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  • 特許-多機能発酵庫 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】多機能発酵庫
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241008BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241008BHJP
   A23C 9/123 20060101ALN20241008BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20241008BHJP
   A23C 19/00 20060101ALN20241008BHJP
   A23B 7/10 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C12M1/00 C
A23L5/00 J
A23C9/123
A23L2/38 102
A23C19/00
A23B7/10 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023023813
(22)【出願日】2023-02-01
(65)【公開番号】P2024109498
(43)【公開日】2024-08-14
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304024496
【氏名又は名称】共立プラント工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516209784
【氏名又は名称】株式会社MILAI・E
(72)【発明者】
【氏名】中井 嘉樹
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-135843(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0009503(KR,A)
【文献】特開平03-067540(JP,A)
【文献】特開2019-158155(JP,A)
【文献】特開2018-071915(JP,A)
【文献】特開2015-159744(JP,A)
【文献】特開2001-149000(JP,A)
【文献】特開2020-182456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
A23B 7/10
A23C 9/123
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵食品材料を入れた発酵容器を載置する載置棚を具備した発酵庫本体と、冷凍・冷蔵・予熱・発酵工程よりなる発酵処理工程の順序および時間を設定する発酵プロセス設定手段と、各発酵処理工程における温度・湿度・風速・除霜などの庫内環境を設定する庫内環境設定手段と、複数の発酵食品を製造する発酵プロセスおよび庫内環境を予めプログラムして記憶させた製造プロセス記憶手段と、発酵食品の製造プロセスを選択するプロセス選択手段とで構成され、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込みを、プロセス選択手段のタッチパネルを用いてユーザー側で行えるようにし、プロセス選択手段にてユーザーが所望する発酵食品の製造プロセスを選択することにより、複数種の発酵食品を製造できるようにするとともに、冷凍機能・冷蔵機能・予熱機能・発酵機能を自在に組み合せたり、いくつかの機能を反復を可能とし、発酵菌の生死、あるいは活動・休止をコントロール可能としたことを特徴とする多機能発酵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の発酵食品を簡単に製造できる多機能発酵庫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古来より食の貯蔵、保存を可能とし、人類の食の確保に大きく貢献してきた発酵技術は、大量にとれた海産物や収穫時期が集中する農産物を、次の機会が訪れるまでの間の食の平準化を図るために欠かせないものであった。
多湿な風土を有する我が国では、長い歴史の中で多くの発酵菌と共生し、発酵食品が豊富に揃っており、近年、その味覚や栄養価が評価され、健康志向の高まりや地域興しとして改めて発酵食品が注目されている。
【0003】
このような状況に置かれている発酵食品であるが、その製造プロセスは一部機械化、自動化された程度に留まっており、発酵食品を製造するための代表的な設備としては、加熱手段を有する発酵庫や、冷凍・冷蔵手段、加熱・加湿手段を有する製パン用のドウコンディショナーがある。
【0004】
上記の発酵庫は、庫内環境を発酵に適した温度になるように加熱手段を調整可能とした機器であり、ヨーグルト製造用や麹製造用の専用発酵庫が市販されている。
【0005】
また、ドウコンディショナーは、冷凍・冷蔵・予熱・発酵という4つの機能についてそれぞれに1工程が割り振られて、工程毎に最適な温度、湿度、時間を設定可能とした製パン用の専用発酵庫である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-135843 雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫(ドウコンディショナー)
【0007】
上記特許文献のドウコンディショナーは、図3図4に示すように、パン生地1を並べたトレー1aを載置する複数段の載置棚2を具備した貯蔵庫本体3内の温度・湿度・時間を制御し、パン生地の発酵処理プロセス(冷凍・冷蔵・予熱・ホイロ)に応じた最適雰囲気で貯蔵できるようにし、庫内空気を循環させる循環ファン9を制御する風量制御機能と、除霜用ヒーター8bを制御する除霜制御機能を付加し、各処理工程の最適雰囲気を実現する温度変数P1、湿度変数P2、時間変数P3、風量変数P4、除霜変数P5を予め設定して記憶手段5bに記憶させ、この記憶手段5bから読み出された5変数P1~P5に基づいて各処理工程の庫内雰囲気を最適に調整できるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなドウコンディショナーは、イースト菌によるパン生地発酵に特化した専用発酵庫であり、パン生地処理工程(冷凍・冷蔵・予熱・ホイロ)に応じた最適雰囲気を自動調整できるようになっているが、発酵処理プロセスが固定化されているので、イースト菌以外の発酵菌による発酵食品(パン以外の発酵食品)に対応できないという問題があった。
【0009】
すなわち、ドウコンディショナーの発酵処理プロセス(冷凍工程→冷蔵工程→予熱工程→ホイロ工程)は、冷凍保存したパン生地を最適な雰囲気で自動的に解凍・発酵させるようになっており、次工程でパンを焼き上げて製品化することを前提にしているが、冷凍あるいは冷蔵状態で製品化することを前提とした他の発酵食品に対応できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来例の問題点に鑑みて為されたものであり、複数種の発酵菌による発酵食品を簡単に製造できる多機能発酵庫を提供することを目的としている。
【0011】
特許請求項1の発明は、発酵食品材料を入れた発酵容器を載置する載置棚を具備した発酵庫本体と、冷凍・冷蔵・予熱・発酵工程よりなる発酵処理工程の順序および時間を設定する発酵プロセス設定手段と、各発酵処理工程における温度・湿度・風速・除霜などの庫内環境を設定する庫内環境設定手段と、複数の発酵食品を製造する発酵プロセスおよび庫内環境を予めプログラムして記憶させた製造プロセス記憶手段と、発酵食品の製造プロセスを選択するプロセス選択手段とで構成され、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込みを、プロセス選択手段のタッチパネルを用いてユーザー側で行えるようにし、プロセス選択手段にてユーザーが所望する発酵食品の製造プロセスを選択することにより複数種の発酵食品を簡単に製造できるようにしたことを特徴とする多機能発酵庫である。
【発明の作用効果】
【0012】
複数の発酵食品に対応する発酵プロセスおよび庫内環境を予めプログラムして記憶させた製造プロセス記憶手段と、発酵食品の製造プロセスを選択する製造プロセス選択手段とを設けることにより、所望の発酵食品材料を発酵庫本体に入れて、製造プロセス選択手段にて所望の発酵食品の製造プロセスを選択することにより、複数種の発酵食品を簡単に製造できるという効果を有している。
【0013】
また、発酵プロセスを変更した発酵食品の試作を容易に行えるので、新しい食味・食感を有する新製品の開発に寄与できるという効果があり、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込みを、プロセス選択手段のタッチパネルを用いてユーザー側で行えるようにしているので、構成が簡単になってコストアップを軽減できる作用効果もある
【発明の実施形態】
【0014】
図1および図2は、本発明一実施例を示すもので、発酵食品材料1を入れた発酵容器1aを載置する載置棚2を具備した発酵庫本体3と、冷凍・冷蔵・予熱・発酵工程よりなる発酵処理工程の順序および時間を設定する発酵プロセス設定手段41と、各発酵処理工程における温度・湿度・風速・除霜などの庫内環境を設定する庫内環境設定手段42と、複数の発酵食品を製造する発酵プロセスおよび庫内環境を予めプログラムして記憶させた製造プロセス記憶手段43と、発酵食品の製造プロセスを選択するプロセス選択手段44とで構成され、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込みを、プロセス選択手段のタッチパネルを用いてユーザー側で行えるようにし、プロセス選択手段44にてユーザーが所望する発酵食品の製造プロセスを選択することにより複数種の発酵食品を簡単に製造できるようにしたことを特徴とする多機能発酵庫である。
【0015】
基本構成は、従来例(特許文献:雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫)と略同一の発酵庫であり、発酵プロセス設定手段41と、庫内環境設定手段42、製造プロセス記憶手段43と、製造プロセス選択手段44よりなる発酵制御部40はCPUを用いて形成され、庫内に設置された温度センサー10および湿度セなンサー11の出力に基づいて冷凍機6a、冷却器6b、加湿器7、発酵用ヒーター8a・除霜用ヒーター8b、循環ファン9を制御して庫内を適正発酵環境に設定している。
【0016】
プロセス選択手段44はタッチパネルで構成されており、前面扉3aを開いて発酵容器1aに入った発酵食材を載置棚にセットし、「所望の発酵食品」をワンタッチ選択すると、予め設定された発酵処理プロセスと各処理工程の雰囲気制御データが製造プロセス記憶手段43から読み出され、発酵菌に応じた最適な製造プログラムに基づいて発酵食品を簡単に製造できるようになっている。
【0017】
発酵食品としては、麹・塩麹、ヨーグルト、納豆、漬物などがあり、各発酵食品の最適な発酵プロセスおよび最適な庫内環境の設定(製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込み)は、発酵庫メーカー側で行われるが、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段44への書き込みを、プロセス選択手段44のタッチパネルを用いてユーザー側で行えるようにしているので、本発明に係る多機能発酵庫を、新しい発酵食品の開発用に利用できることになる。
また、同一のタッチパネルを用いてプロセス選択、製造プログラムの作成およびプロセス記憶手段への書き込みを行えるようにしているので、構成が簡単になってコストアップを軽減できる作用効果も有している
【0018】
同一発酵庫で複数種の発酵食品を製造する場合に問題となる残臭気については、異種の発酵食品製造前に、庫内温度が発酵温度を超えるまで昇温して一定時間後に換気する脱臭処理プロセスを設ければ、発酵庫内面に付着した臭気物質起因する製品不良を防止することができる。
【0019】
また、同一の発酵庫で複数種の発酵食品を製造する場合において、所望の発酵菌以外の雑菌混入(コンタミネーション)が起き易くなるので、殺菌灯による紫外線除菌や、赤外線ヒーターによる熱除菌などの除菌処理プロセスを設ければ、雑菌混入に起因する製品不良を防止することができる。
【0020】
本発明に係る多機能発酵庫を用いた麹作りの発酵プロセスにおける温度管理例では、発酵容器1aに蒸し米を入れて種麹をつけて庫内の載置棚2にセットし、最初に36℃設定で20時間(第1発酵工程)、その後に38℃設定で7時間(第2発酵工程)、最後に40℃設定で14時間(第3発酵工程)発酵させるように発酵プロセスを設定すれば、手作り麹と同等の発酵食品を容易に製造できることになる。
【0021】
多機能発酵庫で製造された麹を、完成後すぐに使用しない場合には、冷蔵温度帯で短期保管する冷蔵保管工程を設定するか、あるいは冷蔵保管工程で予熱をとった後に冷凍温度帯まで冷却して長期保管する冷凍保管工程を設定すれば良い。
【0022】
なお、再発酵が始まらない温度である3~5℃の冷蔵温度帯まで上げて解凍して、数日間に亘って冷蔵保存することも可能となり、各工程における庫内環境は、5つのパラメータ(温度・湿度・時間・風量・除湿の有無)の設定によって容易に最適化でき、特に、冷蔵、冷凍工程における弱風モードは乾燥を防ぐことができ、除湿回数を減らして効率的な湿度維持が可能になる。
【0023】
次に、塩麹作りの発酵処理プロセスにおける温度管理例では、発酵工程は、55℃設定で8時間を目途に発酵させ、乾燥しないように適切な湿度設定も行う必要がある。
【0024】
発酵完了後は、すぐに食しないで、そのまま放置しておくと過発酵となり風味が損なわれるので、第1工程で発酵し、第2工程で冷蔵保管することになる。
【0025】
この冷蔵保管時において、追熟させるかどうかの環境設定が必要になり、例えば5℃を下回る温度設定にして現状のまま保管するか、あるいは5℃~8℃に温度設定して徐々に熟成を進め旨みを醸し出すかを選択することもできる。
【0026】
後者の徐々に熟成を進める場合は、弱風モードを選択し、除湿機能ONにした上で、湿度管理をしながら長期熟成の旨みを取り込むことも可能となり、さらに長期保存をする場合は、完全に発酵を止め、そのままの食感や風味を保つためにマイナス温度帯で冷凍保管することになる。
【0027】
このように、一つの発酵食品に対して、発酵中のみならず、発酵後の取り扱いにおいて、複数の選択肢がある場合、所望の発酵プロセスの設定が難しくなるが、本発明では、予め複雑な発酵プロセスの設定が容易に行えることになる。
【0028】
ところで、過去の発酵食品誕生の歴史をふりかえれば、偶然がもたらした、人智を越えた微生物の活動があり、例えば、シャンパンの誕生については、樽詰めワインの発酵が寒さのために途中で止まり、その後、瓶詰めされたワインが気温上昇で再発酵して炭酸ガスを含む発泡性ワイン(スパークリング・ワイン)となった偶然の産物と言われている。
【0029】
また、茶葉が1種類にも拘わらず、不発酵の緑茶、半発酵させた烏龍茶、完全発酵の紅茶が飲用されており、中国で紀元前から飲用されていた緑茶を半発酵させた烏龍茶が1700年代生まれ、ヨーロッパで人気となった烏龍茶の製造業者が発酵を進めているうちに完全発酵の紅茶が誕生したとされ、美味しい烏龍茶や紅茶は、発酵工程における偶然の産物であり、人為的に種々の発酵プロセスを実現すれば、新しい食味・食感の発酵食品を開発できる可能性が大きく広がることを示唆している。
【0030】
本願発明は、発酵処理プロセス(冷凍機能・冷蔵機能・予熱機能・発酵機能)を柔軟に設定可能としており、4機能を自在に組み合せたり、いくつかの機能を反復して、種々の発酵菌による発酵食品を容易に試作できるので、新しい食味や食感の発酵食品を開発できる可能性がある。
【0031】
また、発酵菌の生死、あるいは活動・休止をコントロールできるので、過発酵により食味が損なわれるのを自動的に防止でき、例えば、過発酵によって酸っぱいヨーグルトになってしまうことを防止できる。
【0032】
さらに、発酵食品の流通において、発酵後の冷凍、冷蔵の選択が必要になってくるが、流通を考慮した発酵処理プロセスを容易に実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】 本発明一実施例の概略構成図
図2】 同上の断面図
図3】 従来例の概略構成図
図4】 同上の断面図
【符号の説明】
【0034】
1 発酵食材
1a 発酵容器
2 載置棚
3 発酵庫本体
40 発酵制御部
41 プロセス制御手段
42 庫内環境制御手段
43 プロセス記憶手段
44 プロセス選択手段
図1
図2
図3
図4