(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】機械式時計
(51)【国際特許分類】
G04B 17/00 20060101AFI20241007BHJP
G04C 3/04 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G04B17/00 B
G04C3/04 B
(21)【出願番号】P 2024507664
(86)(22)【出願日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2023006827
(87)【国際公開番号】W WO2023176378
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2022039230
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田京 祐
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
(72)【発明者】
【氏名】白井 琢矢
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-38206(JP,A)
【文献】特開2005-106830(JP,A)
【文献】国際公開第2022/176453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
G04C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、
前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、
第1極性部と、前記第1極性部と極性が異なる第2極性部を含む、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、
コイルと、
前記永久磁石との間で磁気抵抗が生じるように設けられる第1端部と、前記永久磁石との間で磁気抵抗が生じるように前記永久磁石を介して前記第1端部の反対側に設けられる第2端部と、を含む軟磁性コアと、
前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、基準信号源の基準振動数と、に基づいて歩度調整を行う歩度調整手段と、
を有し、
前記永久磁石は、
前記ヒゲゼンマイがその弾性変形の中立位置にある状態における第1角度位置において、前記第1極性部が第1間隔を空けて前記第1端部に対向し、前記第2極性部が第2間隔を空けて前記第2端部に対向し、
前記第1角度位置から180°回転した第2角度位置において、前記第1極性部が第3間隔を空けて前記第2端部に対向し、前記第2極性部が第4間隔を空けて前記第1端部に対向するように配置され、
前記第2間隔が第1間隔よりも小さく、かつ前記第4間隔と前記第3間隔との差が前記第1間隔と前記第2間隔との差よりも小さくなるように配置されている、
機械式時計。
【請求項2】
前記永久磁石の平面形状が円形であり、
前記永久磁石の中心位置は、前記テン輪の回転軸であるテン真の回転中心と異なる位置に配置されている、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項3】
前記軟磁性コアにおいて前記第1端部の内周面及び前記第2端部の内周面により平面形状が円形の開口を構成し、
前記軟磁性コアの開口の中心位置は、前記回転中心と異なる位置に配置されている、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項4】
前記永久磁石が前記第1角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置と、前記軟磁性コアの開口の中心位置とは、前記回転中心を介して対称の位置にある、
請求項3に記載の機械式時計。
【請求項5】
前記永久磁石が前記第2角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置と前記軟磁性コアの開口の中心位置とが一致する、
請求項4に記載の機械式時計。
【請求項6】
前記永久磁石が前記第1角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置、前記回転軸の回転中心、及び前記軟磁性コアの開口の中心位置は、前記第1極性部と前記第2極性部の境界線に直交する直線上に並んで配置されている、
請求項3~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項7】
前記軟磁性コアを支持すると共に、地板に固定される支持部材と、
前記支持部材に取り付けられると共に、前記軟磁性コアの位置決めをする位置決め枠と、
を有し、
前記位置決め枠は、その中心位置が前記テン輪の回転軸であるテン真の回転中心と一致するように設けられると共に、前記軟磁性コアの開口に嵌る環状の位置決め突起を有し、
前記位置決め突起の中心位置は、前記位置決め枠の中心位置と異なる位置に配置されている、
請求項
3~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項8】
前記永久磁石を保持する保持部材を有し、
前記保持部材は、前記テン輪の回転軸であるテン真が挿通される挿通孔が形成されており、前記テン真が前記挿通孔に挿通された状態において前記テン真と一体に回転し、
前記挿通孔の中心位置は、前記保持部材の中心位置と異なる位置に配置されている、
請求項
1~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項9】
前記コイルが非通電状態であって、前記永久磁石が前記第1角度位置から前記第2角度位置の間にある状態においては、前記永久磁石と前記軟磁性コアとの間には前記永久磁石を前記第1角度位置に向けて回転させる方向に働く磁気的な吸引力が作用している、
請求項
1~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項10】
前記テン輪の回転軸であるテン真の一端に当接することで、前記テン真の軸方向における位置決めをする受石と、
前記永久磁石の外周面の少なくとも一部を囲う環状であって、前記受石を保持する受石保持部材と、
を有し、
前記受石保持部材は、磁性材から成ると共に、前記永久磁石の外周面に対向する部分の少なくとも一部に切り欠きが形成されている、
請求項
1~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項11】
前記テン輪の回転軸であるテン真の正逆回転運動は、前記ヒゲゼンマイに対して空転する期間と、前記ヒゲゼンマイに回転力を伝達すると共に当該ヒゲゼンマイを弾性的に変形させる期間と、を少なくとも含む、
請求項
1~5のいずれか1項に記載の機械式時計。
【請求項12】
前記ヒゲゼンマイは、前記テン真に対して非固定である、
請求項11に記載の機械式時計。
【請求項13】
前記テン真の正逆回転運動に伴って前記ヒゲゼンマイに対する接触及び非接触を繰り返す接触部を有する、
請求項
11に記載の機械式時計。
【請求項14】
前記ヒゲゼンマイは、弾性変形可能な渦巻き状のバネ部と、前記テン真が挿通される内端部と、前記バネ部と前記内端部を接続すると共に前記バネ部と前記内端部との間に前記接触部の移動を許容する隙間を形成する接続部と、を含む、
請求項13に記載の機械式時計。
【請求項15】
少なくとも前記テン真の回転角度が0°以上であって180°未満の間において、前記接触部が前記接続部に対して非接触である期間を含む、
請求項14に記載の機械式時計。
【請求項16】
前記永久磁石を保持すると共に前記テン真と一体的に回転する保持部材を有し、
前記接触部は前記保持部材に設けられている、
請求項
14に記載の機械式時計。
【請求項17】
前記永久磁石を保持すると共に前記テン真と一体的に回転する保持部材を有し、
前記接触部は、前記保持部材とは別の部材であって、前記テン真と一体的に回転する部材に設けられている、
請求項
14に記載の機械式時計。
【請求項18】
前記接続部の平面形状は、径方向外側に向けて拡がる部分を含む形状であって、
前記テン真が前記ヒゲゼンマイに対して空転する期間は前記径方向外側に向けて拡がる部分の拡がり具合に応じて規定される、
請求項
14に記載の機械式時計。
【請求項19】
前記接続部の平面形状は、径方向における当該接続部の最外部の回転軌跡の半径よりも、前記ヒゲゼンマイの回転中心から径方向の端部までの距離が短い部分を含む形状である、
請求項
14に記載の機械式時計。
【請求項20】
前記保持部材は、前記永久磁石と前記保持部材とから成る回転体の重心を調整する重心調整部を有する、
請求項
8に記載の機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械式時計においては、テン輪とヒゲゼンマイを含むテンプの往復運動に基づいて1秒を作り出しており、1秒あたりの往復運動の回数が増えると、1秒あたりの誤差、すなわち歩度精度の影響は小さくなる。例えば、特許文献1には、脱進機の慣性を低減してテンプを高速振動化し、歩度精度を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2、3には、テンプを備える機械式時計において、歩度を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-185932号公報
【文献】特開2019-113548号公報
【文献】特開2020-38206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ヒゲゼンマイのバネ力によるトルクを大きくすることによりテンプの振動数を高くすると、動力を伝達する各機構が摩耗しやすく、耐久性が低下してしまう。一方、ヒゲゼンマイのバネ力によるトルクを小さくすることによりテンプの振動数を低くすると、アンクルとガンギ車との間に生じる摩擦力に対してヒゲゼンマイのバネ力によるトルクが対抗できず、回転が停止してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてされたものであって、その目的は、ヒゲゼンマイのバネ力によるトルクを小さくした場合においても回転を維持する機械式時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)動力源と、前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、第1極性部と、前記第1極性部と極性が異なる第2極性部を含む、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、コイルと、前記永久磁石との間で磁気抵抗が生じるように設けられる第1端部と、前記永久磁石との間で磁気抵抗が生じるように前記永久磁石を介して前記第1端部の反対側に設けられる第2端部と、を含む軟磁性コアと、前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、基準信号源の基準振動数と、に基づいて歩度調整を行う歩度調整手段と、を有し、前記永久磁石は、前記ヒゲゼンマイがその弾性変形の中立位置にある状態における第1角度位置において、前記第1極性部が第1間隔を空けて前記第1端部に対向し、前記第2極性部が第2間隔を空けて前記第2端部に対向し、前記第1角度位置から180°回転した第2角度位置において、前記第1極性部が第3間隔を空けて前記第2端部に対向し、前記第2極性部が第4間隔を空けて前記第1端部に対向するように配置され、前記第2間隔が第1間隔よりも小さく、かつ前記第4間隔と前記第3間隔との差が前記第1間隔と前記第2間隔との差よりも小さくなるように配置されている、機械式時計。
【0007】
(2)(1)において、前記永久磁石の平面形状が円形であり、前記永久磁石の中心位置は、前記テン輪の回転軸であるテン真の回転中心と異なる位置に配置されている、機械式時計。
【0008】
(3)(2)において、前記軟磁性コアにおいて前記第1端部の内周面及び前記第2端部の内周面により平面形状が円形の開口を構成し、前記軟磁性コアの開口の中心位置は、前記回転中心と異なる位置に配置されている、機械式時計。
【0009】
(4)(3)において、前記永久磁石が前記第1角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置と、前記軟磁性コアの開口の中心位置とは、前記回転中心を介して対称の位置にある、機械式時計。
【0010】
(5)(4)において、前記永久磁石が前記第2角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置と前記軟磁性コアの開口の中心位置とが一致する、機械式時計。
【0011】
(6)(3)~(5)のいずれかにおいて、前記永久磁石が前記第1角度位置にある状態において、前記永久磁石の中心位置、前記回転軸の回転中心、及び前記軟磁性コアの開口の中心位置は、前記第1極性部と前記第2極性部の境界線に直交する直線上に並んで配置されている、機械式時計。
【0012】
(7)(3)~(6)のいずれかにおいて、前記軟磁性コアを支持すると共に、地板に固定される支持部材と、前記支持部材に取り付けられると共に、前記軟磁性コアの位置決めをする位置決め枠と、を有し、前記位置決め枠は、その中心位置が前記テン輪の回転軸であるテン真の回転中心と一致するように設けられると共に、前記軟磁性コアの開口に嵌る環状の位置決め突起を有し、前記位置決め突起の中心位置は、前記位置決め枠の中心位置と異なる位置に配置されている、機械式時計。
【0013】
(8)(1)~(7)のいずれかにおいて、前記永久磁石を保持する保持部材を有し、前記保持部材は、前記テン輪の回転軸であるテン真が挿通される挿通孔が形成されており、前記テン真が前記挿通孔に挿通された状態において前記テン真と一体に回転し、前記挿通孔の中心位置は、前記保持部材の中心位置と異なる位置に配置されている、機械式時計。
【0014】
(9)(1)~(8)のいずれかにおいて、前記コイルが非通電状態であって、前記永久磁石が前記第1角度位置から前記第2角度位置の間にある状態においては、前記永久磁石と前記軟磁性コアとの間には前記永久磁石を前記第1角度位置に向けて回転させる方向に働く磁気的な吸引力が作用している、機械式時計。
【0015】
(10)(1)~(9)のいずれかにおいて、前記テン輪の回転軸であるテン真の一端に当接することで、前記テン真の軸方向における位置決めをする受石と、前記永久磁石の外周面の少なくとも一部を囲う環状であって、前記受石を保持する受石保持部材と、を有し、前記受石保持部材は、磁性材から成ると共に、前記永久磁石の外周面に対向する部分の少なくとも一部に切り欠きが形成されている、機械式時計。
【0016】
(11)(1)~(10)のいずれかにおいて、前記テン輪の回転軸であるテン真の正逆回転運動は、前記ヒゲゼンマイに対して空転する期間と、前記ヒゲゼンマイに回転力を伝達すると共に当該ヒゲゼンマイを弾性的に変形させる期間と、を少なくとも含む、機械式時計。
【0017】
(12)(11)において、前記ヒゲゼンマイは、前記テン真に対して非固定である、機械式時計。
【0018】
(13)(11)又は(12)において、前記テン真の正逆回転運動に伴って前記ヒゲゼンマイに対する接触及び非接触を繰り返す接触部を有する、機械式時計。
【0019】
(14)(13)において、前記ヒゲゼンマイは、弾性変形可能な渦巻き状のバネ部と、前記テン真が挿通される内端部と、前記バネ部と前記内端部を接続すると共に前記バネ部と前記内端部との間に前記接触部の移動を許容する隙間を形成する接続部と、を含む、機械式時計。
【0020】
(15)(14)において、少なくとも前記テン真の回転角度が0°以上であって180°未満の間において、前記接触部が前記接続部に対して非接触である期間を含む、機械式時計。
【0021】
(16)(14)又は(15)において、前記永久磁石を保持すると共に前記テン真と一体的に回転する保持部材を有し、前記接触部は前記保持部材に設けられている、機械式時計。
【0022】
(17)(14)又は(15)において、前記永久磁石を保持すると共に前記テン真と一体的に回転する保持部材を有し、前記接触部は、前記保持部材とは別の部材であって、前記テン真と一体的に回転する部材に設けられている、機械式時計。
【0023】
(18)(14)~(17)のいずれかにおいて、前記接続部の平面形状は、径方向外側に向けて拡がる部分を含む形状であって、前記テン真が前記ヒゲゼンマイに対して空転する期間は前記径方向外側に向けて拡がる部分の拡がり具合に応じて規定される、機械式時計。
【0024】
(19)(14)~(18)のいずれかにおいて、前記接続部の平面形状は、当該接続部の最外部の回転軌跡の半径よりも、前記ヒゲゼンマイの回転中心からの距離が短い部分を含む形状である、機械式時計。
【0025】
(20)(8)、(16)又は(17)のいずれかにおいて、前記保持部材は、前記永久磁石と前記保持部材とから成る回転体の重心を調整する重心調整部を有する、機械式時計。
【発明の効果】
【0026】
上記本発明の(1)~(20)の側面によれば、ヒゲゼンマイのバネ定数を小さくした場合においても回転を維持する機械式時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態におけるアンクル、ガンギ車、及びその周辺の部材を示す平面図である。
【
図4】第1実施形態におけるテン輪の回転範囲及び回転方向を説明する図である。
【
図5】第1実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。
【
図7A】第1実施形態における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図7B】第1実施形態における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図8】第1実施形態において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
【
図9】比較例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図10】比較例において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
【
図11】第1実施形態におけるテン真と共に回転する各部材を示す斜視図である。
【
図12】
図11に示す各部材を分解して示す分解斜視図である。
【
図13】第1実施形態の保持部材の底部を示す斜視図である。
【
図14A】第1実施形態の保持部材を示す斜視図である。
【
図14B】第1実施形態の保持部材を示す平面図である。
【
図15】テン真と振り座とを分解して示す分解斜視図である。
【
図16】第1実施形態における軟磁性コアとその周辺の部材を示す斜視図である。
【
図17】
図16に示す軟磁性コアを支持部材から分解して示す分解斜視図である。
【
図18A】第1実施形態の位置決め枠を示す斜視図である。
【
図18B】第1実施形態の位置決め枠を示す平面図である。
【
図18C】第1実施形態の位置決め枠を示す斜視図である。
【
図19】第1実施形態における軸受け構造、及びその周辺部材を示す斜視図である。
【
図20】第1実施形態の受石保持部材を示す斜視図である。
【
図21】第1実施形態の受石保持部材、及びその周辺部材を示す平面図である。
【
図22】第1実施形態の第1変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図23】第1実施形態の第2変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図24】第1実施形態の第3変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【
図25】第2実施形態において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
【
図26】第2実施形態におけるテン輪、テン真、永久磁石、ヒゲゼンマイ、及びその周辺部材を分解して示す分解斜視図である。
【
図27】第2実施形態における保持部材を示す斜視図である。
【
図28】第2実施形態におけるテン輪、テン真、永久磁石、ヒゲゼンマイ、及び保持部材を示す断面図である。
【
図29A】テン輪の回転角度が0°の状態を示している。
【
図29B】テン輪の回転角度が135°の状態を示している。
【
図29C】テン輪の回転角度が315°の状態を示している。
【
図29D】テン輪の回転角度が-135°の状態を示している。
【
図29E】テン輪の回転角度が-315°の状態を示している。
【
図30A】第2実施形態の変形例における突起部を示す斜視図である。
【
図30B】第2実施形態の変形例における突起部を用いた場合の断面図である。
【
図33】永久磁石及び軟磁性コアの配置角度に関する変形例を説明する図である。
【
図34】ヒゲゼンマイの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
[全体構成の概要]
まず、
図1~
図6を参照して、第1実施形態に係る機械式時計1の全体構成の概要について説明する。
図1は、第1実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
図3は、第1実施形態におけるアンクル、ガンギ車、及びその周辺の部材を示す平面図である。
図4は、第1実施形態におけるテン輪の回転範囲及び回転方向を説明する図である。
図5は、第1実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。
図6は、第1実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。なお、
図1、
図2は機械式時計1の裏側から見た様子を示しており、
図3は機械式時計1の表側から見た様子を示している。裏側とは機械式時計1の厚み方向のうち外装ケースの裏蓋が配置される側であり、表側とは機械式時計1の厚み方向のうち文字板が配置される側である。
【0030】
機械式時計1は、動力ゼンマイ11を動力源とし、脱進機構20及び調速機構30によって動力ゼンマイ11の動きを制御すると共に、指針を駆動させる時計である。機械式時計1は、指針を駆動する各機構が組み込まれる地板10を外装ケースに収容して成る。なお、第1実施形態においては外装ケースの図示は省略する。また、外装ケースの側面に配置される竜頭の図示も省略する。竜頭は、
図1に示す巻き真2の端部に取り付けられている。
【0031】
[全体構成の概要:駆動機構の構成]
機械式時計1が備える駆動機構の概要について説明する。第1実施形態において、動力源である動力ゼンマイ11、輪列、指針軸13を含む機構を「駆動機構」と称する。なお、
図2においては、指針のうち秒針131のみを図示している。
図2に示す駆動機構は一例であり、これに限られるものではなく、図示する歯車以外の歯車等を備えていてもよい。
【0032】
動力ゼンマイ11は、金属製の帯状体からなり、外周に複数の歯が形成される香箱110に収容されている。香箱110は、円盤形状であって、動力ゼンマイ11を収容する空洞が内部に形成されている。動力ゼンマイ11は、その内端が香箱110の中心に設けられる回転軸である香箱真(不図示)に固定されており、その外端が香箱110の内側面に固定されている。ユーザの操作により竜頭が回転させられると、巻き真2が回転する。巻き真2の回転に伴って、動力ゼンマイ11が巻き上げられる。巻き上げられた動力ゼンマイ11は、その弾性力によりほどかれる。この際の動力ゼンマイ11の動作に伴って香箱110が回転することとなる。
【0033】
輪列は、少なくとも、二番車122、三番車123、四番車124を含む。二番車122は、一番車として機能する香箱110に形成される複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、香箱110の回転を三番車123に伝達する。二番車122の回転軸は、分針(不図示)の指針軸である。三番車123は、二番車122の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、二番車122の回転を四番車124に伝達する。四番車124は、三番車123の複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、三番車123の回転を脱進機構20に伝達する。
図2に示すように、四番車124の回転軸は、秒針131の指針軸13である。
【0034】
[全体構成の概要:脱進機構20及び調速機構30の構成、並びにそれらの動作の概要]
次に、脱進機構20及び調速機構30について説明する。動力ゼンマイ11からの動力は、輪列を通じて、脱進機構20及び調速機構30に伝達される。脱進機構20は、ガンギ車21と、アンクル22とを含んで構成される。調速機構30は、テン輪31と、ヒゲゼンマイ32とを含んで構成される。なお、調速機構30はテンプと呼ばれることもある。
【0035】
テン輪31は、その回転軸であるテン真311を回転中心として、輪列により伝達された動力により正逆回転運動をする。なお、以下の説明において、正逆回転運動のうち正方向運動を「正方向の回転」と呼び、逆方向運動を「逆方向の回転」と呼ぶ。第1実施形態においては、
図7A等の各図における反時計周りを正方向の回転とし、時計回りを逆方向の回転として説明する。
【0036】
図3に示すように、テン輪31は、その外形が円形であるとよい。ただし、
図3に示すテン輪31の形状は一例であり、テン輪31の形状は任意である。
【0037】
ヒゲゼンマイ32は、テン輪31を正逆回転運動させるように伸縮運動(弾性変形)をする。ヒゲゼンマイ32は、渦巻き状であり、その内端はテン真311に対して固定されており、その外端はヒゲ持受34に対して固定されている。なお、ヒゲ持受34は、支持部材33と共に地板10に対して固定されている。
【0038】
ガンギ車21は、アンクル22と噛み合うことでアンクル22から調速機構30の刻むリズムを受け取り、規則正しい回転運動に変換する部品である。ガンギ車21は、四番車124の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯を含む。
図2に示すように、ガンギ車21の複数の歯は、輪列の各歯車の歯よりも周方向に間隔を広く空けて形成されている。
【0039】
アンクル22は、
図3に示すアンクル真221を回転軸として正逆回転運動を行う。アンクル22は、アンクル真221からテン輪31の中心(テン真311)に向けて延びており、テン真311と共に回転する振り石312aに衝突する竿部222を有する。竿部222の先端は、U字形状に形成されており、アンクルハコと呼ばれることもある。なお、振り石312aはテン真311と共に回転する振り座312(
図11、
図15等参照)に固定されている。
【0040】
アンクル22は、ガンギ車21の複数の歯に衝突する入爪223aが取り付けられる第1腕部223と、第1腕部223の反対方向に延びると共にガンギ車21の複数の歯に衝突する出爪224aが取り付けられる第2腕部224とを有する。なお、入爪223aと出爪224aは、例えば、サファイア等の石であるとよい。
【0041】
調速機構30の動作について
図3を用いて説明する。ガンギ車21は、四番車124の回転に伴って常に
図3に示す矢印方向に回転するトルクが与えられ、ガンギ車21の歯がアンクル22の入爪223aに衝突することで停止させられている。テン輪31が回転すると、振り石312aがアンクルハコを押してアンクル22が回転し、アンクル22とガンギ車21間の停止を解除する。停止解除が終わると、ガンギ車21の歯が入爪223aを押し上げて、アンクル22を回転させる。これまで振り石312aがアンクルハコを押していたが、逆にアンクルハコが振り石312aを押すことで、テン輪31に回転エネルギーが伝えられる。ガンギ車21の歯が入爪223aから離れるとガンギ車21は空転し、次にガンギ車21の歯と出爪224aがぶつかる位置で再びガンギ車21が停止する。回転エネルギーを受け取ったテン輪31は回転した後、ヒゲゼンマイ32のバネトルクで逆方向に回転し、出爪224a側でも上記と同様の動作が行われる。これにより、ガンギ車21および輪列の規則正しく間欠的な回転が実現される。なお、後述のように、テン輪31は2秒間で1往復の動作をするよう設計されていることより、ガンギ車21は、1秒に1ステップの動作を行うこととなる。
【0042】
第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用した。これにより、金属材料で構成した場合と比較して、テン輪31の低速振動化を実現することができる。仮に金属ヒゲゼンマイで低速振動化を実現しようとすると、加工困難なレベルまでヒゲゼンマイ32の断面積を小さくするか、扱いが困難なレベルまでヒゲゼンマイ長を長くしなければならない。
【0043】
第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率が約5[GPa]の樹脂を用いた。具体的には、ヒゲゼンマイ32の材料としてポリエステルを用いた。なお、樹脂材料からなるヒゲゼンマイ32は、例えば、レーザ加工により製作されるものであるとよい。なお、一般的な金属製のヒゲゼンマイのヤング率は200[GPa]程度である。ここで示したヤング率は一例であり、ヒゲゼンマイ32のヤング率は20[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の10分の1以下であるとよい。さらに好ましくは、ヒゲゼンマイ32のヤング率は10[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の20分の1以下であるとよい。また、ヤング率は20[GPa]以下であればよく、ヒゲゼンマイ32は紙や木材といった材料でも構わない。
【0044】
また、第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31及び永久磁石41の回転角度[deg]を0°とした。なお、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置とは、言い換えると、ヒゲゼンマイ32が自然長である位置である。ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置付近にある状態におけるテン輪31に、動力ゼンマイ11からの動力が供給されることとした。また、後述のように、第1実施形態において、永久磁石41は、回転角度0°の位置において、磁気的な釣り合いの位置にある。
【0045】
また、第1実施形態においては、
図4に示すように、テン輪31が振り当たり位置に到達しない範囲である回転角度340°から-340°の範囲で駆動するよう設計した。振り当たり位置とは、振り石312aが回転し過ぎてアンクル22の竿部222に衝突してしまう位置である。テン輪31は振り当たり位置を超えない範囲で正逆回転運動をするため、永久磁石41も回転角度340°から-340°の範囲で駆動する。
【0046】
図4中の実線は動力ゼンマイ11からの動力によりテン輪31が0°位置から進む範囲を示しており、
図4中の点線はヒゲゼンマイ32の弾性力によりテン輪31が±340°位置から戻る範囲を示している。なお、これは一例であり、テン輪31の移動範囲は、回転角度270°から-270°の範囲以上であるとよい。このようにテン輪31の移動範囲をある程度大きくすることにより、テン輪31の低速振動化を実現できる。
【0047】
以上説明したように、調速機構30は、ヒゲゼンマイ32の伸縮運動によって、一定の周期でテン輪31を繰り返し正逆回転運動(往復運動)させる。脱進機構20は、テン輪31に対して往復運動するための力を与え続けるとともに、テン輪31からの規則正しい振動によって輪列おける各歯車を一定速度で回転させる。
【0048】
[全体構成の概要:歩度調整手段40の構成]
次に、歩度調整手段40の構成について説明する。第1実施形態に係る機械式時計1は、駆動機構、脱進機構20、調速機構30に加えて、歩度調整手段40を含んでいる。
【0049】
歩度調整手段40は、永久磁石41と、軟磁性コア42(ステータと呼ばれることもある)と、コイル43と、各種回路(
図5参照)とを含んで構成される。歩度調整手段40は、永久磁石41の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源である水晶振動子70の基準振動数とに基づいて歩度調整を行うものである。なお、第1実施形態においては、高い周波数精度を実現するために基準信号源として水晶振動子70を用いたが、これに限らず、例えば、コンデンサと抵抗とで構成されるCR発振器を用いてもよい。
【0050】
なお、図示は省略するが、コイル43は、外装ケースの内側に設けられる中枠と平面視において重なるように配置されているとよい。または、中枠の周方向の一部に切り欠きが形成されており、コイル43はその切り欠き内に配置されているとよい。
【0051】
永久磁石41は、二極磁化された円盤状の回転体であり、径方向にN極、S極に着磁されている。すなわち、永久磁石41は、第2極性部であるN極部411と、第2極性部と極性が異なる第1極性部であるS極部412とを含む磁石である。また、永久磁石41の中心部には、テン真311が挿通される挿通孔41hが形成されている。永久磁石41の挿通孔41hの径は、テン真311のうち永久磁石41の挿通孔41hに挿通される部分の径よりも十分に大きいとよい。
【0052】
永久磁石41は、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動に伴い正逆回転運動を行うように設けられている。すなわち、永久磁石41は、その回転角度がテン輪31の回転角度と同じとなるように、テン輪31と共に正逆回転運動する。
【0053】
永久磁石41は、磁化容易軸がランダムな方向に向いている等方性磁石であるとよい。なお、永久磁石41は、テン真311に取り付けられた後述の保持部材140に保持された状態で、ヘルムホルツコイル等により磁界が与えられることにより着磁されるとよい。このような着磁方法を採用することにより、永久磁石41の着磁方向を正確に合わせ込むことができる。
【0054】
軟磁性コア42は、軟磁性材から成り、第1磁性部421と第2磁性部422を含み、コイル43と共に磁気回路を構成する。第1磁性部421は永久磁石41の外周面に対向して設けられる第1端部421aを含み、第2磁性部422は永久磁石41の外周面に対向して設けられる第2端部422aを含む。第1端部421aは、第1磁性部421のうち永久磁石41の外周面に沿う曲面状の内周面421a1を含む部分である。第2端部422aは、第2磁性部422のうち永久磁石41の外周面に沿う曲面状の内周面422a1を含む部分である。
【0055】
第2端部422aは、永久磁石41を介して第1端部421aの反対側に設けられている。第1端部421a及び第2端部422aは、永久磁石41との間で磁気抵抗を生じるように、永久磁石41の外周面を囲んで配置されている。
【0056】
ここで、主に
図7Aを参照して、軟磁性コア42の構成の詳細を説明する。軟磁性コア42は、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離する第1溶接部423と、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離すると共に永久磁石41を介して第1溶接部423と対向して配置される第2溶接部424とを含んでいる。なお、第1溶接部423及び第2溶接部424は、第1端部421aと第2端部422aとを物理的に分離する間隙内に形成されるものであるとよい。
【0057】
永久磁石41は、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する位置する状態において磁気的な釣り合いの位置となっている。第1実施形態において、永久磁石41の磁気的な釣り合いの位置を回転角度0°とする。
【0058】
また、第1実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421aの内周面421a1及び第2端部422aの内周面422a1にノッチを形成した。具体的には、第2端部422aの内周面422a1にノッチn11とノッチn12を形成した。また、第1端部421aの内周面421a1に、永久磁石41を介してノッチn11と対向してノッチn22を形成し、永久磁石41を介してノッチn12と対向してノッチn21を形成した。このようにノッチが形成されることにより、永久磁石41周辺の磁束の流れが変わり、永久磁石41が軟磁性コア42に受ける磁気的影響が低減される。なお、ノッチの数、各ノッチ間の間隔、及び各ノッチの形状は
図7Aに示すものに限られない。
【0059】
第1実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aが第1溶接部423及び第2溶接部424を介して一体となっている例を示したが、これに限られない。例えば、第1溶接部423及び第2溶接部424を有しておらず、第1端部421aと第2端部422aとは間隙を介して磁気的な結合が分離されるものであってもよい。また、磁気的な結合を完全に分離するものに限られない。例えば、第1端部421aと第2端部422aとは、狭窄部を介して物理的に繋がっていてもよい。
【0060】
また、
図5に示すように、歩度調整手段40は、制御回路44、回転検出回路45、調速パルス出力回路46、分周回路47、発振回路48、制動回路80を含んでいる。
図5においては、上述した永久磁石41、軟磁性コア42、コイル43の図示を省略している。なお、
図5に示す歩度調整手段40の構成は一例である。歩度調整手段40は、
図5に示す各回路を独立して備えている必要はなく、以下で説明する各機能を実現可能なものであればよい。
【0061】
制御回路44は、歩度調整手段40に含まれる各回路の動作を制御する回路である。
【0062】
制御回路44は、制動回路80を制御することにより永久磁石41を制動する制動力を制御する制動制御を行うとよい。制動力は、例えば、電磁ブレーキに基づいて、永久磁石41に作用するものであるとよい。なお、電磁ブレーキとは、コイル43の第1端子と第2端子とを短絡させて閉ループ状態にし、永久磁石41の回転に伴ってコイル43に発生する磁束の変化を妨げる向きに磁界が生じるような誘起起電力によって得られる制動力のことをいう。制動力は、発電が行われるタイミングを避けて永久磁石41に作用されるとよい。具体的には、発電が行われる
図6の帯状破線で示される期間を避けて電磁ブレーキを作用させるとよい。
【0063】
発振回路48は、水晶振動子70の振動数に基づいて所定の発振信号を出力する。なお、水晶振動子70の振動数は32768[Hz]である。分周回路47は、発振回路48から出力された発振信号を分周する。分周回路47は、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約1000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成する。ただし、これに限られず、基準信号OSは、2000[ms]毎や3000[ms]毎に出力されるものであってもよい。すなわち、基準信号OSは、正秒毎に出力されるものであればよい。また、これに限られず、基準信号OSは調速機構30の周期に対応するものであればよい。
【0064】
回転検出回路45は、永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電圧波形に基づいて検出信号を検出する。第1実施形態において、所定の閾値以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号と定義する。
【0065】
調速パルス出力回路46は、分周回路47により生成された基準信号と、回転検出回路45が検出した検出信号とに基づいて、調速パルスを出力する。具体的には、回転検出回路45が検出した検出信号の検出タイミングと、約1000[Hz]の基準信号の出力タイミングとを比較し、それらのタイミングにずれが生じている場合、調速パルス出力回路46は、検出信号が検出される周期を1000[ms](=1秒)に近づけるように調速パルスを出力する。
【0066】
調速パルスの出力は、コイル43を通電することにより行われる。そのため、調速パルス出力回路46は、検出信号が検出される周期が基準信号よりも早い場合、永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電し、検出信号が検出される周期が基準信号よりも遅い場合、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電するとよい。
【0067】
[全体構成の概要:発電機としての調速機構30]
図6を参照して、第1実施形態における発電機としての調速機構30について説明する。
【0068】
図6は、第1実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。
図6の上段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の角速度[rad/s]であり、横軸は測定時間[s]である。
図6の中段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の回転角度[deg]であり、横軸は測定時間[s]である。
図6の下段のグラフにおいて、縦軸はコイル43に生じる逆起電圧[V]であり、横軸は測定時間[s]である。また、
図6に示す各グラフにおいては、テン輪31(永久磁石41)の動きを4秒間測定した例を示している。
【0069】
機械式時計1は、電磁誘導の原理を用いた発電機能を有する。第1実施形態においては、調速機構30が発電機の一部として機能する。具体的には、テン輪31の正逆回転運動に伴い永久磁石41が正逆回転運動をし、永久磁石41の運動による磁界の変化に基づいてコイル43に生じる電流により発電を行う。このような動作原理により取り出した電力を用いて電源回路60を起動させる。電源回路60が起動することで、制御回路44が駆動可能となる。このような構成を採用するため、第1実施形態においては、電池等の電源を別途設けることなく、制御回路44を駆動させることができる。
【0070】
整流回路50は、調速機構30のテン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流を整流する。電源回路60は、例えばコンデンサを含む回路であり、整流回路50により整流された電流に基づいて制御回路44を駆動させるための電力を蓄電する。
【0071】
第1実施形態においては、
図6の下段に示すように、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する期間、及び0°から-180°に逆方向に回転する期間において発電するとよい。これら期間において永久磁石41の角速度が速いため検出される逆起電圧が大きいことより、電力を得られやすいためである。
【0072】
[全体構成の概要:歩度調整制御]
図6を参照して、第1実施形態における歩度調整制御について説明する。
【0073】
第1実施形態においては、調速パルス出力回路46が調速パルスを出力することにより、永久磁石41の動きを制御することで、テン輪31の動きを制御して歩度調整を行う。
【0074】
ここで、永久磁石41の角速度が速い状態においては、所望のタイミングで歩度調整を行うことが難しい。永久磁石41の角速度が速い状態においては、調速パルスの出力タイミングがずれる可能性が高いためである。永久磁石41の角速度が速い状態は、コイル43に逆起電圧が大きく生じている時である。すなわち、回転検出回路45が検出信号を検出したタイミングである。
【0075】
そこで、第1実施形態においては、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、永久磁石41が回転角度180°から0°に逆方向に回転する間、及び回転角度-180°から0°に正方向に回転する間に、調速パルスを出力するとよい。すなわち、テン輪31が動力ゼンマイ11から動力を供給される前の期間に調速パルスを出力するとよい。これにより、永久磁石41の角速度が比較的遅い状態において、調速パルスを出力することができる。なお、調速パルスは、上述の発電が得られやすい期間を避けて出力されることが好ましい。すなわち、調速パルスは、
図6の下段に示す永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する期間、及び0°から-180°に逆方向に回転する期間を避けて出力されることが好ましい。
【0076】
このような構成を採用することにより、調速パルスの出力タイミングがずれてしまうことを抑制できる。その結果、歩度精度を維持することができる。なお、
図6においては、歩度調整を行うタイミングを帯状の領域で示している。
図6の上段のグラフに示すように、歩度調整は、永久磁石41の角速度が遅い期間において行われている。
【0077】
[永久磁石に作用する各トルク]
以下で説明する比較例及び第1実施形態において、「保持トルク」とは、コイル43が非通電の状態において永久磁石と軟磁性コアとの間に働く磁気的な吸引力である。保持トルクは、軟磁性材からなる軟磁性コアのうち磁性材以外からなる溶接部やノッチの配置等に応じた向きに作用するものである。また、「バネトルク」とは、ヒゲゼンマイの弾性変形により生じるトルクである。バネトルクは、上述のヤング率に依存する。すなわち、ヒゲゼンマイのヤング率が高いほどバネトルクは大きくなり、ヤング率が低いほどバネトルクは小さくなる。
【0078】
「摩擦トルク」は、アンクルとガンギ車との接触面で生じる摩擦に基づくトルクである。摩擦トルクは、永久磁石がヒゲゼンマイの弾性変形に伴って0°位置に戻ってくる際に、0°位置の手前の位置においてヒゲゼンマイのバネトルクに対抗するように働く。「動力ゼンマイトルク」は、動力ゼンマイ11から輪列を介してテンプに供給される蓄積されたゼンマイのエネルギーの解放に基づくトルクである。動力ゼンマイトルクは、永久磁石が0°位置から±340°位置へ回転する際に、進む方向に働くトルクである。
【0079】
[永久磁石に作用する各トルク:比較例]
ここで、第1実施形態における永久磁石41に作用する各トルクについて説明するのに先立って、
図9、
図10を参照して、比較例における永久磁石241に作用する各トルクにについて説明する。
図9は、比較例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
図10は、比較例において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
図9の矢印は、保持トルクが働く方向を示している。なお、比較例において、
図3を参照して説明した構成等、第1実施形態と同様の機能を備える構成については同じ符号を用いてその詳細な説明は省略する。
【0080】
図9に示すように、永久磁石241の平面形状は円形である。軟磁性コア242の第1端部2421aと第2端部2422aとは、共に半円弧状の内周面を有する形状であり、永久磁石241を介して互いに対向して配置されている。軟磁性コア242の第1端部2421a、第2端部2422a、第1溶接部2423、及び第2溶接部2424は、円形の開口(孔)を形成するように構成されている。
【0081】
比較例においては、永久磁石241の中心位置241Oと、軟磁性コア242の開口の中心位置242Oと、永久磁石241の中心部に形成される挿通孔241hに挿通されるテン真2311の回転中心2311Oとは一致している。
【0082】
図9においては、ヒゲゼンマイが弾性変形の中立位置にある状態における永久磁石241を示している。言い換えると、
図9においては、永久磁石241が0°位置にある状態を示している。永久磁石241は、0°位置にある状態において、N極部2411が第2端部2422a側に配置されており、S極部2412が第1端部2421a側に配置されている。
【0083】
ここで、例えば、
図9に示す状態から永久磁石241が正方向(
図9中の反時計回り)に回転する際、回転角度が0°~90°においては、0°に戻す方向に保持力が作用する。回転角度が90°~180°においては、180°に進める方向に保持力が作用する。回転角度が180°~270°においては、180°に戻す方向に保持力が作用する。回転角度が270°~340°において340°に進める方向に保持力が作用する。
【0084】
このため、比較例においては、永久磁石241は、0°位置及び180°位置で保持トルクがほぼ0となっており、かつ磁気的に安定する。
【0085】
図10の波形は、比較例における保持トルクを示している。また、
図10の線形の実線はヒゲゼンマイのバネトルクを示している。ヒゲゼンマイのバネトルクは、永久磁石241の回転に伴い線形的に変化する。例えば、永久磁石241の回転角度が0°の状態から正方向に回転する際、永久磁石41の回転方向と逆方向に働くヒゲゼンマイのバネトルクが線形的に増加する。
【0086】
なお、永久磁石241はヒゲゼンマイの弾性変形に応じて回転角度340°から0°に戻った後、テン輪31の慣性力及び動力ゼンマイトルクにより、さらに回転角度-340°へ進むこととなる。さらにヒゲゼンマイの弾性変形に応じて永久磁石は0°に戻ることとなる。このように、永久磁石241は、-340°~340°間で往復運動を繰り返すこととなる。
【0087】
ここで、
図3を参照して上述したように、アンクル22がガンギ車21の動作の停止を解除するよう動作することで、ガンギ車21が動作を再開し、指針が駆動する。アンクル22によるガンギ車21の動作の停止の解除は、テン輪31と共に回転する振り石312aがアンクル22の竿部222に衝突することで行われる。振り石312aがアンクル22の竿部222に衝突する力が、アンクル22の入爪223a又は出爪224aとガンギ車21の歯との接触面に生じる摩擦(静止摩擦力)に対して小さい場合、振り石312aがアンクル22を動作させることができない。振り石312aの衝突によりアンクル22が動作しないと、ガンギ車21が動作を再開できず、指針が停止してしまう。
【0088】
そのため、振り石312aは、ある程度の大きさの衝撃力でアンクル22の竿部222に衝突する必要がある。アンクル22の竿部222に対する振り石312aの衝撃力を大きくするためには、ヒゲゼンマイのバネトルクを大きくするとよい。しかしながら、ヒゲゼンマイのバネトルクを大きくするとテン輪31の低速振動化を実現することができない。また、テン輪31の慣性モーメントを大きくすることも考えられるが、その場合、永久磁石41の角速度が遅くなり、発電量が低下してしまうという問題が生じてしまう。
【0089】
また、外部衝撃などによりテン輪が一時的に停止してしまい、その慣性力が失われた場合、ヒゲゼンマイのバネトルクのみでテン輪の回転を継続させることとなる。この場合において、ヒゲゼンマイのバネトルクが保持トルクに対して小さい場合、テン輪が回転の途中で停止してしまう可能性がある。
【0090】
特に比較例においては、テン輪(永久磁石)は磁気的な安定点である180°位置で停止しやすい。
図10で示す点線は、バネトルクを示す直線を横軸を介して折り返した直線を示している。この点線が、保持トルクに対して小さい場合、テン輪が停止してしまう可能性がある。
図10の例においては、例えば、135°位置付近でテン輪の慣性力が失われた場合、ゼンマイトルクよりも保持トルクが大きいことより、永久磁石は保持トルクの影響を受けて180°位置で停止することとなってしまう。
【0091】
そこで、第1実施形態においては、保持トルクの傾向を、比較例で示した傾向から変えることにより、ヒゲゼンマイ32のバネトルクを小さくすると共に、テン輪31の回転を安定して持続可能とする構成を採用した。
【0092】
[永久磁石に作用する各トルク:第1実施形態]
図7A、
図7B、
図8を参照して、第1実施形態において永久磁石41に作用する各トルクについて説明する。
図7A及び
図7Bは、第1実施形態における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
図7Aは永久磁石が第1角度位置である0°位置にある状態を示しており、
図7Bは永久磁石が第2角度位置である180°位置にある状態を示している。
図8は、第1実施形態において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
図7A、
図7Bの矢印は、保持トルクが働く方向を示している。
【0093】
図8の波形は、第1実施形態における保持トルクを示している。また、
図8の線形の実線はヒゲゼンマイ32のバネトルクを示している。ヒゲゼンマイ32のバネトルクは、永久磁石41の回転に伴い線形的に変化する。例えば、永久磁石41の回転角度が0°から正方向に回転する際、永久磁石41の回転方向と逆方向に働くヒゲゼンマイ32のバネトルクが線形的に増加する。
【0094】
図8に示す保持トルクは、永久磁石41の回転角度が0°~180°において逆方向(時計周り方向)に作用し、回転角度が180°~340°において正方向(反時計周り方向)に作用する波形となっている。すなわち、回転角度が0°~340°において、保持トルクを示す波形の節は、0°位置と180°位置のみとなっている。
【0095】
そのため、永久磁石41が0°位置から正方向に回転する際、回転角度が0°~180°において回転を戻す方向に保持トルクが作用し、回転角度が180°~340°において回転を進める方向に保持トルクが作用する。
【0096】
また、永久磁石41が340°の位置から逆方向に回転する際、回転角度が340°~180°において回転を戻す方向に保持トルクが作用し、回転角度が180°~0°において回転を進める方向に保持トルクが作用する。
【0097】
また、
図8に示す保持トルクは、永久磁石41の回転角度が0°~-180°において正方向(反時計周り方向)に作用し、回転角度が-180°~-340°において逆方向(時計周り方向)に作用する波形となっている。すなわち、回転角度が0°~-340°において、保持トルクを示す波形の節は、0°位置と-180°位置のみとなっている。
【0098】
そのため、永久磁石41が0°位置から逆方向に回転する際、回転角度が0°~-180°において回転を戻す方向に保持トルクが作用し、回転角度が-180°~-340°において回転を進める方向に保持トルクが作用する。
【0099】
また、永久磁石41が-340°位置から正方向に回転する際、回転角度が-340°~-180°において回転を戻す方向に保持トルクが作用し、回転角度が-180°~0°において回転を進める方向に保持トルクが作用する。
【0100】
このため、第1実施形態においては、永久磁石41は、0°位置で保持トルクがほぼ0となっており、かつ磁気的に安定する。
【0101】
第1実施形態においては、永久磁石41が0°位置に戻ってくる±180°手前から、バネトルクと同方向、すなわち回転を進める方向に保持トルクが作用することとなる。すなわち、コイル43が非通電状態であって、永久磁石41が0°位置から±180°位置の間にある状態においては、永久磁石41と軟磁性コア42との間には永久磁石41を0°位置に向けて回転させる方向に働く保持トルクが常に作用することとなる。このような保持トルクが作用する分、永久磁石41は、勢いを付けて0°位置に戻ってくる。そのため、振り石312aが勢いを付けてアンクル22の竿部222に衝突することとなる。
【0102】
図8に示す傾向の保持トルクを作用させることにより、ヒゲゼンマイ32のバネトルクを小さくした場合であっても、アンクル22及びガンギ車21を動作させやすくなる。そのため、ヒゲゼンマイ32のバネトルクを低くすることで低速振動化を実現すると共に、テン輪31の回転を安定して持続させることができる。
【0103】
また、
図8に示す傾向の保持トルクを作用させることにより、例えば、外部衝撃等により135°位置付近でテン輪31の慣性力が失われた場合であっても、バネトルクに加えて、バネトルクと同方向に作用する保持トルクにより、テン輪31は0°位置へ向けて回転することとなる。このため、テン輪31は、慣性力が失われた場合であっても、ある程度の勢いを付けて0°位置へ戻ってくることができ、振り石312aがある程度の勢いを付けてアンクル22の竿部222に衝突することとなる。
【0104】
また、第1実施形態においては、-180°~0°で永久磁石41が進む方向に保持トルクを有効に作用させることができ、永久磁石41の角速度を上げることができる。その結果、発電効率を上げることができる。
【0105】
[永久磁石、軟磁性コア、テン真の配置]
さらに、
図8に示す保持トルクの波形を実現するための永久磁石41、軟磁性コア42、テン真311の配置の詳細について説明する。
【0106】
図7A、
図7Bに示すように、永久磁石41の平面形状は円形である。より具体的には、永久磁石41の平面形状は、その中心位置41Oから外周面までの距離が周方向のいずれの位置においても等しい真円である。
【0107】
軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aとは、共に半円弧状の内周面(内周面421a1及び内周面422a1)を有する形状であり、永久磁石41を介して互いに対向して配置されている。軟磁性コア42の第1端部421a、第2端部422a、第1溶接部423、及び第2溶接部424は、円形の開口を形成するように構成されている。より具体的には、軟磁性コア42により形成される開口の内周面は、その中心位置42Oからの距離が周方向のいずれの位置においても等しい真円である。なお、ここで説明する軟磁性コア42により形成される開口の内周面とは、ノッチが形成される部分を除いた内周面を意味している。
【0108】
図7Aにおいては、ヒゲゼンマイ32が弾性変形の中立位置にある状態における永久磁石41を示している。言い換えると、
図7Aにおいては、永久磁石41が0°位置にある状態を示している。永久磁石41は、0°位置にある状態において、N極部411が第2端部422a側に配置されており、S極部412が第1端部421a側に配置されている。また、永久磁石41は、0°位置にある状態において、N極部411とS極部412との境界線が第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ仮想的な帯状領域に重なるように配置されているとよい。このような構成により、0°位置にある状態において、永久磁石41は磁気的に安定することとなる。
【0109】
第1実施形態においては、
図7Aに示すように、テン真311の回転中心311Oに対して0°位置にある永久磁石41の中心位置41Oをずらし、かつテン真311の回転中心311Oに対して軟磁性コア42の開口の中心位置42Oをずらして配置した。すなわち、永久磁石41の中心位置41Oをテン真311の回転中心311Oと異なる位置に配置し、かつ軟磁性コア42の開口の中心位置42Oをテン真311の回転中心311Oと異なる位置に配置した。
【0110】
また、0°位置にある永久磁石41の中心位置41Oを、テン真311の回転中心311Oを介して、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oと対称の位置に配置した。また、回転中心311Oに対する中心位置41Oのずらし量をs1とし、回転中心311Oに対する中心位置42Oのずらし量をs2とし、s1とs2を同じとした。
【0111】
また、永久磁石41が0°位置にある状態において、永久磁石41の中心位置41O、テン真311の回転中心311O、及び軟磁性コア42の開口の中心位置42Oが、N極部411とS極部412の境界線に直交する直線C上に並ぶように配置した。
【0112】
なお、
図7Aにおいては、永久磁石41の中心位置41Oを黒点で示しており、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oを白丸で示しており、テン真311の回転中心311Oを黒点で示している。なお、図中に示す黒点及び白丸は、説明の便宜上示したものであり、物理的に存在するものではない。
【0113】
また、
図7Aの二点鎖線は、N極部411とS極部412の境界線に平行であって、永久磁石41の中心位置41Oを通る線を示している。
図7Aの破線は、N極部411とS極部412の境界線に平行であって、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oを通る線を示している。
図7Aの実線は、N極部411とS極部412の境界線に平行であって、テン真311の回転中心311Oを通る線を示している。
【0114】
0°位置における永久磁石41のN極部411の外周面と、第2端部422aの内周面422a1との第2間隔である間隔d1は比較的小さい。一方、0°位置にある永久磁石41のS極部412の外周面と、第1端部421aの内周面421a1との第1間隔である間隔d2(>d1)は比較的大きい。
図7Aに示す間隔d1は、0°位置における永久磁石41と第2端部422aとが径方向で最も近い位置における間隔である。
図7Aに示す間隔d2は、0°位置における永久磁石41と第1端部421aとが径方向で最も離れた位置における間隔である。このような配置構成により、永久磁石41には0°位置に向かう方向に比較的大きな保持トルクが作用する。
【0115】
図7Bは、
図7Aに示す状態から、永久磁石41が正方向に180°回転した状態を示している。
図7Bに示すように、永久磁石41が180°位置にある状態において、永久磁石41の中心位置41Oと、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oとが一致する。そのため、永久磁石41の外周面と軟磁性コア42の内周面との間隔が周方向において均等になる。すなわち、180°位置において、S極部412が第3間隔である間隔d4を空けて第2端部422aに対向し、N極部411が第4間隔である間隔d3を空けて第1端部421aに対向して配置され、間隔d4と間隔d3は等しくなる。
【0116】
間隔d3及び間隔d4は、間隔d1よりも大きく、間隔d2よりも小さい。このような配置構成により、永久磁石41には180°位置に向かう方向に比較的小さい保持トルクが作用することとなる。なお、間隔d3と間隔d4は必ずしも同じである必要はなく、少なくとも、間隔d3と間隔d4の差が間隔d1と間隔d2との差よりも小さいとよい。
【0117】
第1実施形態においては、0°位置で安定しようとする保持トルクが、180°位置で安定しようとする保持トルクよりも十分に大きくなるように、ずらし量s1、s2を設定した。すなわち、0°位置で安定し、180°位置で不安定になるように、ずらし量s1、s2を設定した。これにより、
図8で示す保持トルクの波形を実現することができる。
【0118】
なお、第1実施形態においては、永久磁石41が0°位置に戻ってくる±180°手前から回転を進める方向に保持トルクが働く例を示したが、これに限られず、少なくとも、永久磁石41が0°位置に戻ってくる±135°手前から回転を進める方向に保持トルクが働くように、ずらし量s1、s2が設定されているとよい。
【0119】
また、
図7Aにおいては、永久磁石41のN極部411の外周面と、軟磁性コア42の第2端部422aの内周面422a1とが最も近い位置における間隔を間隔d1として示し、永久磁石41のS極部412の外周面と、軟磁性コア42の第1端部421aの内周面421a1とが最も遠い位置における間隔を間隔d2として示したが、これに限られるものではない。
【0120】
間隔d1は、N極部411の周方向の任意の位置における、平面視におけるN極部411の外周面に対する法線上の、N極部411と第2端部422aとの間隔であるとよい。間隔d2は、S極部412の周方向の任意の位置における、平面視におけるS極部412の外周面に対する法線上の、S極部412と第1端部421aとの間隔であるとよい。
【0121】
第1実施形態においては、永久磁石41が0°位置にある場合、永久磁石41の周方向のいずれの位置においても、N極部411の外周面と第2端部422aの内周面422a1との間隔d1は、S極部412の外周面と第1端部421aの内周面421a1との間隔d2よりも狭くなっている。そのため、永久磁石41の周方向のいずれの位置においても、N極部411の外周面と第2端部422aの内周面422a1との間隔d1と、S極部412の外周面と第1端部421aの内周面421a1との間隔d2との差は0より大きい。一方、上述のように、永久磁石41が180°位置にある場合、永久磁石41の周方向の任意の2カ所の位置において、永久磁石41の外周面と、軟磁性コア42の開口の内周面との間隔の差は0となっている。すなわち、第1実施形態の構成においては、永久磁石41が0°位置にある場合よりも180°位置にある場合において、N極部411と軟磁性コア42との間隔と、S極部412と軟磁性コア42との間隔との差が小さくなっている。
【0122】
以上説明した構成を採用することにより、保持トルクは
図8に示す傾向となる。そのため、ヒゲゼンマイ32のバネトルクを小さくすると共にテン輪31の回転を安定して持続可能とすることができる。
【0123】
【0124】
[偏心構造:永久磁石41の偏心]
図11は、第1実施形態におけるテン真と共に回転する各部材を示す斜視図である。
図12は、
図11に示す各部材を分解して示す分解斜視図である。
図13は、第1実施形態の保持部材の底部を示す斜視図である。
図14Aは、第1実施形態の保持部材を示す斜視図である。
図14Bは、第1実施形態の保持部材を示す平面図である。
図15は、テン真と振り座とを分解して示す分解斜視図である。
【0125】
図11、
図12に示すように、永久磁石41は、保持部材140に収容されることで保持部材140に保持されている。保持部材140は、
図14A、
図14Bに示すように、平面形状が円形の底部141と、底部141から起立する筒状の側壁部142とを含む。側壁部142の内径は永久磁石41の外径とほぼ同じであり、永久磁石41は側壁部142内に圧入されることで保持部材140と一体に回転する。
【0126】
底部141には、テン真311が挿通される挿通孔141aが形成されている。また、底部141の下面には、
図13に示すように位置決め溝141bが形成されている。
【0127】
テン真311は、底部141の挿通孔141aに挿通された状態で、位置決め溝141bに嵌る嵌り部311cを有している。嵌り部311cが位置決め溝141bに嵌ることで、永久磁石41の中心位置41Oに対するテン真311の回転中心311Oの位置決めがなされると共に、保持部材140がテン真311と一体に回転することとなる。
【0128】
挿通孔141aの中心位置141aOは、テン真311の回転中心311Oと一致する。
図14Bに示すように、円形の底部141の中心位置141Oに対して挿通孔141aの中心位置141aOはずれて形成されている。そのため、保持部材140に収容された永久磁石41の中心位置41Oは、挿通孔141aに挿通されたテン真311の回転中心311Oに対してずれて配置されることとなる。
【0129】
また、テン輪31は、その中心部に振り座312を含む。振り座312には、振り石312aが固定されている。振り座312は、
図15に示すように、テン真311が挿通される挿通孔312bと、テン真311の嵌り部311dが嵌る位置決め溝312cとを含んでいる。このような構成により、テン真311の回転中心311Oに対する振り石312aの位置決めがなされると共に、テン輪31の回転に伴って振り石312aが回転することとなる。
【0130】
[偏心構造:軟磁性コア42の偏心]
図16は、第1実施形態における軟磁性コアとその周辺の部材を示す斜視図である。
図17は、
図16に示す軟磁性コアを支持部材から分解して示す分解斜視図である。
図18Aは、第1実施形態の位置決め枠を示す斜視図である。
図18Bは、第1実施形態の位置決め枠を示す平面図である。
図18Cは、第1実施形態の位置決め枠を示す斜視図である。
【0131】
軟磁性コア42は、支持部材33に支持されている。また、支持部材33は地板10に固定されている。すなわち、軟磁性コア42は、支持部材33を介して地板10に対して固定されている。支持部材33には、軟磁性コア42の開口に対応する開口33aが形成されている。
【0132】
機械式時計1は、支持部材33に取り付けられると共に、支持部材33に対する軟磁性コア42の位置決めをする位置決め枠35を有している。位置決め枠35は、
図18Aに示すように、嵌り部351と、位置決め突起である環状突起352を含む形状である。
【0133】
嵌り部351は、
図18Bに示すように、その平面形状が八角形となっている。位置決め枠35は、嵌り部351が支持部材33の開口33aに嵌められることで、支持部材33に対する位置決めが成される。なお、嵌り部351の平面形状は八角形に限られず、開口33aに嵌ると共に周方向の変位が規制される形状であればよい。
【0134】
環状突起352は、軟磁性コア42の開口に嵌ることで、軟磁性コア42の位置決めをする。
【0135】
ここで、
図18Bに示すように、環状突起352の中心位置352Oは、嵌り部351の中心位置351Oに対してずれて配置されている。嵌り部351の中心位置351Oは、テン真311の回転中心311Oと一致するよう配置されている。第2環状突起452の中心位置352Oは、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oと一致するように配置されている。なお、嵌り部351の中心位置351Oは、位置決め枠35の外形の中心位置と一致している。
【0136】
このような構成により、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oは、テン真311の回転中心311Oに対してずれて配置されることとなる。
【0137】
ここで、
図7Aで示したように、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oを、テン真311の回転中心311Oを介して、0°位置にある永久磁石41の中心位置41Oの対称の位置に配置する必要がある。しかしながら、
図16に示すように軟磁性コア42と支持部材33とが組付けられた状態において、位置決め枠35の周方向の位置を決めるのは難しい。
【0138】
そこで、第1実施形態においては、
図18Cに示すように、嵌り部351及び環状突起352の突出方向の反対側に、切り欠き355を形成した。機械式時計1を作製する者は、位置決め枠35の周方向の位置決め時において、切り欠き355が周方向の所定の位置に配置されるよう切り欠き355を視認しながら位置決めを行うことがきる。なお、切り欠き355の代わりに、視認可能なマークなどを設けることとしてもよい。
【0139】
[軸受け構造]
次に、
図19~
図21を参照して、第1実施形態における軸受け構造について説明する。
図19は、第1実施形態における軸受け構造、及びその周辺部材を示す斜視図である。
図20は、第1実施形態の受石保持部材を示す斜視図である。
図21は、第1実施形態の受石保持部材、及びその周辺部材を示す平面図である。なお、
図21においては、位置決め枠35や受石333などを省略して図示している。
【0140】
図19に示すように、上述の位置決め枠35の内側には軸受け構造体330が配置される。軸受け構造体330は、テン真311の一端を支持する構造体である。
【0141】
軸受け構造体330は、少なくとも、受石333と、受石333を保持する受石保持部材334とを含む。受石333は、テン真311の一端に当接することで、テン真311の軸方向における位置決めをする。受石保持部材334は、永久磁石41の外周面の少なくとも一部を囲う環状の部材である。
【0142】
第1実施形態においては、受石保持部材334を、炭素を含有する炭素工具鋼鋼材(SK材)等の磁性材で構成した。
【0143】
また、第1実施形態においては、
図20に示すように、受石保持部材334の一部に切り欠き334aを形成した。具体的には、受石保持部材334のうち、永久磁石41の外周面と対向する部分の一部に切り欠き334aを形成した。
【0144】
このような受石保持部材334を採用することにより、永久磁石41周辺に生じる磁束の流れを変化させることができる。その結果、永久磁石41に作用する保持トルクに影響を与えることができる。保持トルクに影響が生じるのは、軟磁性コア42に形成されるノッチn11、n12、n21、n22と同様の原理によるものである。すなわち、受石保持部材334のうち磁性材が存在する部分と磁性材が存在しない部分(切り欠き334a)が、永久磁石41の外周面に対向して配置されることとなるためである。
【0145】
また、保持部材334は、切り欠き334aが形成される側の反対側であって、周方向において切り欠き334aと対応する位置に切り欠き334bが形成されている。
図21においては、平面視において、0°位置にある永久磁石41のN極部411及びS極部412に対向する位置に切り欠き334bがそれぞれ形成される例を示している。すなわち、
図21においては、0°位置にある永久磁石41のN極部411及びS極部412に対向する位置に切り欠き334aがそれぞれ形成されている。
【0146】
受石保持部材334は、
図21の状態から永久磁石41の回転方向に回転可能に設けられており、その角度位置に応じて切り欠き334aの位置を変えることができる。第1実施形態においては、切り欠き334aの位置に応じて保持トルクを微調整することができる。機械式時計1を作製する者は、受石保持部材334の角度位置の調整時において、切り欠き334aが周方向の所定の位置に配置されるよう切り欠き334bを視認しながら調整を行うことがきる。なお、切り欠き334bの代わりに、視認可能なマークなどを設けることとしてもよい。
【0147】
このように磁性材から成る受石保持部材334を用いて保持トルクを微調整可能な構成を採用することにより、個体差により生じ得る保持トルクの誤差を抑制することができる。
【0148】
なお、
図20においては、切り欠き334aが2箇所形成される例を示すが、これに限られず、切り欠き334aは1箇所に形成されるものであってもよいし、3箇所以上に形成されるものであってもよい。
【0149】
[変形例]
次に、
図22~
図24を参照して、第1実施形態の各変形例について説明する。第1実施形態で説明した保持トルクの傾向は、以下の各変形例の構成によっても実現できる。すなわち、第2間隔である間隔d1が第1間隔である間隔d2よりも小さく、かつ第3間隔である間隔d4と第4間隔である間隔d3との差が間隔d2と間隔d1との差よりも小さくなるように配置されている構成であれば、
図8で示した保持トルクを得ることができる。なお、各変形例においては、第1実施形態の構成と同様の機能を備える構成については同じ符号を用いて、その詳細な説明については省略する。
【0150】
図22~
図24においては、軟磁性コア42にノッチが形成されていない例を示すが、
図7Aで示した構成と同様にノッチが形成されていてもよい。
【0151】
[第1変形例]
図22は、第1実施形態の第1変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【0152】
第1変形例においては、永久磁石41の平面形状を、真円の一部を切り欠いた形状とした。具体的には、S極部412の一部を切り欠いた形状とした。このような構成を採用することにより、0°位置において、N極部411と第2端部422aとの間隔d1は、S極部412と第1端部421aとの間隔d2よりも小さくなる。
【0153】
また、第1変形例においては、0°位置にある永久磁石41の中心位置41Oとテン真311の回転中心311Oを一致させると共に、テン真311の回転中心311Oに対して軟磁性コア42の中心位置42Oをずらして配置した。また、テン真311の回転中心311Oに対する軟磁性コア42の中心位置42Oのずれ量をs1とした。
【0154】
このような構成により、
図22に示す状態から正方向に180°回転させた状態において、S極部412と第2端部422aとの間隔d4とN極部411と第1端部421aとの間隔d3との差が、間隔d2と間隔d1との差よりも小さくなる。
【0155】
[第2変形例]
図23は、第1実施形態の第2変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【0156】
第2変形例においては、永久磁石41の中心部に形成されるテン真311が挿通される挿通孔41hの中心位置が、テン真311の回転中心311Oと一致する構成とした。第2変形例の構成は、永久磁石41の中心部に形成される挿通孔41hの位置が異なることを除いて第1実施形態と同様である。すなわち、永久磁石41の中心位置41O、軟磁性コア42の開口の中心位置42O、及びテン真311の回転中心311Oの位置関係は第1実施形態と同様である。
【0157】
[第3変形例]
図24は、第1実施形態の第3変形例における永久磁石、軟磁性コア、及びテン真の配置を示す平面図である。
【0158】
第3変形例においては、永久磁石41が0°位置にある状態において、軟磁性コア42の開口の中心位置42Oとテン真311の回転中心311Oを一致させると共に、テン真311の回転中心311Oに対して永久磁石41の中心位置41Oをずらして配置した。そして、第3変形例においては、軟磁性コア42の開口の平面形状を楕円状とした。具体的には、第1端部421aが構成する半円弧を、第2端部422aが構成する半円弧よりも大きくした。また、テン真311の回転中心311Oに対する永久磁石41の中心位置41Oのずれ量をs1とした。
【0159】
このような構成により、
図24に示す状態から正方向に180°回転させた状態において、N極部411と第1端部421aとの間隔d4とS極部412と第2端部422aとの間隔d3との差が、間隔d2と間隔d1との差よりも小さくなる。
【0160】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る機械式時計について説明する。なお、第2実施形態に係る機械式時計においては、その全体構成は
図1や
図5等で示した構成と同様であり、偏心構造についても
図7A、
図7B、
図11~
図15等で示した構成と同様である。そのため、第1実施形態と同様の機能を有する構成については同じ符号を用いて、その詳細な説明は省略する。
【0161】
図25は、第2実施形態において永久磁石に作用する各トルクを説明する図である。
図25における動力ゼンマイトルク及び摩擦トルクは
図8を参照して説明したトルクと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0162】
図25中の太実線の一方は、第2実施形態における保持トルクを示している。また、
図25中の太実線の他方は第2実施形態におけるヒゲゼンマイ232のバネトルクを示している。また、
図25中の点線は、第2実施形態におけるバネトルクを示す線を、横軸を介して折り返した線を示している。
【0163】
第2実施形態においては、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動は、ヒゲゼンマイ232に対して空転する期間と、ヒゲゼンマイ232に回転力を伝達すると共にヒゲゼンマイ232を弾性的に変形させる期間と、を少なくとも含む。言い換えると、ヒゲゼンマイ232のバネトルクは、永久磁石41(テン真311)の回転に伴い線形的に変化する期間と、変化しない期間とを含む。具体的には、永久磁石41の回転角度が0°から135°に達するまでの期間においてヒゲゼンマイ232のバネトルクは0であり、135°以降において永久磁石41の回転方向と逆方向に働くヒゲゼンマイ32のバネトルクが線形的に増加する。なお、永久磁石41の回転角度345°に達した後、ヒゲゼンマイ232の弾性変形に応じて永久磁石41(テン輪31)は回転角度0°に戻る方向に回転することとなる。
【0164】
同様に、永久磁石41の回転角度が0°から-135°に達するまでの期間においてヒゲゼンマイ232のバネトルクは0であり、-135°以降において永久磁石41の回転方向と逆方向に働くヒゲゼンマイ32のバネトルクが線形的に増加する。なお、永久磁石41の回転角度-345°に達した後、ヒゲゼンマイ232の弾性変形に応じて永久磁石41(テン輪31)は回転角度0°に戻る方向に回転することとなる。
【0165】
以上のように、第2実施形態においては、ヒゲゼンマイ232のバネトルクが働かない期間が存在することより、第1実施形態と比較してさらに低速振動化を実現することができる。また、第2実施形態においては、第1実施形態と同様に偏心構造を採用するため、ヒゲゼンマイ232のバネトルクを小さくすると共に、保持トルクの作用を受けることでテン輪31の回転を安定して持続可能とすることができる。
【0166】
次に、
図26~
図28を参照して、
図25に示すバネトルクを実現するための構成の詳細について説明する。
図26は、第2実施形態におけるテン輪、テン真、永久磁石、ヒゲゼンマイ、及びその周辺部材を分解して示す分解斜視図である。
図27は、第2実施形態における保持部材を示す斜視図である。
図28は、第2実施形態におけるテン輪、テン真、永久磁石、ヒゲゼンマイ、及び保持部材を示す断面図である。
【0167】
第2実施形態において、永久磁石41は保持部材340に保持されている。保持部材340は、底部341と、底部341から起立する筒状の側壁部342とを含む。側壁部342の内径は永久磁石41の外径とほぼ同じであり、永久磁石41は側壁部342内に圧入されることで保持部材340と一体的に回転する。底部341には、テン真311が挿通される挿通孔341aが形成されている。また、底部341の下面には、
図27、
図28に示すように位置決め溝341bが形成されている。テン真311の嵌り部311cは、底部341の挿通孔341aに挿通された状態で、位置決め溝341bに嵌る。嵌り部311cが位置決め溝341bに嵌ることで、永久磁石41の中心位置に対するテン真311の回転中心の位置決めがなされると共に、保持部材340がテン真311と一体的に回転することとなる。
【0168】
第2実施形態のヒゲゼンマイ232は、
図26に示すように、外端部232aと、内端部232bと、渦巻き状のバネ部232cと、内端部232bとバネ部232cを接続する接続部232dと、を含む。
【0169】
ヒゲゼンマイ232の外端部232aはヒゲ持受34に対して固定されている。一方、ヒゲゼンマイ232の内端部232bはテン真311に対して固定されていない。内端部232bには、テン真311が挿通される開口232bhが形成されている。
図28に示すように、開口232bhの内径は、開口232bhに挿通された状態にあるテン真311のうち開口232bhに対向する部分の外径もやや大きいとよい。このような構成のため、テン真311は、その正逆回転運動においてヒゲゼンマイ232に対して空転する期間を含むこととなる。
【0170】
さらに、保持部材340は、側壁部342が突出する方向と反対方向に向けて延伸する接触部である突起部345を有する。突起部345は、ヒゲゼンマイ232のうち内端部232bとバネ部232cとの間の隙間Gに位置するように設けられる。突起部345は、テン真311の回転に伴って、内端部232bとバネ部232cとの間の隙間Gで移動可能である。接続部232dは、内端部232bとバネ部232cとの間に突起部345の移動を許容する隙間Gを形成するように、内端部232bとバネ部232cを接続する形状であるとよい。
【0171】
テン真311と一体的に保持部材340が回転することで、突起部345は隙間G内を移動する。そして、テン真311(テン輪31)の角度が所定の角度になった際に、突起部345が接続部232dに衝突する。これにより、保持部材340からの回転力が接続部232dに伝達され、接続部232dは保持部材340と共に回転することとなる。また、接続部232dの回転に伴って、バネ部232cが弾性的に変形する。これにより、バネトルクが生じることとなる。
【0172】
図26に示すように、接続部232dの平面形状は、径方向外側に向けて拡がる扇状であるとよい。そして、テン真331がヒゲゼンマイ232に対して空転する期間は接続部232dの扇状の拡がり具合に応じて規定されるとよい。接続部232dの扇状が大きく拡がっている場合、テン真331がヒゲゼンマイ232に対して空転する期間が短くなり、バネトルクは大きくなる。一方、接続部232dの扇状の拡がりが小さい場合、テン真331がヒゲゼンマイ232に対して空転する期間は長くなり、バネトルクは小さくなる。
【0173】
さらに、
図29A~
図29Eを参照して、第2実施形態におけるテン輪の回転角度毎のヒゲゼンマイの動作の具体例について説明する。
図29Aは、テン輪の回転角度が0°の状態を示している。
図29Bは、テン輪の回転角度が135°の状態を示している。
図29Cは、テン輪の回転角度が315°の状態を示している。
図29Dは、テン輪の回転角度が-135°の状態を示している。
図29Eは、テン輪の回転角度が-315°の状態を示している。なお、
図29A~
図29Eにおいては、時計回り方向を正方向とする。
【0174】
図29A~
図29Eにおいては、ヒゲゼンマイ232よりも永久磁石41側(
図28における上側)から見た様子を示している。
図29A~
図29Eにおいては、突起部345を想像線で示している。なお、ヒゲゼンマイ232のバネ部232cは伸縮することで形状が変わるが、
図29A~
図29Eにおいては、ヒゲゼンマイ232の形状の変化について表現していない。
【0175】
テン輪31が回転角度0°の状態から図中の時計回り方向に回転する場合、
図29Aに示す状態から
図29Bに示す状態を経て
図29Cに示す状態となる。
図29Aに示す状態から
図29Bに示す状態になるまで、突起部345は接続部232dに対して非接触であることより、テン輪31(テン真311)の回転力はヒゲゼンマイ232に伝達されない。
【0176】
その後、テン輪31の回転角度が135°に達した際に、突起部345が接続部232dに衝突する。これにより、突起部345の回転に伴ってヒゲゼンマイ232の接続部232dが図中の時計回り方向に回転する。接続部232dの回転に伴って、バネ部232cが弾性変形し、バネトルクが発生する。さらにテン輪31の回転角度が345°に達した後、テン輪31は、ヒゲゼンマイ232の弾性変形に伴って図中の反時計回り方向に回転する。
【0177】
さらに、図中の反時計回り方向に回転するテン輪31の回転角度が135°に達した際に、突起部345が接続部232dから離間して回転を継続する。この後、テン輪31は、永久磁石41が保持トルクの作用を受けることで回転を継続する。図中の反時計回り方向に回転するテン輪31は、回転角度0°を通過し、回転角度-135°に達した際に、突起部345が接続部232dに衝突する。これにより、突起部345の回転に伴ってヒゲゼンマイ232の接続部232dが図中の反時計回り方向に回転する。接続部232dの回転に伴って、バネ部232cが弾性変形し、バネトルクが発生する。さらにテン輪31の回転角度が-345°に達した後、テン輪31は、ヒゲゼンマイ232の弾性変形に伴って図中の時計回り方向に回転する。
【0178】
テン輪31は、以上のような正逆回転運動を繰り返す。その間、ヒゲゼンマイ232のバネトルクが生じる期間と生じない期間とが繰り返される。その結果、
図25で示したようなバネトルクを得ることができる。
【0179】
なお、第2実施形態においては、図中の時計回り方向に回転するテン輪31の回転角度が135°以降の状態で突起部345が接続部232dに接触する例を説明したが、これに限られない。少なくともテン輪31の回転角度が0°以上であって180°未満の間において、突起部345が接続部232dに対して非接触の期間があればよい。反時計回り方向においても同様である。
【0180】
第2実施形態においては、
図25に示すように135°以降、ヒゲゼンマイ232のバネトルクが増加する傾きに合わせて保持トルクも同じような傾向で増加させるよう、永久磁石41と軟磁性コア42の間隔や、ノッチn11、n12、n21、n22の間隔、ノッチn11、n12、n21、n22の形状の調整等を行った。これによりバネトルクと保持トルクとでトルクが大きく相殺され、第1実施形態と比較して更なる低振動化が実現できる。
【0181】
また、第2実施形態においては、第1実施形態と比較してヒゲゼンマイ232の変形量を小さくできるため、ヒゲゼンマイ232のピッチを小さく設計することができる。これにより、ヒゲゼンマイ232やテン輪31の小型化が可能となり、ヒゲゼンマイ232の形状や材料選択の自由度は高くなる。さらに、
図25に示すように、第1実施形態の
図8に対してバネトルクの傾きを大きくすることができ、ヒゲゼンマイ232のバネ部232cの幅を太くしたりヒゲ長を短くしたりするなどして剛性を向上できる。ヒゲゼンマイ232の剛性が向上することより、ヒゲゼンマイ232の組立時の取り扱いが容易となる。
【0182】
[第2実施形態の変形例]
図30Aは、第2実施形態の変形例における突起部を示す斜視図である。
図30Bは、第2実施形態の変形例における突起部を用いた場合の断面図である。
【0183】
図27等においては、保持部材340が接触部である突起部345を含む例を示したが、これに限られない。すなわち、突起部345は保持部材340とは別の部材に設けられていてもよい。
【0184】
図30A、
図30Bにおいては、接触部材500を用いた例を示す。接触部材500は、テン真311が挿通される挿通孔510hが形成される枠部510と、枠部510の外側に位置する突起部520とを含む。
【0185】
突起部520は、
図27等で示した突起部345と同様の機能を備えるものである。接触部材500は、テン真311と一体的に回転する。接触部材500が回転することで、突起部520がヒゲゼンマイ232の接続部232dに衝突し、テン真311の回転力がヒゲゼンマイ232に伝達されることとなる。
【0186】
なお、
図30Bにおいては、接触部材500と保持部材340との間にヒゲゼンマイ232が設けられる例を示すが、これに限られない。例えば、ヒゲゼンマイ232と保持部材340との間に接触部材500が設けられていてもよい。この場合、突起部520は、
図30Bで示す方向と反対方向に突出しているとよい。
【0187】
なお、詳細な説明については省略するが、第2実施形態及びその変形例の構成は、
図22~
図24を参照して説明した第1実施形態の第1変形例~第3変形例の構成と組み合わせてもよい。
【0188】
[その他]
図31は、保持部材の変形例を示す斜視図である。
図11等においては、永久磁石41が偏心構造を採用する例を説明した。すなわち、保持部材140に収容された永久磁石41の中心位置41Oは、挿通孔141aに挿通されたテン真311の回転中心311Oに対してずれて配置される例を説明した。このような構成においては、永久磁石41と保持部材140とから成る回転体の重心が、その回転中心からズレることとなる。これにより、永久磁石41の姿勢に影響が出てしまう可能性がある。
【0189】
図31に示す保持部材440は、側壁部342に設けられる重心調整部445を有している。重心調整部445は、永久磁石41と保持部材440とから成る回転体の重心を調整するために設けられる部分である。
図31に示すように、重心調整部445は、周方向において、テン真311の回転中心311Oに近い側に設けられているとよい。
【0190】
なお、
図31に示す重心調整部445は一例であって、これに限られるものではない。例えば、重心調整部445は保持部材440の一部である必要はなく、重心調整部445とは別部材であってもよい。また、保持部材440に重心調整部としての切り欠きや溝を形成してもよい。この場合、切り欠きや溝は、周方向においてテン真311の回転中心311Oに遠い側に形成されるとよい。
【0191】
図32は、永久磁石の変形例を示す斜視図である。
図11、
図28等においては、保持部材140、340を介して永久磁石41がテン真311と共に回転する例を説明したが、これに限られず、永久磁石41は直接テン真311に取り付けられていてもよい。この場合、
図32に示すように、挿通孔41hの中心(すなわち、テン真の回転中心311O)が、円形の永久磁石41の中心位置41Oからズレているとよい。また、テン真が挿通孔41hに圧入されることで、永久磁石41はテン真と一体的に回転可能であるとよい。保持部材を用いず、かつ
図32で示す永久磁石41を用いる場合、
図30Aで示した接触部材500を用いるとよい。なお、挿通孔41hは、N極側とS極側のうちどちら側にズレていてもよい。
【0192】
図33は、永久磁石及び軟磁性コアの配置角度に関する変形例を説明する図である。脱進機20においては、機械的な誤差に起因して、入爪223aとガンギ車21の歯との接触面に生じる静止摩擦力と、出爪224aとガンギ車21の歯との接触面に生じる静止摩擦力とが異なる大きさになる場合がある。例えば、出爪224a側において静止摩擦力が大きい場合、テン輪31が正の回転角度から0°に戻ってくる際に、出爪224aとガンギ車21との接触面に生じる静止摩擦力に対する保持トルクが足りず、ガンギ車21が解除されない恐れが生じる。
【0193】
このように入爪223a側と出爪224a側の静止摩擦力にアンバランスがある場合、永久磁石41及び軟磁性コア42の偏心方向を傾けるとよい。
図33においては、永久磁石41及び軟磁性コア42の偏心方向を、第1実施形態の配置から10°傾けて配置した例を示している。また、テン輪31及びヒゲゼンマイ32も、第1実施形態の配置から10°傾けて配置している。ここで、偏心方向とは、テン真311の回転中心に対して永久磁石41の中心位置及び軟磁性コア42の開口の中心位置がずれている方向である。言い換えると、テン真311の回転中心と、永久磁石41の中心位置とを結ぶ線が延びる方向である。
【0194】
このような配置を採用することにより、
図33の下段のグラフに示すように、第1実施形態における
図8のグラフと比較して、正の回転方向において保持トルクが10°遅れて生じることとなる。なお、永久磁石41と軟磁性コア42との相対位置は第1実施形態と同じであるため、保持トルクの波形自体は
図8とほぼ同様である。
【0195】
図33の下段のグラフにおいては、出爪224a側の静止摩擦力が生じるタイミングにおいて保持トルクT1が生じており、入爪223a側の静止摩擦力が生じるタイミングにおいて保持トルクT2が生じている例を示している。
図8の上段で示す配置を採用することで、保持トルクが発生するタイミングをずらしたことより、T1>T2となっている。そのため、静止摩擦力が大きい出爪224a側においてガンギ車21を解除しやすくなっている。
【0196】
以上のように、入爪223a側と出爪224a側とで静止摩擦力にアンバランスが生じた場合においても、
図33に示す配置を採用することで脱進機20を正常に動作させることができる。なお、
図33においては、出爪224a側の静止摩擦力が生じるタイミングにおける保持トルクが大きくなるように、偏心方向を10°ずらして配置する例を示したが、これに限られない。偏心方向は、入爪223a側と出爪224a側のいずれの静止摩擦力が大きいかや、どの程度静止摩擦力に差があるかに応じて適宜設定されるものであるとよい。なお、
図33に示す配置は、第1実施形態に限らず、第2実施形態やそれら変形例に適用することも可能である。
【0197】
図34は、ヒゲゼンマイの変形例を示す平面図である。
図34に示すヒゲゼンマイ1232は、
図26等で示したヒゲゼンマイ232の変形例である。ヒゲゼンマイ1232は、外端部1232aと、内端部1232bと、渦巻き状のバネ部1232cと、内端部1232bとバネ部1232cを接続する接続部1232dと、を含む。接続部1232dの平面形状は、径方向外側に向けて拡がる部分を含む形状である。接続部1232dは、径方向外側に向けて拡がる部分の形状の拡がり具合に応じてテン真311がヒゲゼンマイ1232に対して空転する期間を規定する。
【0198】
上記第2実施形態においては、接続部232dの平面形状が扇状である例を説明した。しかしながら、接続部232dの平面形状が扇状である場合、バネ部232cが収縮した際に、接続部232dによりバネ部232cの収縮範囲が規制されてしまう場合がある。そこで、
図34で示すヒゲゼンマイ1232においては、扇状のヒゲゼンマイ232よりも、バネ部1232cの収縮の許容量を大きくする構成を採用した。具体的には、接続部1232dの平面形状を、径方向における接続部1232dの最外部の回転軌跡の半径よりも、ヒゲゼンマイ1232の回転中心から径方向の端部までの距離が短い部分を含む形状とした。接続部1232dの最外部は、ヒゲゼンマイ1232の回転中心からの距離が最も遠い部分であって、バネ部1232cの内端と接続される部分であるとよい。
【0199】
図34の点線の円は、接続部1232dの最外部の回転軌跡を示している。この回転軌跡の半径をr1とする。接続部1232dは、半径r1よりも回転中心からの距離が短い部分を含んでいる。すなわち、最外部の回転軌跡内で回転する部分を含んでいる。具体的には、接続部1232dは、ヒゲゼンマイ1232の回転中心からの距離がr2(<r1)の部分を含んでいる。さらに、接続部1232dは、ヒゲゼンマイ1232の回転中心からの距離がr3(<r2)の部分を含んでいるとよい。このような平面形状の接続部1232dを採用することにより、バネ部1232cの収縮を許容する収縮許容領域Mが形成されることとなる。収縮許容領域Mが形成される分、バネ部1323cの収縮範囲が大きくなる。
【0200】
歩度調整手段40は、2極磁化された永久磁石41の動作に基づいて検出信号を得るものであり、永久磁石41の周辺に磁気的な影響を及ぼす部材が存在する場合、検出精度が低下してしまう可能性がある。そのため、永久磁石41の周辺の部材の材料として、磁気的な影響が少ないものを採用するとよい。例えば、支持部材33及びヒゲ持受34の材料として樹脂材料を用いるとよい。また、支持部材33を地板10に対して固定するための固定具の材料としてリン青銅や真鍮等を用いるとよい。また、テン輪31の材料として、樹脂材料やアルミニウム、真鍮等を用いるとよい。
【0201】
また、図示は省略するが、機械式時計1は、文字板又は裏蓋に、テン輪31を外部から視認させる開口又は透明部を有しているとよい。