(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】窒化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
C01B21/06 B
(21)【出願番号】P 2023093836
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2021550472の分割
【原出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019182299
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲也
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201511(JP,A)
【文献】特開2015-74566(JP,A)
【文献】特開2002-3209(JP,A)
【文献】特開2001-48504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子を埋め込んだリチウム部材
(ただし、表面に酸素を主成分とする粒子状物質を有する金属リチウムを除く)を準備する工程(A)と、
前記無機物粒子を埋め込んだ状態で、前記リチウム部材に窒素を接触させて前記リチウム部材を窒化させる工程(B)と、
を含む窒化リチウムの製造方法。
【請求項2】
無機物粒子を埋め込んだリチウム部材を準備する工程(A)と、
前記無機物粒子を埋め込んだ状態で、前記リチウム部材に窒素を接触させて前記リチウム部材を窒化させる工程(B)と、
を含
み、
前記無機物粒子および前記リチウム部材の合計を100質量%としたとき、
前記無機物粒子の埋め込み量が0.1質量%以上10質量%以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)では、前記無機物粒子を埋め込んだ領域の周囲を窒化させて窒化起点領域を生成させ、前記窒化起点領域を起点としてその周辺に窒化領域を拡大させ、最終的に前記リチウム部材の全体を窒化させる、窒化リチウムの製造方法。
【請求項4】
請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記無機物粒子がリチウム、リン、硫黄、および窒素からなる群から選択される一種または二種以上の元素を含む無機物粒子である、窒化リチウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記無機物粒子が窒化リチウム粉末、硫化リン粉末、赤リン粉末からなる群より選択される一種または二種以上の無機物粒子である、窒化リチウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記無機物粒子が窒化リチウム粉末である、窒化リチウムの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)では、露点が-15℃未満の窒素雰囲気下で前記リチウム部材を窒化させる窒化リチウムの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)では、前記リチウム部材を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を用いて前記リチウム部材を加熱する窒化リチウムの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記局所加熱手段が伝導伝熱加熱および放射伝熱加熱から選択される少なくとも一種の加熱手段を含む窒化リチウムの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記加熱手段の加熱温度が30℃以上である窒化リチウムの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における雰囲気温度が20℃以上40℃以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
熱交換器を用いて前記工程(B)における雰囲気温度を制御する窒化リチウムの製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記リチウム部材の実体温度が30℃以上である窒化リチウムの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記リチウム部材が金属リチウム箔である窒化リチウムの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記金属リチウム箔の厚みが3mm以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)の後に、窒化された前記リチウム部材を粉砕して粉状にする工程(C)をさらに含む窒化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化リチウムは、リチウムイオン伝導度が室温で10-3Scm-1を示す高イオン伝導体として知られており、例えば、リチウムイオン電池用の固体電解質や電極材料としての応用が検討されている。
【0003】
窒化リチウムは水分と接触すると容易に分解してしまうため、その合成方法は多くの制約を受けており、通常は金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムが製造されている。
【0004】
特許文献1(特開2001-48504号公報)には、窒素ガス雰囲気下、冷却によりリチウム及び生成する窒化リチウムの温度をリチウムの溶融温度以下に維持しながら、金属リチウムと窒素とを反応させることを特徴とする窒化リチウムの製造方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2002-3209号公報)には、窒素雰囲気下、0.4℃/min~7.0℃/minの昇温速度で、50℃~110℃まで金属リチウムを加熱する工程を有する窒化リチウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-48504号公報
【文献】特開2002-3209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、上記特許文献1および2に開示されているような金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムを製造する方法では、金属リチウムと窒素ガスとの反応が再現性よく起こらず、窒化反応が進行しない場合があることが明らかになった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能な窒化リチウムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
無機物粒子を埋め込んだリチウム部材を準備する工程(A)と、上記無機物粒子を埋め込んだ状態で、上記リチウム部材に窒素を接触させて上記リチウム部材を窒化させる工程(B)と、を含む窒化リチウムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能な窒化リチウムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0010】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法は、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材を準備する工程(A)と、無機物粒子を埋め込んだ状態で、リチウム部材に窒素を接触させてリチウム部材を窒化させる工程(B)と、を含む。
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法によれば、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能となる。
【0011】
前述したように、本発明者らの検討によれば、上記特許文献1および2に開示されているような金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムを製造する方法では、金属リチウムと窒素ガスとの反応が再現性よく起こらず、窒化反応が進行しない場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、無機物粒子を埋め込んだ状態で、リチウム部材に窒素を接触させることにより、リチウム部材の窒化反応が速やかに進行することを見出した。
一般的に市販されている金属リチウムの表面には、炭素と酸素を構成成分とする薄い皮膜が存在している。箔等に加工された金属リチウムはその皮膜によって相互に癒着するのが抑制されている。
炭素と酸素を構成成分とする上記皮膜は、通常は炭酸リチウムが主要物質であり、酸化リチウムを含むこともある。金属リチウム表面の炭素と酸素を構成成分とする上記皮膜は前述したようにリチウム箔の癒着等を防ぐ効果がある一方で、窒化の進行を抑制する作用があるため、酸素濃度や露点が適正に管理された雰囲気で製造された金属リチウムは、窒素ガス雰囲気下で加熱しても窒化反応は進行しないと考えられる。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、無機物粒子を埋め込んだ状態で、窒素を導入することにより、リチウム部材の窒化反応が速やかに進行することを見出した。
これは、リチウム部材に無機物粒子を埋め込むことにより、リチウム部材が変形し、リチウム部材と無機物粒子との接触部位周辺に新鮮な金属リチウムが露出する。そこに窒素が接触すると、この露出した新鮮な金属リチウムが窒化開始点となり、リチウム部材の窒化反応が速やかに進行するからだと考えられる。
【0012】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
(工程(A))
はじめに、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材を準備する。
【0014】
本実施形態に係るリチウム部材は、例えば、その表面に炭素と酸素を構成成分とする薄い皮膜が存在している金属リチウムであり、その形状は、インゴット、箔、ワイヤー、ロッド等の一般的に提供されているものであればよく、特別な形状である必要はない。ただし、窒化反応を速やかに完了させるには表面積が大きな形状がよいため、リチウム部材の形状としては箔が好ましい。すなわち、本実施形態に係るリチウム部材は金属リチウム箔が好ましい。
金属リチウム箔の厚みは、3mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。金属リチウム箔の厚みが上記上限値以下であると、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制することができる。金属リチウム箔の厚みは特に限定されないが、例えば、0.05mm以上であってもよいし、0.1mm以上であってもよい。
【0015】
本実施形態に係る無機物粒子としては特に限定されないが、例えば、窒化リチウム粉末、硫化リチウム粉末、硫化リン粉末、固体電解質粉末等を用いることができる。純度が高い窒化リチウムを得る観点や、無機物粒子の除去工程を簡略する観点から、無機物粒子としては窒化リチウム粉末が好ましい。
【0016】
また、無機物粒子としては、例えば、リチウム、リン、硫黄、窒素のいずれか一種類または二種以上の元素を含む無機物粒子を用いることができ、窒化リチウム粉末、硫化リン粉末、赤リン粉末からなる群より選択される一種または二種以上の無機物粒子がさらに好ましい。純度が高い窒化リチウムを得る観点や、無機物粒子の除去工程を簡略する観点から、無機物粒子としては窒化リチウム粉末が特に好ましい。
【0017】
本実施形態に係る無機物粒子は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは0.1μm以上45μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上20μm以下である。
無機物粒子の平均粒子径d50を上記下限値以上とすることにより、無機物粒子のハンドリング性を良好にすることができる。また、無機物粒子の平均粒子径d50を上記上限値以下とすることにより、後述する窒化起点領域の生成量を増やすことができ、その結果、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
【0018】
無機物粒子が埋め込まれたリチウム部材において、無機物粒子およびリチウム部材の合計を100質量%としたとき、無機物粒子の埋め込み量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
無機物粒子の埋め込み量が上記下限値以上であると、後述する窒化起点領域の生成量を増やすことができ、その結果、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
また、無機物粒子の埋め込み量が上記上限値以下であると、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制することができ、その結果、リチウム部材の窒化反応をより安全に進めることができる。
【0019】
リチウム部材の一部の領域に無機物粒子を埋め込む方法としては、例えば、リチウム部材の表面に無機物粒子を振り掛けて、次いで、無機物粒子が付着したリチウム部材をプレスする方法が挙げられる。
リチウム部材のプレスは、例えば、手押しローラー、ロールプレス、平板プレス等により実施できる。これらの中でも、ロールプレスが好ましい。ロールプレスは、ロール間隔を設定することで一定のプレス圧を供与しながら連続的に圧接でき、量産に適しているため好ましい。
【0020】
(工程(B))
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)では、無機物粒子を埋め込んだ状態で、リチウム部材に窒素を接触させることにより、リチウム部材の窒化反応を進める。例えば、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材を、窒素雰囲気に配置することにより、リチウム部材に窒素に接触させる。
窒化反応の初期段階では、無機物粒子が埋め込まれた領域の周囲について窒化反応が起こり、その箇所が黒色化する。本実施形態では、この黒色化した領域を窒化起点領域と呼ぶ。
窒化反応の初期段階ではこの窒化起点領域が複数生成し、この窒化起点領域を起点として、その周辺に窒化領域が時間の経過とともに拡大し、窒化リチウムの生成が進行する。そして、最終的にリチウム部材の全体が窒化することとなる。
【0021】
リチウム部材の窒化反応には、窒素ガスを使用する。窒素ガスは、リチウムと反応し易く、安価でかつ毒性も無い。
使用する窒素ガス中の酸素濃度は低いほど好ましい。窒素ガス中の酸素濃度が高くなると金属リチウムは著しく酸化腐食し、窒化リチウムの形成を阻害するだけでなく、窒化リチウムに酸化リチウムや水酸化リチウムの混入を引き起こしてしまうからである。
具体的には、窒素ガス中の酸素濃度は100ppm以下が好ましく、60ppm以下がより好ましい。
また、窒素ガスの純度は、99.99%以上が好ましい。
【0022】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法では、露点が-15℃未満の窒素雰囲気下でリチウム部材を窒化させることが好ましく、露点が-15℃未満の窒素雰囲気下でリチウム部材を加熱することにより、リチウム部材を窒化させることがより好ましい。
露点はより好ましくは-18℃以下、さらに好ましくは-20℃以下、さらにより好ましくは-25℃以下、さらにより好ましくは-30℃以下、さらにより好ましくは-40℃以下、さらにより好ましくは-50℃以下である。露点の下限値は特に限定されないが、例えば-90℃以上である。
窒素雰囲気の露点を上記上限値未満に設定することにより、金属リチウム表面への酸化リチウムや水酸化リチウムを含む皮膜の生成を抑制することができる。そのため、金属リチウムと窒素との接触面積が増大し、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
【0023】
工程(B)では、リチウム部材を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を用いてリチウム部材を加熱することが好ましい。すなわち、窒素雰囲気内全体を加熱するのではなく、窒素雰囲気内に配置されたリチウム部材またはリチウム部材とその周辺を局所的に加熱することが好ましい。こうすることで、窒素雰囲気内の温度が上がり難くなるため、窒素雰囲気内にあるモレキュラーシーブ等の水分吸着剤や装置、器具等に付着された水分が蒸発し、窒素雰囲気内の露点が上昇してしまうのを抑制することができる。すなわち、リチウム部材を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を用いることによって、窒素雰囲気下の露点を上記上限値未満に維持しながら、リチウム部材を加熱することが可能となる。
【0024】
上記局所加熱手段としては、例えば、伝導伝熱加熱、放射伝熱加熱等が挙げられる。これらの加熱手段は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
伝導伝熱加熱とは、リチウム部材を高温物体に接触させて熱伝導によって加熱する方法であり、伝導伝熱加熱をおこなう装置としては、例えば、ホットプレート式ヒーター、加熱ロール等が挙げられる。
放射伝熱加熱とは、高温物体が電磁波として放出するエネルギーをリチウム部材に吸収させて加熱する方法であり、放射伝熱加熱をおこなう装置としては、例えば、赤外線ヒーターや赤外線ランプ等が挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における加熱手段の加熱温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましい。加熱手段の加熱温度の上限は特に限定されないが、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制する観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、60℃以下がさらにより好ましい。
ここで、加熱手段の加熱温度は、加熱手段の設定温度すなわち加熱部の温度である。
【0026】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)におけるリチウム部材の実体温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。工程(B)におけるリチウム部材の実体温度の上限は特に限定されないが、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制する観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
ここで、工程(B)におけるリチウム部材の実体温度は、リチウム部材の表面の温度である。
【0027】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、20℃以上が好ましく、23℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましく、28℃以上がさらにより好ましい。工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度の上限は特に限定されないが、工程(B)における窒素雰囲気下の露点を上記上限値未満に維持する観点から、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
ここで、工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度は、加熱手段の加熱部から30cm離れた地点での空間の温度である。
【0028】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における窒素雰囲気下の露点を上記上限値未満に維持する観点から、熱交換器を用いて窒素雰囲気の雰囲気温度を制御してもよい。こうすることで、窒素雰囲気内に配置されたリチウム部材を加熱する温度を上げても、工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度の上昇を抑制することができ、その結果、工程(B)における窒素雰囲気下の露点を上記上限値未満に効果的に維持することができる。
【0029】
リチウム部材の窒化反応をおこなう時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、好ましくは0.5時間以上8時間以下であり、さらに好ましくは1時間以上5時間以下である。
【0030】
(工程(C))
必要に応じて、工程(B)の後に、窒化されたリチウム部材を粉砕して粉状にする。これにより、粉状の窒化リチウムを得ることができる。粉状にする方法は特に限定されず、一般的に公知の粉砕手段によりおこなうことができる。
【0031】
本実施形態に係る製造方法により得られた窒化リチウムは、例えば、リチウムイオン電池用の固体電解質、リチウムイオン電池用電極材料、化学薬品用の中間原料として好適に用いることができる。本実施形態に係る製造方法により得られた窒化リチウムは、高純度であるため、特に高純度が求められるリチウムイオン電池用の固体電解質およびリチウムイオン電池用電極材料用の原料として好適に用いることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
純度99.7%の金属リチウム箔(本城金属社製、60mm×250mm×1mm、8g)の両面に、窒化リチウム粉末を80mgを振り掛けた。次いで、手押しローラーを用いて、金属リチウム箔に付着した窒化リチウム粉末を金属リチウム箔の表層に埋め込んだ。
次いで、窒素雰囲気(露点:-30℃、温度:25℃)のステンレス製真空置換型グローブボックス内に、50℃に加温したホットプレートを設置し、さらに加温したホットプレート上に、表層に窒化リチウム粉末が埋め込まれた上記金属リチウム箔を配置し、金属リチウム箔の窒化反応を開始した。ここで、グローブボックス内は、空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器を用いて、外気温(25℃)に制御した。また、グローブボックス内の窒素ガスを水分吸着剤(和光純薬社製、モレキュラーシーブス3A)のカラムに通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、グローブボックス内の露点を-30℃に維持した。また、グローブボックス内の窒素ガスは圧力スイッチで自動制御され、窒素ガスが金属リチウム箔との窒化反応に消費されて内圧が低下すると、消費量相当の窒素ガスがグローブボックス内に導入されるように設定した。
次いで、金属リチウム箔の重量変化から窒化率を算出した。その結果、金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから1時間後の窒化率は81%であり、2時間後の窒化率は100%であった。
ここで、窒化率100%は金属リチウム箔(Li)がすべて窒化リチウム(Li3N)になったことを意味する。
【0035】
(実施例2)
金属リチウム箔の加熱をおこなわない以外(すなわちホットプレートを使用しない)は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をグローブボックス内に配置してから5時間後の窒化率は100%であった。
【0036】
(実施例3)
窒化リチウム粉末の代わりに硫化物系固体電解質材料(Li10P3S12)を用いた以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから3時間後の窒化率は77%であり、48時間後の窒化率は100%であった。
【0037】
(実施例4)
アルゴン雰囲気(露点:-76℃、温度25℃)のグローブボックス内にて、純度99.7%の金属リチウム箔(本城金属社製、φ14mm、t=0.1mm、9mg)の両面に、窒化リチウム粉末を4mg振り掛けた。次いで、油圧ハンドプレス機を用いて、約20MPaで10秒間プレスし、金属リチウム箔に付着した窒化リチウム粉末を金属リチウム箔の表層に埋め込んだ。
次いで、窒素雰囲気(露点:-30℃、温度:25℃)のステンレス製真空置換型グローブボックス内に、上記金属リチウム箔を配置し、金属リチウム箔の窒化反応を開始した。ここで、グローブボックス内は、空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器を用いて、外気温(25℃)に制御した。また、グローブボックス内の窒素ガスを水分吸着剤(和光純薬社製、モレキュラーシーブス3A)のカラムに通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、グローブボックス内の露点を-30℃に維持した。また、グローブボックス内の窒素ガスは圧力スイッチで自動制御され、窒素ガスが金属リチウム箔との窒化反応に消費されて内圧が低下すると、消費量相当の窒素ガスがグローブボックス内に導入されるように設定した。
次いで、金属リチウム箔の重量変化から窒化率を算出した。その結果、金属リチウム箔を窒素雰囲気のグローブボックス内に配置してから24時間後の窒化率は97%であった。
【0038】
(実施例5)
窒化リチウム粉末の代わりに赤リン(高純度化学研究所製、純度99%)を4mg用いた以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔を窒素雰囲気のグローブボックス内に配置してから24時間後の窒化率は78%であった。
【0039】
(実施例6)
窒化リチウム粉末の代わりにP2S5(Perimeter Solutions社製、製品名:Normal/S)を4mg用いた以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔を窒素雰囲気のグローブボックス内に配置してから24時間後の窒化率は68%であった。
【0040】
(比較例1)
窒化リチウム粉末を使用しない以外は実施例2と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をグローブボックス内に配置してから96時間後の窒化率は0%であった。
【0041】
(比較例2)
手押しローラーによる金属リチウム箔への窒化リチウム粉末の埋め込みをおこなわない(すなわち窒化リチウム粉末は金属リチウム箔の表面に付着された状態にある)以外は実施例2と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をグローブボックス内に配置してから96時間後の窒化率は0%であった。
【0042】
(比較例3)
窒化リチウム粉末を使用しない以外は実施例4と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔を窒素雰囲気のグローブボックス内に配置してから24時間後の窒化率は0%であった。
【0043】
この出願は、2019年10月2日に出願された日本出願特願2019-182299号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。