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特許7567046クリヤー層を有する積層体の製造方法、これにより得られる積層体、複合塗膜の製造方法、これにより得られる複合塗膜、これを用いた成形体の製造方法並びに成形体、および上記積層体から得られるクリヤー層
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  • 特許-クリヤー層を有する積層体の製造方法、これにより得られる積層体、複合塗膜の製造方法、これにより得られる複合塗膜、これを用いた成形体の製造方法並びに成形体、および上記積層体から得られるクリヤー層 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】クリヤー層を有する積層体の製造方法、これにより得られる積層体、複合塗膜の製造方法、これにより得られる複合塗膜、これを用いた成形体の製造方法並びに成形体、および上記積層体から得られるクリヤー層
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/15 20060101AFI20241007BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20241007BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B32B37/15
B32B27/06
B05D3/00 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023516371
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014643
(87)【国際公開番号】W WO2022224710
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021072858
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510144591
【氏名又は名称】BASFジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】香川 正
(72)【発明者】
【氏名】入江 剛
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 貢一
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 功一
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓也
(72)【発明者】
【氏名】日下部 輝
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240960(JP,A)
【文献】特開2006-341388(JP,A)
【文献】特開2005-169654(JP,A)
【文献】特開2005-335161(JP,A)
【文献】特開2006-62231(JP,A)
【文献】特開2008-110651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース材上に、溶剤型クリヤー塗料組成物を施与し、
前記溶剤型クリヤー塗料組成物上に、前記溶剤型クリヤー塗料組成物が未硬化の状態でカバー材を配置し、
これにより得られた前記ベース材と、前記溶剤型クリヤー塗料組成物と、前記カバー材とから構成される未硬化積層体をエージング処理に付すことにより、前記未硬化の溶剤型クリヤー塗料組成物を硬化させて、硬化したクリヤー層を含む硬化積層体を形成する各工程を含み、
前記カバー材が、前記溶剤型クリヤー塗料組成物中の溶剤を捕獲及び通過させる材料であることを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記カバー材が、密度0.09~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、表面粗さRa1μm以下、鉛筆硬度6B~4Hを有する樹脂から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ベース材上に、予め、溶剤型プライマー塗料組成物を施与し、
前記溶剤型プライマー塗料組成物上に、前記溶剤型クリヤー塗料組成物の前記施与を行い、
前記溶剤型クリヤー塗料組成物上に、前記溶剤型クリヤー塗料組成物が未硬化の状態でカバー材を配置し、
これにより得られた前記ベース材と、前記溶剤型プライマー塗料組成物と、前記溶剤型クリヤー塗料組成物と、前記カバー材とから構成される未硬化積層体を前記エージング処理に付す、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記未硬化積層体を巻き取り処理に付して巻回体とする工程を更に含み、前記巻回体を前記エージング処理に付す、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記カバー材が、セルロース、アセチル化セルロース、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶剤型クリヤー塗料組成物は、1種類以上の水酸基含有(メタ)アクリル樹脂と、イソシアネート架橋剤とを含む組成物、またはウレタンポリマー溶液を含む組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶剤型クリヤー塗料組成物が、更に耐候安定剤を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ベース材が、プロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマー、またはアクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含む組成物の硬化物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記組成物がヒンダードアミン系耐候安定剤を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ベース材が、密度0.09~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、表面粗さRa1μm以下、鉛筆硬度6B~4Hを有する樹脂から構成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ベース材がセルロース、アセチル化セルロース、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、前記ベース材と、前記硬化したクリヤー層と、前記カバー材とを含む積層体。
【請求項13】
請求項12に記載の積層体から、前記カバー材を除去することにより、前記ベース材および前記硬化したクリヤー層を含む複合塗膜を含む複合塗膜を製造することを特徴とする、複合塗膜の製造方法。
【請求項14】
請求項13の製造方法により得られた複合塗膜。
【請求項15】
請求項14に記載の複合塗膜を基体に施して、前記クリヤー層を有する成形体を製造することを特徴とする、成形体の製造方法。
【請求項16】
前記成形体は、前記複合塗膜を前記基体に対してインサート成形することにより成形され、前記クリヤー層を最外層被覆として有することを特徴とする請求項15に記載の成形体の製造方法。
【請求項17】
前記基体が、自動車、自動二輪車、自転車、道路用資材、船舶、鉄道車両、航空機、建造物、建築材料、家具、家電製品、容器、楽器、事務用品、スポーツ用品、玩具、これらの部品または部分から選択される請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか1項に記載の製造方法により得られる成形体。
【請求項19】
請求項10または11に記載の製造方法により得られる、前記ベース材と、前記硬化したクリヤー層と、前記カバー材とを含む積層体。
【請求項20】
請求項19に記載の積層体から、前記ベース材および前記カバー材を除去することにより得られるクリヤー層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤー層を有する積層体の製造方法、これにより得られる積層体、複合塗膜の製造方法、これにより得られる複合塗膜、これを用いたインサート成形体の製造方法並びに成形体、および上記積層体から得られるクリヤー層に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体を構成する金属基板は、一般に、錆止および上層との密着性確保のための下地層、補強および着色のための中塗り層および上塗り層、および塗膜表面保護および加飾のためのクリヤー層等からなる積層構造の塗膜に被覆される。
【0003】
このような積層体の各層、特に、中塗り層、上塗り層、および最外層となるクリヤー層は、従来の、流体状の塗料をスプレー塗布等する塗装技術により製造可能である。この他にも、塗料を予め成形・硬化することにより可撓性のフィルムを得、これを下層(中塗り層または上塗り層)上に密着させることにより施与することも、少なくとも理論上は可能であり、その一例として既存の塗膜上に施す加飾フィルムが挙げられる。
【0004】
上記のうち、流体状の塗料を用いた、いわゆるコーティングによる塗装では、所望の材料が選択可能であることから、美観及び物理的特性の面では申し分のない塗膜が得られるが、塗工から硬化までの時間が長く、その間、エージング条件や、クリーン条件を一定とした上で、自動車などの製品または部品(被塗物)表面での塗膜の硬化を観察する必要がある。更に、スプレー塗布等による塗装では、塗料の多くの部分が被覆対象には付着せずに大気中に放出されることや、塗工中に発生するCOや有機溶剤(VOC)の環境への影響が懸念される。
【0005】
一方、塗膜を押出成形等によりフィルム化し、被覆対象に施与する方法では、用いる材料が押出成形用として適する必要があるが、押出成形の加熱条件等を考慮すると、フィルム化に適用可能な樹脂等には種類に制限が生ずる。また、このような方法により得られた加飾フィルムないしクリヤー層は、風雨や高温に暴露されると、耐候性、耐薬品性、および耐擦傷性(例えば耐洗車キズ付き性)に代表される物理的特性の要求を満たす必要がある。成形段階に要求される条件を満たす材料が限られる中、上記の物理的特性を全て満足するフィルムは未だ報告されていない。
【0006】
さらに、フィルムの用途によっては、高級車を含む自家用車等に要求されるような審美性を満足するクリヤー層の製造が望まれる。可撓性フィルムを工業規模で大量に生産するためには、これを巻き取って保管等をすることが一般的であり、生産性向上等のために、所定の巻き取り速度が要求されるが、高速の搬送によればフィルムの表面に負荷がかかり、高級車を含む自家用車等に要求されるような審美性を満足するクリヤー層をフィルムとして製造することには困難である。また、巻き取り速度を所定水準に維持する以上、成形後、巻き取り前のフィルム表面に何等かの付加的な処理を施して、フィルム表面の状態を向上させることも容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術に鑑み、本発明は、従来の塗装(コーティング)により得られる塗膜製造に代わり、環境に対する負荷が抑制され、且つ簡便であり、一定品質のクリヤー層を与えることが可能な積層体の製造方法およびこの製造方法により得られる積層体を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、上記の積層体より複合塗膜を製造する方法、これにより得られる複合塗膜、複合塗膜を用いた成形体の製造方法並びに成形体、および上記積層体から得られるクリヤー層を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意研究の結果、上記の課題が、
ベース材上に、溶剤型クリヤー塗料組成物を施与し、
溶剤型クリヤー塗料組成物上に、溶剤型クリヤー塗料組成物が未硬化の状態でカバー材を配置し、
これにより得られたベース材と、溶剤型クリヤー塗料組成物と、カバー材とから構成される未硬化積層体をエージング処理に付すことにより、未硬化の溶剤型クリヤー塗料組成物を硬化させて、硬化したクリヤー層を含む硬化積層体を形成する各工程を含み、
カバー材が、溶剤型クリヤー塗料組成物中の溶剤を捕獲、通過、又は捕獲及び通過させることが可能な材料であることを特徴とする、積層体の製造方法により達成されることを見出した。
【0010】
また、上記製造方法では、カバー材が、密度0.09~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、表面粗さRa1μm以下、鉛筆硬度6B~4Hを有する樹脂から構成されることが好ましい。
【0011】
また、上記製造方法では、ベース材上に、予め、溶剤型プライマー塗料組成物を施与し、
溶剤型プライマー塗料組成物上に、溶剤型クリヤー塗料組成物の施与を行い、
溶剤型クリヤー塗料組成物上に、溶剤型クリヤー塗料組成物が未硬化の状態でカバー材を配置し、
これにより得られたベース材と、溶剤型プライマー塗料組成物と、溶剤型クリヤー塗料組成物と、カバー材とから構成される未硬化積層体をエージング処理に付すことも可能である。
【0012】
さらに、上記製造方法では、未硬化積層体を巻き取り処理に付して巻回体とする工程を更に含み、巻回体をエージング処理に付すことも可能である。
【0013】
上記製造方法において、カバー材は、セルロース、アセチル化セルロース、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布とすることができる。
【0014】
上記製造方法において、溶剤型クリヤー塗料組成物は、1種類以上の水酸基含有(メタ)アクリル樹脂と、イソシアネート架橋剤とを含む組成物、またはウレタンポリマー溶液を含む組成物であてもよく、さらに耐候安定剤を含んでいてもよい。
【0015】
ポリプロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーから選択されるポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物あるいはアクリルニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体を含む組成物の硬化物を用いることができ、このポリプロピレン組成物およびアクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含む組成物は、いずれもヒンダードアミン系耐候安定剤を含むことが好ましい。
【0016】
上記製造方法において、ベース材としては、プロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマー、またはアクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含む組成物の硬化物を用いることができ、このヒンダードアミン系耐候安定剤を含むことが好ましい。
【0017】
ベース材が、密度0.09~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、表面粗さRa1μm以下、鉛筆硬度6B~4Hを有する樹脂から構成されるものであってもよい。ベース材は、セルロース、アセチル化セルロース、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布とすることができる。
【0018】
また、本発明の目的は、上記いずれかの製造方法により得られる、ベース材と、硬化したクリヤー層と、カバー材とを含む積層体により達成される。
【0019】
また、本発明の目的は、上記の積層体から、カバー材を除去することにより、ベース材および硬化したクリヤー層を含む複合塗膜を含む複合塗膜を製造することを特徴とする、複合塗膜の製造方法
により達成される。
【0020】
さらに、本発明の目的は、上記の製造方法により得られた複合塗膜により達成される。
【0021】
本発明の上記の目的は、上述の複合塗膜を基体に施して、クリヤー層を有する成形体を製造することを特徴とする、成形体の製造方法により達成され、
成形体は、複合塗膜を基体に対してインサート成形することにより成形され、クリヤー層を最外層被覆として有することができる。
【0022】
上記の基体は、自動車、自動二輪車、自転車、道路用資材、船舶、鉄道車両、航空機、建造物、建築材料、家具、家電製品、容器、楽器、事務用品、スポーツ用品、玩具、これらの部品または部分から選択することができる。
【0023】
本発明の上記目的は、上記の製造方法により得られる成形体によっても達成される。
【0024】
また、本発明の目的は、上記の製造方法により得られる、ベース材と、硬化したクリヤー層と、カバー材とを含む積層体によっても達成される。
【0025】
更に、本発明の目的は、上記の積層体から、ベース材およびカバー材を除去することにより得られるクリヤー層によっても達成される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の積層体の製造方法によると、溶剤型クリヤー塗料組成物に対して所定の特性を有するカバー材が直接的に施されることにより、溶剤型クリヤー塗料組成物中の溶剤が良好に除去される。すなわち、カバー材が、溶剤を捕獲し、通過させ、又は捕獲及び通過させる役割を果たす。これにより、本発明の製造方法では従来の、特に被覆対象に対して直接スプレー塗装を行うコーティング(流体の塗装)に比較して、環境に対する負荷が大幅に軽減され、少ない製造工程により、簡便かつ短時間で、一定品質の(すなわちクリヤー塗料組成物の種類に応じて品質にばらつきがない)クリヤー層含む積層体の製造方法が提供される。さらに、本発明の製造方法では、上記のクリヤー層、またはこのようなクリヤー層および任意のプライマー層、およびベース層を含む積層体を提供することできる。さらに、得られた積層体を、これに含まれるカバー材を剥離して、自動車の車体またはその一部(部分)等の基体(被覆対象)に対し、クリヤー層が最外層被覆となるように、インサート成形等により取り付けることにより、上述の特性を有するクリヤー層に被覆されたインサート成形体等の成形体を得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法によれば、耐候性、耐薬品性、耐擦傷性等の物理的特性においても、クリヤー塗料組成物の種類に応じて、コーティングの場合と少なくとも同水準の優れた品質の塗膜を得ることができる。更に、所定の態様により、表面平滑性が向上し、優れた美観を与える、高品質のクリヤー層、これを含む積層体および複合塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る、積層体の製造方法を説明するための図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る、積層体およびこれを用いた成形体の一製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の製造方法では、被覆対象(基体ともいう)に対しての表面被覆に使用可能な、クリヤー層を含む積層体を製造する。本発明の積層体を適用する基体に特に限定はないが、合成樹脂製、特に熱可塑性樹脂製の基体を主な適用対象としている。基体の代表的な例は、近年開発された軽量でありながら強度に優れた樹脂を含む合成樹脂全般であって、特に、自動車、二輪車等を始めとする車両・車体、その部分や部品にも適用可能な材料が挙げられる。
【0030】
本発明では、このような合成樹脂からなる被覆対象に、本発明のベース材(ベースフィルム)、任意構成としてのプライマー層(プライマーフィルム)、クリヤー層(クリヤーフィルム)、およびカバー材(カバーフィルム)を積層してなる積層体からカバー材を剥離して得られる複合塗膜をインサート成形等の複合成形により施すことができる。カバー材は、被覆対象に適用される前まではクリヤー層保護のために、積層体の一部として維持され、被覆対象への適用の直前に剥離されることが好ましい。
【0031】
複合塗膜をインサート成形に適用する場合は、(i)複合塗膜をベースフィルム側が被覆対象(固体状のワーク)に接するようにインサート成形用の金型内に導入し、あるいは(ii)複合塗膜をクリヤー層側が金型内表面に対向するように配置し、樹脂を射出成型することにより、加熱溶融状態の樹脂圧力と熱により複合塗膜を金型形状に変形させる。これにより、上記(i)の場合には、ベースフィルムの材料と、被覆対象の材料である合成樹脂製のワークの表面と、の双方が溶融し、融合・熱融着することにより、両者が強固に一体化する。また、上記(ii)の場合には、溶融状態の樹脂が溶融変形した複合塗膜の表面と融合・熱融着して、強固に一体化される。さらに、着色されたベースフィルムや、ベースフィルム上に更に付加的に印刷されたインキ層を用いる場合には、クリヤー層がこれを保護することにより、一機に複数層からなる多機能層が被覆対象上に積層されることになる。
【0032】
なお、ベース材、プライマー層及びクリヤー層の積層順は、記載のとおりであるが、積層体を構成する各層の性能や品質や製造工程に好ましくない影響を与えない限り、各層ベース材とプライマー層の間、及びプライマー層とクリヤー層の間に、別の層、例えば印刷層を設けることが可能である。同様に、被覆対象についても、必要な前処理を施してから、複合塗膜を施すことができる。
【0033】
以下、本発明の積層体の製造方法を説明する。
【0034】
本発明では、各組成物または層などの位置関係を示す場合に、「ベース材上」などの表現における「上」とは、必ずしも下の層と上の層等が接して設けられていることを意味するものではなく、これらの層等が下方と上方に離間して存在すること、すなわち両相の間に別の層が介在することを含む。これに対し、「直上」または「直接」という表現では、位置関係を示す限りにおいて、上下の層等が接して設けられることを意味する。
【0035】
本発明の積層体は、ベース材(base member)上に、溶剤型クリヤー塗料組成物(クリヤー組成物ともいう)を施与する工程(クリヤー組成物施与工程)、
溶剤型クリヤー塗料組成物上に、溶剤型クリヤー塗料組成物が未硬化の状態でカバー材(cover member)を配置する工程(カバー材配置工程)、および
これにより得られたベース材と、溶剤型クリヤー塗料組成物と、カバー材とから構成される溶剤クリヤー塗料組成物が未硬化の積層体をエージング処理に付すことにより、溶剤型クリヤー塗料組成物を硬化させてクリヤー層とする工程(エージング硬化工程)を含む各工程により製造される。
【0036】
また、上記クリヤー組成物施与工程に先立ち、ベース材上に、溶剤型プライマー塗料組成物を施与する工程(プライマー組成物施与工程)を行うこともできる。
【0037】
この場合は、一般に、溶剤型プライマー塗料組成物(プライマー組成物ともいう)を、比較的薄い膜厚(例えば5μm)で塗布し、塗布後、クリヤー組成物塗布前に、高温(例えば140℃)の乾燥工程のみで硬化を行うことができる。硬化したプライマー層に対して任意に前処理等を施した後に、クリヤー組成物を塗布することができる。なお、本発明の溶剤型プライマー塗料組成物および溶剤型クリヤー塗料組成物における「溶剤型」とは、各組成物が後述の有機溶剤を含む組成物とされていることを意味する。
【0038】
クリヤー組成物施与の後、上述のカバー材配置工程を行い、得られたベース材と、任意に設けられたプライマー層と、溶剤型クリヤー塗料組成物と、カバー材とから構成される積層体をエージング処理に付すことにより、および溶剤型クリヤー塗料組成物を硬化させて、クリヤー層とする(エージング硬化工程)。
【0039】
本発明では、未硬化の溶剤型クリヤー塗料組成物上に、上記所定のカバー材が直接接するように配置されることにより、クリヤー組成物中から硬化までに除去すべき溶剤が良好に除去される。除去の対象とする溶剤は、プライマー組成物およびクリヤー組成物の製造に用いられた残留溶剤または後に添加されることのある有機溶剤、特に揮発性有機溶剤(VOC)である。ここで、揮発性有機溶剤(VOC)とは大気汚染防止法第2条第4項「大気中に排出され又は飛散したときに気体である有機化合物」と定義される約200種類の化合物である。本発明では、このようなVOCの排出を最小限にすべく、カバー材にてこれを捕獲し、またはカバー材を通過させた後にこれを捕獲可能として、大気汚染を最小限に抑えることができる。また、本発明の方法では、スプレー噴霧等の有機溶剤拡散が不可避となる方法によらず、スプレー噴霧による塗装と同等以上の外観および物理的特性を有するクリヤー層を含む積層体、合一層、またはクリヤー層の製造が可能である点、特に有用性がある。
【0040】
本発明では、クリヤー組成物中に含まれる揮発性有機溶剤(VOC)、例えばシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等、特に酢酸n-ブチル、キシレンを良好にカバー材中に捕獲し、或いはこれを通過させたのちにも補足可能とし、或いはそもそも噴霧手段を用いずに有機溶剤の放出を最小限としつつ、所望の積層体、合一層およびクリヤー層を製造することを容易にするものである。
【0041】
上記各工程の詳細は以下のとおりである。
【0042】
[プライマー組成物施与工程]
本発明では、まずベース材に対し、プライマー組成物を施与する。
【0043】
プライマー組成物は、塗膜に所定の接着強度を与えて、プライマー層を形成する材料である。プライマー組成物としては、いかなる公知の材料も使用可能であり特に制限はないが、主成分としてアクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系、エポキシ系樹脂、変性ポリプロピレン樹脂およびそれらの混合物等が用いられる。
【0044】
なお、ベース材の種類については後述するが、例えば、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)をベース材の主な樹脂成分とする場合には、プライマーの施与を割愛することが一般的である。しかし、ABS樹脂への溶剤の浸透を防ぐ必要がある場合には保護膜、下地塗膜が必要となる。
【0045】
プライマー組成物の塗膜の膜厚は、例えば1~100μm、好ましくは3~65μm、特に3~10μmとされる。1μm以上であれば、プライマー組成物の塗装を安定かつ均一とすることが可能であり、100μm以下であれば、フィルムを巻き取る際に必要な柔軟性を確保することができる。
【0046】
プライマー組成物の固形分(25℃)は、一般に5~50質量%、好ましくは10~30質量%とされ、粘度(25℃)は、一般に10~50mPa.s、好ましくは20~30mPa.sとされる。固形分および粘度は、プライマー組成物の塗装方法に応じても適宜調整されるが、10mPa・s以上とすることにより、組成物の塗布の際の展延性が確保され、以下とすることにより硬化物の膜厚が十分となる。またプライマー組成物は、塗工後、40~200℃、好ましくは70~150℃の乾燥炉に3~30分間載置し、プライマー組成物の固形分が約100%になるまで、例えば30分間にわたり乾燥させることが好ましい。プライマー層を含まない積層体または複合塗膜を製造する場合には、この工程は割愛されることは言うまでもない。
【0047】
[クリヤー組成物施与(塗布)工程]
プライマー層を含む積層体または複合塗膜を製造する場合には、固体のベース材上のプライマー層に対し、クリヤー組成物を施与する。一方、プライマー層を含まない積層体または複合塗膜を製造する場合には、基体上にクリヤー組成物を施与する。クリヤー組成物は、一般に、塗装の最外層としてのクリヤーコート層を形成する材料であり、着色されたベース材の発色に透明感を与えて美観を付与することができる。さらにクリヤー層自体も透明な審美性を保持し、かつ耐候性、耐薬品性、および耐擦傷性を含む物理的特性を有するものとすることができる。
【0048】
なお、本発明において「組成物」とは未硬化の状態の組成物を、プライマー層、クリヤー(コート)層などの「層」とは硬化した層を意味する。
【0049】
クリヤー組成物の塗膜の膜厚は、例えば10~150μm、好ましくは10~100μm、特に20~50μmとされる。10μm以上であれば、クリヤー組成物の塗装を安定かつ均一とすることが可能であり、150μm以下であれば、フィルムを巻き取る際に必要な柔軟性を確保することができる。
【0050】
クリヤー組成物の固形分(25℃)は、一般に20~90質量%、好ましくは30~60質量%とされ、粘度(25℃)は、一般に10~100mPa.s、好ましくは20~70mPa.sとされる。固形分および粘度は、クリヤー組成物の塗装方法に応じても適宜調整されるが、固形分20質量%以上および/または粘度10mPa・s以上とすることにより、組成物の塗布の際の展延性が確保固形分90質量%以下および/または粘度100mPa・s以下とすることにより硬化物の膜厚が十分となる。またクリヤー組成物は、塗工後50~200℃、好ましくは50~150℃で、クリヤー組成物の固形分が98%、好ましくは約100%になるまで、例えば30分間にわたり乾燥させることが好ましい。
【0051】
なお、プライマー、クリヤー各組成物の粘度の測定はTVB-10M型粘度計 (東機産業社製)により行われたものを表記した。
【0052】
プライマー組成物およびクリヤー組成物の塗布は、それぞれ、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機の通常使用される塗装機、又は刷毛、バーコーター、アプリケーター等を用いたコーティングにより行われることが好ましい。前後の処理工程を連続的に行うことや、および塗膜量の的確な制御を考慮すると、ロールコーターが好ましく用いられる。この塗工方法では、必要十分な塗布量で、ベース材に対し迅速かつ一定の膜厚の塗布を行うことができるためである。
【0053】
この他の塗布方法として、スプレー塗布を選択することも可能ではある。その場合には、本発明の目的に照らして、環境への配慮を十分に行い、クリヤー層を得るために必要最低限の量のクリヤー組成物を用い、上述の好ましい方法と同様に、ベース材外への放出を抑制する措置を設けることが望ましい。
【0054】
[カバー材施与工程]
上記の乾燥処理後、未硬化のクリヤー組成物の上、すなわちクリヤー組成物の上記のベース材(及びプライマー層)とは反対側の面上に、フィルム状等の固体のカバー材をラミネートすることにより未硬化積層体を得る。
【0055】
カバー材は、クリヤー組成物塗布の直後、好ましくは塗工から1~5分以内に、未硬化のクリヤー組成物上に、その表面を乱さず、かつその全体を覆うように、静置される。一般に用いられるラミネート装置、例えばラミネーター機を適用することができる。
【0056】
上記により本発明のベース材と、任意に設けられる硬化したプライマー層と、未硬化のクリヤー組成物と、及びカバー材を含む未硬化積層体が得られる。このように得られた積層体を、室温(25℃)以上、各組成物の硬化温度未満の温度、好ましくは25~80℃、特に好ましくは40~70℃、特に好ましくは40~60℃のエージング処理に、通常は1~7日付すことにより、クリヤー組成物および未硬化のプライマー組成物が存在する場合にはこれを硬化させ、それぞれクリヤー層および場合によりプライマー層を有する硬化積層体とする。
【0057】
クリヤー組成物中に含まれる有機溶剤や気体は、溶剤型クリヤー塗料組成物中の溶剤を捕獲、通過、又は捕獲及び通過させるものである。ここで、「捕獲」とはカバー材に接して配置されるクリヤー組成物に含まれる有機溶剤や気体、およびクリヤー組成物中の成分の反応によって生ずる液体や気体が、材料内部に取り込まれ、カバー材の組織内に浸透しまたは吸着し、またはカバー材表面や多孔質材料の場合は孔の壁面に付着することを含み、「通過」とは上記の有機溶剤、液体、気体が、上記捕獲の有無にかかわらず、カバー材の内部を通り抜けて、カバー材のクリヤー組成物/クリヤー層と接しない面の外側にもたらされることをいう。
【0058】
本発明では、クリヤー組成物は、ベース材とカバー材の間に存在して、これらに固定的された状態で挟持されるため、クリヤー組成物独自の表面張力およびカバー材の毛細管現象により、有機溶剤がカバー材に受け止められて(捕獲)、その大部分は最終的にカバー材を通過する。揮発性の高い有機溶剤は、必ずしもカバー材に受け止められることなく、これを通過する。すなわち、有機溶剤中に存在する気体(空気など)または硬化反応中に発生する気体(COなど)や液体も、エージング処理の間にカバー材を通過してし、この際に生ずる気泡も破泡する。
【0059】
また、クリヤー組成物、特にクリヤー組成物表面は、その上に直接接設けられるカバー材により影響を受ける。
【0060】
本発明では、カバー材が、密度0.09~1.4g/cm、好ましくは1.2~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、好ましくは0.5~6.5%、表面粗さRa1μm以下、好ましくは0.01μm~1μm、さらに好ましくは0.01μm~0.1μm、表面鉛筆硬度6B~4H、好ましくは2B~4H、特に好ましくは2H~4Hという物性を全て有することにより、未硬化のクリヤー組成物に残留する溶剤の揮発を促進し、かつ得られる積層体のクリヤー層の表面の美観と物理的特性が向上する。上記特性を有するカバー材を用いることにより、カバー材の平滑性がクリヤー層に転写されて、滑らかで、平滑性に富み、場合によっては光沢にも優れたクリヤー層が形成される。さらに、目的とするクリヤー層に必要な物理的特性などの性状を勘案して、クリヤー組成物を選択し、カバー材も上記各特性の範囲をクリヤー組成物の種類に応じて適したものとすることにより、クリヤー組成物の物理的特性を最大限に引き出すとともに、カバー材表面の滑らかさがクリヤー層に転写される。この転写のためには、クリヤー組成物に対して適する硬度を有することが必要である。なお、クリヤー組成物と、カバー材の適する組み合わせの例は後述する。
【0061】
また、本発明の、ベース材、クリヤー層、カバー材を含む積層体は、積層体からカバー材が剥離された状態で、被覆対象への複合塗膜への適用が可能とされる。換言すれば、カバー材はクリヤー層硬化後には剥離されるものであるため、所定の剥離性も要求される。
【0062】
なお、自動車などの外装としてクリヤー層を用いる場合には、表面粗さの小さいカバー材を適用することが考えられるが、自動車や建築物の内装など、例えば繊維質を思わせるような風合いのクリヤー層を製造するなどの場合には、表面粗Raをあえて大きくするなどの適用も可能である。
【0063】
なお、上記の各値は、以下の方法/基準により求めたものであり、この明細書では、別途の記載がない限りは、各値はこれに準じている。
【0064】
密度の測定法は、JIS K7112:1999 プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法に準じて測定した。
【0065】
吸水率の測定法は、サンプルの厚みが100μm以上の場合は、JIS K7209:2000 -プラスチックの吸水率の求め方に準じ、サンプルの厚みが100μm未満の場合は、JIS K7129:2008 プラスチック-フィルム及びシート- 水蒸気透過度の求め方に準じて測定した(いずれも、カバー材サンプルを24時間にわたりクリヤー組成物表面と接触させた場合の吸水率及び水蒸気透過率)。なお、上記JISでは「吸水率」とされているが、本発明ではこれを吸有機溶剤率と読み替え、同様の試験により値を求めた。
【0066】
表面粗さRaは、JIS B 0601:1994, JIS B 0031:1994の算術粗さRaに準じて測定した。
【0067】
表面鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4 「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に準じて測定した。
【0068】
カバー材の上記の各特性値は、例えば以下のように、その直下のクリヤー組成物に応じて、適宜選定することができる。すなわち、
(1) 密度1.2~1.4g/cm、吸水率3.0~7.0%、表面粗さRa0.01μm~0.1μm、表面鉛筆硬度2H~4Hのカバー材(具体例TACフィルム)は、 ポリ(メタ)アクリレートとメラミンなどのアミノプラスト成分を樹脂成分とするクリヤー組成物、ポリ(メタ)アクリレートとポリ(ブロック)イソシアネートを樹脂成分とするクリヤー組成物、アクリル・ウレタン系の樹脂等(例えばウレタン変性された(メタ)アクリレートを主成分とするクリヤー層が得られる)に対して用いられる。
【0069】
(2) 密度1.1~1.2g/cm、吸水率0.3~0.5%、表面粗さRa0.1μm~1μm、表面鉛筆硬度6B~2Hのカバー材(具体例:アクリルフィルム(ポリ(メタ)アクリレート)は、(メア)アクリレートを樹脂成分とするクリヤー組成物等に対して用いられる。非変性(メア)アクリレート自体は、材料の特性から、上記(1)の変性(メア)アクリレート場合と対比した場合の耐薬品性、耐擦傷性等の物理的特性は低いが、本発明の製造方法によると、非変性(メア)アクリレートの従来の塗装により得られる層と同様以上の物理的特性を有し、且つ表面平滑性および光沢性が向上した硬化層が得られるため、有効であり、特に車の内装材、建築物の室内用のパネル、および装飾品などの分野で使用される。
【0070】
(3) 密度0.09~1.0g/cm、吸水率<0.01%、表面粗さRa0.1~1μm, 表面鉛筆硬度6B~Hのカバー材(具体例:多孔質ポリプロピレンフィルムおよび多孔質ポリエチレンフィルム、ポリオレフィン不織布)は、場合によっては、表面をコロナ処理等の前処理を施工することにより、ポリ(メタ)アクリレートとポリ(ブロック)イソシアネートを樹脂成分とするクリヤー組成物、アクリル・ウレタン系の樹脂、例えばウレタン変性された(メタ)アクリレートを主成分とするクリヤー層等の樹脂成分を含むクリヤー組成物等に対して用いられる。
【0071】
(4) 密度1.1~1.2g/cm、吸水率1~2%、表面粗さRa0.1~1μm、表面鉛筆硬度B~H (具体例:ポリアミドフィルム)はポリ (メタ)アクリレートとメラミンなどのアミノプラスト成分を樹脂成分とするクリヤー組成物に対して用いられる。ポリアミドは、材料の特性から、上記(1)の変性(メア)アクリレート場合と対比した場合の耐擦傷性等の物理的特性は低いが、本発明の製造方法によると、ポリアミドによる従来の塗装による塗膜と同様以上の物理的特性を有し、且つ表面平滑性および光沢性が向上した層が得られるため、建材部品、家電製品等の塗膜として好適に用いられる。
【0072】
以上のように、クリヤー組成物の性状に併せて、適するカバー材を使用することにより、いずれの場合にも材料ごとの特性に応じた、塗装による塗膜を超える優れた表面特性(光沢性、平滑性)と、その材料ごとの十分な物理的特性を実現することができる。
【0073】
カバー材を構成する材料の具体例としては、セルロース、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセチル(化)セルロース、(メタ)アクリル樹脂またはポリアミド、アクリル系樹脂、シクロオレフィン、多孔質ポリエステルフィルム、多孔質のポリオレフィンフィルム、およびこれらの不織布を挙げることができ、このうち好ましくはセルロース、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセチル化セルロース、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布、特に好ましくはアセチル化セルロース、ポリアミドが用いられる。これらは単独で用いても、複数種類の混合物として用いてもよく、カバー材が被覆するクリヤー組成物の性質に合わせて選択される。
【0074】
特に未硬化クリヤー組成物を、カバー材とベース材とで鋏み固定でき、エージング時にクリヤー組成物の有機溶剤等の揮発物や空気を透過させ、カバー材の持つ平滑性をクリヤー層表面に転写させ、クリヤー層硬化後に簡単にはがれることに適する材料としては、上記材料の中でも、トリアセチルセルロースを単独で用いることが極めて好ましい。
【0075】
本発明ではカバー材が添加剤を含まないことが好ましい。カバー材に添加剤が含まれる場合には、これに接するクリヤー組成物が硬化する際に、クリヤー組成物の有機溶剤がカバー材の添加剤を取り込みながらカバー材を通過・移動することになり、添加剤がクリヤー組成物/クリヤー層にブリードして、クリヤー層表面を汚す可能性がある。カバー材が添加剤を含まないことにより、このような可能性が排除され、クリヤー層の優れた表面品質の確保につながる。更に、製造のコストや手間の削減ともなる。上記のカバー材の例のうち、特にセルロース、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセチル(化)セルロース、アクリル樹脂については添加剤を用いることなく優れた平滑性を有する平面を形成することができる。
【0076】
カバー材は、一般にフィルムとして製造され、膜厚は10~100μm、好ましくは25~80μm、特に好ましくは40~80μmの範囲とされる。膜厚が10μm以上であることにより、これにより被覆されるクリヤー樹脂塗料組成物の表面に密着して平滑性を与えることができ、100μm以下とすることによりクリヤー組成物中の溶剤が良好に吸着され、放出される。また、フィルム状のカバー材(以下、カバーフィルムともいう)は、その保管、およびこれをクリヤー組成物上にもたらす際の巻き出し等の便宜等を考慮して、一般には巻回体(ロール)状とされるが、上記の範囲の膜厚であれば、巻き取り、巻き出しも良好に行われる。
【0077】
また、上述のクリヤー組成物のエージング処理は、加熱乾燥器、恒温乾燥室等の機器を用いて行うことができる。恒温に制御することにより、塗膜が一定速度で硬化し、組成物の反応状態が安定し、塗膜深部まで均一な硬化が行われる。
【0078】
さらに、フィルム状のカバー材を製造するためには、公知のフィルム成形法、例えば溶融押出成型法、溶液流延法、共押出法、カレンダー法、ラミネート法等が用いられる。表面平滑性の高いクリヤー層を得るために用いられる場合には、カバー材について上記いずれのフィルム成形方法を用いた場合にも、表面の平滑性に優れたカバーフィルムを製造できることが重要である。その平滑なカバー材表面を未硬化のクリヤー組成物の表面に密着せることにより、クリヤー層にもその平滑性が転写されるためである。また、カバーフィルムは、押出後、ロール状とされることが一般的であることから、公知のフィルム化・巻き取りを兼ねた機器でも製造される。
【0079】
上記のように得られた未硬化積層体の作製は、搬送システムにより順次行うことが可能であり、未硬化積層体は巻き取られた状態でエージングされ、そのまま保管・出荷することも一般的に行われる。図1は、本発明の積層体の製造方法に適用可能な巻き取り処理についての概略説明図である。同図により未硬化積層体の巻き取り方法の例を説明する。
【0080】
図1のロールラミネート装置1では、ロール状のベース材(ベースフィルム)10がローラー10aにより保持され、巻き出されたベース材10が矢印a方向に搬送されている。ベース材10上面には、ロールコーター装置12によりクリヤー組成物14が均一にコートされ、乾燥炉16の方向に搬送される。
【0081】
ベース材10上に塗布されたクリヤー組成物14は、乾燥炉16の炉内を通過することにより乾燥した状態とされる。 なお、図1ではベース材に直接クリヤー層を設ける場合の説明をするが、ベース材にプライマー層を設ける場合には、図1において巻き出し後のベース材に、ロールコーター装置(図示せず)と乾燥炉(図示せず)を更に用いることにより、プライマー組成物の塗布、乾燥させ、その後に、上記のクリヤー組成物14を塗布することができる。あるいはロールラミネーター装置を一度通してプライマー組成物を塗布、乾燥させたプライマー層を有する積層体(以下ドライフィルムという)をベース材として使用することも可能である。
【0082】
他方、ロール状のカバー材18(あるいはプライマー層を有するドライフィルム)はローラー18aに支持されて、矢印b方向に巻き出され、ベース材10(あるいはプライマー層を有するドライフィルム)の上のクリヤー組成物14上にもたらされることによりラミネート部20でラミネートされる。ラミネート部20は第一のラミネートロール20aと第二のラミネートロール20b間で、ベース材10(あるいはプライマー層を有するドライフィルム)およびクリヤー組成物14と、カバー材18とをラミネートするものである。ラミネートにより得られた積層体(クリヤー組成物未硬化の積層体)22は、矢印cおよびd方向へと連続搬送されて、積層体22を巻き取る手段であるローラー22aで巻き取られる。各フィルムおよびその積層体に所定の張力を与えるため、適宜張力付与手段としてのローラー24が用いられる。
【0083】
カバー材のラミネートは、第一のラミネートロール20aと第二のラミネートロール20bの圧力調整により、ラミネート圧力 0~7kg/cm、好ましくは1~6kg/cmとされ、温度15~35℃、好ましくは20~25℃に調整することができる。図1に示したような巻き取り装置を用いる場合にも、図示しない制御システムによりこれらの値を監視することができる。
【0084】
本発明の積層体を巻回体として製造する場合、その巻き取り速度は、特にクリヤー層の品質に影響を与えるものではないが、生産性の観点から通常10~50m/分、好ましくは10~20m/分の搬送速度/ラミネート速度とすることができる。
【0085】
また、ラミネートフィルムを巻き取る場合には、カバー材表面とベース材裏面とが接するために、ベース材の種類によっては、その裏面の粗さやシボ等がカバー材表面ないしクリヤー層の表面平滑性に影響を与える可能性がある。クリヤー層の表面平滑性を向上させる場合で、特に、使用する装置により巻取り圧力が比較的大きな値となる場合には、ベース材の裏面に保護層(保護フィルム)を設けることが好ましい。あるいは、ベース材として裏表両面が鏡面のもの、または一方面が鏡面、他方面がシボ面であるベース材を2枚用い、2枚のベース材のシボ面同士が対向するように貼り合わせることにより外側両面が鏡面となるように2層化したベース材を使用することも可能である。ただし、保護層を設けることによるコスト増になる場合も想定されることから、保護層を設けなくてもクリヤー層の表面平滑性を損うことのないクリヤー組成物の特性に応じた巻き取り圧力にすることも重要である。
【0086】
この他、ベース材として、カバー材と同様の材料を用いることにより、ロール状とされたにベース材の裏面の状態がクリヤー層表面に影響を与えることが回避される。
【0087】
なお、本発明の積層体の製造は、上記の巻回体としてしての製造方法に制限されるものではない。例えば、長尺状、方形状等の一定の大きさ・形状のベース材を準備し、これにクリヤー組成物を塗布し、クリヤー組成物の上面に、カバー材を静置して、クリヤー組成物とカバー材とを密着させることによっても、本発明の積層体を得ることができる。 この場合にも、クリヤー組成物と、カバー材の種類の選定によって、カバー材の剥離後に平滑、または、光沢性の高いクリヤー層を形成することができる。 また、所定の形状の積層体を、スタック状として重ねて保管等する場合にも、ベース材の裏面の粗さやシボ等(例えばポリプロピレン製ベースフィルムのシボ)が、カバー材またはクリヤー層に転写されないように、カバー材の厚みを増したり表面に更に上述の保護層を設けることも可能である。
【0088】
この場合の保護層としては、カバー材の上述の効果を損ねない層であることが必要である。このため、カバー材と同様の特性を有する層、特にアセチル化セルロースフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリオレフィン不織布等を使用することができる。
【0089】
いずれの場合にも、ベース材上に、クリヤー層、カバー材が厚さ均一で製造されることが好ましいが、その端面においては、クリヤー層がベース材、カバー材、またはそのいずれかよりもはみ出てしまうことや、ベース材、カバー材の全面に塗布されずにこれらの内側に凹んでしまうなど、積層体の端面に多少の凹凸が生ずることがある。この場合には、必要に応じて、端面を切断処理するなどして、端面に凹凸のない積層体、例えばロール状の積層体を製造することができる。
【0090】
[エージング硬化工程]
上記のように得られたロール状又はその他の形状の積層体は、エージング処理に付される。エージングは、ベース材、クリヤー組成物、及びカバー材からなる積層体を、そのまま、例えば室温~80℃の温度、大気圧で、1日(24時間)~7日程度保持することにより、クリヤー組成物中の反応性化合物を反応させるものである。これにより、クリヤー組成物の硬化物、すなわちクリヤー層が得られる。
【0091】
硬化したクリヤー層は、一般には透明または半透明であり、好ましくは透明であり、特に90%以上の高い光線透過度を有し、例えばCat.No.4442マイクログロス20°(グロス20°ともいう)表面光沢計(株式会社テツタニ製)で90以上、好ましくは92以上の優れた光沢の表面を形成することができる。
【0092】
[複合塗膜の製造]
各層が硬化した積層体からカバー材を剥離すること(カバー材剥離工程)により、複合塗膜を得ることができる。剥離は、手でも簡単に剥がすことが可能であるがフィルム剥がし装置(例えば保護フィルム剥離装置)により行うこともできる。
【0093】
カバー材の剥離後は、プライマー組成物を塗布した場合には、ベースフィルム/プライマー層/クリヤー層を、この順序で有する複合塗膜が得られ、ベースフィルムの上に直接的にクリヤー層を塗布した場合には、ベースフィルム/クリヤー層の複合塗膜が得られ、いずれもフィルム状の複合塗膜とすることができる。
【0094】
なお、所望により、ベースフィルムとプライマー層の間、およびプライマー層とクリヤー層の間に他の層を設けることも可能である。他の層の適用については、例えば特開平2000-301844号公報、特開平1992-366632号公報、特開平1992366633号公報、特開平2010-234366号公報、特開平2011-093306号公報を参照されたい。
【0095】
[積層体、複合塗膜の適用]
図2は、本発明の積層体およびこれを用いた成形体の製造方法を説明するための図であり、上述のエージング処理後によりクリヤー層を硬化させた積層体(硬化積層体)100が、基体200に施された様子を示す断面図である。積層体100は、ベースフィルム120の上に、順次プライマー層130、クリヤー層140、及びカバー材150を有している。なお、積層体100には保管ないしエージングにあたり上述のとおり保護フィルム(図示せず)を設けてもよい。
【0096】
ここでは一具体例として、インサート成形体の製造を説明する。機体200への適用にあっては積層体100を、ベースフィルム120側が基体200、例えば自動車の車体、部品またはこれらの一部等のワーク(半加工品)(好ましくは合成樹脂製)の表面に接するように配置し、保護フィルムが存在する場合にはこれを剥離の上、カバー材150を剥離し、複合塗膜(ベースフィルム120、プライマー層130、クリヤー層140の積層体)をインサート成形用の金型(図示せず)内に導入する。その後、ワークの内側から合成樹脂を金型内に射出成型することにより、複合塗膜のベースフィルム120が溶融した合成樹脂の熱により溶融して、基体200と融合し、好ましくは被覆対象である合成樹脂の表面部が溶融して溶融したベースフィルムと融合し、その後の冷却を経て一体化する。すなわち、これにより基体が複合塗膜により被覆されて、インサート成形体を構成する。なお、プライマー層は、任意に設けられることは上述の通りであり、その有無にかかわらずクリヤー層がインサート成形体の最外層被覆を構成することになる。
【0097】
[クリヤー層単層]
ベース材を剥離可能な状態で作成することにより、上記の積層体からカバー材のみならず、ベース材も剥離し、クリヤー層単層(クリヤーシートまたはフィルム)を製造することも可能である。この単体層は無色透明、有色透明のクリヤーシートまたはフィルムの硬化物、塊状、不定形等種々の形態として、自動車の外装部品、建具、窓、仕切り板などの建材、オフィス製品、日用品、文具、玩具、装飾品、又はそれらの最外装部、一部や付属品などとして使用される。例えば、ベース材を、上述のカバー材と同様の材質とすることも可能であり、その場合には、クリヤー層の両面を平滑性の高い良好な品質のものとして形成することが可能となる。すなわち、ベース材、カバー材の選択により、単層のクリヤー層の一方面のみ、または両面に平滑性を与えることができる。
【0098】
また、表面粗さの比較的大きなカバー材やベース材を用いれば、平滑性を有さない単層のクリヤー層が得られる。
【0099】
また、本発明のクリヤー層単層は、1層のみの単純な構成を有し、既存の装置を利用して、簡単な方法で製造することが可能であり、射出成型による場合等の複雑かつ高価な製造を行わないことからも、経済的な実益も大きい。さらに、製造工程が、図1に示したようなフローと、カバー材配置後のエージングにより行われることから、クリヤー組成物の使用量や溶剤揮発の制御や処理が容易に行われ、環境保護の観点からも優れている。同様のことが、上記の積層体、複合塗膜、これらの製造方法にも当てはまり、その結果、これを用いることにより得られるインサート成形体などの複合製品も効率的に製造される。
【0100】
以下、本発明の積層体に用いられる材料について説明する。
【0101】
[ベース材(ベースフィルム)]
ベースフィルムは、複合塗膜の施与対象の材質を考慮して適宜選択される。
【0102】
ベースフィルムの具体例としては、ポリプロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーから選択されるポリプロピレン(PP)を含むポリプロピレン組成物、あるいはアクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)を含む組成物の硬化物を使用することができる。このうち、ポリプロピレン等の表面の濡れ性の低い材料を用いる場合には、コロナ処理またはプラズマ処理等の前処理を行うことも有効である。ベース材表面を、公知の装置を用いてコロナ放電照射またはプラズマ処理することにより、その表面が改質して、ぬれ性(ぬれ張力)を向上させ、プライマー組成物の塗布の際の、ベース材表面のクリヤー組成物のはじきを未然に防止する。
【0103】
また、ポリプロピレン組成物およびABS樹脂を含む組成物は、NH型, NR型(N-アルキル型)、NOR型(N-アルコキシル型)のヒンダードアミン(HALS)が添加されたものであると、HALSが熱安定剤として作用するため、被覆対象の耐熱性、耐候性向上役立つ。また、製造された積層体をそのまま保管する際の品質保持の面でも有利である。
【0104】
なお、ベースフィルムは、樹脂材料に予め着色料を添加することにより原着さていても、印刷などにより表面または内部に着色された部分を有していてもよい。
【0105】
また、最終的にベース材を剥離する場合、すなわち上述の単層のクリアー層を得る場合には、好ましくは1.2~1.4g/cm、吸水率0.3~7.0%、好ましくは0.5~6.5%、表面粗さRa1μm以下、好ましくは0.01μm~1μm、さらに好ましくは0.01μm~0.1μm、表面鉛筆硬度6B~4H、好ましくは2B~4H、特に好ましくは2H~4Hのベース材を用いるとよい。すなわち、カバー材の好ましい例として上述したものと同様の材料を用いることにより、ベース材側の面においても、クリヤー組成物中に残留する溶剤をエージング過程で揮発させられるため、クリヤー層の表面の美観と物理的特性させることにつながる。溶剤捕獲・通過の機構や詳細、およびこれによる効果は、カバー材に関連してすでに詳述したとおりである。
【0106】
クリヤー層から剥離可能であり、クリヤー層のベース材側の表面品質を向上させることが可能なベース材の具体例は、セルロース、アセチル化セルロース、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、多孔質ポリプロピレンおよび多孔質ポリエチレン、またはポリオレフィン不織布である。
【0107】
[溶剤型プライマー塗料組成物の組成]
本発明では、例えば塩素化ポリプロピレンを主剤としてエポキシ樹脂により反応性を付与し、有機溶剤で希釈された一般的なプライマーを使用することができる。この他にも、一般的に車両用部品(バンパーなど)の塗装等に使用される公知のプライマーから、本発明に使用可能なベース材とクリヤー組成物との密着性の向上に寄与する材料を適宜選択して使用することができる。
【0108】
[溶剤型クリヤー塗料組成物の組成]
クリヤー組成物は本発明の方法で硬化、成膜可能な組成物であれば特に制限はないが、特に、自動車等の外装として使用する場合には、十分な硬度と、表面品質(外観性)、耐候性等を有する耐擦傷性等の特性を有するクリヤー層を製造が製造できる材料であることが好ましい。この場合、従来から用いられているクリヤーコート用の組成物をいずれも使用することが可能である。例えば、アクリル系の樹脂、例えば ポリ(メタ)アクリレートとメラミンなどのアミノプラスト成分を樹脂成分とするクリヤー組成物、ポリ(メタ)アクリレートとポリ(ブロック)イソシアネートを樹脂成分とするクリヤー組成物を挙げることができる。このうち、ポリ(メタ)アクリレートとポリ(ブロック)イソシアネートを樹脂成分から得られるクリヤー層は、特に、優れた耐擦傷性を持つことから、野外で使用される基体の塗膜を構成するにあたっては極めて好ましい。
【0109】
特に、クリヤー組成物として、アクリル系の樹脂、更に具体的には、1種類以上の水酸基含有アクリル樹脂、特に水酸基含有(メタ)アクリレートと、イソシアネート、特にポリイソシアネートとを主な樹脂組成とする組成物であることが好ましい。本明細書中、(メタ)アクリレートとはアクリレートまたはメタクリレートのいずれかを意味し、ポリ(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを含む重合体を意味し、ポリイソシアネートとは、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。この他、クリヤー組成物としてポリウレタン溶液を使用することも可能である。
【0110】
本発明のクリヤー組成物は、水酸基含有アクリル樹脂として水酸基含有(メタ)アクリレート樹脂(A)と水酸基含有(メタ)アクリレート樹脂(B)(アクリレート(A)およびアクリレート(B)ともいう)の2種類の樹脂を含有することが好ましい。この場合、アクリレート(A)は、水酸基価が80~220mgKOH/gで、ガラス転移温度が-50℃以上、かつ0℃未満であり、樹脂中に4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25~55質量%含有する樹脂とされる。
【0111】
本発明において、このアクリレート(A)は、十分な架橋密度を塗膜に持たせることができ、クリヤー組成物の硬化物としてのクリヤーフィルム(単にフィルムともいう)が耐擦傷性を有することとなる。
【0112】
アクリレート(A)の水酸基価は、80~220mgKOH/gであるが、好ましくは100~200mgKOH/gであり、特に好ましくは120~200mgKOH/gである。水酸基価が80mgKOH/g以上とすることにより、フィルムの架橋密度が十分に確保され、フィルムの硬度が良好となり、耐汚染性が向上する。また、水酸基価が220mgKOH/g以下であることにより硬化剤との相溶性が良好となり、硬化後のフィルム外観が優れたものとなる。
【0113】
アクリレート(A)中には、一般に、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位が25~55質量%含まれ、特に好ましくは30~55質量%とされる。アクリレート(A)中の4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを55質量%以下とすることにより、硬化剤との相溶性が向上し、フィルムの外観も安定する。
【0114】
アクリレート(A)のガラス転移温度は、-50℃以上、かつ0℃未満であり、好ましくは-40~-5℃である。ガラス転移温度が-50℃以上であることにより、十分なフィルム硬度が得られ、0℃以下であることにより、フィルムの機械的強度が確保される。
【0115】
なお、本発明では、ガラス転移温度の測定には、DSC法、すなわち示差走査熱量分析を用いる。
【0116】
アクリレート(B)は、水酸基価が80~220mgKOH/gで、ガラス転移温度が0~50℃である樹脂である。このアクリレート(B)を併用することにより、得られるフィルムが十分な架橋密度および硬度を持つこととなる。
【0117】
アクリレート(B)の水酸基価は、80~220mgKOH/gであるが、好ましくは100~200mgKOH/であり、特に好ましくは120~200mgKOH/gである。水酸基価が80mgKOH/g以上であることで、充分なフィルム硬度および耐汚染性が得られる。また、水酸基価が220mgKOH/g以下であることにより、硬化剤との相溶性が良好となり、得られるフィルムの外観が向上する。
【0118】
アクリレート(B)のガラス転移温度は、0~50℃であり、好ましくは10~50℃である。ガラス転移温度が0℃以上であることにより、十分なフィルム硬度が得られ、50℃以下とすることにより、フィルムの機械的強度が向上する。
【0119】
アクリレート(A)及びアクリレート(B)の質量平均分子量(Mm)は、1,000~30,000が好ましいが、2,000~20,000がより好ましく、3,000~15,000が特に好ましい。質量平均分子量が、1,000以上とされることにより、フィルム硬度が十分となり、質量平均分子量が、30,000を以下であることにより、硬化剤との相溶性が確保されてフィルム外観が良好となる。
【0120】
なお、アクリレート(A)及びアクリレート(B)の質量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー)により、ポリスチレンを標準ポリマー、溶離液をTHF、試料溶液濃度を約0.1%に調整し、東ソー(株)製HLC-8220 GPCを使用し所定のカラムにて流速:0.35ml/分、温度:40℃、測定時間:15分で得た分子量を示す。後述の実施例でも同様である。
【0121】
また、アクリレート(A)及びアクリレート(B)は、アクリル系単量体に由来する単位を50質量%以上含有する樹脂が好ましく、70質量%以上含有する樹脂であることがより好ましく、80質量%以上含有する樹脂が特に好ましい。また、アクリレート(A)が含有する70%以上、特に全ての水酸基が1級の水酸基であることが好ましい。
【0122】
また、アクリレート(A)においては、上述のアクリル系単量体に由来する単位を4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位とすることができ、その他に、1級の水酸基を有するラジカル重合性単量体に由来する単位を含有したものであってもよい。これら水酸基を有するラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アリルアルコール、;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、又はメタクリル酸4-ヒドロキシブチルのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0123】
アクリレート(B)は、アクリル系単量体に由来する単位として、好ましくは1級の水酸基を有するラジカル重合性単量体に由来する単位を含有するものである。
【0124】
アクリレート(A)およびアクリレート(B)は、いずれも、その他のラジカル重合性単量体に由来する単位を含有していてもよい。その他のラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられ、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0125】
アクリレート(A)およびアクリレート(B)は、上記ラジカル重合性単量体をラジカル重合することにより製造することができる。
【0126】
アクリレート(A)およびアクリレート(B)の製造のために、ラジカル重合をおこなう場合、各モノマーにラジカル重合開始剤を配合してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2.2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、4、4’-アソビス-4-シアノ吉草酸、1-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル-2、2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノンパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、t-ブチルヒドロパーオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンソエート、t-ブチルパーオキシソプロピルカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
ラジカル重合開始剤の配合量は、特に制限ないが、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01~20質量%にすることが好ましい。
【0128】
これらのラジカル重合開始剤の系においては必要に応じてジメチルアニリン、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、酢酸第1鉄等の第1鉄塩、酸性亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット等の還元剤を組み合わせても差し支えないが、重合温度が低くなりすぎないように留意して選択する必要がある。
【0129】
アクリレート(A)及びアクリレート(B)の製造において用いられる有機溶剤の適当な例としては、例えばシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸3-メトキシブチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。アクリレート(A)および(B)の固形分濃度は樹脂の分散安定性を損なわない範囲において任意に選ぶことができるが、一般には10~90質量%、好ましくは25~85質量%、さらに好ましくは40~80質量%である。
【0130】
アクリレート(A)及びアクリレート(B)の製造に際して、ラジカル重合開始剤の添加方法は任意である。
【0131】
このように得られる、アクリレート(A)およびアクリレート(B)は、それぞれ単独種類、または複数種類の組み合わせとして使用することも可能である。
【0132】
また、本発明のクリヤー組成物中の水酸基含アクリレート(A)と水酸基含アクリレート(B)との含有割合は、アクリレート(A)および(B)の固形分質量比で、95/5~50/50の範囲であり、90/10~60/40の範囲がより好ましい。アクリレート(B)成分を5質量%以上とすることにより、得られるフィルムの耐薬品性が向上し、また50質量%以下とすることで、耐擦傷性が得られる。
【0133】
本発明のクリヤー組成物に含まれるイソシアネートとして使用可能なポリイソシアネート(硬化剤)としては、水酸基と反応するイソシアネート基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上有するイソシアネート化合物が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いても良い。
【0134】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、p-フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、ビス(イソシアネートエチル)フマレート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の直鎖状脂肪族ジイソシアネート、及びこれらのビュレット体、イソシアヌレート体などを挙げることができる。イソシアネートは単独種類、または複数種類の組み合わせとして使用することも可能である。
【0135】
本発明のクリヤー組成物は、上記の脂環式および直鎖状脂肪族ジイソシアネートを含む脂肪族ジイソシアネート、特に直鎖状脂肪族ジイソシアネートを硬化剤として含むことが好ましい。使用する全イソシアネート量に対して50質量%以上、好ましくは85質量%以上含むこと、特に好ましくは100質量%であることが好ましくい。脂肪族ジイソシアネートを多く用いることによりクリヤー組成物の硬化物としてのフィルムが耐候性に優れたものとなり、特に得られるフィルム表面の光沢が長期にわたり維持される。
【0136】
アクリレート(A)およびアクリレート(B)の合計の水酸基に対する、イソシアネートのイソシアネート基の含有割合は、NCO/OHのモル比で0.5~1.5であるが、好ましくは0.8~1.2である。NCO/OHのモル比0.5が未満以上の場合、十分な架橋密度が得られ、耐酸性やフィルム硬度が向上する。また、NCO/OHのモル比を1.5以下とすることにより、耐候性が向上する。
【0137】
本発明のクリヤー組成物は、さらに有機溶剤を含むものである。有機溶剤は、アクリレート(A)及びアクリレート(B)の製造において用いられる例として上述した有機溶剤のいずれも使用可能であり、これらの製造に用いたものと同様のものとすることができる。アクリレート(A)及びアクリレート(B)に使用した残留溶媒を特に除去することなく、クリヤー組成物の希釈溶剤として用いることが可能である。すなわち、アクリレート(A)及びアクリレート(B)に使用した残留溶媒以外の有機溶剤を更には添加しないことも可能である。更に添加する場合の有機溶剤は、1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤とすることもできる。
【0138】
発明のクリヤー組成物から傷を自己修復することが可能であり耐擦傷性に優れたフィルムを形成することが可能である。
【0139】
本発明のクリヤー組成物は、上記の他、必要に応じて、各種添加剤、例えば耐候安定剤、特に紫外線吸収剤(UV吸収剤)およびヒンダードアミン系耐候安定剤等から構成される耐候安定剤システム(組成物)、酸化防止剤、界面活性剤、表面調整剤、硬化反応触媒、帯電防止剤、香料、脱水剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などの1種以上を添加して使用することができる。これらはいずれも公知の材料を適宜使用することができる。
【0140】
このうち、耐候安定剤としては、UV吸収剤と、ヒンダードアミンを併用することが好ましい。本発明のクリヤー組成物は、自動車等被覆対象の外装等の最外層被覆として用いられる場合に、野外のあらゆる天候の変化に長期間に亘り曝露される可能性があること、特に自家用車等の場合にはその外観の光沢や美観が自動車の耐久性を含む機能や価値に影響を与えることも考えられることから、上記のように耐候安定剤を組み合わせて(組成物として)使用することにより被覆対象物に施与されたクリヤーフィルムの状態を、出荷時の状態に近い状態として、数10年以上、特に20年に亘り維持することが可能とされる。
【0141】
特に、本発明の適用に好ましいとして例示したクリヤー組成物に対し、2種類のトリアジン系紫外線吸収剤とNOR型ヒンダードアミン系耐候安定剤(HALS)とを添加することが好ましい。このうち、2種類のトリアジン系紫外線吸収剤の一方は、短波長(320nm以下)の紫外線を吸収する材料 (以下、短波長UV吸収剤ともいう)、他方は長波長(320nm超)の紫外線を吸収するもの (以下、長波長UV吸収剤ともいう)と、紫外線を広い範囲で吸収可能となることから、クリヤーフィルムの品質が維持するとともにクリヤーフィルムで覆われる下層を紫外線から保護する。
【0142】
短波長UV吸収剤は、下式(1)のo-ヒドロキシトリス-アリールトリアジンUV吸収剤、長波長UV吸収剤は下式(2)のo-ヒドロキシトリス-アリールトリアジンUV吸収剤であることが好ましい。
【0143】
【化1】
【0144】
[式中、Gは、水素;C~C18アルキル;-OH、C~C18アルケニルオキシ、-C(O)OLおよび-OC(O)L(ここで、LおよびLは独立して、C~C18アルキルである)からなる群から選択される1、2もしくは3つの基により置換されたC~C18アルキル;酸素により中断されたC~C50アルキル;または酸素により中断されたC~C50ヒドロキシアルキルであり、
、G、GおよびGは、独立して、水素;C~C18アルキル;フェニル;または1、2もしくは3つのC~Cアルキルにより置換されたフェニルである]
【0145】
【化2】
【0146】
[式中、
、Q、QおよびQは、独立して、水素;C~C18アルキル;-OH、C~C18アルケニルオキシ、-C(O)OYおよび-OC(O)Y(ここで、YおよびYは独立して、C~C18アルキルである)からなる群から選択される1、2もしくは3つの基により置換されたC~C18アルキル;酸素により中断されたC~C50アルキル;または酸素により中断されたC~C50ヒドロキシアルキルであり、
14、R15およびR16は、互いに独立して、水素またはC~C18アルキルである]
【0147】
式(1)のo-ヒドロキシトリス-アリールトリアジンUV吸収剤のうち、特に、下記の化合物が好ましく用いられる。
【0148】
【化3】


【0149】
式(2)のo-ヒドロキシトリス-アリールトリアジンUV吸収剤のうち、特に特に、下記の化合物が好ましく用いられる。
【0150】
【化4】
【0151】
長波長UV吸収剤、短波長UV吸収剤は、それぞれ1種類の化合物であっても複数種類の混合物として用いてもよい。長波長UV吸収剤の市販品の例には、Tinuvin(登録商標)、460、477、479、970、1600、(BASFジャパン株式会社製)ADK STAB(登録商標)LA-F70(株式会社ADEKA製)がある。また、短波長UV吸収剤の市販品の例には、Tinuvin(登録商標)400、405、1577(BASFジャパン株式会社製)ADK STAB(登録商標)LA-46(株式会社ADEKA製)がある。
【0152】
これらの紫外線吸収剤は化合物自体の寿命が長く、添加対象の組成物を守り、更にはこれによる被覆対象(プライマー層、ベース材および基体、印刷インキや顔料)を良好に保護する。
【0153】
また、NOR型ヒンダードアミン光安定剤は、一般に、分子量が200g/molより大きく、好ましくは500g/molより大きく、特に700g/molより大きく、より好ましくは700g/molより大きく10,000g/molまでのもの、例えば50,000g/molまでのものが使用され。700g/mol~5,000g/molの分子量が特に好ましい。
【0154】
NOR型ヒンダードアミン光安定剤としては式(3):
【化5】
[式中、
は、C~C18アルコキシ;ヒドロキシ置換されたC~C18アルコキシ;
は、1、2または4であり、
が1である場合には、Eは、C~C25アルキル、式-C(CH)=CHの基、または式(3a):
【化6】
(式中、Eは、Eに関して定義した通りである)
の基であり、
が2である場合には、Eは、C~C14アルキレン、または式(3b):
【化7】
(式中、
は、C~C10アルキルまたはC~C10アルケニルであり、
は、C~C10アルキレンであり、かつ
およびEは、互いに独立して、C~Cアルキル、シクロヘキシルまたはメチルシクロヘキシルである)
の基であり、かつ、
が4である場合には、Eは、C~C10アルカンテトライルである]
の化合物が使用される。
NOR型ヒンダードアミン光安定剤は1種類又は複数種類を添加してもよく、市販品としては、TINUVIN(登録商標)123、144、765、770(BASFジャパン株式会社製)、ADK STAB(登録商標)LA-81、82または87(株式会社ADEKA製)である。
【0155】
このようなNOR型のヒンダードアミン光安定剤は、添加対象の組成物を熱や光、外界からの化学物質から保護する役割を有する。したがって、NOR型のヒンダードアミン光安定剤を含む場合、これを含む本発明のクリヤーフィルムが、酸性雨等の外部環境の影響、樹脂劣化に伴う酸性雰囲気等の内部環境の影響を受けにくくなる。さらに、こうしたヒンダードアミン光安定剤は、被覆対象の基体、例えば自動車がその機能を維持する長期に亘り、フィルムに熱安定性を提供することができる。
【0156】
他のUV吸収剤として、更にADK STAB(登録商標)LA-1000(株式会社ADEKA製)を用いることができる。
【0157】
本発明のクリヤーフィルムは、上塗りとして被覆対象の最外層被覆を構成するクリヤーフィルムとしてされることが好ましいが、染料、顔料などの着色剤を配合して着色フィルムとして用いることも可能である。
【0158】
本発明のクリヤー組成物は、1液型、2液型のいずれであってもよい。本発明の積層体を得るためには、とりわけブロックイソシアネート等を用いて工程を複雑化させることもなく、2液型として用いることが簡便であり、これにより優れた物理的特性および表面品質を有するのフィルムが得られる。
【0159】
なお、本発明の製造方法によると、所定の特性を有するカバー材をクリヤー組成物上に直接適用することにより、優れた外観と機械的特性を有するクリヤー層を有する積層体および合一層、並びに単層としてのクリヤー層が得られるが、これは上記所定のカバー材を介して、クリヤー組成物中の溶剤の除去が良好に行われ、環境に対する負荷が抑制され、且つ製造工程が簡便かつ効率化されるためであり、上記好ましい例として挙げたカバー材およびクリヤー組成物を用いることにより、クリヤー層の物理的特性と表面状態を最適状態に維持することが可能なためである。得られるクリヤー層の性質や表面の状態を、すでに述べた工程を含む製造方法に記載した各材料の物性ないし構造以外により更に特定することは、不可能、または極めて詳細な分析が要求されるために非実際的である。インサート成型体などの成形体の表面を形成するクリヤー層についても同様である。
【0160】
また、本発明により得られるクリヤー層は、クリヤー組成物が上記所定の特性を有するカバー材に接することで形成された面(両面を上記所定の特性を有するカバー材と、同様の特性を有するベース材とに挟持されることで形成される単層のクリヤー層の場合は両面)が極めて優れた平滑性を有するものとされる。本発明では、一般的なスプレー塗装等により得られた塗膜の平滑性を2倍以上、好ましくは10倍以上回るクリヤー層の表面品質を達成することができる。
【0161】
また、本発明の積層体または複合塗膜を適用する基体(被覆対象)としては、主に合成樹脂とする例を説明したが、これに制限されるものではない。例えば、アルミやステンレス等の金属やCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)等に対しても用いることもできる。
【0162】
本発明の積層体ないし複合塗膜を適用する被覆対象の具体例には、自動車(車体又はその一部)、自動車用部品(例えば、ボディー、バンパー、スポイラー、ミラー、ホイール、内装材等の部品であって、各種材質のもの)、自動二輪車、自動二輪車用部品、自転車、自転車用部品(例えば、フレーム、ハンドル、スポイラー、ミラー)、または道路用資材(例えば、ガードレール、交通標識、防音壁等)、船舶、鉄道車両、航空機、建造物、建築材料、家具、家電製品、容器、楽器、事務用品、スポーツ用品、玩具、これらの部品または部分を挙げることができる。
【0163】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準によるものとする。
【実施例
【0164】
[製造例1]
水酸基含有樹脂溶液、A-1の製造
温度計、還流冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコにキシレン33.9部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら過熱し140℃を保った。次に、140℃の温度で、スチレン12部、シクロへキシルメタクリレート24部、4-ヒドロキシブチルアクリレート24部のラジカル重合性モノマーと、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート5部とを、均一に混合した滴下成分を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、反応温度を110℃に下げた。その後、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1部をキシレン1部に溶解させた重合開始剤溶液を追加触媒として添加し、さらに110℃の温度を2時間保ったところで反応を終了し、水酸基含有樹脂溶液A-1を得た。
【0165】
【表1】
【0166】
[製造例2]
水酸基含有樹脂溶液、B-1の製造
表2に記載した原料の仕込み量に変えた以外は、A-1と同様にして、水酸基含有樹脂溶液B-1を得た。
【0167】
【表2】
【0168】
[製造例3]
クリヤー組成物CC-1の製造
表3に記載した原料を順次混合して均一になるように攪拌し、クリヤー組成物CC-1を作成した。表3に示す各成分の配合量の単位は、質量部である。また、Tgの単位は℃である。
【0169】
【表3】
【0170】
表の注記
デスモジュールN3300: 商品名、住化コベストロウレタン(株)製、液状HDIのヌレートタイプ樹脂(固形分100%、NCO含有率23質量%)
紫外線吸収剤溶液:チヌビン900およびチヌビン479(それぞれ商品名、BASFジャパン社製)の20質量%キシレン溶液
光安定剤溶液:チヌビン292およびチヌビン123(それぞれ商品名、BASFジャパン社製)の20質量%キシレン溶液
表面調整剤溶液: BYK-300(商品名、ビックケミー社製)の10質量%キシレン溶液
ソルベッソ100: 商品名、エッソ社製、芳香族石油ナフサ
【0171】
[実施例1~3、比較例1~3]
<実施例1~3及び比較例1~3評価用サンプルの作成>
水平なテーブルの上にコロナ処理をした100μm厚の黒色の無延伸ポリプロピレン(CPP:cast polypropylene)を載置した。CPPをベース材とし、コロナ処理をしたベース材表面にプライマーを5μmとなるように塗布し150℃のオーブンで5分間乾燥させた。ベース材上の乾燥されたプライマーの上に、クリヤー組成物、CC-1をテーブルコートにて膜厚が25μmとなるように塗布し、クリヤー組成物層を設けた。次に、乾燥前のクリヤー組成物上面(ベース材と反対側)に、カバー材をクリヤー組成物と密着するように貼り合わせた。これにより得られたベース材上の樹脂層の4層構造のフィルムを40℃のオーブン中で4日間加熱乾燥させた。樹脂層に凹みがないこと、樹脂層とカバーフィルムとの間に気泡や空気層が存在せず、かつカバー材が樹脂層の上面全体を覆っていることを確認した。上記のカバー材として、TACフィルム、フジタック FTTG60UL(富士フィルム社製)を使用した。
【0172】
上記のように得られた4層構造のフィルムを10cm角に裁断し、得られた正方形の全フィルム端部、すなわち全周囲をアルミテープで覆い、樹脂層中の溶剤が端部から揮発しないように封止した。
【0173】
なお、上記のクリヤー組成物CC-1中の溶剤の種類と含有率(固形分)、並びにカバーフィルムの種類を下表1に記載したように変更し、実施例1~3及び比較例1~3サンプルとした。
【0174】
ポリプロピレンフィルムをカバー材として使用した場合、クリヤー組成物をベース材との間に保持することができず4層構造のフィルムを得ることができなかった。
【0175】
<エージング特性評価>
実施例及び比較例のサンプルを40℃の恒温室に載置し、エージング処理を行った。恒温室に配置する直前のサンプルの質量を分析用電子天秤により計測した。さらに、エージング処理中のサンプルの質量を1日、2日、3日、5日、7日後に上記と同じ分析用電子天秤により計測して、質量変化(残留溶剤揮発による質量差)を求めた。また、本発明の実施例1~3の樹脂層は3日後までに完全に硬化したが、比較例1~3の樹脂層は同じ樹脂材料を用いたにもかかわらず、7日を要した。
【0176】
<剥離性評価>
上記により硬化した実施例サンプルおよび比較例サンプルから、双方ともエージング開始から7日目の時点で、マニュアル操作によりカバーフィルムを剥離した。同様の試験を3回繰り返し、剥離性を以下の基準で評価した。
【0177】
〇 カバーフィルムが容易に剥離可能である。
× カバーフィルムに樹脂層がこびりつき、剥離が困難であった。
【0178】
<表面特性評価>
上記剥離試験後の実施例、比較例のサンプルの表面の状態を、以下の基準で目視評価した。
【0179】
〇 剥離後の3個のサンプルのいずれにも表面の荒れ・乱れが観察されず、平滑且つ光沢のある表面が得られた。
× 剥離後の3個のサンプルの表面に凹凸や傷等の荒れ・乱れが観察され、光沢が失われている。
【0180】
上記各試験の結果を表1に示す。
【0181】
【表4】
【0182】
なお、表4における日数ごとの値は、エージング処理開始時点から24時間した時点を1日として、各時点で計測した値を示している。
【0183】
また、表4中の表現は以下の意味を有する。
【0184】
組成物1:クリヤー組成物CC-1のキシレン溶液(固形分49%)
組成物2:クリヤー組成物CC-1のキシレン溶液(固形分80%)
組成物3:クリヤー組成物CC-1の酢酸ブチル溶液(固形分49%)
TAC:トリアセチルセルロース(密度:1.22~1.34g/cm、吸水率1.7~6.5%(24時間にわたりクリヤー組成物表面と接触させた場合の吸水率)、表面粗さRa0.01μm~0.1μm、表面鉛筆硬度2H)
表面処理PET:シリコン離型層で表面処理したポリエチレンテレフタレート(密度:1.34-1.39 g/cm、吸水率0.10-0.20%(24時間にわたりクリヤー組成物表面と接触させた場合の吸水率)、表面粗さRa0.1μm、表面鉛筆硬度HB)
【0185】
本発明に係る実施例では、クリヤー層としての樹脂層により、比較例よりもかなり短い時間で良好に有機溶剤除去することができ、エージング・硬化も良好に行われていることが示された。また、本発明の実施例の積層体では、硬化後のクリヤー層からのカバーフィルムは、離型剤処理は行っていないにもかかわらず、比較例の離型剤を用いたフィルムよりも速やかに行われた。さらに、得られたクリヤー層の表面品質も極めて高く、比較例により得られた表面に比して、曇り度(ヘイズ)が下がり、平滑性及び光沢が大幅に向上していることが観察された。
【0186】
[実施例4、比較例4]
<積層体フィルムの作成>
クリヤー組成物CC-1(溶剤:35.1部、固形分:114.9部)を使用し、ベース材(膜厚460μm)上に、クリア組成物を膜厚60μm(乾燥後膜厚:30μm)にて塗布し、積層体の全体の厚みを520μm(乾燥膜厚:490μm)とした以外は、上述の実施例1サンプルの作成と同様の方法を用い、実施例4評価用積層体フィルムを作製した。積層体フィルムの乾燥後膜厚は490μmであった。
【0187】
<実施例4の評価用インサート成形体サンプルの成形>
株式会社日本製鋼所製の射出成形機 J220ADS-300Hを使用してフィルムインサート成形物サンプル板(150mmx150mm角)を作成した。すなわち、上記のように得られた実施例4のサンプルを、70mmx150mm角に裁断し、カバーフィルムを剥離したのち、積層体フィルムのクリヤー層側が金型(#3000)の内表面中央部に配置されるように合わせてセロテープ(登録商標)で固定し、ベース材側に対して、基体を構成する樹脂であるポリプロピレンを、射出成型装置を用いて導入した。金型温度80℃で25秒間放冷することにより、ベースフィルムとポリプロピレン基体が融着して一体化し、3mm厚の150mm角の射出成型板(インサート成形体)を得た。
【0188】
<比較例4の評価用スプレー塗装によるサンプルの製造>
比較例4のサンプルは標準塗装成形物を70mm× 150mm角に切削したものを使用した。このサンプルは、自動車の外装部品として用いられる基体に対して従来のスプレー塗装によるクリヤー層を最外殻層として設けたものである。比較例4のクリヤー層は、従来より高級車に適用される最高水準の表面品質を有している。
【0189】
<平滑性の測定>
実施例4および比較例4のサンプルのクリヤー層の表面の平滑性を、JISB 0601に準拠して、ウェーブスキャンII(Cat.No.4846)、BYK-Gardner社製)により測定した。
【0190】
測定結果を表5に示す。
【0191】
【表5】
【0192】
さらに、実施例4および比較例4サンプルのクリヤー層表面の平滑性を、触針式表面形状測定器(Dektak 6M stylus profiler、Veeco社製)を用いて測定した。この試験では、オペレータが、実施例4および比較例4サンプルのそれぞれのクリヤー層の表面において、任意に5か所を選定して表面粗さ(Ra:算術平均粗さ、およびRq:二乗平均平方根)を測定したものである。任意の5か所の測定結果を測定1~5とし、その平均値とともに、表6に示す。
【0193】
なお、実施例4および比較例4の各サンプルは、目視観察によっても相互の平滑性および光沢の違いは明らかであり、10人の観察者の全員が、実施例4のサンプルの平滑性、光沢が、比較例4のサンプルよりも格段に優れていることを認めた。一方、同じ観察者の目視観察により、実施例4および比較例4の各サンプルのクリヤー層表面ごとには、粗さ、光沢のいずれにも不均一性が認識されず、どの位置を測定して平均しても測定値に大きく影響することがないと認められる。
【0194】
【表6】
【0195】
実施例4についての上記データは、スプレー塗装により得られた比較例4の塗膜を仕上げ研磨(鏡面加工)したものに匹敵する。
【0196】
また、本発明の実施例に係るサンプルと、比較例のサンプルについて、所定の耐候性、耐薬品性、耐殺傷性試験を行ったところ、これらについても良好な結果が得られている。
【0197】
以上、本発明者等によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0198】
1 ロールラミネート装置
10、120 ベースフィルム
12 ロールコーター装置
14 クリヤー組成物
18、150 カバーフィルム
100 積層体
200 基体
図1
図2