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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20241007BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20241007BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241007BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20241007BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C08L9/06
C08L7/00
C08K3/36
C08L57/02
B60C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021565629
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020047038
(87)【国際公開番号】W WO2021125242
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019229801
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】522417649
【氏名又は名称】シントマー アドヘッシブ テクノロジー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Synthomer Adhesive Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】ソーメンドラ クマール バス
(72)【発明者】
【氏名】マーク ウィリアム イングラッタ
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174696(JP,A)
【文献】特開2018-203894(JP,A)
【文献】特開2017-203111(JP,A)
【文献】特開2013-099898(JP,A)
【文献】特開2015-124372(JP,A)
【文献】特開2018-177853(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105230(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して40~125質量部である充填剤と、
軟化点が110℃より高く、ポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1200g/molであり、前記ゴム成分100質量部に対して5~50質量部である水添樹脂とを含み、
前記ゴム成分が、スチレンブタジエンゴム及びイソプレン骨格を有するゴムを含有し、
前記水添樹脂が、水添C 系樹脂、水添C -C 系樹脂、及び水添ジシクロペンタジエン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであるゴム組成物。
【請求項2】
前記充填剤が、シリカを含有し、前記充填剤中の前記シリカの含有量が80質量%以上である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記スチレンブタジエンゴムが、主鎖の末端に変性基を持たない請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の安全性を向上させる観点から、乾燥路面のみならず、湿潤路面、氷雪路面等の様々な路面上でのタイヤの制動性や駆動性を向上させるために、種々の検討がなされている。例えば、乾燥路面での制動性能が高く、かつ、マンホール等の、アスファルトと比して滑りやすい湿潤路面においても高い制動性能を有するトレッドゴムを製造可能なゴム組成物として、天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C系樹脂、C~C系樹脂、C系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5~50質量部、並びにシリカを含む充填剤(C)を20~120質量部配合してなり、前記充填剤(C)中のシリカ含有量が50~100質量%であるゴム組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、湿潤路面でのグリップ性能を損なうことなく、乾いた路面でのグリップ性能を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物として、スチレン含有率が20~60質量%であるスチレン-ブタジエンゴムを、ゴム成分中に70質量部以上含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、シリカ50~300質量部と、一般式mM1・xSiOy・zHOで表される無機剤0~150質量部と、カーボンブラック0~150質量部とからなる充填剤群から、シリカと無機剤の合計量が200~350質量部で、かつ、シリカと無機剤とカーボンブラックの合計量が200~350質量部となるように前記各充填剤を含有し、総充填剤量に対して70質量%以上の量となる軟化剤を含有すると共に、軟化点が145℃以下となる樹脂の少なくとも1種以上を5~60質量部含有してなるタイヤ用ゴム組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/079703号
【文献】特開2008-184505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2で開示されたゴム組成物では、ウェットグリップ性の向上と、転がり抵抗の低下とのバランスについて更なる向上が求められていた。
本発明は、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いタイヤ、並びに、該タイヤ及びハンドリング性に優れる加硫ゴムを製造可能なゴム組成物を提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> ゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対して40~125質量部である充填剤と、軟化点が110℃より高く、ポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1200g/molであり、前記ゴム成分100質量部に対して5~50質量部である水添樹脂とを含むゴム組成物。
【0007】
<2> 前記ゴム成分が、スチレンブタジエンゴムを含有する<1>に記載のゴム組成物。
<3> 前記ゴム成分が、イソプレン骨格を有するゴムを含有する<1>または<2>に記載のゴム組成物。
<4> 前記充填剤が、シリカを含有し、前記充填剤中の前記シリカの含有量が80質量%以上である<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<5> 前記水添樹脂が、水添C系樹脂、水添C-C系樹脂、及び水添ジシクロペンタジエン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つである<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<6> 前記スチレンブタジエンゴムが、主鎖の末端に変性基を持たない<2>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0008】
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いタイヤ、並びに、該タイヤ及びハンドリング性に優れる加硫ゴムを製造可能なゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して40~125質量部である充填剤と、軟化点が110℃より高く、ポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1200g/molであり、ゴム成分100質量部に対して5~50質量部である水添樹脂とを含む。
「軟化点が110℃より高く、ポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1200g/molである水添樹脂」を、「本発明の水添樹脂」と称することがある。
【0011】
従来の技術ではシリカのような無機充填剤によってウェットグリップ性能を向上させていた。しかし、そのような充填剤ではエネルギーロスも上昇してしまうという課題があった。また、ガラス転移温度(Tg)が異なるゴムをブレンドして、タイヤの耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能と低転がり抵抗性能とのバランスに優れたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する検討がされてきたが、低ロス性能、耐摩耗性能等において不十分な点もあった。
また近年では、ゴム組成物中の熱可塑性樹脂の量を多くした配合、充填材におけるシリカ比率が高い配合、シリカを高分散させる変性ポリマーを使用する配合等、種々の検討がなされてきたが、二律背反解消にも限界があった。特に熱可塑性樹脂を始めとした軟化剤を多く配合する技術では、ゴムの弾性率が低下する問題もあった。
これに対し、本発明のゴム組成物は上記構成であることで、本発明のゴム組成物から得られた加硫ゴムはハンドリング性に優れ、本発明のゴム組成物から得られたタイヤは、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低い。
【0012】
かかる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
本発明の水添樹脂は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1200以下であり、低分子量あるためゴム成分と相溶し易く、また、本発明の水添樹脂は軟化点が高いので、ゴム成分を補強し、加硫ゴムの弾性率を著しく低減又は増大させることなく、タイヤの転がり抵抗が下がると考えられる。それと共に、本発明の水添樹脂は、その相溶し易さから、路面グリップ性に必要な柔軟性をタイヤに与えることができ、滑り易い湿潤路面でのグリップ性、すなわち、ウェットグリップ性を向上することができると考えられる。
また、ゴム組成物が本発明の水添樹脂を含むことで、加硫ゴムの弾性率(E’)を大きすぎず、小さすぎない範囲に制御することができるため、加硫ゴムのハンドリング性にも優れると考えられる。
以上より、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いと考えられる。
以下、本発明のゴム組成物及びタイヤについて詳細に説明する。
【0013】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物はゴム成分を含む。
ゴム成分は、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)の他;スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPR,EPDM)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴムを用いることができる。中でも、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)等のジエン系ゴムを用いることが好ましい。
ゴム成分は、未変性ゴムを用いることが好ましい。
変性スチレンブタジエンゴムは含まないことが好ましい。スチレンブタジエンゴムは、分子末端(特に、主鎖の末端)に変性基を持たないことが好ましい。
ゴム成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
ゴム成分は、加硫ゴムの機械的強度を向上し、耐摩耗性、引き裂き強度等を高める観点から、イソプレン骨格を有するゴムを含むことが好ましい。また、タイヤのウェットグリップ性を向上し、転がり抵抗をより低くする観点から、ゴム成分は、スチレンブタジエンゴムを含んでいることが好ましい。
【0015】
(イソプレン骨格を有するゴム)
ゴム成分がイソプレン骨格を有するゴムを含有することで加硫ゴムの破壊強度を高めることができる。その結果、タイヤの転がり抵抗を低くすることができ、また、加硫ゴムの耐摩耗性、引き裂き強度等に優れる。
イソプレン骨格を有するゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)等が挙げられる。
ゴム成分中のイソプレン骨格を有するゴムの含有量は、タイヤの転がり抵抗をより低くし、また、加硫ゴムの耐摩耗性、引き裂き強度等を向上する観点から、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることが更に好ましい。
【0016】
〔充填剤〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して40~125質量部である充填剤を含有する。
ゴム組成物中の充填剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対し、40質量部未満であると、タイヤの補強が不十分であり、また、125質量部を超えると、転がり抵抗を低くすることができず、タイヤの弾性率が高まりすぎて、ウェットグリップ性に優れない。
ウェットグリップ性を向上する観点から、ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、45質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、55質量部以上であることが更に好ましい。また、転がり抵抗をより低くする観点から、ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、110質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましい。
充填剤は、特に限定されず、例えば、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機充填剤;及びカーボンブラック等が挙げられる。中でも、充填剤は、シリカ及びカーボンブラックが好ましく、少なくとも、シリカを含有することがより好ましい。
【0017】
(シリカ)
シリカは、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
シリカは、窒素吸着比表面積(BET法)が130m/g以上330m/g未満であることが好ましい。
シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が130m/g以上であることで、タイヤを十分に補強することができ、転がり抵抗をより低くすることができる。また、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が330m/g未満であることで、タイヤの弾性率を過度に高めず、ウェットグリップ性に優れる。
転がり抵抗をより低くし、タイヤの耐摩耗性、引き裂き強度等を向上する観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、180m/g以上であることがより好ましく、190m/g以上であることが更に好ましい。また、ウェットグリップ性をより向上する観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、300m/g以下であることがより好ましく、280m/g以下であることがより好ましく、270m/g以下であることが更に好ましい。
【0018】
タイヤの機械的強度を向上し、転がり抵抗をより低くする観点から、充填剤中のシリカの含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
また、ゴム組成物中のシリカの含有量は、タイヤの機械的強度を向上し、ウェットグリップ性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることが更に好ましい。また、転がり抵抗をより低くする観点から、ゴム組成物中のシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、90質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることが更に好ましい。
【0019】
(カーボンブラック)
充填剤は、更にカーボンブラックを含むことが好ましい。ただし、カーボンブラックは、充填剤中のシリカの含有量が80質量%以上である範囲で、含まれることが好ましい。
カーボンブラックは、加硫ゴムを補強して、加硫ゴムの耐摩耗性を向上させる。
カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0020】
ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、加硫ゴムの耐摩耗性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが更に好ましい。また、加硫ゴムの低ロス性を維持する観点から、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましく、9質量部以下であることが更に好ましい。
【0021】
〔水添樹脂〕
ゴム組成物は、軟化点が110℃より高く、ポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1200g/molである水添樹脂を含有する。ゴム組成物中の水添樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して5~50質量部である。
水添樹脂の軟化点が110℃以下であると、ウェット性能を改良することができない。水添樹脂の軟化点は、ウェット性能を改良する観点から、115℃以上であることが好ましく、118℃以上であることがより好ましく、121℃以上であることが更に好ましく、123℃以上であることがより更に好ましく、125℃以上であることがより更に好ましく、127℃以上であることがより更に好ましく、128℃以上であることがより更に好ましく、129℃以上であることがより更に好ましい。また、水添樹脂の軟化点は、0℃のtanδのみならず、転がり領域である50℃のtanδの上昇を抑制する観点から、145℃以下であることが好ましく、143℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、136℃以下が更に好ましく、135℃以下がより更に好ましく、133℃以下がより更に好ましい。
【0022】
水添樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量が200g/mol未満であると、タイヤから水添樹脂が析出し、水添樹脂による効果を十分に発現することができず、また、1200g/molを超えると水添樹脂がゴム成分と相溶することができない。
タイヤからの水添樹脂の析出を抑制し、タイヤ外観の低下を抑制する観点から、水添樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、300g/mol以上であることが好ましく、500g/mol以上であることが好ましく、700g/mol以上であることがより好ましく、750g/mol以上であることが更に好ましい。また、ゴム成分への水添樹脂の相溶性を高め、水添樹脂による効果をより高める観点から、水添樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、1150g/mol以下であることが好ましく、1100g/mol以下であることがより好ましく、1050g/mol以下であることが更に好ましく、950g/mol以下がより更に好ましく、930g/mol以下がより更に好ましく、900g/mol以下がより更に好ましい。水添樹脂は、プロパンおよびエタンのスチームクラッキングで得られたC5およびそれ以上の炭素数を持つ炭化水素留分の混合物を、フリーデル・クラフツ触媒を用いて重合することにより調製された高軟化点の炭化水素樹脂である。
【0023】
ゴム組成物中の水添樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対し5質量部未満であると、水添樹脂による効果を発現することができず、50質量部を超えるとタイヤから水添樹脂が析出し、水添樹脂による効果を十分に発現することができない。
ゴム組成物中の水添樹脂の含有量は、水添樹脂による効果をより高める観点から、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。また、タイヤからの水添樹脂の析出を抑制し、タイヤ外観の低下を抑制する観点から、ゴム組成物中の水添樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、47質量部以下であることが好ましく、43質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることが更に好ましい。
【0024】
水添樹脂とは、樹脂を還元水素化して得られる樹脂を意味する。
水添樹脂の原料となる樹脂としては、C系樹脂、C-C系樹脂、C系樹脂、テルペン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂等が挙げられ、これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
系樹脂としては、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。
留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。なお、C系樹脂は、市販品を利用することができる。
【0026】
-C系樹脂とは、C-C系合成石油樹脂を指し、C-C系樹脂としては、例えば、石油由来のC-C11留分を、AlCl、BFなどのフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデンなどを主成分とする共重合体などが挙げられる。
-C系樹脂としては、C以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。C-C系樹脂は、市販品を利用することができる。
【0027】
また、水添樹脂の原料となる樹脂は、例えば、C留分とジシクロペンタジエン(DCPD)とを共重合した樹脂(C-DCPD系樹脂)を含んでいてもよい。
ここで、樹脂全量中のジシクロペンタジエン由来成分が50質量%以上の場合、C-DCPD系樹脂はジシクロペンタジエン系樹脂に含まれるものとする。樹脂全量中のジシクロペンタジエン由来成分が50質量%未満の場合、C-DCPD系樹脂はC系樹脂に含まれるものとする。
【0028】
ゴム成分と水添樹脂との相溶性を高め、ウェットグリップ性をより向上し、また、転がり抵抗とハンドリング性とのバランスをより改良する観点から、水添樹脂は、水添C系樹脂、水添C-C系樹脂、及び水添ジシクロペンタジエン系樹脂(水添DCPD系樹脂)からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、水添C系樹脂及び水添C-C系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましく、水添C系樹脂であることが更に好ましい。
【0029】
(シランカップリング剤)
ゴム組成物は、更に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
シランカップリング剤としては、ゴム工業で通常使用されているシランカップリング剤を用いることができる。
【0030】
(各種成分)
本発明のゴム組成物は、既述のゴム成分、充填剤、及び水添樹脂、並びに、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される各種成分、例えば、軟化剤、本発明の水添樹脂以外の樹脂、加工性改良剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0031】
〔ゴム組成物の製造方法〕
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、既述のゴム成分、シリカ及び本発明の水添樹脂に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0032】
<タイヤ>
本発明のタイヤ(空気入りタイヤ)は、本発明のゴム組成物を用いてなる。
既述のように、本発明のゴム組成物から得られてなるタイヤは、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いため、本発明のゴム組成物から得られてなるはタイヤのトレッド部に好適である。
【0033】
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、または予備加硫工程等を経て、一旦未加硫のゴム組成物から半加硫ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0035】
<ゴム組成物の調製>
表1及び表2に示す配合処方で、通常のバンバリーミキサーを用いて、混合を行って、実施例及び比較例のゴム組成物を調製した。混合物の最高温度は170℃とした。
表1及び表2中の各成分の詳細は次のとおりである。
【0036】
〔ゴム成分〕
NR:天然ゴム、TSR20
SBR:JSR社製、商品名「SBR #1500」、結合スチレン量:24%
【0037】
〔充填剤、シランカップリング剤〕
CB:カーボンブラック、N134、旭カーボン社製、窒素吸着比表面積(NSA)=146m/g
シリカ:東ソー・シリカ社製、商品名「Nipsil AQ」、窒素吸着比表面積(BET法)=205m/g
シランカップリング剤:Evonic社製、商品名「Si69」
【0038】
〔軟化剤〕
(水添樹脂)
水添C系樹脂:Eastman社製、商品名「登録商標Impera E1780」
(非水添樹脂)
樹脂:JXTG社製
terpen phenol樹脂:Yasuhara社製
(オイル)
オイル:出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスNH-70S」
【0039】
軟化剤について、各樹脂の軟化点(Ts)及び重量平均分子量(Mw)は、表2に示す。
【0040】
〔各種成分〕
6C:老化防止剤、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」
DM:加硫促進剤、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、三新化学工業社製、商品名「サンセラー DM」
NS:加硫促進剤、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー NS」
DPG:加硫促進剤、1,3-ジフェニルグアニジン、三新化学工業社製、商品名「サンセラー D」
【0041】
<ゴム組成物の加硫及び加硫ゴムの評価>
1.転がり抵抗
ゴム組成物を160℃15分間加硫して得られた加硫ゴム試験片に対して、粘弾性測定機を用い、動的歪:1%、周波数:52Hz、測定温度:50℃の条件下で、加硫ゴム試験片の損失正接(tanδ)を測定した。
比較例3の加硫ゴム試験片のtanδを100として、各実施例及び各比較例の測定値を指数(RR指数)で表わした。指数が大きいほど、転がり抵抗が小さく、良好である。結果を表2に示す。
【0042】
2.ウェットグリップ性
ゴム組成物を160℃15分間加硫して得られた加硫ゴム試験片に対して、粘弾性測定機を用い、動的歪:1%、周波数:52Hz、測定温度:0℃の条件下で、加硫ゴム試験片の損失正接(tanδ)を測定した。
比較例3の抵抗値を100として、各実施例及び各比較例の測定値を指数(Wet指数)で表わした。指数が大きい程、抵抗値が大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。結果を表2に示す。許容範囲は150以上である。
【0043】
3.加硫ゴムのハンドリング性
ゴム組成物を160℃15分間加硫して得られた加硫ゴムに対して、貯蔵弾性率(E’)を、粘弾性測定機を用いて、温度30℃、動歪み1%、周波数52Hzの条件で測定した。
比較例3の加硫ゴムの測定結果を100とし、下記式に基づいてE’指数を算出し、表2に示した。
E’指数=(比較例3以外のE’/比較例3のE’)×100
加硫ゴムのハンドリング性は、E’指数が、小さすぎても、大きすぎても、優れず、指数値の許容範囲は102~120である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示す実施例の結果から、本発明に従う配合組成とすることで、加硫ゴムのハンドリング性に優れ、また、当該ゴム組成物を用いることで、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いタイヤが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のゴム組成物を用いることで、ウェットグリップ性に優れ、かつ、転がり抵抗が低いタイヤが得られることタイヤに利用することができることから、本発明のゴム組成物は、乗用車用タイヤ、トラック又はバス用タイヤ等の製造に好適に用いることができる。