(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】窒化ホウ素焼結体、複合体及びこれらの製造方法、並びに放熱部材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/583 20060101AFI20241007BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241007BHJP
C04B 41/83 20060101ALI20241007BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20241007BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20241007BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C04B35/583
C04B38/00 303Z
C04B41/83 G
H01L23/36 M
H01L23/36 D
H05K7/20 F
(21)【出願番号】P 2022512551
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013574
(87)【国際公開番号】W WO2021200969
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020064386
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】武田 真
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181606(WO,A1)
【文献】特開2015-096456(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004600(WO,A1)
【文献】特開2016-103611(JP,A)
【文献】特開2010-157563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583
C04B 38/00
C04B 41/83
H01L 23/373
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体であって、
前記気孔の平均細孔径が2μm未満であ
り、気孔率が30~65体積%である、窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体であって、
前記気孔の平均細孔径が2μm未満であり、かさ密度が800~1500kg/m
3である
、窒化ホウ素焼結体。
【請求項3】
窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体であって、
前記気孔の平均細孔径が2μm未満であり、熱伝導率が40W/(m・K)以上である
、窒化ホウ素焼結体。
【請求項4】
窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体であって、
前記気孔の平均細孔径が2μm未満であり、配向性指数が40以下である
、窒化ホウ素焼結体。
【請求項5】
前記気孔の平均細孔径が0.6μm未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項6】
シート状であり、厚みが2mm未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体と、前記窒化ホウ素焼結体の前記気孔の少なくとも一部に充填された樹脂と、
を含む複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の複合体を有する放熱部材。
【請求項9】
炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、
前記焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有し、
前記焼結助剤がホウ素化合物及びカルシウム化合物を含有し、
前記配合物は、前記焼成物100質量部に対して前記ホウ素化合物及び前記カルシウム化合物を合計で1~20質量部含む、窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径が2μm未満である、請求項9に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記配合物は、前記ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、前記カルシウム化合物を構成するカルシウムを0.5~40原子%含む、請求項9又は10に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体はシート状であり、厚みが2mm未満である、請求項9~11のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、前記窒化ホウ素焼結体と、前記気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素焼結体、複合体及びこれらの製造方法、並びに放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体(放熱部材)が用いられる。
【0003】
このような複合体として、多孔性のセラミックス成形体に樹脂を含浸させた複合体を用いることが検討されている。窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有していることから、窒化ホウ素を含むセラミックスを放熱部材に用いることが検討されている。特許文献1では、配向度及び黒鉛化指数を所定の範囲にして、熱伝導率に優れつつ熱伝導率の異方性を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子部品内の回路の高集積化に伴って、従来よりもさらに高い放熱特性を有する放熱部材、及びこれに好適に用いられる複合体が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及び複合体を提供する。また、本開示では、そのような窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することが可能な製造方法を提供する。また、本開示では、上述の複合体を備えることによって、十分に高い熱伝導率を有する放熱部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体であって、気孔の平均細孔径が2μm未満である、窒化ホウ素焼結体を提供する。このような窒化ホウ素焼結体は、気孔のサイズが十分に小さいことから、窒化ホウ素の一次粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を十分に高くすることができる。
【0008】
上記窒化ホウ素焼結体における気孔率は30~65体積%であってよい。また、かさ密度は800~1500kg/m3であってよい。気孔率及びかさ密度の少なくとも一方がこの範囲にあることによって、熱伝導率を十分に高くしつつ、樹脂組成物を十分に含浸させることができる。このような窒化ホウ素焼結体は、優れた熱伝導率と絶縁性を高い水準で両立できる複合体を形成することができる。上記窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は40W/(m・K)以上であってよい。このような窒化ホウ素焼結体は、十分に高い熱伝導率を有する複合体を形成することができる。
【0009】
上記窒化ホウ素焼結体の配向性指数は40以下であってよい。これによって、熱伝導率の異方性を十分に低減することができる。
【0010】
上記窒化ホウ素焼結体は、シート状であり、厚みが2mm未満であってよい。これによって、気孔への樹脂組成物の含浸を円滑に行うことができる。
【0011】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂と、を含む複合体を提供する。この複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と樹脂とを含むことから、優れた熱伝導率と優れた絶縁性を兼ね備える。
【0012】
本開示は、一つの側面において、上述の複合体を有する放熱部材を提供する。この放熱部材は上述の複合体を有することから、十分に高い熱伝導率を有する。
【0013】
本開示は、一つの側面において、炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有し、焼結助剤がホウ素化合物及びカルシウム化合物を含有し、配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で1~20質量部含む、窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供する。
【0014】
上記製造方法では、焼結工程で炭窒化ホウ素を含む焼成物を用いている。このため、鱗片状である窒化ホウ素粒子を用いる場合に比べて、粒子の配向を抑制しつつ焼結性を向上することができる。このため、生成する窒化ホウ素粒子の配向性を低減することができる。また、配合物は炭窒化ホウ素を含む焼成物とともに所定の焼結助剤を含む。このような要因によって、窒化ホウ素の一次粒子の粒成長が適度に進行する。したがって、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔のサイズを十分に小さくしつつ、窒化ホウ素粒子同士の接触面積を十分に大きくして、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体とすることができる。上記焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径は2μm未満であってよい。
【0015】
上記製造方法における配合物は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを0.5~40原子%含んでよい。このような比率でホウ素及びカルシウムを含有することによって、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径を一層小さくすることができる。
【0016】
上記焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体はシート状であり、厚みが2mm未満であってよい。このように焼結工程でシート状の窒化ホウ素焼結体を形成すれば、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を切断してシート状にする場合に比べて、材料ロスを低減し、高い歩留まりでシート状の窒化ホウ素焼結体を製造することができる。また、2mm未満という薄い厚みにすることによって、樹脂組成物の含浸を円滑にすることができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、窒化ホウ素焼結体と、気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを備える複合体の製造方法を提供する。このような製造方法によって得られる複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体を用いて得られるものであることから、十分に高い熱伝導率を有する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及び複合体を提供することができる。また、本開示では、そのような窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、本開示では、上述の複合体を備えることによって、十分に高い熱伝導率を有する放熱部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、窒化ホウ素焼結体の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例1,2のLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例3,4のLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例1,2のLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1,2及び比較例1,2の積算細孔容積分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3,4の積算細孔容積分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【
図8】
図8は、実施例2の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【
図9】
図9は、実施例3の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【
図10】
図10は、実施例4の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【
図11】
図11は、比較例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【
図12】
図12は、比較例2の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0021】
一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素の一次粒子同士が焼結して構成される窒化ホウ素粒子と気孔とを含有する。窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子と気孔とを含む。そして、気孔の平均細孔径が2μm未満である。この窒化ホウ素焼結体は、気孔のサイズが十分に小さいことから、窒化ホウ素粒子の一次粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を十分に高くすることができる。熱伝導率を一層高くする観点から、気孔の平均細孔径は、1μm未満であってよく、0.8μm未満であってよく、0.6μm未満であってもよい。窒化ホウ素焼結体への樹脂組成物の含浸を円滑にする観点から、気孔の平均細孔径は、0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってもよい。
【0022】
気孔の平均細孔径は、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら加圧したときの細孔径分布に基づいて求められる。横軸を細孔径、縦軸を累積細孔容積としたときに、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径が平均細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。
【0023】
気孔のピーク細孔径は、2μm未満であってよく、1μm未満であってよく、0.8μm未満であってよく、0.6μm未満であってもよい。本開示における「ピーク細孔径」は、Log微分細孔容積分布を示すグラフにおいて、差分細孔容積(dV)を、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値が最大となるときの細孔径である。
【0024】
窒化ホウ素焼結体の気孔率、すなわち、窒化ホウ素焼結体における気孔の体積比率は、30~65体積%であってよく、35~55体積%であってよい。気孔率が大きくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の強度が低下する傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると複合体を製造したときの樹脂の含有量が減少して絶縁性が低下する傾向にある。
【0025】
気孔率は、窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m3)]を算出し、このかさ密度と窒化ホウ素の理論密度[2280(kg/m3)]とから、下記式(1)によって求めることができる。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (1)
【0026】
かさ密度Bは、800~1500kg/m3であってよく、1000~1400kg/m3であってもよい。かさ密度Bが小さくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の強度が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが大きくなり過ぎると樹脂の含浸量が減少して複合体の絶縁性が低下する傾向にある。
【0027】
窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は、20W/(m・K)以上であってよく、40W/(m・K)以上であってよく、45W/(m・K)以上であってよく、57W/(m・K)以上であってもよい。熱伝導率が高い窒化ホウ素焼結体を用いることによって、放熱性能に十分に優れる放熱部材を得ることができる。熱伝導率(H)は、以下の計算式(2)で求めることができる。
H=A×B×C (2)
【0028】
式(2)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m2/sec)、Bはかさ密度(kg/m3)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、レーザーフラッシュ法によって測定することができる。かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から測定することができる。比熱容量Cは、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0029】
窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素の含有量は、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0030】
窒化ホウ素焼結体の圧縮強さは、例えば、3MPa以上であってよく、5MPa以上であってよく、10MPa以上であってよい。高い圧縮強さを有することによって、部材として用いたときの破損を抑制することができる。圧縮強さは、JIS K7181に準拠して、圧縮試験機(例えば、株式会社島津製作所製、オートグラフ AG-X)を用いて測定することができる。測定条件は、以下のとおりである。
圧縮速度:1mm/min
ロードセル:100kN
試験温度:200℃
サンプルサイズ:縦×横×高さ=10mm×10mm×4mm
【0031】
窒化ホウ素焼結体の圧縮弾性率は、1GPa以上であってよく、1.5GPa以上であってよい。圧縮弾性率を大きくすることによって変形を抑制することができる。圧縮弾性率は、4GPa以下であってよく、3GPa以下であってもよい。これによって、窒化ホウ素焼結体又はこれを用いて得られる複合体を対向する一対の部材間に挟んで押圧して接合したときに、適度に変形して部材との密着性を高くすることができる。
【0032】
窒化ホウ素焼結体は、
図1に示すようなシート状(薄板形状)であってよい。窒化ホウ素焼結体10は、厚みが小さいため、樹脂組成物の含浸を円滑に行うことができる。これによって、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂が十分に充填され、絶縁性に優れる複合体を得ることができる。窒化ホウ素焼結体10の厚みtは、2mm未満であってよく、1mm未満であってよく、0.5mm未満であってもよい。成形体作製の容易性の観点から、窒化ホウ素焼結体10の厚みtは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。窒化ホウ素焼結体10の厚みtの一例は、0.1mm以上且つ2mm未満である。窒化ホウ素焼結体10の主面10aの面積は、500mm
2以上であってよく、800mm
2以上であってよく、1000mm
2以上であってもよい。
【0033】
窒化ホウ素焼結体の形状は
図1の形状に限定されず、例えば、円盤型のシート状であってもよいし、C型のシート状であってもよい。また、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を切断及び/又は研磨して、
図1のようなシート状に加工してもよい。ただし、切断等の加工を行うと、材料ロスが発生する。このため、シート状の成形体を用いてシート状の窒化ホウ素焼結体を作製すれば材料ロスを低減することができる。これによって、窒化ホウ素焼結体及び複合体の歩留まりを向上することができる。なお、ブロック状の窒化ホウ素焼結体は、例えば、多面体であるときに、全ての辺が相応の長さを有しており、シート状の窒化ホウ素焼結体よりも大きな厚みを有する。すなわち、ブロック状とは、切断することで複数のシート状(薄板状)のものに分割できるような形状をいう。
【0034】
窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素結晶の配向性指数は、40以下であってよく、15以下であってよく、10以下であってよい。これによって、熱伝導性の異方性を十分に低減することができる。したがって、窒化ホウ素焼結体10のようにシート状の場合、厚み方向に沿う熱伝導率を十分に高くすることができる。厚み方向に沿う熱伝導率は40W/(m・K)以上であってよく、45W/(m・K)以上であってよく、57W/(m・K)以上であってもよい。窒化ホウ素焼結体の配向性指数は、2.0以上であってもよいし、3.0以上であってもよいし、4.0以上であってもよい。本開示における配向性指数は、窒化ホウ素結晶の配向度を定量化するための指標である。配向性指数は、X線回折装置で測定される窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比[I(002)/I(100)]で算出することができる。
【0035】
一実施形態に係る複合体は、窒化ホウ素焼結体と樹脂の複合体であり、上述の窒化ホウ素焼結体と窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、ポリアセタール等を用いることができる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0036】
複合体がプリント配線板の絶縁層に用いられる場合、耐熱性及び回路への接着強度向上の観点から、樹脂はエポキシ樹脂を含んでよい。複合体が熱インターフェース材に用いられる場合、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性向上の観点から、樹脂はシリコーン樹脂を含んでよい。樹脂は硬化物(Cステージ状態)であってもよいし、半硬化物(Bステージ状態)であってもよい。樹脂が半硬化の状態にあるか否かは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。
【0037】
複合体における窒化ホウ素粒子の含有量は、複合体の全体積を基準として、40~70体積%であってよく、45~65体積%であってもよい。複合体における樹脂の含有量は、複合体の全体積を基準として、30~60体積%であってよく、35~55体積%であってもよい。このような割合で窒化ホウ素粒子及び樹脂を含む複合体は、高い絶縁性と熱伝導率を高水準で両立することができる。
【0038】
複合体における樹脂の含有量は、複合体の全質量を基準として、10~70質量%であってよく、10~60質量%であってよく、20~60質量%であってよく、20~55質量%であってよく25~55質量%であってよい。このような割合で樹脂を含む複合体は、高い絶縁性と熱伝導率を高水準で両立することができる。複合体における樹脂の含有量は、複合体を加熱して樹脂を分解して除去し、加熱前後の質量差から樹脂の質量を算出することによって求めることができる。
【0039】
複合体は、窒化ホウ素焼結体及びその気孔中に充填された樹脂に加えて、その他の成分をさらに含有してもよい。その他の成分としては、硬化剤、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等が挙げられる。無機フィラーは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい。これによって、複合体の熱伝導性を一層向上することができる。
【0040】
本実施形態の複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と樹脂とを含むことから、優れた熱伝導率と優れた絶縁性を兼ね備える。このため、例えば、放熱部材として好適に用いることができる。放熱部材は、上述の複合体で構成されていてよく、他の部材(例えば、アルミニウム等の金属板)と複合体を組み合わせて構成されていてもよい。
【0041】
窒化ホウ素焼結体、複合体及び放熱部材の製造方法の一例を以下に説明する。なお、以下の製造方法には、上述の窒化ホウ素焼結体、複合体及び放熱部材の説明内容が適用される。本例の窒化ホウ素焼結体の製造方法は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有する。
【0042】
炭化ホウ素粉末は、例えば、以下の手順で調製することができる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得る。この炭化ホウ素塊を、粉砕し、洗浄、不純物除去、及び乾燥を行って調製することができる。
【0043】
窒化工程では、炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得る。窒化工程における焼成温度は、1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。また、当該焼成温度は、2400℃以下であってよく、2200℃以下であってもよい。当該焼成温度は、例えば、1800~2400℃であってよい。
【0044】
窒化工程における圧力は、0.6MPa以上であってよく、0.7MPa以上であってもよい。また当該圧力は、1.0MPa以下であってよく、0.9MPa以下であってもよい。当該圧力は、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。当該圧力が低すぎると、炭化ホウ素の窒化が進行し難くなる傾向がある。一方、当該圧力が高すぎると、製造コストが上昇する傾向にある。なお、本開示における圧力は絶対圧である。
【0045】
窒化工程における窒素雰囲気の窒素ガス濃度は95体積%以上であってよく、99.9体積%以上であってもよい。窒素の分圧は、上述の圧力範囲であってよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0046】
焼結工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素粒子を含む焼成物と焼結助剤を配合して配合物を得る。焼結助剤は、ホウ素化合物及びカルシウム化合物を含む。配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で1~20質量部含む。このような含有量とすることによって、一次粒子の過剰な粒成長を抑制しつつ、適度に粒成長させて焼結を促進し、窒化ホウ素焼結体に残存する気孔を小さくすることができる。
【0047】
窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔を十分に小さくする観点から、配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で、例えば1~20質量部含んでよく、3~15質量部含んでよく、4~10質量部含んでもよい。ホウ素化合物及びカルシウム化合物の合計含有量が過剰になると、窒化ホウ素の一次粒子の粒成長が進み過ぎて、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径が大きくなる傾向にある。一方、ホウ素化合物及びカルシウム化合物の合計含有量が過小になると、窒化ホウ素の一次粒子の粒成長が進み難くなり、窒化ホウ素焼結体の気孔率が高くなる傾向にある。
【0048】
焼結助剤は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを0.5~40原子%含んでよく、0.7~30原子%含んでもよい。このような比率でホウ素及びカルシウムを含有することによって、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径を一層小さくすることができる。ホウ素化合物の含有比率が大きくなり過ぎると、細孔径が小さくなる傾向がある。一方、カルシウム化合物の含有比率が大きくなり過ぎると、細孔径が大きくなる傾向がある。
【0049】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂等が挙げられる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ酸及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。また、成形性向上のため、配合物にバインダを配合してもよい。バインダとしては、アクリル化合物等が挙げられる。
【0050】
焼成物と焼結助剤の配合に際し、一般的な粉砕機又は解砕機を用いて焼成物の粉砕を行ってもよい。例えば、ボールミル、ヘンシェルミキサー、振動ミル、ジェットミル等を用いることができる。なお、本開示においては、「粉砕」には「解砕」も含まれる。焼成物を粉砕した後に焼結助剤を配合してもよいし、焼成物と焼結助剤とを配合した後に、粉砕と混合を同時に行ってもよい。
【0051】
配合物は粉末プレス又は金型成形を行って成形体としてもよいし、ドクターブレード法によって、シート状の成形体としてもよい。成形圧力は、例えば5~350MPaであってよい。成形体の形状は特に限定されず、例えば、厚さが1mm以下のシート状であってよい。シート状の成形体を用いて窒化ホウ素焼結体を製造すれば、樹脂の含浸が円滑に進行する。また、ブロック状の窒化ホウ素焼結体及び複合体を切断してシート状とする場合に比べて、成形体の段階からシート状にすることによって、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、高い歩留まりでシート状の窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することができる。
【0052】
このようにして得られた成形体を、例えば電気炉中で加熱して焼成する。加熱温度は、例えば1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。当該加熱温度は、例えば2200℃以下であってよく、2100℃以下であってもよい。加熱温度が低すぎると、粒成長が十分に進行しない傾向にある。加熱時間は、0.5時間以上であってよく、1時間以上、3時間以上、5時間以上、又は10時間以上であってもよい。当該加熱時間は、40時間以下であってよく、30時間以下、又は20時間以下であってもよい。当該加熱時間は、例えば、0.5~40時間であってよく、1~30時間であってもよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると工業的に不利になる傾向にある。加熱雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。配合物にバインダを配合する場合、上述の加熱の前に、バインダが分解する温度と雰囲気で仮焼して脱脂してもよい。
【0053】
以上の工程によって、窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得ることができる。この窒化ホウ素焼結体は、炭窒化ホウ素を用いている窒化ホウ素の一次粒子が適度に粒成長していることから気孔のサイズを十分に小さくすることができる。このため、窒化ホウ素粒子同士の接触面積を十分に大きくして、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体とすることができる。
【0054】
複合体の製造方法の一例は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する。窒化ホウ素焼結体は、上述の方法で製造されたものであってよい。樹脂組成物は、流動性及び取り扱い性向上の観点から、樹脂成分、硬化剤及び溶剤を含有してもよい。また、これらの他に、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等を含有してもよい。
【0055】
樹脂成分としては、例えば硬化又は半硬化反応によって上述の複合体の説明で挙げた樹脂となるものを用いることができる。溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン、トルエン、キシレン等の炭化水素が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0056】
含浸は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を付着させて行う。例えば、窒化ホウ素焼結体を樹脂組成物に浸漬して行ってよい。浸漬した状態で加圧又は減圧条件として行ってもよい。このようにして、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を充填することができる。
【0057】
含浸工程は、密閉容器を備える含浸装置内を用いて行ってもよい。一例として、含浸装置内で減圧条件にて含浸を行った後、含浸装置内の圧力を上げて大気圧よりも高くして加圧条件で含浸を行ってもよい。このように減圧条件と加圧条件の両方を行うことによって、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を十分に充填することができる。減圧条件と加圧条件とを複数回繰り返し行ってもよい。含浸工程は、加温しながら行ってもよい。窒化ホウ素焼結体の気孔に含浸した樹脂組成物は、硬化又は半硬化が進行したり、溶剤が揮発したりした後、樹脂(硬化物又は半硬化物)となる。このようにして、窒化ホウ素焼結体とその気孔に充填された樹脂とを有する複合体が得られる。気孔の全てに樹脂が充填されている必要はなく、一部の気孔には樹脂が充填されていなくてもよい。窒化ホウ素焼結体及び複合体は、閉気孔と開気孔の両方を含んでいてよい。
【0058】
含浸工程の後に、気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有していてもよい。硬化工程では、例えば、含浸装置から樹脂が充填された複合体を取り出し、樹脂(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射により、樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0059】
このようにして得られた複合体は、窒化ホウ素焼結体における気孔の平均細孔径が小さいことから、優れた熱伝導率を有する。また、そのような気孔に樹脂が充填されていることから、絶縁性にも優れる。複合体は、そのまま放熱部材として用いてもよいし、所定の形状に加工して放熱部材としてもよい。
【0060】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、焼結工程では、成形と焼結を同時に行うホットプレスによって窒化ホウ素焼結体を得てもよい。
【実施例】
【0061】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[窒化ホウ素焼結体]
(実施例1)
<窒化ホウ素焼結体の作製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0063】
調製した炭化ホウ素粉末を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下、2000℃、0.85MPaの条件で、上記ルツボを10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。
【0064】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを2.0質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが0.7原子%であった。焼成物100質量部に対して焼結助剤を6質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。
【0065】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚さ=49mm×25mm×0.38mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(平板形状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは0.40mmであった。
【0066】
<熱伝導率の測定>
窒化ホウ素焼結体の厚さ方向の熱伝導率(H)を、以下の計算式(3)で求めた。
H=A×B×C (3)
【0067】
式(3)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m2/sec)、Bはかさ密度(kg/m3)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、窒化ホウ素焼結体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×0.40mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から算出した。結果を表1に示す。
【0068】
<ピーク細孔径及び平均細孔径の測定>
得られた窒化ホウ素焼結体について、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーター(装置名:オートポアIV9500)を用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増加しながら細孔容積分布を測定した。
図2は、Log微分細孔容積分布を示すグラフである。差分細孔容積(dV)を、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値が最大となるときの細孔径を「ピーク細孔径」として求めた。Dは、気孔が全て円筒形であると仮定したときの直径である。
図5は、積算細孔容積分布を示すグラフである。
図5の結果に基づき、積算細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径を、「平均細孔径」とした。結果を表1に示す。
【0069】
<気孔率の測定>
得られた窒化ホウ素焼結体の体積及び質量を測定し、当該体積及び質量からかさ密度B(kg/m3)を算出した。このかさ密度と窒化ホウ素の理論密度(2280kg/m3)とから、以下の計算式(4)によって気孔率を求めた。結果は、表1に示すとおりであった。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (4)
【0070】
<配向性指数の測定>
X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)を用いて、窒化ホウ素焼結体の配向性指数[I(002)/I(100)]を求めた。X線回折装置の試料ホルダーにセットした測定試料(窒化ホウ素焼結体)にX線を照射して、ベースライン補正を行った。その後、窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比を算出した。これを配向性指数[I(002)/I(100)]とした。結果は、表1に示すとおりであった。
【0071】
<電子顕微鏡による断面観察>
窒化ホウ素焼結体を、CP研磨機を用いて厚さ方向に沿って切断して断面を得た。この断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図7は、実施例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同じ手順で焼成物を調製した。これとは別に、粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、ホウ酸と炭酸カルシウムの配合比率を変えて、ホウ素とカルシウムの原子比率を、ホウ素100原子%に対してカルシウムを0.6原子%とした。焼成物100質量部に対してこの焼結助剤を16質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。この配合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の窒化ホウ素焼結体(厚み:0.40mm)を製造した。
【0073】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1、
図2及び
図5に示すとおりであった。
図8は、実施例2の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0074】
(実施例3)
成形体を得る際のプレス圧力を高くしたこと以外は、実施例2と同様にして、シート状の窒化ホウ素焼結体(厚み:0.40mm)を得た。実施例2と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は、表1、
図3及び
図6に示すとおりであった。
図9は、実施例3の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0075】
(実施例4)
実施例1と同じ手順で焼成物を調製した。これとは別に、粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、ホウ酸と炭酸カルシウムの配合比率を変えて、ホウ素とカルシウムの原子比率を、ホウ素100原子%に対してカルシウムを9.2原子%とした。焼成物100質量部に対してこの焼結助剤を20質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。この配合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の窒化ホウ素焼結体(厚み:0.40mm)を製造した。
【0076】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1、
図3及び
図6に示すとおりであった。
図10は、実施例4の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同じ手順で焼成物を調製した。これとは別に、粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、ホウ酸と炭酸カルシウムの配合比率を変えて、ホウ素とカルシウムの原子比率を、ホウ素100原子%に対してカルシウムが13.2原子%とした。焼成物100質量部に対してこの焼結助剤を25質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。この配合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の窒化ホウ素焼結体(厚み:0.40mm)を製造した。
【0078】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1、
図4及び
図5に示すとおりであった。
図11は、比較例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0079】
(比較例2)
酸素含有量2.0%、平均粒径3.4μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末9質量部、酸素含有量0.3%、平均粒径12.5μmである六方晶窒化ホウ素粉末13質量部、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、商品名:PC-700)0.1質量部、ホウ酸0.2質量部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、水76.0質量部を添加してボールミルで5時間粉砕し、水スラリーを得た。さらに、水スラリーに対して、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセノール)を0.5質量%となるように添加し、溶解するまで50℃で加熱撹拌した後、噴霧乾燥機にて乾燥温度230℃で球状化処理を行った。噴霧乾燥機の球状化装置としては、回転式アトマイザーを使用した。
【0080】
球状化処理によって得られた造粒物を、粉末プレス機を用いて、25MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚み=49mm×25mm×0.38mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2050℃の条件で10時間加熱した。その後、窒化ホウ素容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(平板形状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは0.40mmであった。
【0081】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1、
図4及び
図5に示すとおりであった。
図12は、比較例2の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【0082】
【0083】
[複合体]
<複合体の作製>
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)と硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-84B)を含む樹脂組成物を、大気圧下でバーコーターを用いて実施例1~4の窒化ホウ素焼結体にそれぞれ塗布し、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させた。含浸後、大気圧下、温度120℃で120分間加熱して樹脂を硬化させ、複合体を得た。この複合体は、窒化ホウ素焼結体と同等の厚み及び熱伝導率を有していた。したがって、電子部品の放熱部材として有用である。
【0084】
<樹脂の含有量の測定>
各複合体における樹脂の含有量は、表2に示すとおりであった。この樹脂の含有量(質量%)は、複合体全体に対する樹脂の質量比率である。樹脂の含有量は、複合体を加熱して樹脂を分解して除去し測定した。具体的には、樹脂を分解した後の窒化ホウ素焼結体と複合体の質量差から樹脂の質量を算出し、この樹脂の質量を複合体の質量で除することによって樹脂の含有量(質量%)を算出した。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示によれば、薄型であり、電子部品等の部材として好適な窒化ホウ素焼結体及び複合体、並びにこれらの製造方法が提供される。また、電子部品等の部材として好適な放熱部材が提供される。
【符号の説明】
【0087】
10…窒化ホウ素焼結体。