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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】繰出し容器
(51)【国際特許分類】
   A45D 40/00 20060101AFI20241008BHJP
   A45D 40/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A45D40/00 T
A45D40/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021511474
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012695
(87)【国際公開番号】W WO2020203408
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019065405
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵一郎
(72)【発明者】
【氏名】姚 星辰
(72)【発明者】
【氏名】岸菜 孝広
(72)【発明者】
【氏名】原田 容一
(72)【発明者】
【氏名】楠本 高寛
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-370934(JP,A)
【文献】特開平09-121938(JP,A)
【文献】特開2005-343567(JP,A)
【文献】特開2017-196279(JP,A)
【文献】特表2017-518983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 40/00
A45D 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
概略有底の円筒状に形成された金属製の本体外筒と、
前記本体外筒の内側に配された第1の部分と該本体外筒の開放端から延出した第2の部分とを有し、前記第1の部分が少なくとも一部において本体外筒と全周に亘って密接し、前記第2の部分が前記本体外筒の開放端に隣接した環状の凸部を構成している円筒状の金属製の中具と、
イソドデカンを含む炭化水素系油分を含有する固形の内容物を保持し、前記本体外筒の内側に筒軸方向に移動自在に配された中皿と、
概略有底の円筒状に形成されて、開放側の端面が前記凸部に当接することにより、前記本体外筒と共に内部に閉空間を画成する金属製の蓋体外筒と、
前記蓋体外筒の内側に配されて、少なくとも一部が該蓋体外筒と全周に亘って密接している蓋体内筒と、
前記中皿を筒軸方向に移動させて前記内容物を前記中具から繰り出させる繰出し機構と、
を有する繰出し容器において、
前記中具の前記凸部よりも先端側の部分の周囲に嵌着されて、前記蓋体外筒が前記閉空間を画成する閉蓋位置に配されたとき該蓋体外筒と前記中具との間を気密に保つ第1のOリングと、前記中具の前記凸部よりも後端側の部分の周囲に嵌着されて、該中具と前記本体外筒との間を気密に保つ第2のOリングの少なくとも一方が設けられ、
前記蓋体内筒がポリエステル系エラストマーから構成されている、
繰出し容器。
【請求項2】
前記第1のOリングと前記第2のOリングの双方が設けられている、請求項1に記載の繰出し容器。
【請求項3】
前記中具に嵌着されたOリングがフッ素ゴムからなるものである、請求項1または2に記載の繰出し容器。
【請求項4】
前記内容物が、水および炭化水素を含む固形組成物である、請求項1から3いずれか1項に記載の繰出し容器。
【請求項5】
前記固形組成物が化粧料である、請求項4に記載の繰出し容器。
【請求項6】
前記化粧料が口唇用化粧料である、請求項5に記載の繰出し容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繰出し容器、特に詳しくは、内容物を収容する本体部とこの本体部に組み合わされる蓋体部とを有し、内容物を本体部から繰り出すように構成された繰出し容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されているように、口唇用化粧料等の固形組成物を収容する容器の一つとして、有底の円筒状に形成された本体外筒と、この本体外筒から一部が延出した中具と、固形の内容物を保持して本体外筒の内側に筒軸方向に移動自在に配された中皿と、概略有底の円筒状に形成され本体外筒と共に内部に閉空間を画成する蓋体外筒と、この蓋体外筒の内側に配された蓋体内筒と、中皿を筒軸方向に移動させて内容物を中具から繰り出させる繰出し機構とを備えてなる繰出し容器が知られている。
【0003】
上述の繰出し容器においては、内容物の揮発を防止する等のために、本体外筒、中具および蓋体外筒はアルミニウム等の金属から形成されることが多い。また中具は多くの場合、本体外筒の内側に配された第1の部分と、該本体外筒の開放端つまり開放側の端面から延出した第2の部分とを有し、第1の部分が少なくとも一部において本体外筒と全周に亘って密接し、第2の部分が本体外筒の開放端に隣接した環状の凸部を構成するものとされる。蓋体外筒は、開放端が上記中具の凸部に当接する状態(閉蓋状態)とすることにより、上述の閉空間を画成するように構成される。また蓋体内筒は多くの場合、少なくとも一部が蓋体外筒と全周に亘って密接し、そして中具に対する抜け止めを果たすように構成される。
【0004】
他方、リップグロスや固形口紅等の口唇用化粧料として、例えば特許文献2に示されているように、イソドデカン等の炭化水素および水を含むものが知られている。この種の固形の口唇用化粧料も、その他の口唇用化粧料と同様に、繰出し容器に収容した形で販売等に供することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-136474号公報
【文献】特許第6147897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし本発明者等の研究によると、イソドデカン等の炭化水素および水を含む固形の口唇用化粧料を、上述したような従来の繰出し容器に収容した場合、本体外筒に蓋体外筒を組み合わせて閉蓋状態としておいても、時間経過に伴って化粧料が著しく減量しやすいことが分かった。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、イソドデカン等の炭化水素および水を含む内容物を収容した際に、その内容物の減りを抑制することができる繰出し容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による繰出し容器は、
概略有底の円筒状に形成された金属製の本体外筒と、
本体外筒の内側に配された第1の部分と該本体外筒の開放端から延出した第2の部分とを有し、第1の部分が少なくとも一部において本体外筒と全周に亘って密接し、第2の部分が本体外筒の開放端に隣接した環状の凸部を構成している円筒状の金属製の中具と、
固形の内容物を保持し、本体外筒の内側に筒軸方向に移動自在に配された中皿と、
概略有底の円筒状に形成されて、開放側の端面が上記中具の凸部に当接することにより、本体外筒と共に内部に閉空間を画成する金属製の蓋体外筒と、
蓋体外筒の内側に配されて、少なくとも一部が該蓋体外筒と全周に亘って密接している蓋体内筒と、
中皿を筒軸方向に移動させて内容物を中具から繰り出させる繰出し機構と、
を有する繰出し容器において、
上記中具の凸部よりも先端側の部分の周囲に嵌着されて、蓋体外筒が上記閉空間を画成する閉蓋位置に配されたとき該蓋体外筒と中具との間を気密に保つ第1のOリングと、中具の凸部よりも後端側の部分の周囲に嵌着されて、該中具と本体外筒との間を気密に保つ第2のOリングの少なくとも一方が設けられ、
蓋体内筒がポリエステル系エラストマーから構成されている、
ことを特徴とするものである。
【0009】
なお上記第1のOリングと第2のOリングは、双方とも設けられるのが望ましい。また本発明は好ましくは、水および炭化水素を含む固形組成物を内容物として収容する繰出し容器に適用される。そのような固形組成物として具体的には化粧料、特に固形口紅やリップグロス等の口唇用化粧料が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明者は、従来の繰出し容器において口唇用化粧料等の内容物が時間経過に伴って著しく減量するという問題は、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン:linear low-density polyethylene)等から構成された蓋体内筒が、口唇用化粧料等の内容物の組成成分であるイソドデカン等の炭化水素によって膨潤することに起因していることを見出した。すなわち、この蓋体内筒が膨潤すると、蓋体内筒は径方向の内側(筒軸側)や外側に向かって歪むことがある。そして、径方向の内側に向かって歪んだ蓋体内筒の部分では、該蓋体内筒と蓋体外筒との間に、内容物中の揮発成分である水や炭化水素を通過させ得る隙間が生じてしまう。また蓋体内筒が膨潤すると、この蓋体内筒自身が上記の揮発成分、特にイソドデカン等の炭化水素を透過させ易くなる。
【0011】
本発明の繰出し容器においては、上記の新しい知見に基づいて、蓋体内筒がポリエステル系エラストマーから構成されている。このポリエステル系エラストマーは、イソドデカン等の炭化水素によって膨潤することが殆ど無い、あるいは極めて少ないものである。したがって本発明の繰出し容器においては、蓋体内筒の膨潤に起因して内容物中の揮発成分が揮発し易くなることが防止され、内容物の減りを効果的に抑制可能となる。
【0012】
また本発明の繰出し容器において前述した第1のOリングが設けられている場合は、例え揮発成分が上述のように蓋体内筒を透過したり、蓋体内筒と蓋体外筒との間の隙間を通過したりして、その後に蓋体外筒の開放端に向かって進んだとしても、揮発成分はこの第1のOリングで遮断されて蓋体外筒から抜け出ることが防止される。よってこの点からも、内容物の減りを抑制可能となる。
【0013】
一方、本体外筒の内部では、中皿に保持されている内容物からの揮発成分が、本体外筒と中具との間の隙間を本体外筒の開放端側に向かって進むことが有り得る。本発明の繰出し容器において前述した第2のOリングが設けられている場合は、このように進む揮発成分を第2のOリングで遮断することができる。そこで、揮発成分が上記の隙間を通って本体外筒の開放端から外部に抜け出ることを防止して、内容物の減りを抑制可能となる。
【0014】
以上、内容物が揮発成分として水や炭化水素を含む場合について説明したが、内容物が水や炭化水素以外の揮発成分を含む場合でも、本発明の繰出し容器によれば、上記説明と同様にして揮発成分が容器外に抜け出ることを防止して、内容物の減りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による繰出し容器を示す斜視図
図2図1の繰出し容器を示す側断面図
図3】本発明の効果を確認した実験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による繰出し容器1の外観を示す斜視図であり、図2はこの繰出し容器1をその長軸を含む面で切断して示す側断面図である。図示の通り繰出し容器1は、内容物Mを収容する本体部10と、内容物Mを覆うように該本体部10と組み合わされる蓋体部20とから構成されている。
【0017】
図1は、蓋体部20が本体部10と組み合わされていない状態、つまり開蓋状態を示している。一方図2は、蓋体部20が本体部10と組み合わされた状態、つまり閉蓋状態を示している。なお本実施形態において内容物Mは一例として、炭化水素系油分の一種のイソドデカンおよび水を含む固形組成物である口唇用化粧料である。
【0018】
本体部10は基本的に、有底円筒状に形成された金属製の本体外筒(袴筒体)11と、この本体外筒11の内周面に嵌着された無底円筒状の螺旋筒体12と、この螺旋筒体12の内側において該螺旋筒体12に対して相対回転自在に配された無底円筒状の回転筒体13と、この回転筒体13の内側において該回転筒体13に対して筒軸方向に相対移動自在に配された中皿14と、本体外筒11の開放端近くにおいて該本体外筒11の内周面に嵌着された無底円筒状の中具15とから構成されている。一方蓋体部20は基本的に、有底円筒状に形成された金属製の蓋体外筒21と、この蓋体外筒21の内周面に嵌着された有底円筒状の蓋体内筒22とから構成されている。
【0019】
以下、上記本体部10について詳しく説明する。金属製の本体外筒11は、一例としてアルミニウムを好適に用いて形成されている。図2ではこの本体外筒11の筒軸Cを1点鎖線で示している。この金属製の本体外筒11は、後述するイソドデカンのような炭化水素系油分や水を透過させることはない。この点は、以下で述べる金属製の中具15および蓋体外筒21も同様である。
【0020】
無底円筒状の螺旋筒体12は、内周面に螺旋溝が刻設されたものであり、例えば嵌着によって本体外筒11と一体化されている。回転筒体13の周壁には、その筒軸に沿って延びる例えば2本の直線溝13aが、互いに180°の角度間隔で形成されている。中皿14は先端側つまり本体外筒11の底部と反対側に、内容物Mを収容する収容部14aを有している。螺旋筒体12および回転筒体13は、例えばポリアセタールから形成されている。
【0021】
また中皿14の外周面には、上記筒軸Cと直交する方向に突出した例えば2個の凸部14bが形成されている。これらの凸部14bはそれぞれ、回転筒体13の上記直線溝13aを通過して、螺旋筒体12の螺旋溝内に緩く係合している。そこで、回転筒体13が本体外筒11に対して、つまり螺旋筒体12に対して相対回転されると、中皿14は本体外筒11内で筒軸Cに沿った方向に直線移動する。この直線移動の方向は、上記相対回転の方向に応じて変化する。
【0022】
したがって、回転筒体13を螺旋筒体12に対して相対回転させることにより、中皿14の収容部14aに収容されている内容物Mを、該回転筒体13から(つまり中具15から)繰り出させたり、反対に回転筒体13の中に収めることができる。以上の通り本実施形態では、螺旋筒体12、直線溝13aを有する回転筒体13、および中皿14の凸部14bにより、内容物Mを中具15から繰り出させる繰出し機構が構成されている。
【0023】
中具15は金属、一例としてアルミニウムを好適に用いて形成されている。この中具15は、本体外筒11の内側に配された第1の部分15aと、本体外筒11の開放端(開放側の端面)11aから延出した第2の部分15bとを有している。上記第1の部分15aは、少なくとも一部において本体外筒11と全周に亘って密接するように、嵌着等によって該本体外筒11の内周面に固定されている。一方上記第2の部分15bは、本体外筒11の開放端11aに隣接した環状の凸部15cを構成している。なお、上記第1の部分15aの内側には、回転筒体13を、筒軸方向への移動は阻止しながら回転自在に保持する保持部材16が取り付けられている。
【0024】
中具15の凸部15cよりも先端側の部分には、その全周に亘って第1のOリング31が嵌着されている。また、中具15の凸部15cよりも後端側の部分には、第2のOリング32が嵌着されている。なお上記の「後端側」とは本体外筒11の底の側を意味し、「先端側」とは本体外筒11の底とは反対側を意味する。これらの第1のOリング31および第2のOリング32は、例えばニトリルゴム(NBR)からなるものである。第2のOリング32は、中具15と本体外筒11との間を気密に保つ。
【0025】
次に、蓋体部20について詳しく説明する。金属製の蓋体外筒21は、一例としてアルミニウムを好適に用いて形成されている。蓋体内筒22は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの一種であるハイトレル(Hytrel:登録商標)から構成されている。蓋体内筒22はその長さ方向の一部において、蓋体外筒21の内周面全周に亘って密接している。
【0026】
以下、上記構成による作用について説明する。上記蓋体部20が本体部10に組み合わされて閉蓋状態つまり図2の状態にされると、蓋体外筒21の開放端21aが中具15の凸部15cに当接し、蓋体外筒21は本体外筒11と共に内部に閉空間Sを画成する。この閉蓋状態においては、蓋体部20が本来の機能を果たす。すなわち、閉空間S内に有る内容物Mが蓋体部20の外の空間と隔絶されて、内容物M中の成分の揮発が防止される。
【0027】
なお中具15は、その先端近くにおいて凹部15dを構成するように、径外方に張り出した2つの環状凸部を有する形状とされている。閉蓋状態は、蓋体内筒22の一部が弾性変形しながら上記凹部15dと係合することによって維持される。つまり蓋体内筒22は、本体部10からの抜け止めの機能を果たす。そして、蓋体部20をある程度大きい力で本体部10から引き離すことにより、上記係合を解いて開蓋状態とすることができる。
【0028】
内容物M中の成分の揮発が防止される点について、さらに詳しく説明する。前述した通り内容物Mは、炭化水素系油分の一種のイソドデカンおよび水を含む口唇用化粧料であり、これらのイソドデカンおよび水(以下、これらを「揮発成分」という)は揮発し得るものである。蓋体内筒22を構成している前述のハイトレルは、これらの揮発成分の通過を遮断する機能が高いものである。そこで、閉蓋状態下で揮発成分がこの蓋体内筒22内を通過して、蓋体外筒21の開放端21a側に抜け出ることが抑制される。また、蓋体内筒22はその長さ方向の一部において、蓋体外筒21の内周面全周に亘って密接しているので、蓋体外筒21と蓋体内筒22との間から揮発成分が蓋体外筒21の開放端21a側に抜け出ることも防止される。
【0029】
さらに図2に示す閉蓋状態においては、中具15の外周に嵌着されている第1のOリング31が、中具15と蓋体外筒21との間に介在して、それらの間を気密状態に保つ。そこで、例え揮発成分が上述のように蓋体外筒21の開放端21a側に抜け得る状態になっていても、揮発成分は第1のOリング31で遮断されて、蓋体部20の外に漏れ出ることがない。
【0030】
なお図2に示す中皿14には、収容部14aの底に当たる部分において、内容物Mを収容する際の空気抜き通路として作用する孔14cが形成されている。上記揮発成分は、この孔14cを通過して中皿14の開放端に抜け出し、そこから中具15側に回り込んで、この中具15と本体外筒11との間から外に抜け出ることも考えられる。このことを考慮して本実施形態では、前述した通り、中具15の凸部15cよりも後端側の部分に、第2のOリング32が嵌着されている。この第2のOリング32は中具15と本体外筒11との間を気密に保つので、該中具15と本体外筒11との間に揮発成分の通路ができることも防止される。
【0031】
次に、上記揮発成分の揮発が防止されていることを、実験によって確認した結果について説明する。この実験では、以上述べた実施形態の繰出し容器1を含む合計9サンプルの繰出し容器を用いた。それら9サンプルの繰出し容器は全て同じ形状であって、本体外筒11および蓋体外筒21の内径は12.1mm、閉蓋状態における本体外筒11の底内面から蓋体内筒22の底内面までの距離は77.0mmである。また、初期状態における内容物Mの外径は9.5mm、全長は40.7mmである。この内容物Mは、上記実施形態におけるのと同じもの、すなわち、イソドデカンおよび水を含む口唇用化粧料である。9サンプルの繰出し容器の主要部の構成は、それぞれ下の表1に示す通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
表1において、9サンプルにはそれぞれ1~9の番号を付して区別している。この各サンプル番号について、図3では丸囲み番号で示している。また蓋体部材料の「AL」はアルミニウムを、「LLDPE」はこの種の化粧料用繰出し容器において蓋体内筒材料として多く用いられている直鎖状低密度ポリエチレン(linear low-density polyethylene)を示している。
【0034】
実験では、以上述べた9サンプルの繰出し容器に関して、50°Cの環境下で閉蓋状態を保って静置した際に、内容物Mの重量が時間経過に伴ってどのように変化するかを測定した。本実験では1つのサンプルについて、内容物Mを充填したものと未充填のものとを用意し、経過時間毎に前者の重量から後者の重量を差し引き、その値を内容物Mの重量とした。
【0035】
この実験の結果を図3に示す。同図において横軸は、初期状態からの経過時間を週(W)単位で示しており、縦軸は、内容物Mの初期状態からの減量率を示している。減量率は、初期状態の重量から何%減量したかを示しており、例えば-5.00%は初期状態から5.00%減量したことを示している。この減量率が小さいほど、揮発成分の揮発がより確実に防止されていると言える。
【0036】
図3の測定結果について考察する。上記実施形態の繰出し容器1であるサンプル9は、時間経過に伴う内容物減量の進行が最も緩やかで、初期状態から32週間経過した時点(以下、この時点を最終時点という)での内容物減量率も最小となっている。このサンプル9とは、第2のOリング32が無い点だけが異なるサンプル8も、サンプル9とほぼ同じ内容物減量特性を示した。それに対して、サンプル9とは、第1のOリング31が無い点だけが異なるサンプル7は、サンプル9と比べると内容物減量の進行が明らかに急で、最終時点における内容物減量率はサンプル9の2倍程度となっている。以上より、第1のOリング31と第2のOリング32のどちらか一方だけを設けるなら、第1のOリング31を設けるのが望ましいと言える。
【0037】
以上説明したサンプル7~9が本発明による繰出し容器であるが、次に、本発明外の繰出し容器であるサンプル1~6における内容物減量について考察する。サンプル6はサンプル9と対比すると、第1のOリング31および第2のOリング32が無い点だけが異なるものである。このサンプル6は、上記サンプル7と同じような内容物減量特性を示すが、各時点での内容物減量はサンプル7よりもやや大となっている。サンプル5はサンプル9と対比すると、第1のOリング31および第2のOリング32が無い点、並びに蓋体外筒21が金属ではなくハイトレルからなる点が異なるものである。このサンプル5は、各時点での内容物減量が、上記サンプル6よりもさらに大となっている。
【0038】
サンプル2、3および4は、前述した本発明による繰出し容器であるサンプル7、8および9とそれぞれ対比すると、蓋体内筒22がハイトレルではなくLLDPEから形成されている点だけが異なるものである。サンプル3および4は初期状態から少しの間は内容物減量が少なかったが、サンプル4では3週間経過辺りから、サンプル3では10週間経過辺りから内容物減量が急激に加速し、最終時点での減量率は双方ともサンプル7より大となった。
【0039】
上述のように内容物減量が急激に加速したのは、蓋体内筒22の材料のLLDPEがイソドデカンによって膨潤したことに起因すると推測される。すなわち、この膨潤によって蓋体内筒22の気密性が悪化し、揮発成分、特にイソドデカンがこの蓋体内筒22を透過したものと推察される。
【0040】
サンプル1は、上記2、3および4と同様に蓋体内筒22がLLDPEから形成され、さらにサンプル6と同様に第1のOリング31および第2のOリング32のいずれも備えないものである。このサンプル1と上述のサンプル2は、互いにほぼ同じ内容物減量特性を示し、最終時点での減量率は双方ともサンプル6の減量率よりも大となった。
【0041】
以上説明した通り、本発明による繰出し容器であるサンプル8および9は全期間を通じて内容物減量が非常に緩やかであり、最終時点での減量率も明らかに他のサンプルより小である。また、本発明による繰出し容器であるサンプル7は、サンプル8および9よりも内容物減量が顕著であるが、最終時点での減量率はサンプル1~6のいずれよりも小である。
【0042】
なお、先に説明した実施形態の繰出し容器1は、炭化水素系油分の一種のイソドデカンおよび水を含む口唇用化粧料を内容物Mとして収容するものであるが、本発明の繰出し容器は口唇用化粧料以外の内容物を収容するものであってもよい。口唇用化粧料以外の内容物としては、例えばコンシーラーや固形糊等が挙げられる。その内容物が水および炭化水素を含む固形組成物である場合、本発明は特に有効である。
【0043】
次に、本発明の繰出し容器に用いられるOリングの好ましい材料について説明する。本発明者等は、上記実施形態でも用いられたニトリルゴム(NBR)からなるOリングと、フッ素ゴム(詳しくは3M Companyのポリオール加硫2元)からなるOリングの内容物減量抑制効果、換言すれば内容物遮断効果を実験によって比較した。この実験に使用した繰出し容器は、形状は基本的に図2に示した上記実施形態の繰出し容器1と同じであるが、下の表2に示す通り、中具15がアルミニウムではなくPOM(ポリアセタール)から構成されている点で異なる。また、蓋体外筒21および蓋体内筒22は前述のサンプル6~9と同様に、それぞれアルミニウムおよびハイトレルから構成されている。そして比較のために、第1のOリング31および第2のOリング32の双方がニトリルゴムからなる繰出し容器(以下、これをサンプルNという)と、第1のOリング31がフッ素ゴムからなり第2のOリング32がニトリルゴムからなる繰出し容器(以下、これをサンプルFという)とを作成した。
【0044】
【表2】
【0045】
比較のための実験では、サンプルNに内容物Mを充填したものを9個、そしてサンプルFに内容物Mを充填したものを同じく9個用意し、各サンプル毎に3個ずつ25°C、37°C、50°Cの環境下で閉蓋状態を保って静置した際の、内容物Mの減量率を測定した。ここで内容物Mは、前述した実施形態におけるのと同じもの、すなわち、イソドデカンおよび水を含む口唇用化粧料である。また減量率の測定および表示の仕方も前述した通りのものであり、本実験では初期状態からの経過時間が8週(W)に至るまで、各週毎に減量率を測定した。
【0046】
この測定の結果を表3において、サンプルNについては上段に、サンプルFについては下段に示す。なお表3において各条件(環境温度)に関する測定結果は、上述した通りの3個のサンプルに関する測定結果の平均値を示している。ここに示される通り、サンプルFはサンプルNと比べて、3つの条件のいずれにおいても減量率が低い、つまり内容物遮断効果が高いことが分かる。
【0047】
【表3】
【符号の説明】
【0048】
1 繰出し容器
10 本体部
11 本体外筒
11a 本体外筒の開放端
12 螺旋筒体
13 回転筒体
14 中皿
15 中具
15a 中具の第1の部分
15b 中具の第2の部分
15c 中具の凸部
16 保持部材
20 蓋体部
21 蓋体外筒
21a 蓋体外筒の開放端
22 蓋体内筒
31 第1のOリング
32 第2のOリング
図1
図2
図3