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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20241007BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20241007BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B32B17/10
B60J1/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021554907
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040425
(87)【国際公開番号】W WO2021090744
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019201480
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020014047
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】平田 直也
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-539890(JP,A)
【文献】特開平11-60293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12,
B32B 17/06-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外側に面する第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する第1ガラス板と、
車両の室内側に面する第4面と、前記第4面の反対側の第3面と、を有する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に配置され、前記第2面と前記第3面とに面する中間膜と、
を備える車両用窓ガラスであって、
前記中間膜は、
少なくとも一つの端面が大気中に露出するように配置され、
少なくとも一層の剛性層を備える主要部と、前記主要部に隣接しかつ前記車両用窓ガラスの少なくとも一辺に沿って配置される、非剛性層からなる周辺部と、を備え、
前記剛性層は、近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下に抑制されており、
前記第1ガラス板および前記第2ガラス板の少なくとも一方は、2.0mm以下の厚さである、
車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記主要部を構成する中間膜のヤング率が2.5MPa~200MPaである、請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記周辺部を構成する中間膜のヤング率が0.1MPa~2.0MPaである、請求項1又は請求項2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記周辺部の幅が50mm~300mmである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記周辺部が、前記車両用窓ガラスの全ての辺に沿って配置される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記第1ガラス板の厚さが1.4mm~2.2mmである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記第2ガラス板の厚さが0.5mm~1.8mmである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
前記非剛性層は、近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記周辺部を構成する中間膜のヤング率が前記主要部を構成する中間膜のヤング率よりも低い、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合せガラスによる車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両の軽量化の要求に伴い、車両用窓ガラスに使用される合せガラスにもより軽量なものが求められている。そして、合せガラスに使用されるガラス板を薄板化して、合せガラスの軽量化が図られている。ガラス板の板厚と剛性には相関があり、ガラス板を薄くすればするほど、合せガラスとしての剛性も低下する。そのため、日常環境で起こりうる車両用窓ガラスへの応力負荷で、目視で視認できるほどの車両用窓ガラスの弾性変形が生じることがあり、車両用窓ガラスを所定の形状に保ちにくくなるリスクが高くなる。
ガラス板を薄くした場合の合せガラスの剛性の低下を補うために、特許文献1は、高剛性の中間膜を備える合せガラスを開示している。
特許文献2は、特に水分や湿気の多い環境下で長期にわたり使用した場合に、接着性能に優れ、耐貫通性及びガラスの飛散防止性が低下することのない合わせガラス用中間膜として、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する合わせガラス用中間膜であって、含水率1~2重量%において、中間膜とガラス板との接着性を表すパンメル値が3~8である中間膜を二枚のガラス板の間に挟着した合わせガラスを開示している。
【0003】
合せガラスにおいて、ガラス板と中間膜が良好な接着性を持つことは、合せガラスが衝撃を受けた場合に車両内部の安全面で有利である。合せガラスにおけるガラス板と中間膜の接着性を調べる方法として、パンメル試験がある。この試験は、合せガラスをハンマーで打って粉砕し、ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を判定する試験である。特許文献2記載の中間膜を備えた合せガラスは、板厚2.5mmのガラス板を用いた場合、ハンマーで粉砕してもガラス片が剥離せず、パンメル試験を合格することが開示されている。
【0004】
しかしながら、本発明者がいくつかの高剛性のポリビニルブチラール(PVB)からなる中間膜を備える合せガラスでパンメル試験を実施したところ、前記試験を合格しないものが見られた。本発明者が、この原因を調査したところ、高剛性の中間膜はガラスに接着している状態で、理由は不明だが経時的な吸水性についてパンメル試験で合否が分れるほどにバラツク傾向が大きく歩留まりが悪くなり、ガラスに接着している状態で測定した高剛性の中間膜の含水率とは相関がないことが見出された。
一方で、本発明者が剛性の異なるいくつかのポリビニルブチラール(PVB)からなる中間膜を対象に、単体の膜としての吸水性を調査したところ、中間膜の剛性が高いほど吸水性が高くなる傾向があることが見出された。
これは、高剛性のPVBからなる中間膜のパンメル試験は、従来のPVBからなる中間膜の場合と違って、単膜の状態での吸水性と、合せ処理でガラスに接着された後の吸水性が異なるため、予測が困難であることを示唆している。
【0005】
最近の車両では、窓ガラスの端面が露出するようなフロントガラスのデザインが増えてきている(図8参照)。高剛性の中間膜を用いて端面が露出するように形成された合せガラスを自動車の窓ガラスに使用すると、窓ガラスの端部側ほど中間膜が吸水する機会が増える。特に車両の窓ガラスの上辺側は、水と中間膜とが接触する機会が多くなる。そのため、パンメル試験を再現するような条件では、中間膜とガラス板との界面剥離が生じるリスクは、窓ガラスの端部側ほど高くなる。
【0006】
本開示の一つの目的は、合せガラスに使用されるガラス板の薄板化に応じて、合せガラスの剛性を補うために高剛性の中間膜を使用したときに、端面が露出していても窓ガラスの端部側において中間膜とガラス板との界面剥離が生じるリスクを低下できる、車両用窓ガラスを提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6466917号公報
【文献】特開2000―302490号公報
【発明の概要】
【0008】
本開示の車両用窓ガラスは、
車両の外側に面する第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する第1ガラス板と、
車両の室内側に面する第4面と、前記第4面の反対側の第3面と、を有する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に配置され、前記第2面と前記第3面とに面する中間膜と、
を備える車両用窓ガラスであって、
前記中間膜は、
少なくとも一つの端面が大気中に露出するように配置され、
少なくとも一層の剛性層を備える主要部と、前記主要部に隣接しかつ前記車両用窓ガラスの少なくとも一辺に沿って配置される、非剛性層からなる周辺部と、を備え、
前記剛性層は、近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下に抑制されており、
前記第1ガラス板および前記第2ガラス板の少なくとも一方は、2.0mm以下の厚さである、というものである。
【0009】
本開示によれば、合せガラスに使用されるガラス板の薄板化に応じて、合せガラスの剛性を補うために高剛性の中間膜を使用したときに、窓ガラスの端部側において中間膜とガラス板との界面剥離が生じるリスクを低下できる、車両用窓ガラスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図2】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図3】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図4】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図5】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図6】中間膜の一例の模式図である。
図7】中間膜の一例の模式図である。
図8】車両用窓ガラスを搭載した車両の一例の模式図である。
図9】中間膜の剛性と含水率の関係を示したグラフである。
図10】中間膜の含水率とパンメル値の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の車両用窓ガラスは、
車両の外側に面する第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する第1ガラス板と、
車両の室内側に面する第4面と、前記第4面の反対側の第3面と、を有する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に配置され、前記第2面と前記第3面とに面する中間膜と、
を備える車両用窓ガラスであって、
前記中間膜は、
少なくとも一つの端面が大気中に露出するように配置され、
少なくとも一層の剛性層を備える主要部と、前記主要部に隣接しかつ前記車両用窓ガラスの少なくとも一辺に沿って配置される、非剛性層からなる周辺部と、を備え、
前記剛性層は、近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下に抑制されており、
前記第1ガラス板および前記第2ガラス板の少なくとも一方は、2.0mm以下の厚さである、というものである。
【0012】
図1に、本開示の車両用窓ガラスの一例の断面模式図を示す。
図1の車両用窓ガラス10は、第1ガラス板1と、第2ガラス板2と、中間膜3と、を有する。第1ガラス板1は、車両の外側に面する第1面S1と、前記第1面S1の反対側の第2面S2と、を有する。第2ガラス板2は、車両の室内側に面する第4面S4と、前記第4面S4の反対側の第3面S3と、を有する。中間膜3は、前記第1ガラス板1と前記第2ガラス板2の間に、前記第2面S2と前記第3面S3とに面するように配置される。
【0013】
[中間膜]
中間膜は、少なくとも一層の剛性層を備える主要部と、前記主要部に隣接しかつ前記車両用窓ガラスの少なくとも一辺に沿って配置される、非剛性層からなる周辺部と、を備える。
図1の車両用窓ガラス10において、中間膜3は、剛性層を備える主要部4と、非剛性層からなる周辺部5と、を備える。主要部4と周辺部5とは隣接している。また、周辺部5は車両用窓ガラス10の少なくとも一辺に沿って配置されている。
【0014】
中間膜における主要部は少なくとも一層の剛性層を備える。
剛性層とは、23℃におけるヤング率が2.5MPa~200MPaである膜である。
軽量化した合せガラスの剛性低下を補うために、主要部のヤング率は、23℃において2.5MPa~200MPaであることが好ましい。
剛性層は、例えば、比較的硬いPVB、SentryGlas(登録商標)(Dupon社)、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、もしくは他の適切な高分子材料または熱可塑性材料などから構成することができる。また、剛性層は熱可塑性樹脂からなる膜であることが好ましい。
【0015】
本開示の車両用窓ガラスは、剛性層と水との接触を耐湿性のある非剛性層で防止すれば、中間膜とガラス板との界面剥離をより抑えることができる。そのため、主要部は少なくとも一層の、近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下に抑制された剛性層を備えており、剛性層を二層以上備えていてもよい。また、主要部は、少なくとも一層の剛性層を備えていれば、剛性層以外の層(例えば非剛性層)を更に備えていてもよい。
図2~5に、本開示の車両用窓ガラスの他の例の断面模式図をそれぞれ示す。
図2は、中間膜3が第3面S3側に設けられた剛性層HRと第2面S2側に設けられた非剛性層LRの2層構造となっている点が図1とは異なる。
図3は、中間膜3が第2面S2側に設けられた剛性層HRと第3面S3側に設けられた非剛性層LRの2層構造となっている点が図1とは異なる。
図4は、中間膜3が剛性層HR、非剛性層LR、剛性層HRの3層構造となっている点が図1とは異なる。
図5は、中間膜3が非剛性層LR、剛性層HR、非剛性層LRの3層構造となっている点が図1とは異なる。
【0016】
中間膜における周辺部は非剛性層からなる。
非剛性層とは、23℃におけるヤング率が0.1MPa~2.0MPaである膜(好ましくは熱可塑性樹脂からなる膜)である。
主要部に車両用合せガラスの外部からの湿気や水が吸収されることを防止するために、周辺部のヤング率は、23℃において0.1MPa~2.0MPaであることが好ましい。
非剛性層は、例えば、比較的軟らかいPVB、音響用PVB、エチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、もしくは他の適切な高分子材料または熱可塑性材料などから構成することができる。
【0017】
図6に、本開示の車両用窓ガラスが備える中間膜の一例の模式図(中間膜を膜厚方向から見た模式図)を示す。図6の中間膜3には、車両用窓ガラスの一辺に沿う部分に、幅Wの帯状の周辺部5が設けられている。
中間膜の周辺部の幅(周辺部が設けられている車両用窓ガラスの一辺に沿う方向に直交する方向の周辺部の長さであり、図6におけるWの長さ)は特に限定されず、車両用窓ガラスのデザインや大きさによって異なるが、例えば、Wが50mm~300mmであることが好ましい。なお、図6に示された中間膜は矩形であるが、本開示における中間膜や、第1ガラス板、第2ガラス板、及びこれらを含む車両用窓ガラスの形状は特に限定されない。例えば、少なくとも一部が湾曲した形状(例えば周辺部が設けられる車両用窓ガラスの一辺が直線ではなく湾曲した線である場合など)であってもよい。
中間膜の膜厚は特に限定されないが、例えば、0.5mm~3.0mmであることが好ましい。
【0018】
本開示における中間膜において、少なくとも一つの端面が大気中に露出するように配置されている。中間膜は少なくとも一層の剛性層を備えるものであり、その剛性層は近赤外域の分光スペクトルを用いて測定した含水率が0.5%以下に抑制されている。中間膜の周辺部は車両用窓ガラスの少なくとも一辺に沿って配置されていればよいが、車両用窓ガラスが車両に搭載された際に、上辺となる辺に沿って配置されるのが好ましい。車両に搭載された車両用窓ガラスの上辺は、特に水と中間膜の露出面とが接触する機会が多いため、少なくとも上辺となる辺に非剛性層からなる周辺部を設けることで、窓ガラスの端部側において中間膜とガラス板との界面剥離が生じるリスクを低下できるためである。
本開示における中間膜において、周辺部が車両用窓ガラスの全ての辺に沿って配置されていてもよい。この態様の中間膜の一例の模式図(中間膜を膜厚方向から見た模式図)を図7に示す。周辺部が車両用窓ガラスの全ての辺に沿って配置されていることで、主要部の剛性層と水との接触を抑制することができ、中間膜とガラス板との界面剥離をより抑えることができる。
【0019】
本開示における中間膜単体の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、中間膜用原料樹脂の膜化方法としては、常法の型押出し法またはカレンダーロール法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
通常の合せガラスであれば、1枚の連続した中間膜を2枚のガラス板で挟持することで作製されるが、本開示の車両用合せガラスの製造方法では、少なくとも一層の剛性層を含む積層した中間膜と、非剛性層からなる中間膜と、を並べたものを、2枚のガラス板で挟持することで作製される。
この場合、これら2つの中間膜の間には継ぎ目が生じるが、オートクレーブ内で加熱・加圧される際に、中間膜同士が溶着して継ぎ目が目立たなくなるため、搭乗者の視界の妨げになるようなことはない。
【0021】
本開示の車両用窓ガラスは、従来の一般的な合せガラスよりも軽量であることを特徴とする。したがって、本開示の車両用窓ガラスにおける第1ガラス板及び第2ガラス板のうち、少なくとも一方が2.0mm以下であることが好ましく、第2ガラス板が2.0mm以下であることがより好ましく、第1ガラス板及び第2ガラス板の両方が2.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
[第1ガラス板]
本開示の車両用窓ガラスにおける第1ガラス板としては、特に限定されず、車両用窓ガラスに用いられるガラス板として公知のガラス板を用いることができる。
第1ガラス板の厚さは、1.4mm~2.2mmであることが好ましい。
第1ガラス板の組成は特に限定されない。第1ガラス板として、化学強化ガラスを用いても良い。化学強化ガラスの好ましい組成としては、下記(1)又は(2)の組成が挙げられる。
(1)質量%で、SiO2:65~75%、Al2O3:0~5%、Na2O+K2O:5~20%、MgO:0~10%、CaO:2~15%
(2)質量%で、SiO2:55~65%、B2O3:0~10%、Al2O3:10~25%、Na2O+K2O:10~20%、MgO:0~10%、CaO:0~5%
【0023】
[第2ガラス板]
本開示の車両用窓ガラスにおける第2ガラス板としては、特に限定されず、車両用窓ガラスに用いられるガラス板として公知のガラス板を用いることができる。
第2ガラス板の厚さは、0.7mm~1.8mmであることが好ましい。
第2ガラス板の組成は特に限定されない。第2ガラス板として、化学強化ガラスを用いても良い。化学強化ガラスの好ましい組成は、上記(1)又は(2)の組成と同様である。
【0024】
本開示の車両用窓ガラス(合わせガラス)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、第1ガラス板と第2ガラス板の間に、中間膜を挟んで、押圧ロールに通したり、又はゴムバッグに入れて減圧吸引して、部材間に残留する空気を脱気し、その後、予備接着して積層体を得て、この積層体をオートクレーブに入れたり、又はプレスしたりして圧着(適宜加熱しながら圧着してもよい。)することで、合わせガラスを得ることができるが、これらの方法には限定されない。
【0025】
図8に、本開示の車両用窓ガラス10を搭載した車両11の一例の模式図を示すが、これに限定されるものではない。
【0026】
<実験1:中間膜の剛性と含水率の関係について>
中間膜として下記中間膜サンプル1~4を用意した。
中間膜サンプル1~4のヤング率は、全て温度23℃、湿度50~60%の環境下の測定で得られた値である。
中間膜サンプル1~4のヤング率の測定方法の詳細を以下に示す。
中間膜サンプル1~4のヤング率の測定は、JIS K 7161-1に沿って実施した。この方法は、応力もしくはひずみ(伸び)があらかじめ定めた値に達するまで、試験片を主軸(長さ方向)に沿って一定速度で引っ張ったときに、試験片にかかる力及び伸びを測定することで、試験片の引張弾性率(ヤング率)を求めることを目的としている。
試験機には、JIS K 7161-1に適合するA&D社製テンシロン万能試験機(RTC-2410)を使用した。
試験片は、中間膜サンプル1~4を、JIS K 6251に準拠した「引張5号型ダンベル状」に、切削によって機械加工して作製した。
【0027】
中間膜サンプル1の厚さは0.80mmであった。
中間膜サンプル2の厚さは0.85mmであった。
中間膜サンプル3の厚さは0.78mmであった。
中間膜サンプル4の厚さは0.80mmであった。
試験片の標線間距離は、33mmとした。
試験片の数は、中間膜サンプル各種1個とした。
作製した試験片は、温度23℃、湿度50~60%の環境下で4時間以上保管した。
引張試験時の雰囲気は、サンプル保管時と同じ温度23℃、湿度50~60%の環境下で実施した。
引張試験時、中間膜サンプル3のみに予備力(荷重:20mN、保持:10sec)を負荷した。
他の中間膜サンプル1、2、4には、予備力を負荷せずに引張試験を実施した。
引張試験時の試験速度は、1分間に標線間距離の1%の歪を与える速度である、0.33mm/minとした。
試験片にかかる応力σ[MPa]は、測定時に与えた力F[N]を、試験片の初めの断面積A[mm2]で除した値とした。
試験片に発生したひずみε[-]は、試験片の標線間距離の増加量ΔL0[mm]を、試験片の標線間距離L0[mm]で除した値とした。
試験片のヤング率E[MPa]は、試験片のひずみε2(0.25%)における応力σ2[MPa]と試験片のひずみε1(0.05%)における応力σ1[MPa]との差分を、試験片のひずみε2と試験片のひずみε1との差分で除した値とした。
本試験における応力、ヤング率、及びひずみは、有効数字2桁までとした。
【0028】
中間膜サンプル1・・・Saflex(登録商標、以下同じ)RF41(イーストマンケミカル社製) 単層の低弾性PVB膜 ヤング率E:1.1MPa
中間膜サンプル2・・・Saflex QF51(イーストマンケミカル社製) 3層構成の低弾性PVB膜 ヤング率E:1.3MPa
中間膜サンプル3・・・Saflex DG41(イーストマンケミカル社製) 単層の高弾性PVB膜 ヤング率E:49MPa
中間膜サンプル4・・・S-LEC clear film HIRZN-10(積水化学工業株式会社製) 単層の低弾性PVB膜 ヤング率E:0.94MPa
【0029】
以下の手順で中間膜サンプル1~4の含水率の経時変化を調べた。
(1)中間膜サンプル1~4のそれぞれを4cm角に切り出し、重量を測定した。
(2)切り出した各中間膜サンプルをデシケータ内に数日間保管し、初期水分を除去した(切り出した各中間膜サンプルの重量変化がなくなるまで行った)。初期水分が除去された状態の各中間膜サンプルの重量を測定した(この重量を「試験前の中間膜サンプルの重量」とも呼ぶ)。
(3)初期水分を除去した各中間膜サンプルを、恒温槽(23℃、相対湿度60%)に入れ、重量とともに、含水率の経時変化を調べた。各時間における各中間膜サンプルの重量を「試験後の中間膜サンプルの重量」とも呼ぶ。
含水率は、下記式(A)により求めた。
【0030】
含水率(%)=100×{試験後の中間膜サンプルの重量(g)-試験前の中間膜サンプルの重量(g)}/試験後の中間膜サンプルの重量(g)・・・式(A)
【0031】
結果を図9に示した。図9に示した結果から、高弾性PVB膜を含む中間膜サンプル3は、低弾性PVB膜からなる中間膜サンプル1、2及び4に対して、経時で含水率が高くなることが分かった。これより、高剛性の中間膜は剛性の低い中間膜に比べて吸水しやすい傾向があると言える。
【0032】
<実験2:中間膜の含水率とパンメル値の関係について>
(1)合せガラスサンプルの作成
ガラス板としては、厚さ1.8mmまたは2.1mmのガラス板B1と、厚さ0.70mmまたは1.1mmのガラス板B2を用い4通りの組み合わせとした。
中間膜としては、前述の初期水分が除去された状態の中間膜サンプル2またはサンプル3を用いた。
ガラス板B1とガラス板B2の間に、各中間膜サンプルを挟んで、ゴムバッグに入れて減圧吸引して、部材間に残留する空気を脱気し、その後、予備接着して積層体を得て、この積層体をオートクレーブに入れて下記表1の条件で合せ加工した。予備接着後にサンプルをゴムバッグから取り出し、仕上げ接着は同じくオートクレーブを用いて下記表1の条件で合せ加工した。
作成した合せガラスサンプルは以下の通りである。
合せガラスサンプルC1・・・ガラス板B1/中間膜サンプル2/ガラス板B2
合せガラスサンプルC2・・・ガラス板B1/中間膜サンプル3/ガラス板B2
【0033】
【表1】
【0034】
(2)パンメル試験
合せガラスサンプルC1及びC2(サイズは300mm×300mm)をそれぞれ-18℃に冷却した恒温恒湿槽に約17時間保管した。各サンプルはガラス立てを用いて約1cmの間隔を確保した。
合せガラスサンプルC1及びC2についてそれぞれ恒温恒湿槽から取り出し、直ちにハンマーで殴打した。叩き台には厚さ13mmの鉄板を用い、45度に傾けた状態で使用した。ハンマーにはヘッドが約500g、直径30mmのものを使用した。サンプルと叩き台の角度を約5度とした。ハンマーヘッドは全面がガラス面に当たるように振り下ろした。
サンプルの角部100mm×100mmの範囲を、ガラス板B1側の角部から殴打し、1列目を叩くと引き返し、2列目は1列目の半分程度が重なるように叩くことを反復して、ガラスの打撃面が完全に粉砕されたことを確認した。
1枚目の試験が完了後、2枚目を恒温恒湿槽から取り出して同様に試験を行った。
試験完了後、サンプルを室温に約1時間放置し、結露を完全に除去した。
パンメル値判定用見本(パンメル値2~8)と各サンプルの中間膜露出面積を見比べ、パンメル値を判定し、打撃面の密着性を評価した。
パンメル値と打撃面の密着性には、下記表2のような関係がある。表2は、パンメル値が低いほど、中間膜の露出度が高く、ガラス板と中間膜が剥離しやすいことを示している。
【0035】
【表2】
【0036】
(3)含水率
合せガラスサンプルに対する近赤外域の分光スペクトルを測定し、PVB起因(メチレン基)の吸収と水起因の吸収との比を求め、検量線から導いた計算式を用いて含水率を算出した。なお、測定点はガラス端部から5~10cm中央側とした。
測定には、日立ハイテクノロジー社製分光光度計(U-4000)を用い、水の吸収帯を1925nm、メチレン基の吸収帯を1705nmとして含水率を算出した。
【0037】
図10に、ガラス板に接着している状態の中間膜の含水率とパンメル値の関係について示した。なお図10において、「Saflex QF51」は、合せガラスサンプルC1をガラス板B1側から殴打したものを表す。「Saflex DG41」は、合せガラスサンプルC2をガラス板B1側から殴打したものを表す。
図10に示した結果から、低弾性PVB膜からなる中間膜サンプル2を含む合せガラスサンプルC1は、4個とも含水率0.5%以下であり、非剛性の中間膜がガラスに接着している状態で中間膜の含水率の変動が小さいことが分かった。そして、高弾性PVB膜からなる中間膜サンプル3を含む合せガラスサンプルC2は、4個のうち3個は含水率が0.5%を超えており、高剛性の中間膜がガラスに接着している状態で中間膜の含水率の変動が大きいことが分り、含水率が0.5%より低い状態では従来の中間膜を含む合せガラスと同様に良好なパンメル値を示すものの、吸水し含水率が0.5%よりも高くなるとパンメル値が悪化し、ガラス板の剥離が起きやすくなることが分かった。これより、高剛性の中間膜がガラスに接着している状態では非剛性の中間膜を利用して合せガラスの製造時以降の中間膜端部からの吸水を防止して高剛性中間膜の含水率を0.5%以下に抑制することができ、パンメル値の悪化を回避できると言える。
【0038】
上記実験1及び実験2の結果から、高剛性の中間膜はガラス板に接着している状態で吸水しやすい傾向にあり、0.5%を超える水分を吸収すると、ガラス板から剥離しやすくなることが分かった。このことから、本発明者は、高剛性の中間膜を、剛性の低い中間膜で覆うことによって、高剛性の中間膜が合せガラスの端面外部から吸水できない膜構成にすることで、窓ガラスの端部側において吸水による剥離が起こりにくく、かつ高剛性の車両用窓ガラスを提供できることを見出した。
【0039】
例えば、前述の中間膜サンプル3は本開示の車両用窓ガラスにおいて相対的に剛性が高い主要部4として用いることができ、中間膜サンプル1,2,4は相対的に剛性が低い周辺部5として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示の車両用窓ガラスは、合わせガラス及び中間膜の端面が大気中に露出するようなフロントガラスやサイドガラスとして使用される他に、多湿な環境での保管や輸送においても、中間膜の吸水による窓ガラス端部におけるガラス板の剥離を抑制することができ、例えば、調湿されていない陸便や船便などでの輸送にも適している。
図1
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図10