(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】外科手術用クリップ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/122 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
A61B17/122
(21)【出願番号】P 2021565325
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2020028589
(87)【国際公開番号】W WO2021124606
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019226026
(32)【優先日】2019-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399037933
【氏名又は名称】株式会社シャルマン
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山本勝巳
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0192527(US,A1)
【文献】登録実用新案第3157486(JP,U)
【文献】特表平10-503390(JP,A)
【文献】特表2018-528006(JP,A)
【文献】特表2013-537052(JP,A)
【文献】特許第6546921(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0374221(US,A1)
【文献】国際公開第2001/058367(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102125452(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器その他の体組織を引っ張って手術に必要な領域を確保するための外科手術用クリップにおいて、
前記臓器その他の体組織を挟持するための上下一対の挟持部と、
この挟持部を開閉するハンドル部と、
前記挟持部を常に挟持方向に付勢する付勢手段と、
前記ハンドル部に形成された係合部と、
を有し、
前記係合部は、ロボット、
鉗子及びアプライヤを含む医療用機器に設けられ開閉動作によって
挟持又は切開を行う機能部に形成された孔と係合
するものであり、前記機能部に形成された歯又は突起と係合できる異なる角度の複数の係合溝を有すること、
を特徴とする外科手術用クリップ。
【請求項2】
幅、直径又は形状の異なる前記孔に係合できるように、前記係合部が錐台を含む錐状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の外科手術用クリップ。
【請求項3】
前記係合部が円錐状又は正多角錐状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の外科手術用クリップ。
【請求項4】
前記挟持部の各々に形成され、前記臓器その他の体組織に食い付く複数の歯を有する歯列を有し、
前記歯は、引っ張り方向と同方向に傾斜して形成され、
上下の前記挟持部における前記歯列は、前記歯が互いに違いに噛み合うようにずらして配置されていること、
を特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の外科手術用クリップ。
【請求項5】
前記孔が長孔状に形成され、前記係合部が前記孔に嵌合した状態で長軸方向に移動可能であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の外科手術用クリップ。
【請求項6】
前記係合部の外周囲に歯車状の凹凸を形成し、前記孔の内周に前記凹凸と係合する突起を形成して、前記ハンドル部の回動角度の位置決めを行えるようにしたことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の外科手術用クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術の際に臓器その他の体組織を引っ張って手術に必要な領域を確保するほか、鉗子や止血クリップとしても利用可能な外科手術用クリップに関し、メーカーや仕様、形状などが異なる複数種類の外科手術用ロボットのほか鉗子やアプライヤなど他の医療用機器の間で共通して適用が可能な外科手術用クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術の際に、手術対象外の臓器やその他の体組織が邪魔となり、外科医の手術を妨げることがある。そこで、このような場合に、手術の妨げとなっている前記臓器や体組織を、外科手術用クリップを使って引っ張り、手術に必要な領域を確保することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで近年、治療成績の向上や、治療適用範囲の拡大を目的として、ロボットを使用した外科手術の支援システムが普及しつつある。特に、胸腔ないし腹腔の内視鏡下手術用ロボットとして、米国インテュイティヴ・サージカル社のda Vinci (登録商標)Surgical System(ダ・ヴィンチ外科手術システムがよく知られている。そして、このようなロボットを用いた外科手術においては、移動自在なアーム先端の機能部で前記臓器や体組織を挟持し、引っ張るなどして手術に必要な領域を確保することが行われている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-505504号公報
【文献】特開2015-2922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、外科手術用ロボットを用いた外科手術では、トロッカーと称される管が使用され、このトロッカーを腹腔内に留置した状態でトロッカー内に前記アームを挿入し、前記機能部で前記臓器や体組織に対して一定の施術を行うようにしているが、上記した従来の外科手術用ロボットにおいては、以下のような問題がある。
(i) メーカーや仕様の異なるロボットごとに専用のアームが必要で互換性がない。
(ii) 例えば三本のアームを有するロボットでは、三方向からしか前記臓器や体組織を挟持させることができない。
【0006】
(iii) 三方向を超える方向から前記臓器その他の体組織を挟持する必要がある場合は、別のロボットを手術台の近くに設置しなければならないが、複数台のロボットによって手術台の周囲が専有されて医師や看護師など施術者の行動範囲が制限されるうえ、多数本のアームが邪魔になって前記施術者の視界を妨げたり、施術の際の邪魔になったりする。
(iv) 一本のトロッカーには原則として一本のアームしか挿入できず、臓器その他の体組織を挟持させて引っ張るためのアームが一本のトロッカーを専有しているのが現状である。
【0007】
(v) 胃や心臓、膀胱、脳などといった異なる患部ごとに専用のアームが必要となり、その都度交換が必要であるが、専用のアームは高額なうえ衛生上の観点から使い捨てであることから、外科手術用ロボットを用いた手術コストが非常に高額になる。
(vi) 前記臓器や体組織を挟持する用途に複数本のアームが費やされると、別の用途に使用できるアームが無くなり、高額なアームの有効利用を図ることができない。
本発明は上記し(i)~(vi)の問題を一挙に解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、近年の多くの外科手術用ロボットが採用しているアーム先端の挟持部の孔に着目した。この孔は、アーム先端の機能部で臓器その他の体組織を挟持する際に、臓器その他の体組織の一部が入り込むことで、より安定的に臓器その他の体組織を挟持させるためのものである。そこでこの孔を利用して外科手術用のクリップを外科手術用ロボットのアームの機能部に把持させることができれば、上記の問題点を一挙に解決することができると考え、本発明に想到した。
【0009】
具体的に請求項1に記載の発明は、臓器その他の体組織を引っ張って手術に必要な領域を確保するための外科手術用クリップにおいて、前記臓器その他の体組織を挟持するための上下一対の挟持部と、この挟持部を開閉するハンドル部と、前記挟持部を常に挟持方向に付勢する付勢手段と、前記ハンドル部に形成された係合部と、を有し、前記係合部は、ロボット、鉗子及びアプライヤを含む医療用機器に設けられ開閉動作によって挟持又は切開を行う機能部に形成された孔と係合するものであり、前記機能部に形成された歯又は突起と係合できる異なる角度の複数の係合溝を有する構成としてある。
【0010】
本発明はこのように構成されているので、前記係合部を前記機能部に形成された孔に係合させ、前記機能部を開閉させることで、外科手術用クリップを開閉させて、臓器その他の体組織を挟持させることができる。特に前記機能部が外科手術用ロボットのアーム先端に設けられている場合、前記機能部に把持させた外科手術用クリップを前記臓器その他の体組織に挟持させて引っ張った後に、前記アーム先端の機能部に別の外科手術用クリップを把持させ、前記臓器その他の体組織の別の場所を挟持させて引っ張ることが可能になる。
また、前記係合部に、前記医療用機器の前記機能部に形成された歯又は突起と係合できる係合溝を形成しているので、例えば前記孔は有しないが歯や突起を有する別の機能部に外科手術用クリップを把持させて臓器その他の体組織を挟持させることが可能になり、汎用性をさらに高めることが可能になる。さらに、前記係合溝は異なる角度で複数形成しているので、前記歯や突起を有する機能部に外科手術用クリップを把持させることが容易になり、かつ、一定の回転角度位置に外科手術用クリップを固定することが可能になる。
【0011】
請求項2に記載するように、幅や直径、形状の異なる前記孔に係合できるように、前記係合部が錐台を含む錐状に形成すれば、メーカーや仕様によって前記孔の幅、直径、形状などが相違しても、共通の外科手術用クリップを利用することができ、かつ、錐状に形成することで前記孔に係合しやすく、外科手術用クリップを前記機能部に把持させる作業も容易かつ短時間で行えるようになる。
なお、本発明の「錐状」は、円錐や角錐のほか、これらの頂部を切り落とした円錐台や角錐台などの錐台や前記頂部を球形などの形状に形成したものも含まれる。
【0012】
請求項3に記載するように、前記係合部は円錐状又は正多角錐状にするとよく、円錐状に形成することで、前記機能部に把持させた外科手術用クリップの方向を自在に変えることができ、正多角錐状にすることで、前記機能部に把持させた外科手術用クリップの方向を所定の回転角度位置に位置決めして固定することができる。
【0014】
なお、アーム先端の機能部の開閉がシリンダ,モータ、ソレノイドその他の駆動手段によって行われる場合に、前記機能部に外科手術用クリップを把持させて開閉動作を行わせるには、前記付勢手段の付勢力が、前記駆動手段による前記機能部の開閉力より小さいものでなければならない。
【0015】
外科手術用ロボットの前記駆動手段によって前記機能部を開閉させるときの力は、臓器その他の体組織を傷つけないようにするために、必要最小限に設定されているのが一般的である。そのため、外科手術用クリップの前記挟持部を常に挟持方向に付勢する付勢手段は、このような弱い力でも外科手術用クリップを開閉させることができるものでなければならない。このような付勢手段であっても臓器その他の体組織を強力に挟持するためには、請求項4に記載するように、前記挟持部の各々に形成され、前記臓器その他の体組織に食い付く複数の歯を有する歯列(23)を有し、前記歯は、引っ張り方向と同方向に傾斜して形成され、上下の前記挟持部(21)における前記歯列(23)は、前記歯が互いに違いに噛み合うようにずらして配置されている構成とするとよい。
【0016】
請求項5に記載するように、前記孔を長孔状に形成し、前記係合部(24)を前記孔に嵌合した状態で長軸方向に移動可能としてもよい。このようにすることで、外科手術用クリップを前記機能部に対して回転可能に把持させることができるだけでなく、長手方向にも移動可能に把持させることが可能になる。
さらに請求項6に記載するように、前記係合部(24)の外周囲を歯車の凹凸を形成し、前記ロボットハンドの先端(1)の係合孔(1a)又は係合溝の内面に前記凹凸と係合する突起を形成することでラチェット機構を構成し、前記ハンドル部(22)の回動角度の位置決めを行えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、外科手術用ロボットのメーカーや仕様などが異なっても、共通の外科手術用クリップを機能部に把持させることで臓器その他の体組織を挟持できるようにしているので、これら異なるメーカーや仕様の外科手術用ロボット間での共有を可能にし、汎用性を持たせることが可能になる。
【0018】
また、臓器その他の体組織を挟持して引っ張る役割を本発明の外科手術用クリップが担うので、前記機能部に把持させた外科手術用クリップを所定位置までアームで移動させ、当該位置で臓器その他の体組織を外科手術用クリップで挟持させ、前記機能部による把持を解除すれば、当該アームを他の用途に利用することが可能になり、少ない本数のアームの有効利用を図ることが可能になる。また、外科手術用クリップを挿入したトロッカーを別の用途のアームを挿入することが可能になる。
さらに、アームに比して外科手術用クリップは安価に製造することが可能であるうえ、アームの有効利用により外科手術用ロボットを用いた手術コストを大幅に低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の外科手術用クリップの好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の外科手術用クリップの一実施形態にかかり、(a)は挟持部を閉じた状態の側面図、(b)は挟持部を開いた状態の側面図、(c)はその平面図、(d)は医療用機器のアーム先端の機能部に形成された孔内に外科手術用クリップの係合部を係合させた状態を説明するアーム先端の部分平面図、
図2は、この実施形態における外科手術用クリップの歯の傾斜角と歯先角を説明するための部分拡大側面図、
図3は前記機能部の一例にかかり、その詳細を説明する拡大斜視図である。
【0020】
外科手術用クリップ2は、臓器その他の体組織(以下、臓器等と記載する)を挟持するための上下一対の挟持部21,21と、この一対の挟持部21,21の各々と一体に形成されて挟持部21,21を開閉させるハンドル部22,22と、挟持部21,21のそれぞれに形成され、引っ張り方向と同方向に複数の歯23aを並べて形成された歯列23と、上下一対のハンドル部22,22を連結するとともに挟持部21,21を常に閉じる方向(臓器等を挟持する方向)に付勢する付勢手段としての弦巻状のばね25とを有している。なお、この種の外科手術用クリップ2の基本構成は、例えば本願出願人による特許第6546921号公報などで公知である。
【0021】
挟持部21,21は、ハンドル部22,22の上下からばね25に抗する押圧力Pを付与することで開放するように、交叉して設けられている。なお、図示の例では、上下の挟持部21,21のそれぞれの歯列23は並行に二列形成されていて、かつ、二列の歯列23の間には臓器等に食い込ませるための長孔26が挟持部21,21を貫通して形成されている。この長孔26は、比較的柔らかい臓器等が入り込むことで臓器等に食い付き、歯列23,23と協働することで、外科手術用クリップ1の臓器等への食い付き力をより高める。また、この長孔26を通して、臓器等への食い込み状態も視認することが可能である。
【0022】
また、上下の歯列23,23は、
図1(a)に示すように、それぞれを構成する歯が上下で互い違いに噛み合うように配置されているとともに、歯列23を構成する歯23aは、
図2に示すように、臓器等からの抜脱を阻害する方向、つまり引っ張り力が作用する方向Xと同じ方向に傾斜している。
傾斜角α(引っ張り方向Xに対して直交する法線Z方向となす角)と歯先角βとを適切な値に選択すれば、ばね25の弾発力や歯23aの大きさ及び数を変えずに、臓器等への傷付けることなく食い付き力を高めることができる。傾斜角α及び歯23aの歯先角βの適切な値は、歯23aのピッチの関係で実験により最適なものを決定することができる。
【0023】
歯23aのピッチが例えば1.5mm前後の場合、傾斜角αとしては例えば17°~19°、歯先角βとしては例えば50°~55°を目安とすることができる。傾斜角α、歯先角βを前記ピッチとの関係で適切な値に選択し、かつ、ばね25のばね力を調整すること、さらに上下互い違いの歯列23,23を採用することで、本発明の外科手術用クリップ2は小形でも十分に高い挟持力を発生させることができる。そのため、トロッカーの内径が小さくなっても、この内径に合わせて小形化した外科手術用クリップ2を準備し、体腔内挿入器具を使って外科手術用クリップ2を患者の体内へ挿入することが可能になる。
【0024】
図3に示す例においてアーム1の先端の開閉自在な機能部11には、臓器等を挟持するための歯11aが複数形成されている。そして、施術中にこの機能部11で例えば前記臓器等の一部を挟持して捲り、別のアーム1の先端のメス(機能部)が侵入できる空間を形成し、前記メスと協働して患部の切除等を行う。
機能部11には長孔状の孔11bが貫通形成されていて、この孔11bに係合できる係合部24,24が、ハンドル部22,22に形成されている。係合部24,24は、孔11bに係合させやすいように、また、メーカーや仕様によって孔11bの幅や直径、形状などが多少相違しても孔11bに係合できるように、テーパ状の周面を有する錐状とするのが好ましい。「錐状」には、円錐や角錐のほか、
図4に示すように、前記円錐や角錐の頂部を切り落とした円錐台((a)参照)や四角錐台((b)参照)及び多角錐台((c)参照)などの錐台のほか、これらの頂部を球状に形成したもの(例えば(a)の円錐台の頂部を球形としたもの、(d)参照)、が含まれる。この実施形態では、
図1に示すように、係合部24,24は円錐台状に形成されている。
【0025】
図5に示すように、機能部11の孔11bに円錐台状の係合部24が嵌り込むことで、外科手術用クリップ2がアーム1の先端に把持される。この際、機能部11の孔11bの中心と係合部24の中心とが多少ずれていても、係合部24の頂部が機能部11の孔11b内に入れば、テーパ状の周面が孔11bと係合部24との位置合わせを行うので、簡単に外科手術用クリップ2をアーム1の先端に把持させることができる。そして、外科手術用クリップ2を把持した状態で機能部11を閉じる方向に動作させることで、外科手術用クリップ2の挟持部21が開き、臓器等を挟持させることが可能になる。
【0026】
なお、付勢手段であるばね25のコイル径は、外科手術用クリップ2をアーム1の先端に把持させる際に機能部11と干渉しない程度に小径のものとし、かつ、その付勢力は、機能部11の開閉動作によって機能部11を開閉できるものである。機能部11の開閉は、シリンダやモータ、ソレノイドなどの駆動手段で行われることが多いが、ばね25の付勢力は、これら駆動手段によって機能部11を閉じる際の駆動力より小さいものとする。そして、このような条件を満たす径及び付勢力のばね25であっても、強力に臓器等を挟持して引っ張ることができるように、先に説明したように挟持部21の歯23aの配置や傾斜角α、歯先角β(
図2参照)は適切な値のものを選択する。
【0027】
さらに、
図5に示すように、機能部11を閉じて外科手術用クリップ2の挟持部21を開いた際に、機能部11と挟持部21とが干渉しないようにするために、挟持部21の表面21aはハンドル部22の表面22aとほぼ同じ面(
図5において符号Sの一点鎖線で示す面)内に位置させるか、又は、この面Sよりも内側に位置させるとよい。
【0028】
図6は、円錐台状の係合部24の別の作用を説明する部分拡大平面図である。
係合部24は孔11a内で回転自在であることから、ハンドル部22を介して外科手術用クリップ2はアーム1の先端で回転自在である。なお、アーム1の機能部11の把持力と円錐台状の係合部24との摩擦力によって、外科手術用クリップ2を所定の回転角度位置で維持することができる。
特に図示はしないが、例えば係合部24を多角錐状にしたり、係合部24の外周囲に歯車状の凹凸を形成して孔11bの内面にこの凹凸と係合する突起を形成したりすることで、ラチェット機構のようにハンドル部22の回動角度の位置決めを行うことが可能になる。
このように、外科手術用クリップ2をアーム1に対して回転自在とすることで、外科手術中に患部の視認の妨げとならない最適の位置に外科手術用クリップ2を配置することが可能になる。
【0029】
[別の実施形態]
図1に示すように、円錐台状の係合部24には溝24aが形成されている。この実施形態において溝24aは、二本の溝が直角に交叉する十字状に形成され、そのうちの一つの溝は外科手術用クリップ2の軸線Lと一致する方向に形成されている。
アーム1の機能部11に形成された図示しないストッパをこの溝24aに係合させることで、アーム1に対する外科手術用クリップ2の回転が規制されるとともに、この実施形態では左右90°方向に外科手術用クリップ2を回転させて、当該回転角度位置で外科手術用クリップ2をアーム1に対して固定することが可能である。
【0030】
図7は、溝24aの別の作用を説明する部分拡大平面図である。
溝24aを、例えば別の医療用機器であるアプライヤの先端部3の歯3aと係合できるようにすることで、アプライヤに外科手術用クリップ2を把持させ、患部に出し入れすることが可能になる。このようにアプライヤなど別の医療用機器でも手術用クリップ2を把持できるようにすることで、外科手術用クリップ2を多種多様な施術の用に供することが可能になる。
【0031】
図8及び
図9は本発明の外科手術用クリップ2の作用を説明する図で、
図8は、外科手術用クリップ2を用いた施術の一例を示す概略図、
図9は、外科手術用クリップ2の動作を説明する図である。
患者の身体Bには複数本のトロッカー4が刺し込まれ、このトロッカー4を挿通して、機能部11で外科手術用クリップ2を把持した外科手術用ロボットのアーム1が患部Aaに向けて挿入される。この際、外科手術用クリップ2のばね25には予め牽引糸5を連結しておき、牽引糸5とともに外科手術用クリップ2を、トロッカー4を通して患部Aaに向けて挿入する。
【0032】
そして、機能部11を閉じる方向に動作させ、外科手術用クリップ2の挟持部21を開かせた状態(
図9(a)の状態)でアーム1を操作し、患部Aaの所定部位をまで移動させる。この後、機能部11を開方向に動作させて外科手術用クリップ2の挟持部21を閉じ(
図9(b)の状態)、患部Aaの所定部位を外科手術用クリップ2で挟持させる。挟持させた後は、機能部11を外科手術用クリップ2から離す(
図9(c)の状態)。牽引糸5は患者の身体B内に落とす。この後、牽引糸5を患者の身体Bから取り出すための注射針程度の小径の牽引器具を患者の身体Bに刺し込み、当該牽引器具で牽引糸5を拾い上げて患者の身体Bの外に引き出し、外科手術用クリップ2を牽引して患部Aaを引っ張る。
【0033】
本発明の外科手術用クリップ2によれば、メーカーや仕様の異なる外科手術用ロボットごとに専用のアームが必要であっても、これらアームの先端に把持させて臓器等を挟持させるなどの作業が可能になり、例えば三本のアームしか持たない外科手術用ロボットであっても、これを超える複数方向から前記臓器等を挟持させることが可能である。そのため、別の外科手術用ロボットを設置する必要がなく、必要最小限のアームを備えた小形のものを設置するだけでよいから、手術台の周囲における医師や看護師などの作業領域を十分に確保することが可能になる。
【0034】
また、多数本のアームが邪魔になって前記施術者の視界を妨げたり、施術の際の邪魔になったりするという不都合も抑制できる。また、臓器その他の体組織を挟持させて引っ張るためのアームが一本のトロッカーを専有するという不都合も回避できる。
さらに、胃や心臓、膀胱、脳などといった異なる患部であっても共通の外科手術用クリップ2を用いることができ、外科手術用クリップ2は専用のアーム1より安価であるとともにアーム1の有効利用が可能になることから、外科手術用ロボットを用いた手術コストを大幅に低減することが可能になる。
【0035】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明に限定されるものではない。
例えば、上記の説明で外科手術用クリップ2は主として開創用のものを例に挙げたが、同様の構成であれば鉗子や止血クリップとしても適用が可能である。
また、本発明の外科手術用クリップを把持させる医療用機器として外科手術用ロボットのアームを例に挙げたが、本発明は他の医療用機器、例えば鉗子やアプライヤなどにも把持させることが可能である。なお、これら医療用機器で把持可能であれば、溝24aに限らず突起や凹凸であってもよい。
さらに、付勢手段として弦巻状のばね25を例にあげたが、同様の作用を奏するものであれば弦巻状のものに限らず他の形態のばねであってもよいし、ばね以外の付勢手段であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、外科手術用ロボットを用いた外科手術に広範に適用が可能で、人間の外科手術に限らず動物の外科手術にも適用が可能である。また、鉗子の代わりに臓器や体組織等を持上げる器具として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の外科手術用クリップの一実施形態にかかり、(a)は挟持部を閉じた状態の側面図、(b)は挟持部を開いた状態の側面図、(c)はその平面図、(d)は医療用機器のアーム先端の機能部に形成された孔内に外科手術用クリップの係合部を係合させた状態を説明するアーム先端の部分平面図である。
【
図2】この実施形態における外科手術用クリップの歯の傾斜角と歯先角を説明するための部分拡大側面図である。
【
図3】アーム先端の機能部の一例にかかり、その詳細を説明する拡大斜視図である。
【
図4】係合部の形態の一例を示す図で、(a)は円錐や角錐の頂部を切り落とした円錐台、(b)は同四角錐台、(c)は同多角錐台、(d)は円錐台の頂部を球形としたものである。
【
図5】アーム先端の機能部の孔に円錐台状の係合部が嵌り込んで係合し、外科手術用クリップがアームの先端に把持された状態を示す図である。
【
図6】円錐台状の係合部24の別の作用を説明する部分拡大平面図である。
【
図7】溝24aの別の作用を説明する部分拡大平面図である。
【
図8】本発明の外科手術用クリップ2の作用を説明する図で、外科手術用クリップ2を用いた施術の一例を示す概略図である。
【
図9】本発明の外科手術用クリップ2の作用を説明する図で、外科手術用クリップ2の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 医療用機器(外科手術用ロボット)のアーム
11 機能部
11a 歯
11b 孔
2 外科手術用クリップ
21 挟持部
21a 表面
22 ハンドル部
22a 表面
23 歯列
23a 歯
24 係合部
24a 溝
25 ばね(付勢手段)
26 長孔
3 アプライヤ
3a 歯
4 トロッカー
5 牽引糸
Aa 患部(臓器等)
B 患者の身体
S 面
L 外科手術用クリップの軸線