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特許7566762陰イオン交換クロマトグラフィーを使用した生物学的分子、例えばプラスミドDNAなどのための精製プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】陰イオン交換クロマトグラフィーを使用した生物学的分子、例えばプラスミドDNAなどのための精製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20241007BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C12N15/10 112Z
C12M1/00 A
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2021550323
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020055285
(87)【国際公開番号】W WO2020174085
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】19160132.7
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521381439
【氏名又は名称】ロンザ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツルブリッゲン,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】コサンデイ,リュドビク
(72)【発明者】
【氏名】バルマー,イブ
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-526023(JP,A)
【文献】特表2002-543980(JP,A)
【文献】特表2011-512127(JP,A)
【文献】J. Chromatogr. B,2004年,Vol.804,PP.327-335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合物から目的のプラスミドDNA(pDNA)を単離又は精製するための方法であって、
陰イオン交換材料への目的のプラスミドDNA(pDNA)の選択的結合を可能にする濃度のコスモトロピック塩を含む溶液の存在において、混合物を陰イオン交換材料と接触させる工程であって、
前記コスモトロピック塩が、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択され、及び、前記コスモトロピック塩の濃度が、少なくとも0.5Mである工程;並びに
精製されたプラスミドDNA(pDNA)を含む溶離液を提供する濃度のカオトロピック塩を含む溶出剤で目的のプラスミドDNA(pDNA)を溶出する工程であって、
前記カオトロピック塩が、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩酸グアニジニウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される工程;
を含む方法。
【請求項2】
(i)溶離液中に前記プラスミドDNA(pDNA)を含む画分を収集する;及び/又は
(ii)目的の前記プラスミドDNA(pDNA)が、収集された画分のいずれか1つ又は全てから単離される;及び/又は
(iii)方法が、有機溶媒、界面活性剤、グリコール、ヘキサミンコバルト、スペルミジン、ポリビニルピロリドンの非存在において実施される;
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)プラスミドDNAがスーパーコイルプラスミドDNA(sc pDNA)である;及び/又は
(ii)プラスミドDNAが、哺乳動物DNA、細菌DNA、非コードDNA、又はウイルスDNAを含む;及び/又は
(iii)混合物が、スーパーコイルプラスミドDNA、開環状プラスミドDNA、線状プラスミドDNA、ゲノムDNA、RNA、リポ多糖、エンドトキシン、タンパク質、又はそれらの任意の組み合わせを含む;
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラスミドDNAが、目的のポリペプチドを発現することが可能なDNAを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
精製及び/又は単離プラスミドDNAの純度が少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(i)陰イオン交換材料へのプラスミドDNA(pDNA)の選択的結合を可能にするコスモトロピック塩の濃度が、0.8Mから4.0Mである;及び/又は
(ii)精製されたプラスミドDNA(pDNA)を含む溶離液を提供するカオトロピック塩の濃度が、0.25Mから4.0Mである;及び/又は
(iii)溶出工程が、溶出剤中のカオトロピック塩の濃度を変動させることによる勾配溶出を含む;
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶出工程が、溶出剤中のカオトロピック塩の濃度を増加させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶出工程が、他のプラスミドDNA形態からのスーパーコイルプラスミドDNAの画分を含む、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
他のプラスミドDNA形態が、線状プラスミドDNA及び開環状プラスミドDNAである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶出工程が、他のプラスミドDNA形態、及び他の核酸分子からのスーパーコイルプラスミドDNAの画分を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
(i)コスモトロピック塩が硫酸アンモニウムである;及び/又は
(ii)カオトロピック塩が硫酸マグネシウムである;及び/又は
(iii)コスモトロピック塩を含む溶液が、5.0から10.0の、又は5.0から8.0の、又は6.0から8.0の範囲のpH、あるいはpH7を有する;
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(i)前記硫酸アンモニウムの濃度が0.5Mから2.0Mである;及び/又は
(ii)前記硫酸マグネシウムの濃度が0.5Mから1.0Mである;
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
陰イオン交換材料が、陰イオン交換膜、イオン交換樹脂、三次元微孔性ヒドロゲル構造、超多孔性ビーズの充填床、大孔性ビーズ、モノリス、アガロースビーズ、架橋アガロース、シリカビーズ、大孔径ゲル、メタクリレートベースのビーズ、ポリスチレンベースのビーズ、セルロースベースのビーズ、デキストランベースのビーズ、ビスアクリルアミドベースのビーズ、ポリビニルエーテルベースのビーズ、セラミックベースのビーズ、又はポリマーベースのビーズより選択される、
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
陰イオン交換材料が、
(i)3.0μmから5.0μmの平均孔径を有する陰イオン交換膜;又は
(ii)30μmから300μmの平均粒子径を有するイオン交換樹脂;
である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
陰イオン交換材料が、3.0μmの平均孔径を有する陰イオン交換膜である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
方法が、陰イオン交換材料へのプラスミドDNA(pDNA)の選択的結合を可能にする濃度のコスモトロピック塩を含む溶液の存在において混合物を陰イオン交換材料と接触させる前に、目的のプラスミドDNA(pDNA)を含む混合物から固体成分を分離することをさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
固体成分の前記分離が、ろ過又は相分離により達成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
固体成分の前記分離が、二相分離を介して達成される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
固体成分の前記分離が、二相分離を介して達成され、
(i)緩衝液を加えて、混合物の密度を1.1kg/Lより大きく増加させる;及び/又は
(ii)上相よりも高い密度を有する二相混合物の下相が、深層ろ過に供される;
請求項16又は17に記載の方法。
【請求項20】
前記緩衝液がコスモトロピック塩を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記コスモトロピック塩が硫酸アンモニウムである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
方法が以下の工程:
(i)溶離液からプラスミドDNA(pDNA)を沈殿させる工程;及び/又は
(ii)プラスミドDNA(pDNA)を単離するための接線流ろ過により溶離液をろ過する工程;及び/又は
(iii)目的の精製されたプラスミドDNA(pDNA)の凍結乾燥工程;及び/又は
(iv)陰イオン交換材料へのプラスミドDNA(pDNA)の選択的結合を可能にする濃度のコスモトロピック塩を含む溶液の存在において混合物を陰イオン交換材料と接触させる工程に続くフロースルーを収集する工程;及び/又は
(v)目的のプラスミドDNA(pDNA)の溶出前に、陰イオン交換材料を洗浄緩衝液で洗浄する工程;
をさらに含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
方法が以下の工程:
(ii)プラスミドDNA(pDNA)を単離するための接線流ろ過により溶離液をろ過する工程であって、前記接線流ろ過工程において使用されるろ過膜の平均孔径が、0.2μm以下である工程;及び/又は
(iii)目的の精製されたプラスミドDNA(pDNA)の凍結乾燥工程であって、前記凍結乾燥工程が糖の存在において行われる工程;及び/又は
(iv)陰イオン交換材料へのプラスミドDNA(pDNA)の選択的結合を可能にする濃度のコスモトロピック塩を含む溶液の存在において混合物を陰イオン交換材料と接触させる工程に続くフロースルーを収集する工程であって、フロースルーがRNA、ゲノムDNA、タンパク質、細胞画分、又はそれらの組み合わせを含む工程;及び/又は
(v)目的のプラスミドDNA(pDNA)の溶出前に、陰イオン交換材料を洗浄緩衝液で洗浄する工程であって、前記洗浄緩衝液が、目的のプラスミドDNA(pDNA)の溶出のために要求される濃度よりも低い濃度のカオトロピック塩を含む工程;
をさらに含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記フロースルーがRNAを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
方法が、プラスミドDNA(pDNA)を溶出する工程に続く精製工程をさらに含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
方法が、プラスミドDNA(pDNA)を溶出し、単離する工程に続くさらなる精製工程をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
第2の精製工程が、スーパーコイルプラスミドDNAを開環状及び/又は線状DNAから分離することを可能にする選択性を有するチオフィリック芳香族吸着クロマトグラフィー媒体の使用を含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
方法が以下の工程:
(i)プラスミドDNAを使用して目的のポリペプチドを発現させる工程;又は
(ii)プラスミドDNAを使用して目的のポリペプチドを産生及び回収する工程;
をさらに含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
方法が、目的のポリペプチドを医薬組成物中に製剤化する工程をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
方法が、目的のプラスミドDNA(pDNA)を含む、結果として得られた混合物を陰イオン交換材料と接触させる前に、細胞の回収及び洗浄、細胞溶解、中和、及び凝集物の除去の工程を含む、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
方法が、RNAを除去するためのCaCl沈殿工程を含まない、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項16から21のいずれか一項に記載の方法のためのチューリップ型容器の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的の生物学的分子、例えばプラスミドDNA(pDNA)などの精製又は単離のための新たな、改善された方法を提供する。この方法は、不純物、例えばRNA、ゲノムDNA、タンパク質、細胞画分、又はそれらの組み合わせなどの単純で効果的な除去を含む。本発明の新規方法は、大規模な生産プラントについて特に適しており、優れた品質及び良好な収量を伴う精製pDNAを提供し、また、より速い処理時間及び低下した費用を可能にする。
【0002】
精製された生物学的分子、特に本発明の方法により得られたpDNAは、分野、例えば合成的な一過性産生、エクスビボ遺伝子治療、RNA治療薬、DNAワクチン、DNA抗体、非ウイルス遺伝子治療、及びウイルスベクターなどにおける適用のために特に適している。本発明の方法を介して得られた、精製された生物学的分子はまた、例えば、ワクチン、ウイルス治療、遺伝子及び細胞治療、インビボ又はインビトロでの分子、例えばRNA及びポリペプチドなどの産生において、あるいはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞治療において使用されうる。
【0003】
本発明はまた、目的の生物学的分子を含むサンプルの清澄化の間に好適に使用されうるチューリップ型容器の新規使用について記載する。チューリップ型容器又はタンクは、生物学的分子を含む混合物から固体成分を分離するために、相分離の間に有利に使用してもよい。より具体的には、本発明は、相分離の間に生物学的分子を含む混合物のより低い(即ち、より高密度の)相を回収するためのチューリップ型容器又はタンクの新規使用を提供する。
【背景技術】
【0004】
プラスミドDNAは、染色体DNAから物理的に分離された小分子であり、独立的に複製することができる。プラスミドDNAは典型的には3つの異なる立体構造で存在する:スーパーコイルpDNA、開環状pDNA、及び線状pDNA。pDNAの種々の治療的適用(合成的な一過性産生、エクスビボ遺伝子治療、RNA治療薬、DNAワクチン、DNA抗体、非ウイルス遺伝子治療、及びウイルスベクターなどを含むが、これらに限定しない)を仮定すると、pDNAの精製又は単離の改善された方法が非常に望ましいということが当業者により理解されるであろう。
【0005】
pDNAの高い負電荷を考慮し、陰イオン交換クロマトグラフィーは、pDNAを精製又は単離するための方法において頻繁に使用される。陰イオン交換材料は、正荷電基を含む。このように、陰イオン交換クロマトグラフィーによって、陰イオン交換材料の使用を通じて、溶液に含まれる分子、例えばタンパク質などをそれらの電荷に従って分離する。当業者が理解するように、陰イオン交換クロマトグラフィーの間に使用される塩の濃度は、溶出される物質に依存して変動しうる。典型的な陰イオン交換材料の例は、種々の種類の陰イオン交換膜、ビーズ、及び樹脂を含む。陰イオン交換材料に結合したタンパク質を次に、適切な緩衝液を用いて、含まれる塩の増加濃度の勾配の使用を通じて溶出させる。このように、公知の陰イオン交換クロマトグラフィー方法では、サンプルの充填は、典型的には、低塩濃度を有する緩衝液を用いて行い、塩濃度はその後、溶出工程の間に増加される。
【0006】
陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してpDNAを精製する場合、特に工業規模では、陰イオン交換カラムにpDNAを含む溶液を充填する前に典型的に生じるいくつかの上流工程がある。これらの工程には通常、流加発酵、細胞の回収及び洗浄、連続的な細胞溶解、中和、RNA除去、凝集物除去用の深層ろ過、プラスミド濃縮、及び透析ろ過を含む。その後、pDNA精製プロセスは、典型的には、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)の使用を含み、それには、低い伝導度を有する塩を使用して陰イオン交換材料にpDNAを結合させ、それに続く、高い伝導度を有する塩を用いたpDNAの溶出、緩衝液交換を伴う接線流ろ過、及び、次に、画分を含むpDNAをさらなる精製工程に供し、例えば、PlasmidSelect Xtra(登録商標)(PSX)クロマトグラフィー(例、GE Healthcare Technologyなどから入手可能)により、スーパーコイルpDNAをさらに濃縮すること、しばしば、それに続き、エンドフィル緩衝液を使用した緩衝液交換を伴うさらなる接線流ろ過工程を含む。陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してpDNAを精製又は単離するためのこれらの公知の方法では、溶出工程は、典型的には、溶出緩衝液中の塩濃度を徐々に増加させることにより達成する。
【0007】
最初の結合工程及び溶出工程に続き、さらなる工程が、上記のように、許容可能な純度及び収量でpDNAを得るために要求される。さらに、pDNAを精製する既存の方法が、不良な選択性及び不良な回収を招くことは公知である。公知の方法は、このように、pDNAの効率的で費用効果の高い分離を提供することはできない。これらの公知の方法の多くは、それらが追加の分離、廃棄、及び品質管理の工程を要求するため、プラスミドDNAの調製において望まれないであろう、PEG又は他の添加剤を使用するという欠点に悩まされていることは注意に値する。これらは困難で、時間がかかり、より高価になりうる。これらの追加工程により、精製プロセスに費用が追加され、精製のために必要な時間が増加するため、精製の間に追加工程の多くについての必要性を排除し、それにより、pDNAの純度又は収量を損なうことなく、精製のために要求される時間を低下させる、pDNAの精製又は単離のための方法についての必要性が存在する。
【0008】
当業者により理解されるように、生体分子(例えばpDNAなど)の精製のための公知のプロセスに対するさらに別の欠点は、そのような方法を大規模生産、特に医薬品グレードのpDNAの大規模生産に適用するための困難である。大規模生産には、多くの既存の制約、例えば、個人の安全性の問題及び有害廃棄物の考慮事項などがある。さらに、大規模でのpDNAのベンチスケール精製プロセスの適用は、ほとんど常に、精製pDNAの減少した収量を招く。これらの制限を仮定すると、改善された純度を伴い、高収量でpDNAを提供するだけでなく、しかし、大規模生産のためにも使用してもよい、pDNAの精製又は単離の方法を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様は、混合物から目的の生物学的分子を単離又は精製するための方法に関し、この方法は、陰イオン交換材料への目的の生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において、目的の生物学的分子を含む混合物を陰イオン交換(AEX)材料と接触させること;及び、目的の生物学的分子を、精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する濃度の塩を含む溶出剤で溶出することを含む。一部の実施形態では、溶離液中の当該目的の生物学的分子を含む画分又は画分を、場合により収集する。目的の精製された生物学的分子は、一部の例では、その後、収集された画分のいずれか1つ又は全てから単離されうる。
【0010】
一部の実施形態では、AEX材料への目的の生体分子の選択的結合を可能にする濃度で使用される塩は、コスモトロピック塩、例えば、クエン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、又は当該塩の混合物である。
【0011】
一部の実施形態では、精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する濃度で溶出剤中に存在している塩は、カオトロピック塩、例えば塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、グアニジニウム塩酸塩、又はそれらの混合物などである。
【0012】
本発明の方法により精製される生物学的分子は、典型的には、高極性/荷電生体分子、例えば核酸などである。本明細書中に記載する新規方法は、細菌のゲノムDNA、RNA、タンパク質、及びエンドトキシンを含んではならない、プラスミドDNA、特に医薬品グレードのスーパーコイルプラスミドDNA(sc pDNA)の高速で非常に効果的な精製のために特に適していることが見出された。
【0013】
別の態様では、本発明は、目的の生体分子を含む混合物をAEX材料と接触させる前に有利に使用することができる、有利なサンプル調製工程を提供する。
【0014】
この態様では、目的の生物学的分子を含む混合物の固体成分(例えば細胞破片又は緩衝系中に不溶性の他の材料など)は、相分離及び/又はろ過により便利に分離される。この態様の一部の実施形態では、固体成分の除去は、単純な二相分離を介して達成され、それにおいて緩衝液が加えられ、混合物の密度を約1.1kg/Lより大きくなるまで増加させる。混合物の密度における増加によって、固体成分が上部に浮遊し、混合物の液体部分(目的の生物学的分子を含む)は次に、ろ過工程を要求することなく(又は、有意に低下した固体材料の含量に起因して、より高いろ過能力を少なくとも提供し、それにより、プロセスの拡張が可能になる、即ち、大規模生産のために有用となる)便利に排出することができる。このサンプル調製工程は、一部の実施形態では、本明細書中に記載する新規精製方法と有利に組み合わせることができる。
【0015】
本発明の別の関連する態様は、上記の相分離工程のためのチューリップ型容器又はタンクの使用に関する。チューリップ型容器は、目的の生物学的分子(例えばプラスミドDNAなど)を含む混合物の液体部分からの固体成分の便利で効果的な分離のために特に有利であることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】作業例において精製されるサンプルの生物学的分子として使用されるプラスミドベクターpUC19の概略図を描写する。
図2A】AEX材料としてSartobind Qを使用した結合緩衝液スクリーニングの結果に関するアガロースゲル電気泳動(AGE)データを示す。
図2B】同上。
図2C】同上。
図2D】同上。
図3A】AEX材料としてSartobind Qを使用した溶出緩衝液スクリーニングの結果に関するアガロースゲル電気泳動(AGE)データを示す。
図3B】同上。
図3C】同上。
図3D】同上。
図4】溶出勾配を拡大したAEXクロマトグラフィーユニット(Sartobind Q)のクロマトグラフィープロファイルを描写する。
図5】AEXクロマトグラフィー工程(Sartobind Q)からの画分のアガロースゲル電気泳動データを示す。
図6図3(破線)及びスタンダード(実線)において描写するSartobind Q溶出プール1からのAEX-HPLCトレースを示す。
図7】Sartobind Qクロマトグラフィー工程からの添加及び溶出プールのSDS-PAGE分析データを示す。
図8】AEXクロマトグラフィー工程を含む一次回収プロセスの概略図を含む。
図9】Sartobind Qを使用したAEXユニットのクロマトグラフィープロファイルを描写する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
当業者により理解されるように、プラスミドDNAについての種々の治療的適用を考慮して、優れた純度で大量にプラスミドDNAを精製するための単純で拡張可能な方法を開発することが非常に望ましく、特に、なぜなら、典型的には小規模生産、例えば実験室及びベンチスケールの生産などのために適している多くの公知の分離/精製工程を大規模で十分に変換できないためである。
【0018】
本発明は、生物学的分子、例えば、プラスミドDNAの単離又は精製のための方法を提供する。特に、本発明は、定義された異常な条件下での陰イオン交換クロマトグラフィーの使用を介した、開環状pDNA、線状pDNA、エンドトキシン、RNA、リポ多糖、ゲノムDNA、タンパク質、及び/又はそれらの組み合わせを含む不純物を含まないプラスミドDNA、さらにより具体的にはスーパーコイルプラスミドDNAの精製又は単離の方法を含む。本発明の方法は、生物学的分子、例えばプラスミドDNA(特にスーパーコイルプラスミドDNA)などの限られた数の工程での、高純度及び優れた収量を伴う大規模な単離又は精製のために特に適している。特に、本発明の精製方法は、最大10,000リットルの発酵作業容量での大規模生産のために有利に使用することができる。
【0019】
用語「目的の生物学的分子」、「目的の生体分子」、「標的分子」は全て同義語として使用され、精製方法に供される混合物中に存在する他の成分又は不純物から精製される分子を指すことが理解されるであろう。
【0020】
不純物は、宿主細胞タンパク質、エンドトキシン、宿主細胞DNA及び/又はRNAを含むが、これらに限定しない。不純物と見なされるものは、本発明の方法が実行される状況に依存しうることが理解されるであろう。「不純物」は、宿主細胞由来である場合と、そうでない場合がある、即ち、それは、宿主細胞の不純物である場合と、そうでない場合がある。
【0021】
目的の生物学的分子(例えばプラスミドDNAなど)を「単離」又は「精製」することは、標的分子が最初に関連付けられる他の成分からの標的分子の濃縮を意味する。所望の及び/又は入手可能な精製の程度を本明細書中で提供する。好ましくは、本発明の方法は、約5倍濃縮、好ましくは約10倍濃縮、好ましくは約20倍濃縮、好ましくは約50倍濃縮、好ましくは約100倍濃縮、好ましくは約200倍濃縮、好ましくは約500倍濃縮、好ましくは約1000倍濃縮をもたらす。あるいは、精製の程度は、別の成分に関する、又は結果としての調製物に関する第1の成分のパーセンテージとして表現してもよい。そのようなパーセンテージの例を本明細書中に提供する。
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、目的の生物学的分子、例えば(スーパーコイル)プラスミドDNAなどを、迅速、単純、及び容易な様式で精製することが可能であることを見出した。これは、目的の生体分子を含む混合物を、精製される生物学的分子の高度に選択的な結合をもたらす条件下で陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィー材料と接触させることにより達成されるが、混合物中の他の成分はAEX材料に結合しない。
【0023】
この点で、本発明者らは、かなり高濃度の特定の塩を有する溶液中でAEX材料を用いて精製される生体分子を含む混合物を添加することによって、AEX材料への所望の生体分子の非常に特異的な結合がもたらされること、即ち、溶液中の大半の成分がAEX材料に結合されていないことを見出した。これらの添加条件は、AEXクロマトグラフィーではかなり珍しいと考えられており、それにおいて精製されるサンプルを、典型的には、低イオン強度の条件下でAEX材料と接触させ、その後に溶出緩衝液の塩濃度/イオン強度を(徐々に又は段階的に)増加させることにより溶出される。言い換えれば、本発明者らにより特定された特定の添加条件によって、AEXクロマトグラフィー工程の添加段階の間に既に標的分子の効果的な濃縮が可能になり、本明細書中で以下に詳細に記載するように、適切に選択された溶出条件の間でのさらなる精製が可能である。
【0024】
このように、AEXクロマトグラフィー工程によって、本発明者により特定された条件下で用いられる場合、単一の精製工程において本質的に全ての不要な混入物から所望の生体分子を分離することが可能になる。実際に、本発明者らにより見出された条件によって、AEX材料への標的分子のその効果的で高度に選択的な結合に起因して、目的の生体分子の精製において一般に適用される多くの準備の前精製工程を省くことさえ可能になるが、なぜなら、本明細書中で以下でより詳細に説明するように、混入物の多くは、それらの注意深く選択された条件下では単に結合しないためである。
【0025】
本発明は、一般的に、混合物から目的の生物学的分子を単離又は精製するための方法に関し、それにおいて、この方法は、陰イオン交換材料への目的の生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において、目的の生物学的分子を含む混合物を陰イオン交換(AEX)材料と接触させることを含み;及び、AEX材料から目的の生物学的分子を、精製された目的の生物学的分子を含む溶離液を提供する濃度の塩を含む溶出剤で溶出する。
【0026】
本発明の文脈における「選択的結合」は、混合物中の他の成分の大部分が、適切な濃度の塩を含む溶液中で接触した場合に、AEX材料に結合しないことを意味する。当業者は、生物学(及び化学)において、結合、溶出などが100%排他的であることは決してないことを理解するであろうが、しかし、本発明の目的のために、「選択的結合」は、塩溶液の存在における他の成分(「混入物」)の少なくとも70%、80%、85%、90%、又はさらに95%が、接触時にAEX材料に結合しないであろうことを意味する。便宜のために、混合物とAEX材料との接触はまた、本明細書中で「添加工程」(カラムクロマトグラフィーにおいて一般に使用されるが、本方法は無論、カラムクロマトグラフィーに限定されない)として言及してもよく、及び精製される混合物を含む塩溶液はまた、「添加緩衝液」又は「添加溶液」として言及する。塩溶液自体は、本明細書中で「結合緩衝液」として言及してもよい。
【0027】
典型的には、溶離液中の目的の精製された生物学的分子を含む画分又は画分を収集するが、これは(例えば、目的の分子の濃度/純度を、例えば、UV分光法により、溶液中で直接測定できる分析精製の実行において)常に必要なわけではない。同様に、大半の場合で、目的の生物学的分子が、本明細書中で以下に概要を述べるように、収集された画分のいずれか1つ又は全てからさらなる使用のために単離される。
【0028】
大半の生体分子について、単離は必ずしも沈殿及び乾燥を意味しないが、しかし、むしろ、精製された分子を、分解に対する安定性を、例えば、長期保存において確実にする、典型的には緩衝化された溶液中に保つことを意味する。単離は、このように、また、濃縮、即ち、標的分子の濃度を増加させるための溶媒の一部の除去を含みうる。当技術分野において周知であるように、生体分子(タンパク質又は核酸ベースの生体分子でも)を含む溶液は、多くの場合で、凍結溶液中に有利に保存することができるが、一部の例では、溶媒も、例えば、凍結乾燥により除去してもよい。
【0029】
AEXクロマトグラフィーは、典型的には、精製される混合物を、塩を含む緩衝液/低いイオン強度を伴う、即ち、かなり低い塩濃度の緩衝液中のAEX材料上に添加することにより特徴付けられる。これらの条件によって、高い極性の分子及び/又は荷電分子がAEX材料上の荷電基に結合することが可能になり、より低い極性/親水性を有する成分は、そのような条件下では結合しない。目的の分子は次に、典型的には、塩/緩衝液の濃度を連続的に増加させることによりカラムから溶出させ、増加したイオン数は、AEX材料に依然として結合している分子の結合と競合する。所望の高い程度の純度を達成するために、溶出緩衝液のイオン強度を増加させる勾配が、典型的には、AEXクロマトグラフィーを介した精製のために使用される。多くの場合では、しかし、従来のAEXクロマトグラフィーによって、多過ぎる混入物(特に荷電した/高い極性の混入物)がまた、添加段階の間にAEX材料に結合するため、十分に高い純度が達成されず、次に、目的の分子と同時に溶出される。
【0030】
本発明者らは、驚くべきことに、比較的高い濃度の特定の塩を含む溶液中で、添加工程(即ち、混合物とAEX材料との最初の接触)を行うことが可能であることを見出した。一部の実施形態では、当該添加段階において使用される適切な塩は、コスモトロピック塩として特徴付けることができ、即ち、それらは、水分子を好適に相互作用させることにより、水-水相互作用(「秩序作り(order-making)」)の安定性及び構造に寄与し、それによって高分子、例えばタンパク質などにおける分子内相互作用の安定化に導く。イオン性コスモトロピックは、典型的には、溶液の全体的な粘着性の増加に導く、強い溶媒和エネルギーにより特徴付けられる(溶液の粘度及び密度の増加によりしばしば示される)。対照的に、カオトロピック薬剤/塩(無秩序メーカー(disorder-maker))は逆の効果を有し、水構造を破壊し、無極性溶媒粒子の溶解度を増加させ、及び溶質凝集体を不安定化させる。
【0031】
本発明者らは、十分に高い濃度でAEX材料と接触させられる溶液中にそのようなコスモトロピック塩を使用することによって、特定の生体分子(特に高い電荷密度を有する生体分子、例えばプラスミドDNAなど)の高度に選択的な結合に導かれ、他の成分が、当該AEX材料への結合から防止されることを見出している。このように、一部の例では、十分に高い濃度のコスモトロピック塩を含む溶液中での添加工程の「フロースルー」は、目的の生体分子を含む混合物からの、本質的に全てではないが、大半の混入物を既に含むであろう。
【0032】
コスモトロピック又はカオトロピックであるという特性は、通常、塩(対イオンを含む)ではなく、特定のイオンに起因することが理解されるであろう。このように、塩はコスモトロピックであることが公知である陰イオンを含みうることが十分にありうるが、対イオンはむしろカオトロピックであることが公知である。そのような塩は、標的分子をAEX材料に選択的に結合する際に機能することがある(又はしないことがある)。しかし、当業者は、所与の塩が、高濃度で、ルーチンの実験を単に行うことにより、AEX材料上の標的分子の選択的結合を確実にするか否かを見出すことができるであろう。
【0033】
大半の実施形態では、AEX材料からの標的分子の溶出は、次に、目的の生物学的分子を溶出するために十分に高い濃度のカオトロピック塩を含む溶離液(即ち、AEX材料に結合した成分を脱離させるために使用される溶液又は緩衝液)により達成することができる。溶出段階は、このように、多くの実施形態では、従来のAEXクロマトグラフィーと実質的に異ならないが、しかし、添加段階の間でのAEX材料への結合におけるより高い特異性に起因して、溶離液の純度はしばしば有意に増加する。
【0034】
一部の実施形態では、本発明の方法により精製される生物学的分子は、核酸(DNA及びRNAを含む)である。例えば、目的の生物学的分子がプラスミドDNAである場合、好ましい結果が、本発明の方法を用いて達成された。プラスミドDNAはしばしば異なる立体構造で存在する:「未変性」スーパーコイル(SC)立体構造とは別に、プラスミドDNAは開環状(OC)で、又はさらに線状で存在しうる。スーパーコイルプラスミドDNA(sc pDNA)は、典型的には、プラスミドDNAについて所望の(及び商業的に関連する)立体構造を表すため、本発明のこの態様の一部の実施形態における目的の生体分子は、sc pDNAである。
【0035】
精製/単離されるプラスミドDNAは、典型的には、哺乳動物DNA、細菌DNA、非コードDNA、又はウイルスDNAを含みうる。一部の例では、プラスミドDNAは、目的のポリペプチドを発現することが可能なDNAを含むであろう。精製方法は、一般的に、プラスミドDNAのサイズに依存せず、即ち、わずか350bpを伴うミニベクターならびに最大20の遺伝子(35kbp)を含む大きなプラスミドベクター、及びその間の何でも、本明細書中に記載されている方法により効果的に精製されうる。
【0036】
本発明の方法は、他の混入物からのプラスミドDNAの効果的な精製を可能にする。したがって、特定の実施形態では、結果として生じるプラスミドDNAの純度は、少なくとも90%、又は少なくとも93%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも98%又は少なくとも99%である。
【0037】
一部の実施形態では、この方法によって、他のプラスミドDNA形態、例えば線状プラスミドDNA、開環状プラスミドDNA、及び、場合により、他の核酸分子などのからのスーパーコイルプラスミドDNAの画分さえ達成される。
【0038】
目的の生体分子は、典型的には、生物学的プロセス(例えば細胞培養/発酵プロセスなど)により得られるため、標的分子を含む混合物は、多くの実施形態では、プラスミドDNA(スーパーコイルpDNA、開環状pDNA、及び線状pDNAを含む)、ゲノムDNA、RNA、リポ多糖、エンドトキシン、タンパク質、又は先の成分の任意の組み合わせを含むであろう。
【0039】
添加工程の間にAEX材料への目的の生物学的分子の選択的結合を可能にする塩の濃度は、典型的には、標的分子及び選ばれたAEX材料の性質に依存することが理解されるであろう。一部の実施形態では、標的分子の高度に選択的な結合は、約0.5Mを上回る、又は0.6Mを上回る、又は0.8Mを上回る塩濃度で達成されている。特定の実施形態では、標的分子の選択的結合を可能にする溶液の塩濃度は、約0.5Mと約4.0Mの間、又は約0.8Mと約2.0Mの間、又は約1.0Mと約2.0Mの間、例えば1.5Mなどである。
【0040】
用語「約」は、本明細書中では、およそ、範囲中で、大まかに、又は前後を意味するために使用する。用語「約」が数値範囲との併用において使用される場合、それによって、示された数値を上回って及び下回って境界を拡張することによりその範囲が改変される。一般的に、用語「約」は、本明細書中では、10%の分散により、述べた値を上回って及び下回って数値を変更するために使用する。
【0041】
以前に記述したように、上の濃度のコスモトロピック塩は、本発明の精製方法の添加工程のために好ましい。任意の事象で、添加工程のための塩の理想的な濃度は、標的分子及びAEX材料の実際の特性に依存的であるが、しかし、ルーチン実験を通じて当業者により簡単に決定されることができる。一度、適した濃度が決定されたら、それは、精製される標的分子を含む添加溶液と同じ濃度のコスモトロピック塩を含む緩衝液でAEX材料を平衡化するための一貫した再現可能な結合のために有用でありうる。
【0042】
任意の事象で、適したコスモトロピック塩の例は、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、又はそれらの混合物を含むが、これらに限定しない。例えば、硫酸アンモニウムは、精製される標的分子がプラスミドDNAである場合、添加段階のための特に有用なコスモトロピック塩であることが見出された。
【0043】
実施例1から分かるように、高濃度(>0.5M)の硫酸アンモニウムを含む溶液中の、場合により事前に平衡化されたAEX膜上に混合物を添加することによって、AEX材料へのpDNAの高度に選択的な結合が確実になり、RNA及び他の混入物はAEX膜に結合しなかった(図2A及び図2Bを参照のこと)。したがって、添加溶液中の硫酸アンモニウムの有用な濃度は、特定の実施形態では、約0.5Mから約2.0Mである。
【0044】
当業者は、他の要因が混合物中の成分の結合挙動に影響を与えうることを理解するであろう。これらの要因の1つは、溶液のpHである。生体分子については、精製のための利用可能なpH範囲は自然とかなり限定される。標的分子の安定性に負の影響を与えうるpH条件を回避するために(例、生体分子の加水分解を促進することによる)、目的の生体分子の添加及び溶出の間のpH値は、典型的には、pH2からpH11の範囲であるが、中性に近いpH値が、一般的には、特に酸性又はアルカリ性条件での分解に感受性である生体分子については好ましいであろう。例えば、一部の実施形態では、AEX材料と接触したコスモトロピック塩を含む溶液(即ち、「添加緩衝液」)のpHは、pH4からpH9の間、又はpH5とpH8の間、又はpH6とpH10の間、又はpH6.0から8.0の間、例えば、pH7.0前後である。当業者は、最適なpH条件が、ルーチン実験により、当業者により決定されうることを理解するであろう。
【0045】
例えば、溶出工程の間でのpH変化によって、AEX材料に結合した生体分子の結合挙動/強度が変化しうるが、従って、一部の実施形態では、AEX材料からの標的分子の制御された選択的放出のために使用されうることがさらに理解されよう。しかし、他の例では、AEX材料への標的分子の結合は、本質的にpHに非依存的である。例えば、プラスミドDNAの結合は、広いpH範囲(pH2と低い)内では変化しなかった。
【0046】
標的分子の溶出のために選択された条件に関して、目的の精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する塩、好ましくはカオトロピック塩の濃度は、典型的には、約0.25Mから約4.0M、又は約0.4Mから約3.0M、又は約0.5Mから2.0Mである。当技術分野において公知であるように、溶出工程は、溶出剤中の(好ましくはカオトロピック)塩の濃度を変動させることによる勾配溶出を含みうるが、それは、典型的には、溶出剤中の塩の濃度を(継続的又は段階的に)増加させることを含む。
【0047】
一部の実施形態では、溶出工程のためのカオトロピック塩は、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩酸グアニジニウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される。特にプラスミドDNAの精製のための、特に有用な塩は硫酸マグネシウムである。これらの実施形態では、カオトロピック塩、例えば、硫酸マグネシウム又は塩化ナトリウムの濃度は、典型的には、少なくとも約0.5Mであり、一部の例では、0.5Mから約2.0M又は約0.5Mから約1.0Mの範囲でありうる。
【0048】
再び、添加緩衝液中に含まれるコスモトロピック塩の場合と同様に、標的分子の溶出のためのカオトロピック塩及びその最適な濃度は、目的の生物学的分子の性質及び精製のために選ばれた特定のAEX材料に依存し、ルーチン実験を通じて、当業者により簡単に決定されることができる(実施例を参照のこと)。AEX材料は、典型的には、別の精製の実行用に再利用することができるため、最後に高塩濃度の溶出物を加えて(例、約2.0から4.0M NaClで)、それによってAEX材料から任意の結合材料を本質的にストリッピングすることが有用でありうる。
【0049】
原則として、任意の利用可能なAEX材料を、本発明の方法の状況において使用してもよい。例えば、この方法は、異なるビーズ化学及び/又はリンカーを用いて、高及び低リガンド密度で、弱い及び強いAEX設定で適用することができる。適したAEX材料は、例えば、陰イオン交換膜、陰イオン交換樹脂、三次元微孔性ヒドロゲル構造、超多孔性ビーズの充填床、マクロ多孔性ビーズ、モノリス、アガロースビーズ、架橋アガロース、シリカビーズ、大孔径ゲル、メタクリレートベースのビーズ、ポリスチレンベースのビーズ、セルロースベースのビーズ、デキストランベースのビーズ、ビスアクリルアミドベースのビーズ、ポリビニルエーテルベースのビーズ、セラミックベースのビーズ、又はポリマーベースのビーズとして利用可能である。商業的に利用可能なAEX材料の例は、とりわけ、Sartobind Q(登録商標)、Mustang Q(登録商標)、Mustang E(登録商標)、Poros XQ(登録商標)、Poros HQ(登録商標)、Nuvia Q(登録商標)、Capto Q(登録商標)、Bakerbond PolyQuat(登録商標)、DEAE Sepharose(登録商標)、NH2-750F(登録商標)、Q Sepharose(登録商標)、Giga Cap(登録商標)Q-650M、Fractogel(登録商標)EMD COO、NatriFlo(登録商標)HD-Q、及び3M(商標)Emphaze(商標)AEX Hybrid Purifier(全て登録商標名)を含む。
【0050】
特により大きな、工業規模の精製のために、この方法は、AEX膜クロマトグラフィー又は樹脂床クロマトグラフィーを使用して行ってもよい。一部の実施形態では、陰イオン交換膜は、約3.0μmから約5.0μmの平均孔径を有し、好ましくは、平均孔径は約3.0μmである。
【0051】
あるいは、この方法は、AEXカラムクロマトグラフィーを使用して行ってもよい。これらの実施形態では、陰イオン交換樹脂は、好ましくは、約30μmから約300μmの平均粒子径を有する。
【0052】
任意の事象では、本明細書中に記載する方法は、AEX材料が特定の形態であることを要求せず、即ち、形態を問わない、他のAEX材料、例えば上記の他の代替物なども、本明細書中に記載する精製方法における精製薬剤として用いてもよいことが当業者により理解されるであろう。
【0053】
この方法は優れた精製能力を提供するため、それは、典型的には、任意の有機溶媒、界面活性剤、グリコール、ヘキサミンコバルト、スペルミジン、及び/又はポリビニルピロリドンの非存在において行ってもよく、それにより、最終的な標的分子を単離形態で提供する前でのそのような薬剤の除去をもはや必要としない。
【0054】
AEX精製工程は本発明の主な態様を表すが、目的の生体分子のための精製方法は、典型的には、AEXクロマトグラフィー工程の前に行われる工程を含む、さらなる方法の工程、しかしまた、場合により、AEXクロマトグラフィー工程に続いて行われる追加の工程を含む。
【0055】
以前に記述したように、目的の生物学的分子は、しばしば、いわゆる細胞培養物中で成長させた細胞から得られる。目的の生物学的分子は、特定の場合では、分子が細胞により周囲の細胞培養培地中に分泌される場合、かなり容易な方法で細胞培養物から得られうる。しかし、大半の場合では、標的分子は、当技術分野において周知のように、物理的及び/又は化学的手段により達成されうる細胞溶解を介して細胞を破壊することにより細胞から放出される必要がある。細胞溶解によって、典型的には、多数の宿主細胞由来の水溶性及び不溶性の混入物、例えば細胞膜、細胞小器官、ゲノムDNA、RNA、及び宿主細胞タンパク質などと一緒に標的分子がもたらされる。このように、標的分子の精製では、典型的には、これらの混入物の除去が要求され、特に、固体(即ち、不溶性)混入物は、典型的には機械的手段により、AEXクロマトグラフィー工程の前に除去される。
【0056】
したがって、本発明の一部の実施形態では、この方法は、混合物をAEX材料と接触させる前に、目的の生物学的分子を含む混合物から固体成分を分離することをさらに含む。
【0057】
精製される混合物からの固体成分の除去は、例えば、ろ過又は相分離により達成されうる。一部の例では、この方法の工程によって、二相分離、例えば固液相分離などを介して固体成分の除去が達成される。
【0058】
より良好な分離を達成するために、固体成分を含む混合物は、一部の実施形態では、例えば、混合物の密度を、例えば、約1.1kg/Lよりも大きな密度まで増加させることにより改変してもよい。混合物の密度におけるこの増加によって、混合物の上部に浮遊する固体成分(例えば細胞破片又は他の沈殿物など)がもたらされる。目的の生物学的分子、例えばプラスミドDNAなどを含む溶液を次に、混合物を含む容器/タンクの底部から便利に排出することができる。密度の調整、例えば少なくとも約1.1kg/Lなどによって、従って、その後にAEXクロマトグラフィーに供することができる清澄化された混合物を得るためにろ過が要求されない混合物がもたらされる。溶液の密度は、一般的に、種々の操作により増加させることができる。例えば、水溶性塩、糖(例、グルコース、スクロース、グリセロールなど)、尿素、又は水溶液の密度を増加させる他の成分。特に、本発明の精製方法の状況において、それは、しかし、AEXクロマトグラフィー工程の添加工程のために適したコスモトロピック塩、例えば本明細書中に記載する例示的なコスモトロピック塩のいずれかなどを用いることが有利でありうる。
【0059】
あるいは、不溶性混入物を除去するための相分離技術はまた、他の方法において混合物の密度を変更することにより達成されうる。例えば、混合物にアルコール(例、エタノール、メタノール、イソプロパノールなど)を加えることにより、密度が減少し、固体成分が容器又はタンクの底に沈降しうる(場合により、沈降は遠心分離により支援されうる)。別の選択肢は、液体/液体二相系、例えば、不溶性粒子がPEG相中にあり及び標的分子(例えばプラスミドDNAなど)が塩相中にあるPEG/塩二相系を確立するように、混合物に液体非水性化合物を加えることでありうる。
【0060】
さらに、軽いろ過、例えば、深層ろ過が、一部の場合では、混合物の液体の排出部分及び/又は混合物の最終的な残りの容積のいずれかについて(収量を最大化するために)依然として適用されうることが理解されよう。任意の追加のろ過工程によって、混合物の液体部分中の残っている固体粒子の除去が確実になる。任意の事象では、そのようなろ過はずっと急速であり、混合物中のずっと低い固形分に起因して、フィルターが詰まらないことが理解されるであろう。深層ろ過装置は、例えば、Merck-MilliporeからのClarisolve(登録商標)深層フィルターの名称の下で商業的に利用可能である。
【0061】
この方法の工程はまた、他の精製方法の準備段階において使用することができるため、本開示の別の態様は、上の二相分離自体に関係し、即ち、その後に本発明のAEXクロマトグラフィー工程が続かない、又は必ずしも続かない。
【0062】
本発明者らはまた、特に密度が、固体成分が固体/液体二相混合物の上部に浮遊することを確実にする、少なくとも約1.1kg/Lに調整された場合、即ち、容器/タンクの直径が、液相が排出される容器の底部の直径よりも大きい場合(例えば、図8中のチューリップ型容器を参照のこと)、チューリップ型容器又はタンクが混合物中の固体成分の除去のために特に有用であることを見出している。したがって、上に記載する二相分離のためのチューリップ型のタンク又は容器の使用は、本開示の別の態様を表す。
【0063】
上に記載する二相分離は、任意のその後の精製工程、例えば本発明のAEXクロマトグラフィー工程などのために目的の生物学的分子を含む溶液を調製するための非常に効果的で、高速で、再現性のある、経済的な方法を表す。特に、密度調整が、その後のAEXクロマトグラフィー工程において使用される比較的高濃度のコスモトロピック塩(例、硫酸アンモニウム)を用いて既に達成されている場合、二相分離は、細胞上清を回収した後に要求される(恐らくは、混合物をAEX材料と接触させる前に深層ろ過と組み合わされる)唯一の工程でありうる。コスモトロピック塩の一部は緩衝剤として作用するため、当該コスモトロピック塩との混合物の密度を調整する別の利点は、より少ない中和緩衝液(標的分子の起こりうる分解を防止するため)が細胞溶解の直後に要求されることである。
【0064】
さらに、標的分子を含むより高密度の溶液の単純な排出による固体成分の便利な除去は、その後の(任意であるが)深層ろ過のために非常に有利であり、なぜなら、とりわけ、不溶性粒子の小さな画分だけがフィルター上で処理されるため、要求されるろ過面積が大きく低下するためである。
【0065】
本発明のAEXクロマトグラフィー方法は、一部の実施形態では、目的の精製された生物学的分子の溶出後のさらなる工程を含みうる。例えば、一部の場合では、この方法は、溶離液から目的の生物学的分子を沈殿させる工程をさらに含む。沈殿は、当技術分野で一般的に公知である種々の方法、例えば標的分子を含む溶離液画分のpHを変化させる、又は溶離液に貧溶媒又は他の添加剤を加えて、それにより、標的分子を溶離液から沈殿させる、などにより達成されうる。
【0066】
沈殿後、この方法は、一部の例では、接線流ろ過により溶離液をろ過し、沈殿した生物学的分子を単離することをさらに含みうる。例えば、一部の場合では、接線流ろ過工程において使用されるろ過膜の平均孔径は、≦0.45μm又は≦0.2μmである。
【0067】
一部の例では、この方法は、場合により、保存の間に凍結乾燥形態でプラスミドDNAを安定化しうる糖の存在における、目的の精製された生物学的分子の凍結乾燥をさらに含みうる。多くの単糖又は二糖を、当技術分野において一般的に公知であるように、当該目的のために使用することができる。
【0068】
他の実施形態では、この方法は、精製された標的分子を含む画分の希釈、濃縮、又は緩衝液交換をさらに含む。特定の場合では、標的分子は、化学的に修飾されうる(例、ビオチン化、メチル化、アセチル化)、又はより小さな小片に切断されうる(例、核酸の場合での制限酵素による消化)。
【0069】
特定の精製問題、及び標的分子のための供給源に依存し、一部の場合では、添加工程(即ち、陰イオン交換材料への生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において混合物をAEX材料と接触させる工程)からフロースルーをさらに収集することが有用でありうる。
【0070】
本明細書中で考察するように、AEXクロマトグラフィー工程は、目的の生体分子をAEX材料に選択的に結合させることが可能である、即ち、混合物中の不要な成分の大半は、これらの添加条件下でAEX材料に結合しない。例えば、細胞培養物からのプラスミドDNAの精製のために、フロースルーは、RNA、ゲノムDNA、タンパク質、細胞画分、又はそれらの組み合わせを含みうる。一部の実施形態では、フロースルーは、AEX材料と接触させた混合物中に存在した実質的に全て(即ち、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%)のRNAを含む。
【0071】
精製は、一部の例では、洗浄工程をさらに含めることにより改善させてもよい。このように、一部の実施形態では、この方法は、目的の生物学的分子の溶出の前に、洗浄緩衝液でAEX材料を洗浄することをさらに含む。一部の例では、洗浄を、追加の清浄な「添加」緩衝液(即ち、典型的には、比較的高濃度のコスモトロピック塩を含む)で継続してもよい。他の例では、洗浄緩衝液は、目的の生物学的分子の溶出のために要求される濃度よりも低い濃度のカオトロピック塩を含みうる。
【0072】
これらの場合では、洗浄緩衝液はコスモトロピック塩(恐らくは、添加緩衝液中よりも低濃度)を含みうる、又はそれはカオトロピック塩だけを含みうる。洗浄緩衝液用のカオトロピック塩は、好ましくは、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、及びそれらの混合物からなる群より選択する。特に、カオトロピック塩が緩衝能力を有さない場合、洗浄緩衝液は、pHを所望のレベルに維持するための適した緩衝物質をさらに含みうる。単純化のために、洗浄緩衝液は、多くの場合で、溶出剤と同じカオトロピック塩を含むが、これは精製効率の点からは要求されないであろう。
【0073】
特に、標的分子の精製によって、非常に高レベルの純度で産物を産生しなければならない場合、本発明の方法は、典型的にはAEXクロマトグラフィー工程から生物学的分子を溶出する及び、場合により、単離する工程に続く、追加の精製工程をさらに含みうることがさらに理解されるであろう。精製される標的分子がスーパーコイルプラスミドDNAである一部の実施形態では、第2の精製工程は、従って、例えば、GE Healthcare Life Sciencesから商品名PlasmidSelect Xtra(登録商標)、又は短く「PSX」の下で入手可能なチオフィリック芳香族吸着クロマトグラフィー媒体の使用を含みうる。この特定の樹脂は、開環状及び/又は線状プラスミドDNAからスーパーコイルプラスミドDNAを分離する優れた選択性を有することが公知であり、従って、医薬品グレードのDNAのスーパーコイル立体構造の最終的な濃縮のために使用してもよい。
【0074】
一部の実施形態では、この方法は、核酸、例えばプラスミドDNAなどの精製及び単離後に、当該核酸によりコードされる目的のポリペプチドの発現のために当該核酸を使用するさらなる工程をさらに含むであろう。核酸は、これらの例では、好ましくはプラスミドDNAである。核酸を介して産生されたポリペプチド、好ましくはプラスミドDNAが、典型的には回収され、場合により精製されるであろう。最後に、この方法は、一部の場合では、場合により1つ又は複数の医薬的に許容可能な賦形剤を含みうる医薬組成物中へのポリペプチド(精製された核酸の発現を介して得られる)の製剤化さえ含みうる。
【0075】
あるいは、核酸、例えばプラスミドDNAなどが、医薬的使用を直接的に意図される場合、この方法は、医薬組成物中への核酸の製剤化を含みうるが、それは再び、場合により、1つ又は複数の医薬的に許容可能な賦形剤を含みうる。本発明の方法により精製されたプラスミドDNAは、DNAベースのワクチンとして使用されうる、又はプラスミドが次に細胞の転写及び翻訳装置を含み、治療実体をインサイチュで生合成する「プロドラッグ」として使用されうる。
【0076】
さらに他の実施形態では、この方法は、より短いオリゴヌクレオチド、例えばsiRNA又はアプタマー(短い一本鎖核酸セグメント(典型的には20~60ヌクレオチド))などの産生のための、又はDNAzyme(RNA骨格が、改善された生物学的安定性を付与するDNAモチーフにより置換されたリボザイム類似体)の産生のための、RNAベースの薬物を含む、RNAの産生のための、精製された血漿DNAの使用をさらに含むであろう。
【0077】
AEXクロマトグラフィーを含む精製方法の好ましい変形は、AEXクロマトグラフィー工程の前に、目的の生物学的分子を含む溶液をAEX材料と接触させる前の細胞回収及び洗浄、細胞溶解、中和、及び凝集物除去の工程を含む。
【0078】
上に記述するように、AEX添加工程により特定された条件によって、AEX材料へのプラスミドDNAの選択的結合が可能になる。このように、RNAは、典型的には標準的な低塩条件下でもAEX材料に結合するが、本明細書中に記載する添加条件下ではAEX材料に結合せず、又は実質的に結合せず、このように、単一工程において標的分子から定量的に除去することができる。
【0079】
本明細書中に記載する方法は、このように、RNAを塩化カルシウム(CaCl)沈殿工程により除去する必要がないという大きな利点を有する。追加の精製工程を回避することは、無論、精製方法全体の収量、費用、及び期間の点で有益である。したがって、この方法は、特定の実施形態では、塩化カルシウム(CaCl)沈殿工程を含まないという点でさらに特徴付けられる。
【0080】
同じことが、本明細書中で特定した条件下でもAEX材料に結合しないタンパク質について言えます。開環状pDNA、線状pDNA、及びゲノムDNAは全て、スーパーコイルプラスミドDNAと比較してAEXリガンドとの異なる相互作用の強度を有するため、それらのレベルをAEXクロマトグラフィー工程の間に大きく低下させることができる。したがって、本明細書中で記載する及び特許請求する方法によって、目的の生体分子、例えばAEXリガンドを有する材料を含む本質的に単一のクロマトグラフィー工程だけを含むプラスミドDNAなどの単純で、迅速で、高度に効果的で経済的な精製が可能になる。
【0081】
先行技術において記載されているプラスミドDNA精製手順で一般に必要とされる多くの追加工程、例えば緩衝液交換、(複数の)深層ろ過、CaCl沈殿、又は追加のクロマトグラフィー工程、例えばPSXクロマトグラフィーなどを(要求されるsc pDNAの含量に依存して)回避することができる。最後に、本明細書中で記載する方法によって、大規模な生産プラント用に拡大することができる。
【0082】
本発明の種々の態様を一般的な用語で記載してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの改変及びわずかなバリエーションが可能であることは当業者には明らかであろう。本発明を、以下の非限定的な、番号付けした実施形態及び実施例への参照によりさらに記載する:
1.混合物から目的の生物学的分子を単離又は精製するための方法であって、以下を含む方法:
陰イオン交換材料への目的の生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において、混合物を陰イオン交換材料と接触させること;及び
精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する濃度の塩を含む溶出剤で目的の生物学的分子を溶出すること;
場合により、溶離液中に当該生物学的分子を含む画分を収集し、さらに場合により、目的の当該生物学的分子が、収集された画分のいずれか1つ又は全てから単離される。
2.陰イオン交換材料への生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩が、コスモトロピック塩である、実施形態1の方法。
3.精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する濃度の塩が、カオトロピック塩である、実施形態1又は実施形態2の方法。
4.精製される生物学的分子が核酸である、実施形態1から3の方法。
5.核酸がプラスミドDNA(pDNA)であり、場合によりプラスミドDNAがスーパーコイルプラスミドDNA(sc pDNA)である、実施形態4の方法。
6.プラスミドDNAが、哺乳動物DNA、細菌DNA、非コードDNA、又はウイルスDNAを含む;場合により、プラスミドDNAは、目的のポリペプチドを発現することが可能なDNAを含む、実施形態5の方法。
7.精製及び/又は単離プラスミドDNAの純度が少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%である、実施形態5又は実施形態6の方法。
8.混合物が、スーパーコイルプラスミドDNA、開環状プラスミドDNA、線状プラスミドDNA、ゲノムDNA、RNA、リポ多糖、エンドトキシン、タンパク質、又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態1から7のいずれか1つの方法。
9.陰イオン交換材料への目的の生物学的分子の選択的結合を可能にする塩の濃度が、約0.5Mより大きく、場合により、陰イオン交換材料への生物学的分子の選択的結合を可能にする塩の濃度が、約0.8Mから約4.0Mである、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
10.精製された生物学的分子を含む溶離液を提供する塩の濃度が、約0.25Mから約4.0Mである、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
11.溶出工程が、溶出剤中のカオトロピック塩の濃度を変動させることによる勾配溶出を含み、場合により、溶出剤中のカオトロピック塩の濃度を増加させる、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
12.生物学的分子がプラスミドDNAであり、溶出工程が、他のプラスミドDNA形態、例えば線状プラスミドDNA及び開環状プラスミドDNAなど、ならびに場合により、他の核酸分子からのスーパーコイルプラスミドDNAの画分を含む、実施形態11の方法。
13.コスモトロピック塩が、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、実施形態2から12のいずれか1つの方法。
14.コスモトロピック塩が硫酸アンモニウムである、実施形態13の方法。
15.硫酸アンモニウムの濃度が約0.5Mから約2.0Mである、実施形態14の方法。
16.コスモトロピック塩を含む溶液が、約5.0から約10.0の、又は約5.0から約8.0の、又は約6.0から約8.0の範囲のpH、あるいはpH7を有する、実施形態2から15のいずれか1つの方法。
17.カオトロピック塩が、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩酸グアニジニウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、実施形態3から16のいずれか1つの方法。
18.カオトロピック塩が硫酸マグネシウムである、実施形態17の方法。
19.硫酸マグネシウムの濃度が約0.5Mから約1.0Mである、実施形態18の方法。
20.陰イオン交換材料が、陰イオン交換膜、イオン交換樹脂、三次元微孔性ヒドロゲル構造、超多孔性ビーズの充填床、大孔性ビーズ、モノリス、アガロースビーズ、架橋アガロース、シリカビーズ、大孔径ゲル、メタクリレートベースのビーズ、ポリスチレンベースのビーズ、セルロースベースのビーズ、デキストランベースのビーズ、ビスアクリルアミドベースのビーズ、ポリビニルエーテルベースのビーズ、セラミックベースのビーズ、又はポリマーベースのビーズより選択される、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
21.陰イオン交換材料が陰イオン交換膜である、実施形態20の方法。
22.陰イオン交換膜が、約3.0μmから約5.0μmの平均孔径を有し、好ましくは、平均孔径が約3.0μmである、実施形態21の方法。
23.イオン交換樹脂が約30μmから約300μmの平均粒子径を有する、実施形態20の方法。
24.方法が、有機溶媒、界面活性剤、グリコール、ヘキサミンコバルト、スペルミジン、ポリビニルピロリドンの非存在において実施される、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
25.方法が、膜クロマトグラフィーを使用して行われる、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
26.方法が、カラムクロマトグラフィーを使用して行われる、実施形態1から24のいずれか1つの方法。
27.方法が、陰イオン交換材料への生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において混合物を陰イオン交換材料と接触させる前に、目的の生物学的分子を含む混合物から固体成分を分離することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法であって
場合により、固体成分の当該除去が、ろ過又は相分離により達成される。
28.固体成分の除去が二相分離を介して達成され、緩衝液を加えて、混合物の密度を約1.1kg/Lより大きく増加させる、実施形態27の方法。
29.緩衝液がコスモトロピック塩を含み、好ましくはコスモトロピック塩が硫酸アンモニウムである、実施形態27又は実施形態28の方法。
30.上相よりも高い密度を有する二相混合物の下相が、深層ろ過に供される、実施形態27から29のいずれか1つの方法。
31.実施形態26から30のいずれか1つの方法のためのチューリップ型容器の使用。
32.方法が、溶離液から生物学的分子を沈殿させる工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
33.方法が、生物学的分子を単離するための接線流ろ過により溶離液をろ過する工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
34.接線流ろ過工程において使用されるろ過膜の平均孔径が、0.2μm以下である、実施形態33の方法。
35.方法が、目的の精製された生物学的分子の凍結乾燥の工程をさらに含み、場合により、凍結乾燥が糖の存在において行われる、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
36.方法が、陰イオン交換材料への生物学的分子の選択的結合を可能にする濃度の塩を含む溶液の存在において混合物を陰イオン交換材料と接触させる工程に続くフロースルーを収集する工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
37.フロースルーがRNA、ゲノムDNA、タンパク質、細胞画分、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくはフロースルーがRNAを含む、実施形態36の方法。
38.目的の生物学的分子の溶出前に、陰イオン交換材料を洗浄緩衝液で洗浄することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
39.洗浄緩衝液が、目的の生物学的分子の溶出のために要求される濃度よりも低い濃度のカオトロピック塩を含み、カオトロピック塩が、好ましくは、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、実施形態38の方法。
40.方法が、生物学的分子を溶出し、場合により、単離する工程に続くさらなる精製工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法であって;
場合により、第2の精製工程が、スーパーコイルプラスミドDNAを開環状及び/又は線状DNAから分離することを可能にする選択性を有するチオフィリック芳香族吸着クロマトグラフィー媒体の使用を含む。
41.方法が、核酸を使用して目的のポリペプチドを発現させる工程をさらに含み、好ましくは、核酸がプラスミドDNAである、実施形態4から40のいずれか1つの方法。
42.方法が、核酸を使用して目的のポリペプチドを産生及び回収する工程をさらに含み、好ましくは、核酸がプラスミドDNAである、実施形態4から41のいずれか1つの方法。
43.方法が、目的のポリペプチドを医薬組成物中に製剤化する工程をさらに含む、実施形態42の方法。
44.方法が、目的の生物学的分子を含む、結果として得られた混合物を陰イオン交換材料と接触させる前に、細胞の回収及び洗浄、細胞溶解、中和、及び凝集物の除去の工程を含む、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
45.方法が、RNAを除去するためのCaCl沈殿工程を含まない、先行する実施形態のいずれか1つの方法。
【実施例
【0083】
実施例1:サンプルプラスミドDNA(pUC19)用の陰イオン交換材料Sartobind Qを用いた結合及び溶出のための条件のスクリーニング。
プロセスを通じて使用する全ての緩衝液を、使用前に0.2μmフィルターを通してろ過した。プラスミドpUC19(このプラスミドDNAの概略図は、図1において見出される)を保持する大腸菌細胞を、以下でより詳細に記載するように、ろ過方法を通じて成長、溶解、及び清澄化させた。
【0084】
細胞を、600nm(OD600)で測定された65~90の光学密度まで、流加条件で、小規模バイオリアクター中で成長させた。細胞を遠心分離(4’400-4’800、45分)により回収した。細胞成長の終了時に回収した細胞をP1緩衝液(50mM Tris、10mM EDTA;pH7.4)中に再懸濁させた。次に、細胞のアルカリ溶解を実施するために、P2緩衝液(0.2M NaOH、1%(w/v)SDS)を1:1の比率(v/v)で加えた。混合物を穏やかに均質化し、室温で5分間にわたり静置した。細胞溶解を停止し、混合物を中和するために、適切な量の冷P3緩衝液(5M酢酸カリウム、酢酸、4℃)を、他の緩衝液の約25%の容量で加えた。穏やかな均質化後、溶液の密度を変化させるために、3M硫酸アンモニウムを含む調整緩衝液を1:1の比率(v/v)で加えて、それにより細胞破片を溶液の上部に浮遊させた。溶液を次に、最終的な深層ろ過(Clarisolve深層ろ過フィルター、Merck-Millipore、孔径40~0.5μm)に供して、全ての残存する細胞破片、ならびに一部の沈殿したゲノムDNA及びタンパク質を除去した。ろ過後、ろ過された溶液のpHを、適切な容量の1M NaOHをろ液に加えることによりpH7.0に調整した。
【0085】
結合及び溶出条件のスクリーニングを、液体処理ロボット(Freedom Evo 150;Tecan)で実施し、96のクロマトグラフィー工程を並行して実行することを可能にした。Sartobind Q 96ウェルプレート(カタログ番号:99IEXQ42GC-----V,Sartorius)をスクリーニングのために使用した。添加調整を、Zeba Spin脱塩プレート(カタログ番号89808、ThermoScientific)及びそれぞれの結合緩衝液を用いて緩衝液を交換することにより実施した。Sartobind Qユニットを、2.0mLの添加溶液を適用する前に、結合緩衝液で平衡化した。メンブレンを1mLのそれぞれの結合緩衝液及び1mLの洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、pH7.5)で洗浄した。材料を、1mLの溶出緩衝液を適用し、それに続く1mLの4M NaClでのストリッピング工程により溶出させた。サンプル分析を、アガロースゲル電気泳動(AGE)により実施し、そこでは量及び質を推定することができる。
【0086】
a)結合緩衝液スクリーニング。
初回では、異なる濃度のいくつかの結合緩衝液をスクリーニングし、溶出を、pH7.5の20mMリン酸ナトリウム中に2M NaClを含む溶出緩衝液で実施した。アガロースゲルに、以下の表1に従って、溶出液を添加した。表中に列挙する結合緩衝塩は、他に示さない限り、pH7.0の20mMリン酸ナトリウムとの併用において使用した。
【表1-1】
【表1-2】
【0087】
結合緩衝液スクリーニングの結果を図2Aから図2Dにおいて示すが、ここで、上部及び下部パネルは、異なる露光時間後の同じゲルを示す(上部パネル=短い露光時間、下部パネル=長い露光時間)。ゲルの右側の標識は、アガロースゲル内の開環状(oc)及びスーパーコイル(sc)pUC19プラスミドDNA及びRNA不純物のバンドを描写する。
【0088】
結果は、高塩濃度での結合が、特にコスモトロピック塩(例、クエン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなど)を使用する場合に実現可能であり、結合緩衝液のpHに本質的に非依存的であることを示唆する。結果はまた、特により高い塩濃度では、RNAの結合が、添加物と比較して著しく低下する(レーン50及び101を参照のこと)、又はまったく結合しない(例、レーン10~15)ことを示す。
【0089】
b)溶出緩衝液スクリーニング
2回目では、いくつかの溶出緩衝液を異なる濃度でスクリーニングし、サンプル混合物の結合を、pH7.0の20mMリン酸ナトリウム及び1.5M硫酸アンモニウムを含む結合緩衝液で達成した。アガロースゲルに、以下の表2に従って、溶出液を添加した。表中に列挙する溶出緩衝塩は、他に示さない限り、pH7.0の20mMリン酸ナトリウムと一緒に使用した。
【表2-1】
【表2-2】
【0090】
溶出緩衝液のスクリーニングの試みの結果を図3Aから図3Dに示すが、ここで、上部パネルと下部パネルは、異なる露光時間後の同じゲルを示す(上部パネル=短い露光時間、下部パネル=長い露光時間)。ゲルの右側の標識は、アガロースゲル内の開環状(oc)及びスーパーコイル(sc)pUC19プラスミドDNA及びRNA不純物のバンドを描写する。
【0091】
結果は、カオトロピック塩(例、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウムなど)を使用する場合、溶出緩衝液の導電性が結合緩衝液の導電率よりも有意に低い場合でさえ、プラスミドDNAをAEX樹脂から溶出できることを示す。さらに、テストした溶出緩衝液の大半が、sc pDNAをoc pDNAよりも良好に溶出し、RNAを溶出しない。しかし、特定のカオトロピック塩、例えば、硝酸マグネシウムは、sc pDNAよりも優先的にoc pDNAを溶出することが観察された(図3Cを参照のこと)。
【0092】
実施例2:リン酸緩衝系での溶出のためにSartobind Q及び硫酸マグネシウムを使用したpUC19精製。
a)精製手順
プロセスを通じて使用する全ての緩衝液を、0.2μmフィルターを通してろ過した。プラスミドpUC19を保持する大腸菌細胞を、実施例1において記載するように成長及び溶解させた。
【0093】
pUC19を含む150mLの溶液を、150mLの調整緩衝液(40mMリン酸ナトリウム、pH7.0、3M硫酸アンモニウム)で調整した。クロマトグラフィーユニットを、20カラム容量(CV)の20mMリン酸ナトリウム、1.5M硫酸アンモニウム、pH7.0で、4CV/分の流速で平衡化させた。調整された添加物を次に、陰イオン交換ユニットに適用した。ユニットを、20CVの平衡化緩衝液を適用することにより洗浄し、20CVの洗浄緩衝液2(20mMリン酸ナトリウム、0.5M硫酸マグネシウム、pH7.0)での2回洗浄が続き、それによってRNA不純物が除去されることが見出された。プラスミドDNAを次に、25CV中の洗浄緩衝液2から溶出緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、1.0M硫酸マグネシウム、pH7.0)までの勾配を適用することにより溶出した。最後に、クロマトグラフィーユニットを、30CVの4M NaClを適用することによりストリッピングした。
【0094】
陰イオン交換ユニット(Sartobind Q)の代表的なクロマトグラフィープロファイルを、溶出勾配の拡大を伴い、図4に示す。2つのプールを確立した:画分1C2から2B4を含むプール1(薄い灰色ボックス)及び画分1C4から2B2を含むプール2(濃い灰色ボックス)。
【0095】
b)残留不純物の評価。
Sartobind Qを用いたAEXクロマトグラフィー工程からの画分をアガロースゲル電気泳動により分析し(アガロースゲルの添加スキームについては、以下の表3を参照のこと)、結果を図5において示す。
【表3】
【0096】
多量をアガロースゲルに添加し、不純物を可視化した。図5は、RNAが、2番目の洗浄工程の間にほとんど除去されたことを示す(例、レーン4を参照のこと;洗浄緩衝液:50mM Trisベース/TAPS([トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸)、0.5M硫酸マグネシウム、pH7.0)。選んだ条件下での勾配溶出については、oc pDNAがSC pDNAよりも短い保持時間を有することが観察された(再び図5を参照のこと)。
【0097】
AEXクロマトグラフィー工程(Sartobind Q)からの画分もHPLCにより分析した。Sartobind Q溶出プール1(図4を参照のこと;破線)及びスタンダード(実線)からのAEX-HPLCトレースを図6において示し、結果を以下の表4において要約する。添加及び溶出プール1内の残留RNAを測定するために、pDNAを、接線流ろ過工程(Pellicon 3カセット、30kDa、Cスクリーン、Ultracelメンブレン、カタログ番号:P3C030C00、Merck Millipore)を実施することにより水に移した。プール2はプール1のサブセットであったため、残留RNAはプール2について測定しなかった。
【表4】
【0098】
上記の表4において要約した結果は、RNAが定量的に除去されたことを実証する。oc pDNA及び線状pDNAは、プール1及びプール2についてそれぞれ4%及び3%の低レベルまで低下した。まとめると、勾配溶出によって、スーパーコイルプラスミドDNA(sc pDNA)からのRNA、ならびに開環状プラスミドDNA(oc pDNA)の分離が可能になった。SDS-PAGE分析(図7)によって、タンパク質性不純物がAEXクロマトグラフィー工程により同様に定量的に除去されたことが確認された(SDS-PAGEゲルの添加スキームについては表5を参照のこと)。
【表5】
【0099】
実施例3:Tris緩衝系での溶出のためにSartobind Q及び硫酸マグネシウムを使用した、改善された一次回収プロセス及びpDNA pUC19精製。
プラスミドpUC19を保持する大腸菌細胞を、以下でより詳細に記載するように成長及び溶解させた。プロセスを通じて使用する全ての緩衝液を、0.2μmフィルターを通してろ過した。AEXクロマトグラフィー工程を含む一次回収プロセスの概略図を図8において描写する。
【0100】
一次回収のために、プラスミドpUC19を保持する大腸菌の76.4gのペレットを、764mLの懸濁緩衝液(50mM Tris、10mM EDTA)で1時間にわたり懸濁した。764mLの溶解緩衝液(1%SDS、0.2M NaOH)の添加によって、細胞の溶解を開始させた。溶解プロセスを、4分後に、198mLの中和緩衝液(3M酢酸カリウム、2M酢酸、5℃で冷却)を加えることにより停止させた。0.26容量が中和のために十分であることが見出された。
【0101】
1800mLの中和溶液を、1800mLの調整緩衝液(200mM Trisベース/TAPS、3M硫酸アンモニウムpH7.0)を加えて溶液の密度を増加させることにより、チューリップ型タンク中で調整した。チューリップ型タンクによって、不溶性粒子の除去が促進され、深層ろ過フィルター(Clarisolve;カタログ番号:CS40MS01L3;40μm、Merck Millipore)に適用した場合に、調整溶液のろ過挙動が改善される。ろ液のpH値を、194mLの1M NaOHを加えることにより7.0に調整した。
【0102】
クロマトグラフィーユニットを、20カラム容量(CV)の50mM Trisベース /TAPS、1.5M硫酸アンモニウム、pH7.0で、4CV/分の流速で平衡化した。深層ろ液を次に、AEXユニット(Sartobind Q;カタログ番号96IEXQ42EUC11-A;3mLベッドボリューム;Sartorius)に適用した。プラスミドDNAの結合を、1.5M硫酸アンモニウムの濃度で実施した。添加物のフロースルーは高い吸光度値を示し、タンパク質及び有意な量のRNA種がこれらの添加条件下でAEX材料に結合しなかったことを示している。ユニットを次に、20CVの平衡化緩衝液を適用することにより洗浄し、それに続き、20CVの洗浄緩衝液(50mM Trisベース/TAPS、0.5M硫酸マグネシウム、pH7.0)での2回目の洗浄によりRNA不純物を除去した。プラスミドDNAを、25CV中の洗浄緩衝液から溶出緩衝液(50mM Trisベース/TAPS、1.0M硫酸マグネシウム、pH7.0)までの勾配を適用することにより溶出した。勾配溶出によって、主に2つの種の分離が可能になり、最初のピークはoc pDNAを含み、2番目のピークはsc pDNAを含んだ。クロマトグラフィーユニットを最後に、30CVの4M NaClを適用することによりストリッピングした。陰イオン交換ユニット(Sartobind Q)の代表的なクロマトグラフィープロファイルを図9において示す。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9