IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サン−ゴバン グラス フランスの特許一覧

<>
  • 特許-凸形積層グレージングの獲得方法 図1A
  • 特許-凸形積層グレージングの獲得方法 図1B
  • 特許-凸形積層グレージングの獲得方法 図1C
  • 特許-凸形積層グレージングの獲得方法 図1D
  • 特許-凸形積層グレージングの獲得方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】凸形積層グレージングの獲得方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20241007BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C03C27/12 R
B60J1/02 111Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022519650
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2020077393
(87)【国際公開番号】W WO2021064035
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】1910774
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ジャマール,ジュリエット
(72)【発明者】
【氏名】デュモチエ,レイラ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/068381(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B23/02-23/037
C03C27/12
B32B17/10
B60J1/00-1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面側と凸面側とを有する凸形積層グレージングの獲得方法であって、前記グレージングが、熱可塑性中間層(3)によって接着して接合する、グレージングの凸面側に配置される外側ガラスシートと呼ばれるガラスシートと、グレージングの凹面側に配置される内側ガラスシートと呼ばれるガラスシートを含み、前記方法が、以下の、
-少なくとも1つのエナメル被覆領域(12)と少なくとも1つの非エナメル被覆領域(14、16)とを作り出すように、第一のガラスシート(1)の第一面(11)の一部への、エナメルコーティングを被着する工程、
-犠牲領域と呼ばれる、第二のガラスシート(2)の第一面(21)の一部への、赤外線放射の一部を吸収するような犠牲層(22)を被着する工程、
-第一および第二のガラスシート(1、2)の同時の曲げ加工であって、これらのガラスシートは、第一および第二のガラスシートのうちの1枚がもう1枚のガラスシートの上に配置されるように曲げ加工の際に配置され、各ガラスシート(1、2)のそれぞれの第一面(11、21)は、グレージングの凹面側の方へ向けられ、また犠牲領域(22)は、エナメル被覆領域(12)の少なくとも一部に沿って、かつ、エナメル被覆領域(12)に隣接した非エナメル被覆領域の少なくとも一部に沿って配置される工程、
-曲げ加工の途中かあるいは曲げ加工の工程後の、前記犠牲層(22)を除去する工程、
-熱可塑性中間層(3)を用いた、第一のガラスシート(1)および第二のガラスシート(2)を積層する工程、
を含む、凸形積層グレージングの獲得方法。
【請求項2】
内側ガラスシートが、第一のガラスシート(1)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
外側ガラスシートが、第一のガラスシート(1)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エナメル被覆領域(12)が、周縁バンドの形態をしているような、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
エナメルコーティングが、ガラスフリット、顔料および有機溶剤を含む液状のエナメル組成物から被着される、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
犠牲領域(12)が、カメラ領域(16)に沿って配置される、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
犠牲層が、スクリーン印刷、デジタル印刷、パッド印刷、ローラー、カーテン、またはスパッタリングによって被着される、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法
【請求項8】
犠牲層(22)が、顔料、とりわけ黒色顔料、またはカーボンブラックを含むような、請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
犠牲層(22)が、樹脂および耐熱性無機化合物を含み、犠牲層(22)の除去が、曲げ加工の工程後に、とりわけ洗浄および/またはブラッシングによって行われるような、請求項1からのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
犠牲層(22)が、樹脂および可燃性無機化合物を含み、犠牲層(22)の除去が、曲げ加工と同時に行われるような、請求項1からのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
曲げ加工の工程の前に、エナメル(12)の予備硬化処理をそのうえ含む、請求項1から10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
グレージングが、自動車のフロントガラスであるような、請求項1から11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
内側ガラスシート上の、エナメル被覆領域(12)の一部によって取り囲まれる非エナメル被覆領域(16)の正面に、少なくとも1つのセンサが配置される、請求項1から12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのセンサが、カメラ、とりわけ可視光カメラおよび/または赤外線カメラ、特にサーマルカメラ、またはLidar(ライダー)である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層グレージングの分野に関する。本発明はより詳細には、曲げ加工を利用して、光学的性質という観点から、より質の高い製品を得ることを可能にする方法に関している。
【背景技術】
【0002】
積層グレージングは、熱可塑性中間層によって互いに接着して接合する2枚のガラスシートを含むグレージングである。中間層は、特に、破損の場合のガラスの破片を引き留めることを可能にするが、しかしまた、特に侵入耐性や音響特性改善という観点からの、他の機能性ももたらす。そのようなグレージングは、とりわけ自動車用フロントガラスとして利用され、またその場合凸形である。車両の外に位置決めされることを目的とするため外側シートと呼ばれる、凸面側に配置されるガラスシートは、(車両の外にある)「面1」と呼ばれる面と、積層体中間層と接触する面2とを含み、また内側シートと呼ばれる、凹面側に配置されるガラスシートは、積層体中間層と接触する面3と、車両の内部に位置決めされることを目的とした面4とを含む。
【0003】
これらの積層グレージングは概して、エナメルコーティングを含み、エナメルコーティングは、例えば車両の車体の開口部におけるグレージングの取付けシールを隠すことを可能にし、かつそれらを紫外線放射から守ることもまた可能にする。多くの場合面2または面4に配置されるエナメルは、概してガラスシートの周縁に配置されるバンドの形態である。
【0004】
エナメルは、ガラスフリットおよび顔料、多くの場合黒色顔料を含む。エナメルは、概してスクリーン印刷によって被着され、次に曲げ加工の際に硬化し、このときガラスシートは、少なくとも550℃さらには少なくとも600℃の温度を受ける。この処理は、炉のような加熱装置内で行われ、その中でガラスシートは対流および放射によって加熱される。
【0005】
凸形積層グレージングが、エナメル被覆領域のすぐ近くに、時には「burn lines(バーンライン)」と呼ばれる光学的ひずみを、特定の場合において有することが観察された。
【0006】
これらのひずみは、「カメラ領域」と呼ばれる、そこを通して光センサが光または画像をとらえなければならない領域の近くにひずみが位置するとき特に厄介である。それは例えば、センサおよび/またはカメラ、例えば雨や明るさのセンサもしくは運転支援カメラを備えるフロントガラスの場合である。これらのセンサまたはカメラは、グレージングの面4に接して、車両の内部に、例えばルームミラーがフロントガラスに固定される領域内に位置する。エナメルコーティングは概して、ルームミラーを固定するのに使用される接着剤を隠しまた保護するためにこの領域内に配置されるが、しかしこのエナメル被覆領域は、光がセンサに到達することができるように、非エナメル被覆の透過用の小さい窓を設けなければならない。このカメラ領域が、とらえられた画像が変形しないようにまた万一の場合は不適切に分析されないように、光学的ひずみを免れることが重要である。
【0007】
そのようなひずみは、エナメルが、それがとりわけ黒色のときに、赤外線放射を裸ガラス以上に非常に吸収することに起因することが明らかになっている。その結果、曲げ加工の際に、一方ではエナメルでコーティングされた領域(エナメル被覆領域)と、他方ではエナメルでコーティングされていないガラス領域(非エナメル被覆領域)との間に大きな温度差が生じ、これらの温度差が、観察されるひずみの原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記光学的ひずみを減少させるまたはなくすことによって、これらの不都合がないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的のために、本発明は、凹面側と凸面側とを有する凸形積層グレージングの獲得方法を対象とし、前記グレージングは、熱可塑性中間層によって接着して接合する、グレージングの凸面側に配置される外側ガラスシートと呼ばれるガラスシートと、グレージングの凹面側に配置される内側ガラスシートと呼ばれるガラスシートを含み、前記方法は、以下の、
-少なくとも1つのエナメル被覆領域と少なくとも1つの非エナメル被覆領域とを作り出すように、第一のガラスシートの第一面の一部への、エナメルコーティングを被着する工程、
-犠牲領域と呼ばれる、第二のガラスシートの第一面の一部への、犠牲層を被着する工程、
-第一および第二のガラスシートの同時の曲げ加工であって、これらのガラスシートは、第一および第二のガラスシートのうちの1枚がもう1枚のガラスシートの上に配置されるように曲げ加工の際に配置され、各ガラスシートのそれぞれの第一面は、グレージングの凹面側の方へ向けられ、また犠牲領域は少なくとも、エナメル被覆領域の少なくとも一部に沿って配置される工程、
-曲げ加工の途中かあるいは曲げ加工の工程後の、前記犠牲層を除去する工程、
-熱可塑性中間層を用いた、第一のガラスシートおよび第二のガラスシートを積層する工程、
を含む。
【0010】
最も一般的な曲げ加工方法に相当する大多数の場合において、各ガラスシートのそれぞれの第一面は、曲げ加工の際に上の方へ曲げられることになる。同様に、大抵の場合、積層体は、曲げ加工の際に上に配置されるガラスシートが内側シートであるように作製されることになる。
【0011】
第一の実施形態によると、内側ガラスシートは、第一のガラスシートである。この場合、エナメル被覆のガラスシートは概して曲げ加工の際に第二のガラスシートの上に配置されることになり、またエナメルコーティングは、最終的なグレージングの面4に配置されることになり、したがってグレージングが取り付けられることになる車両の内部と接触するという用途に充てられることになる。
【0012】
第二の実施形態によると、第一のガラスシートであるのは、外側ガラスシートである。この場合、第二のガラスシートは概して曲げ加工の際に、エナメル被覆のガラスシートの上に配置されることになり、またエナメルコーティングは、最終的なグレージングの面2に、つまり積層体の中間層と接触して配置されることになる。
【0013】
いずれにせよ、最終的なグレージングにおいて、エナメルコーティングは概して面2につまり外側シートの内側面に、または面4につまり内側シートの内側面に配置されることになる。
【0014】
続く明細書の全体は、相反する詳細がない限り、これらの2つの実施形態に適用される。
【0015】
各ガラスシートは好ましくは、曲げ加工の工程前には平らである。第一および/または第二のガラスシートのガラスは典型的には、ソーダ石灰シリカガラスであるが、しかし他のガラス、例えばホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラスもまた使用することができる。少なくとも1枚のガラスシートは好ましくは、フロート法によって、すなわち溶融ガラスを溶融スズ浴の上に流す方法によって得られる。
【0016】
少なくとも1枚のガラスシートは、透明であってもよいし、または、例えば緑色や青色、灰色、ブロンズ色に着色されていてもよい。選択は、最終的なグレージングの利用に応じてなされる。例えば自動車のフロントガラスの場合、グレージングの光透過率(光源A、CIE-1931測色標準観測者)は、好ましくは少なくとも70%、さらには75%であり、少なくとも1枚のシートはその場合好ましくは、0.5~0.9重量%の酸化鉄(Feの形態で表される)含有量を含む。
【0017】
各ガラスシートは、好ましくは0.7~6mm、とりわけ1~5mm、特に2~4mmの範囲内に含まれる厚さを有する。グレージングは好ましくは、少なくとも1mの面積を有する。
【0018】
エナメルコーティングは好ましくは、ガラスフリット、顔料および有機溶剤を含む液状のエナメル組成物から被着される。有機溶剤は、エナメルコーティングを固めることを可能にする、曲げ加工の工程の際に除去され、さらには必要であればエナメルの予備硬化処理の際に除去される。硬化後、エナメルコーティングはしたがって、本質的にガラス状のマトリクス中の顔料を含む。
【0019】
ガラスフリットまたはガラスマトリクスは好ましくは、ホウケイ酸ビスマスおよび/またはホウケイ酸亜鉛をベースとする。顔料は好ましくは、酸化クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケルの中から選択される単数または複数の酸化物を含む。それは例として、クロム酸銅および/またはクロム酸鉄であり得る。熱処理工程後のエナメルコーティングの厚さは、好ましくは5~50μm、とりわけ10~40μmの範囲内に含まれる。
【0020】
エナメル被覆領域は好ましくは、コーティングの面の面積の2~25%、とりわけ3~20%、さらには5~15%を占める。エナメル被覆領域は好ましくは、周縁バンドの形態をしている。「周縁バンド」とは、ガラスシートの周縁の各点から、典型的には1~30cmであり、しばしば位置に応じて異なる、特定の幅でガラスシートの内側の方へ広がる、それ自体の上に閉じられるバンドを意味する。
【0021】
エナメルコーティングの被着は好ましくは、ガラスフリット、顔料および有機溶剤を含む液状のエナメル組成物のスクリーン印刷によって行われる。そうするために、特にスキージを使って、スクリーン印刷のスクリーンのメッシュを通してガラスシートの上にエナメル組成物を被着する。スクリーンのメッシュは、コーティングが望まれないガラスシートの領域に相当する部分では塞がれ、したがって、エナメル組成物は、予め定義されるパターンに応じて、印刷されるべき領域でしかスクリーンを透過することができない。
【0022】
デジタル印刷技術のような他の被着技術(例えばインクジェット印刷やレーザー放射の影響下での転写による印刷)もまた可能である。
【0023】
硬化前、エナメルコーティングは、好ましくは10~30μm、特に15~25μmの厚さを有する。硬化後、エナメルコーティングの厚さは好ましくは5~15μm、特に7~13μmである。
【0024】
エナメルは好ましくは黒色であり、また有利には、10未満、とりわけ5未満、またさらには3未満の、エナメル面の反射における比色分析の座標Lを有する。
【0025】
犠牲層は、第二のガラスシート上の、曲げ加工の際にエナメル被覆領域の少なくとも一部に沿って(換言すればその正面に)配置される犠牲領域内に被着される。
【0026】
第二のガラスシート上のこの層の存在は、第一のガラスシートのエナメル被覆領域と非エナメル被覆領域との間の境に曲げ加工の際に現れる温度差を補うことを可能にし、またこのように上述の光学的ひずみの形成を避けることを可能にする。
【0027】
犠牲層はそのうえ、特にエナメル被覆領域に隣接した、非エナメル被覆領域の一部に沿って(換言すればその正面に)配置されることもまたできる。
【0028】
犠牲層は、エナメル被覆領域の少なくとも5%、とりわけ少なくとも10%、さらには少なくとも20%、またはさらには少なくとも30%もしくは40%に沿って、またさらにはエナメル被覆領域の少なくとも50%もしくは60%に沿って配置されることができる。
【0029】
一例によると、犠牲領域は、少なくともまたはちょうど、エナメル被覆領域の全体に沿って配置される。犠牲領域は例えば、エナメル被覆領域の全体に沿って、かつエナメル被覆領域に隣接した非エナメル被覆領域の一部に沿って配置される。
【0030】
別の例によると、犠牲領域は、カメラ領域、つまりエナメル被覆領域によって取り囲まれた非エナメル被覆領域と非エナメル被覆領域の周りのエナメル被覆領域の一部とを包含する領域に沿って配置される。先に示されたように、カメラ領域とは、最終的なグレージングにおいて、センサがそこを通して光または画像をとらえなければならないグレージングの領域ならびに隣接したエナメル被覆領域とを意味する。
【0031】
この場合、犠牲領域は概して、エナメル被覆領域の0.5~10%、さらには1~5%を覆う領域に沿って配置されることになる。犠牲領域はしたがって、好ましくは、このエナメル被覆領域によって取り囲まれた非エナメル被覆領域に沿って配置されることになる。
【0032】
カメラ領域は、その透明部分において、好ましくは台形の形を呈する。カメラ領域の透明部分の面積は、好ましくは5~300cm、とりわけ10~250cmである。
【0033】
犠牲層は好ましくは、スクリーン印刷、デジタル印刷、パッド印刷、ローラー、カーテン、またはスパッタリングによって被着される。
【0034】
スクリーン印刷方法、デジタル印刷方法、あるいはまたパッド印刷方法は、決められた領域の上にしか犠牲層を被着しないことを可能にする。これらの局部的な被着技術は、例えば本発明がカメラ領域のところでの光学的ひずみを回避することを目的とする時に特に役立ち、というのもこの場合、ガラスシートの小さな領域のみが本発明による方法と関係するからである。
【0035】
犠牲層の厚さは、好ましくは100nm~80μm、とりわけ1μm~30μm、さらには5μm~20μmである。
【0036】
好ましくは、犠牲層は、赤外線放射の一部を吸収する。犠牲層は有利には顔料、とりわけ黒色顔料、またはカーボンブラックを含む。顔料は好ましくは、酸化クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケルの中から選択される単数または複数の酸化物を含む。
【0037】
犠牲層は、選択的にまたは累積的に、赤外線放射の一部を反射することができる。犠牲層はその場合、赤外線放射を反射する顔料、とりわけ二酸化チタンの顔料を含むことができる。
【0038】
犠牲層が、さまざまな操作または取扱い、例えば運搬や工具との接触に持ちこたえることができるように、犠牲層は好ましくは樹脂を含む。樹脂はその場合、層を第二のガラスシートに一時的に固定することを可能にする結合剤としての役割を果たす。
【0039】
一実施形態によると、犠牲層は、樹脂および耐熱性無機化合物、例えば顔料またはカーボンブラックを含み、また犠牲層の除去は、曲げ加工の工程後に、とりわけ洗浄および/またはブラッシングによって行われる。「耐熱性」とは、これらの化合物が曲げ加工の際に溶融および軟化しないことを意味する。
【0040】
別の実施形態によると、犠牲層は、樹脂および可燃性無機化合物を含み、犠牲層の除去は、曲げ加工と同時に行われる。この場合、可燃性化合物は、曲げ加工の際の燃焼によって除去される。「可燃性」無機とは、これらの化合物が曲げ加工の際に燃やされうることを確かに意味する。
【0041】
両方の場合において、樹脂は概して、曲げ加工中か、あるいは必要であれば曲げ加工前に、エナメルの予備硬化処理によって除去されることになる。
【0042】
犠牲層における樹脂含有量は、好ましくは少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、かつ/または多くて60重量%である。
【0043】
樹脂は、とりわけ、水相または溶媒相における、単一のまたは混合物としての、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂の中から選択されることができる。これらの異なるポリマーの共重合体もまた利用可能である。樹脂は、典型的には20~80重量%、とりわけ30~70重量%の固形分率を伴う、水相または溶媒相におけることができる。
【0044】
樹脂は、とりわけ(メタ)アクリレートまた場合によっては光重合開始剤をベースとした、紫外線放射下での架橋性樹脂、溶媒を使わない樹脂、または場合によっては水相または溶媒相における樹脂であり得る。樹脂は、もし犠牲層の塗布と熱処理との間にガラスシートを取り扱う必要がないならば、架橋しなくてよい。そうでなければ、紫外線放射による乾燥工程を準備するほうが好ましい。
【0045】
樹脂は、ラテックス、すなわち水中分散体の形態または水性乳濁液の形態であり得る。乾燥は、空気中または炉内で行われることができるが、しかし乾燥工程は、もし犠牲層の塗布と熱処理との間にガラスシートを取り扱う必要がないならば、省略してよい。
【0046】
樹脂は、熱可塑性樹脂であり得、例えばホットメルト樹脂(hot-melt)または熱可塑性エラストマー、例えばSEBS(ポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ブチレン)-b-ポリスチレン)共重合体であり得る。
【0047】
樹脂は、エナメル組成物用有機溶剤の樹脂であり得る。
【0048】
曲げ加工は、好ましくは600~750℃、とりわけ620~700℃の温度を好ましくは利用する。必要であれば、曲げ加工に続いて、ガラスシートの機械的強度を向上させる表面圧縮応力を作り出すように、例えばエアノズルを使った、ガラスの表面の急速で強制的な冷却をそのうえ含む熱強化処理が行われ得る。
【0049】
曲げ加工は、既知の仕方で、例えば重力によって(ガラスはそれ自体の重量下で変形する)またはプレス加工によって行われることができる。曲げ加工の際、内側ガラスシート(場合に応じて第一または第二のガラスシート)は多くの場合、外側ガラスシート(場合に応じて第二または第一のガラスシート)の上に配置される。それらが曲げ加工中に互いに接着しないようにするために、これらのガラスシートは好ましくは、典型的には20~50μmである、数十マイクロメートルの空間を確保する挿入粉末を互いの間に配置することによって、距離をおいて保持される。挿入粉末は、例えば炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムをベースとする。
【0050】
本方法は、曲げ加工の工程の前に、エナメルの予備硬化処理をそのうえ含み得る。この処理はその場合、好ましくは550~650℃、とりわけ560~600℃の温度を利用する。予備硬化処理は、特定のエナメルの接着防止特性を伸ばすために特に役立つ。この実施形態は、第一のコーティングが積層グレージングの面2にあることを目的としたエナメルであるとき特に評価できるものであり、前記エナメルはその場合概して、曲げ加工処理の間に積層グレージングの第二のガラスシートと接触することになっている。
【0051】
先に示されたように、本方法は、曲げ加工の工程の後に、洗浄および/またはブラッシングの工程を含み得る。この工程は、犠牲層の潜在的な有機および/または無機の化合物または残留物、例えば顔料を除去することを可能にする。
【0052】
本方法は、曲げ加工の工程の後に、積層工程を含み、該工程において、ガラスシートは、熱可塑性中間層によって互いに接合される。
【0053】
積層は、既知の方法で、例えば110~160℃の温度かつ10~15バールの圧力下での、オートクレーブ処理によって行われることができる。オートクレーブ処理に先立って、ガラスシートと積層体中間層との間に閉じ込められた空気は、カレンダー加工によってまたは負圧によって除去されることができる。
【0054】
積層体の中間層は好ましくは、少なくとも1枚のポリビニルアセタールのシート、とりわけポリビニルブチラール(PVB)のシートを含む。
【0055】
積層体の中間層は、必要であればグレージングの光学的性質または熱的性質を調節するために、着色されるかもしれないしまたは着色されないかもしれない。積層体の中間層は有利には、空気由来のまたは固体由来の音を吸収するための、吸音特性を有することができる。その目的のために積層体の中間層はとりわけ3枚の高分子シートから成ることができ、そのうちの外側シートと呼ばれる2枚のPVBシートは、外側シートの硬度より低い硬度の、場合によってはPVB製である、内側高分子シートを挟む。積層体の中間層はまた断熱特性、特に赤外線放射の反射特性を有することもできる。その目的のために積層体の中間層は、2枚のPVB外側シートによって挟まれたPET内側シートの上に被着される、低放射率の薄層コーティング、例えば銀の薄層を含むコーティングまたは異なる屈折率の誘電層を交互に含むコーティングを含むことができる。
【0056】
積層体の中間層の厚さは概して0.3~1.5mm、とりわけ0.5~1mmの範囲内に含まれる。積層体の中間層は、HUD(head-up display)と呼ばれるヘッドアップディスプレイシステムを利用する場合の二重像の形成を避けるために、グレージングの中心よりもグレージングの縁の方が薄い厚さを有することができる。
【0057】
一実施形態によると、内側ガラスシート上の、エナメル被覆領域の一部によって取り囲まれる非エナメル被覆領域(カメラ領域)の正面に、センサが配置される。センサは、例えばカメラ(とりわけ可視光カメラおよび/または赤外線カメラ、特にサーマルカメラ)またはLidar(ライダー)である。
【0058】
得られる凸形積層グレージングは、熱可塑性中間層によって接着して接合する2枚のガラスシートを含み、エナメルコーティング(とりわけ黒色)は有利には、ガラスシートのうちの1つの周縁に、グレージングの面2または面4に配置される。周縁エナメルは、車体の開口部へのグレージングの固定またはグレージングへのルームミラーの固定を可能にする接着剤およびシールを隠しまた保護することを可能にする。好ましくは、フロントガラスは少なくとも1つのセンサを含み、またエナメルの周縁バンドは、前記センサの正面に、非エナメル被覆の透過用の窓を含む。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1A】第一および第二のガラスシートの概略平面図であり、それらが曲げ加工を目的として組み合わせられる前である。
図1B図1Aで示された平面図の断面に沿った、曲げ加工を目的として組み合わされた第一と第二のガラスシートの一部の概略断面図である。
図1C】曲げ加工後の第一および第二のガラスシートの断面図である。
図1D】最終的な積層グレージングの断面図である。
図2】温度T1に応じた温度差T1-T2を示している。
【発明を実施するための形態】
【0060】
続く例は、付属の図1および図2との関連において、非限定的に本発明を説明するものである。
【0061】
図1A図1Dは、本発明の方法の一実施形態を概略的に示している。この実施形態において、自動車のフロントガラスのカメラ領域における光学的ひずみを減少させようと努めている。
【0062】
図1Aは、第一および第二のガラスシートの概略平面図であり、それらが曲げ加工を目的として組み合わせられる前である。
【0063】
第一のガラスシート1は、その第一面11が黒エナメルの周縁バンド12でコーティングされ、該周縁バンドは、非エナメル被覆領域14(ガラスシートの中央領域)を取り囲み、またガラスシートの上部中央部分に、エナメル被覆部分に取り囲まれるエナメル被覆されない透明部分を含むカメラ領域16を作り出す。エナメルの被着は、例えばスクリーン印刷によって行われる。この段階で、エナメルはまだ硬化していない。
【0064】
第二のガラスシート2は、その第一面21が犠牲層22で覆われ、該犠牲層は、曲げ加工を目的としたガラスシートの組み合わせの際にカメラ領域16に沿って(正面に)位置することを目的とした犠牲領域内に配置される。実施例において、犠牲層は、カメラ領域16の透明部分つまり非エナメル被覆部分に沿うと同時にこの透明部分の周りに位置するエナメル被覆部分に沿って広がる。
【0065】
犠牲層22は、例えば樹脂および黒色顔料を含む。
【0066】
図1Bは、図1Aで示された平面図の断面に沿った、曲げ加工を目的として組み合わされた第一と第二のガラスシートの一部の概略断面図である。ここでは、第二のガラスシート2が第一のガラスシート1の上に配置されている。最終的なグレージングにおいて、第二のガラスシート2はつまり内側ガラスシートとなり、また第一のガラスシート1はつまり外側ガラスシートとなり、エナメルコーティングはそのときグレージングの面2上に見出される。先に示されたように、エナメルが最終的な積層グレージングの面2上にあることを目的とするか面4上にあることを目的とするかに応じて、逆の配置もまた可能である。2枚のガラスシートの間に概して存在する挿入粉末は、ここでは表示されていない。
【0067】
第一面11および21は、曲げ加工中にグレージングの凹面側になるであろう方に向けられる。ここでは重力による曲げ加工が取り上げられているので、第一面11および21は、上の方へ曲げられる。利用される曲げ加工の方法に応じて、他の配置が可能である。
【0068】
図1Cは、曲げ加工後の第一および第二のガラスシートの断面図である。犠牲層の挙げられた例において、樹脂の燃焼は、第二のガラスシート2の第一面21の上に、参照記号24によって示される黒色顔料を残したが、この顔料は、ブラッシングによって面21から取り去ることができる。
【0069】
図1Dは、最終的な積層グレージングの断面図である。曲げ加工後、2枚のガラスシートは分離されて、ついで典型的にはPVB製の、熱可塑性中間層3とともに積層される。
【0070】
図1Aから図1Dは、本発明に係る方法の一実施形態しか示していない。他の形態も当然可能であり、例えば、犠牲層22の被着は、エナメル被覆領域12と非エナメル被覆領域14との境界領域に存在する光学ひずみを排除するように、エナメル被覆領域12の全体に沿って実現されることができる。
【0071】
続く実施例は、本発明の利点を明らかにする。
【0072】
第一のガラスシートは、その第一面の半分が、スクリーン印刷によって、黒エナメルコーティングで覆われた。次に第二のガラスシートが、第一のガラスシートの上に配置され、次に全体が、710℃の温度で加熱される炉内に180秒間置かれることによって熱処理された。(第一のガラスシート上に位置する熱電対によって測定される)エナメル被覆領域内のガラスの温度(T1)および非エナメル被覆領域内のガラスの温度(T2)の変化が測定された。
【0073】
実験1Aにおいて、(熱処理中に上の方へ曲げられる)第二のガラスシートの第一面は、酸化銅(37質量%)、酸化鉄(17質量%)および酸化マンガン(46質量%)をベースとした無機黒色顔料と有機溶剤とで構成される組成物で、スクリーン印刷によって予め覆われた。湿った状態での厚さは15μmであった。この例において、熱処理は、樹脂の燃焼によって犠牲層を除去することを可能にし、第二のガラスシートの表面に顔料が残ったが、該顔料は次に洗浄によって除去された。
【0074】
実験1B(比較例)においては、いかなる犠牲層も被着しなかった。
【0075】
図2は、温度T1に応じた温度差T1-T2を示している。
【0076】
結果は、エナメル被覆領域と非エナメル被覆領域との間の高温時の温度差が例1Aの場合において絶対値で最大10℃であるのに対し、犠牲層がない場合にはこの差が35℃以上にまでなり得ることから、第二のガラスシート上の犠牲層が、この温度差を大いに減らすことを可能にすることを示している。
【符号の説明】
【0077】
1 第一のガラスシート
2 第二のガラスシート
3 熱可塑性中間層
11 第一面
12 エナメル被覆領域
16 カメラ領域
21 第一面
22 犠牲層
図1A
図1B
図1C
図1D
図2