(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】深部温度測定装置及び深部温度測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20241007BHJP
G01K 13/20 20210101ALI20241007BHJP
【FI】
A61B5/01 100
G01K13/20 341Z
(21)【出願番号】P 2023580514
(86)(22)【出願日】2023-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2023017449
(87)【国際公開番号】W WO2023228726
(87)【国際公開日】2023-11-30
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022087131
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390024729
【氏名又は名称】SEMITEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田口 勝久
(72)【発明者】
【氏名】野尻 俊幸
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-003309(JP,A)
【文献】特表2013-524236(JP,A)
【文献】特開2016-114467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に接触させることにより、温度を測定可能な計測用薄膜サーミスタ
を含み、温度を感知する感温部と
、
前記計測用薄膜サーミスタと
の間に第1の断熱層を介して配置され
た、
前記計測用薄膜サーミスタを加熱する発熱体層及び前記計測用薄膜サーミスタと温度
を等しく
させるように前記発熱体層の温度を制御する制御用薄膜サーミスタと、
前記第1の断熱層の上で前記発熱体層
及び前記制御用薄膜サーミスタを覆う第2の断熱層と、
を含み、前記計測用薄膜サーミスタに前記第1の断熱層、前記制御用薄膜サーミスタをこの順で積層させた積層構造を具備し
、
前記計測用薄膜サーミス
タを実装された配線基板
の実装側を
絶縁被覆するとともに前記計測用薄膜サーミスタ
の実
装部分
を被覆しない露出した部分とするカバー層
を設けて、前記カバー層を間に介することなく前記計測用薄膜サーミスタに前記第1の断熱層
を積層さ
せるとともに、
前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタは、基板と、この基板上に形成された薄膜素子層及び電極層を有していて、前記計測用薄膜サーミスタの前記薄膜素子層及び電極層が測定対象物である接触面へ向くように配置されていることを特徴とする深部温度測定装置。
【請求項2】
前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタは、トリミングされて抵抗値が補正されていることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項3】
前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタの抵抗値のばらつきは±0.5%未満の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の深部温度測定装置。
【請求項4】
前記計測用薄膜サーミスタにおける前記基板の厚さ寸法は、0.3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項5】
前記第1の断熱層及び第2の断熱層は、可撓性を有していることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項6】
前記計測用薄膜サーミスタの長さ寸法及び幅寸法と第1の断熱層の径寸法との比率は、1:10以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項7】
前記第1の断熱層及び第2の断熱層には、柔軟で可撓性を有する接着層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項8】
前記第2の断熱層の表面には、赤外線反射層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の深部温度測定装置。
【請求項9】
測定対象物に接触させることにより、温度を測定可能な計測用薄膜サーミスタ
を含み、温度を感知する感温部と
、前記計測用薄膜サーミスタと
の間に第1の断熱層を介して配置され
た、
前記計測用薄膜サーミスタを加熱する発熱体層及び前記計測用薄膜サーミスタと温度を等しく
させるように前記発熱体層の温度を制御する制御用薄膜サーミスタと、
前記第1の断熱層の上で前記発熱体層
及び前記制御用薄膜サーミスタを覆う第2の断熱層と、
を含み、前記計測用薄膜サーミスタに前記第1の断熱層、前記制御用薄膜サーミスタをこの順で積層させた積層構造を備え
、
前記計測用薄膜サーミス
タを実装された配線基板
の実装側を
絶縁被覆するとともに前記計測用薄膜サーミスタ
の実
装部分
を被覆しない露出した部分とするカバー層
を設けて、前記カバー層を間に介することなく前記計測用薄膜サーミスタに前記第1の断熱層
を積層さ
せるとともに、
前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタは、基板と、この基板上に形成された薄膜素子層及び電極層を有していて、前記計測用薄膜サーミスタの前記薄膜素子層及び電極層が測定対象物である接触面へ向くように配置されて
いる深部温度測定装置を用い、
前記感温部を測定対象物に接触させるステップと、
前記計測用薄膜サーミスタから放熱される熱を
前記制御用薄膜サーミスタが検知するステップと、
前記計測用薄膜サーミスタの検知温度と前記制御用薄膜サーミスタの検知温度との温度差に応じて、前記発熱体層の発熱温度を制御するステップと、
前記計測用薄膜サーミスタと前記制御用薄膜サーミスタとの温度が等しくなる熱平衡状態を検出するステップと、
前記測定対象物の深部温度の計測結果を出力するステップと、
を具備することを特徴とする深部温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物としての生体の深部温度を測定するのに適する深部温度測定装置及び深部温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の深部の温度を測定する深部温度測定装置が知られている。例えば、測定対象物が人間や動物の生体である場合、生体の体温は、核心部と体表面部とに区別してとらえることができ、核心部は生体内部の組織であり、その温度は周囲環境への熱放散の影響を受けない。これに対し、体表面部は周囲環境との熱交換によって影響を受け、その温度は変動的なものとなり易い。
【0003】
測定対象物として生体の体温を測定する場合、被測定者(生体)の病状や状態を確認するためには、核心部の温度を測定し把握することが重要となっている。このため被測定者の安全性や負担の軽減を考慮して非侵襲で核心部の温度を測定する深部体温計が開発されている。
【0004】
従来、例えば、断熱層を挟んで発熱体の制御用感温素子と計測用感温素子とを設け、計測用感温素子と制御用感温素子の温度が平衡する状態、いわゆるゼロ熱流束状態を適用して深部温度を測定する深部温度測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5779806号公報
【文献】特許第6038890号公報
【文献】実公昭54-19899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の深部温度測定装置における感温素子は、具体的には、チップタイプのバルク構造のNTCサーミスタであり、熱容量が大きく温度応答性に限界があり、高速応答性を期待するのは困難である。
【0007】
本発明の実施形態は、測定対象物の深部温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる深部温度測定装置及び深部温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態による深部温度測定装置は、温度を感知する感温部と、前記感温部を測定対象物に接触させることにより、温度を測定可能な計測用薄膜サーミスタと、前記計測用薄膜サーミスタを加熱する発熱体層と、前記計測用薄膜サーミスタと第1の断熱層を介して配置され、前記計測用薄膜サーミスタと温度が等しくなるように前記発熱体層の温度を制御する制御用薄膜サーミスタと、前記発熱体層を覆う第2の断熱層と、を具備し、これらの積層構造は、配線基板と、前記配線基板に実装された前記計測用薄膜サーミスと、前記配線基板を被覆するとともに前記計測用薄膜サーミスタが実装される部分は被覆しない露出した部分とするカバー層と、前記第1の断熱層とが積層されている構造であり、前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタは、基板と、この基板上に形成された薄膜素子層及び電極層を有していて、前記計測用薄膜サーミスタの前記薄膜素子層及び電極層が測定対象物である接触面へ向くように配置されていることを特徴とする。
かかる実施形態の深部温度測定装置により、測定対象物の深部温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる。
【0009】
本実施形態による深部温度測定方法は、温度を感知する感温部と、前記感温部を測定対象物に接触させることにより、温度を測定可能な計測用薄膜サーミスタと、前記計測用薄膜サーミスタを加熱する発熱体層と、前記計測用薄膜サーミスタと第1の断熱層を介して配置され、前記計測用薄膜サーミスタと温度が等しくなるように前記発熱体層の温度を制御する制御用薄膜サーミスタと、前記発熱体層を覆う第2の断熱層と、を備え、これらの積層構造は、配線基板と、前記配線基板に実装された前記計測用薄膜サーミスと、前記配線基板を被覆するとともに前記計測用薄膜サーミスタが実装される部分は被覆しない露出した部分とするカバー層と、前記第1の断熱層とが積層されている構造であり、前記計測用薄膜サーミスタ及び前記制御用薄膜サーミスタは、基板と、この基板上に形成された薄膜素子層及び電極層を有していて、前記計測用薄膜サーミスタの前記薄膜素子層及び電極層が測定対象物である接触面へ向くように配置されており、前記感温部を測定対象物に接触させるステップと、前記計測用薄膜サーミスタから放熱される熱を制御用薄膜サーミスタが検知するステップと、前記計測用薄膜サーミスタの検知温度と前記制御用薄膜サーミスタの検知温度との温度差に応じて、前記発熱体層の発熱温度を制御するステップと、前記計測用薄膜サーミスタと前記制御用薄膜サーミスタとの温度が等しくなる熱平衡状態を検出するステップと、前記測定対象物の深部温度の計測結果を出力するステップと、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、測定対象物の深部温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる深部温度測定装置及び深部温度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る深部温度測定装置を示す斜視図である。
【
図2】同深部温度測定装置を計測用感温素子側から見て示す分解斜視図である。
【
図3】同深部温度測定装置における配線基板に実装された計測用感温素子、発熱体層及び発熱体層の制御用感温素子を示す平面図である。
【
図4】
図1中、X-X線に沿う模式的な一部を示す断面図である。
【
図5】
図1中、Y-Y線に沿う模式的な一部を示す断面図である。
【
図6】同深部温度測定装置における計測用感温素子を拡大して示す斜視図である。
【
図7】
図6中、A-A線に沿って計測用感温素子を切断して示す断面図である。
【
図8】同深部温度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】同深部温度測定装置における本実施形態と比較例との厚さ寸法の関係を示す説明図である。
【
図10】同深部温度測定装置における応答時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る深部温度測定装置及び深部温度測定方法について
図1乃至
図10を参照して説明する。
図1及び
図2は、深部温度測定装置を示す斜視図及び計測用感温素子側から見て示す分解斜視図であり、
図3は、配線基板に実装された計測用感温素子、発熱体層及び発熱体層の制御用感温素子を示す平面図であり、
図4は、
図1中、X-X線に沿う模式的な一部の断面図であり、
図5は、
図1中、Y-Y線に沿う模式的な一部の断面図である。
図6は、計測用感温素子を拡大して示す斜視図であり、
図7は、計測用感温素子を拡大して示す断面図である。
図8は、深部温度測定装置の動作を示すフローチャートであり、
図9は、深部温度測定装置における本実施形態と比較例との厚さ寸法の関係を示す説明図であり、
図10は、深部温度測定装置の応答時間を示すグラフである。
【0013】
なお、各図では、説明上、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している場合がある。また、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
本実施形態の深部温度測定装置は、測定対象物としての生体の深部体温を測定するため、体表面に温度を感知する感温部を貼付し、非侵襲で高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができるものである。体表面の温度を感知する計測用感温素子及び発熱体の電力を制御する制御用感温素子として薄膜サーミスタが用いられている。
【0015】
図1乃至
図5に示すよう深部温度測定装置10は温度を感知する感温部Tsを有するプローブであり、計測用感温素子として計測用薄膜サーミスタ1と、発熱体層の制御用感温素子として制御用薄膜サーミスタ2と、発熱体層3と、第1の断熱層4と、第2の断熱層5とを備えている。計測用薄膜サーミスタ1、制御用薄膜サーミスタ2及び発熱体層3は、配線基板6に実装されている。また、各構成要素を制御する制御処理部を有するコントローラ100が備えられ、プローブがコントローラ100にコネクタ100aを介して接続されるようになっている。
深部温度測定装置10の全体的な外観は、薄い円盤状であり、概略の総厚寸法は5mm~6mm程度であり、φ40mm~45mm程度の大きさである。
【0016】
図3に示すように配線基板6は、可撓性を有するフレキシブル配線基板(FPC)である。配線基板6は、略円形状に形成されていて、その外周端から半径方向に延出する細長い延出部61が形成されている。また、この延出部61と略90度の間隔を空けて外周端から半径方向に延出する端子部62が形成されている。端子部62には、接続パッド62aが形成されている。加えて、配線基板6には、外周から中心部に向かう複数のスリット63が形成されている。
【0017】
配線基板6は、配線基板6の表面に形成された発熱体層3を含む導体の配線パターン64を備えている。延出部61の先端部には計測用薄膜サーミスタ1が実装され、配線基板6の中央部には制御用薄膜サーミスタ2が実装されている。また、配線基板6の略全域には、発熱体層3として機能する細幅で渦巻状の配線パターン64が形成されている。
【0018】
図4及び
図5を併せて参照して示すように、詳しくは、配線基板6は、厚さ寸法が0.05mm程度であり、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などからなるフィルム状の絶縁性基材65と、この絶縁性基材65の表面に形成された配線パターン64を被覆する絶縁層であるポリイミドフィルムなどからなるカバー層66とから構成されている。なお、端子部62はカバー層66に被覆されていない露出した部分となっている。
【0019】
図6及び
図7に示すように計測用薄膜サーミスタ1は、基板11と、この基板11の表面上(図示では下側)に形成された電極層12と、薄膜素子層13と、保護絶縁層14とを備えている。
【0020】
基板11は、略四角形状をなしていて、絶縁性のジルコニア材料で形成されている。なお、基板11を形成する材料は、窒化アルミニウム等のセラミックス又は半導体のシリコン、ゲルマニウム等の材料を用いてもよい。この基板11の表面上には、絶縁性薄膜がスパッタリング法によって成膜して形成されている。具体的には、四角形状の基板11は極薄で厚さ寸法が0.3mm以下、好ましくは0.25mm以下に形成されており、長さ寸法は1.6mmであり、幅寸法は0.8mmである。このような極薄の基板11を薄膜サーミスタに用いることで、熱容量が小さくなり高感度で、かつ熱応答性の優れた感温素子の実現が可能となる。なお、計測用薄膜サーミスタ1としての長さ寸法及び幅寸法も基板11の寸法によって定まり、長さ寸法1.6mm、幅寸法0.8mmとなる。
【0021】
電極層12は、基板11上の両端部に一対形成されている。電極層12は、金属薄膜をスパッタリング法によって成膜して形成されものであり、その金属材料には、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の貴金属やこれらの合金、例えば、Ag-Pd合金等が適用される。
【0022】
薄膜素子層13は、サーミスタ組成物であり、負の温度係数を有する酸化物半導体から構成されている。薄膜素子層13は、前記電極層12の上に、スパッタリング法等によって成膜して電極層12と電気的に接続されている。なお、薄膜素子層は、正の温度係数を有する酸化物半導体から構成してもよい。
【0023】
前記薄膜素子層13は、例えば、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等の遷移金属元素の中から選ばれる2種又はそれ以上の元素から構成されている。
保護絶縁層14は、薄膜素子層13を被覆するように形成されている。保護絶縁層14は、ホウケイ酸ガラスによって形成された保護ガラス層である。
また、前記電極層12には、配線基板6の延出部61から延びる配線パターン641が半田付けSdによって接合されて電気的に接続されている。
【0024】
以上のような計測用薄膜サーミスタ1は、
図4及び
図5を併せて参照して示すように、基板11の表面上に形成された薄膜素子層13及び電極層12が測定対象物側、すなわち、接触面となる体表面側へ向くように配置されて配線基板6に実装される。したがって、計測用薄膜サーミスタ1は、配線基板6にフェースダウン実装されて配置されるようになる。
【0025】
制御用薄膜サーミスタ2は、発熱体層3の供給電力を制御する機能を有していて、計測用薄膜サーミスタ1と同じ素子であり、同じ仕様及び特性を有している。したがって、計測用薄膜サーミスタ1と同一又は相当部分には同一又は相当の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0026】
図3乃至
図5に示すように発熱体層3は、配線基板6の中央部から外周部までに亘って、細幅で概略渦巻状のパターンをなして形成されている。発熱体層3は、電力が供給されることにより発熱する。
【0027】
図2、
図4及び
図5に示すように第1の断熱層4は、断熱性及び可撓性を有する発砲ポリエチレンから形成されていて、測定対象物が平面でなくても、測定対象物との隙間の発生を抑える効果がある。なお、
図4及び
図5の図示において、説明上、各部材の縮尺を適宜変更して示している。例えば、配線基板6と計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2との厚さ寸法の関係である。実際には計測用薄膜サーミスタ1の厚さ寸法より配線基板6の厚さ寸法が小さくなっている。
【0028】
第1の断熱層4は、配線基板6と略同様な大きさの円形状であり、具体的には厚さ寸法が3.0mm、φ42.0mmである。この第1の断熱層4の両面には接着層として柔軟で可撓性を有するとともに粘性を有する両面粘着シートAsが設けられており、配線基板6が第1の断熱層4の両面に貼り付けられるようになっている。詳しくは、配線基板6は一枚基板であり、第1の断熱層4の一面側に配線基板6の円形状部分が配置され、配線基板6の延出部61が折り曲げられて第1の断熱層4の他面側に配置されるようになる。
【0029】
また、
図4乃至
図7に示すように、計測用薄膜サーミスタ1が実装される部分は、カバー層66に被覆されていない露出した部分となっている。同様に制御用薄膜サーミスタ2が実装される部分もカバー層66に被覆されていない露出した部分となっている。したが って、計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2には、接着層としての両面粘着シートAsが直接的に接触するようになる。具体的には、両面粘着シートAsがその粘性により計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2の周囲を囲むような状態となる。
【0030】
なお、計測用薄膜サーミスタ1の長さ寸法は1.6mmであり、幅寸法は0.8mmである。したがって、計測用薄膜サーミスタ1の長さ寸法及び幅寸法と第1の断熱層4の径寸法との比率は、長さ寸法については約1:26、幅寸法については約1:53となっている。このように比率を大きくとることにより断熱性の十分な確保が可能となる。以上のような構成を検討考察の結果、計測用薄膜サーミスタ1の長さ寸法及び幅寸法と第1の断熱層4の径寸法との比率は、1:10以上、好ましくは1:26以上に設定することにより断熱性の確保が期待でき、望ましいとの知見を見出した。
【0031】
また、配線基板6の一面側には、同様に断熱性及び可撓性を有する発砲ポリエチレンから形成された第2の断熱層5が、接着層として柔軟で可撓性を有するとともに粘性を有する両面粘着シートAsを介して貼り付けられている。因みに、第2の断熱層5の厚さ寸法は2mm程度である。
【0032】
以上のように計測用薄膜サーミスタ1、制御用薄膜サーミスタ2、配線基板6、発熱体層3、第1の断熱層4、第2の断熱層5及び両面粘着シートAsが積層されてプローブが構成され、計測用薄膜サーミスタ1が位置する第1の断熱層4の他面側と計測用薄膜サーミスタ1とで感温部Tsが構成される。この感温部Tsは、測定対象物(体表面)に接触する接触面をなすものであり、両面粘着シートAsによって測定対象物に貼付できるようになっている。このような構成とすることで測定対象物と第1の断熱層4との隙間を発生させない効果がある。詳しくは、第1の断熱層4、第2の断熱層5、配線基板6及び接着層としての粘着シートAsは、いずれも可撓性があり、プローブ全体として可撓性を有しているので、測定対象物が平面状であっても曲面状であっても、その形状に沿わせて、かつ両面粘着シートAsによって隙間なく密着させ感温部Tsを測定対象物に接触させることができる。
【0033】
また、計測用薄膜サーミスタ1と制御用薄膜サーミスタ2とは、第1の断熱層4を介して隔てて配置される。この場合、計測用薄膜サーミスタ1と制御用薄膜サーミスタ2とは、計測用薄膜サーミスタ1の基板11や薄膜素子層13等と制御用薄膜サーミスタ2の基板21や薄膜素子層23等との構成要素が線対称的に位置されるようになる。
【0034】
次に、計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2における抵抗値のばらつき(許容差)について説明する。例えば、サーミスタの示す抵抗値は、サーミスタの構成材料や材料の混合比、製造条件及び大きさ等に依存している。そのため、サーミスタが示す抵抗値は、ばらつきが生じやすく個体差が存在する。したがって、抵抗値のばらつきを補正して、ばらつきを少なくし、信頼性の高い温度測定が行われることが期待されている。
【0035】
従来のサーミスタにおいては、例えば室温25℃の抵抗値10kΩにおける抵抗値のばらつきは±5%の範囲内とする基準が設けられている。しかしながら、これは温度に換算すると凡そ±2.5℃の誤差となり、深部温度計測にとって大きく信頼性が損なわれることになる。
【0036】
そのため、ばらつきを軽減する手段として、温度センサ校正装置を設けた深部温度測定装置が提供されている。しかし、温度センサ校正装置を設けることは部品数が増加するばかりではなく、校正に時間がかかり、また、温度センサ校正装置の存在が温度環境に影響を与える虞が生じる。
【0037】
ところで、医療現場で深部温度測定装置を使用することを想定する場合、YSI400規格(YSI400シリーズのサーミスタ測温体に用いられる抵抗値を定めたもので、広く医療用温度プローブ及びその接続機器の規格として採用されている。)がある。このYSI400規格では、室温25℃の抵抗値2.2kΩにおける抵抗値のばらつきは±0.2%と定められている。
【0038】
したがって、少なくともYSI400規格に準拠して、室温25℃の抵抗値10kΩにおける抵抗値のばらつきを±0.5%未満の範囲内にするのが好ましく、また、YSI400規格に従い室温25℃の抵抗値2.2kΩにおける抵抗値のばらつきを±0.2%の範囲内にするのがより好ましい。
【0039】
このようなばらつきを抑制する処理手段としては、抵抗値のばらつきを補正する場合、レーザー照射やサンドブラスト法によって、薄膜サーミスタの電極面や薄膜サーミスタ本体の一部を削ってトリミングする方法が適用される。この場合、トリミング用の除去部が薄膜サーミスタの電極層や薄膜素子層に形成されるようになる。
【0040】
また、薄膜サーミスタの基板の厚さ寸法の均一化、薄膜サーミスタを同一のウエハーから切削するときのダイシングサイズの均一化や作製された薄膜サーミスタを選別するという手段が適用される場合もある。
【0041】
以上のようにばらつきを抑制する処理手段を適用することにより、温度センサ校正装置を不要として、正確度が高く信頼性の高い深部温度測定装置10を提供することができる。
【0042】
続いて、深部温度測定装置10の動作を、測定対象物として生体の体温を測定する場合について、
図8を参照して説明する。
図8は温度測定の概要を示すフローチャートである。これらの動作は主としてコントローラ100に内蔵された制御処理部のプログラムによって実行される。
【0043】
まず、プローブにおける端子部52をコントローラ100から導出されているコネクタ100aに接続する。感温部Tsには、図示しない剥離シートが予め貼付されているので、この剥離シートを剥がす。
【0044】
次いで、感温部Tsを測定対象物の体表面に貼付し接触させて、深部温度測定装置10に電源を投入して起動する(ステップS1)。深部温度が計測用薄膜サーミスタ1に伝熱される(ステップS2)。計測用薄膜サーミスタ1の熱は第1の断熱層4を介して放熱される。この放熱される熱を制御用薄膜サーミスタ2が検知する(ステップS3)。
【0045】
計測用薄膜サーミスタ1の検知温度と制御用薄膜サーミスタ2の検知温度との温度差に応じて、発熱体層3に電力を供給して発熱するよう制御用薄膜サーミスタ2によって発熱温度が制御される(ステップS4)。この場合、制御用薄膜サーミスタ2及び発熱体層3は、第2の断熱層5に覆われているので風等による熱の放散を抑制することができる。
【0046】
計測用薄膜サーミスタ1と制御用薄膜サーミスタ2との温度が等しくなるように発熱体層3によって計測用薄膜サーミスタ1が加熱制御され、熱平衡状態、つまり、計測用薄膜サーミスタ1と制御用薄膜サーミスタ2との間に介在する第1の断熱層4の熱流速がいわゆるゼロ熱流束状態となるように制御される(ステップS5)。この熱平衡状態の体表面温度、すなわち、計測用薄膜サーミスタ1の検知温度が深部温度として推定できるので、熱平衡状態になったことを検出し(ステップ6)、生体の深部温度の計測結果をコントローラ100に表示したり記録したりして出力する(ステップS7)。
【0047】
次に、
図9を参照して断熱層の厚さ寸法による作用を説明する。
図9(a)は、本実施形態の断熱層の厚さ寸法による作用を説明する概念図であり、
図9(b)は、比較例の断熱層の厚さ寸法による作用を説明する概念図である。
【0048】
図9(a)に示すように本実施形態において、計測用薄膜サーミスタ1に第1の断熱層4、制御用薄膜サーミスタ2が積層されている。ここで、これらの積層状態の厚さ寸法tは約3mmであり、配線基板6を含めた計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2の各厚さ寸法t
1及びt
2は約0.25mmである。したがって、第1の断熱層4の厚さ寸法t
3は約2.5mmとなる。
【0049】
一方、
図9(b)に示す従来の比較例において、積層状態の厚さ寸法tを約3mmとすると、計測用サーミスタ1a及び制御用サーミスタ2aは、チップタイプのバルク構造のサーミスタであり、その各厚さ寸法t
1及びt
2は約0.9mmである。したがって、第1の断熱層4aの厚さ寸法t
3は約1.2mmとなる。
【0050】
したがって、本実施形態によれば、第1の断熱層4の厚さ寸法t3を大きくでき、熱抵抗を高くすることができるので、熱平衡状態になる時間を短縮でき深部温度の計測時間を速めることが可能となる。
【0051】
さらに、
図10を参照して深部温度測定装置の応答時間について説明する。
図10は、本実施形態及び比較例の応答時間を示すグラフである。本実施形態では、計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2が用いられており、従来の比較例のものでは、チップタイプのバルク構造のサーミスタが用いられている。
【0052】
図10に示すように、深部温度測定装置を起動してから深部温度の計測が終了するまでの応答時間は、比較例では120秒、本実施形態では88秒となっている。
【0053】
このように本実施形態では、高速応答性をもって計測することができる。この理由は、本実施形態では熱容量の小さい極薄の基板11の薄膜サーミスタを用いていること、薄膜サーミスタを用いることに伴い第1の断熱層4の厚さ寸法を大きくすることで熱抵抗を高くすることができること、及び計測用薄膜サーミスタ1において、基板11の表面上に形成された薄膜素子層13及び電極層12が測定対象物である接触面となる体表面側へ向くように配置されるので、体表面からの熱の移動を円滑に計測用薄膜サーミスタ1へ伝熱できることに起因するものと考えられる。
また、さらなる性能向上には、基板11を用いないで配線基板6に薄膜サーミスタを形成することにより達成が可能である。
【0054】
以上のように本実施形態によれば、測定対象物の深部温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる。また、計測用薄膜サーミスタ1及び制御用薄膜サーミスタ2のばらつきを抑制するトリミング等の処理手段を適用することにより、温度センサ校正装置を不要として、正確度が高く信頼性の高い深部温度測定装置10を提供することができる。
【0055】
なお、本実施形態における第2の断熱層5は風等の外乱影響を防止するものであるが、表面に赤外線反射層を設けることにより、対流熱及び輻射熱の放散を抑制する効果を一層向上することができる。
【0056】
前述してきた本発明の深部温度測定装置及び深部温度測定方法は、深部体温計など生体の測定に好適に適用されるが、これに限るものではない。産業分野における物体の深部温度を測定する場合においても適用可能であり、例えば、二次電池の内部にある正極等の温度情報を把握することで電池の寿命を予測する場合にも適用可能である。
【0057】
本発明は、上記実施形態の構成に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・・・・計測用薄膜サーミスタ
2・・・・・・制御用薄膜サーミスタ
3・・・・・・発熱体層
4・・・・・・第1の断熱層
5・・・・・・第2の断熱層
6・・・・・・配線基板
11、21・・基板
12、22・・電極層
13、23・・薄膜素子層
14、24・・保護絶縁層
61・・・・・延出部
62・・・・・端子部
64・・・・・配線パターン
65・・・・・基材
66・・・・・カバー層
100・・・・コントローラ
As・・・・・接着層
Ts・・・・・感温部