(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、積層体、ディスプレイ部材、およびヘルスケアセンサー
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241008BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20241008BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241008BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241008BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20241008BHJP
C08F 299/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08J5/18 CFF
B32B7/06
B32B27/00 L
B32B27/30 Z
C08F290/06
C08F299/06
(21)【出願番号】P 2020055824
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑矢
(72)【発明者】
【氏名】八尋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】大橋 純平
(72)【発明者】
【氏名】石田 康之
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171838(JP,A)
【文献】特開2018-163336(JP,A)
【文献】特許第6365712(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
B32B1/00-43/00、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
C08F283/01、290/00-290/14、299/00-299/08、
C08G59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式5の構造を含む樹脂前駆体の架橋物からなり、以下の条件1~5すべてを満たす樹脂フィルム。
【化1】
なお、化学式5のR
7は、水素またはメチル基を指す。
なお、化学式5のR
9は、置換または無置換のアルキレン基を指す。
化学式5のポリオール残基(Z)は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールのいずれかである。
条件1:樹脂フィルムが顔料を含む。
条件2:樹脂フィルムのJIS K7375(2008)に規定の方法により測定される全光線透過率が2%以上20%以下。
条件3:樹脂フィルムの温度25℃周波数1Hz条件における貯蔵弾性率が0.5MPa以上50MPa以下。
条件4:樹脂フィルムの25℃における損失正接が0.5以下。
条件5:樹脂フィルム断面における顔料の占有面積率が0.1%以上2.0%以下。
【請求項2】
以下の条件6を満たす、請求項1に記載の樹脂フィルム。
条件6:樹脂フィルムの表面から厚み方向の30%~70%の領域における、顔料の95%粒径(D
95)と50%粒径(D
50)との比をF
A、表面から厚み方向の0%~30%、および、70%~100%の領域における、顔料のD95とD50の平均値の比をF
Bとしたとき、式1および式2を満たす。
式1:F
A<2.4
式2:|F
A-F
B|<0.4
【請求項3】
前記顔料が黒色顔料である、請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
条件7を満たす請求項3に記載の樹脂フィルム。
条件7:樹脂フィルムの吸光係数(ε
A)が、式3を満たす。
式3:ε
A(1/μm)=100×(Log
10100/T)/(A×d)>2.0
但し、Aは黒色顔料の占有面積率(%)、dは樹脂フィルムの厚み(μm)、Tは樹脂フィルムの全光線透過率(%)である。
【請求項5】
以下の条件3’および4’を満たす、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂フィルム。
条件3’:樹脂フィルムの温度25℃周波数1Hz条件における貯蔵弾性率が3.0MPa以上10MPa以下。
条件4’:樹脂フィルムの25℃における損失正接が0.2以下。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有する積層体であって、前記支持基材と前記樹脂フィルム間の剥離力が、1N/50mm以下である積層体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂フィルムを含むディスプレイ部材。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂フィルムを含むヘルスケアセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性、品位、隠蔽性を両立した樹脂フィルム、積層体、ディスプレイ部材、およびヘルスケアセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在のIoT社会の発展に伴い、小型であり、かつ、形を自在に変形可能なデバイスが開発されている。例えば、スマートフォンやタブレットでは、折り曲げたり、巻き取り可能なディスプレイなどが実用化されている。また、ウェアラブルセンサーでは、身体の曲面や動きに追随できるよう、曲げ伸ばしが可能な機器が提案されており、これらを使用することで、新たなアプリケ-ジョンの開発へと繋げることができると期待される。
【0003】
一方で、これらのデバイスを使用する際は、下地のものが透けて見えない、いわゆる、隠蔽性が求められる。例えばディスプレイでは、反射光が内在するOLED(有機発光ダイオード)の発光と干渉することを防ぐため、ウェアラブルセンサーでは、内在する配線部分が見えないようにするため、隠蔽性を付与した樹脂フィルムが求められる。
【0004】
このような樹脂フィルム樹脂の代表例として、特許文献1に記載の「樹脂フィルム密着性、柔軟性、絶縁特性に優れ、透過率が低く、優れた隠蔽力を有する硬化物を得ることができる紫外線硬化性樹脂組成物」が提案されている。
【0005】
さらに、柔軟性に優れた例として、特許文献2に記載の「十分な隠蔽性を発現する黒色感光性組成物」が提案されている。
【0006】
また、復元性に優れた例として、特許文献3に記載の「黒色着色剤により、高い遮光性を有しながら、近年求められる、微細な開口部を形成できる優れたパターニング性を有し、かつ耐熱圧着性、マイグレーション耐性および屈曲性をも満足させることができるカバーコート層を形成可能なドライレジストフィルム」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-194156号公報
【文献】特開2012-141605号公報
【文献】特開2018-152606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のディスプレイやセンサーに使用される、隠蔽性を付与した樹脂フィルムでは、「自由な曲げ伸ばし」を損なうことなく隠蔽性を付与させることが求められる。「自由な曲げ伸ばし」として、弱い力で大きく伸ばし、ほぼ完全に復元することが0℃以下の温度で、かつ毎秒1回を超える早い周期で行えることが求められるようになってきた。つまり、隠蔽性を付与させるために、着色剤を樹脂組成に加えた場合でも、樹脂自体の柔軟性や復元性を損なわないことが求められるようになってきた。
【0009】
また、ディスプレイやセンサーでは、この樹脂フィルムを他の部分と貼り合わせて積層体の状態で使用されることから、積層体表面に、樹脂フィルムの凹凸や色味違いが現れないよう、樹脂フィルムには高い外観品位が求められるようになってきた。樹脂フィルムの高い外観品位を得るためには、着色剤が凝集物となり、樹脂フィルム内で、ハジキや欠点などを発生することを防ぐことも求められる。つまり、これらの用途では、柔軟性や復元性、外観品位を保持しつつ、隠蔽性を付与した樹脂フィルムが必要となる。
【0010】
以上のような要望に対し、本発明者らが前述の観点について確認したところ、特許文献1に提案されている材料は、確かに隠蔽性は優れるが、柔軟性や復元性が不十分であった。
【0011】
また、特許文献2に提案されている材料について、柔軟性は優れているが、品位や復元性が不十分であった。
【0012】
また、特許文献3に提案されている材料について、復元性は優れており、柔軟性もある程度は高いが、本用途に必要なレベルではなく、また、外観品位も不十分であった。
【0013】
以上の点から、本発明の課題は、伸縮性・外観品位を損なうことなく、隠蔽性を付与した樹脂フィルムや積層体、および品位に優れたディスプレイ部材やヘルスケアセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)化学式1の構造およびウレタン結合を含み、以下の条件1~4すべてを満たす、樹脂フィルム。
【0015】
【0016】
なお、化学式1のR1は、水素またはメチル基を指す。
【0017】
条件1:樹脂フィルムが着色剤を含む。
【0018】
条件2:樹脂フィルムのJIS K7375(2008)に規定の方法により測定される全光線透過率が2%以上20%以下。
【0019】
条件3:樹脂フィルムの温度25℃周波数1Hz条件における貯蔵弾性率が0.5MPa以上50MPa以下。
【0020】
条件4:樹脂フィルムの25℃における損失正接が0.5以下。
(2)顔料を含有し、条件5を満たす、(1)に記載の樹脂フィルム。
【0021】
条件5:樹脂フィルム断面における顔料の占有面積率が0.1%以上2.0%以下。
(3)顔料を含有し、以下の条件6を満たす、(1)または(2)に記載の樹脂フィルム。
【0022】
条件6:樹脂フィルムの表面から厚み方向の30%~70%の領域における、顔料の95%粒径(D95)と50%粒径(D50)との比をFA、表面から厚み方向の0%~30%、および、70%~100%の領域における、顔料のD95とD50の平均値の比をFBとしたとき、式1および式2を満たす。
【0023】
式1:FA<2.4
式2:|FA-FB|<0.4
(4)前記顔料が黒色顔料である、(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂フィルム。
(5)条件7を満たす(4)に記載の樹脂フィルム。
【0024】
条件7:樹脂フィルムの吸光係数(εA)が、式3を満たす。
【0025】
式3:εA(1/μm)=100×(Log10100/T)/(A×d)>2.0
但し、Aは黒色顔料の占有面積率(%)、dは樹脂フィルムの厚み(μm)、Tは樹脂フィルムの全光線透過率(%)である。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有する積層体であって、前記支持基材と前記樹脂フィルム間の剥離力が、1N/50mm以下である積層体。
(7)(1)~(5)のいずれかに記載の樹脂フィルムを含むディスプレイ部材。
(8)(1)~(5)のいずれかに記載の樹脂フィルムを含むヘルスケアセンサー。
【発明の効果】
【0026】
伸縮性・外観品位を損なうことなく、隠蔽性を付与した樹脂フィルムや積層体、および品位に優れたディスプレイ部材やヘルスケアセンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図6】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図7】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【
図8】本発明における積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するため形態を述べる前に、本発明者らは、従来技術にて本発明の課題を解決できない理由について、以下のように考えている。
【0029】
まず、材料の特性から考察する。着色剤は、主に、溶解性の観点で顔料と染料に分けることができる。染料は耐候性や隠蔽性の経時安定性は顔料と比べて高くはなく、それらが問題とならない用途に限られることがある。その一方で、顔料は塗剤中で溶解しないことから、凝集体を形成しやすいが、耐候性が高く、隠蔽性の経時安定性が高い。そのため、顔料を用いた場合、分散性を高くする必要がある。また、顔料を樹脂前駆体に分散させる際は、樹脂前駆体の骨格として、顔料と相互作用する官能基を全域的に有することが好ましい。顔料と相互作用する官能基が局所的に集まった場合、顔料も局所的に集まり、その結果凝集体を形成してしまう。ここで、一般的な顔料である、カーボンブラックは、カーボンブラック骨格由来のπ-π相互作用と、カーボンブラック表面の水酸基やカルボニル基由来の水素結合の二種を形成しうる。よって、カーボンブラックを顔料として使用する際は、顔料の凝集防止の観点で、樹脂前駆体の骨格として、芳香環、もしくは、水素結合性の高い官能基を有し、かつ、効率よく分散できるものが好ましいと考えられる。一方、これらの官能基が集まった場合、ハードセグメントを形成し、この凝集力によって復元性が生じる。つまり、顔料の分散性と復元性はトレードオフの関係にあり、これを解決するためには効率よく分散して架橋点を形成することが必要だと考えられる。
【0030】
特許文献1に記載の材料は、樹脂前駆体として、数平均分子量が6000以下のビスフェノールA型エポキシアクリレートを、着色剤として、カーボンブラックを用いている。比較的低分子量の樹脂前駆体を使用していることから、樹脂自体の自由度が低く、π-π相互作用によるフェノール部位の集積は起こりにくく、そのため、カーボンブラックの凝集も起こりにくい。
【0031】
一方で、樹脂前駆体の分子量が低いため、凝集力を持たないソフトセグメントの自由度も低く、柔軟性は不十分となる。また、復元性についても、樹脂前駆体の自由度が低いことから、フェノール部位間で相互作用を形成しにくく、また、アクリル基での接触頻度が低いことから、十分にUV硬化できず、本用途で必要なレベルに達していない。
【0032】
特許文献2に記載の材料は、樹脂前駆体として、数平均分子量が5000以上、20000以下のビスフェノールA型エポキシアクリレートとウレタンアクリレートを併用している。
【0033】
特許文献1のものと比べ、分子量が高いことから柔軟性は高いが、樹脂前駆体自体の自由度が高くなることで、ソフトセグメントとハードセグメントとでミクロ相分離構造を形成しやすく、ハードセグメント間の凝集力によりカーボンブラックが集まり、凝集体を形成することで、外観品位が不十分となる。また、カーボンブラックが凝集しているため、高い隠蔽性を付与させるために必要な、カーボンブラックの含有量が高くなり、樹脂フィルム中に占めるカーボンブラックの比表面積が高くなり、活性エネルギー線による硬化が不足することで、復元性も不十分となる。
【0034】
特許文献3に記載の材料は、樹脂前駆体として、数平均分子量が7000以上、25000以下のビスフェノールA型エポキシアクリレートを使用しており、さらに、熱硬化剤として、低分子のイソシアネートを加えていることで復元性を高めている。特許文献1のものと比べ、分子量が高いことから、柔軟性はある程度高いが、ハードセグメントとして、フェノール部位のπ-π相互作用による物理架橋、UV硬化による化学架橋に加え、熱硬化による化学架橋も形成し、凝集力が高いことから、結局のところ柔軟性が本用途に対して不十分となる。また、熱硬化反応の元となる、水酸基やイソシアネートがチタンブラックに対して水素結合を形成し、チタンブラックが凝集しやすく、外観品位も悪くなる。
【0035】
これに対し、本発明者らは、前述の課題を解決する方法として、樹脂前駆体が有するπ-π相互作用や水素結合などの物理架橋による凝集力を必要最低限にまで下げ、これらの相互作用を形成する官能基を樹脂フィルム組成内に満遍なく存在させることにより、この官能基と相互作用させる着色剤の分散性を上げ、そのうえ、UV硬化による、小さく強固な化学架橋を低密度に形成することで、伸縮性や外観品位を損なうことなく、隠蔽性を付与させることを着想し、鋭意検討の上、本発明に至った。以下、本発明について詳細に記載する。
【0036】
本発明の樹脂フィルムは化学式1の構造およびウレタン結合を含み、以下の条件1~4すべてを満たすことが重要である。
【0037】
【0038】
なお、化学式1のR1は、水素またはメチル基を指す。
【0039】
条件1:樹脂フィルムが着色剤を含む。
【0040】
条件2:樹脂フィルムのJIS K7375(2008)に規定の方法により測定される全光線透過率が2%以上20%以下。
【0041】
条件3:樹脂フィルムの温度25℃周波数1Hz条件における貯蔵弾性率が0.5MPa以上50MPa以下。
【0042】
条件4:樹脂フィルムの25℃における損失正接が0.5以下。
【0043】
樹脂フィルムが、上記の構造や結合を含むことは、様々な分析方法により調べることが可能であるが、FT-ATR-IR(フーリエ変換赤外分光光度)や熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)による方法が簡便である。また、樹脂フィルムを形成する原料から判断することもできる。
【0044】
樹脂フィルムが、上記の構造や結合を有することで、架橋を形成し、復元性を付与することができ、また、架橋が存在することで、極性が高く着色剤と親和性を示すウレタン結合を、凝集させることなく、満遍なく存在させることができる。
【0045】
前記化学式1の構造は、化学式2の構造を含むことがより好ましい。
【0046】
【0047】
なお、化学式2のR1は、水素またはメチル基を指す。
【0048】
化学式2のR2は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基。
【0049】
前記ウレタン結合によるセグメントは、化学式3に示す構造を含むことが好ましい。
【0050】
【0051】
なお、化学式3のR3は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基。
【0052】
本発明の樹脂フィルムは着色剤を含むことが重要である。
【0053】
樹脂フィルムが着色剤を含むことは、様々な分析方法により調べることが可能であるが、フィルムの断面SEM(走査型電子顕微鏡による断面観察)およびTOF-SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析)による方法が簡便である。その測定方法は後述する。
【0054】
樹脂フィルムが着色剤を含むことにより、樹脂フィルムに着色ができ、隠蔽性を付与することができる。
【0055】
本発明の樹脂フィルムは、JIS K7375(2008)に規定の全光線透過率が2%以上20%以下であることが重要である。
【0056】
樹脂フィルムの全光線透過率が2%以上20%以下であることにより、フィルムの隠蔽性が十分となり、また、UV照射による硬化不良も抑えることができる。同様の観点から樹脂フィルムの全光線透過率は5%以上10%以下であることが好ましい。
【0057】
全光線透過率はヘイズメーターにより測定された値を指し、その測定方法は後述する。
【0058】
本発明の樹脂フィルムは、温度25℃周波数1Hz条件における貯蔵弾性率が0.5MPa以上50MPa以下であることが重要である。貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることにより、タックが強すぎて取り扱いが困難となることを抑制でき、50MPa以下であることにより、樹脂フィルムを容易に変形可能なものとすることができる。同様の観点から、1.0MPa以上、25MPa以下であることが好ましく、3.0MPa以上、10MPa以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明の樹脂フィルムは、25℃における損失正接が0.5以下であることが重要である。
【0060】
損失正接を0.5以下とすることにより、樹脂フィルムとして用いたときに、十分な復元性を得ることができる。同様の観点から樹脂フィルムの25℃における損失正接は0.2以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。
【0061】
貯蔵弾性率、および、損失正接は、DMA(動的粘弾性測定)法により測定された値を指し、その測定方法は後述する。
【0062】
上記の条件3、4を満たすことで、伸縮性と復元性を両立できる。そのメカニズムとして、樹脂前駆体間で起こる物理架橋を必要最低現まで抑え、化学架橋に基づいて復元性を発現し、高分子量である樹脂前駆体本来の伸縮性を維持できていると推定される。さらに、条件1、2も同時に満たすことで、伸縮性・外観品位を損なうことなく、隠蔽性を付与することが可能となる。そのメカニズムとして、着色剤が樹脂前駆体の物理架橋部位に凝集することなく、分散して存在し、その上で隠蔽性を付与することができると推定される。
【0063】
本発明の樹脂フィルムは、顔料を含有し、条件5を満たすことが好ましい。
【0064】
条件5:樹脂フィルム断面における顔料の占有面積率が0.1%以上2.0%以下。
【0065】
樹脂フィルム断面における顔料の占有面積率は、フィルム断面のSEM画像を解析することで算出でき、その方法については、後述する。
【0066】
占有面積率について、占有面積率が小さいことは、樹脂フィルム中の着色剤の含有量が少ないことを意味する。占有面積率が2.0%以下にすることにより、樹脂フィルム中の顔料の含有量が少なく、粗大粒子の形成を抑制することができ、0.1%以上とすることにより、耐候性が高く、湿熱環境下においても、安定して隠蔽性を維持することができる。同様の観点から、樹脂フィルム断面における顔料の占有面積率は0.2%以上1.0%以下となることがより好ましい。
【0067】
本発明の樹脂フィルムは、顔料を含有し、条件6を満たすことが好ましい。
【0068】
条件6:樹脂フィルムの表面から厚み方向の30%~70%の領域における、顔料の95%粒径(D95)と50%粒径(D50)との比をFA、表面から厚み方向の0%~30%、および、70%~100%の領域における、顔料のD95とD50の比をFBとしたとき、式1および式2を満たす。
【0069】
式1:FA<2.4
式2:|FA-FB|<0.4
樹脂フィルムに含まれる顔料の粒径は、フィルム断面のSEM画像を解析することで算出することができ、その方法については、後述する。
【0070】
ここで、式1のFAは、フィルムの内部側における、粒子径分布の広がりを示すパラメーターであり、この値が、2.4よりも小さいことが好ましく、2.2よりも小さいことがより好ましい。
【0071】
式1のFAを2.4より小さくするためには、例えば粗大粒子の割合を小さくすることで達成することができ、すなわち式1のFAが2.4より小さくするようにすることで、樹脂フィルム作製時において、スジやハジキを抑制することができる。
【0072】
また、式2の左辺は、フィルムの内部側、表面側における、粒子径分布の広がりの差を示すパラメーターであり、この値が0.4よりも小さいことが好ましく、0.3よりも小さいことがより好ましい。
【0073】
式2の値の左辺の値が0.4より小さいことは、厚み方向における粒子径分布の広がりの差が小さいことを意味し、式2の値の左辺の値を0.4より小さくするためには、例えば粒子の安定性を高いものとすることで達成することができる。すなわち式2の値の左辺の値を0.4より小さくするようにすることで、粗大粒子の形成を抑制することができ、樹脂フィルム作製時において、スジやハジキを抑制することができる。
【0074】
本発明の樹脂フィルムは、前記顔料が黒色顔料であることが好ましい。黒色顔料とは、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素化合物や、チタンブラック、アニリンブラック、ペリレンブラック、酸化マンガン、酸化第一鉄、酸化第二銅、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、マグネタイトなどの無機酸化物に挙げられるものである。また、含まれる顔料全量に対し、黒色顔料が50質量%を超える場合、黒色以外の顔料も併せて用いることができる。黒色顔料を50質量%以上にすることで、フィルムの隠蔽性の付与効率を高くすることができる。
【0075】
本発明の樹脂フィルムは、条件7を満たすことが好ましい。
【0076】
条件7:樹脂フィルムの吸光係数(εA)が、式3を満たす。
【0077】
式3:εA(1/μm)=100×(Log10100/T)/(A×d)>2.0
但し、Aは黒色顔料の占有面積率(%)、dは樹脂フィルムの厚み(μm)、Tは樹脂フィルムの全光線透過率(%)である。
【0078】
ここで、式3の吸光係数(εA)は、顔料の隠蔽性付与効率を示すパラメーターであり、この値を2.0より大きくするためには、例えば着色剤の種類や樹脂前駆体の種類や樹脂フィルムの製造方法を適宜調整し、少ない顔料含有量により全光線透過率を小さい値とすることで達成できる。すなわち、式3の吸光係数(εA)を2.0より大きくするようにすることで、少ない顔料含有量にて隠蔽性を確保することができ、隠蔽性と品位が優れた樹脂フィルムを得ることができる。同様の観点から、この値が、4.0よりも大きいことがより好ましい。
【0079】
さらに、本発明の積層体は、前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有する積層体であって、前記支持基材と前記樹脂フィルム間の剥離力が、1N/50mm以下であることが好ましい。その一例を
図1に示す。
【0080】
ここで、支持基材とは、本発明の積層体を形成する際に、その一方の面に樹脂フィルムを設けるにあたり、後述する樹脂フィルムの製造方法にて、樹脂フィルム形成用塗料組成物をその表面に展開することが可能な、面内方向に平坦な物品である。
【0081】
本発明の積層体において支持基材を設ける理由は、後述する樹脂フィルムの製造方法において、支持基材上に液体の塗料組成物を塗布して、架橋させることで樹脂フィルムを形成するために加え、樹脂フィルムが加工される後工程内での加工性や搬送性を確保するためである。そのため、樹脂フィルムから剥離可能(好ましくは樹脂フィルムとの剥離力が1N/50mm以下)で、樹脂フィルムの後加工性を含めた機能に影響を及ぼさなければ、特に限定されないが、
図2のように積層体4が樹脂フィルム5との間に離型層6を含む支持基材7を有することが好ましい。
【0082】
また、積層体をロール状に巻き取って中間製品とする場合、ロールの巻き姿を安定化させるため、
図3のように積層体8が、樹脂フィルム9とは反対側に離型層10を含む支持基材11を有してもよい。無論、
図4のように積層体12が、樹脂フィルム13との間に離型層14を、反対側に離型層15を含む支持基材16を有してもよい。この場合、離型層14と離型層15は同一でもよいが、ロールから積層体を巻き出す時の樹脂フィルム9と、離型層15間での剥離力と、後工程で樹脂フィルムと13と離型層14の間の剥離力を調整する必要があるため、異なる方が好ましい。
【0083】
また、樹脂フィルムの工程内での搬送性向上や傷つき防止のため、
図5にように積層体17が、樹脂フィルム18の一方の面に剥離可能な支持基材19を、もう一方の面に剥離可能な保護材料を有してもよい。この保護材料と支持基材は同一であってもよいが、
図6のように積層体21が、樹脂フィルム22との間に離型層23を含む支持基材24と、保護材料25とを有してもよく、
図7のように積層体26が、樹脂フィルム27との間に離型層28を含む支持基材29と、離型層30を含む保護材料31とを有してもよく、
図8のように積層体32が、樹脂フィルム33との間に離型層34を含む支持基材35と、粘着層36を含む保護材料37とを有してもよい。積層体が、粘着層を有する保護材料を有するか、離型層を用いる保護材料を有するかは、後工程の適性や樹脂フィルムの物性から適宜選択される。
【0084】
前述のとおり、本発明の積層体において、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力は、1N/50mm以下であり、800mN/50mm以下であることが好ましい。支持基材と樹脂フィルム間の剥離力について、下限は特に限定されないが、10mN/50mm未満になると、製造工程で、支持基材と樹脂フィルムが剥がれたり、浮いたりすることがあるので、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力は10mN/50mm以上であることが好ましい。
【0085】
支持基材と樹脂フィルム間の剥離力の測定方法は後述する。
【0086】
さらに、本発明のディスプレイ部材は、前記樹脂フィルムを含むことが好ましい。また、本発明のヘルスケアセンサーは、前記樹脂フィルムを含むことが好ましい。これらのような態様とすることで、色味ムラが少ない、品位の高いディスプレイ部材やヘルスケアセンサーを得ることができる。
【0087】
ここで、ディスプレイ部材とは、テレビやスマートフォン、パソコンなど、映像を表示する電子機器であり、また、タッチパネルのような触ることで機器に入力機能も同時に有する電子機器、およびそれらを用いたデバイスも含む。
【0088】
また、ヘルスケアセンサーとは、前述のディスプレイ部材などの電子機器の他に、健康維持や、医療の質の向上を目的とし、呼吸数や心拍数、体温、血圧から、心電図、脳波などの生体情報を、生体に直接取り付けることで連続的に記録するセンサー、およびそれらを用いたデバイスを指す。
【0089】
[本発明の形態]
以下、本発明の実施の形態について具体的に述べる。
【0090】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、単体で膜状の構造を成り立たせているものであれば、その層数に特に限定はなく、1層から形成されていてもよいし、2層以上の層から形成されていてもよい。ここで層とは、厚み方向に向かって、隣接する部位と区別可能な境界面を有し、かつ有限の厚みを有する部位を指す。より具体的には、前記樹脂フィルムの断面を電子顕微鏡(透過型、走査型)または光学顕微鏡にて断面観察した際、不連続な境界面の有無により区別されるものを指す。樹脂フィルムの厚み方向に組成が変わっていても、その間に前述の境界面がない場合には、1つの層として取り扱う。
【0091】
本発明の樹脂フィルムは、その課題である、柔軟性、復元性、隠蔽性、外観品位の他に、光沢性、耐指紋性、成型性、意匠性、耐傷性、防汚性、耐溶剤性、反射防止、帯電防止、導電性、熱線反射、近赤外線吸収、電磁波遮蔽、易接着等の他の機能を有してもよく、その場合にはさらに1つ以上の層を形成してもよい。例えば前述の機能を有する機能層、粘着層、電子回路層、印刷層、光学調整層等や他の機能層を設けてもよい。
【0092】
なお、本発明の樹脂フィルムが多層構造である場合、前述の条件6に関し、樹脂フィルムのうち、顔料を有する層それぞれについて条件6の式1および式2を計算し、顔料を有する層の少なくとも1つ以上の層が条件6の式1および式2を満たす場合に、樹脂フィルムが条件6を満たすこととする。
【0093】
前記樹脂フィルムの厚みは特に限定はなく、その用途によって適宜選択される。樹脂フィルムの厚みの下限は、樹脂フィルム自身の弾性率、破断伸度、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力や剥離角度などの影響を受けるため、一概には定まらないが、後述する積層体の製造方法を用いて、一般的な柔軟材料同等の物性を実現する場合には、数μm程度が下限である。
【0094】
[積層体]
本発明の積層体は、前述の物性を示す樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有し、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力が、1N/50mm以下である積層体であることが好ましく、この態様でありさえすれば、積層体が平面状態であっても、又は成形された後の3次元形状のいずれであってもよい。
【0095】
[支持基材]
本発明の積層体に用いられる支持基材は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。支持基材を構成する樹脂は、成形性が良好であれば好ましく、その点から熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0096】
支持基材に好適に用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。
【0097】
支持基材に好適に用いられる熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂は、十分な延伸性と追従性を備える樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は、強度・耐熱性・透明性の観点から、特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、もしくはメタクリル樹脂であることがより好ましい。
【0098】
支持基材に好適に用いられるポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分およびそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであってもよい。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートが特に好ましい。
【0099】
また支持基材には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0100】
さらに支持基材は、単層構成、積層構成のいずれであってもよい。
【0101】
また、支持基材の表面には、本発明の樹脂フィルムとは別に易接着層、帯電防止層、アンダーコート層、紫外線吸収層、離型層などの機能性層をあらかじめ設けることも可能であり、本発明の積層体においては、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力を低下させるため、離型層を有することが好ましい。離型層の詳細については後述する。
【0102】
離型層が設けられた支持基材の例として、東レフィルム加工株式会社製の“セラピール”(登録商標)、ユニチカ株式会社製の“ユニピール”(登録商標)、パナック株式会社製の“パナピール”(登録商標)、東洋紡株式会社製の“東洋紡エステル”(登録商標)、帝人株式会社製の“ピューレックス”(登録商標)などを挙げることができ、これらの製品を利用することもできる。
【0103】
支持基材の表面には、前記樹脂フィルムを形成する前に各種の表面処理を施すことも可能である。表面処理の例としては、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が挙げられる。これらの中でもグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火焔処理が好ましく、グロー放電処理と紫外線処理がさらに好ましい。
【0104】
[離型層]
本発明の積層体に用いられる支持基材は、前述のように離型層を有することが好ましい。離型層を有する支持基材は、離型フィルムとも呼ばれる。離型層は、密着性や帯電防止性、耐溶剤性等を付与する観点から複数の層から構成されていてもよく、支持基材の両面にあってもよい。
【0105】
離型層の組成や厚みは、樹脂フィルムからの剥離力を、前述の好ましい範囲にすることができれば特に限定されないが、離型層の面内均一性、外観品位、剥離力の面から10~500nmであることが好ましく、20~300nmであることがより好ましい。
【0106】
[保護材料]
本発明の積層体は,前述の
図5のように樹脂フィルムの支持基材とは反対側の面に保護材料を有していてもよい。保護材料と支持基材の区別は、積層体の製造方法において、塗料組成物を塗工するものを支持基材とし、樹脂フィルム形成後に貼合されたものを保護材料とする。保護材料は、前述の支持基材と同じものでも、異なるものでもよいが、後工程の使用において、前述の支持基材と、剥離力に差を有することが好ましい。保護材料と支持基材の樹脂フィルムからの剥離力の大小関係は、後工程での使用方法に応じて適宜選択される。そのため、保護材料は、前述の
図7のように離型層を有しても良く、
図8のように粘着層を有してもよく、
図6のように層を有さなくてもよい。
【0107】
[樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムの製造方法は特に限定されないが、支持基材上に、化学式3または4のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布して、塗布層を形成し(工程1)、次いで塗布層から溶媒を除去して乾燥し(工程2)、活性エネルギー線を照射して、樹脂前駆体を架橋させる(工程3)ことで積層体を作製し、積層体から支持基材を剥離する(工程4)ことが好ましい。
【0108】
工程1の支持基材上への塗料組成物の塗布方法は、支持基材上に塗料組成物を塗布し、面内均一な塗布層を形成できれば、特に限定されない。フィルム上への塗布方法としては、ディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号明細書)などから適宜、選択できる。ここで塗布層とは、塗布工程により形成された「液体の層」を指す。
【0109】
工程2の溶媒を除去する方法、つまり乾燥方法は、支持基材上に形成された塗布層から、溶媒を除去することができれば、特に限定されない。乾燥方法としては、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)によりなどが挙げられるが、この中でも、本発明の製造方法では、精密に幅方向でも乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱または輻射伝熱を使用した方式が好ましい。
【0110】
工程3の架橋方法は、乾燥後、溶媒を除去した塗布層に対して活性エネルギー線を照射することにより、反応させ、塗膜を架橋させるものである。
【0111】
活性エネルギー線による架橋は、汎用性の点から電子線(EB)および/または紫外線(UV)であることが好ましい。また、紫外線を照射する際に用いる紫外線ランプの種類としては、例えば、放電ランプ方式、フラッシュ方式、レーザー方式、無電極ランプ方式等が挙げられる。放電ランプ方式である高圧水銀灯を用いて紫外線硬化させる場合、紫外線の照度が100~3,000(mW/cm2)が好ましく、より好ましくは200~2,000(mW/cm2)、さらに好ましくは300~1,500(mW/cm2)、となる条件で紫外線照射を行うことがよく、紫外線の積算光量が、100~3,000(mJ/cm2)が好ましく、より好ましくは200~2,000(mJ/cm2)、さらに好ましくは300~1,500(mJ/cm2)となる条件で紫外線照射を行うことがよい。ここで、紫外線照度とは、単位面積当たりに受ける照射強度で、ランプ出力、発光スペクトル効率、発光バルブの直径、反射鏡の設計及び被照射物との光源距離によって変化する。しかし、搬送スピードによって照度は変化しない。また、紫外線積算光量とは単位面積当たりに受ける照射エネルギーで、その表面に到達するフォトンの総量である。積算光量は、光源下を通過する照射速度に反比例し、照射回数とランプ灯数に比例する。
【0112】
工程4の支持基材の剥離方法は、支持基材と樹脂フィルムを均一に剥離することができれば、特に限定されないが、一般的には、樹脂フィルム側を、粘着層などを介して固定した上で、支持基材側を剥離する方法が好ましい。
【0113】
[樹脂前駆体]
樹脂前駆体は、架橋させることができる部位を有する化合物であれば、特に限定されないが、
化学式4の構造を含む樹脂前駆体が好ましく、化学式5の構造を含む樹脂前駆体がより好ましい。
【0114】
【0115】
【0116】
化学式4および5の構造は、前述のように、図中のXで示される(メタ)アクリル基が末端にあり、この末端にある(メタ)アクリル基(X)が、架橋させることができる部位
に相当する。さらに、(メタ)アクリル基(X)は、図中のYで示されるポリイソシアネート残基と隣接している。さらに化学式5のセグメントは、Yで示されるポリイソシアネート残基のもう一端と、化学式5中のZで示されるポリオール残基(Z)が隣接していることを意味している。
【0117】
化学式4および5のポリイソシアネート残基(Y)は、好ましくは、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)、NDI(1,5-ナフタレンジイソシアネート)、TODI(トリジンジイソシアネート)、XDI(キシリレンジイソシアネート)、PPDI(パラフェニレンジイソシアネート)、TMXDI(テトラメチルキシリレンジイソシアネート)、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、H6XDI(水添キシリレンジイソシアネート)、H12MDI(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)等のポリイソシアネートの残基である。
【0118】
化学式5のポリオール残基は、好ましくは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールである。
【0119】
[着色剤]
着色剤は、樹脂フィルムを着色し、全光線透過率を低減して隠蔽性を付与するために用い、本発明の特性を示す樹脂フィルムを形成することができれば特に限定されないが、前述の積層体の製造方法に適した着色剤であることが好ましい。
【0120】
着色剤は、下記に示す通り、顔料と染料に分けることができるが、隠蔽性効率や樹脂フィルムの耐候性の観点で、顔料の方が好ましい。
【0121】
顔料は、黒色、白色、赤色、緑色、青色、黄色、紫色、シアン、およびマゼンダ等があるが、これらを単独で使用しても良く、2種以上を混合してもよい。着色剤の凝集体の発生による品位低下を抑制するためには、着色剤の含有量をできるかぎり減らすことが好ましく、黒色顔料を単体で使用することが好ましい。
【0122】
黒色顔料として、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素化合物や、チタンブラック、アニリンブラック、ペリレンブラック、酸化マンガン、酸化第一鉄、酸化第二銅、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、マグネタイトなどの無機酸化物を挙げることができる。このうち、特に隠蔽力に優れる点からカーボンブラックが好ましい。
【0123】
白色顔料は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機酸化物が挙げられる。
【0124】
赤色顔料およびマゼンタ顔料は、例えばカラーインデックス名で、C.I.ピグメントレッド7、9、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、122、123、146、155、166、168、176、177、178、180、184、185、187、200、202、208、209、210、217、220、224、242、246、254、255、264、270、272および279等が挙げられる。
【0125】
緑顔料は、例えばカラーインデックス名で、C.I.ピグメントグリーン1、2、4、7、8、10、13、14、15、17、18、19、26、36、45、48、50、51、54、55および58等が挙げられる。
【0126】
青顔料およびシアン顔料は、例えばカラーインデックス名で、C.I.ピグメントブルー1、1:2、9、14、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、19、25、27、28、29、33、35、36、56、56:1、60、61、61:1、62、63、66、67、68、71、72、73、74、75、76、78および79等が挙げられる。
【0127】
黄顔料は、例えばカラーインデックス名で、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、10、12、13、14、15、16、17、18、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、42、43、53、55、60、61、62、63、65、73、74、77、81、83、93、94、95、97、98、100、101、104、106、108、109、110、113、114、115、116、117、118、119、120、123、126、127、128、129、138、139、147、150、151、152、153、154、155、156、161、162、164、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、184、185、187、188、193、194、198、199、213および214等が挙げられる。
【0128】
また、染料は、アゾ系等の金属錯塩黒色染料、または、アントラキノン系化合物などの有機化合物が挙げられる。
【0129】
[塗料組成物]
本発明の積層体の製造方法にて用いられる「塗料組成物」は、支持基材上に面内均一に塗布でき、本発明の特性を示す樹脂フィルムを形成することができれば特に限定されないが、前述の積層体の製造方法に適した塗料組成物であることが好ましい。具体的には、前述の樹脂前駆体と、後述する溶媒や着色剤、その他の成分を加えて、塗料組成物とすることが好ましい。また、着色剤の中で、顔料のような塗料組成物中の分散性が悪いものを使用する際は、二段階で顔料を分散させることが好ましい。具体的には、本用途で使用する顔料添加量と比べて高濃度となるように顔料を樹脂前駆体と溶剤に加え、分散させることで、「顔料分散体」を一度作製し、これを樹脂前駆体と溶剤で希釈することで、塗料組成物とすることがより好ましい。
【0130】
[溶媒]
本発明の積層体の製造方法に用いられる塗料組成物は溶媒を含んでもよく、塗布層を面内に均一に形成するためには、溶媒を含む方が好ましい。溶媒の種類数としては1種類以上20種類以下が好ましく、より好ましくは1種類以上10種類以下、さらに好ましくは1種類以上6種類以下、特に好ましくは1種類以上4種類以下である。ここで「溶媒」とは、前述の乾燥工程にてほぼ全量を蒸発させることが可能な、常温、常圧で液体である物質を指す。
【0131】
ここで、溶媒の種類とは溶媒を構成する分子構造によって決まる。すなわち、同一の元素組成で、かつ官能基の種類と数が同一であっても結合関係が異なるもの(構造異性体)、前記構造異性体ではないが、3次元空間内ではどのような配座をとらせてもぴったりとは重ならないもの(立体異性体)は、種類の異なる溶媒として取り扱う。例えば、2-プロパノールと、n-プロパノールは異なる溶媒として取り扱う。
【0132】
[塗料組成物中のその他の成分]
本発明の積層体の製造方法に用いられる塗料組成物は,酸化防止剤、重合開始剤、硬化剤や触媒を含むことが好ましい。重合開始剤および触媒は、樹脂フィルムの架橋を促進するために用いられる。重合開始剤としては、塗料組成物に含まれる成分をアニオン、カチオン、ラジカル重合反応等による重合、縮合または架橋反応を開始あるいは促進できるものが好ましい。
【0133】
酸化防止剤は、その作用機構から、ラジカル連鎖開始防止剤、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤に大別され、高温条件下での劣化抑制に対してこれらのいずれでも本発明の効果は得られるが、ラジカル捕捉剤、または過酸化物分解剤がより好ましく ヒンダードフェノール系、セミヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤、またはホスファイト系、チオエーテル系の過酸化物分解剤がより好ましい。また、隠蔽性付与のためにカーボンブラックを使用する際は、カーボンブラックの分散性を向上させるために、ヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤を含むことがより好ましい。
【0134】
重合開始剤、硬化剤および触媒は種々のものを使用できる。また、重合開始剤、硬化剤および触媒はそれぞれ単独で用いてもよく、複数の重合開始剤、硬化剤および触媒を同時に用いてもよい。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤を併用してもよい。酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。また、光重合開始剤の例としては、アルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。また、ウレタン結合の形成反応を促進させる架橋触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどが挙げられる。
【0135】
光重合開始剤としては、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物と、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を併用することが好ましい。アルキルフェノン形化合物の具体例としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタン、1-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-エトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、およびこれらの材料を高分子量化したものなどが挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系化合物の具体例としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルージフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、およびこれらの材料を高分子量化したものが挙げられる。これらを単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
【0136】
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、樹脂フィルムを形成するために用いる塗料組成物にレベリング剤、滑剤、帯電防止剤等を加えてもよい。これにより、樹脂フィルムはレベリング剤、滑剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0137】
レベリング剤の例としては、アクリル共重合体またはシリコーン系、フッ素系のレベリング剤が挙げられる。帯電防止剤の例としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩が挙げられる。
【0138】
[用途例]
本発明の樹脂フィルムは、光学特性、柔軟性、伸縮性、搬送性、外観品位に優れるといった利点を活かし、特に高い柔軟性や伸縮性が求められる用途に好適に用いることができる。
【0139】
一例を挙げると、メガネ・サングラス、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および種々の印刷物、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、医療用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。これら材料は本発明の樹脂フィルムを用いることで、その品位を優れたものとすることができる。
【実施例】
【0140】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、以下では実施例6~8を参考例6~8と読み替えるものとする。
「樹脂前駆体の合成」
樹脂前駆体の合成において、使用する原材料は以下の通りである。
【0141】
「ジイソシアネート」
・IPDI: イソホロンジイソシアネート
・MDI: 4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
「ポリオール」
・PBAA-1: ポリブチレンアジペート 東ソー株式会社製 ニッポラン3027(重量平均分子量2500)
・PEAA: ポリエチレングリコールアジペート 東ソー株式会社製 ニッポラン4040
(重量平均分子量2000)
・EX861:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル ナガセケムテックス株式会社製
「ヒドロキシアクリレート」
・HEA: ヒドロキシエチルアクリレート
・4HBA: 4-ヒドロキシブチルアクリレ-ト
・GMA: グリシジルメタクリレート
「ビスフェノールA型エポキシ化合物」
・YD8125: 日鉄ケミカルアンドマテリアル株式会社製
「無水コハク酸」
・“リカシッド”(登録商標)SA: 新日本理化株式会社製
[樹脂前駆体A]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ジイソシアネートとしてIPDI、ポリオールとしてPBAA-1、及びトルエンを入れた。このとき、ジイソシアネートとポリオールのモル比が0.43:0.29となるようにし、固形分濃度が60質量%になるようにした。90℃で反応させ、未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が1.4質量%となった時点で温度を70℃に下げ、ヒドロキシアクリレート(HEA)を加えた。このとき、未反応時におけるジイソシアネートとポリオールとヒドロキシアクリレートのモル比が0.43:0.29:0.29となるようにした。未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が0.3質量%となった時点で加熱を止めて反応を終了し、トルエンを追加して固形分濃度を60質量%に調整して、樹脂前駆体Aのトルエン溶液を得た。
[樹脂前駆体B]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ジイソシアネートとしてIPDI、ポリオールとしてPBAA-1、及びトルエンを入れた。このとき、ジイソシアネートとポリオールのモル比が0.48:0.32となるようにし、固形分濃度が60質量%になるようにした。90℃で反応させ、未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が1.4質量%となった時点で温度を70℃に下げ、ヒドロキシアクリレート(HEA)を加えた。このとき、未反応時におけるジイソシアネートとポリオールとヒドロキシアクリレートのモル比が0.48:0.32:0.20となるようにした。未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が0.3質量%となった時点で加熱を止めて反応を終了し、トルエンを追加して固形分濃度を60質量%に調整して、樹脂前駆体Bのトルエン溶液を得た。
[樹脂前駆体C]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ジイソシアネートとしてMDI、ポリオールとしてPEAA、及びトルエンを入れた。このとき、ジイソシアネートとポリオールのモル比が0.43:0.29となるようにし、固形分濃度が60質量%になるようにした。90℃で反応させ、未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が1.4質量%となった時点で温度を70℃に下げ、ヒドロキシアクリレート(HEA)を加えた。このとき、未反応時におけるジイソシアネートとポリオールとヒドロキシアクリレートのモル比が0.43:0.29:0.29となるようにした。未反応時における残存イソシアネート基を100質量%としたとき、反応により残存イソシアネート基が0.3質量%となった時点で加熱を止めて反応を終了し、トルエンを追加して固形分濃度を60質量%に調整して、樹脂前駆体Cのトルエン溶液を得た。
[樹脂前駆体D]
樹脂前駆体Dとして、ビスフェノールA型エポキシアクリレートである、新中村化学工業社製のNKオリゴ(重量平均分子量4000)を用いた。
[樹脂前駆体E]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ビスフェノールA64.8部、ビスフェノールA型エポキシ化合物(YD8125)57.1部、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(EX861)128.1部、触媒として、トリフェニルホスフィン1.25部、N,N-ジメチルベンジルアミン1.25部、溶剤としてトルエンを仕込み、固形分濃度が60質量%になるようにした。窒素気流下、撹拌しながら110℃に昇温し8時間反応させ、ヒドロキシ基含有樹脂を得た。次に、酸無水物として無水コハク酸(“リカシッド”(登録商標)SA)54.6部を投入し、110℃のまま4時間反応させた。FT-IR測定にて酸無水物基の吸収が消失しているのを確認後、室温まで冷却した。次に、このフラスコに、窒素導入管からの窒素を停止し乾燥空気の導入に切り替え、攪拌しながらグリシジルメタクリレート(GMA)26.0部を投入し、80℃で8時間反応させた。反応終了後、メチルエチルケトンを追加して固形分濃度を50質量%に調整して、樹脂前駆体Eのメチルエチルケトン溶液を得た。
「着色剤分散液の作製」
使用する着色剤、分散剤は以下の通りである。
「着色剤」
・“ニテロン”(登録商標)#10MAF: カーボンブラック 日鉄カーボン社製 平均粒径40nm
・“Lumogen”(登録商標) Black FK4280: ペリレンブラック BASF社製 平均30nm
・Kayaset Black A-N: アントラキノン系黒色染料 日本化薬社製
・シアニブルー 5191 :フタロシアニンブルー 大日精化社製
「分散剤」
・BYK111 :分散剤 ビックケミー株式会社製
[着色剤分散液A]
調合容器に、カーボンブラックを1質量部、BYK111を0.2質量部、シアニブルーを0.5質量部加え、メチルエチルケトンで固形分濃度が5質量%となるよう調整し、着色剤分散液Aを得た。
[着色剤分散液B]
調合容器に、ペリレンブラックを1質量部、BYK111を0.2質量部、シアニブルーを0.5質量部加え、メチルエチルケトンで固形分濃度が5質量%となるよう調整し、着色剤分散液Bを得た。
[着色剤分散液C]
調合容器に、アントラキノン系黒色染料をメチルエチルケトンで固形分濃度が5質量%となるよう調整し、着色剤分散液Cを得た。
[着色剤分散液D]
調合容器に、着色剤分散液Aを加え、そこに、カーボンブラック1質量部に対して16質量部となるように、樹脂前駆体Aを加え、全体で固形分濃度が55質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、着色剤分散液Dを得た。
[着色剤分散液E]
調合容器に、着色剤分散液Aを加え、そこに、カーボンブラック1質量部に対して16質量部となるように、樹脂前駆体Bを加え、全体で固形分濃度が55質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、着色剤分散液Eを得た。
[塗料組成物の調合]
樹脂前駆体、着色剤分散液、添加剤の種類および固形分比率は表1に記載の組み合わせの通りとし、これらの材料に対してメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の樹脂フィルム形成用塗料組成物を得た。添加剤とは、この場合、光重合開始剤、レベリング剤、酸化防止剤、熱硬化剤からなる群を指し、使用する原材料は以下の通りである。
「添加剤」
・光重合開始剤A: “IRGACURE”(登録商標) 184 (BASFジャパン株式会社製)
・光重合開始剤B: “Omnirad”(登録商標) TPO (IGM Resins社製)
・レベリング剤A:“メガファック”(登録商標)F-556(DIC株式会社製)
・酸化防止剤A: “Irganox”(登録商標)1010 (BASFジャパン株式会社製)
・熱硬化剤A: “デスモジュール”(登録商標)BL-4265SN(イソシアネート当量=337g/eq)住化コベストロウレタン社製
・熱硬化剤B: “デュラネート”(登録商標)E402-B80B(イソシアネート当量=560g/eq)旭化成ケミカルズ社製
【0142】
【0143】
[離型層用塗料組成物]
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物を得た。
・側鎖型カルビノール変性反応型シリコーンオイル
(X-22-4015信越化学工業(株) 固形分濃度:100質量%):5質量部
・両末端型ポリエーテル変性反応型シリコーンオイル
(X-22-4952信越化学工業(株) 固形分濃度:100質量%):5質量部
・アクリル変性アルキド樹脂溶液
(ハリフタール KV-905 ハリマ化成株式会社 固形分濃度 53質量%):100質量部
・イソブチルアルコール変性メラミン樹脂溶液
(“メラン”(登録商標)2650L 日立化成株式会社 固形分濃度 60質量%):20質量部
・パラトルエンスルホン酸:5質量部。
[積層体、樹脂フィルムの製造方法]
[離型層付き支持基材の形成]
小径グラビアコーターを有する塗布装置を用い、厚み50μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製商品名“ルミラー”(登録商標)R75X)に、離型層用塗料組成物を離型層厚みが、約200nmになるように、グラビアロールの線数、グラビアロールの周速、離型層用塗料組成物固形分濃度を調整して塗布し、次いで熱風温度140℃にて30秒保持することで、乾燥と架橋を行い、離型層付き支持基材を得た。
[積層体の形成方法A]
(工程1)
支持基材として、前述の離型層付き支持基材を使用し、スロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、前述の塗料組成物を、前述の支持基材の離型層上に、架橋後の樹脂フィルムの厚みが指定の膜厚になるように、吐出流量を調整して塗布し、塗布層を形成した。
【0144】
(工程2)
工程1にて形成した塗布層を、下記の条件で乾燥させて、溶媒を除去した。
【0145】
送風温度 : 温度:50℃、
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
(工程3)
工程2にて、溶媒を除去して得られた塗布層(未架橋の樹脂フィルム)に、下記の条件で活性エネルギー線を照射して架橋させ、支持基材、離型層および樹脂フィルムからなる積層体を得た。
【0146】
照射光源 : 高圧水銀灯
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 0.1体積%。
【0147】
[積層体の形成方法B]
工程2における送風温度を80℃に変え、その他の条件は積層体の形成方法Aと同様にして積層体を得た。
【0148】
以上の方法により実施例1~8、比較例1~4の積層体および樹脂フィルムを作成した。各実施例、比較例に対応する樹脂フィルム形成用塗料組成物、積層体の形成方法、およびそれぞれの樹脂フィルムの厚みは、表2に記載した。
【0149】
【0150】
[樹脂フィルム、積層体の評価]
積層体および樹脂フィルムについて、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表2に示す。特に断らない場合を除き、測定は各実施例・比較例において1つのサンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。
【0151】
[樹脂フィルムの貯蔵弾性率、損失正接の測定]
積層体を10mm幅の矩形に切り出した後、支持基材を剥離し、試験片とした。
【0152】
JIS K7244-4(1999)の引張振動-非共振法に基づき(これを動的粘弾性法とする)、セイコーインスツルメンツ株式会社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて樹脂フィルムの貯蔵弾性率、損失正接を求めた。
測定モード:引張
チャック間距離:20mm
試験片の幅:10mm
周波数:1Hz
歪振幅:10μm
最小張力:20mN
力振幅初期値:40mN
測定温度:-100℃から200℃まで
昇温速度:5℃/分
[樹脂フィルムの全光線透過率の測定]
積層体を50mm角に切り出した後、支持基材を剥離し、試験片とした。
【0153】
JIS K7375(2008)に基づき、日本電色株式会社製のヘイズメーターNDH-5000を用いて樹脂フィルムの全光線透過率を求めた。
[樹脂フィルムに含まれる着色剤の粒径解析]
樹脂フィルムに存在する着色剤の粒径解析は、日本電子株式会社製のSEM JSM-6700Fを用いて、フィルムの断面SEM観察により行った。断面SEM観察用の試験片の作製手順は下記の通りで行った。
【0154】
1.積層体の樹脂フィルム側をUV硬化性樹脂で包埋した。次いで支持基材を剥離し、同様の操作を行った。
【0155】
2.日本ミクロトーム株式会社製のロータリーミクロトームRMSを用いて、サンプルTD方向に対し10μm間隔で、包埋した樹脂ごと樹脂フィルムを切削した。
【0156】
3.日本電子株式会社製のオートファインコータJFC-1600を用いて、切削したサンプルの断面に対して、白金を約10μm蒸着(条件:30mA×20秒×2回)し、試験片とした。
【0157】
断面SEM観察の条件は下記の通りで行った。
測定モード:LEIモード
倍率:5000倍
加速電圧:3kV
WD(試料距離):8.0mm
樹脂フィルムに含まれる着色剤の粒径解析は、断面SEM画像に対し、画像解析ソフトウェアImageJ(開発元:アメリカ国立衛生研究所)を用いて、下記の手順で解析を行った。
1.フィルムの断面の厚み方向がすべて含まれつつ重複がないようトリミング加工および画像の結合を行った。また、フィルム断面とは無関係な部分が表示されないようトリミング加工を行った。
2.断面SEM画像を8bitに変換した。
3.断面SEM画像に対し、Smooth、Sharpenを2回ずつ行い、次いでFind Edge、Smoothを1回ずつ行い、画像の輪郭を強調した。
4. Brightness/Contrastにて、着色剤の粒子のみが白色になるよう調整した。
5.Thresholdで白色化部分を選択し二値化を行った。
6.Analyze Particlesで着色剤の粒径解析を行った。この時、showタブでEllipsesを選択し、楕円近似を行った。
7.上記の画像解析を、各サンプル3枚の断面SEM画像で行い、占有面積率、各粒子における長径および短径を算出した。また、着色剤の各粒子の粒径は、(長径+短径)/2と定義した。
8.解析した着色剤の粒径の頻度分布を作製し、頻度が50%に最も近い粒子径をD50,頻度が95%に最も近い粒子径をD95と定義した。
9.下記式を用いて、樹脂フィルムの厚みの30%~70%の領域におけるD50とD95の値からFAを、樹脂フィルムの厚みの0%~30%、70%~100%の領域におけるD50とD95の値からFBを、それぞれ算出した。
【0158】
FA=D95(30%~70%領域)/D50(30%~70%領域)
FB=D95(0%~30%、70%~100%領域)/D50(0%~30%、70%~100%領域)
[樹脂フィルムの厚み測定]
上記の断面SEM画像より得た厚みの算術平均値を樹脂フィルムの厚みとした。
【0159】
[支持基材と樹脂フィルム間の剥離力]
積層体において、樹脂フィルムと支持基材を予め端部から少し剥離しておき、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)で測定するための掴みしろを形成した。次いで、23℃65%RH環境下にて、引張試験機を用いて1200(mm/分)の速度で180度剥離した時の抵抗値(N)を測定した。なお、抵抗値(N)は支持基材および樹脂フィルムの幅(mm)で除した後に50倍し、それぞれの幅が50mmに相当する剥離力(N/50mm)に換算した。
【0160】
[樹脂フィルムの柔軟性の評価]
積層体を10mm幅×150mm長の矩形に切り出した後、支持基材から樹脂フィルムを剥離し、試験片とした。なお、それぞれ150mm長の方向を樹脂フィルムの長手方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度300mm/minに設定し、測定温度23℃で引張試験を行った。
【0161】
チャック間距離が、a(mm)のときのサンプルにかかる荷重b(N)を読み取り、以下の式から、ひずみ量x(%)と応力y(N/mm2)を算出した。ただし、試験前のサンプル厚みをk(mm)とする。
ひずみ量:x=((a-50)/50)×100
応力:y=b/(k×10)。
【0162】
上記で得られたデータのうち、歪み量5%での応力を5%歪み応力とし、5MPa以下を合格とした。
【0163】
[樹脂フィルムの復元性の評価]
樹脂フィルムを10mm幅×150mm長の矩形に切り出し試験片とした。なお、それぞれ150mm長の方向を樹脂フィルムの長手方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、測定温度23℃において、復元性の優劣を見るため、変形速度の異なる2条件で評価を行った。
【0164】
条件A: 初期チャック間距離50mm、引張速度50mm/min 歪み量100%までサンプルを伸長後、サンプルへの引っ張り荷重解放し、測定前に初期試長として印をつけていた距離を測定してLmmとして、以下の式から弾性復元率z1(%)と、せん断速度s1(s-1)を算出した。
【0165】
弾性復元率z1=(1-(L-50)/100)×100 (%)。
【0166】
せん断速度s1=(50/60)/10=0.08(s-1)
条件B: 初期チャック間距離50mm、引張速度300mm/min 歪み量100%までサンプルを伸長後、サンプルへの引っ張り荷重を解放し、測定前に初期試長として印をつけていた距離を測定してLmmとして、以下の式から、弾性復元率z1%を算出した。
【0167】
弾性復元率z2=(1-(L-50)/100)×100 (%)。
【0168】
せん断速度s1=(50/60)/10=0.08(s-1)
上記の評価において、条件Aが90%以上で、条件Bが70%以上を、合格とした。
【0169】
[樹脂フィルムの隠蔽性の評価]
フィルムの隠蔽性は下記二種の方法で行い、少なくとも条件Aが合格のものを合格とした。
【0170】
条件A: 汎用的な白厚紙(ヒサダ昭栄堂(株)製HSKアイボリー)に黒マジックペン(トンボ鉛筆(株)製油性ツインマーカー極細モノツインE黒)を用いて5mm間隔で40mmの線を5本引き、高演色形蛍光ランプ(40W)を搭載したライトボックスの上に前述の白厚紙、樹脂フィルムを、この順で乗せ、露光しながら上から目視で観察し、黒マジックの線間隔を認識できない場合を合格とした。
【0171】
条件B: 積層体を50mm角に切り出した後、支持基材を剥離し、試験片とし、前記手法にて全光線透過率を測定した後、エスペック株式会社製の恒温恒室槽LHL-113を用いての湿熱環境下(85℃、85%RH)で一週間保管した。その後、23℃、65%RHの雰囲気下で1時間以上静置後に再度全光線透過率を測定し、その変化率を求めた。
[樹脂フィルムの外観品位の評価]
目視により樹脂フィルムを観察し、作製した樹脂フィルム1m2内に現れる欠点数をもとに以下のように点数をつけ、評価を行った。
【0172】
5点: 10mm以下の欠点数が3個以下
4点: 10mm以下の欠点数が3個以上5個以下
3点: 10mm以下の欠点数が5個以上7個以下
2点: 10mm以下の欠点数が7個以上10個以下
1点: 10mm以下の欠点数が10個以上、もしくは、10mm以上の欠点が1個以上。
【0173】
表3に樹脂フィルムの化学式1の構造およびウレタン結合の含有/非含有を、表4に前述の条件1から条件6の評価結果を、表5に樹脂フィルムの柔軟性、復元性、隠蔽性、外観品位の評価結果をまとめた。
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
表3において、化学式1の構造の欄の「含む」の意味は、各々の実施例等が化学式1の構造を含むことを意味し、「含まない」の意味は、各々の実施例等が化学式1の構造を含まないことを意味する。ウレタン結合についても、同様である。
【符号の説明】
【0178】
1、4、8、12、17、21、26、32:積層体
2、5、9、13、18、22、27、33:樹脂フィルム
6、10、14、15、23、28、30、34:離型層
3、7、11、16、19、24、29、35:支持基材
20、25、31、37:保護材料
36:粘着層
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の樹脂フィルムは、光学特性、柔軟性、伸縮性、搬送性、外観品位に優れるといった利点を活かし、特に高い柔軟性や伸縮性が求められる用途に好適に用いることができる。
【0180】
一例を挙げると、メガネ・サングラス、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および種々の印刷物、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、医療用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。