(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20241007BHJP
G01L 3/14 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
F16H1/32 B
G01L3/14 G
(21)【出願番号】P 2022509981
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010647
(87)【国際公開番号】W WO2021193244
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020052075
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】ポイントナー マーティン
(72)【発明者】
【氏名】マーカート セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/142318(WO,A1)
【文献】特開2007-40774(JP,A)
【文献】特開2011-209099(JP,A)
【文献】特開2004-198400(JP,A)
【文献】特表2019-537032(JP,A)
【文献】特開2018-132154(JP,A)
【文献】特表平6-509164(JP,A)
【文献】実開平7-20537(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
G01L 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車は、内周に内歯が形成された内歯リング部と、外部部材に連結される外部連結部と、前記内歯リング部と前記外部連結部との間に設けられ、前記内歯リング部よりも変形しやすい構成とされた変形容易部と、当該変形容易部に設けられた歪み測定手段と、を有
し、
前記変形容易部は、軸方向の厚さが前記内歯リング部の厚さより小さく、前記内歯リング部と前記外部連結部との間で周方向に連続したリング状の平板を有する、撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記変形容易部は、前記外部連結部よりも変形しやすい構成とされる
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撓み変形する外歯歯車を備えた撓み噛合い式歯車装置等の歯車装置は、内歯歯車の固定枠の外周に歪みゲージを取り付け、検出された歪みからトルク検出が行われていた(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の歯車装置は、内歯歯車の固定枠の外周に歪みゲージが取り付けているので、内歯歯車からトルクに起因する歪みが生じにくい位置にあるため、十分な検出精度が得られないおそれがあった。
【0005】
本発明は、良好なトルク検出が可能となる撓み噛合い式歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車は、内周に内歯が形成された内歯リング部と、外部部材に連結される外部連結部と、前記内歯リング部と前記外部連結部との間に設けられ、前記内歯リング部よりも変形しやすい構成とされた変形容易部と、当該変形容易部に設けられた歪み測定手段と、を有し、
前記変形容易部は、軸方向の厚さが前記内歯リング部の厚さより小さく、前記内歯リング部と前記外部連結部との間で周方向に連続したリング状の平板を有する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好なトルク検出が可能となる撓み噛合い式歯車装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
【
図5】実施形態3の第1内歯部材のサポート部材周辺を拡大した部分正面図である。
【
図6】本発明の実施形態4に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
【
図7】本発明の実施形態5に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
【
図8】本発明の実施形態6に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態6の第1内歯部材の軸方向断面図である。
【
図10】本発明の実施形態7の第1内歯部材の軸方向断面図である。
【
図11】本発明の実施形態8の第1内歯部材の正面図である。
【
図13】
図12の歪みゲージを用いた測定装置において構成されるホイートストンブリッジ回路を示している。
【
図14】本発明の実施形態9に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を示す簡略図である。
【
図15】
図14の撓み噛合い式歯車装置測定装置において構成されるホイートストンブリッジ回路を示している。
【
図16】
図14の撓み噛合い式歯車装置測定装置の他の例において構成される一方のホイートストンブリッジ回路である。
【
図17】
図14の撓み噛合い式歯車装置測定装置の他の例において構成される他方のホイートストンブリッジ回路である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
なお、以下の説明では、後述する回転軸O1に平行な方向を軸方向、回転軸O1を中心とする円周に沿った方向を周方向、回転軸O1を中心とする円周の半径に沿った方向を半径方向という。
【0011】
実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1は、例えば、減速装置である。撓み噛合い式歯車装置1の用途は特に限定されることなく、様々な用途に適用でき、例えば人と協働で作業を行う協働ロボットの関節を駆動するのに用いられる。この撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸30、起振体軸受31、第1外歯部32、第2外歯部33、第1内歯部411、第2内歯部421、ケーシング43、第1カバー44、第2カバー45、第3カバー49、軸受46、47、主軸受48及びストッパーリング51、52を備える。
【0012】
起振体軸30は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体30Aと、起振体30Aの軸方向の両側に設けられた軸部30B、30Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円である必要はなく、略楕円を含む。軸部30B、30Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。なお、起振体軸30は、中実軸であってもよい。
【0013】
第1内歯部411は、剛性を有する内歯歯車としての第1内歯部材41の内周の一部に歯が設けられて構成される。
第2内歯部421は、剛性を有する第2内歯部材42の内周の一部に歯が設けられて構成される。
【0014】
第1外歯部32と第2外歯部33とは、可撓性を有する一つの金属製の円筒状の基部34の外周において、軸方向の一方と他方とに並んで一体的に設けられている。これら第1外歯部32、第2外歯部33及び基部34は、外歯歯車を構成している。
そして、第1外歯部32は、第1内歯部411と噛合し、第2外歯部33は、第2内歯部421と噛合している。
【0015】
起振体軸受31は、例えばコロ軸受であり、起振体30Aと第1外歯部32及び第2外歯部33が形成された基部34との間に配置される。起振体30Aと第1外歯部32及び第2外歯部33とは、起振体軸受31を介して相対的に回転可能にされる。
起振体軸受31は、基部34の内側に嵌入される外輪31aと、複数の転動体(コロ)31bと、複数の転動体31bを保持する保持器31cとを有する。
複数の転動体31bは、第1外歯部32及び第1内歯部411の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第1群の転動体31bと、第2外歯部33及び第2内歯部421の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第2群の転動体31bとを有する。これらの転動体31bは、起振体30Aの外周面と外輪31aの内周面とを転走面として転動する。起振体軸受31は、起振体30Aとは別体の内輪を有してもよい。また、起振体軸受31は、外輪31aをなくして、基部34の内周面を外輪側転走面としてもよい。転動体の種類も特に限定されるものではなく、例えば玉でもよい。また、転動体の列数も2つに限定されるものではなく、1列でもよいし、3列以上でもよい。
【0016】
ストッパーリング51、52は、第1外歯部32及び第2外歯部33と起振体軸受31との軸方向の両側に配置され、第1外歯部32及び第2外歯部33と起振体軸受31の軸方向の移動を規制する。
【0017】
ケーシング43は、第2内歯部材42の外周側を覆う。ケーシング43の内周部には、主軸受48の外輪部が形成されており、主軸受48を介して第2内歯部材42を回転自在に支持している。ケーシング43は、例えば、ボルトのような連結部材を介して第1内歯部材41と連結される。
【0018】
主軸受48は、例えば、クロスローラ軸受であり、第2内歯部材42と一体化された内輪部とケーシング43と一体化された外輪部との間に配置される複数の転動体とを有する。なお、主軸受48は、第2内歯部材42とケーシング43との間で、軸方向に離間した複数の軸受(アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等)から構成されてもよい。
また、ケーシング43と第2内歯部材42との間であって、主軸受48よりも出力側には、オイルシール541が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0019】
第1カバー44は、例えば、図示しないボルト等の連結部材を介して第3カバー49と連結され、さらに、第3カバー49は、例えば、図示しないボルト等の連結部材を介して第1内歯部材41及びケーシング43と連結されている。
そして、第1カバー44は、第1外歯部32と第1内歯部411とを軸方向の反出力側から覆う。第1カバー44、第3カバー49、第1内歯部材41及びケーシング43は、直接または間接的に外部部材(例えば、協働ロボットの基端側アーム部材)に連結される。
【0020】
なお、外部部材(相手部材ともいう。例えば、撓み噛合い式歯車装置1を部品として組み込む本体装置の相互に動力伝達が行われる一方の部材等)と連結されて減速された運動を外部部材に出力する側を出力側と呼び、軸方向における出力側とは反対側を反出力側と呼ぶ。第1カバー44と起振体軸30の軸部30Bとの間には軸受46が配置され、起振体軸30は、回転自在に第1カバー44に支持される。なお、軸受46は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
また、第1カバー44と起振体軸30の軸部30Bとの間であって、軸受46よりも反出力側には、オイルシール542が設けられ、軸方向外側(反出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0021】
第2カバー45は、例えば、ボルト等の連結部材533を介して第2内歯部材42と連結され、第2外歯部33と第2内歯部421とを軸方向の出力側から覆う。第2カバー45及び第2内歯部材42は、減速された運動を出力する外部部材(例えば、協働ロボットの先端側アーム部材)に連結される(この外部部材は、第1内歯部材41等が連結される外部部材に対して相対回転する部材)。
第2カバー45と起振体軸30の軸部30Cとの間には軸受47が配置され、起振体軸30は、回転自在に第2カバー45に支持される。なお、軸受47は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
また、第2カバー45と起振体軸30の軸部30Cとの間であって、軸受47よりも出力側には、オイルシール543が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。なお、第2カバー45は、第2内歯部材42と一体的に形成されてもよい。
【0022】
さらに、第1内歯部材41とケーシング43との間にはシール用のOリング551が介挿されている。
同様に、第1内歯部材41と第3カバー49との間にはシール用のOリング554が介挿され、第3カバー49と第1カバー44との間にはシール用のOリング552が介挿され、第2内歯部材42と第2カバー45との間にはシール用のOリング553が介挿されている。
従って、撓み噛合い式歯車装置1の内部空間(第1外歯部32と第1内歯部411の噛合い部、第2外歯部33と第2内歯部421の噛合い部、主軸受48、軸受46,47、起振体軸受31等の存在する空間)は、潤滑剤が封入される潤滑剤封入空間とされ、オイルシール541~543やOリング551~554によって密封されている。
【0023】
図2は第1内歯部材41の斜視図である。図示のように、第1内歯部材41は、内周に第1内歯部411の内歯が形成された内歯リング部412と、ケーシング43及び第3カバー49と共に外部部材に連結される外部連結部413と、半径方向における内歯リング部412と外部連結部413との間に設けられ、第1内歯部材41にトルクが作用したときに内歯リング部412よりも変形しやすい(変形量が大きい)構成とされた変形容易部414とを備えている。
【0024】
内歯リング部412は、リング状であってその内周面に前述した第1内歯部411(内歯)が形成されている。
外部連結部413は、リング状であって第1内歯部材41の最外周に位置し、周方向に一定間隔で外部部材に対する複数の取付穴が軸方向に貫通形成されている。なお、外部連結部413は、直接、外部部材に連結されてもよいし、第1カバー44や第3カバー49を介して外部部材に連結されてよい。
【0025】
変形容易部414は、内歯リング部412と外部連結部413との間に周方向に間欠的に設けられた複数の柱部材415により構成されている。
柱部材415は、内歯リング部412の外周から半径方向外側に向かって延出され、外部連結部413の内周に連結されている。なお、ここでは、変形容易部414、内歯リング部412及び外部連結部413は、同一材料(例えば、金属材料、樹脂材料等)により一体的に形成されている場合を例示する。
また、柱部材415は、周方向について一定の間隔で四つ設けられている場合を例示する。各柱部材415の周方向の間隔は、均一であることが好ましいが、必須ではない。また、柱部材415の個数も増減可能である。
【0026】
外部連結部413及び柱部材415は、軸方向の幅(厚み)が等しく、内歯リング部412よりも軸方向の幅が小さくなっている。なお、柱部材415は、外部連結部413と軸方向の幅が異なってもよく、例えばトルク伝達の機能確保のための強度が十分であれば、外部連結部413よりも軸方向の幅を小さくしても良い。また、柱部材415は、歪みゲージ416を収める凹部を有してもよい。
なお、外部連結部413の半径方向内側における出力側の平面には、周方向全周に渡って、出力側に凸となる凸条413aが形成されており、ケーシング43の反出力側の凹部に嵌入(インロー嵌合)されている。
【0027】
各柱部材415には、それぞれ、歪み測定手段としての歪みゲージ416が取り付けられている。歪みゲージ416は、柱部材415における反出力側の面に取り付けられた場合を例示するが、出力側の面に取り付けても良いし、周方向の一端部又は他端部側の面に取り付けても良い。
【0028】
歪みゲージ416は、柱部材415における半径方向の伸縮の歪みを検出する方向で当該柱部材415に取り付けられている。なお、歪みゲージ416が検出する歪みの方向は半径方向に限定されるものではない。
変形容易部414(柱部材415)は、第1内歯部材41にトルクが作用したときに(具体的には、外部連結部413が外部部材に連結された状態で、第1内歯部411が噛合い反力を受けることで、第1内歯部材41にトルクが作用したときに)、内歯リング部412よりも大きく変形する。その結果、柱部材415に生じる半径方向の伸縮歪みも大きくなる。この柱部材415の歪みにはトルクとの相関があるため、これを歪みゲージ416で検出することにより、トルクを取得することができる。
【0029】
図2に示すように、各歪みゲージ416は、測定装置417に接続されている(
図2では一つの歪みゲージ416のみが接続されている状態を図示しているが実際は全ての歪みゲージ416が接続されている)。
測定装置417は、各歪みゲージ416の検出信号を増幅して記録する。また、測定装置417は、起振体30Aの回転位相が図示しない検出部から入力される。
測定装置417は、例えば、起振体軸30の回転位相と各歪みゲージ416の検出値とトルク値とを対応付けたデータテーブルを保有している。測定装置417は、検出部から入力された回転位相と各歪みゲージ416の検出値に対応するトルク値をデータテーブルを参照して特定する。データテーブルは、例えば実験により予め準備される。具体的には、起振体30Aの回転位相および第1内歯部材41に付与するトルクを変化させながら、各歪みゲージ416の検出値を取得することでデータテーブルを作成する。なお、測定装置417が、各歪みゲージ416の検出値からトルクを特定する方法が特に限定されるものではなく、例えば予め用意された演算式で演算によりトルク値を算出する構成としても良い。
【0030】
[減速動作]
図示略のモータ等から回転運動が入力され、起振体軸30が回転すると、起振体30Aの運動が第1外歯部32及び第2外歯部33に伝わる。このとき、第1外歯部32及び第2外歯部33は、起振体30Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、第1外歯部32は、固定された第1内歯部材41の第1内歯部411と長軸部分で噛合っている。このため、第1外歯部32及び第2外歯部33は、起振体30Aと同じ回転速度で回転することはなく、第1外歯部32及び第2外歯部33の内側で起振体30Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、第1外歯部32及び第2外歯部33は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸30の回転周期に比例する。
【0031】
第1外歯部32及び第2外歯部33が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、第1外歯部32と第1内歯部411との噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、第1外歯部32の歯数が100で、第1内歯部411の歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、第1外歯部32と第1内歯部411との噛合う歯がずれていき、これにより第1外歯部32が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸30の回転運動は減速比100:2で減速されて第1外歯部32に伝達される。
【0032】
一方、第1外歯部32と基部34を共通とする第2外歯部33は、第2内歯部421と噛合っているため、起振体軸30の回転によって第2外歯部33と第2内歯部421との噛合う位置も回転方向に変化する。一方、第2内歯部421の歯数と第2外歯部33の歯数とは一致しているため、第2外歯部33と第2内歯部421とは相対的に回転せず、第2外歯部33の回転運動が減速比1:1で第2内歯部421へ伝達される。これらによって、起振体軸30の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯部材42及び第2カバー45へ伝達される。そして、この減速された回転運動が外部部材に出力される。
【0033】
上記減速動作において、第1内歯部411では、内歯リング部412から変形容易部414を介して外部連結部413にトルクが伝達される。
このとき、変形容易部414の各柱部材415では、それぞれに設けられた歪みゲージ416により検出された半径方向の歪みが測定装置417に入力され、これらに基づくトルク値が導出される。
なお、これらの構成よって取得されたトルク値は、例えば、撓み噛合い式歯車装置1を部品として組み込んでいる本体装置の制御装置等に入力され、当該制御装置におけるトルク値の異常発生の検出に使用することができる。例えば、撓み噛合い式歯車装置1が協働ロボットの関節に組み込まれている場合には、異常なトルク値の上昇によりロボットアームと人との接触を検知して、ロボットの停止や回避動作などが可能となる。
【0034】
[実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、第1内歯部材41は、内歯リング部412よりも変形しやすい構成とされた変形容易部414と、当該変形容易部414に設けられた歪みゲージ416とを有している。
このため、トルク伝達が行われる際に、第1内歯部材41は、外部連結部413よりも内側で内歯リング部412よりも変形しやすい変形容易部414において歪みを検出することができるので、トルクによる歪みが生じやすい位置で歪みゲージ416が歪みの検出を行うことで、より精度の高い良好なトルク検出を行うことが可能となる。
また、トルクによる歪みの生じ難い外周部で歪みの検出を行う場合には、その検出精度の向上のためには、外周部でのトルクによる歪みが生じ易くなるように第1内歯部材が全体的に非硬質材料で形成する等の対策が必要となるが、その対策には、歯車の噛合い誤差が生じやすくなるという難点がある。
これに対して、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1の第1内歯部材41は、変形容易部414からなる一部分のみを変形容易とすれば良いので、歯車の噛合い誤差の発生を抑制することが可能となる。
また、歪みゲージ416を撓み噛合い式歯車装置1の外周ではなく内部に設置しているので、装置が小型化される。
【0035】
また、変形容易部414は、内歯リング部412と外部連結部413との間に周方向に間欠的に設けられた柱部材415により構成されているので、新たな部材を加える等の特別な方法が不要であり、変形容易部414としての構成を容易に実現することが可能となる。
【0036】
[実施形態2]
図3は、本発明の実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
実施形態2の第1内歯部材41Aは、前述した第1内歯部材41と比較して、変形容易部414Aを構成する柱部材415の数が異なっている。即ち、この第1内歯部材41Aの変形容易部414Aは、周方向に均一な間隔で八つの柱部材415を備えている。なお、一つ一つの柱部材415の構造や寸法は前述した前述した第1内歯部材41の柱部材415と同一である。
そして、各柱部材415には、個別に歪みゲージ416が取り付けられている。
【0037】
このように、第1内歯部材41Aでは、柱部材415の数を増やすことにより、内歯リング部412を外側から支えることができ、内歯リング部412の撓みを抑制することができる。これにより、歯車の噛合い誤差を低減することが可能となる。
また、歪みゲージ416の数を増やすことが可能となる。
【0038】
[実施形態3]
図4は、本発明の実施形態3に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
実施形態3の第1内歯部材41Bは、前述した第1内歯部材41と比較して、四つのサポート部材418Bを備えている点が異なっている。
【0039】
各サポート部材418Bは、半径方向について、内歯リング部412と外部連結部413との間に設けられ、周方向について隣り合う二つの柱部材415の中間に設けられている。
これらのサポート部材418Bは、いずれも、
図5に示すように、内歯リング部412と外部連結部413との間で半径方向に渡るように延出されており、その一端部、例えば、内歯リング部412側は固定され、他端部、例えば、外部連結部413側は、当該外部連結部413の内周に摺接又は滑動可能となっている。なお、外部連結部413側を固定し、内歯リング部412側を摺接又は滑動可能としても良い。
各サポート部材418Bは、内歯リング部412及び外部連結部413とは別部材で構成されており、一端部側は、溶接、接着、その他の接合方法により固定されている。なお、各サポート部材418Bは、内歯リング部412又は外部連結部413に対して少なくとも周方向に固定されていればよい。また、各サポート部材418Bは、例えば、樹脂等のように第1内歯部材41とは別材料で形成しても良いし、同一材料で形成しても良い。
【0040】
このように、第1内歯部材41Bでは、サポート部材418Bを設けることにより、内歯リング部412を外側から支えることができ、内歯リング部412の撓みを抑制することができる。これにより、歯車の噛合い誤差を低減することが可能となる。
さらに、サポート部材418Bは、その一端部側のみが外部連結部413又は内歯リング部412に対して周方向に固定され、他端部は固定されてないので、内歯リング部412を外側から支えつつも、トルクによる柱部材415の伸縮歪みを抑制しないので、良好なトルク検出を行うことが可能となる。
【0041】
[実施形態4]
図6は、本発明の実施形態4に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
前述した第1内歯部材41は、変形容易部414が、半径方向に真っ直ぐに延出された四つの柱部材415で構成されているがこれに限定されない。
【0042】
実施形態4の第1内歯部材41Cは、変形容易部414Cが、内歯リング部412と外部連結部413とを半径方向及び周方向について連結する複数の支承部415Cを備えている。
複数の支承部415Cは、周方向について均一間隔で内歯リング部412と外部連結部413との間に設けられている。各支承部415Cは、内歯リング部412及び外部連結部413と同一材料で一体的に形成しても良いし、別材料で形成しても良い。また、各支承部415Cは、その両端部が内歯リング部412及び外部連結部413に固定されている。また、ここでは、支承部415Cが四つ設けられる場合を例示しているが、複数であれば良く、その数は四つに限定されない。なお、実施形態4においては、各支承部415Cが柱部材に該当する。
【0043】
各支承部415Cは、クランク状を呈している。即ち、各支承部415Cは、内歯リング部412の外周から半径方向外側に延出された第一延出部415Caと、外部連結部413の内周から半径方向内側に延出された第二延出部415Cbと、第一延出部415Caの延出端部と第二延出部415Cbの延出端部とを連結する周方向又は周方向に対する接線方向に沿った中間連結部415Ccとを備えている。
そして、歪みゲージ416は、各支承部415Cの中間連結部415Ccにおいて、当該中間連結部415Ccの長手方向の伸縮歪みを検出する方向に取り付けられている。
【0044】
このように、第1内歯部材41Cでは、周方向又は周方向に対する接線方向に沿った部位である中間連結部415Ccを有する支承部415Cの当該中間連結部415Ccに歪みゲージ416を設けている。
これにより、撓み噛合い式歯車装置のトルク伝達時において、周方向又は周方向に対する接線方向に沿った部位である中間連結部415Ccは、より顕著に伸縮歪みが生じるので、より精度の高いトルク検出を行うことが可能となる。
【0045】
[実施形態5]
図7は、本発明の実施形態5に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を軸方向から見た正面図である。
前述した第1内歯部材41は、変形容易部414が、半径方向に真っ直ぐに延出された四つの柱部材415で構成されているがこれに限定されない。
【0046】
実施形態5の第1内歯部材41Dは、変形容易部414Dが、内歯リング部412の外周に対して固定され、周方向に対する接線方向に延びる複数の支承部415Dを備えている。
各支承部415Dは、その両端部が外部連結部413の内周に固定され、その中間部が内歯リング部412の外周に固定されている。
そして、ここでは、支承部415Dが四つ設けられている場合を例示する。四つの支承部415Dは、その両端部が他の支承部415Dの端部に連結され、軸方向から見て、四つの支承部415Dは、一体となって正方形の枠状を呈している。
【0047】
さらに、各支承部415Dは、外部連結部413の内周に固定されたそれぞれの端部と内歯リング部412の外周に対して固定された中間部との間に一つずつ歪みゲージ416が取り付けされている。各歪みゲージ416は、支承部415Dの長手方向の伸縮歪みを検出する方向に取り付けられている。
【0048】
各支承部415Dは、内歯リング部412及び外部連結部413と同一材料で一体的に形成しても良いし、別材料で形成しても良い。
また、ここでは、支承部415Dが四つ設けられる場合を例示しているが、内歯リング部412を周方向に均一間隔で囲繞可能であれば、その数は四つに限定されない。
【0049】
このように、第1内歯部材41Dでは、変形容易部414Dが上記構造の支承部415Dを備える構成としているが、この変形容易部414Dも変形容易部414と同様に、より精度の高い良好なトルク検出を行うことが可能である。
【0050】
[実施形態6]
図8は、本発明の実施形態6に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を示す射視図である。
前述した第1内歯部材41は、変形容易部414が、周方向に間欠的な四つの柱部材415で構成されているがこれに限定されない。
【0051】
実施形態6の第1内歯部材41Eは、変形容易部414Eが、内歯リング部412と外部連結部413との間で周方向に連続したリング状の平板から形成されている。
但し、
図9の軸方向断面図に示すように、この変形容易部414Eの軸方向の厚さd3が、内歯リング部412の軸方向の厚さd1及びと外部連結部413の軸方向の厚さd2のいずれよりも小さく設定されている。
【0052】
そして、複数の歪みゲージ416が、周方向に均一間隔で変形容易部414Eのいずれかの平面上に取り付けられている。ここでは、歪みゲージ416を四つ設ける場合を例示する。なお、歪みゲージ416は一つでもよく、例えばリング状の歪みゲージを変形容易部414Eのリング形状に沿って配置してもよい。
各歪みゲージ416は、半径方向に沿って伸縮歪みを検出する方向に取り付けられている。
【0053】
このように、第1内歯部材41Eでは、変形容易部414Eを周方向に連続した平板状としており、その軸方向厚さd3が、内歯リング部412の軸方向の厚さd1及びと外部連結部413の軸方向の厚さd2よりも小さく設定されている。このため、変形容易部414Eは、撓み噛合い式歯車装置のトルク伝達時において、内歯リング部412よりも変形し易く、その結果半径方向に沿って伸縮歪みも生じやすく、変形容易部414と同様に、より精度の高い良好なトルク検出を行うことが可能である。なお、変形容易部414Eの軸方向厚さd3は、少なくとも内歯リング部412の軸方向厚さd1よりも小さければよく、外部連結部413の軸方向厚さd2と同じかd2より大きくてもよい。
また、変形容易部414Eは、周方向に連続しているので、全周に渡って内歯リング部412を外側から支えることができ、内歯リング部412の撓みを抑制することができる。これにより、歯車の噛合い誤差を低減することが可能となる。
【0054】
[実施形態7]
図1は、本発明の実施形態7の第1内歯部材の軸方向断面図である。
前述した各実施形態では、変形容易部414の形状を工夫することで内歯リング部412よりも変形し易くしたが、変形容易部414を変形し易くする手法は特に限定されない。例えば、
図10に示す第1内歯部材41Fのように、変形容易部414Fは、内歯リング部412さらには外部連結部413よりも軟質材料とすることにより、内歯リング部412よりも変形し易くしてもよい。例えば、変形容易部414Fは、内歯リング部412、外部連結部413よりも軟質な金属材料、より軟質な樹脂材料で形成することが好ましい。
その場合、内歯リング部412と変形容易部414Fと外部連結部413の軸方向の厚さは同一でも良いし、変形容易部414Fが内歯リング部412や外部連結部413よりも厚さを大きくしても良い。
また、変形容易部414Fは、周方向に沿って間欠的であっても連続的であっても良い。間欠的とする場合には、前述した変形容易部414,414A,414C,414Dと同じ形態としても良い。さらに、前述したサポート部材418Bを加えてもよい。
【0055】
[実施形態8]
図11は、本発明の実施形態8に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を示す正面図である。なお、
図11では、第1外歯部32を、長軸位置を示す楕円で簡略的に図示している。
【0056】
前述した第1内歯部材41では、変形容易部414が、第1内歯部材41の直径方向の両側に個別に設けられた二つ一組の柱部材415を二組有する。そして、これら二組からなる四つの柱部材415は、周方向に均一間隔で設けられ、全ての柱部材415には歪みゲージ416が取り付けられている。
これに対して、実施形態8に係る撓み噛合い式歯車装置では、第1内歯部材41Gの変形容易部414が、第1内歯部材41Gの直径方向の両側で二つ一組となる柱部材415を二組有し、各柱部材415を周方向に均一間隔で有する点は、第1内歯部材41と同じである。そして、第1内歯部材41Gでは、それぞれの二つ一組となる柱部材415の一方にのみ歪みゲージ56-1,56-2が設けられている。
【0057】
なお、上記歪みゲージ56-1と歪みゲージ56-2とは、同一構造のものであり、以下の説明において、これらを区別する必要がない場合には、歪みゲージ56という。
また、
図11において二点鎖線で示した歪みゲージ56-3,56-4は、後述する第1内歯部材の他の例であり、本実施形態8の第1内歯部材41Gには、歪みゲージ56-3,56-4は設けられていない。
【0058】
図12は、歪みゲージ56の平面図である。図示のように、この歪みゲージ56は、二重剪断型歪みゲージであり、絶縁体の基板の平面上で
図12における左右に個別に形成された測定部56A,56Bを有する。
各測定部56A,56Bは、抵抗線が平行に幾重にも折り返されたグリッド部561A,561Bと、グリッド部561A,561Bの両端部から延びるリード562A,562Bとを有する。
図12における左側の測定部56Aのグリッド部561Aの抵抗線は、右斜め下方向に沿って延びており、右側の測定部56Bのグリッド部561Bの抵抗線は、左斜め下方向に沿って延びている。
この構造から分かるように、この歪みゲージ56は、実質的には、歪みの検出方向が異なる二つの歪みゲージを有し、これら二つの歪みゲージから個別に検出信号を得ることが可能な構造である。
【0059】
各測定部56A,56Bは、それぞれのグリッド部561A,561Bの延線方向に沿った方向に対する収縮歪みに対して高感度となる構造である。そして、測定部56Aのグリッド部561Aの延線方向と測定部56Bのグリッド部561Bの延線方向とは、互いに直交している。
歪みゲージ56は、二つの測定部56A,56Bのグリッド部561A,561Bの各延線方向を合成した方向を基準方向とする(
図12の矢印G)。そして、撓み噛合い式歯車装置1の動作時に柱部材415に対して剪断力が発生する方向に対して、基準方向Gが直交するように、歪みゲージ56は、柱部材415に取り付けられている。より詳細には、歪みゲージ56の基準方向Gは、柱部材415の長手方向、つまり、半径方向に平行となるように設けられている。
【0060】
上記の場合、起振体軸30の時計方向の回転により、第1内歯部材41Gに対して第1外歯部32が反時計方向に相対的に回転する場合(以下、正回転時という)、第1内歯部材41Gの内歯リング部412は、外部連結部413に対して時計方向のトルクを受ける。これにより生じる剪断力は、主に、測定部56Aのグリッド部561Aに作用し、トルクに応じた検出信号を測定部56Aから得ることが出来る。
また、起振体軸30の反時計方向の回転により、第1内歯部材41Gに対して第1外歯部32が時計方向に相対的に回転する場合(以下、逆回転時という)、第1内歯部材41Gの内歯リング部412は、外部連結部413に対して反時計方向のトルクを受ける。これにより生じる剪断力は、主に、測定部56Bのグリッド部561Bに作用し、トルクに応じた検出信号を測定部56Bから得ることが出来る。
【0061】
第1内歯部材41Gは、二つ一組となる柱部材415の直径方向の一端部と他端部とが対称となる構造である。この場合、撓み噛合い式歯車装置1の動作時には、軸方向に対する曲げモーメントが生じない限りは、二つ一組となる一方の柱部材415と他方の柱部材415とは、いずれもトルクによって生じる剪断力が等しく発生する。
従って、二つ一組の柱部材415の両方に歪みゲージ56を設けなくとも、いずれか一方の柱部材415にのみ歪みゲージ56を設ければ、必要な歪みを検出することができ、各歪みゲージ56の検出からトルクを求めることができる。
つまり、実施形態8の撓み噛合い式歯車装置1は、軸方向に対する曲げモーメントが生じ難い環境での利用において、特に好適にトルクを求めることができる。
【0062】
図13は、上記各歪みゲージ56を用いた測定装置において構成されるホイートストンブリッジ回路57を示している。
ホイートストンブリッジ回路57は、第1~第4経路571~574を有する。
そして、第1経路571の一端部と第2経路572の一端部とがいずれも電圧供給源の正極側及びトランスミッターの正極側に接続されている。また、第3経路573の一端部と第4経路574の一端部とがいずれも電圧供給源の負極側及びトランスミッターの負極側に接続されている。
さらに、第1経路571の他端部と第3経路573の他端部とが連結され、当該連結点が検出信号の正極側出力となる。また、第2経路572の他端部と第4経路574の他端部とが連結され、当該連結点が検出信号の負極側出力となる。
【0063】
図13に示すように、第1経路571には歪みゲージ56-2の測定部56A(
図13では「2A」)が設けられ、第2経路572には歪みゲージ56-2の測定部56B(
図13では「2B」)が設けられ、第3経路573には歪みゲージ56-1の測定部56B(
図13では「1B」)が設けられ、第4経路574には歪みゲージ56-1の測定部56A(
図13では「1A」)が設けられる。
【0064】
なお、
図13の場合も、二点鎖線で示した「3A」、「3B」、「4A」、「4B」は、後述する第1内歯部材の他の例における歪みゲージ56-3,56-4の各測定部56A,56Bを示すものであり、本実施形態8のホイートストンブリッジ回路57には、「3A」、「3B」、「4A」、「4B」は設けられていない。
【0065】
上記ホイートストンブリッジ回路57では、第1外歯部32の正回転時に、歪みゲージ56-1の測定部56Aと歪みゲージ56-2の測定部56Aとにより、それぞれ起振体30Aの長軸位置の移動に応じて検出信号を得ることが出来る。当該検出信号は、ホイートストンブリッジ回路57の正極側出力と負極側出力の電位差から求められる。そして、各柱部材415から検出される剪断歪みに基づく検出信号は、撓み噛合い式歯車装置のトルクと相関があるため、剪断歪みに基づく検出信号から撓み噛合い式歯車装置のトルクを得ることが可能である。
【0066】
以上のように、実施形態8に係る撓み噛合い式歯車装置では、柱部材415の本数に対して、歪みゲージ56の個体数を低減することができ、装置の生産コスト低減を図ることが可能となる。
【0067】
なお、実施形態8では、第1内歯部材41Gの変形容易部414が二組(四本)の柱部材415を有する場合を例示したが、一組又は三組以上の柱部材415を有する構成としても良い。
また、歪みゲージ56として、二重剪断型歪みゲージを例示したが、前述した柱部材415の長手方向(半径方向)の歪みを検出する歪みゲージ416を利用することも可能である。
また、前述した各実施形態1~7における歪みゲージ416に替えて、歪みゲージ56を利用することも可能である。
さらに、実施形態8では、二重剪断型歪みゲージを例示したが、例えば、撓み噛合い式歯車装置が、正逆いずれかの回転でしか利用されない環境であれば、測定部56A,56Bのいずれか一方のみを備える歪みゲージを利用しても良い。
【0068】
また、実施形態1のように、全ての柱部材415に歪みゲージ56-1~56-4を設けた場合には、
図11及び
図13の二点鎖線で示すように、ホイートストンブリッジ回路57の第1経路571には、歪みゲージ56-2の測定部56A(
図13では「2A」)と歪みゲージ56-4の測定部56A(
図13では「4A」)とが直列で設けられる。
また、第2経路572には、歪みゲージ56-2の測定部56B(
図13では「2B」)と歪みゲージ56-4の測定部56B(
図13では「4B」)とが直列で設けられる。
また、第3経路573には、歪みゲージ56-1の測定部56B(
図13では「1B」)と歪みゲージ56-3の測定部56B(
図13では「3B」)とが直列で設けられる。
また、第4経路574には、歪みゲージ56-1の測定部56A(
図13では「1A」)と歪みゲージ56-3の測定部56A(
図13では「3A」)とが直列で設けられる。
これにより、各柱部材415から検出される剪断歪みに基づく検出信号から撓み噛合い式歯車装置のトルクを得ることが可能である。
【0069】
[実施形態9]
図14は、本発明の実施形態9に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材の他の例を示す簡略図である。なお、
図14の場合も、第1外歯部32を、長軸位置を示す楕円で簡略的に図示している。
【0070】
前述した実施形態1では、変形容易部414が偶数の柱部材415を周方向に均一間隔で有する構成を例示した。
これに対して、実施形態9に係る撓み噛合い式歯車装置の第1内歯部材41Hでは、変形容易部414が複数かつ奇数の柱部材415を周方向に均一間隔で有する構成を例示する。本実施形態9では、柱部材415を七本有する場合を例示するが、柱部材415は、複数かつ奇数であれば任意に変更可能である。
全ての柱部材415には、前述した歪みゲージ56と同一の歪みゲージ56-1~56-7が周方向に順番に設けられている。
【0071】
第1内歯部材41Hの柱部材415が奇数本の場合、
図14に実線で示すように、第1外歯部32の長軸の一端部が周方向についていずれかの柱部材415と一致する位置で噛合う場合、第1外歯部32の長軸の他端部は、他の二本の柱部材415の中間の位置で噛合う。
この場合、第1外歯部32の長軸の一端部側では、柱部材415の剛性によって第1内歯部材41Hに生じる剪断歪みは小さくなり、第1外歯部32の長軸の他端部側では、第1内歯部材41Hに生じる剪断歪みは大きくなる。
ここで、各歪みゲージ56-1~56-7のうち、歪みが検出される歪みゲージは主として第1外歯部32の長軸付近に位置する歪みゲージとなる。
図14の実線で示す例の場合には、56-4,56-5、56-1、56-2、56-7で歪みが検出されるが、歪みゲージ56-2および56-7については、長軸から離れているため、検出される歪みは僅かである。前述したように、第1外歯部32の長軸の他端部側では、第1内歯部材41Hに生じる剪断歪みが大きくなるため、歪みゲージ56-4および56-5の検出値は大きくなる。一方、第1外歯部32の長軸の一端部側では、第1内歯部材41Hに生じる剪断歪みが小さくなるため、歪みゲージ56-1の検出値は歪みゲージ56-4および56-5に比べて小さくなる。しかし、各々の測定部56Aが直列に接続されると共に各々の測定部56Bが直列に接続されているホイートストンブリッジ回路57H(後述の
図15参照)を通じて測定が行われるので、第1外歯部32の長軸の一端部と他端部とで平均化されて(全ての歪みゲージの出力が合計されることで)中程度の検出信号が出力される。
【0072】
また、
図14に二点鎖線で示すように、第1外歯部32の長軸の両端部がいずれも周方向について各柱部材415と一致しないが柱部材415に近い位置で噛合う場合、第1外歯部32の長軸の一端側および他端側の両方において第1内歯部材41Hに生じる剪断歪みは中程度となる。
従って、各歪みゲージ56-1~56-7の検出値が合計されると、やはり中程度の検出信号が出力される。
【0073】
従って、柱部材の数を複数かつ奇数とすることで、第1外歯部32の長軸が周方向に回転移動する場合に各歪みゲージ56-1~56-7から得られる検出信号の(合計値や平均値の)変動幅は小さくなる。これに対処するために、上記各歪みゲージ56-1~56-7を用いた測定装置において構成されるホイートストンブリッジ回路57Hは、
図15に示すように構成される。
なお、
図15では、「1A」~「7A」がそれぞれ歪みゲージ56-1~56-7の測定部56Aを示し、「1B」~「7B」がそれぞれ歪みゲージ56-1~56-7の測定部56Bを示している。
【0074】
図15に示すように、第1経路571には抵抗器R1が設けられ、第2経路572には抵抗器R2が設けられ、第3経路573には歪みゲージ56-1~56-7の各測定部56Aが直列接続で設けられ、第4経路574には歪みゲージ56-1~56-7の各測定部56Bが直列接続で設けられる。
抵抗器R1,R2は、歪みが生じていないときの直列接続された七つの測定部56Aの抵抗値に等しくなっている(直列接続された七つの測定部56Bの抵抗値とも等しい)。
【0075】
このように、ホイートストンブリッジ回路57Hでは、四つの経路571~574のいずれかの経路に、歪みゲージ56-1~56-7の各測定部56A又は各測定部56Bを直列に接続して配置している。
このため、第1外歯部32の長軸が周方向に回転移動する場合に個々の歪みゲージ56-1~56-7から得られる個々の検出信号は小さくなる場合でも、各々の合計された検出信号が得ることができ、検出信号を大きくすることが可能となる。また、柱部材の数を複数かつ奇数とすることで、第1外歯部32の長軸の周方向位置に起因する検出信号(の合計値)のばらつきを低減できる。
【0076】
また、上記各歪みゲージ56-1~56-7を用いた測定装置において構成されるホイートストンブリッジ回路としては、
図16に示すホイートストンブリッジ回路57H-1と
図17に示すホイートストンブリッジ回路57H-2の二つのホイートストンブリッジ回路から構成しても良い。
【0077】
ホイートストンブリッジ回路57H-1は、
図16に示すように、第1経路571には抵抗器R1が設けられ、第2経路572には抵抗器R2が設けられ、第3経路573には歪みゲージ56-1~56-7の各測定部56Aが直列接続で設けられ、第4経路574には抵抗器R3が設けられている。
抵抗器R1~R3は、歪みが生じていないときの直列接続された七つの測定部56Aの抵抗値に等しくなっている(直列接続された七つの測定部56Bの抵抗値とも等しい)。
【0078】
ホイートストンブリッジ回路57H-2は、
図17に示すように、第1経路571には抵抗器R5が設けられ、第2経路572には抵抗器R6が設けられ、第3経路573には抵抗器R4が設けられ、第4経路574には歪みゲージ56-1~56-7の各測定部56Bが直列接続で設けられている。
抵抗器R4~R6は、歪みが生じていないときの直列接続された七つの測定部56Bの抵抗値に等しくなっている。
【0079】
ホイートストンブリッジ回路57H-1,57H-2のいずれの場合も、第1経路571及び第2経路572の一端部が電圧供給源の正極側及びトランスミッターの正極側に接続され、第3経路573及び第4経路574の一端部が電圧供給源の負極側及びトランスミッターの負極側に接続されている。さらに、第1経路571及び第3経路573の他端部が検出信号の正極側出力となり、第2経路572及び第4経路574の他端部が検出信号の負極側出力となっている。
【0080】
そして、各ホイートストンブリッジ回路57H-1,57H-2は、いずれも同じ供給源から電圧が供給されており、各ホイートストンブリッジ回路57H-1,57H-2ごとに異なる(独立した)検出信号を得ることが可能である。
このような構成により、安全レベルの診断のために比較可能な二つの検出信号を各ホイートストンブリッジ回路57H-1,57H-2から個別に取得することが可能である。
【0081】
[その他]
上記各実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0082】
また、上記各実施形態では、第1内歯部材に変形容易部及び歪みゲージを設ける構成を例示したが、第2内歯部材に変形容易部及び歪みゲージを設けても良い。その場合も、第2内歯部材は、内周に内歯が形成された内歯リング部と外部部材に連結される外部連結部とを有し、その間に変形容易部及び歪みゲージを設ける構成とすべきである。
また、第1内歯部材と第2内歯部材のいずれに変形容易部及び歪みゲージを設けるかに拘わらず、第1内歯部材と第2内歯部材のいずれが、非回転側又は動力伝達方向上流側であっても良い。また、上記各実施形態1~9(実施形態8を除く)では、すべての柱部材415に歪みゲージ416,56を取り付けたが、これに限定されず、一部の柱部材415にのみ歪みゲージ416,56を取り付けてもよい。また、上記各実施形態では、柱部材415の軸方向端面に歪みゲージ416を配置したが、これに限定されず、例えば柱部材415の周方向の面に配置してもよい。
【0083】
また、上記各実施形態では、撓み噛合い式歯車装置1として筒型の噛合い式歯車装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、筒型以外の撓み噛合い式歯車装置、例えばカップ型やシルクハット型などにも好適に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置について産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
1 撓み噛合い式歯車装置
30 起振体軸
30A 起振体
32 第1外歯部(外歯歯車)
33 第2外歯部(外歯歯車)
41,41A,41B,41C,41D,41E,41F 第1内歯部材(内歯歯車)
411 第1内歯部(内歯)
412 内歯リング部
413 外部連結部
414,414A,414C,414D,414E,414F 変形容易部
415 柱部材
415C,415D 支承部
416 歪みゲージ(歪み測定手段)
56,56-1~56-7 歪みゲージ(二重剪断型歪みゲージ)
56A,56B 測定部
417 測定装置
418B サポート部材
57,57H-1,57H-2 ホイートストンブリッジ回路
571 第1経路
572 第2経路
573 第3経路
574 第4経路