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特許7566749金属イオン電池用電気活性材料を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】金属イオン電池用電気活性材料を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241007BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241007BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241007BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20241007BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 A
H01M4/587
C01B32/05
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2021536276
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 GB2019053676
(87)【国際公開番号】W WO2020128523
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】1821011.2
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】16/275,246
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517050282
【氏名又は名称】ネクシオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユルマズ セファ
(72)【発明者】
【氏名】メイソン チャールズ エー.
(72)【発明者】
【氏名】テイラー リチャード グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ベント デイビッド
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/165610(WO,A1)
【文献】特開2015-204174(JP,A)
【文献】特開2016-132608(JP,A)
【文献】特開2016-134382(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102867944(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含み、少なくとも20μmのD50粒子径を有する粒子状多孔質炭素骨格を準備することと、
(b)流動床反応器において化学気相浸透プロセスを用いて、シリコン、スズ、アルミニウム、ゲルマニウム、及びこれらの合金から選択される電気活性材料を、前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に堆積させて、中間粒子を得ることと、
(c)前記中間粒子を粉砕して、複合粒子を得ることと、
を含む、複合粒子を作製する方法。
【請求項2】
工程(c)の前に、前記中間粒子を粉砕装置に移すことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粉砕装置がジェットミルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気活性材料がシリコンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記中間粒子及び前記複合粒子が、前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する元素形態の前記電気活性材料の複数のナノスケールドメインを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化学気相浸透プロセスを、200℃~1250℃、又は400℃~700℃、又は450℃~550℃、又は450℃~500℃の範囲の温度で行う、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記中間粒子を粉砕する前に、該中間粒子を冷却する工程を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記冷却を、100℃未満若しくは50℃未満の温度まで、又は周囲温度まで行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記中間粒子を粉砕する前に、該中間粒子を不動態化する工程を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記不動態化を、不活性ガス中、又は酸素濃度が10体積%未満の環境中で行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記中間粒子を粉砕する工程を、不活性ガス中、又は酸素濃度が10体積%未満の環境中で行う、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
連続法であるか、又はバッチ法である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、少なくとも0.4、又は少なくとも0.5、又は少なくとも0.6、又は少なくとも0.7、又は少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85、又は少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、又は少なくとも1.05、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.2の値を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、2.5以下、又は2.2以下、又は2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下の値を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pの値は、0.4~2.5の範囲、又は0.6~2.5の範囲、又は0.7~2の範囲、又は0.7~1.2の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記多孔質炭素骨格が、60μm~150μmの範囲のD50粒子径を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記多孔質炭素骨格が、少なくとも30μm、又は少なくとも40μm、又は少なくとも50μm、又は少なくとも60μm、又は少なくとも70μm、又は少なくとも80μmのD50粒子径を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記多孔質炭素骨格が、1000μm以下、又は500μm以下、又は250μm以下、又は150μm以下のD50粒子径を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記多孔質炭素骨格が、少なくとも5μm、又は少なくとも15μm、又は少なくとも40μm、又は少なくとも50μm、又は少なくとも60μm、又は少なくとも70μmのD10粒子径を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質炭素骨格が、1500μm以下、又は1000μm以下、又は750μm以下、又は500μm以下、又は200μm以下のD90粒子径を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記多孔質炭素骨格が、1550μm以下、又は1050μm以下、又は800μm以下、又は550μm以下、又は250μm以下のD98粒子径を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記多孔質炭素骨格が、少なくとも750m/g、又は少なくとも1000m/g、又は少なくとも1250m/g、又は少なくとも1500m/gのBET表面積を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記多孔質炭素骨格が、4000m/g以下、又は3500m/g以下、又は3250m/g以下、又は3000m/g以下のBET表面積を有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記多孔質炭素骨格が、1500m/g~3000m/gのBET表面積を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記多孔質炭素骨格は、ガス吸着により測定したPD50細孔径が、5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下、又は1.5nm以下、又は1nm以下である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記複合粒子が、0.5μm~20μmの範囲のD50粒子径を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記複合粒子が、少なくとも1μm、又は少なくとも2μm、又は少なくとも3μm、又は少なくとも4μm、又は少なくとも5μmのD50粒子径を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記複合粒子が、20μm以下、又は15μm以下、又は12μm以下、又は10μm以下、又は9μm以下、又は8μm以下、又は7μm以下、又は6.5μm以下、又は6μm以下、又は5.5μm以下、又は5μm以下、又は4.5μm以下、又は4μm以下、又は3.5μm以下のD50粒子径を有する、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記複合粒子が、少なくとも0.2μm、又は少なくとも0.5μm、又は少なくとも0.8μm、又は少なくとも1μm、又は少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmのD10粒子径を有する、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記複合粒子が、80μm以下、又は60μm以下、又は40μm以下、又は30μm以下、又は25μm以下、又は20μm以下、又は10μm以下のD90粒子径を有する、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記複合粒子が、5以下、又は4以下、又は3以下、又は2以下、又は1.5以下の粒度分布スパンを有する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記電気活性材料がシリコンであり、前記複合粒子の細孔容積がPcm/gで表され、かつ、前記複合粒子についての、該複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~2.2×P]:1の範囲、又は[1×P~2.2×P]:1の範囲、又は[0.5×P~1.3×P]:1の範囲である、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記電気活性材料がシリコンであり、かつ、前記複合粒子が、30重量%~80重量%のシリコン、又は45重量%~65重量%のシリコンを含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記複合粒子が、15重量%以下の酸素、又は10重量%以下の酸素を含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、充電式金属イオン電池用電極における使用に好適な電気活性材料に関し、より詳細には、充電式金属イオン電池におけるアノード活物質としての使用に好適な高電気化学容量を有する粒子状材料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式金属イオン電池は、携帯電話及びノート型パソコン等の携帯型電子機器において広く使用されており、電気自動車又はハイブリッド車における適用が増加している。充電式金属イオン電池は、一般的に、アノード層、カソード層、アノード層とカソード層との間で金属イオンを輸送する電解質、及びアノードとカソードとの間に配置された電気絶縁性多孔質セパレータを含む。カソードは、典型的には、金属酸化物系複合材料を含有する金属イオンの層を備えた金属集電体を含み、アノードは、典型的には、本明細書で、電池の充電中及び放電中に金属イオンの挿入及び放出が可能な材料として定義される電気活性材料の層を備えた金属集電体を含む。誤解を避けるために、本明細書では、「カソード」及び「アノード」という用語は、カソードが正極となり、アノードが負極となるように、電池に負荷がかけられるという意味で使用される。金属イオン電池を充電すると、金属イオンは金属イオン含有カソード層から電解質を介してアノードに輸送され、アノード材料に挿入される。本明細書では、「電池」という用語は、単一のアノード及び単一のカソードを含有するデバイス、並びに複数のアノード及び/又は複数のカソードを含有するデバイスの両方を指して使用される。
【0003】
充電式金属イオン電池の重量容量及び/又は体積容量を改善することに対して関心がある。リチウムイオン電池の使用により、他の電池技術と比較して、既にかなりの改善がもたらされたが、更なる開発の余地がある。これまで、市販のリチウムイオン電池は、主に、アノード活物質としての黒鉛の使用に限定されてきた。黒鉛アノードを充電すると、リチウムが黒鉛層間に挿入され、実験式Li(ここで、xは、0超、かつ、1以下)の材料を形成する。その結果、黒鉛は、リチウムイオン電池において、372mAh/gの最大理論容量を有し、実用上の容量はそれよりもやや低くなる(約340mAh/g~360mAh/g)。シリコン、スズ、及びゲルマニウム等の他の材料は、黒鉛よりも大幅に高い容量でリチウムを挿入することができるが、多数回の充放電サイクルにわたって十分な容量を維持することが難しいため、まだ広く商業的には使用されていない。
【0004】
特に、シリコンは、リチウムに対する容量が非常に高いため、高い重量容量及び体積容量を有する充電式金属イオン電池の製造において、黒鉛の有望な代替物として認識されてきた(例えば、非特許文献1を参照)。シリコンは、室温で、リチウムイオン電池における理論上の最大比容量が約3600mAh/g(Li15Siに基づく)である。しかしながら、充電及び放電の際の体積変化が大きいため、アノード材料としてのシリコンの使用は、複雑である。
【0005】
リチウムがバルクシリコンに挿入されると、シリコン材料の体積が大幅に増加し、シリコンがその最大容量までリチウム化されると、元の体積の400%にまで増加する。そして、充放電サイクルが繰り返されると、シリコン材料に大きな機械的応力が発生し、シリコンアノード材料の破壊と層間剥離をもたらす。脱リチウム化の際のシリコン粒子の体積の収縮は、アノード材料と集電体との間の電気的接触の損失をもたらす可能性がある。更に困難なのは、シリコン表面に形成される固体電解質界面(SEI)層が、シリコンの膨張及び収縮に適応するのに十分な機械的耐久性を有さないことである。その結果、新たに露出したシリコン表面によって、電解質が更に分解し、SEI層の厚さが増加し、かつ、リチウムが不可逆的に消費されることになる。これらの欠陥メカニズムは集合的に、連続した充放電サイクルにわたる許容できない電気化学容量の損失をもたらす。
【0006】
シリコン含有アノードを充電する際に観察される体積変化と関連する問題を克服するために、数多くの取り組みが提案されてきた。シリコン含有アノードの不可逆容量損失に対処するための最も普及している取り組みは、何らかの形態で微細構造化されたシリコンを電気活性材料として使用することである。シリコン膜及びシリコンナノ粒子等の、断面が約150nm未満の微細シリコン構造体は、ミクロンサイズの範囲のシリコン粒子と比較して、充電及び放電の際の体積変化に対してより耐久性があることが報告されてきた。しかしながら、これらはいずれも、形態を変更せずに商業規模で適用するには特に適していない。ナノスケールの粒子は製造及び取り扱いが難しく、シリコン膜は十分なバルク容量を提供しない。例えば、ナノスケールの粒子は、凝集体を形成する傾向があり、それにより、アノード材料マトリックス内で粒子を有効に分散させることが困難となる。また、ナノスケールの粒子の凝集体の形成は、繰り返しの充放電サイクルにおいて許容できない容量損失をもたらす。
【0007】
シリコン等の電気活性材料が、活性炭材料等の多孔質担体材料の細孔内に堆積され得ることも一般的に知られている。これらの複合材料は、ナノ粒子の取り扱いの難しさを回避しながら、ナノスケールのシリコン粒子の有益な充放電特性の幾つかを提供する。例えば、Guoら(非特許文献2)は、多孔質炭素基材が、基材の細孔構造内に均一に分布して堆積したシリコンナノ粒子を備えた導電性骨格を提供するシリコン-炭素複合材料を開示している。初回の充電サイクルでのSEIの形成は、残りのシリコンが後続の充電サイクルで電解質に露出しないように、残りの細孔容積に限局している。この複合材料によって、複数回の充電サイクルにわたる容量保持率が改善したが、複合材料のmAh/gでの初期容量は、シリコンナノ粒子に対する容量よりも大幅に低いことが示されている。
【0008】
特許文献1には、少数のより大きな細孔から分岐した小さな細孔を有する炭素系スキャホールド(scaffold)を含む活物質が開示されている。電気活性材料(例えば、シリコン)は、大きな細孔及び小さな細孔の両方の壁、並びに炭素系スキャホールドの外表面に無作為に位置している。
【0009】
多孔質炭素骨格と、多孔質炭素骨格内に位置するシリコン等の電気活性材料とを含む複合材料の性能は、特定の細孔構造を有し、有効細孔容積に対する電気活性材料の比が制御された多孔質炭素骨格を用いることによって最適化することができることが分かった。金属イオン電池におけるこれらの複合材料の所望の最終用途のためには、粒子径が小さいこと(例えば、20μm未満のD50)が有益であると考えられている。しかしながら、これらの複合材料を、効率的、かつ、着実に、特に商業的使用のために大規模に製造することは困難である。電気活性材料が多孔質炭素骨格の細孔内の所望の位置に堆積するように、電気活性材料の堆積を制御することは困難である。所望の小さな粒子径を有する製品を製造する際にも、堆積を制御することは困難である。本発明は、この問題を解決することを目的としている。
【0010】
化学気相浸透(CVI)は、反応性ガス状前駆体を用いて、多孔質基材材料に追加の相を浸透させるプロセスである。多孔質基材を有孔金属板上に配置し、高温で保持した多孔質基材にキャリアガスとガス状前駆体との混合物を通過させる。ガス状前駆体は、基材材料の細孔構造内において高温で化学反応し、細孔空間の内表面上に堆積する。CVIプロセスでは、多孔質基材材料の密度が増加する。多孔質基材の形状がほとんど損なわれないため、CVIは特に有用である。また、反応性ガス状前駆体の純度、並びに浸透の圧力及び温度を制御することにより、基材中で高度な均一性を達成することができる。
【0011】
化学気相浸透(CVI)は、20μm未満の粒子径を有するミクロ細孔性及び/又はメソ細孔性の炭素材料内に電気活性材料を堆積させて、所望の電気化学的性質を有する複合材料を生産するのに使用することができることが分かった。本発明においては、CVIは、特に、シリコン等の電気活性材料のガス状前駆体を、表面上で熱分解し、この表面にて電気活性材料を元素形態で堆積させて、ガス状副生成物を形成するプロセスを指す。このガス状副生成物は、内表面上、特に、細孔壁の表面上に堆積させることができる。
【0012】
典型的には、ミクロ及び/又はメソ細孔系内へのシリコン化合物のCVIにおいて使用するガス状シリコン前駆体、又は他の電気活性材料用の他のガス状前駆体の拡散性が低いことは、速度論的に制限された(表面反応制限された)堆積レジームを使用する必要があることを意味する。しかしながら、これにより、処理の観点から多くの問題が発生する。主な問題点は、高処理能力/大量、かつ、連続的な処理用の大体積の試料及び反応器システムでは、反応器の位置、処理時間、及び粒子細孔系の位置に関して、均一な堆積速度を保持するために必要な高い熱均一性及び物質移動均一性を確保することが困難であることである。したがって、商業的に有用な規模で、多孔質炭素骨格の細孔内に電気活性材料を堆積させるのにCVIを使用することは困難である。堆積技術としてCVIを使用して、特に20μm未満のサイズ範囲の粉末を処理する広範な商業的製造ルートはないと考えられている。
【0013】
流動床反応器(FBR)は、CVIを行うのに使用することができる。FBRは、この産業において幅広い用途がある。FBRは、床において均一な温度分布を提供しつつ、気体-固体を非常に効率的に接触させる手段を提供する。これは、主に、ガス流を使用して粒子を流動化させ、全ての表面を反応性ガスと接触させることによって達成される。FBRは、上述の物質移動及び熱移動の問題点の多くを満たす。流動化が達成されると、特に固定床及び回転炉等のCVIを行うための代替的な粉末処理の解決法と比較した場合に、優れた固体-固体及び気体-固体の混合が観察される。
【0014】
粒子は、そのサイズ及び密度に関して、その流動化挙動に対してブループに分けることができる。これらのグループは、GeldartのグループA材料、グループB材料、グループC材料、及びグループD材料として知られている。グループA材料、グループB材料、及びグループD材料は、気泡及びスラッギング挙動の有無に関わらず、流動化することができるが、GeldartのCは、サイズが小さく、密度の低い材料を含み、サイズが小さいことに起因して凝集力が存在するために、流動化するのが困難な場合がある。小さな粒子径を有する炭素粉末は、GeldartのグループC材料と考えることができる。
【0015】
Vahlasらによる非特許文献3に記載されるように、CVIを含むFBR-化学蒸着(CVD)は、様々な触媒金属及び触媒非金属を、多孔質性及び無孔性材料上に堆積させるのに使用されてきた。
【0016】
しかしながら、20μm未満のサイズを有する炭素粉末は、この長さスケールでの粒子間凝集力が強いため、FBRにおいて使用すると大きな凝集体を形成する傾向がある。これは、個々の粒子の流動化ではなく、大きなミリメートルサイズの凝集体としての流動化のみが発生する可能性があり、凝集体内の物質移動速度に関連する問題につながるため、問題がある。また、炭素粉末が流動化せず、代わりに、粒子間の凝集力を打破するのには不十分な、ガス流に局所的に適用された剪断力からチャネリング(ラットホール)が発生する(すなわち、ガスが粉末床中を通過せず、粉末床の周囲を通る)可能性がある。これらの理由により、FBRは、20μm未満のサイズを有する炭素粉末を含むプロセスでの使用には好適ではないと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2003-100284号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, Winter, M. et al. in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10
【文献】Journal of Materials Chemistry A, 2013, pp. 14075-14079
【文献】Principles and applications of CVD powder technology, Materials Science and Engineering R53 (2006) 1-72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明では、流動化状態の多孔質炭素粉末内への化学気相浸透を使用して、浸透反応の速度論的及び熱力学的条件の制御を可能にし、各多孔質炭素粒子が同様の化学的及び熱的環境に曝されることを確実にする。本質的には、本発明では、個々のミクロンスケールの粉末をミニ浸透基材として扱い、前駆体の拡散及び反応に特徴的な長さスケールを低減し、大量生産のための連続処理への移行を容易にする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の態様において、本発明は、
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含み、少なくとも20μmのD50粒子径を有する粒子状多孔質炭素骨格を準備することと、
(b)流動床反応器において化学気相浸透プロセスを用いて、シリコン、スズ、アルミニウム、ゲルマニウム、及びこれらの合金から選択される電気活性材料を、多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に堆積させて、中間粒子を得ることと、
(c)中間粒子を粉砕して、複合粒子を得ることと、
を含む、複数の複合粒子を含む粒子状材料を作製する方法を提供する。
【0021】
したがって、本発明の方法では、多孔質炭素骨格の細孔内に電気活性材料を堆積させるためにCVIの利点を利用することにより、電気活性材料を含む機能性ナノ構造を提供する。この方法では、FBR使用の利点も利用して、CVIを行う。この方法では、少なくとも20μmのD50粒子径を有する粒子状多孔質炭素骨格を出発材料として使用するため、FBRを小さな粒子径を有する炭素粉末と共に使用することの難しさも回避される。粉砕工程は、この方法を使用して、出発材料と比較して粒子径が低減した複合粒子を提供することができることを意味し、これは、金属イオン電池における所望の最終用途に有用であると考えられる。特に、これらのサイズ範囲の複合粒子は、スラリー中で分散性を有し、構造的堅牢性を有し、かつ、繰り返しの充放電サイクルにわたって容量を保持するため、金属イオン電池用複合フィルム負極(すなわち、「アノード」)における使用に理想的に適している。このような複合フィルムは、典型的には、100μm未満又は50μm未満の厚さを有し、粒子径はより小さい方が、均一な厚さのより緻密なフィルムの達成にも役立つ。よって、本発明の方法は、大規模な商業的使用に好適な複合粒子を作製する効果的な方法を提供する。
【0022】
FBRにおいてCVIを使用して中間複合粒子を作製し、次いで、中間粒子を粉砕するのは直感に反するように感じられるかもしれない。特に、粉砕工程は、CVIプロセスによって得られた中間粒子の機能性ナノ構造、すなわち、炭素骨格の細孔内に堆積した電気活性材料を損傷する可能性があると考えられてきた。しかしながら、本発明者らは、複合粒子の機能性ユニットがnmの長さスケールであることと比較して、破損は相対的にμmの長さスケールであるため、重大なレベルの損傷を与えることなく粉砕が起こり得ることを見出した。炭素骨格はミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含むため、粉砕しても所望の性質が製品において保持される。
【0023】
本発明の方法では、最終製品に所望の一連の性質を与えるために、多孔質炭素骨格出発材料の性質を選択することができる。例えば、多孔質炭素骨格を特定の細孔構造を有するように選択すると、細孔構造に重大な損傷を与えることなく粉砕工程が起こり得るため、特定のミクロ細孔及び/又はメソ細孔構造を有する製品の製造が可能となる。
【0024】
電気活性材料は、シリコン又はスズとすることができる。電気活性材料は、好ましくはシリコンである。電気活性材料は、任意で、1つ以上のドーパントを少量含むことができる。好適なドーパントとしては、ホウ素及びリン、他のn型若しくはp型ドーパント、又は窒素が挙げられる。シリコンが電気活性材料である場合、シリコンを、スズ、アルミニウム、及びゲルマニウム等の、少量の1つ以上の他の電気活性材料でドープすることもできる。ドーパントは、好ましくは、電気活性材料とドーパント(複数の場合もある)との合計量に対して、2重量%以下の合計量で存在する。
【0025】
誤解を避けるために、本明細書で使用される「粒子径」という用語は、球相当径(esd)、すなわち、或る粒子と同じ体積を有する球の直径を指し、ここで、粒子の体積は、粒子内の細孔の体積を含むと理解される。本明細書で使用される「D50」及び「D50粒子径」という用語は、体積ベースでの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の50体積%が存在する直径を指す。本明細書で使用される「D10」及び「D10粒子径」という用語は、体積ベースの10パーセンタイルの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の10体積%が存在する直径を指す。本明細書で使用される「D90」及び「D90粒子径」という用語は、体積ベースの90パーセンタイルの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の90体積%が存在する直径を指す。
【0026】
粒度分布を規定するために本明細書で使用される「D」という用語は、細孔径分布を規定するために本明細書で使用される「PD」という用語とは区別される。本明細書において使用される「PD細孔径」という一般用語は、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対する体積ベースのnパーセンタイルの細孔径を指す。例えば、本明細書において使用される「D50細孔径」という用語は、その細孔径未満に、Pによって表される全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の50%が存在する細孔径を指す)。
【0027】
誤解を避けるために、いかなるマクロ細孔容積(50nm超の細孔径)も、PD値を求める目的では考慮しない。
【0028】
粒子径及び粒度分布は、ISO 13320:2009に従って、通常のレーザー回折手法によって決定することができる。レーザー回折は、粒子が、粒子のサイズに応じて変化する角度で光を散乱し、粒子の集まりが、粒度分布に相関し得る強度及び角度によって規定される散乱光パターンを生成するという原理に基づいている。粒度分布を迅速かつ確実に決定するために、多くのレーザー回折装置が市販されている。特に明記しない限り、本明細書で規定又は報告する粒度分布測定値は、Malvern Instruments製の従来のMalvern Mastersizer(商標)3000粒度分析装置により測定されたものである。このMalvern Mastersizer(商標)3000粒度分析装置は、水溶液に懸濁した対象粒子を含有する透明セルを通してヘリウムネオンガスレーザービームを投射することによって動作する。粒子に当たる光線は、粒子径に反比例する角度で散乱され、光検出器アレイによって、所定の幾つかの角度で光の強度を測定し、様々な角度で測定した強度を、標準的な理論原理を使用してコンピューターによって処理し、粒度分布を決定する。本明細書で報告されるレーザー回折値は、蒸留水中の粒子の湿式分散体を使用して得られる。粒子の屈折率は3.50であり、かつ、分散剤の屈折率は1.330であるとする。粒度分布は、ミー散乱モデルを使用して計算する。
【0029】
多孔質炭素骨格
多孔質炭素骨格は、少なくとも20μmのD50粒子径を有する。よって、多孔質炭素骨格はFBRにおいて容易に使用することができる。多孔質炭素骨格は、任意で、20μm~1000μm、又は30μm~500μm、又は60μm~150μmの範囲のD50粒子径を有する。多孔質炭素骨格は、任意で、少なくとも30μm、少なくとも40μm、又は少なくとも50μm、又は少なくとも60μm、又は少なくとも70μm、又は少なくとも80μmのD50粒子径を有する。多孔質炭素骨格は、任意で、1000μm以下、又は500μm以下、又は250μm以下、又は150μm以下のD50粒子径を有する。
【0030】
多孔質炭素骨格は、任意で、少なくとも5μm、少なくとも15μm、少なくとも40μm、又は少なくとも50μm、又は少なくとも60μm、又は少なくとも70μmのD10粒子径を有する。D10粒子径をこれらの値を超えるように維持することにより、FBRに適さない可能性のある小さな粒子径を有する多数の炭素骨格の存在が有利に回避される。
【0031】
多孔質炭素骨格は、任意で、1500μm以下、又は1000μm以下、又は750μm以下、又は500μm以下、又は200μm以下のD90粒子径を有する。多孔質炭素骨格は、任意で、1550μm以下、又は1050μm以下、又は800μm以下、又は550μm以下、又は250μm以下のD98粒子径を有する。D90粒子径及び/又はD98粒子径をこれらの値未満に維持することにより、CVIに適さない可能性のある大きな粒子径を有する多数の炭素骨格の存在が有利に回避される。
【0032】
例えば、多孔質炭素骨格は、少なくとも15μmのD10粒子径、少なくとも20μmのD50粒子径、及び200μm以下のD90粒子径を有することができる。多孔質炭素骨格は、少なくとも5μmのD10粒子径、20μm~250μmの範囲のD50粒子径、750μm以下のD90粒子径、及び1000μm以下のD98粒子径を有することができる。多孔質炭素骨格は、少なくとも5μmのD10粒子径、20μm~200μmの範囲のD50粒子径、500μm以下のD90粒子径、及び800μm以下のD98粒子径を有することができる。多孔質炭素骨格は、少なくとも40μmのD10粒子径、60μm~150μmの範囲のD50粒子径、及び200μm以下のD90粒子径、及び250μm以下のD98粒子径を有することができる。
【0033】
多孔質炭素骨格は、好ましくは、狭い粒度分布スパンを有する。例えば、粒度分布スパン((D90-D10)/D50として規定される)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。狭い粒度分布スパンを維持することによって、炭素骨格の細孔内への電気活性材料の着実な堆積をより容易に達成することができる。
【0034】
多孔質炭素骨格は、好適には、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔、及び任意で少量のマクロ細孔の組合せを含む3次元的に相互接続した開孔ネットワークを含む。IUPAC用語に従うと、本明細書では、「ミクロ細孔」という用語は、直径2nm未満の細孔を指して使用され、本明細書では、「メソ細孔」という用語は、直径2nm~50nmの細孔を指して使用され、「マクロ細孔」という用語は、直径50nm超の細孔を指して使用される。
【0035】
本明細書における多孔質炭素骨格内のミクロ細孔、メソ細孔、及びマクロ細孔の容積への言及、並びに多孔質炭素骨格内の細孔容積分布へのいかなる言及も、単独(すなわち、細孔容積の一部又は全部を占める電気活性材料又は他の材料がない状態)での多孔質炭素骨格の内部細孔容積を指す。
【0036】
本明細書においては、(ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対する)ミクロ細孔の容積率は符号φで表され、(ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対する)メソ細孔の容積率は符号φで表されるため、φ+φ=1であることが理解されるだろう。
【0037】
多孔質炭素骨格は、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔の形態での細孔容積を特徴とする。本明細書においては、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積(すなわち、0nm~50nmの範囲の全細孔容積)は、Pcm/gと称することができ、ここで、Pは無次元の自然数を表す。Pの値は、最終製品において、多孔質炭素骨格における有効細孔容積と、多孔質炭素骨格に対する電気活性材料の重量比とを相関させるためにも使用される。
【0038】
誤解を避けるために、本明細書において使用されるPは、単独で、すなわち、多孔質炭素骨格の細孔を占めるシリコン又は他の材料の不存在下で測定した場合の多孔質炭素骨格の細孔容積に関する。同様に、本明細書での多孔質炭素骨格におけるミクロ細孔、メソ細孔、及びマクロ細孔の容積に関する言及、並びに多孔質炭素骨格内の細孔容積の分布に関するいかなる言及も、単独での(すなわち、細孔容積を占めるシリコン又は他の材料の不存在下での)多孔質炭素骨格の内部細孔容積について言及している。
【0039】
は、0.4~2.5の範囲の値を有することができる。よって、多孔質炭素骨格は、少なくとも0.4cm/g、かつ、最大2.5cm/gの細孔容積を有することができる。
【0040】
は、0.4~0.6の範囲の値を有することができる。これは、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔の形態の細孔容積が小さいことに対応する。
【0041】
代替的には、Pは、少なくとも0.6、又は少なくとも0.65、又は少なくとも0.7、又は少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85、又は少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、又は少なくとも1.05、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.2の値を有することができる。高空隙率の炭素骨格の使用は、より多くのシリコンを細孔構造内に収容することを可能にするため有利であり、その細孔容積が主にミクロ細孔及びより小さなメソ細孔の形態である高空隙率の炭素骨格は、多孔質炭素骨格が破壊又はそうでなければ劣化することなく、電気活性材料の体積膨張に適応するのに十分な強度を有していることが分かった。
【0042】
は、2.5以下、又は2.2以下、又は2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下、又は1.2以下の値を有することができる。多孔質炭素骨格の内部細孔容積は、好適には、多孔質炭素骨格の脆弱性の増加が、より多量の電気活性材料を収容する細孔容積の増加の利点を上回る値で制限される。
【0043】
の値は、0.4~2.5の範囲、又は0.6~2.5の範囲、又は0.7~2の範囲、又は0.7~1.2の範囲とすることができる。
【0044】
ミクロ細孔の容積率(φ)は、少なくとも0.1、又は0.1~0.9の範囲とすることができる。φは、好ましくは0.5超、より好ましくは0.6超、より好ましくは0.7超、より好ましくは0.8超である。
【0045】
より大きなメソ細孔の範囲の直径を有する細孔画分は、最終製品における電気活性材料への電解質のアクセスを容易にするため、有利となり得る。したがって、10nm~50nmの範囲の直径を有する細孔(すなわち、より大きなメソ細孔)は、任意で、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、又は少なくとも10%を構成することができる。
【0046】
多孔質炭素骨格の細孔径分布は、単峰性、二峰性、又は多峰性とすることができる。本明細書で使用される「細孔径分布」という用語は、多孔質炭素骨格の累積全内部細孔容積に対する細孔径の分布に関する。最小細孔と、より大きい直径の細孔との近接性によって、多孔質ネットワークを介してイオンが電気活性材料へと効率的に輸送されるという利点が提供されるため、二峰性又は多峰性の細孔径分布が好ましい場合がある。したがって、多孔質炭素骨格から作製した複合粒子は、高いイオン拡散性を有するため、レート性能が向上している。
【0047】
好適には、二峰性又は多峰性の細孔径分布は、互いに5倍~20倍、より好ましくは約10倍異なる、ミクロ細孔の範囲のピーク細孔径と、メソ細孔径の範囲のピーク細孔径とを含む。例えば、多孔質炭素骨格は、細孔径1.5nmにピークを有し、かつ、細孔径15nmにピークを有する二峰性の細孔径分布を有することができる。多孔質炭素骨格は、細孔径2nmにピークを有し、かつ、細孔径20nmにピークを有する二峰性の細孔径分布を有することができる。多孔質炭素骨格は、細孔径1.2nmにピークを有し、かつ、細孔径12nmにピークを有する二峰性の細孔径分布を有することができる。
【0048】
ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積、並びにミクロ細孔及びメソ細孔の細孔径分布は、ISO 15901-2及びISO 15901-3に規定された標準的な方法論に従って、急冷固体密度汎関数法(QSDFT)を使用して、77Kで10-6の相対圧力p/pまでの窒素ガス吸着を使用して決定する。窒素ガス吸着は、ガスを固体の細孔内で凝縮させることにより、材料の空隙率及び細孔径分布を特徴付ける手法である。圧力を上昇させると、ガスは、最初は最小の直径を有する細孔内で凝縮し、全ての細孔が液体で満たされる飽和点に達するまで圧力を上昇させる。次いで、窒素ガス圧力を段階的に下げて、液体を系から蒸発させる。吸着等温線及び脱着等温線、並びにそれらの間のヒステリシスの分析により、細孔容積及び細孔径分布を決定することができる。窒素ガス吸着による細孔容積及び細孔径分布の測定に好適な装置としては、米国のMicromeritics Instrument Corporationから入手可能なTriStar II空隙率分析装置及びTriStar II Plus空隙率分析装置、並びにQuantachrome Instrumentsから入手可能なAutosorb IQ空隙率分析装置が挙げられる。
【0049】
窒素ガス吸着は、最大50nmの直径を有する細孔の細孔容積及び細孔径分布の測定に効果的だが、はるかに大きな直径の細孔に対しては信頼性が低くなる。したがって、本発明の目的のために、50nm以下の直径を有する細孔のみの細孔容積及び細孔径分布を決定するために窒素吸着を使用する。上述のように、Pの値は、50nm以下の直径の細孔のみ(すなわち、ミクロ細孔及びメソ細孔のみ)を考慮して決定され、同様に、PD、並びにφ、φ、φ20、φ10、及びφ(以下で論じられる)の値は、ミクロ細孔及びメソ細孔のみの全容積に対して決定される。
【0050】
利用可能な分析手法の限界に鑑みると、単一の手法を使用して、ミクロ細孔、メソ細孔、及びマクロ細孔の全範囲にわたる細孔容積及び細孔径分布を測定することは不可能である。多孔質炭素骨格がマクロ細孔を含む場合、50nm超、かつ、最大100nmの範囲の細孔の容積は、本明細書ではPcm/gの値で特定され、水銀圧入法により測定される。Pの値は、単独で測定した場合、すなわち、多孔質炭素骨格の細孔を占める電気活性材料又は他の材料がない場合の多孔質炭素骨格の細孔容積に関する。
【0051】
誤解を避けるために、Pの値は、50nm超から100nm以下の直径を有する細孔のみを考慮する。すなわち、Pの値は、最大100nmの直径のマクロ細孔の容積のみを含む。水銀圧入法によって50nm以下の細孔径で測定されたいかなる細孔容積も、Pの値を決定する目的では無視する。水銀圧入法によって100nm超で測定された細孔容積は、本発明の目的のために粒子間空隙率であると想定され、Pの値を決定する際にはこの細孔容積も考慮しない。上述のように、メソ細孔及びミクロ細孔を特徴付けるために窒素吸着を使用する。
【0052】
水銀圧入法は、水銀に浸漬した材料の試料に対して、様々なレベルの圧力をかけることにより、材料の空隙率及び細孔径分布を特徴付ける手法である。試料の細孔に水銀を侵入させるのに必要な圧力は、細孔径に反比例する。本明細書で報告する水銀圧入法によって得られる値は、室温での水銀の表面張力γを480mN/m、接触角φを140°として、ASTM UOP578-11に従って得られたものである。室温での水銀の密度は、13.5462g/cmとする。米国のMicromeritics Instrument Corporationから入手可能な自動水銀圧入計AutoPore IVシリーズ等、多くの高精度水銀圧入装置が市販されている。水銀圧入法の完全な報告についてP.A. Webb及びC. Orrによる「Analytical Methods in Fine Particle Technology, 1997, Micromeritics Instrument Corporation」(ISBN 0-9656783-0)を参照することができる。
【0053】
マクロ細孔の容積(すなわち、Pの値)は、好ましくは、ミクロ細孔及びメソ細孔の容積(すなわち、Pの値)と比較して小さい。マクロ細孔の一部は、細孔ネットワークへの電解質のアクセスを容易にするのに有用である可能性があるが、本発明の利点は、実質的に、ミクロ細孔及びより小さなメソ細孔にシリコンを収容することによって得られる。
【0054】
よって、本発明によれば、多孔質炭素骨格におけるマクロ細孔の全容積は、水銀圧入法により測定するPcm/gであり、ここで、Pは、好ましくは、0.2×P以下、又は0.1×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下、又は0.01×P以下、又は0.005×P以下の値を有する。
【0055】
好ましい実施の形態においては、Pは、0.3以下、又は0.25以下、又は0.20以下、又は0.15以下、又は0.1以下、又は0.05以下の値を有する。より大きなメソ細孔に関連して上で論じたように、マクロ細孔の範囲の小細孔容積率は、最終製品における電気活性材料への電解質のアクセスを容易にするのに有利である可能性がある。
【0056】
開孔ネットワークは、任意で、階層的細孔構造、すなわち、より小さな細孔がより大きな細孔から分岐し、細孔径が或る程度の順序を有する細孔構造を含む。
【0057】
ガス吸着及び水銀圧入法等の侵入手法は、多孔質炭素骨格の外部から窒素又は水銀がアクセス可能な細孔の細孔容積を決定するためだけに有効であることが理解されるだろう。本明細書で規定する空隙率の値(P及びP)は、開孔、すなわち、多孔質炭素骨格の外部から流体がアクセス可能な細孔の容積を指すものとして理解される。窒素吸着又は水銀圧入法によって特定することができない完全に包囲された細孔は、本明細書では空隙率の値を規定する際に考慮しないものとする。同様に、窒素吸着による検出限界を下回るほど小さい細孔内に位置するいかなる細孔容積も、Pの値の決定において考慮しない。
【0058】
多孔質炭素骨格は、結晶質炭素若しくは非晶質炭素、又は非晶質炭素及び結晶質炭素の混合物を含むことができる。多孔質炭素骨格は、硬質炭素骨格又は軟質炭素骨格のいずれであってもよく、好適には、ポリマー又は有機物の熱分解を含む既知の手順によって得ることができる。
【0059】
本明細書で使用される「硬質炭素」という用語は、炭素原子が、主に、ナノスケールの多環芳香族ドメインでsp混成状態(三方結合)をとる無秩序な炭素マトリックスを指す。この多環芳香族ドメインは、化学結合、例えば、C-O-C結合によって架橋している。多環芳香族ドメイン同士が化学的に架橋しているため、高温において、硬質炭素は黒鉛に変換することはできない。ラマンスペクトルにおける高Gバンド(約1600cm-1)によって明らかなように、硬質炭素は黒鉛のような特性を有している。しかしながら、ラマンスペクトルにおける高Dバンド(約1350cm-1)によって明らかなように、炭素は完全に黒鉛のようではない。
【0060】
本明細書で使用される「軟質炭素」という用語も、炭素原子が、主に、5nm~200nmの範囲の寸法を有する多環芳香族ドメインでsp混成状態(三方結合)をとる無秩序な炭素マトリックスを指す。硬質炭素とは対照的に、軟質炭素中の多環芳香族ドメインは、化学結合によって架橋せずに、分子間力によって結合している。すなわち、高温において、軟質炭素は黒鉛化し得る。多孔質炭素骨格は、好ましくは、XPSにより測定した場合に、少なくとも50%のsp混成炭素を含む。例えば、多孔質炭素骨格は、好適には、50%~98%のsp混成炭素、55%~95%のsp混成炭素、60%~90%のsp混成炭素、又は70%~85%のsp混成炭素を含むことができる。
【0061】
好適な多孔質炭素骨格を作製するために、様々な異なる材料を使用することができる。使用することができる有機材料の例としては、リグノセルロース系材料(ココナッツ殻、籾殻、木材等)を含む植物バイオマス、及び石炭等の化石炭素源を挙げることができる。熱分解により多孔質炭素骨格を形成する高分子材料の例としては、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ピッチ、メラミン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びにアクリレート、スチレン、α-オレフィン、ビニルピロリドン、及び他のエチレン性不飽和モノマーのモノマー単位を含む様々なコポリマーが挙げられる。出発材料及び熱分解プロセスの条件に応じて、様々な異なる硬質炭素材料が当該技術分野で利用可能である。
【0062】
メソ細孔及びミクロ細孔の容積を増加させるために、多孔質炭素骨格に対して化学的活性化プロセス又はガス活性化プロセスを行うことができる。好適な活性化プロセスは、熱分解した炭素を、600℃~1000℃の範囲の温度で、酸素、スチーム、CO、CO、及びKOHの1つ以上と接触させることを含む。
【0063】
メソ細孔は、熱分解又は活性化後に熱的手段又は化学的手段によって除去することができる、MgO及び他のコロイド状テンプレート又はポリマーテンプレート等の抽出可能な細孔形成剤を使用する既知のテンプレートプロセス(templating processes)によっても得ることができる。
【0064】
多孔質炭素骨格は、好ましくは、少なくとも750m/g、又は少なくとも1000m/g、又は少なくとも1250m/g、又は少なくとも1500m/gのBET表面積を有する。本明細書で使用される「BET表面積」という用語は、ISO 9277に従ってブルナウアー・エメット・テラー理論を用いた、固体表面上へのガス分子の物理吸着の測定から計算された単位質量当たりの表面積を指すと解釈される。好ましくは、導電性多孔質粒子骨格のBET表面積は、4000m/g以下、又は3500m/g以下、又は3250m/g以下、又は3000m/g以下である。
【0065】
上述の通り、本発明らは、炭素骨格はミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含むため、粉砕しても所望の性質が製品において保持されることを見出した。したがって、本発明では、多孔質炭素骨格の細孔構造を制御することにより、複合粒子製品の所望の性質を対象とすることができる。或る特定のクラスの多孔質炭素骨格について以下で説明し、本発明において利用して、或る特定のクラスの複合粒子製品を提供することができる。以下で説明するクラスの多孔質炭素骨格の特徴は、粒子径等の上述の多孔質炭素骨格の特徴と組み合わせて考慮されるべきであることが理解されるだろう。
【0066】
多孔質炭素骨格1
多孔質炭素骨格1は、少なくとも0.5のP値、及び5nm以下のPD50細孔径によって特徴付けられる。
【0067】
の値は、好ましくは、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85、又は少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、例えば、少なくとも1.05、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.15、又は少なくとも1.2である。
【0068】
の値は、最大で2.5とすることができる。Pの値は、好ましくは、2.2以下、又は2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下、又は1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下とすることができる。Pの値は、より好ましくは、1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下である。
【0069】
の値は、好ましくは、例えば、0.7~1.5の範囲、又は0.75~1.4の範囲、又は0.7~1.3の範囲、又は0.75~1.3の範囲、又は0.7~1.2の範囲、又は0.75~1.2の範囲、又は0.7~1の範囲、又は0.75~1の範囲、又は0.7~0.9の範囲、又は0.75~0.9の範囲とすることができる。
【0070】
多孔質炭素骨格1のPD50細孔径は、好ましくは、4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。多孔質炭素骨格のPD50細孔径は、好ましくは、少なくとも0.8nm、又は少なくとも1nm、又は少なくとも1.2nmである。よって、全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の50%以上が、ミクロ細孔の形態であることが特に好ましい。
【0071】
より好ましくは、多孔質炭素骨格1の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも80%が、直径5nm以下の細孔の形態を有する。したがって、多孔質炭素骨格1のPD80細孔径は、好ましくは、5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。
【0072】
多孔質炭素骨格1におけるより大きなメソ細孔の容積は、好ましくは、PD90細孔径が20nm以下、又は15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下、又は8nm以下、又は6nm以下、又は5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下となるように制限される。
【0073】
好ましくは、PD95細孔径は、20nm以下、又は15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下である。
【0074】
多孔質炭素骨格2
多孔質炭素骨格2は、少なくとも0.6のP値、及び0.1~0.9の範囲のミクロ細孔の容積率φによって特徴付けられる。
【0075】
多孔質炭素骨格2は、全ミクロ細孔及びメソ細孔容積のうち最小でも75%が、20nm以下の直径を有する細孔の形態を有するような、より小さな細孔に向かって実質的に歪みを有する細孔容積によっても特徴づけられる。本明細書では、(ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対する)20nm以下の直径を有する細孔の容積率は符号φ20で表され、符号φ10及び符号φは、各々、10nm以下及び5nm以下の直径を有する細孔に対応する容積率を規定するのに使用される。
【0076】
の値は、好ましくは、少なくとも0.65、又は少なくとも0.7、又は少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85、又は少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1である。Pは、任意で、少なくとも1.05、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.15、又は少なくとも1.2とすることができる。Pの値は、最大で2.2とすることができる。Pの値は、より好ましくは、2.2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下、又は1.2以下である。
【0077】
の値は、好ましくは、例えば、0.6~1.4の範囲、又は0.65~1.4の範囲、又は0.7~1.4の範囲、又は0.75~1.4の範囲、又は0.6~1.3の範囲、又は0.65~1.3の範囲、又は0.7~1.3の範囲、又は0.75~1.3の範囲、又は0.6~1.2の範囲、又は0.65~1.2の範囲、又は0.7~1.2の範囲、又は0.75~1.2の範囲、又は0.6~1の範囲、又は0.65~1の範囲、又は0.7~1の範囲、又は0.75~1の範囲、又は0.6~0.9の範囲、又は0.65~0.9の範囲、又は0.7~0.9の範囲、又は0.75~0.9の範囲とすることができる。
【0078】
φの値は、好ましくは0.15~0.85の範囲、より好ましくは0.2~0.8の範囲である。幾つかの実施の形態においては、ミクロ細孔内に位置する電気活性材料の非常に微細なナノ構造体による高い容量保持率を特に利用するためには、φは、好ましくは、0.45~0.85の範囲、又は0.5~0.8の範囲、又は0.6~0.8の範囲である。他の場合では、電気活性材料の高充填量の機会を特に利用するためには、φは、好ましくは、0.2~0.5の範囲、又は0.3~0.5の範囲である。
【0079】
φ20は、好ましくは、少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも0.85、より好ましくは少なくとも0.9である。
【0080】
ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対するφ10は、好ましくは、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85である。ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対するφは、好ましくは、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85である。よって、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも75%が、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下の直径を有する細孔の形態を有する。
【0081】
多孔質炭素骨格3
多孔質炭素骨格3は、少なくとも0.6のP値、及び2nm以下のPD50細孔径によって特徴付けられる。
【0082】
の値は、好ましくは、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85である。Pは、任意で、少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、又は少なくとも1.05、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.15、又は少なくとも1.2とすることができる。Pの値は、通常、2.5以下とすることができる。Pの値は、より好ましくは、2.4以下、又は2.2以下、又は2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下、又は1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下である。
【0083】
の値は、好ましくは、例えば、0.6~1.4の範囲、又は0.65~1.4の範囲、又は0.7~1.4の範囲、又は0.75~1.4の範囲、又は0.7~1.3の範囲、又は0.75~1.3の範囲、又は0.7~1.2の範囲、又は0.75~1.2の範囲、又は0.7~1の範囲、又は0.75~1の範囲、又は0.7~0.9の範囲、又は0.75~0.9の範囲とすることができる。
【0084】
多孔質炭素骨格3のPD50細孔径は、好ましくは、1.8nm以下、又は1.6nm以下、又は1.4nm以下、又は1.2nm以下、又は1nm以下である。
【0085】
好ましくは、多孔質炭素骨格3の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも80%が、直径5nm以下の細孔の形態を有する。したがって、多孔質炭素骨格3のPD80細孔径は、好ましくは、5nm以下、又は4.5nm以下、又は4nm以下、又は3.5nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2.2nm以下、又は2nm以下、又は1.8nm以下、又は1.6nm以下である。
【0086】
PD90細孔径は、好ましくは、10nm以下、又は8nm以下、又は6nm以下、又は5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。
【0087】
PD95細孔径は、好ましくは、15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下である。
【0088】
CVI/FBR
多孔質炭素骨格を電気活性材料のガス状前駆体(例えば、シラン)を含有するガス混合物と接触させて、電気活性材料をCVIによって骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に堆積させるために、実験室規模のFBRを使用することができる。不活性流動化ガスとして、窒素ガスを使用することができるが、アルゴン、水素、又はヘリウム等の他の不活性ガスを使用することもできる。本発明の方法においては、FBRで多孔質炭素骨格を流動化させることが理解されるだろう。
【0089】
本発明の方法では、多孔質炭素骨格の細孔構造内への電気活性材料のガス状前駆体のCVIを使用する。ガス状前駆体は、好ましくは、シリコン含有ガスである。
【0090】
好適なシリコン含有前駆体としては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリシラン(Si)、テトラシラン(Si10)、又はトリクロロシラン(HSiCl)等のクロロシラン、又はメチルトリクロロシラン(CHSiCl)若しくはジメチルジクロロシラン((CHSiCl)等のメチルクロロシランが挙げられる。シリコン含有前駆体は、好ましくは、シランである。
【0091】
CVIプロセスでは、ドーパント材料のガス状前駆体を利用して、多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内にドープ電気活性材料を堆積させることもできる。ドーパントがホウ素である場合、好適な前駆体としては、ボラン(BH)、ホウ酸トリイソプロピル([(CHCHO]B)、トリフェニルボラン((CB)、及びトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン((CB)が挙げられ、好ましくはボランである。ドーパントがリンの場合、好適な前駆体はホスフィン(PH)である。
【0092】
前駆体は、純粋な形態で、又はより一般的には、窒素若しくはアルゴン等の不活性キャリアガスとの希釈混合物としてのいずれかで使用することができる。例えば、前駆体は、前駆体と不活性キャリアガスとの合計体積に対して、0.5体積%~20体積%、又は1体積%~10体積%、又は1体積%~5体積%の範囲の量で使用することができる。CVIプロセスは、好適には、全圧を大気圧(101.3kPa)以下(例えば、50kPa~101.3kPaの範囲)として、ガス状前駆体の分圧を低くして行い、残りの分圧は、水素、窒素、又はアルゴン等の不活性パディングガス(padding gas)を使用して大気圧になる。
【0093】
CVIプロセスの温度は、前駆体が電気活性材料へと熱分解されるように選択する。CVIプロセスは、好適には、200℃~1250℃の範囲、又は400℃~700℃の範囲、又は400℃~600℃の範囲、又は400℃~550℃の範囲、又は450℃~550℃の範囲、又は450℃~500℃の範囲の温度で行う。CVIプロセスは、好ましくは400℃~500℃、好ましくは400℃~450℃又は450℃~500℃の範囲の温度で行う。CVIプロセスは、好ましくは、粒子状材料の最小流動化速度(Umf)以上で行う。空塔速度は、好ましくは、粒子状材料の最小流動化速度(Umf)超である。最小流動化速度(Umf)は、典型的には、測定される量であり、その値は、粒子径、粒子密度、及びガス粘度によって変化する。最小流動化速度は、粒子を「流体のような」状態に巻き上げる速度を達成するために、反応器容器に供給するべきガスの流量を規定する。CVIプロセスでの流量は、好適には、良好な固体-固体及び固体-気体の混合を提供し、反応器からの粒子のキャリーオーバーを最小限に抑えるように選択される。CVIプロセスは、好適には、最小流動化速度(Umf)の1倍~20倍の範囲で行われる。
【0094】
理論に縛られることを望むものではないが、上述の方法で多孔質炭素骨格の粒子径を制御すると、電気活性材料の浸透が速度論的に制御されると考えられる。浸透が速度論的に制御されると、全体に電気活性物質が均一に分布した複合粒子をもたらすと考えられる。これは、或る特定の量の電気活性材料が堆積した後に、骨格の容積全体にわたって細孔の閉塞を引き起こす可能性がある。多孔質炭素骨格の粒子径を制御することは、CVIプロセスで使用する温度及び濃度範囲で高い浸透効率を可能にするという利点を有し、また、骨格を古典的な意味で流動化に適したもの(GeldertのAグループ等)にする。
【0095】
粉砕
本発明の方法は、中間粒子を粉砕して、上記複合粒子を得る工程を含む。粉砕工程は、複合粒子の粒子径が、粒子状多孔質炭素骨格の粒子径よりも小さくなるように行う。本発明の利点は、粉砕工程によって、大規模な商業的使用に好適なプロセスである、FBRにおけるCVIの使用を可能としつつ、金属イオン電池での使用に好適な小さな粒子径を有する最終製品を提供することである。
【0096】
FBRにおけるCVIプロセスの際に、多孔質炭素骨格がいくらか凝集する可能性がある。したがって、中間粒子の粒子径は、多孔質炭素骨格の粒子径より大きくなる可能性がある。
【0097】
粉砕は、湿式ミル、ボールミル、ジェットミル等のミル、高剪断撹拌装置、超音波装置等の様々な種類の粉砕装置によって行うことができる。浸透が完了した直後の中間粒子の反応性を考慮すると、CVIプロセスで堆積させた電気活性材料が反応性となる可能性があるため、粉砕は乾式ミルで行うことが好ましい。例えば、シランから堆積させたシリコンは、かなりの量のSi-H結合を含有している。これらの結合は、有機分子及び水に対して反応性である。したがって、酸素又は有機溶媒が存在すると、発熱反応を引き起こし、Si/C複合材料の部分的な破壊、及び/又は市販の金属イオン電池材料に必要とされるものよりも低い品質への劣化をもたらす可能性がある。
【0098】
乾式ミルの中でも、より小さいサイズへ粉砕する能力を有することから、ジェットミルが好ましい。ジェットミルは、圧縮空気又は不活性ガスの高速ジェットを使用して、粒子を互いに衝突させる。ジェットミルは、最大で約1mmのサイズを有する出発材料と共に使用することができ、比較的少ないエネルギー入力で1μm程度のサイズを容易に達成することが知られている。
【0099】
様々な種類のジェットミル、例えば、回転型(回転運動)及び流動対向ジェット型がある。回転型では、壁からの接線方向のガスの力を使用して粒子を加速する。流動対向ジェットでは、互いに等しい角度で分離された複数のジェットによって機能し、対向する衝突軌道上で粒子を衝突させる。流動対向ジェット型ミルは、より高い容量が望まれる場合にはより好適である。粉砕作用は、両方の種類のミルにおいて、硬い対象物との衝突ではなく、粒子同士の衝突によって達成される。この特定の作用形態によって、粒度分布の狭い粉砕物が得られる。これは、金属イオン電池の電極に組み込む場合には有益である。また、組成が制御された(酸素含有量及び水分量が制限された)不活性粉砕ガスを使用すると、粉砕物の純度が高くなる。
【0100】
回転型ジェットミル(例えば、スパイラルジェットミル)又は流動対向ジェット型ミルの設計のいずれでも、直径を0.04mから最大で数メートル、粉砕ガス圧力を50kPa~1000kPa、かつ、最大開始粒子径を1mmとして使用することができる。粉砕ガスは、窒素若しくはアルゴン等の不活性ガス、又はこれらと低分圧の空気、水、若しくは酸素との混合物のいずれかである。
【0101】
粉砕した粒子は、任意で、例えば遠心分離又は篩分けによって、サイズによって分類することができる。
【0102】
粉砕工程の前に、中間粒子を不動態化することができる。すなわち、粒子表面を処理して、その化学反応性を低下させる、好ましくは、後続のプロセス工程又は取り扱いにおける粒子表面の更なる酸化を最小限にするか、又は防止することができる。例えば、中間粒子を、酸素濃度が10体積%未満等の低酸素濃度環境において不動態化することができる。窒素等の不活性ガスを使用して、中間粒子を不動態化することができる。低酸素濃度のガス混合物を使用することもできる。中間粒子の不動態化には、中間粒子の望ましくない更なる反応が抑制されるという利点がある。例えば、中間粒子を不動態化すると、反応性のSi-H結合を除去することができる。これは、CVIプロセスに由来して多孔質炭素骨格の細孔内に堆積した電気活性材料の構造を維持するのに役立つ。これは、複合粒子を金属イオン電池において使用する場合には有益である。粉砕工程を、不活性ガス又は低酸素濃度のガス混合物等の低酸素濃度環境において行うこともできる。粉砕工程は、便宜上、任意の不動態化工程と同じ雰囲気中で行うことができる。
【0103】
粉砕工程の前に、任意で不動態化工程と組み合わせて、中間粒子を冷却することができる。冷却は、100℃未満若しくは50℃未満の温度、又は周囲温度まで行うことができる。中間粒子の冷却には、中間粒子を粉砕装置に移すことが容易になるという利点がある。
【0104】
本発明の方法は、連続法であっても、又はバッチ法であってもよい。連続法では、不動態化工程及び冷却工程は、FBRとは別の容器で行う必要がある。FBRとは別の容器は、粉砕装置とすることができる。
【0105】
複合粒子製品
多孔質炭素骨格出発材料の性質を選択することにより、複合粒子製品の性質を制御することができることは本発明の利点である。これは、本発明者らが、複合粒子の機能性ユニットがnmの長さスケールであることと比較して、破損は相対的にμmの長さスケールであるため、重大なレベルの損傷を与えることなく粉砕が起こり得ることを見出したことによって達成される。言い換えると、粉砕工程は、CVIを使用してミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む多孔質炭素骨格中に電気活性材料を堆積させることから得られる所望のナノ構造を維持しつつ、複合粒子製品に所望の粒子径を提供する。例えば、中間粒子及び複合粒子は両方とも、多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する元素形態の電気活性材料の複数のナノスケールドメインを含むことができる。本明細書において使用される「ナノスケールドメイン」という用語は、多孔質炭素骨格の細孔内に位置する電気活性材料のナノスケール体を指す。ナノスケールシリコンドメインの最大寸法は、シリコンが位置する細孔の細孔径によって規定される。
【0106】
複合粒子は、概して、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む細孔容積を有する多孔質炭素骨格において、その細孔容積を電気活性材料のナノスケールドメインが占める粒子状材料である。この粒子構造により、リチウム化した際の重量容量及び体積容量が非常に高く、複数回の充放電サイクルにわたって高い可逆容量保持率を有する電気活性材料が提供されることが分かった。
【0107】
理論に縛られるものではないが、ナノスケール電気活性ドメインがミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置することによって、第一に、過剰な構造的ストレスなくリチウム化及び脱リチウム化することができる微細な電気活性構造体が提供されると考えられる。これらの非常に微細な電気活性ドメインは、より大きな電気活性構造体よりも、弾性変形に対する抵抗が低く、破壊抵抗が高いと考えられる。細孔容積が比較的高い割合で電気活性材料によって占有されるようにすることで、複合粒子は高い容量を有することができる。さらに、ナノスケール電気活性ドメインがミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置することにより、電気活性表面の小面積のみが電解質にアクセス可能となるため、SEIの形成が制限される。
【0108】
幾つかの場合では、本発明によって製造される複合粒子は、完全に包囲された空隙が、この空隙へ電解質がアクセスしないように、電気活性材料によって覆われた細孔を含むことができる。
【0109】
複合粒子の粒子径は、粉砕工程、及び任意でサイズによって粒子を分類する工程を制御することにより対象化して、最終用途において望ましい粒度分布を提供することができる。
【0110】
工程(c)における中間粒子の粉砕の結果、複合粒子のD50粒子径は、多孔質炭素骨格のD50粒子径よりも小さくなる。よって、工程(c)において得られる複合粒子は、多孔質炭素骨格のD50粒子径が更に大きい限りは、例えば、最大で50μmのD50粒子径を有することができる。複合粒子は、例えば、40μm以下、又は30μm以下、又は25μm以下のD50粒子径を有することができる。
【0111】
複合粒子は、20μm以下のD50粒子径を有することができることが好ましい。例えば、複合粒子は、15μm以下、又は12μm以下、又は10μm以下、又は9μm以下、又は8μm以下、又は7μm以下、又は6.5μm以下、又は6μm以下、又は5.5μm以下、又は5μm以下、又は4.5μm以下、又は4μm以下、又は3.5μm以下のD50粒子径を有することができる。
【0112】
複合粒子は、少なくとも1μm、又は少なくとも2μm、又は少なくとも3μm、又は少なくとも4μm、又は少なくとも5μmのD50粒子径を有することができる。
【0113】
複合粒子は、好ましくは、0.5μm~20μmの範囲、又は0.5μm~15μmの範囲、又は0.5μm~12μmの範囲、又は0.5μm~10μmの範囲、又は0.5μm~8μmの範囲、又は0.5μm~9μmの範囲、又は0.5μm~7μmの範囲のD50粒子径を有する。これらのサイズ範囲内であり、本明細書に記載の空隙率及び細孔径分布を有する複合粒子は、スラリー中で分散性を有し、構造的堅牢性を有し、繰り返しの充放電サイクルにわたって容量保持し、かつ、従来の20μm~50μmの範囲の均一な厚さを有する緻密な電極層を形成するのに適しているため、金属イオン電池用アノードにおける使用に理想的に適している。
【0114】
複合粒子は、少なくとも0.2μm、又は少なくとも0.5μm、又は少なくとも0.8μm、又は少なくとも1μm、又は少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmのD10粒子径を有することができる。
【0115】
複合粒子は、40μm以下、又は30μm以下、又は20μm以下、又は15μm以下、又は10μm以下、又は8μm以下、又は6μm以下のD90粒子径を有することができる。
【0116】
工程(a)における多孔質炭素骨格が少なくとも30μmのD50粒子径を有し、かつ、工程(c)において得られる複合粒子が20μm以下のD50粒子径を有することが好ましい。工程(a)における多孔質炭素骨格が少なくとも40μmのD50粒子径を有し、かつ、工程(c)において得られる複合粒子が20μm以下のD50粒子径を有することがより好ましい。工程(a)における多孔質炭素骨格が少なくとも50μmのD50粒子径を有し、かつ、工程(c)において得られる複合粒子が20μm以下のD50粒子径を有することがより好ましい。
【0117】
本発明の複合材料は、好ましくは、300m/g以下、又は250m/g以下、又は200m/g以下、又は150m/g以下、又は100m/g以下、又は80m/g以下、又は60m/g以下、又は40m/g以下、又は30m/g以下、又は25m/g以下、又は20m/g以下、又は15m/g以下、又は10m/g以下のBET表面積を有する。通常、本発明の粒子状材料を含むアノードの初回の充放電サイクル中に、複合粒子の表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限にするために、BET表面積は小さいことが好ましい。しかしながら、BET表面積が過剰に小さいと、周囲の電解質中の金属イオンが電気活性材料の大部分にアクセスできなくなるために、許容できないほど低い充電レート及び容量につながる。例えば、BET表面積は、好ましくは、少なくとも0.1m/g、又は少なくとも1m/g、又は少なくとも2m/g、又は少なくとも5m/gである。例えば、BET表面積は、1m/g~25m/gの範囲、より好ましくは2m/g~15m/gの範囲とすることができる。
【0118】
複合粒子の外表面上に位置する電気活性材料がないか又はほとんどないように、複合粒子における電気活性質量の好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が、多孔質炭素骨格の内部細孔容積内に位置する。
【0119】
窒素ガス吸着により測定した、複合粒子中の(すなわち、電気活性材料の存在下での)ミクロ細孔及びメソ細孔の容積は、好ましくは、0.15×P以下、又は0.10×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下である。
【0120】
複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコン等の電気活性材料の重量比は、元素分析によって決定することができる。元素分析は、複合粒子中の電気活性材料及び炭素の両方の重量割合を決定するために使用される。任意で、水素、窒素、及び酸素の量も、元素分析によって決定することができる。元素分析を、多孔質炭素骨格のみにおける炭素(並びに任意で、水素、窒素、及び酸素)の重量割合を決定するために使用することも好ましい。多孔質炭素骨格のみにおける炭素の重量割合を決定することによって、この多孔質炭素骨格がその分子骨格内に少量のヘテロ原子を含む可能性を考慮する。両方の測定を一緒に行うことで、多孔質炭素骨格全体に対するシリコンの重量割合を確実に決定することができる。
【0121】
電気活性材料(例えば、シリコン)の含有量は、好ましくは、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)によって決定される。ThermoFisher Scientificから入手可能なICP-OES分析装置のiCAP(商標)7000シリーズ等、多くのICP-OES装置が市販されている。複合粒子及び多孔質炭素骨格のみにおける炭素の含有量(並びに必要に応じて、水素、窒素、及び酸素の含有量)は、好ましくは、IR吸収によって決定される。炭素、水素、窒素、及び酸素の含有量を決定するのに好適な装置は、Leco Corporationから入手可能なTruSpec(商標)Micro元素分析装置である。
【0122】
好適には、電気活性材料がシリコンである場合、複合粒子は、30重量%~80重量%のシリコン、好ましくは45重量%~65重量%のシリコンを含む。
【0123】
複合粒子は、酸素の総含有量が低いことが好ましい。酸素は、複合粒子において、例えば、多孔質炭素骨格の一部として、又は任意の露出したシリコン表面上の酸化物層として存在し得る。複合粒子の酸素の総含有量は、好ましくは15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、例えば、2重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満である。
【0124】
電気活性材料がシリコンである場合、複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、好ましくは[0.5×P~2.2×P]:1の範囲である。この関係では、シリコンの密度及び多孔質炭素骨格の細孔容積を考慮して、細孔容積の約20体積%~95体積%がシリコンによって占有されるシリコンの重量比を規定する。
【0125】
複合粒子は、典型的には、初回のリチウム化の際に、1200mAh/g~2340mAh/gの比充電容量を有する。複合粒子は、好ましくは、初回のリチウム化の際に、少なくとも1400mAh/gの比充電容量を有する。
【0126】
上述の通り、或る特定のクラスの多孔質炭素骨格を使用することにより、或る特定のクラスの複合粒子製品を対象化することができる。ミクロ細孔及び/又はメソ細孔等の多孔質炭素骨格の細孔構造が複合粒子製品において保持されることが理解されるだろう。以下、或る特定のクラスの複合粒子製品について説明する。以下で説明するクラスの複合粒子の特徴は、粒子径等の上述の複合粒子の特徴と組み合わせて考慮されるべきであることが理解されるだろう。
【0127】
複合粒子1
本発明の方法によって製造される複合粒子1は、
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む多孔質炭素骨格であって、
ミクロ細孔及び/又はメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、少なくとも0.7の値を有する自然数を表し、かつ、
ガス吸着により測定したPD50細孔径が5nm以下である、多孔質炭素骨格と、
(b)多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する複数の元素ナノスケールシリコンドメインと、
を含み、
該複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.3×P]:1の範囲である。これは、シリコンの体積が(未充電状態で)、全ミクロ細孔/メソ細孔容積の約20%~55%であることに相当する。
【0128】
複合粒子1は、多孔質炭素骨格1を出発材料として使用して製造することができる。よって、多孔質炭素骨格1の細孔構造が複合粒子1において存在し得る。
【0129】
炭素に対するシリコンの重量比は、好ましくは、[0.55×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.95×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.85×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.8×P]:1の範囲、又は[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である。
【0130】
シリコンは、多孔質炭素骨格の内部細孔容積の好ましくは約25%~約45%、より好ましくは約25%~40%を占める。これらの好ましい範囲内であれば、多孔質炭素骨格の細孔容積は、充放電の際のシリコンの膨張に適応するのに効果的となり、粒子状材料の体積容量に寄与しない過剰な細孔容積は回避される。しかしながら、シリコンの量はまた、リチウム化に対する機械的抵抗をもたらす不十分な金属イオン拡散速度又は不十分な膨張体積のために効果的なリチウム化を妨げるほど多くはない。
【0131】
複合粒子1は、0.5μm~50μmの範囲のD50粒子径を有することができる。D50粒子径は、任意で、20μm以下とすることができる。
【0132】
複合粒子1は、例えば、1μm~25μmの範囲、又は1μm~20μmの範囲、又は2μm~20μmの範囲、又は2μm~15μmの範囲、又は3μm~15μmの範囲のD50粒子径を有することができる。
【0133】
複合粒子2
本発明の方法によって製造される複合粒子2は、
(a)ミクロ細孔及びメソ細孔を含む多孔質炭素骨格であって、
(i)ミクロ細孔及びメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、少なくとも0.6の値を有し、
(ii)ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対するミクロ細孔の容積率(φ)が、0.1~0.9の範囲であり、
(iii)ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に対する20nm以下の細孔径を有する細孔の容積率(φ20)が、少なくとも0.75であり、かつ、
(iv)該多孔質炭素骨格が、20μm未満のD50粒子径を有する、多孔質炭素骨格と、
(b)多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する複数のナノスケール元素シリコンドメインと、
を含み、
該複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[1×P~2.2×P]:1の範囲である。
【0134】
複合粒子2は、多孔質炭素骨格2を出発材料として使用して製造することができる。よって、多孔質炭素骨格2の細孔構造が複合粒子2において存在し得る。
【0135】
複合粒子2は、黒鉛と複合粒子との組合せを含む「ハイブリッド」電極における使用に特に好適である。
【0136】
複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、[1×P~2.2×P]:1の範囲である。[1×P]:1の重量比は、シリコンの密度が約2.3g/cmであるとして、シリコンによる多孔質炭素骨格の細孔の占有率が約43v/v%であることに対応している。上記重量比の上限[2.2×P]:1は、シリコンによる多孔質炭素骨格の細孔の占有率が約95v/v%であることに対応している。
【0137】
多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、好ましくは、少なくとも1.1×P、より好ましくは少なくとも1.15×P、より好ましくは少なくとも1.2×P、より好ましくは少なくとも1.25×P、より好ましくは少なくとも1.3×P、より好ましくは少なくとも1.35×P、より好ましくは少なくとも1.4×Pである。
【0138】
多孔質炭素骨格が、ミクロ細孔に対するメソ細孔の比が相対的に高い場合(例えば、φが0.2~0.5の範囲、又は0.3~0.5の範囲である場合)、炭素に対するシリコンの重量比は、更に高くすることができ、例えば、少なくとも1.45×P、より好ましくは少なくとも1.5×P、より好ましくは少なくとも1.55×P、より好ましくは少なくとも1.6×P、より好ましくは少なくとも1.65×P、より好ましくは少なくとも1.5×Pとすることができる。
【0139】
更に好ましい実施の形態においては、多孔質炭素骨格に対するシリコンの最小重量比は、少なくとも[φ+0.75]×Pで与えられる値、又は少なくとも[φ+0.8]×Pで与えられる値、又は少なくとも[φ+0.9]×Pで与えられる値、又は少なくとも[φ+1]×Pで与えられる値、又は少なくとも[φ+1.1]×Pで与えられる値である。よって、メソ細孔率(φ)がより高い値を有する場合、複合粒子2におけるシリコンの量も大きくなる。このメソ細孔率と、多孔質炭素骨格に対するシリコンの最小重量比との相関性によって、より高いメソ細孔率を有する多孔質炭素骨格がより高い程度でシリコンによって占有されることになり、これにより、複合粒子2の体積容量が最適化される。より高いメソ細孔率を有する多孔質炭素骨格において、シリコンの最小充填量がより大きくなることによって、より大きなミクロ細孔が部分的にシリコンによって占有される可能性も低減し、これにより、電解質に露出するシリコン表面積が低減することによって、望ましくないSEIの形成が制限される。
【0140】
更なる実施の形態においては、多孔質炭素骨格に対するシリコンの最大重量比は、[φ+1.6]×Pで与えられる値以下、より好ましくは[φ+1.5]×Pで与えられる値以下である。このメソ細孔率と、多孔質炭素骨格の最大重量比との相関性によって、より高いミクロ細孔率を有する多孔質炭素骨格がシリコンによって過剰に充填されなくなる。
【0141】
複合粒子2は、0.5μm~20μmの範囲のD50粒子径を有することができる。複合粒子2のD50粒子径は、好ましくは、12μm以下、又は10μm以下、又は8μm以下である。
【0142】
複合粒子2は、例えば、1μm~12μm、又は1μm~10μm、又は2μm~10μm、又は3μm~8μmの範囲のD50粒子径を有することができる。
【0143】
複合粒子2のD10粒子径は、好ましくは少なくとも0.5μmである。
【0144】
複合粒子2のD90粒子径は、好ましくは、12μm以下、又は10μm以下である。
【0145】
複合粒子3
本発明の方法によって製造される複合粒子3は、
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む多孔質炭素骨格であって、
ミクロ細孔及びメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積が少なくとも0.7cm/gであり、
ガス吸着により測定したPD50細孔径が2nm以下である、多孔質炭素骨格と、
(b)多孔質炭素骨格のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する電気活性材料と、
を含み、
該複合粒子は、10μm以下のD90粒子径を有する。
【0146】
複合粒子3は、多孔質炭素骨格3を出発材料として使用して製造することができる。よって、多孔質炭素骨格3の細孔構造が複合粒子3において存在し得る。
【0147】
複合粒子3は、多孔質炭素骨格が、ミクロ細孔及びメソ細孔の比較的高い全容積を有し、2nm以下の直径を有する細孔が、全細孔容積の少なくとも50%を構成する粒子状材料に関する。この細孔構造は、多孔質炭素骨格3に由来し得る。複合粒子3は、直径10μm以下の粒子に対して大きく偏った粒度分布を有する。小さな粒子径と高度に分割された細孔容積との組合せにより、電極製造中の機械的劣化に対する抵抗の高い電気活性材料が提供されることが分かった。
【0148】
複合粒子3のD90粒子径は、好ましくは、9.5μm以下、又は9μm以下、又は8.5μm以下、又は8μm以下、又は7.5μm以下、又は7μm以下、又は6.5μm以下、又は6μm以下、又は5.5μm以下、又は5μm以下、又は4.5μm以下、又は4μm以下である。
【0149】
複合粒子3は、好ましくは、0.5μm~7μmの範囲のD50粒子径を有する。D50粒子径は、任意で、少なくとも1μm、又は少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μm、又は少なくとも2.5μm、又は少なくとも3μmとすることができる。
【0150】
50粒子径は、任意で、6.5μm以下、又は6μm以下、又は5.5μm以下、又は5μm以下、又は4.5μm以下、又は4μm以下、又は3.5μm以下とすることができる。
【0151】
複合粒子3は、例えば、1μm~6.5μmの範囲、又は1.5μm~6μmの範囲、又は2μm~5.5μmの範囲、又は2.5μm~5μmの範囲、又は3μm~4.5μmの範囲のD50粒子径を有することができる。
【0152】
複合粒子3のD10粒子径は、好ましくは少なくとも0.5μmである。
【0153】
複合粒子3のD99粒子径は、好ましくは、25μm以下である。
【0154】
複合粒子3中の電気活性材料の量は、好ましくは、電気活性材料が多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約55%以下を(未充電状態で)占めるように選択する。電気活性材料は、好ましくは多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約25%~約45%、より好ましくは多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約25%~40%を占める。
【0155】
電気活性材料がシリコンである場合、多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、好ましくは[0.5×P~1.3×P]:1である。炭素に対するシリコンの重量比は、より好ましくは、[0.55×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.95×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.85×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.8×P]:1の範囲、又は[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である。
【0156】
炭素被膜
本発明の方法は、導電性被膜、好ましくは炭素系被膜を複合粒子上に堆積させることを含む更なる工程を任意で含むことができる。好適には、導電性炭素系被膜は、化学蒸着(CVD)法によって得ることができる。CVDは当該技術分野において既知の方法論であり、粒子状材料の表面での揮発性炭素含有ガス(例えば、エチレン)の熱分解を含む。代替的には、炭素系被膜は、炭素含有化合物の溶液を粒子状材料の表面に堆積させ、続いて熱分解することによって形成することができる。導電性被膜(炭素系被膜等)は、複合粒子のレート性能を低下させないように、過剰な抵抗なく、複合粒子の内部にリチウムがアクセスするのに十分な透過性を有する。例えば、導電性被膜の厚さは、好適には、2nm~30nmの範囲とすることができる。導電性被膜は、任意で、多孔質であってもよく、及び/又は、複合粒子の表面を部分的にのみ覆ってもよい。
【0157】
導電性被膜は、任意の表面欠陥を滑らかにし、表面の残りの微細構造(microporosity)を埋めることによって、複合粒子のBET表面積を更に小さくし、これにより、初回のサイクル損失を更に低減するという利点を有する。また、導電性被膜は、複合粒子の表面の導電性を改善して、電極組成物における導電性添加剤の必要性を減らし、また、安定したSEI層の形成に最適な表面を形成して、サイクル時の容量保持率を改善する。
【0158】
導電性被膜を堆積させた後の複合粒子のBET表面積は、好ましくは、50m/g未満、30m/g未満、20m/g未満、より好ましくは、10m/g未満、又は5m/g未満である。
【0159】
製品の最終用途
本発明の方法は、複合粒子(ここで、複合粒子は、任意で、導電性炭素被膜によって被覆されている)を含む電極組成物を形成する更なる工程を任意で含むことができる。電極組成物は、(i)バインダー、(ii)導電性添加剤、及び(iii)追加の粒子状電気活性材料から選択される少なくとも1つの他の成分を含むことができる。
【0160】
本発明の方法は、複合粒子(ここで、複合粒子は、任意で、導電性炭素被膜によって被覆されている)と、溶媒とを含むスラリーを形成する更なる工程を任意で含むことができる。
【0161】
プロダクト・バイ・プロセス
本発明は、本発明の方法によって得ることができる複合粒子を含む粒子状材料も提供する。本発明のCVIプロセスによって堆積させた電気活性材料のナノ構造は、他の手段によって堆積させた電気活性材料のナノ構造とは異なる。そして、複合粒子は、CVIプロセスと、後続の粉砕プロセスとから生じるため、後続の粉砕工程を行わずに作製した同様のサイズを有する粒子と区別することができる。例えば、粉砕工程によって、顕微鏡で観察可能な破面が生じる。したがって、本発明の方法によって得ることができる複合粒子は、他の手段によって得られる複合粒子と区別することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0162】
シリコン-炭素複合粒子を、内径83mmのステンレス鋼円筒形容器を備えた縦型気泡流動床反応器で合成した。BET表面積が1777m/g、全細孔容積が0.78cm/g、PD10が0.97nm、PD50が1.15nm、PD90が2.23nm、かつ、φが61%の多孔質炭素粒子の予混合物126gを反応器に入れる。不活性ガス(窒素)を低流量で反応器に注入して、酸素を除去する。次いで、反応器を420℃~440℃の反応温度に加熱し、窒素で希釈した1.25v/v%のモノシランガスを、炭素骨格粒子を流動化するのに十分な流量で、32.3時間(試料1)又は37時間(試料2)の間、反応器の底部に供給した。反応時間が完了するとすぐに、流動化を維持しながら、反応器の雰囲気を純粋窒素へと切り替え、このパージを30分間継続した。その後、数時間かけて炉を周囲温度へと昇温した。周囲温度に到達してから、数時間かけて炉の雰囲気を徐々に空気に切り替えた。
【0163】
生成物を、MC DecJet(商標)30ミルの供給トレーに加え、不活性雰囲気中で粉砕を行った。リング圧力を650kPaに設定し、ベンチュリ圧力を700kPaに設定した。生成物を微粉末化し、次いで、適切な容器に収集した。2つの複合材料の材料特性を表1に示す。
【0164】
【表1】
【0165】
負極の作製
試料1及び試料2の各材料から負極被膜(アノード)を作製した。カーボンブラックSuper P(商標)(導電性炭素)のCMCバインダー分散液をThinky(商標)ミキサーで混合した。この混合物にSi-C複合材料を添加し、Thinky(商標)ミキサーで30分間混合した。次いで、SBRバインダーを添加してCMC:SBR比を1:1とし、Si-C複合材料:CMC/SBR:カーボンブラックの重量比が70%:16%:14%であるスラリーを得た。スラリーをThinky(商標)ミキサーで更に30分間混合し、次いで、厚さ10μmの銅基板(集電体)に被覆させ、50℃で10分間乾燥させた後、110℃で12時間更に乾燥させることにより、負極を形成した。
【0166】
セル製造及びサイクル
フルセルの製造
フルコインセルを、(上述の)試料1及び試料2から形成した被膜から切り出した半径0.8cmの円形負極と、多孔質ポリエチレンセパレータと、ニッケルマンガンコバルト(NMC532)正極とを使用して作製した。正極及び負極は、負極に対する正極の容量比が0.9となるように、バランスの良いペアを形成するように設計した。次いで、3重量%のビニレンカーボネートを含有する7:3のEMC/FEC(エチレンメチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート)溶液中に、1MのLiPFを含む電解質を、密封前にセルに添加した。
【0167】
フルコインセルを、以下のようにサイクルさせた。4.3Vのカットオフ電圧でC/25のレートで定電流を印加してアノードをリチウム化した。カットオフ電圧に達したら、C/100のカットオフ電流に達するまで、4.3Vの定電圧を印加する。次いで、セルをリチウム化状態で10分間休止させた。次いで、2.75Vのカットオフ電圧で、C/25の定電流でアノードを脱リチウム化する。次いで、セルを10分間休止させた。この初回のサイクルの後、4.3Vのカットオフ電圧でC/2の定電流を印加してアノードをリチウム化し、続いて、C/40のカットオフ電流で4.3Vの定電圧を印加し、休止時間5分とした。次いで、2.75Vのカットオフ電圧でC/2の定電流でアノードを脱リチウム化した。次いで、これを所望のサイクル回数繰り返した。
【0168】
各サイクルの充電(リチウム化)容量及び放電(脱リチウム)容量を、シリコン-炭素複合材料の単位質量当たりで計算し、容量保持値を、2回目のサイクルの放電容量に対するパーセントとして、各放電容量に対して計算する。初回のサイクル損失(FCL)は、(1-(初回の脱リチウム化容量/初回のリチウム化容量))×100%である。各材料に対して3つのコインセルで平均した主要値を表2に示す。
【0169】
【表2】