(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】昇降路計測用マーカー設置装置および昇降路計測方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/00 20060101AFI20241007BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20241007BHJP
B64U 20/87 20230101ALI20241007BHJP
B64U 101/26 20230101ALN20241007BHJP
B64U 101/30 20230101ALN20241007BHJP
B64U 101/70 20230101ALN20241007BHJP
【FI】
B66B7/00 Z
B64U10/13
B64U20/87
B66B7/00 K
B64U101:26
B64U101:30
B64U101:70
(21)【出願番号】P 2024001911
(22)【出願日】2024-01-10
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】箱田 将和
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171494(JP,A)
【文献】特開2018-016435(JP,A)
【文献】特表平11-513963(JP,A)
【文献】特開2023-033660(JP,A)
【文献】特開2021-066567(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190121(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0284503(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112478968(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00 - 7/12
B64U 10/13
B64U 20/87
B64U 101/30
B64U 101/70
B64U 101/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドローンに三次元計測機器を搭載して昇降路内を撮影させ、撮影データに基づいて昇降路を計測する昇降路計測方法に使用される昇降路計測用マーカー設置装置であって、
前記昇降路の開口部に設置され、昇降路の上階から下階に向けてロール紙を垂れ下げるためのマーカー取付治具を備え、
前記マーカー取付治具は、
前記開口部の幅に適合させるために幅方向への長さを調節可能な取付パイプと、
前記取付パイプに対して昇降路の奥行方向に垂直に設けられ、昇降路の奥行方向への長さを調節可能なマーカー設置パイプとを備え、
前記ロール紙には、昇降路の位置を指標する距離情報から成る二次元コードが整列状態で印字されており、当該ロール紙が巻かれたロールマーカーが前記マーカー設置パイプに取り付けられた後、前記ロール紙が下階側に垂れ下げられ、
ドローンによる昇降路計測時は、ロール紙とともに昇降路内を撮像し、前記二次元コードが指標する距離情報に基づき、自己位置を補正させながら前記撮影データを取得させる、昇降路計測用マーカー設置装置。
【請求項2】
昇降路の中間階または最下階に設置されるロール紙固定治具を備え、
前記マーカー取付治具から下階側に垂れ下げられたロール紙を固定してドローン飛行時の走行風によるロール紙の変位を抑制する、請求項1に記載の昇降路計測用マーカー設置装置。
【請求項3】
前記ロール紙は、磁性体材料で形成されたロールシートに、次のマーカーまでのドローンの移動量が事前に登録された二次元コードを印字した用紙を貼り合わせて構成されており、
前記ロール紙固定治具は、
昇降路の中間階または最下階の開口部の幅に適合させるために幅方向への長さを調節可能な取付パイプと、
取付パイプに対して昇降路の奥行方向に垂直に設けられ、昇降路の奥行方向への長さを調節可能な吸着ロール設置パイプと、
前記吸着ロール設置パイプに取り付けられる吸着ロールとを備え、
上階から垂れ下げられた前記ロール紙が磁力により前記吸着ロールに引き付けられて固定される、請求項2に記載の昇降路計測用マーカー設置装置。
【請求項4】
前記マーカー取付治具が設置される階床に設置されるロール用ブレーキを更に備え、
前記ロール用ブレーキは、作業者が足で踏み込むフットペダルと、フットペダルと連動して動作して前記ロールマーカーとの接触と離間とを作業者のフットペダルの操作により行うブレーキ板とを備え、
作業者がフットペダルを踏んでいない間は、前記ブレーキ板と前記ロールマーカーとは接触状態にあって、前記ロールマーカーが自重により垂れ下がるのを阻止し、作業者がフットペダルを踏んでいる間は、前記ブレーキ板と前記ロールマーカーとは離間状態にあって、前記ロールマーカーが自重により垂れ下がるように構成した、請求項1に記載の昇降路計測用マーカー設置装置。
【請求項5】
前記ブレーキ板の先端部は摩擦係数が高い素材で形成されている、請求項4に記載の昇降路計測用マーカー設置装置。
【請求項6】
請求項1に記載のマーカー取付治具を最上階の開口部に設置し、ロール紙を回転させながら昇降路内を最下階まで降ろし、中間階または最下階では請求項2に記載のロール紙固定治具をそれぞれの階の開口部に設置してロール紙が昇降路内で垂直になるように固定し、
ドローンによる昇降路計測時は、マーカーに次のマーカーまでの移動量を事前に登録し、マーカーを撮影したデータから自己位置を補正しながら撮影する、昇降路計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、昇降路計測用マーカー設置装置および昇降路計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの据付作業等では、エレベータの昇降路の寸法を計測する必要がある。昇降路の寸法測定には、種々の方法があるが、最近では、三次元計測機器を搭載したドローンを昇降路内に飛行させて測定する手法がある。ドローンを飛行させる際、ドローンの自己位置を認識させる必要があるが、その方法としては、GPSや高度計、加速度センサ、SLAM技術等を複合して用いられることが多い。
【0003】
しかしながら、昇降路はGPSの電波が届きにくく、届いても水平方向の位置が一定であるため、自己位置を把握することへの利用は困難である。また自分がいる位置の推定と周囲の環境の構造把握(環境地図作成)を同時に行うSLAM技術についても、昇降路内は形状変化が乏しいため、周囲の特徴物から環境地図を作成し、特徴物との相対距離から自己位置を把握することは困難なため、活用することは難しい。このように既存技術を活用すると、自己位置ロストによる衝突や、撮影データ精度の低下の恐れがある。
【0004】
この対策としてマーカーを用いた自立飛行の手法が知られている。この手法はトンネルなどのGPSが届かない環境でもマーカーに格納された飛行指示の情報を元に、次のマーカー迄のドローンの自律飛行を可能にするシステムとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-59568号公報
【文献】特開2019-77446号公報
【文献】特開2013-230936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のマーカーを用いた撮影手法は、設置マーカー数が多いほど撮影精度が向上するが、その分、階間移動等に時間が掛かる。また、マーカーが次のマーカーの設置位置をドローンに指示しながら飛行するため、現地での設置精度が低いと、撮影精度の低下に繋がるという課題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、現地での自己位置認識マーカーの設置に掛かる時間を省力化し、撮影精度を向上させることができる昇降路計測用マーカー設置装置および昇降路計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための実施形態は、ドローンに三次元計測機器を搭載して昇降路内を撮影させ、撮影データに基づいて昇降路を計測する昇降路計測方法に使用される昇降路計測用マーカー設置装置であって、前記昇降路の開口部に設置され、昇降路の上階から下階に向けてロール紙を垂れ下げるためのマーカー取付治具を備える。
【0009】
前記マーカー取付治具は、前記開口部の幅に適合させるために幅方向への長さを調節可能な取付パイプと、前記取付パイプに対して昇降路の奥行方向に垂直に設けられ、昇降路の奥行方向への長さを調節可能なマーカー設置パイプとを備える。
【0010】
前記ロール紙には、昇降路の位置を指標する距離情報から成る二次元コードが整列状態で印字されており、当該ロール紙が巻かれたロールマーカーが前記マーカー設置パイプに取り付けられた後、前記ロール紙が下階側に垂れ下げられ、ドローンによる昇降路計測時は、ロール紙とともに昇降路内を撮像し、前記二次元コードが指標する距離情報に基づき、自己位置を補正させながら前記撮影データを取得させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態が適用される昇降路計測用マーカー設置装置の構成を示す説明図。
【
図5A】ロール用ブレーキの踏込前の状態を示す説明図。
【
図5B】ロール用ブレーキの踏込後の状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は昇降路計測用マーカー設置装置(以下、単に「マーカー設置装置」と称する)100を取り付けたエレベータ昇降路を示している。
【0013】
図1に示す建屋1には、エレベータ据付前の昇降路2が図示されており、開口部3が形成された三方枠4には、マーカー設置装置100が設置されている。このマーカー設置装置100は、ドローンに三次元計測機器を搭載して昇降路2内を撮影させ、撮影データに基づいて昇降路2の形状および寸法を計測する昇降路計測方法に使用される。
【0014】
マーカー設置装置100は、マーカー取付治具10と、ロール紙固定治具30とを備えている。
【0015】
図2に示すように、マーカー取付治具10は、開口部3(三方枠4)に突っ張り棒のように設置され、開口部3の幅に適合させるために幅方向への長さを調節可能な取付パイプ11を備える。また、取付パイプ11に対して昇降路2の奥行方向に垂直に設けられ、昇降路2の奥行方向への長さを調節可能なマーカー設置パイプ12を備える。取付パイプ11には、幅調節ねじ13が設けられ、幅方向への長さを調節可能となっている。マーカー設置パイプ12には、奥行調節ねじ14が設けられ、奥行方向への長さを調節可能となっている。マーカー設置パイプ12の取付パイプ11と平行なパイプ部分にはロールマーカー20が取り外し可能に取り付けられる。このロールマーカー20が取り付けられるマーカー設置パイプ12の幅方向の長さは幅調節ねじ16により調節可能である。
【0016】
図3に示すように、ロール紙固定治具30は、マーカー取付治具10と同様の形状を有しており、昇降路2の中間階または最下階に設置される。すなわち、開口部3(三方枠4)の幅に適合させるために幅方向への長さを調節可能な取付パイプ31と、取付パイプ31に対して昇降路2の奥行方向に垂直に設けられ、昇降路2の奥行方向への長さを調節可能な吸着ロール設置パイプ32とを備えている。また、取付パイプ31には、幅調節ねじ33が設けられ、幅方向への長さを調節可能となっている。さらに、吸着ロール設置パイプ32には、奥行調節ねじ34が設けられ、奥行方向への長さを調節可能となっている。さらに、吸着ロール設置パイプ32の取付パイプ31と平行なパイプ部分には吸着ロール35が取り付けられている。この吸着ロール35が取り付けられる吸着ロール設置パイプ32の幅方向の長さは幅調節ねじ36により調節可能である。
【0017】
吸着ロール35は、ロール紙23と接触する部分が鉄などの磁性材料で形成された磁性体ロールであり、上階から垂れ下がった、マグネットで作成されたロール紙23を吸着固定してドローン飛行時における風の影響による変位を防止する。
【0018】
マーカーシート21には、昇降路2の位置を指標する距離情報が二次元コード22として印字されている。当該マーカーシート21(ロール紙23)が巻かれたロールマーカー20をマーカー設置パイプ12に取り付け、ロール紙23を下階側に垂れ下げて使用される。
【0019】
ドローンによる昇降路計測時は、マーカーから次のマーカーまでの予め設定された距離情報(飛行ルート情報を含む)に基づき、撮影データから自己位置を補正させながら前記撮影データを取得させる。
【0020】
図4は、ロール紙23の構成を示している。ロール紙23は、飛行ルート情報を記録した二次元コード22を印刷したマーカーシート21を磁性体材料から成る紙と貼り合わせて構成されている。また、このロール紙23の側片部には、等間隔に目盛り24が印字されており、ロールマーカー20からロール紙23の先端までのロール長さが分かるようになっている。
【0021】
図5はロール用ブレーキ40の構成を示しており、
図5Aはブレーキ解放時、
図5Bはブレーキ踏込時をそれぞれ示す。
【0022】
ロール用ブレーキ40はロールマーカー20自体の自重により、ロールが垂れ下がることを防ぐための機器であり、ブレーキ板42を踏むと、梃子の原理により連動部45が持ち上がりブレーキ板42も連動して持ち上がる。ロール用ブレーキ40のブレーキ板42はピン止め43を介して柔接合されており、通常時は自重により垂れ下がる構造となっているため、ロールマーカー20は、その大きさに関わらず、常にブレーキ板42と接触する。またブレーキ板42の先端部の止め部44はウレタン等の摩擦係数が高い素材で作成されているため、ブレーキ板42とロールマーカー20が接触している間は、ロールマーカー20が回転することは無い。これにより、
図5Aに示すように、ブレーキ板42を作業者の足5で踏んでいない間は、ブレーキ板先端部の止め部44がロールマーカー20に接触することで自重によりロールが垂れ下がることを防止できる。一方、
図5Bに示すように、作業者が足5を踏んでいる間は止め部44が持ち上がることでロールマーカー20が自重で垂れ下がり昇降路2内に垂らすことが可能となる。
【0023】
<撮影手順の説明>
本発明の実施形態は、エレベータの新設工事等に適用され、建屋1の昇降路2の工事が完了した段階で実施される。
【0024】
<最上階での作業>
作業者は最上階にマーカー設置装置100のマーカー取付治具10を設置する。次いで、ロール用ブレーキ40を踏み込み、ブレーキ板42を上方に持ち上げながら、ロールマーカー20を昇降路2に垂らしていく。作業者はロール紙両端の目盛り24を確認し、昇降行程の長さ分を昇降路2に垂らし終えた段階で、フットペダル41を離し、ロール紙23を固定する。ロール紙23から基準位置である通り芯までの距離L1を計測し、記録しておく。
【0025】
<最下階での作業>
作業者は最下階に移動し、ロール紙固定治具30を設置して吸着ロール35によりロール紙23を吸着する。このとき、作業者はロール紙固定治具30の突き出し長さを奥行調節ねじ34で調節して最下階のロール紙23から通り芯までの距離L3を、最上階のロール芯から通り芯までの距離L1と同一寸法にする。
【0026】
<中間階での作業>
作業者は中間階に移動し、ロール紙固定治具30を設置して吸着ロール35によりロール紙23を吸着する。このとき、作業者はロール紙固定治具30の突き出し長さを奥行調節ねじ34で調節して中間階のロール紙23から通り芯までの距離L2を、距離L1及び距離L3と同一寸法にする。これにより、ロール紙23は昇降路2内を最上階から最下階まで垂直に垂れ下げられることになる。なお、中間階に設置されるロール紙固定治具30は、昇降路2の高さによるが複数階に設置されるのが望ましい。また、使用するドローンの性能により飛行時の発生風量が変化することから、設置階については現地で調整することが望ましい。
【0027】
<最終作業>
作業者は最下階に移動し、三次元計測装置を取り付けたドローンを昇降路2の最下階(またはピット)から最上階へ向けて飛行させる。自己位置認識用マーカー(ロールマーカー20)で飛行ルートを補正しながら三次元昇降路画像データを取得する。
【0028】
以上の実施形態によれば、現地での自己位置認識マーカーの設置に掛かる時間を省力化し、撮影精度を向上させることができる昇降路計測用マーカー設置装置および昇降路計測方法を提供することができる。
【0029】
なお、昇降路計測用マーカー設置装置100については三方枠4への設置に限定するものではなく、昇降路2内の梁に設置する等、建屋1の形状に応じて適宜、選択しても良い。
【0030】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1…建屋、2…昇降路、3…開口部、4…三方枠、5…足、10…マーカー取付治具、11…取付パイプ、12…マーカー設置パイプ、13…幅調節ねじ、14…奥行調節ねじ、16…幅調節ねじ、20…ロールマーカー、21…マーカーシート、22…二次元コード、23…ロール紙、24…目盛り、30…ロール紙固定治具、31…取付パイプ、32…吸着ロール設置パイプ、33…幅調節ねじ、34…奥行調節ねじ、35…吸着ロール、36…幅調節ねじ、40…ロール用ブレーキ、41…フットペダル、42…ブレーキ板、43…ピン止め、44…止め部、45…連動部、100…マーカー設置装置(昇降路計測用マーカー設置装置)
【要約】
【課題】現地での自己位置認識マーカーの設置に掛かる時間を省力化し、撮影精度を向上させる。
【解決手段】ドローンに三次元計測機器を搭載して昇降路内を撮影させ、撮影データに基づいて昇降路を計測する昇降路計測方法に使用される昇降路計測用マーカー設置装置であって、昇降路の開口部に設置され、昇降路の上階から下階に向けてロール紙を垂れ下げるためのマーカー取付治具を備える。ロール紙には、昇降路の位置を指標する距離情報から成る二次元コードが整列状態で印字されており、ロール紙が巻かれたロールマーカーが取り付けられた後、ロール紙が下階側に垂れ下げられ、ドローンによる昇降路計測時は、ロール紙とともに昇降路内を撮像し、二次元コードが指標する距離情報に基づき、自己位置を補正させながら撮影データを取得させる。
【選択図】
図1