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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20241007BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241007BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20241007BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241007BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B15/02
C25B9/23
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022196891
(22)【出願日】2022-12-09
(65)【公開番号】P2024082789
(43)【公開日】2024-06-20
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】河野 匠
(72)【発明者】
【氏名】保志 祐太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼杉 將司
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-172655(JP,A)
【文献】特開平08-193287(JP,A)
【文献】特開2022-083098(JP,A)
【文献】特開2022-029892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-9/77
C25B 13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極およびカソード電極とを有する水電解スタックが備えられる水電解システムであって、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に電流を通電する電源装置と、
前記水電解スタックから排出され、前記水電解スタックでの水電解により生成される酸素ガスを含有する酸素含有ガスが流れる排出管路を狭める圧力制御弁と、
前記圧力制御弁よりも下流の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガス中の水素濃度を検出する濃度センサと、
前記電源装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記水素濃度に基づいて、前記アノード電極と前記カソード電極との間に通電される前記電流を調整する、水電解システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記水素濃度が所定の濃度閾値を超えると、前記制御装置は、前記電流を上昇させる、水電解システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記水素濃度が所定の濃度閾値を超えると、前記制御装置は、現在の電流値に、所定の加算値を加算して目標電流値を設定し、前記目標電流値の前記電流が通電されるように、前記電源装置を制御する、水電解システム。
【請求項4】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記水電解スタックと前記圧力制御弁との間の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガスの圧力を検出する圧力センサ
をさらに備え、
前記圧力制御弁は、前記制御装置の制御により開閉可能であり、
前記制御装置は、前記電流の通電が開始されてから前記圧力が所定の圧力閾値になるまで前記圧力制御弁を閉弁し、前記圧力が前記圧力閾値になると、前記圧力制御弁を開弁する、水電解システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水電解システムであって、
前記制御装置は、前記圧力制御弁の開弁後に、前記電流を調整する、水電解システム。
【請求項6】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記水電解スタックと前記圧力制御弁との間の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガスを乾燥させる乾燥器をさらに備える、水電解システム。
【請求項7】
請求項6に記載の水電解システムであって、
前記乾燥器は、
前記排出管路の内部に配置され、前記酸素含有ガス中の水蒸気を排出可能な中空管を有し、
前記中空管は、前記中空管の内外の圧力差によって、前記中空管の内部を流れる前記酸素含有ガス中の前記水蒸気を、前記中空管と前記排出管路との間の空間に排出する、水電解システム。
【請求項8】
請求項7に記載の水電解システムであって、
前記中空管が配置された前記排出管路の管壁には、ガス導入部およびガス排出部が形成され、
前記ガス導入部には、前記圧力制御弁よりも下流の前記排出管路の下流端部が接続され、
前記ガス排出部には、湿潤酸素を供給するための酸素供給管路が接続される、水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保するため、エネルギーの効率化に貢献する水電解スタックを含むシステムの研究開発が行われている。
【0003】
水電解スタックは、水を電解し、水素ガスおよび酸素ガスを生成する。水電解スタックが備えられた水電解システムとして、例えば特許文献1が開示されている。
【0004】
特許文献1の水電解システムは、水電解装置と酸素ガス排出規制部とを備えている。水電解装置は、イオン交換膜を挟んで互いに隔離されたアノードおよびカソードを有する。酸素ガス排出規制部は、アノードに生成された酸素ガスの排出を規制して、アノードに生成された酸素ガスの圧力を、カソードに生成された水素ガスの圧力よりも高圧とする。そのため、カソードからアノードに向かって水素ガスがイオン交換膜を透過することが抑制される。したがって、アノードに生成された酸素ガスを含む酸素含有ガス中の水素濃度が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-29892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水素ガスは有害であるため、酸素含有ガス中に混入する水素ガスをさらに低減することが要請される。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極およびカソード電極とを有する水電解スタックが備えられる水電解システムであって、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電流を通電する電源装置と、前記水電解スタックから排出され、前記水電解スタックでの水電解により生成される酸素ガスを含有する酸素含有ガスが流れる排出管路を狭める圧力制御弁と、前記圧力制御弁よりも下流の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガス中の水素濃度を検出する濃度センサと、前記電源装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記水素濃度に基づいて、前記アノード電極と前記カソード電極との間に通電される前記電流を調整する。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様によれば、水電解スタックの温度、電解質膜の劣化の進行度等に変化が生じた場合であっても、酸素含有ガス中の水素濃度を低い状態に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態による水電解システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、差圧式乾燥器の構成を示す模式図である。
図3図3は、制御処理の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、制御処理中のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態による水電解システム10の構成を示す模式図である。水電解システム10は、閉鎖空間で用いられてもよい。水電解システム10は、水電解スタック12、気液分離器14、電源装置16、圧力制御弁18、乾燥器20、濃度センサ22、圧力センサ24および制御装置26を備える。
【0012】
水電解スタック12は、水を電解する複数の単位セル30を有する。各単位セル30は同じ構成を有する。図1は、1つの単位セル30のみを示している。各単位セル30は、電解質膜31と、アノード電極32と、カソード電極33とを含む。電解質膜31は、例えば、水酸化物イオンOHを輸送するアニオン交換膜である。電解質膜31は、アノード電極32とカソード電極33とによって挟持される。
【0013】
各単位セル30のアノード電極32は、水電解スタック12の第1内部流路34を介して、水電解スタック12のアノード出口部35と連通する。各単位セル30のカソード電極33は、水電解スタック12の第2内部流路36を介して、水電解スタック12のカソード入口部37およびカソード出口部38と連通する。
【0014】
各単位セル30では、アノード電極32とカソード電極33とに印加される電圧に基づいて電気化学反応が行われる。カソード電極33では、水の一部が水素イオンHと水酸化物イオンOHとに分解される。カソード電極33では、水素イオンHが電子を受け取って、水素ガスとして生成される。各単位セル30で生成された水素ガスを含有する水素含有ガスは、水とともにカソード出口部38から排出される。水素含有ガスは、水素ガスの他に水蒸気を含む。
【0015】
水酸化物イオンOHは、電解質膜31を介してアノード電極32に輸送される。アノード電極32では、水酸化物イオンOHが電子を放出して酸素ガスが水とともに生成される。各単位セル30で生成された酸素ガスを含有する酸素含有ガスは、アノード出口部35から排出される。酸素含有ガスは、酸素ガスの他に水蒸気を含む。また、酸素含有ガスは、カソード側からアノード側に向かって電解質膜31を透過した僅かな水素ガスを含む。
【0016】
気液分離器14は、出力側循環管路41を介して水電解スタック12から排出される排出流体を水素含有ガスと、液水とに分離する。気液分離器14によって分離される水素含有ガスは、気液分離器14から所定の水素供給先に供給される。気液分離器14によって分離される液水は、入力側循環管路42を介して気液分離器14から水電解スタック12に供給される。
【0017】
電源装置16は、各単位セル30のアノード電極32とカソード電極33とに電圧を印加し、アノード電極32とカソード電極33との間に電流を通電させる。電源装置16は、アノード電極32とカソード電極33との間に通電される電流の電流値を調整可能に構成される。電流値は、制御装置26によって調整される。
【0018】
圧力制御弁18は、排出管路40を狭める弁である。圧力制御弁18は、排出管路40を狭めて、水電解スタック12で生成される酸素ガスを含む酸素含有ガスに圧力を付与する。そのため、水電解スタック12のアノード側で得られる酸素含有ガスの圧力は、水電解スタック12のカソード側で得られる水素ガスの圧力よりも高圧になる。したがって、カソード側からアノード側に向かって電解質膜31を透過する水素ガスのクロスオーバを抑制することができる。その結果、酸素含有ガス中の水素濃度を低減することができる。
【0019】
換言すると、圧力制御弁18は、各単位セル30のアノード側で生成される酸素ガスを含む酸素含有ガスの排出を規制して、酸素含有ガスの圧力を、各単位セル30のカソード側で生成される水素ガスの圧力よりも高圧とする。圧力制御弁18の種類は、水素ガスの圧力よりも酸素含有ガスの圧力を高圧とすることが可能な弁である限り、特に限定されない。本実施形態では、圧力制御弁18は、開度を調整可能なソレノイド弁である。
【0020】
乾燥器20は、酸素含有ガスを乾燥する機器である。乾燥器20は、水電解スタック12と圧力制御弁18との間の排出管路40に配置される。本実施形態では、乾燥器20は、差圧式乾燥器である。図2は、差圧式乾燥器の構成を示す図である。
【0021】
乾燥器20は、導管本体部51と、複数の中空管52とを有する。導管本体部51は、排出管路40の一部分である。導管本体部51は、排出管路40と一体に形成されてもよいし、排出管路40の上流部43と下流部44との間に介在されてもよい。図2では、導管本体部51が排出管路40の上流部43と下流部44との間に介在される場合の例が示されている。
【0022】
導管本体部51の管壁には、ガス導入部53と、ガス排出部54とが形成される。ガス導入部53は、ガス排出部54よりも上流に配置される。ガス導入部53は、各中空管52の上流端よりも上流に配置されてもよい。ガス導入部53には排出管路40の下流端部が接続される。ガス排出部54には酸素供給管路45が接続される。酸素供給管路45は、湿潤酸素を供給するための管路である。本実施形態では、酸素供給管路45の下流端は、酸素タンク60(図1)に接続される。また、酸素供給管路45には、上流から下流に向かって、逆止弁61、フィルタ62および遮断弁63がこの順に設けられる。
【0023】
各中空管52は、導管本体部51の内部空間(流路)に配置され、導管本体部51の内壁等に固定される。各中空管52は、水蒸気を透過し易い高分子材料により形成される。各中空管52は、中空管52の内外の圧力差によって、中空管52の内部を流れる酸素含有ガス中の水蒸気を、中空管52と排出管路40との間の空間に排出する。
【0024】
乾燥器20の導管本体部51には、水電解スタック12から排出管路40の上流部43に排出された酸素含有ガスが流入する。導管本体部51に流入した酸素含有ガスの一部は、各中空管52の内空を通る。また、導管本体部51に流入した酸素含有ガスの他の一部は、ガス排出部54から酸素供給管路45に流出する。
【0025】
各中空管52の内空を通る酸素含有ガスは、中空管52の下流端部から排出管路40の下流部44に流入する。排出管路40の下流部44を流れる酸素含有ガスは、乾燥している。乾燥状態の酸素含有ガスは、排出管路40の下流端部が接続されるガス導入部53から、導管本体部51(排出管路40)と中空管52との間の空間に流入する。この空間は湿潤状態にあり、当該空間に流入した酸素含有ガスは加湿される。加湿された酸素含有ガスは、酸素供給管路45または排出管路40の下流部44に流れる。
【0026】
濃度センサ22は、酸素含有ガス中の水素濃度を検出するセンサである。濃度センサ22は、圧力制御弁18よりも下流の排出管路40に設けられる。圧力制御弁18よりも下流を流れる酸素含有ガスの圧力は、圧力制御弁18よりも上流を流れる酸素含有ガスの圧力よりも減圧する。そのため、酸素含有ガスの相対湿度が下がる。したがって、圧力制御弁18よりも上流の排出管路40に濃度センサ22が設けられる場合に比べて、水分による測定精度の低下を抑制することができる。さらに、濃度センサ22は、乾燥器20よりも下流に配置される。したがって、水分による測定精度の低下を抑制することができる。
【0027】
圧力センサ24は、酸素含有ガスの圧力を検出するセンサである。圧力センサ24は、水電解スタック12と圧力制御弁18との間の排出管路40に設けられる。本実施形態では、圧力センサ24は、水電解スタック12と乾燥器20との間の排出管路40に設けられる。
【0028】
制御装置26は、水電解システム10を統括するコンピュータである。制御装置26は、1以上のプロセッサと、記憶媒体とを含む。記憶媒体は、揮発性メモリと不揮発性メモリとによって構成され得る。プロセッサとしては、CPU、MCU等が挙げられる。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられる。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられる。
【0029】
制御装置26は、例えば、水電解スタック12の起動指令を受けると、制御処理を実行する。図3は、制御処理の手順を示すフローチャートである。図4は、制御処理中のタイムチャートである。なお、水電解スタック12の起動前の状態(停止状態)では、圧力制御弁18は閉弁しており、圧力制御弁18の下流にガスが供給されない。また、水電解スタック12の起動前の状態(停止状態)では、遮断弁63は閉弁しており、遮断弁63の下流にガスが供給されない。
【0030】
ステップS1において、制御装置26は、電源装置16を制御して、各単位セル30のアノード電極32とカソード電極33との間に、予め設定された初期の電流値の電流を通電させ始める。この場合、アノード電極32とカソード電極33との間に通電される電流の電流値が徐々に増加する(図4参照)。電流の増加に伴って、水電解スタック12での水電解が開始され、水電解スタック12で生成される酸素ガスを含む酸素含有ガスの圧力が上昇する(図4参照)。
【0031】
制御装置26は、濃度センサ22および圧力センサ24の測定を開始する。この場合、制御装置26は、濃度センサ22によって検出される酸素含有ガス中の水素濃度と、圧力センサ24によって検出される酸素含有ガスの圧力とを、検出時間とともに記憶媒体に記憶し始める。各単位セル30の電極間への通電と、センサの測定とが開始されると、制御処理はステップS2に移行する。
【0032】
ステップS2において、制御装置26は、水電解スタック12の運転を継続するか否かを判定する。制御装置26は、第1条件または第2条件を満たさない場合、水電解スタック12の運転を継続しないと判断する。この場合、制御処理は終了する。一方、制御装置26は、第1条件または第2条件を満たす場合、水電解スタック12の運転を継続すると判断する。この場合、制御処理はステップS3に移行する。第1条件は、各単位セル30の電極間への通電が開始されてから所定の第1期間が経過しても電流値が初期値にならない場合である。第2条件は、各単位セル30の電極間への通電が開始されてから所定の第2期間が経過しても圧力センサ24によって検出される酸素含有ガスの圧力が所定の圧力閾値にならない場合である。
【0033】
ステップS3において、制御装置26は、電源装置16から現在の電流値を取得し、現在の電流値を初期値と比較する。現在の電流値が初期値未満である場合、制御処理はステップS2に戻る。一方、現在の電流値が初期値以上である場合、制御処理はステップS4に移行する。
【0034】
ステップS4において、制御装置26は、圧力センサ24によって検出される現在の圧力を取得し、現在の圧力を所定の圧力閾値と比較する。現在の圧力が圧力閾値未満である場合、制御処理はステップS2に戻る。一方、現在の圧力が圧力閾値以上である場合、制御処理はステップS5に移行する。
【0035】
ステップS5において、制御装置26は、圧力制御弁18を開弁する(図4参照)。この場合、制御装置26は、排出管路40よりも狭い流路が形成されるように圧力制御弁18の開度を調整する。また、制御装置26は、遮断弁63を開弁する。圧力制御弁18および遮断弁63が開弁されると、制御処理はステップS6に移行する。
【0036】
ステップS6において、制御装置26は、濃度センサ22によって検出される現在の水素濃度を取得し、現在の水素濃度を所定の濃度閾値と比較する。現在の水素濃度が濃度閾値未満である場合、制御処理はステップS6に留まる。一方、現在の水素濃度が濃度閾値以上である場合、制御処理はステップS7に移行する。
【0037】
ステップS7において、制御装置26は、各単位セル30の電極間に通電される電流を上昇させる。この場合、制御装置26は、現在の電流値に、所定の加算値VL(図4参照)を加算した結果を目標電流値として設定する。制御装置26は、目標電流値を設定すると、目標電流値の電流が通電されるように、電源装置16を制御する。各単位セル30の電極間に通電される電流が増加すると、水電解スタック12での水電解の反応速度が速くなる。そのため、水電解スタック12で生成される酸素ガスを含む酸素含有ガスの圧力が上昇する(図4参照)。目標電流値の電流の通電が開始されると、制御処理はステップS8に移行する。
【0038】
ステップS8において、制御装置26は、水電解スタック12の運転を継続するか否かを判定する。制御装置26は、第3条件を満たす場合、水電解スタック12の運転を継続すると判断する。この場合、制御処理はステップS6に戻る。一方、制御装置26は、第3条件を満たさない場合、水電解スタック12の運転を継続しないと判断する。この場合、制御処理はステップS9に移行する。第3条件は、加算値VLが所定回数加算されても濃度センサ22によって検出される水素濃度が濃度閾値を下回らない場合である。
【0039】
ステップS9において、制御装置26は、各単位セル30の電極間への通電を停止し、圧力制御弁18および遮断弁63を閉弁する。各単位セル30の電極間への通電が停止され、圧力制御弁18および遮断弁63が閉弁されると、制御処理は終了する。
【0040】
このように制御装置26は、水電解スタック12から排出される酸素含有ガス中の水素濃度に基づいて、各単位セル30の電極間に通電される電流を調整する。これにより、水電解スタック12の温度、電解質膜31の劣化の進行度等に変化が生じた場合であっても、酸素含有ガス中の水素濃度を低い状態に保つことができる。
【0041】
また、本実施形態では、制御装置26は、電流の通電が開始されてから、圧力センサ24によって検出される圧力が所定の圧力閾値になるまで圧力制御弁18を閉弁する。圧力が圧力閾値になると、制御装置26は、圧力制御弁18を開弁する。これにより、圧力制御弁18が常に開弁している場合に比べて、酸素含有ガスの圧力を速やかに高めることができ、その結果、酸素含有ガス中の水素濃度を低減することができる。
【0042】
また、本実施形態では、制御装置26は、圧力制御弁18を開弁後に、各単位セル30の電極間に通電される電流を調整する。これにより、制御装置26による制御負荷を低減することができ、その結果、エネルギー効率化し得る。
【0043】
上記の実施形態は、下記のように変形されてもよい。
【0044】
例えば、酸素供給管路45の下流端は、酸素タンク60に代えて、部屋に開放されてもよい。なお、部屋は、閉鎖空間に移動可能な移動体の内部に形成された部屋であってもよい。この場合、水電解システム10は移動体に搭載される。
【0045】
上記実施形態の水電解システム10では、水電解スタック12から中空管52の内空を通る酸素含有ガスは水分が低減され、排出管路40に設けられた濃度センサ22に供給される。その後、酸素含有ガスは、排出管路40の下流端部から中空管52の外側の空間に戻されて加湿される。加湿された酸素含有ガスは、酸素供給管路45を介して、酸素タンク60に代替された部屋に供給される。したがって、水分による濃度センサ22の測定精度の低下を抑制しつつも、人の呼吸に適した状態に加湿された酸素含有ガスを部屋に供給することができる。また、水電解スタック12で生成される酸素含有ガスを乾燥した後に再び加湿して部屋に供給するため、酸素含有ガスの利用効率を高めることができる。
【0046】
また例えば、乾燥器20は、熱交換式乾燥器であってもよい。乾燥器20が熱交換式乾燥器である場合、乾燥器20は、水電解スタック12で生じる熱を用いてもよい。また、乾燥器20は、取り除かれてもよい。この場合、排出管路40の下流端部は酸素タンク60に接続される。逆止弁61、フィルタ62および遮断弁63は、排出管路40に設けられる。
【0047】
また例えば、酸素供給管路45の供給先は、水電解システム10が搭載される移動体の室内等であってもよい。
【0048】
また例えば、濃度センサ22によって検出される水素濃度が所定の濃度閾値を超えている期間中、制御装置26は、各単位セル30の電極間に通電される電流の電流値を徐々に上昇させてもよい。
【0049】
以上の記載から把握し得る発明および効果について以下に記載する。
【0050】
(1)本発明は、電解質膜(31)と、前記電解質膜を挟持するアノード電極(32)およびカソード電極(33)とを有する水電解スタック(12)が備えられる水電解システム(10)である。前記水電解システムは、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電流を通電する電源装置(16)と、前記水電解スタックから排出され、前記水電解スタックでの水電解により生成される酸素ガスを含有する酸素含有ガスが流れる排出管路(40)を狭める圧力制御弁(18)と、前記圧力制御弁よりも下流の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガス中の水素濃度を検出する濃度センサ(22)と、前記電源装置を制御する制御装置(26)と、を備え、前記制御装置は、前記水素濃度に基づいて、前記アノード電極と前記カソード電極との間に通電される前記電流を調整する。
【0051】
これにより、水電解スタックの温度、電解質膜の劣化の進行度等に変化が生じた場合であっても、酸素含有ガス中の水素濃度を低い状態に保つことができる。なお、濃度センサは圧力制御弁よりも下流の排出管路に設けられる。そのため、圧力制御弁よりも下流を流れる酸素含有ガスの圧力は、圧力制御弁よりも上流を流れる酸素含有ガスの圧力よりも減圧する。その結果、酸素含有ガスの相対湿度が下がる。したがって、圧力制御弁よりも上流の排出管路に濃度センサが設けられる場合に比べて、水分による測定精度の低下を抑制することができる。
【0052】
(2)本発明は、水電解システムであって、前記水素濃度が所定の濃度閾値を超えると、前記制御装置は、前記電流を上昇させてもよい。これにより、水電解スタックでの水電解の反応速度が高まって、水電解スタックのアノード側で得られる酸素含有ガスの圧力が高まる。その結果、カソード側からアノード側に向かって電解質膜を透過する水素ガス量を低減し、酸素含有ガス中の水素濃度を低減することができる。
【0053】
(3)本発明は、水電解システムであって、前記水素濃度が所定の濃度閾値を超えると、前記制御装置は、現在の電流値に、所定の加算値(VL)を加算して目標電流値を設定し、前記目標電流値の前記電流が通電されるように、前記電源装置を制御してもよい。これにより、水素濃度が濃度閾値を超える度に段階的に電流を上昇させることができる。その結果、酸素含有ガス中の水素濃度を段階的に低減することができる。
【0054】
(4)本発明は、水電解システムであって、前記水電解スタックと前記圧力制御弁との間の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガスの圧力を検出する圧力センサ(24)をさらに備え、前記圧力制御弁は、前記制御装置の制御により開閉可能であり、前記制御装置は、前記電流の通電が開始されてから前記圧力が所定の圧力閾値になるまで前記圧力制御弁を閉弁し、前記圧力が前記圧力閾値になると、前記圧力制御弁を開弁してもよい。これにより、圧力制御弁が常に開弁している場合に比べて、酸素含有ガスの圧力を速やかに高めることができ、その結果、酸素含有ガス中の水素濃度を低減することができる。
【0055】
(5)本発明は、水電解システムであって、前記制御装置は、前記圧力制御弁の開弁後に、前記電流を調整してもよい。これにより、制御装置による制御負荷を低減することができ、その結果、エネルギー効率化し得る。
【0056】
(6)本発明は、水電解システムであって、前記水電解スタックと前記圧力制御弁との間の前記排出管路に設けられ、前記酸素含有ガスを乾燥させる乾燥器(20)をさらに備えてもよい。これにより、水分による濃度センサの測定精度の低下を抑制することができる。
【0057】
(7)本発明は、水電解システムであって、前記乾燥器は、前記排出管路の内部に配置され、前記酸素含有ガス中の水蒸気を排出可能な中空管(52)を有し、前記中空管は、前記中空管の内外の圧力差によって、前記中空管の内部を流れる前記酸素含有ガス中の前記水蒸気を、前記中空管と前記排出管路との間の空間に排出してもよい。これにより、熱交換式乾燥器の場合に比べて、作動エネルギー量を抑え易い。その結果、エネルギー効率化し得る。
【0058】
(8)本発明は、水電解システムであって、前記中空管が配置された前記排出管路の管壁には、ガス導入部(53)およびガス排出部(54)が形成され、前記ガス導入部には、前記圧力制御弁よりも下流の前記排出管路の下流端部が接続され、前記ガス排出部には、湿潤酸素を供給するための酸素供給管路(45)が接続されてもよい。これにより、乾燥状態の酸素含有ガスを濃度センサに供給しながら、湿潤状態の酸素含有ガスを供給先に供給することができる。
【0059】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0060】
10…水電解システム 12…水電解スタック
14…気液分離器 16…電源装置
18…圧力制御弁 20…乾燥器
22…濃度センサ 24…圧力センサ
26…制御装置 40…排出管路
45…酸素供給管路 51…導管本体部
52…中空管
図1
図2
図3
図4