(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】走法分析装置、走法分析方法および走法分析プログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 71/06 20060101AFI20241007BHJP
A43D 1/02 20060101ALI20241007BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
A63B71/06 M
A43D1/02
A63B69/00 C
(21)【出願番号】P 2024540037
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2022036868
(87)【国際公開番号】W WO2024069987
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-07-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】阪口 正律
(72)【発明者】
【氏名】平川 菜央
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 政剛
(72)【発明者】
【氏名】谷口 憲彦
【審査官】大浜 康夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214499(JP,A)
【文献】特開2023-066836(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082376(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/033965(WO,A1)
【文献】特許第4856427(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 71/06
A43D 1/02
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得するステップ頻度取得部と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得するステップ長取得部と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出し、算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する判定部と、
前記判定の結果を出力する結果出力部と、
を備えることを特徴とする走法分析装置。
【請求項2】
前記判定部は、複数の走者の測定値における走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きのデータ群をあらかじめ主成分分析して得られた主成分負荷量に基づく主成分得点の算出式を前記主成分分析モデルとして記憶することを特徴とする請求項1に記載の走法分析装置。
【請求項3】
前記判定部は、複数の走者の測定値における走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きのそれぞれの平均をあらかじめ記憶するとともに、前記ステップ頻度取得部および前記ステップ長取得部が取得するデータに前記主成分負荷量を掛け合わせて前記平均との差分を求めることにより前記主成分得点を算出する算出式を前記主成分分析モデルとして記憶することを特徴とする請求項2に記載の走法分析装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記主成分分析モデルにより主成分得点として算出し得る得点範囲の平均値を基準とし、算出した前記主成分得点と前記平均値との比較によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定することを特徴とする請求項1または2に記載の走法分析装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記主成分得点が前記平均値以上である場合にピッチ型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記平均値以下である場合にストライド型に該当すると判定することを特徴とする請求項4に記載の走法分析装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記主成分得点が前記平均値より高い所定の第1の基準範囲である場合にピッチ型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記平均値より低い所定の第2の基準範囲である場合にストライド型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記第1の基準範囲より低く前記第2の基準範囲より高い所定の第3の基準範囲である場合に中間型に該当すると判定することを特徴とする請求項4に記載の走法分析装置。
【請求項7】
前記判定の結果に基づいて、ピッチ型の走者に適した靴と、ストライド型の走者に適した靴と、を含む複数の靴から少なくともいずれかを推薦する情報を出力する推薦出力部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の走法分析装置。
【請求項8】
ピッチ型の走者に適した靴と、ストライド型の走者に適した靴と、ピッチ型およびストライド型の双方の走者に適した靴と、を含む複数の靴との対応で、それぞれの前記主成分得点を頂点とする複数のガウス分布を混合させた混合ガウスモデルに基づき、算出された前記主成分得点がいずれの一つ以上のガウス分布に属するかに応じて前記複数の靴から一つ以上の靴を推薦する情報を出力する推薦出力部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の走法分析装置。
【請求項9】
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得する過程と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得する過程と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出する過程と、
算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する過程と、
前記判定の結果を出力する過程と、
を備えることを特徴とする走法分析方法。
【請求項10】
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得する機能と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得する機能と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出し、算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する機能と、
前記判定の結果を出力する機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする走法分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マラソン走者の走法を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マラソン等の長距離走において、走者の走法として「ピッチ走法」と「ストライド走法」が知られている。一般的に、前者は、ステップ頻度(単位時間あたりの歩数であり、「ピッチ」または「ケイデンス」ともいう。)が相対的に多く、ステップ長(1歩の距離であり、「ストライド」ともいう。)が相対的に短いことが特徴の走法であり、後者は、ステップ頻度が相対的に少なく、ステップ長が相対的に長いことが特徴の走法とされているが、明確な定義はない。
【0003】
近年、ピッチ走法に適したランニングシューズとストライド走法に適したランニングシューズも開発されている。そのため、走者は自身の走法がピッチ型かストライド型かを知ることで、より好適なシューズを選定できる場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、ステップ頻度やステップ長の傾向が特に顕著である場合を除けば、ある走者の走法がピッチ型とストライド型のどちらに該当するかの明確な基準は存在せず、主観的な判断に頼らざるを得なかった。
【0006】
そうした中、本発明者は、多数の走者の走行記録を分析した結果、走法の傾向に基づいて両者を客観的な基準で判別する手法を見出すに至った。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、走者の走法を分析する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の走法分析装置は、被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得するステップ頻度取得部と、被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得するステップ長取得部と、複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出し、算出した主成分得点によって被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する判定部と、判定の結果を出力する結果出力部と、を備える。
【0009】
本発明の別の態様は、走法分析方法である。この方法は、被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得する過程と、被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得する過程と、複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出する過程と、算出した主成分得点によって被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する過程と、判定の結果を出力する過程と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記憶した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走者の走法を簡便に分析してユーザに有益な情報をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】走法分析システムの基本構成を示す図である。
【
図2】同じ走速度範囲におけるストライド型とピッチ型の間でステップ長変化およびステップ頻度変化を比較する図である。
【
図3】複数の走速度におけるステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きの関係を例示する図である。
【
図4】ユーザ端末の基本構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】走法分析サーバの基本構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】主成分分析により求められる主成分の分布を示す図である。
【
図7】主成分分析により求められる第1主成分の分布を示す図である。
【
図8】走法分析サーバにおける基本的な処理を示すフローチャートである。
【
図9】主成分分析により求められる第1主成分の分布と走法型の範囲との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、変形例では、同一または同等の構成要素には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部分は省略して表示する。
【0014】
ここで、請求項でいう「走法分析装置」は、ウェブサーバ上やクラウド上で実行されるサーバ用のプログラムおよびサーバの組み合わせで実現されてもよいし、スマートフォンやタブレット等の情報端末、パーソナルコンピュータ等のデバイス上で実行されるプログラムおよびこれらのデバイスの組み合わせで実現されてもよい。あるいは、各種のセンサを内蔵するウェアラブルデバイス上で実行されるプログラムおよびウェアラブルデバイスの組み合わせで実現されてもよい。以下の実施形態では、サーバ用のプログラムおよびサーバの組み合わせで実現される「走法分析装置」と、ユーザの端末やウェアラブルデバイスを含んだ走法分析システムの例を説明する。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態においては、ピッチ型走法用のランニングシューズ(以下、単に「シューズ」という)とストライド型走法用のシューズのいずれが自身に適しているかを把握したいランナーであるユーザが、自ら走法の分析を実行することを前提とする。まず、ユーザは走行時に各種のウェアラブルデバイスを装着して、分析に必要な情報を各種センサで取得し、ユーザの端末へ送信する。その上で、ユーザは端末からサーバへ情報を送信し、分析結果をサーバから得る。
【0016】
図1は、走法分析システムの基本構成を示す。走法分析システム30は、例えばユーザ端末10、ウェアラブルデバイス16、走法分析サーバ20で構成される。ユーザはランニングウォッチ12やモーションセンサ14等のウェアラブルデバイス16を腕や腰に装着した状態でランニングを実施し、ランニングウォッチ12やモーションセンサ14により各種の検出データを取得する。ランニングウォッチ12やモーションセンサ14は、測位モジュールや9軸モーションセンサ等のセンサを含む。測位モジュールによって検出された時間情報と位置情報の関係に基づいて走速度が取得され、9軸モーションセンサによって検出された情報に基づいてステップ頻度が取得される。また、測位モジュールによって計測された走行距離とステップ頻度に基づいてステップ長が取得される(ステップ長=走行距離÷ステップ頻度)。ユーザ端末10によって取得された走行ログはネットワーク18を介して走法分析サーバ20へ送信され、走法分析サーバ20によって走法が分析され、ピッチ型とストライド型を含む複数の走法のいずれに該当するかが判定される。
【0017】
変形例においては、ウェアラブルデバイス16の代わりに、ユーザ端末10としてのスマートフォンに内蔵の測位モジュールやモーションセンサを用いてもよい。別の変形例においては、被検者の走行状態を示すデータとして、高速度カメラで撮影した映像からモーションキャプチャ等の技術やフォースプレートによる床反力検知によって走速度とステップ頻度のデータを取得する仕様としてもよい。その場合、ユーザ以外の操作者(例えば店舗の店員)がユーザ端末10を操作して被検者のための走行状態データを取得し、走法分析を走法分析サーバ20に実行させてもよい。
【0018】
「ステップ頻度」の情報は、例えば1秒間あたりの歩数(Hz)もしくは1分間あたりの歩数(spm)を単位とする数値であり、マラソンの完走タイムが3時間30分以内のランナーがレースペースで走行した場合、1分間あたりの歩数は平均175~205spmの範囲に収まるのが一般的である。また「ステップ長」の情報は、平均ステップ長(m)であり、1分間の走行距離を上記1分間あたりの歩数で割ることで求められる。なお、本実施形態において分析対象となるステップ頻度およびステップ長のデータは、マラソンの完走タイムが3時間以内といった上級者の走速度に限らず、後述する複数の走速度におけるステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きの関係性が検出される限り、3時間以上の完走タイム、例えば4時間以内といった完走タイムに相当する走速度におけるデータであってもよい。
【0019】
図2は、同じ走速度範囲におけるストライド型とピッチ型の間でステップ長変化およびステップ頻度変化を比較する図である。
図2(a)はストライド型のランナー(マラソン完走タイムの自己ベストは2時間36分7秒)における走速度とステップ長の関係および走速度とステップ頻度の関係を例示する散布図である。
図2(b)はピッチ型のランナー(マラソン完走タイムの自己ベストは2時間40分0秒)における走速度とステップ長の関係および走速度とステップ頻度の関係を例示する散布図である。横軸は走速度[m/s]であり、縦軸はステップ長[m]またはステップ頻度(1分間あたりの歩数)[spm]である。本図では、秒速4.17m(キロ4分ペース)から秒速約5.56m(キロ3分ペース)までを含む範囲(4.0~6.0m/s)で走行した場合のステップ長(黒丸印)とステップ頻度(白丸印)がプロットされる。
【0020】
図2(a)に示すストライド型のランナーの場合、ステップ長は走速度の上昇に比例するように約1.45mから約2mまで約0.55mの広い範囲で大きく増加し、走速度の増加分に対するステップ長の増加分を示す回帰直線であるステップ長変化110の傾きは相対的に大きい。特に、秒速4.17m(キロ4分ペース)から秒速約5.56m(キロ3分ペース)までの走速度の上昇に対してステップ長が1.49mから1.88mまで+0.39m(約26%)も増加している。
【0021】
これに対し、ストライド型ランナーのステップ頻度(1分間あたりの歩数)は、走速度の上昇に比例するように169spmから183spmの狭い範囲で漸増するが、走速度の増加分に対するステップ頻度の増加分を示す回帰直線であるステップ頻度変化111の傾きは僅かであり、横ばいに近い。特に、秒速4.17m(キロ4分ペース)から秒速約5.56m(キロ3分ペース)までの走速度の上昇に対してステップ頻度(1分間あたりの歩数)が169spmから177spmまで+8spm(約5%)しか増加していない。
【0022】
図2(b)に示すピッチ型のランナーの場合、ステップ長は走速度の上昇に比例するように約1.45mから約1.75mまで約0.3mの範囲で増加し、走速度の増加分に対するステップ長の増加分を示す回帰直線であるステップ長変化112の傾きはストライド型よりも小さい。特に、秒速4.17m(キロ4分ペース)から秒速約5.56m(キロ3分ペース)までの走速度の上昇に対してステップ長が1.48mから1.68mまで+0.2m(約14%)しか増加していない。
【0023】
これに対し、ピッチ型ランナーのステップ頻度(1分間あたりの歩数)は、走速度の上昇に比例するように168spmから205spmまでの広い範囲で大きく増加し、走速度の増加分に対するステップ頻度の増加分を示す回帰直線であるステップ頻度変化113の傾きはストライド型よりも大きい。特に、秒速4.17m(キロ4分ペース)から秒速約5.56m(キロ3分ペース)までの走速度の上昇に対してステップ頻度(1分間あたりの歩数)が170spmから198spmまで+28spm(約16%)も増加している。
【0024】
図3は、複数の走者における走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きの関係を例示する図である。ステップ頻度(1秒間あたりの歩数)変化の傾きを横軸にとり、ステップ長変化の傾きを縦軸にとってプロットすると、図のように右下がりの領域101に分布する負の相関が見られる。すなわち、ステップ頻度変化の傾きが大きい走者ほどステップ長変化の傾きは小さくなる傾向にあり、ステップ頻度変化の傾きが小さい走者ほどステップ長変化の傾きは大きくなる傾向にあることが分かる。ステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きの関係を回帰分析すると、図のように負の傾きを持つ回帰直線100が得られる。
【0025】
図4は、ユーザ端末の基本構成を示す機能ブロック図である。本図では機能に着目したブロック図を描いており、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。ユーザ端末10は、ハードウェア的には例えばスマートフォンやタブレット端末等の情報端末やパーソナルコンピュータ等のデバイスであってよい。ユーザ端末10は、走行ログ記録部50、表示部52、データ処理部54、操作処理部56、データ通信部58の各機能を少なくとも備える。ユーザ端末10は、ハードウェアとしては例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、タッチパネル、通信モジュール等により構成される。なお、変形例としては、本図に示すユーザ端末10の各機能がウェアラブルデバイス16に内蔵される形で一体的なデバイスとして実現されてもよい。
【0026】
走行ログ記録部50は、近距離無線通信等の通信モジュールを介してウェアラブルデバイス16から各種の検出データを取得し、走行ログとして記録する。ウェアラブルデバイス16から取得する検出データは、例えばGPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムから受信する位置情報とその取得日時を示す情報、ステップ頻度(単位時間、例えば1分間あたりの歩数)の情報を含む。走行ログ記録部50は、ウェアラブルデバイス16から取得する検出データに基づいて、走行時間、走行距離、所定距離ごとまたは所定時間ごとの走速度、ステップ頻度等の情報を走行ログとして所定の記憶領域に記録する。
【0027】
操作処理部56は、ユーザによる指示のための操作入力を受け付ける。表示部52は、操作処理部56を介したユーザの指示に基づいて、走行ログ記録部50により記録された走行ログを画面に表示させる。データ処理部54は、操作処理部56を介したユーザの指示に基づいて、走行ログ記録部50により記録された走行ログから複数通りの走速度におけるステップ頻度のデータを抽出し、抽出したデータを被検者の走行ログとしてデータ通信部58を介して走法分析サーバ20へ送信する。なお、変形例においては、データ処理部54は走行ログ全体を、データ通信部58を介して走法分析サーバ20へ送信し、走法分析サーバ20の側で必要なデータを抽出する仕様としてもよい。また、走行距離をステップ頻度で割ることでステップ長のデータを生成し、走行ログに含めてもよい。
【0028】
図5は、走法分析サーバの基本構成を示す機能ブロック図である。本図では機能に着目したブロック図を描いており、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。走法分析サーバ20は、ハードウェア的には例えばサーバコンピュータであってよい。走法分析サーバ20は、データ受信部70、データ蓄積部72、ステップ頻度取得部74、ステップ長取得部75、データ分析部76、判定部80、出力部90の各機能を少なくとも備える。走法分析サーバ20は、ハードウェアとしては例えばCPU、ROM、RAM、通信モジュール等により構成される。
【0029】
データ受信部70は、ユーザ端末10から被検者の走行ログに含まれる走速度とステップ頻度のデータを受信してデータ蓄積部72に保存する。データ蓄積部72には、過去に測定された多数の走者における走行ログに基づくステップ頻度およびステップ長のデータ群が蓄積される。データ蓄積部72に蓄積されたデータ群は主成分分析がなされ、主成分分析モデルとして判定部80に記憶される。主成分分析モデルは、新たに取得された走行ログに基づいてその走者の走法がピッチ型であるかストライド型であるかの判定に用いられる。なお、
図2でいう「ステップ頻度」は、1分間あたりの歩数(spm)を主に示したが、主成分分析の計算対象としての「ステップ頻度」の数値は、1分間あたりの歩数を60で割った1秒間あたりの歩数(Hz)を計算に用いてもよい。主成分分析の計算では、ステップ頻度の数値として1秒間あたりの歩数(Hz)と1分間あたりの歩数(spm)のいずれを用いてもよい。ただし、これら複数の単位が計算で混在しないよう、いずれか一つの単位が統一した基準として用いられ、主成分分析の対象となる。
【0030】
データ分析部76は、主成分分析部77と平均値算出部78を含む。主成分分析部77は、データ蓄積部72に蓄積されたデータ群に対して主成分分析を実行し、生成される主成分分析モデルを判定部80に記憶させる。すなわち、主成分分析部77は、多数の走者の走行ログに基づくステップ頻度およびステップ長のデータ群から複数の走速度におけるステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きを算出し、ステップ頻度変化の傾きを第1観測変数とし、ステップ長変化の傾きを第2観測変数とする主成分分析を実行する。平均値算出部78は、多数の走者の走行ログに基づくステップ頻度およびステップ長のデータ群からステップ頻度変化の傾きの平均値とステップ長変化の傾きの平均値を算出し、判定部80に記憶させる。
【0031】
図6は、主成分分析により求められる主成分の分布を示す。図の下段は、多数の走者のデータ群に基づく主成分分析で求められた第1主成分PC1を横軸にとり、主成分分析で求められた第2主成分PC2を縦軸にとった散布図である。第1主成分PC1は、その絶対値の最大値で割ることで-1.0~1.0の範囲の値として標準化される。下段のように、多数のデータ点142は横軸方向に長い領域140に分布する。すなわち、第1主成分PC1は第1破線114で示す中央値0.0を挟んで-0.75~0.85の相対的に広い範囲に分布し、第2主成分PC2は第2破線116で示す中央値0.0を挟んで-0.1~0.1の相対的に狭い範囲に分布する。第1主成分がマイナス側(図の左方向)に大きくなるほどストライド型の傾向が強いことを示し、プラス側(図の右方向)に大きくなるほどピッチ型の傾向が強いことを示す。図の上段の棒グラフは、マイナス側、すなわちストライド型の走者の分布が-0.4~0.0の比較的狭い範囲に集中していることを示すとともに、プラス側、すなわちピッチ型の走者の分布が0.0~0.6の比較的広い範囲に分散していることを示す。
【0032】
図5に戻り、判定部80は、モデル記憶部82、得点算出部83、判定処理部84を含む。モデル記憶部82は、主成分分析モデルを記憶する。主成分分析モデルは、主成分分析部77により算出された主成分負荷量と、平均値算出部78により算出されたステップ頻度変化の傾き平均値およびステップ長変化の傾き平均値に基づいて主成分得点を算出する数式の形で生成される。なお、主成分得点は、その絶対値の最大値で割ることで-1.0~1.0の範囲の値として標準化される。モデル記憶部82に記憶される主成分分析モデルの数式は次式に示される。
【0033】
【0034】
数式1は、新たに判定対象として取得されたステップ頻度変化の傾きSFSlopeとステップ長変化の傾きSLSlopeの行列に対して、あらかじめ主成分分析によって生成された主成分負荷量の回転行列を掛けて、ステップ頻度変化の傾きSFSlopeの平均値とステップ長変化の傾きSLSlopeの平均値の行列を引くと、第1主成分得点ScorePC1、第2主成分得点ScorePC2の行列が得られることを示す。得点算出部83は、モデル記憶部82に記憶される数式1の主成分分析モデルに基づいて、新たに得られたステップ頻度変化の傾きSFSlopeとステップ長変化の傾きSLSlopeから第1主成分得点ScorePC1、第2主成分得点ScorePC2を算出し得る。
【0035】
ここで、第1主成分PC1の寄与率は98.2%であり、第2主成分PC2の寄与率は1.8%である。このように、第1主成分PC1の寄与率が第2主成分PC2の寄与率より圧倒的に高く、第1主成分PC1のみでステップ頻度変化の傾きとステップ長変化の傾きの関係性のタイプ、すなわち走者がどの走者型に属するかを説明できることが分かる。
【0036】
図7は、主成分分析により求められる第1主成分の分布を示す。図の下段は、多数の走者のデータ群に基づく主成分分析で求められた第1主成分PC1を横軸にとった散布図である。この散布図では、第2主成分PC2を縦軸にとって二次元的な分布を示した
図6の散布図と異なり、横軸方向の一次元的な分布のみをプロットしている。図示する通り、第1主成分PC1の分布だけで、上段の棒グラフに示すような分散が表れており、第1主成分PC1のみで、マイナス側(図の左方向)に大きくなるほどストライド型の傾向が強いことを示し、プラス側(図の右方向)に大きくなるほどピッチ型の傾向が強いことが示される。
【0037】
このように、第1主成分PC1のみで走者型を十分判定し得ることから、
図7のように次元圧縮し、得点算出部83は第2主成分得点Score
PC2の算出を要せず、第1主成分得点Score
PC1のみを算出し、判定処理部84が第1主成分得点Score
PC1のみに基づいて走者型を判定してよい。あるいは、得点算出部83が第1主成分得点Score
PC1と第2主成分得点Score
PC2を算出した上で、判定処理部84が第1主成分得点Score
PC1のみに基づいて走者型を判定してもよい。後述するように、第1主成分得点範囲の平均値0.0(第1破線114で示す)を基準値とし、第1主成分得点Score
PC1が0.0以上である場合にピッチ型と判定し、第1主成分得点Score
PC1が0.0以下である場合にストライド型と判定する。
【0038】
図5に戻り、新たに判定対象として取得した被検者のデータに基づいてその被検者の走者型を判定する処理を説明する。ステップ頻度取得部74は、被検者の走行に関し、データ蓄積部72に保存された被検者の走行ログから複数の走速度におけるステップ頻度のデータを取得する。ステップ頻度取得部74は、ステップ頻度を目的変数とし、走速度を説明変数とする回帰分析により回帰式を求め、その回帰式に基づいてステップ頻度変化の傾きを算出する。ステップ頻度取得部74は、走速度とステップ頻度の関係を示すデータとして少なくとも2点のデータを回帰分析するが、分析するデータが多いほど回帰式の誤差が減って精度が高まるため、3点以上のデータを分析することが望ましい。
【0039】
ステップ長取得部75は、被検者の走行に関し、データ蓄積部72に保存された被検者の走行ログから複数の走速度におけるステップ長のデータを取得する。走行ログにステップ長のデータが含まれない場合は、走行距離をステップ頻度で割ってステップ長を算出する。ステップ長取得部75は、ステップ長を目的変数とし、走速度を説明変数とする回帰分析により回帰式を求め、その回帰式に基づいてステップ長変化の傾きを算出する。ステップ長取得部75は、走速度とステップ長の関係を示すデータとして少なくとも2点のデータを回帰分析するが、分析するデータが多いほど回帰式の誤差が減って精度が高まるため、3点以上のデータを分析することが望ましい。
【0040】
判定部80は、モデル記憶部82に記憶される主成分分析モデルに基づいて、被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する。本実施形態では、走法型をピッチ型とストライド型の2通りに分けていずれに該当するかを判定する。より具体的には、得点算出部83が主成分分析モデルに基づいて被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出する。また、判定処理部84が主成分得点に基づいて被検者の走行がストライド型およびピッチ型のいずれに該当するかを判定する。
【0041】
判定処理部84は得点範囲の平均値を基準とし、被検者の主成分得点と平均値との比較によって被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する。得点算出部83は、モデル記憶部82に記憶される主成分分析モデルにより主成分得点として算出し得る得点範囲の平均値を、ピッチ型とストライド型とを判別する基準値として設定する。得点範囲の平均値は、例えば
図7の第1破線114で示される0.0である。判定処理部84は、被検者の第1主成分得点Score
PC1が0.0以上である場合にピッチ型に該当すると判定し、被検者の第1主成分得点Score
PC1が0.0以下である場合にストライド型に該当すると判定する。判定処理部84は、被検者の第1主成分得点Score
PC1が0.0と同値であった場合、ピッチ型およびストライド型の双方に該当すると判定してもよい。
【0042】
このように、被検者の走行におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きさえ取得できれば、被検者がピッチ型およびストライド型のいずれであるかを簡便かつ精度よく判定することができる。また、あらかじめ多数の走者の走行ログから主成分分析によって得られる主成分負荷量(例えば、2×2の行列の値)および平均値さえ記憶しておけば、数式1に示される簡単な計算だけでピッチ型およびストライド型のいずれに該当するかを客観的に判定でき、しかも処理負荷が軽い。その意味では、走法分析サーバ20によって算出するまでもなく、ユーザ端末10やウェアラブルデバイス16においてピッチ型およびストライド型のいずれに該当するかを計算することも十分可能である。
【0043】
また、主成分分析に基づいて主成分得点のような数値の分布や相対値を基準として走法型を判定する手法の場合、ステップ頻度やステップ長の測定値そのものが所定の基準値を超えるか否かで判定するといった手法と異なり、絶対値としての基準値をあらかじめ用意する必要がない。したがって、例えばマラソンの完走タイムが3時間以内程度のレースペースといったステップ頻度やステップ長の特性が顕著に表れる高速な走速度に限定しなければ絶対値としての客観的な基準値を設けられないといった事情もなく、幅広い走速度の走者または測定値に対応して走法型を判定することができる。
【0044】
出力部90は、結果出力部92、推薦出力部94、データ送信部96を含む。結果出力部92は、データ送信部96を介して判定部80による判定の結果をユーザ端末10へ出力する。すなわち、結果出力部92は、被検者の走法がピッチ型およびストライド型のいずれに該当するかの判定結果をユーザ端末10へ送信することにより、ユーザ端末10の画面に判定結果を表示させる。
【0045】
推薦出力部94は、判定処理部84による判定の結果に基づいて、ピッチ型の走者に適したシューズと、ストライド型の走者に適したシューズと、を含む複数のシューズから少なくともいずれかを推薦シューズとして判定する。推薦出力部94は、推薦するシューズを紹介する情報を生成し、出力する。このように、被検者の走行におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きさえ取得できれば、ピッチ型の走者に適したシューズとストライド型の走者に適したシューズのいずれを推薦すべきかを簡便かつ精度よく判定することができる。
【0046】
図8は、走法分析サーバにおける基本的な処理を示すフローチャートである。データ受信部70が被検者の走行ログを取得し(S10)、ステップ頻度取得部74が被検者の走行ログから複数の走速度におけるステップ頻度変化の傾きを取得し(S12)、ステップ長取得部75が被検者の走行ログから複数の走速度におけるステップ長変化の傾きを取得し(S14)、得点算出部83が主成分分析モデルに基づいて被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出する(S16)。判定処理部84は、被検者の主成分得点と平均値との比較によって被検者の走行がストライド型およびピッチ型のいずれに該当するかを判定し(S18)、推薦出力部94がピッチ型の走者に適したシューズと、ストライド型の走者に適したシューズと、を含む複数のシューズからいずれを推薦するかを判定する(S20)。結果出力部92は、判定処理部84による判定結果をユーザ端末10へ出力し(S22)、推薦出力部94はシューズの推薦情報を生成し(S24)、ユーザ端末10へ出力する(S26)。
【0047】
(第2実施形態)
本実施形態においては、ピッチ型の走者、ストライド型の走者、およびこれらの中間に相当する中間型の走者の3通りの走者型に分類し、3通りの走者型およびシューズのいずれに該当するかを判定する点で、ピッチ型およびストライド型の2通りの走者型およびシューズのいずれに該当するかを判定する第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については説明を省略する。
【0048】
ピッチ型とストライド型とこれらの中間に相当する中間型の3通りの走法型のうちいずれに該当するかを、例えば以下のように判定する。すなわち、判定処理部84は被検者の主成分得点が平均値より高い所定の第1の基準範囲である場合にピッチ型に該当すると判定し、主成分得点が平均値より低い所定の第2の基準範囲である場合にストライド型に該当すると判定し、主成分得点が第1の基準範囲より低く第2の基準範囲より高い所定の第3の基準範囲である場合に中間型に該当すると判定する。
【0049】
図9は、主成分分析により求められる第1主成分の分布と走法型の範囲との関係を示す。本実施形態においては、複数のガウス分布を混合させた混合ガウスモデルによる密度推定を利用する。すなわち、主成分得点の分布が、ピッチ型、ストライド型、これらの中間型の3つのガウス分布が混合すると仮定し、被検者の主成分得点が3つのガウス分布のうちいずれの1つ以上のガウス分布に該当するかに応じて、いずれの走法型に該当するかを判定し、いずれのシューズを推薦するかを決定する。混合ガウスモデルの初期条件は、3つの走法型に分類することを前提に、例えば第1のガウス分布の頂点を
図7におけるストライド型(マイナス側)に該当する主成分得点の平均値とし、第2のガウス分布の頂点を主成分得点全体の平均値(例えば0.0)とし、第3のガウス分布の頂点を
図7におけるピッチ型(プラス側)に該当する主成分得点の平均値とする。各ガウス分布は、分散が1.0の標準偏差とする。以上の初期条件をもとに密度推定をした結果、第3破線118で示す値を頂点とするストライド型ガウス分布120、第1破線114で示す値を頂点とする中間型ガウス分布122、第4破線119で示す値を頂点とするピッチ型ガウス分布124が得られる。
【0050】
ここで、走法型の分類方法としては、3つの走法型の範囲が互いに重ならないように設定される場合と、3つの走法型の範囲が互いに重なるように設定される場合とが考えられる。3つの走法型の範囲が互いに重ならない設定の場合、図示するように第3破線118で示す値以下である第1範囲130をストライド型とし、第3破線118から第4破線119までの値範囲である第2範囲131を中間型とし、第4破線119で示す値以上である第3範囲132をピッチ型として設定する。
【0051】
3つの走法型の範囲が互いに重なる設定の場合、図示するように第1破線114で示す値以下である第4範囲133をストライド型とし、第3破線118から第4破線119までの値範囲である第2範囲131を中間型とし、第1破線114で示す値以上である第5範囲134をピッチ型として設定する。この場合、主成分得点が第3破線118から第1破線114までの値範囲に含まれるときは、判定処理部84はストライド型と中間型の両方に該当すると判定してもよいし、ストライド型寄りの中間型と判定してもよい。主成分得点が第1破線114から第4破線119までの値範囲に含まれるときは、判定処理部84はピッチ型と中間型の両方に該当すると判定してもよいし、ピッチ型寄りの中間型と判定してもよい。ストライド型寄りの中間型やピッチ型寄りの中間型を区別して判定する場合、全体としてはストライド型およびピッチ型を含めて実質的に4通りの走法型に分類することとなってもよい。
【0052】
推薦出力部94は、判定処理部84による走法型の判定結果にしたがい、ピッチ型の走者に適したシューズと、ストライド型の走者に適したシューズと、ピッチ型およびストライド型の双方の走者に適した中間型のシューズと、を含む複数のシューズから一つ以上のシューズを推薦するシューズとして判定する。ただし、上述したように3つの走法型の範囲が互いに重ならない設定の場合、推薦出力部94はピッチ型に適したシューズ、ストライド型に適したシューズ、中間型に適したシューズの3通りに分類して複数のシューズを記憶する。
【0053】
一方、3つの走法型の範囲が互いに重なる設定の場合、推薦出力部94はピッチ型に適したシューズとストライド型に適したシューズの2通りに分類した上で、ピッチ型と判定された場合はピッチ型のシューズを推薦し、ストライド型と判定された場合はストライド型のシューズを推薦し、中間型と判定された場合はピッチ型とストライド型の両方を推薦するようにしてもよい。あるいは、ピッチ型のシューズ、ストライド型のシューズ、中間型のシューズの3通りに分類した上で、ピッチ型と判定された場合はピッチ型のシューズを推薦し、ストライド型と判定された場合はストライド型のシューズを推薦し、ピッチ型と中間型の両方に該当すると判定された場合はピッチ型のシューズと中間型のシューズの両方を推薦し、ストライド型と中間型の両方に該当すると判定された場合はストライド型のシューズと中間型のシューズの両方を推薦するようにしてもよい。
【0054】
なお、走法型の分類方法とシューズの分類方法は必ずしも一致していなくてもよく、例えば、走法型としてはピッチ型とストライド型の2通りで分類していずれの走法型に該当するかを判定する一方、シューズはピッチ型とストライド型と中間型の3通りに分類していずれのシューズ分類に該当するかを判定するようにしてもよい。また、
図9に示す例では混合ガウスモデルによる密度推定を利用して複数のガウス分布を推定し、主成分得点がいずれのガウス分布に該当するかによって走法型とシューズの推薦を判定する手法を説明したが、各走法型をどのような主成分得点の範囲に設定するかは様々なシューズ設計思想に基づくものであり、必ずしも統計的な手法のみで設定されるべきものでもなく、統計的な手法により得られた数値範囲(例えば
図9に示すような各ガウス分布)をもとに、その範囲を微調整することで、より適切な範囲を各走法型の範囲としてもよい。
【0055】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を説明する。
【0056】
上記の実施形態においては、ユーザ端末10と走法分析サーバ20を含む走法分析システム30の形で走行分析をする例を説明した。変形例においては、走法分析のための各機能を、走法分析サーバ20上で実行させる形ではなく、ユーザが直接操作するスマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータ等のデバイス上で実行させる形で実現してもよい。
【0057】
また、上述した実施形態を一般化すると以下の態様が得られる。
【0058】
〔態様1〕
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得するステップ頻度取得部と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得するステップ長取得部と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出し、算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する判定部と、
前記判定の結果を出力する結果出力部と、
を備えることを特徴とする走法分析装置。
【0059】
〔態様2〕
前記判定部は、複数の走者の測定値における走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きのデータ群をあらかじめ主成分分析して得られた主成分負荷量に基づく主成分得点の算出式を前記主成分分析モデルとして記憶することを特徴とする態様1に記載の走法分析装置。
【0060】
〔態様3〕
前記判定部は、複数の走者の測定値における走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きのそれぞれの平均をあらかじめ記憶するとともに、前記ステップ頻度取得部および前記ステップ長取得部が取得するデータに前記主成分負荷量を掛け合わせて前記平均との差分を求めることにより前記主成分得点を算出する算出式を前記主成分分析モデルとして記憶することを特徴とする態様2に記載の走法分析装置。
【0061】
〔態様4〕
前記判定部は、前記主成分分析モデルにより主成分得点として算出し得る得点範囲の平均値を基準とし、算出した前記主成分得点と前記平均値との比較によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定することを特徴とする態様1から3のいずれかに記載の走法分析装置。
【0062】
〔態様5〕
前記判定部は、前記主成分得点が前記平均値以上である場合にピッチ型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記平均値以下である場合にストライド型に該当すると判定することを特徴とする態様4に記載の走法分析装置。
【0063】
〔態様6〕
前記判定部は、前記主成分得点が前記平均値より高い所定の第1の基準範囲である場合にピッチ型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記平均値より低い所定の第2の基準範囲である場合にストライド型に該当すると判定し、前記主成分得点が前記第1の基準範囲より低く前記第2の基準範囲より高い所定の第3の基準範囲である場合に中間型に該当すると判定することを特徴とする態様4に記載の走法分析装置。
【0064】
〔態様7〕
前記判定の結果に基づいて、ピッチ型の走者に適した靴と、ストライド型の走者に適した靴と、を含む複数の靴から少なくともいずれかを推薦する情報を出力する推薦出力部をさらに備えることを特徴とする態様1から6のいずれかに記載の走法分析装置。
【0065】
〔態様8〕
ピッチ型の走者に適した靴と、ストライド型の走者に適した靴と、ピッチ型およびストライド型の双方の走者に適した靴と、を含む複数の靴との対応で、それぞれの前記主成分得点を頂点とする複数のガウス分布を混合させた混合ガウスモデルに基づき、算出された前記主成分得点がいずれの一つ以上のガウス分布に属するかに応じて前記複数の靴から一つ以上の靴を推薦する情報を出力する推薦出力部をさらに備えることを特徴とする態様1から7のいずれかに記載の走法分析装置。
【0066】
〔態様9〕
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得する過程と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得する過程と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出する過程と、
算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する過程と、
前記判定の結果を出力する過程と、
を備えることを特徴とする走法分析方法。
【0067】
〔態様10〕
被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ頻度変化の傾きを取得する機能と、
前記被検者の走行に関し、走速度の変化に対するステップ長変化の傾きを取得する機能と、
複数の走者の測定値に基づいてあらかじめ生成された主成分分析モデルに基づき、前記被検者におけるステップ頻度変化の傾きおよびステップ長変化の傾きから主成分得点を算出し、算出した主成分得点によって前記被検者の走行がストライド型およびピッチ型を含む複数の走法型のうちいずれに該当するかを判定する機能と、
前記判定の結果を出力する機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする走法分析プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明は、マラソン走者の走法を分析する技術に関する。
【符号の説明】
【0069】
10 ユーザ端末、 16 ウェアラブルデバイス、 20 走法分析サーバ、 30 走法分析システム、 74 ステップ頻度取得部、 75 ステップ長取得部、 76 データ分析部、 77 主成分分析部、 78 平均値算出部、 80 判定部、 82 モデル記憶部、 83 得点算出部、 84 判定処理部、 90 出力部、 92 結果出力部、 94 推薦出力部。