IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイセロの特許一覧

<>
  • 特許-転写用シート 図1
  • 特許-転写用シート 図2
  • 特許-転写用シート 図3
  • 特許-転写用シート 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】転写用シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241008BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B27/00 C
B32B27/30 102
B32B27/36
C08L29/04 Z
C08L71/02
B32B27/00 L
B32B7/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021529195
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026116
(87)【国際公開番号】W WO2021002446
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019125282
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 誠法
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-27357(JP,A)
【文献】特開2017-128127(JP,A)
【文献】特開2018-149814(JP,A)
【文献】国際公開第2007/125992(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106394047(CN,A)
【文献】国際公開第2020/027021(WO,A1)
【文献】特表2002-532744(JP,A)
【文献】特開2009-99564(JP,A)
【文献】特開平8-305009(JP,A)
【文献】特開昭61-193142(JP,A)
【文献】特開2007-148386(JP,A)
【文献】特開2014-34124(JP,A)
【文献】特開2014-77121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層としてポリエステル層、ポリビニルアルコール(PVA)層および転写層の順に積層した構造を有し、ポリビニルアルコール層が、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物を含み、
下記(i)の条件を満たす転写用シート:
(i)転写層形成前の23℃、50%RH環境下で調湿した後のポリエステル層とポリビニルアルコール層の間の剥離速度100mm/min.におけるT型剥離強さが30mN/20mm以上。
【請求項11】
平面もしくは三次元形状の基板表面に、請求項9に記載の転写シートの転写層側を貼合し、
次いで、ポリエステル層を剥離し、
さらに、ポリビニルアルコール層を水に溶解して除去することにより、該基板表面に転写層を形成する転写方法。
【請求項12】
前記硬化性樹脂を硬化後に平面もしくは三次元形状の基板表面に、請求項10に記載の転写用シートの転写層側を貼合し、
次いで、ポリエステル層を剥離し、
さらに、ポリビニルアルコール層を水に溶解して除去することにより、該基板表面に転写層を形成する転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体を構成するポリエステル等の材料との密着性が高いフォトレジスト等の硬化性樹脂、金属膜、無機酸化物等の熱転写等では離型が困難な材料の転写用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
成形品の表面加飾の分野では、特許文献1に記載のように、離型層が形成された支持体層に装飾層を形成し、加熱・加圧等により離型層から装飾層を剥離し、対象物表面に転写する技術が知られている。また、水溶性基材上に装飾層を形成し、水面で基材を膨潤させ、溶剤で装飾層を膨潤させることで水圧により対象物に装飾層を転写する技術も用いられている。
しかしながら、このような水圧転写によれば、金属膜や一部の樹脂等の転写には対応することが困難であった。
また対象物や装飾層が耐水性であることも必要であり、より広範囲な材料からなる対象物や装飾層を転写することも困難であった。
その他の転写手段として、常温転写や加熱転写が知られているが、それぞれの転写は、転写用のシートとして常温転写用、加熱転写用に分かれて使用されていた。
その結果として、1つの転写シートを用いて、あるときは常温転写を行うことができ、別のときには加熱転写を行えるようなシートは存在していなかった。
熱転写用シートとしては、特許文献2に記載のように、基材シート上に、水溶性ポリビニルアルコールからなるプライマー層を設け、該プライマー層上に転写層を設けてなる熱転写シートであって、転写後に基材シートの剥離と、プライマー層及び転写層の水洗除去を行うことが知られるにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-077121号公報
【文献】特開平10-166793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、装飾だけではなく、微細配線パターン、金属膜、無機酸化膜、機能性樹脂膜等の機能を転写するニーズがあり、対象基板に転写した後にエッチング、スパッタリング、蒸着、コーティング、表面加工、切断加工、接合等の工程をさらに行う可能性がある。
このような機能を有する層(転写材料)には、転写シートとの密着性が高いものが多い。そのため、転写を円滑に行うには、転写材料に応じた離型層を設ける必要がある。また加熱により変質する等が原因で所定の機能を発揮できない転写材料があるため、転写材料や転写対象の基板の種類に応じて広範囲の温度下での転写を1種の転写用シートで達成できることが望まれている。
転写の際には、大気下の湿度により発生するポリビニルアルコール(PVA)層の膨潤・収縮や、基板を貼り合わせる時の条件による転写層の変形を防ぐため、又は、基板を転写対象に貼り合わせた状態で一時保管する必要もあるため、支持体層付きで基板に貼り合わせなくてはならない。
また、転写対象の基板がフレキシブルな場合には、ロール状に巻いた基板を繰り出して、その基板の表面に転写シートを貼り合わせると同時に、転写シートの支持体を剥離させ、その後転写されたPVA層を水に溶解することにより、転写層を基板表面に転写する。そして、転写層を表面に有する基板をロール状に巻き取る、ロールtoロール方式の連続転写加工がされる場合がある。枚葉方式、ロールtoロール方式のいずれにおいても、転写対象の基板に対して、転写層を損傷することなく転写させるためには、転写シートを貼り合わせた後の、転写対象の基板表面から支持体層のみを剥離痕等なく綺麗に剥離させることが重要である。
さらには、PVA層を水に溶解して、基板表面にシワ痕や気泡痕なく転写層を形成するには、予めPVA層上に転写層を作製する工程や、転写対象の基板表面に貼り合わせる工程において、支持体層とPVA層の間、及びPVA層と転写層の間で、部分的な剥離が生じることを防止する必要がある。これまで、これらの問題点を解決することは困難であった。そこで、本発明はこれらの問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の手段で解決することができることを見出し、本発明に至った。
1.支持体層としてポリエステル層、ポリビニルアルコール(PVA)層および転写層の順に積層した構造を有し、ポリビニルアルコール層がジオール化合物、及び/又は、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物を含み、
下記(i)の条件を満たす転写用シート。
(i)転写層形成前の23℃、50%RH環境下で調湿した後のポリエステル層とポリビニルアルコール層の間の剥離速度100mm/min.におけるT型剥離強さが30mN/20mm以上。
2.ポリエステル層が離型処理されていない1に記載の転写用シート。
3.ジオール化合物が数平均分子量1000以上のポリアルキレングリコールである1又は2に記載の転写用シート。
4.平面もしくは三次元形状の基板表面に、1~3のいずれかに記載の転写用シートの転写層側を貼合し、
次いで、ポリエステル層を剥離し、
さらに、ポリビニルアルコール層を水に溶解して除去することにより、該基板表面に転写層を形成する転写方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の転写用シートは、ポリビニルアルコール(以下場合により「PVA」とする)層との剥離強度が適切な範囲であるポリエステル層を支持体層とすることで、その上に形成したPVA層上にシワなく転写層を形成でき、また、ポリエステル層とPVA層の間に気泡が混入しないため転写層に損傷を与えることがなく保管が可能である。
本発明の転写用シートを転写対象の基板の表面に貼り合わせた後に、ポリエステル層を容易に剥離できるので、PVA層及び転写層に損傷を与えない。よって、PVA層を水に溶解させることにより、転写層を確実に基板表面に転写できる。
なお、転写対象の基板表面において、PVA層と転写層が剥離できない場合でも、PVA層を水に溶解して除去することで基板に転写層を残す、すなわち転写することが可能である。よって、転写層の材料に応じて離型層を選択し、採用する必要がなく、離型層の成分が転写層に混入することを防ぐことができる。
また、本発明の転写用シートを基板に貼り合わせた後に、PVA層は転写層から剥離しないため、貼り合わせた状態で保管できる。さらに、PVA層に光吸収剤を含有させると転写層が光により損傷することを防ぐことができる。さらに、光吸収剤の波長に応じたレーザー光を利用することで、PVA層を水に溶解する前に切断加工、表面加工等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の転写用シート
図2】転写用シートを貼合してなる基板
図3】転写用シートからポリエステル層を剥離した図
図4】PVA層を水解して転写層を基板に転写した図
【符号の説明】
【0008】
1:本発明の転写用シート
2:ポリエステル層
3:ポリビニルアルコール層
4:転写層
5:基板
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
図1に示すように、本発明の転写用シート1は、支持体層であるポリエステル層2、ポリビニルアルコール層3、転写層4の順になる積層体である。
この転写用シート1を用いて、図2に示すように、転写層4側の表面を、転写対象である基板5に加熱、加圧、真空、圧空、押圧等の手法により密着・貼り合わせた後に、ポリエステル層2を剥離する。
得られた状態は、図3に示すように、基板5、転写層4及びポリビニルアルコール層3の順に積層された状態である。
次いで、ポリビニルアルコール層3を冷水もしくは温水を用いて溶解除去して、転写層4のみを基板5に転写して、図4に示すように基板5の表面に転写層4が形成されたものを得ることが可能である。
【0010】
以下、本発明の転写用シート1を説明する。
<転写用シート>
(ポリエステル層)
本発明の転写用シート1において使用するポリエステル層2は支持体層であって、適切な剥離強度により積層されたポリビニルアルコール層3を介して、転写層4を保持し、転写工程においてポリビニルアルコール層3から剥離される層である。その結果として転写層4を正確に、かつシワを発生させることなく転写対象基板5の表面に密着させることができる。
そのようなポリエステル層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のシートが挙げられる。
また、ポリエステル層表面は、離型処理(疎水化処理)されていても良く、コロナ放電処理等の公知の手段により親水化処理されていても良いが、離型処理も親水化処理もされていない未処理ものが好ましい。
ポリエステル層表面に、シリコーンやフッ素等の離型処理を施した場合には、ポリビニルアルコール層3との剥離強度が低すぎるため、転写層4を作製する工程での加熱、加圧等により、ポリエステル層2からポリビニルアルコール層3が部分的に剥離する可能性がある。その結果、ポリエステル層2とポリビニルアルコール層3の間に気泡溜まりができて、転写層4に気泡痕が転写されることにより転写後の外観を損なう可能性がある。また、微量なシリコーン等の離型処理剤の成分が転写層4に混入して、転写後に続く工程に悪影響を及ぼしたり、転写対象基板5のデバイス性能に支障をきたす可能性もある。
コロナ放電処理等の親水化処理を施して、必要以上に剥離強度が高い場合には、ポリエステル層2をポリビニルアルコール層3から剥離することが困難となり転写層を損傷する可能性がある。
このようなポリエステル層2として、市販のポリエステルフィルムが使用でき、例えばエンブレットS(ユニチカ社製、未処理PET)、東洋紡エステルフィルム(東洋紡社製、未処理PET)、テオネックス(帝人社製、PEN)等が挙げられる。
本発明において、表面処理が施されていないポリエステル層2を採用したとき、そのポリエステル層2は、その表面を親水性又は疎水性にする処理を施していない。さらに、ポリエステル層2中に添加剤等を配合したり、ポリエステル樹脂自体を変性して、表面の親水性又は疎水性に影響する処理を施していない層である。
なお、本発明による効果を発揮する限りにおいて、ある程度の疎水性又は親水性を向上させる上記の処理を施すことまでは排除しない。
【0011】
ポリエステル層2としては、延伸又は無延伸の何れでも良い。その厚さとしては、10~188μmであることが好ましい。10μm未満であると、ポリエステル層2を剥離する際の始点であるきっかけ部分を設けることが困難になる可能性があり、188μmを超えるとポリエステル層2の剛性が高くなりすぎて、剥離時の作業性が悪化する可能性がある。
またフィラーを配合したり、表面を粗面化して、ポリビニルアルコール層3側表面に凹凸を設けることは可能である。しかしながら、ポリエステル層2の剥離性を低下させたり、粗面化された表面を反映してポリビニルアルコール層3表面にも凹凸を生じさせない範囲で凹凸を設ける必要がある。
【0012】
(ポリビニルアルコール層)
本発明の転写用シート1において、ポリビニルアルコール層3に使用するポリビニルアルコール(PVA)樹脂は、鹸化度が60mol%以上のものが好ましく、さらに好ましくは70~95mol%である。鹸化度が60mol%未満の場合には、転写工程時に十分にPVA層を水解(水による溶解除去)することができず、それ以降の工程に支障をきたす可能性がある。
このPVA樹脂は、変性及び/又は未変性のいずれでもよい。変性の場合は、主鎖中に本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば10mol%以下、好ましくは7mol%以下の範囲において、他の単量体を共重合させることができる。
【0013】
かかる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。これらの他の単量体は、単独でも複数を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ポリビニルアルコール層3は、ジオール化合物及び/又は隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物を少なくとも1種以上含むことが必要である。
転写を円滑に進めるため、好ましいジオール化合物は数平均分子量が400以上であり、より好ましくは800以上であり、さらに好ましくは1000以上である。また好ましくは数平均分子量が20000以下であるポリアルキレングリコールである。
また、最も好ましくは、数平均分子量1000以上のポリアルキレングリコールと、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物を含むことである。この場合において、さらに望ましくは、数平均分子量1000以上のポリアルキレングリコールと隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物が、重量比で1:9~9:1となるように含むことである。
ここで、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物とは、水酸基を3つ有し、そのうちのいずれの水酸基を基準にしても、これに結合する炭素元素をα位としたとき、その基準の水酸基と残りの2つの水酸基の間には、最短でそれぞれ炭素や酸素等の原子価2以上の原子が4つ以上結合した化合物である。そして、3つの水酸基のうちの任意の2つの水酸基の組み合わせの全てにおいて、原子価2以上の原子が4つ以上結合することが必要である。
例えば、下記化1に示す1,4,8-オクタントリオールは、4位の炭素原子に結合した水酸基を基準にすると、これに隣接する1位および8位の水酸基の位置はそれぞれδ位およびε位となる。同様にして下記化2に示すオキシエチレングリセリルエーテルでは、分子中の中間に位置する水酸基を基準とすると、隣接の水酸基はそれぞれθ位に位置する。
本発明中の隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物は、トリオール化合物中の全ての水酸基が互いにδ位以降に位置しあう化合物である。
下記化3に示す1,2,8-オクタントリオールのように、隣接する2つの水酸基の間がδ位以降に位置するが、隣接する別の2つの水酸基の組合せが、γ位までの間に位置する化合物は、本発明における隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物ではない。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
また、ジオール化合物、及び、隣接する水酸基がδ位以降に有するトリオール化合物は、合計で、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対し1重量部以上添加することが好ましく、1~20重量部添加することがより好ましく、1~15重量部添加することが更に好ましく、3~12重量部添加することが最も好ましい。
さらにジオール化合物は、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対し1重量部以上添加することが好ましく、1~15重量部添加することがより好ましく、1~10重量部添加することが更に好ましく、3~10重量部添加することが最も好ましい。
また隣接する水酸基がδ位以降に有するトリオール化合物は、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対し1重量部以上添加することが好ましく、1~18重量部添加することがより好ましく、1~13重量部添加することが更に好ましく、3~10重量部添加することが最も好ましい。
隣接する水酸基がα位、β位およびγ位に有するトリオール化合物、水酸基が4価以上の多価アルコール化合物を含有する場合には、転写工程時の基板5に貼合後のポリエステル層2を剥離する際に、剥離痕が伴うほど剥離が困難となり、転写層4を損傷する可能性がある。
【0019】
また、23℃、50%RH環境下に調湿した転写層形成前のポリエステル層2と、ポリビニルアルコール層3の剥離速度100mm/min.におけるT型剥離強さが、30mN/20mm以上であることが必要であり、好ましくは30~400mN/20mm、さらに好ましくは30~300mN/20mm、より好ましくは40~100mN/20mm、最も好ましくは45~70mN/20mmである。
T型剥離強さが30mN/20mm未満の場合には、ポリビニルアルコール層3上に転写層4を形成する工程での加熱・加圧等によりポリエステル層2からポリビニルアルコール層3が部分的に剥離し、気泡溜まりが発生する。この気泡が転写層4に転写され外観を損なう可能性がある。T型剥離強さが400mN/20mmを超える場合には、転写工程時に基板5に貼合後にポリエステル層を剥離する際に、剥離のきっかけが作りにくい場合がある。またT型剥離強さが300mN/20mmを超えると、剥離のきっかけが作りにくい場合が少しある。
【0020】
本発明中のジオール化合物としては、水に可溶であることが必要であり、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、プロピレングリコールとブチレングリコールの共重合体、エチレングリコールとプロピレングリコールとブチレングリコールの三元共重合体等が挙げられる。
【0021】
また、本発明中の、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物も水に可溶であることが必要である。この化合物として、トリエチロールプロパン、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ジグリセリンモノアルキレート等が挙げられる。
【0022】
ポリビニルアルコール層を設ける手段は特に限定されず、ポリビニルアルコール層3の組成を溶媒に溶解してなる溶液を用いて、周知の手段により塗布・乾燥して設けても良く、別に用意した剥離性フィルム上に形成したポリビニルアルコール層3をポリエステル層2上に公知の手段により転写しても良い。
そしてポリビニルアルコール層3の厚さは5~100μmである。
【0023】
ポリビニルアルコール層3には、耐光性、レーザー光吸収性を与えるために、必要に応じて光吸収剤を添加できる。例えば、波長300~400nmのUV域の光吸収性を与えるには、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を添加でき、例えばアデカノールUC(ADEKA社製)、ニューコートUVA(新中村化学工業社製)等が挙げられる。波長1100nmの近赤外線域の光吸収性を与えるには、ジイモニウム塩化合物やアミニウム塩化合物等を添加でき、例えばNIR-IM1(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
ポリビニルアルコール層3には、転写工程時の水解時の泡立ちを防ぐ目的で消泡剤を添加できる。消泡剤は非シリコーン系が好ましく、例えばSNデフォーマー(サンノプコ社製)、SYグリスター(阪本薬品工業社製)等が挙げられる。
このようなポリビニルアルコール層3は、ポリエステル層2上にPVA水溶液をスロットダイ等を用いてコーティング・乾燥することで製造することが可能である。
【0024】
ポリビニルアルコール層3は、光を遮光する目的や水により除去する前後のポリビニルアルコール樹脂の有無を標示するために公知の染料や顔料を添加して着色することが可能である。このような染料および顔料は水溶性もしくは水分散系であることが好ましく、例えば青色1号や黄色4号等の食用色素や酸化チタン等が挙げられる。
【0025】
(転写層)
本発明の転写用シート1における転写層4は、ポリビニルアルコール層3の上に形成できる熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、金属膜、無機酸化物膜等の、転写され得る既知の材料を使用することができる。
そのような材料として、例えば、光硬化性樹脂としてエポキシベース等のネガ型レジスト、ノボラック-ナフトキノンジアジドベース等のポジ型レジスト、ポリヒドロキシスチレンベース等の化学増幅型レジスト等の光硬化型樹脂組成物、各種印刷層、二酸化ケイ素(SiO)、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物等の無機化合物、銅や金等の金属が挙げられる。
転写層4はポリビニルアルコール層3へのコーティング、スパッタリング、蒸着、接着、転写等、転写層4の材料に応じた方法で作製することができる。また、転写層4表面には、転写対象の基板5表面への密着性を向上させるために、接着層や粘着層を設けたり、シランカップリング剤等をコーティングすることが可能である。
また、保管時の転写層4の損傷や汚れを防ぐ目的で、転写層4の表面にカバーフィルムを設けることもできる。
【0026】
(基板)
基板5は転写層4が転写される対象であり、平面および三次元形状いずれでも良く、プラスチック成形体、ガラス、セラミックス、金属、半導体、ゴム等を使用することが可能である。転写層との密着性を高めるために、接着・粘着層を設けたり、シランカップリング剤等をコーティングすることも可能である。
【実施例
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例は本発明の1形態を示すものであり本発明はこれに限定されるものではない。
<転写用シート1の作製>
(実施例1)
支持体層として未処理表面を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ユニチカ社製、未処理SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層上にポリビニルアルコール(PVA)(日本酢ビ・ポバール社製、PXP-05、鹸化度88mol%、重合度600)100重量部、ジオール化合物としてポリエチレングリコール(PEG)1540(数平均分子量1540)を9重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300(グリセリンの3つの水酸基全てにポリオキシプロピレン鎖が結合(以下同じ)、数平均分子量300)を1重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、ポリビニルアルコール層をバーコートにより乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に転写層として光硬化性樹脂AZ1500(Clariant社製、ノボラック樹脂系)をバーコートにより乾燥厚みが3μmとなるようにコーティングし、90℃で5分乾燥させた後、300mJの露光量で紫外線照射し転写用シートを作製した。
【0028】
(実施例2)
PVA(日本酢ビ・ポバール社製、PXP-05、鹸化度88mol%、重合度600)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を1重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を9重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液からポリビニルアルコール層を得た以外は実施例1と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0029】
(実施例3)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JR-05、鹸化度70mol%、重合度600)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を5重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、ポリビニルアルコール層をバーコートにより乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0030】
(実施例4)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理S-50、厚み50μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を5重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、バーコートによりポリビニルアルコール層の乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に転写層としてスパッタリング法にてCr膜(1000Å)を作製し、Cr膜上に粘着樹脂(アクリル樹脂、DIC社製、アクリディックA-811-BE)をバーコートより乾燥厚みが3μmとなるようコーティングし、80℃で5分乾燥させ転写用シートを作製した。
【0031】
(実施例5)
支持体層としてコロナ放電処理の施されたPETフィルム(ユニチカ社製、片面処理SD-75、厚み75μm)を使用した以外は、実施例4と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0032】
(実施例6)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理S-38、厚み38μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-15、鹸化度88mol%、重合度1500)100重量部、ジオール化合物としてPEG400(ポリエチレングリコール、数平均分子量400)を5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、バーコートによりポリビニルアルコール層の乾燥厚み15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に転写層として熱可塑性樹脂(ウレタン樹脂、東洋インキ社製、リオアルファS)をバーコートにより乾燥厚みが3μmとなるようコーティングし、80℃で5分乾燥させ転写用シートを作製した。
【0033】
(実施例7)
ジオール化合物をPEG1000(ポリエチレングリコール、数平均分子量1000)5重量部とした以外は実施例6と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0034】
(実施例8)
ジオール化合物をトリメチレングリコール5重量とした以外は実施例6と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0035】
(実施例9)
ジオール化合物を2-メチルペンタン-2,4-ジオール5重量とした以外は実施例6と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0036】
(実施例10)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層2上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-05、鹸化度88mol%、重合度600)100重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を15重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、ポリビニルアルコール層をバーコートにより乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0037】
(実施例11)
鹸化度70mol%のPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JR-05、重合度600)とした以外は、実施例10と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0038】
(実施例12)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JR-05、鹸化度70mol%、重合度600)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を10重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、ポリビニルアルコール層をバーコートにより乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0039】
(実施例13)
ジオール化合物としてPEG6000(ポリエチレングリコール、数平均分子量6000)を使用した以外は、実施例12と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0040】
(比較例1)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)100重量部、隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物としてグリセリンを5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、バーコートによりポリビニルアルコール層の乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0041】
(比較例2)
比較例1における隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、隣接する水酸基がγ位に位置するトリオール化合物としてトリメチロールプロパン5重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0042】
(比較例3)
比較例1において隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、隣接する水酸基がε位およびβ位に位置するトリオール化合物として1,2,6-ヘキサントリオール5重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0043】
(比較例4)
比較例1における隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、テトラオール化合物としてジグリセリン5重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0044】
(比較例5)
比較例1における隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、テトラオール化合物としてポリオキシエチレンジグリセリルエーテル(数平均分子量450)5重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0045】
(比較例6)
比較例1における隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、ヘキサオール化合物としてソルビトール5重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0046】
(比較例7)
比較例1において隣接する水酸基がβ位に位置するトリオール化合物の代わりに、ジオール化合物としてポリプロピレングリコール(PPG)400(数平均分子量400)10重量部を用いて転写用シートを作製した。
【0047】
(比較例8)
支持体層として未処理表面を有するPETフィルム(ユニチカ社製、未処理SD-75、厚み75μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)の水溶液を用いて、バーコートにより乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0048】
(比較例9)
支持体層として離型処理が施されたPETフィルム(ユニチカ社製、FT-50、厚み50μm)を使用した以外は、比較例8と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0049】
(比較例10)
支持体層としてコロナ放電処理が施されたPETフィルム(ユニチカ社製、片面処理SD-75、厚み75μm)を使用した以外は、比較例8と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0050】
(比較例11)
支持体層としてコロナ放電処理が施されたポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製、FOH、厚み50μm)を使用した以外は、比較例8と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0051】
(比較例12)
支持体層として離型処理が施されたPETフィルム(ユニチカ社製、FT-50、厚み50μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)100重量部、グリセリンを5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、バーコートによりポリビニルアルコール層の乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0052】
(比較例13)
支持体層としてコロナ放電処理が施されたポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製、FOH、厚み50μm)を使用した以外は、比較例12と同様の方法で転写用シートを作製した。
【0053】
(比較例14)
支持体層として離型処理の施されたPET(ユニチカ社製、FT-50、厚み50μm)を使用した。
該支持体層上にPVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を9重量部、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を1重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、バーコートによりポリビニルアルコール層の乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0054】
(比較例15)
PVA(日本酢ビ・ポバール社製、JP-10、鹸化度88mol%、重合度1000)100重量部、ジオール化合物としてPEG1540を5重量部、隣接する水酸基がγ位以降に位置するトリオール化合物としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル300を5重量部の比率からなる樹脂組成物の水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール層の乾燥厚みが15μmとなるように作製した。
その後、ポリビニルアルコール層上に実施例1と同様に転写層を形成し転写用シートを作製した。
【0055】
【表1】
【0056】
<基板への転写層の転写>
実施例1~13及び比較例1~15の転写用シートを、基板として厚さ3mmの5cm角のポリカーボネート板および厚み0.38mmのシリコンウエハを用い、転写層側を基板に密着させ、精密加熱・加圧装置(新東工業社製、CYPT-50)を用いて、0.2MPaにて、30℃、80℃および130℃の各温度で、5分間加圧処理した。次いで、ポリビニルアルコール層から支持体層を剥離し、さらに純水でポリビニルアルコール層を溶解除去して転写層を基板に転写した。
なお、表2には基板がポリカーボネートである場合のみを記載した。しかし、該シリコンウエハを基板としたときの以下の各評価の結果は、全ての例において該ポリカーボネート板の場合と同じであった。
【0057】
<転写層作製工程評価>
(評価A:支持体層とPVA層のT型剥離強さ)
実施例1~13及び比較例1~14の転写用シートについて、転写層を作製する前の支持体層/PVA層フィルムを23℃、50%RH環境下で調湿した後に引張試験機(ミネベアミツミ社製、TG-5kN)を用いて支持体層/PVA層間のT型剥離強さを測定した。
【0058】
(評価B:転写用シート作製後の状態)
転写層形成後の実施例1~13及び比較例1~15の転写用シートについて、外観を以下の基準により判定した。
〇 :支持体層/PVA層間の部分的な剥離がなく、かつ転写層のシワが
ない
× :支持体層/PVA層間の部分的な剥離により気泡混入がある
××:転写層にシワがある
【0059】
<転写工程評価>
(評価C:転写工程時の支持体層の剥離状態)
転写工程時の基板貼合後の実施例1~13及び比較例1~14の転写用シートについて、支持体層にセロハンテープを貼り剥離のきっかけを作り、その後、支持体層を90°剥離させる工程の状態を以下の基準にて評価した。きっかけができない際は、カッターで切り込みを入れ剥離させた。
◎ :セロハンテープで容易に剥離のきっかけを作れ、綺麗に剥離可能
○ :セロハンテープで剥離のきっかけを作りにくいが、綺麗に剥離可能
× :セロハンテープで剥離のきっかけができず、剥離時に支持体層およびPVA層に剥離痕を伴う
【0060】
(評価D:転写工程時のPVA層/転写層間の剥離性)
転写工程時の支持体層を剥離した後に、2cm角の正方形状にPVA層側からカッターで切り込みを入れ、そこにセロハンテープを貼り、これを引き剥がすことでPVA層と転写層の剥離性を評価した。
〇 :PVA層が剥離しない
× :PVA層が剥離する
【0061】
(評価E:転写工程時のPVA層水解後の転写層の状態)
転写工程時のPVA層を水解後の転写層の状態を以下の基準にて評価した。
〇 :気泡痕、剥離痕、シワ痕なく、綺麗に転写層を基板に転写
× :転写層に気泡痕、剥離痕、シワ痕あり
【0062】
【表2】
【0063】
本発明に沿った例である各実施例によれば、各評価において良好な結果であった。特に転写工程温度が30℃、80℃及び130℃のいずれの温度においても評価C~Eに関して良好な結果を得た。
これに対して、ポリビニルアルコール層3の組成において本発明中の要件を満足しない比較例1~6及び8によれば評価C及びEの多くにおいて不良な結果であった。特に比較例3は1,2,6-ヘキサントリオールを使用するが、これは全ての水酸基がδ位に位置しないため、良好な結果が得られなかった。
比較例7はポリビニルアルコール層3の組成は本発明中の要件を満たすが、T型剥離強さが30mN/20mm未満であるので、支持体層2とポリビニルアルコール層3の間で部分剥離が生じ転写層4に気泡痕を生じるため、良好な結果が得られなかった。
また、表面処理したPETを使用し、さらにポリビニルアルコールのみからなる層とした比較例9及び10、表面処理したポリプロピレンを使用し、ポリビニルアルコールのみからなる層とした比較例11、表面処理したPET層又はポリプロピレン層を使用し、本発明中の要件を満たさないポリビニルアルコール層を有する比較例12及び13、表面処理したPET層を採用し、本発明中のポリビニルアルコール層の要件を満たすが、T型剥離強さを満たさない比較例14も比較例1~7と同様の結果に留まった。
さらにポリエステル層を使用しない比較例15は、支持体層2を有しないため評価Bで不良の結果となり、評価Eに関しても良好な結果が得られなかった。
上記の結果によれば、本発明の転写用シート1を採用することにより、常温から加熱下での転写を円滑に進めることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の転写用シートは、絵柄だけではなく、フォトレジスト等の硬化性樹脂、金属膜、無機酸化物等の機能材料を対象基板に気泡痕やシワなく常温条件でも加熱条件でも転写することが可能である。自動車部品や電子部品、金属表面加工等の転写を利用した成形加工の工程用部材として利用することができる。
図1
図2
図3
図4