(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲル、個別化された創傷被覆材、及びそれらの調製方法
(51)【国際特許分類】
A61L 26/00 20060101AFI20241008BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20241008BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/717 20060101ALI20241008BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241008BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241008BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
C08B 15/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L15/28 100
A61L15/60 100
A61K31/717
A61K9/06
A61P17/02
A61P43/00 107
C08B15/02
(21)【出願番号】P 2020128682
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-07-31
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ルーッコ、カリ
(72)【発明者】
【氏名】イリペルトゥラ、マルジョ
(72)【発明者】
【氏名】コイヴニエミ、ライリ
(72)【発明者】
【氏名】スニルヴィ、ヤスミ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109275(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0367024(US,A1)
【文献】特表2019-514461(JP,A)
【文献】Heli Paukkonen et al.,"Nanofibrillar cellulose hydrogels and reconstructed hydrogels as matrices for controlled drug release",International Journal of Pharmaceutics,2017年,Vol.532,p.269-280,DOI: 10.1016/j.ijpharm.2017.09.002
【文献】Alex Basu et al.,"In Vitro and in Vivo Evaluation of the Wound Healing Properties of Nanofibrillated Cellulose Hydrogels",ACS Applied Bio Materials,2018年,Vol.1,p.1853-1863,DOI: 10.1021/acsabm.8b00370
【文献】Alex Basu et al.,"On the use of ion-crosslinked nanocellulose hydrogels for wound healing solutions: Physicochemical properties and application-oriented biocompatibility studies",Carbohydrate Polymers,2017年,Vol.174,p.299-308,DOI: 10.1016/j.carbpol.2017.06.073
【文献】Chunlin Xu et al.,"3D printing of nanocellulose hydrogel scaffolds with tunable mechanical strength towards wound healing application",Journal of Materials Chemistry B,2018年,Vol.6,p.7066-7075,DOI: 10.1039/c8tb01757c
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61K 31/00-33/44
9/00-9/72
47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
C08B 15/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性化学変性パルプを準備すること、又は、パルプを準備し、前記パルプをアニオン性化学変性すること、
アニオン性化学変性したパルプを、平均フィブリル径が200nm以下であるアニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルが得られるまで離解すること、
離解された前記アニオン性化学変性パルプから得られた、アニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルを、1又は複数の非フィブリル化均質化工程において均質化すること、
前記アニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースを、ナノフィブリルセルロースの含有量が2.0~3.5%(w/w)の範囲内の手で成形可能な医療用ハイドロゲルであって、ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が500~2200Pa・sの範囲内である、手で成形可能な医療用ハイドロゲルとすること、
を含む、手で成形可能な医療用ハイドロゲルを調製するための方法。
【請求項2】
前記アニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースから、ナノフィブリルセルロースの含有量が2.5~3.5%(w/w)の範囲内の手で成形可能な医療用ハイドロゲルを作製することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースから、ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が1000~2000Pa・sの範囲内である、手で成形可能な医療用ハイドロゲルを作製することを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ナノフィブリルセルロースを含む手で成形可能な医療用ハイドロゲルであって、前記ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量が、2.0~3.5%(w/w)の範囲内であり、前記ナノフィブリルセルロースが、平均フィブリル径が200nm以下であるアニオン性化学変性ナノフィブリルセルロースを含み、前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、500~2200Pa・sの範囲内である、前記手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項5】
前記ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量が、2.5~3.5%(w/w)の範囲内である、請求項4に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項6】
前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、1000~2000Pa・sの範囲内である、請求項4又は請求項5に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項7】
前記ナノフィブリルセルロースは、ÅAGWR(Åbo Akademi重量保水(Gravitometric Water Retention))法によって測定される保水値が、乾燥ハイドロゲル1g当たり20~70gの水の範囲内である、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項8】
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、22℃±1℃において水性溶媒中で0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメータによって求められる、ゼロ剪断粘度が1000~50000Pa・sの範囲内であり、降伏応力が1~30Paの範囲内である、請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項9】
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、22℃±1℃において水性溶媒中で0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメータによって求められる、ゼロ剪断粘度が2000~20000Pa・sの範囲内であり、降伏応力が3~15Paの範囲内である、請求項4~請求項8のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項10】
真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷において血管新生を誘導するための使用のための、請求項4~請求項
9のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項11】
線維芽細胞を活性化することにより、真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を処置するための使用のための、請求項4~請求項
10のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項12】
線維芽細胞を活性化することにより、真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を処置する方法における使用のための、請求項4~請求項
11のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲルであって、
前記方法が、
成形可能な医療用ハイドロゲルを深い創傷に適用して、6時間~168時間の間、前記深い創傷に適用し続けること、
前記成形可能な医療用ハイドロゲルを前記創傷から除去すること、及び
含水率が10%
(w/w)未満であり、ナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼを含む医療製品を前記創傷に適用すること
を含む、前記成形可能な医療用ハイドロゲル。
【請求項13】
請求項4~請求項
12のいずれか1項に記載の手で成形可能な医療用ハイドロゲルを提供すること、
創傷に適合するように設計された対象のデジタル三次元モデルを得ること、及び
積層造形(additive manufacturing)によって、前記デジタル三次元モデルに従って前記医療用ハイドロゲルから三次元対象物を調製して、前記創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材を得ること
を含む、個別化された(tailored)創傷被覆材を調製するための方法。
【請求項14】
前記デジタル三次元モデルが、前記創傷の3Dスキャンから得られる、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
1若しくは複数の密封パッケージに、又はシリンジ、アプリケータ、ポンプ及びチューブから選択される1若しくは複数の適用デバイスに充填された(packed)請求項4~請求項
12のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲルを含むキット。
【請求項16】
含水率が10%(w/w)未満である、ナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼを含む医療製品の1又は複数のシートをさらに含む、請求項
15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲル及びその調製方法に関する。より詳細には、本願は、創傷を処置するため(特に、当該創傷における血管新生を誘導するため)の、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルに関する。また、本願は、創傷における血管新生を誘導するため、及び/又は真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を処置するために使用される医療用ハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷(特に、深い創傷)は、処置することが難しいことがある。特に、真皮又はさらにより深い部分の組織の損傷を含む創傷は、治癒しにくいことがあり、ひどい瘢痕が生じることがある。多くの場合、患者の体は瘢痕組織を非常に速く成長させ、その結果、この深い創傷が完全に治癒しないこととなる。代わりに、この創傷の表面のみが治癒されるが、内膜はまだ完全には形成されない。より深い、いくつかの場合においては、より汚れていて且つより大きくもある創傷は、より細菌感染に罹りやすい。結果として、このことが、治癒プロセス全体を遅延させる。
【0003】
被覆材を創傷に適用する場合がある。しかし、被覆材は、創傷に張り付くことがあり、深い創傷の治癒が適切に促されないことがある。創傷(特に、深い創傷)の処置を改善し、且つ、この処置のためのより良好な材料及び方法を見出す必要がある。特に、深部組織の治癒を改善することが望まれる。これらの材料は、深い創傷に対して成形可能であり、且つ、当該創傷がさらに損傷されないが当該深い創傷の治癒が開始及び維持されるように除去可能であるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
深い創傷(真皮及び/又はより深い部分の組織に関する創傷など)の治癒を、特定のタイプのナノフィブリルセルロースハイドロゲルを創傷内及び/又は創傷上に付与することによって改善可能であることが見出された。上記ハイドロゲルは、創傷における治癒プロセスを大幅に加速する、深部組織における血管新生又は前血管新生を誘導することが可能である。また、従来の材料を同様の創傷を処置するのに使用した場合と比較して、瘢痕化が少ないため、結果もより良好であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、
・アニオン変性パルプを準備すること、又は
・パルプを準備し、上記パルプをアニオン変性すること、
・アニオン変性したパルプを、平均フィブリル径が200nm以下であるナノフィブリルセルロースが得られるまで離解すること、
・所望により、離解されたアニオン変性パルプを1又は複数の非フィブリル化均質化工程において均質化すること、及び
・上記ナノフィブリルセルロースを、ナノフィブリルセルロースの含有率が1~3.5%(w/w)の範囲内である医療用ハイドロゲルとすること、
を含む、医療用ハイドロゲルを調製するための方法を提供する。
【0006】
本願は、ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有率が、1~3.5%(w/w)の範囲内であり、ナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が200nm以下であるアニオン性ナノフィブリルセルロースを含む、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルも提供する。
【0007】
本願は、創傷において血管新生を誘導するために使用される、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルも提供する。本願は、真皮の及び/若しくは組織下の深い創傷を処置するための、好ましくは血管新生を誘導するために使用される、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルも提供する。
【0008】
本願は、
・本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルを提供すること、
・創傷に適合するように設計された対象のデジタル三次元モデルを得ること、及び
・積層造形(additive manufacturing)によって、上記デジタル三次元モデルに従って上記医療用ハイドロゲルから三次元対象物を調製して、上記創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材を得ること、
を含む、個別化された(tailored)創傷被覆材を調製するための方法を提供する。
【0009】
また、本願は、創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材であって、上記創傷に適合するように個別化された(tailored)、本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルを含む創傷被覆材も提供する。創傷被覆材は、本明細書に開示されている積層造形方法によって得られてもよい。
【0010】
本願は、1若しくは複数の密封パッケージに、又はシリンジ、アプリケータ、ポンプ若しくはチューブなどの1若しくは複数の適用デバイスに充填(packed)された上記医療用ハイドロゲルを含有するキットも開示する。
【0011】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられている。種々の実施形態は、従属請求項に開示されている。特許請求の範囲及び明細書に列挙されている実施形態及び例示は、別途明確に記述されていない限り、互いに自由に組み合わせ可能である。
【0012】
ナノフィブリルセルロースを含み、且つ、特定の範囲で特定の物性(特に、比較的低い粘度及び稠度)を有するハイドロゲルが、特に医療目的に(特に、被覆材などとして使用され得る、成形可能な製品などの医療製品として)好適であることが見出された。上記ハイドロゲルを創傷に適用すると、このハイドロゲルは、固体性、低い粘着性、圧縮仕事として表される十分な破壊靱性、形成性、及び良好な除去性又は取り外し性などの特性を示した。この材料は、創傷、特に深部組織に張り付かずに、ハイドロゲルを除去する際に、組織を損傷しない又は壊れて創傷内に入らないことが重要である。また、使用の際に、ハイドロゲルが創傷に残存して、組織との適切な接触を維持することが重要である。これらの特性は、本材料によって得られた。さらに、上記材料は、特に、深い創傷、又はかかる組織のその他の損傷若しくは傷害の治癒を促進した。
【0013】
本明細書に開示されているハイドロゲルは、創傷処置などの医療用途において望ましい特性である良好な保水容量及び分子拡散性速度をもたらす。
【0014】
本明細書に記載されているハイドロゲルは、この材料を生体組織と接触させる医療用途において有用である。ナノフィブリルセルロースは、損傷を受けた領域に適用されると、特にこの損傷が真皮、脂肪組織又は他の深い組織などの深い組織にある場合に、独特な特性を示すことが発見された。本明細書に記載されているナノフィブリルセルロースを含有する製品は、生体組織と高度に生体適合性であり、いくつかの有利な効果を付与する。いずれの特定の理論とも結合しないが、非常に高い比表面積及びこれによる高い保水性を有する非常に親水性のナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルは、組織に対して適用されると、この組織又は創傷とナノフィブリルセルロースとの間に良好な湿潤環境を付与するとされる。ナノフィブリルセルロース中の多量の遊離ヒドロキシル基が、ナノフィブリルセルロースと水分子との間で水素結合を形成し、ゲル形成、及びナノフィブリルセルロースの高い保水性を可能とする。このナノフィブリルセルロースハイドロゲルは多量の水を含むことから、主に水が組織と接触していると推定され、さらに、創傷からハイドロゲルへ、又はハイドロゲルから創傷への流体及び/又は薬剤の移動を可能としている。本明細書に開示されている製品は比較的低い粘度及び稠度を有することにより、驚くべきことに、これらの効果を高め、さらなる新しい効果を付与することができた。
【0015】
本明細書に記載されているハイドロゲルを使用したときに発見された1つの具体的な効果は、損傷した領域における血管新生が誘導されたということであった。このことは、深い創傷における損傷した領域の適切な治癒が望まれるときに特に有利である。適切な血管新生がないと、上記の損傷した領域が重度に傷跡になり、結果として治癒が不完全となる。より詳細には、アニオン性ナノフィブリルセルロースゲルが、皮膚において線維芽細胞を活性化し、次いで、上記の損傷した領域における血管の形成、すなわち、血管新生を誘導した。この効果は、類似した特性を有する化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースゲルによって得られる血管新生と比較して、より高かった。
【0016】
ハイドロゲルが創傷又は他の損傷若しくは傷害を被覆するために使用される場合、その他の効果も付与される。上記製品は損傷(例えば崩壊)することなく容易に適用及び除去され得るため、この製品は良好な有用性を有する。上記製品は、自身の形態を維持した。ハイドロゲルは、創傷を感染から保護し、創傷が治癒するための湿潤環境を付与する。ハイドロゲルは、治癒された又は治癒される領域を損傷することなく除去することが通常非常に困難である従来の材料が行うような不可逆的な方法では、損傷した皮膚、組織又は創傷に付着しない。上記製品と皮膚との間の状態が、損傷した領域の治癒を促す。
【0017】
ハイドロゲルは、例えば経皮経路によって又はその他の経路によって、対象者(例えば患者又は使用者など)に、薬剤(例えば治療剤など)を制御可能に且つ有効に送達する又は付与するために使用されてもよい。制御放出とは、例えば、ある期間にわたって薬剤(複数可)の所望の放出速度及び/又はプロファイルを得ることを指し、ゲルの選択、例えば、ゲルの百分率若しくはゲルの厚さ、放出可能な薬剤(複数可)の濃度若しくは形態、いずれか補助剤の存在、又は、放出可能な剤の放出速度及び/若しくは活性に影響するpH、温度などの他の条件によって影響され得る。先に説明されているような組織とハイドロゲルとの間の特別な条件と放出特性との組み合わせ効果は、生体組織内への物質の効率的な送達を提供する。一方で、ハイドロゲルは、創傷又は損傷した領域からの物質(例えば創傷滲出液など)も吸収し得る。これにより、治癒も促進され得る。ナノフィブリルセルロースハイドロゲルは、非毒性、生体適合性且つ生分解性でもある親水性マトリクスを提供する。例えば、マトリクスは、酵素的に分解され得る。一方で、ハイドロゲルは、生理学的条件において安定である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】NFC被覆材(タイプ1被覆材)で処置されたヒト化マウスにおける創傷の組織病理学的評価を示す。
図1Aは、処置されていない傷害を示す。
【
図1B】NFC被覆材(タイプ1被覆材)で処置されたヒト化マウスにおける創傷の組織病理学的評価を示す。
図1Bは、タイプ1被覆材で処置された傷害を示す。
【
図2A】3.2%のアニオン性ナノフィブリルセルロース(ANFC)ハイドロゲル、変性されていないナノフィブリルセルロース及び対照サンプル(処置なし)による創傷被覆材研究を示す。
図2Aは、創傷の写真を示し、この創傷は、当該創傷を包囲して収縮を防止する、皮膚の表面上に縫合されているシリコーンリングによって包囲されており、創傷被覆材が上記リング内に適用されている(対照を除く)。
【
図2B】3.2%のアニオン性ナノフィブリルセルロース(ANFC)ハイドロゲル、変性されていないナノフィブリルセルロース及び対照サンプル(処置なし)による創傷被覆材研究を示す。
図2Bは、3日目及び7日目における創傷閉鎖の百分率を比較するグラフを示す。
【
図3A】線維芽細胞活性化の刺激による結果を示す。
図3Aは、組織学的皮膚サンプルにおける血管網及び線維芽細胞活性化を検出するα-SMA染色を示す。
【
図3B】線維芽細胞活性化の刺激からの結果を示す。
図3Bは、異なるサンプルにおけるα-SMA染色強度を提示するグラフを示す。
【
図4A】3.27%のNFCハイドロゲルのニワトリ試験を示す。
図4Aは、創傷におけるハイドロゲルを示す。
【
図4B】3.27%のNFCハイドロゲルのニワトリ試験を示す。
図4Bは、創傷から除去されたハイドロゲルを示す。
【
図5A】2.65%のNFCハイドロゲルのニワトリ試験を示す。
図5Aは、創傷におけるハイドロゲルを示す。
【
図5B】2.65%のNFCハイドロゲルのニワトリ試験を示す。
図5Bは、創傷から除去されたハイドロゲルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、百分率値は、別途特に示されない限り、重量ベースである(w/w)。任意の数字範囲が示されている場合、当該範囲は、上限及び下限値も含む。オープンな用語「含む」は、一選択肢としてクローズな用語「からなる」も含む。
【0020】
本明細書に記載されている材料及び製品は、生命科学材料及び製品などの医療及び/又は科学材料及び製品であってよく、本明細書に記載されているものなどの生体組織及び/又は生物活性材料又は物質に関与する方法及び用途において使用されてよい。当該材料又は製品は、医療処置用の材料又は製品であってよく又はこれらに関していてよく、皮膚又は皮膚の下の組織(複数可)などの組織の創傷、障害及び他の損傷が関与している方法において使用されてよく、並びに/或いは、医療若しくは科学目的で、又は他の関係する適用可能な方法において使用され得る。特に、本材料及び製品は、真皮及び/又はより深い組織(複数可)に関与する創傷、すなわち、特にそれらの処置が望まれる組織(複数可)における損傷を含めた創傷などの創傷に、特に、深い創傷に適用するために付与される。全ての医療製品が、ハイドロゲル形態であっても、創傷、特に、深い組織を損傷又は刺激しない特性を有する製品を必要としている深い創傷に適用可能であるとは限らず、また、これらの製品が、創傷内に適合するように同時に成形され得るとは限らず、さらに、これらの製品が、創傷から、好ましくは当該創傷を損傷することなく且つ破壊することなく除去可能であるとも限らない。
【0021】
「医療」という用語は、製品(すなわち、実施形態のハイドロゲルを含む製品)が医療目的で使用されているか、又は、上記製品が医療目的に好適である製品又は使用に対して用いられる。医療製品は、例えば温度、圧力、水分、化学薬品、放射線、又はこれらの組み合わせを使用することによって、滅菌されているか、又は滅菌可能であり、すなわち、上記製品は、滅菌処理に耐性がある。上記製品は、例えば、オートクレーブ処理してよいか、又は高温を使用するその他の方法が使用され得る。一例において、上記製品は、121℃で15分間オートクレーブされる。医療製品は、発熱物質不含であり且つ望ましくないタンパク質残余、望ましくない生物活性材料、動物由来の材料などを含有しないことも望ましくあり得る。特に、アニオン性ナノフィブリルセルロースには、UV又はガンマ放射線滅菌を使用してもよい。
【0022】
ナノフィブリルセルロース(NFC)ハイドロゲル(アニオン性NFCハイドロゲルなど)は、治療薬剤などの活性薬剤(例えば薬学的成分)、又は他の生物活性剤を、特に温度及びpHが一定であるとき、時間の関数として、持続的又は制御可能に放出及び/又は保持することも可能である。ハイドロゲルは、創傷の治癒を促し得る、1又は複数の抗細菌若しくは抗菌剤(複数可)及び/又は他の治療剤(複数可)を含んでいてもよい。ハイドロゲル中の上記薬剤(複数可)の含有量は、0.01~1%(w/w)(例えば0.05~0.5%(w/w)など)の範囲内、又は別の好適な生理学的有効量であってよい。
【0023】
ナノフィブリルセルロースは、例えば、材料のレオロジー特性、及び/又はフィブリル若しくはフィブリル束の径によって特徴付けられ得る好適なフィブリル化度を有していてよい。例えば、ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、22℃±1℃において水性溶媒中で0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメータによって求められる、ゼロ剪断粘度が、アニオン性グレードで、1000~100000Pa・sの範囲内、好ましくは1000~50000Pa・s(例えば2000~20000Pa・sなど)の範囲内であり、降伏応力が、1~50Paの範囲内、好ましくは1~30Pa(例えば3~15Paのなど)の範囲内であってよい。
【0024】
深い創傷を処置し且つ当該創傷における血管新生を増進するためのハイドロゲルは、ハイドロゲルの濃度で求められる特定の粘度を有することが好ましいことが見出された。好ましい粘度は、関連先行技術の製品よりも顕著に低く、驚くべきことに、このようなハイドロゲルは、深い組織における線維芽細胞を活性化して、深い創傷において効率的に血管新生を引き起こすことが可能であった。使用される濃度で上記粘度を有するハイドロゲルは、深い組織に損傷又は刺激を引き起こすことなく、この深い創傷によく残存しつつ、当該創傷から除去することも容易であった。ハイドロゲルは、数日間、血管新生効果などの活性を維持した。この処置期間の後、創傷は、薬剤及び/又は他のNFCハイドロゲル若しくはNFC含有製品(例えばガーゼなど)などの他の製品によって更に処置及び/又は被覆することが可能であるか、或いは外科的処置をすることが可能であるような、治癒されかつ安定な状態にあった。
【0025】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルであって、ハイドロゲルの濃度において0.1(1/秒)の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、500~2200Pa・s(例えば、500~2000Pa・s、500~1800Pa・s、700~2000Pa・s又は1000~2000Pa・sなど)の範囲内である、上記ハイドロゲルが提供される。一実施形態において、上記ハイドロゲルは、ハイドロゲルの濃度において0.1(1/秒)の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、700~1800Pa・s(例えば1000~1800Pa・sなど)の範囲内である。ある特定の有利な試験されたハイドロゲルに相当する一具体例において、ハイドロゲルの濃度において0.1(1/秒)の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度は、1500~2000Pa・sの範囲内である。これらの粘度は、提供された状態のハイドロゲルの濃度(すなわち、「自身の濃度(own concentration)」)で測定され、本明細書に記載されている通り1~3.5%(w/w)の範囲内であるか、又はより狭い範囲内であってよい。自身の濃度での粘度は、任意の好適な粘度計によって測定されてよい。試験では、温度制御のためのペルチェシステムを備えたHAAKE Viscotester iQ Rheometer(Thermo Fisher Scientific,Karlsruhe,Germany)によって粘度を測定した。上記粘度は、剪断粘度と呼ばれることがある。
【0026】
特に深い創傷における創傷被覆材として使用される場合又はさらなる製造工程において使用される場合に、ハイドロゲルの特性を制御するためにも、本明細書に開示されているように、ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースをある特定の稠度(乾燥分)とする必要がある。ハイドロゲルは、水性液体(例えば、水、又は、水性緩衝溶液及び/又は生理食塩水溶液であってよい)を通常は主として含有するか、又は上記水性液体のみ含有する。ハイドロゲルは、生理学的塩溶液の形態で形成されてよく、したがって、塩(例えば0.8~1.0%(w/w)塩など)を含有していてよく、例えば、上記塩は塩化ナトリウムを含む。
【0027】
本願は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ハイドロゲルであって、ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量が、1~3.5%(w/w)の範囲内であり、ナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が200nm以下であるアニオン性ナノフィブリルセルロースを含む、医療用ハイドロゲルを提供する。医療用ハイドロゲルは、成形可能(特に、ハンド成形可能)であってよく、それにより、任意の種類の創傷に実用的に適合するように材料を成形することが容易である。ナノフィブリルセルロースは、アニオン性ナノフィブリルセルロースのみであってよく、それにより、他のタイプのナノフィブリルセルロースは存在しない。ナノフィブリルセルロースは、医療用ハイドロゲルにおける唯一のフィブリル状、繊維状、ポリマー性及び/又は有機物質であってもよく、それにより、このような場合、ナノフィブリルセルロースに加えて他のマトリクス及び/又は補強材料が存在しなくてもよい。医療用ハイドロゲルは、他の補強及び/又はマトリクス様材料又は構造(例えば、合成、半合成若しくは天然ポリマー又は他の化合物(例えばコラーゲン、タンパク質若しくはペプチド又は他の生体高分子、又はプラスチックポリマー))を含有しないことが好ましい。
【0028】
ナノフィブリルセルロースの有用な稠度は比較的狭く、1~3.5%(w/w)の範囲内である。この稠度において、ハイドロゲルは、好適な量の水を含有し、よく加工可能であり、本明細書に開示されている様々な医療用途(特に、深い創傷における血管新生の促進)に好適な特性を有する。ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量は、1.1~3.5%(w/w)の範囲内であってよい。創傷タイプ及び寸法に応じて、崩壊しない又は他の場合には容易に破壊しないハイドロゲルを使用することが望ましいことがある。このような場合、ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量は、1.1~3.3%(w/w)又は1.1~3.0%(w/w)(例えば、1.5~3.5%(w/w)、1.5~3.3%(w/w)又は2.0~3.5%(w/w)など)の範囲内であってよい。しかし、一方で、より低い濃度では、粘着性であるが可撓性であり得るゲルが生じ得るため、動きやすい創傷又は標的においてより良好に残存し得る。ハイドロゲルを深い創傷に適用するとき場合、上記の稠度又はナノフィブリルセルロース含有量を有するハイドロゲルを使用して、敏感であるより深い組織の損傷を回避し且つ当該深い組織における血管新生を促すことが特に重要であることが見出された。試験では、稠度が2.0~3.5%(w/w)の範囲内であるハイドロゲルは、予め形作られた製品を手動で成形及び調製することを含めたほとんどの用途に有利であることが分かった。大部分の深い創傷についての治癒特性も、上記の範囲において特に良好であった。
【0029】
いくつかの場合において、例えば、3D印刷用途用に、及び/又は、より成形可能な、靱性の、低粘着性及び/又は粘性のハイドロゲルを得るために、2.0~3.5%(w/w)など(例えば2.5~3.5%(w/w))のより高い稠度のナノフィブリルセルロースを使用することが望ましくあり得る。
【0030】
ナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルのある特定の有利な特性としては、可撓性、弾性及び再成形性が挙げられる。ハイドロゲルは、多くの水を含有するため、分子の良好な拡散及び放出特性も示し得る。これらの特性は、例えば、ハイドロゲルが、創傷を治癒する際に覆いとして、又は、生物活性剤を送達、貯蔵及び制御するためなどの他の医療用途において使用されるときに有用である。
【0031】
可撓性は、医療用途などの多くの用途において望ましい特徴である。例えば、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含む可撓性パッチ及び被覆材は、例えば、創傷、及び火傷などの他の損傷又は傷害を被覆するために、皮膚上に適用するのに有用である。関連する所望の特徴としては、特にハイドロゲルが深い創傷に適用されるべきである場合は、成形性が挙げられる。粘度は、概して、この成形性と相関する。粘度は、組成物の構造が維持されるように十分に高くなければならない一方、成形性を可能にしてゲルの割れを防止するのに十分に低くなければならない。さらに、最適な初期粘度を有することにより、擬塑性製品の粘度が成形中に減少して、ゲルを所望の形態へ成形することが容易となる。
【0032】
深い創傷を処置するために、且つ、深い創傷における血管新生を増進するために、特定の保水容量が必要となり得る。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースの保水値が、乾燥ハイドロゲル1g当たり20~70gの水、好ましくは乾燥ハイドロゲル1g当たり23~50gの水(例えば、乾燥ハイドロゲル1g当たり25~35gの水の範囲内、より具体的には、乾燥ハイドロゲル1g当たり30g未満の水、例えば、乾燥ハイドロゲル1g当たり20~29gの水、又は乾燥ハイドロゲル1g当たり25~29gの水)の範囲内である医療用ハイドロゲルが提供される。上記保水値は、ÅAGWR(Åbo Akademiの重量保水(Gravitometric Water Retention))法によって測定され得る。
【0033】
本願は、
-アニオン変性パルプ(例えば木材パルプなど)を準備すること、
-上記パルプを平均フィブリル径が200nm以下であるナノフィブリルセルロースが得られるまで離解すること、
-所望により、離解されたパルプを1又は複数の非フィブリル化均質化工程において均質化すること、及び
-ナノフィブリルセルロースを、ナノフィブリルセルロースの含有量が1.1~3.5%(w/w)(例えば1~3.5%(w/w)(例えば2.0~3.5%(w/w)など))の範囲内である医療用ハイドロゲルとすること
を含む、医療用ハイドロゲルを調製するための方法を提供する。上記方法は、パルプを準備して、このパルプをアニオン変性することで、好ましくは所望の変性度(例えばアニオン電荷など)を得ることを含んでいてよい。
【0034】
上記方法は、ナノフィブリルセルロースを、ハイドロゲルの濃度において0.1(1/秒)の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が500~2200Pa・sの範囲内(例えば700~1800Pa・sの範囲内など)、又は本明細書に開示されている他の粘度である医療用ハイドロゲルとすることを含んでいてよい。
【0035】
本明細書に記載されている医療用ハイドロゲルは、この方法によって得られ得る。
【0036】
医療用ハイドロゲルは、創傷において血管新生を誘導するための使用のために提供され得る。より詳細には、医療用ハイドロゲルは、真皮の及び/若しくはその下の組織の深い創傷を処置するための、好ましくは血管新生を誘導するための、又は、これによる及び/又は線維芽細胞を活性化するための使用のために提供され得る。医療用ハイドロゲルは、密封パッキング又はアプリケータに、所望によりキットに充填(packed)されて提供されてよい。パッキング又はキットは、本明細書に開示されているものなど、特定の目的に及び/又は特定の方法において医療用ハイドロゲルを使用するための説明書を含んでいてよい。
【0037】
健康な皮膚は、3つの主な構成要素又は層、すなわち、表皮、真皮及び皮下組織を含む。表皮は、ケラチノサイトを主に含み、体への有害な病原の侵入の防止を含む皮膚のバリア機能を主として担う。表皮は、外層から内層に向かって、角質層、透明層、顆粒層、有棘層、及び基底層を含む。基底層の下には、表皮と真皮との間に、基底膜領域として知られている接続層が見られ得る。真皮は、線維芽細胞並びにコラーゲン及びエラスチンなどの細胞外マトリクス構成要素、並びに血管、神経、及び付属構造を含む。真皮は、2層、すなわち、表皮と真皮との間のスライドの防止、並びに表皮への酸素及び栄養素の付与を担う乳頭真皮(上層)、並びに、皮膚の力学的特性を主に担う網状真皮(下層)を含有する。皮下(subcutaneous)組織とも呼ばれる皮下組織は、大部分が脂肪組織を含んでいる。
【0038】
ナノフィブリルセルロース
上記医療用ハイドロゲルを形成するための出発物質は、ナノフィブリルセルロース(ナノセルロースとも呼ばれる)であり、これはセルロース原料に由来する単離されたセルロースフィブリル又はフィブリル束を指す。ナノフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在する天然ポリマーをベースとする。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性ハイドロゲルを形成可能である。ナノフィブリルセルロース製造技術は、繊維状原料の離解(例えば、パルプ繊維水性分散物を粉砕してナノフィブリル化セルロースを得ることなど)をベースとし得る。かかる粉砕又は均質化プロセス後に得られるナノフィブリルセルロース材料は、希薄な粘弾性ハイドロゲルである。
【0039】
得られた材料は、離解条件に応じて、水中で均質に分散され、比較的低い濃度で通常は存在する。出発物質は、0.2~10%(w/w)(例えば0.2~5%(w/w))の濃度の水性ゲルであってよい。ナノフィブリルセルロースは、繊維状原料の離解から直接得られてよい。市販のナノフィブリルセルロースハイドロゲルの例として、UPMによるGrowDex(登録商標)が挙げられる。
【0040】
ナノスケール構造を有することにより、ナノフィブリルセルロースは、従来のセルロースによっては付与され得ない機能性を可能にする固有の特性を有する。しかし、このナノスケール構造に起因して、ナノフィブリルセルロースは難易度が高い材料でもある。例えば、ナノフィブリルセルロースの脱水又は取り扱いが困難である場合がある。
【0041】
ナノフィブリルセルロースは、植物起源のセルロース原料から調製されてよく、ある特定の細菌発酵プロセスから誘導されてもよい。ナノフィブリルセルロースは、植物材料からなることが好ましい。原料は、セルロースを含有するいずれの植物材料をベースとしていてもよい。一例において、フィブリルは、非実質性植物材料から得られる。このような場合において、これらのフィブリルは、二次細胞壁から得られてよい。このようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の一つとして、木質繊維が挙げられる。ナノフィブリルセルロースは、木材由来の繊維状原料(化学パルプであってよい)を均質化することによって製造されてよい。セルロース繊維は離解されて、わずか数ナノメータ(大抵の場合、平均径は200nm以下であり得る)であるフィブリルを生成し、水に分散したフィブリルが得られる。二次細胞壁を起源とするフィブリルは、少なくとも55%の結晶化度により本質的に結晶性である。このようなフィブリルは、一次細胞壁を起源とするフィブリルとは異なる特性を有し得、例えば二次細胞壁を起源とするフィブリルの脱水は、より難易度が高いことがある。概して、テンサイ、ジャガイモ塊茎及びバナナ花軸などの一次細胞壁からのセルロース源において、ミクロフィブリルは、木材からのフィブリルよりも容易に繊維マトリクスから遊離し、離解にエネルギーをあまり必要としない。しかし、これらの材料は、依然としていくぶん不均質であり、大きなフィブリル束からなっている。
【0042】
非木質材料としては、農業残渣、草、又は、綿、トウモロコシ、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、米、アマニ、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、カラムシ、ケナフ、バガス、竹若しくはアシからのわら、葉、樹皮、種子、外皮、花、菜若しくは果実などの他の植物物質に由来するものが挙げられる。セルロース原料は、セルロース産生微生物に由来していてもよい。微生物は、アセトバクター、アグロバクテリウム、根粒菌、シュードモナス・アルカリゲネス属、好ましくはアセトバクター属、より好ましくはアセトバクター・キシリナム又はアセトバクター・パスツリアナス種のものであってよい。
【0043】
木材セルロースから得られるナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載されている医療又は科学製品に好ましいことが見出された。木材セルロースは大量に入手可能であり、木材セルロースのために開発された調製方法は、製品に好適なナノフィブリル状材料の生成を可能にする。植物繊維、特に、木質繊維をフィブリル化することによって得られるナノフィブリルセルロースは、微生物から得られるナノフィブリルセルロースとは構造的に異なり、異なる特性を有する。例えば、バクテリアセルロースと比較して、ナノフィブリル化木材セルロースは、均質で、より多孔質で、遊離した材料であり、生存細胞が関与する用途において有利である。バクテリアセルロースは、植物セルロースにおけるものと類似したフィブリル化を伴わずに、通常そのままで使用される点でも異なる。バクテリアセルロースは、小さなスフェロイドを容易に形成する高密度な材料であり、この材料の構造は非連続的であるため、生細胞に関する用途(特に、材料の均質性が必要とされる場合)において、この材料を使用することが望ましくない場合がある。一例において、セルロースは、非バクテリアセルロースである。
【0044】
木材は、針葉樹木(例えば、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー若しくはアメリカツガなど)、若しくは広葉樹木(例えば、カバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナノキ若しくはアカシアなど)、又は針葉樹と広葉樹の混合体に由来するものであってよい。一例において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。ナノフィブリルセルロースは、硬質木材パルプから得られてよい。一例において、広葉樹は、カバノキである。ナノフィブリルセルロースは、軟質木材パルプから得られてよい。一例において、木材パルプは、化学パルプである。化学パルプは、本明細書に開示されている製品に望ましくあり得る。化学パルプは、純物質であり、広範な用途で使用され得る。例えば、化学パルプは、機械パルプに存在するピッチ及び樹脂酸を欠失しており、より滅菌されており、容易に滅菌可能である。さらに、化学パルプは、より可撓性であり、例えば医療及び科学材料において有利な特性を付与する。例えば、過剰な処理、又は特定の機器若しくは面倒なプロセス工程の必要とすることなく、非常に均質なナノフィブリルセルロース材料を調製することが可能である。
【0045】
ナノフィブリルセルロース(セルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含む)は、高アスペクト比(長さ/径)を特徴とする。ナノフィブリルセルロースの平均長さ(フィブリル又はフィブリル束などの粒子のメジアン長さ)は、1μm超であってよく、大抵の場合、50μm以下である。基本フィブリルが互いに完全に分離されていないと、絡まったフィブリルは、平均合計長さが、例えば、1~100μm、1~50μm、又は1~20μmの範囲内となり得る。しかし、ナノフィブリル状材料が高度にフィブリル化されている場合、基本フィブリルは、完全に又はほぼ完全に分離され得、平均フィブリル長さはより短く、例えば1~10μm又は1~5μmの範囲内である。このことは、特に、例えば化学的に、酵素的に又は機械的に短縮又は消化されていない天然グレードのフィブリルに当てはまる。しかし、強く誘導体化されたナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル長さがより短く、例えば0.3~50μmの範囲内など、例えば0.3~20μmなど、例えば0.5~10μm又は1~10μmであり得る。特に、酵素的に若しくは化学的に消化されたフィブリル、又は機械的に処理された材料などの短縮されたフィブリルは、平均フィブリル長さが1μm未満(例えば、0.1~1μm、0.2~0.8μm又は0.4~0.6μm)であり得る。フィブリルの長さ及び/又は径は、例えばCRYO-TEM、SEM又はAFM画像を使用して顕微鏡によって推定され得る。
【0046】
ナノフィブリルセルロースの平均径(幅)は、1μm未満、又は500nm以下(例えば1~500nm)の範囲内であるが、好ましくは200nm以下、さらには100nm以下又は50nm以下(例えば、1~200nm、2~200nm、2~100nm、又は2~50nm)の範囲内、さらには、高度にフィブリル化された材料について2~20nmである。本明細書に開示されている径は、フィブリル及び/又はフィブリル束を指してよい。最も小さなフィブリルは、基本フィブリルのスケールにあり、平均径が、典型的には、2~12nmの範囲内である。フィブリルの寸法及びサイズ分布は、精製方法及び効率に依る。高度に精製された天然ナノフィブリルセルロースの場合には、フィブリル束を含めた、平均フィブリル径が、2~200nm又は5~100nmの範囲内(例えば10~50nmの範囲内)であってよい。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積及び強い水素結合形成能力を特徴とする。水分散物において、ナノフィブリルセルロースは、軽質又は混濁のいずれかのゲル様材料として典型的には現れる。繊維原料に応じて、植物、特に、木材から得られるナノフィブリルセルロースは、少量の他の植物構成要素、特に、木材構成要素、例えばヘミセルロース又はリグニンを含有していてもよい。当該量は、植物源に依る。
【0047】
一般的に、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料についての標準条項を提供するTAPPI W13021に従って各カテゴリーに分けすることができる。これらの材料の全てがナノフィブリルセルロースであるとは限らない。2つの主なカテゴリーは、「ナノ対象物」及び「ナノ構造材料」である。ナノ構造材料には、径が10~12μmであり且つ長さ:径比(L/D)<2である「セルロース微結晶」(CMCと呼ばれることがある)及び径が10~100nmであり且つ長さが0.5~50μmである「セルロースミクロフィブリル」が含まれる。ナノ対象物には、径が3~10nmであり且つL/D>5である「セルロースナノ結晶」(CNC)及び径が5~30nmであり且つL/D>50である「セルロースナノフィブリル」(CNF又はNFC)に分けられ得る「セルロースナノファイバ」が含まれる。本明細書に開示されているナノフィブリルセルロースは、セルロース微結晶若しくはセルロースナノ結晶ではないこと、又はセルロース微結晶若しくはセルロースナノ結晶を含有しないことが定義され得る。
【0048】
さまざまなグレードのナノフィブリルセルロースは、3つの主な特性:(i)サイズ分布、長さ及び径、(ii)化学組成、並びに(iii)レオロジー特性に基づいてカテゴリー化されてよい。グレードを全て記載するために、複数の特性を並行に使用してもよい。さまざまなグレードの例として、天然(又は化学的に変性されていない)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC及びカチオン化NFCが挙げられる。これらの主なグレード内に、サブグレード、例えば:極端によくフィブリル化されたもの対中程度にフィブリル化されたもの、高置換度対低置換度、低粘度対高粘度などが存在する。フィブリル化技術及び化学的な予備変性は、フィブリルサイズ分布に影響する。典型的には、非イオン性グレードは、平均フィブリル径がより大きい(例えば10~100nm又は10~50nmの範囲内)が、化学変性グレードは、著しくより細い(例えば2~20nmの範囲内)。分布も、変性グレードでは、より狭い。ある特定の変性(特に、TEMPO酸化)により、より短いフィブリルが生じる。
【0049】
原料源に応じて、例えば広葉樹パルプと針葉樹パルプでは、最終ナノフィブリルセルロース製品は異なる多糖組成を有する。一般的には、非イオン性グレードは、晒しカバノキパルプから調製され、高いキシレン含有量(25重量%)を生じる。変性グレードは、広葉樹又は針葉樹のいずれかのパルプから調製される。これらの変性グレードでは、ヘミセルロースもセルロースドメインと一緒に変性される。ほぼ確実に、この変性は均質ではなく、すなわち、いくつかの部分が他よりも変性されている。そのため、このような変性製品はさまざまな多糖構造の複雑な混合体であるため、詳細な化学分析は通常は可能ではない。
【0050】
水性環境において、セルロースナノファイバの分散物は、粘弾性ハイドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、分散且つ水和された絡まったフィブリルによって例えば0.05~0.2%(w/w)の比較的低い濃度で既に形成されている。NFCハイドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定によって特性決定され得る。
【0051】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、これらは、ずり減粘又は擬塑性材料であり、チキソトロピー挙動の特別な場合として考えられてよく、これらの粘度は、材料が変形されるスピード(又は力)に依ることを意味している。回転レオメータにおいて粘度を測定する場合、ずり減粘挙動が、剪断速度の増加による粘度の減少として見られる。ハイドロゲルは、塑性挙動を示し、材料が容易に流動し始める前にある特定の剪断応力(力)が必要とされることを意味している。この臨界剪断応力は、多くの場合、降伏応力と呼ばれる。このような降伏応力は、応力制御型レオメータによって測定される定常状態流動曲線から決定され得る。粘度が印加される剪断応力の関数としてプロットされるとき、臨界剪断応力を超えた後に劇的な粘度減少が見られる。ゼロ剪断粘度及び降伏応力は、材料の懸架力を説明するのに最も重要なレオロジーパラメータである。これら2つのパラメータは、さまざまなグレードをかなり明確に分けるため、グレードの分類を可能にする。
【0052】
フィブリル又はフィブリル束の寸法は、例えば、原料、離解方法及び離解実行回数に依る。セルロース原料の機械離解は、精製機、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕機、ピンミル、ロータ-ロータ分散器、超音波破砕機、フリューダイザ(例えば、マイクロフリューダイザ、マクロフリューダイザ又はフリューダイザ型ホモジナイザなど)などのいずれの好適な機器によって実施されてもよい。離解処理は、水が繊維間の結合の形成を防止するために十分に存在する条件で実施される。
【0053】
一例において、離解は、少なくとも1つのロータ、ブレード、又は少なくとも2つのロータを有する類似の可動機械部材(例えばロータ-ロータ分散器など)を有する分散機を使用することによって実施される。分散機において、分散物中の繊維材料は、複数のブレードが回転速度及び半径(回転軸までの距離)によって求められる周辺速度で反対方向に回転するときに、上記材料を反対方向に打ち付けるブレード又はロータのリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向に向かって外側に移動させられるため、反対方向から周辺速度で次々にやってくるブレードの広い表面(すなわち、リブ)上で砕ける;言い換えると、反対方向から複数の連続衝撃を受ける。さらに、ブレードの広い表面(すなわち、リブ)の縁部が次のロータブレードの反対の縁部と共にブレードギャップを形成することにより、このブレードの縁部で剪断力が生じ、この剪断力が、繊維の離解及びフィブリルの脱離に寄与する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、及びデバイスを通る分散体の流量によって決定される。
【0054】
ロータ-ロータ分散器において、繊維材料は、逆回転するロータを介して、ロータの回転軸に対して半径方向に外側に導入され、ここで上記材料は、異なる逆回転ロータの効果によって剪断及び衝突力を繰り返し与えられると同時にフィブリル化される。ロータ-ロータ分散器の一例としては、Atrexデバイスが挙げられる。
【0055】
離解に好適なデバイスの他の例としては、マルチペリフェラルピンミル(multi-peripheral pin mill)などのピンミルが挙げられる。このようなデバイスの一例には、ハウジングが含まれ、これには、衝突表面を備える第1ロータ;上記第1ロータと同心であり且つ衝突表面を備える第2ロータであって、上記第1ロータと反対の方向に回転するように配置されている第2ロータ;又は上記第1ロータと同心であり且つ衝突表面を備えるステータ(stator)が含まれる。このデバイスは、複数のロータの中心又はロータとステータの中心に開放している供給オリフィスをハウジング内に有し、最も外側のロータ又はステータの周辺部に開放している排出オリフィスをハウジング壁上に有する。
【0056】
一例において、離解は、ホモジナイザを使用することによって実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果により均質化される。この繊維材料分散物をナノフィブリルセルロースにする均質化は、分散物の強制貫流(forced through-flow)によって引き起こされ、これにより上記材料はフィブリルに離解される。繊維材料分散物は、狭い貫流ギャップを所定の圧力で通過し、ここで、この分散物の線速度の増加によりこの分散物に対して剪断及び衝撃力が引き起こされ、その結果、繊維材料からフィブリルが除去される。繊維フラグメントは、フィブリル化工程においてフィブリルに離解される。
【0057】
本明細書において使用されている場合、「フィブリル化」という用語は、粒子に付与される作用によって機械的に繊維材料を離解することを概して指し、セルロースフィブリルがこれらの繊維又は繊維フラグメントから脱離されることを指す。この作業は、粉砕、破砕若しくは剪断、又はこれらの組み合わせ、或いは、粒子サイズを低減させる別の相当する作用のような種々の効果に基づいていてよい。「離解」又は「離解処理」という表現は、「フィブリル化」と互換可能に使用されてよい。
【0058】
フィブリル化される繊維材料分散物は、繊維材料と水の混合物であり、本明細書において「パルプ」とも呼ばれる。繊維材料分散物は、繊維全体、繊維全体から分離した部分(フラグメント)、フィブリル束、又は水と混合したフィブリルを概して指してよく、典型的には、水性繊維材料分散物は上記要素の混合物であり、構成要素間の比率は、加工の程度又は処理段階(例えば、同じ繊維材料バッチの処理を通しての実行回数又はこれを「経る」回数)に応じる。
【0059】
ナノフィブリルセルロースを特性決定するための一方法としては、ナノフィブリルセルロースを含有する水溶液の粘度を使用するが挙げられる。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロ剪断粘度であってよい。本明細書に記載されている比粘度は、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースと差別化している。
【0060】
一例において、ナノフィブリルセルロースの見かけ粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)又は別の相当する装置によって測定される。好適には、ベーンスピンドル(ナンバー73)が使用される。見かけ粘度を測定するための、いくつかの市販のブルックフィールド粘度計が利用可能であり、これらはすべて同じ原理に基づいている。好適には、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が、装置において使用される。ナノフィブリルセルロースのサンプルを水中0.8重量%の濃度まで希釈し、10分間混合する。希釈されたサンプル塊を250mlビーカーに加え、温度を20℃±1℃に調節し、必要に応じて加熱し、混合する。低い回転速度10rpmが使用される。概して、ブルックフィールド粘度は、20℃±1℃において、0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定され得る。
【0061】
例えば上記方法において出発物質として提供されるナノフィブリルセルロースは、水溶液の状態での粘度によって特性決定されてよい。粘度は、例えば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化度を表す。一例において、ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上(例えば3000mPa・s以上など)である。一例において、ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、10000mPa・s以上である。一例において、ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、15000mPa・s以上である。水に分散されているときのナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度(20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定)の範囲の例としては、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、及び15000~30000mPa・sが挙げられる。
【0062】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(若しくは幅)によって、又は、平均径に加えて、粘度(例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロ剪断粘度など)及び降伏応力又は貯蔵弾性率によって特徴付けられてもよい。一例において、本明細書に記載されている製品における使用に好適なナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が1~200nm又は1~100nmの範囲内である。一例において、ナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が2~20nm又は5~30nmなど1~50nmの範囲内である。一例において、ナノフィブリルセルロースは、(TEMPO)酸化ナノフィブリルセルロースの場合などでは、平均フィブリル径が2~15nmの範囲内である。
【0063】
フィブリルの径は、顕微鏡法などによるいくつかの技術によって求めてよい。フィブリル厚及び幅分布は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定してもよい。概して、AFM及びTEMは、狭いフィブリル径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0064】
ナノフィブリルセルロース分散物のレオメータ粘度は、狭い間隙の羽根形状(径28mm、長さ42mm)を有する直径30mmの円筒形サンプルカップを備えた応力制御型回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments、UK)によって22℃で測定され得る。サンプルをレオメータに投入した後、5分間静止させた後に測定を開始する。定常状態粘度を徐々に増加する剪断応力(印加トルクに比例)によって測定し、剪断速度(角速度に比例)を測定する。ある特定の剪断応力で報告される粘度(=剪断応力/剪断速度)を一定の剪断速度に達した後又は最大2分後に記録する。剪断速度が1000秒-1を超えたときに測定を停止する。この方法は、ゼロ剪断粘度を求めるのに使用され得る。
【0065】
一例において、例えば上記方法において出発物質として提供されるナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、22℃±1℃において水性溶媒中0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメータによって求められるゼロ剪断粘度(小さい剪断応力において一定粘度の「プラトー」)が、1000~50000Pa・sの範囲内(例えば2000~20000Pa・sの範囲内など)であり、降伏応力(ずり減粘が始まる剪断応力)が、1~30Paの範囲内(例えば3~15Paの範囲内など)である。一例において、ナノフィブリルセルロースは、ゼロ剪断粘度が5000~50000Pa・sの範囲内であり、降伏応力が3~15Paの範囲内である。このようなナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が200nm以下(例えば1~200nmの範囲内など)であってもよい。
【0066】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、平均フィブリルの径が1~200nmの範囲内であり、且つ/又は、水に分散されているとき、25℃、歪み2%、周波数10rad/秒において0.001~100Paの範囲内で剪断応力を段階的に増加する条件で応力制御型回転レオメータにより求められる、貯蔵弾性率が350Pa以上(例えば350~5000Paの範囲内、若しくは好ましくは350~1000Pa)であり、降伏応力が25Pa以上(例えば25~300Paの範囲内、好ましくは25~75Pa)である。
【0067】
濁度は、通常は裸眼では見えない個々の粒子(すなわち、懸濁又は溶解している固体全体)によって引き起こされる流体の混濁又はかすみである。濁度を測定するいくつかの実用的方法があり、最も直接的なものが、光が水のサンプルカラムを通過するときの光の減衰(すなわち、強度の低減)のある尺度である。代替的に使用されるJackson Candle方法(単位:ジャクソン濁度単位又はJTU)は、本質的には、通して見たときにロウソクの炎を完全に覆い隠すのに必要な水のカラムの長さの逆数尺度である。
【0068】
濁度は、光学濁度測定機器を使用することによって定量的に測定されてよい。濁度を定量的に測定するために利用可能ないくつかの市販の濁度計がある。本場合では、比濁法をベースとする方法が使用される。目盛り付きの比濁計からの濁度の単位は、比濁法濁度単位(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)を標準較正サンプルによって較正及び制御し、続いて、希釈されたNFCサンプルの濁度を測定する。
【0069】
1つの濁度測定方法において、ナノフィブリルセルロースサンプルをこのナノフィブリルセルロースのゲル点未満の濃度まで水で希釈し、希釈されたサンプルの濁度を測定する。ナノフィブリルセルロースサンプルの濁度を測定する濃度は0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計が濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロースサンプルの乾燥分を測定し、0.5gのサンプルが、乾燥分として算出され、これを測定容器に投入し、水道水で満たして500gとし、約30秒間振とうすることによって激しく混合する。遅滞なく水性混合物を5つの測定容器に分け、これらを濁度計に挿入する。各容器において3測定を実施する。得られた結果から平均値及び標準偏差を算出し、最終結果をNTU単位として与える。
【0070】
ナノフィブリルセルロースを特性決定する一つの方法は、粘度及び濁度の両方を定義することである。小さなフィブリルでは光の散乱が不十分であるため、低濁度はフィブリルサイズが小さいこと(例えば径が小さいこと)を指す。一般的に、フィブリル化度が増加するにつれて、粘度が増加すると同時に濁度は減少する。しかし、このことが起こるのは、ある特定の時点までである。フィブリル化がさらに継続すると、フィブリルは、最終的に破壊し始め、強いネットワークをそれ以上形成できない。そのため、この時点以降、粘度及び濁度の両方が減少し始める。
【0071】
一例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性溶媒中で0.1%(w/w)の稠度で比濁法(nephelometry)によって測定され、90NTU未満(例えば3~90NTU(例えば5~60NTU)、例えば8~40NTUなど)である。一例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性溶媒中0.1%(w/w)の稠度で20℃±1℃において比濁法によって測定され、200NTUよりも高いことがあり、例えば10~220NTU(例えば20~200NTU)、例えば50~200NTUなどであり得る。ナノフィブリルセルロースを特性決定するために、上記の範囲を、ナノフィブリルセルロース(例えば、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上、3000mPa・s以上、5000mPa・s以上(例えば10000mPa・s以上、例えば15000mPa・s以上など)であるナノフィブリルセルロースなど)の粘度範囲と組み合わせてもよい。
【0072】
ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースであってよいか、又は非変性ナノフィブリルセルロースを含んでいてもよい。非変性ナノフィブリルセルロースの排出は、例えばアニオン性グレードよりも大幅に速い。非変性ナノフィブリルセルロースは、概して、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、2000~10000mPa・sの範囲内である。ナノフィブリルセルロースは、伝導度滴定によって求められる好適なカルボン酸含有量が、0.6~1.4mmol COOH/gの範囲内など(例えば0.7~1.2mmol COOH/gの範囲内、又は0.7~1.0mmol COOH/g、又は0.8~1.2mmol COOH/gの範囲内)であることが好ましい。
【0073】
離解された繊維状セルロース原料は、変性された繊維状原料であってよい。変性された繊維状原料は、これらの繊維が、セルロースナノフィブリルが当該繊維からより容易に脱離可能であるような処理に影響される原料を意味する。上記の変性は、液体中の懸濁液として存在する繊維状セルロース原料、すなわち、パルプに対して通常実施される。
【0074】
繊維に対する変性処理は、化学的、酵素的又は物理的であってよい。化学的変性において、セルロース分子の化学構造は、化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変化し、好ましくは、その結果、セルロース分子の長さは影響されないが、官能基がポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に付加されることになる。セルロースの化学的変性は、ある特定の変換度で起こり、試薬の投与量及び反応条件に依存するものであって、一般的に、完全ではないため、セルロースはフィブリルとして固体形態でとどまって水に溶解しない。物理的変性では、アニオン性、カチオン性若しくは非イオン性物質又はこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着されている。
【0075】
繊維におけるセルロースは、特に、変性後にイオン的に帯電されていてもよい。セルロースのイオン電荷は、繊維の内部結合を弱くし、後に、ナノフィブリルセルロースへの離解を促す。イオン電荷は、セルロースの化学又は物理的変性によって得られてよい。繊維は、出発原料と比較して、変性後により高いアニオン又はカチオン電荷を有し得る。アニオン電荷を作るための最も一般的に使用されている化学的変性方法は、ヒドロキシル基が酸化されてアルデヒド及びカルボキシル基となる酸化や、スルホン化及びカルボキシメチル化である。ナノフィブリルセルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に関与し得る、カルボキシル基などの基を導入する化学的変性が望ましくあり得る。次いで、カチオン基(例えば第4級アンモニウム基など)をセルロースに付着させることによるカチオン化により、カチオン電荷を化学的に作り出してもよい。
【0076】
ナノフィブリルセルロースは、化学的に変性されたナノフィブリルセルロース含んでいてよく、これには、概して、例えばアニオン又はカチオン変性が含まれていてよい。一例において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性されたナノフィブリルセルロースである。一例において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性されたナノフィブリルセルロースではない。一例において、アニオン変性されたナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一例において、アニオン変性されたナノフィブリルセルロースは、スルホン化されたナノフィブリルセルロースである。一例において、アニオン変性されたナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。セルロースのアニオン変性によって得られる材料は、アニオン性セルロースと呼ばれてよく、カルボン酸基などのアニオン基の量又は割合が、かかる変性によって、非変性材料と比較して増加している材料を指す。カルボン酸基の代わりに又はカルボン酸基に加えて、リン酸塩基又は硫酸塩基など、他のアニオン基をセルロースに導入することも可能である。これらの基の含有量は、本明細書においてカルボン酸に関して開示されているものと同じ範囲内であってよい。
【0077】
セルロースは、酸化されてよい。セルロースの酸化において、セルロースの第1級ヒドロキシル基は、複素環式ニトロキシル化合物、例えば、「TEMPO」と一般に呼ばれる2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカルによって、例えばN-オキシル媒介触媒酸化を通して触媒酸化されてよい。セルロースβ-D-グルコピラノース単位の第1級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボン酸基に選択的に酸化される。いくつかのアルデヒド基も、第1級ヒドロキシル基から形成される。酸化度が低いと効率的な十分なフィブリル化を可能にせず、酸化度が高いと機械的破壊処理の後にセルロースの離解を与えるという知見の点で、セルロースは、伝導度滴定によって求められる酸化セルロース中のカルボン酸含有量が、0.5~2.0mmol COOH/パルプ(g)、0.6~1.4mmol COOH/パルプ(g)、又は0.8~1.2mmol COOH/パルプ(g)、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/パルプ(g)の範囲内のレベルまで酸化されてよい。こうして得られる酸化セルロースの繊維は、水中で離解されるとき、例えば3~5nmの幅であり得る個別化されたセルロースフィブリルの安定な透明な分散物をもたらす。酸化パルプを出発媒体として用いることで、0.8%(w/w)の稠度で測定されるブルックフィールド粘度が10000mPa・s以上(例えば10000~30000mPa・sの範囲内)である高度にフィブリル化されたナノフィブリルセルロースを得ることが可能である。
【0078】
この開示において触媒「TEMPO」が言及されているときはいつでも、「TEMPO」が関与する全ての手段及び操作がTEMPOのいずれの誘導体又はセルロースにおけるC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することが可能であるいずれの複素環式ニトロキシルラジカルにも等しく且つ類似的に当てはまることが明らかである。
【0079】
本明細書に開示されているナノフィブリルセルロースの変性は、本明細書に記載されている他のフィブリル状セルロースグレードに適用されてもよい。例えば、高度に精製されたセルロース又はミクロフィブリル状セルロースも、同様に化学的に又は酵素的に変性されてよい。しかし、例えばこれらの材料の最終フィブリル化度に差異がある。
【0080】
一例において、このような化学的に変性されたナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、10000mPa・s以上、15000mPa・s以上、又は18000mPa・s以上である。使用されるアニオン性ナノフィブリルセルロースの例では、ブルックフィールド粘度が、フィブリル化度に応じて、13000~25000mPa・s、13000~20000mPa・s、又は15000~20000mPa・sの範囲内である。
【0081】
一例において、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。上記セルロースは、低い濃度で高粘度を有し、例えば、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、20000mPa・s以上、さらには25000mPa・s以上である。一例において、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、20℃±1℃において、0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定され、20000~30000mPa・s(例えば25000~30000mPa・sなど)の範囲内である。
【0082】
概して、化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、20℃±1℃において0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定されるブルックフィールド粘度が、より低く、2000mPa・s以上、又は3000mPa・s以上である。
【0083】
製造プロセスを向上させる又は製品の特性を改善若しくは調節するための補助剤が、ナノフィブリルセルロース分散物に含まれていてもよい。このような補助剤は、分散物の液体相に可溶であってよく、エマルジョンを形成してよく、又は、固体であってよい。補助剤は、ナノフィブリルセルロース分散物の製造の際、原料に既に添加されていてよいか、又は、形成されたナノフィブリルセルロース分散物若しくはゲルに添加されてよい。補助剤は、例えば、含浸すること、スプレーすること、浸漬すること、浸すこと、又は同様の方法によって最終製品に添加されてよい。補助剤は、通常、ナノフィブリルセルロースに共有結合されておらず、その結果、そのナノセルロースマトリクスから放出可能となり得る。補助剤の制御及び/又は持続放出は、NFCをマトリクスとして使用するときに得られ得る。補助剤の例として、治療剤(医薬品)、及び、緩衝剤、界面活性剤、可塑剤、乳化剤など、上記製品の特性又は上記の活性剤の特性に影響する他の剤が挙げられる。一例において、分散物は、1又は複数の塩を含有し、これらは、最終製品の特性を向上させるために、又は製造プロセスにおける製品からの水の除去を促すために添加され得る。塩の例として、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化カリウムなどの塩化物塩が挙げられる。塩は、分散物中に乾燥分の0.01~1.0%(w/w)の範囲内の量で含まれていてよい。最終製品は、塩化ナトリウムの溶液(例えば約0.9%の塩化ナトリウム水溶液など)に浸漬されても浸されてもよい。最終製品中の所望の塩含有量は、湿潤製品の重量の0.5~1%(例えば約0.9%など)の範囲内にあってよい。塩、緩衝剤及び同様の薬剤は、生理学的条件を得るように付与されてよい。
【0084】
多価カチオンは、ナノフィブリルセルロースの非共有結合架橋を得るように含まれていてよい。一例は、ナノフィブリルセルロース(特に、アニオン変性されたナノフィブリルセルロース)、及び多価カチオン(例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、金、白金及びチタンのカチオンから選択される多価金属カチオンなど)を含むナノフィブリルセルロース製品であって、ナノフィブリルセルロースが多価カチオンによって架橋されている製品が提供される。多価カチオンの量は、ハイドロゲルの乾燥分から算出され、0.1~3%(w/w)(例えば0.1~2%(w/w))の範囲内であってよい。
【0085】
一例は、このようなハイドロゲルを調製するための方法であって、パルプを準備すること、上記パルプをナノフィブリルセルロースが得られるまで離解すること、及び得られたナノフィブリルセルロースをハイドロゲルとすることを含む方法が提供される。
【0086】
ナノフィブリルセルロースは、所望のフィブリル化度にフィブリル化され、且つ所望の含水量に調節されるか、又は他の場合には変性されてもよく、その結果、本明細書に記載されている所望の特性を有するゲルを形成することになる。一例において、ハイドロゲル中のナノフィブリルセルロースは、アニオン変性されたナノフィブリルセルロースである。
【0087】
医療又は科学ハイドロゲルとして使用されるハイドロゲルは、均質である必要がある。そのため、ハイドロゲルを調製するための方法は、ナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルを、好ましくは、本明細書に記載されているものなどの均質化デバイスによって均質化することを含み得る。この好ましくは非フィブリル化均質化工程により、ゲルから非連続の領域を除去することが可能である。これらの用途により良好な特性を有する均質なゲルが得られる。ハイドロゲルは、例えば、熱及び/又は放射線を使用することによって、及び/又は、抗菌剤などの滅菌剤を添加することによって、さらに滅菌されてよい。
【0088】
対象物の製造
本明細書に開示されているハイドロゲルは、特定の創傷に適合するように個別化(tailored)されていてよい。ハイドロゲル(特に、ナノフィブリルセルロースの含有量が2~3.5%(w/w)の範囲内であるハイドロゲル)の成形性又は形成性は、特定の要求に応じて個別化(tailored)されてよいこのような予め形成された又は予め形作られた構造又は製品の調製を可能とする。1又は複数の製造デバイス(複数可)、金型(複数可)、並びに、又は、製造デバイス(複数可)及び/若しくはプロセスを制御するためのコンピュータ化された制御デバイスなどの他のデバイス若しくは材料が付与されてよい。予め形成された又は予め形作られた製品を付与することは、ハイドロゲルを創傷において成形して深い組織の損傷又は刺激を回避するのには望ましくない深い創傷を処置するときに有用であり得る。
【0089】
創傷被覆材であってよい予め形成された構造は、例えば、成形によって、又は3D印刷として一般に知られている積層造形(additive manufacturing)を使用することによって製造され得る。積層造形は、材料をコンピュータ制御下で接合又は固体化して三次元対象物を作り出すプロセスである。これは、金型を用いずに実施され得る。このような材料は、例えば当該材料を付与又は吐出するための1又は複数のノズルを使用及び制御することによって、一層ずつ共に添加されてよい。
【0090】
このような方法では、個別化された構造が適用される創傷又は他の損傷の三次元構造についての情報を得ることが必要であり得る。情報は、このような創傷及び/又はこのような創傷に適合するように設計された対象物のデジタル三次元モデルを調製するのに使用される。こうして、かかる創傷に適合するように設計された対象物のデジタル三次元モデルが得られ、提供され得る。このことは、創傷又は他の損傷などの標的を例えば3Dスキャナ又は標的の三次元情報を得るための他の手段によってまず走査し、標的の三次元情報を使用して、標的のデジタル三次元モデルを作り出すことによって実施され得る。デジタル三次元モデルは、さらなる製造デバイスによって出力されると、個別化された創傷被覆材などの所望の対象物を生成するように構成されていてよい。そのため、一例において、デジタル三次元モデルは、創傷の3Dスキャンから得られる。創傷のこの三次元モデルは、創傷全体の形状又はその一部を含んでいてよいか、又はかかる形状に対応していてよい。
【0091】
したがって、
-医療用ハイドロゲルを提供すること、
-創傷に適合するように設計された対象のデジタル三次元モデルを得ること、及び
-積層造形(additive manufacturing)によって、上記デジタル三次元モデルに従って上記医療用ハイドロゲルから三次元対象物を調製して、上記創傷を適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材を得ること
を含む、個別化された(tailored)創傷被覆材を調製するための方法が提供される。
【0092】
創傷又は他の損傷の三次元構造についての情報を得ることは、3D撮像デバイスとも呼ばれる、標的の三次元画像若しくはモデルを作り出すことが可能である好適な撮像デバイス、又は、かかる撮像デバイスを含むシステムを使用することによって実施されてよい。撮像デバイスは、3D走査デバイスであってよい。3D走査は、実在の対象物又は環境を分析してその形状及び場合により色などのその外観についてのデータを収集するプロセスである。収集されたデータは、次いで、デジタル3Dモデルを構築するために使用され得る。3D走査デバイスは、接触タイプ及び非接触タイプに分類され得る。接触タイプは、創傷の場合には望ましくないことがあるので、本明細書において使用される撮像デバイスは、好ましくは非接触タイプであり、これは、受動であっても能動であってもよい。能動スキャナは、対象物又は環境を探査するために、音、放射線又は光を放出して、かかる対象物を通過するその反射又は放射線を検出する。使用される可能なタイプの放出には、光、超音波又はx線が含まれる。能動撮像デバイスは、例えば、飛行時間型、三角測量、若しくはコノスコープレーザスキャナなどの3Dレーザスキャナ;又は構造化光若しくは調光3Dスキャナであってよい。受動撮像デバイスは、例えば、2つのカメラを含むものなどの立体系であっても、測光系であってもよい。
【0093】
上記方法は、3D撮像デバイスを提供すること、及び上記3D撮像デバイスを使用することによって創傷に適合するように設計された対象のデジタル三次元モデルを得ることを含んでいてよい。
【0094】
上記方法は、3Dプリンタ、又は、ハイドロゲル用の1若しくは複数の容器(複数可)、1若しくは複数のノズル若しくは同様の吐出手段、1若しくは複数のノズル(複数可)を移動させるための1若しくは複数のアクチュエータ(複数可)、及び1若しくは複数のノズル(複数可)の移動を制御して積層造形により所望の対象物を得るための1若しくは複数の制御ユニット(複数可)を含む又はこれらを収容するように構成されている他の好適なデバイスなどの積層造形デバイスを付与することを含んでいてよい。最終対象物は、創傷などの走査された対象物の形状に完全又は部分的のいずれかで対応する形状を含んでいてよい。
【0095】
創傷の一全体形状に適合するようにアレンジされている全体形状など、所定の形状を有する創傷被覆材を製造することも可能である。好ましくは創傷の一般的な形状又はタイプに適合するようにアレンジされている、異なる所定の形状を有する一連の創傷被覆材が製造及び/又は提供されてよい。デジタル三次元モデル(複数可)は、使用されてもされなくてもよく、一例では、上記で検討したように、既存の創傷又は特定の創傷を画像化することにより三次元モデル(複数可)を得ることは行わない。代わりに、例えばコンピュータにより設計することによって、三次元モデルを一般的モデルとして作り出してもよい。創傷被覆材(複数可)を成形するための1又は複数の金型(複数可)を含む製造デバイスも提供されてよく、且つ/又はかかる全体の製品を調製するために使用されてよい。異なる形状を有する一連の全体の創傷被覆材は、他の創傷被覆材及び/又は治癒製品(複数可)をさらに含有していてよい、好ましくは密封パッキング(複数可)に充填(packed)されて、例えば、キットにおいて提供されてよい。
【0096】
ナノフィブリルセルロースは、最終創傷被覆材において望まれる稠度で、3Dプリンタなどの製造デバイスに付与されてよい。ナノフィブリルセルロースは、濃度が1.5~3.5%(w/w)、2.0~3.5%(w/w)若しくは2.5~3.5%(w/w)である分散物若しくはハイドロゲルとして存在していてよいか、又は、上記濃度は、より低くても、より高くてもよく、製造デバイスに取り付けられるように設計され得る容器(例えば、シリンジ、アンプル、ボトル、チューブ、カセットなど)内に提供される。
【0097】
ナノフィブリルセルロースを3D印刷する場合、そのプロセスは、従来の3D印刷プロセスとは異なる。セルロースは、加熱されたても溶融しないため、プラスチック、金属などの印刷材料に使用される方法及びデバイスが適用可能ではない場合がある。1又は複数のシリンジを利用することがあるシリンジベースのデバイスなど、特定の製造デバイスを使用しなければならないことがある。このようなデバイスは、液体、ペースト、ゲル又はスラリーを取り扱い且つ印刷することが可能であるため、ナノフィブリルセルロースハイドロゲル材料に好適である。製造デバイスは、当該デバイスを制御するように構成されている制御ユニットに操作可能に保存されているソフトウェアを含んでいてよいか、又は、上記デバイスは、ソフトウェアを含むコンピュータなどの外部の制御ユニットに接続されていてよい。ソフトウェア、したがって製造デバイスも、三次元対象物を製造するためのテンプレートとしてデジタル三次元モデルを使用するように構成されていてよい。
【0098】
ずり減粘又はチキソトロピー材料としてのナノフィブリルセルロースは、積層造形において使用される従来の材料とは異なった挙動を示す。剪断力が材料に適用されると、例えば材料が混合され、プレスされ及び/又はノズルを通して押し進められると、ナノフィブリルセルロースゲルは減粘挙動を示し、これにより標的への材料の流れが促進される。しかし、材料が印刷されたか又は製造デバイスから吐出された後は、その粘度は、以前のより高い粘度の状態に戻る。このことは、所望の医療用ハイドロゲル構造を用いて支持体を形成する際に問題となることがあるが、3D印刷プロセス及びかかる所望の構造の形成を容易とすることもある。例えば、ハイドロゲルのずり減粘又はチキソトロピーにより、上記材料を成形し且つ所望の構造を形成することが可能となる好適な開放時間(open time)をもたらし得る。通常、温度を制御する必要はなく、例えば、上記材料を成形するため又は固める(setting)する目的で加熱及び/又は冷却する必要はないが、上記プロセスは、室温又は周囲温度で実施されてよい。
【0099】
医療用ハイドロゲル構造は、支持体上に製造又は印刷されてよく、支持体は、金属、プラスチック若しくは他の好適な材料であってよいか、又は、非粘性コーティング、膜などでコーティングされていてよい。
【0100】
吐出された材料を乾燥、析出又は固定する必要がある場合があり、そのため、上記方法は、乾燥、析出又は固定工程を含み得る。例えば、構造体を形成する及び/又は構造体を脱水するために、真空若しくは圧力下、並びに/又は凍結及び/若しくは加熱を利用してよい。乾燥、析出又は固定は、最終構造体のみに対して実施してもよいか、又は、2回以上繰り返してもよい。積層造形では、1を超える層を付与することにより実施する場合、新しい層を付与する前に、材料を10~30分間(例えば約15分間)乾燥、析出又は固定させる必要がある場合がある。上記層が、例えばシリンジ及び注入ニードルを使用することによって手動で付与される場合、当該層を、新しい層を付与する前により長い時間(例えば30~60分間など)乾燥、析出又は固定させる必要がある場合がある。
【0101】
製造デバイスのノズルなどの吐出手段は、重要な役割をすることもある。この吐出デバイスの一例がシリンジであり、新たな又は未使用のシリンジを毎回使用するべきであることが好ましいことが分かった。ニードル(好ましくは金属製ニードル)がノズルとして作用し得る。ニードルは、注入ニードルなど、例えば、名目上の内径が1.194mmである、約16ゲージニードルであってよい。概して、ノズルは、内径が、0.3~3.0mm(例えば0.3~2.0mmなど)、例えば0.3~1.5mm、0.4~1.5mm又は0.4~1.3mmの範囲内であってよい。
【0102】
積層造形の後、上記材料(すなわち、医療用ハイドロゲル)を、例えば30分間以上又は60分間以上乾燥、析出又は固定させる必要がある場合がある。医療用ハイドロゲルは、特に、10℃未満など(例えば2~10℃又は4~8℃)の冷蔵庫内温度で貯蔵される場合、製造後、少なくとも2週間貯蔵されてよい。医療用ハイドロゲルは、密封パッキングに充填(packed)されてよい。
【0103】
本願は、創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材であって、創傷に適合するように個別化された医療用ハイドロゲルを含む創傷被覆材を提供する。かかる製品は、上記に開示されている積層造形方法によって得られ得る。かかる個別化された創傷被覆材は、機械的に安定であり、その形状を保持する。創傷に適合するように個別化されているため、被覆材を創傷へ適用しても、患者に不要な疼痛を引き起こさず、又は創傷を損傷しない。このような場合には、被覆材を手動で成形する必要がない。
【0104】
創傷に適合するように個別化された上記創傷被覆材は、本明細書に開示されているナノフィブリルセルロースのみを含有していてもよく、大部分がナノフィブリルセルロースを含有していてよい。しかし、例えば大きな及び/又は異常な形状の創傷の場合には、被覆材に対して支持部分(例えば、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルによってコーティングされた内側部分又は別の層)を含ませることが可能であり得る。支持部分は、実際のハイドロゲルの一部である必要はなく、ハイドロゲルとは異なる材料(複数可)(例えば、非ナノフィブリルセルロース、プラスチック、又はこれらの複合体などの補強材料)を含んでいてよい。
【0105】
本願は、1若しくは複数の密封パッケージ(複数可)に、又は、1若しくは複数の適用デバイス(複数可)(例えば、シリンジ、アプリケータ、ポンプ若しくはチューブなど)に充填されている(packed)医療用ハイドロゲルを含有するキットを提供する。上記キットは、創傷において血管新生を誘導するために、及び/又は、真皮の及び/若しくはその下の組織の深い創傷を処置するために(好ましくは血管新生を誘導するために、又は本明細書に開示されている他の目的のために)医療用ハイドロゲルを使用するための説明書を含んでいてよい。
【0106】
上記キットは、好ましくは含水率が10%(w/w)未満(例えば1~10%(w/w)又は5~10%(w/w)の範囲内)である、ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品の1又は複数のシート(複数可)をさらに含んでいてよい。かかる製品は、創傷を本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルでまず被覆すること、所定期間にわたってインキュベート、処置又は待機すること、及び医療用ハイドロゲルを、ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む異なる医療製品によって置き換えることを含む処置方法において使用され得る。この場合において、創傷における血管新生が開始され得、好適な時間の後、創傷における状態は異なっており、当該創傷には異なる医療製品が適用されてよく、次いで、既に血管新生されている創傷の治癒をより良好に促す。上記の第1医療製品(すなわち、上記ハイドロゲル)は、第1段階において、創傷から、例えば、微生物、不純物、代謝産物など有害な物質を吸収し得、この治癒プロセスを促して、創傷を、処置の第2段階における第2医療製品の影響を受けやすくし得る。キットは、医療用ハイドロゲルを使用するための説明書、並びに、創傷における血管新生を誘導するため、及び/又は、真皮の及び/又はその舌の組織の深い創傷を処置するため、好ましくは血管新生を誘導するため、又は本明細書に開示されている他の目的のためなどの処置方法におけるガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品の1又は複数のシート(複数可)を含んでいてよい。
【0107】
例えば、上記キットは
-上記医療用ハイドロゲルを深い創傷に、例えば本明細書に開示されている期間にわたって適用する、
-創傷から医療用ハイドロゲルを除去する、並びに
-ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品を創傷に適用する
ための説明書を含んでいてよい。
【0108】
ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品は、ナノフィブリルセルロースが含浸されたガーゼを含んでいてよい。
【0109】
本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルは、創傷を処置するための方法など、本明細書に開示されている方法のいずれかにおける、特に、深い創傷を処置するための方法における使用のために提供され得る。上記方法は、血管新生を誘導するための方法であってもよい。処置される対象は、ヒト又は動物対象又は患者などの患者であってよい。
【0110】
一例において、方法は
-好ましくは、対象における真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を検出すること、又は、真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷の処置の必要がある対象を検出すること、
-本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルを提供すること、
-医療用ハイドロゲルを上記深い創傷に適用すること
を含む。医療用ハイドロゲルは、創傷若しくは創傷の組織(複数可)における血管新生及び/又は他の治癒効果を付与するのに十分な期間にわたって、適用後に創傷において維持され得る。この期間は、例えば、少なくとも1日、2日、3日、4日、若しくは5日、最大7日、10日若しくは14日、1~7日、1~5日、1~4日、1~3日、1~2日、2~14日、2~7日など、例えば1~14日、又は12~168時間若しくは24~168時間などの6~168時間、いくつかの場合においては、6~24時間若しくは6~12時間などの6~48時間であってよい。
【0111】
上記期間の後、医療用ハイドロゲルを創傷から除去してよく、第2創傷被覆材を創傷に適用してもよい。第2創傷被覆材は、ナノフィブリルセルロースを含んでいてもよいが、異なるタイプのものであってよい。第2創傷被覆材は、ナノフィブリルセルロースの層(好ましくはガーゼの層)を含んでいてよく、又は、ナノフィブリルセルロースが含浸されたガーゼを含んでいてよい。第2創傷被覆材は、少なくとも6時間又は少なくとも12時間若しくは24時間、又は少なくとも1日、2日、3日、4日若しくは5日、最大7日、例えば12~168時間、12~72時間、12~48時間若しくは6~24時間、損傷において維持され得る。1又は複数のさらなる創傷被覆材(複数可)を、それ以前の創傷被覆材が除去された後に適用してもよい。医療用ハイドロゲルが、外科手術方法など、例えば皮膚移植及び/又は縫合(複数可)の適用によって創傷から除去された後、同様の新たな若しくは未使用のハイドロゲルによって、又は他の材料(複数可)及び/又は方法(複数可)によって再び創傷を処置することも可能である。
【0112】
一例において、方法は、
-好ましくは、対象における真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を検出すること、又は、真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷の処置の必要がある対象を検出すること、
-本明細書に開示されている医療用ハイドロゲルを提供すること、
-医療用ハイドロゲルを深い創傷に、好ましくは本明細書に開示されている期間にわたって適用すること、
-医療用ハイドロゲルを創傷から除去すること、並びに
-ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品(例えばナノフィブリルセルロースが含浸されたガーゼなど)を創傷に適用すること
を含む。
【0113】
本願は、上記方法における使用のための医療用ハイドロゲルも提供する。
【実施例】
【0114】
実施例1
NFC由来の生体材料(特に、アニオン性NFC(ANFC))がhASCに最適な足場を付与する可能性、並びにhASC及びANFCが共に創傷治癒を促進するか否かを、慢性の創傷モデルに進む前の健康なマウスにおける副子付きの全厚切除皮膚創傷モデルでin vivoにおいて研究した。このモデルでは、縫合糸によって皮膚に取り付けたシリコーンリングによって創傷を囲むことにより、創傷の収縮を防止する。このモデルは、創傷修復が主に肉芽組織形成及び再上皮形成を経て進行するヒト創傷治癒プロセスを模倣している。目的は、細胞移植のさらなる接着タンパク質を使用することを回避することであった。この研究のために、ANFCを天然NFCと共に試験した。NFC被覆材材料の安全性はこれまでの研究において証明されているが、天然NFC被覆材は、新たに形成される皮膚構造の偏在を改善することも示された(
図1)。
【0115】
図1は、NFC被覆材(タイプ1被覆材)によって処置されたヒト化マウスにおける創傷の組織病理学的評価を示す。
図1Aは、処置されていない傷害(動物71NT)の場合であり、真皮が、炎症細胞浸潤物で満ちた小さな細い無秩序な(disorganized)コラーゲン線維として現れ始めている。皮下組織は、少数の脂肪細胞と共に存在し、免疫細胞の浸潤物も含んでいる。また、免疫炎症細胞は、無秩序な筋層においても存在し、領域全てを被覆している。このことは、再生の初期プロセスが、予期したように下層で開始されている一方、再生の際に皮膚の全ての層において急性炎症を伴っていることを示している。
図1Bは、タイプ1被覆材処置傷害(動物71T)の場合であり、皮層は、平行に組織化されている(organized)コラーゲン線維を含んでおり、全ての皮層に免疫細胞浸潤が豊富に存在している。皮下組織は脂肪細胞を有し、いくつかのコラーゲン線維と共に組織化し始めているが、コラーゲン線維によって充填された脂肪細胞と共に回復及び組織化されるのと平行して、炎症及び免疫細胞を依然として含んでいるが、いくつかの血液細胞が依然として周囲にある。筋肉は、免疫細胞浸潤を停止することなく回復及び充填される。Ar:動脈;Col:コラーゲン;Ep:表皮;Hp:脂肪含有皮下組織;IIC:炎症浸潤細胞;Ms:筋肉;V:静脈。
【0116】
治癒プロセスに対するANFC及びhASCの効果、並びにANFCの細胞足場としての適正を研究するための創傷治癒実験では、マウスをイソフルラン(誘導するために5l/分で4~5%、外科手術の際に維持するために1l/分中1~2%)で麻酔した。この動物の背部の毛を脊柱のいずれかの側の約2cm2のエリアから剃り、皮膚をクロロヘキシジンで消毒する。剃った背部の表面に、脊柱の一方の側に脊柱から約0.5cmの距離に、及び胸郭の高さに、全体厚が6mmの創傷を2つ、生検パンチを使用して作った。次に、シリコーンリングを8本の縫合糸を使用して切除を囲むように皮膚の表面上で縫合することにより、創傷の収縮を防止した。この動物研究において使用した全ての試薬及び材料は、無菌方法により製作した。
【0117】
マウスを、無作為化を使用して異なる研究群に分けた(N=4/群/タイムポイント)。PBSで処置した「模擬(sham)」群は対照としての役割をする。全ての群についてのサンプルサイズを以下のように算出する:
【0118】
処置が行われない場合とは異なるといことを結論付ける機会(タイプ1誤差率)=5%
変動係数(CV)=15%
予期される又は検出対象の効果の大きさ(d)=25%
複製の数(r)=15.7*(CV/d)2、そのため、r=5.65=6。
【0119】
処置群当たり6個の創傷を準備した。各動物に創傷を2つ作ったので、処置群当たり4匹の動物が必要である。また、4種類の処置を3つのタイムポイントで分析した:4匹の動物×3群×3つのタイムポイント=36匹の動物。健康なマウス(n=36)を付与することにより処置を実施した(n=12/群×3群)。これらの動物を処置群又はその処置群の模擬対照(n=12)、ANFC(n=12)及びhASC(n=12)に割り当てた。hASC単独を創傷床上への局所処置として注入した(100μl、1×107細胞/創傷面積(cm2))。
【0120】
処置によって創傷を引き起こした後、創傷を透明フィルム及びガーゼによって保護し、動物の体の周りを縛る伸縮包帯によって被覆した。動物を暖かい環境に収容し、マウスグリマススケール(Mouse Grimace scale)及び研究を開始する前に指定の獣医によって合意された修正スコアシートに従って、毎日モニタリング及びスコアリングした。
【0121】
創傷治癒の進行を観察及び撮影し、創傷が塞がるまでの創傷治癒速度を算出した。3日目、7日目及び21日目にマウスを麻酔し、創傷から矩形の試料を切り出し、半分に分けて、組織学的研究又は組織タンパク質溶解物調製に使用した。この操作の後、これらの動物を屠殺した。
【0122】
組織学的皮膚サンプルを10%ホルマリンで+4℃で一晩固定し、洗浄し、キシレンで洗浄し、パラフィンに包埋した。パラフィン中のサンプルを、ミクロトームを使用して切片化し、スライドガラスに載せて免疫組織化学的染色した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を使用して再上皮形成を評価し、マッソントリクローム染色により肉芽組織形成を評価した。特異的マーカー抗体を染色に使用して、表皮閉鎖(ケラチンK14)、及び、表皮の増殖を検出するために増殖核抗原(PCNA)の発現を調べた。血管形成は、血管ネットワークを検出するために、内皮細胞マーカーCD31及びα-平滑筋アクチン(α-SMA)によってサンプルを染色することにより検査する。創傷への免疫細胞の浸潤を、それぞれマクロファージ及び好中球を検出するためのF4.80及びGr-1に対する抗体を用いて調べた。移植されたhASCをヒト核抗原(HNA)に対する抗体を用いて検出して、これらの、宿主組織内への統合(integration)を調べた。in vivoでのhASCからのGFのパラクリン分泌を調べるために、VEGF、FGF2及びHGFを含めたGFを、HNAと共に適切な抗体により二重染色をすることにより調べ、宿主組織でのhASCの生物活性を立証した。
【0123】
組織タンパク質溶解物を調製するために、組織サンプルを液体窒素中でスナップ凍結した後、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含有するRIPA緩衝液中で均質化した。タンパク質溶解物をウェスタンブロット分析に供して、β-アクチン発現に正規化されたVEGF、FGF2及びHGFを含めたGFの発現を調べ、hASCのパラクリンシグナル伝達機構をさらに確認した。
【0124】
2群間での統計的差異を、スチューデントt試験、並びに、一元配置分散分析(ANOVA)及びその後の続いてのテューキー多重比較試験による3以上の群間での比較によって評価した。異なるデータセット間の相関をスピアマン相関試験によって分析した。
【0125】
結果
行った実験において、
図2に示されているように、アニオン性ナノフィブリルセルロース(ANFC)ハイドロゲルは、化学的に変性されていないナノフィブリルセルロース(GrowDex)及び対照サンプル(処置なし)と比較して、創傷被覆を促進させることが示された。特に、この材料の、創傷における血管新生の前(pre-vascularization)に対する効果を調べた。これは、真皮の又はその下の創傷などの深い創傷において望ましい。
【0126】
創傷被覆に加えて、実験の7日目(d7)のa-SMA染色によって、ANFCハイドロゲルは、対照サンプル(
図3)と比較して線維芽細胞活性化を刺激することが示された。この染色は、3.2%(w/w)アニオン性ナノフィブリルセルロースによって処置した創傷では明白であったが、化学変性されていないナノフィブリルセルロース(GrowDex)ではそうではなかった。そのため、これらの実験に基づくと、ANFCハイドロゲルは線維芽細胞活性化に有益であるため、組織における血管形成を結果として生じさせると結論付けることができる。
【0127】
図3は、線維芽細胞活性化の刺激からの結果を示す。
図3に示されているように、3.2%(w/w)アニオン性ナノフィブリルセルロース(ANFC)ハイドロゲルは、化学変性されていないナノフィブリルセルロース及び対照サンプル(処置なし)よりも線維芽細胞活性化を刺激することが分かる。
図3Aは、α-SMA染色7日目(d7)での、様々な材料における線維芽細胞の活性化を示す。
図3Bは、様々な材料におけるα-SMA染色強度を示すグラフである。
【0128】
比較試験では、5.3%(w/w)のナノフィブリルセルロースを含むアニオン性ナノフィブリルセルロースハイドロゲルは、血管新生効果を示さず、このハイドロゲルは乾燥しやすい傾向があったことが示された。しかし、2.65%(w/w)のナノフィブリルセルロースを含む同様のハイドロゲルは、前血管新生(pre-vascularization)を増強し、この材料は湿ったままであった。概して、約3%(w/w)の割合が有利であることが分かり、そのため、大部分の試験を約3.2%(w/w)のナノフィブリルセルロース濃度で実施した。
【0129】
しかし、ハイドロゲルの成形性は、ゲルの濃度が低すぎると低下する。1%(w/w)未満のナノフィブリルセルロース濃度はあまり有用ではなく、特に、積層造形を使用する場合にこの材料の印刷性が劣る。2%(w/w)以上の濃度が積層造形の点に関しても大抵の場合において有利である。
【0130】
まとめると、NFCハイドロゲル及びその誘導体は、培養におけるhASC細胞成長及び特性を促進することにより、足場に有益な材料となる。NFCベースの被覆材は、宿主組織の生物活性を促進して組織修復を促す。創傷治癒を促進することにより、NFCハイドロゲル及び/又は被覆材は、創傷治癒のための新たな効率的な処置となる。
【0131】
実施例2:ニワトリ試験
試験対象としてニワトリ肉片を使用して、様々なハイドロゲルの成形性及び安定性を検査した。ニワトリに大きな深い創傷を作り、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルで被覆した。NFCロット11428及び11473を創傷に適用した。
【0132】
3.27%(w/w)のNFCを含むアニオン性ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを手動でタッピングすることにより創傷内に成形し(
図4A)、この創傷からほぼ完全に取り外した。除去されたゲルの形状は、創傷の形状を再現していた(
図4B)。しかし、ゲルの構造は僅かに崩壊しており、小片が創傷に残っていたが、水によって容易に洗い流すことができた。このゲルは、2.65%のゲルよりも良好に外部水に対する耐性があった。
【0133】
2.65%(w/w)のNFCを含むアニオン性ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを、非常に少ないタッピングによって創傷内に円滑に成形することができた(
図5A)。しかし、このゲルは、粘着性且つ接着性であったため、創傷から除去することが難しかった。除去されたゲルの形状(
図5B)は、上記の3.27%のゲルのようには、創傷の形状を再現しなかった。創傷に残った材料は、大量の水で洗い流すことができた。
【0134】
実施例3:測定
レオロジー測定
レオロジー測定を、温度制御のためのペルチェシステムを備えたHAAKE Viscotester iQ Rheometer(Thermo Fisher Scientific,Karlsruhe,Germany)によって37℃で実施した。結果をHAAKE RheoWin4.0ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)によって分析した。平行な35mm径の鋼板-板配置を全ての測定において1mmギャップで使用した。各測定の前に、これらのサンプルを37℃で5分間静止させた。制御した応力振幅掃引を実施して、さまざまなNFCハイドロゲル製剤について線形粘弾性領域を求めた。一定の角周波数ω=1Hz及び0.0001~500Paの間の振動応力を全ての振幅掃引において使用した。周波数掃引について選択した振動応力はτ=50Paであった。剪断速度を0.1から1000(1/秒)まで増加させることによって剪断粘度を測定した。
【0135】
3.2%(w/w)アニオン性ナノフィブリルセルロースの剪断粘度(自身の濃度において)を剪断速度0.1(1/秒)で測定した。粘度値は1750Pa・sであった。
【0136】
保水含量
保水含量を以下の手順に従って測定した。
【0137】
ÅAGWR(Åbo Akademi重量保水(Gravitometric Water Retention))は、Åbo Akademiによって開発された、塗工カラー静的保水(coating colour static water retention)方法である。ÅAGWR-ハイドロゲルは、ÅAGWRデバイスについて開発されたハイドロゲル保水容量(hydrogel water retention capacity)方法である。
【0138】
所定の時間及び圧力でメンブレン箔を通過したサンプルの液相量を測定した。ハイドロゲルに吸収された水の量を算出した。
【0139】
上記測定ではÅAGWRデバイスを使用した。このデバイスは、金属シリンダ、平衡プラグ、及びゴム製測定台を含む。Whatman 17CHRブロッティングボード(blotting boark)及びWhatman Nucleopore0.4μmメンブレン箔(径47mm)並びに、ストップウォッチ及び分析てんびん(精度0.0001g)を使用した。
【0140】
サンプルをオーブンで105℃の温度に4時間保つことによって、ハイドロゲルの乾燥分を求めた。ハイドロゲルの重量を乾燥前後で求めた。ブロッティングボードを57mm×57mm片に切断した。
【0141】
測定手順は以下の通りであった。
【0142】
測定対象のハイドロゲルをスプーンで完全に混合する。ÅAGWRデバイスの測定圧力として、圧力空気を接続して0.5バールに調整する。2つの平衡化ブロッティングボード片のワイヤ側を上向きにして、ゴム製測定台にセットする。メンブレン箔の光沢面を上向きにして、ブロッティングボードにセットする。金属シリンダをフィルタ上に置く。
【0143】
約5gハイドロゲルをシリンダに投入し、平衡プラグをメスシリンダに数秒間入れることによりメンブレンに対して面被覆する。ゴム製測定台をフィルタ及びシリンダと共にデバイスの測定台にセットし、この測定台を持ち上げる(CYLINDER)。
【0144】
ゴム製プラグを適所にセットし、圧力を(PRESSURE)に接続し、ストップウォッチを開始する。圧力を3分間相互作用させ、次いで圧力を停止し(PRESSURE)、測定台を降ろし(CYLINDER)、ゴム製測定台を測定台から取り出す。シリンダをメンブレン箔と共にブロッティングボードから除去し、ブロッティングボードを0.1gの精度で秤量する。
【0145】
2つの平行測定を実施する。試験結果が互いに5%を超えて異なる場合、さらなる平行測定(最大3測定/サンプル)を実施する。
【0146】
結果の算出及び報告
【数1】
X:ハイドロゲル保水容量(g/g)
A:ハイドロゲル湿重量(g)
B:ハイドロゲル乾燥重量(g)
a:ブロッティングボード湿重量(g)
b:ブロッティングボード乾燥重量(g)
C:ハイドロゲル乾燥分
【0147】
ハイドロゲル保水容量試験の結果は2平行測定の平均である。測定精度は0.1g/gである。試験結果が互いに5%を超えて異なる場合、さらなる平行測定(最大3測定/サンプル)を実施する。
【0148】
3.2%(w/w)アニオン性ナノフィブリルセルロースハイドロゲルについて、保水値が乾燥ハイドロゲル1g当たり28.5gの水と測定され、深い創傷に適用して血管新生を誘導するための試験において特に有利であることが分かった。
本発明は以下の態様を含む。
<1>
アニオン変性パルプ(例えば木材パルプなど)を準備すること、又は、パルプ(例えば木材パルプなど)を準備し、前記パルプをアニオン変性すること、
アニオン変性したパルプを、平均フィブリル径が200nm以下であるナノフィブリルセルロースが得られるまで離解すること、
離解されたアニオン変性パルプを、1又は複数の非フィブリル化均質化工程において均質化すること、
ナノフィブリルセルロースを、ナノフィブリルセルロースの含有量が2~3.5%(w/w)(例えば2.5~3.5%(w/w)など)の範囲内の成形可能な医療用ハイドロゲルであって、ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が500~2200Pa・sの範囲内(例えば700~1800Pa・sの範囲内など)である、成形可能な医療用ハイドロゲルとすること、
を含む、成形可能な医療用ハイドロゲルを調製するための方法。
<2>
ナノフィブリルセルロースを含む成形可能な医療用ハイドロゲルであって、前記ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量が、2~3.5%(w/w)の範囲内であり、前記ナノフィブリルセルロースが、平均フィブリル径が200nm以下であるアニオン性ナノフィブリルセルロースを含み、前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、500~2200Pa・sの範囲内である、前記成形可能な医療用ハイドロゲル。
<3>
前記ハイドロゲルにおけるナノフィブリルセルロースの含有量が、2.5~3.5%(w/w)の範囲内である、<2>に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<4>
前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲルの濃度において0.1 1/秒の剪断速度で37℃において粘度計によって測定される粘度が、700~1800Pa・sの範囲内である、<2>又は<3>に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<5>
前記ナノフィブリルセルロースは、ÅAGWR(Åbo Akademi重量保水(Gravitometric Water Retention))法によって測定される保水値が、乾燥ハイドロゲル1g当たり20~70gの水(好ましくは乾燥ハイドロゲル1g当たり23~50gの水)の範囲内である、<2>~<4>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<6>
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散されているとき、22℃±1℃において水性溶媒中で0.5重量%(w/w)の稠度で回転レオメータによって求められる、ゼロ剪断粘度が1000~50000Pa・sの範囲内(例えば2000~20000Pa・sの範囲内など)であり、降伏応力が1~30Paの範囲内(例えば3~15Paの範囲内など)である、<2>~<5>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<7>
<1>に記載の方法によって得られる、<2>~<6>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<8>
創傷(例えば真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷など)において血管新生を誘導するための使用のための、<2>~<7>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<9>
線維芽細胞を活性化するための、創傷(例えば真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷など)を処置するための使用のための、<2>~<7>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲル。
<10>
以下の方法による真皮の及び/又はその下の組織の深い創傷を処置するための(例えば線維芽細胞を活性化するためなどの)使用のための、<2>~<7>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲルであって、
前記方法が、
成形可能な医療用ハイドロゲルを深い創傷に、好ましくは6時間以上、12時間以上又は24時間以上適用すること、
前記成形可能な医療用ハイドロゲルを前記創傷から除去すること、及び
ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品(ナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼなど)を前記創傷に適用すること
を含む、前記成形可能な医療用ハイドロゲル。
<11>
<2>~<10>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲルを提供すること、
創傷に適合するように設計された対象のデジタル三次元モデルを得ること、及び
積層造形(additive manufacturing)によって、前記デジタル三次元モデルに従って前記医療用ハイドロゲルから三次元対象物を調製して、前記創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材を得ること
を含む、個別化された(tailored)創傷被覆材を調製するための方法。
<12>
前記デジタル三次元モデルが、前記創傷の3Dスキャンから得られる、<11>に記載の方法。
<13>
創傷に適合するように個別化された(tailored)創傷被覆材であって、好ましくは<11>又は<12>に記載の方法によって得られる、前記創傷に適合するように個別化された(tailored)<2>~<10>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲルを含む、前記創傷被覆材。
<14>
1若しくは複数の密封パッケージに、又は1若しくは複数の適用デバイス(シリンジ、アプリケータ、ポンプ若しくはチューブなど)に充填された(packed)<2>~<10>のいずれか1項に記載の成形可能な医療用ハイドロゲルを含むキット。
<15>
好ましくは含水率が10%(w/w)未満である、ガーゼ及びナノフィブリルセルロースを含む医療製品(例えばナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼなど)の1又は複数のシートをさらに含む、<14>に記載のキット。