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特許7567083導電紙、その製造方法、金属接着体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導電紙、その製造方法、金属接着体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/50 20060101AFI20241007BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20241007BHJP
   D21H 17/46 20060101ALI20241007BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
D21H13/50
B32B27/10
D21H17/46
H01B1/24 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024071548
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-05-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】欒 文静
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸井 睦
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-070291(JP,A)
【文献】特開2010-222733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 13/50
B32B 27/10
D21H 17/46
H01B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%である紙基材と、
少なくとも一部が前記紙基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化物と、
を含有する、導電紙であり、
前記導電紙に含まれる前記熱硬化性樹脂の硬化物の割合が10~55質量%である、導電紙
【請求項2】
前記紙基材に含まれる前記炭素繊維の割合が35~90質量%である、請求項1に記載の導電紙。
【請求項3】
少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%であるスラリーを調製し、
前記スラリーを抄紙して紙基材を得て、
前記紙基材に熱硬化性樹脂を含浸させ、
前記熱硬化性樹脂が含浸した前記紙基材を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる、導電紙の製造方法であり、
前記導電紙に含まれる前記熱硬化性樹脂の硬化物の割合が10~55質量%である、導電紙の製造方法
【請求項4】
前記紙基材に含まれる前記炭素繊維の割合が35~90質量%である、請求項に記載の導電紙の製造方法。
【請求項5】
金属部材と、前記金属部材の表面に化学的または機械的に接着された導電紙と、を備える、金属接着体であり、
前記導電紙が、少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%である紙基材と、少なくとも一部が前記紙基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化物と、を含有する、金属接着体
【請求項6】
金属部材と、前記金属部材の表面に化学的または機械的に接着された請求項1または2に記載の導電紙と、を備える、金属接着体。
【請求項7】
電紙を、金属部材の表面に化学的または機械的に接着させる、金属接着体の製造方法であり、
前記導電紙が、少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%である紙基材と、少なくとも一部が前記紙基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化物と、を含有する、金属接着体の製造方法
【請求項8】
請求項1または2に記載の導電紙を、金属部材の表面に化学的または機械的に接着させる、金属接着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電紙、その製造方法、金属接着体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの導電材を含む導電紙は、製品構成部材間の通電に用いられ、紙としての特性を活かして導電性以外の機能を付与できるため、複雑形状の接地ブラシや燃料電池のセパレータ、ガス拡散電極材、電磁波吸収材など、種々の用途に用いられる。
特許文献1には、粒子径1μm未満の導電粒子と粒子径5~100μmの導電粒子と炭素繊維と有機繊維とを含むスラリーを抄紙した多孔質導電シートおよびこれを用いた電極材が開示されている。
特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂繊維と粒子状導電材と繊維状導電材とを含むスラリーを抄紙した複数の複合シートの間に、エチレンビニルアルコール共重合体と導電材とを含む樹脂組成物を挟み、溶着一体化した燃料電池用セパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-103030号公報
【文献】特開2020-145014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気自動車の実用化が進みつつあるなかで、シャフト軸などの回転部材とハウジングなどの固定部材の間で電位差、電流が発生して問題となる場合がある。例えばインバータ駆動方式が一般的な電動モータはステータとロータ間の電位差に由来する軸電圧が発生し、当該軸を支持している転がり軸受を軸電圧由来の電流が通過すると、転がり軸受に損傷を与える、いわゆる「電食」と呼ばれる問題が生じる。また回転部材近傍に位置する種々の電子制御部品からスイッチング等のノイズ成分として電圧、電流が発生し回転部材を介して他の電子制御部品に影響を与える電磁両立性の問題が生じる場合もある。
いずれも回転部材と固定部材との間の導電パスがないことにより発生する問題であり、対策として金属材料、架橋ゴム材料などの高強度材料に加え、紙材料である導電紙を用いることが検討されている。導電紙は、柔軟性や加工性が高く、また厚みが薄いため、装着性に優れ、様々な形状の部材に装着可能である。また、硬度が低いため、相手面(金属部材)との差回転がある場合に、相手面の摩耗を抑制できる。それ自身の耐摩耗性も高い。また、その気孔性から、油膜を排除し、導電性を発揮できるため、油潤滑させる部材でも適用できる。
【0005】
しかし、従来の導電紙の導電性は、金属部材に比べて著しく劣る。そのため、充分な導電性を確保するためには、大面積化や負荷荷重増大が必要となる。大面積化や負荷荷重増大は、引きずりトルクの増大、耐久性の低下などをもたらす。
また、回転部材と固定部材間の導電パスには、相手面との差回転から発生するせん断変形に対する強度や、摺動熱に耐えうる耐熱性も求められるが、従来の導電紙はこれらを満たすものではない。例えば、特許文献1の多孔質導電シートや特許文献2の燃料電池用セパレータは、樹脂による補強がなされているが、樹脂が熱可塑性樹脂であるため、摺動熱により軟化し、強度が低下する。さらに特許文献2の燃料電池用セパレータは、複合シートの間に樹脂組成物を挟んでいるため、油膜排除性が劣り、油中環境での導電性に劣る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、導電性、強度および耐熱性に優れる導電紙およびその製造方法、並びにこの導電紙を用いた金属接着体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%である紙基材と、
少なくとも一部が前記紙基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化物と、
を含有する、導電紙。
[2]前記紙基材に含まれる前記炭素繊維の割合が35~90質量%である、前記[1]に記載の導電紙。
[3]前記導電紙に含まれる前記熱硬化性樹脂の硬化物の割合が10~55質量%である、前記[1]または[2]に記載の導電紙。
[4]少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%であるスラリーを調製し、
前記スラリーを抄紙して紙基材を得て、
前記紙基材に熱硬化性樹脂を含浸させ、
前記熱硬化性樹脂が含浸した前記紙基材を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる、導電紙の製造方法。
[5]前記紙基材に含まれる前記炭素繊維の割合が35~90質量%である、前記[4]に記載の導電紙の製造方法。
[6]前記導電紙に含まれる前記熱硬化性樹脂の硬化物の割合が10~55質量%である、前記[4]または[5]に記載の導電紙の製造方法。
[7]金属部材と、前記金属部材の表面に化学的または機械的に接着された前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電紙と、を備える、金属接着体。
[8]前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電紙を、金属部材の表面に化学的または機械的に接着させる、金属接着体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性、強度および耐熱性に優れる導電紙およびその製造方法、並びにこの導電紙を用いた金属接着体およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
〔導電紙〕
本発明の一実施形態に係る導電紙は、紙基材と、熱硬化性樹脂の硬化物と、を含有する。熱硬化性樹脂の硬化物の少なくとも一部は、紙基材に含浸している。
【0011】
<紙基材>
紙基材は、少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有する。
【0012】
炭素繊維は、繊維状の炭素系物質である。
炭素繊維は、紙基材の骨格を構成する。また、炭素繊維は紙基材内で導電ネットワークを形成し、導電性を発現する。
【0013】
紙基材内の炭素繊維の繊維長は0.1mm~6.5mmが好ましく、0.3mm~2.0mmがより好ましい。繊維長が前記下限値以上であると、紙基材内で炭素繊維同士が網目構造を形成しやすく、導電紙の導電性が向上する傾向がある。繊維長が前記上限値以下であると、フィブリル化繊維による補強効果が大きくなり、導電紙の強度が向上する傾向がある。
紙基材、導電紙の炭素繊維の繊維長は熱分解と撹拌による炭素繊維の取りだし、及び取り出した繊維の画像解析により測定される。
【0014】
炭素繊維の繊維径は6~15μmが好ましく、7~10μmがより好ましい。繊維径が前記下限値以上であると、単繊維内で移動可能な電荷量が多くなり、単繊維の導電性が優れる傾向がある。繊維径が前記上限値以下であると、紙基材に含まれる炭素繊維重量に対する炭素繊維本数が多くなり導電ネットワーク性が優れる傾向がある。単繊維の導電性向上と導電ネットワーク性向上のバランスにより好ましい炭素繊維の繊維径範囲が決定される。
繊維径はレーザーなどにより生成させた炭素繊維の断面を電子顕微鏡などのミクロ観察をすることにより測定される。扁平な断面の繊維の場合、長径と短径との平均値を繊維径とする。
【0015】
本実施形態で用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが挙げられる。
炭素繊維は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
紙基材に含まれる炭素繊維の割合は、紙基材の総質量に対し、35~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。炭素繊維の割合が前記下限値以上であると、炭素繊維の導電ネットワーク性が高まり、導電紙の導電性がより優れる傾向がある。炭素繊維の割合が前記上限値以下であると、フィブリル繊維の配合可能割合が増え、フィブリル繊維の配合割合が高まることによりフィブリル繊維の補強効果が高まり、導電紙の強度がより優れる傾向がある。
【0017】
フィブリル化繊維は、有機繊維を叩解させ繊維のフィブリル成分を毛羽立たせた状態の繊維を示す。
フィブリル化繊維は炭素繊維とともに紙基材の骨格を構成する。また、紙基材がフィブリル化繊維を含むことで、フィブリル化繊維によって繊維間の絡み合いが増え、紙基材および導電紙の強度が向上する。また、紙基材にフィブリル化繊維が含有されることで紙基材の炭素繊維の含有量は低下するが、フィブリル化繊維による絡み合い向上効果により炭素繊維同士の接触点が増えるため、かえって紙基材としての導電ネットワーク性は向上し、導電紙の導電性が向上する。
【0018】
フィブリル化繊維のフィブリル化度合は濾水度や比表面積により数値化される。特に、濾水度による数値化は簡便でかつ絡み合いやすさの代替指標となるため、フィブリル化度合を評価するために多く採用される。
フィブリル化繊維の濾水度は、50~700mLが好ましく、150~600mLがより好ましい。濾水度はフィブリル化の指標の1つである。濾水度が前記上限値以下であると、繊維同士の絡み合いが十分に起こり、導電紙の強度、導電性がより優れる傾向がある。濾水度が前記下限値以上であると、油膜排除性が維持され、油潤滑下での導電性がより優れる傾向がある。
濾水度はJIS P 8121-2:2012に従って測定されるカナダ標準濾水度である。
【0019】
フィブリル化繊維における有機繊維としては、フィブリル化が可能であればよく、例えばセルロース繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維が挙げられる。
セルロース繊維としては、例えば綿や麻などの天然植物を主原料とし、種子毛繊維、靭皮繊維、葉脈繊維に分類される植物セルロース繊維、樹木や木材中のセルロースを取り出し化学処理を経て得る再生セルロース繊維、セルロースを化学反応によりセルロース中の水酸基を部分的にもしくは全てをアセチル化して得たアセテートである半合成繊維が挙げられる。
アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン-3,4’オキシジフェニレン-テレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが挙げられる。
アクリル繊維としては、例えばポリアクリルニトリル、アクリルニトリル重合体、アクリルニトリル共重合体が挙げられる。
ポリオレフィン繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリシクロオレフィン、ポリメチルペンテンが挙げられる。
有機繊維としては、耐熱性の点から、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維が好ましい。
【0020】
フィブリル化繊維は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
フィブリル化繊維の含有量は、炭素繊維に対して10~120質量%であり、30~100質量%がより好ましい。フィブリル化繊維の含有量が前記下限値以上であると、繊維同士の絡み合いが十分に起こり、導電紙の強度、導電性が優れる。フィブリル化繊維の含有量が前記上限値以下であると、炭素繊維の導電ネットワーク性を十分に確保でき、導電性に優れる。
【0021】
紙基材は、本発明の目的を阻害しない範囲で、炭素繊維およびフィブリル化繊維以外の他の成分をさらに含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、繊維分散剤、紙力剤、凝集剤、いわゆるバインダー成分としての役割をもつ熱可塑性樹脂、繊維状または粒子状の有機化合物、繊維状または粒子状の無機化合物が挙げられる。
他の成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
<熱硬化性樹脂の硬化物>
熱硬化性樹脂の硬化物は、紙基材を補強する補強材として機能する。熱硬化性樹脂の硬化物の少なくとも一部が紙基材に含浸していることで、導電紙の強度に優れる。また、熱硬化性樹脂の硬化物は、熱可塑性樹脂に比べて耐熱性に優れるため、摺動熱などによって温度が上昇した場合でも導電紙の強度が低下しにくく、導電紙の耐熱性に優れる。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、含浸させることができるワニス状になり、かつ熱硬化するものであればよく、例えばフェノール樹脂、変性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ゴム樹脂が挙げられる。
変性フェノール樹脂、変性エポキシ樹脂の変性成分としては、オイル、ゴム、カシュー、アクリル、天然由来成分が挙げられる。
ゴム樹脂としては、液状ゴム硬化物が該当する。液状ゴムとしては、例えば液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム、液状スチレンブタジエンゴム、液状フッ素ゴム、液状シリコーンゴム、液状ウレタンゴムが挙げられる。液状ゴムの硬化にはイソシアネートなどの架橋剤の他、架橋反応促進のための各種薬剤が用いられていてもよい。
熱硬化性樹脂には本発明の目的を阻害しない範囲で樹脂成分以外の成分が添加されていてもよい。樹脂成分以外の成分としては、例えば樹脂溶液に含まれる、または添加される、含浸性を高めるための表面張力調整剤や繊維状または粒子状の有機化合物もしくは無機化合物が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、これらの中でも、耐熱性、耐油性、強度の多角的な観点から、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
導電紙に含まれる熱硬化性樹脂の硬化物の割合は、導電紙の総質量に対し、10~55質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。熱硬化性樹脂の硬化物の割合が前記下限値以上であると、強度がより優れる傾向がある。熱硬化性樹脂の硬化物の割合が前記上限値以下であると、導電性、油膜排除性がより優れる傾向がある。
【0025】
<導電紙の特性>
導電紙の気孔率は、30~95%が好ましく、50~90%がより好ましい。気孔率が前記上限値以下であると、強度、導電性がより優れる。気孔率が前記下限値以上であると、油膜排除性が高くなり、油潤滑下での導電性がより優れる。
気孔率は、水銀ポロシメータにより測定される値である。
【0026】
本実施形態の導電紙は回転部材との差回転に耐えうるものであることが好ましく、その強度の指標としてはせん断強度が挙げられる。
導電紙のせん断強度は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましい。せん断強度が前記下限値以上であると、導電紙への負荷荷重を高くできるため、高い導電性が求められる用途に有用である。
【0027】
導電紙の厚さは0.2~1.5mmが好ましく、0.3mm~1.0mmがより好ましい。導電紙の厚さが前記下限値以上であると、摩耗やヘタリによって決定される耐久寿命がより優れる。厚さが前記上限値以下であると、導電紙の厚さ方向に通電させる距離が短くなるので、導電紙の厚さ方向の導電性がより優れる。
【0028】
<導電紙の製造方法>
本実施形態の導電紙は、例えば以下の方法により製造できる。
少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%であるスラリーを調製し、前記スラリーを抄紙して紙基材を得て、前記紙基材に熱硬化性樹脂を含浸させ、前記熱硬化性樹脂が含浸した前記紙基材を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる方法。
【0029】
(スラリーの調製)
スラリーは、炭素繊維、フィブリル化繊維、必要に応じて他の成分を水に分散させることにより調製できる。
炭素繊維、フィブリル化繊維、他の成分はそれぞれ、市販のものを用いてもよく、公知の方法により製造したものを用いてもよい。フィブリル化繊維は、例えば、公知の方法により繊維をフィブリル化して得られる。フィブリル化の方法としては、例えば、ビーター、リファイナーなどを用いて繊維を叩解する方法が挙げられる。
分散方法は特に限定されず、従来、紙の製造においてパルプスラリーの調製に用いられている方法を適用できる。例えば、離解機(パルパー)、ビーター、リファイナーなどを用いて実施できる。
【0030】
(抄紙)
スラリーの抄紙(湿式抄紙)は、公知の方法により実施できる。例えば、長網式や丸網式の抄造機を用いて実施できる。
【0031】
必要に応じて、抄紙によって形成される抄紙物に、紙基材の強度向上のために、熱可塑性樹脂の溶液を塗布または浸漬により含浸させて紙基材を得てもよい。
また、この熱可塑性樹脂の溶液に、本発明の目的を阻害しない範囲で、樹脂成分以外の成分が含まれていてもよい。樹脂成分以外の成分としては、例えば樹脂溶液に含まれる、または添加される、含浸性を高めるための表面張力調整剤や繊維状または粒子状の有機化合物もしくは無機化合物が挙げられる。
【0032】
(熱硬化性樹脂の含浸)
紙基材に熱硬化性樹脂を含浸させる方法としては、熱硬化性樹脂と溶媒とを含むワニスを紙基材に塗布または浸漬により含浸させ、乾燥(溶媒を除去)する方法が好ましい。このようにして熱硬化性樹脂を含浸させることで、熱硬化性樹脂を紙基材に内添する場合に比べ、紙基材全体をむらなく熱硬化性樹脂で補強できる。
ワニスの溶媒としては、熱硬化性樹脂を溶解可能であればよく、紙基材への含浸性を高めるために粘度が低いものが好ましく、溶媒の除去を容易にするために揮発性の高いものが好ましい。
ワニスには、本発明の目的を阻害しない範囲で、樹脂成分以外の成分が含まれていてもよい。樹脂成分以外の成分としては、例えば樹脂溶液に含まれる、または添加される、含浸性を高めるための表面張力調整剤や繊維状または粒子状の有機化合物もしくは無機化合物が挙げられる。
ワニスを紙基材に含浸させる方法としては、例えば紙基材の片面又は両面にワニスを塗布する方法、紙基材をワニスに浸漬する方法が挙げられる。
乾燥は、ワニスの溶媒を除去できればよく、加熱乾燥でも風乾でもよい。加熱乾燥の温度は、例えば50~200℃である。
【0033】
(硬化)
熱硬化性樹脂が含浸した紙基材の加熱条件は、熱硬化性樹脂が硬化可能であればよく、使用する熱硬化性樹脂に応じて適宜選定できる。フェノール樹脂の場合、一般的には120~300℃で10~100分間程度である。
【0034】
硬化後、必要に応じて、表面研磨、追加加熱、圧縮成型、熱圧着、金属または非金属部材への化学的または機械的な接着などの処理を行ってもよい。
【0035】
<導電紙の用途>
本実施形態の導電紙は、導電性、強度および耐熱性に優れている。そのため、これらの特性が求められる用途に好ましく用いられる。
本実施形態の導電紙の用途の好ましい一例として、回転部材と固定部材間の導電パス形成が挙げられる。なかでも、インバータ制御モータを支持するベアリングの電食防止用の導電パス形成が好ましい。
導電パス用途では、例えば、金属部材の表面に導電紙が化学的または機械的に接着され、金属接着体とされる。かかる金属接着体においては導電紙を導電パスとして利用できる。例えば、導電紙を介して電位差のある金属部材を接地することができる。
【0036】
金属部材としては、特に限定するものではないが、例えば回転部材としてはベアリング、シャフト軸、ハウジング、シャフト付帯物、ハウジング付帯物が挙げられる。
【0037】
本実施形態の金属接着体は、本実施形態の導電紙を、金属部材の表面に化学的または機械的に接着させる方法により製造できる。
導電紙を化学的または機械的に接着させる方法としては、例えば接着剤との化学反応により導電紙と金属部材を接着させる方法、テープの粘着成分により導電紙と金属部材を化学的に吸着させて接着する方法、かしめや凹凸により機械的に導電紙と金属部材を固定し接着する方法が挙げられる。
【実施例
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0039】
(導電紙の作製)
まず、実施例1、比較例1~3の導電紙を作製した。
【0040】
実施例1は、本発明における紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量の条件、紙基材に含まれる炭素繊維の割合の条件、同紙基材から得られた導電紙における熱硬化性樹脂の硬化物の導電紙における割合の条件、スラリーを抄紙することにより紙基材を得てそれに熱硬化性樹脂を含浸および硬化させる製造方法の条件、の全てを満たすものである。具体的には、実施例1の導電紙は、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が43質量%であり、紙基材における炭素繊維の含有割合が66質量%であり、導電紙における熱硬化性樹脂の硬化物の含有割合が20質量%である。加えて実施例1の導電紙の製造方法は、炭素繊維とフィブリル化繊維と他の成分を含有し、フィブリル化繊維の含有量が炭素繊維に対して43質量%であるスラリーを調製し、スラリーを抄紙して紙基材を得て、紙基材に熱硬化性樹脂のワニスを含浸させ、熱硬化性樹脂が含浸した紙基材を加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるものである。
【0041】
比較例1は、本発明における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量の条件を満たさず、紙基材にフィブリル化繊維が含まれないものである。具体的には、比較例1の導電紙は、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が0質量%であり、紙基材における炭素繊維の含有割合が95質量%であり、導電紙における熱硬化性樹脂の硬化物の含有割合が20質量%である。加えて比較例1の導電紙の製造方法は、炭素繊維と他の成分を含有するスラリーを調製し、スラリーを抄紙して紙基材を得て、紙基材に熱硬化性樹脂のワニスを含浸させ、熱硬化性樹脂が含浸した紙基材を加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるものである。
【0042】
比較例2は、本発明における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量の条件を満たさず、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が少ないものである。具体的には、比較例2の導電紙は、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が5質量%であり、紙基材における炭素繊維の含有割合が90質量%であり、導電紙における熱硬化性樹脂の硬化物の含有割合が20質量%である。加えて比較例2の導電紙の製造方法は、炭素繊維とフィブリル化繊維と他の成分を含有し、フィブリル化繊維の含有量が炭素繊維に対して5質量%であるスラリーを調製し、スラリーを抄紙して紙基材を得て、紙基材に熱硬化性樹脂のワニスを含浸させ、熱硬化性樹脂が含浸した紙基材を加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるものである。
【0043】
比較例3は、本発明における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量の条件を満たさず、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が多いものである。具体的には、比較例3の導電紙は、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量が156質量%であり、紙基材における炭素繊維の含有割合が37質量%であり、導電紙における熱硬化性樹脂の硬化物の含有割合が20質量%である。加えて比較例3の導電紙の製造方法は、炭素繊維とフィブリル化繊維と他の成分を含有し、フィブリル化繊維の含有量が炭素繊維に対して156質量%であるスラリーを調製し、スラリーを抄紙して紙基材を得て、紙基材に熱硬化性樹脂のワニスを含浸させ、熱硬化性樹脂が含浸した紙基材を加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるものである。
【0044】
すなわち、比較例1~3は、実施例1と同様の製造方法によって作製された導電紙であるが、紙基材における炭素繊維に対するフィブリル化繊維の含有量に関する条件を満足しないものであり、本発明の範囲外となるものである。
【0045】
実施例1、比較例1~3に用いた原料は全て同一である。炭素繊維としては、紙基材において繊維径7μm、繊維長2mmとなるPAN系炭素繊維を用い、フィブリル化繊維としては、濾水度300mLのアラミド繊維を用い、他の成分としては熱可塑性樹脂、紙力剤、凝集剤を同成分量ずつ合計で紙基材中の含有割合が5質量%となる量で用いた。
また、実施例1、比較例1~3の導電紙の厚さは全て0.5mmとした。
【0046】
(導電紙の評価)
次に、実施例1、比較例1~3の導電紙について、強度および導電性を評価した。結果を表1に示した。
強度については、導電紙のせん断強度測定によって評価を行った。せん断強度測定は導電紙の表裏面をそれぞれ鉄板に固定し、その鉄板をせん断方向に、すなわち導電紙の厚さ方向と垂直に、かつ表と裏の鉄板を逆方向に移動させることで導電紙をせん断変形させ、導電紙がせん断破壊されるまでのせん断応力最大値をせん断強度とする方法で実施した。
せん断強度測定をする際の導電紙のサイズはΦ3mmで実施している。
導電性については、内径φ38.5mm及び外径φ55.8mmのドーナッツ状の導電紙を作製し、内径φ33mm及び外径φ45mmのドーナッツ状の銅板でドーナッツ状の導電紙の内径側の表裏を挟み、かつ内径φ49mm及び外径61mmのドーナッツ状の銅板でドーナッツ状の導電紙の外径側の表裏を挟み、導電紙の内径側の銅板から導電紙の外径側の銅板への導電パスを導電紙で形成させ、この導電パスの交流電流における抵抗値、すなわちインピーダンスを測定することにより評価を実施した。ここで銅板の挟み込む圧力は導電紙の内径側、外径側それぞれ50Nで設定した。また、導電性は測定されたインピーダンスの逆数で評価を実施した。
強度および導電性の評価結果に関しては、それぞれ、せん断強度およびインピーダンスの逆数値を、比較例1の値を100とした場合の相対値で示しており、評価値が100より大きい場合は性能が向上していると判断される。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、実施例1は強度および導電性の評価値が100より大きく、かつ比較例1~3に対して最も高かったことがわかる。比較例2は比較例1に対して性能が向上しているが効果としては十分に大きくなかった。比較例3は比較例1に対して導電性が低下していた。したがって実施例1の導電紙は、強度および導電性を十分に向上させることができた。
【要約】
【課題】導電性、強度および耐熱性に優れる導電紙およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%である紙基材と、少なくとも一部が前記紙基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化物と、を含有する、導電紙。炭素繊維とフィブリル化繊維とを含有し、前記フィブリル化繊維の含有量が前記炭素繊維に対して10~120質量%であるスラリーを調製し、前記スラリーを抄紙して紙基材を得て、前記紙基材に熱硬化性樹脂を含浸させ、前記熱硬化性樹脂が含浸した前記紙基材を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる、導電紙の製造方法。
【選択図】なし