(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電気化学素子用分離膜及びそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20241007BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241007BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20241007BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20241007BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241007BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20241007BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20241007BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/434
H01M50/414
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/489
H01M50/403 D
H01M50/443 Z
(21)【出願番号】P 2023505757
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 KR2021012641
(87)【国際公開番号】W WO2022060110
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0120881
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ダ-キュン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ソ-ミ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ミン-ジ・キム
【審査官】吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/055882(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0034470(KR,A)
【文献】特開2011-054503(JP,A)
【文献】特開2017-123330(JP,A)
【文献】特開2015-191886(JP,A)
【文献】特表2014-510388(JP,A)
【文献】特開2014-160665(JP,A)
【文献】特表2018-530860(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0036648(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103390741(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40 - 50/497
H01M 10/058 - 10/0587
H01G 11/00 - 11/86
B32B 27/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用分離膜であり、
前記分離膜は、多孔性の高分子フィルム基材及び前記基材の少なくとも一面に形成された無機コーティング層を含み、
前記無機コーティング層は、無機物粒子及びバインダー高分子を含み、
前記無機物粒子は、無機物粒子表面の少なくとも一部がカップリング化合物でコーティングされた複合粒子を含み、
前記カップリング化合物は、無機物粒子とバインダー
高分子とをそれぞれ結合することができる官能基が導入されており、前記官能基は、アルキル基、アルコキシ基、エステル基の中から選択された1種以上を含み、
前記バインダー高分子は、ガラス転移温度(Tg)が60℃以下である非晶性高分子及び/または部分結晶性高分子を含
み、
前記バインダー高分子は、下記化学式1で表される化合物の1種以上であるか、または、
前記バインダー高分子は、下記化学式1で表される化合物の1種以上と、結晶性バインダー高分子とを含み、前記結晶性バインダー高分子は、バインダー高分子100重量%に対して、30重量%以下の範囲で含まれており、
【化1】
ここで、Rは、それぞれ独立して、-H、-OR
4
、-C(=O)-R
4
、-C(=O)O-R
4
、-OC(=O)-R
4
または-C(=O)NH-R
4
であり、前記R
4
は、それぞれ独立して、水素または置換または非置換のC1~C5アルキル基であり、前記mは、1以上の整数であり、前記nは、0または1以上の整数である、
電気化学素子用分離膜。
【請求項2】
前記バインダー高分子は、ポリ酢酸ビニル(PVAc)及びエチレン酢酸ビニル共重合体の中から選択された1種以上を含む、請求項
1に記載の電気化学素子用分離膜。
【請求項3】
前記バインダー高分子は、重量平均分子量(Mw)が60万以下である、請求項1
または2に記載の電気化学素子用分離膜。
【請求項4】
前記カップリング化合物は、シラン系化合物及び/またはチタネート系化合物を含む、請求項1から
3の何れか一項に記載の電気化学素子用分離膜。
【請求項5】
前記無機コーティング層は、前記バインダー高分子と無機物粒子との総量100重量%に対して、前記無機物粒子が50重量%以上の比率で含まれ、無機粒子間のインタースティシャルボリュームによる多孔性構造を有する、請求項1から
4の何れか一項に記載の電気化学素子用分離膜。
【請求項6】
前記無機コーティング層は、表層部にバインダー高分子が他の部分に比べて高濃度で分布する電極接着部を含む、請求項1から
5の何れか一項に記載の電気化学素子用分離膜。
【請求項7】
請求項1から
6の何れか一項に記載の分離膜を製造する方法であり、
前記方法は、
溶媒とバインダー高分子とを投入して高分子溶液を製造する段階と、
前記高分子溶液に無機物粒子を投入して無機コーティング層形成用スラリーを準備する段階と、
前記スラリーを多孔性の高分子フィルム基材の表面に塗布し、加湿条件下で乾燥して加湿相分離工程を行う段階と、を含み、
前記加湿相分離工程によって無機コーティング層表面部にバインダー
高分子の含量が高い電極接着部が形成される、電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記無機物粒子は、カップリング化合物でコーティングされたものである複合粒子を含む、請求項
7に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年9月18日付の韓国特許出願第10-2020-0120881号に基づいた優先権を主張する。
【0002】
本発明は、電気化学素子用分離膜及びそれを製造する方法に係り、より詳細には、無機物粒子を含み、電極との結着力が改善された電気化学素子用分離膜及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、リチウムイオン二次電池は、ノート型パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、カムコーダなどの携帯用電子機器の電源として広く使われている。また、これらのリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有するという特徴から電気自動車など運送手段にも適用されている。
【0004】
携帯用電子機器の小型化・軽量化に伴って、非水系二次電池の外装の簡素化が行われている。当初は、外装としてステンレス製の電池缶が使われていたが、アルミニウム缶製の外装が開発されて、さらに、現在では、アルミニウムラミネートパック製のソフトパック外装も開発されている。アルミニウムラミネート製のソフトパック外装の場合、外装が柔軟であるために、充放電に伴って電極と分離膜との間に隙間が形成される場合があって、サイクル寿命が悪くなるという技術的課題がある。この課題を解決するという観点から、電極と分離膜とを接着する技術が重要であり、多くの技術的提案が行われている。
【0005】
通常、電気化学素子用分離膜は、多孔性の高分子フィルム(分離膜基材)及び前記分離膜基材の少なくとも一側表面に形成された無機コーティング層を含む構造を有している。前記無機コーティング層は、無機物粒子とバインダー高分子とを含むものであって、分離膜基材の耐久性(破膜防止など)や耐熱安定性(熱収縮防止など)のために導入されたものである。このような分離膜のバインダー高分子としてPVdF(Polyvinylidene fluoride)系樹脂が主に使われており、加湿相分離方法を通じて分離膜表面にバインダー樹脂をマイグレーションさせることにより、無機コーティング層の表面付近にバインダー樹脂の含量が高い接着性表層部が形成される。しかし、PVdF系樹脂は、樹脂自体の接着力は高くなくて、高いレベルの結着力を確保することは難しい。接着力改善のために、バインダー高分子の含量を高めるか、コーティング量を高めうるが、これにより、接着層の厚さが厚くなって、エネルギー密度が低くなり、抵抗が増加して望ましくない。分離膜の接着層は、薄い厚さであっても、高い接着力と高いイオン伝導度とをいずれも果たすことができなければならず、電池を長時間安定して使用するためには、分離膜が化学的、電気化学的に安定した物質ではなければならず、分離膜の製造工程は、生産性が良くて、低いコストで量産が可能でなければならない。これにより、前記のような要求条件を満足する二次電池用分離膜の開発に対する要請が高まりつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電極との結着力が向上した無機コーティング層を含む分離膜を提供することを目的とする。また、前記特性を有する分離膜を製造する方法を本発明のさらに他の目的とする。本発明の他の目的及び長所は、特許請求の範囲に記載の手段または方法及びその組み合わせによって実現可能であるということは容易に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面は、電気化学素子用分離膜に係るものであり、前記分離膜は、多孔性の高分子フィルム基材及び前記基材の少なくとも一面に形成された無機コーティング層を含み、前記無機コーティング層は、無機物粒子及びバインダー高分子を含み、本発明において、前記無機物粒子は、無機物粒子表面の少なくとも一部がカップリング化合物でコーティングされた複合粒子を含み、前記カップリング化合物は、無機物粒子とバインダー樹脂とをそれぞれ結合することができる官能基が導入されており、前記官能基は、アルキル基、アルコキシ基、エステル基の中から選択された1種以上を含み、前記バインダー高分子は、ガラス転移温度(Tg)が60℃以下である非晶性高分子及び/または部分結晶性高分子を含むものである。
【0008】
本発明の第2側面は、前記第1側面において、前記バインダー高分子は、下記化学式1で表される化合物を1種以上含むものであり、
【化1】
前記化学式1において、Rは、それぞれ独立して、-H、-OR
4、-C(=O)-R
4、-C(=O)O-R
4、-OC(=O)-R
4または-C(=O)NH-R
4であり、前記R
4は、それぞれ独立して、水素または置換または非置換のC1~C5アルキル基であり、前記mは、1以上の整数であり、前記nは、0または1以上の整数である。
【0009】
本発明の第3側面は、前記第2側面において、前記バインダー高分子は、ポリ酢酸ビニル(Polyvinylacetate、PVAc)及びエチレン酢酸ビニル共重合体(polyethylene-co-vinyl acetate)の中から選択された1種以上を含むものである。
【0010】
本発明の第4側面は、前記第1ないし第3側面のうち何れか1つにおいて、前記バインダー高分子は、重量平均分子量(Mw)が60万以下である。
【0011】
本発明の第5側面は、前記第1ないし第4側面のうち何れか1つにおいて、前記カップリング化合物は、シラン系化合物及び/またはチタネート系化合物を含むものである。
【0012】
本発明の第6側面は、前記第1ないし第5側面のうち何れか1つにおいて、前記無機コーティング層は、前記バインダー高分子と無機物粒子との総量100重量%に対して、前記無機物粒子が50重量%以上の比率で含まれ、無機粒子間のインタースティシャルボリュームによる多孔性構造を有するものである。
【0013】
本発明の第7側面は、前記第1ないし第6側面のうち何れか1つにおいて、前記無機コーティング層は、表層部にバインダー高分子が他の部分に比べて高濃度で分布する電極接着部を含むものである。
【0014】
本発明の第8側面は、前記第1ないし第7側面のうち何れか1つにおいて、前記バインダー高分子は、結晶性バインダー樹脂をさらに含むものである。
【0015】
本発明の第9側面は、前記第1ないし第8側面のうち何れか一側面による分離膜を製造する方法であり、前記方法は、溶媒とバインダー高分子とを投入して高分子溶液を製造する段階;前記高分子溶液に無機物粒子を投入して無機コーティング層形成用スラリーを準備する段階;及び前記スラリーを多孔性の高分子フィルム基材の表面に塗布し、加湿条件下で乾燥して加湿相分離工程を行う段階;を含み、前記加湿相分離工程によって無機コーティング層表面部にバインダー樹脂の含量が高い電極接着部が形成されるものである。
【0016】
本発明の第10側面は、前記第9側面において、前記無機物粒子は、カップリング化合物でコーティングされたものである複合粒子を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明による分離膜は、無機コーティング層のバインダー高分子としてPVAc及びEVAのような部分結晶性及び/または非晶性高分子が含まれており、無機物粒子の表面がカップリング剤でコーティングされており、無機コーティング層のうち、無機物粒子の脱離が防止される。また、前記分離膜の製造時に、加湿条件下で相分離が促進されて分離膜の表面にバインダー高分子が多量分布する接着部が備えられて、電極との結着力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施例を例示したものであり、前述した発明の内容と共に本発明の技術思想をさらによく理解させる役割を行うものなので、本発明は、そのような図面に記載の事項のみに限定されて解釈されるものではない。一方、本明細書に収録された図面での要素の形状、サイズ、縮尺または比率などは、より明確な説明を強調するために誇張される。
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による分離膜の断面構造を図式化して示した図面である。
【
図2】実施例の複合粒子1のIR測定結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例1を通じて収得された分離膜の表面を示すイメージである。
【
図4】本発明の比較例9を通じて収得された分離膜の表面を示すイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。これに先立って、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語または単語は、通常の、または辞書的な意味として限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則を踏まえて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。したがって、本明細書に記載の実施例と図面とに示された構成は、本発明の最も望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をいずれも代弁するものではないので、本出願時点において、これらを代替しうる多様な均等物と変形例とがあるということを理解しなければならない。
【0021】
本願の明細書の全体において、ある部分が、ある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対される記載のない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含みうることを意味する。
【0022】
また、本願の明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有な製造及び物質許容誤差が提示される時、その数値で、またはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確であるか、絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0023】
本願の明細書の全体において、「A及び/またはB」の記載は、「AまたはBまたはこれらの全部」を意味する。
【0024】
繋がる発明の詳細な説明で使われた特定の用語は、便宜のためのものであり、制限的なものではない。「右」、「左」、「上面」及び「下面」の単語は、参照がなされた図面での方向を示す。「内側に」及び「外側に」の単語は、それぞれ指定された装置、システム及びその部材の幾何学的中心に向かうか、それから遠ざかる方向を示す。「前側」、「後側」、「上方」、「下方」及びその関連単語及び語句は、参照がなされた図面での位置及び方位を示し、制限的であってはならない。このような用語は、前記で列挙された単語、その派生語及び類似した意味の単語を含む。
【0025】
一方、本明細書において、特別な表示がない限り、含量比は、重量を基準とする。
【0026】
本発明は、電気化学素子用分離膜及びそれを製造する方法に係わるものである。本発明において、前記電気化学素子は、電気化学的反応によって化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換させる装置であって、一次電池と二次電池(Secondary Battery)とを含む概念であり、前記二次電池は、充電と放電とが可能なものであって、リチウムイオン電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などを包括する概念である。
【0027】
1.分離膜
1)分離膜の構造
本発明による分離膜100は、多孔性高分子基材110及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一側表面上に形成された無機コーティング層120を含む。前記無機コーティング層は、無機物粒子及びバインダー高分子を含む。
【0028】
本発明において、前記バインダー高分子は、非晶性及び/または部分結晶性高分子を含む。また、本発明において、前記無機物粒子は、表面の少なくとも一部または全部がカップリング化合物でコーティングされているものである。また、前記無機コーティング層は、無機物粒子の間の空間(インタースティシャルボリューム)による多孔性構造を有しうる。また、本発明の一実施形態において、前記無機コーティング層は、表層部分に所定の厚さでバインダー高分子の含量が高い接着部が設けられ、これにより、電極との結着力が高い。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記分離膜は、厚さが5~30μmであり、前記範囲内で適切に調節される。例えば、10μm以上または25μm以下である。また、前記分離膜は、通気度が約50~3000sec/100ccの範囲である。
【0030】
本明細書で使われる用語「通気度(permeability)」は、分離膜及び多孔性高分子基材など通気度の測定対象物に対して100ccの空気が透過する時間を意味し、その単位として秒(second)/100ccを使用することができ、透過度と互いに交換して使用することができ、通常、ガーレー(Gurley)値などで表される。本発明の具体的な一実施形態において、前記通気度は、JIS P8117に準拠して測定される。
【0031】
一方、本発明において、気孔度と気孔とのサイズは、窒素などの吸着ガスを用いてBEL JAPAN社のBELSORP(BET装備)を用いて測定するか、水銀圧入法(Mercury intrusion porosimetry)またはキャピラリー流れ測定方法(capillary flow porosimetry)のような方法で測定される。または、本発明の一実施形態において、収得された無機コーティング層の厚さと重量とを測定して、それと無機コーティング層の理論密度から気孔度を計算することができる。
【0032】
2)多孔性高分子基材
前記多孔性高分子基材は、負極と正極との間の電気的接触を遮断しながらイオンを通過させるイオン導電性バリア(porous ion-conducting barrier)で内部に複数の気孔が形成された基材を意味する。前記気孔は、相互間に互いに連結された構造からなっており、基材の一面から他面にガスまたは液体が通過可能なものである。
【0033】
このような多孔性高分子基材を構成する材料は、電気絶縁性を有する有機材料あるいは無機材料のうち如何なるものも使用することができる。特に、基材にシャットダウン機能を付与する観点では、基材の構成材料として熱可塑性樹脂を使用することが望ましい。ここで、シャットダウン機能とは、電池温度が高くなった場合に、熱可塑性樹脂が溶解して多孔質基材の穴を閉鎖することにより、イオンの移動を遮断して、電池の熱暴走を防止する機能を言う。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、特に、ポリオレフィンが望ましい。
【0034】
また、それ以外にも、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレンのような高分子樹脂のうち少なくとも何れか1つをさらに含みうる。前記多孔性高分子基材には、不織布または多孔性高分子フィルムまたはそのうち2つ以上の積層物などがあるが、特に、これに限定されるものではない。
【0035】
具体的に、前記多孔性高分子基材は、下記のa)ないしe)のうち何れか1つである。
【0036】
a)高分子樹脂を溶融/押出して成膜した多孔性フィルム、
b)前記a)の多孔性フィルムが2層以上積層された多層膜、
c)高分子樹脂を溶融/紡糸して得たフィラメントを集積して製造された不織布ウェブ、
d)前記b)の不織布ウェブが2層以上積層された多層膜、
e)前記a)ないしd)のうち2つ以上を含む多層構造の多孔性複合膜。
【0037】
本発明において、前記多孔性高分子基材は、厚さが3~12μmまたは5~12μmであることが望ましい。その厚さが前記数値に及ばない場合には、導電性バリアの機能が十分でなく、一方、前記範囲を過度に超過する場合(すなわち、過度に厚ければ)、分離膜の抵抗が過度に増加する。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記ポリオレフィンの重量平均分子量は、10万(g/mol)~500万であることが望ましい。重量平均分子量が10万よりも小さければ、十分な力学物性を確保することが困難になる場合がある。また、500万よりも大きくなれば、シャットダウン特性が悪くなる場合や、成形が困難になる場合がある。
【0039】
本願の明細書において、用語分子量は、重量平均分子量(Mw)を言う。その単位としてはg/molを使用することができる。また、このような分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography、PL GPC220、Agilent Technologies)を用いて測定することができる。
【0040】
また、前記多孔性高分子基材の突刺強度は、製造収率を向上させる観点から、300gf以上である。多孔質基材の突刺強度は、Kato tech KES-G5ハンディ圧縮試験機を用いて針先端の曲律半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行って測定する最大突刺荷重(gf)を指す。
【0041】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性高分子基材は、電気化学素子に使われる平面状の多孔性高分子基材であれば、いずれも使用が可能であり、例えば、高いイオン透過度と機械的強度とを有し、気孔直径は、一般的に、10~100nmであり、厚さは、一般的に、5~12μmである絶縁性薄膜が使われる。
【0042】
3)無機コーティング層
本発明において、前記分離膜は、前記多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に形成された無機コーティング層を含む。前記無機コーティング層は、バインダー高分子及び無機物粒子を含む混合物を含む。前記無機コーティング層は、層内部に無機物粒子が互いに結着された状態を保持できるようにバインダーによって互いに付着(すなわち、バインダー高分子が無機物粒子の間を連結及び固定)されている。一実施形態において、前記無機物粒子は、互いに密集された状態で充填されており、無機物粒子間の形成されたインタースティシャルボリュームで起因した多数の微細気孔を有しうる。これらの微細気孔が互いに連結された構造からなっており、一側の面から他側の面にガスあるいは液体が通過可能な多孔性構造を示す。本発明の一実施形態において、前記無機物粒子は、バインダー高分子によって表面の全部または少なくとも一部がコーティングされており、前記バインダー高分子を介して粒子相互間で面結着及び/または点結着されている。本発明の一実施形態において、前記無機物粒子は、バインダー高分子と無機物粒子との総量100重量%に対して、50重量%以上の比率で無機コーティング層に含まれ、望ましくは、無機物粒子は、60重量%以上または70重量%または80重量%以上含まれる。また、前記範囲内で95重量%以下または90重量%以下で含まれる。
【0043】
前記無機コーティング層の厚さは、多孔性高分子基材の片面で1~5μmの厚さを有することが望ましい。前記厚さは、望ましくは、3μm以上とすることができ、前記数値範囲内で電極との接着力に優れ、その結果、電池のセル強度が増加する。一方、前記厚さが4μm以下であれば、電池のサイクル特性及び抵抗特性の側面において有利である。
【0044】
一方、本発明において、前記無機コーティング層には、後述する製造方法的な特性から表面部にバインダー高分子の含量が高い電極接着部121が備えられる。
図1は、本発明の一実施形態による分離膜100の断面構造を図式化して示したものである。これを参照すれば、本発明の分離膜は、多孔性高分子基材110の表面に無機コーティング層120が形成され、前記無機コーティング層の表層部には、バインダー高分子が他の部分に比べて高濃度で分布する。本明細書において、説明の便宜上、バインダー高分子が高濃度で分布された表層部部分を「電極接着部121」と称する。本発明の一実施形態において、前記電極接着部は、加湿相分離のような製造方法によってバインダー高分子が表層部にマイグレーションされた結果によるものである。したがって、前記電極接着部は、無機コーティング層と物理的に分離される構造ではなく、無機コーティング層の一部として無機コーティング層の表面に一体不可分的に結合されており、前記電極接着部の厚さは不均一である。
【0045】
B.無機コーティング層の素材
B1.バインダー高分子
本発明の一実施形態において、前記バインダー高分子は、部分結晶性高分子(semi-crystalline polymer)、非晶性高分子(amorphous-crystalline polymer)またはこれらの混合物を含む。本発明の一実施形態において、電極と分離膜との接着力の改善の側面を考慮した時、前記部分結晶性高分子は、結晶化度が60%以下である。前記バインダー高分子は、具体的に、下記化学式1のように表示される化合物のうち1種または2種以上を含みうる。
【0046】
【0047】
前記化学式1において、Rは、それぞれ独立して、-H、-OR4、-C(=O)-R4、-C(=O)O-R4、-OC(=O)-R4または-C(=O)NH-R4である。また、前記R4は、それぞれ独立して、水素または置換または非置換のC1~C5アルキル基である。前記mは、1以上の整数であり、前記nは、0または1以上の整数である。本発明の一実施形態において、前記化学式1の化合物は、ポリ酢酸ビニル(PVAc)及びエチレン酢酸ビニル共重合体の中から選択された1種以上を含みうる。
【0048】
本発明の一実施形態において、前記結晶化度は、DSCから実測された溶融エンタルピー(△H)値を理論上、完全結晶(結晶化度100%)の溶融エンタルピー(△H)の値で割って%と表示する。ここで、理論的な完全結晶の溶融エンタルピー値は、知られた高分子においては、ポリマーハンドブック(polymer handbook)で探して使用することができ、知られていない物質や新たに合成された物質は、2点以上の結晶化度を延長させて求める外挿法によって計算することができる。
【0049】
本発明の一実施形態において、前記バインダー高分子は、ガラス転移温度が60℃以下、望ましくは、30~50℃であることが望ましい。バインダー高分子が前記範囲を満足する場合、分離膜と電極との間の接着力が改善される効果があり、例えば、300gf/25mm(60℃、6.5MPa)以上の電極-分離膜の結着力を確保することができる。本発明において、前記結着力は、バインダー高分子を5wt%の濃度でアセトンに溶解した後、23℃、相対湿度45%の条件で高分子フィルム基材にコーティングした後、収得された結果物を電極と60℃、6.5MPaの条件で接着させた後、剥離力を測定した結果を基にしたものである。
【0050】
一方、本発明の一実施形態において、前記バインダー高分子は、重量平均分子量(Mw)が60万以下であることが望ましい。もし、分子量(Mw)が前記範囲を超過する場合には、十分な電極接着力の確保が難しい。
【0051】
本願の明細書において、用語分子量は、重量平均分子量(Mw)を指す。その単位としてはg/molを使用することができる。また、このような分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、PL GPC220、Agilent Technologies)を用いて測定することができる。
【0052】
一方、本発明の一実施形態において、前記バインダー高分子は、追加的にポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデントリフルオロエチレン(TrFE)、ポリフッ化ビニリデンクロロフルオロエチレン(CTFE)、ポリフッ化ビニリデン1,2-ジフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン(TFE)のようなフッ素系バインダー高分子をさらに含みうる。また、それ以外にも、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリブチルアクリレート(polybutylacrylate)、ポリブチルメタクリレート(polybutylmethacrylate)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)、ポリアリレート(polyarylate)、酢酸セルロース(cellulose acetate)、酢酸酪酸セルロース(cellulose acetate butyrate)、アセチルプロピオニルセルロース(cellulose acetate propionate)、シアノエチルプルラン(cyanoethylpullulan)、シアノエチルポリビニルアルコール(cyanoethylpolyvinylalcohol)、シアノエチルセルロース(cyanoethylcellulose)、シアノエチルスクロース(cyanoethylsucrose)、プルラン(pullulan)及びカルボキシメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose)などを追加的にさらに含みうる。このような追加的なバインダー高分子は、前記例のうち、1種または2種以上が投入される。また、前記追加的なバインダー高分子の含量は、接着力を考慮して適切に調節され、例えば、バインダー高分子100wt%に対して、30wt%以下の範囲で含まれる。
【0053】
また、本発明の一実施形態において、前記無機コーティング層は、無機コーティング層100重量%に対して、1~3重量%の範囲で分散剤及び/または増粘剤のような添加剤をさらに含みうる。本発明の一実施形態において、前記添加剤は、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrolidone、PVP)、ポリビニルアルコール(Polybinylalcohol、PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxy ethyl cellulose、HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxy propyl cellulose、HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(ethylhydroxy ethyl cellulose、EHEC)、メチルセルロース(methyl cellulose、MC)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)、ヒドロキシアルキルメチルセルロース(hydroxyalkyl methyl cellulose)、シアノエチルポリビニルアルコールのうち、適切なものを1つ以上選択して使用することができる。
【0054】
B2.無機物粒子
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子は、電気化学的に安定すれば、特に制限されるものではない。すなわち、本発明で使用することができる無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li+基準に0~5V)で酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限されるものではない。特に、無機物粒子として誘電率が高い無機物粒子を使用する場合、液体電解質内の電解質塩、例えば、リチウム塩の解離度の増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させうる。
【0055】
前述した理由によって、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上、望ましくは、10以上である高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電率定数が5以上である無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO3、Pb(Zr、Ti)O3(PZT)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、SiO2、Y2O3、Al2O3、Al(OH)3、AlOOH、SiC及びTiO2またはこれらの混合体などがある。
【0056】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、すなわち、リチウム元素を含有するが、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使用することができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムチタン(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li2O-9Al2O3-38TiO2-39P2O5のような(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、チタン酸リチウムランタン(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、Li3.25Ge0.25P0.75S4のようなチオリン酸リチウムゲルマニウム(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li3Nのような亜硝酸リチウム(LixNy、0<x<4、0<y<2)、Li3PO4-Li2S-SiS2のようなSiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI-Li2S-P2S5のようなP2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などがある。
【0057】
一方、本発明の一実施形態において、前記無機物粒子は、表面がカップリング化合物で被覆されている複合粒子を含みうる。前記複合粒子は、カップリング化合物で表面の少なくとも一部または全部が被覆されている。本明細書において、前記被覆は、カップリング剤が化学的、物理的、電気化学的などの方法で無機物粒子の表面に結合または付着されていることを意味する。
【0058】
本発明の具体的な一実施形態において、前記カップリング剤は、アルキル基、アルコキシ基またはエステル(ester)基のうち少なくとも1種以上の官能基を有するものであって、例えば、シリン系カップリング剤、脂肪酸、チタネート系カップリング剤などがあり、そのうち、1種または2種以上が使われる。
【0059】
一方、前記カップリング剤がアルキル基を含む場合には、炭素数が8以下であることが望ましい。前記炭素数が8を超過する場合には、極性度が高いアセトンなどケトン系溶媒に対する分散性が低くて、無機コーティング層形成用スラリーの製造に不利な側面がある。
【0060】
前記シラン系カップリング剤は、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、アルキル基、イソシアヌレート基、及びイソシアネート基からなる群から選択された2種以上の官能基を含みうる。このようなシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカブトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカブトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、そのうち、1種または2種以上の混合物が使われる。
【0061】
前記脂肪酸は、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられ、そのうち、1種または2種以上の混合物が使われる。
【0062】
前記チタネート系カップリング剤は、モノアルコキシチタネート、ネオアルコキシチタネート、イソプロピルトリジオクチルホスフェートチタネート、イソプロピルトリジオクチルピロホスフェートチタネート、オレイルチタネート、イソプロピルトリオレイルチタネート、イソプロピルトリステアリルチタネート、及びイソプロピルトリイソステアリルチタネートなどが挙げられる。例えば、トリブトキシチタンステアレート、イソプロポキシチタントリイソステアレート、モノ-i-プロポキシチタントリ-i-ステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネートなどのチタンアルコキシド;ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミネート)チタン、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、チタンジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)などのチタンキレート;などが挙げられ、そのうち、1種または2種以上の混合物が含まれる。
【0063】
一方、前記無機物粒子の平均粒径は、特別な制限がないが、均一な厚さの無機コーティング層の形成及び適切な空隙率のために、0.1~1.5μmの範囲であることが望ましい。0.1μm未満である場合、分散性が低下し、1.5μmを超過する場合、形成される無機コーティング層の厚さが増加する。
【0064】
2.無機コーティング層の製造方法
本発明の一側面による分離膜の製造方法は、無機物粒子、バインダー高分子及び溶媒を含む無機コーティング層用スラリーを準備する段階;及び前記スラリーを分離膜基材の少なくとも一面上に塗布または乾燥する段階;を含む。また、ここで、前記乾燥段階は、加湿条件下で行われる。または、前記乾燥段階は、前記スラリーが塗布された多孔性基材をバインダー高分子に対する非溶媒、例えば、加湿条件でバインダー樹脂を固化及び分離膜表面にマイグレーションさせる方法で行われる。
【0065】
まず、準備されたバインダー高分子を溶媒に溶解して、高分子バインダー溶液を準備する。その後、無機物粒子及び溶媒を含む混合物に前記高分子バインダー溶液を投入し、混合して無機コーティング層形成用スラリーを準備する。前記無機物粒子は、あらかじめ所定の平均粒径を有するように破砕された状態で添加される。または、無機物粒子が投入された後、ボールミル法などを用いて所定の平均粒径を有するように制御しながら破砕して分散させることができる。前記混合物及び/またはスラリーには、必要に応じて分散剤のような補助剤がさらに投入される。
【0066】
次いで、それを多孔性高分子基材上に塗布し、加湿条件下で所定時間静置してバインダー高分子を固化(乾燥)させる。
【0067】
このような加湿条件でバインダー高分子が固化されながら、前記スラリーのうち、バインダー高分子の相分離が誘発される。本発明の一実施形態において、前記加湿条件は、相対湿度約30~70%の条件である。このような相分離の過程で溶媒が無機コーティング層の表面部に移動し、溶媒の移動に従ってバインダー高分子が無機コーティング層の表面部に移動しながら、表層部にバインダー高分子の含量が高い電極接着部が形成されて、電極と分離膜との間の高い接着力が発揮される。
【0068】
前記溶媒は、使われるバインダー高分子を溶解することができる成分を使用することができる。このような溶媒としては、ケトン系溶媒を使用することが望ましい。本発明の一実施形態において、前記溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの極性アミド溶媒を適切に選択して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
一方、前述したように、前記無機物粒子は、表面がカップリング剤でコーティングされた複合粒子を含みうる。前記複合粒子は、カップリング剤が分散された溶液を無機物粒子表面に噴射してカップリング剤で無機物粒子表面をコーティングするスプレーコーティング方法で準備しうる。または、無機物粒子を水など適切な溶媒に分散させておいた後、カップリング剤を投入し、撹拌させながら無機物粒子表面にカップリング剤をコーティングさせうる。前記カップリング剤で無機物粒子をコーティングするか、被覆する方法は、特に何れか1つの方法で限定されるものではなく、スプレーコーティング方法など公知の被覆方法を使用することができる。
【0070】
一方、前記スラリーの塗布は、特に限定されず、例えば、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなどの従来の塗工方式を適用することができる。前記無機コーティング層を分離膜の両面に形成する場合、塗工液を片面ずつ塗工してから加湿相分離及び乾燥することも可能であるが、塗工液を両面同時に多孔質基材上に塗工してから加湿相分離及び乾燥する方が、生産性の観点から望ましい。
【0071】
3.前記分離膜を含む電極組立体
一方、本発明は、前記分離膜を含む二次電池を提供する。前記電池は、負極、正極及び前記負極と正極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜は、前述した特徴を備えた分離膜である。
【0072】
本発明において、正極は、正極集電体及び前記集電体の少なくとも一側表面に正極活物質、導電材及びバインダー高分子を含む正極活物質層を備える。前記正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4、LiMnO2など)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などの層状化合物や1またはそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式LixMnyNizCo(1-y-z)O2(xは、0.5~2、x+y+z=1)、化学式Li1+xMn2-xO4(ここで、xは、0~0.33である)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiV3O4、V2O5、Cu2V2O7などのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-xMxO2(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B及びGaから選択された1種または2種以上であり、x=0.01~0.3である)で表現されるリチウムニッケル酸化物;化学式LiaNixCoyMnzO2(0<a<1.5、0<[x、y、z]<1、x+y+z=1)、化学式LiMn2-xMxO2(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x=0.01~0.1である)またはLi2Mn3MO8(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表現されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLi一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3のうち、1種または2種以上の混合物を含みうる。
【0073】
本発明において、前記負極は、負極集電体及び前記集電体の少なくとも一側表面に負極活物質、導電材及びバインダー高分子を含む負極活物質層を備える。前記負極は、負極活物質としてリチウム金属酸化物、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素;LixFe2O3(0<x≦1)、LixWO2(0<x≦1)、SnxMe1-xMe’yOz(Me:Mn、Fe、Pb、Ge;Me’:Al、B、P、Si、周期律表の1族、2族、3族元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素系合金;錫系合金;SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、GeO、GeO2、Bi2O3、Bi2O4及びBi2O5などの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li-Co-Ni系材料;チタン酸化物の中から選択された1種または2種以上の混合物を含みうる。
【0074】
本発明の具体的な一実施形態において、前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維または金属繊維、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、活性カーボン(activated carbon)、及びポリフェニレン誘導体からなる群から選択された何れか1つまたはこれらのうち、2種以上の導電性材料の混合物である。さらに具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、スーパーp(super-p)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック、デンカ(denka)ブラック、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、及び酸化チタンからなる群から選択された1種またはこれらのうち、2種以上の導電性材料の混合物である。
【0075】
前記集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使われる。
【0076】
前記バインダー高分子としては、当業者で電極に通常使われる高分子を使用することができる。このようなバインダー高分子の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(polyvinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン(polyvinylidene fluoride-co-trichloroethylene)、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート(polyetylhexyl acrylate)、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリアリレート、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、アセチルプロピオニルセルロース、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン及びカルボキシメチルセルロースなどが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0077】
前記のように準備された電極組立体は、適切なケースに装入し、電解液を注入して電池を製造することができる。
【0078】
本発明において、前記電解液は、A+B-のような構造の塩であって、A+は、Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含み、B-は、PF6
-、BF4
-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、AsF6
-、CH3CO2
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-のような陰イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(g-ブチロラクトン)、エステル系化合物及びその中から選択された1種以上の混合物を含む有機溶媒に溶解または解離されたものがあるが、これに限定されるものではない。
【0079】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、有機溶媒は、エステル系化合物を含み、望ましくは、有機溶媒100重量%に対して、エステル系化合物が30重量%以上、50重量%以上、60重量%以上または65重量%以上である。
【0080】
本発明の具体的な一実施形態において、前記エステル系化合物は、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸イソブチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、及び酪酸ブチルからなる群から選択される1種以上を含むものである。
【0081】
また、本発明は、前記電極組立体を含む電池を単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック、及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。前記デバイスの具体例としては、電池的モータによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)などを含む電気自動車;電気自転車(E-bike)、電気スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、さまざまな他の形態に変形され、本発明の範囲が、後述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0083】
[分離膜の製造]
実施例1ないし実施例6
複合粒子及びバインダー樹脂をアセトンに投入して無機コーティング層形成用スラリーを収得した。また、各スラリーからアセトンを除いた固形分の含量は、約13~15wt%にした。前記スラリーを分離膜(ポリエチレン、気孔度45vol%、厚さ9μm)の両面に塗布した後、相対湿度23℃、45%の加湿条件で乾燥した。乾燥後、コーティング層の厚さは、両面6μm(片面3μmずつ)であり、コーティング層のローディングは、分離膜面積に対して、7.2g/m
2であった。次いで、それを60mm(長さ)×25mm(幅)に切断して分離膜を収得した。
図3は、本発明の実施例1を通じて収得された分離膜の表面を示したものであって、バインダー樹脂の相分離によってバインダー樹脂がコーティング層表面を被覆していることを確認することができる。各実施例で使われた無機物粒子/複合粒子及びバインダー高分子の組成は、下記表1と同じである。下記表1において、実施例1、実施例3、実施例5及び実施例6は、複合粒子としてトリメトキシプロピルシランで表面処理されたAl(OH)
3(D50:900nm)を使用し(複合粒子1)、実施例2及び実施例4は、複合粒子としてイソプロピルトリオレイルチタネートで表面処理されたAl(OH)
3(D50:900nm)を使用した(複合粒子2)。前記複合粒子は、Al(OH)
3粒子を撹拌しながら、各カップリング剤が含まれた溶液をスプレーで噴射しながら無機物粒子表面をコーティングさせ、噴射後、90℃で2時間乾燥して収得した。
【0084】
複合粒子1に対しては、IR分析して表面コーティング有無を確認した。
図2は、複合未コーティング粒子と複合粒子1とのIR分析結果を図示したものであって、これによりコーティング結果であるC-Hピーク及びSi-Oピークが確認された。
【0085】
一方、複合粒子2に対しては、分散性の評価を通じてコーティングの有無を確認した。未コーティング粒子(Al(OH)3)とPVAcとを75:25の重量比で混合し、それをアセトンに投入した。溶媒を除いた固形分の含量は、15wt%にした。それをDispersion Analyzer(Lumisizer、LUM社)に入れ、1,000rpmの速度で回転させ、遠心力を加えた後、経時的な沈降速度を測定した。一方、複合粒子2に対しても、同様に実験した。それを下記表2に整理して示した。下記表2から確認できるように、コーティングされた複合粒子2の場合、チタネート系化合物でコーティングされて沈降速度が未コーティング粒子に比べて著しく低下したことを確認することができた。
【0086】
【0087】
【0088】
比較例1ないし比較例8
無機物粒子、バインダー樹脂及び分散剤をアセトンに投入して無機コーティング層形成用スラリーを収得した。また、各スラリーからアセトンを除いた固形分の含量は、約13~15wt%にした。前記スラリーを分離膜(ポリエチレン、気孔度45vol%、厚さ9μm)の両面に塗布した後、相対湿度23℃、45%の加湿条件で乾燥した。乾燥後、コーティング層の厚さは、両面6μm(片面3μmずつ)であり、コーティング層のローディングは、分離膜面積に対して、7.2g/m2であった。次いで、それを60mm(長さ)×25mm(幅)に切断して分離膜を収得した。各比較例で使われた無機物粒子/複合粒子及びバインダー高分子の組成は、下記表3及び表4と同じである。
【0089】
比較例9
実施例1が、同じ方法で無機コーティング層形成用スラリーを収得した。前記スラリーを分離膜(ポリエチレン、気孔度45vol%、厚さ9μm)の両面に塗布した後、常温で自然乾燥させて溶媒を除去した。乾燥後、コーティング層の厚さは、両面6μm(片面3μmずつ)であり、コーティング層のローディングは、分離膜面積に対して、7.2g/m
2であった。
図4は、比較例9を通じて収得された分離膜の表面を示したものであって、バインダー樹脂の相分離が発生せず、無機コーティング層表面でバインダー樹脂が確認されない。これにより、実施例に比べて、電極接着力の確保が難しかった。
【0090】
【0091】
【0092】
(2)評価実験
1)剥離力の評価
実施例1及び比較例5から収得された分離膜を15mm×100mmのサイズに裁断した。ガラス板上に両面接着テープを貼り付け、準備された分離膜の無機コーティング層表面が接着テープと接着されるように貼り付けた。以後、接着された分離膜の末端部をUTM装備(LLOYD Instrument、LF plus)に装着後、測定速度300mm/minの速度で180°角度で力を加えて無機コーティング層と多孔性高分子基材とが剥離されるのに必要な力を測定した。実施例1の場合、剥離力が127gf/15mmに測定され、比較例5の場合、36gf/15mmに測定された。このように、本発明による分離膜の場合、結晶性高分子であるPVDF-HFPを使用した時、剥離力に優れていると確認された。
【0093】
2)電極接着力の評価
電極と分離膜との間の接着力を測定した。まず、人造黒鉛(平均粒径が16μm)、Super C65、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)をそれぞれ95.9:1:1.9:1.2の重量比で混合し、水を添加して負極スラリーを製造した。前記負極スラリーを銅ホイルに65μmの厚さに塗布し、約130℃で8時間真空乾燥及び圧延して1.4875cm2の負極を製造した。この際、負極のローディングは、3.60mAh/cm2になるように製造した。
【0094】
前記から収得された負極を25mm×100mmのサイズに裁断して準備した。また、実施例(1ないし6)及び比較例(1ないし8)から製造された分離膜を25mm×100mmのサイズに裁断して準備した。準備された前記分離膜と負極とを互いに重ねた後、100μmのPETフィルムの間に差し込んだ後、平板プレスを使用して接着させた。この際、平板プレス機の条件は、60℃の6.5MPaの圧力で1秒間加熱及び加圧した。前記接着された分離膜と負極は、両面テープを用いてスライドガラスに付着した。分離膜接着面の末端部(接着面の端から10mm以下)を取り外して25mm×100mmのPETフィルムと単面接着テープとを用いて長手方向が連結されるように貼り付けた。以後、UTM装備(LLOYD Instrument、LF plus)の下側ホルダーにスライドガラスを装着した後、UTM装備の上側ホルダーには分離膜と貼り付いているPETフィルムを装着し、測定速度300mm/minの速度で180°で力を加えて負極と負極とに対向した無機コーティング層が剥離されるのに必要な力を測定した。実施例1ないし実施例6の場合、測定された接着力が100gf/25mmを上回ったが、比較例1ないし比較例8は、これより遥かに低い接着力数値を示した。