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特許7566829黒浮きを軽減する表面形状拡散シート、反射型スクリーン、映像表示システム及び映像表示方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】黒浮きを軽減する表面形状拡散シート、反射型スクリーン、映像表示システム及び映像表示方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/60 20140101AFI20241007BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20241007BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20241007BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20241007BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20241007BHJP
   H04N 9/31 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03B21/60
G03B21/00 F
G03B21/14 Z
G02B5/02 C
H04N5/74 C
H04N9/31 820
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022131886
(22)【出願日】2022-08-22
(65)【公開番号】P2024029558
(43)【公開日】2024-03-06
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520220238
【氏名又は名称】株式会社有電社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 芳人
(72)【発明者】
【氏名】広田 修
(72)【発明者】
【氏名】木下 晴喜
(72)【発明者】
【氏名】岡安 俊樹
【審査官】中村 直行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116824(JP,A)
【文献】特開2012-103290(JP,A)
【文献】特開2016-099478(JP,A)
【文献】特開2011-128564(JP,A)
【文献】特開2020-106743(JP,A)
【文献】特開2019-020609(JP,A)
【文献】米国特許第09057941(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/00 ー 21/64
G02B 5/02
H04N 5/74
H04N 9/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射型スクリーンと、映像投影装置と、輝度計と、黒浮き量算出手段と、明度調整手段とを備えた映像表示システムであって、
前記反射型スクリーンは、前記映像投影装置からの映像光を拡散出射させる反射型スクリーンであって、
表面形状異方性拡散層と、
前記表面形状異方性拡散層の下地に平坦な基板と、
前記基板から背面側へ順次配置接合した、反射層、保護膜及び保持板を具備し、
前記反射層と前記基板との接合面が前記映像光を反射する面となり、
前記保護膜は、前記反射層を被覆する膜であり、
前記保持板は、前記基板の平坦性を維持する板であり、
さらに、前記基板と前記反射層との間に配置接合したレンズ層を有し、
前記レンズ層は、背面側に反射面形状を有するフレネルレンズからなり、
前記反射層と前記レンズ層との接合面が前記映像光を反射する面となり、
前記フレネルレンズの焦点距離fに対し、前記映像光を反射する面から、aの距離離れた前記映像投影装置の投射レンズのアイリス面からの映像光を反射して、(1/a)+(1/b)=1/fの関係を満たすbの距離離れた位置に空間結像アイリス面を作り、
前記表面形状異方性拡散層の表面の面内上下方向の拡散角度を±14°(半値幅)の範囲内とし、かつ前記基板の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tを0.5以上1未満の範囲内として外光による黒浮きを軽減した反射型スクリーンであり、
前記輝度計は、外光下で前記映像投影装置から前記空間結像アイリス面を作る反射型スクリーンに投影された、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得する手段であり
前記黒浮き量算出手段は、黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出する手段であり
前記明度調整手段は、前記黒色から黒浮き(R=Lb、G=Lb、B=Lb)した映像において、各要素の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正する手段であることを特徴とする、外光による黒浮き及び該黒浮きに起因する色再現性の悪化を軽減する映像表示システム。
【請求項2】
前記明度調整手段に代えて、あるいはさらに、映像光出力調整手段を備え、
前記映像光出力調整手段は、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減する手段であることを特徴とする請求項に記載の映像表示システム。
【請求項3】
請求項1に記載の空間結像アイリス面を作る反射型スクリーンと、映像光を投影する映像投影装置とを用いる映像表示方法であって、
前記映像投影装置から前記空間結像アイリス面を作る反射型スクリーンに、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)を投影する工程と、
外光下で前記黒色及び白色の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得する工程と、
黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出する工程と、
前記黒色から黒浮き(R=Lb、G=Lb、B=Lb)した映像において、各要素の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正する明度調整工程とを有することを特徴とする、外光による黒浮き及び該黒浮きに起因する色再現性の悪化を軽減する映像表示方法。
【請求項4】
前記明度調整工程に代えて、あるいはさらに、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減する映像光出力調整工程を有することを特徴とする請求項に記載の映像表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型スクリーンに適用される、黒浮きを軽減する表面形状拡散シート、この拡散シートを備えた反射型スクリーン、この反射型スクリーンを備えた映像表示システム及びこの反射型スクリーン(以下、単にスクリーンともいう)と映像投影装置とを用いる映像表示方法に関する。
【0002】
ここでいう、反射型スクリーンとは、スクリーンの正面側(観察者側)の映像投影装置(プロジェクターともいう)からの映像光を正面側に拡散・反射させて出射するスクリーンであり、スクリーンの表面から入射した映像光をスクリーンの表面で拡散・反射させるタイプや、スクリーンの表面で拡散し、内部の反射層で反射するタイプを指す。
【背景技術】
【0003】
反射型スクリーンでは、入射した映像光がスクリーンの表面にスポット状の明るい点となるホットスポットと呼ばれる現象や、天井灯及びスクリーン近傍の窓の明るさがスクリーンの表面に映って見えてしまう映り込みと呼ばれる現象がある。
【0004】
これらの現象を防止するため、従来では、数μm~数10μmピッチの凹凸形状の表面を有する表面形状拡散層をスクリーンの表面に備え、ホットスポットや映り込みの光をスクリーンの表面で拡散させ目立たないようにしている(特許文献1参照)。なお、上記表面形状拡散層とその下地である基板との合体物は、表面形状拡散シートと呼ばれる。
【0005】
しかし、表面形状拡散層の表面がスクリーン表面となっていると、プロジェクターからの映像光だけでなく、天井灯、床面及びスクリーンの正面側の壁や窓からの外光(映像光以外の不要な光)もスクリーンの表面で拡散する。そして、一部はスクリーンの表面で正面側に反射され、残りはスクリーンの内部の反射層に到達して反射され、正面側に出射される。これらのいわゆる外光拡散反射光は、映像光に重畳するのでいわゆるノイズ光を生成し、観察対象映像の画質を悪化させる。
【0006】
この現象は、特に映像の黒色の輝度を上昇させてしまうので、「黒浮き」と呼ばれている。
外光により黒浮きが起こると、映像のコントラスト、階調表現、色再現性が大きく損なわれ、メリハリがない映像や、黒が引き締まらず灰色のように見え、映像も全体的に色が鮮やかでなく薄くぼやけて見え、明確な映像再現が困難となる。
【0007】
この黒浮きは、外光の強さに依存するので、部屋の天井灯を消し、窓をカーテンで遮光して、外光がスクリーンに入射しないようにすることで、防ぐことが可能である。しかし、学校の教室や企業の会議室等では、大型のディスプレイを見たり、互いの表情を確認したり、手元の資料を観たりメモを取ったりする行為も重要である。部屋を暗くすることで、これらの行為ができなくなると、授業や会議の運営効率が著しく低下する。
【0008】
一方、授業や会議に用いる大型ディスプレイとして、黒浮きが少ない液晶やOLED、又はマイクロLEDを用いる方法もあるが、これらの80インチ以上の大型ディスプレイが必要になる。これらを量産するには、大型製造設備や製造工程での大量の薬品、水、電気などを消費し、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から環境負荷が過大となる。また、ディスプレイ本体のサイズ、重量及び消費電力が大きいので、搬送や設置が難しく、さらに、価格も高額となり、広く普及させることは困難である。以上のような状況により、外光の影響を受ける明るい環境下でも、高画質の映像再現が可能な反射型スクリーンを用いた映像表示システムの開発の必要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5971742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、外光により黒浮きが発生すると、反射型スクリーンに映る映像のコントラスト、階調表現、色再現性は大きく影響を受ける。コントラストは、白色の輝度と黒色の輝度との比で表されるので、黒浮きにより黒色の輝度が上昇する分だけ悪化する。同様に、階調表現は、白色の輝度と黒色の輝度の差の値で決まるので、黒色の輝度の上昇の分だけ、階調表現の輝度範囲が狭くなる。
【0011】
上述のコントラストと階調表現の問題については、黒浮きの分だけ白色の輝度をプロジェクター側で高めるという対策が、従来から行われてきた。現状市販されている学校やオフィス向けプロジェクターの映像光出力は、最大4000ルーメン前後の光量の、高出力となってきている。
【0012】
一方、黒浮きによる色再現性の悪化に関しては、ほとんど対策がとられていないのが現状である。高出力のプロジェクターを用いた反射型プロジェクションディスプレイにおいても、外光の影響を受ける明環境では本来の色が再現できず、黒浮きの輝度に比例して色再現性が悪化してしまうという問題が残っている。
【0013】
そこで、本発明は、反射型スクリーンの明環境下で、上述の黒浮きに最も影響を与える天井灯からの外光さらには全ての外光による映像の画質低下を軽減する表面形状拡散シート及びこれを備えた反射型スクリーンを提供する。さらに、この反射型スクリーンにおける映像の色再現性の悪化を軽減でき、悪化した映像の色再現性の補正が可能となる映像表示システム及び映像表示方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討し、前記表面形状拡散シートの表面形状拡散層を、上下方向の拡散角度を制限した表面形状異方性拡散層とし、かつ該表面形状異方性拡散層の下地である基板の透過率を可視光波長帯で下げることが、解決手段として有効であるとの知見を得た。また、本発明者らは、黒浮きをRGBカラーモデルの数値で表現することにより、映像の色再現性の悪化を定量化しうるとの知見を得た。
【0015】
本発明者らは、上記の知見を基に、さらに検討を重ねて本発明をなした。すなわち本発明は以下のとおりである。
[1] 映像投影装置からの映像光を拡散出射させる反射型スクリーンの表面に備える表面形状拡散シートであって、
表面形状異方性拡散層と、
前記表面形状異方性拡散層の下地に平坦な基板を備え、
前記表面形状異方性拡散層の表面の面内上下方向の拡散角度が±14°(半値幅)の範囲内であり、
前記基板の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tが0.5以上1未満の範囲内であることを特徴とする黒浮きを軽減する表面形状拡散シート。
[2] 前記黒浮きを軽減する表面形状拡散シートを表面に備えた反射型スクリーンであって、
前記基板から背面側へ順次配置接合した、反射層、保護膜及び保持板を具備し、
前記反射層と前記基板との接合面が前記映像光を反射する面となり、
前記保護膜は、前記反射層を被覆する膜であり、
前記保持板は、前記基板の平坦性を維持する板であることを特徴とする反射型スクリーン。
[3] さらに、前記基板と前記反射層との間に配置接合したレンズ層を有し、
前記レンズ層は、背面側に反射面形状を有するフレネルレンズからなり、
前記反射層と前記レンズ層との接合面が前記映像光を反射する面となることを特徴とする[2]に記載の反射型スクリーン。
[4] 前記フレネルレンズの焦点距離fに対し、前記映像光を反射する面から、aの距離離れた前記映像投影装置の投射レンズのアイリス面からの映像光を反射して、(1/a)+(1/b)=1/fの関係を満たすbの距離離れた位置に空間結像アイリス面を作ることを特徴とする[3]に記載の反射型スクリーン。
[5] [2]~[4]のいずれか一項に記載の反射型スクリーンと、映像投影装置と、輝度計と、黒浮き量算出手段と、明度調整手段とを備えた映像表示システムであって、
前記映像投影装置は、映像光を投影し、
前記輝度計は、外光下で前記映像投影装置から前記反射型スクリーンに投影された、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得し、
前記黒浮き量算出手段は、黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出し、
前記明度調整手段は、前記黒色から黒浮き(R=Lb、G=Lb、B=Lb)した映像において、各要素の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正することを特徴とする映像表示システム。
[6] 前記明度調整手段に代えて、あるいはさらに、映像光出力調整手段を備え、
前記映像光出力調整手段は、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減することを特徴とする[5]に記載の映像表示システム。
[7] [2]~[4]のいずれか一項に記載の反射型スクリーンと、映像光を投影する映像投影装置とを用いる映像表示方法であって、
前記映像投影装置から前記反射型スクリーンに、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)を投影する工程と、
外光下で前記黒色及び白色の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得する工程と、
黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出する工程と、
前記黒色から黒浮き(R=Lb、G=Lb、B=Lb)した映像において、各要素の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正する明度調整工程とを有することを特徴とする映像表示方法。
[8] 前記明度調整工程に代えて、あるいはさらに、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減する映像光出力調整工程を有することを特徴とする[7]に記載の映像表示方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、明環境下での反射型スクリーンが最も影響を受ける天井灯からの外光や、それ以外の全ての外光による黒浮きを軽減できるようになる。さらに、黒浮きにより映像の色再現性の悪化が起こってもそれの補正が可能となり、また、色再現性の悪化の防止も可能であるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る表面形状拡散シートの一例を示す概略図である。
図2図1の表面形状拡散シートを備えた反射型スクリーンの一例と映像投影装置の配置を示す概略図である。
図3】(a)は反射型スクリーンと天井灯の位置関係を示す概略図、(b)は黒浮き測定における天井灯、反射型スクリーン、プロジェクター及び測定装置(輝度計)の位置関係を示す概略図である。
図4】(a)は本発明に係る反射型スクリーンの一例を示す概略図、(b)は(a)のスクリーン厚さ方向断面図である。
図5】(a)は本発明に係る反射型スクリーンのもう一例を示す概略図、(b)は(a)のスクリーン厚さ方向断面図である。
図6】(a)は本発明に係る反射型スクリーンのさらにもう一例を示す概略図、(b)は(a)のスクリーン厚さ方向断面図である。
図7】本発明に係る空間結像アイリス面方式・反射型スクリーンのフレネルレンズによる外光の入射光と反射光の光線追跡を示す概略図である。
図8】映像投影装置の内部の光学系の一例を示す模式図である。
図9】黒浮きと色再現性の関係を検討するための視対象表示パターンを示す図である。
図10】明度低下量の測定に用いる視対象表示パターンを示す図であり、(a)は、視対象の明度=230、黒浮き量=215の場合の例、(b)は、視対象の明度=230、黒浮き量=115の場合の例を示す。
図11】視対象の明度をパラメータとして、黒浮き量と視対象の明度低下量の関係を示す線図である。
図12】黒浮き量をパラメータとして、視対象の明度と明度低下量の関係を示す線図である。
図13】黒浮き量=100とした時、視対象の明度低下が起こらなくなる明度範囲を確認するための視対象表示パターンを示す図であり、(a)は、左側(黒浮き量=0)と右側(黒浮き量=100)で視対象の明度を同一としたパターン、(b)は、左側と右側とで視対象が同じ明るさに見えるよう右側の視対象の明度を高めたパターンである。
図14】黒浮き量を255とし、視対象を(a)は白色、(b)は緑色として、明度低下を確認するための視対象の表示パターンを示す図である。
図15】黒浮き量=78の時の色不再現明度範囲における明度低下の補正の方法を示す説明図である。
図16】色不再現明度範囲における視対象の明度に対する明度低下量の変化は、例えば図のAのグラフ線と同一形状の曲線で表しうることを示す説明図である。
図17】RGBカラーモデルの黒浮き量の値を求める手順を示すフロー図である。
図18】黒浮き量=78での黒つぶれ明度範囲、色不再現明度範囲及び色再現明度範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照し、説明する。
【0019】
(本発明に係る表面形状拡散シート:本発明の[1])
まず、本発明に係る表面形状拡散使シートについて説明する。
図1は、本発明に係る表面形状拡散シート1を示す概略図である。表面形状拡散シート1を表面に備える反射型スクリーン4は、図2に示すように、映像投影装置5からの映像光を反射し、拡散出射させる。映像投影装置5は、図8に示すように、例えばLEDチップからなる三原色光源130からの映像光を拡散フィルム積層体122、リレーレンズ120a、120b、デジタルミラーデバイス134に順次通してから、複数のレンズからなる投射光学系138を介して凹面反射鏡140、凸面反射鏡142で順次反射させて反射型スクリーン4へと送る構成となっている。なおスクリーンへ向かわない光は遮光板136で遮光する。投射光学系138は、絞りを有し、該絞りの内側の空間をアイリス面18という。
【0020】
表面形状拡散シート1は、図1に示すように、表面形状異方性拡散層2と、表面形状異方性拡散層2の下地に平坦な基板3を備える。
【0021】
表面形状異方性拡散層2は、その材質がウレタンアクリレートやエポキシアクリレート等の紫外線硬化型樹脂、あるいは、電子線硬化型樹脂等の他の電離放射線硬化型樹脂であり、可撓性を有する。
【0022】
表面形状異方性拡散層2は、ほぼ一方向に延在する不規則な長さの多数の凸条が、この延在方向と直交する方向に不規則な間隔で横並びした形態の表面形状を有する。凸条の高さは、0μm超10μm以下が好適である。ここでは、凸条の延在方向を上下方向、凸条の並び方向を左右方向としている。このような表面形状によると、左右方向の拡散角度は、上下方向の拡散角度に比べて大きい。上下方向の拡散角度と左右方向の拡散角度とは、製造条件変更により種々の値に設定できる。
【0023】
基板3は、例えば透明樹脂材料製であり可撓性を有する。その基板厚みは、強度確保と軽量化の兼ね合いから、好ましくは50μm以上250μm以下である。
【0024】
表面形状異方性拡散層2を表面に備える反射型スクリーン4は、スクリーン内部に反射層8を有し、スクリーン最背面側に基板2の平坦性を維持するための保持板10を有する。なお、図2の反射型スクリーン4では、好ましい形態として、反射層8は入射した映像光をスクリーン表面の法線方向に偏向するために、入射光が到達する面の形状をフレネルレンズ面形状としている。
【0025】
本発明では、表面形状異方性拡散層2の表面の面内上下方向の拡散角度が±14°(半値幅)の範囲内であり、前記基板の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tが0.5以上1未満の範囲内であること、と限定した。これらの限定理由について述べる前に、図2を用い、黒浮きについてより具体的に説明する。
【0026】
図2のように、正面側の映像投影装置5からの映像光を、反射層8で反射して、再び正面側に拡散出射する反射型スクリーン4において、映像光以外の、天井灯11やそれ以外の場所(床面、正面の壁や窓)からの外光も、スクリーン表面に入射する。これらの外光は、スクリーン表面(表面形状拡散層2の表面)で拡散し、一部はスクリーン表面で正面側に反射され、残りはスクリーン内部の反射層8に到達し反射層8で反射され、スクリーン表面から正面側に出射する。これら外光による拡散反射光(以下、単に、外光による拡散反射光という)は映像光に重畳し、映像の黒浮きが起こる。なお、図2では、出射される映像光と外光は、主光線のみ図示し、拡散光は図示していない。
【0027】
(表面形状異方性拡散層の拡散角度)
最も影響を受ける天井灯11からの外光による黒浮きを軽減するため、本発明では、図1に示す表面形状拡散シート1の表面形状異方性拡散層2の上下方向の拡散角度を±14°(半値幅)の範囲内とした。なお、拡散角度の範囲は、反射型スクリーン面と上下方向に直交する垂直面に含まれ、スクリーン面に対し法線方向を0°として、時計回り及び反時計回りのいずれか一方の角度を正、他方を負とした角度範囲である。
【0028】
本発明において、上下方向の拡散角度を±14°(半値幅)の範囲内とする理由について図3(a)を用いて説明する。図3(a)には、拡散角度検討用の反射型スクリーン4Aと天井灯11の一般的な位置関係を示す。反射型スクリーン4Aは、そのスクリーン表面に備えた表面形状拡散層2A以外は図示していない。表面形状拡散層2Aは、拡散角度検討のため上下方向で種々の拡散角度θをとりうるものとする。
【0029】
図3のように反射型スクリーン4Aの縦サイズ=1Hとすると、反射型スクリーン4Aの観察位置60は、このスクリーンの中央から2H~3H離れており、天井灯11は、反射型スクリーン4Aの約0.5H上方で、正面方向に0.5H、1H、1.5H、2H離れて位置すると仮定する。なお、天井灯11による外光拡散反射光が観察位置に到達しやすいのは、反射型スクリーン4Aの最上部に入射する時である。また、最上部に入射する外光の明るさは、天井灯からの距離rの二乗に反比例するので、0.5Hの位置が最も明るくなる。一方、観察位置に到達しやすいのは、1.5Hや2Hの方である。したがって、外光の明るさと外光拡散反射光の反射角の相互作用で、外光の影響が最悪となる天井灯11の位置が決まり、図3の場合、天井灯11の位置が1Hの時、ほぼ最悪条件となる。この最悪条件下で、観察位置2H~3Hに外光拡散反射光が到達するのは、図3に示すとおり位置1Hの天井灯11による外光拡散反射光の主光線61から上方向の拡散角度θが14.6°以上(14°超)の場合である。この点は、表面形状拡散層2Aが表面形状異方性拡散層2で置換されても同様であることは自明である。したがって、本発明においては、表面形状異方性拡散層2の上下方向の拡散角度は、±14°(半値幅)の範囲内とした。
【0030】
これにより、スクリーン表面で拡散反射する外光拡散反射光が、正面に居る観察者の眼の近傍に到達しないようにした。なお、左右方向の拡散角度は、できるだけ大きいことが好ましい。
【0031】
(黒浮きの測定)
次に、表面形状異方性拡散層の拡散角度を±14°(半値幅)の範囲内としたことによる黒浮き軽減効果を評価するために、図1の表面形状異方性拡散層2を用いて、天井灯からの外光による黒浮きを測定した。測定用拡散シートとしては、透明な基板上に図1のような表面形状を有する表面形状異方性拡散層2を形成したものを用いた。測定用拡散シートの拡散角度は、形状側(正面側)から垂直入射した透過光の拡散角度として測定すると±5°(半値幅)、基板の背面にアルミの反射層を設け、前記透過光が反射層で反射した反射光の拡散角度として測定すると、±10°(半値幅)であったので、表面形状拡散の値(測定用拡散シートの表面形状異方性拡散層の拡散角度)は±14°(半値幅)の範囲内と考えた。ただし、天井灯からの外光拡散反射光には、スクリーン内部の反射層に到達し反射層で反射され、スクリーン表面から出射されるものも含まれる。
【0032】
図2において表面形状拡散シート1に代えて上記の測定用拡散シートとした反射型スクリーン(SHLスクリーン82と呼ぶ)を製作し、図2に示すような配置で測定を行った。また、比較用として市販のマグネット式黒板スクリーン(ホワイトマットスクリーン81と呼ぶ)を用い、同様の測定を行った。
【0033】
図3(b)に、天井灯11、SHLスクリーン82(又はホワイトマットスクリーン81)、プロジェクター5及び測定装置(輝度計30)の位置関係を示す。なお、図3(b)の天井灯11とSHLスクリーン82の位置関係は図3(a)の天井灯11と反射型スクリーン4Aのそれとほぼ同じである。観察位置は、3Hより厳しい条件となる2Hのみで行った。
【0034】
測定には表1に示す機器類を使用した。天井灯11による各スクリーン中央での照度を表2に示す。なお、表2には参考値として天井灯真下のテーブル面の照度の測定値も示した(照度計は図示せず)が、これによると測定に用いた部屋の照明は、比較的明るい方であることが判る。
【0035】
黒浮き測定結果を表3に示す。表3より、SHLスクリーンでは、黒浮き(全黒表示における輝度)が、比較として用いたホワイトマットスクリーンより、約60%(=(1-35/88)×100)軽減されていることが確認できた。なお、全黒表示とプロジェクターOFFとでは輝度がほぼ同一なので、黒浮きはプロジェクターOFFにおける輝度としてもよい。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
(基板の透過率T)
次に、本発明において、基板3の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tが0.5以上1未満の範囲内であることとした理由を説明する。ここで、透過率Tとは、特定の波長の入射光が基板を通過する割合、T=I/I0であり、I0は入射光の、Iは基板を通過した光の、それぞれの放射発散度(単位:W/m2)であり、I0≧Iなので、T≦1である。
【0040】
天井灯からの外光拡散反射光には、スクリーン内部の反射層に到達して当該反射層で反射され、スクリーン表面から出射されるものも含まれるので、この対策も必須である。このように基板3を2度通過する外光への対策として、本発明では、基板3の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tを下げるため透明から黒色の色味を付けた。なお、基板3の内部又は表面で、可視光波長帯において透過率Tを下げることを透明黒化と呼ぶ。これにより、基板3を2度通過した外光が暗くなる分、黒浮きが軽減する。基板3の透過率Tを下げる部位が、基板3の内部、表面のいずれであっても黒浮きは軽減する。
【0041】
従来の拡散シートでは、映像光をできるだけ明るくするため透過率Tを高めることが一般的であった。本発明では、映像光も暗くなるというデメリットもあるが、黒浮きによる画質の悪化を軽減することを優先した。この背景には、プロジェクターの光源がランプからLEDさらにレーザーへと進化することに伴い、映像光を明るくできるようになったからである。ただし、そのように映像光を明るくできても、透過率Tが0.5未満では映像が暗くなりすぎるため、透過率Tは0.5を下限とした。好ましくは0.7を下限とする。
【0042】
ここで、上記の透明黒化を実現する方法について説明する。この方法としては、基板3の材料となる樹脂にUV(紫外線、以下同じ)透過ブラック分散液を適量均一に混ぜるという方法(基板内部の透明黒化)が挙げられる。表面形状拡散シート4の表面形状異方性拡散層2は基板3上にUV重合により形成されるので、UV重合に用いる基板3は、UV光は透過して、可視光の透過率を均一に下げる特性を持つ必要がある。UV透過ブラック分散液は、黒色(可視光を均一に吸収する)で、UVは透過する特性の顔料を微粒子化した分散液で、基板3の材料となるウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂などの樹脂と相溶するので、この分散液を基板の材料となる樹脂に適量均一に混合することで、基板内部を透明黒化することができる。
【0043】
また、透明黒化の方法として、前記基板材料に前記ブラック分散液を混合する方法以外に、前記基板材料の樹脂板に前記ブラック分散液を塗布する方法(基板表面の透明黒化)又はNDフィルターのように同樹脂板に金属を蒸着する方法(基板表面の透明黒化)などを採用することもできる。
【0044】
なお、基板3は可撓性を有し、基板厚さは、強度確保と軽量化の兼ね合いから、好ましくは50μm以上250μm以下である。
【0045】
(本発明に係る表面形状拡散シートによる黒浮き軽減効果の確認)
上述の黒浮きの測定において、本発明に係る表面形状拡散シート1を表面に備えたサンプルスクリーンを用い、同様の測定を行った。このサンプルスクリーンは、SHLスクリーン82において前記透明黒化により基板内部の透過率Tを0.9に下げた以外はSHLスクリーン82と同様とした。その結果、このサンプルスクリーンでは、黒浮き(全黒表示における輝度)が約30cd/m2であり、ホワイトマットスクリーンより、約66%(=(1-30/88)×100)軽減されていることが確認できた。このサンプルスクリーンでは、基板の透過率を下げたことで、黒浮きがSHLスクリーン82のそれ(約35cd/m2)より減少している。
【0046】
(本発明に係る反射型スクリーン:本発明の[2])
次に、本発明に係る反射型スクリーンについて説明する。この反射型スクリーンは、本発明に係る表面形状拡散シート1を備えた反射型スクリーンであり、その一例として図4に示す実施形態では、基板3から背面側へ順次配置接合した、反射層8、保護膜9及び保持板10を具備する。
【0047】
反射層8と基板3との接合面が映像光を反射する面となり、保護膜9は、反射層8を背面側から被覆する膜であり、保持板10は、前基板3の平坦性を維持する板である。
【0048】
(反射層)
反射層8は、例えばアルミニウム、銀、ニッケル等の高反射率(反射率が70%以上)の金属の層を可撓性を有するように薄く蒸着したり、アルミのフレークと呼ぶアルミニウムの薄型小片をこれらの面が平行に揃うように塗装する方法などで形成するのが好ましい。反射層8の厚さは、蒸着の場合は0.5~0.9μm程度、塗装の場合は10~50μm程度にし、剥離性、反射率、曲げの強度等の観点から決定される。
【0049】
(保護膜)
保護膜9は、可撓性を有し、反射層8の劣化や剥離、反射層8の破損等を抑制し、反射層8を保護する機能を有している。また、保護膜9は、光を吸収する機能を有している。保護膜9の材料としては、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂等、これらの混合となる樹脂を母材とし、光吸収材として黒色等の暗色系の塗料や、黒色等の暗色系の染料や顔料等又はこれらを含有するビーズが添加され、さらに、反射層8を酸化等の劣化から保護する等の機能を有する各種添加剤等が添加された材料が挙げられる。また、保護膜9の厚さは、保護機能および光吸収機能を十分に発揮させる観点から、最も薄い部位で5~100μmが好ましい。
【0050】
(保持板)
保持板10は、基板3の平坦性(詳しくは表面形状拡散シート1から保護膜9までの部材の平坦性)を維持するためのもので、剛性確保と軽量化の兼ね合いから、好ましくは例えば板厚1.0~3.0mmの木材繊維を圧縮して接着剤で固めたMDFで構成される。保持板10は、両面テープ等の粘着材からなる接合層(図示せず)を介して、保護膜9と貼合してある。保持板10を有することで、搬送時の変形を防止でき、かつフック等を用いて壁面へ吊り下げるなどといった、取付け作業が容易となる。
【0051】
なお、保持板10に代えて、300~400μm厚のマグネットシート(図示せず)を貼り付けた構造でも良い。
【0052】
図4の例では、表面形状異方性拡散層2の厚さは、40μm、基板3の厚さは250μmである。この実施形態では、映像光を偏向するフレネルレンズがないので、左右端からの映像光が観察位置に届き難くなるため、表面形状異方性拡散層2での左右方向の拡散は完全拡散のように全ての方向に拡散するのが好ましい。
【0053】
(レンズ層としてのフレネルレンズ:本発明の[3])
次に、本発明に係る反射型スクリーンにおいて、フレネルレンズを用いる実施形態の1つについて説明する。図4のスクリーンにおいて左右端の映像が暗くなるのを防ぐため、フレネルレンズを用いるのが好ましい。フレネルレンズを用いる実施形態の1つは、図5に示すように、基板3と反射層8との間に配置接合したレンズ層6を有し、レンズ層6は、背面側に反射面形状を有するフレネルレンズからなり、反射層8とレンズ層6との接合面が前記映像光を反射する面となる反射型スクリーンである。
【0054】
レンズ層6は、その材質がウレタンアクリレートやエポキシアクリレート等の紫外線硬化型樹脂、あるいは、電子線硬化型樹脂等の他の電離放射線硬化型樹脂であり、可撓性を有し、その厚み方向境界面が、正面側では平面、背面側では、レンズ面6aと非レンズ面6bが交互に同心円弧状に配列したフレネルレンズ面である。レンズ層6の層厚さは、最大でも50μmくらいに抑えて設計される。なお、レンズ面6aのフレネルレンズ半径方向寸法は100~150μm程度であり、非レンズ面6bのそれは、最大でも10μm程度で0μmとするのが理想のフレネルレンズである。
【0055】
図5に示す反射型スクリーン4のレンズ層6をなすフレネルレンズは、焦点距離fのフレネルレンズであり、映像投影装置5からの映像光をスクリーン表面の法線方向に偏向するので、その焦点距離fは、スクリーン表面から映像投影装置5までの距離、詳しくは映像投影装置5の投射光学系138の絞りの内側の空間であるアイリス面18(図8参照)までの距離aと一致する(a=f)。ただし、ここで「一致」とは±10%以内の誤差を許容する。
【0056】
したがって、スクリーン左右端から出射される映像光の主光線方向もスクリーン表面の法線方向となるので、前記映像光は表面形状異方性拡散層2で2回拡散された後、図4と比べて観察位置に到達しやすくなる。
【0057】
図5(b)において、フレネルレンズからなるレンズ層6は、表面形状拡散シート1の基板3の背面に直接UV重合で形成することが可能であるが、基板3の背面にシート状のフレネルレンズを貼合してもよい。フレネルレンズを反射型にするため、アルミのフレークと呼ぶアルミニウムの薄型小片がレンズ面に平行に揃うようにした反射層8で覆い、さらにその表面に保護膜9を塗装して保護している。この反射型スクリーンの厚さは、保持板10を除いて、400μm程度であるので、平坦で凹凸がないスクリーンにするには、厚さが1.0~3.0mmの保持板10に貼ることが好ましい。また、保持板10の代わりに、マグネットシート(図示せず)を貼り付けたスクリーンを磁石の付くボードや壁に直接貼り付けるようにしてもよい。
【0058】
(空間結像アイリス面方式:本発明の[4])
次に、本発明に係る反射型スクリーンにおいて、フレネルレンズを用いるもう1つの実施形態について説明する。
【0059】
この実施形態において、反射型スクリーン4は図6に示すように、前記フレネルレンズの焦点距離fに対し、映像光を反射する面から、aの距離離れた映像投影装置4の投射レンズのアイリス面18(図8参照)からの映像光を反射して、(1/a)+(1/b)=1/fの関係を満たすbの距離離れた位置に空間結像アイリス面20を作る。なお、距離a、bは上記の関係を満たす値に対し±10%以内の誤差が許容される。
【0060】
この図6の実施形態は、図5の実施形態と比べ、レンズ層6をなすフレネルレンズが異なるだけである。すなわち、図5に示すレンズ層6(フレネルレンズ)は、映像投影装置5からの映像光をスクリーンの法線方向に偏向するのに対し、図6では、スクリーンの正面からb離れた位置に映像光を集めるという集光機能を有していることである。光学的には互いの焦点距離fが異なる。図6のような光学方式は、空間結像アイリス面方式と呼ばれている。そこで、本実施形態の反射型スクリーンを空間結像アイリス面方式・反射型スクリーンともいう。
【0061】
(空間結像アイリス面方式・反射型スクリーンに対する外光の挙動)
図7は、空間結像アイリス面方式・反射型スクリーンのフレネルレンズによる外光の入射光と反射光の光線追跡図である。床面13からの外光51は、映像投影装置5からの映像光50と同じ方向から反射型スクリーン4のフレネルレンズのレンズ面6aに入射するので、黒浮きの原因となる。
【0062】
この外光51以外の、天井灯11や正面窓12からレンズ面6aに入射する外光52は、レンズ面6aにより空間結像アイリス面20には到達しないように偏向されるので、黒浮きの原因にはならない。一方、天井灯11や正面窓12からそれぞれ非レンズ面6bに入射する外光53、54の一部は空間結像アイリス面20に到達してしまうので、黒浮きの原因となる。
【0063】
本発明に係る表面形状拡散シート1によれば、外光51~54による黒浮きを軽減できるが、外光53、54による黒浮きをさらに軽減するために、フレネルレンズの非レンズ面6bの傾きをスクリーン法線方向と同じくスクリーン表面に対して垂直にするか、非レンズ面6bが反射面とならないように、非レンズ面6bは、前記反射層(例えば金属膜)での被覆対象から除外するか、又は前記反射層に代えて光を吸収する吸収膜で被覆することが好ましい。
【0064】
(本発明に係る映像表示システム:本発明の[5]及び[6])
次に、本発明に係る映像表示システムについて説明する。この映像表示システムは、上述の本発明に係る反射型スクリーン4と、映像光を投影する映像投影装置5(図8に例示)とを備えることを前提とする。なお、映像投影装置5としては、図8に例示したものに限らず、市販の各種プロジェクターが挙げられる。
【0065】
上記の前提において、外光の影響を受ける明環境では、黒浮きによる黒色の輝度が高くなるに従い、映像が灰色がかり色の鮮やかさが損なわれ、本来の色が再現できなくなるという問題がある。この問題を解決するため、本発明者らは、黒浮きと色再現性の関係について検討を重ねた。その結果、黒浮きした黒色の輝度をRGBカラーモデルの数値を用いて黒浮き量として表現することにより、色再現性の悪化を定量化しうるとの知見を得た。上記検討の過程を以下に説明する。
【0066】
(黒浮き量)
RGBカラーモデルでは、RGBの各要素をR=0~255、G=0~255、B=0~255で表現する。数値0~255は整数であり、明度(明るさ)と呼ばれ、明るさの相対強度を示す。最小値が0で、最大値が255である。したがって、絶対黒は、R=0、G=0、B=0で、最も明るい白は、R=255、G=255、B=255となる。
【0067】
一方、輝度計で測定される黒浮きした黒色の輝度(cd/m2)は外光下で絶対黒(R=0、G=0、B=0)を投影した時スクリーン面で測定される最小輝度となるので、黒浮きを、白色(R=255、G=255、B=255)を投影した時の最大輝度(cd/m2)に対する比率、すなわち相対輝度(0~1)で表すことができる。
【0068】
しかし、黒浮き状態下で観察される映像の色も、映像投影装置5からの投影光の色と同様に、RGBカラーモデルの各要素の明度(0~255)で表される。したがって、スクリーン面で観察される映像の色の色再現性に及ぼす黒浮きの影響を定量化する上では、黒浮きの状態を前記黒色の相対輝度よりも、黒浮きした黒色の各要素の明度=255×(黒色の相対輝度)で表しておく方が、映像の色と黒浮き状態の関係を整理し易いと考えられる。そこで、以下では、黒浮き状態を黒浮きした黒色の各要素の明度で表し、その明度の値(黒色の各要素の明度は同じとした)を「黒浮き量」と称する。黒浮き量の符号はLbを用いる。すなわち、黒浮き量Lbの定義式は、Lb=255×(黒色の相対輝度)とする。
【0069】
ただし、明度は上記のとおり整数であるから、この式の値の整数部を採用する。ここで、整数部は計算値の小数点以下を四捨五入、切り捨て又は切り上げした値のいずれであってもよいが、以下では四捨五入した値とする。
【0070】
例えば、表3のSHLスクリーン場合、黒浮きした黒色の輝度は全黒の35.59cd/m2、白色の輝度は全白の994.3cd/m2であるから、黒浮き量は、Lb=255×35.59/994.3=9である。
【0071】
そこで、上記検討において、映像の色を構成するRGBカラーモデルにおける赤(R)、緑(G)、青(B)及びこれらが混合した白色を視対象に選ぶ。そして、視対象の明度を種々変え、黒浮きした黒色に相当する黒色を背景として黒浮き量も種々変えて視対象を観察した。すると、視対象の明度がLb以上2Lb未満の範囲で、視対象の明度が基準値に対して見かけ上低下する「明度低下」が起こる。なおここで基準値とは、黒浮きがない黒色(RGBとも0すなわち黒浮き量=0)を背景とした時の視対象の明度である。なお、視対象の明度がLb未満では、黒色の諧調表現ができなくなるいわゆる黒つぶれの状態である。
【0072】
(明度低下の目視実験)
黒浮き量と視対象の明度低下量の関係を求めるための明度低下の目視実験について、以下に述べる。この目視実験では、図9に示すように、液晶ディスプレイの画面に、RGBカラーモデルの各要素の明度(0~255)を用いて、右側に黒浮きがない(黒浮き量=0の)黒色、左側に任意の黒浮き量(図9では、黒浮き量=215、すなわちRGBとも215)の黒色の矩形を接して表示する。次に、それぞれの矩形内に視対象の各色を円形で表示し、円形の直径は1.2cm、観察距離は約30cmとして、左右の色を正面から見て、各色の明るさの違いの有無を目視観察した。その結果、視対象の各色は黒浮き量=215のときが、黒浮き量=0のときの基本の色より、暗く観えることが判った。黒浮きが起こると、映像が灰色がかり色の鮮やかさが損なわれるのは、黒浮きにより各色の明度が基準値(黒浮き量=0の時の明度)よりも見かけ上低下して色再現性が損なわれてしまうからであると考えられる。
【0073】
図9では、液晶画面に表示した映像(前記視対象及び背景)を目視で観察したが、この映像の輝度を測定すると、黒色(R=0、G=0、B=0)は1.5cd/m2、白色(R=255、G=255、B=255)は85cd/m2であった。
【0074】
さらに、液晶画面上の図9の画像と同じ映像を、図3(b)の映像投影装置5からSHLスクリーン82及び前述のサンプルスクリーンに投影しても、黒浮き量=215の各色がそれぞれ、黒浮き量=0の各色(基本の色)より、暗く観える現象は、液晶ディスプレイの画面上に表示した場合と同様に観察された。
【0075】
次に、視対象である各色の、前記基準値からの明度低下を定量的に測るため、図10(a)のように、右側の矩形では、視対象の円形の右に各色の明度を記入する以外は図9と同じとし、左側の矩形では、各視対象の上部に、下部の明度低下を補い右側の各色(明度が基準値である色)と同じに見える明度補正を加えた円形を追加する。各視対象の左には、右側と同じように明度を記入する。図10(a)では、黒浮き量=215にすると、各色の明度は基準値より約18低下することを示している。この値は、個人の視覚に依存すると考え、5人で観察して確定したものである。図10(b)は、黒浮き量を変化させ、右側と左側で同じ明度になる黒浮き量を求めたものである。これより、視対象の明度=230において、黒浮き量を115以下にすれば視対象の明度低下は起こらなくなることが判った。図10と同じ方法で、視対象の明度(図10では視対象の明度=230)をパラメータとして、黒浮き量に対する視対象の明度低下量を求めると、図11のようになった。この図より、視対象の明度低下が始まる黒浮き量は、視対象の明度/2に等しいことが判った。
【0076】
次に、黒浮き量をパラメータとして、視対象の明度と明度低下量の関係を調べたものが図12である。この図より、視対象の明度が黒浮き量の2倍以上になると、視対象の明度低下は起こらない。種々の明度の白色(明度をLとしてR=L、G=L、B=L、L=255、230、200、170、135、115)を視対象とし、背景の黒浮き量=100とした時、視対象の明度低下が起こらなくなる視対象の明度の範囲を確認するため、準備した視対象パターンを、図13(a)、(b)に示す。黒浮き量=100の2倍以上となる視対象の明度=200以上では明度低下は起こらないことが確認できた。また、図13(b)では、視対象の明度低下の量を求めたもので、明度低下分だけ明度を高めると、左右の視対象の明るさが同じになることが判る。
【0077】
以上の検討より、視対象の色再現性は、視対象の明度が黒浮き量の2倍以上になる明度範囲では悪化しないことになる。従来の反射型スクリーンにおいては、表3のホワイトマットスクリーンのように天井灯を点けた明環境下では、黒浮きの輝度(最小輝度)は約88cd/m2と大きく、全白(最大輝度)が289cd/m2であるので、黒浮き量は、255×88/289=78となる。
【0078】
したがって、黒浮き量=78の場合、明度が黒浮き量×2(=156)~255では視対象の明度低下は起こらないが、図12の黒浮き量=78のグラフに示すように、視対象の明度が黒浮き量(=78)~2×黒浮き量(=155)の広い範囲で視対象の明度低下が起こる。
【0079】
(色再現明度範囲、色不再現明度範囲及び黒つぶれ明度範囲)
このように、黒浮き量を求めることで、視対象の明度低下が起こる明度範囲(色不再現明度範囲という)及び視対象の明度低下が起こらない明度範囲(色再現明度範囲という)が特定できる。Lbが黒浮き量、2Lbが2×黒浮き量、Lが視対象の各要素の明度とすると、色不再現明度範囲は、Lb≦L<2Lb、色再現明度範囲は、2Lb≦L≦255と表される。
【0080】
なお、0≦L<Lbの明度範囲は、前述のように黒つぶれが起こる(黒浮きにより黒色の諧調表現ができなくなる)明度範囲であり、黒つぶれ明度範囲という。
【0081】
(透過率Tと白色の輝度の調整による色再現明度範囲の拡大)
表3のSHLスクリーンでは黒浮き量は9(=255×36/994)となり、18(=2×9)~255が色再現明度範囲となる。このような色再現明度範囲は、明度範囲の最小値は黒浮き量の元になる最小輝度で決まり、最大値は最大輝度となる全白(白色)の輝度を高めことで拡げられる。そこで、表面形状拡散シート1の基板3の透過率Tと映像投影装置5からの映像光の最大輝度となる白色の輝度Kwを調整することで、色再現明度範囲を広くすることができる。例えば、黒浮き量LbとLmax(明度の最大値≦255)の関係を、Lb≦Lmax/4、と規定し、この関係を満たすように、表面形状拡散シート1の基板3の透過率Tを前述の透明黒化により、0.25≦T2<1の範囲に下げ、黒浮き量Lbを下げると同時に、Lmaxの減少分を補うため映像投影装置5からの映像光の出力を1/T2倍に高める。ここで、T2としているのは、反射型スクリーン4では映像光は基板3を2回透過するからである。これにより、Lmaxは低下せずにLbだけを下げ、色再現明度範囲を、2Lb×T2≦色再現明度範囲≦Lmax、と拡げることが可能になる。ただし、スクリーン表面で反射される外光は、スクリーン内部の反射層8で反射される外光に対し十分小さいとした。
【0082】
例えば、反射型スクリーン4の基板3の透過率Tを約0.9として、さらに映像投影装置5からの映像光の出力を1.24倍(1/T2倍)にすれば、色再現明度範囲の下限が2Lb×0.81となり、色再現明度範囲を低明度側に2Lb×(1-0.81)だけ拡大できる。
【0083】
さらに、黒浮き量Lbが最大輝度の白色(R=255、G=255、B=255)の明度255となった場合、色再現明度範囲の下限2Lbが510となって上限255を超えるため色再現明度範囲が存在せず、視対象の明度範囲(0~255)の全域で明度低下が起こることになる。図14(a)に、黒浮き量を255とし視対象に白色を用いた場合の視対象の明度低下を示す。図14(b)は、白色の代わりに緑(G)を用いた場合である。これらより、黒浮きが最大明度、すなわち白色の背景になると、視対象の明度範囲の全域において、黒浮きのない黒色背景の視対象の明度(基準値)からの明度低下が起こることを意味する。視対象を明るく、鮮やかな色で観てもらうために背景を白ではなく黒にすることは、理に適っていることが判る。
【0084】
(明度低下の補正:本発明の[5])
上記の検討結果に基づき、本発明の[5]に係る映像表示システムは、明度範囲Lb≦L<2Lb(色不再現明度範囲である)における明度低下を補正する構成とした。すなわち、この映像表示システムは、上記前提とした反射型スクリーンと映像表示装置を備え、さらに、輝度計と、黒浮き量算出手段と、明度調整手段とを備える。
【0085】
(輝度計)
前記輝度計は、外光下で前記映像投影装置から前記反射型スクリーンに投影された、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得する。
【0086】
前記映像及び外光下での前記黒色はそれぞれ、前述の明度低下の目視実験における視対象及び黒浮きした黒色(背景)に相当する。
輝度計は、通常の市販品で構成できる。
【0087】
(黒浮き量算出手段)
前記黒浮き量算出手段は、黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出する。この式は、上述の黒浮き量の定義式「Lb=255×(黒色の相対輝度)」に相当する。
【0088】
(明度調整手段)
前記明度調整手段は、前記映像の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正する。
【0089】
上記の検討で述べたように、明度範囲Lb≦L<2Lbは、視対象の明度低下が観察される色不再現明度範囲である。そこで、前記明度調整手段は、この明度低下を補正するものとする。この補正には、前述の明度低下の目視実験の結果(例えば図12)を用いる。
【0090】
図15は、図12における黒浮き量=78の場合の色不再現明度範囲と色再現明度範囲を示した。この図を例に挙げて明度低下を補正する方法を説明する。図示するように、色再現明度範囲(156~255)では、視対象の明度低下量は0なので、明度低下は起こらないから、横軸の明度を有するRGBの各色を映像光として出力する。一方、色不再現明度範囲(78~155)では、視対象の明度低下を負の値としているので、横軸の明度を有するRGBの各色を映像光として出力すると明度低下が起こる。この明度低下を防止するために、映像光として出力しようとするRGBの各色の明度が色不再現明度範囲内に入る場合は、図示するように、その明度に対し、横軸の明度の値に対応する縦軸の明度低下量の絶対値を加算する補正を行い、補正後の明度を有するRGBの各色を映像光として出力する。
【0091】
これにより、視対象の色再現明度範囲のみならず色不再現明度範囲おいても、明度低下のない映像を投影できる。
【0092】
上述の明度低下を補正する方法について、以下に、より詳細に説明する。
図16に示すように、RGBカラーモデルで表した視対象の明度と明度低下量の関係は、図のAのグラフのように変化する。なお、この図のAのグラフでは、例として黒浮き量=50の場合の視対象の明度と明度低下量の関係曲線を明度50未満の範囲へ外挿した曲線を示しており、色不再現範囲は、50以上100未満となる。Aのグラフの変化(曲線形状)は、RGBが原色(赤はRのみ、緑はGのみ、青はBのみがそれぞれ非0の数値、他は0)だけでなく、白色(RGBとも非0の同一数値)などの原色が混ざった色でも成り立つ(Aのグラフとほぼ同じ曲線形状になる)。よって、RGBカラーモデルの一般の色(R=Lr、G=Lg、B=Lbl)でも、Lb≦Lr、Lg、Lbl<2Lb、が成り立つ、すなわち、Lb以上2Lb未満が色不再現明度範囲となる。
【0093】
次に、黒浮き量の値を求める手順を図17に示す。映像表示システムの設置環境の外光により黒浮き量は変わるので、設置環境毎に黒浮き量を求めなければならない。視対象の明度と明度低下量は、RGB原色でもこれらが混ざった一般の色でも、図16のAのグラフとほぼ同一形状の関係曲線に沿って変化するので、設置環境毎の黒浮き量が判れば、補正は容易である。
【0094】
図17に示すように、外光の影響ありの明環境で黒色(RGBとも0)及び白色(RGBとも255)を投影し、それぞれの映像の輝度を測定してそれぞれの測定値KminとKwとから、黒浮き量Lbを式:Lb=255×Kmin/Kw、により求める。黒浮き量Lbが求まると、図16においてAが明度範囲Lb~2Lbにおける明度低下量の変化とフィットするようにAを横軸方向に平行移動し、色不再現明度範囲(Lb以上2Lb未満)における明度低下量を求める。RGBカラーモデルの一般の色(R=Lr、G=Lg、B=Lbl)は、各原色毎に分けて補正を行う。
【0095】
Lb以上2Lb未満の色不再現明度範囲にLr、Lg、Lblが入っている場合、Aのグラフより、Lr、Lg、Lbl を個別に補正する。
【0096】
このような補正を実行する明度調整手段は、当該補正の手順を記述したソフトウエアを前記映像投影装置に搭載することで達成できる。
【0097】
(映像光出力の調整:本発明の[6])
上述の明度低下の補正により、色不再現明度範囲を色再現明度範囲に転換できる。しかし、明度がLb未満の黒つぶれ明度範囲は残存し、この範囲では同じ明度の黒色表示となるので黒の詳細な諧調表現ができない。そこで、本発明の[6]に係る映像表示システムは、黒つぶれ明度範囲をなくし、さらに色不再現明度範囲をもなくして、視対象の明度範囲の全域を色再現明度範囲とすることで、黒浮きを軽減するものである。
【0098】
そのために、本発明の[6]では、本発明の[5]において、前記明度調整手段に代えて、あるいはさらに、映像光出力調整手段を備え、この映像光出力調整手段は、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減することを特徴とする。
【0099】
前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させると、2Lb以上255以下であった色再現明度範囲に、RGBカラーモデルの明度(0~255)の範囲を外れる明度255超255+2Lb以下が新たに付加され、拡張した色再現明度範囲2Lb以上255+2Lb以下が得られる。この色再現明度範囲内の明度を有する映像は、黒つぶれも明度低下も起こらない。
【0100】
そして、拡張した色再現明度範囲2Lb以上255+2Lb以下を、0以上255以下の明度範囲に変換することにより、RGBカラーモデルの明度(0~255)の全域にわたり黒つぶれ及び明度低下のない映像の観察が可能である。
【0101】
本発明の[6]の実施形態について図18の例を用いて説明する。図18は黒浮き量Lb=78の場合の、黒浮きを軽減する前の黒つぶれ明度範囲(0以上78未満)、色不再現明度範囲(78以上156未満)及び色再現明度範囲(156以上255以下)と、黒浮きを軽減した後の色再現明度範囲(0以上255以下)を示している。
【0102】
映像光出力調整手段は、白色の輝度を(1+156(=2×78)/255)倍に上昇させる。これにより、色再現明度範囲は156以上411(=255+156)以下となる。そこで、RGBカラーモデルで表される視対象の各要素の明度(0~255)を(明度+156(=2×78))と156だけシフトして映像投影装置より投影するように変換する。
【0103】
なお、拡張後の色再現明度範囲を導出し、RGBカラーモデルの色を変換する機能は、かかる導出及び変換の手順を記したソフトウエアを映像光出力調整手段に搭載することで実現できる。また、映像光出力調整手段は、映像投影装置に内蔵されてもよい。
【0104】
したがって、黒浮きを軽減した後は、RGBカラーモデルの明度範囲の全域(0以上255以下)が色再現明度範囲となり、黒つぶれ及び明度低下の無い映像が観察できる。
【0105】
絶対黒(RGBとも0、映像の輝度=0cd/m2)での様々な黒表現は、外光なしの暗室にしないと実現できない。そこで、外光下で最小輝度の黒色を絶対黒として、そこから階調表現で様々な黒を表現する方法として、本発明は有用である。本発明の[6]では白色の輝度を(1+2Lb/255)倍したときの黒色(2Lb)を前記絶対黒とした。
(本発明に係る映像表示方法:本発明の[7])
次に本発明の[7]の映像表示方法について説明する。この方法は、本発明の[2]~[4]のいずれか一つに係る反射型スクリーンと、映像光を投影する映像投影装置とを用いることを前提とする。
【0106】
本発明の[7]では、まず、前記映像投影装置から前記反射型スクリーンに、RGBカラーモデルにおける黒色(R=0、G=0、B=0)及び白色(R=255、G=255、B=255)を投影する。
【0107】
次に、外光下で前記黒色及び白色の輝度を測定してそれぞれの測定値Kmin及びKwを取得する。輝度の測定には、市販の各種の輝度計を用いることができる。
【0108】
次に、黒浮き量Lbを、式:255×Kmin/Kwの値の整数部として算出する。この算出には、市販のパソコンあるいは関数電卓等を用いることができる。
【0109】
最後に、前記映像の明度Lの明度範囲Lb≦L<2Lb内で観察される明度低下を補正する。これを明度調整工程という。この工程の実施には、前記明度調整手段を用いることができる。
【0110】
(本発明に係る映像表示方法:本発明の[8])
次に本発明の[8]の映像表示方法について説明する。この方法は、本発明の[7]において、前記明度調整工程に代えて、あるいはさらに、前記白色の輝度をKwからKw×(1+2Lb/255)に上昇させて、黒浮きを軽減する映像光出力調整工程を有する。この工程の実施には、前記映像光出力調整手段を用いることができる。
【符号の説明】
【0111】
1 表面形状拡散シート(本発明)
2 表面形状異方性拡散層
2A 表面形状拡散層(拡散角度検討用)
3 基板
4 反射型スクリーン(本発明)
4A 反射型スクリーン(拡散角度検討用)
5 映像投影装置(プロジェクター)
6 レンズ層
6a レンズ面
6b 非レンズ面
8 反射層
9 保護膜
10 保持板
11 天井灯
12 正面窓(スクリーン正面の窓)
13 床面
18 アイリス面
20 空間結像アイリス面
30 輝度計
50 映像光
51 床面からレンズ面への外光
52 床面以外からレンズ面への外光
53 天井灯から非レンズ面への外光
54 正面窓から非レンズ面への外光
60 観察位置
61 天井灯による外光拡散反射光の主光線
81 ホワイトマットスクリーン
82 SHLスクリーン
120a リレーレンズ
120b リレーレンズ
122 拡散フィルム積層体
130 三原色光源
134 デジタルミラーデバイス
136 遮光板
138 投射光学系
140 凹面反射鏡
142 凸面反射鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18