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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20241008BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20241008BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B25/08
B32B7/027
B29C45/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020065218
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160284
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】西川 勝彦
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-089359(JP,A)
【文献】特開2011-025610(JP,A)
【文献】特開平05-025780(JP,A)
【文献】特開2008-254348(JP,A)
【文献】特開2010-052335(JP,A)
【文献】特開2016-068557(JP,A)
【文献】特表2012-500861(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0159254(US,A1)
【文献】特開2012-045938(JP,A)
【文献】特開2014-189014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が凹凸形状を有する加飾シートの基材として用いられる積層シートであって、
前記積層シートは、少なくとも、熱可塑性エラストマー層と、熱可塑性樹脂層とが積層されてなり、
前記熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点が、前記熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高く、
前記熱可塑性樹脂層の厚みが、100μm以上であり、
前記熱可塑性樹脂層側が射出成形により成形樹脂層と一体成形される、積層シート。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーの軟化点と、前記熱可塑性樹脂の軟化点との差が、10℃以上である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー層と前記熱可塑性樹脂層とが接面している、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー層と前記熱可塑性樹脂層とが接着層を介して積層されている、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シートを備える加飾シートであって、
前記熱可塑性樹脂層側が射出成形により成形樹脂層と一体成形され、
前記加飾シートの前記熱可塑性エラストマー層側の表面が凹凸形状を有する、加飾シート。
【請求項6】
前記積層シートの前記熱可塑性エラストマー層側に表面保護層を備える、請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記積層シートの前記熱可塑性エラストマー層側、及び前記積層シートの前記熱可塑性樹脂層側の少なくとも一方に絵柄層を備える、請求項5または6に記載の加飾シート。
【請求項8】
少なくとも、前記成形樹脂層と、請求項5~7のいずれか1項に記載の加飾シートとを備える、加飾樹脂成形品。
【請求項9】
少なくとも、前記成形樹脂層と、請求項5~7のいずれか1項に記載の加飾シートとが積層された、加飾樹脂成形品の製造方法であって、
請求項5~7のいずれか1項に記載の加飾シートを用意する工程と、
前記熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で前記加飾シートを成形して、前記成形樹脂層と積層する工程と、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層シート、当該積層シートを利用した加飾シート、加飾樹脂成形品、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両内装部品、建材内装材、家電筐体等には、樹脂成形品の表面に加飾シートを積層させた加飾樹脂成形品が使用されている。このような加飾樹脂成形品の成形方法としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該成形シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法(例えば、特許文献1参照)、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す射出成形同時加飾法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
近年、消費者ニーズの多様化に伴って、様々な意匠性を備える加飾樹脂成形品が求められている。このように多様化する消費者ニーズに追従するために、表面の凹凸形状に基づく意匠感、手触り感などを備える加飾樹脂成形品の開発が望まれている。
【0004】
表面に凹凸形状を備える加飾樹脂成形品の製造には、例えば、予め表面に凹凸形状が形成された加飾シートが使用されている。しかしながら、凹凸形状を有する加飾シートを用いて加飾樹脂成形品を製造する場合、加飾シートを射出成形やそれに先立つ予備成形(真空成形)に供する際において、熱や圧力によって凹凸形状が変形、消失するなど、凹凸形状を維持することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-322501号公報
【文献】特公昭50-19132号公報
【文献】特公昭61-17255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、近年、表面の凹凸形状に基づく意匠感、手触り感などを備える加飾樹脂成形品の開発が望まれているが、凹凸形状を有する加飾シートを用いて加飾樹脂成形品を製造する場合、加飾シートを射出成形やそれに先立つ予備成形(真空成形)に供する際において、熱や圧力によって凹凸形状が変形、消失するなど、凹凸形状を維持することが難しいという問題がある。
【0007】
このような状況下、本開示は、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持することができる、積層シートを提供することを主な目的とする。さらに、本開示は、当該積層シートを利用した加飾シート、加飾樹脂成形品、及びこれらの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、少なくとも、熱可塑性エラストマー層と、熱可塑性樹脂層とが積層されてなる積層シートにおいて、熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点を、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高く設定することにより、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持できることを見出した。具体的には、当該積層シートの表面に凹凸形状が形成されている場合には、高温高圧環境での成形によっても、積層シートに形成された表面凹凸形状が好適に維持されることを見出した。また、当該積層シートが、表面保護層、絵柄層などと積層された加飾シートにおいて、当該加飾シートの表面に凹凸形状が形成されている場合(積層シートが凹凸形状を有していても、有していなくても)、高温高圧環境での成形によっても、加飾シートに形成された表面凹凸形状が好適に維持されることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 少なくとも、熱可塑性エラストマー層と、熱可塑性樹脂層とが積層されてなり、
前記熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点が、前記熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い、積層シート。
項2. 前記熱可塑性エラストマーの軟化点と、前記熱可塑性樹脂の軟化点との差が、10℃以上である、項1に記載の積層シート。
項3. 前記熱可塑性エラストマー層と前記熱可塑性樹脂層とが接面している、項1または2に記載の積層シート。
項4. 前記熱可塑性エラストマー層と前記熱可塑性樹脂層とが接着層を介して積層されている、項1~3のいずれか1項に記載の積層シート。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の積層シートを備える加飾シート。
項6. 前記積層シートの前記熱可塑性エラストマー層側に表面保護層を備える、項5に記載の加飾シート。
項7. 前記積層シートの前記熱可塑性エラストマー層側、及び前記積層シートの前記熱可塑性樹脂層側の少なくとも一方に絵柄層を備える、項5または6に記載の加飾シート。
項8. 前記積層シートの前記熱可塑性エラストマー層側の表面が凹凸形状を有する、項5~7のいずれか1項に記載の加飾シート。
項9. 少なくとも、成形樹脂層と、項5~8のいずれか1項に記載の加飾シートとを備える、加飾樹脂成形品。
項10. 少なくとも、成形樹脂層と、項5~8のいずれか1項に記載の加飾シートとが積層された、加飾樹脂成形品の製造方法であって、
項5~8のいずれか1項に記載の加飾シートを用意する工程と、
前記熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で前記加飾シートを成形して、成形樹脂層と積層する工程と、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持することができる、積層シートを提供することができる。また、本開示によれば、当該積層シートを利用した加飾シート、加飾樹脂成形品、及びこれらの製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
図2】本開示の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
図3】本開示の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
図4】本開示の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
図5】本開示の加飾樹脂成形品の一形態の断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.積層シート
本開示の積層シートは、少なくとも、熱可塑性エラストマー層と、熱可塑性樹脂層とが積層されてなり、熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点が、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高いことを特徴とする。本開示の積層シートを備える本開示の加飾シートは、このような特定の構成を備えていることにより、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持することができる。この機序については、次のように考えることができる。すなわち、本開示の加飾シートにおいて、熱可塑性エラストマーの軟化点は、熱可塑性樹脂より高い。このため、例えば射出成形に先立つ予備成形(真空成形)において、熱可塑性エラストマーの軟化点以下、かつ、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度帯で成型した場合、熱可塑性エラストマー層は、軟化点以下の状態であってもゴム弾性を示すため、変形する。一方、熱可塑性樹脂層は、軟化点以上の状態にあり、塑性変形する。また、成形後の冷却によって、弾性が低い熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマー層の形状を固定することができる。これにより、熱可塑性エラストマー層に施されたエンボスを保持したまま、加飾シートの予備成型が可能となる。また、射出成型においては、凹凸形状を賦形している層が熱可塑性エラストマー層になるため、そのゴム弾性により凹凸形状が保持される。一般的に、凹凸形状を施した加飾シートは、射出成型時に高圧で金型に押し付けられるため、凹凸形状が金型の表面形状に倣い変形する。そのため、金型の表面がフラットな場合は、それに伴い加飾シートの凹凸形状がフラットになる。これは、基材層が熱可塑性樹脂で構成された加飾シートであるため、高圧で凹凸が金型に押し付けられることにより、降伏点を超えて塑性変形するためである。本開示の積層シートは、凹凸形状を施した賦形層がゴム弾性を示す熱可塑性エラストマー層であるため、金型の表面形状に倣って変形した後に復元する。そのため、射出成型後も凹凸形状を保持することが可能となる。以下、本開示の積層シートについて詳述する。
【0013】
なお、本明細書において、「以上」、「以下」と明記している箇所を除き、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。また、本開示の加飾シートは、絵柄層などを有していなくてもよく、例えば透明であってもよい。
【0014】
図1の模式図に示されるように、本開示の積層シート10は、少なくとも、熱可塑性エラストマー層1と、熱可塑性樹脂層2とが積層された積層体である。図1に示されるように、積層シート10の両面は平坦であってもよいし、図2及び図3の模式図に示されるように、熱可塑性エラストマー層1側の表面が凹凸形状を有していてもよい。積層シート10において、熱可塑性エラストマー層1側の表面の凹凸形状は、図2の模式図に示すように、熱可塑性樹脂層2には形成されていなくてもよいし、図3の模式図に示すように、熱可塑性樹脂層2に形成されていてもよい。熱可塑性樹脂層2に凹凸形状が形成されていない方が、積層シートの成形時の形状変化が小さい。また、熱可塑性樹脂層2に凹凸形状が形成されている場合にも、熱可塑性樹脂層2に形成された凹凸形状は小さいことが望ましい。図示は省略するが、積層シート10の熱可塑性樹脂層2側の表面が凹凸形状を有していてもよい。また、積層シート10の熱可塑性エラストマー層1側の表面が凹凸形状を有する場合、当該凹凸形状の凹部は、熱可塑性樹脂層2に到達していてもよい。この場合、熱可塑性樹脂層2の熱可塑性エラストマー層1側の表面には、積層シート10の熱可塑性エラストマー層1側の表面凹凸形状に対応する凹凸形状が形成される。後述のように、これらの凹凸形状は、エンボス加工などによって好適に形成することができる。
【0015】
(熱可塑性エラストマー層)
熱可塑性エラストマー層は、熱可塑性エラストマーを含む層である。熱可塑性エラストマーの軟化点は、後述の熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い。本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性エラストマーの軟化点は、積層シートが成形に供される温度以上であることが好ましい。熱可塑性エラストマーの軟化点としては、好ましくは約120℃以上、より好ましくは約140℃以上、さらに好ましくは約150℃以上、特に好ましくは約160℃以上である。また、熱可塑性エラストマーの軟化点の上限については、特に制限されないが、エンボスロールを用いた圧延賦形により凹凸形状を形成する観点からは、好ましくは約200℃以下、より好ましくは180℃以下である。熱可塑性エラストマーの軟化点の好ましい範囲としては、120~200℃程度、120~180℃程度、140~200℃程度、140~180℃程度、150~200℃程度、150~180℃程度、160~200℃程度、160~180℃程度が挙げられる。
【0016】
本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性エラストマーの軟化点と、後述の熱可塑性樹脂の軟化点との差は、好ましくは約10℃以上、より好ましくは約20℃以上、さらに好ましくは約30℃以上、さらに好ましくは約40℃以上、さらに好ましくは約50℃以上である。また、同様の観点から、当該軟化点の差は、好ましくは約80℃以下、より好ましくは約70℃以下、さらに好ましくは約60℃以下である。当該軟化点の差の好ましい範囲としては、20~80℃程度、20~70℃程度、20~60℃程度、30~80℃程度、30~70℃程度、30~60℃程度、40~80℃程度、40~70℃程度、40~60℃程度、50~80℃程度、50~70℃程度、50~60℃程度が挙げられる。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、後述の熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い軟化点を有するものであれば、具体的な種類は特に制限されない。本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどが挙げられ、これらの中でも、本開示の効果を特に好適に奏する観点から、ポリエステル系エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、熱可塑性エラストマーとは、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却するとゴム状に戻る性質を持つエラストマー(弾性を示す高分子)であり、加熱を伴う射出成形などに成形可能なものである。一方、熱硬化性エラストマーとは、熱可塑性エラストマーとは異なり、熱を加えても軟化による流動性を示さないエラストマーであり、シリコーンゴム、フッ素ゴム、一部のウレタンゴムのように、一般にゴムと称されるものである。
【0018】
本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーは、例えば約50質量%以上、好ましくは約60質量%以上、より好ましくは約70質量%以上、さらに好ましくは約80質量%以上、さらに好ましくは約90質量%以上であり、約99質量%、約100質量%であってもよい。熱可塑性エラストマー層は、実質的に熱可塑性エラストマーのみにより形成されていてもよい。
【0019】
熱可塑性エラストマー層は、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、必要に応じて、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理が施されていてもよい。熱可塑性エラストマー層の表面処理として行われる酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマー層の表面処理として行われる凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、熱可塑性エラストマー層を構成する熱可塑性エラストマーの種類などに応じて適宜選択されるが、効果及び操作性等の観点から、好ましくはコロナ放電処理法が挙げられる。
【0020】
熱可塑性エラストマー層は、例えば、着色剤を用いて着色されていてもよく、着色されていなくてもよい。また、熱可塑性エラストマー層は、無色透明、着色透明、及び半透明のいずれの態様であってもよい。熱可塑性エラストマー層に用いられる着色剤としては、特に制限されないが、好ましくは150℃以上の温度条件でも変色しない着色剤が挙げられ、具体的には、既存のドライカラー、ペーストカラー、マスターバッチ樹脂組成物等が挙げられる。
【0021】
熱可塑性エラストマー層の厚みは、特に制限されないが、本開示の効果を好適に奏する観点から、好ましくは約10μm以上、より好ましくは約30μm以上、さらに好ましくは約50μm以上、さらに好ましくは約70μm以上である。また、同様の観点から、熱可塑性エラストマー層の厚みは、好ましくは約250μm以下、約200μm以下、約150μm以下などである。熱可塑性エラストマー層の厚みの好ましい範囲としては、10~250μm程度、10~200μm程度、10~150μm程度、30~250μm程度、30~200μm程度、30~150μm程度、50~250μm程度、50~200μm程度、50~150μm程度、70~250μm程度、70~200μm程度、70~150μm程度が挙げられる。これらの中でも、特に70~250μm程度が好ましい。なお、熱可塑性エラストマー層が凹凸形状を有する場合、その厚みは、凹部が形成されていない位置での厚みを意味する。
【0022】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を含む層である。熱可塑性樹脂の軟化点は、前述の熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点よりも低い。本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性樹脂の軟化点は、積層シートが成形に供される温度以下であることが好ましい。同様の観点から、熱可塑性樹脂の軟化点としては、好ましくは約70℃以上、より好ましくは約80℃以上、さらに好ましくは約90℃以上、特に好ましくは約100℃以上である。また、同様の観点から、熱可塑性樹脂の軟化点の上限については、特に制限されないが、成形性を高める観点からは、好ましくは約140℃以下、より好ましくは約120℃以下である。熱可塑性樹脂の軟化点の好ましい範囲としては、70~140℃程度、70~120℃程度、80~140℃程度、80~120℃程度、90~140℃程度、90~120℃程度、100~140℃程度、100~120℃程度が挙げられる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、前述の熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点よりも低い軟化点を有するものであれば、具体的な種類は特に制限されない。本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」と表記することもある)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂(以下「ASA樹脂」と表記することもある)、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)等が挙げられる。これらの中でも、ABS樹脂及びアクリル樹脂が三次元成形性の観点から好ましい。熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0024】
本開示の効果を好適に奏する観点から、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂は、例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、99質量%、100質量%であってもよい。熱可塑性樹脂層は、実質的に熱可塑性樹脂のみにより形成されていてもよい。
【0025】
熱可塑性樹脂層は、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、必要に応じて、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理が施されていてもよい。熱可塑性樹脂層の表面処理として行われる酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂層の表面処理として行われる凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の種類などに応じて適宜選択されるが、効果及び操作性等の観点から、好ましくはコロナ放電処理法が挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂層は、例えば、着色剤を用いて着色されていてもよく、着色されていなくてもよい。また、熱可塑性樹脂層は、無色透明、着色透明、及び半透明のいずれの態様であってもよい。熱可塑性樹脂層に用いられる着色剤としては、特に制限されないが、好ましくは150℃以上の温度条件でも変色しない着色剤が挙げられ、具体的には、既存のドライカラー、ペーストカラー、マスターバッチ樹脂組成物等が挙げられる。
【0027】
熱可塑性樹脂層の厚みは、特に制限されないが、本開示の効果を好適に奏する観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上、さらに好ましくは300μm以上である。また、同様の観点から、熱可塑性樹脂層の厚みは、好ましくは950μm以下、より好ましくは600μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。熱可塑性樹脂層の厚みの好ましい範囲としては、100~950μm程度、100~600μm程度、100~500μm程度、150~950μm程度、150~600μm程度、150~500μm程度、200~950μm程度、200~600μm程度、200~500μm程度、300~950μm程度、300~600μm程度、300~500μm程度が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂層が凹凸形状を有する場合、その厚みは、凹部が形成されていない位置での厚みを意味する。
【0028】
本開示の積層シートにおいて、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とは接面していてもよいし、これら層間に他の層(接着層など)が積層されていてもよい。すなわち、本開示の積層シートには、熱可塑性エラストマー層及び熱可塑性樹脂層に加えて、さらに他の層が積層されていてもよい。他の層としては、後述する接着層が挙げられる。他の層は、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層の間に積層されていてもよいし、熱可塑性エラストマー層の熱可塑性樹脂層側とは反対側に積層されていてもよいし、熱可塑性樹脂層の熱可塑性エラストマー層側とは反対側に積層されていてもよい。
【0029】
例えば、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とは、例えば、接着層を介して積層することができる。熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層との間に積層された接着層は、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とを接着する層である。接着層を介して熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とを積層する場合、本開示の積層シートは、ドライラミネート法により製造することができる。また、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とが接面するように積層する場合には、これらの層を形成する樹脂を共押出成形に供することで積層フィルムを製造することができる。また、これらの層の積層は、サンドラミネート法、サーマルラミネート法等の方法で行うこともできる。本開示の積層シートの好ましい積層構成としては、熱可塑性エラストマー層及び熱可塑性樹脂層の2層構成、熱可塑性エラストマー層、接着層、及び熱可塑性樹脂層がこの順に積層された3層構成が挙げられる。
【0030】
接着層を形成する接着剤としては、熱可塑性エラストマー層と熱可塑性樹脂層とを接着できれば、特に制限されず、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、シリコン系樹脂等が挙げられる。接着層の厚みは例えば、1~10μmとすればよい。
【0031】
本開示の積層シートの厚みとしては、特に制限されないが、本開示の効果を好適に奏する観点から、好ましくは110μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上、さらに好ましくは300μm以上である。また、同様の観点から、積層シートの厚みは、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは600μm以下である。積層シートの厚みの好ましい範囲としては、110~1000μm程度、110~800μm程度、110~600μm程度、150~1000μm程度、150~800μm程度、150~600μm程度、200~1000μm程度、200~800μm程度、200~600μm程度、300~1000μm程度、300~800μm程度、300~600μm程度が挙げられる。なお、積層シートが凹凸形状を有する場合、その厚みは、凹部が形成されていない位置での厚みを意味する。
【0032】
本開示の積層シートに表面凹凸形状を形成する場合、凹凸形状は、エンボス版などの型を用いて好適に形成することができる。すなわち、積層シートの表面に所定の凹凸形状が形成されるようにして作製された版(エンボス版)を用いて、エンボス加工を行えば表面凹凸形状を有する積層シートが得られる。
【0033】
エンボス加工は、適宜な公知の方法によれば良く、特に制限はない。エンボス加工の代表的な方法は例えば次のようなものである。積層シートの表面を加熱軟化させ、その表面にエンボス版を押圧して、積層シート表面にエンボス版表面の凹凸形状を賦形する。そして積層シートを冷却して固化させて積層シートの表面凹凸形状を固定する。その後に表面凹凸形状が賦形された積層シートをエンボス版から離型する。
【0034】
積層シート10の表面に凹凸形状が形成されている場合、凹部の深さとしては、特に制限されないが、例えば、10~50μm程度、50~150μm程度、150~200μm程度などが挙げられる。
【0035】
本開示の積層シートは、熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で、成形に供されることが好ましい。成形法としては、特に制限されないが、後述のインサート成形法、射出成形同時加飾法などが挙げられる。
【0036】
本開示の積層シートの用途は特に制限されないが、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持することができることから、加飾シートの基材として好適に使用することができる。
【0037】
以下、本開示の積層シートを利用した加飾シートについて説明する。
【0038】
2.加飾シート
本開示の加飾シートは、前述した本開示の積層シートの熱可塑性エラストマー層側に、表面保護層を備えることが好ましい。また、本開示の加飾シートは、前述した本開示の積層シートの熱可塑性エラストマー層側と熱可塑性樹脂層側の少なくとも一方に、絵柄層を備えることが好ましい。例えば、図4の模式図には、本開示の積層シート10の熱可塑性エラストマー層1側に、表面保護層3、絵柄層4、及びプライマー層5を有する加飾シート20を図示している。
【0039】
本開示の加飾シートは、好ましくは、積層シート側とは反対側の表面に凹凸形状を有している。前述した本開示の積層シートを加飾シートの基材として用いることにより、高温高圧環境での成形によっても加飾シートの表面凹凸形状を好適に維持することができる。当該表面凹凸形状をより好適に維持する観点から、加飾シートの表面凹凸形状に対応する凹凸形状が、積層シートの熱可塑性エラストマー層にまで至っていることが好ましい。例えば、加飾シートが積層シートの熱可塑性エラストマー層側に表面保護層及び絵柄層を有する場合、加飾シートの表面の凹凸形状が、表面保護層3、絵柄層4及び熱可塑性エラストマー層に形成されていることが好ましい。例えば、加飾シートが積層シートの熱可塑性エラストマー層側に表面保護層を有し、積層シートの熱可塑性樹脂層側に絵柄層を有する場合、加飾シートの表面の凹凸形状が、表面保護層3及び熱可塑性エラストマー層に形成されていることが好ましい。
【0040】
本開示の加飾シートは、前述した本開示の積層シートの熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で、成形に供されることが好ましい。
【0041】
図4の模式図に示されるように、本開示の加飾シート20が表面保護層3を有する場合、表面保護層3とその下に位置する層(例えば、積層シート10、必要に応じて設けられる絵柄層4など)との密着性を向上するために、必要に応じてプライマー層5が設けられていてもよい。
【0042】
必要に応じて設けられる絵柄層4は、加飾シートに装飾性を付与する層である。絵柄層4は、例えば、表面保護層3と積層シート10との間に好適に設けられる。また、積層シート10が透明であれば、積層シート10の表面保護層3とは反対側に絵柄層4を設けることができる。すなわち、この場合、加飾シートは、熱可塑性樹脂層側に、絵柄層を備えており、透明な積層シートを通して絵柄層を観察することができる。なお、積層シートについて、透明とは、無色透明のほか、着色透明や半透明をも含む概念である。
【0043】
また、積層シート10と表面保護層3や絵柄層4と間には、積層シート10の色の変化やバラツキを抑制する目的で、必要に応じて、隠蔽層(図示しない)が設けられていてもよい。例えば、プライマー層5を設ける場合であれば、当該隠蔽層は積層シートとプライマー層5の間に設ければよく、また、絵柄層4を設ける場合であれば、当該隠蔽層は、積層シート10と絵柄層4の間に設ければよい。
【0044】
更に、耐摩耗性(耐傷付き性)を向上させる目的で、必要に応じて、透明樹脂層(図示しない)を設けてもよい。例えば、絵柄層4とプライマー層5とを設ける場合であれば、当該透明樹脂層は、絵柄層4とプライマー層5の間に設ければよい。
【0045】
更に、本開示の加飾シートにおいて、加飾シートの成形の際に成形樹脂との密着性を高めることを目的として、加飾シートの裏面(すなわち、積層シート側の面)には、必要に応じて、裏面接着層(図示しない)が設けられてもよい。
【0046】
本開示の加飾シートの積層構造の例として、熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/絵柄層が積層された積層構造;熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/表面保護層が積層された積層構造;熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/絵柄層/表面保護層が積層された積層構造;熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/絵柄層/プライマー層/表面保護層が積層された積層構造;熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/隠蔽層/絵柄層/プライマー層/表面保護層が積層された積層構造;裏面接着層/熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/絵柄層/プライマー層/表面保護層が積層された積層構造;絵柄層/熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/表面保護層が積層された積層構造;絵柄層/熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/プライマー層/表面保護層が積層された積層構造;裏面接着層/絵柄層/熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/表面保護層が積層された積層構造;及び、裏面接着層/絵柄層/熱可塑性樹脂層/熱可塑性エラストマー層/プライマー層/表面保護層が積層された積層構造、などが挙げられる。
【0047】
絵柄層は、例えば、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。絵柄層によって形成される模様は、特に制限されず、例えば、幾何学模様、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様など挙げられ、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様も挙げられる。これらの模様は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
【0048】
絵柄層に用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては、特に制限されず、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体とアクリル系共重合体との混合樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
着色剤としては、特に制限されず、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが挙げられる。
【0050】
絵柄層の厚みは、特に制限されないが、例えば1~30μm程度、好ましくは1~20μm程度が挙げられる。
【0051】
表面保護層は、加飾シートの耐傷付き性、耐候性などを高めるために設けられる層である。表面保護層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などを用いて形成することができる。これらの中でも、表面保護層は、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成されていることが好ましい。表面保護層の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂であり、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有する、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーなどのうち少なくとも1種を適宜混合したものが挙げられる。ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるため、表面保護層の形成において好適に使用される。
【0052】
表面保護層の厚みは、特に制限されないが、加飾シートの耐傷付き性、耐候性などを高める観点から、例えば5~20μm、好ましくは5~10μmが挙げられる。
【0053】
プライマー層は、表面保護層とその下に位置する層との密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層に接面するように設けられる層である。
【0054】
プライマー層を構成するプライマー組成物としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等をバインダー樹脂とするものが好ましく用いられ、これらの樹脂は一種又は二種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び(メタ)アクリル-ウレタン共重合体樹脂が好ましい。
【0055】
隠蔽層は、基材として用いられる積層シートが加飾シートの色調や絵柄に悪影響を及ぼすのを抑制するために設けられるため、一般的には、不透明色の層として形成される。
【0056】
隠蔽層は、バインダーに、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したインキ組成物を用いて形成される。隠蔽層を形成するインキ組成物は、前述した絵柄層に使用されるものから適宜選択して使用される。
【0057】
隠蔽層は、通常、厚みが1~20μm程度に設定され、所謂ベタ印刷層として形成されることが望ましい。
【0058】
裏面接着層には、加飾樹脂成形品に使用される成形樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。
【0059】
裏面接着層の形成に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
また、裏面接着層の形成に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、
エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本開示の加飾シートに表面凹凸形状を形成する場合、凹凸形状は、エンボス版などの型を用いて好適に形成することができる。すなわち、加飾シートの表面に所定の凹凸形状が形成されるようにして作製された版(エンボス版)を用いて、エンボス加工を行えば加飾シートが得られる。
【0062】
エンボス加工は、適宜な公知の方法によれば良く、特に制限はない。エンボス加工の代表的な方法は例えば次のようなものである。加飾シートの表面を加熱軟化させ、その表面にエンボス版を押圧して、加飾シート表面にエンボス版表面の凹凸形状を賦形する。そして加飾シートを冷却して固化させて加飾シートの表面凹凸形状を固定する。その後に表面凹凸形状が賦形された加飾シートをエンボス版から離型する。
【0063】
また、予め表面凹凸形状を有する積層シートの凹凸表面の上に、絵柄層、表面保護層などを順次積層して、表面に凹凸形状を有する加飾シートとすることもできる。
【0064】
加飾シートの用途は特に制限は無いが、例えば、壁、床、天井等の建築物の内装材、建築物の外壁、屋根、門扉、塀、柵等の外裝材、扉、窓枠、扉枠等の建具、廻り縁、幅木、手摺等の造作部材の表面材、テレビ受像機、冷蔵庫等の家電製品の筐体の表面材、箪笥等の家具の表面材、箱、樹脂瓶等の容器の表面材、車両等の内装材又は外裝材、船舶の内装材又は外裝材等である。
【0065】
3.加飾樹脂成形品
本開示の加飾樹脂成形品は、本開示の加飾シートに、成形樹脂を一体化させることにより成形されてなるものである。即ち、本開示の加飾樹脂成形品は、成形樹脂層と、本開示の加飾シートとを備える。前記の通り、本開示の加飾シートは表面に凹凸形状を有することが好ましく、加飾シートが凹凸形状を有する場合、本開示の加飾樹脂成形品は、少なくとも、成形樹脂層と、本発明の加飾シートとを備え、成形樹脂層側とは反対側の表面が凹凸形状を有する加飾樹脂成形品となる。
【0066】
図5に、本開示の加飾樹脂成形品の一態様について、その断面構造を示す。
【0067】
本開示の加飾樹脂成形品を本開示の加飾シートを用いて製造する場合について、以下に説明する。なお、本開示の加飾樹脂成形品に表面保護層や絵柄層を設けない場合には、本開示の積層シートを用いて加飾樹脂成形品を製造しても良い。
【0068】
本開示の加飾樹脂成形品は、例えば、本開示の加飾シートの積層シート側に、樹脂を射出することにより成形樹脂層を形成する工程を備える方法により製造することができる。具体的には、本開示の加飾シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法等の各種射出成形法により作製される。
【0069】
インサート成形法では、先ず、真空成形工程において、本開示の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートの積層シート側を一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
【0070】
より具体的には、下記の工程を含むインサート成形法によって、本開示の加飾樹脂成形品が製造される。
【0071】
本開示の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得る工程、及び
前記工程で得られた成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する工程。
【0072】
インサート成形法における真空成形工程では、加飾シートを加熱して成形してもよい。この時の加熱温度は、特に限定されず、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、例えば積層シートの熱可塑性樹脂としてABS樹脂フィルムを用いる場合であれば、通常100~250℃程度、好ましくは130~200℃程度とすることができる。また、一体化工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180~320℃程度、好ましくは220~280℃程度とすることができる。前記の通り、加飾シートの成形は、積層シートの熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点以上の加熱温度で行われることが好ましい。
【0073】
例えば、少なくとも、成形樹脂層と、本発明の加飾シートとを積層して加飾樹脂成形品を製造する場合、本発明の積層シートを用意する工程と、熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で前記加飾シートを成形して、成形樹脂層と積層する工程とを備える、加飾樹脂成形品の製造方法とすることができる。
【0074】
また、射出成形同時加飾法では、本開示の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に本開示の加飾シートの積層シート側を一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
【0075】
より具体的には、下記の工程を含む射出成形同時加飾法によって、本開示の加飾樹脂成形品が製造される。
【0076】
本開示の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の当該成形面に対し、前記加飾シートの積層シート側とは反対側が対面するように設置した後、当該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを当該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、
成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び
可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程。
【0077】
射出成形同時加飾法の予備成形工程において、加飾シートの加熱温度は、特に限定されず、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、積層シートの熱可塑性樹脂層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常70~130℃程度とすることができる。また、射出成形工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180~320℃程度、好ましくは220~280℃程度とすることができる。
【0078】
また、本開示の加飾樹脂成形品は、真空圧着法等の、予め用意された立体的な樹脂成形体(成形樹脂層)上に、本開示の加飾シートを貼着する加飾方法によっても作製することができる。
【0079】
真空圧着法では、まず、上側に位置する第1真空室及び下側に位置する第2真空室からなる真空圧着機内に、本開示の加飾シート及び樹脂成形体を、加飾シートが第1真空室側、樹脂成形体が第2真空室側となるように、且つ加飾シートの積層シート側が樹脂成形体側に向くように真空圧着機内に設置し、2つの真空室を真空状態とする。樹脂成形体は、第2真空室側に備えられた、上下に昇降可能な昇降台上に設置される。次いで、第1の真空室を加圧すると共に、昇降台を用いて成形体を加飾シートに押し当て、2つの真空室間の圧力差を利用して、加飾シートを延伸しながら樹脂成形体の表面に貼着する。最後に2つの真空室を大気圧に開放し、必要に応じて加飾シートの余分な部分をトリミングすることにより、本開示の加飾樹脂成形品を得ることができる。
【0080】
真空圧着法においては、上記の成形体を加飾シートに押し当てる工程の前に、加飾シートを軟化させて成形性を高めるため、加飾シートを加熱する工程を備えることが好ましい。当該工程を備える真空圧着法は、特に真空加熱圧着法と呼ばれることがある。当該工程における加熱温度は、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、積層シートの熱融着性樹脂層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常60~200℃程度とすることができる。
【0081】
本開示の加飾樹脂成形品において、成形樹脂層は、用途に応じた成形樹脂を選択して形成すればよい。成形樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよく、また熱硬化性樹脂であってもよい。
【0082】
成形樹脂として使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0083】
また、成形樹脂として使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0084】
本開示の加飾樹脂成形品は、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材;幅木、回縁等の造作部材;窓枠、扉枠等の建具;壁、床、天井等の建築物の内装材;テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体;容器等として利用することができる。
【実施例
【0085】
以下に実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。但し本開示は実施例に限定されるものではない。
【0086】
実施例1
2種2層Tダイ押出機を用いて、熱可塑性エラストマー(ポリエステル系エラストマー 軟化点163℃)と熱可塑性樹脂(ABS樹脂 軟化点107℃)を共押出し成形して、熱可塑性エラストマー層(厚さ80μm)と熱可塑性樹脂層(厚さ400μm)とが積層された2層の積層シート(480μm)を得た。
【0087】
次に、得られた積層シートの熱可塑性エラストマー層側から、エンボス加工を施して熱可塑性エラストマー層側の表面に凹凸形状を有する加飾シートを得た。エンボス加工は、加熱可能なプレス機とエンボス型を用いて行った。エンボス型は、細線パターンである。表面凹凸形状が形成された加飾シートのエンボス高さをレーザー顕微鏡にて測定した。このエンボス高さを成形前のエンボス高さ(基準100%)とした。結果を表1に示す。
【0088】
次に、表面凹凸形状が形成された加飾シートを真空成形及び射出成形に供した。具体的には、加飾シートを赤外線ヒーターで表面温度140℃に加熱(加熱に用いた熱板は270℃であり、加熱時間は20~25秒間)し、真空成形で金型内の形状(板状)に沿うように予備成形した(最大延伸倍率10%)。なお、真空成形後の加飾シートの形状は、熱可塑性エラストマー層側が凸、熱可塑性樹脂層側が凹となるようにした。真空成形後の加飾シートのエンボス高さをレーザー顕微鏡にて測定した。エンボス高さと、前記の基準100%に対する保持率(%)を表1に示す。エンボス高さは、加飾シートが実質的に延伸されていない箇所(延伸倍率約0%)について測定した。
【0089】
次に、真空成形後の加飾シートを金型(温度60℃)にはめ込み、射出樹脂を金型のキャビティ内に射出し、加飾シートの熱可塑性樹脂層側と射出樹脂(230℃)とを一体化成形(射出圧力160MPa)し、金型から取り出して成形体を得た。成形体の表面を構成する加飾シート(射出成形後)のエンボス高さをレーザー顕微鏡にて測定した。エンボス高さと、前記の基準100%に対する保持率(%)を表1に示す。エンボス高さは、加飾シートが実質的に延伸されていない箇所(延伸倍率約0%)について測定した。
【0090】
実施例2
熱可塑性エラストマー層の厚みを140μm、熱可塑性樹脂層の厚みを340μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、加飾シートを製造し、加飾シートをエンボス加工、真空成形に供し、それぞれのエンボス高さを測定した。エンボス高さと、前記の基準100%に対する保持率(%)を表1に示す。
【0091】
比較例1
熱可塑性樹脂(ABS樹脂 軟化点107℃)の単層シート(厚さ480μm)としたこと以外は、実施例1と同様にして、単層シートをエンボス加工、真空成形及び射出成形に供し、それぞれのエンボス高さを測定した。エンボス高さと、前記の基準100%に対する保持率(%)を表1に示す。
【0092】
比較例2
熱可塑性エラストマー(ポリエステル系エラストマー 軟化点163℃)の代わりに、熱可塑性エラストマー(ポリエステル系エラストマー 軟化点104℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シートを製造し、積層シートをエンボス加工、真空成形に供し、それぞれのエンボス高さを測定した。エンボス高さと、前記の基準100%に対する保持率(%)を表1に示す。なお、比較例2では、真空成形によってエンボス高さが0μmになったため、射出成形を省略した。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1の積層シートは、熱可塑性エラストマー層と、熱可塑性樹脂層とが積層されてなり、熱可塑性エラストマー層に含まれる熱可塑性エラストマーの軟化点が、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い。表1に示される結果から明らかな通り、実施例1の加飾シートは、高温高圧環境での成形によっても凹凸形状を好適に維持できている。これに対して、ABS樹脂の単層フィルムである比較例1や、熱可塑性エラストマー層の軟化点が熱可塑性樹脂層の軟化点よりも低い比較例2では、凹凸形状が好適に維持できていない。なお、実施例1の加飾シートの真空成形温度を、熱可塑性エラストマーの軟化点163℃よりも高い180℃とした場合、真空成形温度を140℃とした実施例1よりも、真空成形後のエンボス高さが低くなった。このことから、本開示の加飾シートは、熱可塑性エラストマーの軟化点以下の温度であって、かつ、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で、成形に供されることにより、より好適に凹凸形状を維持できることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
1 熱可塑性エラストマー層
2 熱可塑性樹脂層
3 表面保護層
4 絵柄層
5 プライマー層
6 成形樹脂層
10 積層シート
20 加飾シート
30 加飾樹脂成形品
図1
図2
図3
図4
図5