(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】緩み止めナット
(51)【国際特許分類】
F16B 39/284 20060101AFI20241008BHJP
F16B 39/30 20060101ALI20241008BHJP
B23G 1/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F16B39/284 C
F16B39/30 C
B23G1/16 E
(21)【出願番号】P 2022096891
(22)【出願日】2022-05-30
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】317000821
【氏名又は名称】株式会社カスタム・クール・センター
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 政晴
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-068853(JP,A)
【文献】特開平11-037129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/284
F16B 39/30
B23G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの雄ねじを螺合する雌ねじを形成したナットであって、
前記雌ねじの一端には、タップの食いつき部によってテーパ状の小径部を形成
するとともに、周面に複数の突堤を突出形成したパンチを前記ナットの下穴に圧入して押圧することにより複数個の突起を中心に向けて突出させ、
前記小径部に残存させた複数個の前記突起の頂部を結ぶ円の内径を前記ボルトの先端の面取り部の最小径よりも大きく雄ねじの外径よりも小さく形成したことを特徴とする緩み止めナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの雄ねじを螺合して緩み止めを行うナットに関する。
【背景技術】
【0002】
部品、部材を締め付け固定に使用する締結部材として、ナットおよびボルトが種々の分野に広く使用されている。これらのナットおよびボルトは、締結部分に振動が繰り返して作用すると緩むという問題がある。このため、ナットやボルトの緩み止めを目的として、種々の構成が提案されている。
【0003】
緩み止め機能を有するナットとして、実用新案登録第3199619号公報には。六角ナットの外周面を構成する6平面のうち、互いに反対方向を臨む2平面の一端側を押圧することにより、平面のそれぞれに軸線に対して傾斜する傾斜面を1つのみ形成し、これにより傾斜面に対応する六角ナットのねじ孔の一端側を縮径させることが開示されている。そして、ねじ孔を縮径させることにより、ボルトに対する締結力を確保して、緩み止めを行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された緩み止めナットは、ナット本体の一端側に凹条部を形成することにより、一端側の内径を縮径されている。このとき、ねじ孔の内径は、一端側に向けて漸減するように傾斜した縮径としている。しかしながら、2カ所に凹条部を形成することにより、ねじ孔が楕円形等に変形する。このため、ボルトのねじ山との接合面積が小さくなり、ボルトの軸力が低下する問題があった、また、凹条部を形成したとき、楕円形等に変形したねじ孔の内径が徐々に縮径することから、ボルトを螺合するときに大きな抵抗を受けることから、ボルトのねじ山を潰してしまう問題もある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、タップの食いつき部によってテーパ状の小径部を形成することにより、ボルトの挿通性を向上させ、しかも、締結力を確保することができる緩み止めナットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明による緩み止めナットは、ボルトの雄ねじを螺合する雌ねじを形成したナットであって、前記雌ねじの一端には、タップの食いつき部によってテーパ状の小径部を形成するとともに、周面に複数の突堤を突出形成したパンチを前記ナットの下穴に圧入して押圧することにより複数個の突起を中心に向けて突出させ、前記小径部に残存させた複数個の前記突起の頂部を結ぶ円の内径を前記ボルトの先端の面取り部の最小径よりも大きく雄ねじの外径よりも小さく形成したことを要旨としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、雌ねじを形成したナットの一端にタップの食いつき部によってテーパ状の小径部を形成するとともに、複数個の突起を中心に向けて突出し、数個の前記突起の頂部を結ぶ円の内径を前記ボルトの先端の面取り部の最小径よりも大きく雄ねじの外径よりも小さく形成しているので、突起が小径部とともにボルトを周囲から圧縮するので、締結力をさらに高められるので、緩み止め効果を一層増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の緩み止めナットを示す断面図である。
【
図4】ナットに小径部を形成する状態を示す断面図である。
【
図5】ナットに雌ねじを形成するタップを示す側面図である。
【
図6】(A)(B)(C)は、ナットにボルトを螺合する状態を示す工程説明図である。
【
図7】一端側に突起を突出したナットを示す断面図である。
【
図9】(A)(B)は、突起を突出したナットにボルトを螺合する状態を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の緩み止めナットは、ボルトの雄ねじを螺合する雌ねじを形成したナットであって、前記雌ねじの一端には、タップの食いつき部によってテーパ状の小径部を形成し、前記小径部の一端側の内径を前記ボルトの先端の面取り部の最小径よりも大きく雄ねじの外径よりも小さく形成している。
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を詳細に説明する。
図1、
図2は、本発明に関わる緩み止めナットの実施例を示している。例示した緩み止めナット1は、市販の六角形状に構成された六角ナットと同じであり、例えば、JISB1181に規定された六角ナットを用いる。また、本考案の緩み止めナットの材料は、JISB1181に規定された六角ナットから派生するナットであっても得置く、例えば、フランジ付き六角ナット等のように、JISB1181に規定された市販のナットであってもよい。更には、本考案の緩み止めナットの材料は、JISB1181に規定された六角ナットとは異なる六角ナットであってもよい。
【0014】
緩み止めナット1は、中心にねじ孔が形成され、その内面には雌ねじ1aが形成されている。さらに、雌ねじ1aの一端には、テーパ状の小径部1bが形成されている。この小径部1bは、後述するように、タップ3の食いつき部3aによって形成される。雌ねじ1aの内径D1は、市販の六角ナットと同じであり、小径部1bの内径D2は、
図3に示すボルト2のように、先端に形成された面取り部2aの最小径D4よりも大きく、雄ねじ2bの外径D3よりも小さく形成している。
【0015】
テーパ状の小径部1bは、タップ3によって形成される。タップ3はナットに雌ねじを形成するために一般に使用するものである。このタップ3は、
図5に示すように、先端側にテーパ状の食いつき部3aが形成され、さらに食いつき部3aに連続して、外径の大きな雌ねじ1aを形成するための完全ねじ部3bが形成されている。
【0016】
緩み止めナッ1の原形は、一般のナットと同様に、線材を切断する工程、パンチによりねじ下穴を形成するとともに、外周を六角に成形する工程、その後下穴を貫通させる工程を経て製作される。その後、下穴にタップ3を回転しながら挿通することにより雌ねじ1aを形成する。タップ3は、
図4に示すように、食いつき部3aがナット1の一端から突出したときに停止する。このとき、雌ねじ1aの一端には、タップ3のテーパ状の食いつき部3aによって、テーパ状の小径部1bが形成される。この小径部1bの一端側の内径は、ボルト2の先端の面取り部2aの最小径D4よりも大きく、雄ねじ2bの外径D3よりも小さく形成している。また、タップ3の食いつき部3aには、
図5に示すように、小径な先端部から大径の完全ねじ部3bに至るに従って高くなるねじ山が形成されていることから、テーパ状の小径部1bの内面にも、一端から次第に高くなるねじ山が形成されている。
【0017】
以上のように構成された緩み止めナッ1をボルト2に締結する手順を
図6によって説明する。被締結体4に穿設された透孔4aには、ボルト2の雄ねじ2bが挿通されている。そして、ボルト2の先端から緩み止めナッ1を一般のナットと同様に、
図6(A)に示す矢示のように回転しながら螺合する。やがて、
図6(B)に示すように、ボルト2の面取り部2aに緩み止めナッ1の小径部1bが到達する。このとき、小径部1bの内径D2がボルト2の雄ねじ2bの外径D3よりも小さいので、緩み止めナッ1の回転に抵抗を受ける。この抵抗に抗して緩み止めナッ1を回転すると、ボルト2の面取り部2aが、タップ3の食いつき部3aと同様の作用によって小径部1bを拡大させ、
図6(C)に示すように、ボルト2の雄ねじ2bが緩み止めナッ1の一端から突出する。このように、ボルト2は、タップ3の食いつき部3aのねじ山によって良好に挿通させることが可能となる。
【0018】
この状態では、小径部1bが弾性によって中心方向に縮小するように作用し、ボルト2の雄ねじ2bが締め付けられる。この結果、緩み止めナッ1やボルト2に振動が印可されて緩もうとしても、小径部1bが弾性によってボルト2が締め付けられているので、緩むことが阻止される。また、この状態では、小径部1bの内面にはタップ3の食いつき部3aによって予め小さなねじ山が形成されていることから、螺合したボルト2の雄ねじ2bの全周が、緩み止めナッ1の雌ねじ1aに均等に当接するので、緩み止めナッ1とボルト2の結合力が大きくなり、緩み止めに必要な軸力を継続して維持することができる。
【0019】
図7、
図8は、本発明に関わる緩み止めナットの他の実施例を示している。前述した実施例と相違する点は、緩み止めナッ10の雌ねじ10aの一端側に、複数個の突起10cを中心に向けて突出したことである。なお、
図1、
図2に示した緩み止めナッ1と同符号は同じ部位を示し、その詳細な説明は省略する。
【0020】
図7、
図8に示す緩み止めナット10の一端側には、
図8に示すように、等間隔に4個の突起10cが突出形成されている。この突起10cの頂部を結ぶ円の直径は、前述した緩み止めナット1の小径部1bの内径D1と同じか、やや大きく形成し、また、一端側に形成されたテーパ状の小径部10bは、ボルト2の先端に形成された面取り部2aの最小径D4よりも大きく、雄ねじ2bの外径D3よりも小さく形成している。なお、突起10cの数は、2~6個が望ましい。
【0021】
緩み止めナット10の一端側に突出形成した4個の突起10cは、
図9(A)に示すように、周面に4個の突堤11aを等間隔で突出形成したパンチ11によって形成される。このパンチ11は、前述した緩み止めナットの原形として、下穴を貫通させる工程の後に、
図9(A)に示すように、パンチ11を下穴に圧入することにより内面の肉が押圧されることにより、下穴の一端に4個の突起10cが形成される。
【0022】
その後、
図9(B)に示すように、下穴にタップ3を回転しながら挿通して雌ねじ10aを形成し、タップ3の食いつき部3aが緩み止めナット110の一端から突出したときに停止する。これにより、雌ねじ1aの一端には、タップ3のテーパ状の食いつき部3aによって、テーパ状の小径部10bが形成される。この小径部10bの一端側の内径は、ボルト2の先端の面取り部2aの最小径D4よりも大きく、雄ねじ2bの外径D3よりも小さく形成していることは、前述した実施例と同様である。また、突出形成した4個の突起10cは、雌ねじ1aの一端に残存している。小径部10bが形成された一端側とは反対の側からボルト2を螺合することにより、突起10cによって緩み止めナッ10の回転に抵抗を受ける。その後、さらに抵抗に抗して緩み止めナッ1を回転すると、ボルト2の面取り部2aが、タップ3の食いつき部3aと同様の作用によって、突起10cと小径部1bを拡大させ、前述した実施例と同様に、ボルト2の雄ねじ2bが緩み止めナッ10の一端から突出し、その後締め付けることにより締結が完了する。
【0023】
このように構成した他の実施例においても、小径部10bが弾性によって中心方向に縮小するように作用し、ボルト2の雄ねじ2bが締め付けられる。この結果、緩み止めナッ10やボルト2に振動が与えられて緩もうとしても、小径部10bが弾性によってボルト2が締め付けられているので、緩むことが阻止される。また、予め突出形成した突起10cが、ボルト2の雄ねじ2bを押圧するので、緩み止め効果がさらに増大する。
【0024】
以上、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。ナットは、JISねじ、インチねじのいずれにも適用可能であり、また、座付きナット、丸ナット等のでも良く、限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
1 緩み止めナット
1a 雌ねじ
1b 小径部
2 ボルト
2a 面取り部
2b 雄ねじ
3 タップ
3a 食いつき部
D1 雌ねじ内径
D2 小径部内径
D3 雄ねじ外径
D4 面取り部の最小径