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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】低炭素フェロクロムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/04 20060101AFI20241007BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20241007BHJP
   C22B 34/32 20060101ALI20241007BHJP
   C22C 27/06 20060101ALN20241007BHJP
【FI】
C22C33/04 B
C22B5/02
C22B34/32
C22C27/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021533033
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020026997
(87)【国際公開番号】W WO2021010313
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019130322
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500103236
【氏名又は名称】JFEマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】杉森 博一
(72)【発明者】
【氏名】森 正浩
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-051690(JP,A)
【文献】特開2011-094210(JP,A)
【文献】特開2012-041618(JP,A)
【文献】特開2003-049235(JP,A)
【文献】特開2015-137369(JP,A)
【文献】特開2013-142189(JP,A)
【文献】特開2016-148102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/00
C21C 7/00- 7/10
C22C 33/04-33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム鉱石と生石灰を電気炉で溶解する第1工程と、
ガス底吹き装置を有する反応容器に前記第1工程で溶解した溶解原料(以下、1次スラグという)を出湯し、還元剤と前記1次スラグに対して質量比で10%以上100%以下の追装クロム鉱石を含有する冷材を装入し、前記ガス底吹き装置から不活性ガスを底吹きすることにより撹拌して、低炭素フェロクロムと2次スラグを生成させる第2工程と、
前記2次スラグが装入された電気炉又は反応容器に還元剤を装入し、回収シリコクロムと3次スラグを生成させる第3工程と、を備え
前記第2工程における前記反応容器の前記低炭素フェロクロムと前記2次スラグの溶湯の反応終点温度が1620℃以上1900℃以下である低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項2】
前記ガス底吹き装置の攪拌ガス量が、溶湯1t当たり5l/min以上1000l/min以下であることを特徴とする請求項1に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項3】
前記2次スラグの酸化クロム含有率(Cr質量%)を10.0質量%以下、塩基度(CaO/SiO)を1.65未満に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項4】
前記反応容器の底部の中央部に前記ガス底吹き装置の不活性ガスを吹き出す1つのプラグを配置し、及び/又は前記反応容器の底部の中央部を中心にした円上に前記ガス底吹き装置の不活性ガスを吹き出す複数のプラグを配置することを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項5】
前記ガス底吹き装置は、不活性ガスを吹き出す複数のスリットを有するスリット式プラグを備えることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項6】
前記スリット式プラグがMgO及び/又はAlを含む耐火物からなる本体を備え、
前記耐火物からなる前記本体に前記複数のスリットを形成することを特徴とする請求項に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項7】
前記還元剤と前記追装クロム鉱石を混合した状態で若しくは前記還元剤と前記追装クロム鉱石を層状に積層した状態で前記反応容器に装入し、又は前記還元剤を前記反応容器に装入した後、前記追装クロム鉱石を前記反応容器に装入することを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低炭素フェロクロムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Cr60質量%以上、C0.1質量%以下のFe-Cr合金である低炭素フェロクロムは、一般に、クロム鉱石をシリコンで還元する方法によって製造されている。その具体的な製造方法としては、所謂ペラン法が採用されている。図7に示すように、ペラン法の基本的工程は、クロム鉱石と生石灰を電気炉で溶解する第1工程と、第1工程で溶解した溶解原料(以下、1次スラグという)を取鍋に出湯し、この取鍋内に還元剤としてのシリコクロムを装入して攪拌し、還元反応を行わせて、低炭素フェロクロムと2次スラグを生成する第2工程と、を備える。第2工程での攪拌は、通常、2基の取鍋を用意して、シリコクロムを含んだ1次スラグの溶湯の移し替えを繰り返し行うリレードリングによってなされる。
【0003】
クロム鉱石をシリコンで還元する上記の還元反応は、発熱反応である。従来の低炭素フェロクロムの製造方法においては、反応熱を有効に利用するため、冷材であるクロム鉱石を取鍋に追加装入し、この追装クロム鉱石を取鍋内で溶解させることで、電力原単位を低減させ、生産性を向上させている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-225743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、2基の取鍋で溶湯の移し替えを行う従来の低炭素フェロクロムの製造方法においては、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比(追装クロム鉱石の質量/1次スラグの質量)をせいぜい7~9%までしか上げることができないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比を上げ、電力原単位を低減できる低炭素フェロクロムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、クロム鉱石と生石灰を電気炉で溶解する第1工程と、ガス底吹き装置を有する反応容器に前記第1工程で溶解した溶解原料(以下、1次スラグという)を出湯し、還元剤と前記1次スラグに対して質量比で10%以上100%以下の追装クロム鉱石を含有する冷材を装入し、前記ガス底吹き装置から不活性ガスを底吹きすることにより撹拌して、低炭素フェロクロムと2次スラグを生成させる第2工程と、前記2次スラグが装入された電気炉又は反応容器に還元剤を装入し、回収シリコクロムと3次スラグを生成させる第3工程と、を備え、前記第2工程における前記反応容器の前記低炭素フェロクロムと前記2次スラグの溶湯の反応終点温度が1620℃以上1900℃以下である低炭素フェロクロムの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ガス底吹き装置を有する反応容器のガスバブリングにより熱効率、シリコン効率及び還元反応の反応性を向上させることができるという新たな知見に基づくものである。本発明によれば、ガス底吹き装置を有する反応容器を用いることで、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比を10%以上に上げることができ、電力原単位を低減できる。また、ガス底吹き装置を有する反応容器を使用するので、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比を10%以上に上げても、反応容器の溶湯の反応終点温度を1620℃以上1900℃以下の高温に保つことができる。このため、後工程の操業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法の工程図である。
図2】本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法で用いられる全体設備を示す図である。
図3】本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法で用いられる反応容器の縦断面図である。
図4】本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法で用いられる反応容器の縦断面図である(図4(a)はプラグを反応容器の底部の中央部に配置した例を示し、図4(b)はプラグを反応容器の底部の周辺に配置した例を示す)。
図5図5(a)は本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法で用いられる反応容器のプラグの平面図であり、図5(b)はプラグの縦断面図である。
図6】本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法の第2工程における2次スラグの塩基度(CaO/SiO)と2次スラグのクロム含有率(Cr)質量%との関係を示すグラフである。
図7】従来の低炭素フェロクロムの製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法を詳細に説明する。ただし、本発明の低炭素フェロクロムの製造方法は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法の工程図である。図2は、本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法で用いられる設備を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法は、クロム鉱石と媒溶剤である生石灰の混合物を電気炉内で溶解させて溶解原料(以下、1次スラグという)を生成する第1工程(S1)を備える。
【0013】
図2に示すように、クロム鉱石と生石灰は、ホッパ4に貯蔵される。電気炉1には、炉底より高い位置に出湯口1aを設けて湯溜まりを形成した固定型電気炉を用いる。出湯口1aを炉底に設けてもよい。湯溜まりを形成するのは、1次スラグを出湯しても安定した熱量を保持するためである。1次スラグは、出湯口1aから反応容器2に出湯される。1次スラグの出湯温度は、1400℃以上2000℃以下の高温である。
【0014】
次に、図1図2に示すように、1次スラグが出湯された反応容器2に、還元剤として副原料のシリコクロム、1次スラグに対して質量比で10%以上100%以下、望ましくは15%以上65%以下の追装クロム鉱石を含有する冷材、クロム還元に必要な量の回収シリコクロムを装入する。そして、図2に示すように、ガス底吹き装置2aから反応容器2にArガス等の不活性ガスを底吹きすることにより攪拌し、クロム鉱石の酸化物を還元して、低炭素フェロクロムと2次スラグを生成させる。この還元工程が第2工程(S2)である。
【0015】
還元反応の反応熱を有効に利用するという観点から、シリコクロムと追装クロム鉱石を混合した状態で若しくはシリコクロムと追装クロム鉱石を層状に積層した状態で反応容器2に装入するのが望ましく、又はシリコクロムを反応容器2に装入した後、追装クロム鉱石を反応容器2に装入するのが望ましい。
【0016】
冷材には、追装クロム鉱石の他、電気炉1で発生するダスト、反応容器2又は電気炉3で発生する吹き返しメタル、反応容器2又は電気炉3で発生するGP(篩下メタル)、反応容器2又は電気炉3で発生する高クロム含有スラグ、又はクロム含有原料の少なくとも一つを含んでもよい。
【0017】
回収シリコクロムは、後述する第3工程で回収されたシリコクロムであるが、それ以外のシリコクロムでもよい。また、還元剤にシリコクロムを用いているが、シリコクロムの他に金属ケイ素等のシリコン系還元剤を用いてもよい。また、シリコン系還元剤の他にアルミ若しくはアルミ合金等のアルミニウム系還元剤、マグネシウム若しくはマグネシウム合金等のマグネシウム系還元剤、又はカルシウム若しくはカルシウム合金等のカルシウム系還元剤を用いてもよい。さらに、これらの還元剤の混合物を用いてもよい。
【0018】
反応容器2内において、クロム鉱石の酸化クロムとシリコンとの還元反応は以下のように進む。
Cr+3/2Si→2Cr+3/2SiO…(1)
ここで、遊離したSiOは、以下の(2)(3)式のように生石灰と反応し、2次スラグが生成される。
CaO+SiO→CaO・SiO…(2)
2CaO+SiO→2CaO・SiO…(3)
(2)(3)式のように2次スラグが生成されると、(1)式の遊離のSiOが少なくなり、(1)式の還元反応は左から右に進む。
【0019】
撹拌能力が高いガス底吹き装置2aを有する反応容器2のガスバブリングにより、以下に説明するように(1)熱効率、(2)シリコン効率、及び(3)還元反応の反応性を向上させることができる。したがって、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比を10%以上に上げることができる。
【0020】
(1)ガス底吹き装置2aを有する反応容器2のガスバブリングにより還元反応を進めるので、反応容器2の熱損失を小さくすることができる(言い換えれば熱効率を向上させることができる)。
【0021】
(2)ガス底吹き装置2aを有する反応容器2のガスバブリングにより、シリコン効率を向上させることができる。シリコン効率は、還元剤として有効に働いている有効還元シリコン(酸化ロス等のロス分のシリコンを除く)の割合であり、(酸化物であるCr分、Fe分の還元に使用されたシリコン量/投入シリコン量)で表される。ガスバブリングにより、リレードリングに比べて、空気とメタルが接触することによるシリコンの酸化ロスが少なくなり、その分シリコン効率が向上する。リレードリングの場合のシリコン効率が約80~85%であるのに対し、ガスバブリングの場合のシリコン効率は約87~94%である。このため、高価なシリコンを削減できる。
【0022】
(3)ガス底吹き装置2aを有する反応容器2のガスバブリングにより、反応性を向上させることもできる。生石灰を減らし、塩基度を低下させると、SiOの活量係数が増加し、(1)式のクロムの還元反応が起こりにくくなり、2次スラグの(Cr)質量%が高くなる。しかし、図6に示すように、ガス底吹き装置2aのガスバブリングによって還元反応が進行するので、2次スラグの(Cr)質量%を下げられる。2次スラグの(Cr)質量%を下げられることにより、有利な操業を行なえる。例えば、塩基度を1.65未満まで下げても、クロム歩留りが低下するのを防止できる。
【0023】
第2工程(S2)での2次スラグの酸化クロム含有率(Cr質量%)は、10.0質量%以下に調整される。2次スラグの塩基度(CaO/SiO)の上限は、1.65未満、望ましくは1.5未満、さらに望ましくは1.4未満に低く調整される。2次スラグの塩基度を1.65未満に低くすることで、後述する3次スラグの塩基度を1.3未満に低くし、3次スラグに有害な6価クロムが発生するのを防止するためである。2次スラグの塩基度の下限は、低ければ低いほど好ましいが、第3工程(S3)での反応性を確保するために、2次スラグの塩基度の下限を1.0以上とする。
【0024】
反応容器2の低炭素フェロクロムと2次スラグの溶湯の反応終点温度(反応終了後の温度)は、1350℃以上1900℃以下の高温である。
【0025】
図3は、ガス底吹き装置2aを有する反応容器2の縦断面図である。図3に示すように、反応容器2の鉄皮6の底6aには、耐火物8,9が施される。反応容器2の底部の中央部には、ガス底吹き装置2aのプラグ19が配置される。プラグ19のパイプ部17に不活性ガスを導入すると、プラグ19から反応容器2内に不活性ガスが吹き込まれ、反応容器2内の溶湯が攪拌、すなわちガスバブリングされる。
【0026】
第2工程(S2)の操業は、上記のように1次スラグから(1)式の反応を進行させる。操業の初期では、反応容器2内は1次スラグが主体である。反応の進行とともにフェロクロムの溶湯(メタル21)が生成し、フェロクロムの溶湯(メタル21)の上に2次スラグ22が存在する状態となる。最終的には、2次スラグ22:メタル21の体積比は、概ね4:1となる。粘性の高い2次スラグ22が多量に存在する状態で反応性を高めるためには、撹拌能力を高めることが必要であり、そのために、反応容器2の底部に不活性ガスを吹き込むガス底吹き装置2aを用いる。
【0027】
一般に溶融メタルが主体の場合、撹拌効率を高めるためには、図4(b)に示すように、ガス底吹き装置2aのプラグ19を反応容器2の底部の中央部からオフセットさせた位置(偏心位置)に配置するのがよいことが知られている(例えば特開平1-177333号公報参照)。しかし、本実施形態のように、粘性の高い2次スラグ22が多量に存在する場合、図4(b)に示すように、ガス底吹き装置2aのプラグ19を反応容器2の底部の偏心位置に配置すると、プラグ19を配置した側とは反対側が弱攪拌状態になり、反対側で未溶解の追装クロム鉱石23が残る。これに対し、図4(a)に示すように、ガス底吹き装置2aのプラグ19を反応容器2の底部の中央部に配置することで、反応容器2内に底部の中央部から上昇した後、放射状に周辺に向かう溶湯の流れが形成される。このため、反応容器2内を均一に攪拌でき、追装クロム鉱石を巻き込んで溶解することが可能になる。反応容器2の底部の中央部を中心にした円上に複数のプラグを配置してもよい。このようにしても、反応容器2内を均一に攪拌できる。
【0028】
図5(a)はプラグ19の平面図であり、図5(b)はプラグ19の縦断面図である。プラグ19は、円錐台状の本体11と、本体11の下部に設けられる円盤状のガス溜り形成部12と、を備える。本体11とガス溜り形成部12との間には、円盤状のガス溜まり部13が形成される。ガス溜り形成部12には、パイプ部17が接続される。本体11は、反応容器2内の溶湯の高温(1350℃以上1900℃以下)に耐えるために、MgO及び/又はAlを含む耐火物からなる。本体11の材質は、例えば92質量%MgO-4質量%Cr、又は98質量%Al-2質量%MgOである。ガス溜り形成部12とパイプ部17は、鉄製である。
【0029】
図5(a)に示すように、耐火物からなる本体11には、不活性ガスを吹き出す複数のスリット15が形成される。スリット15は、リング状に配列される複数の内周側スリット15aと、リング状に配列される複数の外周側スリット15bと、を備える。図5(b)に示すように、スリット15は、上面11aから下方向に延びていて、下部のガス溜まり部13に連通する。
【0030】
図3に示すように、プラグ19のパイプ部17に不活性ガスを導入すると、プラグ19から反応容器2内に不活性ガスが吹き込まれ、反応容器2内の低炭素フェロクロム21とスラグ22の溶湯がすなわちガスバブリングされる。
【0031】
上記のように、プラグ19はスリット式プラグである。スリット式プラグは、ポーラスプラグに比較して、耐溶損性に優れ、スリットの出口での気泡が小さくて攪拌力が強いという特徴を持つ。なお、攪拌できないことはないので、ポーラスプラグを使用してもよい。
【0032】
プラグ19の吹き込み量、すなわち攪拌ガス量Q(l/min)は、溶湯1t当たり5l/min以上1000l/min以下に設定される。プラグ19のスリット15に溶湯が浸入しない条件とガスが吹き抜け(攪拌できずに一直線にガスが吹き抜ける)しない条件から、5l/min≦Q≦1000l/minが必要である。還元反応をスムーズに進行させるには、5l/min≦Qが必要である。Q>1000l/minにしても、それ以上還元反応を進行させるのに効果がなく、逆に低炭素フェロクロム21とスラグ22の溶湯が冷却する。攪拌ガス量Qは、追装クロム鉱石の量に応じて設定され、追装クロム鉱石の量が多ければ多いほど大きい値に設定される。
【0033】
再び図1に示すように、還元反応によって生成した低炭素フェロクロムの溶湯は、鋳型に鋳込まれて製品となる。製品の低炭素フェロクロムは、Crを60質量%以上、Siを1.0質量%以下、Cを0.1質量%以下含む。一方、還元反応によって生成した2次スラグの溶湯は、低炭素フェロクロムの溶湯から分離された後、電気炉3に装入される。
【0034】
次に、図1に示すように、2次スラグが装入された電気炉3に還元剤としてのフェロシリコンを装入し、2次スラグ中に残留している酸化クロムと反応させて、回収シリコクロムと3次スラグを生成させる。この工程が第3工程(S3)である。電気炉3には、塩基度を調整するために、硅石(SiO)が添加される場合もある。また、電気炉3には、工場に埋め立てられ、又は工場に放置されて固化した酸化クロム含有固化スラグが添加される場合もある。固化スラグは、以前の低炭素フェロクロムの操業で製造された2次スラグ(従来の2基の取鍋を用いたリレードリングによって製造された2次スラグ及び/又は本実施形態の反応容器2を用いたガスバブリングによって製造された2次スラグ)が固化したスラグを含み、酸化クロムを含む。
【0035】
なお、電気炉3にガス底吹き装置を設けてもよい。電気炉3の替わりに、不活性ガスを吹き込む反応容器を使用してもよい。反応容器は、ガス底吹き装置を有する反応容器でも、ランスから不活性ガスを吹き込む上吹き式の反応容器でもよい。電気炉3又は反応容器に設けられるガス底吹き装置は、前述した第2工程の反応容器2のガス底吹き装置2aと同様に、電気炉3又は反応容器の底部の中央部に配置されるのが望ましい。第2工程(S2)のスラグ(2次スラグ22)とメタル(低炭素フェロクロム21)の体積比は約4:1であるのに対し、第3工程(S3)のスラグ(3次スラグ)とメタル(回収シリコクロム)の体積比は約10:1である。第3工程(S3)の溶湯の攪拌力を高めるために、第3工程(S3)の溶湯1t当たりの攪拌ガス量(l/min)を第2工程(S2)の溶湯1t当たりの攪拌ガス量(l/min)よりも大きくするのが望ましい。
【0036】
第3工程(S3)では、還元剤としてのフェロシリコンを多量、すなわち酸化クロムの還元当量の1倍以上、望ましくは2倍以上装入し、強還元にして、3次スラグの酸化クロム含有率を1.4質量%以下、望ましくは1.0質量%以下まで低減させる。3次スラグの6価クロムを低減させるためであり、クロム歩留りを向上させるためである。回収シリコクロムのSi含有率は、20質量%以上70質量%以下である。なお、還元剤にフェロシリコンを用いているが、フェロシリコンの他に金属ケイ素等のシリコン系還元剤を用いてもよい。また、シリコン系還元剤の他にアルミ若しくはアルミ合金等のアルミニウム系還元剤、マグネシウム若しくはマグネシウム合金等のマグネシウム系還元剤、又はカルシウム若しくはカルシウム合金等のカルシウム系還元剤を用いてもよい。さらに、これらの還元剤の混合物を用いてもよい。
【0037】
3次スラグの塩基度は、1.3未満、望ましくは1.2未満、さらに望ましくは1.1未満に低く調整される。低塩基度にすると、以下の(4)式のようにCaOと結合する6価クロム化合物(CaO・CrO)からCaOを奪い、6価クロム化合物を3価クロム化合物(Cr)に変えると考えられる。
2(CaO・CrO)+2SiO→2(CaO・SiO)+Cr+3/2O…(4)
【0038】
ここで、3次スラグの塩基度の下限は、低ければ低いほど好ましいが、3次スラグのクロム含有率を低減するために、0.7以上、望ましくは0.8以上、さらに望ましくは0.9以上とする。
【0039】
表1は、2次スラグの塩基度(CaO/SiO)と3次スラグの塩基度(CaO/SiO)との関係を示す。第3工程(S3)において塩基度(CaO/SiO)調整用の副原料を添加しない場合、2次スラグの塩基度と3次スラグの塩基度とには、正の相関関係がある。表1に示すように、2次スラグの塩基度が1.65未満であれば、3次スラグの塩基度を1.3未満に低減することができる。一方、2次スラグの塩基度が1.65より大きければ、3次スラグの塩基度が1.3を超えてしまう。
【表1】
【0040】
スラグの酸化クロム含有率の定量化方法、スラグの塩基度の定量化方法を説明する。スラグの酸化クロム含有率は、スラグのCr含有率を酸化物換算したものである。具体的には、酸化クロムを全量Crとして、酸化クロム含有率=Cr含有率×152/104とする。本実施形態のように3次スラグの酸化クロム含有率を1.4質量%以下にすることは、3次スラグのクロム含有率を1.4×104/152=0.96≒1質量%以下にすることを意味する。スラグのクロム含有率は((Cr)質量%)で表される。スラグの酸化クロム含有率は(Cr質量%)で表される。スラグのCrの定量化方法には、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析方法を使用する。この分析方法において、試料の分解には「JIS G1313-1 2012 アルカリ融解による分解」を援用する。
【0041】
スラグの塩基度(CaO/SiO)は、スラグのCaO含有率/スラグのSiO含有率で表される。スラグのCaO含有率は、スラグのCa含有率を酸化物換算したものであり、CaO含有率=Ca含有率×56/40である。スラグのSiO含有率は、スラグのSi含有率を酸化物換算したものであり、SiO含有率=Si含有率×60/28である。スラグのCaとSiの定量化方法には、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析方法を使用する。この分析方法において、試料の分解には「JIS G1313-1 2012 アルカリ融解による分解」を援用する。
【0042】
再び図1に示すように、回収シリコクロムは、副原料シリコクロムと共に反応容器2に装入される。副原料シリコクロムの一部が回収シリコクロムによって代替されるので、副原料シリコクロムが低減される。回収シリコクロムを第3工程(S3)の電気炉3又は反応容器に投入し、フェロシリコンの一部代替として利用してもよい。3次スラグは、路盤材又は肥料に使用され、又は工場に埋め立てられる。3次スラグの6価クロム溶出量(濃度)は、0.05mg/l以下である。
【0043】
以上に本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法を説明した。本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法によれば、以下の効果を奏する。
【0044】
ガス底吹き装置2aを有する反応容器2のガスバブリングにより(1)熱効率、(2)シリコン効率及び(3)還元反応の反応性を向上させることができる。したがって、追装クロム鉱石の量を10%以上に上げ、電力原単位を低減できる。
【0045】
ガス底吹き装置2aの攪拌ガス量Qが溶湯1t当たり5l/min以上であるので、プラグ19のスリット15に溶湯が浸入するのを防止でき、還元反応をスムーズに進行させることができる。また、ガス底吹き装置2aの攪拌ガス量Qが1000l/min以下であるので、ガスが吹き抜け(攪拌できずに一直線にガスが吹き抜ける)のを防止でき、低炭素フェロクロムと2次スラグの溶湯が冷却するのを防止できる。
【0046】
ガス底吹き装置2aを有する反応容器2を使用するので、第2工程の塩基度を1.65未満まで下げても、クロム歩留りが低下するのを防止できる。第2工程の塩基度が1.65未満まであれば、第3工程の3次スラグの塩基度を1.3未満に低減することができ、3次スラグに有害な6価クロムが発生するのを抑制することができる。
【0047】
ガス底吹き装置2aを有する反応容器2を使用するので、1次スラグに対する追装クロム鉱石の質量比を10%以上に上げても、反応容器2の溶湯の反応終点温度を1350℃以上1900℃以下の高温に保つことができる。このため、後工程の操業が容易になる。
【0048】
反応容器2の底部の中央部にガス底吹き装置2aの1つのプラグ19を配置し、及び/又は反応容器2の底部の中央部を中心にした円上にガス底吹き装置2aの複数のプラグ19を配置するので、反応容器2を均一に攪拌でき、追装クロム鉱石を巻き込んで溶解し易い。
【0049】
プラグ19には、耐溶損性に優れ、攪拌能力も高いスリット式プラグを用いるのが望ましい。
【0050】
シリコクロムと追装クロム鉱石を混合した状態で若しくはシリコクロムと追装クロム鉱石を層状に積層した状態で反応容器2に装入し、又はシリコクロムを反応容器2に装入した後、追装クロム鉱石を反応容器2に装入するので、追装クロム鉱石の溶解に還元反応の反応熱を有効に利用できる。
(実施例1)
【0051】
図1の製造工程図に従って低炭素フェロクロムを製造した。表2には、本実施例で使用した原料であるクロム鉱石の組成を示す。
【表2】
【0052】
クロム鉱石1000kg、生石灰830kgを固定型電気炉に装入し、溶解させて1次スラグを溶製した。1次スラグを反応容器に出湯し、その中に追装クロム鉱石750kgと、副原料シリコクロム310kgと、回収シリコクロム260kgを装入した。次いで、反応容器2にアルゴンガスを底吹きして攪拌した。反応容器2の溶湯の反応終点温度は1650℃であった。そして、生成した2次スラグを分離し、得られた低炭素フェロクロム1000kgの溶湯を鋳型に鋳込んで製品にした。表3には、製品である低炭素フェロクロムの組成を示す。フェロクロムの各成分の定量化方法は、「JIS G1301-1~5 2012」に規格化されている。
【0053】
【表3】
【0054】
一方、分離した2次スラグを反応容器に受け、フェロシリコン230kgを装入し、反応容器にアルゴンガスを底吹きして攪拌した。次いで、生成した3次スラグと回収シリコクロムを分離し、3次スラグ1930kgと回収シリコクロム260kgを得た。この回収シリコクロムは副原料シリコクロムと共に1次スラグに装入した。表4には、3次スラグの組成を示し、表5には、回収シリコクロムの組成を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
電力原単位は、2200kwh/tという低い値が得られた。電力原単位は、製品t当たりに使用された電力量であり、具体的には(1次スラグ溶解電力量/製品生産量)である。
(実施例2)
【0057】
図1の製造工程図に従って低炭素フェロクロムを製造した。表6に示すように、操業1では追装率を13%に設定し、操業2では追装率を21%に設定し、操業3では追装率を40%に設定し、操業4では追装率を65%に設定した。表6に示すように、追装率を13%~65%に上げても、3次スラグの塩基度は1.0であり、3次スラグに有害な6価クロムが発生するのを抑制できた。電力原単位は、2400Kwh/t以下という低い値であり、追装率を上げれば上げるほど、電力原単位を低減できた。
【表6】
(従来例)
【0058】
図7の製造工程図に従って低炭素フェロクロムを製造した。この低炭素フェロクロムの製造工程においては、1次スラグの還元操作をリレードリングによって行う点、1次スラグに追装クロム鉱石を装入していない点、2次スラグから回収シリコクロムを回収し、これを1次スラグに添加する操作を行っていない点が本実施例と相違する。表7には、従来例で使用した原料であるクロム鉱石の組成を示す。
【0059】
【表7】
【0060】
クロム鉱石1740kg、生石灰1060kgを電気炉に装入し、溶解させて1次スラグを溶製した。1次スラグを取鍋に出湯し、追装クロム鉱石を装入せずに副原料シリコクロム600kgを装入した。次いで、リレードリングにより攪拌した。そして、生成した2次スラグ2200kgを分離し、得られた低炭素フェロクロム1000kgの溶湯を鋳型に鋳込んで製品にした。表8には、製品である低炭素フェロクロムの組成を示し、表9には、2次スラグの組成を示す。
【0061】
【表8】
【0062】
【表9】
電力原単位は、2980kwh/tという高い値であった。
【0063】
本明細書は、2019年7月12日出願の特願2019-130322に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【符号の説明】
【0064】
S1…第1工程
S2…第2工程
2…反応容器
2a…ガス底吹き装置
11…プラグの本体
15…スリット
19…プラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7