製セパレータを間に介した状態で正極と負極の塗膜部分を対向させて積層体を作製した。
(3)(2)で作製した積層体と、リチウムプレドープ用の金属リチウム箔をアルミラミネート箔に内包し、電解液を注入し、封止して評価用リチウムイオンキャパシタセルを作製した。
【0046】
【表2】
【0047】
[初期性能の測定]
作製した各評価用リチウムイオンキャパシタセルにおいて、リチウムプレドープ、充放電、エージングを行った後、常温(25℃)にて、カットオフ電圧:2.2~3.8V、測定電流10Cで内部抵抗及び放電容量を測定し、その結果を初期性能とした。
【0048】
[耐久試験(85℃フロート試験)]
外部電源を繋いで電圧を3.8Vに保持した状態の評価用リチウムイオンキャパシタセルを85℃の恒温槽内に放置した。その放置時間が、85℃,3.8Vフロート時間に相当する。所定時間経過後、評価用リチウムイオンキャパシタセルを恒温槽から取り出し、常温に戻した後上記初期性能の測定と同一条件で内部抵抗及び放電容量を測定し、容量維持率(初期の放電容量を100%としたときの放電容量の百分比)と、内部抵抗増加率(初期性能からの内部抵抗の増加率)を算出した。その結果を表3及び図3又は図4に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
図3等に示されるように、85℃の高温環境に放置した場合、電解質としてイミド構造を有さないフッ化リン酸リチウムを含む電解液を用いた比較例3では短時間で容量維持率が半減したのに対し、電解質としてイミド構造を有するリチウム塩を含む電解液を用いた実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2では容量維持率が長時間高く保たれた。しかし、図4等に示されるように、電解質としてイミド構造を有するリチウム塩を含む電解液を用いた場合でも、正極のバインダの構成により、内部抵抗増加率に差異があることが明らかとなった。そこで、正極のバインダを構成するポリマーの電解液に対するRED値(表2参照)を対比したところ、RED値が1以下であるアクリル酸エステルを用いた比較例1やSBRを用いた比較例2では内部抵抗増加率が高いことが判明した。これに対し、実施例1及び実施例2では、電解質としてイミド構造を有するリチウム塩を含む電解液を用いるとともに、正極のバインダを構成するポリマーとして、電解液に対するRED値が1より大きいポリアクリル酸を用いている。この場合、正極のバインダを構成するポリマーが電解液に溶解しにくく、85℃の高温環境に放置しても容量維持率が高く保たれるとともに、内部抵抗増加率を小さく抑えられることが明らかになった。とくに実施例2では、内部抵抗増加率がさらに小さく抑えられていることがわかった。この実施例2の結果は、有機溶媒としてのカーボネート系有機溶媒に、ジメチルカーボネート(DMC)が含まれておらず且つエチレンカーボネート(EC)がプロピレンカーボネート(PC)よりも多く含まれているためであると容易に推察された。なお、RED値を算出するために、ポリマーのハンセン溶解度パラメータと相互作用半径の算出及び電解液のハンセン溶解度パラメータの算出は、次の手順で行った。
【0051】
〈ポリマーのハンセン溶解度パラメータと相互作用半径の算出〉
各バインダについて、ポリマーの相互作用半径をR及びハンセン溶解度パラメータを次の手順にて算出した。
(1)試験用サンプルの調整
水に溶解させたバインダをテフロンシート(テフロン:登録商標)に滴下し、60℃で一日以上乾燥させて試験用サンプルを調整する。
(2)試験用溶媒の調整
表4に示される組成にて、No.1~29の試験用溶媒を調整した。調整した各試験用溶媒を容量10mlのバイアルビンに入れ、吸湿性の高い溶媒についてはモレキュラシーブ3Aも入れて用意した。
(3)膨潤試験
試験用サンプルを各試験用溶媒に浸漬させた。1~14日常温に放置し、サンプルの形状変化を観察した。試験用溶媒による形状変化(膨潤の程度)に差が見られない場合は60℃で放置した。
(4)形状変化の評価
(3)の後、各試験用溶媒に対する試験用サンプルの形状変化を判定し、次の4段階に分けて点数を付けた。0:変化なし 1:溶解 2:膨潤 3:その他変化(変色等)
(5)ハンセン溶解度パラメータと相互作用半径の算出
ソフトウエアHSPiPを用い、(4)の評価結果に基づいてハンセン溶解度パラメータと相互作用半径の算出した。その結果を表5に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
〈電解液のハンセン溶解度パラメータの算出〉
成分の化学構造及び組成比に基づき、ソフトウエアHSPiPを用いて算出した。その結果、電解液Iのハンセン溶解度パラメータは、D:16.3 P:12.5 H:7.5であった。
【0055】
〈有機溶媒の影響〉
以下の[表6]に、カーボネート系有機溶媒として用いられる各種溶媒成分の物性を示す。また[表7]~[表9]に、各種カーボネート系有機溶媒に1mol/LのLiFSIを添加した各種電解液の特性(沸点(沸点の測定方法は後述)、低温環境下での析出の有無(析出有無の確認方法は後述)、常温及び低温環境下でのイオン伝導度)を示す。なお[表7]では、環状カーボネートとしてECを用い、[表8]では、環状カーボネートとしてPCを用い、[表9]では、環状カーボネートとしてECとPCを混合して用いた。また[表10]及び[表11]に、各種カーボネート系有機溶媒に1mol/LのLiFSIを添加した各種電解液の特性(-50℃環境下での析出の有無)を示す。また図5のグラフは、[表7]~[表9]に基づいて作製されたグラフであり、横軸が、有機溶媒全量に対する環状カーボネートの含有比率(十分率)の値を示し、縦軸が、常温及び低温環境下のイオン伝導度の値を示す。また図6のグラフは、[表9]に基づいて作製されたグラフであり、横軸が、有機溶媒全量に対する環状カーボネートの含有比率(十分率)の値を示し、縦軸が、常温及び低温環境下のイオン伝導度の値を示す。
【0056】
〈沸点の測定方法〉
ここで[表7]~[表9]に示す各種電解液の沸点の測定方法について詳述する。本試験においては、Ar雰囲気中でセパレータ等をアルミラミネート箔に内包し、電解液を注入し、封止して、リチウムイオンキャパシタセルを作製し、このリチウムイオンキャパシタセルを恒温槽に入れ、5℃刻みで所定の温度まで上げた後、30分程度放置した。30分程度放置後、このリチウムイオンキャパシタセルを観察し、電解液が沸点を超えている場合には、電解液が気体となっていて、リチウムイオンキャパシタセルが膨らんでいた。そこで本試験においては、リチウムイオンキャパシタセルが膨らまない上限温度を各電解液の沸点とした。
【0057】
〈低温環境下での析出有無の確認方法〉
つぎに[表7]~[表11]に示す各種電解液の低温環境下での析出有無の確認方法について詳述する。本試験においては、Ar雰囲気中でセパレータ等を透明な容器に内包し、電解液を注入し、封止して、リチウムイオンキャパシタセルを作製し、このリチウムイオンキャパシタセルを恒温槽に入れ、所定の温度で、30分放置した。30分放置後、このリチウムイオンキャパシタセルを観察し、透明でなくなった(白濁等すると固体化する)ときに析出ありとした。
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
[表7]及び[表8]を参照して、ジメチルカーボネート(DMC)が有機溶媒中に含まれることで電解液の沸点が低下することがわかった。このことから有機溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)を用いることで、電解液の内部抵抗の増加や耐熱性の悪化を引き起こしやすいことが容易に推察された(なおこの推察は本発明を限定するものではない)。また[表7]~[表9]を参照して、ジメチルカーボネート(DMC)の代わりとして、エチルメチルカーボネート(EMC)やジエチルカーボネート(DEC)が電解液中に含まれることで電解液の沸点が上昇することがわかった。このことからリチウムイオンキャパシタを高温環境下で使用することを考慮すると、鎖状カーボネートとして、エチルメチルカーボネート(EMC)やジエチルカーボネート(DEC)を用いることが好ましいことがわかった。さらに電解液のイオン伝導度と耐熱性の双方を向上させる観点から、エチルメチルカーボネート(EMC)やジエチルカーボネート(DEC)を混合して用いることがさらに好ましいことがわかった。
【0065】
また[表10]を参照して、35vol%以上のエチレンカーボネート(EC)を含む有機溶媒の電解液では溶媒成分の析出が見られた。このことから環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)を用いる場合、有機溶媒中のエチレンカーボネート(EC)の割合を35vol%未満とすることが好ましいことがわかった。
【0066】
また[表11]を参照して、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)を混合して用いることで、電解液の凝固や溶媒成分の析出を極力生じさせることなく、有機溶媒中における環状カーボネートの含有量を増やせることがわかった。また合計55vol%以上のエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を含む有機溶媒の電解液は凝固する可能性が極端に高かった。さらに図5及び図6を参照して、合計40vol%以上のエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を含む有機溶媒の電解液では低温環境下においてイオン伝導度が低下する傾向にあった。このことから有機溶媒全量に対するエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の合計割合を55vol%未満とすることが好ましく、40vol%未満とすることがより好ましいことがわかった。そしてエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の有機溶媒全量に対する合計割合を35vol%~20vol%の範囲に設定することで、電解液の凝固等を極力生じさせることなく、幅広い温度範囲(例えば25℃~-40℃の範囲)において所望のイオン伝導度を得ることができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6