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特許7567118ダムとその天端道路の高欄姿勢変更システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ダムとその天端道路の高欄姿勢変更システム
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/00 20060101AFI20241008BHJP
   E01D 19/10 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
E01D19/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021036225
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136553
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大熊 潔
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝識
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-285696(JP,A)
【文献】特開2013-249617(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108560500(CN,A)
【文献】特開平01-260181(JP,A)
【文献】特開2005-299121(JP,A)
【文献】特表平07-504006(JP,A)
【文献】特開昭55-155803(JP,A)
【文献】特開2008-069558(JP,A)
【文献】特開2001-200512(JP,A)
【文献】米国特許第05882144(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110273399(CN,A)
【文献】特開平07-197435(JP,A)
【文献】特開2022-124761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00
E01D 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの堤体の頂部に延設する天端道路と、前記天端道路の上下流方向の両端部に常時において所定の高さで立設する高欄とを有し、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記両端部にある前記高欄の少なくとも一方が、
越水時において、手動により、もしくは自動制御により、もしくは越水の波圧により、前記リンクの高さが低くなるように変位自在に前記天端道路に取り付けられ、
越水後において、前記所定の高さに変位して立設自在であることを特徴とする、ダム。
【請求項2】
記リンクが、前記上下流方向に回動することにより、前記高欄が前記天端道路の上に折り畳まれることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項3】
記リンクが、越水によって前記上下流方向に回動することにより、前記高欄が前記越水の方向に折り畳まれることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項4】
記リンクが、前記ダム軸方向に回動することにより、前記高欄が前記ダム軸方向に折り畳まれることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項5】
本の前記リンクがパンタグラフを形成し、複数の前記パンタグラフが前記ダム軸方向に折り畳まれることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項6】
本の前記リンクが回動軸を中心にX状に組み付けられたX状体を形成し、複数の前記X状体が前記ダム軸方向へ折り畳まれることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項7】
記リンクが下方へ降下することにより、前記手摺りが前記天端道路の路面に当接もしくは近接することを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項8】
記リンクが下方へ短縮することにより、前記手摺りが前記天端道路の路面に当接もしくは近接することを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項9】
高さが低くなるように変位した状態の前記高欄における前記上下流方向の両側もしくは外側において、前記高欄の少なくとも手摺りを越水から目隠しする防護材が立設していることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか一項に記載のダム。
【請求項10】
記リンクが下方へ降下することにより、前記天端道路に設けられている収容溝に前記高欄が完全に収容されることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項11】
記リンクが下方へ短縮することにより、前記天端道路に設けられている収容溝に前記高欄が完全に収容されることを特徴とする、請求項に記載のダム。
【請求項12】
前記リンクを回動もしくは変位させるアクチュエータをさらに備え、
前記自動制御は、前記アクチュエータによ前記高欄自動変位制御であることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のダム。
【請求項13】
請求項12に記載のダムと、
ユーザ端末と、を有し、
前記アクチュエータは、第一通信部と、アクチュエータ駆動部とを備え、
前記ユーザ端末は、前記第一通信部に無線通信自在な第二通信部と、前記アクチュエータ駆動部の駆動制御を実行する駆動制御部とを備えていることを特徴とする、ダムの天端道路の高欄姿勢変更システム。
【請求項14】
前記ユーザ端末は、前記ダムの上流側の水位モニタリング情報を取得する、情報取得部をさらに備えていることを特徴とする、請求項13に記載のダムの天端道路の高欄姿勢変更システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムとその天端道路の高欄姿勢変更システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートダムやフィルダム等のダムの天端には、ダムの堤体やその周辺の貯水池等を管理することを目的の一つとした天端道路が設けられることがあり、天端道路の両端部には、通行人や車両等の安全性を担保するために、そのダム軸方向(上流と下流を横断するダム軸(ダムの構造設計上の仮想線)に沿う方向)に延設する高欄が設けられているのが一般的である。
【0003】
越流方式のダムにおいては、ダムの上流側にある貯水池の水嵩が増した際に、天端道路を越水して下流側へ放流されることになるが、この越水時に天端道路から立設する高欄の破損が問題となる。越水方式のダム以外には、例えば放水口がゲート式のダムにおいても、越水時における天端道路の高欄の破損の問題は同様に存在する。
【0004】
天端道路の上方を上流側から下流側へ越水する越水方向(例えば水平方向)に対して交差する(例えば直交する)ように立設している高欄は、天端道路から上方に延設する片持ち構造であることから、越水時の波圧や越水に含まれる漂流物の衝突により、天端道路と接続される脚元部(根元部)に曲げやせん断が生じ易く、これらの断面力に起因する破損が上記する高欄の破損の主要因の一つである。
【0005】
ここで、特許文献1には、道路橋と越流頂の機能を有するダムの自由越流堤が提案されている。この自由越流堤は、頂上部に設けられた所定の道路幅をもった路床と、高欄として機能する上流側高欄及び下流側高欄とを有し、上流側高欄は、上部が断面視で湾曲した曲線に形成されて堤体上流面に連続するとともに、路床側の面が鉛直又は鉛直に近い平面に形成されている。一方、下流側高欄は、路床側の面及びその反対面が鉛直又は鉛直に近い平面に形成され、路床側の面と反対面が断面視で水平面を有する湾曲した曲線で接続されており、反対面の下端から堤体下流面が斜め下向きに連接して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-285696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の自由越流堤によれば、必要な越流量を確保しながら、従来越流堤に用いられていた橋梁形式の天端道路を省略することができるとしている。しかしながら、ダムの天端道路から立設している高欄が、越水時の波圧や越水に含まれる漂流物の衝突により破損する課題を解消するものではない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ダムの天端道路から立設している高欄が、越水時の波圧や越水に含まれる漂流物の衝突により破損することを抑制できる、ダムとその天端道路の高欄姿勢変更システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるダムの一態様は、
ダムの堤体の頂部に延設する天端道路と、前記天端道路の上下流方向の両端部に立設する高欄とを有し、
前記両端部にある前記高欄の少なくとも一方が、高さが低くなるように変位自在に前記天端道路に取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、高欄が高さが低くなるように変位自在に天端道路に取り付けられていることにより、高さが低くなるように変位した高欄は、天端道路から上方に延設する片持ち構造が解消もしくは緩和される(高欄の高さが低くなることにより解消もしくは緩和される)ため、越水時の波圧が高欄に作用した場合でも高欄の脚元部に過大な曲げやせん断は発生せず、これらの過大な断面力に起因する破損を抑制することができる。また、高欄の高さが低くなるように変位することにより、越水に漂流物が含まれる場合であっても、高欄に対する漂流物の衝突を抑制できる。
【0011】
ここで、「上下流方向」とは、ダムの上流から下流(もしくは下流から上流)へ向かう方向を意味している。また、「高さが低くなるように変位自在」とは、高欄の構成部材が折り畳まれること、高欄が降下すること、高欄の構成部材が短縮すること等を含んでいる。また、「両端部にある高欄の少なくとも一方が変位自在」とは、両端部にある高欄が変位自在である形態、上流側にある高欄のみが変位自在である形態、下流側にある高欄のみが変位自在である形態を含んでいる。
【0012】
また、高欄の脚元部と天端道路との接続構造は特に限定されるものでないが、例えば、高欄の構成部材が折り畳まれる形態では、高欄が折り畳み自在となるように回動部を介して天端道路と接続され、常時(貯水池の水の非越水時)においてはストッパーにより回動不可とされることで高欄が立設姿勢を保持し、越水時には、手動もしくは自動にてストッパーが解除されることにより、高欄が折り畳まれるように構成することができる。
【0013】
また、本発明によるダムの他の態様は、
前記両端部にある前記高欄のうち、前記ダムの備える貯水池がある上流側の前記高欄は前記天端道路に対して変位せず、
前記両端部にある前記高欄のうち、前記ダムの下流側の前記高欄が変位自在に前記天端道路に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、両端部にある高欄のうち、ダムの備える貯水池がある上流側の高欄が天端道路に対して変位しないことにより、貯水池のほぼ静止した流れを円滑に天端道路に導入し、下流側へ流すことができる。加えて、下流側の高欄が変位自在に天端道路に取り付けられていることにより、天端道路に導入された上流側の水に含まれる漂流物が下流側の高欄に衝突することを抑制できる。
【0015】
また、本発明によるダムの他の態様は、
前記両端部にある前記高欄のうち、前記ダムの下流側の前記高欄は前記天端道路に対して変位せず、
前記両端部にある前記高欄のうち、前記ダムの備える貯水池がある上流側の前記高欄が変位自在に前記天端道路に取り付けられていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、ダムの備える貯水池がある上流側の高欄が変位自在に天端道路に取り付けられていることにより、越水時の波圧による上流側の高欄の破損を抑制でき、さらに、ダムの下流側の高欄が天端道路に対して変位しないことにより、天端道路から下流側へ流下する直前の水流を減勢することができる。より詳細には、上流側の高欄を高さが低くなるように変位させることにより、天端道路に導入された越水を下流側の高欄を超える過程で効果的に減勢させることができる。堤体の下流側に減勢工を備えることは一般的であるが、天端道路の高欄を減勢工に適用することは、従来には無い新規な技術思想である。
【0017】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが、前記上下流方向に回動することにより、前記高欄が前記天端道路の上に折り畳まれることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、高欄が天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと手摺りを支持する複数のリンクとを備え、リンクが上下流方向に回動して高欄が天端道路の上に折り畳まれることにより、折り畳まれた高欄が天端道路の上に載置されることで折り畳み姿勢の高欄を天端道路にて安定的に支持しながら、越水の波圧や越水に含まれる漂流物による高欄の破損を抑制することができる。
【0019】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが、越水によって前記上下流方向に回動することにより、前記高欄が前記越水の方向に折り畳まれることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、高欄が天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと手摺りを支持する複数のリンクとを備え、リンクが越水によって上下流方向に回動して高欄が越水の方向に折り畳まれることにより、高欄が越水の波圧に抵抗することなく折り畳まれることから、波圧による高欄の破損を抑制することができる。
【0021】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが、前記ダム軸方向に回動することにより、前記高欄が前記ダム軸方向に折り畳まれることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、高欄が天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと手摺りを支持する複数のリンクとを備え、リンクがダム軸方向に回動して高欄がダム軸方向に折り畳まれることにより、折り畳み姿勢の高欄を天端道路にて安定的に支持しながら、越水の波圧や漂流物による高欄の破損を抑制することができる。また、この形態では、折り畳まれた高欄が天端道路の中央側へ張り出さないことから、天端道路の中央の通行領域を確保することができ、原則的には越水時の天端道路の使用を停止しながらも、例えば緊急車両や緊急時の管理車両等の通行が可能になる。
【0023】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
四本の前記リンクがパンタグラフを形成し、複数の前記パンタグラフが前記ダム軸方向に折り畳まれることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、高欄が天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと手摺りを支持する複数のリンクとを備え、四本のリンクがパンタグラフを形成し、複数のパンタグラフがダム軸方向に折り畳まれることにより、高欄を鉛直下方へ折り畳んで(手摺りを鉛直下方へ降下させて)天端道路にて安定的に支持させながら、越水の波圧や漂流物による高欄の破損を抑制することができる。また、この形態でも、折り畳まれた高欄が天端道路の中央側へ張り出さないことから、原則的には越水時の天端道路の使用を停止しながらも、例えば緊急車両や緊急時の管理車両等の通行が可能になる。
【0025】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
二本の前記リンクが回動軸を中心にX状に組み付けられたX状体を形成し、複数の前記X状体が前記ダム軸方向へ折り畳まれることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、高欄が天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと手摺りを支持する複数のリンクとを備え、二本のリンクが回動軸を中心にX状に組み付けられたX状体を形成し、複数のX状体がダム軸方向へ折り畳まれることにより、高欄を鉛直下方へ折り畳んで(手摺りを鉛直下方へ降下させて)天端道路にて安定的に支持させながら、越水の波圧や漂流物による高欄の破損を抑制することができる。また、この形態でも、折り畳まれた高欄が天端道路の中央側へ張り出さないことから、原則的には越水時の天端道路の使用を停止しながらも、例えば緊急車両や緊急時の管理車両等の通行が可能になる。
【0027】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが下方へ降下することにより、前記手摺りが前記天端道路の路面に当接もしくは近接することを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、リンクが下方へ降下して手摺りが天端道路の路面に当接もしくは近接することにより、高欄の高さが可及的に短くなることで越水の波圧や漂流物による高欄の破損を抑制することができる。例えば、各リンクの脚元部が天端道路に開設されている落とし込み孔に挿通されており、常時においてはストッパーによりリンクが天端道路に固定され、越水時にはストッパーが解除されることにより、各リンクが対応する落とし込み孔を介して下方へ落とし込まれ、リンクが落とし込まれることにより手摺りが天端道路の路面に当接もしくは近接するような形態が挙げられる。
【0029】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが下方へ短縮することにより、前記手摺りが前記天端道路の路面に当接もしくは近接することを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、リンクが下方へ伸縮して手摺りが天端道路の路面に当接もしくは近接することにより、高欄の高さが可及的に短くなることで越水の波圧や漂流物による高欄の破損を抑制することができる。例えば、各リンクが二重管等の多重管により構成され、越水時には内管が外管の内部に収容されることにより、リンクの長さ(高さ)が短縮されるように構成することができる。また、各リンクがシリンダ機構により構成され、越水時にロッドがシリンダ内に収容されることにより、リンクの長さ(高さ)が短縮されるように構成することができる。
【0031】
また、本発明によるダムの他の態様は、
高さが低くなるように変位した状態の前記高欄における前記上下流方向の両側もしくは外側において、前記高欄の少なくとも手摺りを越水から目隠しする防護材が立設していることを特徴とする。
【0032】
本態様によれば、高さが低くなるように変位した状態の高欄における上下流方向の両側もしくは外側に、高欄の少なくとも手摺りを越水から目隠しする防護材が立設していることにより、変位姿勢の高欄を越水から防護することができ、高欄の高さが低くなるように変位することと相俟って、越水の波圧や漂流物による高欄の破損抑制効果をより一層高めることができる。
【0033】
ここで、「高欄の少なくとも手摺りを越水から目隠しする」とは、高さが低くなるように変位した高欄のうち、手摺りのみを越水から目隠しする形態、手摺りとリンクの一部を越水から目隠しする形態、手摺りとリンクの全体を越水から目隠しする形態を含む意味である。例えば天端道路のダム軸方向に延設する壁状の防護材により、変位姿勢の高欄の一部もしくは全部が目隠しされる。
【0034】
また、「上下流方向の両側もしくは外側に防護材が立設している」とは、天端道路の上下流方向の両端部にあるそれぞれの高欄の外側にのみ防護材が立設している形態、それぞれの高欄の左右両側に各高欄を包囲するように二列の防護材が立設している形態を含んでいる。また、高欄の外側にのみ防護材が立設している形態では、高欄の内側において、天端道路の路面が防護材と同程度の高さに嵩上げされていてもよく、この形態では、外側の防護材と内側の路面嵩上げ部により高欄の左右両側が包囲されることになる。
【0035】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが下方へ降下することにより、前記天端道路に設けられている収容溝に前記高欄が完全に収容されることを特徴とする。
【0036】
本態様によれば、リンクが下方へ降下することによって天端道路に設けられている収容溝に高欄が完全に収容されることにより、降下した高欄を越水から完全に防護することができ、越水の波圧や漂流物による高欄の破損抑制効果をより一層高めることができる。
【0037】
また、本発明によるダムの他の態様において、
前記高欄は、前記天端道路のダム軸方向に延設する手摺りと、前記手摺りを支持する複数のリンクとを備え、
前記リンクが下方へ短縮することにより、前記天端道路に設けられている収容溝に前記高欄が完全に収容されることを特徴とする。
【0038】
本態様によれば、リンクが下方へ短縮することによって天端道路に設けられている収容溝に高欄が完全に収容されることにより、短縮した高欄を越水から完全に防護することができ、越水の波圧や漂流物による高欄の破損抑制効果をより一層高めることができる。
【0039】
また、本発明によるダムの他の態様は、
前記リンクを回動もしくは変位させるアクチュエータをさらに備え、
前記アクチュエータにより、前記高欄を自動変位制御することを特徴とする。
【0040】
本態様によれば、リンクを変位(回動、降下、短縮)させるアクチュエータが高欄を自動変位制御することにより、越水時における高欄の高さを低くする姿勢変更を可及的短時間に行うことができる。ここで、アクチュエータには、電動機、サーボモータやリニアモータを含むモータ、油圧シリンダや空圧シリンダ、水圧シリンダ、電動シリンダ等、様々な形態が含まれる。
【0041】
また、本発明によるダムの天端道路の高欄姿勢変更システムの一態様は、
前記ダムと、
ユーザ端末と、を有し、
前記アクチュエータは、第一通信部と、アクチュエータ駆動部とを備え、
前記ユーザ端末は、前記第一通信部に無線通信自在な第二通信部と、前記アクチュエータ駆動部の駆動制御を実行する駆動制御部とを備えていることを特徴とする。
【0042】
本態様によれば、ダムが、高欄を自動変位制御するアクチュエータを備え、ユーザ端末からアクチュエータに対して無線通信にてアクチュエータの駆動制御を実行することにより、例えば遠隔にある管理棟から、ダムの備える高欄を速やかに変位制御して、高欄の高さを低くする姿勢変更を実行することが可能になる。
【0043】
また、本発明によるダムの天端道路の高欄姿勢変更システムの他の態様において、
前記ユーザ端末は、前記ダムの上流側の水位モニタリング情報を取得する、情報取得部をさらに備えていることを特徴とする。
【0044】
本態様によれば、ユーザ端末が、ダムの上流側の水位モニタリング情報を取得する情報取得部をさらに備えていることにより、ダムの越水前において、高欄の高さを低くする姿勢変更を確実に実行することができる。
【発明の効果】
【0045】
以上の説明から理解できるように、本発明のダムとその天端道路の高欄姿勢変更システムによれば、ダムの天端道路から立設している高欄が、越水時の波圧や越水に含まれる漂流物の衝突により破損することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】第1実施形態に係るダムの斜視図であって、常時の高欄の状態を示す図である。
図2】第1実施形態に係るダムの一例の斜視図であって、越水時の高欄の状態を示す図である。
図3】第2実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図4】第3実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図5】第4実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図6】第5実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図7】第6実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図8】第7実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図9】第8実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図10】第9実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
図11】実施形態に係る高欄姿勢変更システムの一例の全体構成を示すとともに、高欄を姿勢変更するアクチュエータとユーザ端末の機能構成の一例を示す図である。
図12】ユーザ端末のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、各実施形態に係るダムとその天端道路の高欄姿勢変更システムの一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0048】
[第1実施形態に係るダム]
はじめに、図1及び図2を参照して、第1実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図1図2はそれぞれ、第1実施形態に係るダムの天端道路の斜視図であって、常時の高欄の状態を示す図と、越水時の高欄の状態を示す図である。
【0049】
尚、以下で示す各実施形態に係るダムはコンクリートダムとして説明するが、コンクリートダム以外にも、フィルダムであってもよい。また、コンクリートダムには、重力ダムや中空重力ダム、アーチダム、バットレスダムが含まれ、フィルダムには、ロックフィルダムとアースダムが含まれる。いずれの形態のダムにおいても、各実施形態に係るダムは天端道路を有し、天端道路の両端部に高欄を備えている。また、各実施形態において、天端道路の両端部にある高欄の双方が変位自在な形態としている例においては、上流側と下流側の一方の高欄のみが変位自在であり、他方が変位しない形態であってもよい。
【0050】
図1に示すダム50は、堤体10の天端において、そのダム軸方向に延設する天端道路20を有するコンクリートダムであり、堤体10の上流側には貯水池60を備えている。そして、天端道路20の上下流方向の両端部21には、高欄30が立設している。
【0051】
図示例の堤体10は、上流面11が鉛直面をなし、下流面12が所定勾配の傾斜面をなしており、下流面12の下方には不図示の減勢工が設けられている。
【0052】
ダム50は、上流側にある貯水池60の水が天端道路20をY1方向へ越水し、下流側へ放流されることを許容しており、越水した水は堤体10の下流面12に沿って放流される。
【0053】
天端道路20の両端部21には、高欄30を形成するリンク31の途中位置まで立設する防護材15が設けられている。そして、防護材15の内側において、ダム軸方向に間隔をおいて回動部39が設けられ、それぞれの回動部39にリンク31の脚元部31aが取り付けられている。
【0054】
それぞれのリンク31の天端にはダム軸方向に延設する手摺り32が取り付けられており、手摺り32と複数のリンク31とにより、高さt1の高欄30が形成される。
【0055】
回動部39は、高欄30をX1方向に回動させて天端道路20の路面上へ折り畳む機能を有しており、折り畳みによって高欄30の高さを低くする(高欄30を変位させる)。図示例では、全ての回動部39ではなく、複数個(図示例は二個)飛ばしで複数の回動部39に対してモータ40(アクチュエータの一例)が取り付けられており、各モータ40は同期制御されるようになっている。
【0056】
越水時には、越水の波圧Pが高欄30に作用し、あるいは、越水に含まれる漂流物が高欄30に衝突することにより、ダム50を形成する高欄30が破損に至り得る。
【0057】
図1からも明らかなように、越水方向に対して直交する方向に立設している高欄30は、天端道路20から上方に延設する片持ち構造であることから、越水の波圧Pや漂流物の衝突によって天端道路20と接続されるリンク31の脚元部31aに曲げやせん断が生じ易く、これらの断面力が高欄30の破損の主要因の一つとなる。
【0058】
そこで、越水の前段階において、モータ40を駆動して高欄30をX1方向に回動させることにより、図2に示すように天端道路20の両端部21にある高欄30を天端道路20の中央部22側へ折り畳み、天端道路20の路面上に載置する(高欄30の姿勢変更)。
【0059】
図2に示すように高欄30を天端道路20の路面上へ折り畳むことにより、当初は天端道路20から上方へ高さt1で延設していた高欄30の片持ち構造が解消され、図1に示すように上下流方向からの越水の波圧Pが高欄30に作用することや、越水に含まれる漂流物が高欄30に衝突することが解消される。
【0060】
また、図2に示すように、高欄30が天端道路20の路面上に折り畳まれた姿勢において、高欄30の全体が防護材15により、外側の貯水池60等から目隠しされる。このことにより、越水等から高欄30を防護材15にて完全に防護することができ、高欄30の破損抑制効果がより一層高められる。尚、図示例では、天端道路20の両端部21に防護材15が設けられているが、上流側の端部21にのみ防護材15が設けられている形態であってもよい。
【0061】
ここで、図示例は、一部の回動部39にモータ40が装備されている形態であるが、全ての回動部39にモータ40が装備されていてもよいし、例えば、天端道路20のダム軸方向の両端の回動部39のみにモータ40が装備されていてもよい。さらに、モータ以外のアクチュエータにより回動部39が回動されてもよいし、アクチュエータによる自動制御ではなく、手動にて回動部39を介して高欄30が折り畳まれる形態であってもよい。手動にて姿勢変更する形態の高欄では、例えば、常時においてはストッパー(図示せず)にて回動部が回動不可に固定され、越水時においてはストッパーが解除されることにより、高欄が折り畳まれるように構成される。
【0062】
また、越水時においては、天端道路20を通行止めにした後、高欄30が天端道路20の路面上に折り畳まれるのが好ましい。
【0063】
[第2実施形態に係るダム]
次に、図3を参照して、第2実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図3は、第2実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0064】
図3に示すダム50Aは、天端道路20の両端部21にある高欄30Aが、貯水池60の水が上下流方向へY2方向に越水する際に、高欄30Aがこの越水方向に沿ってX2方向に回動しながら折り畳まれるようになっている形態である。
【0065】
ダム50Aは、上下流方向への越水の波圧により、高欄30Aが抵抗することなく越水方向に沿って回動することによって、高欄30Aの高さが当初のt1からt2へ低くなることでその片持ち構造が緩和される。
【0066】
高欄30Aは、回動部39を介して、上流側から下流側への越水に沿う方向(図3では、半時計回り)に回動するようになっており、従って、図1、2に示す高欄30のようにアクチュエータを備えていない(アクチュエータは不要である)。
【0067】
回動部39は、高欄30Aに越水時における所定の波圧が作用した際に回動する抵抗力(例えば、静止摩擦力)を備えており、この抵抗力以上の外圧が作用しない実線で示す常時においては、高欄30Aの立設姿勢が保持される。一方、越水時において抵抗力以上の波圧が高欄30Aに作用した際に回動部39が回動し、一点鎖線で示すように高欄30AがX2方向に折り畳まれるようになっている。
【0068】
高欄30Aでは、越水方向に高欄30Aが折り畳まれた際に、高欄30Aが急激に折り畳まれて破損することを抑制するべく、高欄30Aのリンク31の脚元部31aの上下流方向の左右位置に、ショックアブソーバー等(図示せず)が設けられているのが好ましい。
【0069】
[第3実施形態に係るダム]
次に、図4を参照して、第3実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図4は、第3実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0070】
図4に示すダム50Bは、リンク31の上下端に回動部39が設けられており、天端道路20の両端部21にある高欄30Bが、ダム軸方向へX3方向に回動することにより、両端部21にある双方の高欄30Bがダム軸方向に折り畳まれるようになっている形態である。
【0071】
一部の回動部39にモータ40が装備されており、モータ40の駆動によって高欄30Bが実線で示す常時の状態から、X3方向に回動して一点鎖線で示すように折り畳まれることによって、高欄30Bの高さが当初のt1からt3へ低くなり、その片持ち構造が緩和される。
【0072】
図示を省略するが、高さが低くなるように変位した状態の高欄30Bにおける上下流方向の外側もしくは両側には、高欄30Bを貯水池等から目隠しする防護材が立設しているのが好ましい。図1、2に示す高欄30と異なり、高欄30Bはダム軸方向に折り畳まれることから(天端道路20の中央側へ張り出さないことから)、高欄30Bの両側に防護材を配設することが可能になる。尚、高欄30Bの上下流方向の外側に防護材を設け、高欄30Bの内側にある天端道路20の通行面を防護材と同程度の高さに嵩上げしてもよく、この形態では、ダム軸方向に折り畳まれた高欄30Bが左右の防護材と天端道路により包囲されることになる。
【0073】
ダム50Bでは、折り畳まれた高欄30Bが天端道路20の中央側へ張り出さないことから、天端道路20の中央の通行領域を確保することができ、越水時において原則的には天端道路20の使用を停止しながらも、例えば緊急車両や緊急時の管理車両等の通行が可能になる。尚、以下で説明する第4実施形態、第5実施形態に係るダム等、高欄が天端道路の中央側へ張り出すことなく変位する形態では、ダム50Bと同様に緊急車両等の通行が可能になる。
【0074】
[第4実施形態に係るダム]
次に、図5を参照して、第4実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図5は、第4実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0075】
図5に示すダム50Cは、高欄30Cが、四本のリンク33aにより形成されるパンタグラフ33を複数備え、パンタグラフ33がダム軸方向に折り畳まれることにより、高欄30Cを形成する手摺り32が鉛直下方へ降下する形態である。
【0076】
パンタグラフ33は、天端道路20側にある下方の回動軸33bと手摺り32側にある上方の回動軸33cに対して、一対のリンク33aからなる上部リンク機構と下部リンク機構が回動自在に取り付けられ、上部リンク機構と下部リンク機構が別途の左右の回動軸33dに回動自在に取り付けられ、これら左右の回動軸33dに対してスクリューロッド33eが取り付けられており、スクリューロッド33eが回動操作されることにより、上部リンク機構と下部リンク機構が拡縮し得るように構成されている。
【0077】
スクリューロッド33eの一端にはモータ40が装備されており、モータ40の駆動によって上部リンク機構と下部リンク機構が側方へX4方向に広がり、実線で示す常時の状態から一点鎖線で示すように折り畳まれることにより、高欄30Cの高さが当初のt1からt4へX5方向に低くなり、その片持ち構造が緩和される。
【0078】
[第5実施形態に係るダム]
次に、図6を参照して、第5実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図6は、第5実施形態に係るダムの一例の側面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0079】
図6に示すダム50Dは、高欄30Dが、二本のリンク34aが回動軸34bを中心にX状に組み付けられた複数のX状体34を備え、X状体34がダム軸方向に折り畳まれることにより、高欄30Dを形成する手摺り32が鉛直下方へ降下する形態である。
【0080】
各リンク34aはその両端に車輪34cを備えている。また、天端道路20には、各リンク34aの一端にある車輪34cをダム軸方向へ移動自在に収容する案内レール34dが設けられており、同様に、手摺り32にも、各リンク34aの他端にある車輪34cをダム軸方向へ移動自在に収容する案内レール34eが設けられている。
【0081】
高欄30Dは、シリンダ40aとロッド40bとにより形成される油圧シリンダ40Aをアクチュエータとして備え、シリンダ40aが天端道路20に固定され、ロッド40bの一端が手摺り32に固定されている。
【0082】
実線で示す常時においては、ロッド40bが張り出した状態となっており、越水時に油圧シリンダ40Aを駆動してロッド40bの一部がシリンダ40aに収容されると、各リンク34aの端部の車輪34cは案内レール34d、34eの内部でダム軸方向へX6方向に移動し、X状体34が一点鎖線で示すように折り畳まれることになる。この折り畳みにより、高欄30Dの高さが当初のt1からt5へX7方向に低くなり、その片持ち構造が緩和される。尚、適用されるアクチュエータは、図示例の油圧シリンダの他にも、エアシリンダや電動シリンダ等の他種のシリンダ機構、ボールネジ(機構)等であってもよい。
【0083】
[第6実施形態に係るダム]
次に、図7を参照して、第6実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図7は、第6実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0084】
図7に示すダム50Eは、天端道路20の両端部21にあるそれぞれの高欄30Eが下方へ降下するように構成されており、高欄30Eの降下により、手摺り32(高欄30E)が天端道路20に設けられている収容溝24に完全に収容されるようになっている。
【0085】
収容溝24には落とし込み孔25が設けられている。そして、収容溝24には側方に伸びるストッパー孔26が開設されている。
【0086】
高欄30Eのリンク31の脚元部31aにもストッパー孔31bが設けられており、実線で示す常時においては、各ストッパー孔26,31bが連通して連通孔を形成し、収容溝24からストッパー35が連通孔に挿通されることにより、リンク31が天端道路20に固定され、高さt1の高欄30Eが形成される。
【0087】
越水時にはストッパー35が連通孔から抜き取られることにより、各リンク31が対応する落とし込み孔25を介して下方へX8方向に落とし込まれ、リンク31が落とし込まれることにより手摺り32が一点鎖線で示すように収容溝24に収容され、高欄30Eの片持ち構造が解消される。尚、図7からも明らかなように、収容溝24は、図1等で示す防護材15と同様に、高欄30Eの少なくとも手摺り32を防護する機能を有する。
【0088】
尚、図示を省略するが、高欄の手摺りが、収容溝24の幅よりも大きな幅の平板(例えば平鋼)や、収容溝24と同程度(若干狭幅)の幅で収容溝24の高さと同じ高さ(もしくは、同程度の高さ)の下方へ開放する溝形鋼等により形成されていてもよい。平板からなる手摺りが下方へ落とし込まれた際には、手摺りが収容溝24の上に載置されて天端道路20とほぼ連続する。また、溝形鋼からなる手摺りが下方へ落とし込まれた際には、溝形鋼が収容溝に完全に入り込み、溝形鋼のウエブの上面と天端道路20が連続する。このように、平板や溝形鋼が天端道路と連続する(もしくは、ほぼ連続する)ことにより、下方へ落とし込まれた手摺りの上を水が流れる際の、流体抵抗を軽減することが可能になる。
【0089】
[第7実施形態に係るダム]
次に、図8を参照して、第7実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図8は、第7実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0090】
図8に示すダム50Fは、図7に示すダム50Eと異なり、上流側の高欄30Fが変位せず、堤体10と同様にコンクリート体であり、下流側の高欄30Eのみが変位自在となっている。
【0091】
上流側の高欄30Fは、貯水池60側に臨む湾曲面30aを有し、天端道路20側の脚元にも湾曲面30bを有している。これらの湾曲面30a、30bにより、貯水池60からの越水を天端道路20へY3方向に滑らかに導入することができる。
【0092】
また、この越水時には、下流側の高欄30Eを降下させて収容溝24に収容しておき、天端道路20に導入された水を堤体10の下流側へ速やかに放流する。越水時に下流側の高欄30Eが降下していることで、下流側の高欄30Eの片持ち構造が解消され、越水による下流側の高欄30Eの破損が抑止される。
【0093】
[第8実施形態に係るダム]
次に、図9を参照して、第8実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図9は、第8実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0094】
図9に示すダム50Gは、図8に示すダム50Fと異なり、下流側の高欄30Gが変位せず、堤体10と同様にコンクリート体であり、上流側の高欄30Eのみが変位自在となっている。
【0095】
下流側の高欄30Gは、天端道路20側の脚元に湾曲面30cを有し、頂部においても湾曲面30dを有している。これらの湾曲面30c、30dにより、貯水池60からの越水を、天端道路20を介してY4方向に滑らかに流通させ、下流側へ放流することができる。また、越水が高欄30Gを超える過程で越水を減勢することができるため、下流側の高欄30Gは天端道路20における減勢工を形成する。
【0096】
また、この越水時には、上流側の高欄30Eを降下させて収容溝24に収容しておき、天端道路20に導入された水を下流側の高欄30Gを介して下流側へ速やかに放流する。越水時に上流側の高欄30Eが降下していることで、上流側の高欄30Eの片持ち構造が解消され、越水による上流側の高欄30Eの破損が抑止される。
【0097】
[第9実施形態に係るダム]
次に、図10を参照して、第9実施形態に係るダムの一例について説明する。ここで、図10は、第9実施形態に係るダムの一例の正面図であって、常時と越水時の高欄の状態を示す図である。
【0098】
図10に示すダム50Hは、高欄30Hが下方へ短縮するように構成されており、高欄30Hの短縮により、手摺り32が天端道路20の両端部21にある収容溝24に完全に収容されるようになっている。
【0099】
高欄30Hを形成する各リンク36は、油圧シリンダやエアシリンダ、電動シリンダ等のシリンダ機構により形成され、シリンダ機構を構成するシリンダ36bが収容溝24の底面から堤体10の内部に埋設され、シリンダ36bからロッド36aが上下に出入り自在に構成されている。尚、リンクは、二重管や三重管等の多重管により形成されてもよい。
【0100】
シリンダ36bからロッド36aが完全に張り出した状態において、高さt1の高欄30Hが形成される。一方、越水時には、ロッド36aがX9方向に収縮し、シリンダ36bにロッド36aが収容されることにより、手摺り32が収容溝24の内部に完全に収容され、高欄30Hの片持ち構造が解消される。
【0101】
[実施形態に係るダムの天端道路の高欄姿勢変更システム]
次に、図11及び図12を参照して、実施形態に係るダムの天端道路の高欄姿勢変更システムの一例について説明する。ここで、図11は、実施形態に係る高欄姿勢変更システムの一例の全体構成を示すとともに、高欄を姿勢変更するアクチュエータとユーザ端末の機能構成の一例を示す図であり、図12は、ユーザ端末のハードウェア構成の一例を示す図である。尚、高欄姿勢変更システムを構成するダムとして図1,2に示すダム50を取り上げ、以下説明する。
【0102】
図11に示すように、天端道路の高欄姿勢変更システム100は、ダム50と、ダム50の備える高欄30の姿勢変更を管理する管理者等の備えるユーザ端末70とを有する。高欄30の姿勢変更を実行するアクチュエータ40とユーザ端末70がネットワーク80を介して接続されることにより、高欄姿勢変更システム100が形成される。ユーザ端末70としては、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やタブレット、スマートフォン等が挙げられる。
【0103】
ネットワーク80には、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。
【0104】
図12に示すように、ユーザ端末70は、接続バス76により相互に接続されているCPU71、主記憶装置72、補助記憶装置73、通信IF(interface)74、及び入出力IF75を備えている。主記憶装置72と補助記憶装置73は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0105】
CPU71は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU71は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU71は、コンピュータからなるユーザ端末70の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU71は、例えば、補助記憶装置73に記憶されたプログラムを主記憶装置72の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0106】
主記憶装置72は、CPU61が実行するコンピュータプログラムや、CPU71が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置72は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置73は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置73には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF74を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続するアクチュエータ40等が含まれる。
【0107】
補助記憶装置73は、例えば、主記憶装置72を補助する記憶領域として使用され、CPU71が実行するコンピュータプログラムや、CPU71が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置73は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置73として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0108】
通信IF74は、ユーザ端末70が接続するネットワーク80とのインターフェイスである。通信IF74は、ネットワーク80を介して、高欄30を構成する各アクチュエータ40に対して駆動信号や駆動停止信号を送信する。
【0109】
入出力IF75は、ユーザ端末70に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF75には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。ユーザ端末70は、入出力IF75を介し、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。また、入出力IF75には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。
【0110】
図11に示すように、ユーザ端末70は、CPU71によるプログラムの実行により、少なくとも、第二通信部77、駆動制御部78,及び情報取得部79の各種機能を提供する。
【0111】
一方、アクチュエータ40は、第一通信部41とアクチュエータ駆動部42とを有する。
【0112】
ユーザ端末70の駆動制御部78による指令信号は、第二通信部77を介して各圧力計0の第一通信部41に送信され、アクチュエータ駆動部42により、アクチュエータ40によるリンク31の回動制御が実行され、高欄30の自動変位制御が行われる。
【0113】
また、ユーザ端末70の情報取得部79により、ダム50の上流側の貯水池60の水位モニタリング情報が随時取得されるようになっている。この情報取得部79により、貯水池60の水が越水する前に、アラームが発せられて管理者に注意を促すことで、越水時において高欄30の高さを低くする姿勢変更を確実に実行することが可能になる。
【0114】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0115】
10:堤体
11:上流面
12:下流面
15:防護材
20:天端道路
21:両端部(端部)
22:中央部
24:収容溝
25:落とし込み孔
26:ストッパー孔
30,30A,30B,30C,30D,30E,30F,30G,30H:高欄
31:リンク
31a:脚元部
31b:ストッパー孔
32:手摺り
33:パンタグラフ
33a:リンク
33b、33c、33d:回動軸
33e:スクリューロッド
34:X状体
34a:リンク
34b:回動軸
34c:車輪
34d、34e:案内レール
35:ストッパー
36:シリンダ機構(リンク)
36a:ロッド
36b:シリンダ
39:回動部
40:アクチュエータ(モータ)
40A:アクチュエータ(油圧シリンダ)
40a:シリンダ
40b:ロッド
41:第一通信部
42:アクチュエータ駆動部
50,50A,50B,50C,50D,50E,50F,50G,50H:ダム
60:貯水池
70:ユーザ端末
77:第二通信部
78:駆動制御部
79:情報取得部
80:ネットワーク
100:高欄姿勢変更システム
P:波圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12