IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベーペーヴェー ベルギッシェ アクゼン カーゲーの特許一覧

<>
  • 特許-自動車用の電動式の駆動ユニット 図1
  • 特許-自動車用の電動式の駆動ユニット 図2
  • 特許-自動車用の電動式の駆動ユニット 図3
  • 特許-自動車用の電動式の駆動ユニット 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】自動車用の電動式の駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20241007BHJP
   B60K 17/12 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
F16H57/04 J
B60K17/12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022501340
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 DE2020100594
(87)【国際公開番号】W WO2021008653
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102019118958.6
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507349721
【氏名又は名称】ベーペーヴェー ベルギッシェ アクゼン カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BPW Bergische Achsen KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マリー クリスティン アルト
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト シュミット
(72)【発明者】
【氏名】フランク レーエ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ブルナー
(72)【発明者】
【氏名】ウアス シュタイナー
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-70358(JP,A)
【文献】特開平6-92152(JP,A)
【文献】特表2013-533155(JP,A)
【文献】特表2017-534032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の電動式の駆動ユニットであって、電動駆動装置(5)と、該電動駆動装置(5)の下流に設けられた多段式の伝動機構(6)とを備え、該伝動機構(6)は、単独でまたは前記電動駆動装置(5)と一緒に駆動装置ハウジング(4)内に配置されており、該駆動装置ハウジング(4)は、前記伝動機構(6)を環状に取り囲む内面(11a)を有するハウジング周壁(11)と、該ハウジング周壁(11)と一体に形成された端壁(12)とから構成されており、該端壁(12)は、中心に前記伝動機構(6)の伝動機構出力軸(18)用の伝動機構開口(17)を有し、前記伝動機構(6)の構成部材を冷却するために、前記駆動装置ハウジング(4)を通して冷却液が案内され、前記電動式の駆動ユニットは、前記伝動機構開口(17)を取り囲むように前記端壁(12)に外向きに配置された環状チャンバ(33)を備え、前記駆動装置ハウジング(4)に複数の冷媒通路(35)が形成され、前記複数の冷媒通路(35)は、前記ハウジング周壁(11)の前記内面(11a)を起点として前記環状チャンバ(33)に通じる、電動式の駆動ユニットにおいて、
前記電動式の駆動ユニットは、前記伝動機構出力軸(18)を取り囲むアクスルハウジング(15)を備え、該アクスルハウジング(15)は、前記駆動装置ハウジング(4)に面して前記端壁(12)に取り付けられたフランジ(16)を備え、該フランジ(16)の環状領域が、前記端壁(12)と一緒に前記環状チャンバ(33)を形成していることを特徴とする、電動式の駆動ユニット。
【請求項2】
前記環状チャンバ(33)は、部分的に前記端壁(12)の外面に溝によって形成されることを特徴とする、請求項1記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項3】
前記アクスルハウジング(15)は、前記フランジ(16)と反対側の端部に、車両ホイール(2)を支持するためのスタブアクスル(1)を備えることを特徴とする、請求項1または2記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項4】
前記フランジ(16)に冷媒用接続管片が配置されており、該冷媒用接続管片から前記環状チャンバ(33)に冷媒通路が延びていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項5】
前記電動式の駆動ユニットは、前記フランジと前記端壁(12)との間に第1および第2の密封要素を備え、前記第1の密封要素は、前記環状チャンバ(33)と前記伝動機構開口(17)との間に配置された環状シール要素(51)であり、前記第2の密封要素は、前記環状チャンバ(33)を取り囲むように配置された環状シール要素(52)であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項6】
前記環状シール要素(51,52)は、前記端壁(12)の外側に向かって開いた、該端壁(12)に設けられた環状溝内に嵌められていることを特徴とする、請求項5記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項7】
両方の前記密封要素(51,52)は、前記伝動機構出力軸(18)の長手方向において互いに軸線方向でずらされて配置されており、前記第2の密封要素(52)は、駆動装置に近い方の側の密封要素であることを特徴とする、請求項5または6記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項8】
前記駆動装置ハウジング(4)に複数の別の冷媒通路(41)が形成されており、該別の冷媒通路(41)は、前記環状チャンバ(33)から前記端壁(12)を通って該端壁(12)の内面(12a)にまで延びていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項9】
前記別の冷媒通路(41)は、中心の軸線(A)を基準として、前記冷媒通路(35)が配置された直径円よりも小さい直径円上に配置された孔であることを特徴とする、請求項8記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項10】
前記別の冷媒通路(41)の軸線は、前記中心の軸線(A)に対して平行に方向設定されていることを特徴とする、請求項8または9記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項11】
前記別の冷媒通路(41)は、溝として形成された前記環状チャンバ(33)の底部(42)に開口しており、前記冷媒通路(35)は、溝として形成された前記環状チャンバ(33)の側壁(43)に開口していることを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項12】
前記アクスルハウジング(15)の前記フランジ(16)は、1つの共通のピッチ円上に配置された複数のねじ(19)によって前記端壁(12)に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項13】
前記ピッチ円の直径は、前記環状チャンバ(33)の最大の直径よりも大きいことを特徴とする、請求項12記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項14】
前記ねじ(19)はそのねじ山で、前記端壁(12)に形成されたねじ山付き盲孔(20)内に係合していることを特徴とする、請求項12または13記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項15】
前記冷媒通路(35)は、前記端壁(12)におけるねじ山付き盲孔(20)が形成されていないような円周部分において、前記環状チャンバ(33)に通じていることを特徴とする、請求項14記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項16】
前記端壁(12)と前記フランジ(16)とは、両者に形成された相互接触するセンタリング面(55)によって軸線方向で互いにアライメントされていることを特徴とする、請求項12から15までのいずれか1項記載の電動式の駆動ユニット。
【請求項17】
前記センタリング面(55)は、前記環状チャンバ(33)の最小の直径円よりも小さい直径円上に配置されていることを特徴とする、請求項16記載の電動式の駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の電動式の駆動ユニットであって、電動駆動装置と、この電動駆動装置の下流に設けられた多段式の伝動機構とを備え、この伝動機構は、単独でまたは電動駆動装置と一緒に駆動装置ハウジング内に配置されており、この駆動装置ハウジングは、伝動機構を環状に取り囲む内面を有するハウジング周壁と、このハウジング周壁と一体に形成された端壁とから構成されており、この端壁は、中心に伝動機構の伝動機構出力軸用の伝動機構開口を有し、伝動機構の構成部材を冷却するために、駆動装置ハウジングを通して冷却液が案内される、電動式の駆動ユニットに関する。
【0002】
このような電動式の駆動ユニットは、車両の走行駆動装置として用いられる。電動式の駆動ユニットは、商用車用の電動式の駆動アクスルの構成要素として使用される。この構造形態の車両アクスルでは、重量に関して有利に車両中心付近に配置された電動駆動装置に対し、多段式の伝動機構が下流に設けられている。この伝動機構は、単独でまたは電動駆動装置と一緒に駆動装置ハウジング内に配置されている。この駆動装置ハウジングは、実質的に円筒状のハウジング周壁と、このハウジング周壁と一体に形成された端壁とから構成されている。駆動装置ハウジングのハウジング周壁はその内面によって、内部に支持された伝動機構要素を環状に取り囲んでおり、駆動装置ハウジングの端壁は、中心に伝動機構開口を有しており、この伝動機構開口を通って、伝動機構から伝動機構出力軸が導出している。この伝動機構出力軸は、同時に、各々の車両ホイールに通じる駆動軸であるか、または別個の駆動軸に相対回動不能に結合されている。伝動機構出力軸もしくは駆動軸は、電動式の駆動アクスルの主として管状のアクスルハウジング内で回転する。このアクスルハウジングは、伝動機構に向けられた端部で駆動装置ハウジングの端面に不動に取り付けられていて、他方の端部に、駆動される車両ホイールが回転可能に支持されたスタブアクスルを有している。
【0003】
伝動機構要素を冷却するためには、伝動機構ハウジングとして働く駆動装置ハウジングを通して冷却液が案内される。このことは循環路の形態で行われる。この循環路では、冷却液が、伝動機構の、機械的な負荷がかけられる可能な限り全ての領域を既存の転がり軸受要素を含めて通流する。このためには、冷却液が駆動装置ハウジングの内部で循環させられる。
【0004】
駆動装置ハウジングの内部での冷却液の循環は、機械的に高い負荷がかけられる領域では限界に突き当たっている。なぜならば、伝動機構は極めてコンパクトな構造形態であることが多く、いっそう改善された冷却性能のために必要となるアセンブリを既存のハウジング内に格納するための構成スペースマージンがほとんど存在していないからである。
【0005】
したがって、本発明の根底にある課題は、液冷式の伝動機構が内部に配置された駆動装置ハウジングが構成要素を成している電動式の駆動ユニットにおいて、まさに、電動式の駆動ユニットの構造形態に起因した特殊性を活用して冷却性能を改善することである。
【0006】
この課題を解決するために、冒頭に記載した形態の電動式の駆動ユニットにおいて、伝動機構開口を取り囲むように端壁に外向きに配置された環状チャンバであって、駆動装置ハウジングに複数の冷媒通路が形成され、複数の冷媒通路が、ハウジング周壁の内面を起点として環状チャンバに通じる、環状チャンバが提案される。
【0007】
したがって、本発明によれば、冷媒循環の構成要素は環状チャンバである。しかしながら、この環状チャンバは、駆動装置ハウジングの内部に配置されているのではなく、伝動機構開口を取り囲むように駆動装置ハウジングの端壁に外向きに配置されている。この環状チャンバ内に冷却液が達するようにするために、駆動装置ハウジングには複数の冷媒通路が形成され、複数の冷媒通路が、ハウジング周壁の内面を起点として環状チャンバに通じる。
【0008】
環状チャンバを駆動装置ハウジングの端壁に外向きに配置することは有利である。なぜならば、駆動装置ハウジングはその内部にほとんど構成スペースマージンを提供しておらず、いずれにせよ、電気的な駆動アクスルの構成要素が、構造形態に起因して、本発明により環状チャンバが位置する端壁に取り付けられたアクスルハウジングであるからである。
【0009】
したがって、電動式の駆動アクスルの構造形態に起因した特殊性に基づき、冷却液を循環させるための環状チャンバを実現することができる。この環状チャンバは、一方では、駆動装置ハウジングの端壁によって画定され、他方では、アクスルハウジングに形成された環状領域によって画定される。つまり、環状チャンバは、単独で駆動装置ハウジングによって形成されるのではなく、駆動装置ハウジングと、この駆動装置ハウジングに端面側で取り付けられ、伝動機構出力軸を取り囲むアクスルハウジングとを構造形態に起因して組み合わせることによって形成される。
【0010】
環状チャンバが、部分的に、つまり、駆動装置ハウジングの側で、端壁の外面に溝によって形成され、アクスルハウジングが、駆動装置ハウジングに面してフランジを備えている構成が好適である。アクスルハウジングのフランジは端壁に取り付けられており、フランジには、端壁に形成された溝と一緒に環状チャンバを形成する、つまり、環状チャンバを画定するかもしくは取り囲む環状領域が位置している。
【0011】
アクスルハウジングは、電動式の駆動アクスルの構成要素であり、フランジと反対側の端部に、車両ホイールを支持するためのスタブアクスルを備えている。
【0012】
駆動ユニットの一構成によれば、フランジに冷媒用接続管片が配置されており、この冷媒用接続管片から環状チャンバに冷媒通路が延びており、これによって、環状チャンバに、例えば真新しい冷媒が充填されるか、またはアクティブな循環冷却の場合には、冷媒がポンプによって連続的に送り込まれる。
【0013】
フランジと端壁との間に設けられた第1および第2の密封要素がさらに好適である。好ましくは、第1の密封要素は、環状チャンバと中心の伝動機構開口との間に配置された環状シール要素であり、第2の密封要素は、環状チャンバを取り囲むように配置された環状シール要素である。好ましくは、環状シール要素は、端壁の外側に向かって開いた環状溝内に嵌められており、この環状溝は、端壁に形成されている。
【0014】
更なる構成によれば、両方の密封要素は、伝動機構出力軸の長手方向において互いに軸線方向でずらされて配置されており、第2の密封要素は、駆動装置に近い方の側の密封要素である。
【0015】
更なる構成によれば、駆動装置ハウジングに複数の別の冷媒通路が形成されており、これらの別の冷媒通路は、環状チャンバから端壁を通ってこの端壁の内面にまで延びている。したがって、これらの別の冷媒通路を介して、冷媒を環状チャンバから流出させることができ、駆動装置ハウジングの内部に再び戻すことができる。好ましくは、別の冷媒通路は、中心の軸線を基準として、冷媒通路が配置された直径円よりも小さい直径円上に配置された孔である。
【0016】
別の冷媒通路の軸線が、中心の軸線に対して平行に方向設定されていると、製造技術的に有利である。
【0017】
環状チャンバの有利な通流に関して、別の冷媒通路が、溝として形成された環状チャンバの底部に開口しており、冷媒通路が、溝として形成された環状チャンバの側壁に開口していると有利である。
【0018】
さらに、アクスルハウジングのフランジが、1つの共通のピッチ円上に配置された複数のねじによって駆動装置ハウジングの端壁に取り付けられていることが提案される。好ましくは、ピッチ円の直径は、環状チャンバの最大の直径よりも大きく、好ましくは、第2の密封要素の直径よりも大きい。
【0019】
好ましくは、ねじはそのねじ山で、端壁に形成されたねじ山付き盲孔内に係合している。
【0020】
駆動装置ハウジングと、この駆動装置ハウジングへのアクスルハウジングの取付けとのコンパクトな構造形態のために、冷媒通路は、端壁におけるねじ山付き盲孔が形成されていないような円周部分において、環状チャンバに通じていると有利である。
【0021】
さらに、端壁とフランジとが、両者に形成された相互接触するセンタリング面によって軸線方向で互いにアライメントされていることが提案される。
【0022】
好ましくは、センタリング面は、環状チャンバの最小の直径円よりも小さくかつ第1の密封要素の直径円よりも大きい直径円上に配置されている。
【0023】
商用車用の電動式の駆動アクスルの更なる利点および詳細は、図面に示した実施例の以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】商用車用の電動式の駆動アクスルの個別部材、つまり、二重の遊星歯車機構としての構造形態における多段式の伝動機構と、この伝動機構を収容する一部断面した駆動装置ハウジングと、この駆動装置ハウジングの端面に取付け可能なアクスルハウジングとの斜視図であり、前述した構成要素は、見やすさの理由から別個に示してある。
図2図1に示した視認方向IIに対応する駆動装置ハウジングの端面図である。
図3図2に「III-III」で示したずらされた切断平面に沿った電動式の駆動アクスルの一方の半部の縦断面図である。
図4図3の拡大部分図である。
【0025】
図3には、本明細書において概観図として用いられる部分的な縦断面図にて、自動車用の電動式の駆動アクスルの一方の半部が示してある。図示の駆動アクスルの半部は、スタブアクスル1に回転可能に支持された、図3の左端に破線で示した車両ホイール2を駆動するために働く。同様に形成された駆動アクスルの第2の半部は、図3に記入した車両中心平面Mの他方の側に対称的に位置していて、この他方の車両側の各々の車両ホイールを支持している。電動式の駆動アクスルは、全体として、一方の車両側から他方の車両側にまで一貫して延在するリジッドアクスルである。
【0026】
各々の車両側に対して、ひいては、各々の車両ホイール2を駆動するために、車両中心平面M付近に電動駆動装置5、特に電動モータが設けられている。各々の電動モータには、車両外側に向かって、図示の構成では2段式の遊星歯車機構の構造形態のそれぞれ1つの伝動機構6が下流に設けられている。
【0027】
電動式の駆動ユニットの2つの電動駆動装置5と2つの伝動機構6とは、駆動装置ハウジング4内に位置している。この駆動装置ハウジング4は一体形であってもよいし、複数の部分から形成されていてもよい。本明細書に記載した実施形態では、駆動装置ハウジング4は、3つの部分もしくは区分から成っている。両方の電動駆動装置5は、1つの共通の駆動装置ハウジング部分内に位置しており、両方の伝動機構6の各々は、別の固有の駆動装置ハウジング部分内に位置している。代替的には、各々の車両側に対して、電動駆動装置5がその伝動機構6と一緒に1つの共通の駆動装置ハウジング4内に配置されていてよい。
【0028】
つまり、駆動装置ハウジング4は、駆動ユニットの伝動機構ハウジングを同時に成していて、伝動機構6の伝動機構要素を環状に取り囲む内面11aを有する実質的に円筒状のハウジング周壁11と、このハウジング周壁11と一体に形成された端壁12とから構成されている。この端壁12は、主として閉じられているものの、その中心に伝動機構開口17を開放しており、この伝動機構開口17を通して、伝動機構6の、中心の回転軸線Aを中心として回転する伝動機構出力軸18が案内されている。
【0029】
伝動機構出力軸18は、好ましくはスプライン歯列を介して駆動軸に相対回動不能に結合されていてよい。この駆動軸は車両ホイール2に通じていて、この車両ホイール2を駆動する。伝動機構出力軸18と異なり、駆動軸は図面に示していない。駆動軸は、駆動ユニットの、中心の軸線Aを中心として延在する管状のアクスルハウジング15内で回転する。このアクスルハウジング15は、駆動装置ハウジング4の端面に取り付けられている。
【0030】
駆動ユニットのアクスルハウジング15はその車両外側の端部にスタブアクスル1を備えている。さらに、アクスルハウジング15には、車両ブレーキのブレーキ支持体、好ましくはディスクブレーキのブレーキ支持体が取り付けられている。また、アクスルハウジング15には、車両アクスルの長手方向アームおよび場合により横方向アームが取り付けられている。
【0031】
アクスルハウジング15を駆動装置ハウジング4に取り付けるために、アクスルハウジング15はその車両内側の端部に、半径方向に拡幅されたフランジ16を備えている。このフランジ16は、複数のねじ19によって駆動装置ハウジング4の端壁12に不動にねじ締結されている。ねじ19はそのねじ頭でフランジ16に支持されていて、そのねじ山で、端壁12に形成されたねじ山付き盲孔20内に係合している。
【0032】
駆動装置ハウジング部分同士の結合、つまり、一方では、電動駆動装置5を収容する駆動装置ハウジング部分と、他方では、伝動機構6を収容する駆動装置ハウジング部分との結合も複数のねじ締結部材29によって行われる。このために、これらの駆動装置ハウジング部分の各々の端部はフランジとして形成されている。このフランジは、ねじ締結部材29を介して互いに固く、好ましくは液密に結合されている。以下で全般的に駆動装置ハウジング4について言及する場合、駆動装置ハウジング4は、それぞれ伝動機構6、好ましくは2段式の遊星歯車機構が内在する駆動装置ハウジング部分を意味している。
【0033】
駆動装置ハウジングは、ハウジング機能を有しているだけでなく、それ自体遊星歯車機構の一部でもある。これは、図1によれば、ハウジング周壁11の内面11aが、第1の伝動機構段の、回転軸線Aを取り囲むように配置された斜歯歯列17aと、軸線方向にずらされて、第2の伝動機構段の、回転軸線Aを取り囲むように配置された斜歯歯列17bとを有していることに拠る。斜歯歯列17bの歯の向きもしくは傾斜位置は、第1の斜歯歯列17aの歯と逆向きである。
【0034】
ハウジング周壁11の内側に形成された斜歯歯列17a,17bには、遊星歯車機構の両方の伝動機構段の遊星歯車が噛み合っている。遊星歯車機構の残りの伝動機構要素は、軸線Aを中心として回転可能な伝動機構支持体17c内に配置されている。この伝動機構支持体17cは、予め組み立てられた構成ユニットの形態で駆動装置ハウジング4内に挿入されている。
【0035】
伝動機構6は、遊星歯車機構の構造形態を成している。この遊星歯車機構の遊星歯車と内歯歯車とは、歯傾斜位置を有している。この歯傾斜位置は、端壁12から離れる方向を向いた送り作用(Schaufelwirkung)を冷媒に発生させ、パッシブなサンプ冷却の場合には、端壁12に向けられた送り作用を冷媒に発生させる。
【0036】
伝動機構支持体17cの中心の部分は、軸線Aを中心として回転する伝動機構出力軸18である。この伝動機構出力軸18は、駆動装置ハウジング4の、同じく中心に配置された伝動機構開口17を越えて突出していて、アクスルハウジング15内へと延在している。
【0037】
伝動機構6と、この伝動機構6の、部分的に強い負荷がかけられる歯、ピニオンおよび軸受との冷却は、アクティブな循環冷却の場合には、外部のポンプにより循環させられる冷却液によって行われる。このポンプは、液体を駆動装置ハウジング4から流出させ、外部の熱交換器を通して案内し、その後、接続管片21に圧送し、この接続管片21を介して冷却液は短い距離で環状チャンバ33内に達し、ひいては、回路内に戻る。接続管片21は、アクスルハウジング15のフランジ16に位置している。
【0038】
これに対して、パッシブなサンプ潤滑の場合には、外部のポンプを省略して、液体が、環状チャンバ33を含めて、専ら駆動装置ハウジング4の内部で循環させられる。
【0039】
循環の形態に左右されずに、冷却液は、好ましくは伝動機構オイルであり、これによって、液体は伝動機構要素を潤滑するだけでなく、熱搬出も引き受ける。
【0040】
遊星歯車機構としての構造形態に起因して、冷却・潤滑液は、遊星歯車の遠心力に基づき斜歯歯列17a,17bに向かって外向きに投げ飛ばされる。したがって、冷却液はハウジング周壁11の内面11aに集められる。以下に詳しく説明する手段は、こうしてハウジング周壁11の内面11aに集められた液体を、伝動機構6のより中心の領域と、転がり軸受の領域、例えば伝動機構出力軸18の転がり軸受31とに戻すように搬送するために役立つ。
【0041】
冷媒搬送と冷却性能とを改善するために、端壁12に外向きに、中心の回転軸線Aと伝動機構開口17とを完全な環の形態で取り囲む環状チャンバ33が配置されており、この環状チャンバ33内に冷媒を更なる循環のために集めることができる。同時に、駆動装置ハウジングのハウジング周壁11と端壁12との間の移行領域には、複数の冷媒通路35が形成されている。これらの冷媒通路35は、ハウジング周壁11の内面11aを起点として環状チャンバ33に通じている。したがって、ハウジング周壁11の内側、特に斜歯歯列17a,17bの内側に集められた液体は、第1のステップで冷媒通路35を通って環状チャンバ33内に達する。したがって、この環状チャンバ33は、冷却液用のコレクタを形成している。
【0042】
環状チャンバにはスペースが必要であり、このスペースは、極めてコンパクトに形成された駆動装置ハウジング4内に提供することはできない。したがって、環状チャンバ33は、駆動装置ハウジング4の、車両ホイール2に向けられた端面に外向きに位置している。とりわけ、環状チャンバ33は、駆動装置ハウジング4自体によってのみ形成されるのではなく、他方でアクスルハウジング15によって形成される。このことは、環状チャンバ33が、一方では、端壁12の外面に形成された環状の溝によって形成され、他方では、フランジ16の、端面12に向けられた端面に設けられた環状領域によって形成されることにより達成される。つまり、フランジ16の端面に設けられた環状領域が、端壁12に形成された溝と共に環状チャンバ33を形成しており、これによって、伝動機構の構成部材だけでなく、駆動ユニットの別の構成部材、つまり、アクスルハウジング15の、円形ディスクとして形成されたフランジ16も、冷媒案内と循環とに関与している。
【0043】
こうして、冷媒の循環と冷却性能の改善とが、まさに、電動式の駆動ユニットの構造形態に起因した特殊性を活用して達成される。なぜならば、アクスルハウジング15もこの駆動ユニットの構成要素であるからである。
【0044】
環状チャンバ33をコレクタとして用いることができるようにするために、前述した多数の冷媒通路35が存在している。これらの冷媒通路35は、好ましくは、円形の駆動装置ハウジング4の全周にわたって均等に分配されて配置されている。
【0045】
環状チャンバ33内に集められた冷却液は、別の冷媒通路41を介して駆動装置ハウジング4の内部に戻される。別の冷媒通路41も同じく多数存在していて、円形の駆動装置ハウジング4の全周にわたって均等に分配されて配置されている。別の冷媒通路41は、環状チャンバ33から端壁12を通って延びていて、それぞれ端壁12の内面12aに開口している。
【0046】
本明細書に記載した実施例では、別の冷媒通路41は、それぞれ伝動機構出力軸18の回転軸線Aに対して平行に延びる貫通孔である。回転軸線Aを基準として、別の冷媒通路41は、冷媒通路35が配置された直径円よりも小さい直径円上に配置されている。
【0047】
内面11aの領域に集められた冷媒を環状チャンバ33内に搬送するために、冷媒通路35は、駆動ユニットの中心の軸線Aに対して傾けられて延びている。駆動装置ハウジング4の内部への各々の冷媒通路35の入口は、環状チャンバ33への各々の冷媒通路35の入口よりも半径方向外側に位置している。
【0048】
図2によれば、一方の冷媒通路35と、他方の別の冷媒通路41とは、この別の冷媒通路41が環状チャンバ33の底部42に開口し、冷媒通路35が、環状チャンバ33の、底部42に対して斜めに配置された側壁43に開口するように、溝状の環状チャンバ33に開口している。本実施例では、溝の、冷媒通路35が開口した側壁43が、溝の底部42に対して斜めに配置されているのに対して、別の側壁は、溝の底部42に対して実質的に垂直に配置されている。この構成によって、環状チャンバ33の内部での均等な冷媒分配が達成される。
【0049】
環状チャンバ33は、半径方向内側では第1の密封要素51を介して密封されていて、半径方向外側では第2の密封要素52を介して密封されており、これによって、内側に向かっても、外側に向かっても、液体が流出することはない。好ましくは、両方の密封要素51,52は、中心の軸線Aを取り囲むように配置された環状シール要素である。各々の環状シール要素を収容するための溝は、端壁12の端面に形成されている。
【0050】
端壁12とフランジ16とは、両者に形成された相互接触するセンタリング面55によって軸線方向で互いにアライメントされている。中心の軸線Aを中心として環形状で延在する段部の形態のセンタリング面は、環状チャンバ33の最小の直径円よりも小さい直径円上に配置されている。つまり、環状のセンタリング面55は、半径方向で環状チャンバ33と内側の第1の密封要素51との間に位置している。
【0051】
フランジ16を端壁12に取り付ける、一貫したピッチ円上に配置された複数のねじ19はそのねじ山で、それぞれ端壁12に形成されたねじ山付き盲孔20内に係合している。
【0052】
全体的にコンパクトな構造形態のために、一方でねじ山付き盲孔20と、冷媒通路35とは、互いに異なる円周部分に配置されている(図2)。例えば、1つのねじ19もしくはねじ19のねじ山付き盲孔20と、1つの冷媒通路35とが、それぞれ周方向で交互に配置されていてよい。しかしながら、冷媒通路35の個数がねじ19もしくはねじ山付き盲孔20の個数の半分である図2に示した構成が好適である。
【0053】
図4によれば、別の冷媒通路41は、この別の冷媒通路41から流出した冷媒が、伝動機構出力軸18をハウジング周壁11内に支持する各々の転がり軸受31にほぼ直接到達するように方向設定されている。これによって、まさに強い負荷がかけられる転がり軸受31の冷却ならびに潤滑が改善される。
【0054】
取り囲む伝動機構開口17に対する伝動機構出力軸18の半径方向の密封は、これらの構成部材に配置された運動用接触型シール58によって行われる。
【符号の説明】
【0055】
1 スタブアクスル
2 車両ホイール
4 駆動装置ハウジング
5 電動駆動装置
6 伝動機構
11 ハウジング周壁
11a ハウジング周壁の内面
12 端壁
12a 端壁の内面
15 アクスルハウジング
16 フランジ
17 伝動機構開口
17a 斜歯歯列
17b 斜歯歯列
17c 伝動機構支持体
18 伝動機構出力軸
19 ねじ
20 ねじ山付き盲孔
21 接続管片
29 ねじ締結部
31 転がり軸受
33 環状チャンバ
35 冷媒通路
41 冷媒通路
42 底部
43 側壁
51 第1の密封要素、環状シール要素
52 第2の密封要素、環状シール要素
55 センタリング面
58 運動用接触型シール
A 中心の軸線、回転軸線
M 車両中心平面
図1
図2
図3
図4