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特許7567204ステアリング装置およびステアリング装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ステアリング装置およびステアリング装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20241008BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B62D3/12 509A
B62D21/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020090481
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021185069
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 健太
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225031(JP,A)
【文献】特開平06-057828(JP,A)
【文献】特開平11-247831(JP,A)
【文献】特開2012-250675(JP,A)
【文献】特開2009-149166(JP,A)
【文献】実開平05-092047(JP,U)
【文献】特開2006-022948(JP,A)
【文献】特開平09-276970(JP,A)
【文献】特開2011-085204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵シャフトを往復動可能に収容するとともに、ボルトの挿入を通じて車両のフレームに連結される部分であるマウント部が設けられているハウジングを有し、
前記ハウジングは、前記マウント部が前記フレームに対して接触した状態で連結されることによって、前記フレームに対して剛的に支持されるステアリング装置において、
前記マウント部の前記フレームに対する接触面である座面には、前記座面と前記フレームとの間の摩擦力を増大させるための微細な凸形状が全面にわたって設けられており、
前記凸形状は、前記座面を前記フレーム側からみて、前記転舵シャフトの軸線方向に対して交わる方向へ延びる部分を有する突条であり、
前記凸形状を設けない場合、前記座面は平面となり、
前記フレームの表面には、表面処理としての塗装が施されることにより皮膜が設けられているステアリング装置。
【請求項2】
前記突条は、前記転舵シャフトの軸線方向に湾曲している請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記座面を前記フレーム側からみて、
前記突条は、前記座面の中心点を中心とする同心円状に設けられている請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の製造方法であって、
前記ハウジングを鋳造する際に前記凸形状を前記ハウジングと一体成型するステアリング装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の製造方法であって、
前記ハウジングを鋳造により成型した後、前記マウント部の前記座面に除去加工を施すことにより前記凸形状を形成するステアリング装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置およびステアリング装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラックアンドピニオン式のステアリング装置が存在する。このタイプのステアリング装置では、ステアリングホイールの操作に伴うステアリングシャフトの回転がラックアンドピニオン機構によって転舵シャフトの往復動に変換されることにより、転舵輪の向きが変更される。ステアリング装置は、車両のフレームに対して剛的に支持される。
【0003】
たとえば特許文献1のステアリング装置は、転舵シャフトを収容するギヤハウジングを有している。ギヤハウジングのブラケット部と車両のフレームとは、これらの間に環状部材を介在させた状態で、スクリュによって連結される。環状部材のフレーム側に設けられた係合突部が車両のフレームに食い込むことにより、ギヤハウジングと車両のフレームとの間のがたつきが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-31211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のステアリング装置によれば、たしかにギヤハウジングと車両のフレームとの間のがたつきを抑制することが可能である。しかし、ギヤハウジングのブラケット部と車両のフレームとの間に介在させる環状部材を設ける必要がある。このため、環状部材を設ける必要がある分だけ部品点数が増加する。
【0006】
本発明の目的は、部品点数を抑えつつ車両のフレームに対する支持剛性を確保することができるステアリング装置を提供することにある。また、本発明の目的は、部品点数を抑えつつ車両のフレームに対する支持剛性を確保することができるステアリング装置を得ることができるステアリング装置の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るステアリング装置は、転舵シャフトを往復動可能に収容するとともに、ボルトの挿入を通じて車両のフレームに連結される部分であるマウント部が設けられているハウジングを有している。前記ハウジングは、前記マウント部が前記フレームに対して接触した状態で連結されることによって、前記フレームに対して剛的に支持される。前記マウント部の前記フレームに対する接触面である座面には、前記座面と前記フレームとの間の摩擦力を増大させるための微細な凸形状が全面にわたって設けられている。
【0008】
この構成によれば、マウント部の座面の全面に設けられた微細な凸形状が車両のフレームに接触した状態に維持されることにより、マウント部の座面とフレームとの間の摩擦力がより増大する。このため、ハウジングに対して座面に沿った方向の外力が付与された場合であれ、座面とフレームとの間にはたらく摩擦力によって、ハウジングがフレームに対して相対的に移動することが抑制される。したがって、フレームに対するハウジングの支持剛性を確保することができる。また、座面とフレームの間にこれらの相対移動を規制するための別部材を設ける必要がない分だけ、ステアリング装置の部品点数を削減することができる。
【0009】
上記のステアリング装置において、前記凸形状は、前記座面を前記フレーム側からみて、前記転舵シャフトの軸線方向に対して交わる方向へ延びる部分を有する突条であってもよい。
この構成によれば、座面とフレームとの間における、転舵シャフトの軸線に沿った方向の摩擦力が増大する。このため、ハウジングがフレームに対して相対的に転舵シャフトの軸線に沿った方向へ移動することが抑制される。
【0010】
上記のステアリング装置において、前記突条は、前記転舵シャフトの軸線方向に湾曲していてもよい。
この構成によれば、座面とフレームとの間における、転舵シャフトの軸線に沿った方向の摩擦力がより増大する。このため、ハウジングがフレームに対して相対的に転舵シャフトの軸線に沿った方向へ移動することがより効果的に抑制される。
【0011】
上記のステアリング装置において、前記座面を前記フレーム側からみて、前記突条は、前記座面の中心点を中心とする同心円状に設けられていてもよい。
この構成によれば、座面とフレームとの間における、転舵シャフトの軸線に沿った方向の摩擦力および転舵シャフトの軸線に直交する方向の摩擦力を含め、座面に沿った方向の摩擦力が全般的に増大する。このため、ハウジングがフレームに対して相対的に座面に沿った方向へ移動することが抑制される。
【0012】
上記のステアリング装置において、前記凸形状は、微細な突部であってもよい。
この構成によれば、座面とフレームとの間における、転舵シャフトの軸線に沿った方向の摩擦力および転舵シャフトの軸線に直交する方向の摩擦力を含め、座面に沿った方向の摩擦力が全般的に増大する。このため、ハウジングがフレームに対して相対的に座面に沿った方向へ移動することが抑制される。
【0013】
上記のステアリング装置において、前記フレームの表面には、表面処理としての塗装が施されることにより皮膜が設けられていてもよい。
この構成によれば、マウント部の座面の微細な凸形状が車両のフレームの表面に設けられた被膜に食い込んだ状態に維持されることにより、マウント部の座面とフレームとの間の摩擦力がより増大する。このため、座面とフレームとの間にはたらく摩擦力によって、ハウジングがフレームに対して相対的に移動することをより効果的に抑制することができる。
【0014】
上記目的を達成し得るステアリング装置は、上記のステアリング装置の製造方法であって、前記ハウジングを鋳造する際に前記凸形状を前記ハウジングと一体成型する。
この製造方法によれば、マウント部の座面に凸形状を簡単に設けることができる。
【0015】
上記目的を達成し得るステアリング装置は、上記のステアリング装置の製造方法であって、前記ハウジングを鋳造により成型した後、前記マウント部の座面に除去加工を施すことにより前記凸形状を形成する。
【0016】
この製造方法によれば、マウント部の座面に対して除去加工を施すことにより座面に凸形状を設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のステアリング装置によれば、部品点数を抑えつつ車両のフレームに対する支持剛性を確保することができる。また、本発明のステアリング装置の製造方法によれば、部品点数を抑えつつ車両のフレームに対する支持剛性を確保することができるステアリング装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ステアリング装置の第1の実施の形態の構成図。
図2図1のII-II線に沿って切断した断面図。
図3】第1の実施の形態の座面を示すマウント部の底面図。
図4】第1の実施の形態の座面とサスペンションメンバとの境界部分の要部断面図。
図5】第2の実施の形態の座面を示すマウント部の底面図。
図6】(a)は第3の実施の形態の座面を示すマウント部の底面図、(b)は第3の実施の形態の座面とサスペンションメンバとの境界部分の要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施の形態>
以下、ステアリング装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1は、略円筒状のラックハウジング2およびラックハウジング2に挿通されたラックシャフト3を有している。ラックシャフト3は、ラックガイド4および滑り軸受に支承されることにより、その軸方向に沿って往復動可能に支持されている。ラックシャフト3の両端には、その軸端部3aに設けられたラックエンド6を介してタイロッド7が回動自在に連結されている。ラックシャフト3とタイロッド7との接続部は、蛇腹状に形成された樹脂製のブーツ8により包囲されている。タイロッド7の先端は、転舵輪が組付けられたナックルに連結されている。ラックシャフト3は、転舵輪を転舵させる転舵シャフトとして機能する。
【0020】
また、ラックハウジング2の内部には、ラックシャフト3と交差する状態で回転可能に支持されたピニオンシャフト9が収容されている。ピニオンシャフト9の一端には、ステアリングシャフト10が連結されている。ステアリングシャフト10の先端には、ステアリングホイール11が固定されている。ラックシャフト3は、ラックガイド4に押圧されることにより、ピニオンシャフト9に噛合されている。
【0021】
したがって、ステアリングホイール11の操作に伴うピニオンシャフト9の回転は、ピニオンシャフト9とラックシャフト3との噛み合いを通じて、ラックシャフト3の軸線方向に沿った往復動に変換される。このラックシャフト3の往復動がタイロッド7を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪の向きが変更される。
【0022】
なお、ステアリングシャフト10は、ピニオンシャフト9に連結されるインターミディエイトシャフト13と、ステアリングホイール11が固定されるコラムシャフト14とが連結されてなる。また、ステアリング装置1は、モータ15を駆動源とするコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されている。モータ15の出力軸は、ウォームアンドホイールなどの減速機構16を介してコラムシャフト14に連結されている。減速機構16により減速されたモータ15の回転がアシスト力としてステアリングシャフト10に伝達される。
【0023】
つぎに、ラックハウジング2の支持構造を説明する。
図1に示すように、ラックハウジング2の両端部には、ボルト孔21を有する略円柱状のマウント部22がそれぞれ設けられている。各マウント部22は、ラックハウジング2に対して、ラックシャフト3の軸線方向と直交する方向の片側にのみ形成されている。マウント部22は、車両のサスペンションメンバ25に対して固定される固定部として機能する。サスペンションメンバ25は、車両のフレームを構成する。
【0024】
図2に示すように、ラックハウジング2は、ボルト23およびナット24により、車両のサスペンションメンバ25に対して剛的に支持される。したがって、ラックハウジング2は、その軸線方向両側の2点で支持される。
【0025】
詳述すると、マウント部22は、ラックハウジング2に一体成型されている。マウント部22は、その軸線L2がラックシャフト3の軸線L1と略直交するかたちでラックハウジング2に設けられている。ボルト孔21は、マウント部22をその軸線方向に貫通している。すなわち、ボルト孔21は、ラックシャフト3の軸線に対して略直交する方向に開口している。マウント部22のサスペンションメンバ25側の側面には、サスペンションメンバ25と対向する座面28が設けられている。
【0026】
サスペンションメンバ25におけるラックハウジング2の各ボルト孔21と対応する部位には、ボルト23が挿通されるボルト孔31が設けられている。サスペンションメンバ25は、断面略四角枠状のメンバ本体25aと、メンバ本体25aに固定された円柱状のカラー25bとを有している。カラー25bにはボルト孔31が設けられている。カラー25bのマウント部22側の側面には、載置面33が設けられている。載置面33には、マウント部22の座面28が接触した状態でラックハウジング2が載置される。
【0027】
メンバ本体25aの上板部34には、カラー25bが嵌合される嵌合孔35が設けられている。カラー25bは、嵌合孔35に嵌合されるとともに、メンバ本体25aの下板部36上に載置された状態で、上板部34および下板部36に対して溶接されることにより、メンバ本体25aに固定されている。なお、下板部36には、ボルト孔31の内径と同一の内径を有する挿通孔37がボルト孔31と同軸上に設けられている。
【0028】
ラックハウジング2のボルト孔21がサスペンションメンバ25のボルト孔31と同軸となるようにラックハウジング2をサスペンションメンバ25に対して配置した状態で、各ボルト孔21,31および挿通孔37にはボルト23が挿通される。この挿通されたボルト23の先端にナット24を締め付けることにより、ラックハウジング2はサスペンションメンバ25に対して剛的に支持される。なお、ボルト23における頭部23aの外径は、ボルト孔21の内径よりも大きい値に設定されている。
【0029】
ラックハウジング2は、ボルト23にナット24を螺合することにより生じるボルト23の軸力によって、座面28と載置面33とに互いに近接する方向の締結力がそれぞれ作用することで、サスペンションメンバ25に対して剛的に支持される。ちなみに、軸力とは、ボルト23にナット24を螺合することにより僅かに伸びたボルト23の軸部23bが元に戻ろうとする力をいう。
【0030】
このように構成したステアリング装置1においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、転舵輪からの逆入力荷重はラックシャフト3を介してマウント部22へ伝達する。このため、転舵輪からの逆入力荷重に起因して、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して相対的にラックシャフト3の軸線に沿った方向へ移動しようとする。また、サスペンションメンバ25に対するラックハウジング2の組み付け性を確保するなどの観点から、ボルト23の軸部23bとボルト孔21の内周面との間には隙間が設けられることがある。この場合、ラックハウジング2は、ラックシャフト3の往復動に伴ってその軸線に沿った方向へ移動するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施の形態では、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して相対的に移動することを抑制するために、つぎの構成を採用している。
図3に一点鎖線で示すように、座面28をサスペンションメンバ25側からみて、マウント部22の座面28には、その全面にわたって複数の微細な突条41が設けられている。突条41は、ラックシャフト3の軸線方向Drに沿って間隔をあけて設けられている。突条41は、座面28に沿って湾曲して延びる細長い突出部である。突条41は、ラックシャフト3の軸線方向Drに湾曲している。本実施の形態では、突条41は図3中の左側が凸となるように湾曲している。図3に示されるように、座面28をサスペンションメンバ25側からみて、湾曲した突条41の頂点Pは座面28の中心点Oを通り、かつラックシャフト3の軸線方向Drに沿って延びる中心軸L3上に位置している。突条41を含む座面28の表面粗さ(算術平均粗さRa)が製品仕様として要求される表面粗さとなるように、突条41のサイズおよび数などが設定される。突条41は、座面28とサスペンションメンバ25との間の摩擦力を増大させるための微細な凸形状として機能する。
【0032】
ちなみに、ラックハウジング2は、たとえばアルミニウム合金の鋳物であって、ダイカスト成型により一体的に設けられる。ダイカストとは、溶かした金属(ここでは、アルミニウム合金)を高圧で金型に注入し、成型後の鋳物を取得する鋳造法をいう。金型に複数の突条41を含む座面28の表面形状に対応する形状(たとえば複数の突条41に対応する凹部など)を設けておくことにより、突条41はラックハウジング2と一体成型される。
【0033】
図4に示すように、サスペンションメンバ25(ここでは、カラー25bの一部分のみ示す。)の表面には、その全面にわたって皮膜42が設けられている。皮膜42は、カラー25bのマウント部22側の表面である載置面33にも、その全面にわたって設けられている。皮膜42は、サスペンションメンバ25に対する表面処理として、カチオン電着塗装が施されることにより設けられる。カチオン電着塗装とは、被塗物(ここでは、サスペンションメンバ25)を電着槽内の塗料に浸漬し、その浸漬した被塗物を陰極とする一方、電着槽内の電極を陽極として、これら陰極と陽極との間に直流電流を流すことにより、被塗物側に塗膜を析出させる塗装方法をいう。
【0034】
ラックハウジング2をボルト23およびナット24によってサスペンションメンバ25に取り付けた状態において、突条41は皮膜42に食い込んだ状態に維持される。また、突条41は、ラックシャフト3の軸線に沿った方向において湾曲している。このため、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突条41はラックシャフト3の軸線に沿った方向において皮膜42に係合する。すなわち、座面28を突条41が設けられていない平滑面として設けた場合に比べて、互いに接触する座面28と皮膜42との間にはたらく、座面28の皮膜42に対するラックシャフト3の軸線方向に沿った方向における相対的な運動を妨げる力(座面28が動こうとする向きと逆向きに働く力)である摩擦力がより大きくなる。換言すれば、皮膜42に対する座面28の滑りにくさを示す指標である摩擦係数がより大きい値となる。したがって、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ向けた外力が付与されたとしても、複数の突条41がラックシャフト3の軸線に沿った方向において皮膜42に係合することにより、座面28と載置面33との間には、より大きい摩擦力がはたらく。この摩擦力によって、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ相対的に移動することが規制される。
【0035】
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突条41がラックシャフト3の軸線に沿った方向において皮膜42の食い込んだ部分に係合することにより、座面28と皮膜42との間にはたらく摩擦力が確保される。この摩擦力によって、座面28、ひいてはラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ移動することが抑制される。
【0036】
(2)また、ステアリング装置1として、座面28とサスペンションメンバ25との間にこれらの相対移動を規制するための別部材を設ける構成を採用する場合に比べて、その別部材を設ける必要がない分だけステアリング装置1の部品点数を削減することができる。部品点数を削減することができる分だけステアリング装置1の製品コストおよび製造コストを低減することができる。また、部品点数を削減することができる分だけステアリング装置1の軽量化が可能となる。
【0037】
(3)突条41は、ラックシャフト3の軸線に沿った方向において湾曲している。このため、皮膜42に対する突条41のラックシャフト3の軸線に沿った方向における係合面積は、皮膜42に対する突条41のラックシャフト3の軸線に直交する方向における係合面積よりも広くなる。このため、座面28、ひいてはラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ移動することを、より効果的に抑制することができる。
【0038】
(4)突条41は、ラックシャフト3の軸線に沿った方向において湾曲している。このため、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ移動することを抑制するのみならず、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に直交する方向へ移動することを抑制することも可能である。
【0039】
(5)ラックハウジング2は鋳物であって、突条41はラックハウジング2を鋳造する際にラックハウジング2と一体成型される。より簡単に突条41を設けることができるため、ステアリング装置1の製品コストおよび製造コストをより低減することができる。
【0040】
<第2の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置を具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0041】
図5に一点鎖線で示すように、座面28をサスペンションメンバ25側からみて、マウント部22の座面28には、その全面にわたって座面28の中心点Oを中心とする複数の同心円状の微細な突条43が設けられている。突条43は、座面28とサスペンションメンバ25との間の摩擦力を増大させるための微細な凸形状として機能する。
【0042】
ラックハウジング2をボルト23およびナット24によってサスペンションメンバ25に取り付けた状態において、円形の突条43は皮膜42に食い込んだ状態に維持される。このため、ラックハウジング2に対して座面28に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突条43は外力が付与される方向において皮膜42に係合する。たとえば、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突条43はラックシャフト3の軸線に沿った方向において皮膜42に係合する。また、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に直交する方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突条43はラックシャフト3の軸線に直交する方向において皮膜42に係合する。
【0043】
すなわち、座面28を突条43が設けられていない平滑面として設けた場合に比べて、互いに接触する座面28と皮膜42との間にはたらく、座面28の皮膜42に対する相対的な運動を妨げる力である摩擦力がより大きくなる。したがって、ラックハウジング2に対して座面28に沿ったいずれの方向へ向けた外力が付与されたとしても、複数の突条43が座面28に沿った外力が付与される方向において皮膜42に係合することにより、座面28と載置面33との間には、より大きい摩擦力がはたらく。この摩擦力によって、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して座面28に沿った方向へ相対的に移動することが規制される。
【0044】
なお、円環状の突条43は、第1の実施の形態と同様に、ダイカストなどの鋳造によりラックハウジングと一体成型される。
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0045】
(6)複数の突条43は、座面28の中心点Oを中心とする同心円状に設けられている。このため、ラックハウジング2に対して座面28に沿ったいずれの方向へ向けた外力が付与されたとしても、複数の突条43が外力の方向において皮膜42に係合する。したがって、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して、ラックシャフト3の軸線に沿った方向およびラックシャフト3の軸線に直交する方向を含め、外力が付与される方向へ移動することを抑制することができる。
【0046】
<第3の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置を具体化した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0047】
図6(a)にドットパターンによる網掛けを付して示すように、座面28をサスペンションメンバ25側からみて、マウント部22の座面28には、その全面にわたって多数の微細な突部44が設けられている。すなわち、座面28は、ざらざらした、あらい面である粗面とされている。突部44は、座面28とサスペンションメンバ25との間の摩擦力を増大させるための微細な凸形状として機能する。
【0048】
図6(b)に示すように、ラックハウジング2をボルト23およびナット24によってサスペンションメンバ25に取り付けた状態において、多数の突部44は皮膜42に食い込んだ状態に維持される。このため、ラックハウジング2に対して座面28に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突部44は外力が付与される方向において皮膜42に係合する。たとえば、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突部44はラックシャフト3の軸線に沿った方向において皮膜42に係合する。また、ラックハウジング2に対してラックシャフト3の軸線に直交する方向へ向けた外力が付与された場合、複数の突部44はラックシャフト3の軸線に直交する方向において皮膜42に係合する。
【0049】
すなわち、座面28を突部44が設けられていない平滑面として設けた場合に比べて、互いに接触する座面28と皮膜42との間にはたらく、座面28の皮膜42に対する相対的な運動を妨げる力である摩擦力がより大きくなる。したがって、ラックハウジング2に対して座面28に沿ったいずれの方向へ向けた外力が付与されたとしても、複数の突部44が座面28に沿った外力が付与される方向において皮膜42に係合することにより、座面28と載置面33との間には、より大きい摩擦力がはたらく。この摩擦力によって、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して座面28に沿った方向へ相対的に移動することが規制される。
【0050】
なお、多数の突部44は、第1の実施の形態と同様に、ダイカストなどの鋳造によりラックハウジングと一体成型される。
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0051】
(7)マウント部22の座面28には、その全面にわたって多数の微細な突部44が設けられている。このため、ラックハウジング2に対して座面28に沿ったいずれの方向へ向けた外力が付与されたとしても、複数の突部44が外力の方向において皮膜42に係合する。したがって、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対して、ラックシャフト3の軸線に沿った方向およびラックシャフト3の軸線に直交する方向を含め、外力が付与される方向へ移動することを抑制することができる。
【0052】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態では、座面28をサスペンションメンバ25側からみて、突条41を図3中の左側が凸となるように湾曲して設けたが、図3中の右側が凸となるように湾曲して設けてもよい。このようにしても、第1の実施の形態の(1)~(5)と同様の効果を得ることができる。
【0053】
・第1の実施の形態では、突条41をラックシャフト3の軸線方向Drに湾曲して設けたが、ラックシャフト3の軸線に対して交わる方向へ延びる直線状に設けてもよい。このようにしても、ラックハウジング2がサスペンションメンバ25に対してラックシャフト3の軸線に沿った方向へ移動することを抑制することができる。
【0054】
・第1の実施の形態において、湾曲した突条41は、その途中で分断されるかたちで設けてもよい。すなわち、突条41は、ラックシャフト3の軸線方向Drに対して交わる方向へ延びる部分を有していればよい。このようにしても、第1の実施の形態の(1)~(5)と同様の効果を得ることができる。
【0055】
・第2の実施の形態において、円環状の突条43は、その途中で分断されるかたちで設けてもよい。すなわち、突条43は、ラックシャフト3の軸線方向Drに対して交わる方向へ延びる部分を有していればよい。このようにしても、第2の実施の形態の(6)と同様の効果を得ることができる。
【0056】
・第2の実施の形態において、多数の突部44は、それらのうち互いに隣接する2つ、3つまたはそれ以上の突部44を繋げるかたちで適宜の長さを有する突部として設けてもよい。このようにしても、第2の実施の形態の(6)と同様の効果を得ることができる。
【0057】
・第1~第3の実施の形態では、ボルト23の先端にナット24を螺合することによりラックハウジング2をサスペンションメンバ25に固定するようにしたが、サスペンションメンバ25のボルト孔31にボルト23に対応したねじ溝を設け、ボルト23がボルト孔31に対して螺合するようにしてもよい。この場合、メンバ本体25aとして下板部36の挿通孔37を割愛した構成を採用することが可能である。
【0058】
・第1~第3の実施の形態では、ラックハウジング2に複数のマウント部22をラックシャフト3の軸線方向Drに直交する方向の片側にのみ設けたが、ラックシャフト3の軸線方向Drに直交する方向の両側にマウント部22を設けてもよい。
【0059】
・第1の実施の形態では湾曲した突条41を、第2の実施の形態では円環状の突条43を、第3の実施の形態では多数の突部44を鋳造によりラックハウジング2と一体成型するようにしたが、つぎのようにしてもよい。たとえば第1および第2の実施の形態において、鋳造によりラックハウジング2を成型した後、平滑面として設けられた座面28に対して切削などの除去加工を施すことにより突条41,43を設けるようにしてもよい。また、第3の実施の形態において、鋳造によりラックハウジング2を成型した後、平滑面として設けられたワークとしての座面28に対して、除去加工として投射材である粒体を衝突させることにより多数の突部44あるいは微細な凹凸を設けるようにしてもよい。また、第3の実施の形態において、座面28に対してローレット加工などの転造塑性加工を施すことにより微細な凹凸を設けるようにしてもよい。
【0060】
・第1~第3の実施の形態において、車両の製品仕様などによっては、サスペンションメンバ25の表面には皮膜42が設けられていなくてもよい。サスペンションメンバ25の材質などによっては、ラックハウジング2をサスペンションメンバ25に取り付ける際にナット24をボルト23に締め付けることによって、突条41,43あるいは突部44がサスペンションメンバ25の座面28に対向する部分である載置面33に食い込むことが可能である。
【0061】
・第1~第3の実施の形態では、ステアリング装置1としてコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置を一例として挙げたが、ステアリング装置1はラックシャフト3にアシスト力を付与するラックアシスト型の電動パワーステアリング装置であってもよい。また、ステアリング装置1は油圧式のパワーステアリング装置であってもよい。また、ステアリング装置1はステアリングシャフト10あるいはラックシャフト3にアシスト力を付与する構成を持たない、いわゆるノンアシスト型のステアリング装置であってもよい。さらに、ステアリング装置1はステアリングホイール11とピニオンシャフト9あるいは転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式のステアリング装置であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…ステアリング装置
2…ラックハウジング(ハウジング)
3…ラックシャフト(転舵シャフト)
22…マウント部
23…ボルト
25…サスペンションメンバ(フレーム)
28…座面
41…突条(凸形状)
42…皮膜
43…突条(凸形状)
44…突部(凸形状)
図1
図2
図3
図4
図5
図6