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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241007BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241007BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241007BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241007BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241007BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241007BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20241007BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241007BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
C01G51/00 A
H01M10/058
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023083391
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2022033586の分割
【原出願日】2017-11-06
(65)【公開番号】P2023101599
(43)【公開日】2023-07-21
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2016225046
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-217572(JP,A)
【文献】特開2015-069958(JP,A)
【文献】特開2001-291518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物を有し、
前記正極活物は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し
記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、化コバルト及び化マグネシウムを有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記電解液が有する電解質は、六フッ化リン酸リチウムを有し、
前記電解液は、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートと、ビニレンカーボネートを有し、
前記正極活物は、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを有する粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項2】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し、
前記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、化コバルト及び化マグネシウムを有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記電解液が有する電解質は、六フッ化リン酸リチウムを有し、
前記電解液は、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートと、ビニレンカーボネートを有し、
前記正極活物質は、リチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源を用いて合成された粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項3】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物を有し、
前記正極活物は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部とを有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し
記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、化マグネシウムを有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記電解液は、ビニレンカーボネートを有し、
前記正極活物は、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを有する粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項4】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部とを有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し、
前記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、酸化マグネシウムを有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記電解液は、ビニレンカーボネートを有し、
前記正極活物質は、リチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源を用いて合成された粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項5】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物を有し、
前記正極活物は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し
記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記正極活物は、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを有する粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項6】
正極と、負極と、電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する内部と、岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部は第1の領域を有し、前記表層部は第2の領域および第3の領域を有し、
前記第3の領域は、前記第2の領域よりも、前記正極活物質の表面に近い領域に存在し、
前記第2の領域はアルミニウム、コバルト及び酸素を有し、
前記第3の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、
前記第3の領域は、前記電解液又は前記電解液の分解生成物と接する領域を有し、
前記正極活物質は、リチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源を用いて合成された粒子に、アルミニウムを被覆して500℃以上1200℃以下で加熱する工程を経て形成され、
前記加熱により、マグネシウムは、前記アルミニウムより前記正極活物質の表面側に偏析する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
前記電解液には、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)混合されたものに、ビニレンカーボネートが2重量%添加されたものを用いる、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項8】
請求項3又は請求項4において、
前記電解液には、ビニレンカーボネートが2重量%で混合されたものを用いる、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記加熱は、700℃以上1000℃以下で行
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一において、
前記加熱は、酸素を含む雰囲気下で行う、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一において、
前記第2の領域と前記第3の領域の結晶の配向は、一部で概略一致する、
リチウムイオン二次電池の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、
マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。
本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機
器の製造方法に関する。特に、電子機器およびそのオペレーティングシステムに関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すも
のである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウ
ムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を
有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装
置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は、
携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽
プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(
EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー
自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギー
の供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
現在リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高容量化、サイク
ル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
そのためリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極
活物質の改良が検討されている(特許文献1、特許文献2および特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-236114号公報
【文献】特開2002-124262号公報
【文献】特開2002-358953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらリチウムイオン二次電池およびそれに用いられる正極活物質には、サイクル
特性、容量、さらには充放電特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面でまだ
改善の余地が残されている。
【0009】
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容
量の低下が抑制される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一
態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は
、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態
様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提
供することを課題の一とする。
【0011】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請
求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、正極活物質の表層部に、アルミニウムを
含む被覆層と、マグネシウムを含む被覆層と、を設けることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、第1の領域と、第2の領域と、
第3の領域と、を有し、第1の領域は正極活物質の内部に存在し、第2の領域は、第1の
領域の少なくとも一部を被覆し、第3の領域は、第2の領域の少なくとも一部を被覆し、
第1の領域はリチウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、第2の領域はリチウムと、アル
ミニウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、第3の領域は、マグネシウムと、酸素と、を
有する正極活物質である。
【0014】
上記において、第3の領域は、フッ素を有していてもよい。
【0015】
また上記において、第3の領域は、遷移金属を有していてもよい。
【0016】
また上記において、第1の領域および第2の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、第3
の領域は、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。
【0017】
また上記において、遷移金属はコバルトとすることができる。
【0018】
また、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、リチウムと、アルミニウ
ムと、遷移金属と、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有し、正極活物質の表層部に
存在し、X線光電子分光で測定されるリチウム、アルミニウム、遷移金属、マグネシウム
、酸素、およびフッ素の総量を100原子%として、正極活物質の表層部に存在し、X線
光電子分光で測定される、アルミニウム濃度が0.1原子%以上10原子%以下であり、
マグネシウム濃度が5原子%以上20原子%以下であり、フッ素濃度が3.5原子%以上
14原子%以下である、正極活物質である。
【0019】
また、本発明の一態様は、上記の正極活物質を有する正極と、負極と、電解液と、外装体
と、を有する二次電池である。
【0020】
また、本発明の一態様は、アルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解する工程と、ア
ルミニウムアルコキシドがアルコールに溶解されたアルミニウムアルコキシドのアルコー
ル溶液に、リチウムと、遷移金属と、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有する粒子
を混合する工程と、アルミニウムアルコキシドのアルコール溶液と、リチウムと、遷移金
属と、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有する粒子と、が混合された混合液を、水
蒸気を含む雰囲気下で撹拌する工程と、混合液中から沈殿物を回収する工程と、回収され
た沈殿物を、酸素を有する雰囲気下で500℃以上1200℃以下、保持時間50時間以
下で加熱する工程と、を有する、正極活物質の作製方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおけ
る容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。また、高容量の二次電池
を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を提供することができる。
また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。また、新規な物質、活
物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】正極活物質の一例を説明する図。
図2】正極活物質の作製方法の一例を説明する図。
図3】導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
図4】コイン型二次電池を説明する図。
図5】円筒型二次電池を説明する図。
図6】二次電池の例を説明する図。
図7】二次電池の例を説明する図。
図8】二次電池の例を説明する図。
図9】二次電池の例を説明する図。
図10】二次電池の例を説明する図。
図11】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図12】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図13】二次電池の外観を示す図。
図14】二次電池の外観を示す図。
図15】二次電池の作製方法を説明するための図。
図16】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図17】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図18】電子機器の一例を説明する図。
図19】電子機器の一例を説明する図。
図20】電子機器の一例を説明する図。
図21】電子機器の一例を説明する図。
図22】実施例1の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図23】実施例2の正極活物質のSTEM像。
図24】実施例2の正極活物質のSTEM-FFT像。
図25】実施例2の正極活物質のSTEM像およびEDX元素マッピング。
図26】実施例2の正極活物質のSTEM像およびEDX線分析。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈さ
れるものではない。
【0024】
また、本明細書等において結晶面および方向はミラー指数で示す。結晶面および方向の表
記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等における結晶面および方向の
表記は、出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符
号)を付して表現する。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべ
てを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集
合面は{ }でそれぞれ表現する。
【0025】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体におい
て、ある元素(たとえばB)が不均一に分布する現象をいう。
【0026】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構
造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリ
チウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である
結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層
状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合が
ある。
【0027】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列して
いる構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0028】
層状岩塩型結晶および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)を
とる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充
填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであ
り、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(
最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結
晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶と岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型
結晶及び岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う
とき、結晶の配向が概略一致する、と言う事とする。
【0029】
二つの領域の結晶の配向が一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走
査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡
)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することができ
る。X線回折、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。TEM像
等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観察できる。層状岩
塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶間で、明線と暗線
の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察できる
。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場合が
あるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0030】
(実施の形態1)
[正極活物質の構造]
まず図1を用いて、本発明の一態様である正極活物質100について説明する。図1(A
)および図1(B)に示すように、正極活物質100は、第1の領域101と、第2の領
域102と、第3の領域103を有する。第1の領域101は正極活物質100の内部に
存在する。第2の領域102は、第1の領域101の少なくとも一部を被覆する。第3の
領域103は、第2の領域102の少なくとも一部を被覆する。
【0031】
また図1(B)に示すように、正極活物質100の内部に第3の領域103が存在しても
よい。たとえば第1の領域101が多結晶であるとき、粒界近傍に第3の領域103が存
在していてもよい。また、正極活物質100の結晶欠陥のある部分近傍に、第3の領域1
03が存在していてもよい。図1では粒界の一部を点線で示す。なお本明細書等において
、結晶欠陥とはTEM像等で観察可能な欠陥、つまり結晶中に他の元素の入り込んだ構造
、空洞等をいうこととする。
【0032】
また図示しないが、正極活物質100の内部に第2の領域102が存在してもよい。たと
えば第1の領域101が多結晶であるとき、粒界近傍に第2の領域102が存在していて
もよい。また正極活物質100の結晶欠陥のある部分近傍に、第2の領域102が存在し
ていてもよい。
【0033】
また、第2の領域102は、第1の領域101の全てを被覆していなくてもよい。同様に
、第3の領域103は、第2の領域102の全てを被覆していなくてもよい。また第1の
領域101に接して、第3の領域103が存在してもよい。
【0034】
言い換えれば、第1の領域101は、正極活物質100の内部に存在し、第2の領域10
2および第3の領域103は、正極活物質100の表層部に存在する。表層部の第2の領
域102および第3の領域103は、正極活物質の被覆層として機能する。さらに第3の
領域103および第2の領域102は、正極活物質100の粒子の内部に存在していても
よい。
【0035】
正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工し
たとき活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電体
への塗工が難しくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、D
50(メディアン径ともいう)が、0.1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以
上40μm以下であることがより好ましい。
【0036】
また正極活物質層を高密度化するためには、大きな粒子(20μm程度以上、40μm程
度以下)と小さな粒子(1μm程度)を混合し、大きな粒子の間隙を小さな粒子で埋める
ことも有効である。そのため粒度分布のピークは2つ以上あってもよい。
【0037】
<第1の領域101>
第1の領域101は、リチウムと、遷移金属と、酸素と、を有する。第1の領域101は
リチウムと遷移金属を含む複合酸化物を有するといってもよい。
【0038】
第1の領域101が有する遷移金属としては、リチウムとともに層状岩塩型の複合酸化物
を形成しうる金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのう
ち一つもしくは複数を用いることができる。つまり第1の領域101が有する遷移金属と
してコバルトのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種を用いてもよいし、コバ
ルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。また第1の領域101は遷移金属に加
えて、アルミニウムをはじめとする遷移金属以外の金属を有していてもよい。
【0039】
つまり第1の領域101は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部
がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム
、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム等の、リチウムと遷移金属を含む複合酸
化物を有することができる。
【0040】
第1の領域101は、正極活物質100の中でも特に充放電反応に寄与する領域である。
正極活物質100を二次電池に用いた際の容量を大きくするために、第1の領域101は
、第2の領域102および第3の領域103よりも体積が大きいことが好ましい。
【0041】
なお、第1の領域101は単結晶でもよいし、多結晶でもよい。たとえば第1の領域10
1は、結晶子サイズの平均が280nm以上630nm以下の多結晶であってもよい。多
結晶である場合、TEM等で結晶粒界が観察できることがある。また結晶粒径の平均は、
XRDの半値幅から計算することができる。
【0042】
多結晶は明瞭な結晶構造を有するため、リチウムイオンの二次元的な拡散のパスは十分に
確保される。加えて単結晶よりも生産が容易であるため、第1の領域101として好まし
い。
【0043】
層状岩塩型の結晶構造は、リチウムが二次元的に拡散しやすいため第1の領域101とし
て好ましい。また、第1の領域101が層状岩塩型の結晶構造を有する場合、意外にも後
述するマグネシウムの偏析が起こりやすい。しかし第1の領域101のすべてが層状岩塩
型の結晶構造でなくてもよい。たとえば第1の領域101の一部に結晶欠陥があってもよ
いし、第1の領域101の一部は非晶質であってもよいし、第1の領域101がその他の
結晶構造を有していてもよい。
【0044】
<第2の領域102>
第2の領域102はリチウムと、アルミニウムと、遷移金属と、酸素と、を有する。リチ
ウムと遷移金属を有する複合酸化物の、一部の遷移金属サイトがアルミニウムで置換され
ているといってもよい。第2の領域102が有する遷移金属は、第1の領域101が有す
る遷移金属と同じ元素であることが好ましい。なお本明細書等において、サイトとは、結
晶においてある元素が占めるべき位置をいうこととする。
【0045】
また第2の領域102は、フッ素を有していてもよい。
【0046】
第2の領域102がアルミニウムを有することで、正極活物質100のサイクル特性を向
上させることができる。なお第2の領域102が有するアルミニウムは、濃度勾配を有し
ていてもよい。また、アルミニウムは、リチウムと遷移金属を有する複合酸化物の一部の
遷移金属サイトに存在していることが好ましいが、それ以外の状態で存在してもよい。た
とえば酸化アルミニウム(Al)として存在していてもよい。
【0047】
一般的に、正極活物質は、充放電を繰り返すにつれ、コバルトやマンガン等の遷移金属が
電解液に溶出する、酸素が離脱する、結晶構造が不安定になる、といった副反応が生じ、
劣化が進んでゆく。しかしながら本発明の一態様の正極活物質100は、表層部にアルミ
ニウムを有する第2の領域102を有するため、第1の領域101が有するリチウムと遷
移金属を含む複合酸化物の結晶構造をより安定にすることが可能である。そのため正極活
物質100を有する二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0048】
第2の領域102は、層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。第2の領域102
が層状岩塩型の結晶構造を有することで、第1の領域101および第3の領域103と結
晶の配向が一致しやすくなる。第1の領域101、第2の領域102および第3の領域1
03の結晶の配向が概略一致すると、第2の領域102および第3の領域103はより安
定した被覆層として機能することができる。
【0049】
第2の領域102は、薄すぎると被覆層としての機能が低下するが、厚くなりすぎても容
量の低下を招く恐れがある。そのため、第2の領域102は、正極活物質100の表面か
ら深さ方向に30nm、より好ましくは15nmまでに存在することが好ましい。
【0050】
<第3の領域103>
第3の領域103は、マグネシウムと、酸素と、を有する。第3の領域103は酸化マグ
ネシウムを有するといってもよい。
【0051】
また第3の領域103は、第1の領域101および第2の領域102と同じ遷移金属を有
していてもよい。さらに、第3の領域103は、フッ素を有していてもよい。第3の領域
103がフッ素を有する場合、酸化マグネシウムの酸素の一部がフッ素で置換されていて
もよい。
【0052】
第3の領域103が有する酸化マグネシウムは電気化学的に安定な材料であるため、充放
電を繰り返しても劣化が生じにくく被覆層として好適である。つまり正極活物質100は
、表層部に第2の領域102に加えて第3の領域103を有することで、第1の領域10
1が有するリチウムと遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造をより安定にすることが可能
である。そのため正極活物質100を有する二次電池のサイクル特性を向上させることが
できる。また4.3V(vs. Li/Li)を超えるような電圧、特に4.5V(v
s. Li/Li)以上の高電圧で充放電を行う場合に、本発明の一態様の構成は顕著
な効果を発揮する。
【0053】
第3の領域103は、岩塩型の結晶構造を有すると、第2の領域102と結晶の配向が一
致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいため好ましい。しかし、第3の領域10
3のすべてが岩塩型の結晶構造でなくてもよい。たとえば第3の領域103の一部は非晶
質であってもよいし、第3の領域103はその他の結晶構造を有していてもよい。
【0054】
第3の領域103は、薄すぎると被覆層としての機能が低下するが、厚くなりすぎても容
量の低下を招く。そのため、第3の領域103は正極活物質100の表面から深さ方向に
0.5nm以上50nm以下に存在することが好ましく、0.5nm以上5nm以下に存
在することがより好ましい。
【0055】
なお第3の領域103は、電気化学的に安定な材料を有することが重要であるため、含ま
れる元素は、必ずしもマグネシウムでなくともよい。たとえばマグネシウムに代えて、ま
たはマグネシウムと共に、カルシウム、ベリリウム等の典型元素を有していてもよい。さ
らにフッ素に代えて、またはフッ素と共に、塩素を有していてもよい。
【0056】
<各領域同士の境界>
第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103は、異なる組成を有する領
域である。しかしそれぞれの領域が有する元素は濃度勾配を有することがある。たとえば
第2の領域102が有するアルミニウムは濃度勾配を有することがある。また第3の領域
103は、後述するがマグネシウムが偏析している領域であることが好ましいため、マグ
ネシウムの濃度勾配を有することがある。そのため、それぞれの領域の境界は明瞭でない
場合がある。
【0057】
第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103は、TEM像、STEM像
、FFT(高速フーリエ変換)解析、EDX(エネルギー分散型X線分析)、ToF-S
IMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による深さ方向の分析、XPS(X線光電子
分光)、オージェ電子分光法、TDS(昇温脱離ガス分析法)等によって異なる組成を有
することを確認できる。なおEDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を
2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ場合がある。またEDXの面分析から、線状
の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価することを線
分析と呼ぶ場合がある。
【0058】
たとえばTEM像およびSTEM像では、構成元素の違いが像の明るさの違いとなって観
察されるため、第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103の構成元素
が異なることが観察できる。またEDXの面分析(たとえば元素マッピング)でも、第1
の領域101、第2の領域102および第3の領域103が異なる元素を有することが観
察できる。
【0059】
またEDXの線分析、およびToF-SIMSを用いた深さ方向の分析では、第1の領域
101、第2の領域102および第3の領域103が有する各元素の濃度のピークを検出
することができる。
【0060】
しかし必ずしも、各種分析によって第1の領域101、第2の領域102および第3の領
域103の明確な境界が観察できなくてもよい。
【0061】
本明細書等において、正極活物質100の表層部に存在する第3の領域103の範囲は、
正極活物質100の表面から、マグネシウムの濃度がピークの1/5になるまでをいうこ
ととする。分析手法としては、上述のEDXの線分析、およびToF-SIMSを用いた
深さ方向の分析等を適用することができる。
【0062】
またマグネシウムの濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3
nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深
さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0063】
マグネシウムの濃度がピークの1/5になる深さは、作製方法により異なるが、後述する
作製方法の場合は、おおむね正極活物質の表面から2nm~5nm程度である。
【0064】
第1の領域101の内部に存在する第3の領域103についても、深さ方向分析で検出さ
れる典型元素の濃度が、ピークの1/5以上である領域をいうこととする。
【0065】
正極活物質100が有するフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好まし
い。そのため、フッ素も濃度勾配を有し、フッ素の濃度のピークは、正極活物質100の
表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存
在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0066】
また本明細書等において、正極活物質100の表層部に存在する第2の領域102は、深
さ方向分析で検出されるアルミニウムの濃度が、ピークの1/2以上である領域をいうこ
ととする。粒界近傍や結晶欠陥近傍等の第1の領域101の内部に存在する第2の領域1
02についても、深さ方向分析で検出されるアルミニウムの濃度が、ピークの1/2以上
である領域をいうこととする。分析手法としては、上述のEDXの線分析、およびToF
-SIMSを用いた深さ方向の分析等を適用することができる。
【0067】
そのため第3の領域103と、第2の領域102は重畳する場合がある。ただし、第3の
領域103は、第2の領域102よりも正極活物質の粒子の表面に近い領域に存在するこ
とが好ましい。またマグネシウム濃度のピークは、アルミニウム濃度のピークよりも、正
極活物質の粒子の表面に近い領域に存在することが好ましい。
【0068】
アルミニウム濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ0.5n
m以上20nm以下に存在することが好ましく、深さ1nm以上5nm以下に存在するこ
とがより好ましい。
【0069】
アルミニウム、マグネシウムおよびフッ素の濃度は、上述したToF-SIMS、EDX
(面分析および線分析)の他、XPS、オージェ電子分光法、TDS等により分析するこ
とができる。
【0070】
なおXPSは正極活物質100の表面から5nm程度が測定範囲である。そのため、表面
から5nmほどに存在する元素濃度を定量的に分析可能である。そのため第3の領域10
3の厚さが表面から5nm未満の場合は第3の領域103および第2の領域102の一部
を合わせた領域、第3の領域103の厚さが表面から5nm以上の場合は第3の領域10
3の、元素濃度を定量的に分析することができる。
【0071】
正極活物質100の表面からXPSで測定される、リチウム、アルミニウム、第1の領域
101が有する遷移金属、マグネシウム、酸素、およびフッ素の総量を100原子%とし
たときの、アルミニウム濃度は0.1原子%以上10原子%以下であることが好ましく、
0.1原子%以上2原子%以下であることがより好ましい。またマグネシウム濃度は5原
子%以上20原子%以下であることが好ましい。またフッ素濃度は3.5原子%以上14
原子%以下であることが好ましい。
【0072】
なお上述のように第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103が有する
元素は濃度勾配を有することがあるため、第1の領域101は、第2の領域102および
第3の領域103が有する元素を有していてもよい。同様に、第3の領域103は、第1
の領域101および第2の領域102が有する元素を有していてもよい。また第1の領域
101、第2の領域102および第3の領域103は、炭素、ナトリウム、カルシウム、
塩素、ジルコニウム等のその他の元素を有していてもよい。
【0073】
[第2の領域の被覆]
第2の領域102は、リチウムと遷移金属を有する複合酸化物の粒子に、アルミニウムを
有する材料を被覆することで形成することができる。
【0074】
アルミニウムを有する材料を被覆する方法としては、ゾルゲル法をはじめとする液相法、
固相法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレーザ
デポジション)法等の方法を適用することができる。本実施の形態では、均一な被覆が期
待でき、大気圧で処理が可能なゾルゲル法を適用することとする。
【0075】
ゾルゲル法を適用する場合、まずアルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解し、該溶
液にリチウムと遷移金属を有する複合酸化物の粒子を混合して水蒸気を含む雰囲気下で撹
拌する。HOを含む雰囲気下に置くことで、リチウムと遷移金属を有する複合酸化物粒
子表面で、水とアルミニウムアルコキシドの加水分解および重縮合反応が起こり、該粒子
表面にアルミニウムを含むゲル状の層が形成される。その後該粒子を回収し、乾燥する。
作製方法の詳細については後述する。
【0076】
なお本実施の形態では、リチウムと遷移金属を有する複合酸化物の粒子を正極集電体に塗
工する前に、アルミニウムを有する材料を被覆する例について説明したが、本発明の一態
様はこれに限らない。正極集電体上に、リチウムと遷移金属を有する複合酸化物の粒子を
含む正極活物質層を形成してから、正極集電体と正極活物質層を、アルミニウムアルコキ
シドを含む溶液に浸してもよい。
【0077】
[第3の領域の偏析]
第3の領域103は、スパッタリング法、固相法、ゾルゲル法をはじめとする液相法、等
の方法でも形成することができる。しかし本発明者らは、マグネシウム源とフッ素源を第
1の領域101の材料と混合した後、加熱することで、マグネシウムが正極活物質粒子の
最表面に偏析し、第3の領域103を形成することを明らかにした。またこのようにして
形成された第3の領域103を有すると、サイクル特性の優れた正極活物質100となる
ことを明らかにした。
【0078】
上記のように加熱することでマグネシウムを正極活物質粒子の最表面に偏析させて第3の
領域103を形成する場合、加熱は、リチウム、遷移金属、マグネシウムおよびフッ素を
有する複合酸化物の粒子に、アルミニウムを含む材料を被覆した後に行うことが好ましい
。意外にもアルミニウムを含む材料を被覆させた後でも、マグネシウムが正極活物質粒子
の最表面に偏析するためである。作製方法の詳細については後述する。
【0079】
マグネシウムを偏析させる場合、第1の領域101が有するリチウムと遷移金属を含む複
合酸化物が多結晶であるときや結晶欠陥が存在するとき、表層部だけでなく、リチウムと
遷移金属を含む複合酸化物の粒界近傍や結晶欠陥近傍にもマグネシウムが偏析しうる。粒
界近傍や結晶欠陥近傍に偏析したマグネシウムは、第1の領域101が有するリチウムと
遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造のさらなる安定化に寄与しうる。
【0080】
原料のマグネシウムとフッ素の比がMg:F=1:x(1.5≦x≦4)(原子数比)の
範囲であると、効果的にマグネシウムの偏析が起きるため好ましい。またMg:F=1:
2(原子数比)程度であるとさらに好ましい。
【0081】
偏析により形成された第3の領域103は、エピタキシャル成長により形成されているた
め、第2の領域102と第3の領域103の結晶の配向は、一部で概略一致することがあ
る。つまり第2の領域102と第3の領域103がトポタキシとなることがある。第2の
領域102と第3の領域103の結晶の配向が概略一致していると、これらはより良好な
被覆層として機能しうる。
【0082】
なお本明細書等において、三次元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同
じ配向であることをトポタキシという。そのためトポタキシである場合、断面の一部を観
察すると、二つの領域(たとえば下地となった領域と成長して形成された領域)の結晶の
配向が概略一致する。
【0083】
<第4の領域104>
なおこれまで正極活物質100が第1の領域101、第2の領域102および第3の領域
103を有する例について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。たとえば図1
(C)に示すように、正極活物質100は第4の領域104を有していてもよい。第4の
領域104は、たとえば、第3の領域103の少なくとも一部と接するように設けること
ができる。第4の領域104は、グラフェン化合物をはじめとする炭素を有する被膜であ
ってもよいし、リチウムまたは電解液の分解生成物を有する被膜であってもよい。第4の
領域104が炭素を有する被膜である場合、正極活物質100同士、および正極活物質1
00と集電体との導電性を高めることができる。また第4の領域104がリチウムまたは
電解液の分解生成物を有する被膜である場合、電解液との過剰な反応を抑制し、二次電池
に用いた際サイクル特性を向上させることができる。
【0084】
[作製方法]
第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103を有する場合の、正極活物
質100の作製方法の一例を、図2を用いて説明する。この作製方法の一例では、第1の
領域は遷移金属としてコバルトを有し、第2の領域はアルミニウムアルコキシドを用いる
ゾルゲル法を経て形成するものとする。その後加熱を行い、マグネシウムを表面に偏析さ
せて第3の領域103を形成するものとする。
【0085】
まず、出発原料を準備する(S11)。出発原料としては、リチウム、コバルト、フッ素
、マグネシウムを含む複合酸化物の粒子を用いる。
【0086】
リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを含む複合酸化物の粒子を合成する場合は、
まずリチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源をそれぞれ秤量する。リチ
ウム源としてはたとえば炭酸リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム等を用いること
ができる。コバルト源としてはたとえば酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コ
バルト、炭酸コバルト、シュウ酸コバルト、硫酸コバルト等を用いることができる。また
マグネシウム源としては、たとえば酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等を用いるこ
とができる。またフッ素源としては、たとえばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等を
用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用
いることができるし、フッ化マグネシウムはマグネシウム源としてもフッ素源としても用
いることができる。
【0087】
原料のマグネシウムとフッ素の原子数比は、Mg:F=1:x(1.5≦x≦4)が好ま
しく、Mg:F=1:2(原子数比)程度であることがより好ましい。上記の原子数比で
あると、後の工程で加熱する際に、マグネシウムの偏析が起こりやすい。
【0088】
次に、秤量した出発原料を混合する。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いる
ことができる。
【0089】
次に、混合した出発原料を焼成する。焼成は800℃以上1050℃以下で行うことが好
ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましい。焼成時間は、2時間以
上20時間以下とすることが好ましい。焼成は、乾燥空気等の乾燥した雰囲気で行うこと
が好ましい。乾燥した雰囲気としては、たとえば露点が-50℃以下が好ましく、-10
0℃以下の雰囲気がさらに好ましい。本実施の形態では1000℃で10時間加熱するこ
ととし、昇温は200℃/h、露点が-109℃の乾燥空気を10L/minで流すこと
とする。その後加熱した材料を室温まで冷却する。
【0090】
上記の工程で、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを含む複合酸化物の粒子を合
成することができる。
【0091】
また出発原料としては、あらかじめ合成されたリチウムとコバルトの複合酸化物の粒子を
用いてもよい。たとえば、日本化学工業株式会社製の、コバルト酸リチウム粒子(商品名
:C-20F)を出発原料として用いることができる。これは粒径が約20μmであり、
表面からXPSで分析可能な領域にフッ素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、シ
リコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。本実施の形態では、出発原料
として上記の日本化学工業株式会社製コバルト酸リチウム粒子(商品名:C-20F)を
用いることとする。
【0092】
次に、アルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解し、該溶液に出発原料の粒子を混合
する(S12)。
【0093】
アルミニウムアルコキシドとしては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニ
ウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリ-i-プロポキシアルミニウム、トリ-
n-ブトキシアルミニウム、トリ-i-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシ
アルミニウム、トリ-t-ブトキシアルミニウム等を用いることができる。アルミニウム
アルコキシドを溶解させる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-
プロパノール、ブタノール、2-ブタノール等を用いることができる。
【0094】
なお、アルミニウムアルコキシドのアルコキシド基と、溶媒に用いるアルコールは、異な
る種類のものを組み合わせてもよいが、同種であると特に好ましい。
【0095】
次に、上記混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する(S13)。この処理により、雰
囲気中のHOとアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こす。
そしてマグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、ゲル状のアルミ
ニウムを含む層が形成される。
【0096】
撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水
とアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こすのに十分な時間で
あればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relative Humidi
ty、相対湿度)の条件下で行うことができる。
【0097】
上記のように、常温でアルミニウムアルコキシドと水を反応させることで、たとえば溶媒
のアルコールの沸点を超えるような温度(たとえば100℃以上)の加熱を行う場合より
もより均一で良質なアルミニウムを含む被覆層を形成することができる。
【0098】
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する(S14)。回収方法としては、ろ過
、遠心分離、乾固等を適用することができる。本実施の形態ではろ過により回収すること
とする。ろ過には紙フィルターを用い、残渣はアルミニウムアルコキシドを溶解させた溶
媒と同じアルコールで洗浄することとする。
【0099】
次に、回収した残渣を乾燥する(S15)。本実施の形態では、70℃で1時間、真空乾
燥することとする。
【0100】
次に、乾燥させた粉末を加熱する(S16)。該加熱により、出発原料に含まれたマグネ
シウムとフッ素が表面に偏析し、第3の領域103を形成する。
【0101】
加熱は規定温度での保持時間を50時間以下で行うことが好ましく、1時間以上10時間
以下で行うことがより好ましい。ここで、規定温度とは保持を行う温度とする。規定温度
としては500℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1000℃以下がより好
ましく、800℃程度がさらに好ましい。また、酸素を含む雰囲気下で加熱することが好
ましい。本実施の形態では、規定温度を800℃として2時間保持することとし、昇温は
200℃/h、乾燥空気の流量は10L/minとする。また冷却は、昇温と同じかそれ
以上の時間をかけて行うこととする。
【0102】
次に、加熱した粉末を冷却し、解砕処理を行うことが好ましい(S17)。解砕処理は、
たとえばふるいにかけることで行うことができる。
【0103】
上記の工程により、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。
【0104】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池に用い
ることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液
が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0105】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0106】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を有する。また、正極活物質層は、導電助剤およびバインダ
を有していてもよい。
【0107】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる
。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に
優れた二次電池とすることができる。
【0108】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることが
できる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導
電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下
がより好ましい。
【0109】
導電助剤により、電極中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤に
より、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助
剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
【0110】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊
維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維
、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カ
ーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノ
チューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例
えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子
、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニ
ッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を
用いることができる。
【0111】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0112】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高
い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン
化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とす
る。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導
電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いるこ
とにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。また
、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例
えば、グラフェンまたはマルチグラフェンまたはreduced Graphene O
xide(以下、RGO)を用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化
グラフェン(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0113】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が
大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多く
なりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量
が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤として
グラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成する
ことができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0114】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合
の断面構成例を説明する。
【0115】
図3(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質
100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含
む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを
用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好まし
い。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数
のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0116】
活物質層200の縦断面においては、図3(A)に示すように、活物質層200の内部に
おいて概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。図3(A)においては
グラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多
層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物
質100を包むように、覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に
張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0117】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物
シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することが
できる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を
結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくするこ
とができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比
率を向上させることができる。すなわち、蓄電装置の容量を増加させることができる。
【0118】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質
層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に
、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化
合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に
分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元
するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互
いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。
なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行
ってもよい。
【0119】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェ
ン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よ
りも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させ
ることができる。よって、粒状の正極活物質100の活物質層200における比率を増加
させることができる。これにより、蓄電装置の放電容量を増加させることができる。
【0120】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレ
ン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プ
ロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして
、フッ素ゴムを用いることができる。
【0121】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分
子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチ
ルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセ
ルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉など
を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用
いると、さらに好ましい。
【0122】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メ
チル(ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニ
ルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、
ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデ
ン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー
、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0123】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0124】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例
えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい
場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合すること
が好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよ
い。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカル
ボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導
体や、澱粉を用いることができる。
【0125】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチル
セルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、
粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリ
ーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書にお
いては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、そ
れらの塩も含むものとする。
【0126】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとし
て組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分
散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいこ
とが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、
例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために
高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0127】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜とし
ての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電
子の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不
動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することがで
きる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できる
とさらに望ましい。
【0128】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれ
らの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料
は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカ
ンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用
いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成して
もよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チ
タン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン
、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチング
メタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが
5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0129】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およ
びバインダを有していてもよい。
【0130】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0131】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可
能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲ
ルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少
なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大
きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシ
リコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例
えば、SiO、MgSi、MgGe、SnO、SnO、MgSn、SnS、V
Sn、FeSn、CoSn、NiSn、CuSn、AgSn、Ag
Sb、NiMnSb、CeSb、LaSn、LaCoSn、CoSb、I
nSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反
応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合があ
る。
【0132】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiO
と表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0
.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0133】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハー
ドカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい
【0134】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカ
ーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げら
れる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例え
ば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積
を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、
鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0135】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)に
リチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/L
)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さら
に、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である
、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0136】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(Li
12)、リチウム-黒鉛層間化合物(Li)、五酸化ニオブ(Nb
、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物を用いることが
できる。
【0137】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつ
Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6
Co0.4は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示
し好ましい。
【0138】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、
正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせ
ることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも
、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質とし
てリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0139】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば
、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウム
との合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が
生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr
の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、Ge
等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF等の
フッ化物でも起こる。
【0140】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有
することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0141】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リ
チウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0142】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ま
しく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチ
レンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラ
クトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート
(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチ
ル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1
,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホ
キシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テト
ラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の
組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0143】
また、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性等に対する安
全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。ゲル化される高分子
材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエ
チレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等
がある。
【0144】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一
つ又は複数用いることで、蓄電装置の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇して
も、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオン
からなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級
アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等
の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の
芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系ア
ニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキル
スルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレート
アニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェ
ートアニオン等が挙げられる。
【0145】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF、LiClO、Li
AsF、LiBF、LiAlCl、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO
、Li10Cl10、Li12Cl12、LiCFSO、LiCSO
、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiN(CFSO
、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(CSO等のリチ
ウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いること
ができる。
【0146】
蓄電装置に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不
純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具
体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好
ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0147】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベ
ンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、LiBOB、またスクシ
ノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加
剤の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0148】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0149】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシ
ド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを
含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(H
FP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリ
マーは、多孔質形状を有してもよい。
【0150】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0151】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙
をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナ
イロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アク
リル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いること
ができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包む
ように配置することが好ましい。
【0152】
セパレータは多層構造であってもよい。たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機
材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを
混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、たとえば酸化ア
ルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、た
とえばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材
料としては、たとえばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用い
ることができる。
【0153】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレー
タの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコ
ートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。
ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安
全性を向上させることができる。
【0154】
たとえばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコ
ートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウ
ムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい
【0155】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を
保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0156】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状
の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形
態の記載を参酌することができる。
【0157】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。図4(A)はコイン型(単層偏平型)
の二次電池の外観図であり、図4(B)は、その断面図である。
【0158】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶
302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。
正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306
により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設け
られた負極活物質層309により形成される。
【0159】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物
質層は片面のみに形成すればよい。
【0160】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム
、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼
等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウ
ム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極30
7とそれぞれ電気的に接続する。
【0161】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、図4(B)
に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負
極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介し
て圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0162】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0163】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について図5を参照して説明する。円筒型の二次電池600は
図5(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底
面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶
)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0164】
図5(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶
602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲
回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲
回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には
、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれら
の合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。
また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好まし
い。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は
、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられ
た電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コ
イン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0165】
円筒型の二次電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成
することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負
極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負
極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子6
03は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接され
る。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature C
oefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。
安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601
と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が
上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して
異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO)系
半導体セラミックス等を用いることができる。
【0166】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0167】
[蓄電装置の構造例]
蓄電装置の別の構造例について、図6乃至図10を用いて説明する。
【0168】
図6(A)及び図6(B)は、蓄電装置の外観図を示す図である。蓄電装置は、回路基板
900と、二次電池913と、を有する。二次電池913には、ラベル910が貼られて
いる。さらに、図6(B)に示すように、蓄電装置は、端子951と、端子952と、ア
ンテナ914と、アンテナ915と、を有する。
【0169】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951
、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、
端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子
などとしてもよい。
【0170】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及
びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、
平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体
アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は
、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能する
ことができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アン
テナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけ
でなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0171】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これによ
り、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0172】
蓄電装置は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916を
有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を
有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0173】
なお、蓄電装置の構造は、図6に限定されない。
【0174】
例えば、図7(A-1)及び図7(A-2)に示すように、図6(A)及び図6(B)に
示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよい。図
7(A-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図7(A-2)は、
上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図6(A)及び図6(B)に示
す蓄電装置と同じ部分については、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置の説明を適
宜援用できる。
【0175】
図7(A-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアン
テナ914が設けられ、図7(A-2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方
に層917を挟んでアンテナ915が設けられる。層917は、例えば二次電池913に
よる電磁界への影響を防止することができる機能を有する。層917としては、例えば磁
性体を用いることができる。
【0176】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ915の両方のサイズを大きく
することができる。
【0177】
又は、図7(B-1)及び図7(B-2)に示すように、図6(A)及び図6(B)に示
す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれに別のアンテナを設けてもよい。
図7(B-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図7(B-2)は
、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図6(A)及び図6(B)に
示す蓄電装置と同じ部分については、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置の説明を
適宜援用できる。
【0178】
図7(B-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアン
テナ914及びアンテナ915が設けられ、図7(B-2)に示すように、二次電池91
3の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。アンテナ918は
、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918に
は、例えばアンテナ914及びアンテナ915に適用可能な形状のアンテナを適用するこ
とができる。アンテナ918を介した蓄電装置と他の機器との通信方式としては、NFC
など、蓄電装置と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することがで
きる。
【0179】
又は、図8(A)に示すように、図6(A)及び図6(B)に示す二次電池913に表示
装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子919を介して端子911に電気的
に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよ
い。なお、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図6(A)
及び図6(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0180】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表
示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクト
ロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペー
パーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0181】
又は、図8(B)に示すように、図6(A)及び図6(B)に示す二次電池913にセン
サ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接
続される。なお、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図6
(A)及び図6(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0182】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光
、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流
量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい
。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ
(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0183】
さらに、二次電池913の構造例について図9及び図10を用いて説明する。
【0184】
図9(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設け
られた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される
。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体
930に接していない。なお、図9(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示
しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が
筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムな
ど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0185】
なお、図9(B)に示すように、図9(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成
してもよい。例えば、図9(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930b
が貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が
設けられている。
【0186】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナ
が形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の
遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの
内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bと
しては、例えば金属材料を用いることができる。
【0187】
さらに、捲回体950の構造について図10に示す。捲回体950は、負極931と、正
極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟ん
で負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体
である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複
数重ねてもよい。
【0188】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図6に示す端子911に接続さ
れる。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図6に示す端子911に
接続される。
【0189】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0190】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、図11乃至図16を参照して説明する。ラ
ミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくと
も一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることも
できる。
【0191】
図11を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次
電池980は、図11(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994
と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、図10で説明した
捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり
合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0192】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な
容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリー
ド電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電
極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0193】
図11(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム98
2とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納する
ことで、図11(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体99
3は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有す
るフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0194】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料
や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の
材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を
有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する二次電池を作製すること
ができる。
【0195】
また、図11(B)および図11(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、
1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体99
3を収納してもよい。
【0196】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0197】
また図11では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池9
80の例について説明したが、たとえば図12のように、外装体となるフィルムにより形
成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としても
よい。
【0198】
図12(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物
質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する
負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装
体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されて
いる。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実
施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0199】
図12(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負
極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極
集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように
配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から
外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極
集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0200】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、ア
ルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金
属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹
脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0201】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を図12(B)に示す。図12
A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層
で構成する。
【0202】
図12(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16とし
ても二次電池500は、可撓性を有する。図12(B)では負極集電体504が8層と、
正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図12(B)は負極の
取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論
、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合
には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場
合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0203】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を図13及び図14に示す。図1
3及び図14は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リー
ド電極510及び負極リード電極511を有する。
【0204】
図15(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体50
1を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極
503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極
506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成
されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領
域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図15(A)に示す例に限
られない。
【0205】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、図13に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、図15
(B)、(C)を用いて説明する。
【0206】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図15(B)に積層さ
れた負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を
4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ
領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いれば
よい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リ
ード電極511の接合を行う。
【0207】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0208】
次に、図15(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その
後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時
、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に
接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0209】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入
する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好
ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池で
ある二次電池500を作製することができる。
【0210】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0211】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について図16および図17を参照して説明する
【0212】
図16(A)に、曲げることのできる電池250の上面概略図を示す。図16(B1)、
(B2)、(C)にはそれぞれ、図16(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-C4
、切断線A1-A2における断面概略図である。電池250は、外装体251と、外装体
251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極211aと電
気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリード21
2bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域には、正
極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0213】
電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、図17を用いて説明する
図17(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を説明
する斜視図である。図17(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リード2
12aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0214】
図17(A)に示すように、電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短冊状
の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極211
bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の面の
タブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部分に
負極活物質層が形成される。
【0215】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物
質層の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層
される。
【0216】
また、正極211aの正極活物質層が形成された面と、負極211bの負極活物質層が形
成された面の間にはセパレータ214が設けられる。図17(A)では見やすくするため
セパレータ214を点線で示す。
【0217】
また図17(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215
aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部2
15bにおいて電気的に接続される。
【0218】
次に、外装体251について図16(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明す
る。
【0219】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むよう
に2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部2
62と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負
極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部26
3は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶこ
とができる。
【0220】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線2
72が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部26
2及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0221】
図16(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、図16(B2)は、
谷線272と重なる部分で切断した断面である。図16(B1)、(B2)は共に、電池
250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0222】
ここで、負極211bの幅方向の端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする
。電池250に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極
211bが長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外
装体251と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してし
まう場合がある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電
解液により腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定す
ることが好ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、電池250の体積が増大して
しまう。
【0223】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、負極211
bの端部と、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0224】
より具体的には、積層された正極211a、負極211bおよび図示しないがセパレータ
214の合計の厚さを厚さtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍以
下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下で
あることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対す
る信頼性の高い電池を実現できる。
【0225】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを負極211b
の幅Wbよりも十分大きくすることが好ましい。これにより、電池250に繰り返し曲げ
るなどの変形を加えたときに、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触
しても、正極211aおよび負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正
極211aおよび負極211bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐこと
ができる。
【0226】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正極
211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍
以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい
【0227】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式1の関係を満たすことが好ま
しい。
【0228】
【数1】
【0229】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましく
は1.0以上2.0以下を満たす。
【0230】
また、図16(C)はリード212aを含む断面であり、電池250、正極211aおよ
び負極211bの長さ方向の断面に対応する。図16(C)に示すように、折り曲げ部2
61において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251との
間に空間273を有することが好ましい。
【0231】
図16(D)に、電池250を曲げたときの断面概略図を示している。図16(D)は、
図16(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0232】
電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位置す
る他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する部分
は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体251
の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する
。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にかかる
応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結
果、外装体251は破損することなく、小さな力で電池250を曲げることができる。
【0233】
また、図16(D)に示すように、電池250を曲げると、正極211aおよび負極21
1bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび負極
211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り曲げ
部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極21
1aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b自体
が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損することなく
電池250を曲げることができる。
【0234】
また、正極211aおよび負極211bの端部と、外装体251との間に空間273を有
していることにより、曲げた時、内側に位置する正極211aおよび負極211bの端部
が、外装体251に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0235】
図16および図17で例示した電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の
破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにく
い電池である。電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した正極活物
質を用いることで、さらに高容量でサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0236】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明
する。
【0237】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する
例を図18(A)乃至(G)に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器と
して、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピ
ュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレー
ム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、
音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0238】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車
の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0239】
図18(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401
に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、ス
ピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次
電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用い
ることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0240】
図18(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機740
0を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池
7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を図18(C
)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態
で固定されている。なお、二次電池7407は集電体7409と電気的に接続されたリー
ド電極を有している。
【0241】
図18(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、
筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。
また、図18(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲
げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または
全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の
値で表したものを曲率半径であり、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径
が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部ま
たは全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150
mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の
一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0242】
図18(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は
、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン72
05、入出力端子7206などを備える。
【0243】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インタ
ーネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができ
る。
【0244】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うこ
とができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に
触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン72
07に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0245】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ
動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持
たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシ
ステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0246】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能で
ある。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで
通話することもできる。
【0247】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを
介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電
を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行
ってもよい。
【0248】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。
本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。
例えば、図18(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態
で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0249】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋セン
サ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度セン
サ、等が搭載されることが好ましい。
【0250】
図18(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7
304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表
示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させる
こともできる。
【0251】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことが
できる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状
況を変更することができる。
【0252】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接デ
ータのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。
なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0253】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽
量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0254】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を図
18(H)、図19および図20を用いて説明する。
【0255】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命
な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電
動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考
え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0256】
図18(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。図
18(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アト
マイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカート
リッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過
放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。図18(H)に示し
た二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7
504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いこ
とが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、
長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提
供できる。
【0257】
次に、図19(A)および図19(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示
す。図19(A)および図19(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630
a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示
部9631、表示モード切り替えスイッチ9626、電源スイッチ9627、省電力モー
ド切り替えスイッチ9625、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示
部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレ
ット端末とすることができる。図19(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態
を示し、図19(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0258】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電
体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体
9630bに渡って設けられている。
【0259】
表示部9631は、一部をタッチパネルの領域とすることができ、表示された操作キーに
ふれることでデータ入力をすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り
替えボタンが表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631に
キーボードボタン表示することができる。
【0260】
また、表示モード切り替えスイッチ9626は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切
り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイ
ッチ9625は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時
の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は
光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出
装置を内蔵させてもよい。
【0261】
図19(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池96
33、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634を有する。また、蓄電
体9635として、本発明の一態様に係る二次電池を用いる。
【0262】
なお、タブレット型端末9600は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630aおよ
び筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、
表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることがで
きる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイク
ル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末9600を
提供できる。
【0263】
また、この他にも図19(A)および図19(B)に示したタブレット型端末は、様々な
情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻な
どを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ
入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有する
ことができる。
【0264】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、
表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐
体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構
成とすることができる。
【0265】
また、図19(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について図19
C)にブロック図を示し説明する。図19(C)には、太陽電池9633、蓄電体963
5、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表
示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コン
バータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図19(B)に示す充放電制御回路96
34に対応する箇所となる。
【0266】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。
太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコ
ンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池
9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637
で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631
での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充
電を行う構成とすればよい。
【0267】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧
電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電
体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信し
て充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成とし
てもよい。
【0268】
図20に、他の電子機器の例を示す。図20において、表示装置8000は、本発明の一
態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置800
0は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部
8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐
体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受
けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって
、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る
二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能とな
る。
【0269】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光
装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devi
ce)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0270】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0271】
図20において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池81
03を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光
源8102、二次電池8103等を有する。図20では、二次電池8103が、筐体81
01及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示
しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装
置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄
積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が
受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いる
ことで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0272】
なお、図20では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示してい
るが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8
106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上
型の照明装置などに用いることもできる。
【0273】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができ
る。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光
素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0274】
図20において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、
本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内
機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図20
は、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次
電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外
機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナー
は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電
力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池82
03が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時で
も、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコン
ディショナーの利用が可能となる。
【0275】
なお、図20では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを
例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコン
ディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0276】
図20において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を
用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷
蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図20では、二
次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、
商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を
用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷
凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0277】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量の
うち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次
電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑える
ことができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉830
2、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄
える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行わ
れる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率
を低く抑えることができる。
【0278】
上述の電子機器の他、本発明の一態様の二次電池はあらゆる電子機器に搭載することがで
きる。本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となる。また、本発明の一
態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池自体を小型軽量化
することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した
電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本
実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0279】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0280】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプ
ラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる
【0281】
図21において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図21(A)
に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車で
ある。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いる
ことが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長
い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は
、車内の床部分に対して、図5に示した小型の円筒型の二次電池を多く並べて使用すれば
よい。また、図14に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対し
て設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライ
ト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0282】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示
装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲ
ーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0283】
図21(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方
式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができ
る。図21(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二
次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際し
ては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の
方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションで
もよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの
電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。
充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行う
ことができる。
【0284】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給
して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組
み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電
の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に
太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触で
の電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0285】
また、図21(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図21
(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示
灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することが
できる。
【0286】
また、図21(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池860
2を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても
、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能とな
っており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納
すればよい。
【0287】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大き
くすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自
体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることがで
きる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源としても用いることもでき
る。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができ
る。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および
二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二
次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減ら
すことができる。
【0288】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0289】
本実施例では、異なる被覆層を有する正極活物質を用いた二次電池を作製し、特性を比較
した結果を示す。
【0290】
<正極活物質の作製>
サンプル1からサンプル5までの正極活物質を用意した。各サンプルの作製方法は以下の
通りとした。
【0291】
≪サンプル1≫
サンプル1は、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部にアルミニウムとマグネシウム
を含む被覆層を有する正極活物質とするため、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸
リチウム粒子に、ゾルゲル法でアルミニウムを含む被覆層を形成した後、加熱を行って作
製した。
【0292】
マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子として、日本化学工業製(製品名
;C-20F)を用いた。
【0293】
20mlの2-プロパノールに、トリ-i-プロポキシアルミニウムを0.0348g加
え、溶解させた。このトリ-i-プロポキシアルミニウムの2-プロパノール溶液に、マ
グネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子を5g加えた。
【0294】
この混合液を、マグネチックスターラーで4時間、25℃、湿度90%RHの条件下で撹
拌した。この処理により、雰囲気中のHOとトリ-i-プロポキシアルミニウムで加水
分解および重縮合反応を起こさせ、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒
子の表面に、アルミニウムを含む層を形成させた。
【0295】
上記の処理を終えた混合液をろ過し、残渣を回収した。ろ過のフィルターには、桐山ろ紙
(No.4)を用いた。
【0296】
回収した残渣を、70℃で1時間、真空乾燥した。
【0297】
乾燥させた粉末を加熱した。加熱は、800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間
、乾燥空気雰囲気下で行った。
【0298】
加熱した粉末を冷却し、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることにより行い
、ふるいは目開きが53μmのものを用いた。
【0299】
解砕処理を終えた粒子を、サンプル1の正極活物質とした。
【0300】
≪サンプル2≫
サンプル2は比較例として、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部にマグネシウムを
含む被覆層を有する正極活物質とするため、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リ
チウム粒子を加熱して作製した。
【0301】
マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C
-20F)を用いた。
【0302】
このマグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子を加熱した。加熱は、800
℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間、酸素雰囲気下で行った。
【0303】
加熱した粉末を冷却し、目開き53μmのふるいにかけたものを、サンプル2の正極活物
質とした。
【0304】
≪サンプル3≫
サンプル3は、比較例として、マグネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウムであるが
、表層部にマグネシウムが十分には偏析していない正極活物質とするため、マグネシウム
とフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子を加熱せずにそのまま用いた。
【0305】
マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C
-20F)を用いた。
【0306】
≪サンプル4≫
サンプル4は、比較例として、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部にアルミニウム
を含む被覆層を有する正極活物質とするため、マグネシウムを有さないコバルト酸リチウ
ム粒子に、ゾルゲル法でアルミニウムを含む被覆層を形成した後、加熱を行って作製した
【0307】
マグネシウムを有さないコバルト酸リチウム粒子として、日本化学工業製(製品名;C-
10N)を用いた。これはXPSでマグネシウムが検出されず、フッ素が1原子%程度検
出されるコバルト酸リチウム粒子である。
【0308】
このコバルト酸リチウム粒子に対して、サンプル1と同様にゾルゲル法によりアルミニウ
ムを含む被覆層を形成し、加熱し、乾燥し、ふるいにかけた。これをサンプル4の正極活
物質とした。
【0309】
≪サンプル5≫
サンプル5は、比較例として、被覆層をもたない正極活物質とするため、マグネシウムを
有さないコバルト酸リチウム粒子を加熱せずにそのまま用いた。
【0310】
マグネシウムを有さないコバルト酸リチウム粒子として、日本化学工業製(製品名;C-
10N)を用いた。
【0311】
サンプル1からサンプル5までの条件を表1に示す。
【0312】
【表1】
【0313】
<サイクル特性>
上記で作製したサンプル1からサンプル5の正極活物質を用いて、CR2032タイプ(
直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製し、サイクル特性を評価した
【0314】
正極には、サンプル1~サンプル5の正極活物質(LiCoO)と、アセチレンブラッ
ク(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をLiCoO:AB:PVDF=9
5:2.5:2.5(重量比)で混合したスラリーをアルミニウム箔の集電体に塗工した
ものを用いた。
【0315】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0316】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)で混合されたものに、ビニレンカーボネート(VC)を2
重量%添加したものを用いた。
【0317】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0318】
サイクル特性試験の測定温度は25℃とした。充電は、活物質重量あたりの電流密度68
.5mA/gの定電流、上限電圧4.6Vで行い、その後電流密度1.4mA/gとなる
まで定電圧充電を行った。放電は、活物質重量あたりの電流密度68.5mA/gの定電
流、下限電圧2.5Vで行った。
【0319】
図22(A)および図22(B)に、サンプル1~サンプル5の正極活物質を用いた二次
電池のサイクル特性のグラフを示す。図22(A)は4.6V充電時のエネルギー密度、
図22(B)は4.6V充電時のエネルギー密度維持率のグラフである。なおエネルギー
密度は、放電容量と放電平均電圧の積である。またエネルギー密度維持率は、エネルギー
密度のピークトップを100%として求めた。
【0320】
図22(A)および図22(B)から明らかなように、被覆層をもたないコバルト酸リチ
ウムであるサンプル5と比較して、アルミニウムを含む被覆層を形成した正極活物質であ
るサンプル4は、やや良好なサイクル特性を示した。
【0321】
また、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子であるサンプル2とサンプ
ル3の比較では、加熱を行ったサンプル2の方が、加熱しなかった場合のサンプル3より
もサイクル特性が大幅に向上した。これは、加熱によりマグネシウムがコバルト酸リチウ
ム粒子の表層部に偏析した効果であると考えられる。
【0322】
また、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子に、アルミニウムを含む被
覆層を形成した正極活物質であるサンプル1は、極めて良好なサイクル特性を示した。こ
れは、マグネシウムが表層部に偏析したサンプル2、およびアルミニウムを含む被覆層を
形成したサンプル4を上回る特性であった。そのためアルミニウムおよびマグネシウムを
有する被覆層を設けることで、アルミニウムを有する被覆層のみ、またはマグネシウムを
有する被覆層のみを有する場合よりも、良好なサイクル特性を得られることが明らかとな
った。
【実施例2】
【0323】
本実施例では、アルミニウムとマグネシウムを含む被覆層を有するコバルト酸リチウム粒
子について、各種分析により特徴を明らかにした。
【0324】
<XPS>
実施例1のサンプル1、サンプル2、サンプル3について、表面からXPS分析を行った
。また、実施例1のサンプル1の、ゾルゲル処理と乾燥を行った後、加熱前の粒子をサン
プル6とし、同様にXPS分析を行った。これらの結果を表2に示す。なお分析結果は小
数点第2位を四捨五入して示しているため、合計が100%にならない場合がある。
【0325】
【表2】
【0326】
また、表2の結果を用いて、リチウム、アルミニウム、コバルト、マグネシウム、酸素、
およびフッ素の総量を100原子%として計算した場合の原子数比を表3に示す。
【0327】
【表3】
【0328】
XPS分析は、正極活物質の表面から5nmほどを定量的に分析可能である。表2に示し
たように、加熱を行った正極活物質であるサンプル1およびサンプル2では、加熱を行っ
ていないサンプル6とサンプル3よりもマグネシウムの原子数比が大きく増加していた。
つまり加熱を行うことで、表面から5nmほどの領域にマグネシウムが偏析したことが明
らかとなった。
【0329】
また、ゾルゲル法によりアルミニウムを有する被覆層を形成したサンプル1とサンプル6
では、加熱を行ったサンプル1の方が、加熱を行っていないサンプル6よりもアルミニウ
ムの原子数比が小さかった。そのため加熱を行うことで、表面から5nmほどの領域から
アルミニウムが拡散したことが推察された。
【0330】
そのためアルミニウムとマグネシウムを含む被覆層を有するサンプル1の場合、最表面に
はマグネシウムが多く存在し、アルミニウムはマグネシウムよりも深い領域に存在してい
ることが推察された。
【0331】
<STEM-FFT>
次に、サンプル1についてSTEM観察およびFFT分析を行った結果について、図23
および図24に示す。
【0332】
図23(A)乃至図23(C)は、サンプル1の正極活物質の表面近傍断面の明視野ST
EM像である。図23(C)では、正極活物質粒子の表層部に、マグネシウムと推測され
る、他よりも明るく観察される元素が存在している様子がわかる。また、図23(C)で
観察できる範囲では、内部から表面まで結晶の配向が概略一致している様子も観察された
【0333】
図24(A-1)は、サンプル1の正極活物質の表面近傍断面のHAADF-STEM像
である。図24(A-1)のFFT1で示した領域のFFT(高速フーリエ変換)像が図
24(A-2)である。図24(A-2)のFFT像の輝点の一部を図24(A-3)に
示すようにA、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0334】
FFT1で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
5nm、OBはd=0.16nm、OCはd=0.26nmであった。また∠AOB=3
7°、∠BOC=36°、∠AOC=73°であった。
【0335】
これは、ICDD(International Centre for Diffra
ction Data)データベースにおける酸化マグネシウム(MgO)のデータ(I
CDD45-0945)、および酸化コバルト(CoO)のデータ(ICDD48-17
19)から求められる距離および角度と近い。
【0336】
酸化マグネシウムの場合、OA(1-11)はd=0.24nm、OB(0-22)はd
=0.15nm、OC(-1-11)はd=0.24nm、∠AOB=35°、∠BOC
=35°、∠AOC=71°となる。
【0337】
また酸化コバルトの場合、OA(1-11)はd=0.25nm、OB(0-22)はd
=0.15nm、OC(-1-11)はd=0.25nm、∠AOB=35°、∠BOC
=35°、∠AOC=71°となる。
【0338】
そのため、FFT1で示した正極活物質粒子の表面から2nm程度の領域は、岩塩型の結
晶構造を有する領域であり、[011]入射の像であることが明らかとなった。またFF
T1で示した領域は、酸化マグネシウムまたは酸化コバルトを有するか、酸化マグネシウ
ムと酸化コバルトの両方を有することが推察された。
【0339】
図24(B-1)は、図24(A-1)と同じ正極活物質の表面近傍断面のHAADF-
STEM像であり、図24(B-1)中にFFT2で示した領域のFFT像が図24(B
-2)である。図24(B-2)のFFT像の輝点の一部を図24(B-3)に示すよう
にA、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0340】
FFT2で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.5
1nm、OBはd=0.21nm、OCはd=0.25nmであった。また∠AOB=5
5°、∠BOC=24°、∠AOC=79°であった。
【0341】
これは、ICDDデータベースにおけるコバルト酸リチウム(LiCoO)のデータ(
ICDD50-0653)、およびLiAl0.2Co0.8のデータ(ICDD8
9-0912)から求められる距離および角度と近い。
【0342】
コバルト酸リチウム(LiCoO)の場合、OA(003)はd=0.47nm、OB
(104)はd=0.20nm、OC(101)はd=0.24nm、∠AOB=55°
、∠BOC=25°、∠AOC=80°となる。
【0343】
LiAl0.2Co0.8の場合、OA(003)はd=0.47nm、OB(10
4)はd=0.20nm、OC(101)はd=0.24nm、∠AOB=55°、∠B
OC=25°、∠AOC=80°となる。
【0344】
そのため、FFT2で示した正極活物質の表面から3nmより深く6nm程度までの領域
は、コバルト酸リチウムおよびLiAl0.2Co0.8と同じ層状岩塩型の結晶構
造を有する領域であり、[0-10]入射の像であることが明らかとなった。
【0345】
<STEM-EDX(元素マッピング、線分析)>
次に、サンプル1についてEDX分析を行った結果について、図25および図26に示す
【0346】
図25はサンプル1の正極活物質の表面近傍の断面のSTEM-EDX分析結果である。
図25(A-1)はHAADF-STEM像、図25(A-2)はコバルトの元素マッピ
ング、図25(B-1)はアルミニウムの元素マッピング、図25(B-2)はマグネシ
ウムの元素マッピング、図25(C)はフッ素の元素マッピングである。
【0347】
図25(B-1)に示すように、アルミニウムが正極活物質の表面から10nm程度の領
域に分布している様子が観察された。また図25(B-2)に示すように、マグネシウム
が正極活物質の表面から3nm程度の領域に偏析している様子が観察された。また、図2
5(C)に示すように表面近傍にフッ素はほとんど検出されなかったが、これはEDXで
は軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられた。
【0348】
図26は、サンプル1の正極活物質の表面近傍の断面のSTEM-EDX線分析の結果で
ある。図26(A)はHAADF-STEM像である。図26(A)の白線で囲った領域
について、白い矢印の方向にEDX線分析を行った結果を示すグラフが、図26(B)で
ある。図26(B)の一部を拡大したグラフが、図26(C)である。なお図26におい
てもフッ素はほとんど検出されなかった。
【0349】
図26(C)に示すように、サンプル1の正極活物質の表面近傍にはマグネシウムとアル
ミニウムが存在し、マグネシウムの分布の方が、アルミニウムの分布よりも表面に近いこ
とが明らかとなった。またマグネシウムのピークの方が、アルミニウムのピークよりも表
面に近いことが明らかとなった。また、コバルトと酸素は正極活物質粒子の最表面から存
在していることが推測された。
【0350】
上記のXPSおよびEDX分析の結果から、サンプル1は、本発明の一態様である、第1
の領域としてコバルト酸リチウムを有し、第2の領域としてリチウムと、アルミニウムと
、コバルトと、酸素と、を有し、第3の領域としてマグネシウムと、酸素と、を有する正
極活物質であることが確認された。また、サンプル1では第2の領域の一部と第3の領域
の一部が重畳していることが明らかとなった。
【0351】
また図26(B)のグラフでは、酸素の検出量は距離11nm以上で安定している。そこ
で、この安定した領域の酸素の検出量の平均値Oaveを求め、平均値Oaveの50%
の値、0.5Oaveに最も近い測定値を示した測定点の距離xを、正極活物質の粒子の
最表面であると推定することとした。
【0352】
本実施例において、距離11nm以上40nm以下の範囲の酸素の検出量の平均Oave
は777であった。777の50%である388.5に最も近い測定値を示した測定点の
x軸は、距離9.5nmであった。そこで、本実施例では図26(B)のグラフにおける
距離9.5nmが、正極活物質の粒子の最表面であると推定することとした。
【0353】
正極活物質粒子の最表面が距離9.5nmであるとすると、マグネシウムのピークは最表
面と一致し、アルミニウムのピークは最表面から2.3nmであった。
【0354】
以上の実施例1および実施例2の結果から、本発明の一態様である、第1の領域101と
してコバルト酸リチウムを有し、第2の領域102としてリチウムと、アルミニウムと、
コバルトと、酸素と、を有し、第3の領域103としてマグネシウムと、酸素と、を有す
る正極活物質は、二次電池に用いた際に極めて良好なサイクル特性を得られることが明ら
かとなった。
【符号の説明】
【0355】
100 正極活物質
101 第1の領域
102 第2の領域
103 第3の領域
104 第4の領域
200 活物質層
201 グラフェン化合物
211a 正極
211b 負極
212a リード
212b リード
214 セパレータ
215a 接合部
215b 接合部
217 固定部材
250 電池
251 外装体
261 折り曲げ部
262 シール部
263 シール部
271 稜線
272 谷線
273 空間
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 外装体
510 正極リード電極
511 負極リード電極
600 二次電池
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
612 安全弁機構
900 回路基板
910 ラベル
911 端子
912 回路
913 二次電池
914 アンテナ
915 アンテナ
916 層
917 層
918 アンテナ
919 端子
920 表示装置
921 センサ
922 端子
930 筐体
930a 筐体
930b 筐体
931 負極
932 正極
933 セパレータ
950 捲回体
951 端子
952 端子
980 二次電池
981 フィルム
982 フィルム
993 捲回体
994 負極
995 正極
996 セパレータ
997 リード電極
998 リード電極
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 二次電池
7200 携帯情報端末
7201 筐体
7202 表示部
7203 バンド
7204 バックル
7205 操作ボタン
7206 入出力端子
7207 アイコン
7300 表示装置
7304 表示部
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7407 二次電池
7409 集電体
7500 電子タバコ
7501 アトマイザ
7502 カートリッジ
7504 二次電池
8000 表示装置
8001 筐体
8002 表示部
8003 スピーカ部
8004 二次電池
8021 充電装置
8022 ケーブル
8024 二次電池
8100 照明装置
8101 筐体
8102 光源
8103 二次電池
8104 天井
8105 側壁
8106 床
8107 窓
8200 室内機
8201 筐体
8202 送風口
8203 二次電池
8204 室外機
8300 電気冷凍冷蔵庫
8301 筐体
8302 冷蔵室用扉
8303 冷凍室用扉
8304 二次電池
8400 自動車
8401 ヘッドライト
8406 電気モーター
8500 自動車
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 二次電池
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
9600 タブレット型端末
9625 スイッチ
9626 スイッチ
9627 電源スイッチ
9628 操作スイッチ
9629 留め具
9630 筐体
9630a 筐体
9630b 筐体
9631 表示部
9633 太陽電池
9634 充放電制御回路
9635 蓄電体
9636 DCDCコンバータ
9637 コンバータ
9640 可動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26