(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】設計支援方法、設計支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241007BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20241007BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20241007BHJP
【FI】
G06Q50/04
G06F30/20
G06F30/15
(21)【出願番号】P 2023529476
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2022004763
(87)【国際公開番号】W WO2022264486
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021100221
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰三
(72)【発明者】
【氏名】岩城 秀文
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝洋
【審査官】塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/053059(WO,A1)
【文献】特開2005-092358(JP,A)
【文献】特開2015-156076(JP,A)
【文献】特表2019-500698(JP,A)
【文献】特開2007-305048(JP,A)
【文献】特許第3313040(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2021/0173979(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G06F 30/15
G06F 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設計変数に対してそれぞれの前記設計変数が取り得る水準の組み合わせそれぞれについて評価結果を演算する評価結果演算ステップと、
前記評価結果に基づき、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に影響する度合いである部分効用を演算する設計変数寄与度計算ステップとを含み、
前記設計変数寄与度計算ステップは、特異値分解により前記部分効用を演算
し、
前記設計変数寄与度計算ステップにより算出される前記部分効用を用いて、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に与える影響を示す設計変数重要度を算出する設計変数重要度算出ステップをさらに含む設計支援方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の設計支援方法であって、
前記設計変数重要度を用いて、前記それぞれの前記設計変数の影響を抽出できた度合いを示す有効度を算出する有効度算出ステップをさらに含む設計支援方法。
【請求項3】
複数の設計変数に対してそれぞれの前記設計変数が取り得る水準の組み合わせそれぞれについて評価結果を演算する評価結果演算部と、
前記評価結果に基づき、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に影響する度合いである部分効用を演算する設計変数寄与度計算部とを備え、
前記設計変数寄与度計算部は、特異値分解により前記部分効用を演算
し、
前記設計変数寄与度計算部が算出する前記部分効用を用いて、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に与える影響を示す設計変数重要度を算出する設計変数重要度算出部をさらに備える設計支援システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の設計支援システムであって、
前記設計変数重要度を用いて、前記それぞれの前記設計変数の影響を抽出できた度合いを示す有効度を算出する有効度算出部をさらに備える設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援方法、および設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両システムは数多くの部品の組合せからなる複雑なシステムである。車両を構成する構成の1つである電動パワートレインは、電気自動車の駆動力を発生するシステムであり、バッテリ、モータ、インバータ、減速機、冷却サブシステムなどのコンポーネントから構成される。このようなシステムでは要求される車両仕様、たとえば最高速度、一充電走行距離、システムコストなどの要求を満足させる各コンポーネント性能の組み合わせは一つとは限らない。たとえば最高速度を速くするためにはモータの回転数を上げてもよいし、減速比を変えてもよい。なお、以降、数値化された要求のこと、すなわちここでは最高速度、一充電走行距離、システムコストなどを設計指標と記載する。
【0003】
設計段階において、車両仕様を満足する組合せを探索するには過去事例データベース、試作実験などの手法があるが、近年の情報技術の進歩によりシミュレーションの重要性が高まっている。シミュレーションを用いる場合、各コンポーネントの設計変数、例えばモータの形状やバッテリ電圧、減速比等を変えた組合せに対してシミュレーションを実施し、各設計指標を高いレベルで満足できる設計変数の組み合わせを探索する。
【0004】
特許文献1には、各々が複数の設計諸元に対応する複数の組み合わせのサンプリング値を取得するステップと、取得した複数の組み合わせのサンプリング値の各々が複数の設計諸元に採用されたときの設計対象物の物理的特性の値を算出するステップと、算出された物理的特性の値を利用して、前記複数の設計諸元と算出された設計対象物の物理的特性との相関関係を導出するステップと、導出された相関関係を利用して、所定の制約条件を満たす設計対象物の物理的特性が得られる前記複数の設計諸元の値を算出するステップと、を備えることを特徴とする設計支援方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各設計指標を最適化する設計変数の組み合わせを探索するための手段として、直交表を用いる手法が広く知られている。直交表とは、任意の2因子、ここでは設計変数について、その水準のすべての組合せが同じ回数ずつ現れるという性質をもつ割り付け表のことである。各コンポーネントの設計変数の各水準を組み合わせて直交表に割り当てて実験計画またはシミュレーション計画を策定し、設計指標を見出す実験やシミュレーションを実施する。直交表ではすべての因子・水準が同じ回数出現するため、シミュレーション結果の単純な加減算で各設計変数が設計指標に及ぼす影響を容易に算出することができる。
【0007】
また、直交表を用いれば、少ない組み合わせで数多くの設計変数と水準の組み合わせについて考慮することができることが知られている。例えば、2水準7設計変数について全数組合せを行うと、2の7乗個で128個の試行が必要となるが、L8直交表を用いれば8回の試行ですべての設計変数と水準を偏りなく評価することができる。直交表には上記のように、試行回数の低減が図れ、かつ各設計変数の要求性能への影響が容易にわかるという利点があるが、以下のような課題がある。
【0008】
まず、直交表は種類が限られているため、任意の設計変数の数と任意の水準の数に必ずしも対応できるとは限らない。対応する直交表が存在しないときは、重要な変数を重複して割り付けるダミー法や、複数の水準を組み合わせて多水準に変換する多水準作成法などで対応する。しかし、ダミー法では重複させるべき変数の抽出に、また多水準作成法では作成方法自体にノウハウが必要であったりするため、一般の設計者が自由に設計変数の数や水準数を選ぶことは困難となっている。
【0009】
また、禁則組合せが存在する場合に直交表を用いることも困難である。例えば、電気自動車用インバータ設計においてスイッチング素子を選定する場合を考える。検討する耐圧を200V、300V、400Vの三水準、スイッチング素子に流せる電流を100A、150A、200Aの三水準で、ある走行パターンで最も効率の高いスイッチング素子を選定する例について考える。市場で耐圧、電流の全てに対応できるスイッチング素子が入手可能である場合には直交表に問題なく割り振ることができるが、例えば耐圧が400Vで電流200Aに対応するスイッチング素子の入手が何らかの原因により出来ない場合は、耐圧400Vと電流200Aの組み合わせを排除して直交表に割り振る必要がある。このための手法として相互排他因子融合法や多層化手法といった方法は提案されているが、設計者にとっては難易度が高い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様による設計支援方法は、複数の設計変数に対してそれぞれの前記設計変数が取り得る水準の組み合わせそれぞれについて評価結果を演算する評価結果演算ステップと、前記評価結果に基づき、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に影響する度合いである部分効用を演算する設計変数寄与度計算ステップとを含み、前記設計変数寄与度計算ステップは、特異値分解により前記部分効用を演算し、前記設計変数寄与度計算ステップにより算出される前記部分効用を用いて、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に与える影響を示す設計変数重要度を算出する設計変数重要度算出ステップをさらに含む。
本発明の第2の態様による設計支援システムは、複数の設計変数に対してそれぞれの前記設計変数が取り得る水準の組み合わせそれぞれについて評価結果を演算する評価結果演算部と、前記評価結果に基づき、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に影響する度合いである部分効用を演算する設計変数寄与度計算部とを備え、前記設計変数寄与度計算部は、特異値分解により前記部分効用を演算し、前記設計変数寄与度計算部が算出する前記部分効用を用いて、前記それぞれの前記設計変数が前記評価結果に与える影響を示す設計変数重要度を算出する設計変数重要度算出部をさらに備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、設計変数や水準数の制約なく、設計変数のそれぞれが評価結果に影響する度合いを算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図7】
図6に示す割り当て表に対応する入力要素Xの行列表記
【
図8】設計変数寄与度および設計変数重要度の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図10を参照して、設計装置および設計方法の第1の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、設計支援システム10の機能構成図である。本実施の形態では、設計支援システム10が電気自動車用の電動パワートレインを設計する場合を例に説明する。電動パワートレインは、モータ、インバータ、およびギアなどの各コンポーネントをまとめたものを指す。設計支援システム10は、設計者11から入力される情報を処理して設計に有用な情報を設計者11に出力する。
【0015】
設計者11は、要求仕様に基づき設計変数の値を決定して入力情報12を生成する。たとえば要求仕様として規定走行パターン走行時の電力最小化、コスト最小化、各部寸法規定値以内、などの条件が与えられる。それに対して設計者11は、設計者が変更可能な設計変数と、その値の候補とを選定する。設計変数はたとえば、電動パワートレインにおけるモータの極数、インバータの直流入力電圧、ギアの減速比などである。モータの極数の候補はたとえば、4極、6極、8極などである。本実施の形態では、設計変数が取りうる選択肢を「水準」と呼び、設定変数が取りうる選択肢の数を「水準数」と呼ぶ。ただしこの水準は、現実にとりうるすべての数ではなく、設計者11が設定した選択肢である。
【0016】
一般的に、要求仕様から好適な設計変数を直接求めることは困難であるため、設計変数の選択肢を様々に変化させて計算や評価を行い、その結果を用いて好適な設計変数の選択肢を検討するプロセスが広く行われている。各設計変数とそれぞれの水準の情報は、入力情報12として設計支援システム10のテストケース生成部13に入力される。
【0017】
図2は、入力情報12の一例を示す図である。
図2に示す例では設計変数がスロット数、極数、直径、積厚、磁石厚さ、の5つである。いずれの設計変数も離散値とする。スロット数は12、18、24、36、48の5水準、極数は4、6、8の3水準、直径は200、220(mm)の2水準、積厚は150、200(mm)の2水準、磁石厚さは8、12(mm)の2水準である。なお、積厚とはステータの軸長である。
図1に戻って説明を続ける。
【0018】
設計支援システム10は、テストケース生成部13と、シミュレータ15と、設計変数寄与度計算部19と、設計変数重要度算出部24と、有効度計算部26とを含む。シミュレータ15は、評価指標計算部16および評価関数演算部17を含む。設計変数寄与度計算部19は、直交化前処理部20、直交化部21、および直交化後処理部22を含む。シミュレータ15は、後述するように評価結果18を算出するので「評価結果演算部」とも呼べる。
【0019】
テストケース生成部13は、入力情報12を用いて各設計変数の水準の組み合わせである組合せ集合14を生成する。テストケース生成部13はたとえば、オールペア法や直行表を用いて組合せ集合14を作成する。
【0020】
オールペア法はあらかじめ設定した個数、すなわち組合せ網羅数の設計変数間での各水準のすべての組み合わせを網羅することを保証する組合せ手法である。たとえば設計変数がモータ極数、インバータ直流入力電圧、ギア比の3つである場合を例に具体的に説明する。このとき、モータ極数の選択肢は4極、6極、8極の3水準、インバータ直流入力電圧は、300Vと600Vの2水準、ギア比は1と2の2水準とする。
【0021】
そして組合せ網羅数が「2」の場合は、モータ極数とインバータ直流入力電圧の2つの設計変数の水準について全組合せを組合せ集合14は全て網羅する。この場合の全組合せとは、4極と300V、4極と600V、6極と300V、6極と600V、8極と300V、8極と600Vである。これは、他の2設計変数間関係、たとえばモータ極数とギア比に着目しても同様の特徴が得られる。
【0022】
さらにオールペア法は、禁則とされる組合せを除外する機能の組み込みも容易である。禁則とされる組合せとは、たとえばモータの極数とスロット数の関係においてみられる。電気自動車用モータは3相モータを用いるため、たとえばモータ極数が6とスロット数48は実現不可能な組み合わせとなる。オールペア法は主にソフトウェアの不具合を抽出するために用いられてきた手法である。
【0023】
図3は、組合せ集合14の一例を示す図であり、
図2に示した入力情報12に対応する。ただし
図3に示す組合せ集合14は、組合せ網羅数を2としてオールペア法を使用し、禁則条件、たとえば極数が6の場合にはスロット数12を選択することはできない、等の制約を考慮した。
図3には、オールペア法により13個の組み合わせが導出されたことが示されている。
図3におけるIDは、それぞれの組合せを識別する識別子である。
【0024】
シミュレータ15は、組合せ集合14を用いて評価指標の計算および評価を行う。ここで評価指標とは、要求仕様に対応して定量的に評価される量を指す。たとえば要求仕様として高効率が挙げられていた場合の評価指標はたとえば、ある走行パターンを走行したときの使用電力量の積分値である。シミュレータ15は、評価指標の計算および評価を行う評価指標計算部16と、評価関数演算部17とを含む。評価指標計算部16は、公知の様々なシミュレーションプログラムにより実現され、各種の評価指標を算出して評価関数演算部17に出力する。
【0025】
評価関数演算部17は、各種の評価指標を統一的に評価して評価結果18を生成する。評価指標には、燃費やコストなど小さいほど好ましい評価指標と、加速性能など大きいほど好ましい評価指標が含まれる。また、多変数を評価するときには各評価指標の重み付け加算を行った指標を評価することもある。評価関数演算部17には評価指標ごとに、大きいほど好ましいか、小さいほど好ましいかを判別する情報があらかじめ含まれる。評価関数演算部17は、たとえばある評価指標が大きいほど好ましい場合には、その評価指標の値に「-1」を掛けることで小さいほど好ましい条件に変換し、全体を小さいほど好ましい値に変換して評価結果18とする。評価関数演算部17が出力する評価結果18は、組合せ集合14とともに設計変数寄与度計算部19に入力される。
【0026】
図4は、評価指標をコストとする評価結果18の一例を示す図である。
図4に示す例では、
図3に示した組合せ集合14の右端に評価指標であるコストの列が追加され、評価関数演算部17が算出した評価指標の値が記載されている。なお
図4におけるIDは
図3に示したIDに対応しているので、評価結果18には各組合せにおける水準の値が含まれなくてもよい。すなわち評価結果18は、
図4における左端と右端の列の情報が含まれればよい。
【0027】
設計変数寄与度計算部19は、各設計変数の水準、すなわち選択肢が評価結果18にどの程度影響しているかを算出する。設計変数寄与度計算部19は直交化前処理部20、直交化部21、および直交化後処理部22を含む。組合せ集合14および評価結果18は直交化前処理部20に入力され、直交化前処理部20の出力は直交化部21に入力される。直交化後処理部22は、直交化部21の出力、組合せ集合14、および評価結果18を用いて設計変数寄与度23を導出する。
【0028】
直交化部21の動作について説明する。評価結果をyi、各設計変数の水準をそれぞれ独立に入力要素xjiとすると、入力要素xjiが評価結果yiに及ぼす影響βjは線形を仮定して、式1のように表せる。ただし以下の数式では、添え字iは評価結果の番号、換言すると組合せ集合14における組合せの番号を示す。また、jは1からmまでの整数であり、mはあらかじめ定められた入力要素の自由度である。さらに以下では、影響βjを「部分効用」と呼ぶ。この部分効用は、設計変数のそれぞれが評価結果に影響する度合いを示す情報とも言える。
【0029】
【0030】
ここでεiは各評価結果に生じた誤差を表す。また、評価結果yiは通常、対数化した値が用いられる。この場合、評価結果yiは常に正、または負となるため、後述する直交化の計算に用いる行列は縮退しない限り正定行列であることが保証されるため、計算が単純になる。
【0031】
式1に示す関係を用いて、入力要素xjiに係る重みβjを計算して各入力要素xjiが評価結果yiに及ぼす影響を導出することは「直交化」と呼ばれる。ここで重みβjを部分効用と記載する。各入力要素xjiが互いに独立であり、評価結果yiが各入力要素xjiの一次結合で表されると仮定した場合、βjを計算する手法として特異値分解が知られている。特異値分解による部分効用βjの計算式を式2~式5に示す。なお、式2~式4において添え字nは、組合せ集合14における組合せの総数であり、
図3に示す例では「13」である。また以下の式において「X’」はXの転置行列を表す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
ここで特異値分解を使用しているのは、自由度mと組合せ集合14の個数nを自由に設定できるようにするためである。数2において次に示す式6の関係が満足されればXの逆行列から部分効用βが厳密に計算されるが、実際には式6の条件を満たすことは稀である。特異値分解による手法では、数3が満足されない場合でも、βの最尤値を導出できるため、本実施の形態において想定する設計支援という目的には好適である。なお式6における関数「rank」は、行列の階数を算出する。
【0037】
rank(X)=n=m+1 ・・・(式6)
【0038】
式2による計算結果の確からしさを向上させるためには、できるだけ多くの入力要素xiの情報を組合せ集合14が含んでいることが望ましい。また、設計に要する期間を低減するために組合せ集合14の個数nは少ない方が望ましい。テストケース生成部13は設計者が意識せずに上記の両条件を満たすようにするために設けたものである。
【0039】
直交化部21を用いるためには各設計変数の各水準を数1の入力要素xmiと評価結果yiに割り振る必要がある。直交化前処理部20はその割り振り作業を行う。簡単な具体例を以てその割り振り作業について説明する。
【0040】
図5は、割付処理を説明する図である。設計変数としてPとQが存在し、設計変数Pはp1とp2の2通りの値を選択でき、設計変数Qはq1とq2の2通りの値を選択できるとする。すなわちPとQの水準数はいずれも2である。PとQの組合せは全部で4つであり、
図5ではこれらの組合せに評価番号を付して記載している。
【0041】
多変量解析の理論によれば各設計変数の自由度は水準数から1を引いたものとして表せるため、式1に示した全体の自由度mは各設計変数の水準数の総和から設計変数の数を引いたものとなる。したがって、設計変数Pに関する自由度は1、設計変数Qに関する自由度は1となる。すなわち、設計変数Pの取りうる値p1とp2のうち自由に部分効用βを設定できるのはp1とp2のうちどちらか一つであり、設計変数Qについても同様である。
【0042】
全体の自由度mを2とするためにp1とq1を除外する。
図5では除外したp1とq1にはハッチングを付している。このとき、入力要素x1にはp2が、また入力要素x2にはq2が対応する。そして、入力要素x1には、p1を選択したとき0、p2を選択したときに1を割り振る。入力要素x2には、q1を選択したとき0、q2を選択したとき1を割り振る。
図5に示す例では設計変数が2つのみであったが、
図2に示した入力情報12に対応する割り当て表が次のとおりである。
【0043】
図6は、
図3に示す組合せ集合14に対応する割り当て表である。
図6では、横軸には各設計変数の各水準を並べる。各設計変数のうち、選択された水準の箇所に「1」と記載している。なお、
図6において、「1」が記載されていない部分は「0」であるが、見やすさを重視し
図3では「0」の表記を省略している。
【0044】
水準として離散値を採用しているため、
図6の表内の1と0を並べた行列が式2における入力要素に相当する。各設計変数は各水準のいずれかである。したがって、
図6において各設計値の欄のどれか1つのみが1となる。たとえば極数において、設計値として「4」を選択して「1」を挿入した場合は、残りの設計値である「6」および「8」は0となる。ただし
図6では作図の都合により0を記載する代わりに空欄としている。また、多変量解析上の制約のため、設計変数の数、具体的には「5」だけ変数を減らして計算する必要があるため、ここでは第1水準を消去して入力要素を作成する。なお、
図6において消去した部分は網掛け表示している。このようにして入力要素としてx1~x9(m=9)が割り振られる。式1の表記と対応付けると、「組合せ番号1におけるスロット数の第3水準(=24)に対応する入力要素x21は0」、のようになる。
【0045】
図7は、
図6に示す割り当て表に対応する入力要素Xの行列表記である。入力要素Xの横方向が割り当て表の横方向に対応し、入力要素Xの縦方向が割り当て表の縦方向に対応する。たとえば入力要素Xの最上段は、割り当て表におけるIDが「1」の段における網掛けを除いた要素に順番に対応する。たとえば入力要素Xの最上段右端の「1」は、割り当て表におけるID「1」の磁石厚さ「12」の欄が「1」であることに対応している。また、前述の入力要素x21は、破線の丸で囲った位置である。組合せ集合14における評価結果yn(n=13)は、シミュレータ15によるシミュレーションによりそれぞれ計算できるため、その結果を式2に代入することにより部分効用βmが計算できる。
【0046】
このようにして得られた部分効用βmは、各設計変数の第1水準の評価結果に及ぼす影響を1としたときの比として得られる。したがって、それぞれの設計変数に対して最も大きい部分効用を選択すれば好適な水準を選択できる。
【0047】
直交化後処理部22は直交化部21の出力である部分効用βを各設計変数の各水準に書き戻す。上の例では、入力要素x1に対応するβ1はp2、すなわち設計変数Pの第2水準に対応しているため、設計者11に対してその対応関係も合わせて通知する。
【0048】
設計変数寄与度計算部19において計算された部分効用βmは、設計変数と対応付けて設計変数寄与度23として設計者に提示される。設計変数寄与度23の中に入力要素xmiが評価結果yiに及ぼす影響の情報は全て内包されているため、熟練者は設計変数寄与度23を見れば、どの設計変数のどの水準を選べばよいかは判断可能できる。ただし、設計変数の重要度を判別しやすくするために、本実施の形態では設計変数重要度算出部24を設けている。設計変数重要度算出部24は、設計変数重要度25を計算し設計者に提示する。設計変数重要度25は、設計変数が設計指標に与える影響を定義したものであり、どの設計変数を重視すればよいかの目安が示される。
【0049】
設計変数寄与度計算部19の出力である設計変数寄与度23は、各設計変数の第1水準以外についての、第1水準が評価結果に及ぼす影響を1としたときの比である。そのため、設計変数ごとに水準の選択指針は十分得られるが、設計変数同士の比較、換言するとどの設計変数が評価結果に大きな影響を与えるかは直接的には出力されていない。そこで本実施の形態では、設計変数重要度算出部24が設計変数寄与度23を用いて設計変数重要度25を計算する。設計変数重要度25は設計指標を大きく改善させる設計変数を選択するための一助となる。
【0050】
設計変数重要度25は設計変数重要度算出部24によってたとえば式7によって計算される。なお、数4において、jは設計変数に割り振った番号、Ijは設計変数jの設計変数重要度、Pmaxjは設計変数jが関係する部分効用βの最大値、Pminjは設計変数jが関係する部分効用βの最小値である。
【0051】
【0052】
式7の演算は、ある設計変数jにおける部分効用βの変化幅を全設計変数の部分効用βの変化幅の総和で標準化するものである。なお、式7以外にも最大値と最小値の比を以て設計変数重要度25を導出する方法や、対数を取って評価する方法などの代替方法があり、それらの手法を用いても本発明の趣旨を変えず実施可能である。
【0053】
図8は、設計変数寄与度23および設計変数重要度25の一例を示す図である。なお
図8では理解を助けるために水準数や設計変数の値を記載しているが、これらの値そのものが設計変数寄与度23および設計変数重要度25に含まれることは必須の構成ではない。この例において、Pmax1は1つ目の設計変数であるスロット数の設計変数寄与度23の最大値なので、第4水準の「2.5」が該当する。この例において、Pmin1は1つ目の設計変数であるスロット数の設計変数寄与度23の最小値なので、第5水準の「-3.6」が該当する。
【0054】
有効度計算部26は設計変数重要度25を入力として、別途定義する有効度27を計算し、設計者に提示する。有効度27は、各設計変数の影響をどれだけ有効に抽出できたかを示す指標である。有効度27は、各設計変数の影響を抽出できた度合いを示す指標とも呼べる。設計者は有効度27を見て、有効度に不足がある場合には、たとえば設計変数を増やす、またはテストケース生成部13の組合せ網羅数を増やすなどの修正を行う。
【0055】
有効度計算部26が有効度27を計算する方法の一例について説明する。最適な設計変数を求めるためには、厳密には全ての設計変数の全水準の組合せ評価が必要であるが、組合せ数が膨大となり実現が困難である。そのため、本実施の形態では、限られた組合せで最大効果が得られるような組合せを以て評価する。具体的には、組合せ数を組合せ網羅数によって調整する。組合せ数が少なければ本発明で評価した結果と実際の結果との差異(以降「評価偏差」と記述する)は大きく、逆に組合せ数が多ければ評価偏差は小さくなる。すなわち、組合せ網羅数と評価偏差は互いにトレードオフ関係にあり、組合せ網羅数を適切に選択できることが望ましい。有効度計算部26は組合せ網羅数を選ぶための参考となる情報を設計者11に提供する。
【0056】
有効度計算部26はたとえば設計変数重要度25の最大値Imaxから最小値Iminを引くことで有効度27を求める。たとえば
図8に示す例では、設計変数重要度25の最大値Imaxが「30.1」、最小値Iminが「8.1」なので有効度27は「22」と算出される。有効度27は大きいほど部分効用βを求めるためにデータを有効に利用できたことを表す。直交表を用いた計算の場合に有効度27は最大となる。設計対象によってその値は異なるが、よく設計された直交表の場合は有効度27は大体50~60%程度となる。この値に近いほど本手法で得られた結果の信頼性は高く、逆に小さい場合には信頼性は低い。有効度27は前述の判断基準を数値化したものである。
【0057】
有効度27が小さい場合、組合せ網羅数を増やす、別設計変数を取り入れる、水準数を増やすなどの対応を行う。たとえば次の対応が考えられる。すなわち、オールペア法で指定した組み合わせ網羅数の設定を、現状の「2」から「3」に増加させる。そして、組み合わせ網羅数「3」で生成した組み合わせのうち、現状の組み合わせ網羅数「2」で得られる組合せとは異なる組み合わせを選択する。さらに、選択した設計変数の組み合わせでシミュレータを実行し評価結果18を得る。最後に、有効度27を計算して十分大きい場合には処理を終了し、不十分と判断する場合には組み合わせ網羅数「3」で生成した組み合わせからこれまでに評価していない組み合わせを選択し、上述の処理を繰り返す。なお十分に大きいか否かの判断は、あらかじめ定めた閾値と比較してもよいし、ユーザがその都度判断してもよい。
【0058】
図1に示した実施例は、シミュレーション結果から設計変数の値を決定するための構成であるが、実験計画を導出するための手段として用いることも可能である。ここで実験計画とは、設計変数の値を変えたいくつかの試作を行い、それらを用いた実測結果から所望の設計変数の値を得ることである。一般的に試作は時間を要するため、試作回数の低減はシミュレーションによる評価とは比較にならないほど重要性が高い。
【0059】
実験計画を導出するための一手段として、本願によるテストケース生成部13と評価結果18に最適計画を適用することができる。最適計画とは、部分効用βの推定精度や予測精度をもっともよくする実験計画のことである。具体的には式8で算出される値を最小化するD最適計画や、式9で算出される値を最小化するA最適計画などが知られている。これらの計算方法については公知であるため詳細な説明は省略する。
【0060】
det(X’X)-1 ・・・(式8)
【0061】
trace(X’X)-1 ・・・(式9)
【0062】
なお式8におけるdet関数は行列式を算出し、式9におけるtrace関数は対角成分の総和を算出するものである。また、式8および式9におけるXは式2や式4に示したものである。
【0063】
図9は、設計支援システム10の構成例を示す図である。
図9に示す例では、設計支援システム10は設計用コンピュータ31と、通信網32と、複数のシミュレータ15a~15dとを含む。複数のシミュレータ15a~15dは、通信網32を介して設計用コンピュータ31と接続される。
【0064】
設計用コンピュータ31は、テストケース生成部13、設計変数寄与度計算部19、設計変数重要度算出部24、および有効度計算部26を実行するコンピュータプログラムを有する。設計用コンピュータ31内部のテストケース生成部13により計算された組合せ集合14は漏れや重複がないように各シミュレータ15a、15b、15c、15dに割り振られる。たとえば、組合せ集合14が12個からなる場合は、集合1~3はシミュレータ15a、集合4~6はシミュレータ15b、などのように各シミュレータの負荷が均等になるように割り振られる。
【0065】
図9において、符号33は各シミュレータに割り振られる組合せ集合14の部分集合である。
図9において、シミュレータ15aに割り振られた組合せ部分集合は33a、シミュレータ15bに割り振られた組合せ部分集合は33b、シミュレータ15cに割り振られた組合せ部分集合は33c、シミュレータ15dに割り振られた組合せ部分集合は33dである。
【0066】
シミュレータ15a~15dは組合せ部分集合33a~33dに従って評価結果18を計算する。
図9において、符号34は組合せ部分集合33に対応するシミュレーション結果部分集合であり、組合せ部分集合33の付番に対応して34a~34dと付番している。シミュレーション結果部分集合34a~34dは設計用コンピュータ31に回収される。設計用コンピュータ31は設計変数寄与度23、設計変数重要度25、有効度27を計算し、設計者11に提示する。
【0067】
図9に示す設計支援システム10の構成は、シミュレータ15を複数並列に用いることができる点に特徴がある。一般的に組合せテストケースの生成や直交化の演算は、シミュレーションに要する時間と比較すると非常に短いため、シミュレーション時間が本実施の形態における設計手法の律速となる。本実施の形態によれば、組合せ集合14に記載された集合はシミュレーションを行う上で互いに独立であるため、シミュレーション順序や同期制御などを気にせず並列計算を行うことができる。本例の場合は4並列であるため、単純計算で設計にかかる時間を約1/4にすることが期待できる。
【0068】
なお、
図9ではシミュレータ15が評価結果18を計算する構成を示したが、シミュレータ15が評価指標までを計算し、シミュレーション結果部分集合34として評価関数の前段階である評価指標を設計用コンピュータ31が回収する構成としてもよい。この場合、評価関数演算部17のプログラムは設計用コンピュータ31が有する。このような構成とすることで、従来のシミュレータの改変を極力少なくできる効果がある。
【0069】
図10は、設計支援システム10、すなわち設計用コンピュータ31およびシミュレータ15のハードウエア構成図である。ただし設計用コンピュータ31およびシミュレータ15のハードウエア構成が一致することは必須の要件ではない。以下では設計用コンピュータ31およびシミュレータ15を代表する仮想の演算装置40を例にハードウエア構成を説明する。
【0070】
演算装置40は、中央演算装置であるCPU41、読み出し専用の記憶装置であるROM42、読み書き可能な記憶装置であるRAM43、ユーザインタフェースである入出力装置44、および通信装置45を備える。入出力装置44はたとえば、液晶ディスプレイ、マウス、およびキーボードである。ただし通信装置45を利用して必要な情報を入出力することで、通信装置45が入出力装置44の代用となってもよい。通信装置45は、たとえばIEEE802.3に対応する通信インタフェースである。
【0071】
CPUがROMに格納されるプログラムをRAMに展開して実行することで前述の様々な演算を行う。演算装置40は、CPU41、ROM42、およびRAM43の組み合わせの代わりに書き換え可能な論理回路であるFPGA(Field Programmable Gate Array)や特定用途向け集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)により実現されてもよい。また演算装置40は、CPU41、ROM42、およびRAM43の組み合わせの代わりに、異なる構成の組み合わせ、たとえばCPU41、ROM42、RAM43とFPGAの組み合わせにより実現されてもよい。
【0072】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)設計支援システム10は、複数の設計変数に対して各設計変数が取り得る水準の組み合わせそれぞれについて評価結果18を演算する評価結果演算部であるシミュレータ15と、評価結果18に基づき、設計変数のそれぞれが評価結果に影響する度合いである部分効用を演算する設計変数寄与度計算部19とを備える。設計変数寄与度計算部19は、特異値分解により部分効用を演算する。そのため、設計変数や水準数の制約なく設計変数のそれぞれが評価結果に影響する度合いである部分効用を算出し、設計に役立てることができる。換言すると本実施の形態の手法では、直交表を用いる場合に生じる設計変数や水準数の制約がない。
【0073】
(2)設計支援システム10は、複数の設計変数に対して各設計変数が取り得る水準の組み合わせからなる集合をテストケース集合として生成する組合せテストケース生成部13を備える。テストケース生成部13は、オールペア法によりテストケースを生成し、生成したテストケース集合をシミュレータ15に出力する。そのため、シミュレータ15に入力するテストケースの偏りやばらつきを抑制できる。
【0074】
(3)設計支援システム10は、設計変数寄与度計算部19が算出する部分効用を用いて、複数の設計変数のそれぞれが評価結果18に与える影響を示す設計変数重要度25を算出する設計変数重要度算出部24を備える。そのため、いずれの設計変数が評価結果18に与える影響が大きいかを容易に判別できる。
【0075】
(4)設計支援システム10は、設計変数重要度25を用いて、各設計変数の影響を抽出できた度合いを示す有効度27を算出する有効度計算部26を備える。そのため、部分効用の算出に用いたデータの有効利用を評価でき、不十分な場合には設計支援システム10の処理をやり直すことができる。
【0076】
(変形例1)
上述した実施の形態では、設計支援システム10は複数台のハードウエア装置から構成された。しかし設計支援システム10は1台のハードウエア装置、たとえばサーバやワークステーションにより構成されてもよい。
【0077】
(変形例2)
設計支援システム10は有効度計算部26を含まなくてもよいし、設計変数重要度算出部24および有効度計算部26を含まなくてもよい。また設計支援システム10は、設計変数寄与度23、設計変数重要度25、および有効度27の全てを算出した場合にこれらすべてを設計者11に出力する必要はなく、これらのうち少なくとも1つを出力すればよい。
【0078】
(変形例3)
設計支援システム10は、テストケース生成部13を含まなくてもよい。この場合には、設計支援システム10の外部にテストケース生成部13に相当する構成が存在してもよいし、ランダムに設計変数の水準を選択してテストケースを生成してもよい。
【0079】
上述した各実施の形態および変形例において、機能ブロックの構成は一例に過ぎない。別々の機能ブロックとして示したいくつかの機能構成を一体に構成してもよいし、1つの機能ブロック図で表した構成を2以上の機能に分割してもよい。また各機能ブロックが有する機能の一部を他の機能ブロックが備える構成としてもよい。
【0080】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
10…設計支援システム
12…入力情報
13…テストケース生成部
14…集合
15…シミュレータ
16…評価指標計算部
17…評価関数演算部
18…評価結果
19…設計変数寄与度計算部
20…直交化前処理部
21…直交化部
22…直交化後処理部
23…設計変数寄与度
24…設計変数重要度算出部
25…設計変数重要度
26…有効度計算部
27…有効度