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特許7567141光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/255 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
G02B6/255
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021524921
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022271
(87)【国際公開番号】W WO2020246576
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019105103
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110309
【氏名又は名称】住友電工オプティフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 英明
(72)【発明者】
【氏名】明尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 寛
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-206670(JP,A)
【文献】特開2004-184448(JP,A)
【文献】特開昭62-184403(JP,A)
【文献】特開2005-031439(JP,A)
【文献】特表2001-502814(JP,A)
【文献】特開2003-149485(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00831347(EP,A2)
【文献】特開平05-142442(JP,A)
【文献】特開昭62-099704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24-6/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面同士を突き合わせて配列される複数対の光ファイバ同士をアーク放電によって互いに融着接続する装置であって、
アーク放電を発生させるための一対の電極と、
前記一対の電極間において前記複数対の光ファイバの位置決めを行う光ファイバ配置部と、
前記一対の電極に印加する電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記一対の電極間に第1の放電を発生させ、前記一対の電極間の前記第1の放電を休止させたのち、前記一対の電極間にアーク放電を発生させて前記複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続させ、
前記第1の放電の放電時間は200ミリ秒以下であり、前記第1の放電を休止してから前記アーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下(但し100ミリ秒を除く)であり、
前記第1の放電のパワーが前記アーク放電のパワーよりも大きい、光ファイバ融着接続装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の放電の前に端面クリーニングのためのスパッタ放電を行い、
前記スパッタ放電を休止してから前記第1の放電を開始するまでの時間は100ミリ秒より長い、請求項1に記載の光ファイバ融着接続装置。
【請求項3】
前記第1の放電の放電時間は100ミリ秒以下である、請求項1または請求項2に記載の光ファイバ融着接続装置。
【請求項4】
一対の電極間において端面同士を突き合わせて配列される複数対の光ファイバ同士を、前記一対の電極間に発生するアーク放電によって互いに融着接続する方法であって、
前記一対の電極間に放電を発生させる第1ステップと、
前記一対の電極間の前記放電を休止させる第2ステップと、
前記一対の電極間に前記アーク放電を発生させ、前記複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続する第3ステップと、
を含み、
前記第1ステップの放電時間は200ミリ秒以下であり、前記第1ステップの前記放電を休止してから前記第3ステップの前記アーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下(但し100ミリ秒を除く)であり、
前記第1ステップの放電パワーを前記第3ステップのアーク放電パワーよりも大きくする、光ファイバの融着接続方法。
【請求項5】
前記第1ステップの前に、端面クリーニングのためのスパッタ放電を行うステップを更に含み、
前記スパッタ放電を休止してから前記第1ステップの前記放電を開始するまでの時間は100ミリ秒より長い、請求項4に記載の光ファイバの融着接続方法。
【請求項6】
前記第1ステップの放電時間は100ミリ秒以下である、請求項4または請求項5に記載の光ファイバの融着接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ融着接続装置(optical fiber fusion splicer)および光ファイバの融着接続方法に関する。本出願は、2019年6月5日出願の日本出願第2019-105103号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から5には、光ファイバ融着接続装置または光ファイバの融着接続方法に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-122508号公報
【文献】特開2004-138650号公報
【文献】特開2001-66456号公報
【文献】特開2000-98170号公報
【文献】特開平7-318742号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の光ファイバ融着接続装置は、端面同士を突き合わせて配列される一対または複数対の光ファイバ同士をアーク放電によって互いに融着接続する装置である。この装置は、一対の電極と、光ファイバ配置部と、制御部と、を備える。一対の電極は、アーク放電を発生させる。光ファイバ配置部は、一対の電極間において一対のまたは複数対の光ファイバの位置決めを行う。制御部は、一対の電極に印加する電圧を制御する。制御部は、一対の電極間に第1の放電を発生させ、一対の電極間の第1の放電を休止させたのち、一対の電極間にアーク放電を発生させて一対または複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続させる。第1の放電の放電時間は200ミリ秒以下である。第1の放電を休止してからアーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下である。
【0005】
本開示の光ファイバの融着接続方法は、一対の電極間において端面同士を突き合わせて配列される一対または複数対の光ファイバ同士を、一対の電極間に発生するアーク放電によって互いに融着接続する方法である。この方法は、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、を含む。第1ステップでは、一対の電極間に放電を発生させる。第2ステップでは、一対の電極間の放電を休止させる。第3ステップでは、一対の電極間にアーク放電を発生させ、一対または複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続する。第1ステップの放電時間は200ミリ秒以下である。第1ステップの放電を休止してから第3ステップのアーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、一実施形態に係る融着接続装置の外観を示す斜視図である。
図2図2は、融着接続装置が備える融着接続部を拡大して示す斜視図である。
図3図3は、一対の電極と台座の第1配置部とを拡大して示す側断面図である。
図4図4は、融着接続装置内部の電気的な接続を示すブロック図である。
図5図5は、制御部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図6図6は、融着接続装置の動作および一実施形態の融着接続方法を示すフローチャートである。
図7図7は、電極間の放電の休止の様子を示す模式図である。
図8図8は、電極間の放電の様子を示す模式図である。
図9図9は、電極間の放電の休止の様子を示す模式図である。
図10図10は、電極間の放電の様子を示す模式図である。
図11図11は、従来の装置および方法における問題点を説明するための図である。
図12図12は、一変形例に係る融着接続装置の動作および融着接続方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1から5に開示されるように、端面同士を突き合わせて配列される一対又は複数対の光ファイバ同士を、一対の電極間のアーク放電によって互いに融着接続する方法及び装置が知られている。このような融着接続方法及び装置では、アーク放電が発生する際、一対の電極間において絶縁抵抗が最も小さい放電経路が選択される。通常、その放電経路は一対の電極間の最短経路と一致するが、電極間の電気的状況、例えばイオン分布状況によっては、最短経路と一致せず、一定しない特異な経路が選択される場合がある。このため放電経路がばらつくと、安定した品質の融着接続が困難となる。
【0008】
そこで、本開示は、放電経路のばらつきを低減して接続部位の品質を安定化できる光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、放電経路のばらつきを低減して接続部位の品質を安定化できる光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法を提供することが可能となる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係る光ファイバ融着接続装置は、端面同士を突き合わせて配列される一対または複数対の光ファイバ同士をアーク放電によって互いに融着接続する装置である。この融着接続装置は、一対の電極と、光ファイバ配置部と、制御部と、を備える。一対の電極は、アーク放電を発生させる。光ファイバ配置部は、一対の電極間において一対のまたは複数対の光ファイバの位置決めを行う。制御部は、一対の電極に印加する電圧を制御する。制御部は、一対の電極間に第1の放電を発生させ、一対の電極間の第1の放電を休止させたのち、一対の電極間にアーク放電を発生させて一対または複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続させる。第1の放電の放電時間は200ミリ秒以下である。第1の放電を休止してからアーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下である。
【0011】
一実施形態に係る光ファイバの融着接続方法は、一対の電極間において端面同士を突き合わせて配列される一対または複数対の光ファイバ同士を、一対の電極間に発生するアーク放電によって互いに融着接続する方法である。この方法は、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、を含む。第1ステップでは、一対の電極間に放電を発生させる。第2ステップでは、一対の電極間の放電を休止させる。第3ステップでは、一対の電極間にアーク放電を発生させ、一対または複数対の光ファイバ同士を互いに融着接続する。第1ステップの放電時間は200ミリ秒以下である。第1ステップの放電を休止してから第3ステップのアーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下である。
【0012】
本発明者は、融着接続のためのアーク放電の前に極めて短時間すなわち200ミリ秒以下の放電を行い、次いで短時間すなわち100ミリ秒以下の休止ののちアーク放電を行うことにより、放電経路のばらつきを低減して接続部位の品質を安定化できることを実験により見出した。この要因は種々考えられるが、一つの考え方としては例えば次のようなものがある。一対の電極間のイオン分布が何らかの原因によって変化し不均一になると、アーク放電の際に特異な経路が選択される。そのような場合、アーク放電の前に極めて短時間の放電を行うと、その放電によって電極間のイオン分布を均一化することができる。故に、放電経路として通常の経路、例えば一対の電極間の最短経路が選択される確率を向上させ、放電経路のばらつきを低減することができる。
【0013】
上記の融着接続装置において、第1の放電のパワーはアーク放電のパワーより大きくてもよい。同様に、上記の融着接続方法において、第1ステップの放電パワーを第3ステップのアーク放電パワーより大きくしてもよい。本発明者の実験によれば、例えばこのような場合に、放電経路のばらつきを効果的に低減して接続部位の品質をより安定化することができる。
【0014】
上記の融着接続装置において、制御部は、第1の放電と休止とを複数回交互に繰り返した後にアーク放電を発生させてもよい。同様に、上記の融着接続方法において、第1ステップと第2ステップとを複数回交互に繰り返した後に第3ステップを行ってもよい。例えばこのような場合であっても、上記の効果を奏することができる。
【0015】
上記の融着接続装置において、各第1の放電のパワーがアーク放電のパワー以下であってもよい。同様に、上記の融着接続方法において、各第1ステップの放電パワーを第3ステップのアーク放電パワー以下としてもよい。本発明者の実験によれば、例えばこのような場合に、放電経路のばらつきを効果的に低減して接続部位の品質をより安定化することができる。
【0016】
上記の融着接続装置において、制御部は、第1の放電の前に端面クリーニングのためのスパッタ放電を行い、スパッタ放電を休止してから第1の放電を開始するまでの時間は100ミリ秒より長くてもよい。同様に、上記の融着接続方法は、第1ステップの前に、端面クリーニングのためのスパッタ放電を行うステップを更に含み、スパッタ放電を休止してから第1ステップの放電を開始するまでの時間は100ミリ秒より長くてもよい。従来より、光ファイバの融着接続を行う際、前もって端面クリーニングのためのスパッタ放電を行うことがある。通常、このスパッタ放電の放電時間は50ミリ秒から200ミリ秒の範囲内である。本開示の第1の放電及び第1ステップの放電は、このようなスパッタ放電とは目的が全く異なるものであり、スパッタ放電より短い100ミリ秒以下の休止時間とすることで上記の作用効果を奏するものである。
【0017】
上記の融着接続装置において、第1の放電の放電時間は100ミリ秒以下であってもよい。同様に、上記の融着接続方法において、第1ステップの放電時間は100ミリ秒以下であってもよい。この場合、放電経路のばらつきを効果的に低減することができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。説明に際しては、図面に示されたXYZ直交座標系を参照する場合がある。
【0019】
図1は、本実施形態に係る融着接続装置1の外観を示す斜視図である。融着接続装置1は、端面同士を突き合わせて配列される複数対の光ファイバ同士をアーク放電によって溶融して互いに融着接続する装置である。光ファイバは、例えばガラスファイバである。融着接続装置1は、例えば、多芯光ファイバケーブルを構成する複数本の光ファイバの端部と、他の多芯光ファイバケーブルを構成する複数本の光ファイバの端部とを互いに融着接続する。
【0020】
融着接続装置1は、図1に示すように、箱状の筐体32を備えている。筐体32の上部には、光ファイバ同士を融着するための後述する融着接続部と、加熱器34とが設けられている。加熱器34は、光ファイバの融着箇所に被せられるファイバ補強スリーブを加熱して収縮させる。融着接続装置1は、モニタ35、風防カバー36、電源スイッチ37、及び接続開始スイッチ38を更に備えている。モニタ35は、筐体32の内部に配置された図示しないカメラによって撮像された光ファイバ同士の融着接続状況を表示する。風防カバー36は、融着接続部への風の進入を防ぐ。電源スイッチ37は、使用者の操作に応じて融着接続装置1の電源のオン/オフを切り替える為のプッシュボタンである。接続開始スイッチ38は、使用者の操作に応じて、光ファイバ同士を融着するための動作を開始させるためのプッシュボタンである。
【0021】
図2は、融着接続装置1が備える融着接続部10を拡大して示す斜視図である。図2に示すように、融着接続部10は、一対の電極5,6と、台座11とを有する。一対の電極5,6は、台座11上において互いに離間して配置されている。電極5の先端5aと電極6の先端6aとは、互いに対向している。図示例では、電極5,6は、先端5a,6aに向かうにつれて径が小さくなる略円錐状の部分を含む。
【0022】
台座11は、電極配置部13と、光ファイバ配置部15とを含む。一例として、台座11の材料はジルコニアであってよい。電極配置部13は、一対の電極5,6が配置される部分である。電極配置部13は、一対の電極5,6のそれぞれに対応した当接面13a,13bを有する。当接面13a,13bは、2つの平面によってその断面が略V字状となるように形成されている。電極5が当接面13aに接することによって、電極5のY方向及びZ方向の位置が定められる。電極6が当接面13bに接することによって、電極6のY方向及びZ方向の位置が定められる。電極5,6のX方向の位置は、電極5,6が当接面13a,13bに接した状態で調整され得る。位置決めされた電極5,6は、図示しない固定部材によって電極配置部13に固定され得る。更に、台座11は開口部11aを有する。開口部11aは、X方向における当接面13aと当接面13bとの間の領域において、台座11をZ方向に貫通する。一対の電極5,6の先端5a,6aは、開口部11a内において互いに対向している。
【0023】
光ファイバ配置部15は、X方向において一対の電極5,6間に位置する。光ファイバ配置部15は、第1配置部16と第2配置部17とを有する。Y方向において、第1配置部16は、一対の電極5,6の先端5a,6a同士を結ぶ中心線C1に対して一方側に位置する。第2配置部17は、中心線C1に対して他方側に位置する。すなわち、第1配置部16と第2配置部17とは、Y方向において、中心線C1を挟んで互いに離間している。第1配置部16は、複数本の一方の光ファイバをそれぞれ収容して位置決めするための複数の溝16aを有する。一方の光ファイバの本数は、図示例では12本である。溝16aの延在方向に垂直な断面の形状は例えばV字状である。溝16aは、X方向に等間隔で配置されており、Y方向に沿って直線状に延在している。同様に、第2配置部17は、複数本の他方の光ファイバをそれぞれ収容して位置決めするための複数の溝17aを有する。他方の光ファイバの本数もまた、図示例では12本である。溝17aの延在方向に垂直な断面の形状は例えばV字状である。溝17aは、X方向に等間隔で配置されており、Y方向に沿って直線状に延在している。第1配置部16の複数の溝16aのそれぞれと第2配置部17の複数の溝17aのそれぞれとは、共通する直線上に位置する。これにより、第1配置部16の溝16aによって位置決めされた光ファイバと、第2配置部17の溝17aによって位置決めされた光ファイバとは、第1配置部16と第2配置部17との間の領域において、互いに突き合わされる。第1配置部16と第2配置部17との間の領域は、台座11の開口部11aとなっている。
【0024】
図3は、一対の電極5,6と台座11の第1配置部16とを拡大して示す側断面図である。図3は、中心線C1を含むXZ平面に沿って第1配置部16側を見た断面図であって、第1配置部16に設置された複数本の光ファイバ3を併せて示している。第2配置部17に複数本の光ファイバが設置された構成は、第1配置部16に複数本の光ファイバ3が設置された構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0025】
図3に示すように、複数本の光ファイバ3は、方向Xにおいて一対の電極5,6間に位置しており、それぞれ対応する溝16aに収容されている。各光ファイバ3の軸方向は、Y方向と一致する。複数本の光ファイバ3は、X方向に互いに離間して配置されている。隣り合う光ファイバ3同士のピッチは均一である。一例として、各光ファイバ3の直径は125μmであり、複数の光ファイバ3は、直径の2倍に相当する250μmのピッチでもって方向Xに並んでいる。光ファイバ3が配列される位置は、電極5,6の中心線C1からZ方向にずれている。
【0026】
図4は、融着接続装置1内部の電気的な接続を示すブロック図である。図4に示すように、融着接続装置1は、一対の電極5,6に電圧を印加する電圧発生部19と、電圧発生部19から出力される電圧を制御する制御部20とを更に備える。電圧発生部19は、融着接続装置1内部の配線を介して電極5,6と電気的に接続されており、放電のための電圧を電極5,6に印加する。制御部20は、電圧発生部19と電気的に接続され、その電圧の大きさ及び印加タイミングを制御する。
【0027】
図5は、制御部20のハードウェア構成例を示すブロック図である。図5に示すように、制御部20は、CPU(Central Processing Unit)20a、RAM(Random Access Memory)20b、ROM(Read Only Memory)20cを含むコンピュータとして構成されてもよい。制御部20は、ROM20cに予め記憶されたプログラムを読み込み実行しつつ、CPU20aの制御のもとでRAM20b及びROM20cに対するデータの読み出し及び書き込みを行う。これによって、制御部20は、光ファイバ3の突き合わせ及び電極5,6の放電を含む、融着接続部10の各機能を実現することができる。制御部20の動作状況は、融着接続装置1の動作中、常にモニタ35に表示される。制御部20は、接続開始スイッチ38と電気的に接続されており、接続開始スイッチ38からの電気信号を受ける。
【0028】
ここで、融着接続装置1の動作について、本実施形態の融着接続方法とともに説明する。図6は、融着接続装置1の動作および本実施形態の融着接続方法を示すフローチャートである。図7から図10は、電極5,6間の放電の様子を示す模式図である。
【0029】
図6に示すように、ステップS1として、融着接続装置1の台座11の各溝16aに、接続対象である一方の光ファイバ3を収容する。台座11の各溝17aに、接続対象である他方の光ファイバ3を収容する。次に、溝16aに収容された光ファイバ3の端面と、溝17aに収容された光ファイバ3の端面とを開口部11aにおいて互いに対向させる。
【0030】
次に、ステップS2として、電圧発生部19から電極5,6間に所定の電圧を印加させることにより、端面クリーニングのためのスパッタ放電を行う。スパッタ放電の放電時間は50ミリ秒より長く、200ミリ秒より短い。一例では、スパッタ放電の放電時間は100ミリ秒である。スパッタ放電の際に電極5,6間に印加される放電パワーは、例えば、後述する融着接続時のアーク放電パワーの50%から200%の範囲内である。このスパッタ放電ののち、電圧発生部19から電極5,6間への印加電圧を下げて、ステップS4まで放電を休止する。その間、作業者は、光ファイバ端面に塵等が付着していないかモニタ35を通じて確認することができる。この休止期間は100ミリ秒より長く、典型的には1秒から数秒程度である。図7は、この休止期間を示している。
【0031】
ステップS3として、溝16aに収容された光ファイバ3の端面と、溝17aに収容された光ファイバ3の端面とを開口部11aにおいて互いに突き合わせる。この突き合わせは、制御部20の制御により、光ファイバ3を保持する部分がY方向において互いに近づくことにより行われる。
【0032】
続いて、ステップS4として、電圧発生部19から電極5,6間へ瞬間的に電圧を印加し、図8に示す極めて短時間の放電P1を電極5,6間に発生させる。このステップS4は本実施形態における第1のステップであり、この放電は本実施形態における第1の放電である。具体的には、電極5,6間に例えば数kV~数十kVの電圧を印加し、周波数約100kHz、数十mAの電流による高周波放電を行う。放電時間は200ミリ秒以下であってもよく、100ミリ秒以下であってもよく、50ミリ秒以下であってもよく、30ミリ秒以下であってもよく、或いは10ミリ秒以下であってもよい。融着接続時のアーク放電時間は1秒以上、通常は数秒ないし十数秒程度なので、ステップS3における放電時間は融着接続時のアーク放電時間と比較して極めて短い。ステップS4における放電時間は、上記のステップS2におけるスパッタ放電時間と同等か、それより短い。
【0033】
このステップS4における放電パワーは、融着接続時のアーク放電パワーより大きくてもよく、融着接続時のアーク放電パワーと同じであってもよく、或いは、融着接続時のアーク放電パワーより小さくてもよい。一例では、ステップS4における放電パワーは融着接続時のアーク放電パワーの30%以下であってもよく、300%以上であってもよい。
【0034】
続いて、ステップS5として、図9に示すように、電極5,6間の放電P1を休止させる。具体的には、電圧発生部19から電極5,6間に印加される電圧を、放電が生じない電圧以下に設定する。この休止時間、すなわち、放電P1を休止してから次のアーク放電を開始するまでの時間は100ミリ秒以下であってもよく、50ミリ秒以下であってもよく、30ミリ秒以下であってもよく、或いは10ミリ秒以下であってもよい。このステップS5は、本実施形態における第2のステップである。
【0035】
続いて、ステップS6として、図10に示すアーク放電P2を電極5,6間に発生させ、光ファイバ3の端部同士を突き合わせた部分にこのアーク放電P2を重ねることにより、一方の光ファイバ3及び他方の光ファイバ3の各端部を溶融して互いに融着接続する。具体的には、電極5,6間に例えば数kV~数十kVの電圧を印加し、周波数約100kHz、数十mAの電流による高周波放電を行う。アーク放電P2の放電時間は1秒以上である。
【0036】
以上の構成を備える本実施形態の融着接続装置1及び融着接続方法によって得られる効果について説明する。図11は、従来の装置および方法における問題点を説明するための図である。融着接続のためのアーク放電P2が発生する際には、電極5,6間において絶縁抵抗が最も小さい放電経路が選択される。通常、その放電経路は電極5,6間の最短経路A1と一致するが、電極5,6間の電気的状況、例えば放電キャリアであるイオンCの分布状況によっては、最短経路と一致せず、一定しない特異な経路が選択される場合がある。図中には、このような経路の例として経路A2が示されている。これにより放電経路がばらつくと、安定した品質の融着接続が困難となる。
【0037】
本発明者は、融着接続のためのアーク放電P2の前に極めて短時間の放電P1を行い、次いで短時間の休止ののちアーク放電P2を行うことにより、放電経路のばらつきを低減して接続部位の品質を安定化できることを実験により見出した。この要因は種々考えられるが、一つの考え方として、アーク放電P2の前に極めて短時間の放電P1を行うと、放電P1によって電極5,6間のイオンCの分布を均一化することができると考えられる。故に、放電経路として通常の経路、例えば電極5,6間の最短経路A1が選択される確率を向上させ、放電経路のばらつきを低減することができる。
【0038】
前述したように、放電P1のパワーはアーク放電P2のパワーより大きくてもよい。本発明者の実験によれば、例えばこのような場合に、放電経路のばらつきを効果的に低減して接続部位の品質をより安定化することができる。
【0039】
本実施形態のように、制御部20は、放電P1の前に端面クリーニングのためのスパッタ放電を行い、スパッタ放電を休止してから放電P1を開始するまでの時間は100ミリ秒より長くてもよい。従来より、光ファイバの融着接続を行う際、前もって端面クリーニングのためのスパッタ放電を行うことがある。通常、このスパッタ放電の放電時間は50ミリ秒から200ミリ秒の範囲内である。本実施形態の放電P1は、このようなスパッタ放電とは目的が全く異なるものであり、スパッタ放電より短い100ミリ秒以下の休止時間とすることで上記の作用効果を奏するものである。
【0040】
前述したように、放電P1の放電時間は100ミリ秒以下であってもよい。この場合、放電経路のばらつきを効果的に低減することができる。
【0041】
(変形例)
図12は、上記実施形態の一変形例に係る融着接続装置1の動作および融着接続方法を示すフローチャートである。上記実施形態では短時間の放電P1を1回のみ行うが、本変形例では放電P1を複数回行う。すなわち、上記実施形態のステップS4とステップS5とを複数回交互に繰り返した後に、ステップS6を行う。ステップS4,S5の詳細は上記実施形態と同様である。ステップS4,S5の繰返し回数は、2回でもよく、3回でもよく、或いは4回以上の任意の回数であってもよい。本変形例においても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0042】
なお、本変形例では、各ステップS4の放電パワーを、ステップS6のアーク放電パワー以下としてもよい。本発明者の実験によれば、例えばこのような場合に、放電経路のばらつきを効果的に低減して接続部位の品質をより安定化することができる。
【0043】
(実施例)
本発明者は、上記実施形態及び変形例による融着接続方法の効果を確かめるために、放電P1の放電時間を10ミリ秒、放電P1後の休止時間を数十ミリ秒として、放電P1の放電パワー及び放電回数を変化させつつ実験を行った。そして、クリーニングのためのスパッタ放電後、放電P1を行わずにアーク放電P2を行う従来の方法における異常放電発生率を1.0としたときの相対的な異常放電発生率を調べた。
【0044】
その結果、放電P1の放電回数を1回とし、放電P1の放電パワーをアーク放電P2の放電パワーの300%としたときに、相対的な異常放電発生率が0.5となった。放電P1の放電回数を2回とし、放電P1の放電パワーをアーク放電P2の放電パワーの100%としたときに、相対的な異常放電発生率が0.6となった。放電P1の放電回数を3回とし、放電P1の放電パワーをアーク放電P2の放電パワーの30%としたときに、相対的な異常放電発生率が0.9となった。このように、上記実施形態及び変形例により、放電経路のばらつきを効果的に低減できることが確認された。
【0045】
本発明による光ファイバ融着接続装置および光ファイバの融着接続方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例では複数対の光ファイバに対して一括して融着接続を行うが、一対の光ファイバに対して融着接続を行ってもよい。その場合であっても、放電経路のばらつきを低減して、接続部位の品質を安定化することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…融着接続装置
3…光ファイバ
5,6…電極
5a,6a…先端
10…融着接続部
11…台座
11a…開口部
13…電極配置部
13a,13b…当接面
15…光ファイバ配置部
16…第1配置部
16a…溝
17…第2配置部
17a…溝
19…電圧発生部
20…制御部
20a…CPU
20b…RAM
20c…ROM
32…筐体
34…加熱器
35…モニタ
36…風防カバー
37…電源スイッチ
38…接続開始スイッチ
C…イオン
C1…中心線
P1…放電
P2…アーク放電
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12