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  • 特許-光演算装置及び光演算方法 図1
  • 特許-光演算装置及び光演算方法 図2
  • 特許-光演算装置及び光演算方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光演算装置及び光演算方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20241007BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20241007BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20241007BHJP
   G06N 3/067 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G02F3/00
G02B5/18
G06E3/00
G06N3/067
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023500630
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001049
(87)【国際公開番号】W WO2022176460
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2021024504
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-262516(JP,A)
【文献】特開平03-233433(JP,A)
【文献】特表2011-523538(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0050391(US,A1)
【文献】国際公開第2020/153504(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/186548(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0284489(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 5/18
G02B 5/32
G06E 1/00 - 3/00
G06N 3/00 - 3/12
G06N 7/08 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群と、
前記光回折素子群に入力する信号光であって、複数の画像の各々を表す信号光を生成する発光部と、を備え、
前記光回折素子は複数のマイクロセルにより構成され、
前記マイクロセルで回折された前記信号光が相互に干渉する、
ことを特徴とする光演算装置。
【請求項2】
2台のカメラを更に備え、
前記複数の画像の各々は、前記2台のカメラのうち異なるカメラにより形成された画像である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光演算装置。
【請求項3】
前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像方向の異なる複数の画像である、
ことを特徴とする請求項2に記載の光演算装置。
【請求項4】
前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像倍率の異なる複数の画像である、
ことを特徴とする請求項2に記載の光演算装置。
【請求項5】
前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像波長の異なる複数の画像である、
ことを特徴とする請求項2に記載の光演算装置。
【請求項6】
前記光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された前記複数のマイクロセルにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項7】
光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群を用いた光演算方法であって、
前記光回折素子群に入力する信号光であって、異なる光学系により形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する工程と、
複数のマイクロセルにより構成された前記光回折素子群に前記信号光を入射させる工程と、
前記マイクロセルで回折された前記信号光が相互に干渉する工程と、
を含んでいる、
ことを特徴とする光演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折素子を用いて光演算を行う光演算装置及び光演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した信号光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行するように設計された光回折素子が知られている。光回折素子を用いた光学的な演算には、プロセッサを用いた電気的な演算と比べて高速且つ低消費電力であるという利点がある。特許文献1には、入力層、中間層、及び出力層を有する光ニューラルネットワークが開示されている。上述した光フィルタは、例えば、このような光ニューラルネットワークの中間層として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第7847225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光演算装置においては、単一の画像を表す信号光を光回折素子に入力することによって、光演算を行っていた。このため、単一の画像だけからでは得られない情報、例えば、被写体の三次元情報などを利用した光演算を行うことはできなかった。
【0005】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一の画像だけからでは得られない情報を光演算に利用することが可能な光演算装置及び光演算方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光演算装置は、光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群と、前記光回折素子群に入力する信号光であって、異なる光学系により形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する発光部と、を備えている。
【0007】
本発明の一態様に係る光演算方法は、光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群を用いた光演算方法であって、前記光回折素子群に入力する信号光であって、異なる光学系により形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、単一のカメラにより形成された画像だけからでは得られない情報を光演算に利用することが可能な光演算装置又は光演算方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る光演算装置の構成を示す斜視図である。
図2図1に示す光演算装置が備える光回折素子の構成を示す平面図である。
図3図2に示す光回折素子の一部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔光演算装置の構成〕
本発明の一実施形態に係る光演算装置1について、図1を参照して説明する。図1は、光演算装置1の構成を示す斜視図である。
【0011】
光演算装置1は、図1に示すように、発光部11と、光回折素子群12と、受光部13と、を備えている。
【0012】
発光部11は、信号光を生成するための構成である。発光部11が生成する信号光は、2つのカメラC1,C2により形成された画像の各々を表す信号光である。本実施形態においては、表示面の半分(例えば、右半分、或いは、上半分)にカメラC1により形成された画像を表示し、表示面の残りの半分(例えば、左半分、或いは、下半分)にカメラC2により形成された画像を表示するディスプレイを、発光部11として用いる。以下、発光部11から出力される信号光のことを、「入力信号光」とも記載する。入力信号光が表す2つの画像の具体例については、後述する。
【0013】
光回折素子群12は、入力信号光の光路上に配置されている。光回折素子群12は、n個の光回折素子12a1~12anの集合である。ここで、nは、1以上の自然数である。各光回折素子12aiは、予め定められた光演算を実行するための構成、換言すると、信号光の2次元強度分布を予め定められた変換規則に従って変換するための構成である。ここで、iは、1以上n以下の各自然数である。本実施形態においては、2個の光回折素子12a1,12a2の集合を、光回折素子群12として用いている。光回折素子12aiの構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0014】
光回折素子群12においては、光回折素子12a1~12anが、入力信号光の光路上に一直線に並んで配置されている。このため、入力信号光は、第1の光回折素子12a1、第2の光回折素子12a2、…、第nの光回折素子12anを、この順に通過する。したがって、光回折素子群12においては、入力信号光に対して、第1の光回折素子12a1による第1の光演算、第2の光回折素子12a2による第2の光演算、…、第nの光回折素子12anによる第nの光演算がこの順に実行される。光回折素子群12から出力される信号光の強度分布は、これらの演算の演算結果を表す。以下、光回折素子群12から出力される信号光のことを、「出力信号光」とも記載する。
【0015】
受光部13は、出力信号光の光路上に配置されている。受光部13は、出力信号光を検出するための構成である。本実施形態においては、出力信号光の2次元強度分布を検出するイメージセンサを、受光部13として用いる。
【0016】
〔入力信号光の表す画像の具体例〕
入力信号光の表す2つの画像の第1の具体例は、同一の対象物を被写体として含む2つの画像であって、撮像方向の異なる2つの画像である。撮像方向の差が小さい場合、これら2つの画像は、視差画像(例えば、右目用画像及び左目用画像)を構成する。この場合、2つのカメラC1,C2として、例えば、ステレオカメラを構成する2つのカメラを用いる。撮像方向の差が大きい場合、これら2つの画像は、マルチアングル画像(例えば、正面画像及び側面画像)を構成する。この場合、2つのカメラC1,C2として、例えば、マルチアングルカメラを構成する2つのカメラを用いる。これにより、光回折素子群12においては、単一の画像だけからでは得ることのできない情報、例えば、対象物の三次元情報を利用した光演算を行うことが可能になる。自動運転技術では、障害物(対象物)の三次元情報を参照した自動車の制御が必要になることがある。このため、自動運転技術は、本構成の好適な適用例となる。
【0017】
入力信号光の表す2つの画像の第2の具体例は、同一対象物を被写体として含む2つの画像であって、撮像倍率の異なる2つの画像(例えば、広角画像及び望遠画像)である。この場合、2つのカメラC1,C2として、例えば、広角カメラ及び望遠カメラを用いる。これにより、単一の画像だけからでは得ることのできない情報、例えば、広角画像に含まれる対象物の全体に関する情報と望遠画像に含まれる対象物の細部に関する情報とを利用した光演算を行うことが可能になる。自動検査技術では、検査対象(対象物)の全体に関する情報と検査対象の細部に関する情報とを参照した判定が必要になることがある。このため、自動検査技術は、本構成の好適な適用例となる。
【0018】
入力信号光の表す2つの画像の第3の具体例は、同一対象物を被写体として含む2つの画像であって、撮像波長の異なる2つの画像(例えば、可視光画像及び赤外光画像)である。この場合、2つのカメラC1,C2として、例えば、可視光カメラ及び赤外光カメラを用いる。これにより、単一の画像だけからでは得ることのできない情報、例えば、可視光画像に含まれる対象物の形状に関する情報と赤外光画像に含まれる対象物の温度に関する情報を利用した光演算を行うことが可能になる。レーザ加工プロセス監視技術では、加工対象(対象物)の形状に関する情報と温度に関する情報を参照した判定が必要になることがある。このため、レーザ加工プロセス監視技術は、本構成の好適な適用例となる。
【0019】
〔光回折素子の構成〕
光回折素子12aiの構成について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、光回折素子12aiの構成を示す平面図である。図3は、光回折素子12aiの一部(図2において点線で囲んだ部分)を拡大した斜視図である。
【0020】
光回折素子12aiは、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成されている。光回折素子12aiに信号光が入射すると、各マイクロセルにて回折された位相の異なる信号光が相互に干渉することによって、予め定められた光演算(予め定められた変換規則に従う2次元強度分布の変換)が行われる。なお、本明細書において、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、本明細書において、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、例えば、1nmである。
【0021】
図2に例示した光回折素子12aiは、マトリックス状に配置された200×200個のマイクロセルにより構成されている。各マイクロセルの平面視形状は、500nm×500nmの正方形であり、光回折素子12aiの平面視形状は、100μm×100μmの正方形である。
【0022】
(1)マイクロセルの厚みをセル毎に独立に設定することによって、又は、(2)マイクロセルの屈折率をセル毎に独立に選択することによって、マイクロセルを透過する光の位相変化量をセル毎に独立に設定することができる。本実施形態においては、ナノインプリントにより実現可能な(1)の方法を採用している。この場合、各マイクロセルは、図3に示すように、各辺の長さがセルサイズと等しい正方形の底面を有する四角柱状のピラーにより構成される。この場合、マイクロセルを透過する光の位相変化量は、このピラーの高さに応じて決まる。すなわち、高さの高いピラーにより構成されるマイクロセルを透過する光の位相変化量は大きくなり、高さの低いピラーにより構成されるマイクロセルを透過する光の位相変化量は小さくなる。
【0023】
なお、各マイクロセルの厚み又は屈折率の設定は、例えば、機械学習を用いて実現することができる。この機械学習において用いられるモデルとしては、例えば、光回折素子12aiに入力される信号光の2次元強度分布を入力とし、光回折素子12aiから出力される信号光の2次元強度分布を出力とするモデルであって、各マイクロセルの厚み又は屈折率をパラメータとして含むモデルを用いることができる。ここで、光回折素子12aiに入力される信号光の2次元強度分布とは、光回折素子12aiを構成する各マイクロセルに入力される信号光の強度の集合のことを指す。また、光回折素子12aiから出力される信号光の2次元強度分布とは、光回折素子12aiの後段に配置された光回折素子12ai+1を構成する各マイクロセルに入力される信号光の強度の集合、又は、光回折素子12aiの後段に配置された受光部13を構成する各マイクロセルに入力される信号光の強度の集合のことを指す。
【0024】
〔光演算装置の変形例〕
本実施形態においては、入力信号光として、2つの画像を表す入力信号光を用いる構成を採用しているが、本発明は、これに限定されない。すなわち、入力信号光として、3つ以上の画像を表す入力信号光を用いる構成を採用してもよい。
【0025】
また、本実施形態においては、画像を形成するための光学系としてカメラを用いる構成を採用しているが、本発明は、これに限定されない。すなわち、画像を形成するための光学系としてカメラ以外の光学系を用いてもよい。この場合、発光部11は、対象物からの光を光回折素子群12に導く複数の光学系に構成されることになる。例えば、発光部11は、対象物から第1の方向に発せられた光を光回折素子群12に導く第1の光学系(例えば、レンズやミラーなどを含む)と、対象物から第2の方向に発せられた光を光回折素子群12に導く第2の光学系(例えば、レンズやミラーなどを含む)とにより構成することができる。
【0026】
(まとめ)
本発明の態様1に係る光演算装置は、光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群と、前記光回折素子群に入力する信号光であって、異なる光学系により形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する発光部と、を備えている。
【0027】
上記の構成によれば、単一の画像だけからでは得られない情報を光演算に利用することが可能になる。
【0028】
本発明の態様2に係る光演算装置においては、態様1に係る光演算装置の構成に加えて、前記発光部は、異なるカメラにより形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する、という構成が採用されている。
【0029】
上記の構成によれば、単一のカメラにより形成された画像だけからでは得られない情報を光演算に利用することが可能になる。
【0030】
本発明の態様3に係る光演算装置においては、態様2に係る光演算装置の構成に加えて、前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像方向の異なる複数の画像である、という構成が採用されている。
【0031】
上記の構成によれば、対象物の三次元情報を光演算に利用することが可能になる。
【0032】
本発明の態様4に係る光演算装置においては、態様2に係る光演算装置の構成に加えて、前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像倍率の異なる複数の画像である、という構成が採用されている。
【0033】
上記の構成によれば、例えば、対象物の全体に関する情報と対象物の細部に関する情報とを光演算に利用することが可能になる。
【0034】
本発明の態様5に係る光演算装置においては、態様2に係る光演算装置の構成に加えて、前記複数の画像は、同一の対象物を被写体として含む画像であって、撮像波長の異なる複数の画像である、という構成が採用されている。
【0035】
上記の構成によれば、例えば、対象物の外観に関する情報と対象物の温度に関する情報とを光演算に利用することが可能になる。
【0036】
本発明の態様6に係る光演算装置においては、態様1~5の何れか一態様の構成に加えて、前記光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成されている、という構成が採用されている。
【0037】
上記の構成によれば、ナノインプリント技術等を用いて光回折素子を容易に製造することができる。
【0038】
本発明の態様7に係る光演算方法は、光演算機能を有する少なくとも1つの光回折素子からなる光回折素子群を用いた光演算方法であって、前記光回折素子群に入力する信号光であって、異なる光学系により形成された複数の画像の各々を表す信号光を生成する工程を含んでいる。
【0039】
上記の構成によれば、単一のカメラにより形成された画像だけからでは得られない情報を光演算に利用することが可能になる。
【0040】
〔付記事項〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 光演算装置
11 発光部
12 光回折素子群
12a1,12a2 光回折素子
13 受光部
C1,C2 カメラ
図1
図2
図3