(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】カルバ環状ホスファチジン酸化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6574 20060101AFI20241007BHJP
A61K 31/662 20060101ALI20241007BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241007BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241007BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C07F9/6574 A CSP
A61K31/662
A61P35/00
A61P19/02
A61P17/14
(21)【出願番号】P 2021567511
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048077
(87)【国際公開番号】W WO2021132297
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019231247
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米山 心
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 宏紀
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-222643(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024605(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161978(WO,A1)
【文献】特開2004-010582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、R
1は水素原子、アルカリ金属原子、アルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表される、カルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【請求項2】
一般式(1A):
【化2】
[式中、R
1は前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。]
で表される、請求項1に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【請求項3】
前記R
1が水素原子又はアルカリ金属原子である、請求項1又は2に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物の製造方法であって、
一般式(3):
【化3】
[式中、R
1bはアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。]
で表される環状ホスホン酸化合物と、
リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物とを反応させて、
一般式(1-2):
【化4】
[式中、R
1bは前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(A)
を備える、製造方法。
【請求項5】
さらに、前記一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、ハロゲン化アルカリ金属とを反応させて、
一般式(1-1):
【化5】
[式中、R
1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(B)
を備える、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
環状ホスホン酸化合物の分解抑制剤であり、
請求項3に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物を含有
し、
前記環状ホスホン酸化合物が、
一般式(2):
【化6】
[式中、R
1a
は水素原子又はアルカリ金属原子である。]
で表される、分解抑制剤。
【請求項7】
一般式(1-1):
【化7】
[式中、R
1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、
一般式(2):
【化8】
[式中、R
1aは前記に同じである。]
で表される環状ホスホン酸化合物とを含有する、組成物。
【請求項8】
前記環状ホスホン酸化合物100質量部に対して、前記カルバ環状ホスファチジン酸化合物を0.001~0.44質量部含有する、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
医薬組成物である、請求項
7又は
8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバ環状ホスファチジン酸化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ホスホン酸ナトリウム塩として、9-オクタデセン酸(9Z)-(2-ヒドロキシ-2-オキソ-2λ5-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルのナトリウム塩は、一般に、2ccPAと称される化合物である。
【0003】
【0004】
この2ccPAは、強力な鎮痛作用を有することが知られており(例えば、特許文献1参照)、また、癌細胞の浸潤抑制作用による抗癌剤(例えば、特許文献2参照)、ヒアルロン酸産生促進による変形性関節症治療薬(例えば、特許文献3参照)、育毛剤(例えば、特許文献4参照)等としても期待されている。
【0005】
2ccPAの合成方法としては、様々な方法が知られており、例えば、2ccPAは、下記反応式-1で示される製造方法により製造されてきた(例えば、特許文献2、特許文献5、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0006】
【0007】
一方、高純度な結晶として2ccPAを製造する方法も知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2008/081580号
【文献】特開2004-010582号公報
【文献】国際公開第2013/069404号
【文献】国際公開第2013/161978号
【文献】国際公開第03/104246号
【文献】国際公開第2016/024605号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2007,1771,p.103-112
【文献】Tetrahedoron,1991,Vol.47,No.6,p.1001-1012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、2ccPAは、高純度な結晶であっても、主に空気中又は高温下に保存した場合、急激に分解してしまう。このため、2ccPAの分解を抑制することができる、安定化効果に優れた分解抑制剤が求められている。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、2ccPAの分解反応の進行を遅らせ、優れた安定化効果を示す分解抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、オレイン酸ユニットを有する2ccPAに対して、リノール酸ユニット又はリノレン酸ユニットを有するカルバ環状ホスファチジン酸化合物が、優れた分解抑制効果を示すことを見出した。本発明は、このような知見に基づきさらに研究を重ね完成されたものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0013】
項1.一般式(1):
【0014】
【0015】
[式中、R1は水素原子、アルカリ金属原子、アルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表される、カルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【0016】
項2.一般式(1A):
【0017】
【0018】
[式中、R1は前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。]
で表される、項1に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【0019】
項3.前記R1が水素原子又はアルカリ金属原子である、項1又は2に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物。
【0020】
項4.項1~3のいずれか1項に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物の製造方法であって、
一般式(3):
【0021】
【0022】
[式中、R1bはアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。]
で表される環状ホスホン酸化合物と、リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物とを反応させて、一般式(1-2):
【0023】
【0024】
[式中、R1bは前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(A)
を備える、製造方法。
【0025】
項5.さらに、前記一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、ハロゲン化アルカリ金属とを反応させて、
一般式(1-1):
【0026】
【0027】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(B)
を備える、項4に記載の製造方法。
【0028】
項6.項3に記載のカルバ環状ホスファチジン酸化合物を含有する、分解抑制剤。
【0029】
項7.環状ホスホン酸化合物の分解抑制剤である、項6に記載の分解抑制剤。
【0030】
項8.前記環状ホスホン酸化合物が、一般式(2):
【0031】
【0032】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子である。]
で表される、項7に記載の分解抑制剤。
【0033】
項9.一般式(1-1):
【0034】
【0035】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、
一般式(2):
【0036】
【0037】
[式中、R1aは前記に同じである。]
で表される環状ホスホン酸化合物とを含有する、組成物。
【0038】
項10.前記環状ホスホン酸化合物100質量部に対して、前記カルバ環状ホスファチジン酸化合物を0.001~0.44質量部含有する、項9に記載の組成物。
【0039】
項11.医薬組成物である、項9又は10に記載の組成物。
【発明の効果】
【0040】
本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、R1が水素原子又はアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、R1がアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基である一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物とを包含する。
【0041】
このうち、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、2ccPAの分解を抑制することができるため、分解抑制剤として有用である。また、一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、上記した一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、特に制限のない限りA以上B以下を意味する。
【0043】
1.カルバ環状ホスファチジン酸化合物
本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、一般式(1):
【0044】
【0045】
[式中、R1は水素原子、アルカリ金属原子、アルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表される化合物である。
【0046】
一般式(1)において、実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。つまり、一般式(1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物には、以下の一般式(1-a)及び(1-b):
【0047】
【0048】
[式中、R1は前記に同じである。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表される化合物を包含する。このうち、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、一般式(1-a)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物が好ましい。
【0049】
次に、一般式(1)において、波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。つまり、一般式(1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物が有する二重結合は、それぞれ、シス配置及びトランス配置のいずれも採用し得る。このため、上記した一般式(1-a)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の場合は、二重結合を有する8位及び11位(いずれもカルボニル基の隣の炭素原子(α炭素)を1位としたときの位置を示す。以下同じ。)において、この順に、シス-シス、シス-トランス、トランス-シス、トランス-トランスのいずれも採用し得る。また、上記した一般式(1-b)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の場合は、二重結合を有する8位、11位及び14位において、この順に、シス-シス-シス、シス-シス-トランス、シス-トランス-シス、トランス-シス-シス、シス-トランス-トランス、トランス-シス-トランス、トランス-トランス-シス及びトランス-トランス-トランスのいずれも採用し得る。これらのなかでも、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、全ての二重結合がシス配置であることが好ましい。つまり、一般式(1A):
【0050】
【0051】
[式中、R1は前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物が好ましい。
【0052】
一般式(1)において、R1で示されるアルカリ金属原子としては、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。なかでも、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、ナトリウム原子が好ましい。
【0053】
一般式(1)において、R1で示されるアルキル基としては、例えば、鎖状又は分岐状の炭素数1~10アルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基等が挙げられる。なかでも、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、炭素数1~6アルキル基が好ましく、炭素数1~4アルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基等がさらに好ましい。
【0054】
上記アルキル基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基等の置換基を1~5個、特に1~3個有していてもよい。
【0055】
一般式(1)において、R1で示されるアリールアルキル基としては、例えば、炭素数7~16のアリールアルキル基(アリール部分が炭素数6~10であり、アルキル基部分が炭素数1~6である)が挙げられ、具体的には、ベンジル基;1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基;1-フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基、3-フェニルプロピル基;1-フェニルブチル基、2-フェニルブチル基、3-フェニルブチル基、4-フェニルブチル基;ナフチルメチル基等が挙げられる。なかでも、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、炭素数7~11のアリールアルキル基が好ましく、炭素数7~8のアリールアルキル基がより好ましく、ベンジル基がさらに好ましい。
【0056】
R1で示される上記アリールアルキル基を構成するアリール基は、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基等の置換基を1~5個、特に1~3個有していてもよい。
【0057】
一般式(1)において、R1で示される上記アリール基としては、例えば、単環又は2環以上のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基等が挙げられる。該アリール基は、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基等の置換基を1~5個、特に1~3個有していてもよい。このうち、合成のしやすさ、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
【0058】
上記した本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物の形態は特に制限されない。例えば、液体、固体、結晶等が挙げられる。なかでも、後述の環状ホスホン酸化合物(2ccPA等)に対する安定化効果等の観点から、結晶が好ましい。なお、結晶の場合の製造方法は後述する。
【0059】
上記した本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物については、R1が水素原子又はアルカリ金属原子である一般式(1-1):
【0060】
【0061】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、環状ホスホン酸化合物の分解を抑制する分解抑制剤として有用である。対象となる環状ホスホン酸化合物については後述する。
【0062】
一方、R1がアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基である一般式(1-2):
【0063】
【0064】
[式中、R1bはアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、後述の製造方法からも理解できるように、上記した一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を合成するための中間体として有用である。
【0065】
2.カルバ環状ホスファチジン酸化合物の製造方法
本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物の製造方法は、特に制限されるわけではないが、一般式(3):
【0066】
【0067】
[式中、R1bはアルキル基、アリールアルキル基又はアリール基を示す。]
で表される環状ホスホン酸化合物と、リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物とを反応させて、一般式(1-2):
【0068】
【0069】
[式中、R1bは前記に同じである。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(A)を備えることが好ましい。
【0070】
(2-1)工程(A)
工程(A)において、原料化合物として使用する一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物は、公知又は市販品を用いることもできるし、公知の方法にしたがって合成することもできる。例えば、国際公開第2016/024605号に記載の工程(A)、工程(B)、工程(C)、工程(D)、工程(E)及び工程(F)にしたがって合成することができる。この際、工程(B)及び工程(C)の代わりに国際公開第2016/024605号に記載の工程(B’)を採用することもできる。
【0071】
具体的には、工程(A)は、一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物と、リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物とを反応させて、一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程(エステル化工程)であり、公知のエステル化反応を適宜適用することができる。なお、リノール酸化合物を用いた場合は、上記した一般式(1-a)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を合成することができ、リノレン酸化合物を用いた場合は、上記した一般式(1-b)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を合成することができる。
【0072】
リノール酸化合物としては、例えば、リノール酸の他、リノール酸ハライド、リノール酸無水物、リノール酸エステル等のリノール酸誘導体も使用することができる。これらのリノール酸化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0073】
リノレン酸化合物としては、例えば、リノレン酸の他、リノレン酸ハライド、リノレン酸無水物、リノレン酸エステル等のリノレン酸誘導体も使用することができる。これらのリノレン酸化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0074】
工程(A)で用いられるリノール酸ハライド又はリノレン酸ハライドにおけるハライドとしては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。特に該ハライドとしては、合成のしやすさの観点から、塩素原子が好ましい。
【0075】
工程(A)で用いられるリノール酸エステル又はリノレン酸エステルにおけるエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル等が挙げられる。
【0076】
リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物の使用量としては、特に制限はなく、合成のしやすさの観点から、例えば、上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物1モルに対して、1~2モルが好ましく、1~1.5モルがより好ましい。なお、リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物を複数用いる場合は、合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0077】
工程(A)としては、具体的には、例えば、
上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物と、リノール酸及び/又はリノレン酸とを、縮合剤及び必要に応じて塩基の存在下で反応させる方法(工程A-1);
上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物とリノール酸ハライド及び/又はリノレン酸ハライドとを塩基の存在下で反応させる方法(工程A-2);
上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物とリノール酸無水物及び/又はリノレン酸無水物とを反応させる方法(工程A-3);
上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物とリノール酸エステル及び/又はリノレン酸エステルとを反応させる方法(工程A-4)
等を挙げることができる。
【0078】
工程A-1で用いられる縮合剤としては、公知の縮合剤であれば制限なく、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド(EDC)、2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージド(CMPI)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(pyBOP)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)等が挙げられる。
【0079】
工程A-2で用いられるリノール酸ハライド及び/又はリノレン酸ハライドは、ハライドとして投入してもよいし、反応系中でリノール酸及び/又はリノレン酸からリノール酸ハライド及び/又はリノレン酸ハライドを合成してもよい。
【0080】
工程A-1及びA-2で用いられる塩基としては、特に制限はなく、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジエチルアニリン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基等が挙げられる。
【0081】
工程A-3で用いられるリノール酸無水物及び/又はリノレン酸無水物は、無水物として投入してもよいし、反応系中でリノール酸及び/又はリノレン酸からリノール酸無水物及び/又はリノレン酸無水物を合成してもよい。
【0082】
上記した縮合剤及び塩基は、リノール酸化合物又はリノレン酸化合物の種類により適宜選択され得る。また、縮合剤及び塩基は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。さらに、上記した縮合剤又は塩基は、上記一般式(3)で表される環状ホスホン酸化合物1モルに対して、通常は0.25モルから過剰量まで任意の割合で使用することができ、合成のしやすさの観点から、0.5~2モルが好ましい。なお、縮合剤及び塩基を複数用いる場合は、合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0083】
その他条件は特に制限されない。具体的には、工程(A)は、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。また、反応圧力は、特に制限はなく、常圧下、又は加圧下で実施できる。また、反応温度は、通常0~120℃が好ましく、0~30℃がより好ましく、15~25℃がさらに好ましい。また、反応時間は、通常0.1~100時間が好ましく、0.5~50時間がより好ましく、2~17時間がさらに好ましい。
【0084】
反応終了後、得られる反応混合物から、過剰の試薬(リノール酸化合物、リノレン酸化合物等)、未反応の原料化合物等を、分液、濃縮、カラム精製等の通常の分離方法により除去し、目的とする一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を取り出すことができる。また、R1を水素原子又はアルカリ金属原子とする場合は、反応終了後、分液及び濃縮のみを行い、精製及び単離工程を経ずに、反応後の混合物をそのまま工程(B)に用いることもできる(テレスコーピング合成)。
【0085】
(2-2)工程(B)
工程(B)は、前記工程(A)で製造された一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物のリン酸エステル部において脱エステル化反応を行うことで、一般式(1-1):
【0086】
【0087】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。実線と点線で示される結合は、単結合又は二重結合を示す。波線は単結合を示し、当該単結合が二重結合と隣接している場合は、立体配置がE配置、Z配置又はそれらの任意の混合物であることを示す。]
で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程である。
【0088】
この脱エステル化反応は、通常知られたリン酸エステルの脱エステル化反応を適用すればよいが、後に、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を結晶として得る場合は、この反応においてハロゲン化アルカリ金属を用いて一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得ることが好ましい。
【0089】
具体的には、工程(B)は、一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、ハロゲン化アルカリ金属とを、例えば有機溶媒中で反応させて、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を得る工程である。
【0090】
工程(B)で用いられるハロゲン化アルカリ金属としては、公知のものを広く使用でき、例えば、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。これらの中でも、合成の容易さの観点から、ハロゲン化ナトリウムが好ましく、ヨウ化ナトリウムがより好ましい。ハロゲン化アルカリ金属は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0091】
当該ハロゲン化アルカリ金属の使用量は、上記一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物1モルに対して、通常1~5モルであり、合成の容易さの観点から、1~3モルが好ましく、1~1.5モルがより好ましい。
【0092】
工程(B)は、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。工程(B)で用いられる有機溶媒としては、本反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に限定はない。用いられる有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒(分岐又は直鎖状ケトン及び環状ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族若しくは脂環式炭化水素系溶媒(n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等)、エステル系溶媒(酢酸エチル等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエチレン等)等が挙げられる。有機溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これら有機溶媒のうち、合成の容易さの観点から、ケトン系溶媒が好ましく、特にアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
【0093】
有機溶媒の使用量としては、広い範囲内から適宜選択することができ、例えば、一般式(1-2)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物1モルに対して、一般に2~20リットルが好ましく、2~5リットルがより好ましい。
【0094】
その他条件は特に制限されない。具体的には、工程(B)は、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。また、反応圧力は、特に制限はなく、常圧下、又は加圧下で実施できる。また、反応温度は、通常0~120℃が好ましく、50~120℃がより好ましく、70~120℃がさらに好ましい。なお、還流温度下が最も好ましい。また、反応時間は、通常0.1~100時間が好ましく、0.5~50時間がより好ましく、1~24時間がさらに好ましい。
【0095】
反応終了後、得られる反応混合物から、過剰の試薬(ハロゲン化アルカリ金属等)、未反応の原料化合物等を、濃縮、晶析、ろ過等の通常の分離方法により除去し、目的とする一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を取り出すことができる。
【0096】
ハロゲン化アルカリ金属を用いて得られる一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、一般式におけるR1aがアルカリ金属原子である塩の形態で製造される。
【0097】
そのため、R1aが水素原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を製造する場合は、R1aがアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物にハロゲン化水素等の酸を作用させるのが好ましい。
【0098】
使用されるハロゲン化水素としては、公知のものを広く使用でき、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。ハロゲン化水素は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0099】
当該ハロゲン化水素等の酸の使用量は、R1aがアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物に対して、1当量以上であれば特に制限されず、通常1.2当量以上であれば好ましい。
【0100】
本反応は、単離したR1aがアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を再度適当な溶媒に溶解させてハロゲン化水素等の酸を作用させてもよいが、R1aがアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を製造する反応液にハロゲン化水素等の酸を投入して作用させてもよい。
【0101】
使用する溶媒としては、上記脱エステル化反応で使用できる有機溶媒に加えて、水を挙げることができる。
【0102】
その他条件は特に制限されない。具体的には、工程(B)は、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。また、反応圧力は、特に制限はなく、常圧下、又は加圧下で実施できる。また、反応温度は、通常-20℃~120℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは5~40℃程度であってよい。また、反応時間は、通常数秒~1時間程度、好ましくは0.5~30分程度であってよい。
【0103】
反応終了後、分液、濃縮、晶析、ろ過等の通常の分離方法により単離して、目的とする一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物(R1a=水素原子)を得ることができる。
【0104】
(2-3)工程(C)
一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物(特に、R1aがアルカリ金属原子である化合物)を結晶として取り出す場合は、上記した工程(B)の脱エステル化反応の後、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を含有する溶液を減圧下で濃縮する(工程C-1)か、又は一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を含有する溶液を冷却する(工程C-2)ことにより、結晶を析出させる工程(C)を行うことが好ましい。
【0105】
工程C-1における減圧は、結晶が析出する圧力であれば、特に制限はなく、通常大気圧未満とすることができる。
【0106】
工程C-2における冷却温度は、結晶を析出させる温度であれば特に制限なく、通常、工程(B)の反応後、その溶液の温度より低い温度とすることができ、0~50℃が好ましく、10~40℃がより好ましい。
【0107】
冷却時間は、特に制限はなく、通常0.1~100時間とすることができ、0.2~50時間が好ましく、0.5~2時間がより好ましい。
【0108】
なお、この工程(C)では、工程C-1と工程C-2とを組合せて行うことも可能である。具体的には、カルバ環状ホスファチジン酸化合物を含有する溶液を減圧下で濃縮する工程C-1を施した後に、得られた一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を再度上記した有機溶媒に再溶解させて冷却する工程C-2を施すことも可能である。
【0109】
(2-4)工程(D)及び(E)
上記の工程(C)により結晶を得た後、さらに、
工程(C)により得られた結晶を、水及び/又は有機溶媒に溶解する工程(D)、及び
工程(D)で得られた溶液に貧溶媒を加え、再結晶を行う工程(E)
を施すこともできる。
【0110】
工程(D)で用いられる水及び/又は有機溶媒は、工程(C)で得られた結晶を溶解することができる水及び/又は有機溶媒をいずれも使用することができる。該有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒が挙げられ、特にメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等が好ましい。
【0111】
水及び/又は有機溶媒の使用量としては、広い範囲内から適宜選択することができ、例えば、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物1モルに対して、一般に0.5~20リットルが好ましく、0.5~2リットルがより好ましい。
【0112】
水及び有機溶媒の混合溶媒を使用する場合、その配合比率は特に制限はなく、水と有機溶媒との配合比率は、体積比で1:99~99:1が好ましく、30:70~70:30がより好ましい。
【0113】
溶解させる温度は、特に限定はなく、通常0~100℃とすることができ、10~80℃が好ましく、20~60℃がより好ましい。
【0114】
工程(D)の時間は、特に限定はなく、通常0.1~100時間とすることができ、0.5~50時間が好ましく、1~2時間がより好ましい。
【0115】
工程(E)で用いられる貧溶媒としては、工程(D)で得られた溶液から結晶を析出させることができる溶媒をいずれも使用することができる。具体的には、該貧溶媒としては、工程(D)で用いる溶媒(良溶媒)より貧溶媒とすることが好ましく、例えば、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族若しくは脂環式炭化水素系溶媒(n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等)、エステル系溶媒(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエチレン等)、炭素数3以上のアルコール系溶媒(1-プロパノール等)等が挙げられる。
【0116】
また、この工程(E)で用いる溶媒は、工程(D)で用いる溶媒(良溶媒)より貧溶媒を用いることができ、例えば、工程(D)で用いる溶媒がメタノールの場合、該貧溶媒として、炭素数3以上のアルコール系溶媒(1-プロパノール等)を使用することができる。有機溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これら有機溶媒のうち、ケトン系溶媒が好ましく、特にアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
【0117】
貧溶媒の使用量としては、広い範囲内から適宜選択することができ、例えば、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物1モルに対して、一般に1~30リットルが好ましく、2~5リットルがより好ましい。
【0118】
貧溶媒を加える時の温度は、通常-20℃~30℃であり、-10℃~20℃が好ましく、0℃~20℃がより好ましい。
【0119】
上記工程(E)により得られる、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の結晶は、高純度であり、かつ保存安定性に優れるうえに、環状ホスホン酸化合物を安定化させることができるという利点を有する。
【0120】
3.分解抑制剤及び組成物
本発明のカルバ環状ホスファチジン酸化合物のうち、R1が水素原子又はアルカリ金属原子である一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、分解抑制剤として有用である。
【0121】
特に、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、環状ホスホン酸化合物、なかでも、一般式(2):
【0122】
【0123】
[式中、R1aは水素原子又はアルカリ金属原子である。]
で表される環状ホスホン酸化合物の分解を抑制することができる点で有用である。
【0124】
具体的には、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を、環状ホスホン酸化合物(特に上記した一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物)と共存させることにより、当該環状ホスホン酸化合物が分解することを抑制することができる。
【0125】
この際、環状ホスホン酸化合物の形態は特に制限されず、例えば、液体、固体、結晶等が挙げられる。なかでも、安定性等の観点から、結晶が好ましい。
【0126】
一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物を結晶として得る場合は、国際公開第2016/024605号に記載の方法にしたがって合成することが好ましい。具体的には、上記した「カルバ環状ホスファチジン酸化合物の製造方法」において、リノール酸化合物及び/又はリノレン酸化合物の代わりに、オレイン酸化合物を使用すること以外は同様に、合成することができる。これにより、非常に高純度な結晶として得ることができる。
【0127】
この際使用できるオレイン酸化合物としては、例えば、オレイン酸の他、オレイン酸ハライド、オレイン酸無水物、オレイン酸エステル等のオレイン酸誘導体も挙げることができる。ハライド及びエステルについては、上記した説明をそのまま採用することができる。これらオレイン酸化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0128】
上記した一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物は、高純度な結晶であっても、主に空気中又は高温下において保存した場合、急激に分解してしまう。一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物は、この分解を抑制できることから分解抑制剤として有用である。
【0129】
一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物の分解を抑制する方法は、特に制限はされない。具体的には、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物とを含有する組成物を形成することにより、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物の分解を抑制することができる。
【0130】
上記した組成物において、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の含有量は特に制限されない。具体的には、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物100質量部に対して、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の含有量は、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上とすることができ、また、好ましくは0.45質量部未満、より好ましくは0.4質量部以下、更に好ましくは0.35質量部以下とすることができる。一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物の含有量をこの範囲とすることにより、ごく少量にもかかわらず、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物の分解を効果的に抑制することができる。なお、この組成物は、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物とを意図的に混合した場合の他、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物又は一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物を合成する際に他方が副生成物として合成される場合も包含される。
【0131】
当該組成物の形態は、特に制限されず、液体、固体及び結晶のいずれも採用し得るが、安定性の観点からは結晶が好ましい。また、当該組成物を得る際には、均質な混合物を得るための様々な方法及び装置を用いることができる。例えば、環状ホスホン酸化合物(特に上記した一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物)が結晶である場合は、一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物と環状ホスホン酸化合物(特に上記した一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物)とを直接混合することもできるし、環状ホスホン酸化合物(特に上記した一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物)を溶媒に溶解又は懸濁させた状態で一般式(1-1)で表されるカルバ環状ホスファチジン酸化合物を添加して結晶化することもできる。結晶化の方法は、上記した工程(C)、工程(D)及び工程(E)に準じて行うことができる。
【0132】
上記した組成物は、一般に、一般式(2)で表される環状ホスホン酸化合物が適用される用途、例えば、癌細胞の浸潤抑制作用による抗癌剤、ヒアルロン酸産生促進による変形性関節症治療薬、育毛剤等の医薬組成物とすることもできる。
【実施例】
【0133】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0134】
なお、実施例及び比較例において、原料化合物である(2-メトキシ-2-オキソ-2λ5-[1.2]オキサホスホラン-4-イル)メタノール(化合物3a)は、国際公開第2016/024605号の合成例G5の工程B、C、D、E及びFにしたがって合成した。
【0135】
また、試験例1で用いた9-オクタデセン酸(9Z)-(2-ヒドロキシ-2-オキソ-2λ5-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルのナトリウム塩(2ccPA)は、国際公開第2016/024605号の実施例2にしたがって合成した。
【0136】
実施例1
【0137】
【0138】
式中、EDCは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライドを示す。DMAPは4-ジメチルアミノピリジンを示す。
【0139】
(2-メトキシ-2-オキソ-2λ5-[1.2]オキサホスホラン-4-イル)メタノール(化合物3a)500.0mg(3.01mmol)をジクロロメタン5.7mLに溶解させ、さらにリノール酸840.0mg(3.01mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)109.9mg(0.90mmol)を添加し、0℃に冷却した。その後、この溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド(EDC)690.0mg(3.62mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。1N塩酸2.2mLで反応停止し、分液後、ジクロロメタン2mLで抽出、ジクロロメタン2mLで再度抽出した。水2mLで有機相を洗浄し、再度水2mLで再洗浄をした。その後、減圧下、ジクロロメタンを留去し、シリカゲルクロマ卜グラフィ一(酢酸エチル:ヘキサン)で精製することで、カルバ環状ホスファチジン酸化合物(化合物1-2a;C23H41O5P)1.05g(2.45mmol)を収率81%で得た。目的物が得られたことを、1H NMR、13C NMR、IR及びLC/MSで確認した。
1H NMR(500MHz ClCD3)
0.89(t,J=6.9Hz,3H)、1.28-1.35(m,14H)、1.60-1.73(m,3H)、2.02-2.08(m,5H)、2.31(t,J=7.6Hz,2H)、2.77(t,6.6Hz,2H)、2.89-3.00(m,1H)、3.78-4.33(m,7H)、5.32-5.37(m,4H)。
13C NMR(500MHz ClCD3)
14.3,21.4,22.4,22.9,25.1,25.9,27.1,29.4,29.5,29.6,29.9,31.8,34.3,36.7,36.9,53.0,64.2,68.8,128.2,128.4,130.3,130.5,173.7
IR
588,724,823,857,1001,1044,1170,1266,1358,1460,1651,1737,2855,2925,3007,3463cm-1
LC/MS
Calcd;[M+H]+ 429.28
Found;429.2。
【0140】
実施例2
【0141】
【0142】
式中、MEKはメチルエチルケトンを示す。
【0143】
実施例1で得られたカルバ環状ホスファチジン酸化合物(化合物1-2a)1.03g(2.40mmol)を、メチルエチルケトン9.1mLに溶解させ、これにヨウ化ナトリウム540.0mg(3.60mmol)を加えて、加熱還流下、10時間反応させた。反応後、反応液を濃縮し、次いでメタノール2.5mLに40℃で溶解させ、30℃に冷却した。その後、この溶液にアセトン5.1mLを滴下した。15℃に降温後、アセトン5.1mLを滴下し、1時間熟成した。その後、結晶を濾過し、アセトン11.2mLで洗浄し、減圧下で乾燥させて、純度95.6%のカルバ環状ホスファチジン酸化合物(2ccPA-L;C22H38NaO5P)の結晶779.0mg(1.79mmol)を得た。目的物が得られたことを、1H NMR、13C NMR、IR及びLC/MSで確認した。なお、LC/MSは、溶離液に緩衝液を使用したことから以下のように水素化したカルバ環状ホスファチジン酸として確認した。
【0144】
【0145】
1H NMR(500MHz D2O)
0.88(t,J=6.8,3H)、1.28-1.35(m,15H)、1.41-1.49(m,2H)、1.60(br,2H)、1.85-1.92(m,1H)、2.02-2.05(t,J=6.8,3H)、2.33-3.36(t,J=7.7,2H)、2.73-2.77(m,2H)、2.80-2.85(m,1H)、3.75-3.80(m,1H),4.06-4.20(m,3H)、5.26-5.38(m,3H)
13C NMR(500MHz D2O)
13.9,22.2,22.5,23.2,24.7,25.5,27.1,27.2,28.2,29.2,29.3,29.7,31.4,33.8,36.8,65.6,67.2,127.8,127.9,129.7,129.8,179.8
IR
592,744,776,854,1017,1099,1209,1461,1732,2856,2924,3008,3300cm-1
LC/MS
Chemical Formula:C22H39O5P
Calcd;[M+H]+ 415.26
Found;415.2
融点
139℃。
【0146】
比較例1
【0147】
【0148】
式中、EDCは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライドを示す。DMAPは4-ジメチルアミノピリジンを示す。
【0149】
(2-メトキシ-2-オキソ-2λ5-[1.2]オキサホスホラン-4-イル)メタノール(化合物3a)1.0g(6.02mmol)をジクロロメタン11.2mLに溶解させ、さらにパルミチン酸1.54g(6.02mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)220.0mg(7.22mmol)を添加し、0℃に冷却した。その後、この溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド(EDC)1.38g(1.81mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。1N塩酸4.4mLで反応停止し、分液後、ジクロロメタン4mLで抽出、ジクロロメタン4mLで再度抽出した。水4mLで有機相を洗浄し、再度水4mLで再洗浄をした。その後、減圧下、ジクロロメタンを留去し、シリカゲルクロマ卜グラフィ一(酢酸エチル:ヘキサン)で精製することで、ホスホン酸エステル化合物(化合物4;C21H41O5P)1.72g(4.25mmol)を収率71%で得た。目的物が得られたことを、1H NMRで確認した。
1H NMR(500MHz ClCD3)
0.89(t,J=7.0Hz,3H)、1.25(br,24H)、1.54-1.76(m,3H)、1.98-2.05(m,1H)、2.31(t,J=7.6Hz,2H)、2.84-2.90(m,1H)、3.78-3.81(m,3H)、3.94-4.23(m,4H)。
【0150】
比較例2
【0151】
【0152】
式中、MEKはメチルエチルケトンを示す。
【0153】
比較例1で得られたホスホン酸エステル化合物(化合物4)1.72g(4.25mmol)を、メチルエチルケトン15.1mLに溶解させ、これにヨウ化ナトリウム960.0mg(6.38mmol)を加えて、加熱還流下、15時間反応させた。反応後、反応液を濃縮し、次いでメタノール4.5mLに40℃で溶解させ、30℃に冷却した。その後、この溶液にアセトン30mLを滴下した。15℃に降温後、アセトン30mLを滴下し、1時間熟成した。その後、結晶を濾過し、アセトン30mLで洗浄し、減圧下で乾燥させて、純度93.2%のカルバ環状ホスファチジン酸化合物(2ccPA-P;C20H38NaO5P)の結晶1.09g(2.64mmol)を得た。目的物が得られたことを、1H NMR、13C NMR、IR及びLC/MSで確認した。なお、LC/MSは、溶離液に緩衝液を使用したことから以下のように水素化したカルバ環状ホスファチジン酸として確認した。
【0154】
【0155】
1H NMR(500MHz CD3OD)
0.90(t,J=6.3Hz,3H)、1.29-1.43(m,25H)、1.59-1.62(m,2H)、1.74-1.81(m,1H)、2.33(t,J=7.4Hz,2H)、2.76-2.80(m,1H)、3.68-3.73(m,1H)、4.04-4.15(m,3H)
13C NMR(500MHz CD3OD)
15.3,24.6,24.8,25.8,26.9,29.1,31.1,31.2,31.3,31.4,31.5,31.6,33.9,35.8,39.4,39.5,41.3,67.4,68.5,176.2
IR
461,583,743,773,858,1018,1100,1167,1206,1412,1469,1678,1732,2076,2850,2916,3300,3459cm-1
LC/MS
Chemical Formula:C20H39O5P
Calcd;[M+H]+ 391.26
Found;391.2
融点
186℃。
【0156】
試験例1
(1)試験サンプル
実施例2の2ccPA-L又は比較例2の2ccPA-Pを2ccPAに添加し、安定性試験を実施した。
・コントロール;2ccPAの結晶
・披験物質;各濃度になる2ccPA-L又は2ccPA-Pを2ccPAに添加し、メタノール及びアセトンで晶析した結晶。
【0157】
(2)実施条件
安定性試験には、恒温恒湿器(YAMATO SCIENTIFIC CO.,LTD.IW223)を使用した。安定性試験は、設定温度40℃、設定湿度60%に維持された状態で実施した。
【0158】
(3)分析
サンプル純度の確認は、1週間ごとに各サンプルをそれぞれ約10mg秤量し、2mLのアセトニトリル/水(体積比1/1)で希釈し、その希釈液を高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所LC20AD)で分析した。
【0159】
結果を表1(実施例2)及び表2(比較例2)に示す。なお、表1及び表2においては、2ccPAのみに着目し、初期の2ccPAの含有量を100質量%として、その残存率を示している。
【0160】
【0161】
【0162】
表1のとおり、本発明の2ccPA-Lを2ccPAに共存させることで、長期間(例えば1週間及び2週間)保存した場合にも、2ccPAの純度がほとんど低下せず、安定性を向上させた2ccPA結晶が得られた。
【0163】
一方、表2のとおり、2ccPA-Pを2ccPAに0.15質量%添加した場合は、純度が低下し、2ccPA結晶の安定性はかえって劣化した。