(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】多重特異的抗体を調製するためのポリペプチドリンカー
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241007BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241007BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241007BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241007BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241007BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12N15/62 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196236
(22)【出願日】2022-12-08
(62)【分割の表示】P 2019537115の分割
【原出願日】2018-01-09
【審査請求日】2023-01-06
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518340913
【氏名又は名称】ビオミューネクス・ファルマシューティカル
【氏名又は名称原語表記】BIOMUNEX PHARMACEUTICALS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ジュコーフスキー,ウジェーヌ
(72)【発明者】
【氏名】レジェ,オリヴィエ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522644(JP,A)
【文献】特表2011-501963(JP,A)
【文献】特表2015-501147(JP,A)
【文献】特表2011-510632(JP,A)
【文献】特表2015-536309(JP,A)
【文献】特表2006-505546(JP,A)
【文献】特表2003-531588(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111645(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/210223(WO,A1)
【文献】特表2020-503873(JP,A)
【文献】The Journal of Immunology,2016年02月26日,196,3199-3211
【文献】Cancer Letters,2012年,325,214-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C12N 15/13
C07K 16/46
C07K 16/28
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の重鎖と4本の軽鎖とを含む、
二重特異的抗体であって、ここでの各々の重鎖は、
a.ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む、免疫グロブリンのFc領域
を含み、
b.該Fc領域は、該ヒンジドメインによって抗体1(Ab1)のFabの重鎖CH1-VHに連結され、
c.これは次いで、ポリペプチドリンカー配列によって抗体2(Ab2)のFabの重鎖CH1-VHに連結され、ここでのポリペプチドリンカー配列は、Ab1の該Fabの重鎖VHドメインのN末端を、Ab2の該CH1ドメインのC末端に連結し、
ここでの4本の軽鎖は、その同族重鎖ドメインと会合したAb1の軽鎖とAb2の軽鎖を含み;
該ポリペプチドリンカー配列は、アミノ酸配列EPKX
1CDKX
2HX
3X
4PPX
5PAPELLGGPX
6X
7PPX
8PX
9PX
10GG(配列番号1)を含むか又はそれからなり、
ここで、X
1、X
2及びX
3は、同一又は異なり、トレオニン(T)又はセリン(S)であり;X
4
は、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)及びグリシン(G)
であり;
X
5
、X
6
及びX
7
は、アラニン(A)
であり、そしてX
8
、X
9
、X
10
は、同一又は異なり、アラニン(A)又はグリシン(G)
である、該
二重特異的抗体。
【請求項2】
ポリペプチドリンカー配列が、アミノ酸配列EPKSCDKTHTX
4
PPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGGであり、
ここで、X
4
は、セリン(S)、アラニン(A)又はグリシン(G)である、
請求項1記載の二重特異的抗体。
【請求項3】
ポリペプチドリンカー配列が、
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGG(配列番号3)
;及び
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPGPAPGGG(配列番号4)からなる群より選択される配列を含むか又はそれからなる、請求項
1の
二重特異的抗体。
【請求項4】
EGFR及びHER2/neuの両方を認識する、請求項1~
3のいずれかの
二重特異的抗体。
【請求項5】
Ab1及びAb2が異なり、一方ではセツキシマブ又はその突然変異誘導体、他方ではトラスツズマブ又はその突然変異誘導体からなる群より独立して選択される、請求項
4の
二重特異的抗体。
【請求項6】
CD38及びPD-L1の両方を認識する、請求項1~
3のいずれかの
二重特異的抗体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに定義されているような
二重特異的抗体の重鎖を含む、ポリペプチド。
【請求項8】
請求項
7のポリペプチドをコードしている配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項
8のポリヌクレオチドを含む発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項10】
2本の異なる軽鎖(第一の軽鎖は、該重鎖の第一のVH/CH1領域と特異的に対を形成している;第二の軽鎖は、該重鎖の第二のVH/CH1領域と特異的に対を形成している)をコードしている少なくとも2つのポリヌクレオチドでさらに形質転換されている、請求項
9の宿主細胞。
【請求項11】
第一の軽鎖及び第二の軽鎖とは異なり、該重鎖の第三のVH/CH1領域と特異的に対を形成している、第三の軽鎖をコードしている第三のポリヌクレオチドでさらに形質転換されている、請求項
9の宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれかに定義されているような
二重特異的抗体を調製するための方法であって、請求項
9~11のいずれかの宿主細胞を培養し
、該抗原結合断片又は抗体を回収する工程を含む、該方法。
【請求項13】
医薬品として使用するための、請求項1~
6のいずれかに定義されているような
二重特異的抗体。
【請求項14】
がんの処置に使用するための、請求項
4~6のいずれかに定義されているような
二重特異的抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野において有用である、改善された特性を有する多重特異的抗体に関する。
【0002】
発明の背景
治療用融合タンパク質は、薬品開発において重要な手法となっている。異なる機能的タンパク質モジュールから多重ドメインタンパク質を構築するために、ペプチドリンカーが頻繁に使用されている。結果として得られた多重ドメインタンパク質を、個々のモジュールに同族である標的に結合する(又は、個々のモジュールの生物学的機能を同時に発揮する)ように設計することで、孤立した単一ドメインに伴う生物学的効果を増強するか、又は、孤立した単一ドメインによって到達不可能な新規な生物学的活性をもたらすかのいずれかである。ペプチドリンカーを使用する数多くの分子の例が存在する:抗体の一本鎖可変ドメイン(scFv)、免疫サイトカイン(サイトカイン-抗体の融合物)、二重特異的抗体(BsAb)など。特定の融合タンパク質に対するリンカー(群)の選択は、1)様々なドメインが特定の3次構造(例えばscFvに基づいた抗体)へと折り畳まれるためにリンカー(群)が可動性を必要とするかどうか、2)タンパク質ドメイン間に必要な隔離をもたらすためにリンカー(群)が強剛性を必要とするかどうか、又は3)インビボにおいて所望の活性を生じるためのドメインの隔離を可能とするためにリンカー(群)は切断可能でなければならないかどうか、などの考慮によって指示される(Xiaoying Chen, et al, Adv Drug Deliv Rev. 2013. 65(10): 1357-1369)。不適切なリンカーは、融合タンパク質の所望の活性を減少又は消失させる可能性があるからリンカーの選択は重大であり得る。(Yumi Maeda, et al, Anal. Biochem. 1997. 249(2): 147-152)。
【0003】
融合タンパク質の構築に使用するための様々なリンカー配列が同定されている(Richard George and Jaap Heringa, Protein Engineering. 2003. 15(11): 871-879; Xiaoying Chen et al, Adv Drug Deliv Rev. 2013. 65(10): 1357-1369)。融合タンパク質の構築に使用されるリンカー配列を編集した様々な入手可能なデータベースも存在する:1)シンガポール国立大学によって編集されたSynLinker(http://synlinker.syncti.org)、及び2)合成生物学国際大会(http://parts.igem.org/Protein_domains/Linker);アムステルダム自由大学の統合的バイオインフォマティクスセンター(Centre for Integrative Bioinformatics)(http://www.ibi.vu.nl/programs/linkerdbwww)。国際特許出願の国際公開公報第2013/005194号は、IgG1ヒンジ配列、続いてIgG1 CH2ドメイン配列のN末端、続いてIgA1ヒンジの中央部分に由来する8アミノ酸の半剛性リンカー配列から設計されたリンカーを用いて構築された多重特異的抗体を開示している。IgA1ヒンジの中央部分を含む、この半剛性リンカーは、抗体の両方のFabドメインを十分に離して、内側のFcに近いFab2の抗原結合パラトープに対して影響を及ぼす外側のFab1のC末端に由来する立体障害を回避するのに重要である。
【0004】
しかしながら、本発明者らは、多数のグリコフォームの存在により、治療薬の開発に必要とされるこのような多重特異的抗体の一貫した調製物の生成がそれほど容易にはならないことを明らかとした。さらに、このような調製物の特徴付けはまた極めて複雑であり、これにより異なる方法で製造されたバッチの比較は労力のかかるものとなるだろう。
【0005】
発明の概要
その後、本発明者らは、これは、リンカーを再設計することによって、特にリンカーからグルコシル化部位を排除することによって改善され得ると気付いた。
【0006】
したがって、本発明は、アミノ酸配列EPKX1CDKX2HX3X4PPX5PAPELLGGPX6X7PPX8PX9PX10GG(配列番号1)を含むか又はそれからなるリンカーポリペプチドを提供し、ここで、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、本明細書において定義されているような任意のアミノ酸であり;ただし、該ポリペプチドは、EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号5)又はEPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号6)の配列を含むこともそれからなることもない。
【0007】
このようなポリペプチドは、融合タンパク質、より特定すると多重特異的抗体、特に二重特異的抗体におけるリンカーとして有用である。
【0008】
したがって、本発明の主題は、異なるCH1ドメイン及びCLドメインを有する少なくとも2つのFab断片を含む多重特異的抗原結合断片であり、ここでの各Fab断片は、関心対象の異なるエピトープを認識し、該Fab断片は任意の順序で直列に整列し、第一のFab断片のCH1ドメインのC末端は、ポリペプチドリンカーを通して後続のFab断片のVHドメインのN末端に連結され、該ポリペプチドリンカー配列は、アミノ酸配列EPKX1CDKX2HX3X4PPX5PAPELLGGPX6X7PPX8PX9PX10GG(配列番号1)を含むか又はそれからなることを特徴とし、ここで、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、任意のアミノ酸であり;ただし、該リンカー配列は、EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号5)又はEPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号6)の配列を含むこともそれからなることもない。
【0009】
さらに、2つの同一な抗原結合アーム(各々が、本明細書において定義されているような多重特異的抗原結合断片からなる)を有する多重特異的抗体が提供される。
【0010】
好ましい実施態様では、
-各々が本明細書に定義されているような多重特異的抗原結合断片からなる、2つの同一な抗原結合アーム;
-免疫グロブリンの二量体化したCH2ドメイン及びCH3ドメイン;
-抗原結合アームのCH1ドメインのC末端をCH2ドメインのN末端に連結している、IgA、IgG、又はIgDのヒンジ領域
を含む、免疫グロブリン様構造を有する多重特異的抗体が提供される。
【0011】
したがって、本発明はより特定すると、2本の重鎖と4本の軽鎖とを含む、多重特異的抗体、好ましくは二重特異的抗体を提供し、
ここでの各々の重鎖は、
a.ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む、免疫グロブリンのFc領域
を含み、
b.該Fc領域は、該ヒンジドメインによって抗体1(Ab1)のFabの重鎖CH1-VHに連結され、
c.これは次いで、ポリペプチドリンカー配列によって抗体2(Ab2)のFabの重鎖CH1-VHに連結され、ここでのポリペプチドリンカー配列は、Ab1の該Fabの重鎖VHドメインのN末端を、Ab2の該CH1ドメインのC末端に連結し、
ここでの4本の軽鎖は、その同族重鎖ドメインと会合したAb1の軽鎖とAb2の軽鎖を含み;
該ポリペプチドリンカー配列は、アミノ酸配列EPKX1CDKX2HX3X4PPX5PAPELLGGPX6X7PPX8PX9PX10GG(配列番号1)を含むか又はそれからなることを特徴とし、
ここで、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、任意のアミノ酸であり;ただし、該リンカー配列は、EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号5)又はEPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号6)の配列を含むこともそれからなることもない。
【0012】
特定の実施態様では、ポリペプチドリンカー配列は、
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPGGPPGPGPGGG(配列番号2);
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGG(配列番号3);及び
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPGPAPGGG(配列番号4)
からなる群より選択される配列を含むか又はそれからなる。
【0013】
本発明のさらなる主題は、本明細書において定義されているような多重特異的抗原結合断片、又は多重特異的抗体、好ましくは二重特異的抗体の重鎖を含む、好ましくはからなる、ポリペプチドである。
【0014】
本発明はさらに、このようなポリペプチドをコードしている配列を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いてトランスフェクトされた宿主細胞も本発明の一部である。
【0016】
本発明のさらなる主題は、本明細書に記載されているような、多重特異的抗体、好ましくは二重特異的抗体を生成するための方法であり、該方法は、以下の工程:a)適切な培地及び培養条件において、本明細書において定義されているような抗体の重鎖及び本明細書において定義されているような抗体の軽鎖を発現している宿主細胞を培養する工程;並びにb)培養培地から又は該培養細胞から前記の生成された抗体を回収する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の完全長のBiXAb二重特異的抗体の図である。
【
図2】
図2は、Fcドメインを含まない、リンカーによって接続されたたった2つのFabドメイン(Fab-Fab)しか含有していない二重特異的構築物の図である。
【
図3A】
図3Aは、BiXAb2bのサイズ排除クロマトグラフィー分析を示す。
【
図3B】
図3Bは、BiXAb3bのサイズ排除クロマトグラフィー分析を示す。
【
図3C】
図3Cは、Fab-Fab3bのサイズ排除クロマトグラフィー分析を示す。
【
図4A】
図4Aは、Fab-Fab3aのLC-MS分析のMSスペクトルを示す。
【
図4B】
図4Bは、Fab-Fab3bのLC-MS分析のMSスペクトルを示す。
【
図5A】
図5Aは、BiXAb3aのLC-MS分析のMSスペクトルを示す。
【
図5B】
図5Bは、BiXAb3bのLC-MS分析のMSスペクトルを示す。
【0018】
発明の詳細な説明
定義
天然に存在する抗体分子の基本構造は、非共有結合による相互作用によって及び鎖間ジスルフィド結合によって互いに保持された、2本の同一な重鎖と2本の同一な軽鎖からなる、Y字形の四量体四次構造である。
【0019】
哺乳動物種では、5種類の重鎖(α、δ、ε、γ、及びμ)が存在し:これは、それぞれ、免疫グロブリンのクラス(アイソタイプ)(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)を決定する。γ、α、及びδの重鎖では、重鎖のN末端可変ドメイン(VH)の後に、3つのドメイン(N末端からC末端に向かってCH1、CH2、及びCH3と番号付けされている)を含有している定常領域があるが、μ及びεの重鎖の定常領域は4つのドメイン(N末端からC末端に向かってCH1、CH2、CH3及びCH4と番号付けされている)から構成されている。IgA、IgG、及びIgDのCH1ドメイン及びCH2ドメインは、異なるクラスの間で、IgA及びIgGの場合には、異なるサブタイプの間で長さの異なる可動性ヒンジによって隔離され(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)それぞれ、15、12、62(又は77)、及び12アミノ酸のヒンジを有し、IgA1及びIgA2はそれぞれ20アミノ酸及び7アミノ酸のヒンジを有する。
【0020】
λ及びκという2種類の軽鎖が存在し:これらは重鎖アイソタイプのいずれかと会合することができるが、所与の抗体分子内においては両方共に同じ種類である。両方の軽鎖は、機能的に同一であるようである。それらのN末端可変ドメイン(VL)の後には、CLと呼ばれる単一ドメインからなる定常領域がある。
【0021】
重鎖及び軽鎖は、CH1ドメインとCLドメインとの間、及びVHドメインとVLドメインとの間で、タンパク質/タンパク質相互作用によって対を形成し、2本の重鎖は、それらのCH3ドメイン間のタンパク質/タンパク質相互作用によって会合している。
【0022】
抗原結合領域は、Y字形構造のアームに相当し、これは、重鎖のVHドメイン及びCH1ドメインと対を形成した完全な各軽鎖からなり、これらはFab断片と呼ばれる(抗原結合断片(Fragment antigen binding)のために)。Fab断片はまず、パパインによる消化によって天然免疫グロブリン分子から生成されるが、このパパインによる消化により、抗体分子がヒンジ領域内の鎖間ジスルフィド結合のアミノ末端側上で切断され、これにより2つの同一な抗原結合アームが遊離する。ペプシンなどの他のプロテアーゼもまた、抗体分子をヒンジ領域において切断するが、鎖間ジスルフィド結合のカルボキシ末端側上であり、これにより2つの同一なFab断片からなる断片が遊離され、これはジスルフィド結合を通して連結されたままであり;F(ab')2断片におけるジスルフィド結合の還元によりFab’断片が生成される。
【0023】
VHドメイン及びVLドメインに相当する抗原結合領域の部分は、Fv断片と呼ばれ(可変断片(Fragment variable)のために);それは、抗原結合部位(パラトープとも呼ばれる)を形成している、CDR(相補性決定領域)を含有している。
【0024】
免疫細胞上のエフェクター分子へのその結合に関与している抗体のエフェクター領域は、Y字形構造の幹に相当し、これは対を形成した重鎖のCH2ドメイン及びCH3ドメイン(又は、抗体のクラスに応じて、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメイン)を含有し、これはFc(結晶性断片(Fragment crystallisable)のために)領域と呼ばれる。
【0025】
2本の重鎖と2本の軽鎖が同一であることから、天然に存在する抗体分子は2つの同一な抗原結合部位を有し、したがって、2つの同一なエピトープに同時に結合する。
【0026】
本発明の脈絡において、「多重特異的抗原結合断片」は本明細書において、各々が異なるエピトープを認識する、2つ以上の抗原結合領域を有する分子として定義されている。異なるエピトープは、同じ抗原性分子によって生じていても、又は異なる抗原性分子によって生じていてもよい。「認識している」又は「認識する」という用語は、該断片が標的抗原に特異的に結合することを意味する。
【0027】
抗体が他の物質と結合するよりも高い親和性、結合力で、より容易に、及び/又はより長い期間におよび結合する場合に、該抗体は標的抗原に「特異的に結合」する。「特異的に結合している」又は「優先的に結合している」は、必ずしも排他的な結合を要求するものではない(排他的な結合を含んでいてもよいが)。一般的であって必ずしもではないが、結合への言及は、優先的な結合を意味する。
【0028】
「被験体」、「個体」及び「患者」という用語は本明細書において互換的に使用され、処置のために評価される及び/又は処置される哺乳動物を指す。被験体はヒトであってもよいが、他の哺乳動物、特にヒト疾患のための実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌなども含む。
【0029】
「処置」又は「処置する」という用語は、措置、適用、又は療法を指し、ここでのヒトをはじめとする被験体は、被験体の容態を直接的に又は間接的に改善する目的で医療を受ける。特に、該用語は、発症率を低減すること、又は症状を軽減すること、再発をなくすこと、再発を予防すること、発症を予防すること、症状を改善すること、予後を改善すること、又はその組合せをいくつかの実施態様において指す。当業者は、処置により、必ずしも症状が完全になくなるものでも除去されるものでもないことを理解しているだろう。例えば、がんに関しては、「処置」又は「処置している」は、腫瘍性細胞若しくは悪性細胞の成長、増殖、若しくは転移を緩徐化すること、腫瘍性細胞若しくは悪性細胞の成長、増殖、若しくは転移の発生を予防若しくは遅延させること、又はそのいくつかの組合せを指し得る。
【0030】
多重特異的抗体の設計
本明細書において、多重特異的抗原結合断片(群)、及び該断片を含む多重特異的抗体構築物が提供され、各々の多重特異的抗原結合断片は、本発明のリンカーによって隔てられた直列に整列したFab断片から本質的になる。
【0031】
このような断片及び構築物は好ましくは、ヒト免疫グロブリン、好ましくはIgG、さらに好ましくはIgG1由来の鎖を含む。
【0032】
2つを超える異なるFab断片を含む多重特異的抗原結合断片の場合、Fab断片を隔てているポリペプチドリンカーは、同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
本発明の多重特異的抗体の好ましい実施態様によると、それは、各々が上記に定義されているような多重特異的抗原結合断片からなる、2つの同一な抗原結合アームを有する。抗原結合アームは、抗体の目的とする用途に応じて、様々な方法で互いに連結させることができる。
【0034】
Fcにより媒介される効果を有さない抗体を得ることを所望する場合、抗体はFc領域を全く含まないだろう。この場合、2つの抗原結合アームを、例えば:
-Fab断片を隔離するポリペプチドリンカー(群)によってもたらされる鎖間ジスルフィド結合を通した抗原結合アームのホモ二量体化によって;及び/又は
-鎖間ジスルフィド結合の形成を可能とする、システイン残基を含有しているポリペプチド伸長物を、各抗原結合アームのC末端に付加すること、及び該ポリペプチド伸長物のホモ二量体化によりヒンジ様構造をもたらすことを通して;非限定的な例として、該ポリペプチド伸長物は、例えば、IgG1、IgG2、又はIgG3のヒンジ配列であり得る;
-2つの抗原結合アームの重鎖のC末端を接続して、単一ポリペプチド鎖を形成し、該抗原結合アームを互いに十分な距離で維持している、半剛性リンカーを通して、
互いに連結させることができる。
【0035】
あるいは、CDC障害、ADCC障害、又はADPなどのエフェクター機能が所望である場合、本発明の多重特異的抗体はさらに、これらのエフェクター機能を与えるFcドメインを含んでいてもよい。Fcドメインの選択は、所望のエフェクター機能の種類に依存するだろう。
【0036】
この場合、本発明の多重特異的抗体は、以下を含む免疫グロブリン様構造を有する:
-上記に定義されているような2つの同一な多重特異的抗原結合アーム;
-二量体化した免疫グロブリンのCH2ドメイン及びCH3ドメイン;
-抗原結合アームのCH1ドメインのC末端をCH2ドメインのN末端に連結している、IgA、IgG、又はIgDのいずれかのヒンジ領域、あるいは、代替的には、CH3ドメインの後にあるCH4ドメインがIgM又はIgEに由来する場合、抗原結合アームのCH1ドメインのC末端はこの場合、CH2ドメインのN末端に直接連結されていてもよい。
【0037】
好ましくは、CH2ドメイン及びCH3ドメイン、ヒンジ領域、並びに/又はCH4ドメインは、同じ免疫グロブリンに由来しているか、あるいは、抗原結合アームのCH1ドメインと同じアイソタイプ及び同じサブクラスの免疫グロブリンに由来している。
【0038】
天然免疫グロブリンに由来するCH2ドメイン、CH3ドメイン、及び場合によりCH4ドメイン、並びにヒンジ領域を使用してもよい。また、所望であれば、例えば、抗体のエフェクター機能を調節するために、それらを突然変異させることも可能である。場合によっては、CH2ドメイン又はCH3ドメインの全部又は一部を省略してもよい。
【0039】
本発明はより特定すると、それらの各々の標的に対する2つの結合部位と、抗体依存性細胞障害(ADCC)及び食作用などのエフェクター機能の活性化を可能とする機能的なFcドメインとを含む、二重特異的で四価の抗体を提供する。
【0040】
本発明のこのような好ましい抗体は、完全長抗体である。それらは好ましくは、ヒト免疫グロブリン、好ましくはIgG、さらに好ましくはIgG1に由来する重鎖及び軽鎖を含む。
【0041】
軽鎖はλ軽鎖であってもκ軽鎖であってもよく;それらは好ましくはκ軽鎖である。
【0042】
好ましい実施態様では、本発明のリンカーは、四価Fab二重特異的抗体フォーマットにおいてIgG Fabドメインを連結し、そのアミノ酸配列は、適切なIgG軽鎖配列と同時発現させた、該ポリペプチドリンカーによって接続された少なくとも2つのFabの重鎖配列、続いて天然ヒンジ配列、続いてIgG Fc配列を含む。
【0043】
IgG様構造を有する、BiXAb抗体と命名された、本発明の抗体の一例を
図1に例示する。以下に記載のBiXAb2a、BiXAb2b、BiXAb2c、及びBiXAb3bと呼称される抗体は具体例である。
【0044】
本発明の二重特異的抗体は典型的には、
-Fcの構築された連続重鎖(ヒンジ-CH2-CH3)、
-続いて、抗体1のFabの重鎖(CH1-VH)、及び連続した抗体2のFabの重鎖(CH1-VH)(後者は、本発明のポリペプチドリンカー配列によって接続されている)
を含み、
-タンパク質の発現中に、結果として得られた重鎖は会合して二量体となり、一方、同時発現された抗体1及び抗体2の軽鎖(VL-CL)はその同族重鎖と会合して、最終的な直列型F(ab)’2-Fc分子を形成し、
抗体1(Ab1)及び抗体2(Ab2)は異なる。
【0045】
好ましい実施態様では、
a)ヒトIgG1/κ由来のCH1ドメイン及びC-κドメインと、Ab1のVHドメイン及びVLドメインとを有する、Fab断片、
b)ヒトIgG1/κ由来のCH1ドメイン及びC-κドメインと、Ab2のVHドメイン及びVLドメインとを有する、Fab断片、
c)ヒトκ定常ドメインに由来する突然変異した軽鎖CL定常ドメイン、
d)突然変異した重鎖CH1定常ドメイン
からなる、異なるCH1ドメインとCLドメインとを有する2つのFab断片
を含む、二重特異的抗体が記載され、該Fab断片は、以下の順で直列に並んでいる:
-ポリペプチドリンカーを通して、Ab2のFab断片のVHドメインのN末端に連結されている、Ab1のFab断片のCH1ドメインのC末端、
-Ab2の断片のCH1ドメインのC末端をCH2ドメインのN末端に連結している、ヒトIgG1のヒンジ領域、
-ヒトIgG1の二量体化したCH2ドメイン及びCH3ドメイン。
【0046】
Ab1及びAb2は、関心対象の任意の抗体であり得、特に治療的に関心のある任意の抗体であり得る。特定の実施態様では、Ab1及びAb2は、異なり、抗EGFR抗体及び抗HER2/neu抗体からなる群より独立して選択される。好ましい実施態様では、Ab1及びAb2は、異なり、一方ではセツキシマブ又はその突然変異誘導体、他方ではトラスツズマブ又はその突然変異誘導体からなる群より独立して選択される。
【0047】
別の特定の実施態様では、Ab1及びAb2は、異なり、抗CD38抗体及び抗PD-L1抗体からなる群より独立して選択される。
【0048】
このような抗体は、医薬品として、より特定するとがんの処置において有用である。
【0049】
本明細書全体を通して、アミノ酸配列は、Kabat et al, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)に従って定義される。
【0050】
Fcドメインを含有していない、多重特異的抗原結合断片Fab-Fabである、本発明の構築物の別の例を
図2に例示する。Fab-Fab3aと称される具体例が以下に記載されている。
【0051】
このようなFab-Fab構築物は典型的には、2つの異なるFabドメインを含む。このような抗体は、抗原1及び抗原2にそれぞれ結合するたった1つのFabドメインしか有さない。それらは、対応するBiXAb抗体と同じ軽鎖を有するが、しかしながら、Fab-Fabの重鎖は、その最もC末端にある残基がシステイン-220(EUによる番号付け)であるように短縮されている。
【0052】
リンカーの設計
本発明によるポリペプチドリンカー配列は、アミノ酸配列EPKX1CDKX2HX3X4PPX5PAPELLGGPX6X7PPX8PX9PX10GG(配列番号1)を含むか又はそれからなり、ここで、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、任意のアミノ酸であり;ただし、該リンカー配列は、EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号5)又はEPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号6)の配列を含むこともそれからなることもない。
【0053】
ポリペプチドリンカー配列は、80未満のアミノ酸、好ましくは60未満のアミノ酸、さらに好ましくは40未満のアミノ酸からなる。
【0054】
特定の実施態様では、X1、X2、及びX3は、同一又は異なり、トレオニン(T)又はセリン(S)である。
【0055】
別の特定の実施態様では、X1、X2、及びX3は、同一又は異なり、トレオニン(T)又はセリン(S)以外の任意のアミノ酸であり、好ましくはX1、X2、及びX3は、同一又は異なり、Ala(A)、Gly(G)、Val(V)、Asn(N)、Asp(D)、及びIle(I)からなる群より選択され、さらに好ましくはX1、X2、及びX3は、同一又は異なり、Ala(A)又はGly(G)であり得る。
【0056】
あるいは、X1、X2、及びX3は、同一又は異なり、Leu(L)、Glu(E)、Gln(Q)、Met(M)、Lys(K)、Arg(R)、Phe(F)、Tyr(T)、His(H)、Trp(W)、好ましくはLeu(L)、Glu(E)、又はGln(Q)であり得る。
【0057】
特定の実施態様では、X4及びX5は、同一又は異なり、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)、及びグリシン(G)からなる群より選択される任意のアミノ酸である。
【0058】
好ましい実施態様では、X4は、セリン(S)又はシステイン(C)である。
【0059】
好ましい態様では、X5は、アラニン(A)又はシステイン(C)である。
【0060】
特定の実施態様では、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、トレオニン(T)又はセリン(S)以外の任意のアミノ酸である。好ましくは、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、Ala(A)、Gly(G)、Val(V)、Asn(N)、Asp(D)、及びIle(I)からなる群より選択される。
【0061】
あるいは、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、Leu(L)、Glu(E)、Gln(Q)、Met(M)、Lys(K)、Arg(R)、Phe(F)、Tyr(T)、His(H)、Trp(W)、好ましくはLeu(L)、Glu(E)、又はGln(Q)であり得る。
【0062】
好ましい実施態様では、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、Ala(A)及びGly(G)からなる群より選択される。
【0063】
さらに好ましい実施態様では、X6及びX7は同一であり、好ましくはAla(A)及びGly(G)からなる群より選択される。
【0064】
好ましい実施態様では、ポリペプチドリンカー配列は、配列番号1の配列を含むか又はそれからなり、ここで
X1、X2、及びX3は、同一又は異なり、トレオニン(T)、セリン(S)であり;
X4は、セリン(S)又はシステイン(C)であり;
X5は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり;
X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、Ala(A)及びGly(G)からなる群より選択される。
【0065】
特定の実施態様では、ポリペプチドリンカー配列は、
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPGGPPGPGPGGG(配列番号2);
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGG(配列番号3);及び
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPGPAPGGG(配列番号4)
からなる群より選択される配列を含むか又はそれからなる。
【0066】
別の好ましい実施態様では、ポリペプチドリンカー配列は、配列番号1の配列を含むか又はそれからなり、ここで
X1、X2、及びX3は、同一又は異なり、Ala(A)又はGly(G)であり:
X4は、セリン(S)又はシステイン(C)であり;
X5は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり;
X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なり、Ala(A)及びGly(G)からなる群より選択される。
【0067】
抗体の生成
本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている核酸を発現ベクターに挿入する。軽鎖及び重鎖を同じ又は異なる発現ベクターにクローニングすることができる。免疫グロブリン鎖をコードしているDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実にする発現ベクター(群)内の制御配列に作動可能に連結されている。このような制御配列は、シグナル配列、プロモーター、エンハンサー、及び転写終結配列を含む。発現ベクターは典型的には、エピソームとして、又は宿主染色体DNAの組込み部分としてのいずれかとして宿主生物において複製可能である。一般的には、発現ベクターは、所望のDNA配列を用いて形質転換された細胞の検出を可能とするための、選択マーカー、例えばテトラサイクリン又はネオマイシンを含有しているだろう。
【0068】
一例では、重鎖コード配列及び軽鎖コード配列の両方(例えば、VH及びVL、VH-CH1、又はVL-CLをコードしている配列)が1つの発現ベクターに含まれる。別の例では、抗体の重鎖及び軽鎖の各々が、個々のベクターにクローニングされる。後者の場合、重鎖及び軽鎖をコードしている発現ベクターを、両方の鎖の発現のために1つの宿主細胞に同時トランスフェクトしてもよく、この両鎖を会合することにより、インビボ又はインビトロのいずれかにおいてインタクトな抗体を形成することができる。
【0069】
特定の実施態様では、宿主細胞を、プラスミドなどの3つの独立した発現ベクターを用いて同時トランスフェクトし、これにより、3本の全ての鎖(すなわち、それぞれ重鎖HC、並びに2本の軽鎖LC1及びLC2)が同時に生成され、多重特異的抗体が分泌される。
【0070】
より具体的には、3つのベクターは有利には、以下の分子比3:2:2(HC:LC1:LC2)で使用され得る。
【0071】
本明細書に記載の抗体の発現のための組換えベクターは典型的には、構成性又は誘導性のいずれかであるプロモーターに作動可能に連結された抗体のアミノ酸配列をコードしている核酸を含有している。該ベクターは、原核細胞、真核細胞、又はその両方における複製及び組込みに適切であり得る。典型的なベクターは、転写終結因子及び翻訳終結因子、開始配列、並びに抗体をコードしている核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含有している。該ベクターは場合により、少なくとも1つの独立した終結配列、真核生物及び原核生物の両方においてカセットの複製を可能とする配列、すなわちシャトルベクター、並びに原核生物系及び真核生物系の両方のための選択マーカーを含有している、遺伝子発現カセットを含有している。
【0072】
本明細書に記載のような多重特異的抗体は、細菌、酵母、糸状菌、昆虫、及び哺乳動物細胞などの、原核生物発現系又は真核生物発現系において生成され得る。本発明の組換え抗体が、グリコシル化されているか又は真核細胞において発現される必要はないが、しかしながら、哺乳動物細胞における発現が一般的に好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、ヒト胚腎臓(293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-又は+DHFR(CHO、CHO-S、CHO-DG44、Flp-in CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO細胞)、及びヒト肝臓細胞(Hep G2細胞)である。
【0073】
ポリペプチドを発現及び生成するのには哺乳動物組織細胞培養が好ましい。なぜなら、インタクトな免疫グロブリンを分泌することのできる多くの適切な宿主細胞株が当技術分野において開発され、これには、CHO細胞株、様々なCos細胞株、HeLa細胞、好ましくは骨髄腫細胞株、又は形質転換されたB細胞若しくはハイブリドーマが挙げられる。
【0074】
最も好ましい実施態様では、本発明の多重特異的抗体、好ましくは二重特異的抗体は、CHO細胞株、最も有利にはCHO-S細胞株を使用することによって生成される。
【0075】
これらの細胞のための発現ベクターは、複製起点、プロモーター、及びエンハンサーなどの発現制御配列、並びに必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列を含み得る。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルスなどに由来するプロモーターである。
【0076】
関心対象のポリヌクレオチド配列(例えば、重鎖及び軽鎖をコードしている配列、並びに発現制御配列)を含有しているベクターを周知の方法によって宿主細胞に導入することができ、この方法は、細胞宿主の種類に応じて変化する。例えば、リン酸カルシウムによる処理又は電気穿孔法を、他の細胞宿主のために使用し得る(一般的にはSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press, 2nd ed., 1989参照)。重鎖及び軽鎖が、別々の発現ベクター上にクローニングされる場合、ベクターを同時にトランスフェクトすることにより、インタクトな免疫グロブリンの発現及びアセンブリが得られる。
【0077】
宿主細胞を、ベクターを用いて形質転換又はトランスフェクトし(例えば、化学的トランスフェクション又は電気穿孔法によって)、プロモーターを誘導するか、形質転換体を選択するか、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅させるために、慣用的な栄養培地(又は適宜、改変されている)中で培養する。
【0078】
一旦発現すると、本発明の完全な抗体、その二量体、個々の軽鎖及び重鎖、又は他の免疫グロブリン形態を、さらに単離又は精製することにより、さらなるアッセイ及び適用のために実質的に均一である調製物を得ることができる。当技術分野において公知である標準的なタンパク質精製法を使用することができる。例えば、適切な精製手順としては、イムノアフィニティカラム又はイオン交換カラムでの分画、エタノールによる沈降、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、硫酸アンモニウムによる沈降、及びゲルろ過(一般的にはScopes, Protein Purification(Springer-Verlag, N.Y., 1982)参照)が挙げられ得る。少なくとも約90~95%の均一性の実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、98~99%又はそれ以上の均一性が最も好ましい。
【0079】
インビトロでの生成は、大量の所望の本発明の多重特異的抗体、好ましくは二重特異的抗体を得るためのスケールアップを可能とする。このような方法は、例えばエアリフト反応器若しくは連続撹拌反応器中の均一な懸濁培養、又は、例えば中空繊維、マイクロカプセル、アガロースマイクロビーズ若しくはセラミックカートリッジ中に固定された若しくは封入された細胞培養を使用し得る。
【0080】
治療適用
本発明のさらなる態様は、本発明に記載の抗体を含む医薬組成物である。本発明の別の態様は、医薬組成物の製造のための本発明に記載の抗体の使用である。本発明のさらなる態様は、本発明に記載の抗体を含む医薬組成物の製造法である。
【0081】
別の態様では、本発明は、薬学的担体と一緒に製剤化された、本明細書に定義されているような抗体を含有している、組成物、例えば医薬組成物を提供する。
【0082】
本発明の組成物は、当技術分野において公知である様々な方法によって投与され得る。
【0083】
したがって一般的に上記されている本発明は、以下の実施例を参照することによってより容易に理解され、この実施例は説明のために提供され、本発明を限定するためのものではない。
【0084】
実施例
設計
本発明の第一の二重特異的抗体は、以下の構造を有するBiXAb2aと称される抗体である:
i)以下を含む連続的な重鎖:
・配列番号7に対応するトラスツズマブの重鎖可変領域(VH)、
・配列番号8に対応するヒトIgG1に由来する野生型CH1定常ドメイン(Kabatの192位の残基はトレオニンである)
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPGGPPGPGPGGG(配列番号2)からなる2つのFab重鎖を接続しているポリペプチドリンカー;
・配列番号9に対応するセツキシマブの重鎖可変領域(VH)、
・配列番号10に対応するヒトIgG1に由来する突然変異したCH1定常ドメイン(Kabatの192位の残基は、トレオニンからグルタミン酸へと突然変異している)、
・配列番号11に対応するヒトIgG1に由来する野生型ヒンジ領域、
・配列番号12に対応するヒトIgG1の野生型CH2ドメイン、
・配列番号13に対応するヒトIgG1の野生型CH3ドメイン。
よって、本発明の二重特異的抗体は、配列番号14の連続的な重鎖(701残基)を有する。
ii)配列番号15からなる野生型トラスツズマブ軽鎖、
iii)配列番号16に対応するヒトκに由来する突然変異した定常ドメイン(KabatのSer114位及びAsn137位の残基は、それぞれAla及びLysに突然変異している)を有するセツキシマブ軽鎖。
【0085】
本発明の第二の二重特異的抗体は、リンカーを除いて同じ配列から構成される、BiXAb2bと称される抗体であり、このリンカーはEPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGG(配列番号3)である。
【0086】
本発明の第三の二重特異的抗体は、リンカーを除いて同じ配列から構成される、BiXAb2cと称される抗体であり、このリンカーはEPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPGPAPGGG(配列番号4)である。
【0087】
本発明の第四の二重特異的抗体は、以下の構造を有するBiXAb3bと称される抗体である:
i)以下を含む連続的な重鎖
・配列番号23(EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDSWIHWVRQAPGKGLEWVAWISPYGGSTYYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARRHWPGGFDYWGQGTLVTVSS)に対応するアテゾリズマブの重鎖可変領域(VH)、
・配列番号10に対応するヒトIgG1に由来する突然変異したCH1定常ドメイン(Kabatの192位の残基は、トレオニンからグルタミン酸へと突然変異している)、
配列番号3からなる、2つのFab重鎖を接続しているポリペプチドリンカー;
配列番号17(EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAVSGFTFNSFAMSWVRQAPGKGLEWVSAISGSGGGTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYFCAKDKILWFGEPVFDYWGQGTLVTVSS)に対応するダラツムマブの重鎖可変領域(VH)、
・配列番号8に対応するヒトIgG1に由来する野生型CH1定常ドメイン(Kabatの192位の残基は、トレオニンである)、
・配列番号11に対応するヒトIgG1に由来する野生型ヒンジ領域、
・配列番号12に対応するヒトIgG1の野生型CH2ドメイン、
・配列番号13に対応するヒトIgG1の野生型CH3ドメイン、
[よって、本発明の重鎖は、配列番号18
【化1】
の連続的な重鎖を有する]
ii)配列番号19
【化2】
に対応するヒトκに由来する突然変異した定常ドメイン(KabatのSer114位及びAsn137位の残基は、それぞれAla及びLysへと突然変異している)を有するアテゾリズマブ軽鎖、
iii)配列番号20
【化3】
からなる野生型ダラツムマブ軽鎖。
【0088】
比較するために、EPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG(配列番号6)からなるリンカーによって、BiXAb3b抗体とは異なる、BiXAb3aと称される抗体も生成された。
【0089】
本発明の別の構築物は、Fab-Fab3bと称され;それはヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインが重鎖において欠失していることを除いて、BiXAb3bと同じ配列を含む。よって、Fab-Fab3bは、配列番号21
【化4】
の連続的な重鎖を有する。
【0090】
比較のために、ヒンジを除いてBiXAb3aと同じ配列から構成される、Fab-Fab3aと称される構築物も生成され、重鎖においてCH2ドメイン及びCH3ドメインが欠失している。
【0091】
配列番号7~16は以下に示されている。
・配列番号7
【化5】
・配列番号8
【化6】
・配列番号9
【化7】
・配列番号10
【化8】
・配列番号11
【化9】
・配列番号12
【化10】
・配列番号13
【化11】
・配列番号14
【化12】
・配列番号15
【化13】
・配列番号16
【化14】
【0092】
遺伝子の合成
抗HER2抗体(トラスツズマブ、クローンhumAb4D5-8)及び抗EGFR抗体(セツキシマブ)のアミノ酸配列を使用して、GeneScriptプログラムを使用した哺乳動物における発現のためのコドン最適化後に、DNA配列を設計した。重鎖については、Fab1のシグナルペプチド、可変領域、及びCH1定常ドメインに続いて偽ヒンジリンカー、並びにFab2の可変領域及びCH1定常ドメインをコードしている制限酵素による消化のためのフランキング配列を有するDNAは、GeneScriptによって合成された。軽鎖については、シグナルペプチド並びに可変領域及び定常κ領域をコードしているDNAは、GeneScriptによって合成された。
【0093】
Pfu Turbo Hot Startを使用したPCR反応を実施してインサートを増幅し、これを次いで、それぞれ重鎖及び軽鎖についてNotI+ApaI及びNotI+HindIIIによって消化した。二重消化された重鎖断片を、NotI+ApaIで処理されたpcDNA3.1発現ベクター(インビトロジェン社)を用いてライゲートし、このベクターにはヒトIgG1 CH1+ヒンジ+CH2+CH3ドメインがすでに挿入されていた。二重消化された軽鎖断片を、NotI+HindIIIで処理されたpcDNA3.1発現ベクター(インビトロジェン社)を用いてライゲートした。プラスミドDNAは、二本鎖DNAシークエンスによって確認された。
【0094】
発現及び精製
本発明の二重特異的抗体は、2:3:3=HC:LC1:LC2のモル比(1本の連続的な重鎖(HC)及び2本の軽鎖(LC))で別々のベクター上にコードされた3つの遺伝子を、無血清懸濁培地(ライフテクノロジーズ社製のCHO SFM-II培地(商標))に適応させたCHO-S細胞中で同時トランスフェクションすることよる、一過性遺伝子発現を用いて作製された。典型的には、50mLの培地の規模の発現試験では、合計で50μgのプラスミドDNA(25μgの重鎖1、12.5μgのトラツズマブ軽鎖、及び12.5μgのセツキシマブ軽鎖)を1.5mLのエッペンドルフチューブ中で混合し、25μLの3mg/mLのPEIトランスフェクション試薬(ポリプラス社)pH7.0を含有している1mLのCHO SFM培地を加え、室温で20分間インキュベートした。DNA-PEIの混合物を、125mLの振盪フラスコ中の、49mLのライフテクノロジーズ社のインビトロジェンフリースタイル(商標)CHO-S細胞に1~2×106/mLでローディングした。細胞をさらに6日間振盪した。細胞を3,000rpmで15分間遠心分離にかけることによって上清を収集した。上清中のBiXAbの発現力価は、フォルテバイオ社のプロテインAバイオセンサー(オクテット(登録商標)システム)を使用して決定された。次いで、二重特異的モノクローナル抗体(BiXAb)をプロテインAアフィニティ培地でMabSelect SuRe(GEヘルスケアライフサイエンシーズ社)を使用して精製した。抗体は、プロテインAから0.1MグリシンpH3.5を使用して溶出した。ダルベッコPBS(Lonza BE17-512Q)中の精製された抗体を滅菌ろ過し(テクノプラスチックプロダクツAG社製の0.2μMの滅菌フィルター)、最終濃度を、エッペンドルフバイオスペクトロメーター(登録商標)を使用して280nmでの吸光度の解読によって決定した。
【0095】
SDS-PAGEによる分析
電気泳動を、還元条件下及び非還元条件下で、バイオラッド社のゲルのステインフリー4~15%ゲル及び対応する泳動緩衝液を使用して実施した。精製されたBiXAb又はFab-Fab抗体を2×SDS試料緩衝液と合わせ、95℃で5分間加熱することによって試料を調製した。還元試料の調製は、加熱前のNuPAGE還元剤の添加を含んでいた。見かけの分子量は、ラダープレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード(バイオラッド社)を使用して決定された。
【0096】
サイズ排除クロマトグラフィー分析
タンパク質の凝集は、工学操作されたタンパク質分子において頻繁に観察されている。本発明者らは、本発明者らの抗体の高分子量種の含量をアッセイするために分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実施した。本発明者らは、SEC-s3000(300×7.8mm)カラム(バイオセップ社)及びAktapurifier 10システム(GEヘルスケア社)を使用し;アッセイは、pH7.4のPBS緩衝液を使用して1mL/分の流速で実施された。
【0097】
BiXAb2b(
図3A)、BiXAb3a、BiXAb3b(
図3B)、Fab-Fab3a、及びFab-Fab3b(
図3C)のSECクロマトグラムにより、メインピークが、単量体のBiXAb及びFab-Fab抗体の予想されれるサイズに相当することが実証され;これらのピークは、全試料の99.9~100.0%を占めた。したがって、本発明者らは、新規リンカーを含有している抗体が、高分子量種を全く有していないと結論付けた。単量体ピークの狭くかつ対称的な形状は、全てのBiXAb及びFab-Fabが正しく会合し、単一の種によって示されたことを示唆した。
【0098】
示差走査熱量測定によるBiXAbの特徴付け
示差走査熱量測定(DSC)を使用して、BiXAb2bの熱的安定性を試験した。Microcal(商標)VP-Capillary DSCシステム(Malvern Instruments)を使用して、示差走査熱量測定実験を実施した。
【0099】
試料を遠心分離にかけ(20,000×g、5分間、4℃)、そのタンパク質含量を、示差走査熱量測定分析前にNanodrop ND-1000分光光度計(サーモサイエンティフィック社)を使用してIgG分析プログラムを使用して定量した。アッセイのために、試料をPBSで最終濃度1mg/mLとなるまで希釈した。
【0100】
前平衡時間は3分間であり、得られたサーモグラムは60℃/hの走査速度で20~110℃で、25秒間のフィルタリング期間、及び培地のフィードバックで、取得された。試料を分析する前に、5つの緩衝液/緩衝液スキャンを測定して機器を安定化させ、緩衝液/緩衝液スキャンを、各タンパク質/緩衝液スキャンの間に実施した。データを、2状態ではないアンフォールディングモデルにあてはめ基線を差し引くことにより遷移前及び遷移後を調整した。
【0101】
DSCの結果は、BiXAb2bのDSCプロファイルが、2つの遷移を示したことを実証した。小さい方のピークは、96Kcal/モル/℃のCpmax及び71.5℃のTm1を有し、これはCH2ドメイン及びFabドメインの両方のアンフォールディングに相当し、大きい方のピークは、190Kcal/モル/℃のCpmax及び80.5℃のTm2を有し、これはCH3ドメインのアンフォールディングに相当する。
【0102】
液体クロマトグラフィー/質量分析(LC-MS)による分析
LC-MS/MSデータを、Q-Exactive質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ブレーメン、ドイツ)及びProswift RP-4H逆相カラム(250mm×1mm;サーモフィッシャー社)に連結させたDionex Ultimate 3000システムを使用して取得した。カラムオーブン温度を65℃に設定した。10μlを、LCによる分離のために注入した。0.1%ギ酸を含むLC-MS等級の水(移動相A)及び0.1%ギ酸を含むアセトニトリル(移動相B)からなる移動相の勾配を、0.2mL/分の流速で送達した(全操作時間は20分間)。溶出された抗体種は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によってQ-Exactive機器に導入され、これはフルスキャン15,000分解能を使用したポジティブイオンモードで作動した。Xcalibur 2.2ソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ブレーメン、ドイツ)を、機器の制御及びデータファイルの処理のために使用した。
【0103】
図4A及び4Bは、それぞれ、Fab-Fab3a(配列番号6を有するリンカーを含有している)及びFab-Fab3a(配列番号3を有するリンカーを含有している)のLC-MS分析を示す。
図4Aは、配列番号6に対応するリンカーを有するFab-Fab3aのLC-MSスペクトルが、リンカー(配列番号3)の組成だけが異なる関連したFab-Fab3b抗体よりも有意により不均一であることを実証する。Fab-Fab3a抗体におけるリンカー配列は、PSTPPTPSPS(配列番号22)配列を含有し、これはヒトIgA1ヒンジに見られ、2つのトレオニン残基及び2つのセリン残基においてO結合グリコシル化を受けることが知られている。これらの部位のグリコシル化は不均一であるので、生成物は通常、複数のグリコフォームを有し、その集団は、組換えタンパク質の発現条件によって強く影響を受ける。Fab-Fab3aにおけるN結合グルコシル化部位及びO結合グルコシル化部位の総数は少なくとも4つであり、これは
図4Aで観察された複雑なMSスペクトルを説明する。均一ではないO結合グリコシル化に起因する不均一性を低減させるために、配列番号3に対応するリンカー配列が設計された。したがって、リンカー(その配列は、O結合グリコシル化を受けることが知られているヒトIgA1のヒンジ配列に一致している)の部分におけるいくつかのセリン残基及びトレオニン残基をグリシン残基で置換し;さらに、リンカー内のいくつかの他のセリン残基及びトレオニン残基も、グリシンで置換した。
図4Bは、配列番号3のリンカーを含有しているFab-Fab3bのMSスペクトルが実質的に単純化していることを示し;これは、Fab-Fab3b分析物が、そのスペクトルが
図4Aに示されているFab-Fab3a分析物よりも複雑ではないためである。したがって、本発明者らは、配列番号6のリンカーを配列番号3のリンカーで置換することによって、Fab-Fab3b抗体から4つのO結合グリコシル化部位を排除することにより、実質的により均一なBiXAb調製物が得られたと結論付けた。
【0104】
配列番号6及び配列番号3のリンカーを含有している二重特異的抗体の均一性の相違は、2つのリンカー配列を有し、したがってBiXAb調製物内に増加した数のグリコフォームを有する、対称分子である、完全長BiXAb抗体の分析から特に明らかであった。さらに、BiXAbは、2つのN結合グルコシル化部位を有し、Fcドメインのそれぞれの重鎖上に1つずつである。BiXAb3aのLC-MSスペクトル(配列番号6のリンカーを用いて構築される)及びBiXAb3b(配列番号3のリンカーを用いて構築される)のLC-MSスペクトルをそれぞれ
図5A及び5Bに提示する。BiXAb3aは、リンカー配列の差異に基づいて、BiXAb3bと比較して8つの追加のO結合グルコシル化部位を含有していることが予想される。BiXAb3aにおける多数のO結合グリコシル化部位は、
図5Aにおける高度に複雑なMSスペクトルを説明する。どちらのBiXAb抗体も、Fcドメインに2つのN-グリコシル化部位を有し、その結果、両方のBiXAbの不均一性に寄与する追加のグリコフォームが得られ、これは、
図5Bで観察されたBiXAb3bの不均一性の残留量を説明する。
【配列表】