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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】溶媒系2液型防食コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20241007BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241007BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241007BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241007BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20241007BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20241007BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20241007BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D163/00
C09D175/04
B05D7/14 P
B05D7/24 303A
B05D7/24 303E
B05D7/24 301U
B05D7/24 302U
B05D7/24 302T
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023514069
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021073584
(87)【国際公開番号】W WO2022043421
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】20193362.9
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】カイル,パトリク
(72)【発明者】
【氏名】ゲルブリッヒ,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ロト,ニコレ
(72)【発明者】
【氏名】レンター,ジルフィア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェグナー,レナーテ
(72)【発明者】
【氏名】ペールカー,ゼバスティアン
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-127470(JP,A)
【文献】特開2013-203952(JP,A)
【文献】特開2017-087164(JP,A)
【文献】国際公開第2004/074397(WO,A1)
【文献】特開昭62-172526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
a.硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む、1種以上のポリマー及び/又は樹脂;
b.1種以上の顔料及び/又はフィラー;及び
c.式(I)の構造単位を含有する1つ以上の種、
【化1】
(式中、4つの残基Rのうちの2つはOHであり、他の2つの残基RはHであり;R=O又はC=Oであり;そしてR-RはC=C又はHC-CHであり;星印*は下記の式(II)における残基R及びR又は下記の式(III)における残基CH-CH-CH-CHへの結合部位を表す)、及び式(II)の種からなる群から選択される1つ以上の種、
【化2】
(式中、R
【化3】
であり;R=H又はOHであり、星印*はRへの結合部位を示し;R=Oであり;R及びRはH又はOHであり、ただしR及びRの少なくとも1つはHである)、及び/又は式(III)の種
【化4】
(式中、RはC=Oである)
を含むマスターバッチ組成物であって、式(II)及び(III)の化合物がメソポーラスシリカナノコンテナーでカプセル化されていない、マスターバッチ組成物、及び
(B)前記1種以上のポリマー及び/又は樹脂の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上の架橋剤を含む硬化剤組成物;及び、任意に、
(C)希釈剤組成物
を含む、溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項2】
式(II)の種が、式(IIa)の種である
【化5】
(式中、R及びRは請求項1で定義されており;そして、
a.RはOHであり、R-RはC=Cであるか、又は
b.RはHであり、R-RはHC-CHである)、請求項1に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項3】
式(II)の種が、ケルセチン、モリン及びナリンゲニンからなる群から選択され、及び/又は、式(III)の種が1,2-ジヒドロキシアントラキノン及び1,4-ジヒドロキシアントラキノンから選択される、請求項1に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項4】
式(I)の構造単位を含有する種がケルセチンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項5】
硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む、前記1種以上のポリマー及び/又は樹脂がポリヒドロキシ官能性のポリマー及び/又は樹脂であり、前記1種以上の架橋剤が遊離イソシアネート基を有するポリイソシアネートであるか、又は硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む、前記1種以上のポリマー及び/又は樹脂がエポキシ樹脂であり、前記1種以上の架橋剤がポリアミン及びポリアミジンからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項6】
(A)b.顔料及びフィラーの合計と、(A)a.硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂との質量比が1:5~5:1である、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項7】
プライマーコーティング組成物又はフィラー組成物又はその両方である、請求項1から6のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項8】
30秒未満のDIN Cup 4粘度(DIN 53211:1987-06)を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項9】
式(II)及び/又は(III)の1つ以上の種が、合計で、前記マスターバッチ組成物(A)の総質量に基づいて、1ppm~15質量%で前記マスターバッチ組成物(A)に含有される、請求項1から8のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物。
【請求項10】
i.まず、(A)a.硬化剤成分(B)中に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂を、(A)b.1種以上の顔料及び/又はフィラーの少なくとも一部と混合する工程であって、(A)a.硬化剤成分(B)中に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂が、任意にかつ好ましくは、最終コーティング組成物に含有される有機溶剤の少なくとも一部に予め溶解され及び/又は予め分散される、工程、
ii.混合しながら、工程i.で完全に添加されていない場合、残りのA(b).1種以上の顔料及び/又はフィラーを添加し、混合しながら、請求項1から9のいずれか一項で定義した式(II)及び/又は(III)の1つ以上の種を添加する工程、
iii.こうして得られた混合物を、好ましくはビーズミルを用いて、ヘグマン粉末度が、好ましくは25μm未満、より好ましくは23μm未満、最も好ましくは20μm未満と判定されるまで粉砕する工程、及び
iv.均質なコーティング組成物を達成するために、混合条件下で硬化剤成分(B)、及び任意に溶媒成分(C)を添加する工程
を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の溶媒系2液型コーティング組成物の製造方法。
【請求項11】
金属基材を本発明のコーティング組成物と接触させる工程(i)を少なくとも含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物で金属基材をコーティングする方法。
【請求項12】
前記金属基材が、アルミニウムであるか、又はアルミニウムを含有する、請求項11に記載のコーティング組成物で金属基材をコーティングする方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法によって得られる、コーティングされた金属基材。
【請求項14】
少なくとも以下の工程、
(i)基材へのコーティング組成物の適用のために、特に好ましくはスプレーコーティングによって、金属基材を請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物と接触させる工程、及び
(ii)工程(i)でコーティング組成物を適用することによって形成されたコーティング層に、さらなるコーティング組成物、好ましくはトップコートコーティング組成物又はクリアコートコーティング組成物を、好ましくはスプレーコーティングによって適用する工程
を含む、多層コーティングを有する基材のコーティング方法。
【請求項15】
前記金属基材が、アルミニウムであるか、又はアルミニウムを含有する、請求項14に記載の多層コーティングを有する基材のコーティング方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法によって得られる、多層コーティング金属基材。
【請求項17】
コーティング組成物から形成される硬化コーティングに防食性を提供するために、
(A)請求項1から9のいずれか一項で定義した(A)a.及び(A)b.を含むマスターバッチ組成物、及び
(B)請求項1から9のいずれか一項で定義した硬化剤組成物、及び任意に
(C)希釈剤組成物
を含む溶媒系2液型コーティング組成物に、請求項1から9のいずれか一項で定義した式(II)及び(III)の1つ以上の種を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)少なくとも1種のポリヒドロキシル官能性芳香族有機化合物と、硬化剤成分(B)中に含まれる少なくとも1種の架橋剤に対して反応性である官能基を有する少なくとも1種のポリマー及び/又は樹脂とを含む少なくとも着色及び/又は充填されたマスターバッチ成分;(B)硬化剤成分、及び任意に(C)溶媒成分を含む溶媒系2液型コーティング組成物(solvent-borne,two-pack coating composition)に関するものである。本発明はさらに、このコーティング組成物の製造方法、このコーティング組成物で金属基材をコーティングする方法、こうして得られるコーティングされた基材、特に多層コーティング基材及びその製造、並びに、コーティング組成物から形成される硬化コーティングに防食性を与えるための、溶媒系2液型コーティング組成物におけるポリヒドロキシル官能性芳香族有機化合物の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部品の塗装の多くの分野、例えば自動車の再塗装、商用車の塗装、航空機の塗装の分野、及びまた風力発電システムのような大規模な技術機械システムの場合では、通常、使用されるそれぞれの金属部品、特にアルミニウム及び/又はアルミニウム合金製の部品を防食コーティングを使用して腐食から保護することが必要である。特に、メーカーが長年にわたる腐食防止を保証していることが多いため、防食に対する要求は非常に高い。
【0003】
しかしながら、アルミニウムの腐食は、鉄含有基材の腐食とは大きく異なる。特に、純アルミニウム又はアルミニウム合金などのアルミニウムベースの基材では、糸状腐食がしばしば観察される。
【0004】
多くの場合、防錆顔料は、金属基材を腐食から保護するためにコーティング組成物に採用されるが、防錆顔料の使用は、しばしば環境的に問題のある無機鉛ベース又はクロム酸ベースの防錆顔料、又は特定の問題のある有機腐食防止剤の使用を伴う。さらに、このような顔料は一般的に多量に使用されるため、腐食防止を提供するという主目的の他に、コーティング組成物の特性を著しく変化させる可能性がある。
【0005】
特に、反応性の高いポリマー、樹脂及び/又は架橋剤が使用される、自動車再塗装用コーティング組成物のような2液型コーティング組成物では、特定の有機腐食防止剤は、このようなポリマー、樹脂及び/又は架橋剤との反応により消費されるため、効果があるとは見なされない。
【0006】
例えば、Ulaetoらは、「Smart nanocontainer-based anticorrosive bio-coatings:Evaluation of quercetin for corrosion protection of aluminum alloys」というタイトルの科学論文で(Progress in Organic Coatings 136(2019)105276)、メソポーラスシリカナノコンテナーにケルセチンをカプセル化し、カプセル化したケルセチンを室温硬化、無溶媒の2液型コーティング組成物に使用することを提案してしる。コーティング組成物の反応性成分からのカプセル化によってケルセチンを保護し、pH値が約10まで上昇することによって引き起こされる腐食現象が発生するまで、カプセル化されたケルセチンが硬化組成物中のナノコンテナ内に留まるようにするというという考え方である。したがって、事前に保護的なナノカプセル化を行わずにコーティング組成物に有機腐食防止剤を使用すると、一般に、硬化工程中にそのような腐食防止剤の望ましくない不活性化をもたらすことになる。しかしながら、カプセル化された有機腐食防止剤は、架橋反応に参加しないかもしれないが、その腐食保護作用は、有効になるために非常に高いpH値へのpH変化に制限される。しかし、アルミニウム含有基材などの金属基材の腐食は、メソポーラスシリカナノコンテナから有機腐食防止剤を放出するために必要なpH値の上昇だけでなく、別のメカニズムによっても引き起こされる可能性がある。特に、酸性条件下又は酸性環境下での腐食は、カプセル化された防錆剤の作用の放出メカニズムが有効でない場合に発生する可能性がある。
【0007】
特にアルミニウムベースの基材を腐食から保護する必要があるが、コーティング材料は、異なる種類の鋼のような他の金属基材への耐食性を採用するのにも適している必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ulaetoら、「Smart nanocontainer-based anticorrosive bio-coatings:Evaluation of quercetin for corrosion protection of aluminum alloys」(Progress in Organic Coatings 136(2019)105276)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
公知技術は、しばしば、いくつかの防錆顔料又は特定の有機金属若しくは金属含有触媒の架橋促進特性を利用するが、本発明の目的は、特定のポリヒドロキシル官能性有機化合物、さらには自然界に存在し、したがって環境的に問題のない化合物を採用することによって、プライマーコーティング組成物及び/又は充填剤コーティング組成物で優れた防錆特性を達成することであった。特に、本発明のコーティング材料に使用する腐食防止剤は、低pH値の環境であってもpH変化の必要がなく、硬化したコーティングのマトリックス材料を形成する成分から保護される必要がなく、有効であるべきである。言い換えれば、本発明で使用される腐食防止剤を、例えばメソポーラスシリカナノコンテナ中にカプセル化する必要はないはずである。さらに、腐食がpH変化なしに起こる場合、このようにカプセル化された抑制剤はカプセル化材料から放出されないので、効果がないであろう。
【0010】
本発明の目的は、公知技術の前述の欠点を克服し、特に自動車再塗装で使用されるようにスプレー塗布によって適用することができ、前処理なしでも、メソポーラスシリカナノコンテナ等への組み込み等の腐食防止剤のカプセル化の必要なしに、異なる金属基材及び多金属基材、特にアルミニウムを含む基材に腐食保護を与える傾向がある2液型コーティング材料を提供することであった。さらに、採用する腐食防止剤は、コーティング材料中の非常に低い濃度で既に有効であるべきであり、したがって、コーティング材料全体の特性に対する有害な影響及び変化を最小限に抑えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、
(A)
a.硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む、1種以上のポリマー及び/又は樹脂;
b.1種以上の顔料及び/又はフィラー;及び
c.式(I)の構造単位を含有する1つ以上の種、
【化1】
(式中、4つの残基Rのうちの2つはOHであり、他の2つの残基RはHであり;R=O又はC=Oであり;そしてR-RはC=C又はHC-CHであり;星印*は下記の式(II)における残基R及びR又は下記の式(III)における残基CH-CH-CH-CHへの結合部位を表す)、及び式(II)の種からなる群から選択される1つ以上の種、
【化2】
(式中、R
【化3】
であり;R=H又はOHであり、星印*はRへの結合部位を示し;R及びRはH又はOHであり、ただしR及びRの少なくとも1つはHであり;RはOである)、及び式(III)の種
【化4】
(式中、RはC=Oである)
を含むマスターバッチ成分、及び
(B)マスターバッチ成分(A)の1種以上のポリマー及び/又は樹脂の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上の架橋剤を含む硬化剤成分;及び、任意に、
(C)溶媒成分
を含む溶媒系2液型コーティング組成物を提供することによって解決された。
【0012】
本発明はさらに、本発明のコーティング組成物を製造する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、金属基材、特にアルミニウム含有金属基材を、本発明によるコーティング組成物でコーティングする方法、及びこのようにしてコーティングされた基材を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、多層コーティング基材及びその製造方法である。
本発明のさらなる目的は、特にコーティング組成物から形成される硬化コーティングに防食性を付与するために、上記で定義した式(II)及び(III)の1つ以上の種を、溶媒系2液型コーティング組成物に使用する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の溶媒系2液型コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、好ましくは分散液又は溶液の形態、より特に分散液の形態である。
【0016】
本発明のコーティング組成物中に存在する全ての成分、言い換えれば後述の成分(A)、(B)、任意に(C)、及び任意に(D)の質量%で表示する割合は、本発明のコーティング組成物の総質量に基づくものであり、好ましくはそれぞれの場合に合計で100質量%である。
【0017】
本発明のコーティング組成物は、溶媒系、すなわち、溶剤ベース又は非水系のコーティング組成物である。
【0018】
本発明のコーティング組成物に関連する用語「溶媒系」、「溶剤ベース」又は「非水系」という用語は、好ましくは、その液体希釈媒体として、すなわち液体溶媒及び/又は分散媒体として、主成分(採用した希釈媒体に関して)として少なくとも1種の有機溶媒を含むコーティング組成物を意味する。本発明のコーティング組成物中の有機溶媒の割合は、いずれの場合もコーティング組成物中に存在する液体希釈媒体の総割合に基づいて、好ましくは少なくとも95.0質量%又は少なくとも96.0質量%又は少なくとも97.0質量%、最も好ましくは少なくとも99質量%又は少なくとも99.5質量%又は少なくとも99.9質量%である。液体希釈媒体は、マスターバッチ成分、硬化剤成分及び/又は溶媒成分、又は存在する場合にはさらなる構成成分又は成分中に存在することができる。
【0019】
本発明のコーティング組成物の粘度は、好ましくは、例えば自動車の再塗装で使用されるようなスプレーガンを用いたスプレー塗布に適した粘度である。好ましくは、20℃の温度でDIN CUP 4(DIN 53211:1987-06による)を用いて測定した本発明のコーティング組成物の粘度は、30秒未満、より好ましくは25秒未満、特に好ましくは15~25秒、例えば17~23秒である。
【0020】
本発明のコーティング組成物は、いずれの場合もコーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは30~90質量%の範囲、より好ましくは40~80質量%の範囲、非常に好ましくは45~75質量%の範囲、より特に55~70質量%、最も好ましくは60~65質量%の範囲の不揮発性画分を有する。
【0021】
本明細書で使用される「不揮発性画分」という用語は、それぞれのコーティング組成物に採用されるようなすべての添加剤、顔料及びフィラーを含むすべての膜形成成分の計算された総量である。したがって、不揮発性画分には、溶媒が含まれない。
【0022】
コーティング組成物に関する「2液」又は「2成分」という用語は、架橋をもたらす化学反応が、2つの成分(マスターバッチ及び硬化剤)を、メーカー(DIN 55945:1996-09)によって予め定められた比率で混合することによって開始され、硬化させて耐久性コーティングを形成する、このようなコーティング組成物に関するものである。個々の成分は、フィルム形成に適さないか、フィルム形成ができないか、又は耐久性コーティングを形成しないため、コーティング材料ではない。この混合物は、一定時間(ポットライフ又は処理時間)の経過後に加工性又はフィルム形成性が低下するため、一定時間内に処理する必要がある。2成分スプレーシステムにおいては、ここでの混合はスプレープロセスにおける適用の直前にのみ行われるため、これは一般に問題ない(Roempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag 1998;キーワード:「Zweikomponenten-Lacke」)。
【0023】
本発明の溶媒系2液型コーティング組成物は、好ましくは18℃~90℃の範囲の温度で架橋可能である。
【0024】
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、プライマーコーティング組成物又はフィラーコーティング組成物、すなわち、プライマーコーティング又はフィラーコーティングの製造に適しているコーティング組成物である。「プライマー(コーティング組成物)」(ドイツ語では「Primer」)及び「フィラー(コーティング組成物)」(ドイツ語では「Fueller」)という用語は、当業者に知られており、例えばRoempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag 1998において定義されている。
【0025】
マスターバッチ成分(A)
(A)a.官能基を含むポリマー及び/又は樹脂
マスターバッチ成分(A)は、硬化剤成分(B)の1種以上の架橋剤の官能基と化学的に反応する官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂を含む。
【0026】
1つの好ましいタイプのポリマー及び/又は樹脂は、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルポリエステル、ポリウレタン及びポリ(メタ)アクリレートからなる群から選択されるポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂である。このようなポリマー及び樹脂において、硬化剤成分(B)の1種以上の架橋剤の官能基と化学的に反応する官能基は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む。しかしながら、本発明は、硬化剤成分(B)の1種以上の架橋剤の官能基と化学的に反応する他の官能基、例えば、1級又は2級アミン基を排除するものではない。
【0027】
本発明の目的のために、「(メタ)アクリロイル」又は「(メタ)アクリレート」という表現は、それぞれの場合において、「メタクリロイル」及び/又は「アクリロイル」、又は「メタクリレート」及び/又は「アクリレート」の定義を包含している。したがって、ポリ(メタ)アクリレートは、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー又はその両方、任意に他のエチレン性不飽和モノマーを含んで重合することによって得ることができる。
【0028】
硬化剤成分(B)の1種以上の架橋剤の官能基と化学的に反応する、第2の好ましいタイプのポリマー及び/又は樹脂は、少なくとも2つのオキシラン基を含有するである。このようなポリマー又は樹脂は、典型的にはエポキシ樹脂と呼ばれる。しかしながら、オキシラン基含有エチレン性不飽和モノマーを重合反応に使用することにより、ポリ(メタ)アクリレートにエポキシ基を組み込んでもよい。
【0029】
ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂
ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂は、1個のポリマー分子又は樹脂分子あたり平均で少なくとも2個のヒドロキシル基を有する。
【0030】
ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂として、1個の分子あたり平均で少なくとも2個のヒドロキシル基を有し、オリゴマー及び/又はポリマーである、当業者に公知のすべての化合物を使用することが可能である。ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂として、異なるオリゴマー及び/又はポリマーポリオールの混合物を使用することも可能である。
【0031】
好ましくは、ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂は、500g/molを超え、特に800~100,000g/mol、より特に1000~50,000g/molの、ポリスチレン標準に対するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手段により測定した質量平均分子量Mwを有する。
【0032】
特に好ましいポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリシロキサンポリオール及びポリ(メタ)アクリレートポリオールからなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂は、30~400mg KOH/g、より好ましくは100~300 KOH/gのヒドロキシル価を有する。ヒドロキシル価(OH価)は、1gの物質をアセチル化する際に結合する酢酸の量に相当する水酸化カリウムのmgの数を示す。測定は、サンプルを無水酢酸-ピリジンで煮沸し、生成した酸を水酸化カリウム溶液で滴定する(DIN 53240-2)。純ポリ(メタ)アクリレートの場合、OH価は、使用したOH官能性モノマーに基づく計算によっても十分な精度で決定することができる。
【0034】
好ましくは、DIN EN ISO 11357-2に従ってDSC測定により測定したポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂のガラス転移温度は、-150℃~100℃、より好ましくは-120℃~80℃の間にある。
【0035】
好適なポリエステルポリオールは、例えばEP-A-0 994 117及びEP-A-1 273 640に記載されている。1つ以上の実施形態において、ポリウレタンポリオールは、ポリエステルポリオールプレポリマーと好適なジ-又はポリイソシアネートとの反応によって調製され、例えばEP-A-1 273 640に記載されている。好適なポリシロキサンポリオールは、例えばWO-A-01/09260に記載されており、そこに記載されているポリシロキサンポリオールは、好ましくは他のポリオール、より特に高いガラス転移温度を有するものと組み合わせて使用されてもよい。
【0036】
最も好ましいポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂が、1つ以上のポリ(メタ)アクリレートポリオールを含む。ポリ(メタ)アクリレートポリオール(単数又は複数)と共に、ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂を採用することが可能であり、例として、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、及びポリシロキサンポリオール、特にポリエステルポリオールが挙げられる。
【0037】
好ましくは、使用できるポリ(メタ)アクリレートポリオールは、コポリマーであり、1000~20,000g/mol、より特に1500~10,000g/molの、いずれの場合もポリスチレン標準に対するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手段により測定した質量平均分子量Mwを有する。
【0038】
好ましくは、ポリ(メタ)アクリレートポリオールコポリマーのガラス転移温度は、-100~100℃、より特に-60~20℃未満(DIN-EN-ISO 11357-2に従ってDSC測定により測定する)である。
【0039】
好ましくは、ポリ(メタ)アクリレートポリオールコポリマーは、60~300mg KOH/g、より特に70~200 KOH/gのOH価、及び0~30mg KOH/gの酸価を有する。
【0040】
ヒドロキシル価(OH価)は、前述のように測定される(DIN 53240-2)。ここでの酸価は、1gの当該化合物の中和に消費される水酸化カリウムのmgの数を示す(DIN EN ISO 2114)。
【0041】
好ましくは、ヒドロキシル官能性モノマー構成要素として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えばより特に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが使用される。
【0042】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールコポリマーのさらなるモノマー構成要素として、アルキル(メタ)アクリレート、例えば、好ましくはエチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート又はラウリル(メタ)アクリレート;シクロアルキル(メタ)アクリレート、例えばシクロペンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート又はシクロヘキシル(メタ)アクリレートが使用される。
【0043】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールコポリマーのさらなるモノマー構成要素として、ビニル芳香族炭化水素、例えばビニルトルエン、アルファ-メチルスチレン、又は特にスチレン、アクリル酸又はメタクリル酸のアミド又はニトリル、ビニルエステル又はビニルエーテル、及びまた、好ましくは特に少量のアクリル酸及び/又はメタクリル酸を使用することも可能である。
【0044】
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は2つ以上のオキシラン環を含有し、オキシラン環の反応により架橋剤で硬化したエポキシ樹脂に変換することができる。一般的なエポキシ樹脂は、反応性のフェノール、アルコール、酸及びアミンとエピクロルヒドリンとの反応によって調製され、オキシラン環をグリシジル基の形態で含有する。エピクロルヒドリンとの反応によりエポキシ樹脂を形成する反応性構造の数は実質的に無限であるため、工業的に入手可能な樹脂は多く存在する。さらに、不飽和脂肪族及び脂環式化合物は、例えば過酢酸を用いて直接エポキシ化されている。
【0045】
本発明の目的のためには、原則として、溶媒系2液型コーティング組成物を配合する際に一般的に使用される全てのエポキシ樹脂を使用することができる。本発明に従って使用できるエポキシ樹脂は、好ましくは、グリシジルエーテル、例えばビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル、ビスフェノール-F-ジグリシジルエーテル、エポキシド-ノバラック、エポキシド-o-クレゾール-ノバラック、1,3-プロパン-、1,4-ブタン-又は1,6-ヘキサン-ジグリシジルエーテル及びポリアルキレンオキシドグリシジルエーテル;グリシジルエステル、例えばジグリシジルヘキサヒドロフタレート;グリシジルアミン、例えばジグリシジルアニリン又はテトラグリシジルメチレンジアニリン;脂環式エポキシド、例えば3,4-エポキシシクロヘキシルポキシエタン又は3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;及びグリシジルイソシアヌレート、例えばトリスグリシジルイソシアヌレートからなる群から選択されるものである。
【0046】
(A)b.顔料及び/又はフィラー
マスターバッチ成分(A)は、1種以上の顔料及び/又はフィラーをさらに含む。
【0047】
「顔料」という用語は、例えばDIN 55945(日付:2001年10月)から当業者には知られている。本発明の意味における「顔料」は、好ましくは、それらを取り囲む媒体、例えば本発明のコーティング組成物中に実質的に、好ましくは完全に不溶性である粉末又はプレートレット状の化合物を指す。本明細書で定義される顔料は、少なくともその屈折率において「フィラー」と異なり、顔料の屈折率が1.7以上である。
【0048】
好適な顔料は、好ましくは、有機及び無機の色付与顔料(黒色及び白色顔料を含む)、効果顔料及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0049】
好適な無機の色付与顔料の例としては、白色顔料、例えば亜鉛白、硫化亜鉛又はリトポン;黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック、又はスピネルブラック;有彩顔料、例えば酸化クロム、酸化クロム水和物グリーン、コバルトグリーン又はウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はコバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、赤色酸化鉄、カドミウムサルホセレンイド、モリブデートレッド又はウルトラマリンレッド;褐色酸化鉄、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相又はクロムオレンジ;又は黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化カドミウム亜鉛、クロムイエロー、又はバナジウム酸ビスマスが挙げられる。さらなる無機の色付与顔料の例は、例えば、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム水和物、特にベーマイト、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及びそれらの混合物である。好適な有機の色付与顔料の例としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、又はアニリンブラックが挙げられる。効果顔料には、金属効果顔料が含まれるが、真珠光沢顔料なども含まれる。
【0050】
「フィラー」という用語は、例えばDIN 55945(日付:2001年10月)から当業者には知られている。本発明の意味における「フィラー」は、好ましくは、本発明のコーティング組成物中に実質的に不溶性、好ましくは完全に不溶性である物質を指し、より特に体積を増大させるために使用される。本発明の意味における「フィラー」は、少なくともその屈折率において「顔料」と異なり、フィラーの屈折率は1.7未満である。当業者に知られている任意の慣用的なフィラーを使用することができる。好適なフィラーの例としては、カオリン、ドロマイト、カルサイト、チョーク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、グラファイト、ケイ酸塩、例えばケイ酸マグネシウム、より特に対応するフィロシリケート、例えばヘクトライト、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク及び/又はマイカ、シリカ、特にヒュームドシリカ、水酸化物、例えば水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム、又は有機フィラー、例えば織物繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維、又はポリマー粉末が挙げられる。さらなる詳細については、Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben, Georg Thieme Verlag,1998,250 ff.頁,「フィラー」を参照してください。
【0051】
本発明のコーティング組成物には、前述の顔料及びフィラーを好適に採用することができるが、このようなPb、Cd、Cr、Cu、Mo、Hg、Se又はZnなどの環境上問題となる元素を含有する顔料はあまり好ましくなく、本発明のコーティング組成物に含まれないことが最も好ましい。
【0052】
上記のような顔料及び/又は充填剤はシリカを含むことができるが、式(II)及び(III)のカプセル化された種を含有するメソポーラスシリカナノコンテナー又はシリカは、好ましくは、本発明のコーティング組成物中に含まれないことがここで明示される。シリカと式(II)及び(III)の種のいずれかが単に同時に存在することは、Uleatoら(上記参照)によって教示されたメソポーラスシリカナノコンテナーカプセル化された腐食防止剤のかなり精巧な形成と混同されないようにしなければならない。上記のように、本発明の1つの目的は、腐食防止剤のカプセル化、すなわち式(II)及び(III)の種のいずれかのカプセル化の必要性を回避することがであった。
【0053】
顔料及び/又はフィラー(A)b.と、(A)a.、すなわち硬化剤成分(B)に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂との質量比は、好ましくは6:1~1:6、より好ましくは5:1~1:5、さらにより好ましくは5:1~1:2又は5:1~1:1、例えば4:1~2:1である。
【0054】
(A)c.式(I)の構造単位を含有する種
マスターバッチ組成物(A)は、さらに、式(I)の構造単位を含有する1つ以上の種、
【化5】
(式中、4つの残基Rのうちの2つはOHであり、他の2つの残基RはHであり;R=O又はC=Oであり;そしてR-RはC=C又はHC-CHであり;星印*は下記の式(II)における残基R及びR又は下記の式(III)における残基CH-CH-CH-CHへの結合部位を表す)、及び式(II)の種からなる群から選択される1つ以上の種、
【化6】
(式中、R
【化7】
であり;R=H又はOHであり、星印*はRへの結合部位を示し;R及びRはH又はOHであり、ただしR及びRの少なくとも1つはHであり;R=Oである)、及び式(III)の種
【化8】
(式中、RはC=Oである)
をさらに含む。
【0055】
上記の式(II)及び(III)の種、及び後述する特に好ましいものは、本発明のコーティング組成物に含有させることにより、腐食防止性を有する硬化コーティングを採用することができる。
【0056】
式(II)で表される種のうち、ケルセチン及びモリンなどのフラボノール;及びナリンゲニンなどのフラバノンからなる群から選択される種が好ましい。
【0057】
式(II)の特に好ましい種は、式(IIa)の種である
【化9】
(式中、R及びRは、上記のように定義され;そして
a.RはOHであり、R-RはC=C(フラボノール)であるか;又は
b.RはHであり、R-RはHC-CH(フラバノン)である)。
【0058】
式(IIa)の最も好ましい種において、R-RはC=Cであり、R及びRはOHであり、RはHである(すなわち、ケルセチン)。
【0059】
式(III)で表される種のうち、ジヒドロキシアントラキノンからなる群から選択される種が好ましい。最も好ましいのは、1,4-ジヒドロキシアントラキノン及び1,2-ジヒドロキシアントラキノンである(すなわち、アリザリン)。
【0060】
この種は、Ulaetoらによって記載されたように、カプセル化されるか、さもなければメソポーラスシリカナノコンテナに関連付けられることなく、コーティング組成物に採用されている。驚くべきことに、式(II)及び(III)のこれらの種がいくつかのヒドロキシ基を含有し、したがって原則的に、遊離イソシアネート基を含有する架橋剤と同様にエポキシ樹脂と反応しやすいという事実にもかかわらず、それぞれの種を含有するコーティング組成物は、金属基材、特にアルミニウム含有金属基材に対してその上に適用しその後硬化すると、優れた腐食防止性を提供する。
【0061】
本発明のコーティング組成物に採用される式(II)及び/又は(III)の種の量の合計は、マスターバッチ成分(A)の総質量に基づいて、好ましくは1ppm~15質量%、より好ましくは0.1~5質量%、最も好ましくは0.5~2.5質量%の範囲である。この量が上記下限値未満であると、腐食効果の緩和が検出されない;この量が上記上限値を超えると、フィルム形成が阻害されたり、硬化反応が被毒されたりする場合がある。
【0062】
硬化剤成分(B)
2液型コーティング組成物であるコーティング組成物は、硬化剤成分(B)中に少なくとも1種の架橋剤、例えば:マスターバッチ成分(A)中に含有される1種以上のポリマー及び/又は樹脂のヒドロキシル及び活性水素含有基(例えば、1級又は2級アミノ基)と反応し得る遊離イソシアネート基を有するポリイソシアネート架橋剤;又は、例えばマスターバッチ成分(A)中に含有される可能性のあるエポキシ樹脂と反応し得るポリアミンを含む。
【0063】
架橋成分(B)をマスターバッチ組成物(A)とは別個に保存して、未熟な架橋を避けることが2液型組成物の本質であるので、硬化剤成分(B)は、架橋剤に対して反応性である成分を含有しない。しかしながら、架橋成分は、さらなる不活性成分、例えば架橋剤が溶解又は分散している溶媒又は溶媒混合物、又は以下に記載しているさらなる不活性添加物を含有してもよい。
【0064】
ポリヒドロキシル官能性ポリマー及び/又は樹脂のための架橋剤
マスターバッチ成分(A)における少なくとも1種のポリマー及び/又は樹脂の官能基がヒドロキシル基、1級及び2級アミノ基から選択される場合、架橋剤として遊離イソシアネート基を有する1種以上のポリイソシアネート(ここで使用する用語にはジイソシアネートが含まれる)を使用することが特に好ましい。
【0065】
好適なポリイソシアネート架橋剤の例としては、限定されないが、アルキレンポリイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、4-及び/又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、2,4’-及び/又は4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、例えば2,4’-及び/又は4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4-及び/又は2,6-ジイソシアナトトルエン、ナフチレンジイソシアネート、及びこれらのポリイソシアネートの混合物が挙げられる。一般に、平均3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが使用され、これらはジイソシアネートの誘導体又は付加物であってもよい。有用なポリイソシアネートは、過剰量のイソシアネートと水、ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、ソルビトール又はペンタエリスリトール)との反応により、又はイソシアネートを自身と反応させてイソシアヌレートを得ることにより得られる。例としては、ビウレット基含有ポリイソシアネート、例えば、米国特許第3,124,605号及び米国特許第3,201,372号又はDE-OS1,101,394に記載しているもの;イソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、例えば、米国特許第3,001,973号、DE-PS 1,022,789、1,222,067及び1,027,394、及びDE-OS 1,929,034及び2,004,048に記載しているもの;ウレタン基含有ポリイソシアネート、例えば、DE-OS 953,012、BE-PS 752,261又は米国特許第3,394,164号及び第3,644,457号に記載しているもの;カルボジイミド基含有ポリイソシアネート、例えば、DE-PS 1,092,007、米国特許第3,152,162号、及びDE-OS 2,504,400、2,537,685及び2,552,350に記載しているもの;アロファネート基含有ポリイソシアネート、例えば、GB-PS 994,890、BE-PS 761,626及びNL-05 7,102,524に記載しているもの;並びに、ウレトジオン基含有ポリイソシアネート、例えばEP-A 0,377,177に記載しているものが挙げられ、各参照は引用により本明細書に組み込まれている。
【0066】
このようなイソシアネート架橋剤は、通常、別々に保管され、適用の直前にポリヒドロキシル官能性ポリマーお予備/又は樹脂と組み合わされる。
【0067】
コーティング組成物には、スズ触媒などのウレタン反応の硬化触媒を使用することができる。代表的な例は、限定されないが、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキシド、及びビスマスオクトエートを含むスズ及びビスマス化合物である。使用される場合、触媒は、典型的に、全固形物の質量に基づいて約0.05~2質量%のスズの量で存在する。
【0068】
エポキシ樹脂のための架橋剤
以下、エポキシ樹脂の硬化に通常用いられる架橋剤について説明するが、この架橋剤は、マスターバッチ成分(A)において、硬化剤成分(B)に含有される架橋剤に存在する官能基に対して反応性を有する官能基を含む樹脂として使用することができる。この種の架橋剤は、関連文献(例えば:Kittel,「Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen」,第2巻,第2版,1998年,267~318頁)に従って、その機能において「エポキシド架橋剤」と称される。
【0069】
エポキシド架橋剤は、官能基がオキシラン基と反応することができる2以上の官能価を有する化合物(活性水素、特に窒素又は酸素と結合した水素を有する化合物)である。好ましくは、架橋剤は、エポキシ樹脂に対して実質的に化学量論的に採用される。エポキシ樹脂におけるオキシラン環の濃度は、例えば滴定法により決定することができる。必要な架橋剤の量は、架橋剤の活性水素の当量(「H活性当量」)から算出することができる。
【0070】
本発明に従って使用できる架橋剤は、好ましくは、ポリアミン(ここではジアミンを含む)及びポリアミドからなる群から選択されるものである。特に好ましいのは、ポリアミンである。したがって、その最も好ましい実施形態では、硬化剤は、アミン系架橋剤と称されてもよい。
【0071】
特に好ましいポリアミンは、脂肪族アミン、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン又は3,3’,5-トリメチルヘキサメチレンジアミン;脂環式アミン、例えば1,2-シクロヘキシルジアミン、イソホロンジアミン及びその異性体混合物、又はm-キシリレンジアミン;芳香族アミン、例えばメチレンジアニリン又は4,4-ジアミノジフェニルスルホン;修飾アミン、例えばマンニッヒ塩基(例えば、ジエチレントリアミン-フェノールマンニッヒ塩基)、又は3,3’,5-トリメチルヘキサメチレンジアミン及びビスフェノールAジグリシジルエーテルのアミン付加物の群から選択されても良い。
【0072】
ポリアミドタイプの特に好ましいエポキシド架橋剤は、例えば、ポリアミノアミド又はジシアンジアミドである。
【0073】
溶媒成分(C)
本発明のコーティング組成物は、成分(C)として、少なくとも1種の有機溶媒を含む。「有機溶剤」の概念は、例えば1999年3月11日の欧州指令1999/13/ECから、当業者にはよく知られている。
【0074】
本発明のコーティング組成物の成分(C)としては、溶媒が使用される成分の構成成分に対して反応性がない限り、当業者に知られている全ての有機溶媒が好適である。最も好ましいのは、非プロトン性有機溶媒である。
【0075】
少なくとも1種の有機溶媒は、好ましくは、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、例えばトルエン及び/又はキシレン、ケトン、例えばアセトン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、及びメチルエチルケトン、エステル、例えばメトキシプロピルアセテート、エチルアセテート、ブチルグリコールアセテート、及びブチルアセテート、アミド、例えばジメチルホルムアミド、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0076】
本発明のコーティング組成物の更なる任意の構成成分
本発明のコーティング組成物は、任意に、少なくとも1種のさらなる構成成分、例えば2液型コーティング組成物に使用される典型的な添加剤を含んでもよい。
【0077】
前記少なくとも1種のさらなる構成成分又は添加剤は、好ましくは、酸化防止剤、帯電防止剤、耐湿剤及び分散剤、沈降防止剤、乳化剤、流動制御補助剤、可溶化剤、消泡剤、湿潤剤、安定剤、紫外線及び/又は光安定剤、光保護剤、脱気剤、抑制剤、触媒、ワックス、可撓化剤、難燃剤、疎水化剤、親水化剤、チキソトロープ剤、衝撃改良剤、加工助剤、可塑剤、及び前述の成分の混合物からなる群から選択される。本発明のコーティング組成物中の好ましくは少なくとも1種のさらなる構成成分の量は、意図される用途に応じて非常に広く変化し得る。そのような構成成分の合計量は、いずれの場合も本発明のコーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.05~8.0質量%、非常に好ましくは0.1~6.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0078】
さらなる構成成分は、マスターバッチ成分(A)、硬化剤成分(B)及び溶媒成分(C)の一部であってもよく、代わりに別の成分(D)の形態で添加されてもよい。さらなる構成成分は、好ましくは、それらが利用されるそれぞれの成分の構成成分に対して化学的に不活性である。
【0079】
本発明によるコーティング組成物の製造方法
本発明は、さらに、本発明のコーティング組成物の製造方法を提供する。
【0080】
本発明のコーティング組成物を製造するためのこの方法は、好ましくは、高速撹拌機、溶解器又はインライン溶解器を用いて、
i.まず、(A)a.硬化剤成分(B)中に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含むの1種以上のポリマー及び/又は樹脂を、(A)b.1種以上の顔料及び/又はフィラーの少なくとも一部と混合する工程であって、(A)a.硬化剤成分(B)中に含まれる1種以上の架橋剤の官能基に対して反応性である官能基を含む1種以上のポリマー及び/又は樹脂が、任意にかつ好ましくは、最終コーティング組成物に含有される有機溶剤の少なくとも一部に予め溶解され及び/又は予め分散される、工程、
ii.混合しながら、残りのA(b).1種以上の顔料及び/又はフィラー(工程i.で完全に添加されていない場合)を添加し、混合しながら、上記で定義した式(II)及び/又は(III)の1つ以上の種を添加する工程、
iii.こうして得られた混合物を、好ましくはビーズミルを用いて、ヘグマン粉末度(Hegman fineness)が、好ましくは25μm未満、より好ましくは23μm未満、最も好ましくは20μm未満と判定されるまで粉砕する工程、及び
iv.均質なコーティング組成物を達成するために、混合条件下で硬化剤成分(B)、任意に溶媒成分(C)及び任意に成分(D)を添加する工程
によって行われ、好ましくはすべての混合工程中の温度を50℃未満の温度に維持する。
【0081】
工程iv.は、好ましくは、例えば自動車の再塗装に使用されるようなスプレーガンで行われる。
【0082】
本発明によるコーティング組成物で基材をコーティングする方法
本発明はさらに、金属基材を本発明によるコーティング組成物でコーティングする方法を提供し、ここで、この方法が少なくとも、金属基材を本発明のコーティング組成物と接触させる工程(i)を含む。
【0083】
本発明の意味における「接触させる」という用語は、好ましくは、基材上にコーティング層を形成するために、本発明のコーティング組成物を基材にスプレーすることを指す。
【0084】
このようなスプレーすることは、好ましくは、静電スプレー、エアースプレーコーティング又はエアレススプレーコーティングによって行われる。得られたコーティングフィルムの乾燥膜厚は、23℃で60分間乾燥した場合に、好ましくは25~100μm、より好ましくは30~90μm、最も好ましくは40~80μmの範囲にある。コーティングフィルムは、好ましくは18~90℃、より好ましくは30~80℃、最も好ましくは50~70℃の範囲の温度で5~120分間加熱することにより、硬化されてもよい。
【0085】
しかしながら、好ましくは少なくとも部分的に乾燥された、このようにしてコーティングされた基材が、トップコートコーティング組成物又はクリアコートコーティング組成物などの後続のコーティング組成物でさらにコーティングされ、そのように後続して適用されたコーティング層と共に完全に硬化される場合、コーティング層の完全硬化への硬化工程は、少なくとも部分的に省略することができる。ウェットオンウェットコーティング法のこの可能性は、多層コーティングによる基材のコーティング方法を説明する際に、以下でさらに説明される。
【0086】
金属基材
本発明に従って使用される基材は、好ましくは、鉄、鋼、アルミニウム、又はそれらの合金、より好ましくはアルミニウムベース合金からなる群から選択され、これらの合金が、例えば銅などの少なくとも1種の更なる金属及び/又は半金属を任意に有することが可能である。好ましくは、ここでの基材はそれぞれ、鉄、鋼、アルミニウム、又はそれらの合金の少なくとも1つの表面を有し、より好ましくは、それらは完全に鉄、鋼、アルミニウム、又はそれらの合金からなる。好適な鋼は、好ましくは、冷延鋼、熱延鋼、高強度鋼、亜鉛メッキ鋼、例えば浸漬亜鉛メッキ鋼、合金亜鉛メッキ鋼(例えば、Galvalume(登録商標)、Galvannealed(登録商標)、又はGalfan(登録商標))、及びアルミ化鋼からなる群から選択される鋼である。好適な合金の例としては、アルミニウムと銅の合金が挙げられる。特に好ましいのは、アルミニウム又はアルミニウム含有合金から作られた基材である。
【0087】
ここでは、使用される基材は、特に、自動車及び商用車の金属ボディだけでなく、航空機及び船舶などの金属ボディであってもよい。
【0088】
本発明のコーティング組成物でコーティングされる前に、本発明による基材をコーティングするための方法に従って使用される金属基材は、好適な、好ましくは水性の、前処理組成物で前処理されてもよい。そのような前処理組成物は、当業者に知られており、市販されている。例えば、アルミニウムの、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金をベースとする基材は、DIN EN 4704(日付:2012年5月)による酒石酸-硫酸陽極酸化(TSA)により前処理されてもよい。鋼の基材又は鋼をベースとする基材は、例えばDIN EN ISO 12944-4(日付:1998年7月)による前処理によって前処理されてもよい。使用される鋼の基材又は鋼をベースとする基材のグレードは、好ましくは少なくとも2.5である。鋼のグレードは、DIN EN ISO 8501-1(日付:2007年12月)に従って決定されてもよい。
【0089】
本発明のコーティング組成物に関連して本明細書に記載された全ての好ましい実施形態は、基材のコーティングのための本発明の方法で使用される本発明のコーティング組成物の好ましい実施形態でもある。
【0090】
多層コーティングを有する基材のコーティング方法
本発明はさらに、少なくとも以下の工程、
(i)基材へのコーティング組成物の適用のために、特に好ましくはスプレーコーティングによって、金属基材を本発明のコーティング組成物と接触させる工程、及び
(ii)工程(i)でコーティング組成物を適用することによって形成されたコーティング層に、さらなるコーティング組成物、好ましくはトップコートコーティング組成物又はクリアコートコーティング組成物を、好ましくはスプレーコーティングによって適用する工程
を含む、多層コーティングを有する基材のコーティング方法を提供する。
【0091】
本発明のコーティング組成物に関連して本明細書に記載された全ての好ましい実施形態は、多層コーティングを有する基材をコーティングするための本発明の方法で使用される本発明のコーティング組成物の好ましい実施形態でもある。同じことが、下塗り及び/又はフィラーコートを有する基材をコーティングするための方法について説明した金属基材についても当てはまる。
【0092】
さらなるコーティング組成物、より詳細にはトップコートコーティング組成物又はクリアコートコーティング組成物、最も好ましくはトップコートコーティング組成物が通常、工程(i)で形成されたコーティング層に適用される。工程(i)で形成されたコーティング層は、好ましくは、工程(ii)による更なるコーティング組成物の適用の前に乾燥される。「乾燥」という用語は、本発明の文脈において、好ましくは、適用されたコーティング材料から溶媒の少なくとも一部を除去することを指す。乾燥は、最初に15~30℃で10~120分間行われてもよい。乾燥中にいくらかの硬化が起こる可能性があるが、工程(i)で形成された層は硬化しないか、少なくとも完全に硬化しないことが好ましい(ウェットオンウエット法)。
【0093】
工程(ii)による更なるコーティング組成物の適用のための一般的な技術は、本発明によるコーティング組成物から形成されるコーティング層について上述したものと同様である。さらなるコーティング組成物、例えばトップコートコーティング組成物は、例えば15~100μm、より特に40~80μm又は50~75μmの範囲の硬化後の乾燥膜厚のように、慣用的かつ既知の膜厚で適用される。
【0094】
硬化は、慣用的で既知の技術に従って、例えば強制空気オーブンでの加熱又は赤外線ランプによる照射によって行われる。また、放射線硬化システムの場合には、UV照射による光硬化も可能である。硬化は、例えば、約15℃から90℃までの範囲の高温、好ましくは40~80℃、例えば50~70℃の範囲で行われてもよい。硬化段階の期間も同様に、個々に選択される。例えば、硬化は、5~120分間、好ましくは15~45分間の期間にわたって行われてもよい。硬化は、任意に、例えば1~60分間の期間、好ましくは室温(すなわち本発明の文脈では23℃)で、フラッシング段階又は予備乾燥段階を先行させることもできる。工程(ii)が実施された後、15分~2時間の期間、好ましくは40~80℃、より好ましくは50~70℃で、乾燥又は硬化させることが特に好ましい。
【0095】
本発明によりさらに提供されるのは、本発明の方法によって得られる多層コーティングである。
【0096】
本発明は、さらに、本発明のコーティング組成物でコーティングされた金属基材を提供する。本発明はさらに、こうしてコーティングされた少なくとも1つの基材から製造される部品又は物品を提供する。この方法で使用するのに適した基材は、本明細書で上述した基材と同じである。
【0097】
防食性を提供するための式(II)及び(III)による種の使用方法
本出願はまた、溶媒系2液型コーティング組成物における、特にコーティング組成物から形成される硬化コーティングに防食性を提供するための、上記で定義した式(II)及び(III)の1つ以上の種の使用方法にも関する。
【0098】
式(II)及び(III)による好ましい種の全ての実施形態、及び本発明のコーティング組成物に関連して本明細書に記載された溶媒系2液型コーティング組成物の部分に関する全ての実施形態は、本発明の使用方法の好ましい実施形態でもある。
【0099】
以下、本発明を実験データによってさらに具体的に説明する。
【実施例
【0100】
試験
酸性塩水噴霧試験(AASS)
酸性塩水噴霧ミスト試験(AASS)は、基材上のコーティングの耐腐食性を判定するために使用される。DIN EN ISO 9227(日付:2017年6月)に従い、コーティングされた導電性基材、すなわちアルミニウムに対して酸性塩水噴霧ミスト試験を行った。ここでは、調査用サンプルは、1008時間の継続時間にわたって35℃の温度で3.1~3.3の範囲の制御されたpHを有する5%の一般的な塩溶液で連続的に噴霧するチャンバ内にあった。この噴霧が調査対象サンプルに付着し、塩水の腐食性膜でそれらを覆った。
【0101】
基材が、DIN EN ISO 9227 AASS塩水噴霧試験中にスコアラインに沿って腐食するため、DIN EN ISO 4628-8(日付:2013年3月1日)よる膜下腐食(アンダーマイニング)レベルを調査できるように、DIN EN ISO 9227 AASSによる酸性塩水噴霧試験の前に、調査対象サンプル上のコーティングを刃物の切り込みで下地まで削った。腐食の進行過程の結果として、にコーティングが試験中多かれ少なかれ損なわれる。アンダーマイニングの程度(単位:mm)は、コーティングの耐腐食性を示す指標である。なお、以下の結果に記載されている平均アンダーマイニングレベルは、3~5枚のパネルを評価した個々の値の平均値であり、パネルの個々の値は、パネル上の11個の測定点におけるアンダーマイニングレベルの平均値である。
【0102】
光沢、ブリスター、接着性
240時間の曝露時間の一定気候試験の前と後に、光沢及び粘着性を決定した。一定気候試験後、ブリスターの形成も評価した。一定気候試験は、EN ISO 6270-2(2018年4月)に従い、240時間の曝露時間で実施した。
【0103】
DIN EN 13523-2(2014年8月)に従い、一定気候試験の前と後に1つのコーティングされた試験片の10個の異なるスポットで60°の角度で、光沢を評価した。1桁の精度での平均値を結果に報告した。
【0104】
DIN EN ISO 4628-2(2016年7月)に従い、ブリスターの密度及びその大きさによるブリスター等級の評価を行った。評価は、一定気候試験とその後の周囲条件(22度、50%r.h.)での1時間及び24時間の緩和期間の後に直接実行した。
【0105】
接着性の評価は、ISO 2409よるクロスカット試験によって行った。マルチブレード切削ツールを使用して、コーティングから基材までのクロスハッチパターンを作成した。コーティングの剥離した部分は、柔らかいブラシでブラッシングして除去した。その後、粘着テープをクロスハッチ上に貼付し、コーティングの剥離した部分をすべて除去した。ISO 2409の表1に従って分類した。一定気候試験の前と後に、クロスハッチ試験を行った。気候制御試験の後、1時間及び24時間の回復時間後にクロスハッチ試験を行った。気候制御試験中は、準備したクロスハッチの腐食を避けるため、クロスハッチを粘着テープで覆った。
【0106】
フィラーコーティング組成物
溶剤系2液型ヒドロキシル/イソシアネートフィラーコーティング組成物
表1には、比較用フィラーコーティング組成物C1及びC2、並びに本発明のフィラーコーティング組成物E1~E4の成分(質量部)を記載している。マスターバッチ組成物(A)(「Aパック」)は、ヒドロキシル基含有ポリマー(ポリアクリレートポリオール)、顔料及びフィラー(TiO及びBaSO)、溶媒(キシレン及びブチルアセテート)、並びに本発明例の場合には0.50又は1.00質量部の腐食防止剤(I1、I3及びI4)、比較用組成物C2の場合には1質量部の3-メチルアントラキノン(I2)を含有する。硬化剤成分(B)(「Bパック」)は、イソシアネート基含有脂肪族硬化剤及び溶媒混合物を含有する。
【0107】
表1における位置1~7及び10は、100%固体としての質量部である。しかし、位置1のポリアクリレートポリオールは、65質量%の固形分を有する分散液としてブチルアセテート/キシレン(3:1;w/w)に予め分散して使用した。この分散液の溶媒含有量は位置8及び9に割り当て、この分散液の固形分のみを位置1に割り当てた。さらに、位置10のイソシアネート硬化剤は、位置11の溶媒混合物に予め溶解して使用した。
【0108】
異なる腐食防止剤I1、I3及びI4を含有する本発明のフィラーコーティング組成物E1~E4及び比較用フィラーコーティング組成物C2(物質I2を含む)を調製するために、比較用フィラーコーティング組成物C1において使用した位置1、2、3、8及び9の量は、すべてのフィラーコーティング組成物について、マスターバッチ成分(A)において74:26の同一の顔料対ポリアクリレートポリオール質量比、及びマスターバッチ成分(A)の約21質量%の溶媒含有量を維持するように減少させた。硬化剤成分(B)におけるイソシアネート硬化剤の量は、(ポリアクリレートポリオールからのOH基)と(イソシアネート硬化剤からの)NCO基のモル比が1:1.08となるように選択した。
【0109】
全てのフィラーコーティング組成物について、位置1及び2を混合容器に供給し、約1000~1500rpmで混合しながら、位置3~9を添加した。その後、得られた混合物を、溶解器(VMA Getzmann,Dispermat CN20)を用いて、50℃以下の温度を維持しながら(C1:約47℃;E1~E5:約36℃)、約1500rpmでさらに30分間混合した。組成物C1について、決定したヘグマン粉末度は約23μmであった(DIN EN ISO 1524,2013年6月)。本発明のフィラーコーティング組成物E1~E4及び比較用フィラーコーティング組成物C2を、さらにビーズミルで(0.5Lの粉砕容器;400gのマスターバッチ成分(A)あたり200gのSiliquarzit(登録商標)パール1.8~2.2mm)、最大冷却下約2000~2100rpmで様々な時間(C2:45分;E1:90分;E2:300分;;E3:50分;及びE4:60分)さらに粉砕して、約23μm未満のヘグマン粉末度を得た(C2:23μm;E1:20μm;E2:20μm;E3:<23μm;及びE4:<23μm)。
【0110】
アルミニウム合金パネルに適用する最終フィラーコーティング組成物C1、C2及びE1~E4を得るために、マスターバッチ成分(A)及び硬化剤成分(B)を十分に混合し、溶媒組成物S(1-メトキシプロピルアセテート、2-ブチルアセテート及びキシロール;C1において:0質量%;C2、E1~E4において:約10質量%)で約19秒~約22秒の20℃でのDIN Cup 4スプレー塗布粘度に希釈した。
【0111】
【表1】
【0112】
ポリアクリレートポリオール(固体;OH価:149mg KOH/g、ヒドロキシル当量:378)、
1,4-ジヒドロキシアントラキノン
3-メチルアントラキノン(本発明ではない)
アリザリン(1,2-ジヒドロキシアントラキノン)
ケルセチン
6IPDI及びHDIをベースとした脂肪族ポリイソシアネートオリゴマーの混合物
位置10を希釈するために使用される以下の溶媒の混合物。
【0113】
溶剤系、2液型エポキシ/アミンフィラーコーティング組成物
表2には、比較用フィラーコーティング組成物C3及びC4、並びに本発明のフィラーコーティング組成物E5~E8の成分(質量部)を記載している。マスターバッチ組成物(A)(「Aパック」)は、エポキシ樹脂、湿潤分散添加剤、顔料(TiO、BaSO及びプレートレット状タルク)及び溶媒(キシレン、メトキシプロパノール、イソブタノール)、本発明の実施例の場合に0.50又は1.00質量部の腐食防止剤(I1、I3及びI5)を含有する。硬化剤成分(B)(「Bパック」)は、アミン基含有硬化剤混合物及び溶媒混合物を含有する。
【0114】
表2における位置1~9及び17は、100%固体としての質量部である。しかし、位置1のエポキシ樹脂混合物は位置10及び11の溶媒に予め分散させて使用し、位置12及び13には湿潤分散剤を予め溶解させた。さらに、位置17のアミン硬化剤混合物を位置18の溶媒混合物に予め溶解して使用した。
【0115】
異なる腐食防止剤I1、I3及びI4と非本発明の化合物I2とを含有する本発明のフィラーコーティング組成物E5~E8及び比較用フィラーコーティング組成物C4を調製するために、比較用フィラーコーティング組成物に使用した位置1~5、14及び15の量は、すべてのフィラーコーティング組成物について、マスターバッチ成分Aにおいて70:30の同一の顔料対エポキシ樹脂質量比、及び約24質量%の溶媒含有量を維持するように減少させた。硬化剤成分(B)におけるアミン硬化剤混合物の量は、(エポキシ樹脂混合物からの)エポキシ基と(アミン硬化剤混合物からの)アミン基のモル比が100:16.45となるように選択した。
【0116】
全てのフィラーコーティング組成物について、位置1、10及び11を混合容器に供給し、位置2(位置12及び13と予め混合されている)を添加した。この混合物を、溶解器(VMA Getzmann,Dispermat CN20)を用いて、1500rpmで10分間混合し、続いて15、4、5及び14をこの順序で添加し、次いで位置6~9を添加し、最後に3を添加した。その後、33~36℃の温度を維持しながら、得られた混合物を約1500rpmでさらに30分間混合した。フィラーコーティング組成物を、さらにビーズミルで(0.5Lの粉砕容器;400gのマスターバッチ成分Aあたり202gのSiliquarzit(登録商標)パール1.8~2.2mm)冷却下約2000rpmで様々な時間(C3:70分;C4:70分;E5:60分;E6:60分;E7:70分;及びE8:90分)さらに粉砕して、(ブチルグリコールアセテートでの4:1希釈の後)約23μm未満のヘグマン粉末度を得た(C3:10μm;C4:20μm;E5:<20μm;E6:20μm;E7:20μm;及びE8:23μm)。なお、ヘグマン粉末度は上記のように決定した。
【0117】
アルミニウム合金パネルに適用する最終フィラーコーティング組成物C3、C4及びE5~E8を得るために、アルミニウム合金パネルに塗布される最終フィラーコーティング組成物C3、C4及びE5~E8を得るために、マスターバッチA及び硬化剤組成物Bを十分に混合し、溶媒組成物S(1-メトキシプロピルアセテート、2-ブチルアセテート及びキシロール;C3において:約5質量%;C4、E5、E7及びE8において:約15質量%;及び、E6において:約13質量%)で約19秒~約22秒の20℃でのDIN Cup 4スプレー塗布粘度に希釈した。
【0118】
【表2】
【0119】
エポキシ樹脂混合物(84質量%のエポキシ樹脂A:エポキシ基含有量:3800~4250mmol/kg;16質量%のエポキシ樹脂B:Beckopox EM 460(無溶媒))
1,4-ジヒドロキシアントラキノン
3-メチルアントラキノン(本発明ではない)
10アリザリン
11ケルセチン
12位置1のエポキシ樹脂混合物を分散させるために使用され
13位置2の湿潤分散剤を溶解するために使用され、
14オリゴマーアミンとポリマーアミンの特許混合物(アミン価:約270±20mg KOH/g)
15位置16のアミン硬化剤混合物を溶解するために使用される特許溶媒混合物。
【0120】
コーティング組成物の適用
2液型ヒドロキシル/イソシアネートシステムの適用、及びトップコートによる上塗り
本発明のフィラーコーティング組成物E1~E4、及び比較用フィラーコーティング組成物C1及びC2をアルミニウム合金パネル(AASS試験ではAA6014、その他の試験ではAlMgMn4.5)上にスプレー(スプレーガン:SATA3000RP、ノズル1.3mm、圧力2.5バール)によって適用した。適用後、得られたフィルムを室温(23℃)で60分間乾燥させた(フィラーコーティングの乾燥膜厚:58±9μm、但し、コーティング組成物E3の乾燥膜厚:39μm)。
【0121】
こうして得られたフィラーコーティングフィルムを、白色トップコート(マスターバッチ:Series 68 CV,製品番号:68-RAL 9010;硬化剤:Hardener CV,製品番号:922-138;シンナー:製品番号:352-216;4:1:1(v/v/v);すべてBASF Coatings GmbHから入手可能)でスプレーするスプレー塗布(スプレーガン:SATA 3000 RP、ノズル:1.4mm、圧力:2.5バール)により上塗りし、60℃で30分間乾燥して、66μmの乾燥膜厚を得た。
【0122】
2液型エポキシ/アミンシステムの適用、及びトップコートによる上塗り
本発明のフィラーコーティング組成物E5~E8、及び比較用フィラーコーティング組成物C3及びC4をスプレーにより(スプレーガン:SATA 100BF RP、ノズル:1.6mm、圧力:2.5バール)適用した。適用後、得られたフィルムを室温(23℃)で60分間乾燥させた(フィラーコーティングの乾燥膜厚:52±6μm、但し、コーティング組成物C2の乾燥膜厚:71μm)。
【0123】
こうして得られたフィラーコーティングフィルムを、白色トップコート(マスターバッチ:Series 68 CV,製品番号:68-RAL 9010;硬化剤:Hardener CV,製品番号:922-138;シンナー:製品番号:352-216;4:1:1(v/v/v);すべてBASF Coatings GmbHから入手可能)でスプレーするスプレー塗布(スプレーガン:SATA 3000 RP、ノズル:1.4mm、圧力:2.5バール)により上塗りし、60℃で30分間乾燥して、58μmの乾燥膜厚を得た。
【0124】
腐食試験結果
【0125】
【表3】
【0126】
表3に示すように、AASS試験において、本発明のフィラーコーティング組成物E1~E4は、腐食防止剤を含有しない比較用フィラーコーティング組成物C1及びヒドロキシル基を含まない3-メチルアントラキノンである比較用フィラーコーティング組成物C2と比較して非常に優れていた。コーティング組成物E3でも、他の実施例と比較してこの実施例の乾燥膜厚が低減しているにもかかわらず、依然として良好な腐食抑制効果を示した。
【0127】
さらに、一定気候試験(CCT;240時間)に供したアルミニウム合金パネル(AlMgMn4.5)でのクロスカット試験、光沢(60°)試験、及びブリスターの数/サイズの決定の結果は、非常に満足のいくものであり、いずれの試験パラメーターにおいても腐食防止剤の悪影響は見られなかった。
【0128】
【表4】
【0129】
表4に示すように、AASS試験において、本発明のフィラーコーティング組成物E5~E8は、比較用フィラーコーティング組成物C3が厚い乾燥膜厚で適用されているにもかかわらず、腐食防止剤を含有しない比較用フィラーコーティング組成物C3と比較して非常に優れていた。ヒドロキシル基を含まない3-メチルアントラキノンである比較用フィラーコーティング組成物C4は、本発明のフィラーコーティング組成物E5~E8で使用される腐食防止剤と比較して明らかに効果が低いことがわかった。